説明

ガス放電表示装置

【課題】輝度劣化が改善されるとともに高い分子線励起効率を有する蛍光体層有するガス放電装置を提供する。
【解決手段】
n(BaX,M1-X)O・7Al23:Mn
(MはZn,Mg,Sr,Caから選ばれた1種以上の元素)
(0<n≦1、0≦x≦1)
で表される蛍光体を含む蛍光体層を有するガス放電装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、真空紫外線によって励起される蛍光体を含む蛍光体層を有するガス放電表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガス放電表示装置の一つであるプラズマディスプレイパネル(PDP)は、放電空間を介して対向する一対の基板の一方の基板の内面に、行電極対とこの行電極対を被覆する誘電体層とこの誘電体層を被覆する保護層が設けられ、他方の基板の内面に、行電極対に直交するとともに放電空間の行電極対と交差する部分にマトリクス状に放電セルを形成する列電極とこの列電極を被覆する列電極保護層とこの列電極保護層上に各放電セル毎に赤,緑,青に色分けされた蛍光体層が設けられた構造を備えている。
【0003】
そして、放電空間内には、キセノンを含む放電ガスが封入されている。
【0004】
このような構造のPDPは、行電極対の一方の行電極と列電極との間で選択的にアドレス放電が発生され、このアドレス放電によって放電セルに対向する部分の誘電体層に壁電荷が形成された放電セル(発光セル)内において、行電極対の行電極間でサステイン放電が発生されて、このサステイン放電により放電ガス中のキセノンから発生する真空紫外線(波長147nmの共鳴線および波長172nmの分子線)が蛍光体層を励起して、赤,緑,青の各色の可視光を発生させることにより、パネル面に映像信号に対応した画像を形成する。
【0005】
このPDPに備えられているような真空紫外線によって励起されて可視光を発生する蛍光体のうち、緑色を発光する蛍光体(緑色蛍光体)には、従来、BaMgAl1117:Mn(BAM−Mn蛍光体)が知られている。
【0006】
しかしながら、このBAM−Mn蛍光体は、真空紫外線の照射や熱などによって輝度劣化を生じ易く、さらに、キセノンから放出される172nmの分子線による励起効率(輝度172ex.)が低いという問題を有している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、上記のような従来の真空紫外線によって励起されて発光する緑色蛍光体を含む蛍光体層における問題点を解決することをその技術的課題の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明(請求項1に記載の発明)によるガス放電表示装置は、上記目的を達成するために、互いに対向される一対の基板の間の放電空間内に放電ガスが封入され、この一対の基板の間の放電空間内において放電を発生させる放電発生部材とこの放電発生部材による放電により放電ガスから発生させる真空紫外線によって励起されて可視光を発生させる蛍光体層が設けられているガス放電表示装置において、前記蛍光体層が、
n(BaX,M1-X)O・7Al23:Mn
(MはZn,Mg,Sr,Caから選ばれた1種以上の元素)
(0<n≦1、0≦x≦1)
で表される蛍光体を含んでいることを特徴としている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
この発明によるガス放電表示装置は、
n(BaX,M1-X)O・7Al23:Mn
(MはZn,Mg,Sr,Caから選ばれた1種以上の元素)
(0<n≦1、0≦x≦1)
で表される蛍光体によって形成された蛍光体層を備えているガス放電装置をその最良の実施形態としている。
【0010】
上記実施形態によるガス放電装置は、蛍光体層に含まれる緑色蛍光体の輝度劣化が改善されるとともに分子線励起効率が向上されて、輝度劣化が少なく、色度特性に優れた画像を形成することが出来る。
【0011】
上記実施形態のガス放電装置において、n=1とし、さらには、0≦x≦0.8とするのが好ましい。
【0012】
これによって、輝度劣化の改善と分子線励起効率の向上がさらに図られるようになる。
【0013】
さらに、上記実施形態のガス放電装置において、放電ガスがキセノンを10体積パーセント以上含んでいることが好ましく、この172nmのXe2分子線が支配的な放電ガスを有するガス放電装置において、VUV劣化維持率と分子線励起効率がさらに向上されるようになる。
【0014】
さらに、上記実施形態のガス放電装置において、蛍光体層が、上記蛍光体に加えて、(Y,Gd)BO3:TbまたはLaPO4:Tbを含むようにすることが好ましく、その混合比を緑色蛍光体層に対して要求される色度−輝度特性に応じて調整することによって、最適な色度調整を行うことが出来るようになる。
【実施例】
【0015】
図1は、この発明による蛍光体によって形成された蛍光体層を備えるガス放電表示装置の実施形態における一実施例を示しており、ガス放電表示装置の一種であるPDPを列方向に沿って断面した場合の一個の放電セルCの周辺の構成を示している。
【0016】
この図1において、PDPは、表示面である前面ガラス基板1の背面に、行方向(図1において紙面に垂直方向)に延びるとともに列方向(図2において左右方向)に並設された行電極対(X,Y)が形成されている。
【0017】
この行電極対(X,Y)を構成する行電極XとYは、それぞれ、行方向に帯状に延びるバス電極Xa,Yaと、このバス電極Xa,Yaに沿って等間隔に配列されてそれぞれバス電極Xa,Yaから対になっている他方の行電極側に延びて互いに放電ギャップgを介して対向される透明電極Xb,Ybとから構成されている。
【0018】
そして、前面ガラス基板1の背面側に誘電体層2が形成されていて、この誘電体層2によって行電極対(X,Y)が被覆されている。
【0019】
一方、前面ガラス基板1と放電空間を介して対向する背面ガラス基板4の表示側の面上には、アドレス電極Dが、各行電極対(X,Y)の互いに対になっている透明電極XbおよびYbに対向する位置において行電極対(X,Y)と直交する列方向に延びるとともに、行方向に互いに所定の間隔を開けて平行に並設されている。
【0020】
背面ガラス基板4の表示側の面上には、さらに、アドレス電極Dを被覆する白色の列電極保護層(誘電体層)5が形成されている。
【0021】
そして、この列電極保護層5上に、それぞれバス電極Xa,Yaに対向する位置において行方向に延びるとともに列方向に並設された横壁部6Aと、列方向に並設された各アドレス電極Dの中間位置に対向する位置において列方向に延びるとともに行方向に並設された縦壁部(図示せず)とによって略格子形状に成形された隔壁6が形成されており、この隔壁6によって、放電空間が、各行電極対(X,Y)の放電ギャップgを介して対向される透明電極Xb,Ybに対向する部分毎にマトリクス状に区画されて、それぞれ放電セルCが形成されている。
【0022】
さらに、この各放電セルC内において、隔壁6の横壁部6Aと縦壁部の間の列電極保護層6の表面と各横壁部6Aと縦壁部の側面の五つの面に、それぞれ赤,緑,青に色分けされた蛍光体層7が、赤,緑,青の順に行方向に並ぶように形成されている。
【0023】
そして、この前面ガラス基板1と背面ガラス基板4の間の放電空間内には、10体積パーセント以上のキセノンを含む放電ガスが封入されている。
【0024】
このPDPの赤,緑,青の蛍光体層7は、後述するように、行電極対(X,Y)の放電ギャップgを介して互いに対向する透明電極XbとYb間で発生される放電(サステイン放電)によって、放電ガス中のキセノンから発生する真空紫外線によって励起されて、それぞれ、赤,緑,青の各色の可視光を発生する。
【0025】
この蛍光体層7のうち、真空紫外線によって励起されて緑色の可視光を発生する蛍光体層(緑色蛍光体層)は、
(Ba,M)O・7Al23:Mn
(MはSr,Ca,Mgから選ばれた1種以上の元素)
を母体組成とする緑色蛍光体(以下、この蛍光体をBAL−Mnという)によって形成されている。
【0026】
このBAL−Mn蛍光体によって形成されたPDPの緑色蛍光体層は、従来のBAM−Mn蛍光体(BaMgAl1117:Mn)によって形成された緑色蛍光体層に比べて、熱および真空紫外線に対する輝度劣化が改善され、特に、放電ガス中のキセノン濃度が高く(例えば、キセノン濃度が10体積パーセント以上)、172nmのXe2分子線が支配的なPDPにおいて、輝度劣化が改善されるとともに、高い分子線励起効率(輝度172ex.)を得ることが出来る。
【0027】
このBAL系母体の蛍光体は、Baの一部をSrに置換することによってさらに輝度劣化の改善効果を得ることが出来、さらに、このSrの他に、Ca,Mg,Znに置換した場合にも、さらに輝度劣化の改善効果と分子線励起効率の向上効果を得ることが出来る。
【0028】
従って、緑色蛍光体層は、
n(Bax,M1-x)O・7Al23:Mn
(MはSr,Ca,Mg,Znから選ばれた1種以上の元素)
の化学式によって表される蛍光体によって形成されることによって、従来のBAM−Mn蛍光体によって形成された緑色蛍光体層と比べて、輝度劣化が改善されるとともに、高い分子線励起効率(輝度172ex.)を得ることが出来る。
【0029】
ここで、上記のBAL系母体の蛍光体(n(Bax,M1-x)O・7Al23:Mn)は、各元素の比によってその特性が左右されるため、上記の化学式において、0<n≦1,0≦x≦1とするのが好適であり、さらには、n=1,0≦x≦1、または、n=1、0≦x≦0.8とするのが好適である。
【0030】
図2は、上記BAL系母体の蛍光体の以下の各実施例について、輝度劣化維持率(熱劣化維持率およびVUV劣化維持率)と分子線励起効率(輝度172ex.)を、それぞれ、従来のBAM−Mn蛍光体(BaMgAl1117:Mn)0.2molと比較した結果を示している。
【0031】
実施例1− BaO・7Al23:Mn (0.3 mol)
実施例2−(Ba0.7,Sr0.3)O・7Al23:Mn(0.12mol)
実施例3−(Ba0.7,Sr0.3)O・7Al23:Mn(0.15mol)
実施例4−(Ba0.7,Ca0.3)O・7Al23:Mn(0.12mol)
なお、この図2において、熱劣化維持率およびVUV劣化維持率については、加熱前およびVUV照射前の各蛍光体の輝度を100%として、それぞれ、その測定結果が示されている。
【0032】
分子線励起効率(輝度172ex.)については、それぞれ、加熱後の蛍光体について行われた測定結果が示されている。
【0033】
蛍光体の加熱は、PDPの製造時の蛍光体層形成工程における加熱温度を想定して、蛍光体ペーストを500℃前後でベーキング処理することによって行われている。
【0034】
VUV照射は、PDP駆動中のVUV暴露による輝度劣化を想定して、キセノンを10体積パーセント含む放電ガス中において、熱処理後の蛍光体に対して行われている。
【0035】
この図2から、従来のBAM−Mn蛍光体は、加熱後に熱劣化維持率が低下するのに対して、上記各実施例1ないし4の蛍光体は、何れも100%以上の熱劣化維持率が示しており、熱劣化による輝度低下が大幅に改善されていることが分かり、さらに、上記各実施例1ないし4の蛍光体は、何れも従来のBAM−Mn蛍光体よりもVUV劣化維持率が高く、VUVの照射による輝度低下が大幅に改善されていることが分かる。
【0036】
さらに、図2から、上記各実施例1ないし4の蛍光体は、何れも分子線励起効率(輝度172ex.)が従来のBAM−Mn蛍光体よりも高いことが分かる。
【0037】
緑色蛍光体層は、上記のBAL−Mn蛍光体のみによって形成されるようにしてもよいが、色度調整のために、BAL系母体の蛍光体にYBT蛍光体((Y,Gd)BO3:Tb)、または、LAP蛍光体(LaPO4:Tb)を混合した蛍光体によって形成するようにしても良い。
【0038】
このBAL系母体の蛍光体とYBT蛍光体の混合比は、緑色蛍光体層に対して要求される色度−輝度特性に応じて決定される。
【0039】
なお、このBAL系母体の蛍光体に混合されるYBT蛍光体((Y,Gd)BO3:Tb)は、Y,Gdの一部を、Sc,La,In,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu等の希土類元素に置換したものを用いることも出来る。
【0040】
さらに、BAL系母体の蛍光体に混合されるLAP蛍光体(LaPO4:Tb)は、Laの一部をSc,Y,In,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu等の希土類元素に置換したものを用いることも出来る。
【0041】
また、BAL系母体の蛍光体に混合される他の蛍光体は、上記のYBT蛍光体およびLAP蛍光体に限られず、混合される蛍光体によって色度調整を行うことが出来る蛍光体であれば、何れも用いることが出来る。
【0042】
上記実施例におけるガス放電表示装置は、
n(BaX,M1-X)O・7Al23:Mn
(MはZn,Mg,Sr,Caから選ばれた1種以上の元素)
(0<n≦1、0≦x≦1)
で表される蛍光体を含む蛍光体層を備えたガス放電装置をその上位概念の実施形態としている。
【0043】
上記実施形態によるガス放電装置は、蛍光体層に含まれる緑色蛍光体の輝度劣化が改善されるとともに分子線励起効率が向上されて、輝度劣化が少なく、色度特性に優れた画像を形成することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】この発明によるガス放電装置の一実施例を示す断面図である。
【図2】同実施例の蛍光体層を形成する蛍光体の輝度劣化改善率の従来例との比較を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
1 …前面ガラス基板(基板)
4 …背面ガラス基板(基板)
7 …蛍光体層
C …放電セル
X,Y …行電極(放電発生部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向される一対の基板の間の放電空間内に放電ガスが封入され、この一対の基板の間の放電空間内において放電を発生させる放電発生部材とこの放電発生部材による放電により放電ガスから発生される真空紫外線によって励起されて可視光を発生させる蛍光体層が設けられているガス放電表示装置において、
前記蛍光体層が、
n(BaX,M1-X)O・7Al23:Mn
(MはZn,Mg,Sr,Caから選ばれた1種以上の元素)
(0<n≦1、0≦x≦1)
で表される蛍光体を含んでいることを特徴とするガス放電表示装置。
【請求項2】
n=1である請求項1に記載のガス放電装置。
【請求項3】
n=1、0≦x≦0.8である請求項1に記載のガス放電装置。
【請求項4】
前記放電ガスが、キセノンを10体積パーセント以上含んでいる請求項1に記載のガス放電表示装置。
【請求項5】
前記蛍光体層が、(Y,Gd)BO3:TbまたはLaPO4:Tbをさらに含んでいる請求項1に記載のガス放電表示装置。
【請求項6】
前記ガス放電表示装置がプラズマディスプレイパネルである請求項1に記載のガス放電表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−204520(P2007−204520A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22190(P2006−22190)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【出願人】(503411576)株式会社次世代PDP開発センター (65)
【Fターム(参考)】