説明

ガス絶縁電力機器及びその異常検出方法

【課題】内部の異常を高精度に検出する。
【解決手段】絶縁ガス1が封入された接地タンク2内に導体3を電気的に絶縁した状態で収容すると共に、接地タンク2内で発生した絶縁ガス1の分解ガスを吸着材4によって吸着除去するガス絶縁電力機器であって、吸着材4を接地タンク2とは別の密閉容器5に収容すると共に、密閉容器5を接地タンク2に接続して密閉容器5内と接地タンク2内とを連通させ、接地タンク2から吸着材4に至るまでの間の連通路に、分解ガスとの接触によって変色する薬剤35と、外部からの薬剤35の視認を可能にす覗き部38を備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばSFガスやSFガスを含む混合ガス等を主絶縁媒体あるいはアーク消弧媒体等として用いたガス絶縁電力機器、例えば、ガス絶縁開閉装置(GIS)、ガス遮断器(GCB)、キュービクル形ガス開閉装置(C−GIS)、ガス絶縁変圧器、管路気中ガス絶縁送電線路(GIL)などのガス絶縁電力機器、及びその異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス絶縁電力機器は大気圧以上の絶縁ガスを絶縁媒体に使用するため、電気回路となる高電圧中心導体(主回路)を固体支持絶縁物(スペーサ)とともに金属製の接地タンク(機器外被)内に格納し、密閉構造を成している。そのため、外部環境の影響を受けない、機器のコンパクト化を図れる、保守面で安全であるなど種々の利点を有し、わが国では極めて多用されている。反面、機器外部からは内部の状態を監視しにくく、万一、主回路の導通や機器絶縁に異常が発生しても、その異常を検出しにくいとの問題がある。そこで、機器の内部の状態、特に絶縁性能を外部から検出する技術の開発が強く求められている。
【0003】
例えば、ガス絶縁開閉装置内でコロナ放電が発生すると電磁波が放射されることから、この電磁波を受信することでコロナ放電を検出する絶縁異常検出装置がある(特開平01−235865号公報)。この絶縁異常検出装置では、コロナ放電により生じる電磁波に対して受信感度が高い位置にコロナ放電検出用アンテナを配置すると共に、コロナ放電により生じる電磁波に対して受信感度が十分低い位置にノイズ検出用アンテナを配置し、コロナ放電検出用アンテナで受信された信号とノイズ検出用アンテナで受信された信号の差をとることにより、コロナ放電信号のみを取り出し異常を検出している。
【0004】
また、異常に起因した音を検出する部分放電検出装置がある(特開平5−45402号公報)。この部分放電検出装置では、電気機器を収容する密閉容器にAE(アコースティック・エミッション)センサを取り付け、AEセンサの出力をバンドパスフィルタ、プリアンプに入力している。AEセンサは、部分放電により発生するAE波の周波数スペクトルの強度が最大となる周波数に共振する特性を有しており、部分放電発生時に生じる音波を電気信号に変換する。この電気信号のうちAEセンサの共振周波数を中心としてプリアンプの内部雑音が最小となる周波数領域の電気信号だけをバンドパスフィルタで通過させ、外部からのノイズを除去して部分放電を検出するようにしている。
【0005】
さらに、通電異常や絶縁異常に伴う部分放電あるいはアーク放電によってSFガスから分解生成された各種の派生ガス(以下、分解ガスという)を化学的に検出する放電検出装置がある(特開昭50−129938号公報)。この放電検出装置では、SFを充満させたガス絶縁電気装置の密封容器の内部に、分解ガスと反応して抵抗値が低下するガラスエポキシ積層基板からなる検出素子を配置し、検出素子の抵抗値を監視する。放電が発生すると、SFが分解して活性ガスが生成され、検出素子がSF分解生成ガスと反応するため、検出素子の抵抗値の低下を測定することにより放電を検出することができる。
【0006】
しかしながら、上述の異常発生に伴う電磁波をアンテナで受信して異常を検出する手法や、異常発生に伴うAE波をAEセンサによって感知して異常を検出する手法は、ガス絶縁機器が設置されている変電所などの環境下では背景雑音の存在によってその性能を十分に発揮できていない。なぜなら、異常の検出感度を高めるために受信感度・センサ感度を高めても、背景雑音をも検出することになり、異常を示す真の情報と背景雑音の識別(いわゆるS/N比)を高めることは極めて困難だからである。ここで、上述の異常発生に伴う電磁波をアンテナで受信して異常を検出する絶縁異常検出装置では、ノイズ検出用アンテナを設けることで背景雑音のキャンセルを図っているが、コロナ放電検出用アンテナが設けられている場所の背景雑音を計測しているわけではないので、背景雑音の影響を完全に排除することはできないと考えられる。
【0007】
この点、分解ガスを化学的に検出する手法はこのような背景雑音の問題はなく、しかも、部分放電などの異常が極めて軽微であっても、SFガスの分解ガスは通常蓄積されるため、次第に濃度が増えて検出が容易となる利点がある。ところが、SFガスの分解ガスの多くは金属を腐食するなど、機器に有害な影響を与えるものが多いため、通常は機器の内部に分解ガスを吸着・除去するための吸着材が封入され、機器に有害な影響を与えない程度の濃度に抑えるようにしている。
【0008】
【特許文献1】特開平01−235865号
【特許文献2】特開平5−45402号
【特許文献3】特開昭50−129938号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、ガス絶縁電力機器では、機器内部に分解ガスを吸着する吸着材が封入されているため、通電異常あるいは絶縁異常等をSFガスの分解ガスに基づいて検出しようとしても、検出素子等のセンサ類によって分解ガスを検出する前に分解ガスが吸着材に吸着されてしまい、分解ガスを良好に検出することができず、その実用化が難しい。つまり、吸着材に接触した後のガスに基づいてガス中の分解ガスを検出するので、分解ガスの検出感度に劣り、異常発生を良好に検出することが困難である。
【0010】
本発明は、内部の異常を高感度に検出することができるガス絶縁電力機器及びその異常検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するために請求項1記載の発明は、絶縁ガスが封入された接地タンク内に導体を電気的に絶縁した状態で収容すると共に、接地タンク内で発生した絶縁ガスの分解ガスを吸着材によって吸着除去するガス絶縁電力機器において、吸着材を接地タンクとは別の密閉容器に収容すると共に、密閉容器を接地タンクに接続して密閉容器内と接地タンク内とを連通させ、接地タンクから吸着材に至るまでの間の連通路に、分解ガスとの接触によって変色する薬剤と、外部からの薬剤の視認を可能にする覗き部とを備えるものである。
【0012】
接地タンク内で通電異常や絶縁異常等の異常が発生すると、絶縁ガスから分解ガスが発生し、分解ガスの濃度が増加する。接地タンク内と密閉容器内とは連通されており、接地タンク内で発生した分解ガスは密閉容器内へと自然拡散し又は強制循環され、密閉容器内で吸着材によって吸着除去される。このため、接地タンク内の分解ガスの濃度が減少する。また、接地タンクから吸着材に至るまでの間の連通路には分解ガスとの接触によって変色する薬剤が設けられており、接地タンク内で発生した分解ガスは密閉容器内に到達する前に薬剤に接触してこれを変色させる。即ち、吸着材に接触する前の状態で分解ガスをより多く含むガスを薬剤に接触させることができる。薬剤の変色は覗き部を通じて外部から視認することができる。
【0013】
また、請求項2記載のガス絶縁電力機器は、
密閉容器が接地タンクから切り離し可能であり、密閉容器を切り離す場合に接地タンク側連通路を閉じる第1の開閉弁を備えるものである。したがって、密閉容器を切り離す場合、第1の開閉弁によって接地タンク側連通路を閉じることで接地タンク内の気密性を維持できる。つまり、接地タンク内の気密性を維持しながら吸着材を取り出すことができる。
【0014】
また、請求項3記載のガス絶縁電力機器は、密閉容器を切り離す場合に密閉容器側連通路を閉じる第2の開閉弁を備えるものである。したがって、密閉容器を切り離す場合、第2の開閉弁によって密閉容器側連通路を閉じることで密閉容器内の気密性を維持できる。
【0015】
また、請求項4記載のガス絶縁電力機器は、接地タンク内と密閉容器内とを連通する連通路が往路と復路とを有する循環路であり、薬剤及び覗き部は往路に設けられており、接地タンク内のガスを往路から密閉容器内に導いて復路から接地タンクへと循環させる循環装置を備えるものである。したがって、循環装置は循環路内にガスの強制的な流れを形成する。接地タンク内のガスは、接地タンク→往路→密閉容器→復路→接地タンクへと循環される。このガスの流れに乗って分解ガスも流れ、往路に設けられた薬剤に接触してこれを変色させた後、密閉容器内で吸着材に接触し吸着除去される。分解ガスが除去された残りのガスは復路を通って接地タンク内に戻される。
【0016】
また、請求項5記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法は、絶縁ガスが封入されている接地タンク内で発生した分解ガスを吸着する吸着材を接地タンクとは別の密閉容器に収容すると共に、密閉容器内と接地タンク内とを連通し、分解ガスを密閉容器内に導いて吸着材によって吸着除去すると共に、接地タンクから吸着材に至るまでの間の連通路に分解ガスとの接触によって変色する薬剤を配置し、薬剤の変色によって接地タンク内での異常の発生を検出するものである。
【0017】
接地タンク内で通電異常や絶縁異常等の異常が発生すると、絶縁ガスから分解ガスが発生し、分解ガスの濃度が増加する。接地タンク内と密閉容器内とは連通されており、接地タンク内で発生した分解ガスは密閉容器内へと自然拡散し又は強制循環され、密閉容器内で吸着材によって吸着除去される。このため、接地タンク内の分解ガスの濃度は減少する。また、接地タンクから吸着材に至るまでの間の連通路には分解ガスとの接触によって変色する薬剤が設けられており、接地タンク内で発生した分解ガスは密閉容器内に到達する前に薬剤に接触してこれを変色させる。即ち、吸着材に接触する前の状態で分解ガスをより多く含むガスを薬剤に接触させることができる。薬剤の変色は、例えば外部から薬剤の視認が可能な覗き部を設けておくことで確認できる。
【0018】
さらに、請求項6記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法は、接地タンク内と密閉容器内とを連通する連通路を往路と復路とを有する循環路にすると共に、循環装置によって接地タンク内のガスを往路から密閉容器内に導いて復路から接地タンク内へと循環させるものである。したがって、接地タンク内のガスを接地タンク→往路→密閉容器→復路→接地タンクへと強制的に循環させて薬剤に接触させることができる。
【発明の効果】
【0019】
請求項1記載のガス絶縁電力機器では、吸着材を接地タンクとは別の密閉容器に収容すると共に、密閉容器を接地タンクに接続して密閉容器内と接地タンク内とを連通させ、接地タンクから吸着材に至るまでの間の連通路に、分解ガスとの接触によって変色する薬剤と、外部からの前記薬剤の視認を可能にする覗き部とを備えているので、接地タンク内で発生した分解ガスを密閉容器内の吸着材で吸着除去しながら薬剤の変色によって接地タンク内で発生した異常を検出することができる。また、吸着材に触れる前のガス、即ち分解ガスが吸着除去される前のガスを薬剤に接触させることができるので、吸着材を接地タンク内に配置する場合に比べて分解ガスの検出感度を向上させることができ、接地タンク内の異常発生をより確実に検出することができる。
【0020】
また、請求項2記載のガス絶縁電力機器では、密閉容器が接地タンクから切り離し可能であり、密閉容器を切り離す場合に接地タンク側連通路を閉じる第1の開閉弁を備えているので、接地タンク内を大気に開放することなく密閉容器を切り離して吸着材を取り出すことができ、ガス絶縁電力機器の運転を止めずに吸着材を取り出したり交換することができる。また、万一、密閉容器に何らかの不具合が生じたとしても、密閉容器ごと交換することができる。
【0021】
また、請求項3記載のガス絶縁電力機器では、密閉容器を切り離す場合に密閉容器側連通路を閉じる第2の開閉弁を備えているので、密閉容器を密閉したまま接地タンクから切り離すことができる。このため、吸着材を大気に接触させずに運搬することができ、そのままの状態で吸着材を分析にかけることができる。
【0022】
また、請求項4記載のガス絶縁電力機器では、接地タンク内と密閉容器内とを連通する連通路は往路と復路とを有する循環路であり、薬剤及び覗き部は往路に設けられており、接地タンク内のガスを往路から密閉容器に導いて復路から接地タンクへと循環させる循環装置を備えているので、接地タンク内のガスを強制的に循環させることができ、分解ガスを効率的に薬剤に接触させることができると共に、吸着材によって吸着除去することができる。
【0023】
また、請求項5記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法では、絶縁ガスが封入されている接地タンク内で発生した分解ガスを吸着する吸着材を接地タンクとは別の密閉容器に収容すると共に、密閉容器内と接地タンク内とを連通し、分解ガスを密閉容器内に導いて吸着材によって吸着除去すると共に、接地タンクから吸着材に至るまでの間の連通路に分解ガスとの接触によって変色する薬剤を配置し、薬剤の変色によって接地タンク内での異常の発生を検出するようにしているので、接地タンク内で発生した分解ガスを吸着除去しながら、薬剤の変色によって接地タンク内の異常を検出することができる。また、吸着材に接する前の状態で分解ガスをより多く含むガスを薬剤に接触させることができるので、吸着材を接地タンク内に配置して分解ガスを吸着除去する場合と比べて分解ガスの検出感度を向上させることができ、接地タンク内の異常発生をより確実に検出することができる。
【0024】
さらに、請求項6記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法では、接地タンク内と密閉容器内とを連通する連通路を往路と復路とを有する循環路にすると共に、循環装置によって接地タンク内のガスを往路から密閉容器内に導いて復路から接地タンク内へと循環させるので、接地タンク内のガスを密閉容器へと強制的に循環させることができる。このため、発生した分解ガスが薬剤に接触するまでの時間を短縮することができ、異常の発生を素早く検出することができると共に、接地タンク内に分解ガスが残留するのをより確実に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0026】
図1及び図2に本発明のガス絶縁電力機器の第1の実施形態を示す。このガス絶縁電力機器は、絶縁ガス1が封入された接地タンク2内に導体3を電気的に絶縁した状態で収容すると共に、接地タンク2内で発生した絶縁ガス1の分解ガスを吸着材4によって吸着除去するものである。そして、吸着材4を接地タンク2とは別の密閉容器5に収容すると共に、密閉容器5を接地タンク2に接続して密閉容器5内と接地タンク2内とを連通させ、接地タンク2から吸着材4に至るまでの間の連通路9に、分解ガスとの接触によって変色する薬剤35と、外部からの薬剤35の視認を可能にする覗き部38とを備えている。本実施形態では、密閉容器5は接地タンク2から切り離し可能であり、密閉容器5を切り離す場合に接地タンク側連通路28を閉じる第1の開閉弁を備えている。また、連通路9は密閉容器側連通路10と接地タンク側連通路28より構成されている。
【0027】
導体(主回路)3は、例えば高電圧中心導体で、例えば円筒形状を成している。導体3は、例えば円筒形状を成す接地タンク(機器外被)2の中心位置に配置され、支持絶縁物(スペーサ)8によって支持されている。絶縁ガス1は、例えばSFガス、SFガスを含む混合ガス等である。ただし、これらのガスに限るものではなく、例えばNガス,COガス,Cガス,c−Cガス,CFIガス,CFガスおよびこれらの混合ガス等でも良い。
【0028】
接地タンク2は、例えばGISの接地タンクである。ただし、GISの接地タンクに限るものではなく、GCBの接地タンク、C−GISの接地タンク、ガス絶縁変圧器の接地タンク、GILの接地タンク等であっても良い。
【0029】
接地タンク2には、内部の真空引き及び絶縁ガス1の封入に使用する給排気管(ガス配管)6と、この給排気管6を開閉する開閉弁7が設けられている。本実施形態では、接地タンク側連通路28は接地タンク2の給排気管6であり、第1の開閉弁は給排気管6に設けられた開閉弁7である。つまり、接地タンク2に通常設けられている既存の給排気管6と開閉弁7を利用している。このため、密閉容器5の取り付けが容易である。また、既存の接地タンク2の設計変更を行わずにそのまま密閉容器5を取り付けることができ、特に、既に設置され運転されているガス絶縁電力機器に対しても後付けすることができる。さらに、後付けした密閉容器5を取り外すことでガス絶縁電力機器を元の状態に戻すことができる。なお、既に設置され運転されているガス絶縁電力機器に適用する場合には、接地タンク2内に設けられている吸着材を撤去しておく。
【0030】
ただし、必ずしも接地タンク側連通路28として、接地タンク2に既存の給排気管6を利用する必要はなく、給排気管6とは別に接地タンク側連通路28を設けても良い。
【0031】
密閉容器5には、密閉容器側連通路10と、密閉容器5を切り離す場合に密閉容器側連通路10を閉じる第2の開閉弁11が設けられている。密閉容器側連通路10は接地タンク側連通路28に接続されている。密閉容器側連通路10と接地タンク側連通路28とは、互いのフランジ10a,6aを突き合わせてボルトによって固定することで切り離し可能に接続されている。
【0032】
薬剤35はガス検知管36に充填されている薬剤35である。即ち、本実施形態では、ガス検知管36を密閉容器側連通路10の途中に設けることで、ガス検知管36自体を密閉容器側連通路10の一部とし、ガス検知管36内に充填されている薬剤35を密閉容器側連通路10内に配置する。ガス検知管36内には、接地タンク2内で発生した分解ガスが自然拡散によって密閉容器5内に到達できる程度の流路が少なくとも確保されている。即ち、一般的なガス検知管の場合、内部には高密度に薬剤が充填されており、手動のポンプ等を使用して強制的にガス検知管の中に被検査ガスを通過させる必要がある。しかしながら、本実施形態のガス検知管36は薬剤35の充填率が低く、接地タンク2内で発生した分解ガスが自然拡散によって密閉容器5内に到達できる程度の流路が少なくとも確保されている。なお、一般的なガス検知管の場合、手動ポンプ等を使用して強制的に管の中に被検査ガスを通過させ、短時間に薬剤の呈色反応を起こさせ、その変化した量によりガスの濃度を明らかにする。これに対し、本発明では分解ガスを検出できれば良く、濃度の定量化までは不要である。このため、薬剤35を変色させることができれば十分である。薬剤35は連通路9内のガスに曝されており、しかも長期にわたって曝され続けるので、薬剤35の呈色反応は十分に起きる。
【0033】
ガス検知管36の外管は透明であり、薬剤35の変色を外部から視認することができる。即ち、透明な外管が覗き部38となっている。
【0034】
分解ガスとして、例えばSO,HF,F,SF,SOF,SOF,SO,CF等を検出する。ガス検知管は対象とする特定のガスだけではなく、その他各種のガス(妨害ガス)にも反応する。そのため、分解ガスとして様々なガスの発生が予想される場合、検出の感度を向上させるためにはガス検知管の使用は有利である。接地タンク2内で発生した分解ガスに感度の認められたガス検知管、即ち使用可能なガス検知管として確認されたものとして、例えば二酸化硫黄(SO)検知管(光明理化学工業株式会社製)、フッ化水素(HF)検知管(光明理化学工業株式会社製)、一酸化炭素(CO)検知管(光明理化学工業株式会社製)、二酸化炭素(CO)検知管(光明理化学工業株式会社製)、二硫化炭素(CS)検知管(株式会社ガステック製)がある。即ち、これらのいずれか一つのガス検知管を選択して使用することができる。これらのガス検知管内に充填されている薬剤が、薬剤35である。ただし、使用可能なガス検知管としては、これらに限るものではなく、接地タンク2内で発生した分解ガスに感度の認められるガス検知管であれば使用可能である。
【0035】
薬剤35を充填したガス検知管36を密閉容器側連通路10に設けることで、密閉容器5と一体したしたユニットして取り扱うことができるので、その扱いが容易である。ただし、接地タンク側連通路28にガス検知管36即ち薬剤35を設けても良い。
【0036】
また、接地タンク2から吸着材4に至るまでの間の連通路9には吸着材4に接する前のガスを採取する採取口13が設けられている。本実施形態では、密閉容器5に採取口13が設けられている。ただし、採取口13を設ける位置は密閉容器5に限るものではなく、吸着材4に接する前のガスを採取できる位置であれば良い。採取口13を密閉容器5に設けることで、採取口13の設置が容易であると共に、一体化したユニットとして取り扱うことができるので、その扱いが容易である。採取口13には開閉弁14が設けられており、ガスを採取する時以外の時には採取口13を閉じておき、接地タンク2内及び密閉容器5内の気密性を確保している。
【0037】
ガス絶縁電力機器の運転時には、第1及び第2の開閉弁7,11を開き、接地タンク2内と密閉容器5内とを連通させておく。また、開閉弁14を閉じておく。接地タンク2内で通電異常や絶縁異常等の異常が発生すると、絶縁ガス1から分解ガスが発生し、分解ガスの濃度が増加する。接地タンク2内と密閉容器5内とは連通されており、分解ガスは自然に拡散して密閉容器5内に到達し、吸着材4によって吸着除去される。このため、接地タンク2内の分解ガスの濃度を減少させることができる。分解ガスの多くは金属を腐食させる腐食性ガスである。吸着材4によって分解ガスを吸着除去するので、接地タンク2や導体3等を腐食させる程には分解ガスの濃度は高くならず、これらの腐食を防止することができる。
【0038】
また、ガス検知管36を吸着材4よりも接地タンク2側に設けており、吸着材4によって吸着される前に分解ガスを薬剤35に接触させることができる。このため、より多くの分解ガスを薬剤35に接触させることができる。また、薬剤35を長期にわたってガスに曝しておくことができる。これらのため、分解ガスの検出感度を向上させることができ、接地タンク2内での異常発生をより迅速且つ容易に検出することができる。また、薬剤35の変色は覗き部38から確認することができるので、分解ガスを外部に採取しなくても分解ガスの発生、即ち異常の発生を検出することができる。このため、検出の為に煩雑な作業を行なう必要がなく簡便である。
【0039】
このように薬剤35の変色により分解ガスを検出することができる。薬剤35に変色が認められず、分解ガスの発生が認められない場合には、機器の健全性を直接証明することができる。
【0040】
密閉容器5を接地タンク2から切り離す場合、第1の開閉弁7によって接地タンク側連通路28を閉じることで接地タンク2内の気密性を維持できる。このため、ガス絶縁電力機器の運転を止めずに密閉容器5を切り離すことができ、吸着材4を取り出して交換や修理・再生を行うことができる。また、吸着材4自体を分析の対象にすることが可能になる。また、第2の開閉弁11によって密閉容器側連通路10を閉じることで密閉容器5内の気密性を維持することができ、密閉容器5内の吸着材4を外気に接触させることなく分析にかけることができる。
【0041】
このように、本発明のガス絶縁電力機器の異常検出方法は、絶縁ガス1が封入されている接地タンク2内で発生した分解ガスを吸着する吸着材4を接地タンク2とは別の密閉容器5に収容すると共に、密閉容器5内と接地タンク2内とを連通し、分解ガスを密閉容器5内に導いて吸着材4によって吸着除去すると共に、接地タンク2から吸着材4に至るまでの間の連通路9に分解ガスとの接触によって変色する薬剤35を配置し、薬剤35の変色によって接地タンク2内での異常の発生を検出するものである。
【0042】
また、接地タンク2内での異常発生を、吸着材4の分析によっても検出することもできる。即ち、接地タンク側連通路28を閉じた状態で接地タンク2から密閉容器5を切り離し吸着材4を分析して接地タンク2内での異常の発生を検出することもできる。
【0043】
密閉容器5内の吸着材4によって発生した分解ガスを吸着除去することで、吸着材4には分解ガスが蓄積されている。第1及び第2の開閉弁7,11を閉じて密閉容器5を接地タンク2から切り離し、外気を遮断した状態で吸着材4を取り出して分析する。吸着材4の分析によって分解ガスを検出し、これによって接地タンク2内での異常発生を検出する。吸着材4には分解ガスが蓄積されているので、たとえ接地タンク2内の分解ガス濃度が低くても、分解ガスの検出は容易であり、接地タンク2内での異常発生を容易に検出することができる。
【0044】
また、接地タンク2内の異常を採取口13から採取したガスを分析することによっても検出することができる。採取口13は吸着材4に接する前のガスを採取することができるので、分解ガスをより多く含んでおり、分解ガスの検出が容易である。
【0045】
なお、本実施形態では、薬剤35の変色に基づいて分解ガスの検出を行なう他に、吸着材4に吸着されているガスを分析して分解ガスの検出を行なうことと、採取口13から採取したガスを分析して分解ガスの検出行なうことを併用していたが、吸着材4に吸着されているガスを分析して分解ガスの検出を行なうことと、採取口13から採取したガスを分析して分解ガスの検出行なうことのいずれか一方又は両方を行なわなくても良い。
【0046】
また、接地タンク2から密閉容器5を切り離した場合に、吸着材4が外気に触れても良い場合等には、第2の開閉弁11を省略しても良い。
【0047】
次に、本発明のガス絶縁電力機器の第2の実施形態を示す。このガス絶縁電力機器を図3に示す。なお、上述のガス絶縁電力機器の部材と同一の部材には同一の符号を付し、それらの説明は省略する。
【0048】
このガス絶縁電力機器は、接地タンク2内と密閉容器5内とを連通する連通路9を往路15と復路16とを有する循環路にすると共に、薬剤35及び覗き部38は往路15に設けられており、接地タンク2内のガスを往路15から密閉容器5に導いて吸着材4に接触させた後、復路16から接地タンク2へと循環させる循環装置22を備えている。
【0049】
このガス絶縁電力機器は、往路15と復路16を別々に設けた配管25,26,32,33によって構成している。配管25,26は、例えばハンドホールフランジ蓋24に孔を設けて固着している。また、配管32,33は密閉容器5に固着している。配管32は配管25に、配管33は配管26にそれぞれ切り離し可能に接続されている。
【0050】
循環装置22は例えば密閉容器5内の吸着材4よりも下流側の位置に設けられている。循環装置22は、例えば図示しないモータによって駆動される電動ファンである。
【0051】
配管32の途中にはガス検知管36が設けられており、ガス検知管36が往路15の一部を構成している。これにより、ガス検知管36内の薬剤35が往路15の途中に設けらる。本実施形態では循環装置22を設けてガスを強制的に循環させるので、分解ガスを自然拡散させて吸着材4にまで到達させる場合に比べて、薬剤35のガス検知管36内への充填率を高めることができる。ただし、ガス検知管36内には、接地タンク2内で発生した分解ガスを循環装置22による強制循環によって密閉容器5内に到達させることができる程度の流路が少なくとも確保されている。
【0052】
循環装置22を始動させると、密閉容器5内の循環装置22よりも上流側が負圧、下流側が正圧となり、強制的なガスの流れが形成される。接地タンク2内のガスは配管25内に吸い込まれ、往路15(配管25→配管32)→密閉容器5→復路16(配管33→配管26)→接地タンク2へと強制的に循環される。接地タンク2内で発生した分解ガスはこの流れに乗って流れ、往路15内で薬剤35に接触してこれを変色させた後、密閉容器5内に到達して吸着材4に接して吸着除去される。
【0053】
このように、連通路9を循環路とし、循環装置22を設けて強制的にガスを循環させるので、分解ガスが自然拡散によって吸着材4に到達するのを待つ場合に比べ、素早く分解ガスを吸着除去することができると共に、接地タンク2内への分解ガスの残留防止を図ることができる。
【0054】
また、本実施形態でも、ガス検知管36を吸着材4よりも接地タンク2側である往路15に設けており、吸着材4によって吸着される前に分解ガスを薬剤35に接触させることができるので、より多くの分解ガスを薬剤35に接触させることができ、分解ガスの検出感度を向上させることができる。また、薬剤35を長期にわたってガスに曝しておくことができる。これらのため、接地タンク2内での異常発生をより迅速且つ容易に検出することができる。また、薬剤35の変色は覗き部38から確認することができるので、分解ガスを外部に採取しなくても分解ガスの発生、即ち異常の発生を検出することができる。このため、検出の為に煩雑な作業を行なう必要がなく簡便である。
【0055】
ハンドホールフランジ蓋24はある程度の直径を有しており、往路15と復路16との間を離して設置することができる。このため、接地タンク2内でガスをより効率よく循環させることができ、接地タンク2内の分解ガスの残留をより一層防止することができる。また、ハンドホールフランジ蓋24への配管25,26の固着は容易であり、ガス絶縁電力機器の製造は簡単である。なお、配管25,26をハンドホールフランジ蓋24以外の部分に固着させても良い。また、各配管25,26のいずれか一方を給排気管6を利用して構成しても良い。また、ガス絶縁電力機器の同一ガス区画に2ヵ所以上のハンドホールフランジ蓋24が設けられている場合には、別々のハンドホールフランジ蓋24に往路15となる配管25と復路16となる配管26を固着するようにしても良い。この場合には、往路15と復路16をさらに離すことができるため、接地タンク2内でガスをより一層効率よく循環させることができ、接地タンク2内の分解ガスの残留をさらに防止することができる。
【0056】
また、上述の説明では、循環装置22を密閉容器5内に設けていたが、ガスの強制的な循環流を発生させることが可能な位置であれば循環装置22を他の位置に設けても良い。例えば、図4に示すように密閉容器5とは別個に循環装置22を設けても良い。この循環装置22は、例えばドライポンプである。なお、密閉容器5とは別個に循環装置22を設ける場合には、例えば配管33又は配管32の途中に設けることが好ましい。配管33又は配管32の途中に循環装置22を設けることで、密閉容器5と一緒に接地タンク2から循環装置22を取り外すことができる。即ち、密閉容器5と循環装置22とをユニット化できるので、取り扱いに便利である。
【0057】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0058】
例えば、上述の説明では、接地タンク2から吸着材4に至るまでの間の連通路9にガス検知管36を設けることで薬剤35を配置するようにしていたが、ガス検知管36全体を設ける代わりに、中身である薬剤35を連通路9に直接配置するようにしても良い。この場合の一例を図5に示す。例えば、密閉容器側連通路10(図1の場合)又は往路15(図3の場合)の途中に薬剤室37が設けられており、薬剤室37内に薬剤35を直接収容する。薬剤室37内の薬剤35は、密閉容器側連通路10又は往路15を自然拡散又は強制循環される分解ガスに接触することができる。薬剤室37の蓋の中央部は透明になっており、これによって薬剤35の変色を外部から視認できる覗き部38が形成されている。この場合にも薬剤35の変色によって分解ガスの発生を検出することができ、これによって異常の発生を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明のガス絶縁電力機器の第1の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図1のガス検知管36の断面図である。
【図3】本発明のガス絶縁電力機器の第2の実施形態を示す概略構成図である。
【図4】本発明のガス絶縁電力機器の第3の実施形態を示す概略構成図である。
【図5】本発明のガス絶縁電力機器の第4の実施形態を示し、その薬剤室37の断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 絶縁ガス
2 接地タンク
3 導体
4 吸着材
5 密閉容器
6 接地タンク側連通路
9 連通路
15 往路
16 復路
22 循環装置
35 薬剤
38 覗き部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁ガスが封入された接地タンク内に導体を電気的に絶縁した状態で収容すると共に、前記接地タンク内で発生した前記絶縁ガスの分解ガスを吸着材によって吸着除去するガス絶縁電力機器において、前記吸着材を前記接地タンクとは別の密閉容器に収容すると共に、前記密閉容器を前記接地タンクに接続して前記密閉容器内と前記接地タンク内とを連通させ、前記接地タンクから前記吸着材に至るまでの間の連通路に、前記分解ガスとの接触によって変色する薬剤と、外部からの前記薬剤の視認を可能にする覗き部とを備えることを特徴とするガス絶縁電力機器。
【請求項2】
前記密閉容器は前記接地タンクから切り離し可能であり、前記密閉容器を切り離す場合に接地タンク側連通路を閉じる第1の開閉弁を備えることを特徴とする請求項1記載のガス絶縁電力機器。
【請求項3】
前記密閉容器を切り離す場合に密閉容器側連通路を閉じる第2の開閉弁を備えることを特徴とする請求項1又は2記載のガス絶縁電力機器。
【請求項4】
前記接地タンク内と前記密閉容器内とを連通する連通路は往路と復路とを有する循環路であり、前記薬剤及び前記覗き部は前記往路に設けられており、前記接地タンク内のガスを前記往路から前記密閉容器内に導いて前記復路から前記接地タンクへと循環させる循環装置を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載のガス絶縁電力機器。
【請求項5】
絶縁ガスが封入されている接地タンク内で発生した分解ガスを吸着する吸着材を前記接地タンクとは別の密閉容器に収容すると共に、前記密閉容器内と前記接地タンク内とを連通し、前記分解ガスを前記密閉容器内に導いて前記吸着材によって吸着除去すると共に、前記接地タンクから前記吸着材に至るまでの間の連通路に前記分解ガスとの接触によって変色する薬剤を配置し、前記薬剤の変色によって前記接地タンク内での異常の発生を検出することを特徴とするガス絶縁電力機器の異常検出方法。
【請求項6】
前記接地タンク内と前記密閉容器内とを連通する連通路を往路と復路とを有する循環路にすると共に、循環装置によって前記接地タンク内のガスを前記往路から前記密閉容器内に導いて前記復路から前記接地タンク内へと循環させることを特徴とする請求項5記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−67536(P2008−67536A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−243960(P2006−243960)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月15日 社団法人 電気学会発行の「平成18年電気学会全国大会 講演論文集[6]」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年6月 財団法人 電力中央研究所発行の「電力中央研究所報告」に発表
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】