説明

ガラス組成物

【課題】低い転移温度(Tg)を有し、液相温度が低く、さらに液相温度における粘度η(dPa・s)の対数logηが、精密プレス成形に使用するガラスプリフォーム材、及び精密プレス成形に適したガラス組成物を提供する。
【解決手段】屈折率(nd)が1.55以上、アッベ数(νd)が50以上を有し、SiO−B−RO−LiO系ガラス組成物であって、ガラス転移温度(Tg)が520℃以下であることを特徴とする該ガラス組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低い転移温度(Tg)を有し、液相温度が低く、さらに液相温度における粘度η(dPa・s)の対数logηが、精密プレス成形に使用するガラスプリフォーム材、及び精密プレス成形に適したガラス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学機器の小型軽量化が著しく進行している中で、光学機器の光学系を構成するレンズの枚数を減少させる目的でガラス製の非球面レンズが多く用いられるようになってきており、ガラス製の非球面レンズは、加熱軟化したガラスプリフォーム材を、高精度な成形面をもつ金型でプレス成形し、金型の高精度な成形面の形状をガラスプリフォーム材に転写して得る方法、すなわち、精密プレス成形によって製造されることが主流となっている。
【0003】
精密プレス成形によって、ガラス成形品を得るにあたっては、加熱軟化させたガラスプリフォーム材を高温環境下でプレス成形することが必要であるので、この際使用する金型も高温に曝され、金型の成形面が酸化、侵食されたり、金型成形面の表面に設けられている離型膜が損傷したりして金型の高精度な成形面が維持できなくなることが多く、また、金型自体も損傷し易い。そのようになると、金型の交換、メンテナンスの回数が増加して、低コスト、大量生産を実現できなくなる。そこで、精密プレス成形に使用するガラス及び精密プレス成形に使用するガラスプリフォーム材のガラスは、上記損傷を抑制し、金型の高精度な成形面を長く維持し、かつ低い温度での精密プレス成形を可能にするという観点から、できるだけ低い転移温度(Tg)を有することが望まれている。現在、精密プレス成形に使用するガラスプリフォーム材のガラスの転移温度(Tg)が630℃を超えると精密プレス成形が困難となるため、転移温度(Tg)が630℃以下であることが必要であるが、上記の通り金型の耐久性を考慮すればTgはより低いほうが好ましい。また、ガラスプリフォーム中に失透が存在していると、レンズ等の光学素子として使用することができないため、精密プレス成形に使用するガラスプリフォーム材のガラスは、耐失透性が優れたガラスであることが必要とされる。また、小型軽量化に伴い、ガラス組成物の比重はより小さいことが求められている。
【0004】
非球面レンズに用いられる光学ガラスは、種々の光学定数(屈折率(nd)及びアッベ数(νd))を有するものが求められているが、なかでも、光学設計上、屈折率(nd)が1.55以上、アッベ数(νd)が50以上を有する光学ガラスが強く求められている。
中でも、好ましくは屈折率(nd)が1.55〜1.65、アッベ数(νd)が50〜70、より好ましくは屈折率(nd)が1.55〜1.63、アッベ数(νd)が50〜67、最も好ましくは屈折率(nd)が1.55〜1.60、アッベ数(νd)が50〜65の範囲の光学ガラスが求められている。
【0005】
そのため、従来から上記光学恒数を有するガラスを得る為に種々の提案がされている。例えば、特開2004−175592にはSiO−B−BaO−Y−LiO−RO系の光学ガラスが開示されているが、ガラスの熔融性を下げ、また、耐失透性を悪化させるYを必須成分としており、ガラス溶融温度が高く、耐失透性も悪い。
【0006】
特開2004−292306にはSiO−B−La−RO−LiO系の光学ガラスが開示されているが、熔融性を下げ、耐失透性を悪化させるLaを比較的多量に含有しているため、熔解温度が高くなる。
【0007】
特開平3−5341にはSiO−BaO−La−LiO−RO系の光学ガラスが開示されているが、熔融性を下げ、耐失透性を悪化させるLaを比較的多量に含有しており、また、ガラス熔融性を大幅に改善するLiOの含有量が少ない為、熔解温度が高くなる。
【0008】
特開平3−37130にはSiO−B−LiO−La−Gd−Al−ZrO系の光学ガラスが開示されているが、熔融性を下げ、耐失透性を悪化させるLaO、Gdを含有しており、また、ガラス熔融性を大幅に改善するLiOの含有量が少ない為、熔解温度が高くなる。
【0009】
特開平6−86308にはSiO−B−LiO−BaO−La系の光学ガラスが開示されているが、熔融性を下げ、耐失透性を悪化させるLaを比較的多量に含有しており、また、ガラス熔融性を大幅に改善するLiOの含有量が少ない為、熔解温度が高くなる。
【0010】
特開平6−107425にはSiO−B−TiO−Nb−BaO−R´O系の光学ガラスが開示されているが、着色しやすく透過率を下げるNbを含有しており、さらにNbを含有させることでコストが高くなる。
【0011】
特開平7−149536にはSiO−B−SrO−LiO系の光学ガラスが開示されているが、ガラス熔融性を大幅に改善するLiOの含有量が少ない為、熔解温度が高くなる。
【0012】
特開平8−12368にはSiO−B−SrO−LiO系の光学ガラスが開示されているが、LiOの含有量が少ない為、上記所望のガラス転移温度(Tg)、液相温度、液相温度における粘度を全て満たすことができない。
【0013】
特開平10−194772にはSiO−B−Al−ZnO−BaO−LiO系の光学ガラスが開示されているが、SrOを含有しておらず、LiOの含有量も少ない為、上記所望のガラス転移温度(Tg)、液相温度、液相温度における粘度を全て満たすことができない。
【特許文献1】特開2004−175592
【特許文献2】特開2004−292306
【特許文献3】特開平3−5341
【特許文献4】特開平3−37130
【特許文献5】特開平6−86308
【特許文献6】特開平6−107425
【特許文献7】特開平7−149536
【特許文献8】特開平8−12368
【特許文献9】特開平10−194772
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上を要するに従来技術では、求められている転移温度(Tg)、液相温度、液相温度における粘度η(dPa・s)の対数logη、全てを満たすことがきていない。
本発明の目的は、前記従来の技術に記載した光学ガラスの諸欠点を総合的に解消し、前記特定範囲の光学定数、転移温度(Tg)、液相温度、液相温度における粘度η(dPa・s)の対数logηを有し、精密プレス成形に使用できるガラスプリフォーム材、及び精密プレス成形に適したガラス組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、SiO、B、SrO、LiOを必須成分とし、前記特定範囲の光学定数を有しかつ精密プレス成形が可能な転移温度(Tg)、液相温度、液相温度における粘度(dPa・s)の対数logηを有し、精密プレス成形に使用するガラスプリフォーム材、及び精密プレス成形に適したガラス組成物が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
一般的に、ガラス組成物中にLiOを含有させることにより転移温度(Tg)を下げ得ることは当業界で公知である。しかしその反面、化学的耐久性や安定性(液相温度)を悪化させることも公知である。本発明においては比較的多量のLiOを含有させつつも、一定量のRO成分を含有させること、安定性(液相温度)を悪化させるLa成分を極力含有しないことにより前記不利益を伴わないようなガラス組成物を作成することができたのである。
【0016】
本発明の第1の構成は、屈折率(nd)が1.55以上、アッベ数(νd)が50以上を有し、SiO−B−RO−LiO系ガラス組成物であって、ガラス転移温度(Tg)が520℃以下であることを特徴とする該ガラス組成物。
【0017】
本発明の第2の構成は、質量%表記で、(SiO+B)/(RO+LiO)で表される含有率の比(ROはMgO、CaO、SrO、BaOからなる群より選択される1種以上)の値が1.0〜2.5であることを特徴とする前記構成1のガラス組成物である。
【0018】
本発明の第3の構成は、SrO+LiOを27%以上、ただしLiOは12%を超えて含有し、液相温度が1050℃以下、液相温度における粘度η(dPa・s)の対数logηが0.5以上であることを特徴とする請求項1〜2のガラス組成物である。
【0019】
本発明の第4の構成は、Laを5%以下含有し、比重が2.9以下であることを特徴とする前記構成1〜3のガラス組成物である。
【0020】
本発明の第5の構成は、ROがSrOのみからなることを特徴とする前記構成1〜4のガラス組成物である。
【0021】
本発明の第6の構成は、
質量%で
SiO 30〜50%、及び/又は
17%を超え〜25%まで、及び/又は
SrO 10〜25%、及び/又は
LiO 12%を超え20%まで、及び/又は
ただしSrO+LIO 27%〜35%、
の範囲の各成分を含有することを特徴とする前記構成1〜5に記載のガラス組成物である。
【0022】
本発明の第7の構成は、
任意成分として質量%で
Al 0〜5%未満、及び/又は
NaO 0〜10%、及び/又は
O 0〜10%、及び/又は
BaO 0〜10%、及び/又は
MgO 0〜5%及び/又は
CaO 0〜5%及び/又は
ZnO 0〜10%、及び/又は
TiO 0〜3%、及び/又は
Sb 0〜1%
の範囲の各成分を含有することを特徴とする前記構成6のガラス組成物である。
【0023】
本発明の第8の構成は、質量%で
SiO 30〜50%、
17%を超え〜25%まで、
SrO 10〜25%、及び
LiO 12%を超え20%まで、
ただしSrO+LIO 27%〜35%、
並びに
Al 0〜5%未満、及び/又は
NaO 0〜10%、及び/又は
O 0〜10%、及び/又は
BaO 0〜10%、及び/又は
MgO 0〜5%及び/又は
CaO 0〜5%及び/又は
ZnO 0〜10%、及び/又は
TiO 0〜3%、及び/又は
Sb 0〜1%
の範囲の各成分を含有することを特徴とする前記構成1〜5のガラス組成物である。
【0024】
本発明の第9の構成は、質量%でSiOの含有量が30〜40%未満でかつSrOの含有量が10〜25%であることを特徴とする前記構成1〜8に記載のガラス組成物である。
【0025】
本発明の第10の構成は、前記構成1〜9のガラス組成物からなる精密プレス成形用プリフォームである。
【0026】
本発明の第11の構成は、前記構成1〜9のガラス組成物を成形してなる光学素子である。
【0027】
本発明の第12の構成は、前記構成10のプリフォームを成形してなる光学素子である。
【発明の効果】
【0028】
上記構成により、前述の本発明の目的を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明のガラス組成物に含有できる成分について説明する。以下、特に断らない限り各成分の含有率は質量%で表すものとする。
上記組成のガラスにおいてSiO成分は、本発明のガラス組成物において、ガラス形成酸化物成分として欠かすことのできない成分であり、ガラスの粘度(logη)を調整し易く、耐失透性を向上させるのに有効な成分であるが、その量が少なすぎると耐失透性が不十分となり、多すぎると転移温度(Tg)や粘度(logη)が高くなり、未熔解物が発生しやすくなる。また、低屈折率成分である為、所望の光学定数を満たすことができなくなる。
【0030】
従って、耐失透性、粘度(logη)を維持し、低い転移温度(Tg)を得やすくするためには、好ましくは30%、より好ましくは32%、最も好ましくは33%を下限とし、好ましくは50%、より好ましくは45%、最も好ましくは40%未満を上限として含有できる。
【0031】
SiO成分は、原料として例えばSiO等を使用してガラス中に導入できる。
【0032】
成分は、本発明のガラス組成物において、ガラス形成酸化物成分として欠かすことのできない成分である。しかし、その量が少なすぎると耐失透性が不十分となり、多すぎると化学的耐久性が悪くなる。従って、良好な化学的安定性を維持しやすくする為には、好ましくは17%を超え、より好ましくは17.5%、最も好ましくは18%を下限とし、好ましくは25%、より好ましくは24.5%、最も好ましくは24%を上限として含有できる。
【0033】
成分は、原料として例えばHBO、Na等を使用してガラス中に導入できる。
【0034】
MgO成分は、ガラスの光学恒数の調整の為に添加しえるが、その量が多すぎると耐失透性が悪化し、熔融性も悪くなる。従って、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、最も好ましくは1%以下で含有することができる。
【0035】
MgO成分は原料として例えばMgO、MgCO、Mg(OH)等を使用してガラス中に導入できる。
【0036】
CaO成分は、ガラスの光学恒数の調整の為に添加しえるが、その量が多すぎると耐失透性が悪化する為、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、最も好ましくは1%以下で含有することができる。
【0037】
CaO成分は原料として例えばCaCO、CaF等を使用してガラス中に含有することができる。
【0038】
SrO成分は、本発明のガラス組成物において、ガラスの屈折率を高め、かつ熔融性を向上させる欠かすことのできない成分である。しかし、その量が少なすぎると所望の光学定数を満たすことができず、熔融性も悪くなり、多すぎると耐失透性が不十分となる。従って、良好な熔融性、耐失透性を維持しやすくする為には、好ましくは10%、より好ましくは13%、最も好ましくは15%を下限とし、好ましくは25%、より好ましくは24%、最も好ましくは23%を上限として含有できる。
SrO成分は、原料として例えばSr(NO等を使用してガラス中に導入できる。
【0039】
LiO成分は、本発明のガラス組成物において、転移温度(Tg)を大幅に下げ、かつ、混合したガラス原料の溶融を促進する効果があり、欠かすことのできない成分である。しかしその量が少なすぎるとこれらの効果が不十分であり、多すぎると耐失透性が急激に悪化する。従って、上記効果を奏するために、好ましくは12%を超え、より好ましくは12.5%、最も好ましくは13%を下限とし、さらに好ましくは20%、より好ましくは19%、最も好ましくは18%を上限として含有できる。
【0040】
LiO成分は、原料として例えばLiCO、LiNO、LiOH等を使用してガラス中に導入できる。
【0041】
Al成分は、ガラスの対失透性、化学的耐久性を向上させ効果があるが、その量が多すぎると、逆に耐失透性が悪くなる。従って、良好な対失透性、化学的耐久性を維持しやすくする為に、好ましくは5%未満、より好ましくは4.5%以下、最も好ましくは4%以下で含有することができる。
【0042】
Al成分は、原料として例えばAl、Al(OH)等を使用してガラス中に導入できる。
【0043】
NaO成分は、ガラスの熔融性向上効果が大きい成分であるが、その量が多すぎると耐失透性、化学的耐久性が悪くなる。従って、良好な対失透性、化学的耐久性を維持しやすくする為に、好ましくは10%以下、より好ましくは9%以下、最も好ましくは8%以下で含有することができる。
【0044】
NaO成分は、原料として例えばNaCO、Na、NaNO等を使用してガラス中に導入できる。
【0045】
O成分は、ガラスの熔融性向上効果が大きいた成分であるが、その量が多すぎると耐失透性、化学的耐久性が悪くなる。従って、良好な対失透性、化学的耐久性を維持しやすくする為に、好ましくは10%以下、より好ましくは9%以下、最も好ましくは8%以下で含有することができる。
【0046】
O成分は、原料として例えばKCO、KNO等を使用してガラス中に導入できる。
【0047】
BaO成分は、ガラスの屈折率を高め、かつ熔融性を向上させる成分である。しかし、その量が、多すぎると耐失透性が不十分となる。従って、良好な熔融性、耐失透性を維持しやすくする為には好ましくは10%以下、より好ましくは9%以下、最も好ましくは8%以下で含有することができる。
【0048】
BaO成分は原料として例えばBaCO、Ba(NO等を使用してガラス中に導入できる。
【0049】
ZnO成分は、転移温度(Tg)を低める効果が大きい成分であるが、過剰に添加すると耐失透性が悪くなる。従って、良好な耐失透性を維持しつつ転移温度(Tg)を低くするためには、好ましくは10%以下、より好ましくは9%以下、最も好ましくは8%以下の量で含有することができる。
【0050】
ZnO成分は、原料として例えばZnO、ZnF等を使用してガラス中に導入できる。
【0051】
SrO+LiOは、上記特定範囲のガラス転移温度(Tg)、液相温度、液相温度における粘度を全て満たす為、好ましくは27%、より好ましくは27.4%、最も好ましくは27.8%を下限として含有し、さらに好ましくは35%、より好ましくは34.5%、最も好ましくは34%を上限として含有できる。
(SiO+B)/(RO+LiO)で表される含有率の比(ROはMgO、CaO、SrO、BaOからなる群より選択される1種以上)の値は、求められている熔融性、ガラス転移温度(Tg)、耐失透性、化学的耐久性を全て満たす為に重要な値であり、この値が大きすぎると、熔融性が悪く、転移温度を下げる効果も不十分であり、小さすぎると耐失透性、化学的耐久性が悪化する。従って、好ましくは1、より好ましくは1.2、最も好ましくは1.4を下限とし、好ましくは2.5、より好ましくは2.4、最も好ましくは2.3を上限とする。
【0052】
Sb成分は、ガラス溶融時の脱泡剤として添加しうるが、その量は1%までで十分である。
【0053】
TiO成分は、ガラスの屈折率を高めソーラリゼーションを抑える効果があるが、過剰に添加すると耐失透性が悪くなる。従って、良好な耐失透性を維持しつつ、ソーラリゼーションを抑える為には、好ましくは3%、より好ましくは2.5%、最も好ましくは2%を上限として含有できる。
【0054】
TiO成分は、原料として例えばTiO等を使用してガラス中に導入できる。
【0055】
La成分は耐失透性を悪化させると共に、他の含有成分に比べ比重が大きい為、好ましくは5%、より好ましくは3%を上限として含有し、最も好ましくは含有させない。
【0056】
次に本発明のガラス組成物において含有させるべきでない成分について説明する。
【0057】
鉛化合物は、精密プレス成形時に金型と融着しやすい成分であるという問題並びにガラスの製造のみならず、研磨等のガラスの冷間加工及びガラスの廃棄に至るまで、環境対策上の措置が必要となり、環境負荷が大きい成分であるという問題があるため、本発明のガラス組成物に含有させるべきではない。
【0058】
As、カドミウム及びトリウムは、共に、環境に有害な影響を与え、環境負荷の非常に大きい成分であるため、本発明のガラス組成物に含有させるべきではない。
【0059】
は、本発明のガラス組成物に含有させると、耐失透性を悪化させやすいのでPを含有させることは好ましくない。
【0060】
TeOは、白金製の坩堝や、溶融ガラスと接する部分が白金で形成されている溶融槽でガラス原料を溶融する際、テルルと白金が合金化し、合金となった箇所は耐熱性が悪くなるため、その箇所に穴が開き溶融ガラス流出する事故がおこる危険性が憂慮されるため、本発明のガラス組成物に含有させるべきではない。
【0061】
さらに本発明のガラス組成物においては、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Eu、Nd、Sm、Tb、Dy、Er等の着色成分は、含有しないことが好ましい。ただし、ここでいう含有しないとは、不純物として混入される場合を除き、人為的に含有させないことを意味する。
【0062】
本発明のガラス組成物は、その組成が質量%で表されているため直接的にmol%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たすガラス組成物中に存在する各成分のmol%表示による組成は、酸化物換算組成で概ね以下の値をとる。
SiO 30〜45%未満
7%〜25%まで
SrO 1〜15%
LiO 15%〜35%まで、
及び
Al 0〜10%
NaO 0〜10%
O 0〜10%
BaO 0〜10%
MgO 0〜5%
CaO 0〜5%
ZnO 0〜10%
TiO 0〜3%
SrO+Li2O 16%〜40%
Sb 0〜1%
【0063】
本発明のガラス組成物におけるSiO成分の効果は上述のとおりであるが、当該効果を奏するために、好ましくは概ね30mol%、より好ましくは概ね31mol%、最も好ましくは概ね32mol%を下限とし、好ましくは概ね45mol%未満、より好ましくは概ね44mol%、最も好ましくは概ね43mol%を上限として含有できる。
【0064】
本発明のガラス組成物におけるB成分の効果は上述のとおりであるが、当該効果を奏するために、好ましくは概ね7mol%、より好ましくは概ね8mol%、最も好ましくは概ね9mol%を下限とし、好ましくは概ね25mol%、より好ましくは概ね24mol%、最も好ましくは概ね23mol%を上限として含有できる。
【0065】
本発明のガラス組成物におけるSrO成分の効果は上述のとおりであるが、当該効果を奏するために、好ましくは概ね1mol%、より好ましくは概ね3mol%、最も好ましくは概ね4mol%を下限とし、好ましくは概ね15mol%、より好ましくは概ね14mol%、最も好ましくは概ね13mol%を上限として含有できる。
【0066】
本発明のガラス組成物におけるLiO成分の効果は上述のとおりであるが、当該効果を奏するために、好ましくは概ね15mol%、より好ましくは概ね16mol%、最も好ましくは概ね17mol%を下限とし、好ましくは概ね35mol%、より好ましくは概ね34mol%、最も好ましくは概ね33mol%を上限として含有できる。
【0067】
本発明のガラス組成物におけるAl成分の効果は上述のとおりであるが、当該効果を奏するために、好ましくは概ね10mol%、より好ましくは概ね9mol%、最も好ましくは概ね8mol%を上限として含有できる。
【0068】
本発明のガラス組成物におけるNaO成分の効果は上述のとおりであるが、当該効果を奏するために、好ましくは概ね10mol%、より好ましくは概ね9mol%、最も好ましくは概ね8mol%を上限として含有できる。
【0069】
本発明のガラス組成物におけるKO成分の効果は上述のとおりであるが、当該効果を奏するために、好ましくは概ね10mol%、より好ましくは概ね9mol%、最も好ましくは概ね8mol%を上限として含有できる。
【0070】
本発明のガラス組成物におけるBaO成分の効果は上述のとおりであるが、当該効果を奏するために、好ましくは概ね10mol%、より好ましくは概ね9mol%、最も好ましくは概ね8mol%を上限として含有できる。
【0071】
本発明のガラス組成物におけるZnO成分の効果は上述のとおりであるが、当該効果を奏するために、好ましくは概ね10mol%、より好ましくは概ね9mol%、最も好ましくは概ね8mol%を上限として含有できる。
本発明のガラス組成物におけるMgO成分の効果は上述のとおりであるが、当該効果を奏するために、好ましくは概ね5mol%、より好ましくは概ね3mol%、最も好ましくは概ね1mol%を上限として含有できる。
【0072】
本発明のガラス組成物におけるCaO成分の効果は上述のとおりであるが、当該効果を奏するために、好ましくは概ね5mol%、より好ましくは概ね3mol%、最も好ましくは概ね1mol%を上限として含有できる。
【0073】
本発明のガラス組成物におけるSrO+LiOの効果は上述のとおりであるが、当該効果を奏するために、好ましくは概ね16mol%、を下限とし、好ましくは概ね40mol%、より好ましくは概ね39.5mol%、最も好ましくは概ね39mol%を上限として含有できる。
【0074】
本発明のガラス組成物におけるSb成分の効果は上述のとおりであるが、当該効果を奏するために、概ね1mol%以下で十分である。
【0075】
本発明のガラス組成物におけるTiO成分の効果は上述したとおりであるが、当該効果を奏するために、好ましくは概ね3mol%、より好ましくは概ね2.5mol%、最も好ましくは概ね2mol%を上限として含有できる。
本発明のガラス組成物におけるLa成分の効果は上述したとおりであるが、好ましくは概ね4mol%、より好ましくは概ね2mol%を上限として含有でき、最も好ましくは含有しない。
【0076】
次に本発明のガラス組成物の物性について説明する。
【0077】
本発明のガラス組成物は、主に加熱軟化させて精密プレス成形によってガラス成形品を得るためのガラスプリフォーム材として使用される。従ってこの際使用する金型の損傷を抑制し、金型の高精度な成形面を長く維持し、かつ、低い温度での精密プレス成形を可能にするために、できるだけ低い転移温度(Tg)を有することが望まれている。そのため、上記特定範囲の組成を用いることにより、所望のガラス転移温度(Tg)を実現させたものである。
【0078】
ここでTgを下げるために、アルカリ成分を多く含有させたり、SiOやBの含有量を減らすと、化学的耐久性が悪化し同時に耐失透性が低下し安定した生産を行うことが困難になる。また、Tgが高くなりすぎるとモールドプレス性が悪化するだけでなく溶融性が低下し溶け残り等が発生しやすい。しかし溶け残り防止のために溶融温度を高くすると溶融容器からの白金溶け込み量が増し光線透過性が悪化してしまう傾向にある。従って、本発明のガラス組成物のTgは好ましくは350℃、より好ましくは370℃、最も好ましくは400℃を下限とし、好ましくは520℃、より好ましくは510℃、最も好ましくは500℃を上限とする。
【0079】
ガラス転移温度(Tg)は日本光学硝子工業会規格JOGIS08−2003(光学ガラスの熱膨張の測定方法)に記載された方法により測定した。ただし、試料片として長さ50mm、直径4mmの試料を使用した。
【0080】
本発明のガラス組成物では、下記製造方法により、安定した生産を実現するため、液相温度を1050℃以下とすることが重要である。特に好ましくは1030℃以下、最も好ましくは1010℃以下とすることで、安定生産可能な温度範囲が広くなり、また、ガラス熔解温度を下げることができるため、消費されるエネルギーを抑えることができる。
【0081】
前述のとおり本発明のガラス組成物はプレス成形用のプリフォーム材として使用することができ、或いは熔融ガラスをダイレクトプレスすることも可能である。プリフォーム材として使用する場合、その製造方法及び熱間成形方法は特に限定されるものではなく、公知の製造方法及び成形方法を使用することができる。プリフォーム材の製造方法としては、例えば特開平8−319124に記載のガラスゴブの成形方法や特開平8−73229に記載の光学ガラスの製造方法及び製造装置のような熔融ガラスから直接プリフォーム材を製造することもでき、また板状に成形した材料を冷間加工して製造しても良い。
【0082】
なお、本発明のガラス組成物を用いて熔融ガラスを白金或いは強化白金から滴下させてプリフォームを製造する場合、熔融ガラスの粘度は、低すぎるとガラスプリフォームに脈理が入りやすくなり、高すぎると、自重と表面張力によるガラスの切断が困難になる。
【0083】
従って、高品質かつ安定した生産のためには、液相温度における粘度η(dPa・s)の対数logηの値が、好ましくは0.5〜2.0、より好ましくは0.5〜1.9、最も好ましくは0.5〜1.8の範囲である。
【0084】
尚、プリフォームの熱間成形方法を特に限定するものではないが、例えば特公昭62−41180に記載の光学素子の成形方法のような方法を使用することができる。
【0085】
また、光学機器等の小型軽量化に伴い、ガラス組成物の比重は低比重であることが望まれている。従って、本発明のガラス組成物の比重は、2.9を上限とすることが好ましい。
【0086】
比重は、日本光学硝子工業会規格JOGIS05−1975(光学ガラスの比重の測定方法)に記載された方法により測定した。
【実施例】
【0087】
以下、本発明の実施例について述べるが、下記実施例はあくまで例示の目的であり、本発明のガラス組成物の製造方法、用途等を限定するものではない。
【0088】
本発明のガラスの実施例(No.1〜No.13)の組成とともに、これらのガラスの屈折率(nd)、アッベ数(νd)、転移温度(Tg)、比重、液相温度、液相温度における粘度(dPa・s)の対数logηを示した。
【0089】
表中、各成分の組成は質量%で表示するものとする。


































【0090】
【表1】

















【0091】
【表2】
















【0092】
【表3】
















【0093】
【表4】



【0094】
表1〜表3に示した本発明のガラスの実施例(No.1〜No.13)は、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、フッ化物等の通常の光学ガラス用原料を、各実施例の組成の割合となるように秤量し、混合し、白金坩堝に投入し、組成による熔融性に応じて、900〜1300℃で、3〜5時間熔融、清澄、撹拌して均質化した後、金型等に鋳込み徐冷することにより得ることができた。
【0095】
屈折率(nd)及び、アッベ数(νd)は徐冷降温速度を−25℃/hにして得られたガラスについて測定した。
【0096】
ガラス転移温度(Tg)は日本光学硝子工業会規格JOGIS08−2003(光学ガラスの熱膨張の測定方法)に記載された方法により測定した。ただし、試料片として長さ50mm、直径4mmの試料を使用した。
【0097】
液相温度の測定は、粉砕したガラス試料を白金板上にのせ、温度傾斜のついた炉内に30分間保持した後取り出し、軟化したガラスの結晶の有無を顕微鏡にて観察し、結晶が認められない一番低い温度を求めた。
【0098】
液相温度における粘度(dPa・s)の対数logηは、球引上げ式粘度計(有限会社オプト企業:型番BVM−13LH)を使用し、液相温度での粘度を測定した。
【0099】
比重は、日本光学硝子工業会規格JOGIS05−1975(光学ガラスの比重の測定方法)に記載された方法により測定した。
【0100】
表1〜表3に見られるとおり、本発明の実施例の光学ガラス(No.1〜No.13)はすべて、上記特定範囲内の光学定数(屈折率(nd)及びアッベ数(ν)、)を有し、転移温度(Tg)が520℃以下であり、かつ液相温度における粘度が0.5〜2.0であることから、精密プレス成形に使用するガラスプリフォーム材及び精密プレス成形に適していた。
【0101】
これに対し、表4に示すとおり、比較例No.Aのガラスは、ガラスの熔融性、耐失透性を悪化させるLa成分、環境に有害な影響を与え、環境負荷の非常に大きい成分であるAsを含有しており、液相温度、比重が指定範囲外である。
【0102】
また、比較例No.Bのガラスは、BaO、Laを多く含有し、比重の指定範囲から大きく外れている。
【0103】
上述のとおり、本発明のガラス組成物は、所望の光学定数を有し、かつ精密プレス成形性及び安定性に優れたものであった。



























【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率(nd)が1.55以上、アッベ数(νd)が50以上を有し、SiO−B−RO−LiO系ガラス組成物であって、ガラス転移温度(Tg)が520℃以下であることを特徴とする該ガラス組成物。
【請求項2】
質量%表記で、(SiO+B)/(RO+LiO)で表される含有率の比(ROはMgO、CaO、SrO、BaOからなる群より選択される1種以上)の値が1.0〜2.5であることを特徴とする請求項1のガラス組成物。
【請求項3】
SrO+LiOを27%以上、ただしLiOは12%を超えて含有し、液相温度が1050℃以下、液相温度における粘度η(dPa・s)の対数logηが0.5以上であることを特徴とする請求項1又は2のガラス組成物。
【請求項4】
Laを5%以下含有し、比重が2.9以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガラス組成物。
【請求項5】
ROがSrOのみからなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のガラス組成物。
【請求項6】
質量%で
SiO 30〜50%、及び/又は
17%を超え〜25%まで、及び/又は
SrO 10〜25%、及び/又は
LiO 12%を超え20%まで、及び/又は
ただしSrO+LiO 27%〜35%、
の範囲の各成分を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のガラス組成物。
【請求項7】
任意成分として質量%で
Al 0〜5%未満、及び/又は
NaO 0〜10%、及び/又は
O 0〜10%、及び/又は
BaO 0〜10%、及び/又は
MgO 0〜5%及び/又は
CaO 0〜5%及び/又は
ZnO 0〜10%、及び/又は
TiO 0〜3%、及び/又は
Sb 0〜1%
の範囲の各成分を含有することを特徴とする請求項6のガラス組成物。
【請求項8】
質量%で
SiO 30〜50%、
17%を超え〜25%まで、
SrO 10〜25%、及び
LiO 12%を超え20%まで、
ただしSrO+LiO 27%〜35%、
並びに
Al 0〜5%未満、及び/又は
NaO 0〜10%、及び/又は
O 0〜10%、及び/又は
BaO 0〜10%、及び/又は
MgO 0〜5%及び/又は
CaO 0〜5%及び/又は
ZnO 0〜10%、及び/又は
TiO 0〜3%、及び/又は
Sb 0〜1%
の範囲の各成分を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかのガラス組成物。
【請求項9】
質量%でSiOの含有量が30〜40%未満でかつSrOの含有量が10〜25%であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のガラス組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかのガラス組成物からなる精密プレス成形用プリフォーム。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかのガラス組成物を成形してなる光学素子
【請求項12】
請求項10のプリフォームを成形してなる光学素子。










































【公開番号】特開2006−306635(P2006−306635A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−127733(P2005−127733)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】