説明

ガス除去用濾材及びその製造方法、並びにガス除去用濾材を用いたガス除去エレメント

【課題】 脱臭濾材やケミカルフィルタ用濾材などのガス除去用濾材において、これらの濾材自体から発生する揮発性物質が少なく、且つこれらの濾材のガス除去寿命を長くすると共にガス除去能力の高いガス除去用濾材を提供する。
【解決手段】 ガス除去粒子がホットメルト樹脂によって連結されてなるガス除去粒子層を有するガス除去用濾材であって、ダイナミックヘッドスペース法により80℃に加熱したときに、前記ホットメルト樹脂から発生する高沸点(150℃以上)の有機物質の量(n−ヘキサデカン換算量)が22μg/g・hr以下であるガス除去用濾材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭気成分で汚染された流体を濾過して清浄化するための生活環境における空調機器に装着して用いる脱臭濾材や、半導体や液晶の生産施設やクリーンルームなどにおいて空気や雰囲気中に含まれるガス状汚染物質を除去するケミカルフィルタ用濾材などのガス除去用濾材及びその製造方法、並びにガス除去用濾材を用いたガス除去エレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
住宅の居室やビルのオフィスなどの生活空間において、そこで使用されている内装材や家具には接着剤などの化学物質が多く含まれており、これらの接着剤などの化学物質から人体に有害な揮発性物質や、不快な臭気を有する揮発性物質が発生することが知られている。また、自動車などから排気ガスとして、二酸化イオウや二酸化チッソや酢酸ガスなどの人体に有害なガスや不快な臭気を有するガスが発生することが知られており、このような人体に有害な揮発性物質や、不快な臭気を有する揮発性物質を除去する技術が求められている。そこで、本出願人は、特許文献1および2に記載される脱臭濾材を提案した。特許文献1の脱臭濾材は、ホットメルト樹脂からなる連結部と樹脂凝集部とで構成されたウエブの一方の表面に、前記樹脂凝集部を介して脱臭粉粒体を固着してなる脱臭濾材である。また、特許文献2の脱臭濾材は、ホットメルト樹脂からなる連結部と樹脂凝集部とで構成されたウエブの一方の表面に、前記樹脂凝集部を介して脱臭粉粒体を固着してなる積層単位を有し、前記ウエブの他方の表面と、他の積層単位を構成する脱臭粉粒体とが樹脂凝集部を介して固着してなることを特徴とする脱臭濾材である。しかし、その後、これらの脱臭濾材は広範な用途に使用されるようになり、より寿命の長い脱臭濾材が求められるようになってきた。
【0003】
また、半導体や液晶の生産施設、または半導体や液晶の周辺技術関連で用いるクリーンルーム等においては、生産施設内または該クリーンルーム内の空気や雰囲気に対して高い清浄度が要求されている。すなわち、このような空気や雰囲気中には有機系ガス状汚染物質や無機系ガス状汚染物質が含まれていたり、クリーンルーム構成部材や作業員等からも有機系ガス状汚染物質や無機系ガス状汚染物質が発生するため、このようなガス状汚染物質をできる限り除去する技術が求められている。
【0004】
ガス状汚染物質のうち二酸化硫黄のような酸性ガスは、アルミニウム配線層等金属部分に直接触れると空気中の水分の存在により腐蝕の原因になると言われている。また、アンモニアのような塩基性ガスが存在すると、化学増幅型レジストの生成プロトンを消耗して、パターン解像度低下の原因になったり、ガラスやミラー表面上に吸着または反応して析出物を生成し、トラブルを起こすと言われている。
【0005】
また、ガス状汚染物質のうち極性の低い有機物質は、シリコンウェハやガラス基板表面上に物理吸着しても少量であれば表面洗浄や加熱により除去可能であるが、多量に存在すると除去は困難になる。そして、特に汚染物質のうち添加剤のような高沸点(例えば150℃以上)の有機物質及び/又は極性の高い有機物質は、ガス状となった後、シリコンウェハやガラス基板表面上に強固に吸着し、簡単には除去出来なくなる。例えば、高分子材料に対して用いられる可塑剤のフタル酸ジオクチルエステルはウェハ上への付着力が強く、既にウェハ上に付着している付着力の弱い物質を追い出して置き換わると考えられている。
【0006】
このような添加剤は、高分子材料等の機能性を向上させる為に添加される物質であり、たとえば可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、造核剤、発泡剤等がある。そして、これら添加剤の材質として、特に、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤、脂肪化エステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、フェノール系酸化防止剤、チオ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、UVA紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、リン系難燃剤等が問題となっている。
【0007】
そして、これら有機物質のウェハ表面への吸着を防止するには、クリーンルーム雰囲気中の該有機物質の濃度をできるだけ低いレベルで管理する必要があった。そこで、本出願人は、特許文献3に記載されるケミカルフィルタ用濾材を提案した。このケミカルフィルタ用濾材は、イオン交換樹脂層の下流に、該イオン交換樹脂より発生する汚染物質を吸着する物理吸着層を積層してなるケミカルフィルタ用濾材であり、被処理気体に対しイオン交換樹脂層の下流位置に物理吸着層を設けることにより、被処理気体はイオン交換樹脂層から発生する汚染物質を物理吸着層で除去でき、被処理気体中へ汚染物質を放出せずに酸性もしくは塩基性ガスの除去を実現できるという利点を有している。そして、前述のイオン交換樹脂層又は物理吸着層の具体例として、ホットメルト樹脂から成る連結部と樹脂凝集部とで構成されたウエブの一方の表面に、該樹脂凝集部を介してイオン交換樹脂粉粒体または物理吸着粉粒体を固着して成り、該ウエブの他方の表面と、他の積層単位を構成するイオン交換樹脂粉粒体と物理吸着粉粒体とが樹脂凝集部を介して固着している例が示されている。しかし、このようなケミカルフィルタ用濾材ではイオン交換樹脂の層は1層であり、従来のように2層設けたものと比較して寿命が約半分となり、効果の割にはコストが高くなるという問題があった。そこで、より寿命の長いケミカルフィルタ用濾材が求められていた。また、ケミカルフィルタ用濾材自体から発生する汚染物質を可能な限り除去するという課題に対する解決も十分とはいえなかった。
【0008】
【特許文献1】特開平11−76747号公報
【特許文献2】特開平11−253720号公報
【特許文献3】特開2002−248308号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題を解決して、脱臭濾材やケミカルフィルタ用濾材などのガス除去用濾材において、これらの濾材自体から発生する揮発性物質が少なく、且つこれらの濾材のガス除去寿命を長くすると共にガス除去能力の高いガス除去用濾材を提供することを課題とする。本発明者は、この課題を追求するにあたり、前述の脱臭粉粒体やイオン交換樹脂を連結しているホットメルト樹脂に注目して、鋭意研究した結果、ホットメルト樹脂からも多量の揮発性物質が発生していることを突き止め、その防止方法を検討することにより、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための手段は、請求項1に係る発明では、ガス除去粒子がホットメルト樹脂によって連結されてなるガス除去粒子層を有するガス除去用濾材であって、ダイナミックヘッドスペース法により80℃に加熱したときに、前記ホットメルト樹脂から発生する高沸点(150℃以上)の有機物質の量(n−ヘキサデカン換算量)が22μg/g・hr以下であることを特徴とするガス除去用濾材である。請求項1に係る発明により、脱臭濾材やケミカルフィルタ用濾材などのガス除去用濾材において、これらの濾材自体から発生する揮発性物質が少なく、且つこれらの濾材のガス除去寿命を長くすると共にガス除去能力の高いガス除去用濾材を提供することが可能となる。
【0011】
請求項2に係る発明では、前記ホットメルト樹脂から発生する高沸点(150℃以上)の有機物質の量(n−ヘキサデカン換算量)が11μg/g・hr以下であることを特徴とするガス除去用濾材である。請求項2に係る発明により、脱臭濾材やケミカルフィルタ用濾材などのガス除去用濾材において、特にこれらの濾材自体から発生する揮発性物質が少なく、且つこれらの濾材のガス除去寿命を長くすると共にガス除去能力の高いガス除去用濾材を提供することが可能となる。
【0012】
請求項3に係る発明では、前記ホットメルト樹脂がポリアミド系樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載のガス除去用濾材である。請求項3に係る発明では、水蒸気を用いてガス除去粒子を連結させることが可能となる。それゆえ、100℃を超える温度で活性が低下するようなイオン交換樹脂などからなるガス除去粒子に好適に用いることができる。また、ホットメルト不織布を用いて水蒸気による加熱処理を採用する場合にも、ポリアミド系樹脂が湿熱時に収縮切断し易い特性を持つため、溶融切断を効率的に行うことができる。
【0013】
請求項4に係る発明では、前記ガス除去粒子がイオン交換樹脂であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のガス除去用濾材である。請求項4に係る発明により、特にケミカルフィルタ用濾材として、ガス除去能力の高いガス除去用濾材を提供することが可能となる。また、イオン交換樹脂は有機性のガスをほとんど吸収しないので、本発明による効果が顕著である。
【0014】
請求項5に係る発明では、前記ガス除去粒子層が、前記ホットメルト樹脂からなる連結部と樹脂凝集部とで構成されたウエブの一方の表面に、該樹脂凝集部を介して前記ガス除去粒子を固着してなることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のガス除去用濾材である。請求項5に係る発明により、ガス除去用濾材として特に好ましい形態を得ることができる。
【0015】
請求項6に係る発明では、前記ガス除去粒子層が、複数の積層単位で構成され、該積層単位が前記ホットメルト樹脂から成る連結部と樹脂凝集部とで構成されたウエブの一方の表面に、該樹脂凝集部を介して前記ガス除去粒子を固着してなり、該ウエブの他方の表面と、他の積層単位を構成する他の前記ガス除去粒子とが樹脂凝集部を介して固着してなることを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載のガス除去用濾材である。請求項6に係る発明により、ガス除去用濾材として特に寿命の長い好ましい形態を得ることができる。
【0016】
請求項7に係る発明では、請求項1〜6の何れかに記載のガス除去用濾材をプリーツ加工し、前記ガス除去用濾材の周縁部に枠材を固着してなることを特徴とするガス除去エレメントであり、前記ガス除去用濾材がプリーツ折り加工されているので、板状の場合と比較して、極めて寿命が長く、圧力損失も低くなるという利点がある。
【0017】
請求項8に係る発明では、ガス除去粒子をホットメルト樹脂によって連結させてなるガス除去粒子層を有するガス除去用濾材を製造するにあたり、ダイナミックヘッドスペース法により80℃に加熱したときに、ホットメルト樹脂から発生する高沸点(150℃以上)の有機物質の量(n−ヘキサデカン換算量)が22μg/g・hr以下である前記ホットメルト樹脂を用いることを特徴とするガス除去用濾材の製造方法である。請求項8に係る発明により、請求項1〜6のガス除去用濾材を製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によって、臭気成分で汚染された流体を濾過して清浄化するための生活環境における空調機器に装着して用いる脱臭濾材や、半導体や液晶の生産施設やクリーンルームなどにおいて空気や雰囲気中に含まれるガス状汚染物質を除去するケミカルフィルタ用濾材などのガス除去用濾材において、これらの濾材自体から発生する揮発性物質が少なく、且つこれらの濾材のガス除去寿命を長くすると共にガス除去能力の高いガス除去用濾材を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係るガス除去用濾材及びその製造方法、並びにガス除去用濾材を用いたガス除去エレメントの好ましい実施の形態について詳細に説明する。ガス除去用濾材の製造方法については、ガス除去用濾材の説明の中で説明する。
【0020】
本発明のガス除去用濾材は、ガス除去粒子がホットメルト樹脂によって連結されてなるガス除去粒子層を有するガス除去用濾材である。厚さはプリーツ加工が容易となるように、厚さが0.2〜4mmのシート状物であることが好ましい。また、前記ガス除去粒子層の片面または両面に通気性のカバー材を有することが好ましい。また前記ガス除去粒子層の片面または両面に塵埃を除去する塵埃除去濾材を有した複合フィルタとすることが可能である。
【0021】
前記ガス除去用濾材の形態としては、例えば図1に示すように、ガス除去粒子(3)と、ガス除去粒子(3)を連結するホットメルト樹脂(10)、(10’)とからなるガス除去粒子層(8)の両面に、通気性のカバー材(5)が積層一体化されているガス除去用濾材(13)がある。この例では、ガス除去粒子(3)が熱接着性の繊維からなるホットメルト樹脂(10’)によって連結してシート状になったガス除去粒子層(8)の片面または両面にホットメルト樹脂(10)によって通気性のカバー材(5)が貼り合されている。
【0022】
このような構造のガス除去粒子層(8)を得るには、例えば、通気性を有し且つホットメルト樹脂成分からなるマット状物の空隙に、ガス除去粒子(3)を保持しておき、その後、加熱処理によって、ガス除去粒子(3)をマット状物に接着させて得ることができる。また例えば、通気性を有し且つホットメルト樹脂成分からなるマット状物の空隙に、ガス除去粒子(3)を保持しておき、その後、加熱処理によって、マット状物を溶融させ、ガス除去粒子(3)を連結させて得ることができる。このような通気性を有するマット状物としては、不織布、織物、膜、ろ紙、スポンジなどの多孔質体などが挙げられ、なかでも不織布は通気性が高いので好ましい。なお、本発明では上記マット状物をガス除去粒子を連結するホットメルト樹脂としている。
【0023】
前記構造のガス除去粒子層(8)を得る別の方法としては、例えば、短い繊維長を有するホットメルト樹脂からなる繊維とガス除去粒子(3)とを混合させた混合物を通気性のカバー材(5)の上に堆積させてシート状物を形成し、次いでこのシート状物を加熱処理によって、前記繊維に接着性を発現させるかまたは前記繊維を溶融させてホットメルト樹脂となし、このホットメルト樹脂によって、ガス除去粒子(3)を連結させて得ることができる。なお、この方法による場合は、前記繊維長は1〜15mmであることが好ましく、2〜10mmであることがより好ましい。
【0024】
ガス除去用濾材の別の形態としては、例えば図2又は図4に例示するように、ガス除去粒子(3)と、前記ガス除去粒子(3)を連結するホットメルト樹脂(以下、連結部と称する)(1)、(1’)、(10)、及び(10’)と凝集したホットメルト樹脂(以下、樹脂凝集部と称する)(2)及び(2’)とからなるガス除去粒子層(8)の両面に、通気性のカバー材(5)及び(5’)が積層一体化されているガス除去用濾材(13)がある。この例では、ガス除去粒子(3)がホットメルト樹脂(1)、(1’)、(10)、又は(10’)によって連結してシート状になったガス除去粒子層(8)に、通気性のカバー材(5)及び(5’)が積層一体化されている。より具体的には、ホットメルト樹脂からなる連結部(1)と樹脂凝集部(2)とで構成されたウエブの一方の表面に、樹脂凝集部(2)を介してガス除去粒子(3)が固着されている。
【0025】
ガス除去用濾材のさらに別の形態としては、例えば図3又は図5に例示するように、ガス除去粒子(3)及び(3’)と、前記ガス除去粒子(3)及び(3’)を連結するホットメルト樹脂(1)、(1’)、(1”)、(10)、(10’)及び(10”)と凝集したホットメルト樹脂(2)、(2’)及び(2”)とからなるガス除去粒子層8の両面に、通気性のカバー材(5)及び5’が積層一体化されているガス除去用濾材(13)がある。この例では、ガス除去粒子(3)及び(3’)がホットメルト樹脂(1)、(1’)、(1”)、(10)及び(10’)によって連結してシート状になったガス除去粒子層の積層単位(4)と(4’)とが積層されており、さらにこの積層物に、通気性のカバー材(5)及び(5’)がホットメルト樹脂(1)、(1’)、(10)、及び(10’)と凝集したホットメルト樹脂(2)、(2’)及び(2”)によって積層一体化されている。より具体的には、複数の積層単位(4)で構成され、積層単位(4)がホットメルト樹脂から成る連結部(1)と樹脂凝集部(2)とで構成されたウエブの一方の表面に、樹脂凝集部(2)を介してガス除去粒子(3)を固着してなり、該ウエブの他方の表面と、他の積層単位(4’)を構成するガス除去粒子(3’)とが樹脂凝集部(2”)を介して固着している。
【0026】
また、このような構造のガス除去用濾材を得る方法としては、例えば、図3又は図5に示すように積層単位(4)が2層以上である場合は、ホットメルト不織布(10)の表面にガス除去粒子(3)を配した後、加熱処理によって該ホットメルト不織布と該ガス除去粒子とが接する部分に樹脂凝集部(2)を形成し、かつ樹脂凝集部(2)と連結部(1)とからなるウエブを形成する第一の工程と、該ガス除去粒子のうち、該ウエブに固着されたガス除去粒子のみを残存せしめて積層単位(4)を形成する第二の工程と、積層単位(4)のガス除去粒子(3)に接してホットメルト不織布(10”)を積層し、続いて、ホットメルト不織布(10”)の表面にガス除去粒子(3’)を配した後、前記第一の工程と前記第二の工程とを順次行う方法がある。なお、ガス除去粒子層8の両表面となるホットメルト不織布(10)及び(10’)のかわりに、カバー材(5)及び(5’)にホットメルト不織布を付着させたシートを用いることにより、通気性のカバー材(5)及び(5’)を積層一体化したガス除去用濾材(13)とすることができる。
【0027】
ガス除去用濾材のさらに別の形態としては、例えばガス除去粒子がホットメルト樹脂で互いに接合されてシート状となったガス除去粒子層の両面に、通気性のカバー材が積層一体化されているガス除去用濾材がある。このような構造のガス除去粒子層を得るには、例えば、ガス除去粒子とホットメルト樹脂粉末とを混合した後、カバー材に挟持して、加熱処理によってガス除去用濾材とする方法がある。
【0028】
上述の、図2〜図5の形態であれば、特に低圧力損失でしかもガス除去粒子の表面が有効に利用されるので、人体に有害なガスまたは臭気を有するガス、並びにクリーンルームなどに有害なガスに対して優れたガス除去効率を呈することができる。また、このような構造を有するガス除去用濾材は、ガス除去粒子が高密度で存在しながら、柔軟性に優れるので、プリーツ加工がし易いという利点がある。
【0029】
本発明に適用されるガス除去粒子は、生活環境での不快な臭気物質の除去などに用いる、或いは半導体や液晶の生産施設やクリーンルームなどにおいて空気や雰囲気中に含まれるガス状汚染物質を除去するために用いる、ガス状物質を吸着したり、ガス状物質を吸着しやすい物質に変化させたりすることのできる固体粒子を適用することが可能である。このような固体粒子としては、例えば活性炭や、ゼオライト、種々の化学吸着剤、イオン交換樹脂、光触媒などの触媒などがあり、これらの中から一種又は二種以上を適宜選択することができる。本発明では、多様なガス状物質を吸着する能力に優れる活性炭を選択することが可能であり、活性炭を選択した場合は比表面積が200m/g以上の多孔質のものが好ましく、500m/g以上のものがより好ましく、800m/g以上のものが更に好ましい。
【0030】
また、酸性ガスに対しては、酸性ガス除去剤を前記固体粒子に添着させて用いることが可能であり、アルカリ性ガスに対しては、アルカリ性ガス除去剤を前記固体粒子に添着させて用いることが可能である。前記酸性ガス除去剤としては、例えば炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩や、エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ピペラジンなどのアミン化合物が好適であり、この中で酸性ガスの除去能力に優れる炭酸カリウムおよび/または炭酸水素カリウムがより好適である。また、前述のアルカリ性ガス除去剤としては、例えば燐酸、硫酸、硝酸、リンゴ酸、クエン酸、アスコルビン酸などが好適であり、この中でアルカリ性ガスの除去能力に優れる燐酸がより好適である。
【0031】
次に、本発明に適用されるガス除去粒子として、例えば活性炭を選択した場合の効果について説明する。従来から、活性炭は有機性のガス状物質を吸着することが知られており、前記ガス除去粒子として、活性炭を選択した場合は、ホットメルト樹脂自体から揮発性物質が発生していたとしても、この発生した揮発性物質を吸着することが予測される。しかし、揮発性物質を吸着することによって、ガス除去粒子のガス吸着寿命は確実に短くなってしまう。これに対して、ホットメルト樹脂自体から発生する揮発性物質の少ない本発明のガス除去用濾材では、濾材のガス除去寿命が長く保たれるという利点を有している。また、従来技術においては、ガス除去粒子よりも下流側に、ホットメルト樹脂の少なくとも一部が配置される場合は、この部分のホットメルト樹脂から揮発性物質が発生すると、ガス除去粒子によって、この揮発性物質を吸着することは不可能であった。これに対して、ホットメルト樹脂自体から発生する揮発性物質の少ない本発明のガス除去用濾材では、濾材自体から発生する揮発性物質が少ないという利点を有している。
【0032】
次に、本発明に適用されるガス除去粒子として、例えばイオン交換樹脂を選択した場合の効果について説明する。従来から、イオン交換樹脂は有機性のガス状物質を吸着することができないことが知られており、前記ガス除去粒子として、イオン交換樹脂を選択した場合は、ホットメルト樹脂自体から揮発性物質が発生していたとしても、この発生した揮発性物質を吸着することができない。これに対して、ホットメルト樹脂自体から発生する揮発性物質の少ない本発明のガス除去用濾材では、前記ガス除去粒子として、イオン交換樹脂を選択することにより、濾材自体から発生する揮発性物質が少ないという効果を顕著に得ることができる。
【0033】
本発明では、前記ガス除去粒子の粒径は、高効率と低圧損とを共に実現するために平均粒径を0.147mm(100メッシュ)〜1.65mm(10メッシュ)とすることが好ましい。また、平均粒径を0.212mm(70メッシュ)〜1.0mm(16メッシュ)とすることがより好ましい。平均粒径が0.147mm(100メッシュ)未満の細かい平均粒径のガス除去粒子を用いると、ガス除去効率を高く採れる反面、圧力損失が大きくなってしまうという問題が生じる場合がある。また、平均粒径が1.65mm(10メッシュ)を超える粗い平均粒径のガス除去粒子を用いると、ガス除去効率が不十分になる場合がある。
【0034】
本発明では、ガス除去粒子層において、ガス除去粒子がホットメルト樹脂によって連結されている。ホットメルト樹脂としては、ダイナミックヘッドスペース法により80℃に加熱したときに、前記ホットメルト樹脂から発生する高沸点(150℃以上)の有機物質の量(n−ヘキサデカン換算量)が22μg/g・hr以下である限り、特に限定されず、例えば、熱可塑性ポリアミド系樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、またはポリオレフィン変性樹脂などを、各々、単独または混合して用いることができる。ここで云うポリオレフィン変性樹脂としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体の鹸化物、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−マレイン酸共重合体、アイオノマー樹脂(エチレン−メタクリル酸共重合体に金属を付加した感熱性樹脂)などが挙げられる。これらのホットメルト樹脂のなかでも、湿熱で溶融するタイプの樹脂が好ましく、例えば熱可塑性ポリアミド系樹脂であれば、水蒸気を用いてガス除去粒子を連結させることが可能となる。それゆえ、100℃を超える温度で活性が低下するようなイオン交換樹脂などからなるガス除去粒子に好適に用いることができる。また、ホットメルト不織布を用いて水蒸気による加熱処理を採用する場合にも、熱可塑性ポリアミド系樹脂であれば、当該樹脂が湿熱時に収縮切断し易い特性を持つため、溶融切断を効率的に行うことができる。
【0035】
前記ホットメルト樹脂の融点は60〜140℃であることが好ましく、前記ホットメルト樹脂の融点は90〜125℃であることがより好ましい。融点が60℃未満であるとガス除去用濾材の保存中や輸送中或いは使用中に、融点を超える雰囲気温度となる場合に変形するという問題がある。また、融点が140℃を超えると加工中にガス除去粒子自体の変質が生じる場合がある。また、前記ホットメルト樹脂としては、160℃におけるメルトインデックスが20(g/10分)以上500(g/10分)以下のものを選択することが好ましい。この好適範囲よりも低いメルトインデックスの樹脂は、加熱処理時に流動性が低く、熱処理時に樹脂凝集部が形成されにくく、ガス除去粒子の固着が不完全となる場合がある。さらに、上記範囲よりも高い樹脂では、加熱処理時の流動性が高く、加工がし難くなる場合がある。
【0036】
本発明では、ダイナミックヘッドスペース法により80℃に加熱したときに、前記ホットメルト樹脂から発生する高沸点(150℃以上)の有機物質の量(n−ヘキサデカン換算量)が22μg/g・hr以下であることを必要とする。また、前記ホットメルト樹脂から発生する高沸点(150℃以上)の有機物質の量(n−ヘキサデカン換算量)が11μg/g・hr以下であることが好ましく、5μg/g・hr以下であることがより好ましく、1.0μg/g・hr以下であることが更に好ましい。高沸点(150℃以上)の有機物質の量(n−ヘキサデカン換算量)が22μg/g・hrを超えると、これらの濾材自体から発生する揮発性物質が多くなり、要求されるガス除去用濾材を得ることができなかったり、ガス除去用濾材のガス除去寿命を長くすることができなかったり、あるいはガス除去能力の高いガス除去用濾材を得ることができない。また、下限としては、例えば検出限界の1pg/g・hrを挙げることができる。
【0037】
次に、ダイナミックヘッドスペース法について図6を用いて説明する。図6はこの方法に用いる発生ガス捕集装置(ジーエルサイエンス(株)製 MSTD−258M)の説明図である。本発明ではこのダイナミックヘッドスペース法を用いて、80℃の高温下で揮発成分の発生量を測定する。まず、ガス除去用濾材を直径7cmの円形に切り試料(9)とする。この試料(9)をチャンバー(14)内の中央のガス吹き出し口(15)の上に設置する。次に、清浄なヘリウムガス(11)をチャンバー(14)内に流速120ml/minで連続的に流通させながらチャンバー(14)内が80℃になるように加熱する。ヘリウムガス(11)は試料(9)と接触する際、試料(9)から発生する物質がヘリウムガス中に混入するので、気体濃度が平衡になった後、捕集速度100ml/minで固体吸着剤(12)(成分;2,6-diphenylene oxide)に捕集する。次いで、固体吸着剤(12)に捕集した物質をガスクロマトグラフ質量分析計((株)島津製作所製 QP−5050)で分析し、高沸点(150℃以上)の有機物質の量について、n−ヘキサデカン換算により、発生ガス量を定量する。
【0038】
なお、前述のダイナミックヘッドスペース法では、測定の対象とする試料が濾材であったが、測定の対象とする試料がホットメルト樹脂である場合は、より簡易な方法を採用することが可能である。この方法では、まず、ホットメルト樹脂0.02gを内径5mmのガラスのチューブに挿入して、このガラスのチューブ全体が80℃になるように加熱する。次いで、このガラスのチューブにヘリウムガスを通すことにより、ホットメルト樹脂から発生する物質を加熱脱着させ、さらにコールドトラップする。次いで、ガスクロマトグラフ質量分析計((株)島津製作所製 QP−5050)で分析し、高沸点(150℃以上)の有機物質の量について、n−ヘキサデカン換算により、発生ガス量を定量する。
【0039】
また、本発明のガス除去用濾材中に、ガス除去粒子とホットメルト樹脂が占める割合は、ガス除去粒子が60〜98質量%と、ホットメルト樹脂が40〜2質量%とからなることが好ましく、ガス除去粒子が70〜95質量%と、ホットメルトが30〜5質量%とからなることがより好ましく、ガス除去粒子が80〜95質量%と、ホットメルト樹脂が20〜5質量%とからなることが更に好ましい。ガス除去粒子が60質量%未満の場合、ガス除去効率が低下する場合がある。また、ホットメルト樹脂が2質量%未満の場合、ガス除去粒子を充分に連結することができずに、ガス除去粒子が脱落する場合がある。
【0040】
前記カバー材としては、通気性のある素材である限り特に限定されず、例えば、織物、編物、ネットまたは不織布などの繊維基材を適用することができるが、揮発性物質の発生の少ない繊維基材であることが好ましい。この中でも、不織布であれば、繊維表面の総面積を広く効率良く利用でき、且つ繊維同士によって形成される小さな空隙を多数有しているので、特に好ましい。
【0041】
前記繊維基材としての不織布(以下、不織布基材と称する)も特に限定されず、不織布基材の構造としては、例えば繊維長15〜100mmの、捲縮数5〜30個/インチを有する通常ステープル繊維と呼ばれる繊維をカード機やエアレイ装置などを使用して、繊維ウエブに形成した後、接着性繊維または接着剤を用いて構成繊維を接着によって結合する方法による、一般的に乾式法と呼ばれる製法によって得られる不織布がある。
【0042】
また、乾式法に限らずに任意の不織布の製法により、例えば湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法、静電紡糸法又はフラッシュ紡糸法などによって形成される不織布を適用することができる。また、スパンボンド法による場合は、例えば熱可塑性樹脂からなる繊維をノズルより紡出させて長繊維からなる繊維フリースとした後、凹凸を有する加熱ロールと平滑ロールとの間で繊維フリースを加圧しながら通過させることにより、部分的に熱可塑性樹脂からなる繊維が融着した不織布基材とする方法がある。
【0043】
前記不織布基材を構成する繊維は、特に限定されず、熱可塑性樹脂からなる合成繊維、レーヨンなどの半合成繊維、綿およびパルプ繊維などの天然繊維、あるいは金属などの無機繊維を適用することが可能であるが、揮発性物質の発生の少ない繊維が好ましく、また耐久性や加工性などの点を考慮すると、熱可塑性樹脂からなる繊維が好ましい。熱可塑性樹脂からなる繊維としては、不織布の製造で一般的に用いられる合成繊維があり、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系繊維、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系繊維、ポリアクリロニトリルなどのアクリル系繊維およびポリビニルアルコール系繊維などを挙げることができる。
【0044】
前記繊維基材はガス除去粒子の脱落などを防ぐことができる限りは、可能な限り通気性があることが好ましい。具体的には、例えば前記繊維基材の面密度は5〜50g/mであることが好ましく、10〜40g/mであることがより好ましい。
【0045】
本発明のガス除去用濾材の厚さは、プリーツ加工を施すことを考慮すると、0.2〜4mmであることが好ましく、0.3〜3mmであることがより好ましく、0.4〜2mmであることが更に好ましい。0.2mm未満であるとガス除去効率が不十分となる場合がある。また、4mmをこえると、プリーツ加工を施したときに、気体の濾過に寄与しないか又は寄与が極めて少ない部分(以下、デッドスペースと称する)が多くなり、かえってガス除去効率が不十分となる場合がある。また、ガス除去粒子の平均粒径とガス除去用濾材の厚さの関係としては、前記ガス除去粒子の平均粒径が前記ガス除去用濾材の厚さの0.1〜1.0倍であることが好ましい。また、前記ガス除去粒子の平均粒径が前記ガス除去用濾材の厚さの0.2〜0.8倍であることがより好ましい。なお、厚さは、単位面積当たりの加重が0.5g/mにおける厚さをいう。
【0046】
本発明のガス除去エレメントは、前記ガス除去用濾材がプリーツ折り加工されてなる。具体的には、本発明のガス除去エレメントは、図7に例示するように、ガス除去用濾材(21)がプリーツ加工されており、枠材(22a)によってプリーツ形状が保持されてなるフィルタエレメント(20)である。なお、図7では、プリーツ加工されたフィルタ(21)の、プリーツの峰線方向と交叉する端面に、枠材(22b)が矢印Aの方向に装着する態様も例示している。ガス除去用濾材のプリーツ加工は、ジグザグ形状に折られている限り限定されず、この折り加工方法としてはレシプロ式やロータリー式などのプリーツ加工機による方法や、ジグザグ形状に成形された押型でプレスする方法などがある。
【0047】
また、枠材としては、プリーツ形状を保持することができる限り、特に限定されず、例えば織編物、不織布、合成樹脂シート、発泡シート、紙、金属材料またはこれらの複合物などのシート状物を適用することができる。このうち特に不織布であれば、強度に優れると共に、フィルタエレメントを剛性枠に装着する際にクッション性に優れ、剛性枠との間のシール性に優れるので好ましい。具体的には、これらのシート状物を、熱融着させたり、接着剤や接着性シートを介して接着することにより、プリーツの峰線方向と交叉する端面に、装着することができる。なお、保形部材としては、シート状物に限らず、発泡性樹脂等を付着させて発泡して形成することなども可能である。また、保形部材は、プリーツの峰線方向と交叉する端面以外にも、峰線方向と平行な端面にも装着することが可能である。
【0048】
前記プリーツ加工前に、或いはプリーツ加工後に、図7に例示するように、ガス除去用濾材(21)に、プリーツの峰線方向と交叉する方向に、間隔をおいて平行に、線状のホットメルト樹脂を付着させたセパレータ(24)を設けて、プリーツの山の斜面が接触してデッドスペースとなることを防ぐことも好ましい。線状のホットメルト樹脂の付着は、これらの図のように、断続的としてプリーツの山の峰に設けて、プリーツの谷部には設けないようにすることも好ましく、またガス除去用濾材の上流側にのみ設けることも好ましい態様である。
【0049】
また、ガス除去エレメントの全体の大きさは、自動車用や家庭用空気清浄機などの生活環境における空調機器に装着して使用されるガス除去エレメントの場合、空気の流入面の一辺の寸法が80〜500mmが好ましく、100〜400mmがより好ましく、150〜300mmが更に好ましい。また、奥行は5〜100mmが好ましく、8〜50mmがより好ましく、10〜30mmが更に好ましい。また、ビル、工場、事務所などに設置される空気清浄装置に、パッケージフィルター、ファンコイルユニット、中央空調用フィルタユニット等のガス除去フィルタとして使用されるガス除去エレメントの場合、空気の流入面の一辺の寸法が200〜1500mmが好ましく、300〜1000mmがより好ましく、400〜700mmが更に好ましい。また、奥行は10〜500mmが好ましく、20〜400mmがより好ましく、30〜300mmが更に好ましい。
【0050】
前記ガス除去エレメントを空調装置に適用する場合はガス除去エレメントを剛性枠に装着して用いることができる。この剛性枠は剛性のある材質である限り特に限定されず、木材、金属、プラスチック等が適用され、数回の洗浄再生の後に焼却、廃棄される場合は木材が好ましい。
【0051】
以上説明したように、本発明によって、臭気成分で汚染された流体を濾過して清浄化するための生活環境における空調機器に装着して用いる脱臭濾材や、半導体や液晶の生産施設やクリーンルームなどにおいて空気や雰囲気中に含まれるガス状汚染物質を除去するケミカルフィルタ用濾材などのガス除去用濾材において、これらの濾材自体から発生する揮発性物質が少なく、且つこれらの濾材のガス除去寿命を長くすると共にガス除去能力の高いガス除去用濾材を提供することが可能となった。また、ガス除去用濾材がプリーツ折り加工されてなるガス除去エレメントを提供することが可能となった。
【0052】
以下、本発明の実施例につき説明するが、これは発明の理解を容易とするための好適例に過ぎず、本発明はこれら実施例の内容に限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
(塵埃除去用濾材の圧力損失試験方法)
初期の圧力損失(Pa)は風速0.1m/secにて測定した値を用いる。
【0054】
(原材料調整1)
A社製の熱可塑性ポリアミド系樹脂A(融点:95〜100℃、160℃におけるメルトインデックス:49g/10min)を準備した。この熱可塑性ポリアミド系樹脂Aから発生する高沸点(150℃以上)の有機物質の量(n−ヘキサデカン換算量)をダイナミックヘッドスペース法により測定すると、0.4μg/g・hrであった。
次に、この熱可塑性ポリアミド系樹脂Aを溶融紡糸して、面密度20g/mの蜘蛛の巣状のホットメルト不織布Aを形成した。
また、このホットメルト不織布Aを形成した後、直ちに繊維径10〜30μm、面密度20g/m、厚さ0.12mm、圧力損失1.0Pa(風速10cm/s)のポリエステル繊維からなるスパンボンド不織布の上に積層した。ホットメルト不織布Aは冷却されると同時にスパンボンド不織布に付着して、ホットメルト不織布Aが付着した面密度50g/mのカバー材Aを得た。
【0055】
(原材料調整2)
B社製の熱可塑性ポリアミド系樹脂B(融点:115℃、160℃におけるメルトインデックス:90g/10min)を準備した。この熱可塑性ポリアミド系樹脂Bから発生する高沸点(150℃以上)の有機物質の量(n−ヘキサデカン換算量)をダイナミックヘッドスペース法により測定すると、30μg/g・hrであった。
次に、この熱可塑性ポリアミド系樹脂Bを溶融紡糸して、面密度20g/mの蜘蛛の巣状のホットメルト不織布Bを形成した。
また、このホットメルト不織布Bを形成した後、直ちに繊維径10〜30μm、面密度20g/m、厚さ0.12mm、圧力損失1.0Pa(風速10cm/s)のポリエステル繊維からなるスパンボンド不織布の上に積層した。ホットメルト不織布Bは冷却されると同時にスパンボンド不織布に付着して、ホットメルト不織布Bが付着した面密度50g/mのカバー材Bを得た。
【0056】
(実施例1)
図4に示すように、原材料調整1で準備した面密度50g/mのカバー材Aのホットメルト不織布(10)の表面に、球状をした平均粒径600μmのアニオン交換樹脂からなるガス除去粒子(3)を散布する。続いて、約5Kg/cmの水蒸気処理をカバー材(5)側(ホットメルト不織布(10)側)から約7秒間行い、ホットメルト不織布(10)を可塑化溶融して、ホットメルト樹脂からなる連結部(1)と樹脂凝集部(2)とで構成されたウエブに、樹脂凝集部(2)を介してガス除去粒子(3)を固着させた。続いて、固着したガス除去粒子以外のガス除去粒子を除去することにより、面密度280g/mのガス除去粒子(3)が固着され、しかもカバー材(5)と接着された積層単位(4)を得た。
次に原材料調整1で準備したホットメルト不織布Aが付着した面密度50g/mのカバー材Aである(5’)を、ホットメルト不織布(10’)側が積層単位(4)に接するようにして積層単位(4)の上に積層した。次いで、一対の加熱ロールに、この積層物を通して、ホットメルト不織布(10’)を可塑化溶融して、ホットメルト樹脂からなる連結部(1’)と樹脂凝集部(2’)とで構成されたウエブに、樹脂凝集部(2’)を介してガス除去粒子(3)を固着させて面密度380g/m、厚さ0.8mmのガス除去用濾材(13)を得た。このガス除去用濾材(13)から発生する高沸点(150℃以上)の有機物質の量(n−ヘキサデカン換算量)をダイナミックヘッドスペース法により測定すると、0.4μg/m・minであった。また、この発生した高沸点(150℃以上)の有機物質の量(n−ヘキサデカン換算量)をホットメルト樹脂の単位質量当たりに換算すると、0.6μg/g・hrであった。
【0057】
次いで、得られたガス除去用濾材を用いて、図7に示すように、ガス除去エレメント(21)の全体の大きさが枠材側225mm×枠材と垂直な側235mmのガス除去エレメントとなるように、またプリーツの山高さHが約29mm、プリーツの山の間隔が約6mm、山数37個となるように、プリーツを形成した後、不織布からなる枠材(24)の片面にホットメルト樹脂シートを貼りあわせた枠材(24)を準備して、図7に示す矢印Aの方向に枠材(24)を固着して、フィルタエレメントを得た。実施例1の評価結果を表1に示す。
【0058】
(比較例1)
実施例1において、原材料調整1で準備したホットメルト不織布Aおよびカバー材Aの替わりに、原材料調整2で準備したホットメルト不織布Bおよびカバー材Bを用いたこと以外は実施例1と同様にして、面密度380g/m、厚さ0.8mmのガス除去用濾材(13)を得た。このガス除去用濾材(13)から発生する高沸点(150℃以上)の有機物質の量(n−ヘキサデカン換算量)をダイナミックヘッドスペース法により測定すると、21μg/m・minであり、ホットメルト樹脂から発生する高沸点(150℃以上)の有機物質の量(n−ヘキサデカン換算量)は31μg/g・hrであった。比較例1の評価結果を表2に示す。
【0059】
(実施例2)
図5に示すように、原材料調整1で準備した面密度50g/mのカバー材Aのホットメルト不織布(10)の表面に、球状をした平均粒径600μmのアニオン交換樹脂からなるガス除去粒子(3)を散布する。続いて、約5Kg/cmの水蒸気処理をカバー材(5)側(ホットメルト不織布(10)側)から約7秒間行い、ホットメルト不織布(10)を可塑化溶融して、ホットメルト樹脂からなる連結部(1)と樹脂凝集部(2)とで構成されたウエブに、樹脂凝集部(2)を介してガス除去粒子(3)を固着させた。続いて、固着したガス除去粒子以外のガス除去粒子を除去することにより、面密度280g/mのガス除去粒子(3)が固着され、しかもカバー材(5)と接着された1層目の積層単位(4)を得た。さらに、この状態の積層単位(4)に面密度20g/mのホットメルト不織布A(10”)を積層し、ガス除去粒子(3’)散布、水蒸気処理、並びに固着されていないガス除去粒子の除去を経て、面密度320g/mのガス除去粒子(3’)を有する2層目の積層単位(4’)を形成した。
次に原材料調整1で準備したホットメルト不織布Aが付着した面密度50g/mのカバー材Aである(5’)を、ホットメルト不織布(10’)側が積層単位(4’)に接するようにして積層単位(4’)の上に積層した。次いで、一対の加熱ロールに、この積層物を通して、ホットメルト不織布(10’)を可塑化溶融して、ホットメルト樹脂からなる連結部(1’)と樹脂凝集部(2’)とで構成されたウエブに、樹脂凝集部(2’)を介してガス除去粒子(3’)を固着させて面密度720g/m、厚さ1.3mmのガス除去用濾材(13)を得た。このガス除去用濾材(13)から発生する高沸点(150℃以上)の有機物質の量(n−ヘキサデカン換算量)をダイナミックヘッドスペース法により測定すると、0.6μg/m・minであった。また、この発生した高沸点(150℃以上)の有機物質の量(n−ヘキサデカン換算量)をホットメルト樹脂の単位質量当たりに換算すると、0.6μg/g・hrであった。
【0060】
次いで、得られたガス除去用濾材を用いて、図7に示すように、ガス除去エレメント(21)の全体の大きさが枠材側225mm×枠材と垂直な側235mmのガス除去エレメントとなるように、またプリーツの山高さHが約29mm、プリーツの山の間隔が約6mm、山数37個となるように、プリーツを形成した後、不織布からなる枠材(24)の片面にホットメルト樹脂シートを貼りあわせた枠材(24)を準備して、図7に示す矢印Aの方向に枠材(24)を固着して、フィルタエレメントを得た。実施例2の評価結果を表1に示す。
【0061】
(実施例3)
実施例2において、原材料調整1で準備したホットメルト不織布Aの替わりに、原材料調整2で準備したホットメルト不織布Bを用いたこと以外は実施例2と同様にして、面密度720g/m、厚さ1.3mmのガス除去用濾材(13)を得た。このガス除去用濾材(13)から発生する高沸点(150℃以上)の有機物質の量(n−ヘキサデカン換算量)をダイナミックヘッドスペース法により測定すると、10μg/m・minであった。また、この発生した高沸点(150℃以上)の有機物質の量(n−ヘキサデカン換算量)をホットメルト樹脂の単位質量当たりに換算すると、10μg/g・hrであった。実施例3の評価結果を表1に示す。
【0062】
(実施例4)
実施例2において、原材料調整1で準備したカバー材Aの替わりに、原材料調整2で準備したカバー材Bを用いたこと以外は実施例2と同様にして、面密度720g/m、厚さ1.3mmのガス除去用濾材(13)を得た。このガス除去用濾材(13)から発生する高沸点(150℃以上)の有機物質の量(n−ヘキサデカン換算量)をダイナミックヘッドスペース法により測定すると、21μg/m・minであった。また、この発生した高沸点(150℃以上)の有機物質の量(n−ヘキサデカン換算量)をホットメルト樹脂の単位質量当たりに換算すると、21μg/g・hrであった。実施例4の評価結果を表1に示す。
【0063】
(比較例2)
実施例2において、原材料調整1で準備したホットメルト不織布Aおよびカバー材Aの替わりに、原材料調整2で準備したホットメルト不織布Bおよびカバー材Bを用いたこと以外は実施例2と同様にして、面密度720g/m、厚さ1.3mmのガス除去用濾材(13)を得た。このガス除去用濾材(13)から発生する高沸点(150℃以上)の有機物質の量(n−ヘキサデカン換算量)をダイナミックヘッドスペース法により測定すると、31μg/m・minであった。また、この発生した高沸点(150℃以上)の有機物質の量(n−ヘキサデカン換算量)をホットメルト樹脂の単位質量当たりに換算すると、31μg/g・hrであった。比較例2の評価結果を表2に示す。
【0064】
表1

【0065】
表2

【0066】
表1及び表2から明らかなように、実施例1〜4及び比較例1〜2のガス除去用濾材から発生する高沸点の有機物質の量はホットメルト樹脂から発生する高沸点の有機物質の量にほぼ等しいことが分る。また、実施例1〜4のガス除去用濾材は、ホットメルト樹脂から発生する高沸点の有機物質の量が少なく、これに対して、比較例1〜2のガス除去用濾材は、ホットメルト樹脂から発生する高沸点の有機物質の量が多く、実施例1〜4のガス除去用濾材が比較例1〜2のガス除去用濾材よりも優れていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明のガス除去用濾材の一例を示す断面模式図である。
【図2】本発明のガス除去用濾材の別の一例を示す断面模式図である。
【図3】本発明のガス除去用濾材の別の一例を示す断面模式図である。
【図4】本発明のガス除去用濾材の別の一例を示す断面模式図である。
【図5】本発明のガス除去用濾材の別の一例を示す断面模式図である。
【図6】本発明のガス除去用濾材の定量に用いる発生ガス捕集装置の斜視図である。
【図7】本発明のガス除去エレメントの一例を示す斜視図である。また、枠材を矢印Aの方向に装着する態様を例示する図である。
【符号の説明】
【0068】
1,1’,1” 連結部(ホットメルト樹脂)
2,2’,2” 樹脂凝集部(ホットメルト樹脂)
3,3’ ガス除去粒子
4,4’ 積層単位
5,5’ カバー材
8 ガス除去粒子層
9 試料
10,10’,10” ホットメルト樹脂(ホットメルト不織布)
11 ヘリウムガス
12 固体吸着剤
13 ガス除去用濾材
14 チャンバー
15 ガス吹き出し口
20 フィルタエレメント
21 ガス除去用濾材
22a 枠材
22b 枠材
23 ひだ
24 セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス除去粒子がホットメルト樹脂によって連結されてなるガス除去粒子層を有するガス除去用濾材であって、ダイナミックヘッドスペース法により80℃に加熱したときに、前記ホットメルト樹脂から発生する高沸点(150℃以上)の有機物質の量(n−ヘキサデカン換算量)が22μg/g・hr以下であることを特徴とするガス除去用濾材。
【請求項2】
前記ホットメルト樹脂から発生する高沸点(150℃以上)の有機物質の量(n−ヘキサデカン換算量)が11μg/g・hr以下であることを特徴とするガス除去用濾材。
【請求項3】
前記ホットメルト樹脂がポリアミド系樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載のガス除去用濾材。
【請求項4】
前記ガス除去粒子がイオン交換樹脂であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のガス除去用濾材。
【請求項5】
前記ガス除去粒子層が、前記ホットメルト樹脂からなる連結部と樹脂凝集部とで構成されたウエブの一方の表面に、該樹脂凝集部を介して前記ガス除去粒子を固着してなることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のガス除去用濾材。
【請求項6】
前記ガス除去粒子層が、複数の積層単位で構成され、該積層単位が前記ホットメルト樹脂から成る連結部と樹脂凝集部とで構成されたウエブの一方の表面に、該樹脂凝集部を介して前記ガス除去粒子を固着してなり、該ウエブの他方の表面と、他の積層単位を構成する他の前記ガス除去粒子とが樹脂凝集部を介して固着してなることを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載のガス除去用濾材。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載のガス除去用濾材をプリーツ加工し、前記ガス除去用濾材の周縁部に枠材を固着してなることを特徴とするガス除去エレメント。
【請求項8】
ガス除去粒子をホットメルト樹脂によって連結させてなるガス除去粒子層を有するガス除去用濾材を製造するにあたり、ダイナミックヘッドスペース法により80℃に加熱したときに、ホットメルト樹脂から発生する高沸点(150℃以上)の有機物質の量(n−ヘキサデカン換算量)が22μg/g・hr以下である前記ホットメルト樹脂を用いることを特徴とするガス除去用濾材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−246318(P2008−246318A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−88724(P2007−88724)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】