説明

ガス遮断エレメントを持つ血液透析チューブセット用薬剤適用アダプタ

【課題】薬剤を投与するため、血液透析チューブセットに連結するためのアダプタが提供される。
【解決手段】アダプタにより、空気を体外回路に導入することなく、標準的な注入用バイアルを体外回路に直接連結できる。アダプタは二つの導管経路を含む。第2導管経路は、注入用バイアルの曝気に役立つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤を体外回路に投与するためのシステムに関する。詳細には、本発明は、空気を回路に導入することなく、標準的な注入用バイアルを体外回路に直接的に連結できるアダプタに関する。
【背景技術】
【0002】
医療では、患者の身体の外部で血液の治療を行うため、多くの場合、連続的体外回路を使用する。特に血液透析では、血液を患者から連続プロセスで取り出し、取り出した血液を透析装置即ちダイアライザーによって浄化し、患者の血液循環に直ちに戻す。この場合、患者の血液は少なくとも一つのポンプによって搬送される。血液は、通常は、動脈血を取り出すための手段、血液ポンプに挿入することによって血液を搬送するための区分、ダイアライザーへの連結部、静脈側ドリップチャンバ、患者の静脈に血液を戻すための手段、及び静脈側ドリップチャンバを含み且つこれらを互いに連結する体外チューブセット内を循環する。このようなチューブセットに対する変形例として、カセットシステムも使用される。カセットシステムでは、導管通路の少なくとも部分、連結部、及びドリップチャンバが、射出成形又は吹き込み成形されたプラスチック製カセットに一体化されている。しかしながら、カセットシステムでも基本的導管経路は同じである。
【0003】
体外回路による治療を受ける患者の病像は、多くの場合、静脈注射で薬剤を投与することを必要とする。透析患者の治療に用いられる通常の薬剤には、例えば、ビタミンD、遺伝子組換エリスロポエチン、及び貧血治療用の鉄剤が含まれる。
【0004】
こうした薬剤は、通常は注入用バイアルで提供される。投与は、病院の職員によって行われ、対応する投与量の薬剤が使い捨て注射器に移送され、このために体外チューブセット又はカセットセットに設けられた注射部位を介して投与される。このようにして、薬剤を体外治療中に手早く、注入のために患者に追加の連結部を形成する必要なしに投与できる。
【0005】
注射部位は多くの場合、セプタム又は閉鎖可能なルアーコネクタを介してアクセスできるTピースとして設計されている。このようなアクセス箇所を通して投与することの利点は、薬剤の移送に追加の使い捨て部品即ち注射器を使用するということである。更に、カニューレを備えた注射器を用いた投与には、病院の職員を受傷する危険があり、これと関連して使い捨て注射器の廃棄物管理の問題が生じる。多くの薬剤は、この場合、大量瞬時投与で投与される。しかしながら、例えばヴェノファー等の鉄剤は、好ましくは、長期間に亘って投与される。このような場合には、手作業で注射を行うには時間がかかる。これは、この仕事を長い注射期間全体に亘って行うのに病院の職員が拘束されるためである。
凝固防止剤を追加する場合にも、薬剤の追加について同様の問題点が生じる。血液は体外で凝固しようとする。チューブセット、カセットセット、及びダイアライザーは常に生体親和性であるけれども、凝固防止剤を加えないと血液の凝縮を阻止することはできない。ヘパリンやクエン酸塩等の凝固防止剤の追加は、透析治療で、同様に体外回路を介して、好ましくは大量瞬時投与でなく、特定の期間に亘って行われる。この目的のため、多くの透析機は、多くの場合にヘパリンである凝固防止剤を注入するためのデバイスを備えている。このようなヘパリンポンプは、通常は、自動制御される注入ポンプとして形成される。
【0006】
ドイツ国特許第DE 38 37 298号には、体外回路の負圧領域にヘパリン充填注入を行い、ヘパリンを体外回路内に受動的に吸引する構成が開示されている。
【0007】
米国特許第5,330,425号及び欧州特許第EP966 631号には、吹き込み成形した静脈側ドリップチャンバを含むチューブセットが開示されている。薬剤用の静脈側注射部位がドリップチャンバ及びドリップチャンバの後方のチューブセットに設けられている。
【0008】
米国特許第4,500,309号には、体外回路の動脈領域にクエン酸塩溶液を注入し、体外回路の静脈領域にカルシウム溶液を注入することが開示されている。
【0009】
欧州特許第EP532 432号には、代替溶液を体外回路に注入することが開示されている。WO87/07159には、注入用バイアルに連結するための二重内腔移送ピースが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】ドイツ国特許第DE 38 37 298号
【特許文献2】米国特許第5,330,425号
【特許文献3】欧州特許第EP966 631号
【特許文献4】米国特許第4,500,309号
【特許文献5】欧州特許第EP532 432号
【特許文献6】WO87/07159
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、別の機械式ポンプを必要とせずに体外回路に確実に注入できるようにすることである。
【0012】
更に、本発明の目的は、注入を標準的な注入用バイアルから直接的に、自動的に、注射器に移す必要なしに行うことである。
【0013】
別の目的は、小容積の薬剤の注入を行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の問題点は、請求項1によるデバイスにより解決される。
【0015】
薬剤を貯蔵するための注入用バイアル(22)に導入するための、第1導管経路(10)及び第2導管経路(11)を含む穿刺デバイスを備えた医療デバイスにおいて、
第1導管経路(10)は、穿刺デバイスを注入用バイアル内に一杯に穿刺したとき、一端(17)が注入用バイアルの内腔内に開放し、他端が血液透析機の体外血液回路(19)の導管経路に接続されるように設計されており、
第2導管経路(11)は、穿刺デバイスを注入用バイアル内に一杯に穿刺したとき、一端(18)が注入用バイアルの内腔内に開放し、他端が、第2導管経路(11)を介して通気を行うことができるようにガスリザーバ(14)に連結されるように設計されており、第1導管経路(11)には、ガス遮断エレメント(12、23)が、流体がガス遮断エレメントを通過できるように配置されているが、ガス遮断エレメントはガスを通さない、ことを特徴とする医療デバイスを提供する。
デバイスは、薬剤注入用バイアルの内容物を体外血液回路に直接的に導入するため、体外血液回路の様々な場所で使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、血液透析の体外血液回路の概略図である。
【図2】図2は、本発明によるデバイス、注入用バイアルが取り付けられた二重内腔スパイクを持つ移送ピース、及び体外回路への連結部を示す、親水性メンブレンが第1導管経路に配置された概略図である。
【図3】図3は、本発明による変形例のデバイス、注入用バイアルが取り付けられた二重内腔スパイクを持つ移送ピース、及び体外回路への連結部を示す、フロートバルブが第1導管経路に配置された概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
血液透析用体外回路では、血液は、通常は、患者から動静脈フィステルのところで取り出される。透析装置即ちダイアライザー(5)の前方の体外回路の部分は、動脈回路(1)として示され、ダイアライザーの後方の体外回路の部分は、静脈回路(3、4)として示されている。血液搬送デバイス(2)は、通常は、体外回路の動脈部分に配置される。血液搬送デバイスは、多くの場合、チューブロールポンプとして具体化される。体外血液回路の静脈部分には、多くの場合、静脈側ドリップチャンバ(6)が配置されている。静脈側ドリップチャンバは、血液から空気を抜くのに役立つ。体外回路では、特にダイアライザーでは、少量の空気が血液に入り込むと、互いに結合して血液中に小さな気泡を形成し、再注入できない。これは、自然の血液循環中に空気が注入されると疼痛を引き起し、最悪の場合には塞栓症を引き起すためである。従って、静脈側ドリップチャンバでは、これらの小さな気泡が除去されるのである。
【0018】
血液搬送デバイスは、体外回路を通して血液を搬送する。ポンプの前方の回路の部分の前に吸引力を発生するのに対し、ポンプの後方の部分内の血液は圧力によって前方に移動される。従って、ポンプの前方の動脈回路には負圧が作用するのに対し、ポンプの後方の回路の部分には正圧が作用する。静脈回路内の圧力は、静脈側ドリップチャンバのところで計測することによって決定される。
【0019】
体外血液回路は、ほとんどのシステムにおいて、全体がチューブセット又はカセットセット内に設けられる。このようなセットは、患者に連結するための連結部及びダイアライザーに連結するための連結部を含む。同様に、ドリップチャンバ及び診断計測用デバイスがセットに一体化されている。
【0020】
この一般的な作動モードは、血液濾過法(haemofiltration)及び血液透析濾過法(haemodiafiltration) にも適用される。これらの方法は、限外濾過率が高く、血液から漉し取られた流体の一部を代替溶液と入れ換える。従って、本発明の範囲内で、血液濾過及び血液透析濾過を、血液透析の総称で組み合わせる。
【0021】
チューブセットには、通常は、薬剤用の注射部位がある。
以下の注射部位が示してある。
血液搬送デバイスの前方の動脈血回路(1)の注射部位(7)。
静脈側ドリップチャンバの前方の静脈血回路(3)の注射部位(8)。
静脈側ドリップチャンバの後方の静脈血回路(4)の注射部位(9)。
【0022】
注射部位は、多くの場合、セプタムアクセス、閉止可能なルアーアクセス、又は両方の種類のアクセスを持つTピースの形態であり、血液搬送デバイスの前方の体外回路において、全体に動脈側追加部位(7)として示してある。血流がゼロである場合、この部位には、約100mbarの僅かな正圧が作用している。血流が治療で一般的な約250ml/分乃至500ml/分である場合には、この部位に約50mbar乃至300mbarの範囲の負圧条件が生じる。血液搬送デバイスのポンプ機能が不規則であるため、はっきりとした圧力の変動が生じる。実際に存在する圧力は、カニューレ及びチューブラインを通って流れる際の圧力降下、及び患者への連結部と取り出し部位との間の圧力差(geodetic level difference) で決まる。
全体として、体外血液回路のこの部位は、重力式注入デバイスで注入溶液又は薬剤を吸い込むのに適している。
【0023】
本発明によれば、標準的な注入用バイアル(22)で提供される薬剤を適用する上で、二導管経路を持つ穿刺デバイスを備えた医療デバイスが適している。二導管経路を持つ穿刺デバイスは、医療デバイスと一体化した二つの別々の中空ニードル、カニューレ、又はスパイクの形態で具体化できる。しかしながら、穿刺デバイスは、好ましくは、二重内腔スパイクである。スパイクという用語を使用した、以下に説明する全ての実施例は、二つの別々の穿刺エレメントを持つ穿刺デバイス及び二重内腔スパイクの好ましい実施例の両方に関する。図1に示すように、スパイクは、本発明に従って使用するとき、全体が注入用バイアル(22)に導入される。通常は、注入用バイアルは、本発明では、その開口部を下に向けた状態で使用される。スパイクの両導管経路が注入用バイアルの内部に開放したとき、スパイクの導入が完了する。
【0024】
好ましい実施例では、注入用バイアルを少なくとも部分的に受け入れるための受け入れデバイス(16)がスパイクに設けられている。更に、受け入れデバイスは、注入用バイアルをその位置に保持するように有利に実施される。この目的のため、注入用バイアルが不時に外れないように固定するため、注入用バイアルのネックの後側と係合する戻り止めノーズが受け入れデバイスに設けられていてもよい。理想的には、受け入れデバイスは、キャップをぴったりと嵌着できるように具体化される。このようなキャップは、環境による汚染をできるだけ低く抑えるため、使用前後にアクセスをぴったりと閉止するようになっている。体外回路の注射部位は、高い無菌水準を満たさなければならない。
【0025】
スパイクが注入用バイアル(22)を一杯に穿刺したとき、両導管経路(10、11)は、注入用バイアルの内部に開放していなければならない。受け入れデバイスの支承面は、理想的には、スパイクが常に注入用バイアル内の等しい深さまで穿刺することを保証する。
【0026】
好ましい実施例では、医療デバイスは、注入用バイアルを医療デバイスに一杯に導入したとき、バルブが、第1導管経路及び/又は第2導管経路の流体連結部だけを開放するように具体化される。注入用バイアルをしっかりと連結するためのこのような受け入れデバイスは、当該技術分野において、適当なデバイスを開示するイタリア国特許出願第TO2009A000455号で周知である。
【0027】
特に好ましい実施例では、医療デバイスは、注入用バイアルの形状及び注入用バイアルをシールするセプタムの厚さに適合され、第1導管経路(10)が端部(17)のところで注入用バイアル内に開放し、導管経路の端部(17)と穿刺されたセプタムとの間の距離ができるだけ小さく、好ましくは、第1導管経路の端部とセプタムとの間の距離が3mmよりも小さく、好ましくは、1mmよりも小さい。第2導管経路(11)の端部(18)は、好ましい実施例では、スパイクが注入用バイアル内に一杯に穿刺したとき、端部(18)が、同様に、注入用バイアル内にあるように注入用バイアル内に開放している。好ましい実施例では、第2導管経路の端部(18)のセプタムからの距離は、第1導管経路の端部(17)の距離よりも大きく、特定的には、好ましくは、この距離は、3mmよりも大きく、特に好ましくは、6mmよりも大きい。特に好ましい実施例では、第2導管経路の端部(18)は、注入用バイアル内に収容された流体の液面高さよりも上方にある。更に好ましい実施例では、第1導管経路の直径は、全ての場所で第2導管経路よりも大径である。
【0028】
第1導管経路(10)の他端は、体外血液回路(19)に接合されている。このようにして、注入用バイアル(22)と体外血液回路(19)との間に連結部を形成する。これにより、注入用バイアルの内容物を体外回路に直接的に適用できる。
【0029】
注入用バイアルの内容物を動脈側追加部位(7)のところで体外回路内に吸い込むとき、このようにして取り出された容積を埋め合わせなければならない。さもなければ、剛性の注入用バイアルの内部に体外回路内の圧力条件と関連して負圧が発生する。注入用バイアルの内部の圧力が体外回路内の圧力よりも低くなると、注入用バイアルの内容物の体外回路内への流れが停止する。こうしたことを回避するため、第2導管経路(11)は、ガスリザーバ(14)に連結されている。これにより、体外回路に流入する注入用バイアルの内容物の容積をガスと交換し、かくして圧力を均衡する。最も簡単な場合には、周囲空気がガスリザーバを形成する。別の態様では、ガスを充填した剛性の又は可撓性の容器によってガスリザーバを形成してもよい。更に別の態様では、ガス伝達ラインがガスリザーバを形成してもよい。
【0030】
提供されるガスが、例えば周囲空気の場合のように無菌のガスでない場合には、理想的には、第2導管経路にガス透過性無菌フィルタ(13)が設けられる。このような細菌フィルタは、当業者に周知であり、無菌性を維持しつつ導管経路の通気を行う上で医療技術で頻繁に使用される。細菌フィルタは、主として、微生物がこの障壁を通過できないような孔径即ち穴径を持つということを特徴とする。0.3μmよりも小さい孔径が好ましい。好ましい実施例では、無菌フィルタは、疎水性フィルタである。疎水性フィルタ材料でできた疎水性フィルタは、水性の流体で濡らされることがなく、こうした流体を通さない。このようにして、注入用バイアルの内容物が第2導管経路を通って出ることがないようにする。
【0031】
理想的な場合には、ガスリザーバのガスは、注入用バイアルの内容物と反応してはならない。かくして、例えば、酸化し易い内容物の場合には、空気の代わりに例えば窒素等の不活性ガスをリザーバから提供することが推奨される。
【0032】
ガスリザーバは、好ましくは、注入用バイアルを完全に空にできる寸法を備えていなければならない。即ち、標準圧力の場合、注入用バイアルに関し、同程度大きな容積又はそれよりも大きな容積を備えていなければならない。
【0033】
注入用バイアルが空になったとき、注入用バイアル内の流体の液面高さは、第1導管経路(10)の端部にある開口部(17)よりも下の高さに達する。この時点から、ガスが第1導管経路に進入する。体外回路へのガスの進入は防がなくてはならない。静脈側ドリップチャンバ(6)の前方の追加の部位(7、8)のところでガスの進入を防ぐのが望ましい。静脈側ドリップチャンバで気泡の除去を行うことができるけれども、それにも関わらず、体外回路内の気泡は合併症をもたらし、経時的に、望ましからぬ静脈側ドリップチャンバ内の流体の液面高さの低下をもたらす。静脈側ドリップチャンバの後方の追加の部位(9)では、ガスの進入を防ぐことが重要である。これは、気泡が患者に注入されることが許容されないためである。従って、この追加の部位を使用することによって、体外回路の追加の部位(9)の後方に気泡検出器を設けることが推奨される。
【0034】
体外回路にガスが進入しないようにするため、好ましい実施例では、第1導管経路(10)に気密に組み込まれた親水性メンブレン(12)がガス遮断エレメントを形成する。乾燥条件では、親水性メンブレンは、流体もガスも通すことができる。親水性メンブレンを流体で、特に水性流体で濡らすと、湿潤状態の親水性メンブレンはガスに対して実質的に不透過性である。親水性メンブレンは流体を迅速に吸収する。CWST(臨界湿潤表面張力)は、メンブレン吸水性の程度についての計測値である。その計測は、欧州特許第EP 313 348号に記載されている。一般的には、CWSTが72dyn/cmよりも大きいメンブレンが親水性であると考えられる。対応するメンブレンは、織布又は不織布でできた多孔質構造であってもよい。メンブレンは、例えば綿、セルロース、又は麻繊維等の天然材料で形成できるが、好ましくは、例えばビニルホスホン酸、ビニルスルホン酸、アクリル酸及びメタクリル酸、ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、2−メチル−5−ビニルピリジン、3−エチル−4−ビニルピリジン、2,3−ジメチル−5−ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、2−ビニルピロリドン、N−ビニルピロリドン及び3−ビニルピロリドン、2−メタクリルオキシエチルホスホリルクロリン、ビニルアッルコール、アルキレン酸化物、及びアルキレングリコール等の親水性モノマーで形成されたポリマーで形成されていてもよい。親水性モノマーは、好ましくは、少なくとも50g/lの水溶性を有する。
【0035】
浸漬状態でガスに対して不透過性であるため、孔径は、100μmよりも小さくなければならない。孔径が15μmよりも小さいのが好ましく、孔径が0.3μmよりも小さいのが特に好ましい。これは、この大きさでは微生物がメンブレンを通過することが阻止されるためである。濡らしたメンブレンのガス不透過性は、気泡圧力試験(気泡試験法)によって以下の式に従って決定される。
Δp=(2σ・cos θ)/ r
Δp:圧力差
σ :流体の表面張力(水の場合、72.75mN/m)
θ :材料の濡れ角
r :孔半径
【0036】
湿潤させた親水性メンブレンのガスに関するタイトネス(tightness) を保証するため、メンブレンは、体外回路内の圧力とガスリザーバ内の圧力との間の実際の圧力差が、常に、上掲の式に従ってメンブレンについて計算されたΔpよりも小さいように選択されなければならない。ここで、ポンプの作動により、体外回路内の圧力差は一定ではなく変動しているということに着目されるべきである。
【0037】
親水性メンブレン(12)は、ガス障壁として機能することに加え、流れを調節するエレメントとしても機能する。多くの場合、薬剤が注入用バイアルから長期間に亘って適用されるのが望ましい。親水性メンブレンはフィルタエレメントであり、流れを特定の期間に亘って調節できる流れ抵抗を形成する。ここでは、流れは、フィルタエレメントの前後の圧力差、フィルタ面積、及び孔径の関数として計測される。追加の部位によれば、平均的な圧力差では、フィルタエレメントのフィルタ面積及び孔径は、薬剤を所定期間に亘って適用するのが可能であるように寸法を定めることができる。
【0038】
変形例では、ガス遮断エレメントはフロートバルブ(23)である。適当なフロートバルブは、例えばDE 28 30 845から当業者に主知である。好ましくは、フロートバルブは、内部にボールが配置された円筒形ハウジングを有する。ボールは、流体の通過中に浮動し、流体がない状態ではハウジング内に環状形状をなして配置された弁座に気密態様で載止するように水性流体上で浮動する。
【0039】
ガス遮断エレメント(12、23)に加え、随意であるが、流れ調節エレメント(21)がガス遮断エレメントの上方及び/又は下方に取り付けられていてもよい。このようなエレメントは、例えばバルブ又はクランプの形態をなしている。こうしたエレメントは、更に、流れを完全に停止できる。好ましい実施例では、本発明による医療デバイスは、デバイスを動脈側追加部位(7)に連結する場合、ガス遮断エレメントの下方に少なくとも一つの流れ調節エレメントを備えている。別の好ましい実施例では、本発明による医療デバイスは、デバイスを静脈側追加部位(8、9)に連結する場合、ガス遮断エレメントの上方に少なくとも一つの流れ調節エレメントを備えている。
【0040】
有利には、ガス遮断エレメント(12、23)の直ぐ近くに疎水性メンブレン(15)を配置できる。疎水性メンブレン(15)は、第1導管経路(10)内に気密態様で配置されているのではなく、第1導管経路の側壁に配置され、周囲空気との連結部を形成し、従って、第1導管経路の脱気に適している。このような疎水性メンブレンが設けられているため、第1に、有利なことに、注入用バイアルの連結直後にスパイクの第1導管経路の脱気に役立つ。第2に、親水性メンブレンを通過できない微小気泡が注入用バイアルの内容物中に形成され、親水性メンブレンに溜まり、親水性メンブレンを通過する流れを閉塞する可能性がある。疎水性メンブレン(15)を親水性メンブレンの近くに配置することによって、親水性メンブレン(12)に溜まったガスを逃がすことができる。ガス遮断エレメントがフロートバルブである場合、有利には、疎水性メンブレンをフロートバルブのハウジング内に配置することもできる。
【0041】
本発明による医療デバイスは、血液透析チューブセットの一体の構成要素として形成できる。しかしながら、好ましい実施例では、医療デバイスは、連結部位(20)を介して血液透析機のチューブセット又はカセットセットに連結されるアダプタである。連結は、セプタムを穿刺したニードル又はカニューレを介して行うことができる。しかしながら、人を受傷する危険が小さいニードルレス連結が好ましい。例えばルアーコネクタを介するニードルレス連結の解決策は、従来技術で、例えば欧州特許第EP 1 673 135号から周知である。追加の部位の無菌性を保証する連結を行うことができるのが特に好ましい。
【0042】
更に、透析技術では、動脈側追加部位(7)に加え、別の追加の部位が使用される。詳細には、低分子量の薬剤については動脈側追加部位を使用できない。これは、こうした物質が、動脈側追加部位の下流に配置されたダイアライザーによって少なくとも部分的に除去されてしまうためである。多くの低分子量の薬剤について、ダイアライザーと静脈側ドリップチャンバとの間に配置された追加の部位(8)が提供される。この構成は、下流のドリップチャンバで除去される気泡の注入に対して追加の安全性を提供する。しかしながら、幾つかの薬剤について、酸化防止又は薬剤の毒性のいずれかで、周囲空気との接触を厳密に回避しなければならない。このような薬剤については、静脈側ドリップチャンバの後方に配置された追加の部位(9)が設けられている。
【0043】
チューブセットの静脈側回路のこれらの追加の部位の両方とも、血液搬送デバイス(2)の後方に配置されている。体外回路では、血液搬送デバイスの後方に、通常は、蠕動ポンプが配置されており、圧力条件が搬送デバイスの前方と異なる。動脈側追加部位(7)とは異なり、体外回路の二つの静脈側追加部位(8、9)には、周囲大気に関して高い圧力が加わっている。それにも関わらず、薬剤をこれらの静脈側追加部位(8、9)のところで回路に確実に導入するため、追加の部位での体外回路の内部の圧力よりも常に高い圧力を注入用バイアルに加えなければならない。このため、対応するガス圧力が作用するガスリザーバが設けられる。
【0044】
ガスリザーバに特定の圧力を加えるため、実質的に一定の空気圧が作用する外部ガスラインへの連結、機械式ポンプによってガス容器に加わえられる圧力の作用、変形可能なガス容器の圧縮、例えば欧州特許第EP 1 673 135号から周知のように限られた容積のガス容器内で化学反応によってガスを発生すること等の様々な好ましい実施例が考えられてきた。
【0045】
好ましい実施例では、圧力が作用するガスリザーバには、圧力が臨界値を越えないようにするため、圧力逃がしバルブが設けられている。詳細には、体外回路に加わる圧力差は、親水性メンブレンの気泡圧力によって予め決定された値を越えることがあってはならない。
【0046】
別の好ましい実施例では、ガスリザーバ内の圧力は、注入用バイアルの内容物が所定期間に亘って適用されるように選択される。この場合、圧力が増大すると適用期間が短くなる。
【0047】
幾つかの最新の血液透析機では、空気圧をチューブシステムに導入するためのデバイスが既に設けられている。通常は、静脈側ドリップチャンバ(6)内の圧力は、ドリップチャンバの上領域の空気クッションに流体連結部を介して連結された圧力ゲージによって計測される。多くの場合、この流体連結部に空気圧ポンプ(P)が配置されている。空気圧ポンプ(P)により、内外に圧送される空気によってドリップチャンバ内の流体の液面高さを調節できる。
【0048】
特に好ましい実施例では、ガスリザーバ(14)内に圧力を発生するため、血液透析機に既に設けられている空気圧源を使用する。ガスリザーバ(14)は、この場合、単に第2導管経路(11)への流体連結部である。空気圧源は、この場合、通常は、空気を静脈側ドリップチャンバに導入するためのポンプ(P)である。ポンプ(P)がガスリザーバ又は静脈側ドリップチャンバのいずれに連結されるのかについて、バルブによって制御を行うことができる。
【0049】
別の特に好ましい実施例では、空気圧源と第2導管経路との間の流体連結部において、かくして発生したガスリザーバ内の圧力を別の圧力計測デバイスによって計測する。このようにして、ガスリザーバ内の圧力と静脈側ドリップチャンバ内の圧力を比較することによって圧力差を決定できる。次いで、ポンプを適用することによって、ガスリザーバ内の圧力を、単位時間当たり特定量の薬剤を投与するため、医療デバイスの第1導管経路の流れ抵抗を考慮に入れた圧力差が正確に非常に大きいように設定できる。このようにして、所定期間に亘る薬剤の投与を改善された態様で調節できる。かくして、圧力差が親水性メンブレンの気泡圧力を越えないようにできる。
【0050】
ポンプ(P)を使用する別の実施例として、ポンプと圧力ゲージとの間に一定の流体連結部が存在するようにガスリザーバ又はドリップチャンバへのポンプの連結を制御するバルブを配置することが考えられる。この場合、一つの圧力ゲージがドリップチャンバ内の圧力又はガスリザーバ内の圧力を同時にではなく交互に検出できる。この実施例の利点は、圧力ゲージの数が少ないということである。
【0051】
別の実施例では、血液透析機は、既設のポンプ(P)に加え、ガスリザーバ内の圧力を制御する別の追加のポンプを有する。このような場合には、ガスリザーバ内の圧力を圧力ゲージによって計測し、静脈側ドリップチャンバ内の圧力との圧力差を決定するのが好ましい。更に、この構成により、圧力差を調節でき、及び従って、薬剤を所定期間に亘って投与できる。
【0052】
本発明を限定することなく、本発明を説明する上で役立つ例を以下に記載する。
例1
血液搬送デバイス(2)を停止することによって、血液透析機の体外回路内の血流を停止する。無菌状態でシールするキャップを、静脈側追加部位(7)に設けられた本発明による医療デバイスの受け入れデバイス(16)から取り外す。薬剤が入った注入用バイアルを医療デバイスに配置する。これは、二重内腔スパイクが注入用バイアルを一杯に穿刺するように行われる。親水性メンブレンの下方に取り付けられたクランプの形態の予め閉鎖した流れ調節エレメント(21)を開放する。血液で親水性メンブレン(12)を湿潤すると同時に、疎水性メンブレン(15)を通る第1導管経路(10)を脱気する。親水性メンブレンの湿潤直後に血液搬送デバイスを作動することによって血流を連続する。医療デバイスの第2導管経路(11)を大気圧、この場合には周囲空気に連結することによって、静脈側追加部位(7)の圧力を大気圧よりも低い圧力に低下する。圧力差Δpにより、注入用バイアルの内容物を体外回路に移送し、注入用バイアル内の容積を周囲空気と入れ換える。注入用バイアルの内容物が全て体外回路に移送され、第1導管経路(10)内の容積が空気と入れ替わった後、ガスを通さない親水性メンブレン(12)を通る流体流れを停止する。流れ調節エレメント(21)を閉鎖し、受け入れデバイス(16)をキャップで覆う。このキャップが無菌状態でシールする。
【0053】
例2
血液が血液透析機の体外回路を連続的に流れているとき、無菌をなしてシールするキャップを、静脈側追加部位(8、9)に連結された、本発明による医療デバイスの受け入れデバイス(16)から取り外す。薬剤が入った注入用バイアルを医療デバイスに配置する。これは、二重内腔スパイクが注入用バイアルを一杯に穿刺するように行われる。
医療デバイスの第2導管経路(11)をガスリザーバ(14)に連結する。ガスリザーバ(14)の空気圧は、体外回路の静脈側追加部位での圧力よりも常に高い。親水性メンブレンの上方に取り付けられたクランプの形態の予め閉鎖した流れ調節エレメント(21)を開放する。血液で親水性メンブレン(12)の湿潤及びこれと同時に行われる疎水性メンブレン(15)を通る第1導管経路(10)の脱気は、体外血液回路との連結により既に行われている。体外血液回路のこの時点での圧力は、大気圧よりも高い。静脈側追加部位でのガスリザーバと体外回路との間の圧力差Δpにより、注入用バイアルの内容物が体外回路内に移送され、注入用バイアルの容積がガスリザーバからのガスと入れ替わる。注入用バイアルの内容物が全て体外回路に移送され、第1導管経路(10)内の容積がガスと入れ替わった後、ガスを通さない親水性メンブレン(12)を通る流体流れを停止する。流れ調節エレメント(21)を閉鎖し、受け入れデバイス(16)をキャップで覆う。このキャップが無菌状態でシールする。
【符号の説明】
【0054】
1 動脈回路
2 血液搬送デバイス
3、4 静脈回路
5 ダイアライザー
6 静脈側ドリップチャンバ
7 動脈側追加部位
10 第1導管経路
11 第2導管経路
12 親水性メンブレン
14 ガスリザーバ
15 疎水性メンブレン
16 受け入れデバイス
19 体外血液回路
21 流れ調節エレメント
22 注入用バイアル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を貯蔵するための注入用バイアルに導入するための、第1導管経路及び第2導管経路を含む穿刺デバイスを備えた医療デバイスにおいて、
前記第1導管経路は、前記穿刺デバイスを前記注入用バイアル内に一杯に穿刺したとき、一端が前記注入用バイアルの内腔内に開放し、他端が血液透析機の体外血液回路の導管経路に接続されるように設計されており、
前記第2導管経路は、前記穿刺デバイスを前記注入用バイアル内に一杯に穿刺したとき、一端が前記注入用バイアルの内部内に開放し、他端が、前記第2導管経路を介して通気を行うことができるようにガスリザーバに連結されるように設計されており、
前記第1導管経路には、ガス遮断エレメント(12、23)が、流体が前記ガス遮断エレメントを通過できるように配置されているが、前記ガス遮断エレメントはガスを通さない、ことを特徴とする医療デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の医療デバイスにおいて、
血液透析機の体外血液回路を形成するためのチューブセット又はカセットセットの一体の構成要素である、ことを特徴とする医療デバイス。
【請求項3】
請求項1に記載の医療デバイスにおいて、
血液透析機の体外回路のチューブセット又はカセットセットに連結するためのアダプタである、ことを特徴とする医療デバイス。
【請求項4】
請求項3に記載の医療デバイスにおいて、
前記アダプタは、体外回路にニードルレス態様で連結されるように設計されている、ことを特徴とする医療デバイス。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちのいずれか一項に記載の医療デバイスにおいて、
前記ガスリザーバ内の圧力は、前記体外回路の追加部位での圧力よりも高い、ことを特徴とする医療デバイス。
【請求項6】
請求項1乃至5のうちのいずれか一項に記載の医療デバイスにおいて、
前記医療デバイスは、キャップによって閉鎖できる受け入れデバイス(16)を追加に備えている、ことを特徴とする医療デバイス。
【請求項7】
請求項1乃至6のうちのいずれか一項に記載の医療デバイスにおいて、
前記医療デバイスは、周囲空気への連結部を形成するように、及び前記第1導管経路を流体密をなして閉鎖しないように前記第1導管経路に配置された疎水性メンブレン(15)を追加に有する、ことを特徴とする医療デバイス。
【請求項8】
請求項1乃至7のうちのいずれか一項に記載の医療デバイスにおいて、
前記医療デバイスは、追加として、前記第2導管経路(11)に配置された好ましくは、疎水性の無菌フィルタ(13)を有する、ことを特徴とする医療デバイス。
【請求項9】
請求項1乃至8のうちのいずれか一項に記載の医療デバイスにおいて、
前記医療デバイスは、追加として、少なくとも一つの流れ調節エレメント(21)、好ましくはクランプを有し、前記流れ調節エレメントは、前記第1導管経路(10)に、前記ガス遮断エレメント(12、23)の上方及び/又は下方に配置されている、ことを特徴とする医療デバイス。
【請求項10】
請求項1乃至9のうちのいずれか一項に記載の医療デバイスにおいて、
前記ガスリザーバは、前記ガスリザーバ内のガス圧を調節できるように具体化されている、ことを特徴とする医療デバイス。
【請求項11】
請求項1乃至10のうちのいずれか一項に記載の医療デバイスにおいて、
前記穿刺デバイスは、二重内腔スパイクである、ことを特徴とする医療デバイス。
【請求項12】
請求項1乃至11のうちのいずれか一項に記載の医療デバイスにおいて、
前記ガス遮断エレメントは、湿潤状態でガスを通さない親水性メンブレンである、ことを特徴とする医療デバイス。
【請求項13】
請求項1乃至12のうちのいずれか一項に記載の医療デバイスにおいて、
前記親水性メンブレンの孔径は、100μmよりも小さく、好ましくは15μmよりも小さく、特に好ましくは0.3μmよりも小さい、ことを特徴とする医療デバイス。
【請求項14】
請求項1乃至13のうちのいずれか一項に記載の医療デバイスにおいて、
前記親水性メンブレンは、親水性ポリマー材料で形成されている、ことを特徴とする医療デバイス。
【請求項15】
請求項1乃至14のうちのいずれか一項に記載の医療デバイスにおいて、
前記親水性メンブレンは気密であり、気泡圧力が前記ガスリザーバと前記体外回路との間の圧力差と対応する、ことを特徴とする医療デバイス。
【請求項16】
請求項1乃至11のうちのいずれか一項に記載の医療デバイスにおいて、
前記ガス遮断エレメントはフロートバルブである、ことを特徴とする医療デバイス。
【請求項17】
請求項15に記載の医療デバイスにおいて、
前記フロートバルブは、内部にボールが配置された円筒形ハウジングを有し、前記ボールは、流体の通過中に浮動し、流体がない状態では、前記ハウジング内にリング状をなして配置された弁座に気密をなして載止するように水性の流体上で浮動する、ことを特徴とする医療デバイス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2013−509898(P2013−509898A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535686(P2012−535686)
【出願日】平成22年11月3日(2010.11.3)
【国際出願番号】PCT/EP2010/006691
【国際公開番号】WO2011/054497
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(597075904)フレゼニウス メディカル ケア ドイッチェランド ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (55)
【Fターム(参考)】