説明

ガス濃度計測装置

【課題】より高い汎用性を有するとともに、より多様な計測環境場においてより適切な感度でのガス濃度の計測を実現することを可能にするガス濃度計測装置を提供する。
【解決手段】赤外線光源として、波長変換を行う波長変換素子14aを有する波長可変レーザ部11と、波長変換素子14aに働きかけることによって、波長変換素子14aから出射される波長を変化させるペルチェ素子16および移動ステージ17と、測定対象のガスにかかる圧力の情報をもとに、位置コントローラ26および温度コントローラ27に指示を行うことによってペルチェ素子16および移動ステージ17を働かせ、波長変換素子14aから出射される波長を変化させる主制御部28と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス濃度の計測を行うガス濃度計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガス分子固有の赤外線吸収効果を利用して特定の成分ガスの濃度を検出する赤外線吸収方式のガス濃度計測技術が知られている。また、この赤外線吸収方式のガス濃度計測技術を利用して特定の成分ガスの濃度を計測する赤外線吸収方式のガス濃度計測装置も知られている。
【0003】
例えば、赤外線吸収方式のガス濃度計測装置では、計測対象とする特定の成分ガスが含まれるガスが導入されたセル内にその一端から赤外線を照射するとともに、他端から出射した透過赤外線を検出器で受けるようになっている。そして、検出器で検出した透過赤外線の量から吸光度(つまり、減衰量)を求めるとともに、この吸光度とガス濃度との間の比例関係をもとに、特定の成分ガスの濃度を計測するようになっている。
【0004】
また、特許文献1には、吸光度計測装置に複数の光検出素子を配列し、その強度信号により吸光度を計測することによって検出感度(つまり、計測感度)やS/N比を上げて、ガス濃度の測定を好適に行うことを可能にする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−241269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の技術は、ガス濃度が低濃度であって低感度となる場合に計測感度を上げるための技術であって、例えばエンジン筒内のように温度や圧力が大幅に変化する計測環境場においては、適切な計測感度でのガス濃度の計測を実現することができないという問題点を有していた。
【0007】
また、特許文献1に開示の技術では、エンジン筒内のガス濃度を計測する場合のように、セルの配置スペースが非常に限られている場合には、複数の光検出素子を配列したり、光路長を変化させたりすることが困難であるため適用できず、汎用性に欠けるという問題も有していた。
【0008】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、より高い汎用性を有するとともに、より多様な計測環境場においてより適切な計測感度でのガス濃度の計測を実現することを可能にするガス濃度計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1のガス濃度計測装置は、上記課題を解決するために、測定対象のガスが導入されるセルと、前記セル内に照射する赤外線の光源である赤外線光源と、前記セルから出射する透過赤外線の強度を検出する検出器と、を備え前記セル内に照射する赤外線の強度と前記検出器で検出した透過赤外線の強度とから得られる赤外線の減衰量をもとに、前記測定対象のガスの濃度を計測するガス濃度計測装置であって、前記赤外線光源として、波長変換を行う波長変換素子を有する波長可変レーザと、前記波長可変レーザの波長変換素子に働きかけることによって、前記波長変換素子から出射される波長を変化させる波長変化部と、前記測定対象のガスにかかる圧力に関連する情報である圧力関連情報を取得する圧力関連情報取得部と、前記圧力関連情報取得部で取得した圧力関連情報をもとに、前記波長変換素子から出射される波長を前記波長変化部によって変化させる調整部と、を備えていることを特徴としている。
【0010】
測定対象のガスにかかる圧力が増すと赤外線の減衰量も増し、ガス濃度の計測感度も増す傾向にあるように、測定対象のガスにかかる圧力は、ガス濃度の計測感度と密接に関連している。以上の構成によれば、測定対象のガスにかかる圧力に関連する情報である圧力関連情報をもとに、波長変換素子から出射される波長を波長変化部によって変化させることができるので、圧力が大幅に変化するような計測環境場においても、赤外線の減衰量がより多くなる条件下では赤外線吸収がより弱い波長に変化させ、赤外線の減衰量がより少ない条件下では赤外線吸収がより強い波長に変化させることによって、より適切な計測感度でのガス濃度の計測を実現することが可能となる。なお、温度が大幅に変化するような計測環境場においても、温度と圧力とは密接に関連しているので、圧力関連情報をもとに、同様にして、より適切な計測感度でのガス濃度の計測を実現することが可能となる。
【0011】
また、波長可変レーザの波長変換素子に波長変化部が働きかけることによって、波長変換素子から出射される波長を変化させることができるので、複数の光検出素子を配列したり、光路長を変化させたりしなくてもガス濃度の計測感度を変更することができる。よって、エンジン筒内のガス濃度を計測する場合のように、セルの配置スペースが非常に限られている場合にも適用でき、より高い汎用性を有する。
【0012】
その結果、より高い汎用性を有するとともに、より多様な計測環境場においてより適切な計測感度でのガス濃度の計測を実現することが可能になる。
【0013】
また、請求項2のガス濃度計測装置では、前記セルは、内燃機関の筒内に設けられるものであって、前記ガス濃度計測装置は、前記内燃機関の筒内の前記測定対象のガスの濃度を計測するものであることを特徴としている。
【0014】
この請求項2のように、ガス濃度計測装置によって内燃機関の筒内の前記測定対象のガスの濃度を計測することによって、例えばエンジン筒内のように温度や圧力が大幅に変化し、ガス濃度が低濃度から高濃度にわたって広く変化する計測環境場において、より適切な計測感度でのガス濃度の計測を実現する態様としてもよい。
【0015】
また、請求項3のガス濃度計測装置では、前記圧力関連情報取得部は、前記圧力関連情報として前記測定対象のガスにかかる圧力の値を取得するとともに、前記調整部は、前記圧力関連情報取得部で取得する前記圧力の値の変化に対する前記赤外線の減衰量の変化量をもとに、前記変化量が所定の基準値以下となる場合には、前記波長変換素子から出射される波長を前記波長変化部によって変化させることを特徴としている。
【0016】
測定対象のガスにかかる圧力の値の変化に対する赤外線の減衰量の変化量が小さくなり過ぎている場合には、ガス濃度の計測が困難なほどに赤外線の減衰量が小さくなっていて計測感度が低すぎるか、ガス濃度の計測が困難なほどに赤外線の減衰量が大きく飽和していて計測感度が高すぎるかのいずれかの状態にある。以上の構成によれば、圧力の値の変化に対する赤外線の減衰量の変化量が所定の基準値以下となる場合には、波長変換素子から出射される波長を波長変化部によって変化させるので、より適切な計測感度でのガス濃度の計測ができるように波長を変化させることも可能になる。例えば、ガス濃度の計測が困難なほどに赤外線の減衰量が小さくなっていて計測感度が低すぎる場合には、赤外線吸収がより強い波長に変化させることによって、より適切な計測感度でのガス濃度の計測を実現することが可能となる。また、ガス濃度の計測が困難なほどに赤外線の減衰量が大きく飽和していて計測感度が高すぎる場合には、赤外線吸収がより弱い波長に変化させることによって、より適切な計測感度でのガス濃度の計測を実現することが可能となる。
【0017】
また、請求項4のガス濃度計測装置では、前記調整部は、前記圧力関連情報取得部で取得する前記圧力の値の変化に対する前記赤外線の減衰量の変化量をもとに、前記変化量が所定の基準値以下となる場合には、前記波長変換素子から出射される波長を前記波長変化部によって変化させる処理を、前記変化量が所定の基準値よりも大きくなるまで繰り返すフィードバック制御を行うことを特徴としている。
【0018】
これによれば、圧力の値の変化に対する赤外線の減衰量の変化量が所定の基準値以下となる場合には、変化量が所定の基準値よりも大きくなるまで、波長変換素子から出射される波長を変化させるフィードバック制御を行うので、より確実に、より適切な計測感度でのガス濃度の計測ができるように波長を変化させることが可能になる。
【0019】
また、請求項5のガス濃度計測装置では、前記調整部は、前記内燃機関の圧縮開始から燃焼開始までの燃焼前の期間、前記内燃機関の燃焼開始から燃焼終了までの燃焼後の期間、および前記内燃機関の圧縮開始から燃焼終了までの燃焼前から燃焼後にかけての期間のうちのいずれかの期間についての、前記圧力関連情報取得部で取得する前記圧力の値の変化に対する前記赤外線の減衰量の変化量をもとに、前記変化量が所定の基準値以下となる場合には、前記波長変換素子から出射される波長を前記波長変化部によって変化させる処理を、前記変化量が所定の基準値よりも大きくなるまで繰り返すフィードバック制御を行うことを特徴としている。
【0020】
これによれば、内燃機関の圧縮開始から燃焼開始までの燃焼前の期間、内燃機関の燃焼開始から燃焼終了までの燃焼後の期間、および内燃機関の圧縮開始から燃焼終了までの燃焼前から燃焼後にかけての期間のうちのいずれかの期間について、より確実に、より適切な計測感度でのガス濃度の計測ができるように波長を変化させることが可能になるので、計測したい期間に応じて、より確実に、より適切な計測感度でのガス濃度の計測ができるように波長を変化させることが可能になる。
【0021】
また、請求項6のガス濃度計測装置では、前記ガス濃度計測装置は、前記内燃機関の筒内の前記測定対象のガスの濃度を計測するものであって、前記圧力関連情報取得部は、前記圧力関連情報として前記内燃機関の筒内圧の値を取得することを特徴としている。
【0022】
この請求項6のように、ガス濃度計測装置が内燃機関の筒内の測定対象のガスの濃度を計測するものであって、圧力関連情報取得部が圧力関連情報として内燃機関の筒内圧の値を取得する態様としてもよい。
【0023】
また、請求項7のガス濃度計測装置では、前記圧力関連情報が示す条件ごとに、前記測定対象のガスにかかる圧力の値の変化に対する前記赤外線の減衰量の変化量が所定の基準値よりも大きくなる波長の赤外線を前記波長変化部を介して前記波長変換素子から出射させる場合の前記調整部の設定値が予め対応付けられた設定マップを格納する設定マップ格納部をさらに備え、前記調整部は、前記圧力関連情報取得部で取得した前記圧力関連情報をもとに前記設定マップを参照することによって得られる当該圧力関連情報に対応した前記設定値に従って、前記波長変換素子から出射される波長を前記波長変化部によって変化させることを特徴としている。
【0024】
これによれば、圧力関連情報取得部で取得した圧力関連情報をもとに設定マップを参照することによって、測定対象のガスにかかる圧力の値の変化に対する赤外線の減衰量の変化量が所定の基準値以下となる波長の赤外線を波長変化部を介して波長変換素子から出射させる場合の調整部の設定値を得て、この設定値に従って、波長変換素子から出射される波長を波長変化部によって変化させるので、より適切な計測感度でのガス濃度の計測ができるように波長を変化させることが可能になる。
【0025】
また、請求項8のガス濃度計測装置では、前記ガス濃度計測装置が前記内燃機関の筒内の前記測定対象のガスの濃度を計測するものである場合には、前記圧力関連情報は、前記内燃機関の筒内圧の値、前記内燃機関の機関回転速度、前記内燃機関の機関負荷の高さ、および前記内燃機関の温度のうちの少なくともいずれかであることを特徴としている。
【0026】
内燃機関の筒内圧の値の他にも、内燃機関の機関回転速度、内燃機関の機関負荷の高さ、および内燃機関の温度については、内燃機関の筒内の圧力に密接に関連した情報であるので、内燃機関の筒内圧の値、前記内燃機関の機関回転速度、前記内燃機関の機関負荷の高さ、および前記内燃機関の温度は、測定対象のガスにかかる圧力に関連する情報である圧力関連情報と言える。よって、これらの圧力関連情報のうちの少なくともいずれかをもとに、波長変換素子から出射される波長を波長変化部によって変化させれば、より多様な計測環境場においてより適切な計測感度でのガス濃度の計測を実現することが可能となる。従って、この請求項8のように、ガス濃度計測装置が内燃機関の筒内の測定対象のガスの濃度を計測するものである場合には、圧力関連情報として、内燃機関の筒内圧の値、および内燃機関の筒内の圧力に密接に関連した内燃機関の機関回転速度、内燃機関の機関負荷の高さ、ならびに内燃機関の温度のうちの少なくともいずれかを用いる態様としてもよい。
【0027】
また、請求項9のガス濃度計測装置では、前記波長変化部は、前記波長変換素子の温度を変更することによって前記波長変換素子から出射される波長を変化させることを特徴としている。
【0028】
この請求項9のように、波長変化部が波長変換素子の温度を変更することによって波長変換素子から出射される波長を変化させる態様としてもよい。
【0029】
また、請求項10のガス濃度計測装置では、前記波長変換素子は、非線形結晶であることを特徴としている。
【0030】
この請求項10のように、波長変換素子が非線形結晶である態様としてもよい。
【0031】
また、請求項11のガス濃度計測装置では、前記波長変化部は、非線形結晶である前記波長変換素子の温度を変更することによって前記波長変換素子から出射される波長を変化させる場合に、前記波長変換素子の温度を100℃以上に保って前記波長変換素子の温度を変更することを特徴としている。
【0032】
非線形結晶である波長変換素子の温度を100℃以上に保った状態で波長変換素子から赤外線を出射する場合には、波長がぶれにくく、出力も安定する。よって、請求項11の構成によれば、波長変換素子から出射される波長を変化させる場合に、波長がぶれにくくするとともに、出力を安定させることも可能になる。
【0033】
また、請求項12のガス濃度計測装置では、前記波長変換素子は、周期分極反転構造を有する非線形結晶であって、前記波長可変レーザは、前記周期分極反転構造を有する非線形結晶を用いた光パラメトリック発振によって前記波長変換を行うことを特徴としている。
【0034】
この請求項12のように、波長変換素子が、周期分極反転構造を有する非線形結晶であって、波長可変レーザが、周期分極反転構造を有する非線形結晶を用いた光パラメトリック発振によって波長変換を行う態様としてもよい。
【0035】
また、請求項13のガス濃度計測装置では、前記波長変化部は、前記周期分極反転構造を有する非線形結晶である前記波長変換素子の分極反転周期を変更することによって前記波長変換素子から出射される波長を変化させることを特徴としている。
【0036】
この請求項13のように、波長変化部が、周期分極反転構造を有する非線形結晶である波長変換素子の分極反転周期を変更することによって波長変換素子から出射される波長を変化させる態様としてもよい。
【0037】
また、請求項14のガス濃度計測装置では、前記波長変化部は、前記波長変換素子から出射される波長を前記測定対象のガスの吸収波長帯域内にて変化させることを特徴としている。
【0038】
測定対象のガスの吸収波長帯域を外れた波長でガス濃度の計測を行った場合には、赤外線の吸収が殆ど行われないので、ガス濃度の計測感度が低くなりすぎてガス濃度を計測できなくなる。これに対して、請求項14の構成によれば、測定対象のガスの吸収波長帯域内のいずれかにてガス濃度の計測が行われることになるので、測定対象のガスの吸収波長帯域を外れた波長でガス濃度の計測を行うことがなく、ガス濃度の計測感度が低くなりすぎてガス濃度を計測できなくなる事態が生じる可能性を低減することができる。
【0039】
また、請求項15のガス濃度計測装置では、前記測定対象のガスは、COガスであって、前記波長変化部は、前記波長変換素子から出射される波長を4.19μm以上、且つ、4.45μm以下の範囲内にて変化させることを特徴としている。
【0040】
COガスの赤外線吸収波長帯域のうち最も吸収の強い波長を含む(つまり、最も良好な波長帯域)波長帯域は、4.19〜4.45μmである。よって、請求項15の構成によれば、最も良好な赤外線吸収波長帯域の範囲内のいずれかにてCOガスのガス濃度の計測が行われることになるので、COガスのガス濃度の計測感度が低くなりすぎてガス濃度を計測できなくなる事態が生じる可能性をより低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】ガス濃度計測装置1の概略的な構成を示す図である。
【図2】(a)は、波長変換素子部14に含まれる波長変換素子14aの側面視を模式的に示した図であって、(b)は、波長変換素子部14に含まれる波長変換素子14aの上面視を模式的に示した図である。
【図3】波長変換素子14aの素子温度および波長変換素子14aの分極反転周期と波長変換素子14aから発振される波長との関係を示すグラフである。
【図4】ガスセル22a内のCOガス濃度と赤外光の透過率および吸収率との関係を模式的に示した図である。
【図5】(a)は、COガス濃度1%にて波長変換素子14aの素子温度を変化させることにより計測波長を変化させるとともに、ガス圧力を変更した際の赤外光の透過率を計測した結果を示すグラフであって、(b)は、COガス濃度5%にて波長変換素子14aの素子温度を変化させることにより計測波長を変化させるとともに、ガス圧力を変更した際の赤外光の透過率を計測した結果を示すグラフである。
【図6】(a)は、COガスの吸収スペクトルを示すグラフであって、(b)は、(a)のグラフの4.1〜4.4μmまでの波長に該当する部分を拡大した図である。
【図7】(a)は、エンジン21のサイクルにおける筒内圧の変化を示す図であって、(b)は、エンジン21のサイクルにおける赤外光の透過率の変化を示す図である。
【図8】主制御部28での調整関連処理のフローを示すフローチャートである。
【図9】内燃機関の機関負荷の高さと内燃機関の筒内の圧力との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1は、本発明が適用されたガス濃度計測装置1の概略的な構成を示す図である。図1に示すガス濃度計測装置1は、内燃機関の筒内の特定の成分ガスの濃度を測定するものであり、波長可変レーザ部11、反射鏡18、光チョッパー19、光ファイバ20、濃度検出部22、ディテクタ23、圧力センサ24、位置コントローラ26、温度コントローラ27、および主制御部28を含んでいる。また、本実施形態では、ガス濃度計測装置1は、車両用のエンジンの筒内の二酸化炭素(CO)ガスの濃度を測定するものとして以降の説明を続ける。
【0043】
波長可変レーザ部11は、後述する濃度検出部22のガスセル22a内に照射する赤外線の光源であって、ポンプレーザ12、レンズ13、波長変換素子部14、反射鏡15、ペルチェ素子16、および移動ステージ17を備えている。波長可変レーザ部11では、ポンプレーザ12から発生したポンプレーザ光がレンズ13によって集光されて、波長変換素子14a(図2(a)参照)を有する波長変換素子部14に入射し、波長変換素子部14でポンプレーザ光の波長変換を行って赤外線(以下、赤外光と呼ぶ)を出射する。そして、出射された赤外光は反射鏡15によって所望の方向に導かれる。よって、ポンプレーザ12、レンズ13、波長変換素子部14、および反射鏡15からなる構成が、請求項の赤外線光源および波長可変レーザに相当する。
【0044】
ここで、図2(a)および図2(b)を用いて、波長変換素子部14に含まれる波長変換素子14aの概略的な構成についての説明を行う。図2(a)は、波長変換素子部14に含まれる波長変換素子14aの側面視を模式的に示した図である。また、図2(b)は、波長変換素子部14に含まれる波長変換素子14aの上面視を模式的に示した図である。
【0045】
波長変換素子14aは、自発分極の方向を特定の領域毎に反転させた周期分極反転構造を有する非線形結晶(つまり、周期構造非線形光学結晶)であって、図2(a)に示すように、周期分極反転構造が一定の分極反転周期Λで並んでいる。そして、波長変換素子14aは、波長変換素子14aに入射されるポンプレーザ光の波長(λとする)をもとに、光パラメトリック発振によって、より周波数の低い2つの波長(λおよびλとする)を発振するように設けられている。なお、本実施形態では、λ2が赤外光の波長となるように波長変換素子14aが設けられている。また、波長変換素子部14では、図2(b)に示すように、異なる分極反転周期Λ〜Λを持つ複数の波長変換素子14aを水平方向に並べて設けている。なお、個々の波長変換素子14aについては周知の波長変換素子と同様のものを用いることができる。例えば、波長変換素子14aとしては、周期分極酸化マグネシウム添加ニオブ酸リチウム(PPMgLN)や周期分極ニオブ酸リチウム(PPLN)等を用いることが可能である。
【0046】
図1に戻って、ペルチェ素子16は、ペルチェ効果を利用して温度調整を行うことが可能な周知の熱電素子であって、波長変換素子14aの素子温度を調整することができるように、例えば波長変換素子14aに密着して設けられている。また、ペルチェ素子16は、後述する温度コントローラ27によって制御されて波長変換素子14aの素子温度の調整を行う。
【0047】
また、移動ステージ17は、例えばステッピングモータにより駆動されて、水平方向に移動可能となっている。また、移動ステージ17には、異なる分極反転周期Λ〜Λを持つ複数の波長変換素子14aが移動ステージ17の移動方向と直交する水平方向に並んで固定されている。そして、移動ステージ17を移動させることによって、異なる分極反転周期Λ〜Λを持つ複数の波長変換素子14aのうちのいずれかに選択的にポンプレーザ光が入射されるようになっている。つまり、移動ステージ17を移動させることによって、ポンプレーザ光が入射される波長変換素子14aの分極反転周期を変更できるようになっている。また、移動ステージ17は、後述する位置コントローラ26によって制御されて水平方向に移動する。
【0048】
ここで、図3を用いて、波長変換素子14aの素子温度および波長変換素子14aの分極反転周期と波長変換素子14aから発振される波長との関係についての説明を行う。図3は、波長変換素子14aの素子温度および波長変換素子14aの分極反転周期と波長変換素子14aから発振される波長との関係を示すグラフである。また、図3の縦軸は波長変換素子14aから発振される波長(つまり、発振波長)を示しており、横軸は波長変換素子14aの分極反転周期を示している。
【0049】
図3に示すように、波長変換素子14aから発振される波長λは、波長変換素子14aの分極反転周期が長いほど短くなる傾向にあるとともに、波長変換素子14aの素子温度が高くなるほど短くなる傾向にある。一方、波長変換素子14aから発振される波長λは、波長変換素子14aの分極反転周期が長いほど長くなる傾向にあるとともに、波長変換素子14aの素子温度が高くなるほど長くなる傾向にある。従って、波長変換素子14aの素子温度および波長変換素子14aの分極反転周期のうちの少なくともいずれかを変化させることによって波長変換素子14aから発振される波長の長さを細かく制御することが可能である。
【0050】
本発明の波長可変レーザ部11では、ペルチェ素子16によって波長変換素子14aの素子温度の調整を行うとともに、移動ステージ17を移動させてポンプレーザ光が入射される波長変換素子14aの分極反転周期を変更することによって、波長変換素子14aから発振される波長の長さを細かく制御することが可能となっている。よって、ペルチェ素子16および移動ステージ17は、請求項の波長変化部として機能する。
【0051】
図1に戻って、波長可変レーザ部11から出射された赤外光は、反射鏡18によって光チョッパー19へと導かれ、光チョッパー19によってパルス状の赤外光へと変換される。なお、本実施形態では、例えば図示しないバンドパスフィルタ(BPF)によって、波長変換素子14aから発振されるλおよびλの波長のうちのλを選択している。なお、この選択は、波長可変レーザ部11内で行う構成としてもよいし、波長可変レーザ部11外で行う構成としてもよい。
【0052】
続いて、光チョッパー19によって得られたパルス状の赤外光が、光ファイバ20へと導かれ、光ファイバ20を通して濃度検出部22のガスセル22aまで伝送される。濃度検出部22は、内燃機関である車両用のエンジン21に設けられており、濃度検出部22のガスセル22aの部分はエンジン21の筒内(以下、エンジン筒内と呼ぶ)に設けられている。濃度検出部22では、ガスセル22aに照射する(つまり、ガスセル22aに入射する)パルス状の赤外光(以下、入射赤外光I)の強度、ガスセル22aにて変化した赤外光(以下、透過赤外光I)の強度の情報が主制御部28に送られる。また、本実施形態では、ガスセル22aは、例えばエンジン21の点火プラグに1mm程度の孔を開けてエンジン筒内に差し込まれているものとする。これによれば、内燃機関に特殊な加工を行わずに済むため、手間を抑えることができる。
【0053】
ガスセル22aは、エンジン筒内に存在する測定対象のガスがガスセル22a内に導入されるようになっており、例えば不活性な金属等の物質で出来ている。よって、ガスセル22aは請求項のセルとして機能する。そして、ガスセル22a内まで伝送されたパルス状の赤外光(入射赤外光I)は、ガスセル22a内の測定対象のガスにより吸収され、減衰した赤外光である透過赤外光(つまり、透過赤外線)Iが光ファイバ20を通してディテクタ23で検出されることになる。なお、ガスセル22a内の圧力はエンジン筒内の圧力と実質的に同じになるように設けられている。ディテクタ23は、透過赤外光Iの強度を検出する装置である。よって、ディテクタ23は、請求項の検出器として機能する。
【0054】
ここで、図4を用いて、ガスセル22a内の測定対象のガスのガス濃度と赤外光の吸収量(吸収率)との関係についての説明を行う。図4は、ガスセル22a内のCOガス濃度と赤外光の透過率および吸収率との関係を模式的に示した図である。また、図4の縦軸は赤外光の透過率および吸収率の割合を示しており、横軸はガスセル22a内のCOガス濃度を示している。なお、赤外光の透過率(%)は、(入射赤外光Iの強度/透過赤外光Iの強度)×100の式で求めることができ、赤外光の吸収率(%)は、(100−透過率)の式によって求めることができる。図4に示すように、赤外光の透過率はガスセル22a内のCOガス濃度の増加に伴って減少する一方、赤外光の吸収率はガスセル22a内のCOガス濃度の増加に伴って増加する。
【0055】
また、圧力センサ24は、エンジン筒内の圧力を検知するセンサであって、エンジン筒内の圧力を順次検知してセンサ信号を主制御部28に送る。なお、圧力センサ24は、エンジン筒内の圧力を検知することによって、実質的にガスセル22a内の測定対象のガス(本例ではCOガス)にかかる圧力を検知する。
【0056】
さらに、エンジンECU25は、CPU、ROM、RAM、バックアップRAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成され、種々のセンサによって検出された検出値に基づいて各種の制御を行うものである。エンジンECU25は、エンジン21におけるクランク角の情報をクランク角センサから順次取得して保持しているものとする。
【0057】
位置コントローラ26は、主制御部28からの指示に従った量だけ移動ステージ17を駆動させるコントローラである。位置コントローラ26は、例えば主制御部28からの指示に従った量だけステッピングモータを駆動させることによって移動ステージ17を駆動させる。また、温度コントローラ27は、主制御部28からの指示に従ってペルチェ素子16に流す電流を変化させることによってペルチェ素子16で調整する温度を変化させるコントローラである。
【0058】
主制御部28は、通常のコンピュータとして構成されており、内部には周知のCPU、ROM、RAM、I/O及びこれらの構成を接続するバスライン(いずれも図示せず)が備えられている。主制御部28は、ディテクタ23、濃度検出部22、圧力センサ24、エンジンECU25から入力された各種情報に基づき、各種処理を実行する。
【0059】
例えば、主制御部28は、入射赤外光Iの強度の情報と透過赤外光Iの強度の情報とをもとに、(入射赤外光Iの強度/透過赤外光Iの強度)×100の式で表される演算を行って、赤外光の透過率(つまり、赤外線の減衰量)を算出する。また、主制御部28は、圧力センサ24から送られてくるセンサ信号をもとに、エンジン筒内の圧力(つまり、ガスセル22a内のCOガスにかかる圧力)の情報を得る。よって、主制御部28は、請求項の圧力関連情報取得部として機能する。さらに、主制御部28は、エンジンECU25からエンジン21におけるクランク角の情報を取得する。
【0060】
また、主制御部28は、算出した赤外光の透過率の値と、取得したエンジン筒内の圧力の値およびクランク角の値とをもとに、波長変換素子14aから出射される波長を変化させるか否かを判定したり、位置コントローラ26や温度コントローラ27に指示を行うことによって移動ステージ17やペルチェ素子16を働かせ、波長変換素子14aから出射される波長を変化させたりする調整関連処理を行う。よって、主制御部28は、請求項の調整部としても機能する。なお、調整関連処理の詳細については後述する。
【0061】
ここで、図5(a)および図5(b)を用いて、測定対象のガスの計測環境場の圧力の変化と測定対象のガスのガス濃度の計測感度との関係についての説明を行う。図5(a)は、COガス濃度1%にて波長変換素子14aの素子温度を変化させることにより計測波長を変化させるとともに、ガス圧力を変更した際の赤外光の透過率を計測した結果を示すグラフである。また、図5(b)は、COガス濃度5%にて波長変換素子14aの素子温度を変化させることにより計測波長を変化させるとともに、ガス圧力を変更した際の赤外光の透過率を計測した結果を示すグラフである。なお、図5(a)および図5(b)の縦軸は赤外光の透過率を示しており、横軸はガス圧力を示している。また、図5(a)および図5(b)のいずれにおいても、波長変換素子14aの素子温度を、60℃、70℃、80℃と変化させているものとする。
【0062】
図5(a)に示すように、COガス濃度1%の場合であって、素子温度が70℃、80℃の場合には、圧力変化に対して透過率の変化が小さく、さらに圧力変化によらず計測感度も小さいのに対し、素子温度が60℃の場合には、圧力変化に対して透過率の変化が大きく、ガス圧力が高いところでは計測感度も大きくなっていることが判る。一方、図5(b)に示すように、COガス濃度5%の場合であって、素子温度が80℃の場合には、COガス濃度1%の場合と同様に、圧力変化に対して透過率の変化が小さく、さらに圧力変化によらず計測感度も小さいが、素子温度が60℃の場合に至っては、ガス圧力約0.5MPa以降の透過率はほぼ0に飽和し、高圧側での計測が不可能になってしまう。また、COガス濃度1%の場合およびCOガス濃度5%の場合のいずれにおいても、素子温度が80℃の場合には、透過率自体が高くなり計測感度も非常に低くなるので、測定対象のガスのガス濃度の計測が困難になってしまう。
【0063】
以上のように、測定対象のガスの計測環境場の圧力の変化によっては、測定対象のガスのガス濃度の計測が困難や不可能となる状態(以下、測定不適合状態と呼ぶ)が生じるため、ガス濃度計測装置1では、これらの測定不適合状態が生じているか否かを主制御部28の調整関連処理において判断し、この判断に従って、波長変換素子14aから出射される波長を変化させるか否かの判定を行う。そして、主制御部28の調整関連処理において、測定不適合状態が生じていると判断し、波長変換素子14aから出射される波長を変化させる旨の判定が行われた場合には、主制御部28が位置コントローラ26や温度コントローラ27に指示を行うことによって移動ステージ17やペルチェ素子16を働かせ、波長変換素子14aから出射される波長を変化させる。
【0064】
続いて、図6(a)および図6(b)を用いて、入射赤外光Iの変化と測定対象のガスのガス濃度の計測感度との関係についての説明を行う。図6(a)は、COガスの吸収スペクトルを示すグラフである。また、図6(b)は、図6(a)のグラフの4.1〜4.4μmまでの波長に該当する部分を拡大した図である。なお、図6(a)および図6(b)の縦軸はCOガスの赤外光の吸収の度合いを示しており、横軸は波長を示している。
【0065】
図6(a)に示すように、吸収が最も強い波長帯は4.1〜4.4μmのあたり(詳しくは、4.19〜4.45μmの範囲内)にあり、図6(b)に示すように、その間でも波長によって吸収が異なることが分かる。また、吸収が異なると、計測感度も異なることになる。例えば、図6(b)中のλaおよびλbを比較すると、λaは吸収がλbよりも少ないためλbよりも計測感度が低くなり、λbは吸収がλaよりも多いためλaよりも計測感度が高くなる。このように、入射赤外光Iの波長を少し変化させるだけで、測定対象のガスのガス濃度の計測感度を変化させることができる。
【0066】
主制御部28では、前述したように、測定不適合状態が生じていると判断した場合に、波長変換素子14aから出射される波長を変化させるので、計測感度が低すぎたり、飽和していたりすることによって測定不適合状態が生じている場合に、判断波長変換素子14aから出射される波長を変化させることによって、低すぎる計測感度を上げたり、飽和した計測感度を下げたりすることが可能となっている。
【0067】
続いて、図7(a)および図7(b)を用いて、主制御部28の調整関連処理における、測定不適合状態が生じているか否かの判断についての説明を行う。図7(a)は、エンジン21のサイクルにおけるエンジン筒内の圧力(以下、筒内圧と呼ぶ)の変化を示す図である。また、図7(b)は、エンジン21のサイクルにおける赤外光の透過率の変化を示す図である。なお、図7(a)の縦軸は筒内圧を示しており、横軸はクランク角を示している。また、図7(b)の縦軸は赤外光の透過率を示しており、横軸はクランク角を示している。なお、図7(a)および図7(b)の横軸のBDCは下死点を示しており、TDCは上死点を示している。また、図7(a)および図7(b)のAで示す期間は、エンジン21における圧縮開始から燃焼開始までの燃焼前の期間を示しており、Bで示す期間は、エンジン21における燃焼開始から燃焼終了までの燃焼後の期間を示している。
【0068】
主制御部28では、圧力センサ24から順次送られるセンサ信号をもとに得た筒内圧とエンジンECU25から順次取得したクランク角の値とをもとに、図7(a)に示すように、所定のクランク角の位相変化ΔCKあたりの筒内圧の変化量ΔPを算出する。また、ガス濃度計測装置1の主制御部28では、濃度検出部22から順次送られてくる入射赤外光Iの強度の情報とディテクタ23から順次送られてくる透過赤外光Iの強度の情報をもとに算出した赤外光の透過率とエンジンECU25から順次取得したクランク角の値とをもとに、図7(b)中に示すように、ΔPを算出したのと同じクランク角の位相変化ΔCKあたりの赤外光の透過率の変化量ΔRtrsを算出する。そして、筒内圧の変化量に対する赤外光の透過率の変化量の比率(ΔRtrs/ΔP)を算出する。なお、所定のクランク角の位相変化ΔCKの量は任意に設定可能であり、所定のクランク角の位相変化ΔCKをとる期間については、測定対象のガスのガス濃度の計測を行いたい期間に応じて決定するものとする。例えば燃焼前のエンジン筒内のCOガス濃度を測定したい場合には、図7(a)および図7(b)中のAの期間(つまり、燃焼前までの期間)内に決定する。また、燃焼前から燃焼後にかけてのエンジン筒内のCOガス濃度を測定したい場合には、図7(a)および図7(b)中のAとBとを合わせた期間(つまり、燃焼前から燃焼後にかけての期間)内に決定する。また、燃焼後のエンジン筒内のCOガス濃度を測定したい場合には、図7(a)および図7(b)中のBの期間(つまり、燃焼後の期間)内に決定する。
【0069】
ここで、計測感度が低すぎる場合や計測感度が飽和してしまっている場合には、筒内圧の変化量に対して赤外光の透過率の変化量が非常に小さくなっているので、ΔRtrs/ΔPの値の大きさをもとに、測定不適合状態が生じているか否かを判断することができる。主制御部28では、算出したΔRtrs/ΔPの値を所定の基準値ΔRtrsminと比較し、ΔRtrs/ΔPの値がΔRtrsmin以下であった場合に、測定不適合状態が生じていると判断する。なお、所定の基準値ΔRtrsminの値は、任意に設定可能であって、例えば、様々なCOガス濃度、筒内圧、素子温度等の条件を振って予め行った実測やシミュレーション等によって、計測感度が低すぎる場合や計測感度が飽和してしまっている場合のΔRtrs/ΔPの値を求め、様々な条件下における計測感度が低すぎる場合や計測感度が飽和してしまっている場合のΔRtrs/ΔPの値の最大値と同程度であってこの最大値より大きい値を設定すればよい。これによれば、様々な条件下において、測定不適合状態が生じているか否かを所定の基準値ΔRtrsminの値を基準に判断することが可能になる。
【0070】
次に、図8を用いて、主制御部28での調整関連処理のフローについての説明を行う。図8は、主制御部28での調整関連処理のフローを示すフローチャートである。なお、本フローは、エンジン21が始動したときに開始される。
【0071】
まず、ステップS1では、情報取得処理を行って、ステップS2に移る。情報取得処理では、濃度検出部22から順次送られてくる入射赤外光Iの強度の情報、およびその入射赤外光Iについてディテクタ23から順次送られてくる透過赤外光Itの強度の情報を主制御部28が取得する。また、圧力センサ24から順次送られてくるセンサ信号をもとに、エンジン筒内の圧力の情報を主制御部28が得る。さらに、エンジンECU25からエンジン21におけるクランク角の情報を主制御部28が順次取得する。
【0072】
ステップS2では、情報取得処理で取得した情報をもとに、ΔRtrs/ΔPの式で示される演算を行って、筒内圧の変化量に対する赤外光の透過率の変化量の比率を算出し、ステップS3に移る。ステップS3では、ステップS2で算出したΔRtrs/ΔPの値と所定の基準値ΔRtrsminとを比較する。そして、ΔRtrs/ΔPの値が所定の基準値ΔRtrsminよりも大きかった場合(ステップS3でYes)には、ステップS1に戻ってフローを繰り返す。また、ΔRtrs/ΔPの値が所定の基準値ΔRtrsmin以下であった場合(ステップS3でNo)には、ステップS4に移る。
【0073】
ステップS4では、波長変化処理を行ってステップS1に戻り、フローを繰り返す。波長変化処理では、位置コントローラ26に主制御部28が指示を行うことによって移動ステージ17を駆動させ、分極反転周期を変更することによって、波長変換素子14aから出射される波長を変化させる。また、分極反転周期を変更することによって、波長変換素子14aから出射される波長を変化させた後に、本フローが繰り返されて再度ステップS4に処理が移った場合には、温度コントローラ27に主制御部28が指示を行うことによってペルチェ素子16を働かせ、波長変換素子14aの素子温度を変更することによって、波長変換素子14aから出射される波長を変化させる。なお、分極反転周期を変更する場合には、例えば分極反転周期Λ〜Λを1つずつ変更するものとし、素子温度を変更する場合には、素子温度を数℃〜十数℃程度ずつ変更するものとする。また、本フローは、エンジン21が停止したときに終了する。
【0074】
なお、本実施形態では、波長変換素子14aの分極反転周期と素子温度との両方を変更する構成を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば分極反転周期と素子温度とのうちのいずれかのみを変更する構成としてもよい。
【0075】
主制御部28での調整関連処理では、図8のフローでも示したように、ΔRtrs/ΔPの値が所定の基準値ΔRtrsmin以下であった場合には、波長変換素子14aの分極反転周期を変更することによって波長変換素子14aから出射される波長(以下、計測波長と呼ぶ)を大まかに変化させるとともに、波長変換素子14aの素子温度を変更することによって計測波長を細かく変化させる調整をΔRtrs/ΔPの値が所定の基準値ΔRtrsminよりも大きくなるまで繰り返すフィードバック制御を行うことによって、測定不適合状態がより生じにくい最適な計測波長に調整する。
【0076】
以上の構成によれば、ペルチェ素子16によって波長変換素子14aの素子温度を変更したり、移動ステージ17によって波長変換素子14aの分極反転周期を変更することによって、波長変換素子14aから出射される波長を変化させることができるので、複数の光検出素子を配列したり、光路長を変化させたりしなくてもガス濃度の計測感度を変更することができる。よって、エンジン筒内のガス濃度を計測する場合のように、装置の配置スペースが非常に限られている場合にも適用でき、より高い汎用性を有している。
【0077】
また、測定対象のガスにかかる圧力の値の変化に対する赤外線の減衰量の変化量が小さくなり過ぎている場合には、ガス濃度の計測が困難なほどに赤外線の減衰量が小さくなっていて感度が低すぎるか、ガス濃度の計測が困難なほどに赤外線の減衰量が大きく飽和していて感度が高すぎるかのいずれかの状態にある。以上の構成によれば、実測によって得られた圧力の値の変化に対する赤外線の減衰量の変化量(つまり、前述のΔRtrs/ΔPの値)が所定の基準値以下となる場合には、変化量が所定の基準値よりも大きくなるまで、波長変換素子14aから出射される波長を変化させるフィードバック制御を行うので、測定不適合状態がより生じにくい最適な計測波長に調整することが可能になる。
【0078】
その結果、より高い汎用性を有するとともに、より多様な計測環境場においてより適切な感度でのガス濃度の計測を実現することが可能になる。
【0079】
また、以上の構成によれば、内燃機関の圧縮開始から燃焼開始までの燃焼前の期間、内燃機関の燃焼開始から燃焼終了までの燃焼後の期間、および内燃機関の圧縮開始から燃焼終了までの燃焼前から燃焼後にかけての期間のうちのいずれかの期間について、より確実に、より適切な感度でのガス濃度の計測ができるように波長を変化させることが可能になるので、計測したい期間に応じて、より確実に、より適切な感度でのガス濃度の計測ができるように波長を変化させることが可能になる。
【0080】
なお、非線形結晶である波長変換素子14aの温度を100℃以上に保った状態で波長変換素子14aから赤外線を出射する場合には、波長がぶれにくく、出力も安定するので、ペルチェ素子16によって波長変換素子14aの温度を変更する場合に、波長変換素子14aの素子温度を100℃以上に保って変更することが好ましい。これによれば、波長変換素子14aから出射される波長を変化させる場合に、波長がぶれにくくするとともに、出力を安定させることも可能になる。
【0081】
また、測定対象のガスの吸収波長帯域を外れた波長でガス濃度の計測を行った場合には、赤外線の吸収が殆ど行われず、ガス濃度の計測感度が低くなりすぎてガス濃度を計測できなくなるので、波長変換素子14aから出射される波長を測定対象のガスの吸収波長帯域内にて変化させることが好ましい。これによれば、測定対象のガスの吸収波長帯域内のいずれかにてガス濃度の計測が行われることになるので、測定対象のガスの吸収波長帯域を外れた波長でガス濃度の計測を行うことがなく、ガス濃度の計測の感度が低くなりすぎてガス濃度を計測できなくなる事態が生じる可能性を低減することができる。
【0082】
さらに、COガスの赤外線吸収波長帯域のうち最も吸収の強い波長帯域(つまり、最も良好な波長帯域)は、4.19〜4.45μmの波長帯域であるので、測定対象のガスがCOガスである場合には、波長変換素子14aから出射される波長を4.19μm以上、且つ、4.45μm以下の範囲内にて変化させることが好ましい。これによれば、最も良好な赤外線吸収波長帯域の範囲内のいずれかにてCOガスのガス濃度の計測が行われることになるので、COガスのガス濃度の計測感度が低くなりすぎてガス濃度を計測できなくなる事態が生じる可能性をより低減することができる。
【0083】
なお、前述の実施形態では、ガス濃度計測装置1に反射鏡15および反射鏡18を含む構成を示したが、必ずしもこれに限らない。反射鏡15および反射鏡18は、赤外光を所望の方向に導くために設けられるものであるので、目的に応じて設ける数や位置を変更することが可能である。
【0084】
また、前述の実施形態では、実測した値に基づくフィードバック制御によって、測定不適合状態がより生じにくい最適な計測波長に調整する構成を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、測定対象のガスにかかる圧力に関連する情報である圧力関連情報としての内燃機関の運転条件(例えば、内燃機関の筒内圧の値、内燃機関の機関回転速度、内燃機関の機関負荷の高さ、内燃機関の温度等)の情報に対し、予め定められた波長変換素子14aから出射する波長の設定をマップとして持つことにより、内燃機関の運転条件に応じて波長変換素子14aから出射する波長を変更して、測定不適合状態がより生じにくい最適な計測波長に調整する構成としてもよい。
【0085】
例えば、以上のような構成とする場合には、ガス濃度計測装置1では、圧力関連情報が示す条件ごとに、ΔRtrs/ΔPの値が所定の基準値ΔRtrsminよりも大きくなる波長の赤外線をペルチェ素子16や移動ステージ17を働かせて波長変換素子14aから出射させる場合の、ペルチェ素子16に流す電流量や移動ステージ17の移動量の設定値が予め対応付けられた設定マップを主制御部28のEEPROM等のROMやRAMに格納しておけばよい。よって、主制御部28が請求項の設定マップ格納部として機能する。なお、設定マップを格納するメモリを主制御部28のROMやRAM等のメモリ以外のメモリとする構成としてもよい。また、主制御部28は、圧力センサ24のセンサ信号をもとに内燃機関の筒内圧の値を得たり、エンジンECU25から内燃機関の機関回転速度、内燃機関の機関負荷の高さ、内燃機関の温度等の情報を取得したりすればよい。そして、主制御部28は、取得したこれらの圧力関連情報をもとに上述の設定マップを参照することによって得られる当該圧力関連情報に対応した設定値に従って、位置コントローラ26や温度コントローラ27に指示を行って移動ステージ17やペルチェ素子16を働かせ、波長変換素子14aから出射される波長を、測定不適合状態がより生じにくい最適な計測波長に変化させる構成とすればよい。
【0086】
以上の構成によっても、より高い汎用性を有するとともに、より多様な計測環境場においてより適切な感度でのガス濃度の計測を実現することが可能になる。
【0087】
なお、前述の実施形態において、測定対象のガスにかかる圧力に関連する情報である圧力関連情報として、内燃機関の筒内圧の値、内燃機関の機関回転速度、内燃機関の機関負荷の高さ、内燃機関の温度を挙げたが、内燃機関の筒内圧の値の他にも、内燃機関の機関回転速度、内燃機関の機関負荷の高さ、および内燃機関の温度については、内燃機関の筒内の圧力に密接に関連した情報であるので、圧力関連情報と言える。
【0088】
一例として、図9を用いて、内燃機関の機関負荷の高さと内燃機関の筒内の圧力との関係を示す。なお、図9は、内燃機関の機関負荷の高さと内燃機関の筒内の圧力との関係を示す図である。また、図9の縦軸は内燃機関の筒内の圧力を示しており、横軸はクランク角を示している。なお、図9では、内燃機関の機関負荷の高さとして高負荷、中負荷、低負荷の3種類の場合の内燃機関の筒内の圧力を示している。図9に示すように、内燃機関の機関負荷の高さが高くなるほど内燃機関の筒内の圧力は高くなっており、内燃機関の筒内の圧力に密接に関連している。
【0089】
さらに、前述の設定マップでは、内燃機関の筒内圧の値、内燃機関の機関回転速度、内燃機関の機関負荷の高さ、および内燃機関の温度等の運転条件の情報のうちのいずれかの情報と設定値とが対応付けられている構成としてもよいし、複数ある運転条件の情報のうちのいくつかの組み合わせと設定値とが対応付けられている構成としてもよい。
【0090】
また、前述の実施形態では、測定対象のガスとしてCOガスを一例として挙げたが、必ずしもこれに限らず、COガス以外を測定対象のガスとして用いる構成としてもよい。
【0091】
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0092】
1 ガス濃度計測装置、11 波長可変レーザ部、12 ポンプレーザ(波長可変レーザ)、13 レンズ(波長可変レーザ)、14 波長変換素子部(波長可変レーザ)、14a 波長変換素子、15 反射鏡(波長可変レーザ)、16 ペルチェ素子(波長変化部)、17 移動ステージ(波長変化部)、18 反射鏡、19 光チョッパー、20 光ファイバ、21 エンジン(内燃機関)、22 濃度検出部、23 ディテクタ(検出器)、24 圧力センサ、25 エンジンECU、26 位置コントローラ、27 温度コントローラ、28 主制御部(圧力関連情報取得部、調整部、設定マップ格納部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象のガスが導入されるセルと、
前記セル内に照射する赤外線の光源である赤外線光源と、
前記セルから出射する透過赤外線の強度を検出する検出器と、を備え
前記セル内に照射する赤外線の強度と前記検出器で検出した透過赤外線の強度とから得られる赤外線の減衰量をもとに、前記測定対象のガスの濃度を計測するガス濃度計測装置であって、
前記赤外線光源として、波長変換を行う波長変換素子を有する波長可変レーザと、
前記波長可変レーザの波長変換素子に働きかけることによって、前記波長変換素子から出射される波長を変化させる波長変化部と、
前記測定対象のガスにかかる圧力に関連する情報である圧力関連情報を取得する圧力関連情報取得部と、
前記圧力関連情報取得部で取得した圧力関連情報をもとに、前記波長変換素子から出射される波長を前記波長変化部によって変化させる調整部と、を備えていることを特徴とするガス濃度計測装置。
【請求項2】
前記セルは、内燃機関の筒内に設けられるものであって、
前記ガス濃度計測装置は、前記内燃機関の筒内の前記測定対象のガスの濃度を計測するものであることを特徴とする請求項1に記載のガス濃度計測装置。
【請求項3】
前記圧力関連情報取得部は、前記圧力関連情報として前記測定対象のガスにかかる圧力の値を取得するとともに、
前記調整部は、前記圧力関連情報取得部で取得する前記圧力の値の変化に対する前記赤外線の減衰量の変化量をもとに、前記変化量が所定の基準値以下となる場合には、前記波長変換素子から出射される波長を前記波長変化部によって変化させることを特徴とする請求項1または2に記載のガス濃度計測装置。
【請求項4】
前記調整部は、前記圧力関連情報取得部で取得する前記圧力の値の変化に対する前記赤外線の減衰量の変化量をもとに、前記変化量が所定の基準値以下となる場合には、前記波長変換素子から出射される波長を前記波長変化部によって変化させる処理を、前記変化量が所定の基準値よりも大きくなるまで繰り返すフィードバック制御を行うことを特徴とする請求項3に記載のガス濃度計測装置。
【請求項5】
前記調整部は、前記内燃機関の圧縮開始から燃焼開始までの燃焼前の期間、前記内燃機関の燃焼開始から燃焼終了までの燃焼後の期間、および前記内燃機関の圧縮開始から燃焼終了までの燃焼前から燃焼後にかけての期間のうちのいずれかの期間についての、前記圧力関連情報取得部で取得する前記圧力の値の変化に対する前記赤外線の減衰量の変化量をもとに、
前記変化量が所定の基準値以下となる場合には、前記波長変換素子から出射される波長を前記波長変化部によって変化させる処理を、前記変化量が所定の基準値よりも大きくなるまで繰り返すフィードバック制御を行うことを特徴とする請求項4に記載のガス濃度計測装置。
【請求項6】
前記ガス濃度計測装置は、前記内燃機関の筒内の前記測定対象のガスの濃度を計測するものであって、
前記圧力関連情報取得部は、前記圧力関連情報として前記内燃機関の筒内圧の値を取得することを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載のガス濃度計測装置。
【請求項7】
前記圧力関連情報が示す条件ごとに、前記測定対象のガスにかかる圧力の値の変化に対する前記赤外線の減衰量の変化量が所定の基準値よりも大きくなる波長の赤外線を前記波長変化部を介して前記波長変換素子から出射させる場合の前記調整部の設定値が予め対応付けられた設定マップを格納する設定マップ格納部をさらに備え、
前記調整部は、前記圧力関連情報取得部で取得した前記圧力関連情報をもとに前記設定マップを参照することによって得られる当該圧力関連情報に対応した前記設定値に従って、前記波長変換素子から出射される波長を前記波長変化部によって変化させることを特徴とする請求項1または2に記載のガス濃度計測装置。
【請求項8】
前記ガス濃度計測装置が前記内燃機関の筒内の前記測定対象のガスの濃度を計測するものである場合には、
前記圧力関連情報は、前記内燃機関の筒内圧の値、前記内燃機関の機関回転速度、前記内燃機関の機関負荷の高さ、および前記内燃機関の温度のうちの少なくともいずれかであることを特徴とする請求項7に記載のガス濃度計測装置。
【請求項9】
前記波長変化部は、前記波長変換素子の温度を変更することによって前記波長変換素子から出射される波長を変化させることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のガス濃度計測装置。
【請求項10】
前記波長変換素子は、非線形結晶であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のガス濃度計測装置。
【請求項11】
前記波長変化部は、非線形結晶である前記波長変換素子の温度を変更することによって前記波長変換素子から出射される波長を変化させる場合に、前記波長変換素子の温度を100℃以上に保って前記波長変換素子の温度を変更することを特徴とする請求項10または10に記載のガス濃度計測装置。
【請求項12】
前記波長変換素子は、周期分極反転構造を有する非線形結晶であって、
前記波長可変レーザは、前記周期分極反転構造を有する非線形結晶を用いた光パラメトリック発振によって前記波長変換を行うことを特徴とする請求項10または11に記載のガス濃度計測装置。
【請求項13】
前記波長変化部は、前記周期分極反転構造を有する非線形結晶である前記波長変換素子の分極反転周期を変更することによって前記波長変換素子から出射される波長を変化させることを特徴とする請求項12に記載のガス濃度計測装置。
【請求項14】
前記波長変化部は、前記波長変換素子から出射される波長を前記測定対象のガスの吸収波長帯域内にて変化させることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載のガス濃度計測装置。
【請求項15】
前記測定対象のガスは、COガスであって、
前記波長変化部は、前記波長変換素子から出射される波長を4.19μm以上、且つ、4.45μm以下の範囲内にて変化させることを特徴とする請求項14に記載のガス濃度計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−21996(P2011−21996A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167130(P2009−167130)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【Fターム(参考)】