説明

ガラスカーテンウォールにおけるスパンドレル部分の結露防止構造

【課題】ガラスカーテンウォールにおけるスパンドレル部分での結露を効果的に防止できるようにしたスパンドレル部分の結露防止構造を提供する。
【解決手段】ガラスカーテンウォールWにおけるスパンドレル部2の外装ガラス3と耐火パネル4に囲まれた密閉状の空間Sの上部に、開口端aに着脱可能なキャップ11が取り付けられたパイプ12から成る複数の開閉可能な通気路Aを、その開口端aのキャップ11がガラスカーテンウォール取付け用ファスナー6の周囲に充填されたロックウール8の上方に露出した状態に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパンドレル部分の外装ガラスと耐火パネル等のボード類に囲まれた空間の湿った空気が外装ガラスの内面で結露するのを防止する結露防止対策に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なガラスカーテンウォールは、ユニット方式、ノックダウン方式の如何に関係なく、階高ごとにパネル化され、執務空間に面する窓部分(ヴィジョン部分)と、構造梁部で天井裏に面するスパンドレル部分とが設けられる。このうちスパンドレル部分には、上階との層間区画(上,下階の防火区画)のために、外装ガラスの内側に必要な上下幅(900mm以上)の耐火パネルを組み込むことが一般的である。
【0003】
その結果、外装ガラスと耐火パネルの間には密閉状の空間が形成されることになり、施工中にこの密閉状空間に閉じ込められた湿気、スパンドレル部分に用いられる塗料の水性溶剤の蒸発等に起因して、冬季など外気温の低下に伴い外装ガラス内面で結露する現象がしばしば発生している。
【0004】
このスパンドレル部分の結露防止対策として、現状ではスパンドレル部分の空間下部に結露水受を設けて、蒸発した結露水の耐火パネル周囲の微細な隙間からの流出による空間内部の自然乾燥を図っているが、効果が発揮されるまでに長い期間を必要とし(竣工後1〜3年くらいで結露の発生はほぼ無くなっている。)、何回かの結露現象は回避することができない。
【0005】
ところで、複層ガラスの分野では、特許文献1、2に見られるように、複層ガラスの内部空間に乾燥空気を封入したり、内部空間の空気を外部の空気と循環させる複層ガラスの結露防止対策が採られているが、スパンドレル部分の外装ガラスとして、このような結露除去機能付き複層ガラスを用いても、耐火パネルと面する内側のガラスについては結露発生の可能性が残り、コスト面でも問題がある。
【0006】
【特許文献1】特開2001−158646号公報
【特許文献2】特開平10−37607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題点を踏まえてなされたものであって、その目的とするところは、ガラスカーテンウォールにおけるスパンドレル部分での結露を効果的に防止できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために本発明が講じた技術的手段は、次のとおりである。即ち、請求項1に記載の発明によるガラスカーテンウォールにおけるスパンドレル部分の結露防止構造は、スパンドレル部の外装ガラスとボード類に囲まれた空間の上部に、少なくとも1つの通気路を形成し、該通気路の一端は前記空間に、他端は開閉可能な端部とし屋内空間に臨ませていることを特徴としている。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のガラスカーテンウォールにおけるスパンドレル部分の結露防止構造であって、通気路を開口端に開閉装置が取り付けられたパイプで構成し、パイプの先端部を上方に露出させてあることを特徴としている。尚、開閉装置と
しては、例えば着脱可能なキャップ、手動で開閉するバルブ等が採用される。
【0010】
請求項3に記載の発明によるガラスカーテンウォールにおけるスパンドレル部分の結露防止構造は、ガラスカーテンウォールの上枠又は縦枠の一部に、スパンドレル部の外装ガラスとボード類に囲まれた空間と連通する空洞部を形成し、この空洞部に乾燥剤を充填してあることを特徴としている。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のガラスカーテンウォールにおけるスパンドレル部分の結露防止構造であって、空洞部に乾燥剤が充填され且つ表面に通気孔が形成された筒状体を嵌め込んであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、スパンドレル部分の外装ガラスと耐火パネル等のボード類に囲まれた空間の上部に、少なくとも1つの通気路を形成し、該通気路の一端は前記空間に、他端は開閉可能な端部とし屋内空間に臨ませているので、例えば、雨天や梅雨時のような湿度の高い条件下で、ガラスカーテンウォールの現場での組立(ノックダウン方式)中、または工場等での組立(ユニット方式)中に、湿度の高い空気が入り込む場合には、通気路を開放状態にし、スパンドレル部分の外装ガラスとボード類に囲まれた空間の空気を乾燥した屋内、または外部の空気とで自然循環させることによって、ガラスカーテンウォールの組み立てから取り付け初期までの間の結露を防止することができ、その後は、通気路を閉塞状態に切り換えておくことによって、室内の暖かい湿った空気をスパンドレル部分の空間に入れないことより結露を防止できる。
【0013】
たとえ、将来、スパンドレル部分に用いられる塗料の水性溶剤の蒸発等に起因する結露現象が発生しても、再度、通気路を開放状態に切り換えて自然換気による室内空気との置換によって、あるいは乾燥空気との積極的な置換によって、結露を解消することができ、その後、通気路を閉塞状態に切り換えておくことで、結露の発生が無くなることになる。
【0014】
通気路の他端(開口端)を屋内空間に臨ませるにあたっては、通気路の長さや形状の設計により屋内空間の任意の位置に臨ませることができるが、請求項2に記載の発明のように、通気路を開口端に開閉装置が取り付けられたパイプで構成し、パイプの先端部を上方に露出させておけば、通常時には、パイプがファスナー上部を覆う床仕上げ材(例えば、スパンドレル部分近くの床板やアルミカバー、額縁等)によって隠蔽されるため、室内の美観を損なう虞がなく、それでいて、自然換気による室内空気との置換や乾燥空気との積極的な置換が必要な時には、ファスナー上部を覆う床仕上げ材の一部を取り外す等して、パイプ先端部の開閉装置を容易に開け閉めすることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、ガラスカーテンウォールの上枠又は竪枠の一部に、スパンドレル部分の外装ガラスとボード類に囲まれた空間と連通する空洞部を形成し、この空洞部に乾燥剤を充填してあるので、スパンドレル部分の外装ガラスとボード類に囲まれた空間内を乾燥状態に維持することができ、スパンドレル部分の結露発生を防止できる。
【0016】
ガラスカーテンウォールの上枠又は縦枠の一部に形成した空洞部には、シリカゲル等の乾燥剤を直接充填してもよいが、請求項4に記載の発明のように、空洞部に乾燥剤が充填され且つ表面(スパンドレル部分の外装ガラスとボード類に囲まれた空間と対向する面)に通気孔が形成された筒状体を空洞部に嵌め込むようにすれば、乾燥剤の取扱いが容易であり、ガラスカーテンウォールの施工が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1〜図4は、本発明に係るガラ
スカーテンウォールにおけるスパンドレル部分の結露防止構造の一例を示す。これらの図において、Wは、上枠、下枠、左右の縦枠、無目等から成るアルミ製の枠体と、それに嵌め込まれ周囲をシールされた外装ガラスとから構成されたガラスカーテンウォールであり、執務空間に面する窓部分(ヴィジョン部分)1と、構造梁部で天井裏に面するスパンドレル部分2とが設けられている。
【0018】
スパンドレル部分2には、上階との層間区画(上,下階の防火区画)のために、外装ガラス3の内側に必要な上下幅(900mm以上)の耐火パネル4が組み込まれており、外装ガラス3と耐火パネル4とで囲まれた密閉状の空間Sが形成されている。5はシール用ガスケットである。6はガラスカーテンウォールWを構造梁部7に取り付けるためのファスナーであり、ファスナー6の周囲には、耐火材としてロックウール8が充填されているが、耐火材としては、ロックウール系、セラミック系の何れでもよい。7aは大梁、7bは小梁、9は床スラブ、10は床仕上げ材であり、床仕上げ材10のうち、ロックウール8の上方を覆うスパンドレル部分近く(窓部分1の下端近く)の床仕上げ材10aはヒンジ等により開閉可能に構成されている。
【0019】
外装ガラス3と耐火パネル4の間の密閉状空間Sの上部には、開口端aを床下空間などの屋内空間(図示の例では、開閉可能な床仕上げ材10aの真下の床下空間P)に臨ませた複数の開閉可能な通気路Aが形成されている。通気路Aは開口端aに開閉装置としての袋ナット状のキャップ11が着脱自在に螺着されたパイプ12によって構成されている。これらのパイプ12の先端部は前記ファスナー6の周囲に充填されたロックウール8の上方に露出させてあり、必要に応じてキャップ11により通気路Aを開閉できるように構成されている。なお、キャップ11に換えて、開閉式バルブ等を用いてもよい。
【0020】
そして、キャップ11を外した状態では、外装ガラス3を透過する太陽光等によって暖められた空間S内の空気が上昇して何れかのパイプ12から床下空間Pに流出し、他のパイプ12から床下空間Pの冷たい空気が外装ガラス3と耐火パネル4の間の空間Sに流入するように室内空気との置換もしくは循環のための経路が構成されている。
【0021】
この実施形態においては、図3、図4に示すように、各々のガラスカーテンウォールW毎に2本のパイプ12が左右方向に間隔を隔てて設けられている。図示の例では、一方のパイプ12がガラスカーテンウォール上枠13を貫通する状態にけられており、他方のパイプ12は耐火パネル4の上端近傍部を貫通する状態に設けられているが、2本とも、ガラスカーテンウォール上枠13を貫通する状態に設けてもよく、または2本とも、耐火パネル4の上端近傍部を貫通する状態に設けてもよく、より好ましい。さらに外装ガラス3を透過する太陽光等によって暖められた空間S内の空気が上昇して、いずれか1本でも乾燥空気との置換が可能である。
【0022】
上記の構成によれば、スパンドレル部分2の外装ガラス3と耐火パネル4に囲まれた空間Sの上部に、開口端aを床下空間Pに臨ませた複数の開閉可能な通気路Aを形成したので、例えば、雨天や梅雨時のような湿度の高い条件下で、ガラスカーテンウォールWが施工(ユニット方式、ノックダウン方式いずれの施工であっても)され、湿度の高い空気が入り込む場合には、キャップ11により通気路Aを開放状態に維持しておき、スパンドレル部分2の外装ガラス3と耐火パネル4に囲まれた空間Sの空気を床下空間Pとの間で自然循環させることによって、ガラスカーテンウォールWの組み立てから取り付け初期までの間の結露を防止することができ、その後は、キャップ11により通気路Aを閉塞状態に切り換えておくことによって、室内の暖かい湿った空気をスパンドレル部分2の空間Sに入れないことより結露を防止できる。
【0023】
将来、スパンドレル部分2に用いられる塗料の水性溶剤の蒸発等に起因する結露現象が
発生しても、再度、キャップ11により通気路Aを開放状態に切り換えて自然換気による室内空気との置換によって、あるいは乾燥空気との積極的な置換によって、結露を解消することができ、その後、通気路Aを閉塞状態に切り換えておくことで、結露の発生が完全に無くなることになる。
【0024】
また、通気路Aを開口端aに着脱可能なキャップ11が取り付けられたパイプ12で構成し、パイプ12の先端部を上方に露出させてあるので、通常時には、パイプ12がファスナー6上部を覆う開閉可能な床仕上げ材10aによって隠蔽されるため、室内の美観を損なう虞がなく、それでいて、自然換気による室内空気との置換や乾燥空気との積極的な置換が必要な時には、床仕上げ材10aを開いて、パイプ12先端部のキャップ11を容易に開け閉めすることができる。
【0025】
図5は、本発明の他の実施形態を示す。この実施形態は、床仕上げ材10のうち、ロックウール8の上方を覆うスパンドレル部分近く(窓部分1の下端近く)の床仕上げ材10aを着脱可能なアルミカバーとして、部屋中央側の床仕上げ材10よりも高くした点に特徴がある。その他の構成、作用は、図3と同じであるため、同一構成部材に同一符号を付し、説明を省略する。
図6は、本発明の他の実施形態を示す。この実施形態は、ガラスカーテンウォールWにおけるスパンドレル部分2の結露防止構造を構成するにあたり、前記通気路Aを設ける代わりに、ガラスカーテンウォール上枠13の一部(奥行き方向中間部)に、スパンドレル部分2の外装ガラス3と耐火パネル4に囲まれた密閉状の空間Sと溝又は孔14を介して連通する空洞部Qを形成し、この空洞部Qにシリカゲル等の乾燥剤15を充填した点に特徴がある。
【0026】
上記の構成によれば、ガラスカーテンウォール上枠13の一部に、スパンドレル部分2の外装ガラス3と耐火パネル4に囲まれた密閉状の空間Sと連通する空洞部Qを形成し、この空洞部Qに乾燥剤15を充填してあるので、前記空間S内を乾燥状態に維持することができ、スパンドレル部分2の結露発生を防止できる。
【0027】
図7は、本発明の他の実施形態を示す。この実施形態は、ガラスカーテンウォール上枠13の一部(奥行き方向中間部)に前記空間Sと溝又は孔14を介して連通する空洞部Qを形成し、シリカゲル等の乾燥剤15が充填され且つ少なくとも下面(スパンドレル部分の外装ガラス3と耐火パネル4に囲まれた空間と対向する面)に多数の通気孔が形成された筒状体16を前記空洞部Qに嵌め込んだ点に特徴がある。図示の例では、筒状体16の材質をガラスカーテンウォール上枠13と同材質(アルミ製)としてあるが、合成樹脂製やゴム製であってもよい。
【0028】
上記の構成によれば、ガラスカーテンウォールWの枠体の組立て時に筒状体16を上枠13長手方向から空洞部Qに差し込むことができるので、シリカゲルのような粒状の乾燥剤15を直接空洞部Qに充填するよりも乾燥剤15の取扱いが容易であり、延いては、ガラスカーテンウォールWの施工が容易である。
【0029】
殊に、筒状体16を軟質合成樹脂や軟質ゴムによって作製された弾性変形しやすい柔軟な部材とする一方、空洞部Qを前記空間Sと溝を介して連通する奥広がりの溝状に形成しておけば、ガラスカーテンウォールWの枠体の組立て後であっても、乾燥剤15の充填された筒状体16を空洞部Qに上枠13と直角な方向から押し込んで嵌め込むことができ、ガラスカーテンウォールWの施工が一層容易である。
【0030】
以上、複数の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態にのみ限定されるものではなく、例えば、ガラスカーテンウォールWの縦枠の一部にスパンドレル部分2の
外装ガラス3と耐火パネル4に囲まれた密閉状の空間Sと連通する空洞部Qを形成し、この空洞部Qに乾燥剤15を直接充填するか、あるいは、乾燥剤15の充填された筒状体16を嵌め込む等、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態を採用できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態を示すガラスカーテンウォールの正面図である。
【図2】図1のX−X概略断面図である。
【図3】スパンドレル部の結露防止構造を示す要部の縦断側面図である。
【図4】スパンドレル部の結露防止構造を示す要部の横断平面図である。
【図5】本発明の他の実施形態を示す要部の縦断側面図である。
【図6】本発明の他の実施形態を示す要部の縦断側面図である。
【図7】本発明の他の実施形態を説明する図である。
【符号の説明】
【0032】
A 通気路
S 空間
P 床下空間
W ガラスカーテンウォール
1 窓部分
2 スパンドレル部分
3 外装ガラス
4 耐火パネル
6 ファスナー
7 構造梁部
8 ロックウール
9 スライダー
10a 床仕上げ材
11 キャップ
12 パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパンドレル部の外装ガラスとボード類に囲まれた空間の上部に、少なくとも1つの通気路を形成し、該通気路の一端は前記空間に、他端は開閉可能な端部とし屋内空間に臨ませていることを特徴とするガラスカーテンウォールにおけるスパンドレル部の結露防止構造。
【請求項2】
通気路を開口端に開閉装置が取り付けられたパイプで構成し、パイプの先端部を上方に露出させてあることを特徴とする請求項1に記載のガラスカーテンウォールにおけるスパンドレル部の結露防止構造。
【請求項3】
ガラスカーテンウォールの上枠又は縦枠の一部に、スパンドレル部の外装ガラスとボード類に囲まれた空間と連通する空洞部を形成し、この空洞部に乾燥剤を充填してあることを特徴とするガラスカーテンウォールにおけるスパンドレル部の結露防止構造。
【請求項4】
空洞部に乾燥剤が充填され且つ表面に通気孔が形成された筒状体を嵌め込んであることを特徴とする請求項3に記載のガラスカーテンウォールにおけるスパンドレル部の結露防止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−267021(P2008−267021A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112514(P2007−112514)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】