説明

ガス拡散層の製造方法、ガス拡散層、燃料電池

【課題】本発明は、カーボン粒子と樹脂とを含む撥水層が形成されたガス拡散層を製造するに際し、不具合の発生を抑制しつつ、比較的短時間で、ガス拡散層基材の表面に撥水層を形成する技術を提供することを目的とする。
【解決手段】燃料電池に用いられるガス拡散層の製造方法は、ガス拡散層基材を準備する準備工程と、ガス拡散層基材の一方の面に、撥水性樹脂の粒子と導電性粒子とを含むペーストを塗工する塗工工程と、ペーストが塗工されたガス拡散層基材をペーストが塗工された塗工面を重力方向下向きにした状態で撥水性樹脂の融点以上の温度によって加熱する加熱工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に用いられるガス拡散層の製造方法、燃料電池に用いられるガス拡散層、および、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、固体高分子型燃料電池等の燃料電池は、膜電極接合体の表面にガス拡散層が接合された構成を備えている。
【0003】
このガス拡散層に関して、製造時にカーボン繊維等からなるガス拡散層基材の表面に、カーボン粒子と樹脂粒子を含むペーストを塗工し加熱処理をおこなうことによって、表面に多孔質の撥水層を形成する技術が知られている(特許文献1)。ガス拡散層の表面に撥水層を形成することにより、燃料電池において触媒電極層との間の接触抵抗を低減させることや、電気化学反応によって生成された生成水の排水性を向上させてフラッディングを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−064723号公報
【特許文献2】特開2004−281221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述したペーストには、一般的に、カーボン粒子や樹脂粒子のほかに分散剤が含まれているため、上述した加熱処理において、分散剤を分解・除去するために、比較的長時間の加熱が必要であった。そして、この長時間の加熱処理は、ガス拡散層の製造コストの上昇や燃料電池の製造コストの上昇の要因の一つでもあった。一方、比較的短時間で分散剤を分解・除去するために、ペーストに含まれる樹脂粒子の融点以上の比較的高い加熱温度で加熱処理を行うと、樹脂が溶融して重力によって移動し、ガス拡散層における樹脂の分布が不均一になったり、カーボン粒子の定着力が低下したりする不具合が生じる虞があった。なお、これらの現象は、上記ペーストに分散剤が含まれない場合であっても同様である。そして、このようなガス拡散層を燃料電池に用いた場合には、燃料電池の発電性能の低下を招く虞があった。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、カーボン粒子と樹脂とを含む撥水層が形成されたガス拡散層を製造するに際し、不具合の発生を抑制しつつ、比較的短時間で、ガス拡散層基材の表面に撥水層を形成する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の少なくとも一部を解決するために、本願発明は、以下の態様または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
燃料電池に用いられるガス拡散層の製造方法であって、
ガス拡散層基材を準備する準備工程と、
前記ガス拡散層基材の一方の面に、撥水性樹脂の粒子と導電性粒子とを含むペーストを塗工する塗工工程と、
前記ペーストが塗工された前記ガス拡散層基材を前記ペーストが塗工された塗工面を重力方向下向きにした状態で前記撥水性樹脂の融点以上の温度によって加熱する加熱工程と、を備える製造方法。
【0009】
この構成によれば、ペーストが塗工されたガス拡散層基材に対して、ペーストが塗工された塗工面を重力方向下向きにした状態で撥水性樹脂の融点以上の温度によって加熱をおこなうため、不具合の発生を抑制しつつ、比較的短時間で、ガス拡散層基材の表面に撥水層を形成することができる。
【0010】
[適用例2]
適用例1に記載の製造方法において、
前記撥水性樹脂は、ポリテトラフルオロエチレンであり、
前記熱加工温度は、前記ペーストが塗工された前記ガス拡散層基材が327℃〜355℃となるように加熱する、製造方法。
【0011】
この構成によれば、ペーストが塗工されたガス拡散層基材に対して、ペーストに含まれるポリテトラフルオロエチレンの融点以上の温度によって加熱をおこなうため、不具合の発生を抑制しつつ、比較的短時間で、ガス拡散層基材の表面に撥水層を形成することができる。
【0012】
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載の製造方法において、
前記導電性粒子は、カーボン粒子であり、
前記ガス拡散層基材は、カーボンペーパーである、製造方法。
【0013】
この構成によれば、ペーストが塗工されたガス拡散層基材において、ペーストにカーボン粒子が含まれ、ガス拡散層基材がカーボンペーパーにより形成されていた場合であっても、不具合の発生を抑制しつつ、比較的短時間で、ガス拡散層基材の表面に撥水層を形成することができる。
【0014】
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれかに記載の製造方法において、
前記塗工工程は、前記ガス拡散層基材の鉛直方向上方側の面に前記ペーストを塗工し、
前記製造方法はさらに、
前記加熱工程の前に、前記ペーストが塗工された前記ガス拡散層基材を前記塗工面が重力方向下向となるように回転させる回転工程を備える、製造方法。
【0015】
この構成によれば、ペーストが塗工されたガス拡散層基材に対して、ペーストが塗工された塗工面が重力方向下向となるように回転し、塗工面を重力方向下向きにした状態で撥水性樹脂粒子の融点以上の温度によって加熱をおこなうため、不具合の発生を抑制しつつ、比較的短時間で、ガス拡散層基材の表面に撥水層を形成することができる。
【0016】
[適用例5]
燃料電池に用いられるガス拡散層であって、
ガス拡散層基材と、
前記ガス拡散層基材の一方の面に形成され、撥水性樹脂と導電性粒子とを含む撥水層と、を備え、
前記撥水層は、前記撥水性樹脂が外表面側に偏在している、ガス拡散層。
【0017】
この構成によれば、製造コストを抑制しつつ、品質の高いガス拡散層を提供することができる。
【0018】
[適用例6]
燃料電池であって、
膜電極接合体と、
適用例5に記載のガス拡散層と、を備える燃料電池。
【0019】
この構成によれば、製造コストを抑制しつつ、品質の高い燃料電池を提供することができる。
【0020】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、ガス拡散層基材に撥水層を形成するための形成方法や、上述したガス拡散層の製造方法を工程の一部に含む燃料電池の製造方法や、ガス拡散層や燃料電池を製造するための製造装置、および、これらの方法を装置に実行させるための制御プログラムなどの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施例における燃料電池の概略構成を説明するための説明図である。
【図2】本実施例のガス拡散層の製造方法の流れを説明するための説明図である。
【図3】ワークを支持する支持部材の概略構成を説明するための説明図である。
【図4】本実施例のガス拡散層の断面構成を説明するための説明図である。
【図5】比較例のガス拡散層の製造方法の流れを説明するための説明図である。
【図6】比較例のガス拡散層の断面構成を説明するための説明図である。
【図7】本実施例と比較例における撥水層の外表面の違いを説明するための説明図である。
【図8】ガス拡散層と触媒電極層との間の接合強度の測定方法を説明するための説明図である。
【図9】ガス拡散層と触媒電極層との間の接合強度の測定結果を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。
【0023】
A.第1実施例:
図1は、第1実施例における燃料電池の概略構成を説明するための説明図である。燃料電池10は、固体高分子型燃料電池であり、複数の単セル14が積層されたスタック構造を有している。単セル14は、燃料電池10における発電を行う単位モジュールであり、水素ガスと空気に含まれる酸素との電気化学反応により発電を行う。各単セル14は、電解質膜210の各面に触媒電極層220(アノード220anおよびカソード220ca)が形成された膜電極接合体(MEAとも呼ばれる)230の両側に一対のガス拡散層240(アノード側拡散層240anおよびカソード側拡散層240ca)を配置した発電体200と、発電体200を挟持する一対のセパレータ300(アノード側セパレータ300anおよびカソード側セパレータ300ca)によって構成されている。
【0024】
電解質膜210は、固体高分子材料としてのフッ素系スルホン酸ポリマーにより形成された高分子電解質膜(例えばナフィオン(登録商標)膜:NRE212)であり、湿潤状態において良好なプロトン伝導性を有する。なお、電解質膜210としては、ナフィオン(登録商標)に限定されず、例えば、アシプレックス(登録商標)やフレミオン(登録商標)等の他のフッ素系スルホン酸膜が用いられるとしてもよい。また、電解質膜210として、フッ素系ホスホン酸膜、フッ素系カルボン酸膜、フッ素炭化水素系グラフト膜、炭化水素系グラフト膜、芳香族膜等が用いられてもよいし、PTFE、ポリイミド等の補強材を含む機械的特性を強化した複合高分子膜が用いられてもよい。
【0025】
触媒電極層220(アノード220anおよびカソード220ca)は、電解質膜210の両側にそれぞれ配置され、燃料電池に使用されたときに一方がアノード電極として機能し、他方がカソード電極として機能する。触媒電極層220は、例えば、電気化学反応を進行する触媒金属(例えば、白金)を担持したカーボン粒子(触媒担持担体)と、プロトン伝導性を有する高分子電解質(例えばフッ素系樹脂)を含んで構成されている。導電性担体としては、カーボン粒子の他に、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のほか、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物等を用いることができる。また、触媒金属としては、白金の他に、例えば、白金合金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウム等を使用することができる。
【0026】
ガス拡散層240(アノード側拡散層240anおよびカソード側拡散層240ca)は、電極反応に用いられる反応ガス(アノードガスおよびカソードガス)を電解質膜210の面方向に沿って拡散させる層であり、多孔質のガス拡散層基材により構成されている。ガス拡散層基材としては、例えば、カーボンペーパーやカーボンクロス等のカーボン多孔質体や、金属メッシュや発泡金属等の金属多孔質体を用いることができる。また、ガス拡散層240は、撥水性を得るために、ガス拡散層基材241が、撥水ペーストによりコーティング(撥水処理)され、撥水層242が形成されている。なお、撥水ペーストとしては、例えば、カーボン粉末と撥水性樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリプロピレン等)との混合溶液を用いることができる。撥水層242は、ガス拡散層基材241よりも微細な気孔を有するいわゆるMPL層(Micro Porous Layer)である。撥水層242は、微細な気孔における毛細管現象を利用して、電気化学反応で生じた生成水をガス拡散層基材241へと排出する役割を果たす。撥水層242は、ガス拡散層基材241と共にガス拡散層240を形成する。ガス拡散層240の製造方法については後に詳述する。
【0027】
セパレータ300(アノード側セパレータ300anおよびカソード側セパレータ300ca)は、ガス遮断性および電子伝導性を有する部材によって構成されており、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボン等のカーボン製部材や、プレス成形したステンレス鋼などの金属部材によって形成されている。セパレータ300は、表面にガスや液体が流通する流路を形成するための凹凸形状を有している。アノード側セパレータ300anは、アノード側拡散層240anとの間に、ガスや液体が流通可能なアノードガス流路AGCを形成している。カソード側セパレータ300caは、カソード側拡散層240caとの間に、ガスや液体が流通可能なカソードガス流路CGCを形成している。
【0028】
図2は、本実施例のガス拡散層の製造方法の流れを説明するための説明図である。はじめに、ガス拡散層基材241を用意し、ガス拡散層基材241の表面に撥水層242を形成するための撥水ペースト242pを塗工する(ステップS110)。この塗工工程では、図2(a)に示すように、ダイコータ51と搬送ローラ52を備える図示しない成膜装置を用いて、ガス拡散層基材241を搬送ローラ52により搬送しつつ、ダイコータ51により撥水ペースト242pをガス拡散層基材241の表面に塗工する。本実施例ではダイコータ51は、水平に配置されたガス拡散層基材241の鉛直方向上方側の面に撥水ペースト242pを塗工する。撥水ペースト242pの厚みは60μm〜100μmとなるようにする。
【0029】
ガス拡散層基材241としてTKK01A(商品名;三菱レイヨン)のカーボンペーパーを使用することができる。また、撥水ペースト242pは、カーボン粉末と、分散剤と、PTFE樹脂を混合することにより作製することができる。
【0030】
カーボン粉末は、粒径が20〜150nmであり、燃料電池用途に使用可能な導電性を有し、金属コンタミネーションが低減されたものを使用することが望ましい。カーボン粉末は、例えば、デンカブラック(商品名;電気化学工業)を使用することができる。分散剤は、N1310(商品名;日本乳化剤)を使用することができる。分散材は、カーボンに対して1〜20wt%となるように使用することが望ましい。撥水処理材としてのPTFE樹脂は、45JR(商品名;三井デュポンFC)のPTFEディスパージョンを使用することができる。PTFEディスパージョンは、カーボンに対して10〜50wt%となるように使用することが望ましい。撥水ペースト242pには、他に、セリアおよび硝酸ジルコニウムをカーボンに対して1〜20wt%となるように混入することが望ましい。セリアおよび硝酸ジルコニウムは、CEZ(商品名;キャタラー)を使用することができる。
【0031】
図3は、ワークを支持する支持部材の概略構成を説明するための説明図である。ガス拡散層基材241に撥水ペースト242pが塗工されたワーク240pは、矩形形状に形成され、支持部材60によって支持される。ワーク240pを支持するための支持部材60は、4つのワークチャック61と、ステンレス製の治具62とを備えている。ワーク240pは、その外周部が枠状の治具62の内周部と一致するようにして、4つのワークチャック61により把持される。
【0032】
塗工工程の後、図2(b)に示すように、撥水ペースト242pが塗工された塗工面(以後、単に「塗工面」とも呼ぶ)が重力方向下向きになるようにワーク240pを回転させる(ステップS120)。この回転工程では、図示しない回転機構によって、ワーク240pを支持した支持部材60を回転させる。その後、塗工面を重力方向下向きにした状態でワーク240pをヒータにより加熱する(ステップS130)。
【0033】
この加熱工程では、ワーク240pを支持した支持部材60を、塗工面を重力方向下向きにした状態で図示しない加熱炉に搬送し、加熱することにより、ワーク240pの乾燥・焼成をおこなう。図2(c)に示すように、加熱炉は、ワーク240pを重力方向下方側から加熱するためのヒータ55を備えている。このヒータ55は、鉛直方向において、ワーク240pの塗工面までの距離が30±10cm程度となるように配置されている。
【0034】
ヒータ55によるワーク240pの加熱温度は、撥水ペースト242pに含まれる撥水性樹脂の融点温度以上となるように設定される。ここでは、PTFE樹脂の融点温度である327℃以上となるように設定される。ワーク240pの加熱温度は、327℃〜355℃の範囲とすることが好ましい。また、加熱時間は、5〜30分程度である。なお、本実施例では、ヒータ55は、ワーク240pの重力方向下方側にのみ配置されているが、加熱炉は、ワーク240pの鉛直方向上方側にもヒータ55を備えていてもよい。ヒータ55による加熱を経て、本実施例のガス拡散層240は完成する。
【0035】
図4は、本実施例のガス拡散層の断面構成を説明するための説明図である。ガス拡散層240は、撥水層242において、PTFE樹脂が外表面側(図4下方側)に偏在している。これは、ステップS130において、塗工面を重力方向下向きにした状態のワーク240pを撥水ペースト242pに含まれるPTFE樹脂の融点以上の温度によって加熱することで、溶融したPTFE樹脂が重力によって外表面側に移動したためである。このように、PTFE樹脂が撥水層242の外表面に形成されることにより撥水層242の外表面のタック性が向上し、触媒電極層220との接合力の向上を図ることができる。
【0036】
図5は、比較例のガス拡散層の製造方法の流れを説明するための説明図である。比較例のガス拡散層の製造方法は、図2で説明した本実施例のガス拡散層の製造方法と比べると、ワークを回転させる回転工程(図2のステップS120)を備えていない点のみ異なる。
【0037】
はじめに、ガス拡散層基材241を用意し、ガス拡散層基材241の表面に撥水層242cを形成するための撥水ペースト242cpを塗工する(ステップS210)。塗工工程の内容は、図2のステップS110と同様のため説明を省略する。
【0038】
比較例の製造方法では、塗工工程の後、回転工程を経ずに加熱工程をおこなう(ステップS230)。すなわち、比較例の加熱工程では、撥水ペースト242cpが塗工された塗工面を鉛直方向上向きにした状態でワーク240cpの加熱をおこなう。具体的には、ワーク240cpを支持した支持部材60(図3参照)を、塗工面を鉛直方向上向きにした状態で図示しない加熱炉に搬送し、加熱することにより、ワーク240cpの乾燥・焼成をおこなう。図5(b)に示すように、加熱炉は、ワーク240pを重力方向下方側(ガス拡散層基材241側)から加熱するためのヒータ55を備えている。このヒータ55は、鉛直方向において、ワーク240cpのガス拡散層基材241までの距離が30±10cm程度となるように配置されている。ヒータ55によるワーク240cpの加熱温度は、本実施例と同様に、PTFE樹脂の融点温度である327℃以上となるように設定される。また、加熱時間は、5〜30分程度である。
【0039】
図6は、比較例のガス拡散層の断面構成を説明するための説明図である。比較例のガス拡散層240cは、撥水層242cにおいて、PTFE樹脂がガス拡散層基材241側(図6下方側)に偏在し、一部のPTFE樹脂がガス拡散層基材241の内部まで移動している。これは、ステップS230において、塗工面を鉛直方向上向きにした状態のワーク240pを撥水ペースト242pに含まれるPTFE樹脂の融点以上の温度によって加熱することで、溶融したPTFE樹脂が重力によってガス拡散層基材241側に移動したためである。撥水層242cのPTFE樹脂が重力によってガス拡散層基材241側に移動することにより、撥水層242の外表面に形成されるPTFE樹脂が低減し、撥水層242の外表面のタック性が低下する。その結果、触媒電極層220との接合力が低下し、接触抵抗が増大する。
【0040】
図7は、本実施例と比較例における撥水層の外表面の違いを説明するための説明図である。図7(a)は、比較例の製造方法(図5)により製造されたガス拡散層であって、加熱工程(ステップS230)における加熱温度を300℃としたときの撥水層の外表面である。図7(b)は、比較例の製造方法(図5)により製造されたガス拡散層であって、加熱工程(ステップS230)における加熱温度を355℃としたときの撥水層の外表面である。図7(c)は、本実施例の製造方法(図2)により製造されたガス拡散層であって、加熱工程(ステップS130)における加熱温度を300℃としたときの撥水層の外表面である。図7(d)は、本実施例の製造方法(図2)により製造されたガス拡散層であって、加熱工程(ステップS130)における加熱温度を355℃としたときの撥水層の外表面である。
【0041】
図7(a)〜(d)は、撥水層242、242cの外表面をFE−SEM(電界放射型走査電子顕微鏡:Field Emission-Scanning Electron Microscope)により観察した画像であり、外表面においてPTFE樹脂が現れている部分を丸で囲んで示している。図7(a)と図7(b)とを比較するとわかるように、比較例の製造方法(図5)で製造されたガス拡散層240cは、加熱工程における加熱温度が300℃の場合には、撥水層242cの外表面にPTEF樹脂が現れるのに対して、加熱温度が355℃の場合には、撥水層242cの外表面にPTEF樹脂が現れない。これは、加熱工程においてワーク240cpをPTFE樹脂の融点以上の温度で加熱したことにより、撥水層242cの外表面付近のPTEF樹脂が溶融して重力によりガス拡散層基材241側に移動したためであると考えられる。このことから、比較例の製造方法を用いて撥水層242cの外表面にPTFE樹脂が現れたガス拡散層240cを製造するためには、加熱工程おける加熱温度をPTFE樹脂の融点以下とする必要があることがわかる。
【0042】
一方、図7(c)と図7(d)とを比較するとわかるように、本実施例の製造方法(図2)で製造されたガス拡散層240は、加熱工程における加熱温度が300℃、355℃のいずれの場合であっても、撥水層242の外表面にPTEF樹脂が現れる。これは、加熱工程においてワーク240pをPTFE樹脂の融点以上の温度で加熱した場合であっても、溶融したPTEF樹脂は、撥水層242の外表面側に移動するためである。このことから、本実施例の製造方法を用いてガス拡散層240を製造する場合には、加熱工程おける加熱温度をPTEF樹脂の融点以上としても融点以下としても撥水層242の外表面にPTFE樹脂が現れるといえる。
【0043】
なお、本実施例の製造方法を用いてガス拡散層240を製造する場合には、加熱工程おける加熱温度をPTEF樹脂の融点以上とする方が、融点以下とする場合よりもより撥水層242の外表面にPTFE樹脂が現れるといえる。これは、上述したように、加熱工程においてワーク240pをPTFE樹脂の融点以上の温度で加熱した場合には、溶融したPTEF樹脂が撥水層242の外表面に移動するためである。
【0044】
図8は、ガス拡散層と触媒電極層との間の接合強度の測定方法を説明するための説明図である。図7で説明した4つのガス拡散層240、240cに対して、それぞれ触媒電極層220を接合し、接合された触媒電極層220とガス拡散層240、240cとの間の接合強度を測定した。
【0045】
具体的には、以下の4つのサンプル♯1〜4を用意した。各サンプルのサイズは15mm×15mmである。
サンプル♯1:比較例の製造方法、加熱工程の加熱温度300℃のガス拡散層240c(図7(a)参照)に触媒電極層220を接合した接合体
サンプル♯2:比較例の製造方法、加熱工程の加熱温度355℃のガス拡散層240c(図7(b)参照)に触媒電極層220を接合した接合体
サンプル♯3:本実施例の製造方法、加熱工程の加熱温度300℃のガス拡散層240(図7(c)参照)に触媒電極層220を接合した接合体
サンプル♯4:本実施例の製造方法、加熱工程の加熱温度355℃のガス拡散層240(図7(d)参照)に触媒電極層220を接合した接合体
【0046】
ガス拡散層240、240cと触媒電極層220との接合は、触媒電極層220を撥水層242、242c上に転写し、圧着させることによっておこなった。圧着条件は、温度150℃、圧力1.5MPa、継続時間4分である。触媒電極層220に含まれる電解質とカーボンとの比率(I/C)は、0.75である。
【0047】
接合強度の測定は、サンプル♯1〜4のガス拡散層240、240c側を両面テープ520で基板510に固定し、触媒電極層220側に貼り付けたテープ530を引っ張ることによっておこなった。テープ530の引っ張りは、島津製作所製のオートグラフ(登録商標)を用いて、ロードセル50N、引張強度1mm/secによりおこなった。接合強度は、テープ530を引っ張る応力と変位との関係から算出した。
【0048】
図9は、ガス拡散層と触媒電極層との間の接合強度の測定結果を説明するための説明図である。図9の縦軸は、ガス拡散層と触媒電極層との間の接合力(N/m)を示している。図9の横軸は、サンプルの種類を示している。サンプル♯1とサンプル♯2の接合力を比較するとわかるように、比較例の製造方法で製造されるガス拡散層240cは、加熱工程における加熱温度がPTFE樹脂の融点以上の場合には、触媒電極層220と間の接合力が生じない。
【0049】
一方、サンプル♯3とサンプル♯4の接合力からわかるように、本実施例の製造方法で製造されたガス拡散層240は、加熱工程における加熱温度がPTFE樹脂の融点以上の場合であっても、融点以下の場合であっても、触媒電極層220と間の接合力がほぼ一定に生じる。これは、ガス拡散層240と触媒電極層220と間の接合力は、撥水層242の外表面に現れているPTFE樹脂の量と比例するためである。このことから、本実施例の製造方法を用いてガス拡散層240を製造する場合には、加熱工程おける加熱温度をPTEF樹脂の融点以上とする方が、融点以下とする場合よりもよりガス拡散層240と触媒電極層220との間の接合力が強くなるといえる。
【0050】
以上説明した、本実施例の製造方法によれば、加熱工程における加熱温度を撥水ペースト242pに含まれる撥水性樹脂の融点以上とした場合であっても、撥水性樹脂の融点以下とした場合と同程度の接合力が生じるため、ガス拡散層の不具合の発生を抑制しつつ、比較的短時間でガス拡散層の表面に撥水層を形成することができる。すなわち、本実施例の製造方法によれば、加熱工程において比較的高温でワーク240pを乾燥・焼成させるため、加熱時間の短縮を図ることができる。これによって、製造コストを抑制することができる。一方、加熱工程における加熱温度を樹脂の融点以上にしても、ガス拡散層240と触媒電極層220と間の接合力が生じるため、ガス拡散層240と触媒電極層220との間の接触抵抗の増大を抑制することができる。
【0051】
B.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0052】
B−1.変形例1:
本実施例では、加熱工程おけるワーク240pの加熱温度は、PTFE樹脂の融点温度(327℃)以上に設定されるものとして説明したが、図9に示すように、本実施例の製造方法は、加熱工程における加熱温度をPTFE樹脂の融点以下としても実現することができる。すなわち、本実施例の製造方法において、加熱工程における加熱温度をPTFE樹脂の融点以下(例えば、300℃)にした場合であっても、ガス拡散層240と触媒電極層220と間の接合力が生じるため、ガス拡散層240と触媒電極層220との間の接触抵抗の増大を抑制することができる。
【0053】
B−2.変形例2:
本実施例の製造方法は、塗工工程と、加熱工程との間に回転工程を備えるものとして説明したが、加熱工程において、塗工面を重力方向下向きにした状態でワーク240pを加熱できれば、本実施例の製造方法は、回転工程を備えていなくてもよい。具体的には、本実施例の塗工工程において、ダイコータ51は、水平に配置されたガス拡散層基材241の鉛直方向上方側の面に撥水ペースト242pを塗工するものとしているが、ガス拡散層基材241の鉛直方向下方側(重力方向下側)の面に撥水ペースト242pを塗工すれば、回転工程を備えていなくても加熱工程において塗工面を重力方向下向きにした状態でワーク240pを加熱することができる。
【0054】
B−3.変形例3:
本実施例の製造方法は、回転工程や加熱工程において、ワーク240pは、支持部材60(図3)により支持されているものとして説明したが、実施例の製造方法は、長帯状のワーク240pをローラ等により連続的に向きを変え、連続的に加熱炉に導入する構成としても実現することができる。
【0055】
B−4.変形例4:
本実施例では、燃料電池10は、アノード側拡散層240anおよびカソード側拡散層240caの両方のガス拡散層240が、本実施例の製造方法により製造されるものとして説明したが、燃料電池10は、アノード側拡散層240anおよびカソード側拡散層240caの一方が、本実施例の製造方法以外の製造方法により製造されていてもよい。
【0056】
B−5.変形例5:
本実施例の製造方法は、塗工工程、回転工程、および、加熱工程の3つの工程を備えるものとして説明したが、本実施例の製造方法は、上記の3つの工程以外の工程を備えていてもよい。例えば、塗工工程と回転工程との間に、第2の加熱工程を備えていてもよいし、加熱工程の後に第2の回転工程を備えていてもよい。
【0057】
B−6.変形例6:
本実施例で示した撥水ペースト242pの構成は例示であり、撥水ペースト242pは、本実施例で示した材料の一部を含んでいなくてもよいし、一部の材料を他の材料に置き換えてもよいし、本実施例で示した材料以外の材料を含んでいてもよい。また、本実施例で示した材料の配分と異なる配分であってもよい。
【符号の説明】
【0058】
10…燃料電池
14…単セル
51…ダイコータ
52…搬送ローラ
55…ヒータ
60…支持部材
61…ワークチャック
62…治具
200…発電体
210…電解質膜
220…触媒電極層
230…膜電極接合体
240…ガス拡散層
240p…ワーク
241…ガス拡散層基材
242…撥水層
242p…撥水ペースト
300…セパレータ
510…基板
520…両面テープ
530…テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池に用いられるガス拡散層の製造方法であって、
ガス拡散層基材を準備する準備工程と、
前記ガス拡散層基材の一方の面に、撥水性樹脂の粒子と導電性粒子とを含むペーストを塗工する塗工工程と、
前記ペーストが塗工された前記ガス拡散層基材を前記ペーストが塗工された塗工面を重力方向下向きにした状態で前記撥水性樹脂の融点以上の温度によって加熱する加熱工程と、を備える製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法において、
前記撥水性樹脂は、ポリテトラフルオロエチレンであり、
前記熱加工温度は、前記ペーストが塗工された前記ガス拡散層基材が327℃〜355℃となるように加熱する、製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の製造方法において、
前記導電性粒子は、カーボン粒子であり、
前記ガス拡散層基材は、カーボンペーパーである、製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の製造方法において、
前記塗工工程は、前記ガス拡散層基材の鉛直方向上方側の面に前記ペーストを塗工し、
前記製造方法はさらに、
前記加熱工程の前に、前記ペーストが塗工された前記ガス拡散層基材を前記塗工面が重力方向下向となるように回転させる回転工程を備える、製造方法。
【請求項5】
燃料電池に用いられるガス拡散層であって、
ガス拡散層基材と、
前記ガス拡散層基材の一方の面に形成され、撥水性樹脂と導電性粒子とを含む撥水層と、を備え、
前記撥水層は、前記撥水性樹脂が外表面側に偏在している、ガス拡散層。
【請求項6】
燃料電池であって、
膜電極接合体と、
請求項5に記載のガス拡散層と、を備える燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−190752(P2012−190752A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55451(P2011−55451)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】