説明

ガラスチョップドストランドマットの製造方法及びガラスチョップドストランドマット

【課題】 本発明は、ガラスチョップドストランドマットの作製における原材料の原単位の向上を図ることを目的とする。
【解決手段】 本発明に係るガラスチョップドストランドマットの製造方法は、ガラスチョップドストランドをシート状に堆積させる堆積工程と、堆積工程で堆積させたガラスチョップドストランドに水を散布する水散布工程と、水散布工程で水を付けたガラスチョップドストランドに固形の熱可塑性樹脂結合剤を散布する結合剤散布工程と、結合剤散布工程の後に、ガラスチョップドストランドに付着した熱可塑性樹脂結合剤を加熱して溶融する加熱工程と、加熱工程の後に、熱可塑性樹脂結合剤を冷却してガラスチョップドストランド同士を結合させ、ガラスチョップドストランドマットを形成する冷却工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスチョップドストランドマットの製造方法及びガラスチョップドストランドマットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような分野の技術文献として、特開2008−303505号公報が知られている。この公報には、シート状に堆積したガラスチョップドストランドの上に結合剤を散布し、結合剤を加熱溶融した後に冷却固化させてガラスチョップドストランドを結合させることによりガラスチョップドストランドマットを製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−303505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、市場の軽量化の要求によってガラスチョップドストランドマットの薄型化が求められている。しかしながら、上述した従来のガラスチョップドストランドマットの製造方法においては、マットの薄型化のためガラスチョップドストランドを薄く堆積させると、散布した結合剤がガラスチョップドストランドの隙間からこぼれ落ちる割合が多くなり、過剰に結合剤が消費されるという問題があった。しかも、過剰に結合剤を散布したとしても、ガラスチョップドストランドの間に適切に付着してガラスチョップドストランドの結合に寄与する分は多くなく、ガラスチョップドストランドマット作製での原単位悪化の一因となっていた。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、原材料の原単位向上を図ることができるガラスチョップドストランドマットの製造方法及びガラスチョップドストランドマットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るガラスチョップドストランドマットの製造方法は、ガラスチョップドストランドをシート状に堆積させる堆積工程と、堆積工程で堆積させたガラスチョップドストランドに水を散布する水散布工程と、水散布工程で水を付けたガラスチョップドストランドに固形の熱可塑性樹脂結合剤を散布する結合剤散布工程と、結合剤散布工程の後に、ガラスチョップドストランドに付着した熱可塑性樹脂結合剤を加熱して溶融する加熱工程と、加熱工程の後に、熱可塑性樹脂結合剤を冷却してガラスチョップドストランド同士を結合させ、ガラスチョップドストランドマットを形成する冷却工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明に係るガラスチョップドストランドマットの製造方法によれば、結合剤散布工程の前に、予めガラスチョップドストランドに水を散布することで、結合剤をガラスチョップドストランドに付着しやすくすることができる。その結果、結合剤がガラスチョップドストランドの隙間からこぼれ落ちることが抑制されるので、結合剤の消費量の低減が図られる。さらに、散布された水は表面張力によりガラスチョップドストランド同士が接する部位に溜まる傾向があるので、結合剤もガラスチョップドストランド同士が接する部位に付着しやすくなる。このことは、結合剤による結合の効率を向上させ、少ない量の結合剤で十分な強度のガラスチョップドストランドマットを得ることを可能にすることができるので、結果としてガラスチョップドストランドマットの原単位向上を図ることができる。
【0008】
本発明に係るガラスチョップドストランドマットの製造方法においては、比較的単位面積あたりの質量が小さい、すなわち薄いガラスチョップドストランドマットにおいて、原単位を著しく向上させることができるので、ガラスチョップドストランドマットの単位面積あたりの質量を、30〜150g/m2とすることが好ましい。
【0009】
また、本発明に係るガラスチョップドストランドマットの製造方法においては、ガラスチョップドストランドマットにおけるガラスチョップドストランドに対する熱可塑性樹脂結合剤の質量の比を、5.0〜9.5wt%とすることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明に係るガラスチョップドストランドマットの製造方法においては、水散布工程において、ガラスチョップドストランドに対する質量の比が、30〜90wt%の水をガラスチョップドストランドに付着させることが好ましい。
このような、熱可塑性樹脂/ガラスチョップドストランド、水/ガラスチョップドストランドの質量比であれば、適度の強度を有するガラスチョップドストランドマットを効率よく作製することができる。
【0011】
本発明に係るガラスチョップドストランドマットは、長さが50〜100mm、番手が5〜30texのガラスチョップドストランドを熱可塑性樹脂結合剤で結合した乾式ガラスチョップドストランドマットであって、ガラスチョップドストランドに対する熱可塑性樹脂結合剤の質量の比が5.0〜9.5wt%であり、かつ、単位面積あたりの質量が30〜150g/m2であることを特徴とする。
【0012】
本発明に係るガラスチョップドストランドマットによれば、薄いチョップドストランドマットでも、比較的少ない量の結合剤で十分な引張強さを確保することが可能となり、しかも、結合剤が比較的少ないことから柔軟性に優れ、これを使用して色むらの少ない外観性に優れた成形品を得ることができる。そのため、軽量な部材として自動車成形天井材などの構成部品に好適に利用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ガラスチョップドストランドマットの作製における原材料の原単位の向上を図ることができる。さらに、単位面積あたりの質量が小さくても、引張強さ、柔軟性のそれぞれの要求特性を満足するガラスチョップドストランドマットを提供することができ、これを用いて外観性に優れた成形品を得ることできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るガラスチョップドストランドマットを示す図である。
【図2】本発明に係るガラスチョップドストランドマットの製造工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るガラスチョップドストランドマット及びその製造方法について詳細に説明する。
【0016】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係るガラスチョップドストランドマット1は、シート状に堆積した多数のガラスチョップドストランド2を熱可塑性樹脂の結合剤3によって結合させたものである。ガラスチョップドストランドマット1は、例えば自動車成形天井材の補強材として利用される。このようなガラスチョップドストランドマット1は、単位面積あたりの質量が30〜150g/mであることが好ましく、40〜110g/mであることが更に好ましい。またガラスチョップドストランド2に対する結合剤3の質量の比が5.0〜9.5wt%であることが好ましい。ガラスチョップドストランドマット1の質量が小さすぎたり、ガラスチョップドストランドに対する結合剤の質量比が小さすぎると、引張強さが低下しすぎてしまう。また、ガラスチョップドストランドマット1の質量が大きすぎると、成形品の軽量化を図ることができなくなるばかりでなく、柔軟性が低下し、成形工程の作業性が低下してしまう。結合剤の含有量を多くしすぎると、柔軟性が低下し、成形品の色むらやシワが発生しやすく、外観不良の恐れが大きくなる。
【0017】
ガラスチョップドストランドマット1を構成するガラスチョップドストランド2は、ガラスケーキ4から引き出したガラス繊維束5を所定の長さに切断することで形成される。本実施形態においては、ガラスチョップドストランド2として、引張強さを向上させるために、長さが50〜100mm、番手が5〜30texのものを用いることが好ましい。また、ガラス繊維束の切断によるガラスチョップドストランド2の形成を容易にするため、ガラスケーキ3の含有水分は5.0wt%以下であることが好ましい。
【0018】
また、ガラスチョップドストランド2を結合させる結合剤3としては、不飽和ポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂の粉末体が用いられる。粉末体は重量平均粒子径が50〜300μmであることが好ましい。結合剤3は、170〜280℃の温度で20〜50秒の間加熱することで溶融し、その後冷却されることで固化してガラスチョップドストランド2同士を結合する。なお、結合剤3の形状としては、粉末状ではなく繊維状のものを用いることもできる。繊維状に形成された結合剤3は、ガラスチョップドストランド2の隙間から落ちにくくなり、離れたガラスチョップドストランド2間を粉末状のものより少ない質量で繋いで接着することができるので、結合剤3の歩留まり向上に有利である。一方、結合剤を固形ではなくエマルジョンとして使用した場合には、ガラスチョップドストランド2の隙間からの流出を抑制することは困難である。
【0019】
また、結合剤3は、製造後のガラスチョップドストランドマット1においてガラスチョップドストランド2に対する結合剤3の質量の比が5.0〜9.5wt%となるように、散布される。なお、ガラスチョップドストランドマット1に9.5wt%以上の結合剤3が含まれると、マットが硬くなり過ぎて柔軟性が低下し、成形品に色むらやシワが発生しやすく成形が難しくなるなどの問題が生じる場合がある。
【0020】
次に、本実施形態に係るガラスチョップドストランドマット1の製造方法について説明する。
【0021】
図2に示すように、本実施形態に係るガラスチョップドストランドマット1の製造方法では、まず複数のガラスケーキ4から引き出されたガラス繊維束5を切断装置10に送り込み、所定の長さに切断してガラスチョップドストランド2を形成する。切断装置10は、外周に刃を持つカッターローラ11及びゴムローラ12を複数有しており、カッターローラ11とゴムローラ12との間にガラス繊維束5を送り込むことで、ガラス繊維束5を連続的に切断する。
【0022】
切断装置10で形成されたガラスチョップドストランド2は、切断装置10の下方に配置された第一のコンベア13のベルト13a上に落下する。第一のコンベア13のベルト13aは、一定の速度で周回しており、切断装置10から落下したガラスチョップドストランド2は、ベルト13a上で均一なシート状に堆積する(堆積工程)。
【0023】
第一のコンベア13は、所定の搬送方向にガラスチョップドストランド2を搬送するものであり、コンベアの幅方向に延びる4本の駆動ローラ13bを有している。第一のコンベア13は、ポリエステル製の織物からなるメッシュから構成されているベルト13aが駆動ローラ13bに掛け渡されて構成されている。
【0024】
ベルト13aは、メッシュを構成する線条の太さが直径0.5〜2mm、目の細かさが10〜30メッシュであることが好ましく、目明き平織りや絡み織りであることが好ましい。ベルト13aとしては、ポリエステル製のものに限られず、例えば他の素材のメッシュ体やゴム製ベルトを用いても良い。
【0025】
このように構成された第一のコンベア13では、図示しないモータによりいずれかの駆動ローラ13bが回転駆動されると、ベルト13aが周回され、ベルト13a上面のガラスチョップドストランド2が所定の搬送方向に向かって搬送される。
【0026】
第一のコンベア13の搬送方向には、第一のコンベア13と接続してガラスチョップドストランド2の搬送路を形成する第二のコンベア14が配置されている。この第二のコンベア14は、第一のコンベア13と比べてベルト14aの構成のみが主に異なっている。
【0027】
第二のコンベア14のベルト14aは、ステンレス製の線材を編み込んで形成されるステンレス製ネット(編物)のメッシュから構成されている。このベルト14aは、結合剤3の付着を避けるため、線材の太さが直径1〜5mmであることが好ましい。第一のコンベア13のベルト13a上のガラスチョップドストランド2は、シート状に堆積した状態を維持しながら第二のコンベア14のベルト14a上に搬送される。
【0028】
第二のコンベア14の上方には、ガラスチョップドストランド2に水を散布する水散布機15が配置されている。水散布機15は、ベルト14a上でシート状に堆積しているガラスチョップドストランド2に対して水を均一に散布する(水散布工程)。ここで、水散布機15は、ガラスチョップドストランド2に付着した水とガラスチョップドストランド2との質量の比が30〜90wt%(より好ましくは50〜80wt%)となるように、水の散布量や散布状態を調整して散布を行う。
【0029】
また、第二のコンベア14の上方には、ガラスチョップドストランド2に粉末状の結合剤3を散布する結合剤散布機16が配置されている。結合剤散布機16は、水散布機15の後方に配置されており、水が付着したガラスチョップドストランド2に対して結合剤3を均一に散布する(結合剤散布工程)。ここで、結合剤散布機16は、製造後のガラスチョップドストランドマット1におけるガラスチョップドストランド2に対する結合剤3の質量の比が5.0〜9.5wt%となるように、結合剤3の散布量や散布状態を調整して散布を行う。
【0030】
第二のコンベア14の搬送方向には、第二のコンベア14と接続してガラスチョップドストランド2の搬送路を形成する第三のコンベア17が配置されている。第三のコンベア17は、所定の搬送方向にガラスチョップドストランド2を搬送するものであり、コンベアの幅方向に延びる4本の駆動ローラ17bを有している。これらの駆動ローラ17bの両端には、4本の駆動ローラ17bを頂点とした台形状をなすように、無端のローラチェーン17cが一本ずつ掛け渡されている。2本のローラチェーン17cは、駆動ローラ17b両端のギア部とそれぞれ噛み合っている。2本のローラチェーン17cの間は、複数の連結棒17dによって梯子状に連結されており、これらの連結棒17dの外側から無端のベルト17aが掛け渡されている。
【0031】
第三のコンベア17のベルト17aは、耐熱性繊維の目明き織物からなるメッシュから構成されている。耐熱性繊維としては、好ましくはアラミド繊維、炭素繊維、又はガラス繊維が用いられ、特にアラミド繊維が好ましい。耐熱性繊維の織物は目明き平織りや絡み織りであることが好ましい。ベルト17aは、結合剤3の付着を避けるためメッシュを構成する線条の太さが細く目が大きい方が良く、具体的には、線条の太さが直径0.5〜2mm、線条の糸密度が経糸方向、緯糸方向とも3〜6本/25mmであることが好ましい。このようなメッシュのベルト17aは、一般的なゴムベルトやステンレス製ネットなどと比べて剛性で劣るが、複数の連結棒17dでベルト17aを支える構造とすることで撓むことなくガラスチョップドストランド2の適切な搬送が実現される。
【0032】
第三のコンベア17の途中には、結合剤3を加熱するための加熱装置18が配置されている。加熱装置18は、第三のコンベア17により搬送されてきたガラスチョップドストランド2及び結合剤3を20〜50秒の間170〜280℃の温度で加熱する(加熱工程)。この加熱によって、ガラスチョップドストランド2に付着した水が揮発して、結合剤3が溶融し、ガラスチョップドストランド2同士の接する部位に入り込む。
【0033】
第三のコンベア17の搬送方向には、ベルト17a上のガラスチョップドストランド2及び結合剤3を引き込む上下一対の水冷ローラ19が配置されている。この水冷ローラ19は、内部を冷却水が循環しており、ガラスチョップドストランド2及び結合剤3をマット状に加圧しながら冷却を行う(冷却工程)。この冷却によって、溶融状態の結合剤3が固化してガラスチョップドストランド2同士が結合し、ガラスチョップドストランドマット1が製造される。水冷ローラ19は、製造したガラスチョップドストランドマット1を巻き取り機20に向かって送り出し、巻き取り機20でガラスチョップドストランドマット1が巻き取られてマットロール21が得られる。
【0034】
以上説明した本実施形態に係るガラスチョップドストランドマットの製造方法において、
ガラスチョップドストランド2の仕様や堆積量、結合剤3の種類、水及び結合剤の散布量、加熱冷却の温度などを適切に設定することで、単位面積あたりの質量が30〜150g/mとなるガラスチョップドストランドマット1を製造することができる。
【0035】
本実施形態に係るガラスチョップドストランドマットの製造方法によれば、結合剤3を散布する前に、予めガラスチョップドストランド2に水を散布することで、結合剤3をガラスチョップドストランド2に付着しやすくすることができる。その結果、結合剤3がガラスチョップドストランド2の隙間からこぼれ落ちることが抑制されるので、結合剤3の消費量の低減が図られる。しかも、散布された水は表面張力によりガラスチョップドストランド2同士が接する部位に溜まる傾向があるので、結果として結合剤3もガラスチョップドストランド2同士が接する部位に付着しやすくなる。このことは、結合剤3による結合の効率を向上させ、少ない量の結合剤3で十分な強度のガラスチョップドストランドマット1を得ることを可能にするので、結果としてガラスチョップドストランドマット1の原材料の原単位向上を図ることができる。
【0036】
さらに、ガラスチョップドストランド2に散布された水は、搬送中にガラスチョップドストランド2に沿って裏側(ベルト側)まで回り込むので、水の移動に伴って結合剤3も裏側に回りこんで行く。これにより、ガラスチョップドストランド2の堆積方向(ガラスチョップドストランドマット1における厚み方向)において均一な結合が行われるので、マットの引張強さの向上を図ることができる。なお、このためには結合剤3は繊維形状より、粉末形状であることが好ましい。
【0037】
また、結合剤3がガラスチョップドストランド2の隙間からこぼれ落ちることを抑制することで、結合剤3がコンベアなどに付着する割合を減らすことができ、結果としてコンベアなどに付着した結合剤3が搬送不良などの原因となる可能性を低減することができる。
【0038】
ここで、本実施形態に係るガラスチョップドストランドマットの製造方法においても、散布された結合剤3及び溶融した結合剤3の一部はガラスチョップドストランド2からこぼれ落ちてコンベアのベルト上に落下して付着するため、結合剤3をベルトから洗い落とす必要がある。
【0039】
本実施形態に係るガラスチョップドストランドマットの製造方法では、第二のコンベア14のベルト14aがステンレス製ネットであるため、ベルト14a上に落ちた粉末状の結合剤3を洗い落とすことが容易となり、ブラシの水洗いなどにより効率よく落とすことができる。また、第二のコンベア14の下側の駆動ローラ14bが、突起物のない円柱状のローラではなく、ステンレス製ネットであるベルト14aと噛み合う歯車部を有するローラにすることで、結合剤3がベルト14aと駆動ローラ14bとの間に挟まることによる搬送不良の発生を抑えることができる。
【0040】
また、第三のコンベア17のベルト17aが織物からなるメッシュの構造を有することで、一般的なゴムベルトの場合と比べて、ベルト17aに付着する結合剤3の量を少なくすることができ、結合剤3の洗い落しが容易になる。さらに、ベルト17aがアラミド繊維、炭素繊維、又はガラス繊維から構成される織物とすることにより、ステンレス製のものよりも線条を細くしてメッシュの目を大きくすることが可能となり、これによって結合剤3を付着しにくくすることができる。加えて、ステンレス製ネットと比べて交差する箇所で線材が厚さ方向に絡み合うことなくメッシュ構造を形成できるので、結合剤3が交差する箇所に入り込むことが避けられ、ブラシの水洗いなどにより効率良く結合剤3を洗い落とすことができる。しかも、ステンレス製ネットと比べて、搬送方向における熱膨張や伸び率が少ないので、加熱による張力調整がほとんど必要なく、メンテナンスが容易である。さらに、第三のコンベア17のベルト17aが連結棒17dの外側に掛け渡されていれば、搬送のための強度を然程必要としないため、線条の太さを更に細くでき、かつ目明き度も更に大きくすることができる。これにより、さらに、結合剤3の付着を抑制することができる。
【0041】
また、第一のコンベア13のベルト13aがポリエステル製のメッシュ構造を有することで、一般的なシート状のゴムベルトやステンレス製ネットと比べて、堆積したガラスチョップドストランド2がベルト13a側に張り付いて、第二のコンベア14に搬送できない事態を避けやすくすることができる。同様に、第二のコンベア14のベルト14aについてもステンレス製のネット構造を有することで、堆積したガラスチョップドストランド2がベルト14a側に張り付いて、第三のコンベア17に搬送できない事態を避けやすくすることができる。
【0042】
本発明は、前述した実施形態に限定されないことは言うまでもない。例えば、ガラスチョップドストランド2に対する水の散布は、第一のコンベア13でガラスチョップドストランド2の堆積とほぼ同時に行う態様であっても良い。また、水散布機15は、ベルトの上からではなく下から散布する構成であっても良い。
【0043】
さらに、落下するガラスチョップドストランド2をベルト13aに向けて吸い付けることでシート状に堆積させるための空気吸引装置を第一のコンベア13内に設けていても良い。
【0044】
また、各コンベアには、ガラスチョップドストランド2や結合剤3の剥離性を高めて清掃を用意とするためにシリコン処理やテフロン処理(テフロンは登録商標)が施されていても良い。
【0045】
また、第一のコンベア13及び第二のコンベア14は、第三のコンベア17と同様に、それぞれの駆動ローラ13b、14bの両端に無端のローラチェーンを一本ずつ掛け渡して、2本のローラチェーンの間に連結棒を設け、その外側から無端のベルト13a、14aを掛け渡しても良い。さらに、コンベアを三台に分けることなく、一台のコンベアでガラスチョップドストランドマット1を製造する態様であっても良い。この場合、コンベアのベルトは、アラミド繊維、炭素繊維、又はガラス繊維で製織されたメッシュの織物から構成されていることが好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、本発明に係るガラスチョップドストランドマットの製造方法の実施例について説明する。
【0047】
(実施例1)
実施例1では、上記実施形態に係るガラスチョップドストランドマットの製造方法で説明した設備を使用し、単位面積あたりの質量が100g/mとなるようにガラスチョップドストランド2の堆積量を調整した。水散布後のガラスチョップドストランド2に付着した水とガラスチョップドストランド2との質量の比が70wt%となるように水の散布を行った。また、ガラスチョップドストランド2に対する結合剤3の質量の比が9wt%となるように、散布量や散布状態を調整して結合剤の散布を行った。加熱装置18における加熱温度は220℃、加熱時間は40秒となるように設定した。以上の条件でガラスチョップドストランドマットの製造を行った。
【0048】
(実施例2)
実施例2では、ガラスチョップドストランド2に対する結合剤3の質量の比が15wt%となるように、散布量や散布状態を調整して結合剤の散布を行った以外は実施例1と同じ条件でガラスチョップドストランドマットの製造を行った。
【0049】
(比較例1)
比較例1では、水の散布を行わなかったこと以外は実施例1と同じ条件で単位面積あたりの質量が100g/mのガラスチョップドストランドマットの製造を行った。
【0050】
以上の実施例及び比較例の実施条件及び製造されたガラスチョップドストランドマットの評価を表1に示す。なお、表1に示す結合剤使用量比とは、単位面積あたりの質量が100g/mのガラスチョップドストランドマットを製造するために比較例1で使用した結合剤3の使用量を基準の100として、実施例1、2における結合剤の使用量を表したものである。
【表1】

【0051】
表1に示すように、実施例1は、比較例1と比べて結合剤使用量比が大きく低減した。さらにコンベアの汚れも抑止され、製造されたガラスチョップドストランドマットの引張強さも比較例1と比べて増加した。
【0052】
この結果より、予めガラスチョップドストランド2に水散布を行うことで、結合剤3の使用量が大きく低減され、結合剤3の大幅な歩留まり向上が図られることが分かる。また、結合剤3の使用量低減に加えて結合剤3がガラスチョップドストランド2の隙間からこぼれ落ちることが抑制され、コンベアの汚れが減少したと考えられる。さらに、結合剤3の使用量が大きく低減されたにもかかわらず、ガラスチョップドストランドマットの引張強さが増加していることから、水の散布によりガラスチョップドストランド2同士の結合の効率が大きく向上したことが分かる。
【0053】
実施例2は、比較例1と比べて結合剤使用量比が低下したが、結合剤含有量を増やした分だけ実施例1より結合剤使用量比が増加した。また、実施例1ほどではないが比較例1と比べるとコンベアの汚れは少なかった。また、実施例1と比べて結合剤含有量を増やした分ガラスチョップドストランドマットの引張強さが増加した。ただし、ガラスチョップドストランドマットの柔軟性の観点からは実施例1や比較例1のものと比べて品質が低下した。
【0054】
この結果より、単位面積あたりの質量が100g/mのガラスチョップドストランドマットにおいては、柔軟性の観点から見ると、結合剤含有量は15wt%ではなく9wt%であることが好ましいことが分かる。
【符号の説明】
【0055】
1…ガラスチョップドストランドマット、2…ガラスチョップドストランド、3…結合剤、4…ガラスケーキ、10…切断装置、13…第一のコンベア、13a,14a,17a…ベルト、14…第二のコンベア、15…水散布機、16…結合剤散布機、17…第三のコンベア、18…加熱装置、19…水冷ローラ、20…巻き取り機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスチョップドストランドをシート状に堆積させる堆積工程と、
前記堆積工程で堆積させた前記ガラスチョップドストランドに水を散布する水散布工程と、
前記水散布工程で水を付けた前記ガラスチョップドストランドに固形の熱可塑性樹脂結合剤を散布する結合剤散布工程と、
前記結合剤散布工程の後に、前記ガラスチョップドストランドに付着した前記熱可塑性樹脂結合剤を加熱して溶融する加熱工程と、
前記加熱工程の後に、前記熱可塑性樹脂結合剤を冷却して前記ガラスチョップドストランド同士を結合させ、ガラスチョップドストランドマットを形成する冷却工程と、
を含むことを特徴とするガラスチョップドストランドマットの製造方法。
【請求項2】
前記ガラスチョップドストランドマットの単位面積あたりの質量を、30〜150g/m2とすることを特徴とする請求項1に記載のガラスチョップドストランドマットの製造方法。
【請求項3】
前記ガラスチョップドストランドマットにおける前記ガラスチョップドストランドに対する前記熱可塑性樹脂結合剤の質量の比を、5.0〜9.5wt%とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガラスチョップドストランドマットの製造方法。
【請求項4】
前記水散布工程において、前記ガラスチョップドストランドに対する質量の比が、30〜90wt%の水を前記ガラスチョップドストランドに付着させることを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか一項に記載のガラスチョップドストランドマットの製造方法。
【請求項5】
長さが50〜100mm、番手が5〜30texのガラスチョップドストランドを熱可塑性樹脂結合剤で結合した乾式のガラスチョップドストランドマットであって、
前記ガラスチョップドストランドに対する前記熱可塑性樹脂結合剤の質量の比が5.0〜9.5wt%であり、かつ、単位面積あたりの質量が30〜150g/m2であることを特徴とするガラスチョップドストランドマット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−99189(P2011−99189A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256317(P2009−256317)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】