説明

ガラス物品

【課題】 一または複数の凹部を有するガラス物品として、肉厚のバラツキを可及的に抑制した上で、面性状が適切なガラス物品を提供する。
【解決手段】 凹部1aが形成されたガラス物品1であって、少なくとも凹部1aにおける少なくとも一方の面が軟化状態におけるガラス製素材Gの自由表面が固化してなると共に、凹部1aにおける側壁部1xの肉厚の目標肉厚からのバラツキが5%以内であり、凹部1aにおける底壁部1yの肉厚の目標肉厚からのバラツキが±5%以内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一または複数の凹部を有するガラス物品の肉厚均一化及び面性状の適切化に関する。
【背景技術】
【0002】
近年においては、ガラス製容器或いはイメージセンサ用カバーガラスや液晶バックライト用ガラス等のように一または複数の凹部を有するガラス物品を製作する手法として、平板状のガラス板からなるガラス製素材を加熱して軟化させ、負圧により成形型の成形凹部になじませながら変形させ且つ固化する手法が採用されるに至っている。
【0003】
その一例として、例えば下記の特許文献1によれば、加熱炉(電気炉チャンバ)の底部に、上面が凹凸の成形面とされ且つ多数の貫通孔(通気孔)が形成された成形型を固定すると共に、この成形型に板ガラスを載せて加熱し、貫通孔を通じて成形面上に負圧を作用させることにより、板ガラスを成形面の凹凸に倣う形状に成形する手法が開示されている。
【0004】
この場合、上記の成形型に形成された多数の貫通孔は、成形型の底部であって加熱炉の底壁に形成された座ぐり部で合流すると共に、この座ぐり部が、ロータリーポンプに連結された吸引管に接続されている。したがって、ロータリーポンプが作動することにより、吸引管を通じて座ぐり部に負圧が発生し、この負圧が更に多数の貫通孔を通じて成形型の成形面上に作用することになる。
【0005】
また、特許文献2の図6によれば、板ガラスとの接触面に凹部が形成された金型の上に軟化点以上に加熱された板ガラスを載せ、板ガラスと凹部とで囲まれる空間を真空に引き、板ガラスを金型の凹部に吸引して成形した直後に、電極を取り付けるための取付孔を設け、この板ガラスを炉内に入れて徐冷することが開示されている。
【0006】
この場合、上記の金型には複数の凹部に通じる複数の貫通孔が形成され、これらの貫通孔は、金型の背面を覆うカバーの内部空間で合流すると共に、このカバーの内部空間は、配管及びバルブを介してロータリーポンプに連結されている。したがって、ロータリーポンプによりバルブ及び配管を介してカバーの内部空間の空気を吸引し、且つ貫通孔を介して金型の凹部内を真空に引くことにより、板ガラスが金型の成形面の形状に真空成形される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−275930号公報
【特許文献2】特開平11−204035号公報(図6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記の特許文献1に開示された板ガラスの成形装置によれば、加熱炉の内部で成形型及び板ガラスが加熱されることになるが、熱線吸収効果を持たせた特殊なガラスを除外すれば、一般にガラスは、熱線を透過させる特性を有しており、したがって加熱炉の内部では、先ず板ガラスを透過した熱線により成形型が加熱され、その成形型から熱の供給を受けて板ガラスが軟化状態に至る。このため、板ガラスは、成形型との接触部で相対的に温度が高くなり、非接触部で相対的に温度が低くなり、このように温度分布が不均一ひいては軟化度合いが不均一の状態で、負圧による吸引が行われるという事態を招く。
【0009】
また、上記の特許文献2に開示された成形方法によれば、500℃程度に加熱された金型の上に、軟化点以上の温度(略900℃)に加熱された板ガラスを載せ、金型の凹部内を真空引きするものであるため、板ガラスを金型の上に載せた時点で、板ガラスの金型との接触部が熱を奪われて低温になるのに対して、非接触部は依然として高温に維持される傾向にある。したがって、この場合にも、板ガラスの温度分布(軟化の度合い)が不均一な状態で、負圧による吸引が行われることになる。
【0010】
以上のような態様において、負圧による吸引力が板ガラスに作用した場合には、板ガラスの最も軟化した部分から変形し始めることになるが、上記の特許文献1に開示の成形装置では、板ガラスの成形型との接触部から変形が始まり、このように接触部の変形が相対的に大きい状態は、成形が完了するまで持続する傾向にある。一方、上記の特許文献2に開示の成形方法では、図6に示された成形型の形状から判断すれば、板ガラスの成形型との接触部及び非接触部の境界部分が最も変形しやすく、したがって成形の完了後においては、その境界部分のガラス肉厚が最も薄くなる。
【0011】
このような不具合が顕著となる原因は、上述のように板ガラスの温度分布が不均一であることに加えて、板ガラスに負圧を作用させて吸引力により変形を生じさせる成形工程が、1回のみの吸引プロセスで完了してしまうことに大きく由来している。すなわち、上記の特許文献1、2に開示の技術を含めて、従来においては、板ガラスの変形開始から変形終了までの間に、連続して負圧を作用させて一挙に最終形状に変形させてしまうことが行われており、これが大きな要因となって上記の不具合が顕著になっていた。
【0012】
具体的には、図8(a)に示すように成形型15の上に載せられた軟化状態にある板ガラスGが、同図(b)〜(d)に示すように変形を開始して終了するまでの成形工程を、1回のみの負圧吸引プロセスで行った場合には、板ガラスGの軟化度合いの不均一によって、同図(d)に示すようにガラス肉厚にバラツキが生じ、また板ガラスGの全体が充分に軟化するまで待った後に負圧吸引を開始した場合にも、同図(d)に示すように成形凹部15aの中央に軟化ガラスが流れ込むことにより肉溜まりが生じ、結果的には何れの場合にも成形完了後に板ガラスGに偏肉が生じていた。
【0013】
また、成形時間の短縮を図る等の目的で、板ガラスを変形させる際の負圧を過度に大きくした場合には、板ガラスが成形凹部の形状に追随して変形し得なくなり、板ガラスの軟化度合いの不均一による変形進行の不整列と相俟って、成形完了後に成形凹部とガラスとの間に空気溜まりが残存し、いびつな形状を有する不良ガラス物品の多発を余儀なくされていた。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑み、一または複数の凹部を有するガラス物品として、肉厚のバラツキを可及的に抑制した上で、面性状が適切なガラス物品を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るガラス物品の説明に先立って、当該本発明を完成させるに至らせた主たる要因となっているガラス物品の成形方法及び成形装置に係る第1〜第3の手段について、説明をしておく。
【0016】
第1の手段は、上面に一または複数の成形凹部が形成された成形型の上にガラス製素材を載置し、軟化状態とされた該ガラス製素材の裏面と前記成形凹部とで囲まれる成形空間に負圧を作用させることにより、一または複数の凹部が形成されたガラス物品を成形する方法において、前記負圧の作用によるガラス製素材の変形開始時から該ガラス製素材の目的形状への変形完了までの間に、少なくとも1回、負圧の作用を一時的に中断させることに特徴づけられる。ここで、上記の目的形状とは、成形工程で最終的に得られるべき形状を意味している(以下、同様)。また、上記の負圧の作用を一時的に中断させるとは、負圧を一時的に全く作用させない状態とする場合のみならず、ガラス製素材を変形させる負圧と比較すれば極めて小さな値の負圧(ガラス製素材を変形させることが困難な程度の負圧)を一時的に作用させる場合をも含むことを意味している(以下、同様)。
【0017】
このような構成によれば、成形型の上に載せられている軟化状態にあるガラス製素材は、負圧の連続的な作用によって一挙に変形が進行して完了するのではなく、少なくとも1回、負圧の作用が一時的に中断するため、ガラス製素材の変形が完了するまでの途中で、その変形の進行度合いが急激に低下し或いは進行が停止され得る。この場合、ガラス製素材の変形開始時には、ガラス製素材は成形型の成形凹部以外の部分と接触することにより成形型から熱の影響を受けているため、成形凹部に負圧吸引されて変形されるべき非接触部におけるガラス製素材の軟化状態は、成形型からの熱の影響を受けやすい接触部周辺と、そのような熱の影響を殆ど受けない該周辺よりも接触部から離反した部分とで相違している。このような状態から、負圧の作用によりガラス製素材が変形した場合には、上記の接触部周辺が成形凹部に実際に接触して該凹部に適正に馴染んでいき、途中で変形の進行度合いが急激に低下し或いは停止した時点では、その時点における成形凹部との接触部周辺が成形型から熱の影響を受けやすい部位に移行し、再び負圧によりガラス製素材の変形が進行した場合には、その熱の影響を受けやすい部位が成形凹部に実際に接触して該凹部に適正に馴染んでいく。このように、ガラス製素材の変形開始から変形完了までの間に、少なくとも1回、負圧の作用を一時的に中断させれば、ガラス製素材に、成形型(成形凹部)から熱の影響を受けやすい部位と、熱の影響を殆ど受けない部位とが存在することにより、軟化状態が不均一であっても、成形凹部に実際に接触して馴染んでいく部位は、熱の影響を受けやすい部位のみとすることが可能になる。これにより、ガラス製素材が負圧により変形していく過程においては、軟化状態が略同程度の部位が順次成形凹部に接触して適正に馴染んでいくことが可能となり、従来のような肉溜まりや空気溜まりが生じ得なくなる。その結果、肉厚のバラツキが可及的に低減され且つ変形に伴う伸びが均一化され更には内表面が変形開始前の軟化状態にあるガラス製素材の表面の面性状を有効に維持してなる一または複数の凹部を有するガラス物品を得ることができる。尚、上記の成形過程において、成形完了後にガラス製素材が成形凹部の底面に完全に密着していなくても、その密着していない状態が最終形状(ガラス物品の形状)であれば、上記と同様の利点を有するガラス物品を得ることができる。また、ガラス製素材を成形凹部に接触させずに変形させることも可能であって、この場合には、変形開始時にガラス製素材における熱の影響を受けやすい成形型との接触部周辺を、負圧により、少なくとも1回、一時的に中断しつつ吸引して変形させれば、上記と同様の利点に加えて、凹部の内外両面が、変形開始前の軟化状態にあるガラス製素材の表裏両面の面性状を維持できるという利点をも有するガラス物品を得ることができる。
【0018】
また、第2の手段は、上面に一または複数の成形凹部が形成された成形型の上にガラス製素材を載せ、軟化状態とされた該ガラス製素材の裏面と前記成形凹部とで囲まれる成形空間に負圧を作用させることにより、一または複数の凹部が形成されたガラス物品を成形する方法において、前記負圧の作用によるガラス製素材の変形開始時から該ガラス製素材の目的形状への変形完了までの間に、少なくとも1回、ガラス製素材の変形の進行が一時的に中断するように負圧を調整しながら作用させることに特徴づけられる。
【0019】
このような構成によっても、軟化状態にあるガラス製素材を変形させるべく負圧を作用させるに際して、その変形が連続して進行するように負圧を作用させるのではなく、変形開始時から変形完了までの間に、少なくとも1回、ガラス製素材の変形の進行が一時的に中断するように負圧を調整しながら作用させるので、上述の第1の手段と実質的に同一の作用効果を享受することができる。この場合、ガラス製素材の変形の進行が一時的に中断するとは、変形の進行が完全に停止する場合のみならず、上記の作用効果が得られる範囲内であれば、相対的に極めて低速度で僅かに変形が進行する場合、或いは一旦変形した部位が僅かに戻る場合をも含むものとする。
【0020】
以上の構成において、ガラス製素材の目的形状への変形完了時からガラスの固化が完了するまでの間に、少なくとも1回、負圧の作用を一時的に中断させることが好ましい。
【0021】
このようにすれば、ガラス製素材の変形完了後の形状を、成形型の成形凹部の形状に確実に倣わせて固化させることが可能となると共に、軟化状態にあるガラスが成形凹部に通じている負圧吸引用の通気孔に流入して固化することによる余計な凸部の形成が阻止される。すなわち、ガラス製素材が変形完了により成形型の成形凹部に密着した時点では、未だガラスは軟化した状態にあり、このような状態で負圧による吸引を完全に停止したのでは、負圧吸引用の通気孔からの正圧の作用或いは冷却過程でのガラス収縮に起因して、ガラスに不当な変形が生じ、成形凹部の形状に倣った状態を維持できずに固化するという不具合を招く。これに対して、ガラス製素材が変形完了により成形型の成形凹部に密着した後においても、負圧による吸引を連続して行ったのでは、軟化状態にあるガラスが負圧吸引用の通気孔に吸い込まれて、余計な凸部が形成されるという不具合を招く。しかしながら、上記のように負圧の作用を調整すれば、このような不具合を適切に回避することができる。
【0022】
以上の構成において、ガラス製素材は、成形型の上に載せられた状態で加熱されて軟化状態になると共に、該ガラス製素材が軟化状態になるまでの過程で、該ガラス製素材の表面側空間と、成形空間とが、実質的に同一の温度または実質的に同一の気圧となるようにし、その状態から成形空間に負圧を作用させ始めるようにすることができる。
【0023】
このようにすれば、成形型の上に載せられたガラス製素材が加熱される過程(負圧による吸引が開始されるまでの過程)においては、ガラス製素材の表面側空間とその裏面側の成形空間とが実質的に同一の温度とされるので、この両空間には気圧差が殆ど生じず、したがってガラス製素材にそのような気圧差に起因する不当な窪み変形が生じ難くなる。換言すれば、ガラス製素材の軟化状態が全域に亘って適切に均一化されるまでの間に不当な窪み変形が生じ難くなる。このような利点は、上記のガラス製素材が加熱される過程において、ガラス製素材の表面側空間とその裏面側の成形空間とが実質的に同一の気圧差とされる場合に、より的確に得ることができる。そして、ガラス製素材の軟化状態が全域に亘って適切に均一化され且つガラス製素材が適切に変形すべく充分に軟化した時点で、成形空間に負圧を作用させるようにすれば、一または複数の凹部を有するガラス物品として、最終的に目的とする理想形状に近く且つ肉厚分布が均一化されたガラス物品を得る上で極めて有利となる。尚、仮に上記の負圧を作用させる前段階で、ガラス製素材の軟化状態が全域に亘って充分且つ確実に均一化されていなくとも、このような手段によれば、負圧吸引の前段階で、最終形状や肉厚分布に悪影響を及ぼす余計な窪み変形が生じないため、理想形状に近く且つ肉厚分布が均一化されたガラス物品を得る上で大きな妨げになるものではない。
【0024】
また、以上の構成において、ガラス製素材は、成形型の上に載せられた状態で加熱されて軟化状態になると共に、該ガラス製素材が軟化状態になるまでの過程で、該ガラス製素材の表面側空間の温度または気圧に比して、成形空間の温度または気圧が高くなるようにし、その状態から成形空間に負圧を作用させ始めるようにすることもできる。
【0025】
このようにすれば、成形型の上に載せられたガラス製素材が加熱される過程(負圧による吸引が開始されるまでの過程)においては、ガラス製素材の表面側空間よりも、その裏面側の成形空間の方が高温とされるので、ガラス製素材の軟化状態が全域に亘って適切に均一化されるまでの間に、ガラス製素材の厚みや、成形凹部(非接触領域)上に位置するガラス製素材の面積、或いはガラス製素材自体の組成が原因となって、自重により不当な窪み変形が生じようとしても、裏面側の成形空間の方が表面側空間よりも気圧が高くなり得ることから、ガラス製素材を裏面側から適度に持ち上げようとする力が発生し得る。このため、ガラス製素材を加熱する過程において、ガラス製素材に自重による不当な窪み変形が生じ難くなる。このような利点は、上記のガラス製素材の加熱過程において、ガラス製素材の表面側空間よりもその裏面側の成形空間の方が積極的に高気圧とされる場合に、より的確に得ることができる。この後において、負圧の作用により最終的に目的とする理想形状に近く且つ肉厚分布が均一化されたガラス物品が得られることに関しては、既に述べた事項と同様である。
【0026】
以上の構成において、ガラス製素材は、一または複数の凹部を形成する部位が平板状であることが好ましい。
【0027】
このような構成によれば、品位に優れたイメージセンサ用カバーガラスや液晶バックライト用ガラス(例えば蛍光ランプ用ガラス)等を得ることが可能となる。
【0028】
更に、第3の手段は、上面に一または複数の成形凹部が形成された成形型の上にガラス製素材を載せ、軟化状態とされた該ガラス製素材の裏面と前記成形凹部とで囲まれる成形空間に負圧を作用させることにより、一または複数の凹部が形成されたガラス物品を成形するように構成した装置において、前記負圧の作用によるガラス製素材の変形開始時から該ガラス製素材の目的形状への変形完了までの間に、少なくとも1回、負圧の作用を一時的に中断させ若しくは作用している負圧の大きさを一時的に低減させるように構成したことに特徴づけられる。
【0029】
この第3の手段は、上記第1の手段と実質的に同一の構成であり、その作用効果も実質的に同一であるので、ここでは便宜上、その説明を省略する。
【0030】
上記技術的課題を解決するためになされた本発明は、凹部が形成されたガラス物品であって、少なくとも前記凹部における少なくとも一方の面が軟化状態におけるガラス製素材の自由表面が固化してなると共に、前記凹部における側壁部の肉厚の目標肉厚からのバラツキが5%以内であり、前記凹部における底壁部の肉厚の目標肉厚からのバラツキが±5%以内であることに特徴づけられる。ここで、上記の目標肉厚についての基本的な意義を説明すると、例えば凹部の全域に亘って設計上均一な一定の厚みとされている場合には、その一定の厚みが目標肉厚となるが、凹部に肉厚の厚い部分と薄い部分とが設計上明確に存在している場合には、その厚い部分と薄い部分とにそれぞれ対応する設計上の厚みが目標肉厚となる。そして、ここでは、凹部における側壁部と底壁部とについて、それぞれ設計上の肉厚である目標肉厚が存在している。
【0031】
このような構成によれば、従来の成形方法では作製し得なかったガラス物品を提供することが可能となる。すなわち、プレス成形により一または複数の凹部を有するガラス物品を作製したならば、少なくとも凹部の目標肉厚に対する肉厚のバラツキを小さくできるが、その一方において、表裏両面が成形型との接触により成形されることになって、何れの面についてもガラス製素材の面を維持した面性状にはならない。一方、既に[背景技術]の欄で述べたように、負圧による吸引作用を利用して凹部を成形する方法により一または複数の凹部を有するガラス物品を作製したならば、少なくとも凹部の一方の面は軟化状態におけるガラス製素材の自由表面(鏡面または鏡面に近い面や、規則的正しく微小凹凸が整列された面、或いはサンドブラストによる表面処理がなされた面など)が固化してなるため、ガラス製素材の面に近い面性状を得ることは可能であるが、その一方において、既に[発明が解決しようとする課題]の欄で述べたように、少なくとも凹部の目標肉厚との間で肉厚に不当なバラツキが生じる。これに対して、本発明に係るガラス物品によれば、上記両者の利点を兼ね備え且つ更に優れたものとなる。すなわち、ガラス製素材の少なくとも一方の面に要求に応じた面性状となるように例えばサンドブラスト等の表面処理を施しておき、凹部が形成された後においてもその面性状をより一層適正に維持することにより、凹部の形成後にそのような表面処理を施すことが実質的に不可能という問題を回避でき、且つ凹部の肉厚のバラツキを目標肉厚の±5%以内に収めることにより、詳しくは凹部における側壁部と底壁部とのそれぞれの肉厚を、それぞれの目標肉厚の±5%以内に収めることにより、強度面及び品位面で優れたものとすることができる。また、ガラス製素材の両方の面を要求に応じた面性状となるように例えば鏡面または鏡面に近い面としておき、凹部が形成された後においてもその面性状をより一層適正に維持することにより、凹部の形成後に両面をそのような鏡面または鏡面に近い面とすることが実質的に不可能という問題を回避でき、且つ凹部の肉厚のバラツキを目標肉厚の±5%以内に収めることができる。このような利点が得られるのは、上記第1の手段または第2の手段に係る成形方法を本発明者等が案出したことに由来する。但し、本発明に係るガラス物品についての成形方法は、そのような成形方法に限定されるわけではない。
【0032】
また、上記技術的課題を解決するためになされた本発明は、凹部と、該凹部の開口部側における外周側に連なる平板状部とを備えたガラス物品であって、少なくとも前記凹部における少なくとも一方の面が軟化状態におけるガラス製素材の自由表面が固化してなると共に、前記凹部の肉厚の目標肉厚からのバラツキが5%以内であり、前記平板状部の肉厚の目標肉厚からのバラツキが5%以内であることに特徴づけられる。なお、既述の目標肉厚についての基本的な意義の説明を参酌すると、ここでは、凹部の全域に亘って設計上均一な一定の厚みとされているため、その一定の厚みが目標肉厚となり、従って、凹部と平板状部とについて、それぞれ設計上の肉厚である目標肉厚が存在している。
【0033】
更に、上記技術的課題を解決するためになされた本発明は、凹部と、該凹部の開口部側における外周側に連なる平板状部とを備えたガラス物品であって、少なくとも前記凹部における少なくとも一方の面が軟化状態におけるガラス製素材の自由表面が固化してなると共に、前記凹部における側壁部の肉厚の目標肉厚からのバラツキが5%以内であり、前記凹部における底壁部の肉厚の目標肉厚からのバラツキが±5%以内であり、前記平板状部の肉厚の目標肉厚からのバラツキが5%以内であることに特徴づけられる。ここでは、凹部の側壁部と底壁部と平板状部とについて、それぞれ設計上の肉厚である目標肉厚が存在している。
【0034】
また、上記技術的課題を解決するためになされた本発明は、凹部が形成されたガラス物品であって、少なくとも前記凹部における少なくとも一方の面が軟化状態におけるガラス製素材の自由表面が固化してなると共に、前記凹部における側壁部の肉厚の平均肉厚からのバラツキが5%以内であり、前記凹部における底壁部の肉厚の平均肉厚からのバラツキが±5%以内であることに特徴づけられる。ここで、上記の平均肉厚は、凹部の全域に亘って設計上均一な肉厚である場合には、単一の値となるが、凹部の側壁部と底壁部とを明確に区別できる場合であって、且つ側壁部の肉厚と底壁部の肉厚とが明確に区別できる程度に相違している場合(設計上相違している場合)には、凹部の側壁部の平均肉厚と、凹部の底壁部の平均肉厚とが別々に異なる値となる。そして、ここでは、凹部の側壁部と底壁部とについて、それぞれ設計上均一な肉厚である平均肉厚が存在している。
【0035】
このような構成によっても、従来の成形方法では作製し得なかったガラス物品を提供することが可能となる。すなわち、上記の目標肉厚を構成要件とした場合と同様の理由により、ガラス製素材の一方または両方の面を要求に応じた面性状としておき、凹部が形成された後においてもその面性状を可能な限り適正に維持することにより、凹部の形成後にそのような面性状にすることが実質的に不可能という問題を回避でき、且つ凹部の肉厚のバラツキを平均肉厚の±5%以内に収めることにより、詳しくは凹部における側壁部と底壁部とのそれぞれの肉厚を、それぞれの平均肉厚の±5%以内に収めることにより、強度面及び品位面で優れたガラス物品とすることができる。
【0036】
更に、上記技術的課題を解決するためになされた本発明は、凹部と、該凹部の開口部側における外周側に連なる平板状部とを備えたガラス物品であって、少なくとも前記凹部における少なくとも一方の面が軟化状態におけるガラス製素材の自由表面が固化してなると共に、前記凹部の肉厚の平均肉厚からのバラツキが5%以内であり、前記平板状部の肉厚の平均肉厚からのバラツキが5%以内であることに特徴づけられる。ここでは、上記の平均肉厚が、凹部の全域に亘って設計上均一な肉厚であるため、単一の値となり、従って、凹部と平板状部とについて、それぞれ設計上均一な肉厚である平均肉厚が存在している。
【0037】
また、上記技術的課題を解決するためになされた本発明は、凹部と、該凹部の開口部側における外周側に連なる平板状部とを備えたガラス物品であって、少なくとも前記凹部における少なくとも一方の面が軟化状態におけるガラス製素材の自由表面が固化してなると共に、前記凹部における側壁部の肉厚の平均肉厚からのバラツキが5%以内であり、前記凹部における底壁部の肉厚の平均肉厚からのバラツキが±5%以内であり、前記平板状部の肉厚の平均肉厚からのバラツキが5%以内であることに特徴づけられる。ここでは、凹部の側壁部と底壁部と平板状部とについて、それぞれ設計上均一な肉厚である平均肉厚が存在している。
【0038】
以上の構成を備えたガラス物品は、凹部を一のみ備え且つ該凹部の開口部側における外周側全域に平板状部が連なったものとすることができ、また、凹部を複数備え且つそれらの複数の凹部がそれぞれ各開口部側で平板状部を介して連なると共にそれらの複数の凹部が形成されている領域の各開口部側における外周側全域が平板状部であるものとすることもできる。
【0039】
このようにすれば、厚みに不当なバラツキがなく且つ面性状が要求通りであって而も平板状部により剛性が有効に高められたイメージセンサ用カバーガラスや液晶バックライト用ガラス(例えば平面蛍光ランプ用ガラス)等を得ることができる。
【0040】
更に、これらのガラス物品は、上記の外周側全域における平板状部の外周縁に、凹部の窪み方向と反対方向に立ち上がる周壁部が形成されたものとすることもできる。
【0041】
このようにすれば、上記と同様の利点を有するイメージセンサ用カバーガラスや液晶バックライト用ガラス(例えば平面蛍光ランプ用ガラス)等として、他の形態を有するものを提供することができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明に係るガラス物品によれば、要求に応じた面性状とした上で、肉厚分布が適切で且つ強度面及び品位面で優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施形態に係るガラス物品を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係るガラス物品を示す概略斜視図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係るガラス物品を示す概略斜視図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係るガラス物品を成形するための成形装置の概略構成を示す縦断正面図である。
【図5】図5(a)〜(e)は、本発明の第1実施形態に係るガラス物品を成形する成形工程を時間経過と共に順を追って説明するための縦断正面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係るガラス物品を成形するための成形装置の概略構成を示す縦断正面図である。
【図7】図7(a)〜(d)は、本発明の第2実施形態に係るガラス物品を成形する成形工程を時間経過と共に順を追って説明するための縦断正面図である。
【図8】図8(a)〜(d)は、従来のガラス物品を成形する成形工程を時間経過と共に順を追って説明するための縦断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。
【0045】
先ず、図1に基づいて、本発明の第1実施形態に係るガラス物品を説明する。同図に示すように、ガラス物品(例えばイメージセンサ用カバーガラスや表示管用ガラス)1は、単一の凹部1aを有すると共に、この凹部1aの開口部側における外周側全域には、矩形輪郭の平板状部1bが連なっている。そして、このガラス物品1の凹部1aにおける内表面は、ガラス製素材(ガラス板)の軟化状態における自由表面(例えば鏡面または鏡面に近い面)が固化してなると共に、その外表面は、成形型との接触により成形されてなるものである。この場合、ガラス物品1の凹部1aにおける内表面及び外表面の両面について、ガラス製素材の軟化状態における自由表面が固化してなるものであってもよい。尚、この実施形態では、ガラス物品1の平板状部1bが内外表面(表裏面)共に、成形型との接触により成形されてなるものであるが、表面については、ガラス板の軟化状態における自由表面が固化してなるものとすることも可能である。
【0046】
更に、このガラス物品1の凹部1aの肉厚は、目標肉厚(設計上の肉厚)からのバラツキが±5%以内である。すなわち、この凹部1a全域の設計上の肉厚が例えば1mmである場合には、現実の凹部1a全域の肉厚が0.95mm〜1.05mmの範囲内に収まっている。また、凹部1aの側壁部1xの設計上の肉厚が例えば1.2mmであり、且つ底壁部1yの設計上の肉厚が例えば0.8mmである場合には、現実の側壁部1xの肉厚が1.14mm〜1.26mmの範囲内に収まり、且つ現実の底壁部1yの肉厚が0.76mm〜0.84mmの範囲内に収まっている。尚、この実施形態では、平板状部1bの肉厚も、凹部1a全域またはその側壁部1x若しくは底壁部1yと同一の目標肉厚(設計上の肉厚)からのバラツキが±5%以内である。
【0047】
別の観点から述べると、このガラス物品1の凹部1aの肉厚は、平均肉厚からのバラツキが±5%以内である。すなわち、この凹部1a全域の平均肉厚が例えば1mmである場合には、凹部1a全域の肉厚が0.95mm〜1.05mmの範囲内に収まっている。また、凹部1aの側壁部1xの平均肉厚が例えば1.2mmであり、且つ底壁部1yの平均肉厚が例えば0.8mmである場合には、側壁部1xの肉厚が1.14mm〜1.26mmの範囲内に収まり、且つ底壁部1yの肉厚が0.76mm〜0.84mmの範囲内に収まっている。尚、平板状部1bの肉厚も、凹部1a全域またはその側壁部1x若しくは底壁部1yと同一の平均肉厚(設計上の肉厚)からのバラツキが±5%以内である。
【0048】
図2は、本発明の第2実施形態に係るガラス物品2を例示するものである。同図に示すように、このガラス物品2は、断面略半円形をなす複数の溝状凹部2aが平行に配列され、これらの複数の溝状凹部2aがそれぞれ各開口部側で平板状部2bを介して連なると共に、これらの複数の溝状凹部2aが形成されている領域の各開口部側における外周側全域が、矩形輪郭の平板状部2cとされている。そして、このガラス物品2の各溝状凹部2aにおける内表面と、これらの内表面に連なる各相互間の平板状部2bの表面とは、ガラス製素材(ガラス板)の軟化状態における自由表面が固化してなると共に、それらの外表面は、成形型との接触により成形されてなるものである。尚、この実施形態では、ガラス物品2の上記の外周側全域における平板状部2cが、内外表面(表裏面)共に、成形型との接触により成形されてなるものであるが、表面については、ガラス板の自由表面が固化してなるものとすることも可能である。
【0049】
更に、このガラス物品2の各溝状凹部2aの肉厚は、目標肉厚(設計上の肉厚)からのバラツキが±5%以内である。別の観点から述べると、このガラス物品2の凹部の肉厚は、平均肉厚からのバラツキが±5%以内である。これらの肉厚のバラツキが意味するところは、上述の第1実施形態で述べた事項と同一である。尚、この実施形態では、各溝状凹部2aの相互間の平板状部2bの肉厚が、各溝状凹部2aと同一の目標肉厚及び同一の平均肉厚からのバラツキが±5%以内であり、また上記の外周側全域の平板状部2cの肉厚も、各溝状凹部2aと同一の目標肉厚及び平均肉厚からのバラツキが±5%以内である。
【0050】
図3は、本発明の第3実施形態に係るガラス物品を例示するものである。この第3実施形態に係るガラス物品2´が、上述の第2実施形態に係るガラス物品2と相違する点は、外周側全域における平板状部2cの外周縁に、凹部2aの窪み方向と反対方向に立ち上がる周壁部2dが形成されている点である。この周壁部2dの肉厚は、各溝状凹部2aと同一の目標肉厚及び同一の平均肉厚からのバラツキが±5%以内であってもよく、または他の目標肉厚及び他の平均肉厚からのバラツキが±5%以内であってもよく、もしくはそのような肉厚の関係を有していなくてもよい。その他の構成は、上述の第2実施形態に係るガラス物品2と同一であるので、共通する構成要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0051】
上述の第1実施形態に係るガラス物品1は、図4に示すような成形装置3を用いて作製される。この成形装置3は、加熱炉4の内部空間4aに、上面に1つの略半球状をなす成形凹部5aが形成され且つ該成形凹部5aの内側における底部中央に通じる1本の通気孔5bが形成された成形型5を備えてなる。この成形型5の底部には、全部が加熱炉4の内部空間4aに位置するチャンバ6が固定され、このチャンバ6の側壁部6cと底壁部6dとの全域が、加熱炉4の内部空間4aにおける高温雰囲気(熱気)に曝されるようになっている。そして、このチャンバ6の内部空間6aは、成形型5の通気孔5bを介して成形凹部5aの内側に通じている。
【0052】
更に、チャンバ6の底壁部6dには、加熱炉4の外部に配設された排気装置7に通じる排気管(連通路)8が接続され、排気装置7の作動によりチャンバ6の内部空間6aに負圧が発生するようになっている。この排気装置7としては、どのような機構のものを用いてもよいが、特に吸引作用、即ち真空操作のオン・オフの応答性に優れたベンチュリー機構を有している。また、排気管8の加熱炉4外部には、排気管8内の連通路を開通及び閉鎖する開閉バルブ9が取り付けられている。そして、この第1実施形態では、加熱炉4の側壁部4c全周の内面側にのみ加熱源10が設置されている。この加熱源10の加熱方式は、電熱線によるものであってもよく、燃焼ガスによるものであってもよい。尚、成形型5の上方には、該成形型5の上面に載せられたガラス製素材としてのガラス板Gの周縁部を押さえて保持する押さえ板11が配設されている。尚、この成形装置3は、加熱炉4の側壁部4c全周の内面側のみならず、加熱炉4の底壁部4dの内面側にも加熱源10が設置されていてもよく、或いはチャンバ6の外面に補助加熱手段としての補助加熱源を設置してもよい。
【0053】
次に、このような構成を備えた成形装置3を用いて上述のガラス物品1を成形する方法を説明する。先ず、成形型5の上面にガラス板Gが載せられている時には、成形凹部5aとガラス板Gの裏面とで囲まれる成形空間5xと、チャンバ6の内部空間6aとは、通気孔5bを介して通じた状態にあると共に、排気管8は開閉バルブ9により閉鎖された状態にある。そして、チャンバ6は、その全部が加熱炉4の内部空間4aに位置しているので、チャンバ6の内部空間6aは、加熱炉4の内部空間4aの熱気によって加熱されると共に、この加熱された熱気がチャンバ6の内部空間6aから外部に逃げることはない。この場合、上記の加熱は、チャンバ6の内部空間6aの気圧が、加熱炉4の内部空間4aの気圧、詳しくはガラス板Gの表面側空間4xの気圧と実質的に同等になるように行われている。これにより、チャンバ6の内部空間6aに通じているガラス板Gの裏面側の成形空間5xと、ガラス板Gの表面側空間4xとの気圧差が実質的に零または極めて小さくなる。その結果、加熱炉4の内部空間4aで、成形凹部5aの上を覆うように成形型5に載せられたガラス板Gが加熱される過程、つまり負圧による吸引が開始されるまでの過程においては、ガラス板Gに上記の気圧差に起因する不当な窪み変形が生じ難くなる。したがって、ガラス板Gの軟化状態が全域に亘って適切に均一化されるまでの間に、不当な窪み変形を生じ難くすることが可能となる。この後に、開閉バルブ9により排気管8を開通させ、チャンバ6の内部空間6aから通気孔5bを通じて成形空間5xに負圧を作用させ始める。
【0054】
この場合、図5(a)に基づいて、ガラス板Gの詳細な温度分布を説明すると、加熱炉4内でのガラス板Gへの熱の供給は、成形型5からガラス板Gとの接触部Gaを通じて行われるため、ガラス板Gの成形型5との非接触部Gbにおいては、その端縁から1/4の端部領域Gxで接触部Gaと同等の温度(粘性)となり、その残余である2/4の中央部領域Gyは、接触部Gaから熱の影響を受けず、相対的に高い粘性を示すことになる。このような状態から、負圧吸引を開始すれば、ガラス板Gの非接触部Gbの端部領域Gxが直ちに変形して成形凹部5aに馴染もうとするが、中央部領域Gyは変形し難いため、平面形状を保った状態となる。
【0055】
そこで、負圧吸引の開始後に、図5(b)に示すように、ガラス板Gの端部領域Gxが成形凹部5aに密着するまで変形した時点で、開閉バルブ9により排気管8を閉鎖し、変形が進行しないように直ちに成形空間5xを当初の気圧に戻し、負圧吸引を一時的に停止する。これにより、ガラス板Gの変形の進行が一時的に停止され、この間にガラス板Gの中央部領域に成形型5から熱が供給され、この時点におけるガラス板Gの成形型5との非接触部Gbの端縁から1/4の新たな端部領域Gxを、接触部Gaの温度と同等の領域と見做す。そして、所定時間の経過後に2回目の負圧吸引を行うことにより、図5(c)に示すように、上記の新たな端部領域Gxが成形凹部5aに密着するまで変形した時点で、再び負圧吸引を一時的に停止する。このような負圧を断続的に作用させる動作を繰り返して行うことにより、図5(d)に示すように、成形凹部5aへのガラス板Gの密着が完了する。
【0056】
このように、成形凹部5aへのガラス板Gの密着が完了した時点では、ガラス板Gは未だ軟化状態にあるため、この密着完了後に加熱を止めて冷却工程を行う際にも、上記と同様に負圧吸引とその一時的停止とを継続して繰り返して行い、ガラス板Gが固化するまでその動作を続ける。この場合の動作は、ガラス板Gの成形凹部5aへの密着前における最後の動作と同等のタイミングで行われる。この結果、成形凹部5aの形状に正確に倣った形状の凹部1aを有するガラス物品1が得られるが、この凹部1aの内表面は、変形開始前におけるガラス板Gの表面の面性状を維持したものになると共に、既に述べたように目標肉厚または平均肉厚に対する肉厚のバラツキが極めて小さくなる。
【0057】
この場合、上記の成形過程において、成形完了後にガラス板Gが成形凹部5aの底面に完全に密着していなくても、その密着していない状態が最終形状(ガラス物品1の形状)であれば、上記と同様の方法により上記と同様の利点を有するガラス物品1を得ることができる。また、ガラス板Gを成形凹部5aに接触させずに変形させることも可能である。すなわち、図5(e)に示すように、変形開始時にガラス板Gにおける成形型5との接触部Ga周辺を、負圧により、少なくとも1回、一時的に中断しつつ吸引して変形させれば、上記と同様の利点を有するガラス物品1(凹部1aが浅い場合に好適)を得ることができる。そして、この場合には、凹部1aの内外表面の両面が、変形開始前におけるガラス板Gの表裏両面の面性状を維持したものになる。
【0058】
図6は、上述の第2実施形態(及び第3実施形態)に係るガラス物品2を作製するために用いられる成形装置3を例示している。この成形装置3が、上述の図4に示す成形装置3と相違する点は、成形型5の上面に、断面略半円形をなす複数の溝状凹部(紙面と直交する方向に延びる溝状凹部)からなる成形凹部5aが形成されると共に、各成形凹部5aの底部とチャンバ6の内部空間6aとがそれぞれ通気孔5bを介して連通されている点である。その他の構成は、図5に示す成形装置3及びこれに基づいて説明した事項と同一であるので、共通する構成要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0059】
この図6に示す成形装置3による場合にも、成形型5の上面にガラス板Gを載せた状態で、チャンバ6の内部空間6aの気圧が、ガラス板Gの表面側空間4xの気圧と実質的に同等になるように加熱し、開閉バルブ9により排気管8を開通させ、チャンバ6の内部空間6aから通気孔5bを通じて成形空間5xに負圧を作用させ始める。そして、図7(a)〜(b)に示すように、ガラス板Gの成形型5との非接触部Gbにおける端縁から1/4の端部領域Gxが成形凹部5aに密着するまで変形した時点で、負圧吸引を一時的に停止させて、成形空間5xが当初の気圧に戻るようにする。然る後、この時点におけるガラス板Gの成形型5との非接触部Gbの端縁から1/4の新たな端部領域Gxを、接触部Gaの温度と同等の領域と見做して、2回目の負圧吸引を行うことにより、図7(c)に示すように、上記の新たな端部領域Gxが成形凹部5aに密着するまで変形した時点で、再び負圧吸引を一時的に停止する。このような負圧を断続的に作用させる動作を繰り返して行うことにより、図7(d)に示すように、成形凹部5aへのガラス板Gの密着が完了する。この密着が完了した後の冷却工程においても、上記と同様に負圧吸引とその一時的停止とを継続して行い、ガラス板Gが固化するまでその動作を続けることにより、成形凹部5aの形状に正確に倣った形状の凹部2aを有するガラス物品2が得られる。
【0060】
この場合、負圧吸引の開始前に成形型5に載せられて軟化状態にあるガラス板Gの表面が、サンドブラストによる表面処理を施されている場合であっても、負圧吸引が上記のように断続的であれば、ガラス板Gの表面(及び裏面)に不均一な伸びが生じてブラスト処理の均一性が崩れることはない。したがって、成形完了後のガラス物品2が例えば平面蛍光ランプ用ガラスである場合、そのガラス物品2の凹部2aの内表面は、変形開始前におけるガラス板Gの表面の面性状を維持したものとなるため、平面蛍光ランプとしての光拡散機能が低下することはない。しかも、既に述べたように、目標肉厚または平均肉厚に対する肉厚のバラツキが極めて小さいガラス物品2を得ることができる。
【実施例1】
【0061】
本発明の実施例1として、表裏両面が鏡面仕上げされた厚さ0.82mmのソーダガラスからなるガラス板Gを用いて、A4サイズの図1に示すガラス物品(表示管用ガラス)1を、図5(e)に示す成形態様で作製した。この場合、ガラス物品1の凹部1aの深さが2.2mm、凹部1aの底壁部1yの幅が330mmであって、深さが幅の1/4に満たないため、負圧によるガラス板Gの変形開始から変形完了までの間に、1回だけ負圧の作用を一時的に中断し、深さ1.1mmごとに計2回の負圧吸引で目的形状への変形を完了した。
【0062】
詳述すると、加熱炉4の内部空間4aを、ガラス板Gの軟化温度(約700℃)まで加熱した後、負圧による成形工程に移行し、計2回の負圧による吸引時間を各々10秒間ずつにすると共に、各々の負圧吸引の間に1分間の中断を介在させた。この場合、ガラス板Gの底部と成形型5(成形凹部5a)とは接触していないため、ガラス板Gの変形が目的深さに達した時点で、加熱炉4内の冷却を開始し、ガラス板G(ガラス物品1)を固化させていった。この冷却中においても、10秒間ずつの負圧吸引と1分間の中断とを続行し、ガラス物品1の軟化変形が生じ難くなる約600℃まで、その負圧吸引プロセスを行った。このガラス物品1は、凹部1aの底面が成形凹部5aとの接触により形成されるものではないが、変形開始前にガラス板Gの成形型5との接触部Ga周辺が熱の供給を受け、その他の中央部領域は熱の影響を受け難いことから、変形中においても、ガラス板Gの底面部は平坦度がそのまま維持され、結果として成形完了後におけるガラス物品1の凹部1aの底壁部1yに、変形前のガラス板Gの平面性が反映された。
【0063】
このようにして得られたガラス物品1は、凹部1aの内外両面が、変形前の板ガラスGの表裏両面における滑らかな鏡面を維持しており、表示管用ガラスの表示部として、必要な光の透過性を確保することができた。そして、特に表示部の内表面に相当する部位については、蛍光体が塗布される際に塗布ムラとなるような局所的な凹凸は存在していない。更に、このガラス物品1の凹部1aの肉厚分布は、目標値0.80mm(平均値0.79mm)に対して、0.77mm(最小値)〜0.81mm(最大値)の範囲内にあり、±5%のバラツキに収まることにより、表示管用ガラスとしての機械的強度を充分に確保することができた。
【0064】
本発明の実施例2として、表面(上面)が全面均等なサンドブラスト処理を施されてなる厚さ1.1mmのソーダガラスからなるガラス板Gを用いて、17インチサイズの図2に示すガラス物品(平面蛍光ランプ用ガラス)2を、図7(a)〜(d)に示す成形態様で作製した。この場合、変形開始前の板ガラスGにおける成形型5との非接触部Gbの幅が10mmであるため、その1/4の端部領域Gxの幅である2.5mmを、1回目の負圧吸引により成形凹部5aに密着させた。そして、一時中断後の2回目の負圧吸引開始時点での非接触部Gbの幅は8.77mmであるため、2回目の負圧吸引では、その1/4の幅である2.2mmを成形凹部5aに密着させた。これと同様に負圧吸引を繰り返し行い、計5回の負圧吸引プロセスで成形凹部5aへの密着を完了した。この場合の負圧吸引の条件は、実施例1と同様に、負圧吸引時間を10秒とすると共に、中断時間を1分とし、密着完了後も約600℃までその動作を続行した。このようにして得られたガラス物品(平面蛍光ランプ用ガラス)1は、凹部2aの内表面が均一なサンドブラスト面を維持していることから、均一な光拡散機能を有するものとなった。
【符号の説明】
【0065】
1 ガラス物品
1a 凹部
1b 平板状部
2 ガラス物品
2a 凹部(溝状凹部)
2b 平板状部
2c 平板状部(外周側領域の平板状部)
2d 周壁部
2´ ガラス物品
3 成形装置
4 加熱炉
4a 加熱炉の内部空間
4x 表面側空間
5 成形型
5a 成形凹部
5x 成形空間
6 チャンバ
6a チャンバの内部空間
7 真空排気装置
8 排気管
9 開閉バルブ
G ガラス板(ガラス製素材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部が形成されたガラス物品であって、少なくとも前記凹部における少なくとも一方の面が軟化状態におけるガラス製素材の自由表面が固化してなると共に、前記凹部における側壁部の肉厚の目標肉厚からのバラツキが5%以内であり、前記凹部における底壁部の肉厚の目標肉厚からのバラツキが±5%以内であることを特徴とするガラス物品。
【請求項2】
凹部と、該凹部の開口部側における外周側に連なる平板状部とを備えたガラス物品であって、少なくとも前記凹部における少なくとも一方の面が軟化状態におけるガラス製素材の自由表面が固化してなると共に、前記凹部の肉厚の目標肉厚からのバラツキが5%以内であり、前記平板状部の肉厚の目標肉厚からのバラツキが5%以内であることを特徴とするガラス物品。
【請求項3】
凹部と、該凹部の開口部側における外周側に連なる平板状部とを備えたガラス物品であって、少なくとも前記凹部における少なくとも一方の面が軟化状態におけるガラス製素材の自由表面が固化してなると共に、前記凹部における側壁部の肉厚の目標肉厚からのバラツキが5%以内であり、前記凹部における底壁部の肉厚の目標肉厚からのバラツキが±5%以内であり、前記平板状部の肉厚の目標肉厚からのバラツキが5%以内であることを特徴とするガラス物品。
【請求項4】
凹部が形成されたガラス物品であって、少なくとも前記凹部における少なくとも一方の面が軟化状態におけるガラス製素材の自由表面が固化してなると共に、前記凹部における側壁部の肉厚の平均肉厚からのバラツキが5%以内であり、前記凹部における底壁部の肉厚の平均肉厚からのバラツキが±5%以内であることを特徴とするガラス物品。
【請求項5】
凹部と、該凹部の開口部側における外周側に連なる平板状部とを備えたガラス物品であって、少なくとも前記凹部における少なくとも一方の面が軟化状態におけるガラス製素材の自由表面が固化してなると共に、前記凹部の肉厚の平均肉厚からのバラツキが5%以内であり、前記平板状部の肉厚の平均肉厚からのバラツキが5%以内であることを特徴とするガラス物品。
【請求項6】
凹部と、該凹部の開口部側における外周側に連なる平板状部とを備えたガラス物品であって、少なくとも前記凹部における少なくとも一方の面が軟化状態におけるガラス製素材の自由表面が固化してなると共に、前記凹部における側壁部の肉厚の平均肉厚からのバラツキが5%以内であり、前記凹部における底壁部の肉厚の平均肉厚からのバラツキが±5%以内であり、前記平板状部の肉厚の平均肉厚からのバラツキが5%以内であることを特徴とするガラス物品。
【請求項7】
前記凹部を一のみ備え且つ該凹部の開口部側における外周側全域に平板状部が連なっていることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のガラス物品。
【請求項8】
前記凹部を複数備え且つそれらの複数の凹部がそれぞれ各開口部側で平板状部を介して連なると共にそれらの複数の凹部が形成されている領域の各開口部側における外周側全域が平板状部であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のガラス物品。
【請求項9】
前記外周側全域における前記平板状部の外周縁に、前記凹部の窪み方向と反対方向に立ち上がる周壁部が形成されていることを特徴とする請求項7または8に記載のガラス物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−76997(P2012−76997A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−12017(P2012−12017)
【出願日】平成24年1月24日(2012.1.24)
【分割の表示】特願2005−327922(P2005−327922)の分割
【原出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】