説明

ガソリン用添加剤及びガソリンの製造方法

【課題】エンジンの出力性能、特に加速応答性に優れたガソリン用の添加剤、並びに、該ガソリンの製造方法を提供することである。更に、重質な芳香族炭化水素留分の配合量を減少させつつ、排気ガス中の有害成分を減少させつつ、エンジンの出力性能、特に加速応答性を向上させることである。
【解決手段】メチルシクロペンタンからなるガソリン用添加剤、並びに、ガソリンの基材に該ガソリン用添加剤を添加することを特徴とするガソリンの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン出力の性能が優れており、しかも排気ガス中の有害成分の増加を防止することができる、ガソリン用の添加剤、及びかかるガソリンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車には、排気ガスに含まれる有害物質が少なく、かつ燃費が良好なことが要求される。燃費を良くする一つの方法として、エンジンの圧縮比を高めて熱効率を向上させることが挙げられる。しかし、圧縮比の高いエンジンでは、ノッキングが起こりやすくなるため、オクタン価の高いガソリンが必要となる。高オクタン価のガソリンを製造するため、過去には、アンチノック剤であるアルキル化鉛をガソリンに添加してオクタン価を高める方法が採用されていた。しかし、いわゆる鉛公害問題に端を発して、アルキル化鉛の使用が問題になった。また、昭和50年から自動車に装着されるようになった触媒浄化装置の浄化性能に影響を及ぼさないガソリンが、要求されるようになった。このため、ガソリン中の成分を調整することによって製造した高オクタン価ガソリンが、生産・販売されるようになった。具体的には、ガソリンのオクタン価を向上させるため、高オクタン価を示す成分である重質の芳香族炭化水素留分の配合量を増加させてきた。
【0003】
しかし、近年、芳香族炭化水素成分が人体に及ぼす影響が問題となり、ガソリン中の芳香族炭化水素留分の配合量を減少させることが要求されてきている。このため、脂肪族炭化水素系の軽質でかつ高オクタン価を有する成分を配合したガソリンや、さらにはメチル−t−ブチルエーテル等の含酸素有機化合物を配合したガソリンが市販されるようになった。
【0004】
また、一般のガソリンにおいても、高オクタン価ガソリンと同様に、芳香族炭化水素成分が問題となってきており、芳香族炭化水素留分の配合量を減少させることが要求されてきている。このため、脂肪族炭化水素系の軽質成分を配合したガソリンが市販されるようになった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、軽質な脂肪族炭化水素や含酸素有機化合物をガソリン中に含有させると、エンジンの出力が低くなり、エンジン中での火炎速度が遅くなり、特に加速時には、軽質な脂肪族炭化水素や含酸素有機化合物が、重質な成分よりも優先してエンジン内に供給される結果、加速応答性が低くなることが判明してきた。
【0006】
本発明は、かかる問題を解決したものであり、本発明の課題は、エンジンの出力性能、特に加速応答性に優れたガソリン用の添加剤、並びに、かかるガソリンの製造方法を提供することである。本発明の課題は、更に、重質な芳香族炭化水素留分の配合量を減少させつつ、または排気ガス中の有害成分を減少させつつ、エンジンの出力性能、特に加速応答性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための手段としての本発明のガソリン用添加剤は、メチルシクロペンタンからなることを特徴とする。また、本発明のガソリンの製造方法は、ガソリンの基材に上記ガソリン用添加剤を添加することを特徴とし、メチルシクロペンタンを2容量%以上、95容量%以下含有し、芳香族炭化水素の含有量が40容量%以下のガソリンを製造することが好ましい。
【0008】
上記ガソリンの基材としては、原油の常圧蒸留により得られる直留ガソリンまたは軟質ナフサ、接触分解法、水素化分解法または熱分解法等で得られる分解ガソリン、接触改質法等で得られる改質ガソリン、イソブタン等の低級炭化水素にプロピレン等の低級オレフィンを付加してアルキル化することにより得られるアルキレート、軟質ナフサの異性化により得られるアイソメート等を使用することができる。さらには、ガソリンの基材中に、メチル−t−ブチルエーテル等の含酸素化合物等を包含させることができる。
【0009】
現在のところ、通常用いられているガソリン基材には、メチルシクロペンタンが最大限でも0.5容量%程度しか含まれていない。また、メチルシクロペンタンは、ガソリンの基材の精製の過程で混入ないし生成したものであって、特に添加剤として認識されていなかった。しかし、本発明者は、メチルシクロペンタンをガソリン中に2.0容量%以上添加し、ガソリンの排気試験および加速性能の試験を行ったところ、双方共に予想外に改善された特性を示すことを見いだし、本発明に到達した。即ち、メチルシクロペンタンを芳香族炭化水素の代わりにガソリン中に添加することによって、エンジンの排気ガスからの有害物質を減少させることができ、しかも加速性能を向上させうることを発見した。
【発明の効果】
【0010】
本発明のガソリン用添加剤が添加されたガソリンは、メチルシクロペンタンを含有させたことにより、排気ガス中の有害成分を増加させることなく、エンジンの出力性能、特に加速応答性を著しく向上させることができるという格別の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のガソリンの製造方法では、上記の通常用いられるガソリン基材に対して、別の工程で製造したメチルシクロペンタンを添加し、混合する必要がある。メチルシクロペンタンは、ベンゼンの核水素化反応における生成物の一つである〔石油学会誌、13,第286頁(1970年)〕。また、シクロヘキサンのアイソメリゼーションによってメチルシクロペンタンを得ることもできる〔米国化学会報、90.第933頁(1968年),石油学会誌,38,第286頁(1995年)〕。これらの反応による反応生成物をそのままガソリン基材に添加することができ、または、これらの反応生成物からメチルシクロペンタンを分離、精製し、ガソリン基材へと添加することができる。
【0012】
この場合、メチルシクロペンタン以外のアルキルシクロペンタン、シクロヘキセン、アルキルシクロヘキセン(メチルシクロヘキセン等)をガソリン中に含有させても良いが、沸点が高いもの、または、蒸気圧が高いものは、ガソリンのエンジン出力の改善には、さほど効果を奏しない。
【0013】
排気ガス中の有害物質を増大させることなく、ガソリンの発熱量を向上させ、特にその加速性能を向上させるという観点からは、ガソリン中のメチルシクロペンタン濃度を少なくとも2容量%とすることが必要である。より一層加速性能を向上させるためには、3容量%以上含有させることが好ましく、5容量%以上含有させることが一層好ましい。2容量%以上の範囲では、メチルシクロペンタンの含有量を多くするほど、ガソリンの出力は一層向上する。しかし、オクタン価向上成分や、リード蒸気圧調整成分を添加することを考慮すると、その上限は95容量%程度である。しかしながら、メチルシクロペンタンを多量に添加すると、ガソリンのコストが上昇するため、50容量%以下が好ましく、30容量%以下とすることが一層好ましい。但し、コストの問題がなければ95容量%程度まで添加しても構わないし、この条件では高いエンジン出力が得られることは言うまでもない。
【0014】
また、本発明の製造方法で製造されるガソリン中のベンゼン含有量は、1容量%以下にすることが、排気ガス中の有害成分を減少させるという観点から好ましい。この下限は特になく、0容量%とすることも考えられる。また、本発明の製造方法で製造されるガソリン中の芳香族炭化水素の含有量は、やはり排気ガス中の有害物質を削減するために40容量%以下とすることが好ましく、35容量%以下とすることがより一層好ましい。
【実施例】
【0015】
(実験例1:火災速度およびエンジン出力の測定)
「ASTM−CFR」ガソリンエンジンを用い、このエンジンの燃焼室内圧力を圧力ピックアップ(AVL社製、「8QPC」)で検出し、図示出力(エンジン出力)を燃焼解析装置(小野測器社製、「CB−466」)で測定した。更に、燃焼室側壁面に設置したスパークプラグ(日本電装社製)を用い、このスパークプラグに24Vの電圧を印加し、火炎の到達によりこのプラグに発生したイオン電流をオシロスコープにより検出し、点火プラグの発火時からイオン電流の検出されるまでの時間(火炎速度)を測定した。「ASTM−CFR」ガソリンエンジンの諸元を表1に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
試料としては、イソオクタン90容量%に、メチルシクロペンタン、ベンゼン、シクロヘキセン、シクロヘキサン、ヘキサンをそれぞれ10容量%加えたものを用意し、またイソオクタンのみのものを用意した。各試料について、前記のように、火炎速度およびエンジン出力を測定し、測定結果を表2に示した。表2において、「λ」は空気過剰率を示す。また、表2に示す値は、イソオクタンのみの試料については、絶対値で示した。他の試料については、次の相対値で示した。
〔(各試料についての火炎速度またはエンジン出力−イソオクタン試料についての火炎速度またはエンジン出力)/イソオクタン試料についての火炎速度またはエンジン出力〕
【0018】
【表2】

【0019】
表2の結果から分かるように、メチルシクロペンタンを添加した試料は、イソオクタンのみの場合やシクロヘキサン、ヘキサンをそれぞれ添加した試料と比較して、火炎速度もエンジン出力も大きく向上している。しかも、重質の添加剤であるベンゼンを添加した試料と比較して、火炎速度及びエンジン出力は、同等の効果を示すことが分かった。
【0020】
(実験例2:排気ガス中の有毒物質の測定)
電子燃料噴射制御装置および三元触媒が装備されている平成5年度登録の市販乗用車(排気量1.49リットル)を用い、シャーシダイナモメータ上で運転を行い、排気ガス中の有害物質の測定を行なった。この測定を実施する際には、「TRIAS 23−1991」に記載されている「ガソリン自動車1リットルモード排気ガス試験法」に則った方法で、排気ガスをコンスタントボリュームサンプラー(堀場製作所、「CVS−9100S」)でサンプリングし、ベンゼン量をガスクロマトグラフィー〔ヒューレット・パッカード社製、HP5890シリーズII;無極性キャピラリーカラム(0.32mmφ、長さ60m、膜厚1μm )、水素炎イオン検出器〕で定量し、11モード走行中の排出ベンゼン量を算出した。
【0021】
実験例1で調製した各試料に対して、更にそれぞれイソペンタンを3容量%添加して本実施例用の各試料を調製し、各試料について上記の測定を行なった。この結果を、表3に示す。
【0022】
【表3】

【0023】
ベンゼンを添加した試料については、排気ガス中に385mgもの量が検出されたが、メチルシクロペンタンを含有したガソリンを使用すると、この約1/9程度のベンゼンしか検出されておらず、これは、ヘキサン、イソオクタンを含有したガソリンを使用した場合とも大差ない。また、シクロヘキサンやシクロヘキセンを使用した場合と比べても、メチルシクロペンタンを使用した場合には排出ベンゼン量が顕著に減少した。このように、メチルシクロペンタンを含有したガソリンを使用すると、排気ガス中の有害物質の量は比較的少なくでき、特に重質の芳香族添加剤を使用した場合と比較すると、顕著に低減できる。
【0024】
(実験例3:ベースガソリンを使用した加速応答性の試験)
表4に示した性状を有するベースガソリンを準備した。また、このベースガソリンに対して、それぞれ所定量のメチルシクロペンタンを添加し、表4、表5に示すように、本発明に係る各試料3−1、3−2、3−3、3−4、3−5、3−6、3−7を作製した(各試料におけるメチルシクロペンタンの含有量が、それぞれ5.0、15、20、2.0、50、90または95容量%となるように調整した。また、試料3−6、3−7においては、イソペンタンを添加することによって、イソペンタンの含有量が3容量%となるように調整した)。これらの各ガソリンについて、加速応答性を試験した。また、比較のため、表4に示した性状を有するベースガソリンについて、メチルシクロペンタンを加えることなく、同様の試験を行った。
【0025】
【表4】

【0026】
【表5】

【0027】
表6に記載した諸元からなる市販型エンジンを恒温室に設置し、直流ダイナモメータにより制御しつつ、図1に示すモードでエンジンを運転した。ただし、図1の運転モードグラフにおいて、縦軸はスロットル開度(%)を表し、横軸は時間を(秒)を表す。エンジンを運転して、エンジンが十分に暖機した後の最大トルク(Tmh)と、コールドスタート時(エンジン冷間時)の最大トルク(Tmc)とを測定し、これらの比Tr(Tr=Tmc/Tmh)を求めて、加速応答性を評価した。これらの結果を表7に示した。
【0028】
【表6】

【0029】
【表7】

【0030】
この結果から明らかなように、メチルシクロペンタンを添加することにより、加速応答性が急激に良くなることが分かる。また、表4及び5に示す試料3−1〜3−7から、メチルシクロペンタン添加量を増やすと密度が増加しており、重質な成分として作用していることがわかる。
【0031】
(実験例4:接触改質ガソリンを使用した加速応答性の試験)
表8に示した性状を有する接触改質ガソリン90容量%に対して、メチルシクロペンタンを10容量%添加して、本発明例のガソリンを調製し、このガソリンについて加速応答性を試験した。また、比較のため、表8に示した性状を有する接触改質ガソリンに対して、メチルシクロペンタンの代わりに、ベンゼン、2,4−ジメチルペンタン、1−ヘキセンを添加することによって、各比較例のガソリンを調製し、各ガソリンについて同様の試験を行った。
【0032】
【表8】

【0033】
表6に記載した諸元からなる市販型エンジンを恒室温に設置し、実験例3と同様にして、加速応答性を評価した。ただし、加速性のデータは5回続けて測定した。これらの結果を表9に示す。
【0034】
【表9】

【0035】
この結果からわかるように、ガソリン中に特にメチルシクロペンタンを添加することによって、ベンゼンやジメチルペンタンを添加した場合と比較して、加速応答性が顕著に向上した。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実験例3及び4で行なった加速応答性評価のためのエンジンの運転モードを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルシクロペンタンからなるガソリン用添加剤。
【請求項2】
ガソリンの基材に請求項1に記載のガソリン用添加剤を添加することを特徴とするガソリンの製造方法。
【請求項3】
メチルシクロペンタンを2容量%以上、95容量%以下含有し、芳香族炭化水素の含有量が40容量%以下のガソリンを製造することを特徴とする請求項2に記載のガソリンの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−28529(P2006−28529A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291436(P2005−291436)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【分割の表示】特願平8−240455の分割
【原出願日】平成8年9月11日(1996.9.11)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【出願人】(591054554)株式会社ジョモテクニカルリサーチセンター (14)