説明

ガソリン組成物

【課題】オレフィン含有量、硫黄含有量が低く、優れた貯蔵安定性、環境保全性を有するとともに、芳香族炭化水素を増量することなく、RONが高く十分な実用性能を有するガソリン組成物を提供する。
【解決手段】リサーチ法オクタン価が96以上、硫黄含有量が10質量ppm以下、芳香族含有量が20〜40容量%、オレフィン含有量が15容量%以下、炭素数9の芳香族炭化水素の含有量が15容量%以下、炭素数9の芳香族炭化水素の含有量に対する1,2,4−トリメチルベンゼンと1,3,5−トリメチルベンゼンの合計含有量の比(容量)が0.53以上、及び含酸素化合物の含有量が0〜15容量%であるガソリン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境保全に配慮しつつ優れた運転特性を有するガソリン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化ガスの一つと考えられている二酸化炭素の排出量を削減するために、ガソリンのリサーチ法オクタン価(RON)を高めることが有効である。JIS K 2202には、RONが96.0以上の1号自動車ガソリンと89.0以上の2号自動車ガソリンが規定されており、前者は高性能なプレミアムガソリンとして、後者はレギュラーガソリンとして市販されている。従来、プレミアムガソリンは、接触改質ガソリン基材、メチル−t−ブチルエーテル(MTBE)のような100以上のRONをもつ基材、アルキレートガソリン基材、接触分解ガソリン軽質分のような93以上のRONをもつ基材を中心に、各種のガソリン基材を配合して製造されている。また、レギュラーガソリンは、接触分解ガソリン基材を中心に、芳香族炭化水素やRONの低い脱硫直留ナフサ等を添加し製造されている(非特許文献1参照)。
【0003】
一方、石油化学製品の海外需要増加等の事情により石油化学製品の増産の必要性が高まっており、石油化学原料である芳香族炭化水素を製造するため接触改質ガソリン製造装置の稼動が上がっているが、これに伴い副産物である重質芳香族炭化水素も大量に製造されている。この重質芳香族炭化水素は硫黄分をほとんど含まずRONが高いことからガソリン基材として有効である。しかし、このような沸点が高い重質基材を使用する場合、軽質炭化水素基材を一定比率以上混合してガソリン調製後の揮発性を一定範囲にすることが必要との混合バランス上の制約や、ガソリン中の重質芳香族炭化水素の配合量が多すぎるとガソリンエンジンの加速性や排ガス特性の悪化を招く等の問題があり、あまり多く使用することはできなかった。
【0004】
炭素数9の特定の芳香族炭化水素含有量を規定して、耐摩耗性や潤滑性を向上させる方法が開示されている(特許文献1参照)。また、芳香族炭化水素を削減することで排ガス特性を改善する方法についても開示されている(特許文献2参照)。しかしながら、RONの高い重質芳香族炭化水素留分をも削減させているため、RON、蒸気圧、蒸留性状(10、50、90容量%留出温度など)等を適切な範囲に維持できておらず、また、具体的な製造方法に関する開示も無い。
さらに、炭素数9以上の芳香族炭化水素の含有量を削減することで排ガス特性を改善したガソリン組成物についても開示されている(特許文献3参照)が、同様にRONの高い重質芳香族炭化水素留分を削減させているため、RON、蒸気圧等を適切な範囲に維持できておらず、しかも、具体的な製造方法に関する開示も無い。
【0005】
芳香族炭化水素と共にRONの向上に大きく寄与し、広く使用されているオレフィン類は、一般的に接触分解ガソリンやその他の各種分解ガソリンなどには多く含まれている(非特許文献2参照)。しかしながら、オレフィン化合物は光化学的に不安定であること、スラッジ分などの固体状化合物を析出させてしまうことなどの欠点があり貯蔵安定性に問題がある。また、オレフィン化合物のうち比較的低分子量のものについては、RONは高いものの蒸気圧も高い傾向があり、夏季用ガソリンの基材としてはその高い蒸気圧を相殺するために、蒸気圧の低い基材が必要とされることから、あまり多くを使用できない。また、芳香族炭化水素の多くが100以上のRONを有しているのに対して、オレフィン化合物は70程度から110程度まで幅があり、適切な留分を選定して使用する必要がある。
【0006】
オレフィンの他、RONの高い化合物として、イソパラフィンが挙げられる。イソパラフィンを選択的に製造してRONを向上させる方法として、炭化水素の骨格異性化が知られている(非特許文献3参照)。しかしながら、このような骨格異性化反応も、RONとしては90を超えるガソリン基材を製造するまでには至っておらず、芳香族化合物系のガソリン基材に置き換えることは困難である。
【0007】
異性化反応と同様にイソパラフィンを選択的に製造する方法として、アルキレーション反応を用いるプロセスがある。アルキレーション反応は、硫酸などの酸触媒を使用し、主に炭素数4のオレフィンとイソパラフィンとを反応させて炭素数8のイソパラフィンを製造する反応であり、既に多くのプロセスが世界中で稼動している(非特許文献4参照)。しかし、アルキレートガソリンは異性化ガソリンよりもRONはやや高いものの95程度であり、芳香族系の基材に置き換えられるレベルではない。また、原料として比較的高価な炭素数4の炭化水素化合物を使用しなければならないため、供給量やコストの制約からあまり大量に製造することができない。
【0008】
以上の状況を考慮しつつガソリン製造の実態に目を向けると、高いRONを有する芳香族炭化水素の製造方法としては、原油の常圧蒸留装置、水素化脱硫装置を経て得られた脱硫直留重質ナフサ留分を接触改質するプロセスが従来から広く用いられてきた。しかし、前述の通り、石油化学原料として芳香族炭化水素の需要が増えているため、新たな芳香族系のガソリン基材を製造するルートが望まれており、特に、安価でかつ今後の需要減少が予想されている重質炭化水素から芳香族炭化水素を選択的に製造することが望まれている。
その一方で、硫黄含有量が10質量ppm以下と低く、かつ、重質な芳香族炭化水素やオレフィンの含有量を上げることなく、RONが高く十分な実用性能を有するガソリン組成物、及びその製造方法が望まれている。
【特許文献1】特開2001−226683号公報
【特許文献2】特開2003−253276号公報
【特許文献3】特開2004−244532号公報
【非特許文献1】SAE Paper No.930143,March,1993,「Heavy Hydrocarbon/Volatility Study:Fuel Blending And Analysis for the Auto/Oil Air Quality Improvement Research Program」
【非特許文献2】日石レビュー、「ガソリン品質の市場調査結果」、第40巻第3号p26〜52、1998年8月発行
【非特許文献3】石油学会編、「石油精製プロセス」、p235〜245、講談社サイエンティフィック、1998年発行
【非特許文献4】石油学会編、「石油精製プロセス」、p209〜216、講談社サイエンティフィック、1998年発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、オレフィン含有量が15容量%以下、硫黄含有量が10質量ppm以下と低く、優れた貯蔵安定性、環境保全性に加え、芳香族炭化水素を特別に増量することなく、RONが高く十分な実用性能を有するガソリン組成物を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、重質油の水素化分解において、重質油に含まれる多環芳香族炭化水素を水素化分解して選択的に1環芳香族炭化水素を生成する選択的水素化分解で得られた生成油を配合したガソリンは運転性、加速性及び排ガス特性が良好であり、加えてRONが高いため燃費が改善されて環境負荷が低減されることを見出した。さらに、このガソリンの特性の改善は、選択的水素化分解生成油に含まれる1,3,5−トリメチルベンゼンや1,2,4−トリメチルベンゼンなどの炭素数9の芳香族炭化水素によることを見出した。
一般的に炭素数9の芳香族炭化水素は排ガス性状を悪化させると言われている(特許文献1〜3)。しかし、炭素数9の芳香族炭化水素の中でも1,3,5−トリメチルベンゼンや1,2,4−トリメチルベンゼンはそれぞれRONが120、111と極めて高く、かつ、低いリード蒸気圧(RVP)を有する。すなわち、これら特定の芳香族炭化水素の含有比率を高めたガソリン組成物は、蒸留性状とリード蒸気圧(RVP)の良好なバランスを保持しながら、オレフィンや芳香族炭化水素、さらには炭素数9の芳香族炭化水素の総量も上げずに、高いRON、低硫黄の環境対応型のガソリン組成物を調製することができる。
このように、本発明者らは、高いRONを有し、かつRVPが低く、蒸留性状も好ましい特定の炭化水素化合物を見出し、その含有量を制御することで、高いRONを維持したまま硫黄分やオレフィン分、芳香族分を低減し、優れた貯蔵安定性、環境保全性に加え、十分な実用性能を備えたガソリン組成物が得られることを見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりのガソリン組成物である。
(1)リサーチ法オクタン価が96以上、硫黄含有量が10質量ppm以下、芳香族含有量が20〜40容量%、オレフィン含有量が15容量%以下、炭素数9の芳香族炭化水素の含有量が15容量%以下、炭素数9の芳香族炭化水素の含有量に対する1,2,4−トリメチルベンゼンと1,3,5−トリメチルベンゼンの合計含有量の比(容量)が0.53以上、及び含酸素化合物の含有量が0〜15容量%であるガソリン組成物。
(2)炭素数9の芳香族炭化水素の含有量に対する1,3,5−トリメチルベンゼンの含有量の比(容量)が0.14以上である上記(1)に記載のガソリン組成物。
(3)硫黄分が1質量ppm以下、リード蒸気圧が44〜65kPaである上記(1)又は(2)に記載のガソリン組成物。
(4)オレフィン含有量が5.0容量%以下である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のガソリン組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、固体酸触媒存在下における多環芳香族炭化水素の選択的水素化分解反応により得られた1環芳香族炭化水素、特には、高いRONの1,2,4−トリメチルベンゼンと1,3,5−トリメチルベンゼンを特定量含有するガソリン組成物であるから、芳香族炭化水素やオレフィンの含有量を低減しながら高いRONを保持することができる。したがって、高いRONを維持したまま硫黄分やオレフィン分などを低減することが可能になり、優れた貯蔵安定性、環境保全性に加え、十分な実用性能を備えたガソリン組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
ガソリン組成物に含まれる炭化水素化合物のうち、芳香環を有するものを芳香族炭化水素(アロマともいう)、芳香族以外の形で不飽和結合を有するものをオレフィン、ナフテン環を有するものをナフテン、及びそれら以外の炭化水素化合物をパラフィンとする。また、パラフィンの内、直鎖状のものをノルマルパラフィン、分岐を有するものをイソパラフィンと分類する。
本発明のガソリン組成物を、以下に詳しく説明する。
【0014】
〔オクタン価〕
本発明によるガソリン組成物のリサーチ法オクタン価(RON)は96以上であり、好ましくは98以上、さらには100以上が好ましい。RONが96未満の場合は、とりわけ登坂加速時のノッキングや加速不良を起こす恐れがある他、燃費悪化の懸念から好ましくない。
【0015】
〔硫黄含有量〕
本発明によるガソリン組成物の硫黄含有量は、硫黄元素として10質量ppm以下、好ましくは5質量ppm以下、より好ましくは1質量ppm以下である。ガソリン中の硫黄分は、排ガス中で硫黄酸化物となり、エンジン排ガスを浄化する窒素酸化物除去触媒を被毒して触媒活性を低下させる。被毒した窒素酸化物除去触媒は、還元雰囲気下で再生されて活性を回復するが、このとき還元雰囲気を形成するために燃料が使用され、その分燃費が悪化する。したがって、ガソリン中の硫黄分が少ないほど燃費は向上する。さらに、ガソリン車両の燃料タンク液面計に銀合金が一部使用されていることから、硫黄化合物等による腐食を防止するためにも銀板腐食が1以下であることが望ましい。
【0016】
〔オレフィン含有量〕
本発明によるガソリン組成物中のオレフィン含有量は、光安定性及び貯蔵安定性の観点から少ない方が好ましく、15容量%以下であり、好ましくは12容量%以下、より好ましくは5容量%以下である。
【0017】
〔芳香族含有量〕
本発明によるガソリン組成物において、芳香族炭化水素の含有量は20容量%以上40容量%以下であり、好ましくは25容量%以上39容量%以下、より好ましくは30容量%以上39容量%以下である。排ガス性状や低温運転性維持の観点から芳香族分は少ない方が好ましいが、RONを維持するため及び燃費悪化防止の点から20容量%以上が好ましい。また、芳香族分が40容量%を超えると燃焼室デポジットが増加し、点火プラグのくすぶり発生や排ガス中のベンゼン濃度が高くなる恐れがある。また、ベンゼンの大気への拡散を抑制させるためには、ベンゼン含有量自体も1.0容量%以下が好ましく、さらに好ましくは0.1容量%以下である。
【0018】
〔炭素数9の芳香族炭化水素含有量〕
本発明によるガソリン組成物は、炭素数9の芳香族炭化水素(C9A)の含有量が15容量%以下であり、好ましくは10容量%以下、より好ましくは8容量%以下、特に好ましくは6容量%以下である。また、1,3,5−トリメチルベンゼン(135TMB)と1,2,4−トリメチルベンゼン(124TMB)の合計含有量とC9A含有量との容量比((135TMB+124TMB)/C9A)は0.53以上であり、好ましくは0.58以上、より好ましくは0.60以上である。また同様に、1,3,5−トリメチルベンゼン(135TMB)の含有量とC9A含有量との容量比(135TMB/C9A)は0.14以上が好ましく、さらに好ましくは0.16以上であり、特に好ましくは0.18以上である。排ガス性状にとってあまり好ましくないC9Aの総含有量を10容量%以下に削減しようとした場合、(135TMB+124TMB)/C9A比が0.53以上、好ましくは135TMB/C9A比(容量)が0.14以上と高くなければ、オクタン価、蒸留性状、蒸気圧等のガソリン性状を満足できなくなる。
【0019】
〔密度〕
本発明によるガソリン組成物において、密度は0.70〜0.78g/cmが好ましいが、より好ましくは0.71〜0.77g/cm、さらに好ましくは0.72〜0.76g/cmである。密度が0.70g/cm未満では、出力が低下するとともにガソリン消費量が多大となる。一方、0.78g/cmを越えると加速性の悪化やプラグのくすぶりを生じる可能性がある。
【0020】
〔蒸留性状〕
本発明によるガソリン組成物において、50%留出温度は75〜100℃であることが好ましく、より好ましくは75〜98℃、さらに好ましくは75〜96℃である。50%留出温度が75℃に満たない場合は、燃費の観点から好ましくなく、100℃を超える場合は、常温運転性が悪化する場合があるため好ましくない。10%留出温度は25〜60℃であることが好ましく、より好ましくは25〜50℃、さらに好ましくは26〜45℃である。10%留出温度が低すぎると軽質炭化水素類の大気への拡散の可能性があり、高すぎると低温始動性が悪化するため好ましくない。90%留出温度は135〜180℃であることが好ましく、より好ましくは140〜170℃、さらに好ましくは145〜165℃である。90%留出温度が低すぎると燃費の悪化が懸念され、高すぎると吸気バルブや燃焼室のデポジット増加や中低温運転性が悪化するため好ましくない。
【0021】
〔リード蒸気圧〕
本発明によるガソリン組成物において、37.8℃におけるリード蒸気圧(RVP)は44〜64kPaが好ましく、より好ましくは44〜63kPaである。RVPが高いと蒸発損失の増加、ベーパーロックの懸念、危険性の増加などの問題が起こりやすい。また、RVPが低いと低温始動性が悪化する。
【0022】
〔ガソリン組成物の製造方法〕
本発明のガソリン組成物の製造方法は特に限定されないが、上記の性状を満たすように複数のガソリン基材を適切な割合でブレンドすることによって製造することができる。
本発明のガソリン組成物を調製するに際して、従来のガソリン製造に用いられているガソリン基材を使用することができる。具体的には、直留ナフサ留分を水素化脱硫後、その軽質分を蒸留分離することにより得た脱硫直留軽質ナフサ留分(DSLG)、これを骨格異性化させた異性化ガソリン(ISO)、ブチレン留分とイソブタン留分をアルキル化して得たアルキレートガソリン(ALKG)、接触分解ナフサ留分(FCCG)あるいはそれを脱硫処理した脱硫接触分解ナフサ留分(DS−FCCG)、さらにその軽質留分を蒸留分離して得た接触分解軽質ナフサ留分(FL)、脱硫重質ナフサを固体改質触媒により改質して得た接触改質ガソリン、及び接触改質ガソリンを蒸留して得たベンゼン分を殆ど含有しない炭素数7を主成分とする留分(AC7)、同じく炭素数8を主成分とする留分(AC8)、あるいは炭素数9を主成分とする留分(AC9)、各種の石油精製工程や石油化学の工程から副生されるガソリン留分、さらに、単離されたブタン、ペンタン(特にイソペンタン(iC5))や、いわゆるBTXなどのアロマ化合物などが挙げられる。
さらに、接触分解軽質サイクル油(LCO)などのような多環芳香族炭化水素リッチな炭化水素を水素化分解して得られた選択的水素化分解生成油(SHC)を蒸留し、ベンゼン以下の軽質留分と炭素数10以上の芳香族炭化水素を含む高沸点留分を留去して得た選択的に1環芳香族炭化水素を高濃度で含有する選択的水素化分解ガソリン基材(SHCG)を用いることもできる。
なお、上記の各種の炭化水素留分について略号で示していないもの(例えば、ブタン、脱硫重質ナフサ、接触改質ガソリンなど)も本発明のガソリン組成物の基材として適宜用いることができることは断るまでもない。
【0023】
また、炭素数9の芳香族炭化水素の所定比率を調整する基材として、AC9を精密蒸留することにより実質的に124TMB(沸点169.4℃)からなるガソリン基材(124TMB−G)と135TMB(沸点164.9℃)からなるガソリン基材(135TMB−G)を分画して使用することもできる。
【0024】
さらに本発明で使用するガソリン基材として、エタノールなどのアルコールや、アルコールからの誘導体であるエーテル類やエステル類等の、いわゆる「含酸素化合物」が挙げられ、0〜15容量%含まれるように配合する。
【0025】
上記のガソリン基材の配合量は特に限定されるものではなく、製品ガソリン特性の観点から、適切な配合量を適宜選ぶことができる。
FCCGやDS−FCCGに関しては、比較的RONが高く安価に製造できるガソリン基材であるため、多い場合では80容量%程度まで使用されることもあるが、オレフィンの含有量がやや多いため、製品中のオレフィン含有量を低減させるためにはこれら基材の配合量を低減した方が好ましいこともある。その場合好ましい配合量としては10容量%以下、特には5容量%以下である。
【0026】
接触改質ガソリン、およびそれから誘導されるAC7、AC8、AC9については、本発明のガソリン組成物のように炭素数9の特定の芳香族炭化水素構成比率が制御されていないので少ない方が好ましく、好ましくは14容量%以下、特に好ましくは10容量%以下である。
【0027】
SHCGを使用する場合には、ガソリン組成物に対し、5容量%以上、好ましくは10容量%以上で、かつ、50容量%以下、より好ましくは45容量%以下使用する。5容量%未満では、炭素数9以下の芳香族炭化水素を前記特定組成比率に維持することが難しく、50容量%以上使用すると、芳香族分の増加により、点火プラグのくすぶり発生や排ガス性状が悪化する。
【0028】
含酸素化合物としては、例えば、炭素数2〜5のアルコール類、炭素数4〜8のエーテル類が好適であり、具体的には、エタノール、プロピルアルコール類、ブチルアルコール類などのアルコールや、アルコールからの誘導体であるエーテル類やエステル類、例えば、エチルイソプロピルエーテル、エチルターシャリーブチルエーテル(ETBE)、エチルセカンダリーブチルエーテル(ESBE)、ジイソプロピルエーテル、ターシャリーアミルエチルエーテル(TAEE)や、酢酸エチル、プロピオン酸エチル等が挙げられる。
【0029】
これらの含酸素化合物は、全ガソリン組成物基準で、0〜15容量%、好ましくは3〜12容量%、より好ましくは、5〜10容量%配合する。少なすぎると添加効果が少なく、また、多すぎると水分等の不純物を取り込みやすくなり、配管やシール材の腐食等のトラブルを引き起こすことがある。燃料中に含酸素化合物が多い場合、例えば15容量%を超える量が含まれると、既存エンジンの空気/燃料比の最適値から外れて酸素過剰気味となることから、排ガス中の窒素酸化物(NOx)の量が増加する傾向がある。
【0030】
(選択的水素化分解)
本発明のガソリン組成物の調製に用いることができる選択的水素化分解ガソリン基材(SHCG)について以下に説明する。
通常の水素化分解において芳香族炭化水素は多環芳香族炭化水素を含めて、ナフテン、オレフィン又はパラフィンに変換されるが、選択的に、すなわち1環芳香族炭化水素をできるだけ残すように水素化分解することを選択的水素化分解という。
選択的水素化分解の原料油として使用する炭化水素留分は、蒸留性状として10%留出温度が180℃以上、90%留出温度が350℃以下、好ましくは10%留出温度が190〜240℃、90%留出温度が260〜320℃である。このような基準で、2環芳香族炭化水素が多く、かつ3環芳香族炭化水素のアントラセンやフェナントレン(沸点339℃、340℃)が多く含まれないような原料を選択することができる。
【0031】
このようなものとしては、原油の常圧蒸留から得られる留出分、常圧残渣の減圧蒸留から得られる減圧軽油、各種の重質油の軽質化プロセス(接触分解装置、熱分解装置等)から得られる留出分、例えば接触分解装置から得られる接触分解油、特に重質サイクル油(HCO)や軽質サイクル油(LCO)、熱分解装置(コーカーやビスブレーキング等)から得られる熱分解油、エチレンクラッカーから得られるエチレンクラッカー重質残渣、接触改質装置から得られる接触改質油、特に接触改質油を抽出、蒸留、あるいは膜分離して得られる芳香族リッチな接触改質油(ここで、芳香族リッチな接触改質油とは、接触改質装置から得られる炭素数10以上でかつ芳香族化合物の含有量が50容量%を超えるものを指す)、潤滑油ベースオイルを製造する芳香族抽出装置から得られる留分、溶媒脱ろう装置から得られる芳香族リッチな留分などが挙げられる。その他、常圧蒸留残渣、減圧蒸留残渣、脱ろうオイルなどを精製する脱硫法又は水素化転化法から生ずる蒸留物等も用いることができる。上記の炭化水素留分のなかでも、接触分解油、熱分解油、エチレンクラッカー重質残渣、接触改質油が好ましく、特にLCOを好ましく用いることができる。
【0032】
選択的水素化分解反応に使用する触媒は、複合酸化物とそれを結合するバインダーとを含む担体に、周期律表の第6族および第8族から選ばれる少なくとも1種の金属成分を担持して調製することができる。選択的水素化分解触媒は、比表面積が100〜600m/g、好ましくは150〜550m/g、さらに好ましくは200〜500m/gであり、中央細孔直径が4〜12nm、好ましくは4.5〜11nm、さらには5.0〜10nmであり、細孔直径2〜60nmの範囲の細孔容積が0.1〜1.0mL/g、好ましくは0.15〜0.8mL/g、さらには0.2〜0.7mL/gであることが好ましい。
比表面積はASTM規格D3663−78に基づき窒素吸着によって求めたBET比表面積の値であり、また、中央細孔直径は、窒素ガス吸着法において相対圧0.9667の条件で得られる細孔直径2〜60nmの細孔容積の累積をVとするとき、各細孔直径の容積量を累積させた累積細孔容積曲線において、累積細孔容積がV/2となる細孔直径をいう。
【0033】
複合酸化物としては、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−マグネシア、シリカ−アルミナ−チタニア、シリカ−アルミナ−ジルコニア、酸化タングステン−ジルコニア、硫酸化ジルコニア、ゼオライトから選ばれる1種以上を組み合わせて用いることもできる。特に、複合酸化物としてシリカ−アルミナを用いる場合、シリカ/アルミナのモル比で1〜20になるように用いることが好ましい。
【0034】
前記ゼオライトとしてはX型やY型のゼオライトが好ましく、中でもUSYゼオライトを好適に用いることができる。USY型ゼオライトは、格子定数が2.43〜2.46nmの結晶性アルミノシリケートを用いることが好ましい。なお、格子定数とはX線回折法により得られた面間隔dの値より、次の式で算出される値である。
格子定数=d×(h+k+l)1/2
ここで、h、k、及びlはミラー指数を示す。
【0035】
結晶性アルミノシリケートに対して各種金属イオンを導入し、遷移金属含有結晶性アルミノシリケートや希土類含有結晶性アルミノシリケートとして、後述する選択的水素化分解反応に使用してもよい。
【0036】
バインダーとしては、アルミナ、シリカ−アルミナ、チタニア−アルミナ、ジルコニア−アルミナなど、多孔質でかつ非晶質のものを好適に用いることができる。バインダーの比表面積は30m/g以上であることが望ましい。
【0037】
バインダーの配合割合は、触媒を構成する複合酸化物とバインダーの合計質量に対して5〜70質量%、特には10〜60質量%とすることが好ましい。複合酸化物としてUSYゼオライトを用いる場合、触媒を構成する複合酸化物部分及びバインダー部分の合計質量に対するUSYゼオライトの質量は1〜80質量%、特には10〜70質量%とすることが好ましい。
【0038】
選択的水素化分解反応に使用する触媒は、周期律表の第6族および第8族から選ばれる金属を活性成分として含むが、第6族のモリブデン、タングステン、および第8族の鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金が特に好適に用いられる。これら金属の添加量は、水素化分解触媒中に占める第6族と第8族の金属元素の合計量が0.05〜35質量%、特には0.1〜30質量%となるように含有することが好ましい。金属としてモリブデンを用いる場合、その含有量は水素化分解触媒中5〜20質量%、特には7〜15質量%とすることが好ましい。また、タングステンを用いる場合、その含有量は水素化分解触媒中5〜30質量%、特には7〜25質量%とすることが好ましい。
【0039】
金属としてモリブデン又はタングステンを用いる場合には、さらに、コバルト又はニッケルを添加すると、活性金属の水素化機能が向上し一層好ましい。その場合のコバルト又はニッケルの合計含有量は、水素化分解触媒中0.5〜10質量%、特には1〜7質量%とすることが好ましい。
【0040】
選択的水素化分解反応用原料と水素化分解触媒とを、水素の存在下で、温度300〜480℃、好ましくは330〜450℃、より好ましくは340〜430℃で、圧力1〜10MPa、好ましくは2〜8MPa、液空間速度(LHSV)0.1〜10.0h−1、好ましくは0.1〜8.0h−1、より好ましくは0.2〜5.0h−1、水素/炭化水素(容積比)100〜5,000NL/L、好ましくは150〜3,000NL/Lで接触させる。以上の操作により、選択的水素化分解反応用原料中の多環芳香族炭化水素は分解され、所望の1環芳香族炭化水素に転化する。
【0041】
前述の操作により、原料油中に含まれる沸点215℃以上の留分の50容量%以上が215℃未満の留分へ転化され、原料油中に占める芳香族環を構成する炭素比率に対する生成油中に占める芳香族環を構成する炭素比率の比(芳香族環炭素残存比)が0.5以上、好ましくは0.6以上、特に好ましくは0.7以上である選択的水素化分解生成油が得られる。
選択的水素化分解生成油は、沸点215℃以下の炭化水素、すなわちナフタレン(沸点218℃)よりも軽質な炭化水素の含有量が50容量%以上であることが好ましく、より好ましくは60容量%以上、さらに好ましくは70容量%以上、もっとも好ましくは100%である。また、水素化分解処理によって得られる水素化分解油中の多環芳香族炭化水素の含有量は少ないほど好ましく、10容量%以下、さらに好ましくは7容量%以下である。
【0042】
水素化分解生成油は、その後、蒸留分離等により所望のガソリン基材にする。選択的水素化分解から得られる選択的水素化分解ガソリン基材(SHCG)としては、10%留出温度は90〜150℃、より好ましくは100〜130℃、90%留出温度は140〜180℃、より好ましくは150〜170℃であり、このような沸点範囲が得られるように蒸留条件を設定することにより、適切なRON、蒸気圧、蒸留性状を有する製品ガソリンを得ることができる。
【0043】
〔添加剤〕
本発明のガソリン組成物は、必要に応じて公知の燃料添加剤を配合することができる。これらの配合量は適宜選べるが、通常は添加剤の合計量として0.1質量%以下とすることが好ましい。本発明のガソリン組成物で使用可能な添加剤を例示すれば、アミン系、フェノール系、アミノフェノール系などの酸化防止剤、シッフ型化合物、チオアミド型化合物などの金属不活性化剤、有機リン系化合物などの表面着火防止剤、コハク酸イミド、ポリアルキルアミン、ポリエーテルアミンなどの清浄分散剤、多価アルコールやそのエーテルなどの氷結防止剤、有機酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩、高級アルコールの硫酸エステルなどの助燃剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤などの帯電防止剤、アルケニルコハク酸エステルなどのさび止め剤、キニザリン、クマリンなどの識別剤、アゾ染料などの着色剤を挙げることができる。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例により何ら制限されるものではない。
【0045】
実施例及び比較例のガソリン組成物の調製に、以下のようにして得たガソリン基材を用いた。それらの性状を表1に示す。
【0046】
イソペンタン留分(iC5)
イソペンタンを多く含む炭素数5が主体の留分である。脱硫重質ナフサの接触改質で副生する軽質留分、脱硫軽質ナフサ留分などを蒸留分離することにより、純度95%以上の炭素数5のイソパラフィン留分を得た。
【0047】
脱硫直留軽質ガソリン(DSLG)
中東系原油のナフサ留分を水素化脱硫後、蒸留処理することにより、脱硫直留軽質ガソリンと脱硫直留重質ガソリンに分離して得た。
【0048】
異性化ガソリン(ISO)
脱硫直留軽質ガソリン(DSLG)を固体酸触媒存在下、骨格異性化反応によりイソパラフィン分の高い異性化ガソリンを得た。
【0049】
接触分解軽質ナフサ留分(FL)
脱硫軽油あるいは脱硫重油を原料に用い、固体触媒存在下、流動床式反応装置での接触分解反応によりオレフィン分の高い接触分解ナフサ留分(FCCG)を得、このFCCGを軽質留分と重質留分に蒸留分離して得た軽質留分(FL)である。
【0050】
アルキレートガソリン(ALKG)
ブチレンを主成分とする留分とイソブタンを主成分とする留分を硫酸触媒により反応させて、炭素数8のイソパラフィン分の高い炭化水素を得た。
【0051】
改質ガソリン(AC7)
脱硫重質ナフサを貴金属系固体改質触媒により移動床式反応装置を用いて反応させることにより、アロマ含量の多い炭化水素に改質して改質ガソリンを得る。改質ガソリンはそのまま使用することもできるが、ここでは蒸留分離することにより炭素数7の芳香族炭化水素を主成分として含有するAC7(炭素数6の芳香族炭化水素約1容量%、炭素数7の芳香族炭化水素約77容量%、炭素数8の芳香族炭化水素約9容量%、及びオレフィンを約0.3容量%含有)を用いた。
【0052】
改質ガソリン(AC9)
AC7と同様に改質ガソリンを蒸留分離することにより炭素数9の芳香族炭化水素を主成分として含有するAC9(炭素数8の芳香族炭化水素約18容量%、炭素数9の芳香族炭化水素約80容量%、炭素数10の芳香族炭化水素約2容量%、及びオレフィンを約0.1容量%含有)を用いた。
【0053】
1,2,4−トリメチルベンゼンリッチガソリン基材(124TMB−G)及び1,3,5−トリメチルベンゼンリッチガソリン基材(135TMB−G)
AC9を精密蒸留することにより、1,2,4−トリメチルベンゼンを純度99%以上含有する124TMB−G及び1,3,5−トリメチルベンゼンを純度99%以上含有する135TMB−Gそれぞれ得た。
【0054】
エタノール(EtOH)
市販の発酵エタノール(99度1級、日本アルコール販売(株)製)を使用した。
【0055】
エチルターシャリーブチルエーテル(ETBE)
イオン交換樹脂触媒(Amberlyst−15)を用いてエタノールとイソブチレンとを反応させ、次いで蒸留法により精製し、純度95%以上のETBEを得た。
【0056】
【表1】

【0057】
選択的水素化分解ガソリン基材(SHCG)
選択的水素化分解ガソリン基材(SHCG)は以下のようにして調製した。
(選択的水素化分解触媒)
ナトリウム型Y型結晶性アルミノシリケート(SiO/Al比2.9、NaO含有量12.3質量%、格子定数2.460nm)200gを、1Mの硝酸アンモニウム水溶液2Lを用いて50℃でプロトン型にイオン交換した後、ろ過、洗浄した。さらに130℃で3時間乾燥したのち、450℃で3時間焼成した。この一連の操作を9回繰り返した結果、NaO含有量が0.5質量%に減少し、SiO/Al比が5.8、格子定数が2.455nmであるY型結晶性アルミノシリケートを得た(以下これを「SY」と称する)。SYを700℃の水蒸気と3時間接触させ、pH1.5に調整した50℃の硝酸水溶液2Lに2時間浸し、ろ過、洗浄した。次いで130℃で3時間乾燥した後、450℃で3時間焼成した(以下これを「USY」と称する)。このようにして得られたUSYは、SiO/Al比が10.5、格子定数が2.438nm、比表面積が400m/gであった。
【0058】
このUSY750gをアルミナ粉末(SASOL社製アルミナPural SB)1,000gと混合し、4.0質量%の希硝酸溶液500ml、イオン交換水875gを添加して混練し、断面三つ葉形の柱状(ペレット)に押し出し成形した。ペレットを130℃で6時間乾燥した後、600℃で2時間焼成して担体とした。
この担体に、モリブデン酸アンモニウム水溶液をスプレー含浸した後、130℃で6時間乾燥した。その後、さらに硝酸ニッケル水溶液をスプレー含浸した後、130℃で6時間乾燥した。次いで、空気の気流下で、500℃で30分間焼成して触媒Aを得た。触媒Aの組成はMo:8.0質量%、Ni:3.0質量%、ゼオライト:44.5質量%、アルミナ:44.5質量%であった。
【0059】
この触媒Aの細孔特性を窒素ガス吸着法で測定したところ、比表面積が387m/g、細孔直径2〜60nmの範囲にある細孔の容積が0.543mL/g、中央細孔直径は9.6nmであった。また、この触媒Aは安定径1.2mm、平均長さ4.0mmであり、平均側面圧壊強度は12.0kg、バルク密度は0.668g/cmであった。ここで、安定径とは、ペレットを平板に固定した際の高さを意味する。
【0060】
(選択的水素化分解工程)
水素化分解触媒として触媒Aを使用し、反応圧力:7.0MPa、LHSV:1.0hr−1、水素/原料油比:1,400NL/L、反応温度:400℃の条件下で、原料油として接触分解軽質サイクル油(LCO)を用いて水素化分解反応を行った。さらに得られた選択的水素化分解生成油(SHC)を、低沸点側にベンゼンが含有されないように、また高沸点側に炭素数10の芳香族炭化水素が含有されないように精密蒸留により分留して、10%留出温度が111.0℃、90%留出温度が163.0℃の蒸留性状を有する選択的水素化分解ガソリン基材(SHCG)を得た。
原料油LCOの性状および反応の結果得られた選択的水素化分解生成油(SHC)と選択的水素化分解ガソリン基材(SHCG)の性状を表2に示す。表2において、215℃以上留分の転化率は、次式で得られた値である。
215℃以上留分の転化率(%)=100−生成油中の215℃以上留分(容量%)/原料油中の215℃以上留分(容量%)×100
また、水素化分解前の炭化水素留分(ここではLCO)中に占める芳香族環を構成する炭素比率に対する水素化分解生成油中に占める芳香族環を構成する炭素比率の比(芳香族環炭素残存率)も表2に記載した。
【0061】
【表2】

【0062】
これらのガソリン基材は、表3〜6の上部に示す配合割合でブレンドして実施例1〜13及び比較例1〜13のガソリン組成物を調製した。実施例及び比較例のガソリン組成物の性状を、実施例1〜4と比較例1〜4については表3に、実施例5〜7と比較例5〜7については表4に、実施例8〜9と比較例8〜9については表5に、そして実施例10〜13と比較例10〜13については表6にそれぞれ示す。
【0063】
上記の実施例及び比較例において、使用した原料油、生成油、各種のガソリン基材及びガソリン組成物の性状は、以下の方法で分析した。
密度はJIS K 2249の振動式密度試験方法、リード法蒸気圧(RVP)はJIS K 2258のリード法蒸気圧試験方法、蒸留性状はJIS K 2254の常圧法蒸留試験方法によってそれぞれ測定した。
【0064】
硫黄分の測定は、JIS K 2541の硫黄分試験方法に従い、高濃度領域では蛍光X線法を、および低濃度領域では微量電量滴定法を使用して行った。銀板腐食はJIS K2513(石油製品−銅板腐食試験方法:対応 ASTM D130)のボンベ法(ジェット燃料)で、銅板の代わりにJIS K2276(石油製品−航空燃料油試験方法)の「14.銀板腐食試験方法」に用いる銀板を使用して評価した。窒素分の測定は、JIS K 2609の窒素分試験方法に従い、化学発光法を使用して行った。
【0065】
アロマ分、オレフィン分、パラフィン分等の各種炭化水素化合物の成分組成はJIS K 2536のガスクロマトグラフ法による全成分試験方法により測定した。リサーチ法オクタン価(RON)はヒューレッドパッカード社製PIONA装置を用いて、ガスクロマトグラフ法によって測定した。
【0066】
芳香族化合物のタイプ分析(環分析)の測定は、石油学会法JPI−5S−49−97に従って、高速液体クロマトグラフ装置を使用し、固定相にはシリカゲル充填剤としてPARTISIL 5 PAC(カラムサイズ:25cm×4.6mmφ)及びAgNO−1071Y(7cm×4.6mmφ)、移動相にはノルマルヘキサン、検出にはRI法を用いて実施した。
【0067】
芳香族構成炭素比率の測定には、溶媒に重クロロホルム、内部標準にテトラメチルシランを用い、日本電子製GSX270型核磁気共鳴装置を用いて行った。炭素種分類ごとの芳香族環構成炭素と脂肪族構成炭素の定量は、H−ゲーテッドデカップリング法(SGNNEモード)を用い、データポイント32,768点、観測周波数領域幅27,027Hz、パルス幅2μs、パルス待ち時間30s、積算回数2,000回で測定し、フーリエ変換したスペクトルのシグナルの積分比から算出した。得られたスペクトルのシフト値において、120〜150ppmの領域のものを芳香族炭素に帰属するものとし、全炭素に対するモル%として表した。
【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【0070】
【表5】

【0071】
【表6】

【0072】
表3〜6に示すとおり、実施例1〜13の本発明のガソリンと比較例1〜13の従来型ガソリンはオレフィン含有量が15容量%以下に低減されたガソリン組成物であるが、実施例は比較例と比べて選択的水素化分解ガソリン(SHCG)を用いることにより、炭素数9の芳香族炭化水素含有量に対する1,2,4−トリメチルベンゼンと1,3,5−トリメチルベンゼンの合計含有量の比((124TMB+135TMB)/C9A)が高く、さらに炭素数9の芳香族炭化水素含有量に対する1,3,5-トリメチルベンゼンの含有割合(135TMB/C9A)が高いため、オレフィン分を低減したにもかかわらずRONが高い。すなわち、実施例1〜13のガソリンは、比較例1〜13と硫黄分、オレフィン分やアロマ分が同程度であっても、良好な蒸留性状およびRVPで、かつ高いRONであり、優れた実用性能を有することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リサーチ法オクタン価が96以上、硫黄含有量が10質量ppm以下、芳香族含有量が20〜40容量%、オレフィン含有量が15容量%以下、炭素数9の芳香族炭化水素の含有量が15容量%以下、炭素数9の芳香族炭化水素の含有量に対する1,2,4−トリメチルベンゼンと1,3,5−トリメチルベンゼンの合計含有量の比(容量)が0.53以上、及び含酸素化合物の含有量が0〜15容量%であることを特徴とするガソリン組成物。
【請求項2】
炭素数9の芳香族炭化水素の含有量に対する1,3,5−トリメチルベンゼンの含有量の比(容量)が0.14以上である請求項1に記載のガソリン組成物。
【請求項3】
硫黄分が1質量ppm以下、リード蒸気圧が44〜65kPaである請求項1又は2に記載のガソリン組成物。
【請求項4】
オレフィン含有量が5.0容量%以下である請求項1〜3のいずれかに記載のガソリン組成物。

【公開番号】特開2008−138185(P2008−138185A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288328(P2007−288328)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)