説明

ガス検出装置用の0ガス空気の発生装置

【課題】簡単に信頼性のある0ガス空気を発生できる装置を提供する。
【解決手段】容器4の内部に通気性のある金属製仕切り8をセットし、その外側に吸着剤6を充填する。内側スペース10の空気を吸着剤6で浄化し、センサプローブ12を挿入し、0点校正用のクリーンエアとして用いる。吸着剤6は実施例では粒状活性炭を用いたが、その形態はシート状などでもよく任意である。また金属製仕切り8は、多数の小穴を設けた金属の筒に、吸着剤6の微粉が侵入するのを防止するための金網や、ポリテトラフルオラエチレン膜などの気体透過膜などを貼り付けたものとしても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、VOC検出装置などのガス検出装置での、ガスセンサの校正用の0ガス空気の発生に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物半導体ガスセンサなどのガスセンサを用いて、VOCや口臭、呼気中のアルコールなどの濃度を測定することが知られている。このような検出装置では0ガス空気、即ち可燃性ガスやVOC、口臭成分、アルコールなどを含まないクリーンな空気を必要とする。従来例として一般に知られている0ガス空気の発生装置60を図6に示す。62は活性炭やゼオライト、シリカゲルなどの吸着剤で、64はガラスウールなどのメッシュ、66はメッシュ64よりも上部の空きスペース、即ちヘッドスペースである。そしてヘッドスペース66内にセンサプローブ12を挿入し、クリーンエア中でのセンサ信号を測定し、センサを校正する。この手法はヘッドスペース法と呼ばれる。
【0003】
発明者は、ヘッドスペース法で測定したセンサ信号と、高純度空気(絶対湿度が一定で、空気以外の可燃性ガスなどの成分を含まない空気)中で測定したセンサ信号、との相関が低いことを見出した(図4)。またヘッドスペース法の校正容器内にガスセンサをセットした状態で、VOC成分を注入すると、センサ信号がVOC成分に感応してからの復帰が遅いことを見出した(図5)。これらのことは、ヘッドスペース法で得られる0ガス空気は、VOCや口臭などの微量成分ガスを検出するには、不適当であることを示している。かといって高純度空気のボンベをガスセンサの校正に使用すると、ボンベの重量や使用回数の制限のため不便である。また加熱した空気浄化触媒で空気を浄化して校正用空気とすると、電力が必要になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明の課題は、高純度空気のボンベや加熱型の空気浄化触媒を用いずに簡単に、VOCや口臭などの微量成分を検出する際の校正用空気として使用できる、0ガス空気の発生装置を提供することにある。
この発明の追加の課題は、ガスセンサのヒータからの熱により吸着剤からのガスの脱離が生じることを防止することにある。
この発明の他の追加の課題は、ガスセンサが湿度の影響を受ける際に、0ガス空気の発生装置内の湿度と、測定対象の湿度とが異なることの影響を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、容器内にガスの吸着剤を収容して、ガス検出装置のガスセンサを挿入し、その0点を校正するための0ガス空気の発生装置において、
前記容器内に通気性を備えた筒状の仕切り部材を設けて、その外側のスペースに吸着剤を収容することにより、仕切り部材の内側の空気を外側の吸着剤で浄化すると共に、仕切り部材の内側のスペースにガスセンサを挿入自在にしたことを特徴とする。
ガスセンサの種類は、金属酸化物半導体ガスセンサや、固体電解質ガスセンサ、電気化学式ガスセンサなどで、任意である。ガス検出装置は好ましくは携帯用とする。
【0006】
好ましくは、金属酸化物半導体ガスセンサや固体電解質ガスセンサなどのヒータを備えたガスセンサを校正するために、前記仕切り部材を多数の穴を備えた金属により構成する。この場合、仕切り部材は金属メッシュで作成した筒とする。あるいは仕切り部材を多数の小穴を設けた金属筒などとし、好ましくは穴に金属メッシュや気体透過膜などを取り付けて、吸着剤が仕切り部材の内側へ入り込むのを防止する。
【0007】
特に好ましくは、前記ガスセンサが金属酸化物半導体ガスセンサで、少なくともガスセンサと湿度センサとを備えたセンサプローブを前記内側のスペースに挿入してガスセンサを校正する。湿度センサは絶対湿度センサでも相対湿度センサでも良く、ガスセンサが絶対湿度の影響を受ける場合、例えば相対湿度センサと温度センサ、あるいは是退室度センサをセンサプローブ内に設ける。
【発明の効果】
【0008】
この発明では、高純度空気による校正と同等の校正ができる0ガス空気の発生装置が簡単に得られ、高純度空気のボンベや空気浄化触媒の電力などを必要としない。
【0009】
請求項2の発明では、ガスセンサのヒータからの熱により吸着剤が加熱されて、ガスが脱離し、校正ができなくなることを防止できる。
【0010】
請求項3の発明では、センサプローブに湿度センサを設けることにより、湿度の影響を受けやすい金属酸化物半導体ガスセンサに対して、校正用容器の内外で湿度が異なるため、校正が難しくなるとの問題を解決できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0012】
図1〜図5に、実施例とその特性とを示す。図において、2は0ガス空気の発生装置で、4はガラスや金属などの気密な容器であり、その内容積は例えば150cm3である。容器4内には活性炭やゼオライトあるいはシリカゲルなどの吸着剤を収容し、8は金属製仕切りで、例えば金属メッシュを2重に巻いて底を取り付けた筒状の仕切りで、仕切り8の内外の間には通気性がある。10は金属製仕切り8の内側スペースで、この部分にガスセンサを備えたセンサプローブ12を挿入し、内側スペース10内の空気を可燃性ガスやVOC成分などを含まないクリーンエアとしてガスセンサの0点校正を行う。なおプローブ12を挿入しない場合、キャップ16で容器4を閉じられるようにする。
【0013】
吸着剤6は実施例では粒状活性炭を用いたが、その形態はシート状などでもよく任意である。また金属製仕切り8は、多数の小穴を設けた金属の筒に、吸着剤6の微粉が侵入するのを防止するための金網や、ポリテトラフルオラエチレン膜などの気体透過膜などを貼り付けたものとしても良い。また金属製仕切り8に代えて、陶器に多数の穴を設けた仕切りに金網や気体透過膜などを取り付けても良い。金属製仕切り8の役割は、吸着剤6のある部分と、吸着剤6の無い内側スペース10とを区分し、内側スペース10への吸着剤6の微粉などの侵入を防止することである。また金属製仕切り8は、センサプローブ12内のガスセンサからの発熱が、吸着剤6に伝わってガスを脱離させることがないようにすることにある。即ち金属製仕切り8は、センサプローブ12と吸着剤6とを断熱する。14はセンサプローブ12の先端に設けた通気孔で、この内側にガスセンサ20、温度センサ21,相対湿度センサ22がある。
【0014】
図2にガス検出装置の構成を示すと、センサプローブ12内にはガスセンサ20とサーミスタなどの温度センサ21及び相対湿度センサ22があり、ここではガスセンサ20にヒータを備えた金属酸化物半導体ガスセンサを用いる、そのセンサ信号は例えば抵抗値である。微量のガス以外に、周囲の絶対湿度がガスセンサ20の特性に影響するので、温度センサ21と相対湿度センサ22とに代えて、絶対湿度センサを用いても良い。またガスセンサ20は金属酸化物半導体を加熱するためのヒータを備えているので、センサプローブ12からの発熱が問題になる。
【0015】
24はセンサ電源で、センサ20〜22に電力を供給し、特にガスセンサ20のヒータに電力を供給する。ADコンバータ26はセンサ20〜22の出力をAD変換し、これらの信号を温湿度補正部28へ入力して、ガスセンサ20に対する周囲温度の影響並びに相対湿度の影響を補正する。なお金属酸化物半導体ガスセンサに対する温湿度補正の手法自体は公知である。
【0016】
0点記憶部30は、ガス検出装置の校正スイッチがオンされた際の温湿度補正部28の出力を、クリーンエア中でのガスセンサ信号として記憶する。実施例では、温湿度補正済のガスセンサの抵抗値を、クリーンエア中のセンサ抵抗として記憶する。VOC検出部32は温湿度補正済のセンサ抵抗と、0点記憶部に記憶したセンサ抵抗との比などを用いて、VOC濃度を検出する。検出結果は液晶パネルなどの表示器34に表示され、またデータロガー36に記憶される。
【0017】
実施例の0ガス空気の発生装置2は、携帯用のガス検出装置に用いるのに適しているが、定置型のガス検出装置にも用いることができる。VOCのように微量のガスを検出する場合、クリーンエアも充分清浄である必要があり、実施例の0ガス空気の発生装置2が特に適している。VOCの検出以外に例えば口臭の検出のように微量のガスを検出する場合にも、実施例の0ガス空気の発生装置2が適している。
【0018】
ガスセンサ20はここでは金属酸化物半導体ガスセンサとしたが、これ以外に電気化学式のガスセンサや固体電解質ガスセンサなどでも良い。図3〜図4に、実施例の0ガス空気の発生装置2による校正結果を示す。各図において、高純度空気はボンベに充填したクリーンエアである。なおガスセンサの抵抗値は絶対湿度の影響を受けるが、温湿度補正部28でこれを補正済の信号を用いるので、高純度空気中とそれ以外の雰囲気中、並びに0ガス空気の発生装置2中での湿度の相違は影響しない。また図3〜図5において、ヘッドスペース法は図6の装置60を用いた際の結果で、発生装置60の容器内の容積や、吸着剤の使用量は実施例とほぼ同等である。図3,図4での測定は所定の校正用雰囲気にセンサプローブをセットした後、約10分待機し、校正スイッチをオンして抵抗値を測定した。
【0019】
図3は複数台のガス検出装置を用意し、それらを高純度空気中、実施例の校正用容器中、ヘッドスペース法の容器中で、湿度補正済みのセンサ抵抗を読み込んだ際の結果である。図3から分かるように、高純度空気中でのセンサ抵抗値と実施例でのセンサ抵抗値はほぼ等しい。これに対してヘッドスペース法での抵抗値は、高純度空気中でのセンサ抵抗値の1/2程度であり、ヘッドスペース法で得られるクリーンエア中にはセンサ抵抗に影響する何らかの物質が含まれている。これは、ヘッドスペース法では吸着剤62によるヘッドスペース66内の空気の浄化が遅いことと、センサプローブ12に付着したガスや揮発性物質が影響しているものと思われる。
【0020】
図4は約3ヶ月の間の、ヘッドスペース法でのクリーンエア中のセンサ抵抗値と、実施例の0ガス空気の発生装置2内でのセンサ抵抗値と、高純度空気中でのセンサ抵抗値との推移を示したものである。用いたガス検出装置は1台で、いずれのセンサ抵抗値も温湿度を補正済である。実施例でのセンサ抵抗値と高純度空気中でのセンサ抵抗値はほぼ等しいが、ヘッドスペース法との間では2〜3倍程度の抵抗値の開きがある。
【0021】
図5は、校正用の容器4や装置60に1ppm濃度のトルエンを5cc注入した前後での、センサ抵抗の変化を示している。縦軸はトルエン注入前の抵抗値R0と注入後の抵抗値Rsとの比である。センサ抵抗はトルエンに感応して低下し、図の細線のように浄化手段を設けない場合はそのまま回復しない。実施例ではトルエンの注入から約2分でセンサ抵抗は元の値に復帰する。ヘッドスペース法では復帰までに約4分必要である。このことは、センサプローブ12に付着した、あるいは容器4にプローブ12を挿入する際に持ち込まれた周囲のガスや揮発性成分により、容器4の内側スペース10内の空気が浄化されるまで、0点校正前に待機する必要があることを意味する。そして実施例ではヘッドスペース法に比べ約1/2の待機時間で0点校正を行える。
【0022】
実施例では、高純度空気のボンベやヒータ付きの空気浄化触媒を用いずに、正確かつ簡単にガス検出装置の0点を校正できる。またセンサプローブ12を挿入した後校正までの、待ち時間を短くできる。なお湿度センサは設けなくても良く、さらにプローブ12ではなく、ガス検出装置の本体側に設けても良い。

【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例での用いた0ガス空気の発生装置の正面図
【図2】実施例の携帯用VOC検出装置のブロック図
【図3】高純度空気中のセンサ抵抗値と、実施例の0ガス空気の発生装置中でのセンサ抵抗値との相関を示す図で、比較のためにヘッドスペース法で作成した0ガス中でのセンサ抵抗値の分布を示す
【図4】約3ヶ月の間の、実施例の0ガス空気の発生装置中でのセンサ抵抗値と、高純度空気中でのセンサ抵抗値と、ヘッドスペース法で作成した0ガス中でのセンサ抵抗値の挙動を示す図
【図5】1ppm濃度のトルエンを5cc0ガス空気の発生装置中に注入した後の、センサ抵抗値の挙動を示す図
【図6】従来例のヘッドスペース法での0ガス空気の発生装置の正面図
【符号の説明】
【0024】
2 0ガス空気の発生装置
4 容器
6 吸着剤
8 金属製仕切り
10 内側スペース
12 センサプローブ
14 通気孔
16 キャップ
20 ガスセンサ
21 温度センサ
22 相対湿度センサ
24 センサ電源
26 ADコンバータ
28 温湿度補正部
30 0点記憶部
32 VOC検出部
34 表示器
36 データロガー
60 0ガス空気の発生装置
62 吸着剤
64 メッシュ
66 ヘッドスペース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内にガスの吸着剤を収容して、ガス検出装置のガスセンサを挿入し、その0点を校正するための0ガス空気の発生装置において、
前記容器内に通気性を備えた筒状の仕切り部材を設けて、その外側のスペースに吸着剤を収容することにより、仕切り部材の内側の空気を外側の吸着剤で浄化すると共に、仕切り部材の内側のスペースにガスセンサを挿入自在にしたことを特徴とする、ガス検出装置用の0ガス空気の発生装置。
【請求項2】
ヒータを備えたガスセンサを校正するために、前記仕切り部材が多数の穴を備えた金属により構成されていることを特徴とする、請求項1のガス検出装置用の0ガス空気の発生装置。
【請求項3】
前記ガスセンサが金属酸化物半導体ガスセンサで、少なくともガスセンサと湿度センサとを備えたセンサプローブを、前記内側のスペースに挿入するようにしたことを特徴とする、請求項2のガス検出装置用の0ガス空気の発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−139580(P2007−139580A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−333691(P2005−333691)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年11月1日 室内環境学会事務局発行の「室内環境学会誌 第8巻 第2号」に発表
【出願人】(000112439)フィガロ技研株式会社 (58)
【Fターム(参考)】