説明

ガラス基板成形用金型、ガラス基板の製造方法、情報記録媒体用ガラス基板の製造方法及び情報記録媒体の製造方法

【課題】溶融ガラスをプレス成形することによってガラス基板を製造するための金型において、製造されたガラス基板の反りを低減することができるガラス基板成形用金型、該ガラス基板成形用金型を用いたガラス基板の製造方法等を提供する。
【解決手段】溶融ガラスが供給され、供給された該溶融ガラスを加圧するための第1の成形面を備える下型と、第1の成形面との間で溶融ガラスを加圧するための第2の成形面を備える上型と、を有する金型であって、第2の成形面の表面粗さRaが、第1の成形面の表面粗さRaよりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板成形用金型、該成形用金型を用いたガラス基板の製造方法、該製造方法で製造したガラス基板を用いた情報記録媒体用ガラス基板の製造方法及び情報記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気、光、光磁気等の性質を利用した記録層を有する情報記録媒体のなかで、代表的なものとして磁気ディスクがある。磁気ディスク用基板として、従来アルミニウム基板が広く用いられていた。しかし、近年、記録密度向上のための磁気ヘッド浮上量の低減の要請に伴い、アルミニウム基板よりも表面の平滑性に優れ、しかも表面欠陥が少ないことから磁気ヘッド浮上量の低減を図ることができるガラス基板を磁気ディスク用基板として用いる割合が増えてきている。
【0003】
このような磁気ディスク等の情報記録媒体用ガラス基板は、ブランク材と呼ばれるガラス基板に研磨加工等を施すことによって製造される。ガラス基板(ブランク材)は、プレス成形によって製造する方法や、フロート法等によって作製された板ガラスを切断して製造する方法等が知られている。これらの方法うち、溶融ガラスを直接プレス成形することによってガラス基板を製造する方法は、特に高い生産性が期待できることから注目されている。
【0004】
しかし、溶融ガラスをプレス成形してガラス基板を製造する方法においては、製造されたガラス基板の反り量が大きく、反りを修正するためのアニール工程等が必要となるなど、後工程に多大の時間と労力を要するという問題があった。
【0005】
このようなガラス基板の反りを改善するため、受け成形型及び対向成形型、あるいは受け成形型又は対向成形型の成形面の少なくとも一部を断熱加工した金型を用いてプレス成形する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。特許文献1では、更に、断熱加工として成形面を粗面にする方法が提案されている。
【特許文献1】特開平10−194763号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らによる実験によれば、特許文献1の記載に従って上型のプレス面及び下型のプレス面を粗面とした金型を用いても、ガラス基板の反り量はほとんど改善されないことが分かった。
【0007】
本発明者が鋭意検討を重ねた結果、ガラス基板の反りは、プレス成形の際における溶融ガラス(ガラス基板)の上下面の冷却速度に差があり、溶融ガラスの上下の面で固化するタイミングがずれることによるものであることが判明した。下型との接触面が先に冷却されて固化した後に上型との接触面が遅れて冷却、固化する際の熱収縮によって、上型との接触面が凹になる方向にガラス基板が反るのである。特許文献1の記載に従って上型のプレス面及び下型のプレス面を粗面とした金型を用いても、溶融ガラスの上下面の冷却速度の差を縮める効果はほとんど無いことから、成形後のガラス基板が反るという問題は依然解決されていなかった。
【0008】
本発明は上記のような技術的課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、溶融ガラスをプレス成形することによってガラス基板を製造するための金型において、製造されたガラス基板の反りを低減することができるガラス基板成形用金型、該ガラス基板成形用金型を用いたガラス基板の製造方法、該製造方法で製造したガラス基板を用いた情報記録媒体用ガラス基板の製造方法及び情報記録媒体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有するものである。
【0010】
1. 溶融ガラスをプレス成形してガラス基板を製造するためのガラス基板成形用金型において、前記溶融ガラスが供給され、供給された該溶融ガラスを加圧するための第1の成形面を備える下型と、前記第1の成形面との間で前記溶融ガラスを加圧するための第2の成形面を備える上型と、を有し、前記第2の成形面の表面粗さRaが、前記第1の成形面の表面粗さRaよりも大きいことを特徴とするガラス基板成形用金型。
【0011】
2. 前記第2の成形面の表面粗さRaが、前記第1の成形面の表面粗さRaの1.5倍以上20倍以下であることを特徴とする前記1に記載のガラス基板成形用金型。
【0012】
3. 溶融ガラスをプレス成形してガラス基板を製造するガラス基板の製造方法において、下型に形成された第1の成形面に溶融ガラスを供給する溶融ガラス供給工程と、前記第1の成形面、及び上型に形成された第2の成形面で、前記第1の成形面に供給された前記溶融ガラスを加圧しながら冷却してガラス基板を得る加圧工程と、を有し、前記第2の成形面の表面粗さRaが、前記第1の成形面の表面粗さRaよりも大きいことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【0013】
4. 前記第2の成形面の表面粗さRaが、前記第1の成形面の表面粗さRaの1.5倍以上20倍以下であることを特徴とする前記3に記載のガラス基板の製造方法。
【0014】
5. 前記ガラス基板は、情報記録媒体用ガラス基板を製造するためのガラス基板であることを特徴とする前記3又は4に記載のガラス基板の製造方法。
【0015】
6. 前記5に記載のガラス基板の製造方法により製造されたガラス基板を研磨する工程を有することを特徴とする情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【0016】
7. 前記6に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法により製造された情報記録媒体用ガラス基板に記録層を形成する工程を有することを特徴とする情報記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、溶融ガラスに遅れて接触する上型の第2の成形面からの冷却速度を上げることができ、それにより溶融ガラスの上下面における固化するタイミングのずれを縮小することができる。従って、溶融ガラスをプレス成形することによってガラス基板を製造する方法において、製造されたガラス基板の反りを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
(ガラス基板成形用金型)
図1は、本発明のガラス基板成形用金型の例を示す図である。この金型10は、溶融ガラスが供給され、供給された該溶融ガラスを加圧するための第1の成形面13を備える下型11と、下型11の第1の成形面13との間で溶融ガラスを加圧するための第2の成形面14を備える上型12とを有している。
【0020】
本発明のガラス基板成形用金型10は、上型12の第2の成形面14の表面粗さRaが、下型11の第1の成形面13の表面粗さRaよりも大きい。そのため、溶融ガラスに遅れて接触する上型12の第2の成形面14からの冷却速度を上げることができ、製造されたガラス基板の反りを抑えることができる。
【0021】
ここで、上型12の第2の成形面14の表面粗さRaを、下型11の第1の成形面13の表面粗さRaよりも大きくすることでガラス基板の反りを抑えることができる理由を説明する。溶融ガラスをプレス成形することによってガラス基板を製造する方法においては、所定温度に保たれた金型に、金型よりも高温の溶融ガラスが供給される。高温の溶融ガラスは、上下金型で加圧される間に変形すると同時に放熱し、冷却固化してガラス基板が形成される。このときの放熱の大部分は金型との接触面から行われるため、放熱による溶融ガラスの冷却固化の速度は接触面積に依存する。
【0022】
図2は、金型に供給された溶融ガラスの下面(下型の第1の成形面と接触する面)及び上面(上型の第2の成形面と接触する面)の温度変化を示すグラフである。図2(a)は、従来知られている第1の成形面と第2の成形面の表面粗さが等しい金型を用いた場合のグラフであり、図2(b)は、本発明のガラス基板成形用金型10を用いた場合のグラフである。グラフ中、溶融ガラスの下面の温度変化を破線で、溶融ガラスの上面の温度変化を実線で示している。
【0023】
グラフの横軸は時間である。t1は溶融ガラスが下型の第1の成形面に供給された時点、t2は溶融ガラスが上型の第2の成形面に接触する時点、t3は溶融ガラスの下面の温度がT3となる時点の時間をそれぞれ示している。グラフの縦軸は温度である。T1は下型の温度、T2は上型の温度、T3は溶融ガラスが固化する温度、T4は金型に供給される時点における溶融ガラスの温度をそれぞれ示している。
【0024】
なお、ガラスは本来、温度の低下によって粘度が連続的に増加していくものである。従って、ガラスが固化する温度T3というのは厳密には1点に決めることはできず、ある幅を持った温度範囲と考えるべきである。しかしその幅の大きさはここではあまり問題とならないため、幅を無視して単純化したモデルで説明を行う。この場合のT3は、ガラス転移点(Tg)の近傍の温度であると考えることができる。
【0025】
従来の金型を用いた場合、図2(a)に示すように、溶融ガラスが供給されると下型の第1の成形面からの放熱によって冷却が始まる。そのため、溶融ガラスの下面は、溶融ガラスが第1の成形面に供給された時点(t1)から直ちに冷却が始まり、時間t3の時点でガラスが固化する温度T3まで冷却され、最終的には下型の温度T1に接近していく。溶融ガラスの上面は、上型の第2の成形面に接触する時点(t2)まではゆっくり冷却されるだけであるが、t2以降は第2の成形面からの放熱によって冷却速度が上がり、最終的には上型の温度T2に接近していく。
【0026】
ここで問題となるのは、溶融ガラスの下面の温度がT3に達した時点(t3)における、下面と上面の温度差(ΔT)である。最終的に下面と上面の温度がそれぞれ金型温度に接近するまでの間に、溶融ガラスの上面はこのΔTに相当する量だけ下面よりも熱収縮量が大きくなる。まだ両面とも固化する前であれば、温度差により熱収縮量が異なったとしてもガラスが流動することによって歪みが解消されるため問題にはならない。しかし、下面がT3に達したあとはガラスが流動できないため、熱収縮量の差を解消することができずガラス基板が大きく反ってしまう。
【0027】
一方、本発明のガラス基板成形用金型10は、上型12の第2の成形面14の表面粗さRaが、下型11の第1の成形面13の表面粗さRaよりも大きい。そのため、第2の成形面14の方が、溶融ガラスと接触する際の実効表面積が大きくなり溶融ガラスの放熱速度が高くなる。従って、図2(b)に示すように、上型の第2の成形面に接触する時点(t2)以降の冷却速度が図2(a)の場合よりも速くなり、その分、溶融ガラスの下面の温度がT3に達した時点(t3)における、下面と上面の温度差(ΔT)を小さくすることができる。その結果、下面と上面の熱収縮量の差が小さくなり、ガラス基板の反りを抑制することができるのである。
【0028】
このように、上型12の第2の成形面14の表面粗さRaを、下型11の第1の成形面13の表面粗さRaよりも大きくすることでガラス基板の反りを抑制する効果が得られる。第2の成形面14の表面粗さRaを、第1の成形面13の表面粗さRaの1.5倍以上とすることで、ガラス基板の反りを更に小さくすることができる。一方、第2の成形面14の表面粗さRaが、第1の成形面13の表面粗さRaの20倍を超えると、溶融ガラスの上面の冷却速度が速くなりすぎ、ガラス基板に逆向きの反りが発生してくる場合がある。そのため、反りの小さいガラス基板を得るためには、第2の成形面14の表面粗さRaを、第1の成形面13の表面粗さRaの1.5倍以上20倍以下とすることが好ましい。
【0029】
上型12の第2の成形面14や、下型11の第1の成形面13の表面粗さRaの値に特に制限はない。ただし、第2の成形面14の表面粗さRaが0.1μm未満の場合は、溶融ガラスと接触する実効表面積を大きくして放熱速度を高めるという効果が小さくなってくる。また、第2の成形面14や第1の成形面13の表面粗さRaが5μmよりも大きくなると、酸化や溶融ガラスとの反応などによる金型の劣化が目立ってくる。このような観点から、第2の成形面14の表面粗さRaは0.1μm以上5μmとすることがより好ましい。
【0030】
なお、表面粗さRaとは、JIS B0601:2001で規定されている算術平均高さRaのことをいう。表面粗さRaは、市販の触針式表面粗さ測定機等を用いて測定することができる。
【0031】
また、図2においては、下型11の温度T1と上型12の温度T2とが等しい場合の例を示しているが、本発明はこのような条件の場合に限られず、T1とT2が異なる場合であってもガラス基板の反りを抑制するという効果を得ることができる。ガラスの熱膨張係数はガラス転移点(Tg)付近で不連続に変化し、Tgよりも高い温度領域においては、Tgよりも低い温度領域と比べて非常に高い値となる。更に、ガラス基板を金型から取り出した後、最終的にはガラス基板の下面と上面は等しい温度にまで冷却される。そのため、ガラス基板の反り量の大部分は溶融ガラスの下面の温度がT3に達した時点(t3)における下面と上面の温度差(ΔT)によって支配され、成形時における到達温度の差(T1とT2の差)はほとんど影響しないからである。
【0032】
本発明のガラス基板成形用金型においては、ガラス基板と接触する全ての領域で上型12の第2の成形面14の表面粗さRaが、下型11の第1の成形面13の表面粗さRaよりも大きいことが最も好ましい。但し、必ずしもガラス基板と接触する全ての領域で表面粗さRaが上記関係を満足する必要はなく、本発明の効果が得られる範囲で、上記関係を満足するのがガラス基板と接触する領域よりも小さい領域であっても良い。通常、表面粗さRaが上記関係を満足する領域が、ガラス基板と接触する領域の70%程度以上であれば本発明の効果を得ることができ、80%程度以上とすることが好ましい。また、表面粗さRaが全ての領域で一定である必要はなく、上記関係を満足する範囲内で分布を持っていても良い。
【0033】
ガラス基板成形用金型の材質は、各種の耐熱性ステンレス鋼、炭化タングステンを主成分とする超硬材料、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、カーボンなど、ガラス基板成形用金型の材質として公知の材料の中から適宜選択して用いることができる。また、耐熱性、耐酸化性等の向上のため、これらの材料の表面に各種金属やセラミックス、カーボンなどの保護膜を形成したものを用いることもできる。下型11と上型12とを同一の材料で構成しても良いし、それぞれ別の材料で構成しても良い。
【0034】
上型12の第2の成形面14の表面粗さRaを、下型11の第1の成形面13の表面粗さRaよりも大きくするには、金型を製造する際の研磨加工や研削加工の条件を適宜設定すれば良い。また、両方を同じ表面粗さに仕上げた後、上型12の第2の成形面14を、ブラスト処理やエッチング処理によって粗面化しても良い。粗面化は、大気中での加熱による酸化処理によって行うこともできる。また、第1の成形面13や第2の成形面14に保護膜が形成されている場合、先ず下地面を粗面化し、その上に保護膜を形成しても良いし、先に保護膜を形成してから、形成された保護膜を粗面化しても良い。
【0035】
なお、本発明のガラス基板成形用金型は、1つの上型12と1つの下型11とを組にして使用する物であっても良いし、何れか一方、又は両方が複数であっても良い。例えば、1つの上型12と2つ以上の下型11とを組にして使用する物や、2つ以上の上型12と2つ以上の下型11とを組にして使用する物であっても良い。
【0036】
(ガラス基板の製造方法)
本発明におけるガラス基板の製造方法は、溶融ガラスをプレス成形してガラス基板を製造する方法であり、下型に形成された第1の成形面に溶融ガラスを供給する溶融ガラス供給工程と、第1の成形面、及び上型に形成された第2の成形面で、第1の成形面に供給された溶融ガラスを加圧しながら冷却してガラス基板を得る加圧工程とを有している。金型は、上型の第2の成形面の表面粗さRaが、下型の第1の成形面の表面粗さRaよりも大きい金型を使用する。
【0037】
(溶融ガラス供給工程)
溶融ガラス供給工程は、下型に形成された第1の成形面に溶融ガラスを供給する工程である。図3は、溶融ガラス供給工程における下型11と溶融ガラス23等を示す模式図である。始めに、流出ノズル21から溶融ガラス23を流出し、所定温度に加熱された下型11の第1の成形面13に供給する(図3(a))。次に、ブレード22によって溶融ガラス23を切断し、所定量の溶融ガラス23を分離する(図3(b))。
【0038】
下型11の温度に特に制限はなく、ガラスの種類やガラス基板のサイズ等によって適宜決定すればよい。下型11の温度が低すぎるとガラス基板の平面度が悪化したり、転写面へのしわの発生等の問題が起こる。逆に、必要以上に温度を高くしすぎると、ガラスとの融着が発生したり、金型の劣化が著しくなることから好ましくない。通常は、成形するガラスのTg(ガラス転移点)−200℃からTg+100℃程度の温度範囲とすることが好ましい。
【0039】
下型11の加熱手段にも特に制限はなく、公知の加熱手段の中から適宜選択して用いることができる。例えば、下型11の内部に埋め込んで使用するカートリッジヒーターや、下型11の外側に接触させて使用するシート状のヒーターなどを用いることができる。また、赤外線加熱装置や、高周波誘導加熱装置を用いて加熱することもできる。
【0040】
(加圧工程)
加圧工程は、第1の成形面13、及び上型12に形成された第2の成形面14で、第1の成形面13に供給された溶融ガラスを加圧しながら冷却してガラス基板24を得る工程である。
【0041】
図4は、加圧工程におけるガラス基板成形用金型10とガラス基板24を示す模式図である。溶融ガラス供給工程において溶融ガラス23が供給された下型11は、上型12と対向する位置まで水平移動する。その後、下型11の第1の成形面13と、上型12の第2の成形面14とで溶融ガラスを加圧する。溶融ガラスは、第1の成形面13及び第2の成形面14との接触面から放熱することによって冷却・固化し、ガラス基板24となる。
【0042】
上述のように、本発明の製造方法においては、上型の第2の成形面の表面粗さRaが、下型の第1の成形面の表面粗さRaよりも大きい金型を使用する。そのため、上型の第2の成形面からの放熱速度が、下型の第1の成形面からの放熱速度よりも高くなる。その結果、溶融ガラスの下面の温度がT3に達した時点(t3)における、下面と上面の温度差(ΔT)を小さくすることができ、ガラス基板の反りを抑制することができる。
【0043】
なお、上型12は、下型11と同様に所定温度に加熱されている。加熱温度や加熱手段については上述の下型11の場合と同様である。加熱温度は下型11と同じであっても良いし異なっていても良い。
【0044】
下型11と上型12に荷重を負荷するための加圧手段は、公知の加圧手段を適宜選択して用いることができる。例えば、エアシリンダ、油圧シリンダ、サーボモータを用いた電動シリンダ等が挙げられる。
【0045】
(情報記録媒体用ガラス基板の製造方法)
上述の製造方法によって製造されたガラス基板(ブランク材)に、少なくとも研磨工程を加えることにより情報記録媒体用ガラス基板を製造することができる。図5は、本発明の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法によって製造した情報記録媒体用ガラス基板の1例を示す図である。図5(a)は斜視図、図5(b)は断面図である。情報記録媒体用ガラス基板30は中心穴33が形成された円板状のガラス基板であって、主表面31、外周端面34、内周端面35を有している。外周端面34と内周端面35には、それぞれ面取り部36、37が形成されている。
【0046】
研磨工程は、製造されたガラス基板(ブランク材)の主表面を研磨する工程であり、最終的に情報記録媒体用ガラス基板として要求される平滑性に仕上げる工程である。研磨の方法は、情報記録媒体用ガラス基板の製造方法として用いられる公知の方法をそのまま用いることができる。例えば、対向配置した2つの回転可能な定盤の対向する面にパッドを貼り付け、2つのパッド間にガラス基板を配置し、ガラス基板表面にパッドを接触させながら回転させると同時に、ガラス基板表面に研磨剤を供給する方法で行うことができる。また、研磨剤の粒度やパッドの種類を変えて、粗研磨工程、精密研磨工程といったように複数の工程に分けて研磨を行うことも好ましい。
【0047】
研磨剤としては、例えば、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化マンガン、コロイダルシリカ、ダイヤモンドなどが挙げられる。この中でも、ガラスとの反応性が高く、短時間で平滑な研磨面が得られる酸化セリウムを用いることが好ましい。
【0048】
パッドは硬質パッドと軟質パッドとに分けられるが、必要に応じて適宜選択して用いることができる。硬質パッドとしては、硬質ベロア、ウレタン発泡、ピッチ含有スウェード等を素材とするパッドが挙げられ、軟質パッドとしては、スウェードやベロア等を素材とするパッドが挙げられる。
【0049】
また、本発明の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法においては、ガラス基板(ブランク材)の主表面を研磨する研磨工程の他、内外周加工工程やラッピング工程を行うことが好ましい。内外周加工工程は、中心孔の穿孔加工、外周端面や内周端面の形状や寸法精度確保のための研削加工、内外周端面の研磨加工等を行う工程であり、ラッピング工程は、記録層が形成される面の平面度、厚み、平行度等を満足させるため、研磨工程の前にラッピング加工を行う工程である。更に、ガラス基板の材料として化学強化ガラスや結晶化ガラスを用いる場合には、加熱された化学強化処理液にガラス基板を浸漬してイオン交換を行う化学強化工程や、熱処理によって結晶化を行う結晶化工程等を必要に応じて適宜行うことができる。これらの内外周加工工程、ラッピング工程、化学強化工程、結晶化工程等の各工程は、情報記録媒体用ガラス基板の製造方法として通常用いられている方法により行うことができる。
【0050】
なお、本発明の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法においては、上記以外の種々の工程を有していても良い。例えば、ガラス基板の内部歪みを緩和するための熱処理を行うアニール工程、ガラス基板の強度の信頼性確認のためのヒートショック工程、ガラス基板の表面に残った研磨剤や化学強化処理液等の異物を除去する洗浄工程、種々の検査・評価工程等を有していても良い。
【0051】
ガラス基板の材料に特に制限はなく、情報記録媒体用ガラス基板の材料として用いられる材料を適宜選択して用いることができる。中でも、化学強化ガラスや結晶化ガラスは、耐衝撃性や耐振動性に優れるため好ましい。化学強化が可能なガラス材料としては、例えば、SiO2、Na2O、CaOを主成分としたソーダライムガラス;SiO2、Al23、R2O(R=K、Na、Li)を主成分としたアルミノシリケートガラス;ボロシリケートガラス;Li2O−SiO2系ガラス;Li2O−Al23−SiO2系ガラス;R’O−Al23−SiO2系ガラス(R’=Mg、Ca、Sr、Ba)などが挙げられる。
【0052】
ガラス基板の大きさにも特に制限はない。例えば、外径が2.5インチ、1.8インチ、1インチ、0.8インチ等種々の大きさのガラス基板を用いることができる。また、ガラス基板の厚みにも制限はない。例えば、1mm、0.64mm、0.4mm等種々の厚みのガラス基板を用いることができる。
【0053】
(情報記録媒体の製造方法)
本発明の情報記録媒体用ガラス基板に、少なくとも記録層を形成することで情報記録媒体を製造することができる。記録層は特に限定されず、磁気、光、光磁気等の性質を利用した種々の記録層を用いることができるが、特に磁性層を記録層として用いた情報記録媒体(磁気ディスク)の製造に好適である。
【0054】
磁性層に用いる磁性材料としては、特に制限はなく公知の材料を適宜選択して用いることができる。例えば、Coを主成分とするCoPt、CoCr、CoNi、CoNiCr、CoCrTa、CoPtCr、CoNiPt、CoNiCrPt、CoNiCrTa、CoCrPtTa、CoCrPtSiOなどが挙げられる。また、磁性層を非磁性膜(例えば、Cr、CrMo、CrVなど)で分割してノイズの低減を図った多層構成としてもよい。
【0055】
磁性層として、上記のCo系材料の他、フェライト系や鉄−希土類系の材料や、SiO2、BNなどからなる非磁性膜中にFe、Co、CoFe、CoNiPt等の磁性粒子が分散された構造のグラニュラーなどを用いることもできる。磁性層は、面内型、垂直型の何れであっても良い。
【0056】
磁性膜の形成方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、スパッタリング法、無電解メッキ法、スピンコート法などが挙げられる。
【0057】
磁気ディスクには、更に必要により下地層、保護層、潤滑層等を設けても良い。これらの層はいずれも公知の材料を適宜選択して用いることができる。下地層の材料としては、例えば、Cr、Mo、Ta、Ti、W、V、B、Al、Niなどが挙げられる。保護層の材料としては、例えば、Cr、Cr合金、C、ZrO2、SiO2などが挙げられる。また、潤滑層としては、例えば、パーフロロポリエーテル(PFPE)等からなる液体潤滑剤を塗布し、必要に応じ加熱処理を行ったものなどが挙げられる。
【実施例】
【0058】
(実施例1〜6)
ガラス基板成形用金型として、下型の第1の成形面の表面粗さRaを0.1μm、上型の第2の成形面の表面粗さRaを0.12μm(実施例1)、0.15μm(実施例2)、0.5μm(実施例3)、1μm(実施例4)、2μm(実施例5)、3μm(実施例6)としたものを用意した。表面粗さRaの調整は、研削加工の砥石の砥粒度を調整することにより行った。上型及び下型の材質としてSUS310Sを用いた。
【0059】
下型と上型を共に400℃に加熱し、溶融ガラスを下型の第1の成形面に供給した後、上型の第2の成形面との間でプレス成形を行った。ガラス材料はボロシリケートガラスを用いた。上下の金型で5秒間加圧した後、片開きを行ってガラス基板を回収した。ガラス基板の外径は約70mm、ガラス基板の厚みは約1mmであった。
【0060】
次に、得られたガラス基板の反り量を測定した。図6はガラス基板の反り量の測定方法を示す模式図である。ここでは図6(a)に符号Sで示す長さをガラス基板の反り量とした。先ず、図6(a)に示すように触針25を取り付けたマイクロメーターによって高さh1を測定した後、図6(b)に示すように触針26を取り付けたマイクロメーターによって高さh2を測定した。そして、h1からh2を引くことによって反り量Sを計算して求めた。なお、反り量Sの符号は、ガラス基板の上面が凹に反った場合を正、上面が凸に反った場合を負とした。
【0061】
反り量Sの判定は、絶対値が10μm以下の場合を非常に良好(判定:◎)、絶対値が10μmを超え20μm以下の場合を良好(判定:○)とした。また、反り量Sの絶対値が20μmを超えると情報記録媒体用ガラス基板を製造するための後工程に多大の時間と労力が必要になるため問題有り(判定:×)とした。なお、判定は10枚のガラス基板の反り量を測定して求めた平均値により行った。
【0062】
結果を表1に示す。実施例1〜6は、何れも反り量Sの絶対値が20μm以下であり良好であった。特に、第2の成形面の表面粗さRaが、第1の成形面の表面粗さRaの1.5倍以上20倍以下である実施例2〜5は、何れも反り量Sの絶対値が10μm以下と非常に良好であった。
【0063】
【表1】

【0064】
(比較例1、2)
上型の第2の成形面の表面粗さRaを0.05μm(比較例1)、0.1μm(比較例2)とした以外は実施例1〜6と同様にガラス基板の成形と評価を行った。結果を表1に併せて示す。
【0065】
比較例1、2共に反り量の絶対値が20μmを超え、良好なガラス基板を得ることはできなかった。
【0066】
(実施例7〜10)
ガラス基板成形用金型として、下型の第1の成形面の表面粗さRaを1μm、上型の第2の成形面の表面粗さRaを1.3μm(実施例7)、1.5μm(実施例8)、2μm(実施例9)、5μm(実施例10)としたものを用意した。実施例1〜6と同様の条件でガラス基板の成形と評価を行った。結果を表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
実施例7〜10は、何れも反り量Sの絶対値が20μm以下であり良好であった。特に、実施例8〜10は、何れも反り量Sの絶対値が10μm以下と非常に良好であった。
【0069】
(比較例3、4)
上型の第2の成形面の表面粗さRaを0.5μm(比較例3)、1μm(比較例4)とした以外は実施例7〜10と同様にガラス基板の成形と評価を行った。結果を表2に併せて示す。
【0070】
比較例3、4共に反り量の絶対値が20μmを超え、良好なガラス基板を得ることはできなかった。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明のガラス基板成形用金型の例を示す図である。
【図2】金型に供給された溶融ガラスの下面及び上面の温度変化を示すグラフである。
【図3】溶融ガラス供給工程における下型と溶融ガラス等を示す模式図である。
【図4】加圧工程におけるガラス基板成形用金型とガラス基板を示す模式図である。
【図5】本発明の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法によって製造した情報記録媒体用ガラス基板の1例を示す図である。
【図6】ガラス基板の反り量の測定方法を示す模式図である。
【符号の説明】
【0072】
10 ガラス基板成形用金型
11 下型
12 上型
13 第1の成形面
14 第2の成形面
23 溶融ガラス
24 ガラス基板
30 情報記録媒体用ガラス基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融ガラスをプレス成形してガラス基板を製造するためのガラス基板成形用金型において、
前記溶融ガラスが供給され、供給された該溶融ガラスを加圧するための第1の成形面を備える下型と、
前記第1の成形面との間で前記溶融ガラスを加圧するための第2の成形面を備える上型と、を有し、
前記第2の成形面の表面粗さRaが、前記第1の成形面の表面粗さRaよりも大きいことを特徴とするガラス基板成形用金型。
【請求項2】
前記第2の成形面の表面粗さRaが、前記第1の成形面の表面粗さRaの1.5倍以上20倍以下であることを特徴とする請求項1に記載のガラス基板成形用金型。
【請求項3】
溶融ガラスをプレス成形してガラス基板を製造するガラス基板の製造方法において、
下型に形成された第1の成形面に溶融ガラスを供給する溶融ガラス供給工程と、
前記第1の成形面、及び上型に形成された第2の成形面で、前記第1の成形面に供給された前記溶融ガラスを加圧しながら冷却してガラス基板を得る加圧工程と、を有し、
前記第2の成形面の表面粗さRaが、前記第1の成形面の表面粗さRaよりも大きいことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記第2の成形面の表面粗さRaが、前記第1の成形面の表面粗さRaの1.5倍以上20倍以下であることを特徴とする請求項3に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記ガラス基板は、情報記録媒体用ガラス基板を製造するためのガラス基板であることを特徴とする請求項3又は4に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のガラス基板の製造方法により製造されたガラス基板を研磨する工程を有することを特徴とする情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法により製造された情報記録媒体用ガラス基板に記録層を形成する工程を有することを特徴とする情報記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−174401(P2008−174401A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6912(P2007−6912)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】