説明

ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物

【課題】機械的強度、耐衝撃性及び加工性に優れたガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)ポリアミド樹脂と、(B)ポリカルボジイミド化合物を含むガラス繊維集束剤を含有するガラス繊維とを含むガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物であって、前記(A)の成分中、カルボキシル基末端濃度に対するアミノ基末端濃度の比が0.63以下であるガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂やポリエステル樹脂は優れた機械的特性(機械的強度、剛性や耐衝撃性など)を有することから、様々な産業分野で利用されている。中でもポリアミドは機械的特性を高める目的で、ガラス繊維、ガラスフレーク、アルミナ繊維や層状無機化合物などの無機化合物フィラーと複合化して用いられることが多い。このうち、無機化合物としてガラス繊維と複合化する場合には、ポリアミドと複合化した際の界面状態を改質するために、シランカップリング剤やフィルム形成剤が一般に用いられている。
【0003】
さらに、ポリアミド樹脂の機械的特性を一層向上されるために、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物に関する技術が注目されている。例えば、無水マレイン酸及び不飽和単量体の共重合体並びにシラン系カップリング剤を主たる構成成分とするガラス繊維集束剤で表面処理したガラス繊維と、ポリアミドとを複合化する。これにより、耐不凍液性を向上させるという技術が開示されている(特許文献1)。また、シランカップリング剤の末端にアリル基を導入した化合物を使用することにより、溶融樹脂中のガラス繊維の流動性を高める技術が開示されている(特許文献2)。さらに、ポリカルボジイミド樹脂、ポリウレタン樹脂やシランカップリング剤を用いて、ガラス繊維表面とポリアミド樹脂との耐水性を高める技術が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−128479号公報
【特許文献2】特開2000−303359号公報
【特許文献3】特開平9−227173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、自動車部品や各種電子部品などにポリアミド樹脂組成物を用いる場合、機械的強度、耐衝撃性及び加工性が高いレベルで求められる。ところが、上記した従来の技術では、かかるレベルに達するポリアミド樹脂組成物を安定的に得ることが困難である。そのため、上記の部品に適用可能なガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物の安定供給に対する要求が高まっている。
【0006】
そこで、本発明の課題は、機械的強度、耐衝撃性及び加工性に優れたガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、所定の条件を具備するポリアミド樹脂を含み、且つ所定のガラス繊維を含む、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物を用いることによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明に係るガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、(A)ポリアミド樹脂と、(B)ポリカルボジイミド化合物を含むガラス繊維集束剤を含有するガラス繊維とを含むガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物であって、前記(A)の成分中、カルボキシル基末端濃度に対するアミノ基末端濃度の比が0.63以下である。
【0009】
また、本発明の一態様においては、本発明に係るガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、前記(A)の成分のカルボキシル基末端濃度が50μmol/g以上であることが好ましい。
【0010】
また、本発明の他の態様においては、前記(A)の成分100質量部に対して、前記(B)の成分が1〜200質量部であることが好ましい。
【0011】
また、本発明のさらに他の態様においては、前記(A)の成分が、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6T、ポリアミド6I及びポリアミド9T、並びにこれらの少なくとも1種を構成成分として含む共重合ポリアミドからなる群より選択された1種以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
所定の条件を具備するポリアミド樹脂を含み、且つ所定のガラス繊維を含むことによって、機械的強度、耐衝撃性及び加工性に優れたガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
本実施の形態は、(A)ポリアミド樹脂と、(B)ポリカルボジイミド化合物を含むガラス繊維集束剤を含有するガラス繊維とを含むガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物であって、前記(A)の成分中、カルボキシル基末端濃度に対するアミノ基末端濃度の比が0.63以下である、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物に係る。
【0015】
以下、前記ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物の各構成要素について詳細に説明する。
【0016】
[(A)ポリアミド樹脂]
ポリアミドとは、主鎖に−CO−NH−(アミド)結合を有する高分子化合物を意味する。以下に制限されないが、例えば、ラクタムの開環重合で得られるポリアミド、ω−アミノカルボン酸の自己縮合で得られるポリアミド、ジアミン及びジカルボン酸を縮合することで得られるポリアミド、並びにこれらの共重合物が挙げられる。ポリアミドとしては、1種で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。以下、本実施の形態における(A)ポリアミド樹脂の原料について説明する。
【0017】
ポリアミドの構成成分である単量体としてのラクタムは、以下に制限されないが、例えば、ピロリドン、カプロラクタム、ウンデカラクタムやドデカラクタムが挙げられる。一方、ω−アミノカルボン酸として、以下に制限されないが、例えば、上記ラクタムの水による開環化合物であるω−アミノ脂肪酸が挙げられる。なお、ラクタムまたはω−アミノカルボン酸として、それぞれ2種以上の単量体を併用して縮合させてもよい。
【0018】
続いて、ジアミン及びジカルボン酸を縮合することで得られるポリアミドについて説明する。まず、上記のジアミン(単量体)としては、以下に制限されないが、例えば、ヘキサメチレンジアミンやペンタメチレンジアミン等の直鎖状の脂肪族ジアミン;2−メチルペンタンジアミンや2−エチルヘキサメチレンジアミン等の分岐型の脂肪族ジアミン;p−キシリレンジアミンやm−キシリレンジアミン等の芳香族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、シクロペンタンジアミンやシクロオクタンジアミン等の脂環式ジアミンが挙げられる。他方、上記のジカルボン酸(単量体)としては、以下に制限されないが、例えば、アジピン酸、ピメリン酸やセバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸;フタル酸やイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸が挙げられる。上記した単量体としてのジアミン及びジカルボン酸は、それぞれ1種単独または2種以上の併用により縮合させてもよい。
【0019】
ポリアミドとしては、以下に制限されないが、例えば、ポリアミド4(ポリα−ピロリドン)、ポリアミド6(ポリカプロアミド)、ポリアミド11(ポリウンデカンアミド)、ポリアミド12(ポリドデカンアミド)、ポリアミド46(ポリテトラメチレンアジパミド)、ポリアミド66(ポリヘキサメチレンアジパミド)、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6T(ポリヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド9T(ポリノナンメチレンテレフタルアミド)、及びポリアミド6I(ポリヘキサメチレンイソフタルアミド)、並びにこれらの少なくとも1種を構成成分として含む共重合ポリアミドが挙げられる。中でも好ましくは、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6T、ポリアミド6I及びポリアミド9T、並びにこれらの少なくとも1種を構成成分として含む共重合ポリアミドからなる群より選択された1種以上である。
【0020】
共重合物であるポリアミドとしては、以下に制限されないが、例えば、ヘキサメチレンアジパミド及びヘキサメチレンテレフタルアミドの共重合物、ヘキサメチレンアジパミド及びヘキサメチレンイソフタルアミドの共重合物、並びにヘキサメチレンテレフタルアミド及び2−メチルペンタンジアミンテレフタルアミドの共重合物が挙げられる。
【0021】
本実施の形態におけるポリアミドの末端基として、一般にアミノ基、またはカルボキシル基が存在する。本実施の形態における、これらの末端基の比は、組成物の(特に室温下での)機械的強度、耐衝撃性及び加工性を向上させる観点から、アミノ基末端濃度/カルボキシル基末端濃度が0.63以下である。
【0022】
また、アミノ基末端濃度/カルボキシル基末端濃度の上限について、好ましくは0.55以下、より好ましくは0.45以下、さらに好ましくは0.40以下、さらにより好ましくは0.30以下である。一方、アミノ基末端濃度/カルボキシル基末端濃度の下限について、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.1以上である。上記した範囲内の場合、機械的強度が一層優れたものとなるとともに、目やに起因の異物の発生量を有意に少なくすることができる。
【0023】
また、末端のカルボキシル基の濃度は、好ましくは50μmol/g以上、より好ましくは50〜150μmol/g、さらに好ましくは80〜150μmol/gである。末端カルボキシル基の濃度が上記した範囲内の場合、機械的強度を有意に向上させることができる。
【0024】
ここで、本明細書における末端アミノ基及び末端カルボキシル基の濃度の測定方法としては、1H−NMRにより測定される、各末端基に対応した特性シグナルの積分値によって求めることができる。
【0025】
さらに、ポリアミド樹脂の末端基を別途調整してもよい。かかる調整方法としては、公知の方法を用いることができる。以下に制限されないが、例えば末端調整剤を用いる方法が挙げられる。具体例として、ポリアミド樹脂の重合時に所定の末端濃度となるように、モノアミン化合物、ジアミン化合物、モノカルボン酸化合物及びジカルボン酸化合物よりなる群から選択される1種以上を添加することができる。これらの成分の溶媒への添加時期については、末端調整剤として本来の機能を果たす限り特に制限されず、例えば、上記したポリアミド樹脂の原料を溶媒に添加する際があり得る。
【0026】
上記モノアミン化合物としては、以下に制限されないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン及びジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン及びジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン及びナフチルアミン等の芳香族モノアミン、並びにこれらの任意の混合物などが挙げられる。中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性や価格などの観点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン及びアニリンが好ましい。
【0027】
上記のジアミン化合物は、上述した例示をそのまま引用できる。
【0028】
上記のモノカルボン酸化合物としては、以下に制限されないが、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸及びイソブチル酸などの脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸などの脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α−ナフタレンカルボン酸、β−ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸及びフェニル酢酸などの芳香族モノカルボン酸が挙げられる。本実施の形態では、これらのカルボン酸化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
上記のジカルボン酸化合物としては、以下に制限されないが、例えば、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、3,3−ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸及びスベリン酸などの脂肪族ジカルボン酸;1,3−シクロペンタンジカルボン酸及び1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、ジフェニルメタン−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4'−ジカルボン酸及び4,4'−ビフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸から誘導される単位(ユニット)が挙げられる。これらは、1種単独、2種以上の併用のいずれでも使用可能である。
【0030】
[(B)ポリカルボジイミド化合物を含むガラス繊維集束剤を含有するガラス繊維]
本実施の形態におけるガラス繊維は、ポリカルボジイミド化合物を含むガラス繊維集束剤を含有する。より具体的にいえば、前記ガラス繊維は、前記集束剤で表面処理されることによって得られる。ポリカルボジイミド化合物は、一以上のカルボジイミド基(−N=C=N−)を含有する化合物を縮合することにより得られる。
【0031】
ポリカルボジイミドの縮合度は1〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましい。縮合度が1〜20の範囲内にある場合、良好な水溶液または水分散液が得られる。さらに、縮合度が1〜10の範囲内にある場合、一層良好な水溶液または水分散液が得られる。
【0032】
また、部分的にポリオールセグメントを持つポリカルボジイミド化合物であることが好ましい。ポリオールセグメントを持たせることにより、ポリカルボジイミド化合物が水溶化し易くなり、ガラス繊維の集束剤として一層好適に使用可能となる。
【0033】
これらカルボジイミド化合物は、ジイソシアネート化合物を3−メチル−1−フェニル−3−ホスホレン−1−オキシド等の公知のカルボジイミド化触媒の存在下で脱炭酸反応させることによって得られる。ジイソシアネート化合物としては、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート及び脂環式ジイソシアネート、並びにそれらの混合物を用いることが可能である。以下に制限されないが、例えば、1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートとの混合物、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4'−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,6−ジイソプロピルフェニルイソシアネート及び1,3,5−トリイソプロピルベンゼン−2,4−ジイソシアネートなどが挙げられる。そして、これらのジイソシアネート系化合物をカルボジイミド化することによって、末端に2つのイソシアネート基を有するポリカルボジイミド化合物が得られる。これらのうち、反応性向上の観点からジシクロヘキシルメタンカルボジイミドが好適に使用可能である。
【0034】
末端に2つのイソシアネート基を有するポリカルボジイミド化合物に対し、さらにモノイソシアネート化合物を等モル量カルボジイミド化させる方法、またはポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルと等モル量反応させてウレタン結合を生成する方法などによって、末端にイソシアネート基を1つ有するポリカルボジイミド化合物が得られる。モノイソシアネート化合物としては、以下に制限されないが、例えば、ヘキシルイソシアネート、フェニルイソシアネートやシクロヘキシルイソシアネート等が挙げられる。上記したポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、以下に制限されないが、例えば、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルやポリエチレングリコールモノエチルエーテルが挙げられる。
【0035】
また、前記ガラス繊維集束剤として、ポリカルボジイミド化合物以外に、ポリウレタン樹脂、アクリル酸のホモポリマー、アクリル酸とその他共重合性モノマーとのコポリマー、並びにこれらの第1級、第2級及び第3級アミンとの塩、並びにカルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体とその他の不飽和ビニル単量体を含む共重合体などを含んでもよい。これらは、1種単独、または2種以上の併用のいずれも使用可能である。
【0036】
ポリウレタン樹脂は、ガラス繊維のガラス繊維集束剤として一般的に用いられるものであれば特に制限されないが、例えば、m−キシリレンジイソシアナート(XDI)、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアナート)(HMDI)やイソホロンジイソシアナート(IPDI)等のイソシアネートと、ポリエステル系やポリエーテル系のジオールとから合成されるものが好適に使用できる。
【0037】
アクリル酸のホモポリマーとしては、重量平均分子量は1,000〜90,000であることが好ましく、より好ましくは1,000〜25,000である。なお、本明細書における重量平均分子量は、GPCにより測定した値である。
【0038】
アクリル酸のポリマーは、アクリル酸とその他共重合性モノマーとのコポリマーであってもよい。前記アクリル酸と共重合体を形成するモノマーとしては、以下に制限されないが、例えば、水酸基及び/またはカルボキシル基を有するモノマーのうち、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、イソクロトン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸及びメサコン酸よりなる群から選択される1種以上が挙げられる(但し、アクリル酸のみの場合を除く)。好ましくは、上記したモノマーのうちエステル系モノマーを1種以上有する。
【0039】
アクリル酸のポリマー(ホモポリマー及びコポリマーを共に含む)は塩の形態であってもよい。アクリル酸のポリマーの塩としては、以下に制限されないが、第一級、第二級または第三級のアミンが挙げられる。以下に制限されないが、具体例として、トリエチルアミン、トリエタノールアミンやグリシンが挙げられる。中和度は、他の併用薬剤(シランカップリング剤など)との混合溶液の安定性向上や、アミン臭低減の観点から、20〜90%とすることが好ましく、40〜60%とすることがより好ましい。
【0040】
塩を形成するアクリル酸のポリマーの重量平均分子量は、特に制限されないが、3,000〜50,000の範囲であることが好ましい。ガラス繊維の集束性向上の観点から、3,000以上が好ましく、樹脂組成物とした際の機械的特性向上の観点から、50,000以下が好ましい。
【0041】
カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体とその他の不飽和ビニル単量体とを含んでなる共重合体のうち、前記カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体としては、特に制限されることはない。例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸や無水シトラコン酸が挙げられ、中でも無水マレイン酸が好ましい。一方、前記不飽和ビニル単量体としては、以下に制限されないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、2,3−ジクロロブタジエン、1,3−ペンタジエン、シクロオクタジエン、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレートが挙げられる。中でもスチレンやブタジエンが好ましい。
【0042】
これらの組み合わせの中でも、無水マレイン酸とブタジエンとの共重合体、無水マレイン酸とエチレンとの共重合体、無水マレイン酸とスチレンとの共重合体、及びこれらの混合物であることがより好ましい。
【0043】
また、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体とその他の不飽和ビニル単量体との共重合体は、重量平均分子量が2,000以上であることが好ましい。また、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物の流動性向上の観点から、より好ましくは2,000〜1,000,000であり、さらに好ましくは5,000〜500,000である。
【0044】
ガラス繊維の表面処理剤として、シランカップリング剤を使用することも好適である。前記シランカップリング剤としては、特に制限されないが、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランやN−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノシラン類;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランやγ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン類;エポキシシラン類;ビニルシラン類が挙げられる。中でも、上記の列挙成分から選択される1種以上であることが好ましく、アミノシラン類がより好ましい。
【0045】
ガラス繊維集束剤を調製する際には潤滑剤を使用することが好適である。潤滑剤としては、目的に適した通常の液体または固体の任意の滑剤材料が使用可能である。以下に制限されないが、例えば、カルナウバワックスやラノリンワックス等の動植物系もしくは鉱物系のワックス、または脂肪酸アミド、脂肪酸エステルもしくは脂肪酸エーテル、または芳香族系エステルもしくは芳香族系エーテル等の界面活性剤が使用可能である。
【0046】
本実施の形態に用いるガラス繊維集束剤は、それぞれ固形分として、ポリカルボジイミド化合物1〜5質量%、ポリウレタン樹脂1〜5質量%、シランカップリング剤0.1〜1質量%、及び潤滑剤0.01〜0.5質量%を水で希釈し、全質量を100質量%に調整することにより、ガラス繊維集束剤を調製することが好ましい。
【0047】
また、所望により、アクリル酸のホモポリマー、またはアクリル酸とその他のモノマー成分とのコポリマーを好ましくは1〜10質量%、より好ましくは2〜5質量%、及び活性アミノ基を主鎖骨格にもつ反応型ポリウレタン樹脂を好ましくは1〜5質量%、より好ましくは2〜4質量%、及びカルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体とその他の不飽和ビニル単量体との共重合体を好ましくは1〜5質量%、より好ましくは2〜4質量%含んでもよい。
【0048】
ガラス繊維集束剤100質量%に対して、ポリカルボジイミド化合物の配合量は、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物の機械的強度向上の観点から1質量%以上であることが好ましく、ガラス繊維の集束性向上の観点から5質量%以下であることが好ましい。また、ガラス繊維集束剤100質量%に対して、ポリウレタン樹脂の配合量は、ガラス繊維の集束性向上の観点から1質量%以上であることが好ましく、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物の機械的強度向上の観点から5質量%以下であることが好ましい。
【0049】
ガラス繊維集束剤100質量%に対して、アクリル酸のホモポリマー、及びアクリル酸とその他のモノマー成分とのコポリマー、並びにこれらの第1級、第2級及び第3級のアミン塩より選択された1種以上のポリマーの配合量は、耐水強度を必要とする分野においては、吸水時のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物の機械的強度向上の観点から1質量%以上が好ましく、ガラス繊維の集束性、該組成物の色調、外観及び表面平滑性を向上させる観点から10質量%以下であることが好ましい。
【0050】
次に、ガラス繊維集束剤中のシランカップリング剤の配合量は、ガラス繊維の集束性向上、及びガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物の機械的強度向上の観点から0.1〜1質量%が好ましい。また、ガラス繊維集束剤中の潤滑剤の配合量は、充分な潤滑性を与えるという観点から0.01質量%以上であることが好ましく、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物の機械的強度向上の観点から0.5質量%以下であることが好ましい。
【0051】
ガラス繊維は、上記のガラス繊維集束剤を、公知のガラス繊維の製造工程において、ローラー型アプリケーターなどの公知の方法を用いて、ガラス繊維に付与して製造したガラス繊維ストランドを乾燥することによって連続的に反応させて得られる。前記ガラス繊維ストランドをロービングとしてそのまま使用してもよく、さらに切断工程を得て、チョップドガラスストランドとして使用してもよい。かかるガラス繊維集束剤は、ガラス繊維100質量%に対し、固形分率として0.2〜3質量%相当を付与(添加)することが好ましく、より好ましくは0.3〜2質量%付与(添加)する。ガラス繊維の集束を維持する観点から、ガラス繊維集束剤の添加量が、ガラス繊維100質量%に対し、固形分率として0.2質量%以上であることが好ましい。一方、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物の熱安定性向上の観点から、3質量%以下であることが好ましい。また、ストランドの乾燥は切断工程後に行ってもよく、またはストランドを乾燥した後に切断してもよい。
【0052】
ここで、上記した(A)の成分(ポリアミド樹脂)100質量部に対し、上記の(B)の成分(所定のガラス樹脂)の含有量は、好ましくは1〜200質量部であり、より好ましくは5〜150質量部であり、さらに好ましくは15〜100質量部である。上記した範囲内の場合、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物の流動性及び外観が共に一層優れたものとなる。
【0053】
[熱安定剤]
本実施の形態に係るガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物おいては、さらに熱安定剤を添加してもよい。熱安定剤としては、特に制限されることはないが、好ましい熱安定剤としては、銅塩と、アルカリまたはアルカリ土類金属のハロゲン化物との混合物である。
【0054】
かかる銅塩としては、以下に制限されないが、例えば、ハロゲン化銅(ヨウ化銅、臭化第一銅、臭化第二銅、塩化第一銅など)、酢酸銅、プロピオン酸銅、安息香酸銅、アジピン酸銅、テレフタル酸銅、イソフタル酸銅、サリチル酸銅、ニコチン酸銅及びステアリン酸銅、並びにエチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤に銅の配位した銅錯塩が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
上記で列挙した銅塩の中でも、好ましくはヨウ化銅、臭化第一銅、臭化第二銅、塩化第一銅及び酢酸銅よりなる群から選択される1種以上であり、より好ましくはヨウ化銅及び/または酢酸銅である。かかる好ましい銅塩を用いた場合、耐熱エージング性に優れ、且つ押出時のスクリューやシリンダー部の金属腐食(以下、単に「金属腐食」ともいう)を抑制可能なガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物を得ることができる傾向にある。
【0056】
銅塩を用いる場合、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物中の銅塩の配合量は、ポリアミド樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01〜0.2質量部であり、より好ましくは0.02〜0.15質量部である。上記範囲内の場合、耐熱エージング性が一層向上するとともに、銅の析出や金属腐食を抑制することができる傾向にある。
【0057】
また、耐熱エージング性を向上させる観点から、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物100質量%に対し、銅元素の含有濃度として、好ましくは20〜1000ppmであり、より好ましくは30〜500ppmであり、さらに好ましくは50〜300ppmである。
【0058】
アルカリまたはアルカリ土類金属のハロゲン化物としては、以下に制限されないが、例えば、ヨウ化カリウム、臭化カリウム、塩化カリウム、ヨウ化ナトリウム及び塩化ナトリウム、並びにこれら2種以上の混合物が挙げられる。中でも、耐熱エージング性の向上及び金属腐食の抑制という観点から、好ましくはヨウ化カリウム及び臭化カリウム、並びにこれらの混合物であり、より好ましくはヨウ化カリウムである。
【0059】
アルカリまたはアルカリ土類金属のハロゲン化物を用いる場合、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物中のアルカリまたはアルカリ土類金属のハロゲン化物の配合量は、ポリアミド樹脂100質量部に対して、好ましくは0.05〜5質量部であり、より好ましくは0.2〜2質量部である。上記の範囲内の場合、耐熱エージング性が一層向上するとともに、銅の析出や金属腐食を抑制することができる傾向にある。
【0060】
銅塩と、アルカリまたはアルカリ土類金属のハロゲン化物との割合は、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物全体において、ハロゲンと銅とのモル比(ハロゲン/銅)が2〜50となるように、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物に含有させることが好ましく、より好ましくは10〜40であり、さらに好ましくは15〜30である。上記した範囲内の場合、耐熱エージング性を一層向上させることができる。特に、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物中の銅元素に対するハロゲン元素のモル比(ハロゲン/銅)が15以上であると、最終的に得られる成形品の耐熱エージング性がより一層向上する傾向にある。
【0061】
尚、ここでいうハロゲンは、銅塩としてハロゲン化銅を使用した場合、ハロゲン化銅に由来するハロゲンと、アルカリまたはアルカリ土類金属のハロゲン化物に由来するハロゲンの合計を意味する。
【0062】
上記のハロゲン/銅が2以上である場合、銅の析出及び金属腐食を抑制することができるため好適である。一方、上記のハロゲン/銅が50以下である場合、耐熱性、靭性などの機械的な物性を殆ど損なうことなく、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物を用いて成形品を得る際の成形機のスクリュー等の腐食を防止できる傾向にある。
【0063】
[ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物に含まれうる他の成分]
上記した成分の他に、本実施の形態の効果を損なわない範囲で、必要に応じてさらに他の成分を添加してもよい。
【0064】
以下に制限されないが、例えば、ガラス繊維以外の無機充填材、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光劣化防止剤、可塑剤、滑剤、離型剤、核剤、難燃剤、着色剤、染色剤や顔料などを添加してもよいし、他の熱可塑性樹脂を混合してもよい。ここで、上記した他の成分はそれぞれ性質が大きく異なるため、各成分についての、本実施の形態の効果をほとんど損なわない好適な含有率は様々である。そして、当業者であれば、上記した他の成分ごとの好適な含有率は容易に設定可能である。
【0065】
本実施の形態において、ガラス繊維及びポリアミド樹脂を複合化する方法は、単軸または多軸の押出機によってポリアミド樹脂を溶融させた状態で混練する方法を用いることができる。チョップドストランドを用いる場合、上流側供給口と下流側供給口とを備えた二軸押出機を使用し、上流側供給口からポリアミド樹脂を供給して溶融させた後、下流側供給口からチョップドストランドを供給して溶融混練する方法を用いることが好ましい。また、ガラス繊維ロービングを用いる場合も、公知の方法で複合することができる。
【0066】
このようにして得られる目的物としての樹脂組成物は、特に制限されることなく、例えば、射出成形による各種部品の成形体として利用できる。
【0067】
これらの各種部品は、例えば、自動車用、機械工業用、電気・電子用、産業資材用、工業材料用、日用・家庭品用として好適に使用できる。
【実施例】
【0068】
以下、本実施の形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施の形態はこれらの実施例のみに制限されるものではない。
【0069】
[原料の調製]
1.ポリアミド樹脂
(1)ポリアミド66(以下、「PA−1」と略記する)
ポリアミド原料としてヘキサメチレンジアミン(旭化成ケミカルズ社製)とアジピン酸(旭化成ケミカルズ社製)との等モル塩1600kg、及び末端調整剤としてアジピン酸8.9kgを蒸留水に添加し、ポリアミド原料として50質量%の水溶液を得た。得られた水溶液を、下部に放出ノズルを有する約4,000リットル容のオートクレーブ中に仕込み、50℃で混合しつつ窒素で置換した。
【0070】
続いて、温度を50℃から約150℃まで約1時間かけて昇温した。その際、オートクレーブ内の圧力を0.15MPa程度(ゲージ圧)に保つため、水を系外に除去しながら加熱を続けた。その後、オートクレーブを密閉状態にし、温度を150℃から約220℃まで約1時間かけて昇温して圧力を1.77MPa程度(ゲージ圧)まで上昇させた。
【0071】
続いて、温度を約220℃から約280℃まで約1時間かけて昇温する一方、圧力は約1.77MPaに維持させつつ水を系外に除去していくことで加熱を行った。その後、約1時間かけて圧力を大気圧まで減圧し、大気圧になった後、下部ノズルからストランド状にペレットを排出して、水冷、カッティングを行い、PA−1のペレットを得た。得られたペレットを窒素気流中、90℃で4時間乾燥した。
【0072】
PA−1の98%硫酸相対粘度[ηr:25℃、1g/100ml]は2.71であった。また、アミノ基末端は30μmol/g、カルボキシル基末端は108μmol/g、アミノ基末端濃度/カルボキシル基末端濃度は0.278であった。なお、本明細書における硫酸相対粘度の測定方法として、JIS K 6920を採用した。
【0073】
(2)ポリアミド66(以下、「PA−2」と略記する)
末端調整剤として添加したアジピン酸の量を3.0kgに変更した点以外は、上記PA−1の場合と同様にしてPA−2を得た。ここで、ηrは2.78、アミノ基末端は38μmol/g、カルボキシル基末端は89μmol/g、アミノ基末端濃度/カルボキシル基末端濃度は0.427であった。
【0074】
(3)ポリアミド66(以下、「PA−3」と略記する)
末端調整剤として添加したアジピン酸の量を1.0kgに変更した点以外は、上記PA−1の場合と同様にしてPA−3を得た。ここで、ηrは2.78、アミノ基末端は42μmol/g、カルボキシル基末端は79μmol/g、アミノ基末端濃度/カルボキシル基末端濃度は0.532であった。
【0075】
(4)ポリアミド66(以下、「PA−4」と略記する)
末端調整剤としてのアジピン酸を添加しなかった点以外は、上記PA−1の場合と同様にしてPA−4を得た。ここで、ηrは2.79、アミノ基末端は46μmol/g、カルボキシル基末端は72μmol/g、アミノ基末端濃度/カルボキシル基末端濃度は0.639であった。
【0076】
(5)ポリアミド9T(以下、「PA−5」と略記する)
特開平7−228689号公報の実施例1に記載された方法に従って製造した。
【0077】
その際、テレフタル酸単位をジカルボン酸単位とした。一方、1,9−ノナンジアミン単位及び2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位[1,9−ノナンジアミン単位:2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位=80:20(モル比)]をジアミン単位とした。
【0078】
上記の原料を20リットル容のオートクレーブに入れ、窒素で置換した。100℃で30分間撹拌し、2時間かけて内部温度を210℃まで昇温した。その際、オートクレーブは22kg/cm2まで昇圧した。そのまま1時間反応を続けた後230℃に昇温し、その後2時間、230℃で恒温し、水蒸気を徐々に抜いて圧力を22kg/cm2に保ちながら反応させた。次に、30分かけて圧力を10kg/cm2まで下げ、さらに1時間反応させて、プレポリマーを得た。これを、100℃、減圧下で12時間乾燥し、2mm以下の大きさまで粉砕した。これを230℃、0.1mmHg下にて、10時間固相重合し、PA−5を得た。ここで、ηrは2.61、アミノ基末端は18μmol/g、カルボキシル基末端は73μmol/g、アミノ基末端濃度/カルボキシル基末端濃度は0.247であった。
【0079】
(6)ポリアミド66/6T(以下、「PA−6」と略記する)
特開2000−86759号公報の実施例1に記載された方法に従って製造した。
【0080】
その際、テレフタル酸単位及びアジピン酸単位[テレフタル酸単位:アジピン酸単位=55:45(モル比)]をジカルボン酸単位とし、ヘキサメチレンジアミンをジアミン単位とした。
【0081】
上記の原料を20リットル容のオートクレーブに入れ、窒素で置換した。その際、オートクレーブは、2時間かけて内部温度を210℃まで昇温し、22kg/cm2まで昇圧した。そのまま1時間反応を続けた後、230℃まで昇温させ、その後2時間、230℃で恒温し、水蒸気を徐々に抜いて圧力を22kg/cm2に保ちながら反応させた。次に、30分かけて圧力を10kg/cm2まで下げ、さらに1時間反応させて、プレポリマーを得た。これを100℃、減圧下で12時間乾燥し、2mm以下の大きさまで粉砕した。これを230℃、0.1mmHg下、10時間固相重合し、PA−6を得た。ここで、ηrは2.58、アミノ基末端は22μmol/g、カルボキシル基末端は74μmol/g、アミノ基末端濃度/カルボキシル基末端濃度は0.297であった。
【0082】
(7)ポリアミド66/6I(以下、「PA−7」と略記する)
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1237g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩263g、並びに全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作った。この水溶液を内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。この水溶液を、110〜150℃の温度下で撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。その後、内部温度を220℃に昇温した。このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。そのまま1時間、内部温度が260℃になるまで、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。次にバルブを閉止し、ヒーターをきり、約8時間かけて常温まで冷却し、ηrが1.38のポリアミドプレポリマーを得た。
得られたポリアミドプレポリマーを粉砕した後、内容積10Lのエバポレーターに入れ、窒素気流下、200℃で10時間固相重合し、PA−7を得た。ここで、ηrは2.31、アミノ基末端は39μmol/g、カルボキシル基末端は127μmol/g、アミノ基末端濃度/カルボキシル基末端濃度は0.307であった。
【0083】
2.カルボジイミド化合物
カルボジイミド化合物として、日清紡績株式会社製の商品名:カルボジライト(登録商標)V−02(固形分率40質量%の水溶液)を使用した。
【0084】
3.ポリウレタン樹脂エマルジョン
ポリウレタン樹脂エマルジョンとして、大日本インキ株式会社製の商品名:ボンディック(登録商標)1050:(固形分率50質量%の水溶液)を使用した。
【0085】
4.無水マレイン酸系共重合体
無水マレイン酸−ブタジエン共重合体水溶液として、三洋化成工業株式会社製の商品名:アクロバインダー(登録商標)BG−7(固形分率25質量%の水溶液)を使用した。
【0086】
5.アミノシラン系カップリング剤
γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(商品名:KBE−903、信越化学工業株式会社製)を使用した。
【0087】
6.潤滑剤
商品名:カルナウバワックス(株式会社加藤洋行製)を使用した。
【0088】
7.ヨウ化銅(以下、「CuI」と略記する)
和光純薬工業社製の試薬を使用した。
【0089】
8.ヨウ化カリウム(以下、「KI」と略記する)
和光純薬工業社製の試薬を使用した。
【0090】
[ガラス繊維の製造]
<製造例1>
まず、固形分として、カルボジイミド化合物4質量%、ポリウレタン樹脂2質量%、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.6質量%、及びカルナウバワックス0.1質量%となるように水で希釈し、ガラス繊維集束剤を得た。得られたガラス繊維集束剤を、溶融防糸された平均直径10μmのガラス繊維に対して、回転ドラムに巻き取られる途中に設けたアプリケーターによってガラス繊維に付着させた。そして、その後に乾燥することによって、上記ガラス繊維集束剤で表面処理されたガラス繊維束のロービングを得た。その際、ガラス繊維は1,000本の束となるようにした。ガラス繊維集束剤の付着量は、0.6質量%であった。これを3mmの長さに切断して、チョップドストランド(以下、「GF−1」と略記する)を得た。
【0091】
<製造例2>
固形分として、ポリウレタン樹脂2質量%、無水マレイン酸−ブタジエン共重合体4質量%、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.6質量%、及びカルナウバワックス0.1質量%となるように水で希釈し、ガラス繊維集束剤を得た。得られたガラス繊維集束剤を、溶融防糸された平均直径10μmのガラス繊維に対して、回転ドラムに巻き取られる途中に設けたアプリケーターによってガラス繊維に付着させた。そして、その後に乾燥することによって、上記ガラス繊維集束剤で表面処理されたガラス繊維束のロービングを得た。その際、ガラス繊維は1,000本の束となるようにした。ガラス繊維集束剤の付着量は、0.6質量%であった。これを3mmの長さに切断して、チョップドストランド(以下、「GF−2」と略記する)を得た。
【0092】
[評価方法]
以下では、実施例及び比較例で行った評価の方法について説明する。
【0093】
<ガラス繊維集束剤の付着量>
ガラス繊維集束剤により表面処理されたガラス繊維を、10g精秤した後、650℃の電気炉において1時間加熱した。この間の質量減少分をガラス繊維集束剤の付着量とした。
【0094】
<シャルピー衝撃強度>
実施例及び比較例で得られたポリアミド樹脂組成物のペレットを、射出成形機(PS−40E:日精樹脂株式会社製)を用いて、ISO 3167に準拠し、多目的試験片A型の成形片を成形した。その際、射出及び保圧の時間25秒、冷却時間15秒、金型温度80℃または120℃、溶融樹脂温度290℃または325℃に設定した。得られた成形片を切削して使用し、厚さ80mm×巾10mm×長さ4mmの試験片を用いて、ISO 179/1eAに準拠し、ノッチ付きシャルピー衝撃強度を測定した。
【0095】
<引張強度>
上記の多目的試験片(A型)を用いて、ISO 527に準拠し、引張速度5mm/分で引張試験を行い、引張強度を測定した。
【0096】
<加工性(目やに付着量)>
実施例及び比較例で得られたポリアミド樹脂組成物のペレット5kgを金属バット上に広げ、目視により、目やにに起因する異物の数(以下、「目やに起因の異物数」という)を測定した。
【0097】
<色調>
上記の多目的試験片(A型)を用いて、測色色差計(ZE−2000:日本電色工業社製)により、JIS Z8722に準拠し、反射法でb値を測定した。b値が低い程、黄色味が少ないことを示し、色調に優れていることを意味する。
【0098】
<成形片のそり量>
実施例及び比較例で得られたポリアミド樹脂組成物のペレットを、射出成形機(IS−150E:東芝機械株式会社製)を用いて、以下の条件に設定して射出成形して、成形片を得た。
金型:厚さ1mm×巾150mm×長さ150mmの平板形状であり、ピンゲートの金型、
射出及び保圧の時間:10秒、
冷却時間:15秒、
金型温度:80℃、
溶融樹脂温度:290℃。
得られた成形片を23℃、50RH%で24時間以上放置した後、平らな面に成形片を置き、任意の1つの角を平らな面に固定し、最も浮き上がった角の高さを測定した。当該測定を異なる成形片5枚について行い、これらの平均値をそり量とした。
【0099】
<成形片の外観>
実施例及び比較例で得られたポリアミド樹脂組成物のペレットを、射出成形機(IS−150E:東芝機械株式会社製)を用いて、以下の条件に設定して射出成形して、成形片を得た。
金型:厚さ1mm×巾150mm×長さ150mmの平板形状であり、ピンゲートの金型、
射出及び保圧の時間:10秒、
冷却時間:15秒、
金型温度:80℃、
溶融樹脂温度:290℃。
得られた成形片を23℃、50RH%で24時間以上放置した後、500ルクスの室内において、20Wの蛍光灯を成形片から30cm高さで点灯させ、成形片に映し出された蛍光灯の鮮鋭性を評価した。また、成形片表面のガラス繊維浮きを評価した。評価基準を以下のようにした。
○:蛍光灯の鮮鋭性が良好で、ガラス繊維浮きが少ない。
△:蛍光灯の鮮鋭性が良好で、ガラス繊維浮きがやや多い。
×:蛍光灯の鮮鋭性がやや悪く、ガラス繊維浮きが多い。
【0100】
[実施例1〜3、比較例1〜2]
押出機の上流側から1番目のバレルに上流側供給口を有し、且つ9番目のバレルに下流側供給口を有する、L/D(押出機のシリンダーの長さ/押出機のシリンダー径)=48(バレル数:12)の二軸押出機(ZSK−26MC:コペリオン社製(ドイツ))を用いた。前記二軸押出機において、上流側供給口からダイまでを290℃、スクリュー回転数200rpm、及び吐出量20kg/時間に設定した。かかる条件下で、下記表1の上部に記載された割合となるように、上流側供給口よりポリアミド(PA−1乃至PA−6)を供給し、下流側供給口よりガラス繊維チョップドストランド(GF−1乃至GF−2)を供給した。そして、これらを溶融混練することで樹脂組成物のペレットを製造した。得られた樹脂組成物を、樹脂温度290℃及び金型温度80℃で成形し、シャルピー衝撃強度及び引張強度を評価した。併せて、目やに起因の異物数を計数した。これらの評価(計数)結果などを下記表1に記載した。
【0101】
[実施例4〜5、比較例3〜4]
押出時の設定温度を320℃にした点以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物のペレットを得た。上記した評価(計数)項目の結果などを表1に記載した。なお、実施例4〜5及び比較例3〜4における成形条件は、樹脂温度325℃及び金型温度120℃で行った。
【表1】

【0102】
表1より、実施例1〜5と比較例1とを比較すると、ポリアミド樹脂のアミノ基末端濃度/カルボキシル基末端濃度が0.63以下である場合、0.63を上回る場合と比較して、シャルピー衝撃強度及び引張強度は有意に高く、目やに起因異物数は有意に少ないことを確認した。
【0103】
また、実施例1及び比較例2、実施例4及び比較例3、並びに実施例5及び比較例4をそれぞれ比較すると、いずれをとっても、ポリカルボジイミド化合物を含む集束剤を用いた場合、ポリカルボジイミド化合物を含まない集束剤を用いた場合と比較して、シャルピー衝撃強度及び引張強度は有意に高く、目やに起因異物数は有意に少ないことを確認した。
【0104】
[実施例6〜10、比較例5〜8]
押出機の上流側から1番目のバレルに上流側供給口を有し、且つ9番目のバレルに下流側供給口を有する、L/D(押出機のシリンダーの長さ/押出機のシリンダー径)=48(バレル数:12)の二軸押出機(ZSK−26MC:コペリオン社製(ドイツ))を用いた。前記二軸押出機において、上流側供給口からダイまでを290℃、スクリュー回転数200rpm、及び吐出量20kg/時間に設定した。かかる条件下で、下記表2の上部に記載された割合となるように、上流側供給口よりポリアミド(PA−1乃至PA−3)、CuI、KIを供給し、下流側供給口よりガラス繊維チョップドストランド(GF−1乃至GF−2)を供給した。そして、これらを溶融混練することで樹脂組成物のペレットを製造した。得られた樹脂組成物を、樹脂温度290℃及び金型温度80℃で成形し、シャルピー衝撃強度、引張強度及び色調を評価した。併せて、目やに起因の異物数を計数した。これらの評価(計数)結果などを下記表2に記載した。
【表2】

【0105】
表2より、実施例6〜8と比較例5〜6、実施例9と比較例7、並びに実施例10と比較例8とをそれぞれ比較すると、いずれをとっても、ポリカルボジイミド化合物を含む集束剤を用いた場合、ポリカルボジイミド化合物を含まない集束剤を用いた場合と比較して、シャルピー衝撃強度及び引張強度は有意に高く、目やに起因異物数は有意に少ないことを確認した。また、CuIやKIを含むケースにおいて、色調にも優れていることを確認した。
【0106】
[実施例11〜13、比較例9〜11]
押出機の上流側から1番目のバレルに上流側供給口を有し、且つ9番目のバレルに下流側供給口を有する、L/D(押出機のシリンダーの長さ/押出機のシリンダー径)=48(バレル数:12)の二軸押出機(ZSK−26MC:コペリオン社製(ドイツ))を用いた。前記二軸押出機において、上流側供給口からダイまでを270℃、スクリュー回転数200rpm、及び吐出量20kg/時間に設定した。かかる条件下で、下記表3の上部に記載された割合となるように、上流側供給口よりポリアミド(PA−7)を供給し、下流側供給口よりガラス繊維チョップドストランド(GF−1乃至GF−2)を供給した。そして、これらを溶融混練することで樹脂組成物のペレットを製造した。得られた樹脂組成物を、樹脂温度290℃及び金型温度80℃で成形し、シャルピー衝撃強度、引張強度、そり量及び外観を評価した。併せて、目やに起因の異物数を計数した。これらの評価(計数)結果などを下記表3に記載した。
【表3】

【0107】
表3より、実施例11と比較例9、実施例12と比較例10、並びに実施例13と比較例11とをそれぞれ比較すると、いずれをとっても、ポリカルボジイミド化合物を含む集束剤を用いた場合、ポリカルボジイミド化合物を含まない集束剤を用いた場合と比較して、シャルピー衝撃強度及び引張強度は有意に高く、目やに起因異物数は有意に少ないことを確認した。また、ポリアミド66/6Iを使用するケースにおいて、そり量が小さく、さらに外観にも優れていることを確認した。
【0108】
以上のことから、本実施の形態を採ることにより、特に(室温下での)機械的強度、耐衝撃性及び加工性を顕著に向上させることができ、自動車部品や各種電子部品などにも十分適用できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の樹脂組成物は機械的強度や加工性に優れるため、自動車部品や電子部品(コネクタ、スイッチ)等、高レベルでの機械的強度などが要求される成形品として好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアミド樹脂と、(B)ポリカルボジイミド化合物を含むガラス繊維集束剤を含有するガラス繊維とを含むガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物であって、
前記(A)の成分中、カルボキシル基末端濃度に対するアミノ基末端濃度の比が0.63以下である、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)の成分のカルボキシル基末端濃度が50μmol/g以上である、請求項1に記載のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)の成分100質量部に対して、前記(B)の成分が1〜200質量部である、請求項1または2に記載のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)の成分が、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6T、ポリアミド6I及びポリアミド9T、並びにこれらの少なくとも1種を構成成分として含む共重合ポリアミドからなる群より選択された1種以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−270327(P2010−270327A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99105(P2010−99105)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】