説明

ガス炉の点火制御方法および点火制御装置

【課題】ガス炉に配設されるバーナーの失火を簡便な手段で的確に検出するとともに、その失火したバーナーを特定することによって、短時間で点火操作を開始し、さらに燃焼が安定するまで監視できる点火制御方法および点火制御装置を提供する。
【解決手段】ラジアントチューブから排ガスを排出する排ガス配管にそれぞれガス採取装置7a〜7cを取付け、排ガス中のCO濃度を測定するCO濃度測定機6を1機設置して、通常の操業時には、ガス採取装置を一定周期で順次切替えて作動させて排ガスを採取しさらにCO濃度測定機へ送給してCO濃度を測定する一方、バーナー1の点火時には、点火するバーナーを内蔵するラジアントチューブの排ガス配管に取付けられたガス採取装置を点火終了まで作動させて排ガスを採取しさらにCO濃度測定機へ送給してCO濃度を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ガスを燃焼するバーナーとそれを内蔵するラジアントチューブからなる燃焼装置を配設した加熱炉(以下、ガス炉という)にてバーナーの点火を制御する方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼材の熱処理においては、鋼材の鋼種や用途に応じて加熱炉内の雰囲気を制御しつつ熱処理を行なう場合がある。そのような熱処理を行なう加熱炉では、炉内を昇温するためのバーナーの火炎が雰囲気に悪影響を及ぼすことを防止するために、バーナーを覆うラジアントチューブを配設して、バーナーと炉内雰囲気との接触を回避する。また、温度制御も重要であるから、容易に点火しかつ短時間で燃焼を安定させるために、燃料ガスを燃焼するバーナーを使用する。
【0003】
燃料ガスを燃焼するバーナーとそれを内蔵するラジアントチューブからなる燃焼装置を2個以上配設した加熱炉(すなわちガス炉)では、バーナーが失火すると、炉内の温度が不安定になるばかりでなく、COガスが発生して安全に関わる問題が発生する。したがってガス炉に配設される各バーナーを確実に点火し、かつ安定して燃焼させる必要がある。ところがバーナーはラジアントチューブで覆われているので、バーナーの火炎を直接監視することは困難である。
【0004】
そこで様々なセンサーを用いて、自動弁の開閉あるいは燃料ガスの圧力や流量等を検出することによって、バーナーの点火や燃焼の状態を監視する技術が広く採用されている。しかしそれらの技術は検出精度が必ずしも十分ではなく、バーナーが燃焼中に失火したときに的確な検出が困難である。
燃焼中に失火したバーナーの検出には、ラジアントチューブから排出される排ガス(すなわちラジアントチューブに内蔵されるバーナーの燃焼によって生じる排ガス)中のCO濃度を監視することが有効である。その理由は、失火する際の不完全燃焼によってCOが発生し、失火した後は燃料ガスに含有されるCOがラジアントチューブから排出されるからである。
【0005】
特許文献1には、ガス炉に配設される2個以上のラジアントチューブから排出される排ガスの集合管内でCO濃度を測定する技術が開示されている。しかしこの技術では、ガス炉に配設されるバーナーの中のいずれかが失火したことは分かるが、その失火したバーナーを特定することは不可能である。そのため、失火したバーナーを特定しさらに点火するまでに長時間を要する。
【0006】
特許文献2には、ラジアントチューブ毎にCO濃度測定機を配設して排ガス中のCO濃度を測定する技術が開示されている。この技術は、バーナーの失火を検出するとともにその失火したバーナーを特定することが可能である。しかし多数のCO濃度測定機が必要であるから、ガス炉の建設コストが上昇するばかりでなく、設備保全の負荷が増大する。たとえば、ガス炉の一例である連続焼鈍炉では、バーナーとラジアントチューブからなる燃焼装置が数百個に及ぶので、同数のCO濃度測定機が必要である。このような連続焼鈍炉に特許文献2の技術を適用することは経済的に不利である。
【特許文献1】特開平4-316919号公報
【特許文献2】特開2004-93123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ガス炉に配設されるバーナーの失火を簡便な手段で的確に検出するとともに、その失火したバーナーを特定することによって、短時間で点火操作を開始し、さらに燃焼が安定する(以下、点火終了という)まで継続して監視できる点火制御方法および点火制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、バーナーとそれを内蔵するラジアントチューブからなる燃焼装置を2個以上配設したガス炉にて、ラジアントチューブから排ガスを排出する排ガス配管にそれぞれガス採取装置を取付け、排ガス中のCO濃度を測定するCO濃度測定機を1機設置して、通常の操業時には、ガス採取装置を一定周期で順次切替えて作動させて排ガスを採取しさらにCO濃度測定機へ送給してCO濃度を測定する一方、バーナーの点火時には、点火するバーナーを内蔵するラジアントチューブの排ガス配管に取付けられたガス採取装置を点火終了まで作動させて排ガスを採取しさらにCO濃度測定機へ送給してCO濃度を測定するガス炉の点火制御方法である。
【0009】
本発明の点火制御方法においては、点火するバーナーが2個以上ある場合は、点火中のバーナーの点火終了まで他のバーナーを点火しないことが好ましい。
また本発明は、バーナーとそれを内蔵するラジアントチューブからなる燃焼装置を2個以上配設したガス炉の点火制御装置であって、ラジアントチューブから排ガスを排出する排ガス配管にそれぞれ取付けられるガス採取装置と、ガス採取装置を一定周期で順次切替えて作動させて排ガスを採取しさらにCO濃度測定機へ送給するガス採取切替え手段と、排ガス中のCO濃度を測定するCO濃度測定機を1機と、CO濃度の測定結果に基づいて失火の判定を行なう判定手段と、判定手段によって失火と判定された燃焼装置のバーナーの点火開始から点火終了まで切替え装置の作動を当該燃焼装置に固定して排ガスを採取しさらにCO濃度測定機へ送給するガス採取固定手段と、を有するガス炉の点火制御装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ガス炉に配設されるバーナーの失火を簡便な手段で的確に検出するとともに、その失火したバーナーを特定できる。その結果、短時間で点火操作を開始し、さらに燃焼が安定する(すなわち点火終了)までそのバーナーを監視できる。したがって通常の操業へ円滑に回復することが可能となり、燃焼装置のそれぞれにCO濃度測定機を設置するのに比べて経済的に多大な効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明を適用するガス炉の配管系統の例を示す配管図である。図1には3個の燃焼装置を配設する例を示したが、本発明は燃焼装置の数を3個に限定せず、2個以上の燃焼装置を配設したガス炉を対象とする。たとえば、数百個に及ぶ燃焼装置が配設される連続焼鈍炉等にも本発明を適用できる。以下、図1を参照して本発明を説明する。
図1に示すようにガス炉1には燃焼装置2a,2b,2cが配設されている。これらの燃焼装置は、それぞれ第1燃焼装置2a,第2燃焼装置2b,第3燃焼装置2cとし、いずれもバーナーとラジアントチューブからなる。各燃焼装置のバーナーには、それぞれ燃料ガス3と燃焼用空気4が供給される。一方、燃焼によって生じる排ガス5は、ラジアントチューブから排出され、集塵機(図示せず)等で環境汚染を防止する処理を施した後、放散される。
【0012】
第1燃焼装置2a,第2燃焼装置2b,第3燃焼装置2cの各ラジアントチューブから排ガスを排出する排ガス配管には、それぞれ第1ガス採取装置7a,第2ガス採取装置7b,第3ガス採取装置7cが取付けられる。これらの第1ガス採取装置7a,第2ガス採取装置7b,第3ガス採取装置7cで採取された排ガスは、CO濃度を測定するためにCO濃度測定機6へ送給される。本発明で使用するCO濃度測定機6は1機のみである。
【0013】
ガス炉1が通常の操業を行なっているときは、これらのガス採取装置を一定の周期で順次切替えて作動させる。つまり、まず第1ガス採取装置7aを作動させて、第1燃焼装置2aのラジアントチューブから排出される排ガスを採取してCO濃度測定機6へ送給する。次に第1ガス採取装置7aを停止し、第2ガス採取装置7bを作動させて、第2燃焼装置2bのラジアントチューブから排出される排ガスを採取してCO濃度測定機6へ送給する。次に第2ガス採取装置7bを停止し、第3ガス採取装置7cを作動させて、第3燃焼装置2cのラジアントチューブから排出される排ガスを採取してCO濃度測定機6へ送給する。次に第3ガス採取装置7cを停止し、第1ガス採取装置7aを作動させる。
【0014】
このようにしてガス採取装置の切替えを一定の周期で繰り返し行なうことによって、1機のCO濃度測定機6で、第1燃焼装置2a,第2燃焼装置2b,第3燃焼装置2cの排ガスのCO濃度を順次測定することが可能となる。
そしてCO濃度に異常が発生すれば、該当する燃焼装置のバーナーが失火したと判定する。さらに、作動させるガス採取装置を固定(つまりガス採取装置の切替えを停止)して、該当する燃焼装置の排ガスのみをCO濃度測定機6へ送給する。
【0015】
次いで、該当する燃焼装置のラジアントチューブの内部を不活性ガス9(たとえばN2ガス等)でパージし、パイロットバーナー等を介してバーナーに点火する。バーナーの点火の際に不活性ガス9でラジアントチューブの内部をパージするのは、充満したガスの爆発を防止するためである。
バーナーが点火した後、燃焼が安定する(すなわち点火終了)までCO濃度の測定を継続する。CO濃度の測定値が所定の条件を満たして点火終了と判定されると、ガス採取装置の固定を解除して、ガス採取装置の切替えを再開する。
【0016】
失火したバーナーが1個の場合は、上記のようにしてそのバーナーを特定し、さらに点火することができる。
2個以上のバーナーが失火したときは、同時に複数個のバーナーを点火せず、1個ずつ点火することが好ましい。つまり失火したバーナーの中から1個を選択し、そのバーナーを上記の手順で点火しさらに点火終了と判定された後で、次のバーナーを点火する。このようにすれば、2個以上のバーナーが失火した場合にも1機のCO濃度測定機6で対応することが可能となる。
【0017】
以上のようにして、ガス炉に配設されるバーナーの失火を簡便な手段で的確に検出するとともに、その失火したバーナーを特定できる。その結果、短時間で点火操作を開始し、さらに通常の操業へ円滑に回復できる。したがって本発明の点火制御方法を採用すれば経済的に多大な効果が得られる。
【実施例】
【0018】
ガス炉として連続焼鈍炉の操業にて、失火したバーナーの点火制御に本発明を適用した。たとえば、その連続焼鈍炉には3個の燃焼装置が配設された例として、ここでは図1を参照して説明する。
図1に示すようにガス炉1(すなわち連続焼鈍炉)には第1燃焼装置2a,第2燃焼装置2b,第3燃焼装置2cが配設されており、いずれもバーナーとラジアントチューブからなる。各燃焼装置のバーナーには、それぞれ燃料ガス3と燃焼用空気4を供給した。一方、燃焼によって生じる排ガス5は、ラジアントチューブから排出し、集塵機(図示せず)等で環境汚染を防止する処理を施した後、煙突8から放散した。
【0019】
第1燃焼装置2a,第2燃焼装置2b,第3燃焼装置2cの各ラジアントチューブから排ガスを排出する排ガス配管には、それぞれ第1ガス採取装置7a,第2ガス採取装置7b,第3ガス採取装置7cを取付けた。これらの第1ガス採取装置7a,第2ガス採取装置7b,第3ガス採取装置7cで採取された排ガスを、CO濃度を測定するためにCO濃度測定機6へ送給した。使用したCO濃度測定機6は1機のみである。
【0020】
連続焼鈍炉が通常の操業を行なっているときは、これらのガス採取装置を一定の周期で順次切替えて作動させた。つまり、まず第1ガス採取装置7aを作動させて、第1燃焼装置2aのラジアントチューブから排出される排ガスを採取してCO濃度測定機6へ送給した。次に第1ガス採取装置7aを停止し、第2ガス採取装置7bを作動させて、第2燃焼装置2bのラジアントチューブから排出される排ガスを採取してCO濃度測定機6へ送給した。次に第2ガス採取装置7bを停止し、第3ガス採取装置7cを作動させて、第3燃焼装置2cのラジアントチューブから排出される排ガスを採取してCO濃度測定機6へ送給した。次に第3ガス採取装置7cを停止し、第1ガス採取装置7aを作動させた。
【0021】
このようにしてガス採取装置の切替えを一定の周期で繰り返し行なうことによって、1機のCO濃度測定機6で、第1燃焼装置2a,第2燃焼装置2b,第3燃焼装置2cの排ガスのCO濃度を順次測定した。そしてCO濃度に異常が発生すれば、該当する燃焼装置のバーナーが失火したと判定した。ここでは第1燃焼装置2aのバーナー(以下、第1バーナーという)が失火した例について、図2を参照して説明する。
【0022】
第1バーナーが失火した場合は、図2に示す点火対象は第1バーナーである。そこで第1バーナーについて、パイロットバーナーの点火等の条件が満たされていることを確認した。次いでガス採取装置の切替えを停止し、作動させるガス採取装置を第1ガス採取装置7aに固定して、第1燃焼装置2aのラジアントチューブ(以下、第1ラジアントチューブという)から排出される排ガスをCO濃度測定機6へ送給した。
【0023】
次に、第1ラジアントチューブの内部を不活性ガス9(すなわちN2ガス)でパージし、パイロットバーナーを用いて第1バーナーに点火した。
バーナーが点火した後、燃焼が安定する(すなわち点火終了)まで第1燃焼装置2aの排ガスのCO濃度の測定を継続した。CO濃度の測定値が所定の条件を満たして点火終了と判定されると、第1ガス採取装置7aの固定を解除して、ガス採取装置の切替えを再開した。
【0024】
以上を発明例とする。
一方、比較例として、第1燃焼装置2a,第2燃焼装置2b,第3燃焼装置2cのそれぞれに1機ずつCO濃度測定機を備えたガス炉を用い、図3に示す手順で点火制御を行なった。つまり、図4に示す通り、常時、第1ガス採取装置7a,第2ガス採取装置7b,第3ガス採取装置7cのそれぞれから、第1燃焼装置2a,第2燃焼装置2b,第3燃焼装置2cのそれぞれの排ガスをそれぞれ専用のCO濃度測定機6a,6b,6cへ順次送給した。その他の手順は発明例と同一であるから説明を省略する。
【0025】
発明例と比較例の点火制御方法を採用して、それぞれ1ケ月ずつ連続焼鈍炉を操業して、点火不良や燃焼不良に起因する緊急遮断の回数を調査した。その結果、発明例,比較例のいずれにおいても緊急遮断は皆無であり、発明例では設備コストを大幅に削減することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明を適用するガス炉の配管系統の例を示す配管図である。
【図2】本発明の点火制御方法の例を示すフロー図である。
【図3】比較のために行なった点火制御方法を示すフロー図である。
【図4】比較例のガス炉の配管系統を示す配管図である。
【符号の説明】
【0027】
1 ガス炉
2a 第1燃焼装置
2b 第2燃焼装置
2c 第3燃焼装置
3 燃料ガス
4 燃焼用空気
5 排ガス
6 CO濃度測定機
6a CO濃度測定機
6b CO濃度測定機
6c CO濃度測定機
7a 第1ガス採取装置
7b 第2ガス採取装置
7c 第3ガス採取装置
8 煙突
9 不活性ガス


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バーナーとそれを内蔵するラジアントチューブからなる燃焼装置を2個以上配設したガス炉にて、前記ラジアントチューブから排ガスを排出する排ガス配管にそれぞれガス採取装置を取付け、前記排ガス中のCO濃度を測定するCO濃度測定機を1機設置して、通常の操業時には、前記ガス採取装置を一定周期で順次切替えて作動させて排ガスを採取しさらに前記CO濃度測定機へ送給してCO濃度を測定する一方、バーナーの点火時には、点火するバーナーを内蔵するラジアントチューブの排ガス配管に取付けられたガス採取装置を点火終了まで作動させて排ガスを採取しさらに前記CO濃度測定機へ送給してCO濃度を測定することを特徴とするガス炉の点火制御方法。
【請求項2】
前記点火するバーナーが2個以上ある場合は、点火中のバーナーの点火終了まで他のバーナーを点火しないことを特徴とする請求項1に記載のガス炉の点火制御方法。
【請求項3】
バーナーとそれを内蔵するラジアントチューブからなる燃焼装置を2個以上配設したガス炉の点火制御装置であって、前記ラジアントチューブから排ガスを排出する排ガス配管にそれぞれ取付けられるガス採取装置と、前記ガス採取装置を一定周期で順次切替えて作動させて排ガスを採取しさらに前記CO濃度測定機へ送給するガス採取切替え手段と、前記排ガス中のCO濃度を測定するCO濃度測定機を1機と、前記CO濃度の測定結果に基づいて失火の判定を行なう判定手段と、前記判定手段によって失火と判定された燃焼装置のバーナーの点火開始から点火終了まで前記切替え装置の作動を当該燃焼装置に固定して排ガスを採取しさらに前記CO濃度測定機へ送給するガス採取固定手段と、を有することを特徴とするガス炉の点火制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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