説明

ガラスフィルムの製造方法及びガラスフィルム

【課題】延伸成形の際に生じる母材ガラスの破断を防止するガラスフィルムの製造方法を提供すること。加えて、薄肉幅広で略連続的にガラスフィルムを成形することを可能とし、母材ガラスの交換頻度を減少させることができるガラスフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】幅が50mm以上、且つ厚みが0.2mm未満であり、両側端部がレーザー割断された母材ガラス2を加熱炉3にて加熱し、幅が1〜300mm、且つ厚みが1〜50μmのガラスフィルム4に延伸成形することでガラスフィルム4を製造する。好ましくは、母材ガラス2として、巻き回されたガラスロール21を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレイや太陽電池等に使用されるガラス基板や、スペーサー、隔壁、絶縁体等に使用されるガラスフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
厚みが200μm以内の所謂超薄板ガラスの可能性に注目が集まっている(下記特許文献1参照)。ガラスの超薄板化を行うと、ガラスに可撓性を付与させることができる。近年、様々な電子デバイスに対して可撓性が付与されることが望まれる傾向にあり、例えば、有機ELディスプレイには、折りたたみや巻き取りによって持ち運びを容易にすると共に、平面だけでなく曲面にも使用可能とすることが求められている。また、自動車の車体表面や建築物の屋根、柱や外壁等、曲面を有する物体の表面に太陽電池を形成したり、有機EL照明を形成したりすることができれば、その用途が広がることとなる。また、ガラスを誘電体として使用するコンデンサーの用途においては、静電容量を向上させることが可能になる。
【0003】
ガラスはその厚みが薄いほど可撓性に富むため、前述の薄板ガラスよりもさらに薄くフィルム状まで薄肉化されたガラスフィルムの製造が望まれている。ガラスの成形方法には、ロールアウト法、フロート法、スロットダウンドロー法、オーバーフローダウンドロー法、リドロー法等、種々の方法が公知であるが、特にリドロー法が、より薄いフィルム状のガラスを成形する方法として用いられている(下記特許文献2参照)。
【0004】
図3は、公知のリドロー法(下記特許文献2参照)によって、薄板ガラスを成形する方法の説明図である。母材ガラス(100)を延伸成形装置(101)にセットし、成形炉(102)にてガラスの軟化点以上に加熱することによってリメルトし、成形炉の下方に設置された引き取りローラ(103)によって延伸することで薄板ガラス(104)の成形を行っている。
【0005】
更に薄いフィルム状のガラスを成形する方法として、下記特許文献3には、母材ガラスを加熱延伸することによって、幅1.2〜1.5mm、厚み26μm〜150μmのガラス板が得られることが記載されている。当該ガラス板は、主にスペーサーとして用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−133174号公報
【特許文献2】特開平11−199255号公報
【特許文献3】特開2001−80929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、厚みの少ない母材ガラスを延伸成形すると、加熱時の熱衝撃により母材ガラスがその側端部から破断し、延伸成形することができないという問題がある。特に延伸成形時には、母材ガラスに対して下方向の引っ張り力が付与されているため、前述した母材ガラス側端部には引っ張り応力が付与される傾向にあり、側端部からの破断が顕著となる。
【0008】
また、有限である母材ガラスを加熱延伸して薄板ガラスを成形するため、連続的にドローを行うことは困難であり、一定量延伸成形を行うと必ず母材ガラスを交換する作業が必要となる。母材ガラスを交換した後再度延伸成形を開始する場合、母材ガラスの先端を加熱炉上方から一定速度で挿入しながらガラスが自重で延伸してくるのを待つ必要があり、生産効率が著しく低下するという問題もある。
【0009】
本発明は、上述したような従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、延伸成形の際に生じる母材ガラスの破断を防止するガラスフィルムの製造方法を提供することを第1の目的とする。さらに、薄肉幅広で略連続的にガラスフィルムを成形することを可能とし、母材ガラスの交換頻度を減少させることができるガラスフィルムの製造方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、幅が50mm以上、且つ厚みが0.2mm未満であり、両側端部がレーザー割断された母材ガラスを加熱炉にて加熱し、幅が1〜300mm、且つ厚みが1〜50μmのガラスフィルムに延伸成形することを特徴とするガラスフィルムの製造方法に関する。
【0011】
請求項2に係る発明は、前記母材ガラスは、巻き回されたガラスロールであることを特徴とする請求項1に記載のガラスフィルムの製造方法に関する。
【0012】
請求項3に係る発明は、延伸成形時の前記母材ガラスの粘度が、105.5〜109.5dPa・sであることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラスフィルムの製造方法に関する。
【0013】
請求項4に係る発明は、幅が50mm以上、且つ厚みが0.2mm未満である母材ガラスを加熱炉にて加熱し、幅が1〜300mm、且つ厚みが1〜50μmに延伸成形されたガラスフィルムに関する。
【0014】
請求項5に係る発明は、熱膨張係数が、30〜50×10−7/℃であることを特徴とする請求項4に記載のガラスフィルムに関する。
【0015】
請求項6に係る発明は、歪点が500℃以上であることを特徴とする請求項4又は5に記載のガラスフィルムに関する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明によれば、母材ガラスの両側端部がレーザー割断されていることから、母材ガラス両側端部の切断面が平滑面(鏡面)で構成されており、母材ガラス両側端部における割れ、欠け等の欠陥発生頻度も極めて低い。これにより、厚み200μm以下の極薄の母材ガラスを延伸したとしても、両側端部から母材ガラスが破断することを防止することができる。
【0017】
請求項2に係る発明によれば、母材ガラスは、巻き回されたガラスロールであることから、母材ガラスをロールから引き出すことによって、連続的に母材ガラスを延伸することができる。これにより、母材ガラスの交換頻度を減少させることができる。
【0018】
請求項3に係る発明によれば、延伸成形時の前記母材ガラスの粘度が、105.5〜109.5dPa・sであることから、両側端部から母材ガラスが破断することをより確実に防止することができる。
【0019】
請求項4に係る発明によれば、幅が50mm以上、且つ厚みが0.2mm未満である母材ガラスを加熱炉にて加熱し、幅が1〜300mm、且つ厚みが1〜50μmに延伸成形されたガラスフィルムであることから、幅が広く厚みが薄いガラスを得ることができる。斯様なガラスフィルムにあっては、例えば、コンデンサー用の誘電体として使用する場合に、大きな静電容量を得ることができ、好適である。
【0020】
請求項5に係る発明によれば、熱膨張係数が、30〜50×10−7/℃であることから、熱膨張係数がSiと整合しやすく、フラットパネルディスプレイの基板として好適に使用することができる。
【0021】
請求項6に係る発明によれば、歪点が500℃以上であることから、加熱を伴う処理を必要とするフラットパネルディスプレイの基板として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るガラスフィルムの製造装置の概略側面図である。
【図2】母材ガラスにレーザーの照射熱を作用させて、そのときの熱応力によって母材ガラスを割断する方法を示す説明図である。
【図3】従来の薄板ガラスの製造装置の図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係るガラスフィルムの製造方法の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
本発明に係るガラスフィルムの製造方法は、図1に示すように、延伸成形装置(1)に母材ガラスロール(21)をセットし、母材ガラスロール(21)から母材ガラス(2)を引き出しながら加熱炉(3)で加熱を行い、巻取りドラム(5)で巻き取ることによって母材ガラス(2)を下方に延伸することで、ガラスフィルム(4)を製造する。
【0025】
母材ガラス(2)としては、主にケイ酸塩ガラスが用いられるが、ソーダガラス、ホウ珪酸ガラス、アルミ珪酸ガラス、シリカガラス等、延伸成形可能なガラスであれば、いずれの材料も使用可能である。母材ガラス(2)の材料は、ガラスフィルム(4)が使用される用途によって、適宜選択される。また、母材ガラス(2)として、延伸成形可能な結晶化ガラスを用いることもできる。結晶化ガラスは耐熱性に優れるため、母材ガラス(2)の材料として結晶化ガラスを使用することにより、高温の動作温度を必要とする部品として好適に使用することができる。
【0026】
母材ガラス(2)の幅は、50mm以上である。これにより、ガラスフィルム(5)の巻き取り速度を上げたとしても、延伸成形後のガラスフィルムの幅を1mm〜300mmとすることができる。幅広のガラスフィルムを得るため、母材ガラス(2)の幅は、100mm以上が好ましく、200mm以上、500mm以上、700mm以上が順により好ましく、1000mm以上であることが最も好ましい。一方、母材ガラス(2)の幅が2000mmを超えると、延伸成形し難くなるおそれがある。
【0027】
母材ガラス(2)の厚みは、0.2mm未満であることを要し、0.15mm以下が好ましく、0.075mm以下がさらに好ましく、0.005mm以下であることが最も好ましい。厚みが同一のガラスフィルム(4)を延伸成形で作製する場合に、母材ガラス(2)の厚みが少ない程、母材ガラスロール(21)の重量を低減することが可能となり、母材ガラスロール(21)の設置を容易に行うことができる。また、母材ガラスロール(21)の重量が同一であれば、より多くの母材ガラス(2)を母材ガラスロール(21)に巻き回すことが可能となるため、母材ガラスロール(21)の交換頻度を更に抑制することができる。
【0028】
延伸成形時の縮尺率は、1/2〜1/200が好ましく、1/5〜1/10が最も好ましい。延伸成形時の縮尺率を小さくすることができれば、延伸成形中に母材ガラス(2)の両側端部にかかる応力を低減することが可能となり、ひいては延伸成形中に母材ガラス(2)が両側端部から破損するのを防止することができる。母材ガラス(2)の厚みが少なければ、延伸成形時の縮尺率を少なくすることができる。尚、巻き取りドラム(5)による延伸成形の力は、板幅方向におけるガラスの粘度を考慮して、板幅方向に均等にガラスが伸びるような力がかかるように制御することが好ましい。
【0029】
母材ガラス(2)は、ロールアウト法、アップドロー法、フロート法、ダウンドロー法(スロットダウンドロー法、オーバーフローダウンドロー法)等によって、溶融ガラスから直接板状に成形することによって作製される。母材ガラス(2)は、オーバーフローダウンドロー法によって作製することが好ましい。すなわち、オーバーフローダウンドロー法によれば、表面に傷の発生がなく、高い表面品位を有する母材ガラス(2)を得ることができるからである。母材ガラス(2)の表面品位が高ければ、後述する延伸成形後のガラスフィルム(4)の表面品位も高くなる。
【0030】
母材ガラス(2)の両側端部は、図2に示す通り、レーザー割断されている。レーザー割断を行うと、母材ガラス(2)両側端部の切断面が、平滑面(鏡面)で構成されることとなり、母材ガラス(2)両側端部における割れ、欠け等の欠陥発生頻度も極めて低い。これにより、厚み200μm以下の極薄の母材ガラスを延伸したとしても、両側端部から母材ガラス(2)が破断することを防止することができる。
【0031】
レーザー割断は、図2に示すように、母材ガラス(2)の下流側端部に初期クラック(W)を形成すると共に、レーザー照射による加熱点(X)を母材ガラス(2)の長手方向に沿って走査した後、冷媒による冷却点(Y)を走査しながら加熱された部分を冷却し、そのときに生じる熱応力によって初期クラック(W)を進展させて割断線(Z)を形成するものである。ここで、この割断線(Z)は、母材ガラス(2)の表面から裏面に亘って連続的に形成される。従って、初期クラック(W)を進展させて割断線(Z)を形成した時点で、割断線(Z)の形成部分に対応した耳部は切断される。尚、レーザーの加熱点(X)及び冷媒による冷却点(Y)の走査は、レーザーの加熱点(X)及び冷媒による冷却点(Y)を固定した状態で、母材ガラス(2)を搬送方向下流側に順次搬送することによって行われる。
【0032】
母材ガラス(2)は、巻き回された母材ガラスロール(21)であることが好ましい。母材ガラスロール(21)から母材ガラスを引き出すことで、連続的に母材ガラス(2)を延伸することができるため、母材ガラス(2)の交換頻度を減少させることができる。母材ガラスロール(21)は、図示しない巻芯(22)の周りに巻き回されていることが好ましい。これにより、延伸成形装置(1)に母材ガラスロール(21)を設置し易くなる。
【0033】
母材ガラスロール(21)は、梱包緩衝シート(6)を介して巻き回されていることが好ましい。これにより、巻き回された母材ガラスロール(21)が、摩擦や衝撃等によって破損することを防止することができる。破損にまで至らなかったとしても、母材ガラス(2)同士が擦れることによって、母材ガラス(2)表面に傷が発生することを防止することができる。梱包緩衝シート(6)として、PET等の樹脂シートや、紙等を使用することができる。加熱炉(3)による加熱前に、梱包緩衝シート(6)を母材ガラス(2)から除去する必要がある。従って、図1の実施形態においては、加熱炉(3)前に分離ローラ(7)を設け、分離ローラ(7)によって母材ガラス(2)と梱包緩衝シート(6)との分離を行う。分離された梱包緩衝シート(6)は、巻き取られることによって、梱包緩衝シートロール(61)となる。
【0034】
母材ガラス(2)の歪点は、成形後のガラスフィルム(4)に対して施される加熱を伴う処理工程での処理温度以上の温度であることが好ましい。即ち、成形後のガラスフィルム(4)に対して加熱を伴う処理が施される場合に、加熱を伴う処理によるガラスフィルム(4)の熱変形を防止するためである。従って、ガラスフィルム(4)が太陽電池用ガラス基板として使用される場合、FTOの形成、TiO多孔質体の焼成、CIGS膜の成膜等に高温が必要になる。また、フラットパネルディスプレイ、特にLCDや有機ELといったデバイスを作製する際には、400℃〜500℃の熱処理工程が存在するため、母材ガラス(2)の歪点は、520℃以上が好ましく、550℃以上、580℃以上、600℃以上、650℃以上であることがより好ましく、690℃以上であることが最も好ましい。
【0035】
母材ガラス(2)の液相温度は低いことが好ましい。液相温度が低い程、延伸成形の際に成形温度を低くすることが可能となるからである。具体的には1200℃以下が好ましく、1150℃以下がより好ましく、1110℃以下であることが好ましく、1050℃以下であることが最も好ましい。また、液相温度における母材ガラス(2)の粘度が高い程、オーバーフローダウンドロー法による母材ガラス(2)の成形が容易になると共に、延伸成形も容易になるため、液相温度における粘度は、104.0dPa・s以上が好ましく、104.5dPa・s以上、105.0dPa・s以上、105.2dPa・s以上、105.5dPa・s以上が順により好ましく、105.7dPa・s以上が最も好ましい。
【0036】
母材ガラス(2)の熱膨張係数は、30〜380℃の範囲において、30〜50×10−7/℃であることが好ましい。これにより、成形後のガラスフィルムを有機ELや薄膜Si太陽電池用基板として用いる場合に、基板上に形成されるSi系のフィルムと熱膨張係数を整合させることができる。母材ガラス(2)の熱膨張係数は、30〜45×10−7/℃であることがより好ましく、30〜40×10−7/℃であることが最も好ましい。
【0037】
母材ガラス(2)の熱膨張係数と、ガラスフィルム(4)が使用される部品の周辺材料との熱膨張係数の差は、30〜380℃の範囲において、±5×10−7/℃であることが好ましく、±1×10−7/℃であることが最も好ましい。
【0038】
加熱炉(3)における加熱温度は、失透結晶(長径1μm以上)がガラス中(特にガラス表面中)に析出しない温度とする。具体的には、使用する母材ガラス(2)の失透温度以下の温度である。加熱温度は、使用する母材ガラス(2)の失透温度の50℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。
【0039】
延伸成形は、母材ガラス(2)の粘度が105.5〜109.5dPa・sとなる温度で行うことが好ましい。これにより、巻き取りドラム(5)によって延伸成形速度を上げることができ、薄肉幅広のガラスフィルム(4)を成形することができる。一方、母材ガラス(2)の粘度が105.5dPa・sを下回る温度(より高い温度)で延伸成形を行った場合は、寸法精度が低下するおそれがある。また、母材ガラス(2)の粘度が、109.5dPa・sを上回る温度(より低い温度)では、粘度が高すぎることによって延伸成形中にガラスが破損するおそれがある。母材ガラス(2)の粘度が106.0〜109.0dPa・s、106.5〜108.5dPa・s、107.0〜108.5dPa・s、が順により好ましく、107.5〜108.5dPa・sとなる温度で行うことが最も好ましい。
【0040】
加熱炉(3)上方から降下してきた母材ガラス(2)は、加熱炉(3)で加熱されると共に、巻き取りドラム(5)によって直接巻き取られることで、下方への引っ張り力が付与される。これにより、母材ガラス(2)を下方へと延伸成形することができ、ガラスフィルム(4)を成形することができる。ガラスフィルム(4)は、巻き取りドラム(5)で直接巻き取られているため、ガラスフィルム(4)表面の面品位を向上することができる。前述の通り、母材ガラス(2)の端部はレーザー割断されており、母材ガラス両側端部の切断面が平滑面(鏡面)で構成されており、母材ガラス両側端部における割れ、欠けの発生頻度も極めて低い。これにより、延伸成形中に母材ガラス(2)が、端面から破断することを防止することができる。尚、ガラスフィルム(4)を直接巻き取りドラム(5)で巻き取る形態について説明したが、これには限定されず、加熱炉(3)下方に図示しない引き取りローラを配置し、当該引き取りローラによってガラスフィルム(4)を挟持することで延伸成形してもよい。この場合、ガラスフィルム(4)の表面の面品位は多少悪化するおそれはあるが、直接巻き取りローラ(5)で延伸する形態と比較して、強い延伸力を付与することができる。また常に真下で延伸可能になるため、巻き取りに伴うロールの直径変化を補正するための位置制御を行う必要がなくなる。
【0041】
延伸成形の母材として母材ガラスロール(21)を使用する場合には、次のようにして延伸成形を開始することもできる。最初に、母材ガラスロール(21)から母材ガラス(2)を引き出し、母材ガラス(2)を未加熱状態の加熱炉(3)を挿通しつつ巻き取りドラム(5)、または図示しない引き取りローラに固定する。その後、加熱炉(3)の加熱を行い、巻き取りドラム(5)による巻き取りを開始、又は引き取りローラの回転を開始することで、延伸成形を開始する。これにより、母材ガラス(2)の先端を加熱炉(3)上方から一定速度で挿入しながら先端が自重で延伸してくるのを待つ必要がなくなり、迅速かつ円滑に延伸成形を開始することができる。
【0042】
母材ガラス(2)の延伸成形速度については、母材ガラス(2)を前記加熱炉(3)に送り込む速度の2〜40000倍の速度で、母材ガラス(2)を引き取ることが好ましい。
【0043】
上述の延伸成形方法によって製造されたガラスフィルム(4)は、巻き取りドラム(5)によって巻き取られる。巻き取りドラム(5)に巻き取る際は、図示しない梱包緩衝シートをガラスフィルム(4)間に介装してもよい。巻き取り後は、使用する用途に応じて適宜梱包される。例えば、巻き取りドラム(5)で巻き取ったまま、ガラスフィルムのロール体として梱包することもできる。また、ガラスフィルム(4)を所定長ごとに切断し、枚葉式に梱包緩衝シートと交互に箱体内部に積層することによって梱包することもできる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明のガラスフィルムを実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)母材ガラスとして、日本電気硝子株式会社製OA−10G(軟化点940℃、30℃〜380℃における熱膨張係数αが38×10−7/℃)のガラスロール(幅500mm、厚み0.05mm、長さ50mのロール品)を準備した。尚、母材ガラス両側部をレーザー割断することで、幅の調整を行った。その後、母材ガラスロールを延伸成形装置にセットし、温度900〜960℃(母材ガラスの粘度107.4〜108.4dPa・s)に保持された成形炉の供給口(スロット)から10mm/minの速度で搬入し、巻き取りドラムで巻き取ることによって引き出し口から250mm/minで引き出し、幅100mm、厚み10μmのガラスフィルムを得た。
【0046】
(実施例2)母材ガラスとして、日本電気硝子株式会社製OA−10G(軟化点940℃、30℃〜380℃における熱膨張係数αが38×10−7/℃)のガラスロール(幅200mm、厚み0.05mm、長さ50mのロール品)を準備した。尚、母材ガラス両側部をレーザー割断することで、幅の調整を行った。その後、母材ガラスロールを延伸成形装置にセットし、温度900〜960℃(母材ガラスの粘度107.4〜108.4dPa・s)に保持された成形炉の供給口(スロット)から10mm/minの速度で搬入し、巻き取りドラムで巻き取ることによって引き出し口から250mm/minで引き出し、幅40mm、厚み10μmのガラスフィルムを得た。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、太陽電池、フラットパネルディスプレイ等のガラス基板、スペーサー、隔壁、コンデンサーの誘電体等に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 延伸成形装置
2 母材ガラス
21 母材ガラスロール
3 加熱炉
4 ガラスフィルム
5 巻き取りドラム
6 梱包緩衝シート
7 分離ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅が50mm以上、且つ厚みが0.2mm未満であり、両側端部がレーザー割断された母材ガラスを加熱炉にて加熱し、幅が1〜300mm、且つ厚みが1〜50μmのガラスフィルムに延伸成形することを特徴とするガラスフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記母材ガラスは、巻き回されたガラスロールであることを特徴とする請求項1に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項3】
延伸成形時の前記母材ガラスの粘度が、105.5〜109.5dPa・sであることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項4】
幅が50mm以上、且つ厚みが0.2mm未満である母材ガラスを加熱炉にて加熱し、幅が1〜300mm、且つ厚みが1〜50μmに延伸成形されたガラスフィルム。
【請求項5】
熱膨張係数が、30〜50×10−7/℃であることを特徴とする請求項4に記載のガラスフィルム。
【請求項6】
歪点が500℃以上であることを特徴とする請求項4又は5に記載のガラスフィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−87006(P2012−87006A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235108(P2010−235108)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】