説明

ガラス板の熱強化装置

【課題】ガラス板の強化度を低下させず、弓反りやキズ等の不良も発生させず、安定して高品質の強化ガラスを生産し、生産歩留まりを向上させる。
【解決手段】軟化温度まで加熱した水平姿勢のガラス板を冷却ゾーンに搬送し、ガラス板の上下両面よりの噴出エアーによってガラス板を熱強化させる装置において、冷却ゾーン内の搬送ロールの上下両方向より、ガラス板の搬送方向と直交する幅方向に搬送ロールの全幅にわたって複数のノズルを一列に連結したノズル群を搬送方向に一定ピッチとなるように設け、上部側のノズル群間に板状の整流板を配設し、ガラス板の上面が受ける冷却エアの圧力が、ガラス板の下面が受ける冷却エアの圧力よりも高くなるようにし、ガラス板面に直交する方向にノズルからのエアを噴射できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱軟化したガラス板の両面よりノズルから噴射する冷却エアにより急冷強化するガラス板の熱強化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱軟化したガラス板を熱強化する方法や装置は各種知られているが、ガラス板の大きさ、板厚、形状によって適宜生産効率の良い方法が採用され、使い分けられている。
【0003】
これらのガラス板の熱強化方式のうち、ガラススクリーン、玄関ドア、フェンス等の建築用や、テーブルトップ等の家具用として利用されるフラットなガラス板を熱強化する場合には、オシレーションローラーハース法と呼ばれる方式が一般的に良く知られている。
【0004】
強化ガラスの規格については、JIS R3206によれば、厚さは4mmから19mmまでと定められており、最大寸法は厚み8mm以上のとき通常4500mm×2400mmとなっている。
【0005】
前記オシレーションローラーハース法については、フラットなガラス板を熱強化する方法であり、通常、寸法サイズが300mm×300mmの小板から、2500mm×4500mmの大板までの強化ガラスを対象とし、加熱ゾーン内の搬送ローラ上でフラットなガラス板を複数回往復動させながら600〜700℃程度の所定温度となるまで加熱させ軟化させた後に、冷却ゾーンに移動させて冷却ゾーン内の搬送ローラ上で所定時間往復動させながら急冷させて冷却強化させる熱強化方法である。
【0006】
一般的なオシレーションローラーハース炉の風冷強化設備として、図4に示したように、ガラス板を搬送する搬送ロールの下方位置かつ搬送ロール間に上方のガラス板の下面にエアを噴射する下部のノズルを設け、搬送ロールの上部側にはガラス板の上面にエアを噴射する上部のノズルを設けているが、ガラス板を中心として上部のノズル位置と下部のノズル位置が上下対称位置となるようにし、さらに、下部搬送ロールについても、ガラス板を中心として、下部搬送ロールの上下対称位置となる上部位置に、搬送ロールに相当する径の円筒状の整流板を設けて、ガラス板面の上部面に噴射されるエア条件と下部面に噴射されるエア条件とを極力同一条件となるようにしたものが知られている。
【0007】
また、特開2001−213631号公報には、板ガラスを搬送する搬送ローラと、この搬送ローラの途中に配置し、搬送中の板ガラスを所定温度に加熱する加熱炉と、この加熱炉の出側に配置し、搬送中の板ガラスを下面側から加熱する加熱手段と、この加熱手段の出側に配置し、搬送中の板ガラスを冷却する冷却装置と、からなる強化ガラス製造装置において、前記冷却装置は、板ガラスの搬送方向に沿って配置した複数個のエアノズルからなり、これらノズルのうち、入口のノズルを、板ガラスの幅方向にスリットを延ばしたスリットノズルにした強化ガラス製造装置が開示されている(特許文献1)。
【0008】
さらに、特表平9―508096号公報の図3、図5、及び図6には、ノズルボックスのベース面上に載置されたノズルリブ3、4の先端部がかなり広がった長方形状のチャンネルからなり、上部と下部のノズルキャップ5、6は多数のノズル穴7または7を持ち、ノズルリブ3、4の上にあり、逆流スリット8、8は、上部と下部から板ガラスから板ガラス16に吹き付けられた空気が、そこを通って逆流しうるようにした平らなガラス板の熱強化装置が開示されている(特許文献2)。
【0009】
また、特開平5―116975号公報には、板ガラスを軟化温度近くまで加熱し、次いで調節された冷却速度でこれを冷却する板ガラスの熱強化方法に於いて、加熱された板ガラスを冷却パネル(9) で区画される空間(10)に移行させ、板ガラスから離れて板ガラスに対面する冷却パネルの表面に、冷却ガスを噴射することで前記の冷却パネル(9)を冷却し、前記の空間(10)で冷却速度を調節することを特徴とする板ガラスの熱強化方法が開示されている(特許文献3)。
【特許文献1】特開2001−213631号公報
【特許文献2】特表平9−508096号公報
【特許文献3】特開平5−116975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図4に示した風冷強化設備は、円筒形状の整流板や搬送ロールの近傍位置にある上部のノズルや下部のノズルから噴射されたジェットエアが前記円筒形状の整流板や搬送ロールの影響を受けて、真っ直ぐガラス板面側に噴射されず、整流板や搬送ロールから僅かに遠ざかって斜め方向に反れることが判明している。このため、強化されたガラス板の強化度が低下したり、弓そり等が発生するという問題があった。
【0011】
また、前記特許文献1の風冷強化設備においては、上部ノズルからガラス板の上面に向けてジェット噴射された冷却エアが、ガラス板Gの上面で反射し、上部ノズル間の幅広の隙間を通過して排出されるのに対し、ガラス板の下面側の下部ノズルからジェット噴射された冷却エアはガラス板の下面で反射し、反射した冷却エアの一部は下部ノズル間の幅広の隙間を通過して排出されてしまうが、残りの一部は搬送ロールに衝突する等によって滞留するため、ガラス板の下部面側が受けるエアの圧力の方が上部面が受けるエアの圧力よりも高くなる。このため、強化されたガラス板に弓そり等が発生する恐れがあった。このため、上部側のノズル自体の噴射圧力を高くしようとすると、設備改善に大幅なコストアップが必要となる恐れがあった。
【0012】
さらに、前記特許文献2は、多数のノズル穴を有するノズルリブ3、4が、その先端部にいくほど広がった形状となっているため、供給時のエアの圧力に対してノズル穴から噴出するエアの圧力が大幅に低下するため、ノズルリブ3、4へ供給するノズルエアの圧力を増強させるための設備の大型化が避けられないという問題点があった。
【0013】
さらにまた、プレートに穴を開けているためにエアーが穴から噴射された瞬間直ぐに広がり易くなるため、ガラス板面に当たる圧力が弱くなるという問題点があった。
【0014】
さらにまた、特許文献3は、熱強化される板ガラスと上下の噴射ノズル8との間にそれぞれ導電性に優れた金属製の冷却パネルを設けているため、噴射ノズルから噴射されたエアは冷却パネルを冷却し、冷却パネルがガラス面を冷やすものであり、直接ガラス面に噴射させる場合に比べて、ガラス面への冷却は均一化される反面、冷却能力が低下し、十分な強化度が得られないという恐れがあった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、ガラス板の熱強化工程において、ガラス板の強化度を低下させることなく、弓反りやキズ等の不良を発生させることもなく、安定して高品質の強化ガラスの生産を行い、強化ガラスの生産歩留まりを向上させることを目的とする。
【0016】
すなわち、本発明は、軟化温度まで加熱した水平姿勢のガラス板を冷却ゾーンに搬送し、ガラス板の上下両面よりの噴出エアーによってガラス板を熱強化させる装置において、冷却ゾーン内の搬送ロールの上下両方向より、ガラス板の搬送方向と直交する幅方向に搬送ロールの全幅にわたって複数のノズルを一列に連結したノズル群を搬送方向に一定ピッチとなるように設け、上部側のノズル群間に板状の整流板を配設し、ガラス板の上面が受ける冷却エアの圧力が、ガラス板の下面が受ける冷却エアの圧力よりも高くなるようにし、ガラス板面に直交する方向にノズルからのエアを噴射できるようにしたことを特徴とするガラス板の熱強化装置である。
【0017】
あるいはまた、本発明は、前記上部側のノズル群間の領域に配設した板状の整流板を、断面V字状または逆V字状としたことを特徴とする上述のガラス板の熱強化装置である。
【0018】
あるいはまた、本発明は、前記ガラス板の上下両方向に設けたノズル群を、上下対称となるようにしたことを特徴とする上述のガラス板の熱強化装置である。
【0019】
あるいはまた、本発明は、前記搬送ロール上のガラス板を所定回数だけ前進後退させながら急冷強化させることを特徴とする上述のガラス板の熱強化装置である。
【発明の効果】
【0020】
ガラス板の熱強化工程において、ガラス板の強化度を低下させることなく、弓反りやキズ等の不良を発生させず、安定して高品質の強化ガラスの生産を行い、強化ガラスの生産歩留まりを向上させることができる。
【0021】
また、本発明に於いては、上部ノズルの先端部から噴射されるエアの噴射圧力を変えずに、ガラス板面が受けるエアーの圧力を低下させないようにした結果、ガラス板の上面が受ける圧力が、下面が受けるエアの圧力よりも高くなるようにし、上部ノズルからのエアがガラス板の上面に直交する方向で噴射するようにしたので、ガラス板が上下にバタついたり、小サイズのガラス板を2枚並列にして搬送した場合でも、ガラス板同士が接近して互いに傷ついたりすることもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図2に示すように、ガラス板の熱強化装置1は、ガラス板Gを搬送コンベア上に投入する投入ゾーン2と、投入ゾーン2で投入されたガラス板Gを所定の軟化温度まで加熱する加熱ゾーン3と、加熱軟化したガラス板Gを急冷強化する冷却ゾーン4と、急冷強化されたガラス板Gを洗浄し乾燥後洗浄ゾーン5にて、ガラス板の取出し可能な取出ゾーン6から構成される。
【0023】
前記投入ゾーン2にて投入されるガラス板Gは、予め前周囲の端面部をシーミング加工や面取り加工したフラットなフロート板ガラスである。
【0024】
加熱ゾーン3では、搬送ロール21によってガラス板Gを前進後退を繰り返しさせながらガラス板温度を600〜700℃の所定の軟化温度まで加熱する。
【0025】
前記加熱ゾーン3で所定の温度に達したガラス板Gを、冷却ゾーン4内で搬送ロール21の制御により前進後退を繰り返し行いながら、搬送ロール21の上下両方向に設けた上部と下部のノズル10、20から噴射される冷却エア12、22によりガラス板Gを急冷させて強化し、前記取出ゾーン5にて、冷却ゾ−ン4で急冷強化されたガラス板Gを取出すことができる。
【0026】
前記冷却ゾーン4にて搬送ロール21上のガラス板Gを冷却する場合、所定回数だけ前進後退させながら急冷強化させると、短い長さの冷却ゾーン4で対応できるだけでなく、搬送ローラ21に接するガラス板の位置が変わるので好ましい。
【0027】
図1に示したように、冷却ゾーン4は、ガラス板Gを前進後退させる搬送ロール21と、搬送面の上下両方向より、ガラス板Gの搬送方向と直交する幅方向に、搬送ロール21の全幅にわたって複数の上部と下部のノズル10、20を一列に連結したノズル群が搬送方向で一定ピッチとなるように設けられ、さらに、上部側のノズル群間に板状の整流板11、11、・・が配設されている。
【0028】
前記ガラス板Gの上部方向に設けたノズル群と、下部方向に設けたノズル群とは、互いに上下対称位置となるようにした。
【0029】
前記整流板11、11、・・は、上部側の上部のノズル群間の領域に配設した断面形状を逆V字状とし、上部のノズル群間の幅広の空間に丁度蓋をするようにしたものである。
【0030】
前記整流板の構造は、左右対称の逆V字状とするのが好ましいが、V字状や水平形状としても良い。
【0031】
以下に、本発明の作用を説明する。
図4は、従来の熱強化装置の冷却ゾーン4の上部のノズル10、下部のノズル20から噴射される冷却エア12、22の流れを説明する図であり、従来、常識的として一般的に行われていた図4の構成として、ガラス板Gの上方にガラス板Gの上面に向けて冷却エア12を噴射する上部のノズル10を設け、板厚10mmのガラス板Gの上面から上部のノズル10の先端までの距離は50mmとし、さらに上部のノズル群間の間隔は75mmとした。
【0032】
一方、ガラス板Gの下面側下方にガラス板Gの下面に向けて冷却エア22を噴射する下部のノズル20を設け、ガラス板Gの下面側から下部のノズル20の先端までの距離を50mmとして、上下対称位置となるようにした。
【0033】
さらに、ガラス板面に対して、ガラス板の下面側となる搬送ローラー21と上下対称位置となる位置にパイプ式の整流板11’を設置して、上下対称となるように配置した。
【0034】
図4の構成においては、板厚が4mm超の厚さのガラス板Gについて、弓そりや熱強化度の問題は発生しないが、板厚が4mmの場合、ガラス板Gを加熱ゾーン3で600〜700℃に加熱後、冷却ゾーン4に搬入し、上部のノズル10、下部のノズル20のそれぞれより冷却エア12、22をそれぞれガラスGの上面、下面に噴射したところ、ガラス板Gの上部面に噴射する冷却エア12の圧力が下方面に噴射する冷却エア22の圧力に比べてやや弱く、ガラス板Gが上下に浮上落下を繰り返すバタつきが発生し、特に搬送ロール21の幅方向に2枚以上の小面積のガラス板Gを並べて搬送させて熱強化処理をする場合には、ガラス板G、G同士の接触によるキズ欠陥が発生し、また、弓そりや、強化度不足も発生して、満足する歩留まりが得られなかった。
【0035】
また、図4の構成を、コンピュータの流体解析モデルで解析した結果、パイプ状の整流板11’の両サイドに配設した上部のノズル10の先端12’が、先端に行くに従って、やや整流板11’から離れるように反れてガラス板面に斜めに噴射しており、下部のノズル20の先端22についても、先端に行くに従って、やや搬送ローラ21から離れるようにそれてガラス板面に斜めに噴射していることが判明している。
【0036】
一方、図3は、本発明の熱強化装置であり、冷却ゾーン4の上部のノズル10、下部のノズル20から噴射される冷却エア12、22の流れを説明する図であり、図3によれば、図4のパイプ状の整流板11’を図3の逆V字状の整流板11に変更し、上部のノズル群10、10、・・間のすべてに前記逆V字状の整流板11を設けたことによって、上部のノズル10からガラス板面に垂直となるように冷却エア12を噴射すると、そのままガラス板Gの上面に噴射され、ガラス面Gに噴射された冷却エア12の一部分が反射して跳ね上がり整流板11の逆V字状の下面側の傾斜面に当たり、再度ガラス板面の上面に向けて冷却エア12が下降する。
【0037】
一方、下面側の下部20ノズルから噴射された冷却エア22によるガラス板Gの下面側の圧力は、図4と同じ条件である。
【0038】
このように、本発明によれば、上部ノズルから噴射されるエアの供給圧力を上げなくても、ガラス板の上面側が受けるエアー圧力を増大させることができ、ガラス板Gの上面側のガラス板面が受ける冷却エア12の圧力は、下面側が受ける冷却エア22の圧力の約2倍となり、このため、ガラス板Gの浮上落下を繰り返すバタつきもなくなり、ガラス板G、G同士の接触によるキズの発生も無く、弓反りも0.08%と規格内に納めることができるようになった。さらに、強化度不足もなくなって、大幅に歩留まりが向上した。
【0039】
尚、ガラス板Gの強化度とは、該ガラス板Gを破砕した直後において、縦横50mmの範囲内の破砕数が40個以上を合格の目安とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明のガラス板の熱強化装置の急冷部の全体側面図。
【図2】本発明のガラス板の熱強化装置の全体図。
【図3】本発明のガラス板の熱強化装置のノズル部周辺の部分拡大側面図。
【図4】従来のガラス板の熱強化装置のノズル部周辺の部分拡大側面図。
【符号の説明】
【0041】
G ガラス板
1 ガラス板の熱強化装置
2 投入ゾーン
3 加熱ゾーン
4 冷却ゾーン
5 洗浄ゾーン
6 取出ゾーン
10 上部のノズル
11、11’ 整流板
12、12’ 冷却エア
20 下部のノズル
21 搬送ロール
22 冷却エア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟化温度まで加熱した水平姿勢のガラス板を冷却ゾーンに搬送し、ガラス板の上下両面よりの噴出エアーによってガラス板を熱強化させる装置において、冷却ゾーン内の搬送ロールの上下両方向より、ガラス板の搬送方向と直交する幅方向に搬送ロールの全幅にわたって複数のノズルを一列に連結したノズル群を搬送方向に一定ピッチとなるように設け、上部側のノズル群間に板状の整流板を配設し、ガラス板の上面が受ける冷却エアの圧力が、ガラス板の下面が受ける冷却エアの圧力よりも高くなるようにし、ガラス板面に直交する方向にノズルからのエアを噴射できるようにしたことを特徴とするガラス板の熱強化装置。
【請求項2】
前記上部側のノズル群間の領域に配設した板状の整流板を、断面V字状または逆V字状としたことを特徴とする請求項1記載のガラス板の熱強化装置。
【請求項3】
前記ガラス板の上下両方向に設けたノズル群を、上下対称となるようにしたことを特徴とする請求項1または2に記載のガラス板の熱強化装置。
【請求項4】
前記搬送ロール上のガラス板を所定回数だけ前進後退させながら急冷強化させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のガラス板の熱強化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−215100(P2009−215100A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59654(P2008−59654)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】