説明

ガラス板の曲げ成形装置及び曲げ成形方法

【課題】本発明は、ガラス板の曲げ成形装置及び曲げ成形方法に関し、簡易かつ安価な構成でチャンバーへ負圧を導くことでガラス板を成形面に吸引することにある。
【解決手段】ガラス板Gを載置するモールド30と、モールド30が取り付けられ、ガラス板Gを搬送方向に搬送すべく移動可能なシャトル22と、モールド30のガラス板Gと接する成形面32に設けられた複数のエア孔34と、モールド30の内部に設けられ、エア孔34と連通し、ガラス板Gを成形面32に吸引する負圧が導かれるチャンバー36と、チャンバー36へ負圧を導く負圧供給機構40と、を備え、負圧供給機構40は、シャトル外に設置固定され、大気圧よりも高い圧力を発生する正圧発生源と、一端が正圧発生源に接続する可撓性部材からなるフレキシブル配管78と、シャトル22に取り付けられ、一端がフレキシブル配管78の他端に接続しかつ他端が大気開放されたベンチュリ管80と、一端がベンチュリ管80の絞り部82に接続しかつ他端がチャンバー36に接続する負圧通路39と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板の曲げ成形装置及び曲げ成形方法に係り、特に、加熱炉で加熱軟化されたガラス板を所定の形状に曲げ成形する際に、そのガラス板をシャトルに載置して搬送しながら成形面に負圧吸引するうえで好適な曲げ成形装置及び曲げ成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加熱炉で加熱軟化されたガラス板を雌モールドの成形面にエア孔を介して負圧吸引することによりその成形面に倣った形状に曲げ成形するガラス板の曲げ成形装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この曲げ成形装置は、加熱軟化されたガラス板が載置される雌モールドと、その雌モールドが設けられ、ガラス板が載置された雌モールドを搬送方向に搬送すべく移動されるシャトルと、雌モールドの内部に設けられ、雌モールドの成形面にエア孔を介してガラス板を吸引する負圧が導かれるチャンバーと、チャンバーに負圧を導く負圧供給機構と、を備えている。負圧供給機構は、チャンバーに接続する負圧通路と、その負圧通路に接続して負圧を発生するエアポンプと、を有している。
【0003】
上記した曲げ成形装置において、エアポンプが駆動されると、チャンバー内のエアが負圧通路を介してエアポンプに吸引されることで、チャンバー内に負圧が導かれる。チャンバーに負圧が導かれると、ガラス板が雌モールドの成形面に吸引される。従って、上記した曲げ成形装置によれば、加熱軟化されたガラス板を雌モールドの成形面に倣った形状に曲げ成形することが可能となる。
【特許文献1】特開2005−206458号公報(特に図8)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記した特許文献1記載の装置では、チャンバーへ負圧を導くのに、負圧を発生するエアポンプを用いる。かかる構成において、エアポンプは床に設置固定されており、そのエアポンプと、シャトルに取り付けられた雌モールドのチャンバーと、を接続する負圧通路には、シャトルが搬送方向に移動可能となるように伸縮可能なフレキシブル配管が設けられる。
【0005】
しかし、床に設置固定されたエアポンプは上記の如く負圧を発生するので、伸縮するフレキシブル配管には負圧が導かれる。また、雌モールドに載置されるガラス板は加熱されているので、チャンバーから負圧通路を介してエアポンプに吸引されるエアは高温状態にある。この点、上記した装置では、負圧エアの流れるフレキシブル配管を大きな肉厚や径に設定しなければ、また、そのフレキシブル配管を含む負圧通路やエアポンプの耐熱性を確保しなければ、配管からの負圧漏れなどが生じて、チャンバーに所定の負圧を継続的に導くことが困難となる。
【0006】
ここで、エアポンプをシャトルと一体で移動できるようにそのシャトルに取り付けることとすれば、エアポンプとチャンバーとの間にフレキシブル配管を設けることは不要となるので、配管からの負圧漏れは生じ難くなる。しかし、かかる構成では、負圧を発生するエアポンプが高温のガラス板に接近して配置されることとなるので、そのエアポンプや負圧通路が極めて高温に熱せられる事態が生ずる。従って、エアポンプの機能を確保するためには、そのエアポンプをシャトルに取り付けることは適切でない。
【0007】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、簡易かつ安価な構成でチャンバーへ負圧を導くことでガラス板を成形面に吸引することが可能なガラス板の曲げ成形装置及び曲げ成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は、加熱炉で加熱軟化されたガラス板を所定の形状に曲げ成形するガラス板の曲げ成形装置であって、前記ガラス板を載置するモールドと、前記モールドが取り付けられ、前記ガラス板を搬送方向に搬送すべく移動可能なシャトルと、前記モールドの前記ガラス板と接する成形面に設けられた複数のエア孔と、前記モールドの内部に設けられ、前記エア孔と連通し、前記ガラス板を前記成形面に吸引する負圧が導かれるチャンバーと、前記チャンバーへ負圧を導く負圧供給機構と、を備え、前記負圧供給機構は、前記シャトル外に設置固定され、大気圧よりも高い圧力を発生する正圧発生源と、一端が前記正圧発生源に接続する可撓性部材からなるフレキシブル配管と、前記シャトルに取り付けられ、一端が前記フレキシブル配管の他端に接続しかつ他端が大気開放されたベンチュリ管と、一端が前記ベンチュリ管の絞り部に接続しかつ他端が前記チャンバーに接続する負圧通路と、を有するガラス板の曲げ成形装置により達成される。
【0009】
また、上記の目的は、加熱炉で加熱軟化されたガラス板を所定の形状に曲げ成形するガラス板の曲げ成形方法であって、前記ガラス板が接する成形面に複数のエア孔を有するモールドに前記ガラス板を載置する載置工程と、前記モールドが取り付けられたシャトルを、前記モールドに前記ガラス板が載置された状態で搬送方向に搬送する搬送工程と、前記モールドの内部に設けられたチャンバーに負圧を発生させ、前記エア孔を介して前記ガラス板を前記成形面に吸引する吸引工程を含み、前記吸引工程は、前記シャトル外に設置固定された大気圧よりも高い圧力を発生する正圧発生源から、可撓性部材からなるフレキシブル配管を介して、前記シャトルに取り付けられたベンチュリ管へ高圧エアを供給しながら、前記ベンチュリ管の絞り部に接続する負圧通路からチャンバーへ負圧を導くガラス板の曲げ成形方法により達成される。
【0010】
これらの態様の発明において、シャトル外に設置固定された大気圧よりも高い圧力を発生する正圧発生源から、可撓性部材からなるフレキシブル配管を介して、モールドに載置されたガラス板を搬送方向に搬送すべく移動されるシャトルに取り付けられたベンチュリ管へ高圧エアが供給されて大気開放される。この場合には、ベンチュリ管の絞り部から負圧通路を介してチャンバーへ負圧が導かれる。チャンバーへ負圧が導かれると、加熱軟化されたガラス板が成形面に吸引される。
【0011】
かかる構成において、フレキシブル配管には正圧発生源から大気圧よりも高い圧力のエアが流れるので、そのフレキシブル配管の肉厚や径を、負圧エアの流れるものと比較して小さくすることが可能である。また、チャンバーから負圧通路に吸引された高温のエアは、ベンチュリ管を介して正圧発生源側へ流れることなく大気側へ流れるので、正圧発生源が高温に熱せられる事態は回避される。更に、正圧発生源はシャトルに載せられることなくシャトル外に設置固定されることで、熱源であるガラス板から比較的遠く離間するので、この点でも、その正圧発生源が高温に熱せられる事態は回避される。
【0012】
尚、上記したガラス板の曲げ成形装置において、前記正圧発生源は、発生する前記圧力を調整する圧力調整機構を有することとすれば、また、上記したガラス板の曲げ成形方法において、前記吸引工程は、前記正圧発生源の発生する前記圧力を調整することにより、前記モールドに載置された前記ガラス板を前記成形面に吸引する力を変更することとすれば、ガラス板の成形面への吸引を適宜、適切な力で行うことが可能となる。
【0013】
また、上記したガラス板の曲げ成形装置において、前記チャンバーには、前記負圧通路とは別に、前記ガラス板を前記成形面から離脱させる正圧を導く正圧供給機構の有する正圧通路が接続されることとすれば、ガラス板を成形面に吸引した後にそのガラス板を容易にその成形面から離脱させることが可能となる。
【0014】
また、上記したガラス板の曲げ成形装置において、前記チャンバーへ導く圧力を、前記負圧通路からの負圧と前記正圧通路からの正圧とに選択的に切り替える圧力制御手段を備えることとすれば、ガラス板の成形面への吸引と成形面からの離脱とを選択的に行うことが可能となる。
【0015】
更に、上記したガラス板の曲げ成形方法において、前記吸引工程の後、前記チャンバーへ正圧供給機構の有する正圧通路から正圧を導き、前記ガラス板を前記成形面から離脱させる離脱工程を含むこととすれば、ガラス板の成形面への吸引及び成形面からの離脱を適切に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡易かつ安価な構成でチャンバーへ負圧を導くことでガラス板を成形面に吸引することができ、モールドに載置された状態のガラス板をシャトルで搬送しながら成形面に吸着させて成形することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を用いて、本発明の具体的な実施の形態について説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施例であるガラス板の曲げ成形装置10の構成図を示す。また、図2は、本実施例の曲げ成形装置10の要部拡大図を示す。図1に示す如く、本実施例の曲げ成形装置10は、ガラス板Gの搬送方向上流側から下流側に向けて順に設けられた、加熱炉12及び成形炉14を備えている。本実施例の曲げ成形装置10は、加熱炉12で加熱軟化されたガラス板Gを成形炉14で所定の形状に曲げ成形する装置である。
【0019】
加熱炉12は、複数のゾーンにより区分けされており、天井ヒータや床面ヒータ,側面ヒータ等により構成されている。加熱炉12は、搬送方向上流側から搬送されてくる平板状のガラス板Gを所定の曲げ成形温度(軟化点近傍の温度;例えば650℃から720℃)まで加熱する。
【0020】
加熱炉12と成形炉14との間には、ローラコンベア16及びフラットモールド18が設けられている。ローラコンベア16は、搬送方向に直交する水平方向に延びる複数のローラからなり、加熱炉12で加熱軟化されたガラス板Gを搬送方向下流側に搬送する。フラットモールド18は、ローラコンベア16の搬送方向下流端と成形炉14との間を搬送方向に往復移動可能に構成されていると共に、昇降装置により上下方向に昇降可能に構成されている。
【0021】
フラットモールド18は、ガラス板Gの一方の表面積に比して十分に大きな面積を有する下面を有している。その下面には、多数のエア噴射・吸引孔が形成されている。フラットモールド18は、また、エア取入口が形成された上面と、エア噴射・吸引孔及びエア取入口の双方がそれぞれ接続する中空のチャンバーと、を有している。フラットモールド18のエア取入口には、配管を介して燃焼ブロワー及びエア吸引手段(共に図示せず)が接続されている。
【0022】
フラットモールド18は、燃焼ブロワーからチャンバーに大気圧よりも高圧のエア(以下、正圧エアと称す)が供給された場合にエア噴射・吸引孔からその正圧エアを噴射し、また、エア吸引手段からチャンバーに大気圧よりも低圧のエア(以下、負圧エアと称す)が供給された場合にエア噴射・吸引孔から外部のエアを取り込む。フラットモールド18は、ローラコンベア16により搬送されるガラス板Gを、外部エアを取り込むことでその下面に吸着し、その吸着を維持した状態で搬送方向に移動され、その後、吸着したガラス板Gを成形炉14の所定位置に搬入すると、正圧エアを噴射することでその下面へのガラス板Gの吸引を解除する。
【0023】
成形炉14は、成形装置20を備えている。成形装置20は、搬送方向に移動可能なシャトル22を備えている。シャトル22は、鋼材で構成されており、炉床24に設けられたスリットを介して炉床24の下方まで延びた脚部を有しており、床に設置固定されたレール26に搬送方向に移動自在に支持されている。シャトル22は、フラットモールド18の下面に吸着されているガラス板Gがそのフラットモールド18から受け取れる位置まで搬送方向上流側に移動可能である。
【0024】
シャトル22には、上部に雌モールド30が取り付けられている。雌モールド30は、シャトル22の移動に伴って一体に移動される。雌モールド30の上面には、ガラス板Gの一方の表面積に比して十分に大きな面積を有する成形面32が形成されている。雌モールド30の成形面32には、加熱軟化されたガラス板Gがフラットモールド18から移載される。
【0025】
成形面32は、下に凹状に湾曲した形状からなり、多数のエア孔34が形成されている。成形面32は、略全面にわたってクロスにより覆われている。このクロスは、エア孔34を覆うことで、吸引時におけるガラス板Gの表面へのエア孔34の転写を防止すると共に、負圧の利用効率を高める機能を有している。
【0026】
雌モールド30は、エア孔34が連通する中空のチャンバー36を有している。チャンバー36には、また、雌モールド30の下面に形成されたエア取入口38が連通している。エア取入口38には、耐熱性のある配管39を介して、大気圧よりも低い圧力(負圧)を導く負圧供給機構40、及び、大気圧よりも高い圧力(正圧)を導く正圧供給機構(図示せず)の双方が接続されており、ガラス板Gを成形面32に吸引する負圧、及び、ガラス板Gを成形面32から離脱させる正圧が導かれる。尚、負圧供給機構40及び正圧供給機構については後に詳述する。
【0027】
成形装置20は、また、搬送方向に移動不能な雄モールド44を備えている。雄モールド44は、炉天井に昇降装置(例えば油圧シリンダなど;図示せず)により昇降自在に支持されている。上記のシャトル22は、雄モールド44の支持位置まで搬送方向下流側に移動可能である。雄モールド44と上記の雌モールド30とは、雌モールド30の成形面32に載置された加熱軟化されているガラス板Gを上下方向で挟みこむことで、両者の成形面に倣ってそのガラス板Gを曲げ成形する。
【0028】
雄モールド44の下面には、ガラス板Gの一方の表面積に略一致する表面積を有する成形面46が形成されている。成形面46は、下に凸状に湾曲した形状からなり、多数のエア孔48が形成されている。成形面46は、略全面にわたってクロスにより覆われている。このクロスは、エア孔48を覆うことで、吸引時におけるガラス板Gの表面へのエア孔48の転写を防止すると共に、負圧の利用効率を高める機能を有している。雄モールド44は、エア孔48が連通する中空のチャンバー50を有している。チャンバー50には、また、雄モールド44の下面に形成されたエア取入口52が連通している。雄モールド44のエア取入口52には、配管54を介してブロワー及びエア吸引手段(共に図示せず)が接続されている。
【0029】
次に、本実施例のガラス板の曲げ成形装置10の動作について説明する。
【0030】
本実施例において、加熱炉12は、搬送方向上流側から搬送されてくる平板状のガラス板Gを所定の曲げ成形温度まで加熱する。所定の曲げ成形温度まで加熱された平板状のガラス板Gは、ローラコンベア16により搬送方向下流側に搬送される。そして、所定の位置まで搬送されると、その位置で位置決め装置により位置決めされる。
【0031】
平板状のガラス板Gが所定の位置で位置決めされると、フラットモールド18がローラコンベア16の搬送方向下流端で昇降装置により下降移動される。そして、フラットモールド18は、チャンバーにエア吸引手段から負圧エアが供給されることで、その下面にその平板状のガラス板Gを吸引保持する。フラットモールド18は、その下面にガラス板Gを吸引保持した状態で搬送方向下流に移動され、そのガラス板Gを成形炉14の所定位置に搬入する。
【0032】
フラットモールド18は、シャトル22がガラス板Gの載り移り位置に待機する状況において、そのシャトル22の真上に位置すると、チャンバーへのエア吸引手段による負圧エアの供給が停止されると共にそのチャンバーへ燃焼ブロワーから正圧エアが供給されることで、その下面へのガラス板Gの吸引を解除する。この場合、ガラス板Gは、フラットモールド18の下面から落下してシャトル22の雌モールド30上に載置される。
【0033】
尚、本発明において、雌モールドにガラス板を載置する工程は上記の方法に限られず、公知の如何なる方法であってもよい。例えば、ローラコンベアからフラットモールドに搬送しながら移し、フラットモールドの下面に吸着しながら下流側へ搬送して位置決めし、雌モールド上に載置することとしてもよい。また、2段プレス成形の場合は、前段の雄モールドに吸着されているガラス板を、雄モールドの吸着保持を解除して雌モールド上に載置することとしてもよい。
【0034】
シャトル22の雌モールド30は、ガラス板Gが載置されると、その雌モールド30のチャンバー36に負圧供給機構40から負圧が供給されることで、そのガラス板Gを雌モールド30の成形面32に吸引する。上記の如く、雌モールド30の成形面32は、下に凹状に湾曲している。このため、ガラス板Gは、雌モールド30上に載置されると、自重により変形されると共に、雌モールド30の負圧吸引によりその雌モールド30の成形面32に倣って変形される。尚、この自重や雌モールド30の負圧吸引によるガラス板Gの変形は、シャトル22が雄モールド44の支持位置まで搬送方向に移動される過程で行われ、最終的な形状の20%〜80%まで行われる。
【0035】
シャトル22が雌モールド30にガラス板Gを載置した状態で雄モールド44の支持位置まで搬送方向に移動されると、雄モールド44が昇降装置により下降移動される。この場合、ガラス板Gは、雌モールド30と雄モールド44とでプレスされることにより、それらの成形面32,46に倣った形状に曲げ成形される。また、ガラス板Gは、雌モールド30のチャンバー36への負圧供給機構40からの負圧エアの供給が停止され更にはそのチャンバー36へ正圧供給機構から正圧エアが供給されることで雌モールド30の成形面32への吸引が解除されると共に雄モールド44の成形面46に押圧され、また、雄モールド44のチャンバー50へエア吸引手段から負圧エアが供給されることでその雄モールド44の成形面46へ吸引されることにより、雄モールド44に吸着保持される。
【0036】
尚、ガラス板Gの曲げ成形の過程では、雌モールド30のチャンバー36や雄モールド44のチャンバー50に供給される負圧は、適当なタイミングで開始・終了されると共に、適宜変更される。これにより、ガラス板Gに無理な荷重をかけることなく、ガラス板Gを雌モールド30の成形面32や雄モールド44の成形面46に沿うように効率的に曲げ成形することが可能となる。
【0037】
雄モールド44は、ガラス板Gの曲げ成形が完了すると、成形面46にガラス板Gを吸着保持した状態で昇降装置により上昇される。そして、シャトル22が搬送方向上流側に移動され、次工程への移動手段(例えばクエンチリング)が雄モールド44の真下に移動されてくると、チャンバー50へのエア吸引手段による負圧エアの供給が停止されると共にそのチャンバー50へブロワーから正圧エアが供給されることで、雄モールド44の成形面46へのガラス板Gの吸引を解除する。この場合、ガラス板Gは、雄モールド44の成形面46から離脱され、次工程への移動手段の上面に載置される。そして、その載置された状態で移動手段の移動により次工程へ流れる。
【0038】
図3は、本実施例のガラス板の曲げ成形装置10の備える負圧供給機構40の構成図を示す。また、図4は、本実施例の負圧供給機構40の要部構成図を示す。負圧供給機構40は、エアを圧縮するコンプレッサ60を備えている。コンプレッサ60で圧縮された高圧のエアは、エアフィルタ62、ミストセパレータ64、増圧弁66、及び電磁レギュレータ68を介してレシーバタンク70に供給される。増圧弁66は、コンプレッサ60からの高圧エアを増圧する機能を有している。レシーバタンク70は、所定の容量を有しており、所定圧(例えば20MPa)に調圧された正圧が導かれる。
【0039】
レシーバタンク70には、電磁レギュレータ72、並びに、並列接続されたプロセスバルブ74及びレギュレータ76を介して、フレキシブル配管78の一端が接続されている。レギュレータ76は、レシーバタンク70からフレキシブル配管78に導かれる正圧を調整する機能を有している(例えば0〜20MPa)。負圧供給機構40のうちコンプレッサ60からプロセスバルブ74及びレギュレータ76までの経路にある各部品は、成形炉14が設置されたシャトル外の床に設置固定されており、床に対して搬送方向に沿って移動されることはない。フレキシブル配管78は、ゴムなどの可撓性部材により構成されており、変形して撓むことが可能である。
【0040】
フレキシブル配管78の他端には、ベンチュリ管80の一端が接続されている。ベンチュリ管80は、シャトル22に取り付けられている。すなわち、コンプレッサ60やレシーバタンク70側とベンチュリ管80側とは、フレキシブル配管78を介してシャトル22の搬送方向についての移動に伴って相対変位することが可能である。ベンチュリ管80の他端は、大気開放されている。レシーバタンク70側で発生した正圧エアは、フレキシブル配管78及びベンチュリ管80を通って大気へ流れる。
【0041】
ベンチュリ管80の中央部には、一端や他端のものよりも断面積の小さい絞り部82が設けられている。絞り部82においては、一端や他端でのエアの流速よりも速いエアの流れが生じ、その絞り部82には、一端や他端での圧力よりも低い圧力が発生する。尚、絞り部82の圧力は、絞り部82での流速と他の部位での流速との比に応じた大気圧よりも低い負圧となる。
【0042】
ベンチュリ管80の絞り部82には、配管39を介して、雌モールド30のチャンバー36のエア取入口38が接続されている。チャンバー36には、ベンチュリ管80の絞り部82に発生する負圧が導かれる。
【0043】
尚、負圧供給機構40のコンプレッサ60や増圧弁66,各種弁には、コントローラが接続されており、これらの各部はそれぞれ、コントローラにより制御される。すなわち、負圧供給機構40から雌モールド30のチャンバー36に導く負圧の調整は、コントローラにより実現される。
【0044】
上記した構成において、雌モールド30のチャンバー36に負圧を導こうとするときは、上記の負圧供給機構40のコンプレッサ60やレシーバタンク70などを用いて正圧エアを発生させる。かかる正圧エアが発生すると、その正圧エアは、フレキシブル配管78を通ってベンチュリ管80に入り、その後、大気へ開放される。かかる正圧エアの流れが生じると、ベンチュリ管80の絞り部82に大気圧よりも低い負圧が発生する。この負圧は、配管39を介して雌モールド30のチャンバー36に導かれる。
【0045】
従って、本実施例の負圧供給機構40によれば、レシーバタンク70側で正圧エアを発生させかつその正圧エアをフレキシブル配管78を介してベンチュリ管80へ流すことで、雌モールド30のチャンバー36へ負圧を導くことが可能となっている。
【0046】
本実施例において、雌モールド30やベンチュリ管80が取り付けられるシャトル22は搬送方向に移動可能であり、コンプレッサ60やレシーバタンク70などの負圧供給機構40の一部はシャトル外の床に設置固定されるが、両者の間にはフレキシブル配管78が連通されており、そのフレキシブル配管78には、雌モールド30のチャンバー36へ負圧を導くため、正圧エアが流れる。
【0047】
ここで、雌モールド30のチャンバー36へ負圧を導くうえでは、シャトル22外に負圧を発生させる負圧ポンプなどを設け、その負圧ポンプをフレキシブル配管を介して直接にシャトル22内の雌モールド30のチャンバー36に接続する構成(以下、対比構成と称す)が考えられる。しかし、かかる対比構成では、可動するフレキシブル配管に大気圧よりも低い負圧が流れるので、フレキシブル配管が閉塞し或いは潰れたりするおそれがあり、その事態を回避するため、肉厚や径の大きくて丈夫なフレキシブル配管を使用することが必要となる。また、比較的長い経路を負圧が流れるので、大きな負圧をチャンバー36へ導くことが困難である。
【0048】
これに対して、本実施例においては、フレキシブル配管78に流れるエアは正圧状態にあるので、そのフレキシブル配管78の肉厚や径を上記の対比構成のものに比して小さくすることが可能であり、配管のコンパクト化を図ることが可能となっている。また、負圧が流れるのは、シャトル22内におけるベンチュリ管80の絞り部82から配管39を通じたチャンバー36までの経路間だけであるので、配管の隙間などからの負圧漏れが生じ難いものとなっており、大きな負圧をチャンバー36へ導くことが可能となっている。
【0049】
また、本実施例において、雌モールド30のチャンバー36へ負圧が導かれると、雌モールド30の成形面32に載置されたガラス板Gがその成形面32に吸引されてその成形面32の形状に倣って変形する。この際には、ガラス板Gやその周囲の高温のエアがエア孔34を介してチャンバー36に吸引される。そして、配管39を通ってベンチュリ管80に流入し、負圧供給機構40のレシーバタンク側70からの正圧エアと共に大気へ開放される。かかる構造においては、ガラス板G側の高温エアがフレキシブル配管78を通じてレシーバタンク70やコンプレッサ60などの負圧供給機構40の主要部品側へ流れることはないので、それら負圧供給機構40の部品が高温に熱せられるのを回避することが可能であり、各部品の耐久性を向上させることが可能となっている。
【0050】
また、本実施例において、レシーバタンク70やコンプレッサ60などの負圧供給機構40の主要部品は、熱源である加熱炉12及び成形炉14内を走行するシャトル22に載せられることはなく、シャトル外の加熱炉12及び成形炉14からある程度離れた場所に設置固定される。この点からも、負圧供給機構40の主要部品が高温に熱せられるのを回避することが可能であり、各部品の耐久性を向上させることが可能となっている。
【0051】
従って、本実施例のガラス板の曲げ成形装置10によれば、簡易かつ安価な構成で適切に雌モールド30のチャンバー36へ負圧を導くことが可能となっており、ガラス板Gの成形面32への吸引を適切に行うことが可能となっている。
【0052】
尚、本実施例において、雌モールド30のチャンバー36へ導く負圧を大きくしたいときは、ベンチュリ管80の絞り部82に比較的高速のエアが流れるようにレシーバタンク70側で発生させる正圧を比較的高く設定し、その設定した正圧が発生するようにレギュレータ76の開閉を行う。一方、雌モールド30のチャンバー36へ導く負圧を小さくしたいときは、ベンチュリ管80の絞り部82に比較的低速のエアが流れるようにレシーバタンク70側で発生させる正圧を比較的低く設定し、その設定した正圧が発生するようにレギュレータ76の開閉を行う。
【0053】
チャンバー36へ導く負圧が変更されれば、雌モールド30の成形面32にガラス板Gを吸引する力が変更される。具体的には、その負圧が大きいときはその吸引力が大きくなり、その負圧が小さいときはその吸引力が小さくなる。ここで、吸引力の大きな状態が長時間継続すると、ガラス板Gが成形面32に密着して、そのガラス板Gの表面にクロス跡が転写されるおそれがある。従って、かかる事態の発生を防止するうえでは、ガラス板Gを雌モールド30の成形面32に吸引する過程で、チャンバー36へ導く負圧を変更してガラス板Gを吸引する力を変更することが望ましい。具体的には、吸引当初(ガラス板Gが未だ成形面32に接触していないとき)は、チャンバー36へ導く負圧を大きく(真空側に)して上記の吸引力を大きくし、その後(ガラス板Gが成形面に接触した後)は、チャンバー36へ導く負圧を小さく(大気圧側に)して上記の吸引力を小さくすることが望ましい。
【0054】
本実施例において、コントローラは、上記の点を考慮して、ガラス板Gを雌モールド30の成形面32に吸引する過程で、チャンバー36へ導く負圧を上記の如く変更して、ガラス板Gを成形面32に吸引する力を上記の如く変更する。かかる構成によれば、ガラス板Gを成形面32へ吸引する過程で、その吸引を適宜、適切な力で行うことができるので、従って、本実施例の曲げ成形装置10によれば、ガラス板Gの表面にクロス跡を転写することなく適切にガラス板Gを成形面32に吸引してその曲げ成形を実現することが可能となっている。
【0055】
次に、本実施例の正圧供給機構(図示せず)について説明する。正圧供給機構は、上記した負圧供給機構40と共通の構成部品からなる。具体的には、ベンチュリ管80の上流側と配管39のチャンバー36近傍とを接続するバイパス通路を有している。このバイパス通路とベンチュリ管80の上流側との接続部には、接続先をバイパス通路とベンチュリ管80との何れかに切り替える電磁弁が設けられている。この電磁弁は、雌モールド30のチャンバー36に負圧を導くときは接続先がベンチュリ管80となるように開閉され、一方、チャンバー36に正圧を導くときは接続先がバイパス通路となるように開閉される。
【0056】
従って、雌モールド30のチャンバー36に負圧が導かれるときは、バイパス通路を通じたチャンバー36へのエアの流れは発生せず、チャンバー36から配管39を通じてベンチュリ管80にエアが吸引され、大気開放される。一方、雌モールド30のチャンバー36に正圧が導かれるときは、チャンバー36からベンチュリ管80へのエアの吸引は発生せず、バイパス通路を通じたチャンバー36へのエアの流れが発生する。
【0057】
このように、本実施例においては、ベンチュリ管80の上流側とバイパス通路との接続部に設けられた電磁弁の開閉に応じて、チャンバー36への負圧導入と正圧導入とを選択的に行うことができる。従って、本実施例の曲げ成形装置10によれば、ガラス板Gの、雌モールド30の成形面32への吸引とその成形面32からの離脱とを選択的に行うことが可能となっていると共に、その吸引及び離脱を共に適切に行うことが可能となっている。
【0058】
また、本実施例においては、ガラス板Gが雌モールド30の成形面32への吸引により曲げ成形された後にその雌モールド30と雄モールド44とのプレスにより曲げ成形されるとき、雌モールド30のチャンバー36へ導く圧力は、負圧供給機構40による負圧から正圧供給機構42による正圧へ切り替わる。チャンバー36に正圧が導かれれば、そのチャンバー36からエア孔34を通してガラス板G側へ向けてエアが噴射される。従って、本実施例によれば、上記のタイミングにおいてチャンバー36へ導く圧力を負圧から正圧へ切り替えることで、雌モールド30の成形面32に吸引されたガラス板Gを容易にその成形面32から離脱させ、雄モールド44の成形面46に押し付けることが可能となっている。
【0059】
尚、上記の実施例においては、雌モールド30の成形面32が特許請求の範囲に記載した「成形面」に、コンプレッサ60及びレシーバタンク70などが特許請求の範囲に記載した「正圧発生源」に、配管39が特許請求の範囲に記載した「負圧通路」に、レギュレータ76が特許請求の範囲に記載した「圧力調整機構」に、それぞれ相当している。
【0060】
ところで、上記の実施例においては、負圧供給機構40の一部の構成と正圧供給機構42の一部の構成とを兼用することとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、それぞれ独立したものとしてもよい。
【0061】
また、上記の実施例においては、負圧供給機構40を図3に示す構成としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、正圧を発生してベンチュリ管80に供給するものであれば他の構成としてもよい。
【0062】
また、上記の実施例においては、雌モールド30及び雄モールド44をそれぞれ一つずつ設けた曲げ成形装置10を用いたが、本発明はこれに限定されるものではなく、雌モールド30及び雄モールド44をそれぞれ、搬送方向に並列に二つ以上並べた曲げ成形装置に適用することとしてもよい。この場合、搬送方向下流のモールドほど、ガラス板Gの曲げ形状を深曲げにするものとすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施例であるガラス板の曲げ成形装置の構成図である。
【図2】本実施例の曲げ成形装置の要部拡大図である。
【図3】本実施例のガラス板の曲げ成形装置の備える負圧供給機構の構成図である。
【図4】本実施例の負圧供給機構の要部構成図である。
【符号の説明】
【0064】
10 ガラス板の曲げ成形装置
12 加熱炉
14 成形炉
20 成形装置
22 シャトル
30 雌モールド
32 成形面
34 エア孔
36 チャンバー
39 配管
40 負圧供給機構
60 コンプレッサ
70 レシーバタンク
78 フレキシブル配管
80 ベンチュリ管
82 絞り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱炉で加熱軟化されたガラス板を所定の形状に曲げ成形するガラス板の曲げ成形装置であって、
前記ガラス板を載置するモールドと、
前記モールドが取り付けられ、前記ガラス板を搬送方向に搬送すべく移動可能なシャトルと、
前記モールドの前記ガラス板と接する成形面に設けられた複数のエア孔と、
前記モールドの内部に設けられ、前記エア孔と連通し、前記ガラス板を前記成形面に吸引する負圧が導かれるチャンバーと、
前記チャンバーへ負圧を導く負圧供給機構と、を備え、
前記負圧供給機構は、
前記シャトル外に設置固定され、大気圧よりも高い圧力を発生する正圧発生源と、
一端が前記正圧発生源に接続する可撓性部材からなるフレキシブル配管と、
前記シャトルに取り付けられ、一端が前記フレキシブル配管の他端に接続しかつ他端が大気開放されたベンチュリ管と、
一端が前記ベンチュリ管の絞り部に接続しかつ他端が前記チャンバーに接続する負圧通路と、
を有することを特徴とするガラス板の曲げ成形装置。
【請求項2】
前記正圧発生源は、発生する前記圧力を調整する圧力調整機構を有する請求項1記載のガラス板の曲げ成形装置。
【請求項3】
前記チャンバーには、前記負圧通路とは別に、前記ガラス板を前記成形面から離脱させる正圧を導く正圧供給機構の有する正圧通路が接続されている請求項1又は2記載のガラス板の曲げ成形装置。
【請求項4】
前記チャンバーへ導く圧力を、前記負圧通路からの負圧と前記正圧通路からの正圧とに選択的に切り替える圧力制御手段を備える請求項3記載のガラス板の曲げ成形装置。
【請求項5】
加熱炉で加熱軟化されたガラス板を所定の形状に曲げ成形するガラス板の曲げ成形方法であって、
前記ガラス板が接する成形面に複数のエア孔を有するモールドに前記ガラス板を載置する載置工程と、
前記モールドが取り付けられたシャトルを、前記モールドに前記ガラス板が載置された状態で搬送方向に搬送する搬送工程と、
前記モールドの内部に設けられたチャンバーに負圧を発生させ、前記エア孔を介して前記ガラス板を前記成形面に吸引する吸引工程を含み、
前記吸引工程は、前記シャトル外に設置固定された大気圧よりも高い圧力を発生する正圧発生源から、可撓性部材からなるフレキシブル配管を介して、前記シャトルに取り付けられたベンチュリ管へ高圧エアを供給しながら、前記ベンチュリ管の絞り部に接続する負圧通路からチャンバーへ負圧を導くことを特徴とするガラス板の曲げ成形方法。
【請求項6】
前記吸引工程は、前記正圧発生源の発生する前記圧力を調整することにより、前記モールドに載置された前記ガラス板を前記成形面に吸引する力を変更する請求項5記載のガラス板の曲げ成形方法。
【請求項7】
前記吸引工程の後、前記チャンバーへ正圧供給機構の有する正圧通路から正圧を導き、前記ガラス板を前記成形面から離脱させる離脱工程を含む請求項5又は6記載のガラス板の曲げ成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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