説明

ガス絶縁用注型絶縁物およびその注型方法

【課題】 ガス絶縁用注型絶縁物のガスシール特性を向上させる。
【解決手段】 主回路の中心導体1と、前記中心導体1の周りに注型により形成された絶縁層2と、前記絶縁層2の表面に前記中心導体1と所定の絶縁特性を有して形成された接地層3と、前記接地層3の表面に形成されたガスシール用被膜4と、前記ガスシール用被膜4に密着されるガスシール部材6とを具備し、前記ガスシール用被膜4は、少なくとも前記ガスシール部材6が密着される面に形成されていることを特徴とし、ガスシール特性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス絶縁機器に用いられるガス絶縁用注型絶縁物に係り、特にガスシール特性を向上し得るガス絶縁用注型絶縁物およびその注型方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂で注型された絶縁物は、優れた電気的、機械的特性を有し、SFガスのような絶縁ガスを封入した開閉器などのガス絶縁機器に広く使用されている。このガス絶縁用注型絶縁物としては、主回路導体を支持、絶縁するとともに、隣接するガス室間をガスシールするガス絶縁スペーサなどが挙げられる。
【0003】
従来のこの種のガス絶縁用注型絶縁物は、絶縁ガスが放電によって分解してフッ化水素などの分解生成物を生成するため、この分解生成物に耐え得るように、絶縁物表面に被膜を形成させる技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、ガス絶縁用注型絶縁物の接地側の表面には、銀塗料などの導電性塗料を塗布した接地層が設けられ、電界緩和が施されているものが知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平11−260173号公報 (第2〜3ページ、図1)
【特許文献2】特開平7−230731号公報 (第4ページ、図8)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の従来のガス絶縁用注型絶縁物においては、次のような問題がある。
導電性塗料を塗布して接地層を形成したガス絶縁スペーサのようなガス絶縁用注型絶縁物では、接地層の塗装状態によっては塗膜の表面が凸凹状となり易く、ガスシール特性が低下することがある。ガスシール特性が低下すると、封入した絶縁ガスが漏れ出し、圧力が低下してガス絶縁機器の運転を継続することが困難となる。このため、接地層を設けるガス絶縁用注型絶縁物において、ガスシール特性を向上させることが望まれていた。
【0006】
なお、絶縁物の表面に被膜を形成したガス絶縁用注型絶縁物では、分解生成物に耐え得るようになるものの、ガスシール特性を向上させるものではなかった。
【0007】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、ガスシール特性を向上し得るガス絶縁用注型絶縁物およびその注型方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のガス絶縁用注型絶縁物は、主回路の中心導体と、前記中心導体の周りに注型により形成された絶縁層と、前記絶縁層の表面に前記中心導体と所定の絶縁特性を有して形成された接地層と、前記接地層の表面に形成されたガスシール用被膜と、前記ガスシール用被膜に密着されるガスシール部材とを具備し、前記ガスシール用被膜は、少なくとも前記ガスシール部材が密着される面に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、絶縁層の表面に接地層を形成したガス絶縁用注型絶縁物において、気密面を伴う接地層の表面にガスシール用被膜を設け、このガスシール用被膜とOリングとを密着するようにしているので、密着性が向上し、ガスシール特性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0011】
先ず、本発明の実施例1に係るガス絶縁用注型絶縁物を図1乃至図4を参照して説明する。図1は、本発明の実施例1に係るガス絶縁スペーサの構成を示す半断面図、図2は、本発明の実施例1に係るガス絶縁スペーサの構成を示す要部拡大断面図、図3は、本発明の実施例1に係るガス絶縁スペーサの注型方法を示すフローチャート図、図4は、本発明の実施例1に係るガス絶縁スペーサのガスシール特性を示す図である。なお、ガス絶縁用注型絶縁物をガス−ガスシールを行なうガス絶縁スペーサを用いて説明する。
【0012】
図1に示すように、ガス絶縁スペーサは、主回路の丸棒状の中心導体1の周りにエポキシ樹脂を注型して円盤状の絶縁層2を形成し、構成されたものである。中心導体1の軸方向と直交する方向の絶縁層2の外周部には、円板状に突出したフランジ部2aが形成されている。また、フランジ部2aの両側には、電界緩和のための環状の湾曲部2bがそれぞれ設けられている。
【0013】
これらフランジ部2a、湾曲部2bの表面には、図2に示すように、銀塗料やカーボン塗料などの導電性塗料を例えばハケ塗りして形成させた接地層3が設けられている。更に、接地層3の表面には、ビスフェノール系エポキシ樹脂(ワニス)を例えばハケ塗りして形成させた薄いガスシール用被膜4が設けられている。
【0014】
なお、図1に示すように、フランジ部2aは、接地層3などが設けられていない絶縁層2部分が貫通できる程度の開口部が設けられた隔壁5に固定されるようになっている。隔壁5の開口部外周には、Oリング6が装着され、押え板7をボルト8で締付けることにより、Oリング6が圧縮され、フランジ部2aを境として図示上下方向のガスシールが行なえるようになっている。これにより、ガス絶縁スペーサでガス区分することができる。また、中心導体1の両端には、雌ネジ1aが設けられ、図示しない電気機器が接続されるようになっている。
【0015】
ここで、隔壁5と対向するフランジ部2aの一側面が、ガス絶縁スペーサの気密面となる。この気密面には、ガスシール用被膜4が設けられ、Oリング6が密着されるようになっている。また、押え板7が当接する他側面には、ガスシール用被膜4を設けておらず、押え板7と接地層3とを接触させ、電位固定が行なわれるようになっている。これら接地層3と中心導体1間は、ガス絶縁スペーサに課せられた所定の電圧に耐え得るような絶縁特性を有している。
【0016】
次に、このようなガス絶縁スペーサの注型方法を図3を参照して説明する。
【0017】
図3に示すように、先ず、金型にエポキシ樹脂を注入し(st1)、加熱硬化させる。硬化後、離型し(st2)、加熱炉内で二次硬化させる(st3)(st1〜3、注型工程)。次に、フランジ部2a、湾曲部2bをサンドブラスト処理する(st4)。ここで、サンドブラスト処理した気密面をホーニング処理して研磨してもよい。
【0018】
そして、サンドブラスト処理した面に例えばハケ塗りにより導電性塗料を塗布し(st5)、加熱炉内で加熱硬化させる(st6)。これにより、接地層3が形成される(st4〜6、接地層形成工程)。ここで、硬化した接地層3を例えば#500のサンドペーパーで研磨してもよい。その後、液状のビスフェノール系エポキシ樹脂(ワニス)を例えばハケ塗りし(st7)、加熱炉内で加熱硬化させる(st8)(st7、8、ガスシール用被膜形成工程)。ここで、液状のビスフェノール系エポキシ樹脂は、粘度約1Pa.sのものを1〜3回重ね塗りすれば、後述するガスシール用被膜4の厚さを所定値にすることができる。このような工程により、ガスシール用被膜4が形成されたガス絶縁スペーサを製造することができる。
【0019】
次に、ガスシール用被膜4の厚さによるガスリーク特性を図4を参照して説明する。
【0020】
ガスリーク特性は、隔壁5を境として、ガス絶縁スペーサの一方面にSFガスのような絶縁ガス(感度を向上させるために、ヘリウムガスを用いてもよい)を略大気圧封入し、他方面を真空にして、真空側に漏れ出す絶縁ガスをガス検出器で測定することで調べた。なお、Oリング6は、硬度約70のニトリルゴムを用いたが、ブチルゴム、シリコンゴムなどを用いることができる。
【0021】
結果を図4に示すように、ガスシール用被膜4の厚さが7、10、12μmでは、ガスリーク量は所定値の例えば1×10−9Pa.m/s以下であった。しかしながら、厚さ5μmと15μmでは、所定値を上回って、リークした絶縁ガスが検出された。これは、厚さ5μm以下では、ガスシール用被膜4の厚さが薄く、Oリング6との密着性が損なわれるものと考えられる。また、15μm以上では、厚さが大きく、Oリング6を圧縮したときの反発力によりガスシール用被膜4が変形し易くなるものと考えられる。
【0022】
これらのことから、ガスシール用被膜4は厚さ7〜12μmにおいて、Oリング6との密着性がよく、ガスシール特性を向上させることができる。なお、Oリング6の硬度が変化すると、最適な厚さの範囲も変化することが想定できる。このため、ガスシール用被膜4の厚さを中心値に近い約10μmとすれば、Oリング6の硬度が70を前後したものでもガスシール特性を向上させることができる。
【0023】
ここで、Oリング6は、フランジ部2aのガスシールを行なうものであり、ガスシール部材と定義する。このため、少なくともガスシール部材と密着する部分のガスシール用被膜4の厚さを、7〜12μmとすれば、ガスシール特性を向上させることができる。
【0024】
また、ガスシール用被膜4により、接地層3を異物の接触などの機械的な衝撃から保護をすることができる。
【0025】
上記実施例1のガス絶縁スペーサによれば、ガス−ガスシールを行なう気密面に、接地層3を設け、更に接地層3の表面にガスシール用被膜4を設けているので、Oリング6との密着性が向上し、ガスシール特性を向上させることができる。
【実施例2】
【0026】
次に、本発明の実施例2に係るガス絶縁用注型絶縁物を図5を参照して説明する。図5は、本発明の実施例2に係るガス絶縁T形ブッシングの構成を示す半断面図である。なお、この実施例2が実施例1と異なる点は、気密面が気中−ガスシールを行なうものである。図5において、実施例1と同様の構成部分においては、同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0027】
図5に示すように、気中−ガスシールを行なうガス絶縁用注型絶縁物のガス絶縁T形ブッシングは、T字状の中心導体11の周りにエポキシ樹脂を注型してT字状の絶縁層12を形成し、構成されたものである。T字状の絶縁層12の図示上部の頭部分には、テーパ状の開口部12aが設けられ、図示しない絶縁母線が接続されるようになっている。また、図示下部の柄部分は、テーパ状に形成され、露出した中心導体12端部に設けられた雌ネジ11aにより、図示しない電気機器が接続されるようになっている。
【0028】
T字状の絶縁層12の図示中間部のつけ根部分には、電界緩和のための環状の湾曲部12b、および湾曲部12bに連接した平滑面部12cが設けられている。これら平滑面部12c、湾曲部12bには、実施例1と同様に、接地層3およびガスシール用被膜4が設けられている。ガスシール用被膜4を設けた平滑面部12cが、ガス絶縁T形ブッシングの気密面となる。
【0029】
なお、平滑面部12cは、接地層3などが設けられていない絶縁層12部分が貫通できる開口部が設けられた気中−ガス区分される隔壁5(ガス絶縁機器の箱体の外壁に相当)に固定されるようになっている。即ち、隔壁5を境として、図示上部が気中となり、図示下部がガス中となる。隔壁5には、Oリング6が装着され、圧縮されることにより、平滑面部12cを境として図示上下方向のガスシールが行なえるようになっている。
【0030】
これにより、実施例1と同様に、ガスシール特性を向上させることができる。また、気中側のガスシール用被膜4においては、接地層3の酸化防止を図ることができる。
【0031】
上記実施例2のガス絶縁T形ブッシングによれば、実施例1の効果と同様に、ガスシール特性を向上させることができる。
【0032】
なお、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々変形して実施することができる。上記実施例では、ガスシール部材をOリング6を用いて説明したが、ガスケットなどのシール材を用いることができる。これらシール材も、ここではガスシール部材と定義する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施例1に係るガス絶縁スペーサの構成を示す半断面図。
【図2】本発明の実施例1に係るガス絶縁スペーサの構成を示す要部拡大断面図。
【図3】本発明の実施例1に係るガス絶縁スペーサの注型方法を示すフローチャート図。
【図4】本発明の実施例1に係るガス絶縁スペーサのガスシール特性を示す図。
【図5】本発明の実施例2に係るガス絶縁T形ブッシングの構成を示す半断面図。
【符号の説明】
【0034】
1、11 中心導体
1a、11a 雌ネジ
2、12 絶縁層
2a フランジ部
2b、12b 湾曲部
3 接地層
4 ガスシール用被膜
5 隔壁
6 Oリング
7 押え板
8 ボルト
12a 開口部
12c 平滑面部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
主回路の中心導体と、
前記中心導体の周りに注型により形成された絶縁層と、
前記絶縁層の表面に前記中心導体と所定の絶縁特性を有して形成された接地層と、
前記接地層の表面に形成されたガスシール用被膜と、
前記ガスシール用被膜に密着されるガスシール部材とを具備し、
前記ガスシール用被膜は、少なくとも前記ガスシール部材が密着される面に形成されていることを特徴とするガス絶縁用注型絶縁物。
【請求項2】
前記ガスシール被膜の厚さを、7〜12μmとしたことを特徴とする請求項1に記載のガス絶縁用注型絶縁物。
【請求項3】
前記ガスシール部材は、硬度70を有するOリングであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガス絶縁用注型絶縁物。
【請求項4】
中心導体を埋め込んだ絶縁物を注型する注型工程と、
前記中心導体と所定の絶縁特性を有して前記絶縁物の表面に接地層を形成する接地層形成工程と、
前記接地層の表面に厚さ7〜12μmのガスシール用被膜を形成するガスシール用被膜形成工程とを具備したことを特徴とするガス絶縁用注型絶縁物の注型方法。
【請求項5】
前記ガスシール用被膜は、粘度1Pa.sの液状のビスフェノールエポキシ樹脂を塗布して形成することを特徴とする請求項4に記載のガス絶縁用注型絶縁物の注型方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−207603(P2007−207603A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−25783(P2006−25783)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】