説明

ガス成分検出装置

【課題】ガス成分の予測が困難である場合でもガス発生を確実に検知する。
【解決手段】試料気体が導入される測定セル10det及び参照気体が導入される参照セル10refはそれぞれ、発振回路1から周波数信号が印加されると、該信号に対応する音波を発生させ、受波信号を電気信号Fdet及びFrefに変換して出力する。2つのセルの音波伝搬経路長は同一であり、初期状態では試料気体と参照気体との音速が同一に設定されている。試料気体のガス成分に変化が生じると、音速が変化するため信号Fdet及びFrefに位相差が生じ、サンプリング・ホールド回路4は、パルス発生回路3からの信号Frefに同期するパルスをサンプリングパルスとして、鋸歯状波発生回路5からの信号Fdetに同期する鋸歯状波をサンプリングすることにより位相差の発生を検出し、これによりガス発生を検出する。2つのセルを同一温度環境にすることにより、温度変化による影響を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス成分検出装置に関し、より詳細には、可聴周波数や超音波を用いて、気体に含まれるガス成分の濃度変化を監視するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気体に含まれるガス成分を監視するガスセンサとして、ガスクロマトグラフ、半導体センサ、赤外線吸収監視装置が用いられており、また、気体が可燃ガスの場合は、ガスセンサとして、接触燃焼式センサが用いられている。これらのガス成分の監視装置では、検知可能なガスの種類が制限されていることが多々あり、また、検知結果を得るまでの検出時間が比較的長い、等の問題点がある。
【0003】
これに対して、音速測定により、ガス検出あるいはガス成分情報(ガスの平均分子量、濃度、成分変化等)をモニタする方式が提案されている。例えば、音速の測定値からガス成分情報を得る技術(特許文献1及び2)、音波入力信号に出力信号をフィードバックさせることによって、試料ガス中でハウリングを生じさせ、そのハウリング周波数からガス成分情報を得る技術(特許文献3)、音速の測定に超音波をパルス列として送信し、受信波のエンベロープの減衰部分を解析することにより、ガス成分の検出精度を向上させるようにした技術(特許文献4)、検出ガスの存在しない雰囲気中及び検出すべきガスの存在する雰囲気中で音速を別々に測定し、これら音速の差に基づいてガス成分をモニタする技術(特許文献5)がある。これらの技術は、それぞれの特徴に応じて用途が異なっている。
【0004】
このような音速測定方式では、気体中を伝搬する音波の速度が気体の平均質量で決まるため、どのようなガス成分であっても検出可能である。そのため、気体が多成分系であっても正常な状態か異常な状態かの違いを検出することが可能であり、また検出時間が比較的短いという長所を有している。音速測定方式はさらに、手法が比較的単純で確実な測定を行うことができ、また、測定器の経年変化が少ない、等の長所も有している。しかしながら、その反面、厳密な定量測定が可能であるのは2成分系に限られること、および温度変化の影響が大きいこと等の短所も有しているため、実際には普及率が低い。
【特許文献1】特開2004−325297号公報
【特許文献2】特開平7−198688号公報
【特許文献3】特開2001−311722号公報
【特許文献4】特開2004−53385号公報
【特許文献5】特開2005−43091号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、生ごみなどの排出物は多様な性質を有しており、メタン発酵、水素発酵、自然発火、アルミニウムからの水素発生などが生じるため、しばしば爆発事故が生じている。このような事故を防ぐには、排出物集積所、排出物処理場等の排出物を取り扱う場所又は施設で、排出物から発生する水素、メタン、二酸化炭素等のガス成分を低濃度のうちに検知することが有効であると考えられる。
【0006】
しかしながら、通常、排出物から発生されるガス成分の種類を的確に予想することが困難であり、したがって、どのようなガスセンサを設置すべきかを決定することが極めて困難である。未然にガス爆発事故を防ぐために、想定される多数のガス成分の種類にそれぞれ対応する多数種類のガスセンサを用いてガス成分の濃度を検知すればよいが、多数種類のガスセンサを多数の排出物取扱施設それぞれに設置することは、現実的には不可能である。そのため、現状では、多くの場合、ガス爆発事故が生じた後に、同様の事故の再発を防止するための対策が採られているにすぎない。
【0007】
また、上記したように、音速測定によるガス成分のモニタ方式では、気体が多成分系であっても変化を検出することが可能であるが、気体中の音速は絶対温度の平方根に比例しているため、ガス濃度変化の検出において温度の変化を無視することができない。例えば、常温付近で±1℃の変化により、水素濃度が0.34%変化したものと同じ音速変化が生じる。このような温度の影響を補償するために、通常、温度を計測して計算処理により補正を行うが、そのため、演算装置であるコンピュータをガスセンサに組み込む必要がある。したがって、ガスセンサが高価にならざるを得ない。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、実際にどのような種類のガス成分が発生されるかを予想することが困難である場所及び施設において、音速測定により異常なガス発生を確実に検知することができ、しかも、温度変化による影響を簡単な構成で補正することができる、低価格のガス成分検出装置を提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、温度変化による影響を簡単な構成により補正し、空気中の水素ガス濃度を検知することができる水素ガス濃度検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するために、本発明に係る、試料気体中に含まれるガス成分の濃度を監視するガス成分検出装置においては、
周波数信号を発生させる発振回路と、
試料気体が導入される測定セルであって、該測定セル中に、
発振回路からの周波数信号を受け取り、該周波数信号に対応する音波を発生させる第1の送波器と、
該第1の送波器から発生され測定気体を伝搬する音波を受け取り、該音波に対応する第1の周波数信号を発生させる第1の受波器と
を備えた測定セルと、
参照気体が導入される参照セルであって、該参照セル中に、
発振回路からの周波数信号を受け取り、該周波数信号に対応する音波を発生させる第2の送波器と、
該第2の送波器から発生され参照気体を伝搬する音波を受け取り、該音波に対応する第2の周波数信号を発生させる第2の受波器であって、第2の受波器との間隔が、第1の受波器と第1の送波器との間の間隔に一致するよう設定されている第2の受波器と
を備えた参照セルと、
第1の周波数信号及び第2の周波数信号の位相差を検出する位相差検出手段と
からなり、温度補償されたガス成分検知出力を得ることができるようにしたことを特徴としている。
【0011】
上記した本発明のガス成分検出装置において、一実施形態において、位相差検出手段は、第1の周波数信号に同期して鋸歯状波を発生させる鋸歯状波発生回路と、第2の周波数信号に同期してパルスを発生させるパルス発生手段と、パルス発生手段から発生されるパルスをサンプリングパルスとして、鋸歯状波発生回路から発生される鋸歯状波をサンプリングするサンプル/ホールド回路とから構成される。また、他の実施形態においては、位相差検出手段は、第1の周波数信号を矩形波に変換する第1の矩形波変換回路と、第2の周波数信号を矩形波に変換する第2の矩形波変換回路と、第1及び第2の矩形波変換回路から出力された2つの矩形波を比較してこれら矩形波の位相差に対応する出力を発生する位相差検出器とから構成される。
【0012】
また、上記した本発明のガス成分検出装置において、参照気体は、初期状態の試料気体中の音速と近似する音速の気体であることが好ましく、初期状態の試料気体と同一であることがさらに好ましい。
【0013】
さらに、上記した本発明のガス成分検出装置において、位相差検出手段は検出した位相差を電圧として出力するよう構成され、ガス成分検出装置はさらに、位相差検出手段の後段に配置され、オフセット及び利得が調整可能な電圧増幅手段と、電圧増幅手段の出力電圧の値を測定し表示する電圧測定手段とを備え、電圧増幅手段のオフセット及び利得を調整することにより、電圧測定手段により表示される電圧値を試料気体中の検出すべきガス成分の濃度Vol%の値とほぼ等しく調整することができるようにすることが好ましい。
【0014】
この場合、参照気体及び初期状態の試料気体は水素ガスが除去された空気であり、ガス成分検出動作中の試料気体は空気であり、電圧測定手段は、空気中の水素濃度が約10Vol%以下のときに、電圧増幅手段のオフセット及び利得を調整することにより、空気中の水素ガス濃度の値を電圧値として表示するよう構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のガス成分検出装置は、上記したように構成されており、位相差法と参照セルとの組合せにより、温度測定及び温度補償のための演算処理を必要とせずに、温度変化の影響を排除することができる。したがって、本発明によれば、簡単な構成で安価でありながら、温度補償された高精度のガス成分検出装置を提供することができる。
【0016】
また、空気中の水素を検出対象とした場合はガス濃度が10Vol%程度以下であれば、本発明のガス成分検出装置により得られる電圧値がほぼ水素ガス濃度に対応させられるので、濃度が変化したか否かのみならず、水素ガス濃度そのものを表示することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明に係るガス成分検出装置の一実施例の構成を示す回路図であり、図1において、1は周波数fの信号F1を出力する発振回路、2は移相回路、3はパルス発生回路、4はサンプル/ホールド(S/H)回路、5は鋸歯状波発生回路、6は電圧増幅回路、7は電圧測定器である。また、10detは濃度変化を検出すべきガス成分が含まれている気体(試料気体)が流入流出されるセル(測定セル)、10refは参照セルである。参照セル10refには、初期状態において、測定セル10det中のガス成分とほぼ同一の音速を有する気体(参照気体)が封入される。
【0018】
図2は、測定セル10det及び参照セル10refの構成を示す模式図である。測定セル10det及び参照セル10refは、同一の形状を有する中空の円筒で構成され、1個の円筒容器10内に納められている。円筒容器10の参照セル10ref側の一端に設けられている流入口11から流入された試料気体は、測定セル10detに設けられた孔17及び測定セル10detの外側に設けられた隔壁16により、測定セル10det内に入りこむ。そして、試料気体は、測定セル10det内を通過して孔18から円筒容器10に戻り、流出口12から流出する。参照セル10refは密閉構造となっているが、初期状態において測定セル10detに流入される試料気体とほぼ同一の音速を呈する参照気体を外部から封入するための導入部13が設けられている。各セルを構成する円筒は、薄くてしかも熱伝導特性が良好な材質で構成され、これにより、両セル内の気体がほぼ同一温度となるようにしている。
【0019】
測定セル10det及び参照セル10refは、それぞれの内部に、発振回路1からの周期的な信号F1を受信し、音波(周波数f)に変換して発信する送波器(スピーカ機能)14det及び14refと、該送波器から発信された音波を受信して電気信号Fdet及びFref(周波数f)に変換する受波器(マイクロフォン機能)15det及び15refとが配置されており、送波器と受波器との間隔すなわち音波伝搬路長は、測定セル10det及び参照セル10refにおいて同一に設定されている。受波器15detで得られた電気信号Fdetは鋸歯状波発生回路5に供給され、受波器15refで得られた電気信号Frefは移相回路2を介してパルス発生回路3に供給される。
【0020】
移相回路2は、初期状態すなわち気体変化測定の開始時点又はその直前で、参照セル10ref中の参照気体と測定セル10det中の試料気体との音速Vref及びVdetが等しい場合に、それぞれの受波器15ref及び15detから出力される電気信号の位相差を、検出を目的とするガスの種類と濃度に対応する適宜の大きさとなるように調整するために使用される。例えば、初期状態の試料気体が通常の空気であって、水素やメタンのように空気よりも軽い気体と二酸化炭素のように空気よりも重い気体の両方を検出しようとする場合、パルス発生回路3からのパルス信号Pが鋸歯状波発生回路5からの鋸歯状波Qの中間に位置するように、移相回路2の移相量が設定される。
【0021】
また、このときの電圧測定器7が表示する電圧値が0となるように、電圧増幅回路6のオフセットを調整する。このように設定された状態で、測定セル10detに水素等の軽い気体が混入すると、音速が速くなるために鋸歯状波の立ち上がりが早くなる。その結果、電圧測定器7で測定される電圧が正の値となって顕れる。逆に、二酸化炭素のような重い気体が混入すると、鋸歯状波の立ち上がりが遅くなって測定電圧が負の値となって顕れる。
【0022】
なお、移相回路2を、図1の実施例のように参照セル10refの出力側に設ける代わりに、測定セル10detの出力と鋸歯状波発生回路5との間に挿入しても良く、またこれら両方に挿入しても良い。さらに、発振回路1と参照セル10ref及び測定セル10detの少なくとも一方の間に挿入しても良い。
【0023】
図1に戻って、本発明に係るガス成分検出装置の動作を説明する。なお、測定セル10detに流入する試料気体と同一の気体又は同一の音速を呈する気体を参照セル10refに導入することにより、予めVref=Vdetに初期設定された後、試料気体中のガス成分濃度の変化の監視が開始されたものとする。
【0024】
発振回路1からの周波数fを有する信号F1が参照セル10refの送波器14refに印加されると、該送波器14refは周波数fの音波を発生させ、発生された音波は、参照気体の音速Vrefで送波器14refから受波器15refに伝達される。受波器15refは、音波を受け取ると、それを電気信号に変換し、移相回路2を介してパルス発生回路3に供給する。パルス発生回路3は、受け取った信号の負極性から正極性に向かう(又は正極性から負極性に向かう)ゼロ交差点でパルスを発生させ、これにより信号Frefと同一周波数fのパルス列を発生させる。発生されたパルス列は、サンプル/ホールド回路4に、サンプリングパルス(ゲート信号)Pとして供給される。
【0025】
このようにして生成されたサンプリングパルスPは、発振回路1からの信号F1と同一の周波数fを有し、参照セル10ref中の参照気体の音速Vrefに応じて位相遅延された信号となる。
【0026】
一方、発振回路1からの信号F1は、参照セル10refの送波器14refに供給されると同時に参照セル10detの送波器14detにも供給され、それに応じて、送波器14detは周波数fの音波を発生させる。発生された音波は、試料気体中の音速Vdetで受波器15detに伝搬される。受波器15detが音波を受け取ると、それを信号Fdetに変換し、鋸歯状波発生回路5に供給する。鋸歯状波発生回路5は、受け取った信号Fdetの負極性から正極性に向かう(又は正極性から負極性に向かう)ゼロ交差点を起点として電圧が増大する周期1/fの鋸歯状波Qを生成する。該鋸歯状波Qは、サンプル/ホールド回路4に供給される。
【0027】
このようにして生成された鋸歯状波Qは、発振回路1からの信号F1と同一の周波数fを有し、信号F1の位相から、測定セル10det中の試料気体の音速Vdetに応じて遅延された信号となる。
【0028】
サンプル/ホールド回路4は、鋸歯状波発生回路5からの鋸歯状波Qを受け取り、それをパルス発生回路3からのサンプリングパルスPのタイミングでサンプリングしホールドする。該ホールドされた電圧は、2つの音波伝搬系すなわち測定セル10det及び参照セル10ref中の試料気体及び参照気体により伝搬された音波による位相差(0〜360°の範囲)、すなわち試料気体及び参照気体中の音波伝搬速度の差ΔV(=Vdet−Vref)に依存している。
【0029】
例えば、初期状態から試料気体のガス成分に変化が無く、伝搬速度の差ΔVが依然としてゼロである場合、電圧測定器7において指示される電圧値は0である。なお、上記したように、本発明においては、測定試料の温度変化は参照気体の温度に直ちに影響して同一の温度となるようにセルが構成されているので、試料気体の温度が変動しても試料気体と参照気体の温度は同一である。また、両セルの送波器及び受波器の間隔が同一に設定されているので、温度変化によって生じる信号の移相は、両セルで同一となる。したがって、試料気体に温度変化のみが生じた場合も、伝搬速度の差ΔVは初期状態と同一であり、よって、この場合も電圧測定器7の指示値は0である。
【0030】
一方、温度変化が生じかつ試料気体の気体質量変化が生じた場合、又は、試料気体の気体質量変化のみが生じた場合、音波の伝搬速度の差ΔVが変化する。これにより、パルス発生回路3からのサンプリングパルスの発生タイミングと、鋸歯状波発生回路5からの鋸歯状波のゼロ電圧の発生タイミングとがずれる。このタイミング差は、測定セル10detと参照セル10refとから出力される信号Fdet及びFrefの位相差に対応し、該位相差に対応する電圧がサンプル/ホールド回路4にホールドされる。電圧測定器7は、この位相差に比例する電圧値を示す。
【0031】
このように、温度変化が生じたか否かに拘わらず、試料気体に質量変化が生じた場合にのみ、電圧測定器7は位相差に比例する電圧値を指示することになる。位相差は、試料気体の質量変化によってもたらされる音速変化に対応しているため、結局、気体成分の濃度変化に対応する温度補償された電圧値を得ることができる。
【0032】
上記したように、本発明に係る気体成分検知装置は、気体成分の濃度変化を検知するために使用することが可能である。この場合、電圧増幅器6を必ずしも具備させる必要がなく、また、具備させたとしても、オフセット及び利得調整が可能な増幅器を用いる必要がない。
【0033】
電圧増幅器6として、オフセット及び利得調整可能な増幅器を用い、かつ、検知対象のガスが一種類に限定されている場合、本発明のガス成分検出装置によれば、位相シフト量からほぼ正確なガス濃度を求めることができる。これについて、以下に説明する。
【0034】
音速は媒体である気体の平均分子量の平方根に逆比例するので、位相シフトの大きさは、厳密な意味ではガス濃度(Vol%)と比例関係にはない。しかしながら、本発明者らの実験及び解析によれば、ガス濃度が低い範囲内であれば、ガス濃度と位相シフト量との間に近似的比例関係が成り立つ。例えば、空気中の水素の場合、水素濃度が0〜10Vol%の範囲であれば、水素濃度と位相シフト量とが近似的に線形関係にあり、電圧測定器7により測定される電圧は、水素濃度に対して±5Vol%以内の精度で、一致した数値を示す。水素濃度が0〜5Vol%の範囲であれば、さらに高精度となって±2%以内の精度で一致した数値を示す。水素ガス以外のガスであっても、検知対象のガスの種類が特定され、かつ濃度が略10Vol%以下であれば、本発明に係るガス成分検出装置においては、電圧測定器7により測定されて表示される値は、ガス濃度そのものを表す値となる。
【0035】
本発明を、爆発防止のための水素濃度計に適用する場合は、以下のように設定する。
【0036】
まず、初期設定モードでは、流入口11及び導入部13から、含有する水素ガスの濃度がゼロの空気を参照セル10ref及び測定セル10detに導入し、これらのセルに発振回路1からの信号F1を供給する。このとき、電圧測定器7の指示値が0となるように、電圧増幅器6のオフセット量を調整する。次いで、参照セル10refの気体はそのまま(導入部13を閉じたまま)で、測定セル10det内の空気を水素ガス濃度が3Vol%の空気に入れ替える。そして、両方のセルに発振器1からの信号F1を供給し、そのときの電圧測定器7の指示値が3となるように、電圧増幅器6の利得を調整する。これにより初期設定モードが完了して測定モードに移行し、測定セル10detに、試料気体すなわち水素ガス濃度を測定すべき空気を流入させる。
【0037】
該空気中の水素ガス濃度が高いと音速が増大するので、鋸歯状波発生回路5からの鋸歯状波の立ち上がりが早くなり、パルス発生回路3からのサンプリングパルスの発生タイミングにおける電圧が高くなる。このときの電圧をサンプリングホールドすることにより、電圧測定器7は正の電圧値を示すことになる。このとき、水素濃度が0Vol%のときに電圧値が0を示し、3Vol%のときに3Vを示すように初期設定されており、また、水素濃度が低い範囲(約10Vol%以下)では濃度と電圧がほぼ比例しているので、電圧測定器7の電圧指示値0〜10が水素ガス濃度そのものを表していることになる。
【0038】
上記した実施例においては、測定セル10det及び参照セル10refの受波器15det及び15refから出力される信号の位相差を検出するために、パルス発生回路3、サンプル/ホールド回路4、及び鋸歯状波発生回路5を用いているが、これら回路の代わりに、受波器15det及び15refから出力される信号を矩形波に変換する矩形波変換回路と、変換された2つの矩形波の位相差を比較する位相差検出器とで構成しても良い。この場合、位相差検出器から出力される電圧は、2つの受波器からの信号の位相差に比例することになる。ただし、この場合、位相差は、0〜180°の範囲に限定される。
【0039】
また、測定された電圧値が所定値以上になったときにアラームを発生する等の手段を付加してもよい。
【0040】
以上のように、本発明に係るガス成分検出装置においては、位相差法を用いて音速の変化を検知し、しかも、簡単な構成で温度補償を行っているため、種々のガス成分の発生が予想される場合のガス成分発生を高精度で検出することができる。とくに、爆発災害防止のためには、ガス濃度の広範囲の変化を検出できるよう構成する必要が無く、微少な変化のみを検出できればよいので、本発明を爆発災害防止用のガス成分検出装置として用いた場合は極めて実用的である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係るガス成分検出装置の回路構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示した測定セル及び参照セルの構成を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料気体中に含まれるガス成分の濃度を監視するガス成分検出装置において、
周波数信号を発生させる発振回路と、
試料気体が導入される測定セルであって、該測定セル中に、
発振回路からの周波数信号を受け取り、該周波数信号に対応する音波を発生させる第1の送波器と、
該第1の送波器から発生され測定気体を伝搬する音波を受け取り、該音波に対応する第1の周波数信号を発生させる第1の受波器と
を備えた測定セルと、
参照気体が導入される参照セルであって、該参照セル中に、
発振回路からの周波数信号を受け取り、該周波数信号に対応する音波を発生させる第2の送波器と、
該第2の送波器から発生され参照気体を伝搬する音波を受け取り、該音波に対応する第2の周波数信号を発生させる第2の受波器であって、第2の受波器との間隔が、第1の受波器と第1の送波器との間の間隔に一致するよう設定されている第2の受波器と
を備えた参照セルと、
第1の周波数信号及び第2の周波数信号の位相差を検出する位相差検出手段と
からなり、温度補償されたガス成分検知出力を得ることができるようにしたことを特徴とするガス成分検出装置。
【請求項2】
請求項1記載のガス成分検出装置において、位相差検出手段は、
第1の周波数信号に同期して鋸歯状波を発生させる鋸歯状波発生回路と、
第2の周波数信号に同期してパルスを発生させるパルス発生手段と、
パルス発生手段から発生されるパルスをサンプリングパルスとして、鋸歯状波発生回路から発生される鋸歯状波をサンプリングするサンプル/ホールド回路と
からなることを特徴とするガス成分検出装置。
【請求項3】
請求項1記載のガス成分検出装置において、位相差検出手段は、
第1の周波数信号を矩形波に変換する第1の矩形波変換回路と、
第2の周波数信号を矩形波に変換する第2の矩形波変換回路と、
第1及び第2の矩形波変換回路から出力された2つの矩形波を比較してこれら矩形波の位相差に対応する出力を発生する位相差検出器と
からなることを特徴とするガス成分検出装置。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載のガス成分検出装置において、参照気体は、初期状態の試料気体中の音速と近似する音速の気体であることを特徴とするガス成分検出装置。
【請求項5】
請求項1〜3いずれかに記載のガス成分検出装置において、参照気体は、初期状態の試料気体と同一であることを特徴とするガス成分検出装置。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載のガス成分検出装置において、位相差検出手段は検出した位相差を電圧として出力するよう構成され、ガス成分検出装置はさらに、
位相差検出手段の後段に配置され、オフセット及び利得が調整可能な電圧増幅手段と、
電圧増幅手段の出力電圧の値を測定し表示する電圧測定手段と
を備え、電圧増幅手段のオフセット及び利得を調整することにより、電圧測定手段により表示される電圧値を試料気体中の検出すべきガス成分の濃度Vol%の値とほぼ等しく調整することができるようにしたことを特徴とするガス成分検出装置。
【請求項7】
請求項5に従属する請求項6記載のガス成分検出装置において、
参照気体及び初期状態の試料気体は、水素ガスが除去された空気であり、
ガス成分検出動作中の試料気体は、空気であり、
電圧測定手段は、空気中の水素濃度が約10Vol%以下のときに、電圧増幅手段のオフセット及び利得を調整することにより、空気中の水素ガス濃度の値を電圧値として表示する
ことを特徴とするガス成分検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−256485(P2008−256485A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−97956(P2007−97956)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】