説明

ガス濃度測定装置

【課題】測定環境の温湿度が変化しても、ガス検知シートを用いてより正確に対象ガスの濃度測定ができるようにする。
【解決手段】測定対象ガスと反応して光吸収が変化する色素を含む検知剤を担持したガス検知シート101と、上記色素の吸収スペクトルにおけるガス検知シート101の反射率を測定する反射率測定部102と、ガス検知シート101および反射率測定部102とを収容する密閉可能な容器104と、外気を断熱的膨張させて吸引して吸引した空気を断熱圧縮して容器104内に送出するポンプ105とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オゾンなどのガスに反応して変色するガス検知シートを用いたガス濃度測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、NOx、SPM、光化学オキシダントによる大気汚染が生じ、環境に対する影響が問題となってきている。光化学オキシダントの主成分であるオゾンガス(O3)は、工場、事業所や自動車から排出されるNOxや炭化水素などの汚染物質が、太陽光線の照射を受けて光化学反応を起こすと生成され、光化学スモッグの原因となっている。また、コロナ放電手段を備えた各種機器、例えば静電式複写機、レーザープリンタ、LEDファクシミリなどの装置においても、コロナ放電手段の動作中にオゾンガスやNOxガスが発生する。
【0003】
ところが、オゾンガスは、強力な酸化能を有しているため、空気中の濃度が一定以上(0.1ppm)になると、呼吸器系を刺激し、微量でも長時間吸入すると有害とされている。このため、オゾンガスなどのガスの濃度分布の調査や、地球環境への影響評価、個人のオゾンガス被曝の影響評価を行い、環境を監視する必要がある。これに対し、オゾンガスについては、安価で小型軽量かつ個人や家庭レベルで使用することができるオゾン濃度測定器が各種開発されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0004】
このようなオゾン濃度測定器としては、例えば図7の平面図に示す簡易な検知器が提案されている。このオゾン濃度検知器は、台紙701の上に、検知シート702と色見本703〜705を備えている。検知シート702は、暴露したオゾンガスの量に対応して色が変化する。この色の変化を、色見本703〜705と比較することで、検出されたオゾンガスの濃度が判明する。
【0005】
このようなオゾンガス測定を可能とする検知シート702は、通常、オゾンガスに反応すると退色する色素,保湿剤,酸,および水などを混合して調整した検知溶液を、セルロース濾紙に含浸させ、これを風乾することにより作製されている。オゾンガスに反応すると変色する色素としては、インジゴ色素,アゾ色素,トリフェニルメタン色素,アントラキン色素などが用いられる。
【0006】
色見本703〜705は、各々異なったオゾン暴露量、例えば0ppbh,400ppbh,および800ppbhに対応する色で構成されている。オゾン暴露量が0ppbhの色見本703は、測定前の検知シート702と同じ色(インジゴカルミン:藍色)を呈している。これに対して、高い暴露量に対応する色見本704、色見本705ほど初期と異なる色を呈するものとなる。
【0007】
このようなオゾン濃度測定器は、オゾンガスが存在する環境下で一定時間(例えば、8時間)使用すると、検知シート702がオゾンガスによって暴露されることにより変色する。この変色した色と色見本703〜705とを見比べることにより、オゾンガスの暴露量を知ることができる。例えば、検知シート702が変色して400ppbh(ppbhはオゾン濃度ppb×暴露時間hourの積である蓄積オゾン濃度の単位)の色見本704と同じ色であれば、オゾン暴露量が400ppbhであると判定できる。また、検知シート702が変色し、色見本704と800ppbhの色見本705との中間の色と略等しい色に変色していれば、オゾン暴露量が600ppbhであると判定できる。暴露量を濃度に変換するためには、暴露量を経過(測定)時間で割ることにより、暴露した時間あたりの平均濃度として求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−144729号公報
【特許文献2】WO2006/016623(PCT/JP2005/014689)号公報
【特許文献3】特開平09−274032号公報
【特許文献4】特開2000―081426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したようなガス検知シートは、測定環境の温度および湿度の変化により測定結果が変化するなど、温湿度の影響を受けて正確な測定ができない場合が発生する。例えば、実際には同じオゾン濃度であっても、湿度や温度が変化すると異なる測定結果となる。特に、湿度に対して敏感である。これは、湿度の変化により、ガス検知シートの保水量が変化することに起因するものと考えられる。ガス検知シートによる測定は、様々な環境において行われるため、上述したように温湿度の影響を大きく受ける状態では、環境のガス濃度を正確に測定することができないという問題がある。
【0010】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、測定環境の温湿度が変化しても、ガス検知シートを用いてより正確に対象ガスの濃度測定ができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るガス濃度測定装置は、測定対象ガスと反応して光吸収が変化する色素を含む検知剤を担持したガス検知シートと、色素の吸収スペクトルにおけるガス検知シートの反射率を測定する反射率測定手段と、ガス検知シートおよび反射率測定手段とを収容する密閉可能な容器と、外気を断熱膨張させて吸引してこの吸引した空気を断熱圧縮して容器内に送出するポンプとを少なくとも備える。
【0012】
上記ガス濃度測定装置において、ポンプは、ダイヤフラムポンプであればよい。なお、測定が対象ガスは、オゾンガスである。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、外気を断熱膨張させて吸引してこの吸引した空気を断熱圧縮して容器内に送出するポンプを用い、ポンプにより容器内に取り入れた空気を測定するようにしたので、測定環境の温湿度が変化しても、ガス検知シートを用いてより正確に対象ガスの濃度測定ができるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態におけるガス濃度測定装置の構成を示す構成図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるガス濃度測定装置の構成を示す構成図である。
【図3】日数の経過と共に変化する温度を、容器104の外側と内部とで比較した結果を示す特性図である。
【図4】日数の経過と共に変化する湿度を、容器104の外側と内部とで比較した結果を示す特性図である。
【図5】同一の測定対象を、本実施の形態におけるガス濃度測定装置を用いて測定した結果(横軸)と、基準器(東亜DKK社製:オゾンアナライザーGUX−213)を用いて測定した結果(縦軸)との関係を示す相関図である。
【図6】同一の測定対象を、ガス検知シートを用いて測定した結果(横軸)と、基準器を用いて測定した結果(縦軸)との関係を示す相関図である。
【図7】オゾン濃度測定器の構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態におけるガス濃度測定装置の構成を示す構成図である。このガス濃度測定装置は、測定対象ガスと反応して光吸収が変化する色素を含む検知剤を担持したガス検知シート101と、上記色素の吸収スペクトルにおけるガス検知シート101の反射率を測定する反射率測定部102と、ガス検知シート101および反射率測定部102とを収容する密閉可能な容器104と、外気を断熱膨張させて吸引し、この吸引した空気を断熱圧縮して容器104内に送出するポンプ105とを備える。
【0016】
ポンプ105は、外気取り込み部106より外気を吸引し、送出部107より吸引した空気を容器104内に送出する。また、容器104内に送り込まれた空気は、容器内空気撹拌部111で撹拌されることで容器104内を循環し、排出部108より排出される。
【0017】
ガス検知シート101は、例えば、エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社製「オゾン検知紙」である。また、ポンプ105は、例えば、ダイヤフラムポンプである。ポンプ105は、オイルフリータイプが望ましい。
【0018】
反射率測定部102は、発光部121,受光部122,処理出力部123を備える。また、ガス検知シート101の反射率測定時に参照として用いる基準反射板103を備える、基準反射板103は、ハーフミラーを用いることができる。参照光と反射光用の受光素子は、別々に受光部として配置する。反射率測定部102による反射率の測定では、まず、所定の波長の光を発するLEDからなる発光部121からの発光光を、ガス検知シート101に照射し、ガス検知シート101からの反射光を受光部122で受光する。同様に、基準反射板103による反射した参照光を受光部122で受光する。受光部122では、受光光を光電変換して信号電流を出力する。
【0019】
処理出力部123では、例えば、受光部122より出力された信号電流を増幅して電流−電圧変換し、この反射光および参照光に対応する電圧信号をデジタル信号に変換する。LED光の揺らぎの影響を避けるために、反射光信号を参照光信号で除して反射率の信号を求める。このデジタル信号に変換された反射率より、ガス検知シート101の検知剤と反応した対象ガスの量(濃度値)を算出して出力する。例えば、設定されている時間の前後に測定された2つの反射率の差(変化)により、対象ガスの濃度を算出する。
【0020】
ここで、受光部122は、例えば、フォトダイオードである。このフォトダイオードとしては、例えば、190〜1000nmの波長に感度のあるものを用いればよい。発光部121は、ガス検知シート101における検知剤が含む色素の吸収ピーク波長のLED光源を用いればよい。例えば、上述したオゾン検知紙の場合では、波長620nmの赤色LEDが好適である。また、発光部121の発光面と受光部122の受光面とが、ガス検知シート101の方向に向くように配置し、発光部121からの発光光が、ガス検知シート101で反射した後、受光部122に受光されるように、各々の角度が調整されている。
【0021】
このガス濃度測定装置は、例えば図2の構成図に示すように、着脱可能なフタ202で内部を密閉可能とする測定用ボックス201と、ダイヤフラムポンプ203と、オゾン測定器204と、撹拌用ファン211とから構成することができる。オゾン測定器204は、上述したガス検知シート101および反射率測定部102などが収容されている。フタ202を取り外した状態で、測定用ボックス201内にオゾン測定器204および撹拌用ファン211を収容した後、締め具210を用いて測定用ボックス201にフタ202を固定する。これにより、密閉状態とした測定用ボックス201内にオゾン測定器204および撹拌用ファン211が配置された状態となる。
【0022】
また、ダイヤフラムポンプ203には、外気取り込み用のホース205と、吸引した空気を送出するためのホース206とが接続されている。また、ホース206は、コネクタ207により測定用ボックス201に接続され、ダイヤフラムポンプ203より送出される空気を、測定用ボックス201内に導入可能としている。また、測定用ボックス201には、排気用のホース209が、コネクタ208により接続されている。
【0023】
上述した本実施の形態におけるガス濃度測定装置によれば、測定対象ガスを含む外気(空気)をポンプ105(ダイヤフラムポンプ203)で吸引し、ポンプ105内部で断熱膨張・断熱圧縮された空気を容器104(測定用ボックス201)内部に送出し、容器104の内部空間で、ガス検知シート101に暴露させる。このようにすることで、以下に示すように、外気における温湿度の変動が抑制された状態で、ガス検知シート101および反射率測定部102によるガス濃度測定を行うことが可能となる。
【0024】
次に、本実施の形態におけるガス濃度測定装置を用いた連続測定により測定対象の外気のオゾン濃度を長期間測定した結果について、図3〜図5を用いて説明する。まず、容器104(測定用ボックス201)の外側と内部とにおける温度の変化について図3に示す。図3は、日数の経過と共に変化する温度を、容器104の外側と内部とで比較した結果を示す特性図である。「□」で示す(a)が容器104の内部における温度変化であり、「◇」で示す(b)が、容器104外部における温度変化である。図3より、外気の温度が15℃近く変動しているのに対し、容器104内の温度は3℃以下の変動に抑えられていることがわかる。
【0025】
次に、容器104の外側と内部とにおける湿度の変化について図4に示す。図4は、日数の経過と共に変化する湿度を、容器104の外側と内部とで比較した結果を示す特性図である。「□」で示す(a)が容器104の内部における湿度変化であり、「◇」で示す(b)が、容器104外部における湿度変化である。図4より、外気の湿度が90%近く変動して場合においても、容器104内の湿度は30%程度の変動に抑制されていることがわかる。
【0026】
次に、オゾン検知紙を用いた本実施の形態におけるガス濃度測定装置を用いた測定結果について、図5を用いて説明する。図5では、同一の測定対象を、本実施の形態におけるガス濃度測定装置を用いて測定した結果(横軸)と、基準器(東亜DKK社製:オゾンアナライザーGUX−213)を用いて測定した結果(縦軸)との関係を示している。基準器では、外気のオゾン濃度を測定している。
【0027】
各々の測定は、1時間毎に行う。本実施の形態におけるガス濃度測定装置による測定では、1時間毎に、初期反射率と1時間後の反射率との差より、当該1時間における全オゾン暴露量を求め、これを1時間で除することで、当該1時間における平均オゾン濃度としている。また、基準器においては、該当する1時間の間に検出された全オゾンの濃度を1時間で除することで、当該1時間における平均オゾン濃度としている。また、これらの測定は、前述した温度および湿度の変化の観測と同じ期間(時期)に行っている。
【0028】
図5に示すように、本実施の形態におけるガス濃度測定装置を用いた測定結果は、基準器の測定結果と高い相関がとれていることがわかる。
【0029】
一方、図6は、オゾン検知紙による反射率測定部102を用いたオゾンの測定を、容器104の外部で行った場合の、基準器との相関を示している。測定の条件については、上述同様である。図6に示すように、基準器の測定結果とはほとんど相関がとれていないことがわかる。これは、基準器の測定結果は、温湿度の変化の影響を受けないが、オゾン検知紙を用いたオゾンの測定では、温湿度の変化の影響を受けるためである。これは、特に夕方から朝方にかけて気温が下がり結露が生じる時間帯に顕著である。
【0030】
以上の結果より、本実施の形態によれば、外気における温湿度の変化の影響が抑制されていることがわかる。
【0031】
ろ紙などのシート状の担体に検知剤を担持させたガス検知シートでは、測定環境の湿度の影響を受け、保持する水分量が変化し、これにより反射率が変化するものと考えられる。また、ガス検知シートによる測定は、測定対象の物質との化学的な変化により測定を行ういわゆる比色分析であり、温度の影響により反応が変化し、結果として反射率が変化する。このような、温湿度による外乱が、本発明によれば、抑制できるようになる。
【0032】
なお、上述では、オゾンガスの測定を例に説明したが、これに限るものではない、例えば、ホルムアルデヒドガス,二酸化窒素などを測定対象とした場合であっても同様である。例えば、ホルムアルデヒドガスや二酸化窒素と反応して光吸収が変化する色素を含む検知剤を担持したガス検知シートを用いた場合であっても、本発明のガス濃度測定装置によれば、外気の湿度、温度の影響が抑制できるようになる。
【符号の説明】
【0033】
101…ガス検知シート、102…反射率測定部、103…基準反射板、104…容器、105…ポンプ、106…外気取り込み部、107…送出部、108…排出部、111…容器内空気撹拌部、121…発光部、122…受光部、123…処理出力部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象ガスと反応して光吸収が変化する色素を含む検知剤を担持したガス検知シートと、
前記色素の吸収スペクトルにおける前記ガス検知シートの反射率を測定する反射率測定手段と、
前記ガス検知シートおよび前記反射率測定手段とを収容する密閉可能な容器と、
外気を断熱膨張させて吸引してこの吸引した空気を断熱圧縮して前記容器内に送出するポンプと
を少なくとも備えることを特徴とするガス濃度測定装置。
【請求項2】
請求項1記載のガス濃度測定装置において、
前記ポンプは、ダイヤフラムポンプであることを特徴とするガス濃度測定装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のガス濃度測定装置において、
前記測定が対象ガスは、オゾンガスであることを特徴とするガス濃度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−271218(P2010−271218A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123897(P2009−123897)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】