説明

ガラス溶解炉

【課題】エネルギ効率が良く、所望通りの良好なガラス溶解物を短時間で生成させることができ、しかも小型化できる、言い替えれば設置スペースを少なくすることができるガラス溶解炉を提供する。
【解決手段】炉内上流部に他の部分よりも炉床壁を立ち上げた小プールを形成し、該小プールを直下に臨む天井壁に酸素バーナを下向きで取付け、該酸素バーナには酸素濃度90容量%以上の支燃ガスを供給すると共にガラス原料及び副原料の粉粒状物を気体搬送により供給するようにし、炉の下流部の天井壁又は側壁上部に排気口を開設して、酸素バーナを下向きで燃焼させると共にガラス原料及び副原料の粉粒状物をその火炎中に下向きで供給して溶解し、その溶解物を一時的に小プールに貯留して充分に均質溶解すると共にガス抜きした後、該小プールからオーバーフローにより流出させる一方で、かかる溶解に際して発生する排ガスを排気口から排出するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラス溶解炉に関し、更に詳しくは加熱源としてバーナを取付けたガラス溶解炉の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス原料や副原料(以下これらをガラス原料等という)からガラス溶解物を生成させるガラス溶解炉として、炉の上流部から炉内に投入したガラス原料等を、炉の側壁に取付けたバーナで溶解するようにしたものが知られている(例えば特許文献1〜3参照)。しかし、これら従来のガラス溶解炉には、炉内に投入したガラス原料等をバーナの燃焼による炉内輻射を利用して溶解するようになっているため、1)バーナとして酸素バーナを燃焼させる場合であっても、エネルギ効率が悪い、2)炉内に投入するガラス原料等には融点の異なる様々なものが含まれており、これらのなかで融点の低いものは溶解が早いが、融点の高いものは溶解が遅いので、全体としての均質溶解が難しく、均質溶解にかかる時間が長い、3)炉内に生成するガラス溶解物の上部に未溶解のガラス原料等の低温物が存在するため、ガラス溶解物中に発生するガスが抜け難く、ガス抜きにかかる時間が長い、という問題がある。従来のガラス溶解炉には、エネルギ効率が悪く、所望通りの良好なガラス溶解物を生成させるのに長い時間がかかり、結果として炉が大型になってしまうという問題があるのである。
【特許文献1】特開平11−11953号公報
【特許文献2】特開平11−11954号公報
【特許文献3】特開2005−15299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする課題は、エネルギ効率が良く、所望通りの良好なガラス溶解物を短時間で生成させることができ、しかも小型化できる、言い替えれば設置スペースを少なくすることができるガラス溶解炉を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記の課題を解決する本発明は、ガラス原料等からガラス溶解物を生成させるガラス溶解炉において、炉内上流部に他の部分よりも炉床壁を立ち上げた小プールが形成されていて、該小プールを直下に臨む天井壁に酸素バーナが下向きで取付けられており、該酸素バーナには酸素濃度90容量%以上の支燃ガスが供給され、またガラス原料等の粉状物が気体搬送により供給されるようになっていて、炉の下流部の天井壁又は側壁上部に排気口が開設され、酸素バーナを下向きで燃焼させると共にガラス原料等の粉粒状物をその火炎中に下向きで供給して溶解し、その溶解物を一時的に小プールに貯留して充分に均質溶解すると共にガス抜きした後、該小プールからオーバーフローにより流出させる一方で、かかる溶解に際して発生する排ガスを排気口から排出するようにして成ることを特徴とするガラス溶解炉に係る。
【0005】
本発明に係るガラス溶解炉も、従来のガラス溶解炉と同様、加熱源としてバーナを備え、ガラス原料等からガラス溶解物を生成させるようになっている。本発明のガラス溶解炉は、炉内上流部に他の部分よりも炉床壁を立ち上げた小プールが形成されている。小プールが形成された上流部の炉床壁は他の部分すなわち中流部や下流部の炉床壁よりも高い位置にあり、言い替えれば、平面状の天井壁から見て、小プールが形成された上流部の炉床壁は浅いところにあり、他の部分すなわち中流部や下流部の炉床壁は深いところにある。かかる小プールはガラス溶解物を一時的に貯留するためのもので、詳しくは後述するが、これによりガラス原料等の粉粒状物の充分な均質溶解を促すと共に生成したガラス溶解物からの充分なガス抜きを促すことができる。
【0006】
本発明に係るガラス溶解炉は、前記した小プールを直下に臨む天井壁に酸素バーナが下向きに取付けられている。この酸素バーナには酸素濃度90容量%以上の支燃ガスが供給されるようになっており、またガラス原料等の粉粒状物が気体搬送により供給されるようになっていて、この酸素バーナを下向きで燃焼させるときにガラス原料等の粒粉状物をその火炎中に下向きで供給して溶解するようになっている。かかる酸素バーナそれ自体としては、公知のものを転用でき、例えば特開平8−312938号公報、特開2000−55340号公報及び特開2000−103656号公報等に記載されているような酸素バーナを転用できる。これらの酸素バーナは、先端部におけるノズル構造が、中心部から外周部に向かい、例えば燃料供給ノズル、一次支燃ガス供給ノズル、被処理物(ガラス原料等の粉粒状物)供給ノズル及び二次支燃ガス供給ノズルのように、複数の供給ノズルが同心円状に配列されたものからなっている。
【0007】
前記のような酸素バーナを小プールを直下に臨む天井壁に下向きで取付け、これに酸素濃度90容量%以上の支燃ガスを供給して下向きで燃焼させると、火炎それ自体の温度が高くなるだけでなく、発生する排ガス量は少なくなり、該排ガス中における所謂NOx濃度も低くなる。かかる火炎中にガラス原料等の粉粒状物を下向きで供給すると、該粉粒状物は極めて短時間で溶解し、生成したガラス溶解物が直下の小プールに一時的に貯留され、貯留されたガラス溶解物を前記の下向きで燃焼する高温の火炎が加熱するので、ガラス原料等の粉粒状物を短時間で充分に均質溶解する。しかもこのとき、下向きで燃焼する高温の火炎中に下向きで供給したガラス原料等の粉粒状物の水分は一気に蒸発し、粉粒状物中にて炭酸化合物の形態をとるものは分解してガスを放出するため、生成したガラス溶解物中のガス発生量は少なくなることに加えて、生成したガラス溶解物は前記のように直下の小プールに一時的に貯留され、貯留されたガラス溶解物を下向きで燃焼する高温の火炎が加熱するので、該ガラス溶解物のガス抜きを促進する。ガラス原料等の粉粒状物の溶解及び生成したガラス溶解物の清澄を短時間で行なうことができるのであり、結果として、エネルギ効率が良く、所望通りの良好なガラス溶解物を短時間で生成させることができ、しかも炉長の短い、言い替えれば設置スペースの少ないガラス溶解炉とすることができるのである。
【0008】
また本発明に係るガラス溶解炉は、その下流部の天井壁又は側壁上部に排気口が開放されている。前記のように酸素バーナの下向きで燃焼する高温の火炎中にガラス原料等の粉粒状物を下向きで供給して溶解すると、相応に高温の排ガスが発生するが、かかる高温の排ガスを炉内の上流部から中流部を経由して下流部へと流し、下流部の排気口から排出して、その保有熱を炉や炉内に生成するガラス溶解物の湯面の加熱乃至保温に利用して、これによってもガラス溶解物の清澄をより効率良く行なうことができるようにするのである。
【0009】
本発明に係るガラス溶解炉では、炉の天井壁に小プールからオーバーフローしようとするガラス溶解物を臨んで補助酸素バーナを取付け、該補助酸素バーナをこれにガラス原料等の粉粒状物を供給することなく燃焼させ、その火炎により小プールからオーバーフローしようとする溶解物を加熱するようにするのが好ましい。これにより生成したガラス溶解物が小プールから円滑にオーバーフローして流出するのを促すことができる。
【0010】
また本発明に係るガラス溶解炉では、炉の天井壁に小プールからオーバーフローした炉内のガラス溶解物を臨んで副酸素バーナを下向きで取付け、該副酸素バーナをこれにガラス原料等の粉粒状物を供給することなく下向きで燃焼させ、その火炎により炉内のガラス溶解物を加熱するようにするのが好ましい。ガラス溶解物からのガス抜きを促すと共に、何らかの原因で前記した酸素バーナへのガラス原料等の粉粒状物の供給量が少なくなると、これに合わせて該酸素バーナの燃焼量を絞ることになるが、その結果、炉内のガラス溶解物に対する加熱が不足することとなるときは、副酸素バーナを下向きで燃焼させて不足分を補うことができるようにするのである。
【0011】
前記した酸素バーナ、補助酸素バーナ及び/又は副酸素バーナには昇降手段を設け、該昇降手段の作動によりそれらの先端部と炉内のガラス溶解物の湯面との間の距離を可変となるようにするのが好ましい。酸素バーナや補助酸素バーナ更には副酸素バーナの燃焼量を調節するだけでなく、これらのバーナの先端部と炉内のガラス溶解物の湯面との間の距離をも変えることによって、炉内のガラス溶解物、なかでもその湯面の加熱をより自在に制御できるようにするのである。酸素バーナや補助酸素バーナ更には副酸素バーナの燃焼量を調節すると、それらの火炎長さが変わり、火炎の先端部と湯面との距離が変わることが多いが、この距離が適正でない場合は、かかる距離を前記の昇降手段により適正に制御できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るガラス溶解装置によると、ガラス原料等からガラス溶解物を生成させるに際してエネルギ効率が良く、所望通りの良好なガラス溶解物を短時間で生成させることができ、しかも小型化した、言い替えれば設置スペースを少なくしたガラス溶解炉とすることができるという効果がある。
【実施例】
【0013】
図1は本発明に係るガラス溶解炉を一部縦断面で略示する全体図である。図示したガラス溶解炉は、全体として外観が略直方体を呈しており、炉内上流部の溶解ゾーンに相当する小プール11と、小プール11に後続して炉内中流部から下流部に亘る清澄ゾーン12と、清澄ゾーン12に後続する炉内下流部の作業ゾーン13とを備えている。
【0014】
小プール11は、上流部の炉床壁21を他の中流部や下流部の炉床壁22よりも立ち上げ、立ち上げた炉床壁21の下流側に堰23を立設することにより形成されている。言い替えれば、平面状の天井壁24から見て、小プール11が形成された上流部の炉床壁21は浅いところにあり、他の中流部や下流部の炉床壁22は深いところにある。
【0015】
小プール11を直下に臨む上流部の天井壁24には酸素バーナ31が下向きで取付けられている。この酸素バーナ31には酸素濃度90容量%以上の支燃ガスが供給されるようになっており、またガラス原料等の粉粒状物が気体搬送により供給されるようになっていて、この酸素バーナ31を下向きで燃焼させるときにガラス原料等の粉粒状物をその火炎中に下向きで供給して溶解するようになっている。かかる酸素バーナ31それ自体としては、前記したように、公知のものを転用できる。
【0016】
前記のような酸素バーナ31を小プール11を直下に臨む上流部の天井壁24に下向きで取付け、これに酸素濃度90容量%以上の支燃ガスを供給して下向きで燃焼させると、火炎それ自体の温度が高くなるだけでなく、発生する排ガス量は少なくなり、該排ガス中における所謂NOx濃度も低くなる。かかる火炎中にガラス原料等の粉粒状物を下向きで供給すると、該粉粒状物は極めて短時間で溶解し、生成したガラス溶解物Aが直下の小プール11に一時的に貯留され、貯留されたガラス溶解物Aを前記の下向きで燃焼する高温の火炎が加熱するので、ガラス原料等の粉粒状物を短時間で充分に均質溶解する。しかもこのとき、下向きで燃焼する高温の火炎中に下向きで供給したガラス原料等の粉粒状物の水分は一気に蒸発し、該粉粒状物中にて炭酸化合物の形態をとるものは分解してガスを放出するため、生成したガラス溶解物A中のガス発生量は少なくなることに加えて、生成したガラス溶解物Aは前記のように直下の小プール11に一時的に貯留され、貯留されたガラス溶解物Aを下向きで燃焼する高温の火炎が加熱するので、ガラス溶解物Aのガス抜きを促進する。ガラス原料等の粉粒状物の溶解及び生成したガラス溶解物Aの清澄を短時間で行なうことができるのであり、結果として、エネルギ効率が良く、所望通りの良好なガラス溶解物を短時間で生成させることができ、しかも炉長の短い、言い替えれば設置スペースの少ないガラス溶解炉とすることができるのである。
【0017】
また図示したガラス溶解炉は、その下流部の天井壁24に排気口41が開設されている。前記のように酸素バーナ31の下向きで燃焼する高温の火炎中にガラス原料等の粉粒状物を下向きで供給して溶解すると、相応に高温の排ガスが発生するが、かかる高温の排ガスを炉内の上流部から中流部を経由して下流部へと流し、下流部の排気口41から排出して、その保有熱を炉や炉内に生成するガラス溶解物の湯面の加熱乃至保温に利用して、これによってもガラス溶解物の清澄をより効率良く行なうことができるようにするのである。
【0018】
更に図示したガラス溶解炉では、天井壁24に小プール11からオーバーフローしようとするガラス溶解物Aを臨んで補助酸素バーナ32が取付けられており、補助酸素バーナ32をこれにガラス原料等の粉粒状物を供給することなく燃焼させ、その火炎により小プール11からオーバーフローしようとするガラス溶解物Aを加熱するようになっている。更にまた図示したガラス溶解炉では、天井壁24に小プール11からオーバーフローした炉内のガラス溶解物Bを臨んで副酸素バーナ33が下向きで取付けられており、副酸素バーナ33をこれにガラス原料等の粉粒状物を供給することなく下向きで燃焼させ、その火炎により炉内のガラス溶解物Bを加熱するようになっている。そして酸素バーナ31、補助酸素バーナ32及び副酸素バーナ33にはシリンダ機構からなる昇降手段51〜53が設けられており、昇降手段51〜53の作動によりそれらの先端部と小プール11内のガラス溶解物A又は炉内のガラス溶解物Bの湯面との間の距離が変えられるようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るガラス溶解炉を一部縦断面で略示する全体図。
【符号の説明】
【0020】
11 小プール
12 清澄ゾーン
13 作業ゾーン
21,22 炉床壁
23 堰
24 天井壁
31 酸素バーナ
32 補助酸素バーナ
33 副酸素バーナ
41 排気口
51〜53 昇降手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス原料及び副原料からガラス溶解物を生成させるガラス溶解炉において、炉内上流部に他の部分よりも炉床壁を立ち上げた小プールが形成されていて、該小プールを直下に臨む天井壁に酸素バーナが下向きで取付けられており、該酸素バーナには酸素濃度90容量%以上の支燃ガスが供給され、またガラス原料及び副原料の粉粒状物が気体搬送により供給されるようになっていて、炉の下流部の天井壁又は側壁上部に排気口が開設され、酸素バーナを下向きで燃焼させると共にガラス原料及び副原料の粉粒状物をその火炎中に下向きで供給して溶解し、その溶解物を一時的に小プールに貯留して充分に均質溶解すると共にガス抜きした後、該小プールからオーバーフローにより流出させる一方で、かかる溶解に際して発生する排ガスを排気口から排出するようにして成ることを特徴とするガラス溶解炉。
【請求項2】
更に炉の天井壁に小プールからオーバーフローしようとするガラス溶解物を臨んで補助酸素バーナが取付けられており、該補助酸素バーナをこれにガラス原料及び副原料の粉粒状物を供給することなく燃焼させ、その火炎により小プールからオーバーフローしようとする溶解物を加熱するようにした請求項1記載のガラス溶解炉。
【請求項3】
更に炉の天井壁に小プールからオーバーフローした炉内のガラス溶解物を臨んで副酸素バーナが下向きに取付けられており、該副酸素バーナをこれにガラス原料及び副原料の粉粒状物を供給することなく下向きで燃焼させ、その火炎により炉内のガラス溶解物を加熱するようにした請求項1又は2記載のガラス溶解炉。
【請求項4】
酸素バーナ、補助酸素バーナ及び/又は副酸素バーナに昇降手段が設けられており、該昇降手段の作動により該酸素バーナ、該補助酸素バーナ及び/又は該副酸素バーナの先端部と炉内のガラス溶解物又はその湯面との間の距離が可変となるようにした請求項1〜3のいずれか一つの項記載のガラス溶解炉。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−137861(P2008−137861A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326699(P2006−326699)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】