説明

ガラス転移温度測定装置、及びガラス転移温度測定方法

【課題】微小な物質のガラス転移を多点同時に測定することにある。
【解決手段】複数の試料2を同一面上に形成する基板1と、各試料2を加圧する加圧装置と、各試料2を加熱する加熱装置5と、各試料2の温度を測定する温度測定装置8と、を備え、各試料2を加熱し、各試料2の被加圧部を加圧し、被加圧部の変形を測定し、試料2のガラス転移温度を求める、ガラス転移温度測定装置、及び測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料のガラス転移温度測定に関するものであり、特に、コンビナトリアルマテリアル技術に適した多数の試料のガラス転移温度測定に関するものである。

【背景技術】
【0002】
従来、アモルファス物質のガラス転移の有無は、比熱変化による検出法として、示差走査熱量計が主に使用され、また、粘度変化による検出法としては、熱機械分析装置が主に使用されてきた。しかし、示差走査熱量計では、試料が少なくとも10mg程度必要であることが要求され、また、熱機械分析装置では、試料は引張りが可能な程度のじん性を有することが要求されており、例えば薄膜状で極少量の脆性材料などは測定が不可能であった。また、両方法とも測定部に精密で複雑な機構を有しているため、高真空雰囲気にすることが、困難であり、酸化しやすい材料や800℃以上の高温領域では、酸化の影響により検出が困難といった問題があった。微小部のガラス転移を測定する手段としては、走査型サーマル顕微鏡や特許文献1に開示されている方法などあるが、いずれも一点または一つの試料を測定する手段であり、多点同時や、部分的にガラス転移を生じる材料の高速評価には不適であった。特に近年、研究が進んでいるコンビナトリアルマテリアル技術(多数の試料群を一度に製作し、高速評価する材料開発手法)に適したガラス転移測定手段の開発が必要とされている。
【特許文献1】特開平10−26147号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
(1)本発明は、ガラス転移を簡単に測定することにある。
(2)また、本発明は、ガラス転移を多点同時に測定することにある。
(3)また、本発明は、微小な物質のガラス転移を測定することにある。
(4)また、本発明は、コンビナトリアルマテリアル技術に適したガラス転移の測定手段又は方法を提供することにある。

【課題を解決するための手段】
【0004】
(1)本発明は、複数の試料を同一面上に形成する基板と、各試料を加圧する加圧装置と、各試料を加熱する加熱装置と、各試料の温度を測定する温度測定装置と、を備え、各試料を加熱し、各試料の被加圧部を加圧し、被加圧部の変形を測定し、試料のガラス転移温度を求める、ガラス転移温度測定装置にある。
(2)また、本発明は、基板の同一面上に複数の試料を形成し、各試料をほぼ均一な力で加圧しながら、各試料を加熱し、試料の被加圧部を変形し、被加圧部の変形を測定し、各試料のガラス転移温度を求める、ガラス転移温度測定方法にある。

【発明の効果】
【0005】
(1)本発明は、ガラス転移を簡単に測定することができる。
(2)また、本発明は、ガラス転移を多点同時に測定することができる。
(3)また、本発明は、微小な物質のガラス転移を測定することができる。
(4)また、本発明は、コンビナトリアルマテリアル技術に適したガラス転移の測定手段又は方法を提供することができる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
(1)試料のガラス転移温度測定
本発明のガラス転移温度測定は、試料のガラス転移に伴う粘度変化を利用して機械的に測定するものである。このガラス転移温度測定は、薄膜などの極少量試料や、マトリクス中に部分的にガラス転移を示す部位が存在するような試料でも、押圧部材を当てることができるだけの面積があれば、多点同時に測定可能であり、また、高真空にも対応できるアモルファス物質のガラス転移温度の同定手段を提供できるものである。特に、多数の試料群を一度に製作し、高速評価するコンビナトリアルマテリアル技術に適するものである。
【0007】
ガラス転移を示すアモルファス物質(多くの酸化物ガラス、一部のアモルファス合金等)では、ガラス転移点で、およそ1012Pa・sの粘度を示す。この状態で、鋼球のような点接触部を有する押圧部材を押し付けることで、試料の被加圧部(点接触部)ではヘルツ応力により大きな応力が作用し容易に圧痕を形成することができる。これは、厚さがマイクロメートルオーダの薄膜材料でも同様であり、昨今の微小変位測定方法の発達により、ナノメートルオーダの圧痕でも比較的容易に検出することが可能となった。したがって、試料の温度を昇温しながら、押圧部材の変位や、薄膜の圧痕を測定、観察すれば、どの温度でガラス転移を生じたかを検出することができる。この原理に基づけば、薄膜状や、部分的にガラス転移を示すアモルファス物質のガラス転移温度を同定することができる。

【0008】
(2)ガラス転移温度測定装置
ガラス転移温度測定装置は、複数の試料を同一面上に形成する基板と、試料を加圧する加圧装置と、試料を加熱する加熱装置と、試料の温度を測定する温度測定装置と、を備え、加熱装置により試料を加熱し、加圧装置により試料の被加圧部を加圧し、被加圧部の変形を測定し、複数の試料のガラス転移温度を求めるものである。ガラス転移温度測定装置は、必要に応じて、試料の被加圧部の変形によって生じる変位を測定する変位測定装置を、また、被加圧部の変形によって生じる圧痕を測定する形状測定装置を備えている。このガラス転移温度測定装置は、基板の同一面上に膜状に形成される多数の試料を加熱し、加圧するという単純な機構であるため、真空チャンバに収納して高真空に容易に引くことが可能であり、その上に、多数の試料を同時に測定することができる。
【0009】
ガラス転移温度測定装置は、例えば図1に示すように、基板1の上に多数の膜状の試料2を形成し、各試料2を加圧装置で加圧する。加圧装置は、試料2の上面を加圧する押圧部材3とそれを保持し、加圧する保持部材4とを備えている。試料2は、加熱装置5により加熱される。変位測定装置6は、試料2の被加圧部の変形による押圧部材3の変位を測定できる。その場合は、基板1に試料2を形成していない参照面7との変位の差分を測定しながら、温度測定装置8で温度を測定し、一定昇温速度で加熱する。参照面7との差分を取ることにより、ガラス転移以外の変位のノイズを除去することができる。
【0010】
変位測定装置6によって、押圧部材3の加熱中の変位を測定しない場合は、一定昇温速度で所定温度に加熱後、望ましくは冷却装置9により速やかに冷却する。若しくは自然冷却により冷却する。処理された試料2上の圧痕(図4の20参照)を干渉計、SEM等の既知の形状測定装置により測定する。再度、押圧部材3等をセットし、先の加熱温度より高い温度まで加熱し、同様の方法手段により測定を行う。これらの測定を繰り返して、複数の試料のガラス転移温度を求めることができる。

【0011】
(3)ガラス転移温度測定方法
ガラス転移温度測定方法は、押圧部材3に変位測定装置6を具備している場合は、参照面7との変位の差分を測定しながら、温度測定装置8で温度を測定し、加熱装置5を用い加熱することにより、ガラス転移を生じた時点で、押圧部材3が試料2に埋没しはじめるため、変位測定装置6により、埋没量を検出することができる。試料2の熱膨張による誤差は、参照面7との変位の差分を測定することで相殺できる。試料の加熱は、一定昇温速度で行うと変動の少ない測定が可能となる。
【0012】
押圧部材3の加熱中の変位を測定しない場合は、複数の試料を加熱しながら押圧部材で加圧し、冷却して、各試料の圧痕を測定し、次に、先の加熱温度より高い温度まで加熱し、同様の方法により測定を行う。これらの測定を繰り返して、複数の試料のガラス転移温度を求めることができる。このように、加熱温度ごとに圧痕の有無を観察して、ガラス転移温度を測定するので、従来測定が困難な極少量の薄膜状や、脆い試料、部分的にガラス転移を示す試料などのガラス転移温度を多点同時に測定することが可能となる。

【0013】
(4)ガラス転移温度測定装置の実施例1
ガラス転移温度測定装置の具体的な例を図1を用いて説明する。ステンレス製のケース10内に、厚さ200μmのシリコン基板1を配置する。シリコン基板1上に厚さ約1μmの測定対象のLaAlNi薄膜2を1mm×1mm角に組成を変化させて成膜する。LaAlNi薄膜2上には、セラミック球の押圧部材3を上下の自由度を保ったまま保持し、加圧するためのシャフトとバネからなる保持部材4を具備している。保持部材4の変位を測定するため、保持部材4の後端に光学式の変位センサ(変位測定装置)6が配置されている。また、押圧部材3内部には、温度測定用の熱電対(温度測定装置)8が挿入されている。
【0014】
この状態で、図示しない真空チャンバ内に図1の装置を設置し、赤外線加熱ヒータ(加熱装置)5を用いて350℃まで昇温速度10℃/分で加熱し、加熱終了後、冷却パイプ9内部に冷却用の窒素ガスを導入し、室温まで冷却する。昇温時の各保持部材4の変位を、変位センサ6により測定すると共に、基板1上に設けた参照面7の変位との差分を測定する。
【0015】
図2は、一つのLaAlNi薄膜2を押圧している保持部材4の変位センサ6の出力と基準面7の変位の差分(変位)を温度に対してプロットしたものである。277℃でLaAlNi薄膜2を押圧している保持部材4が沈み込み、薄膜2がガラス転移を生じていることが確認できる。さらに温度を上げていくと、約300℃で変位が止まり、薄膜2が結晶化し硬化していることが確認できる。

【0016】
(5)ガラス転移温度測定装置の実施例2
図3にガラス転移温度測定装置の具体的な例を示す。モリブデン製のケース11内に、厚さ約1μmの測定対象のPdCuSi薄膜12を成膜した厚さ300μmの石英基板13が配置されている。PdCuSi薄膜12上には、直径1mmの鋼球(押圧部材)14が5×5の25個配置される。鋼球14は、モリブデン製板ばね15により押圧され、ずれないように保持部材の金網16で保持される。モリブデン製板ばね15はケース11の蓋が押材となり、複数の鋼球14に均一な押圧力が付与できるようにする。鋼球14、モリブデン製板ばね15、金網16、押材が加圧装置を構成している。PdCuSi薄膜12には、熱電対(温度測定装置)17が接触しており、温度をモニタできるようになっている。モリブデン製のケース11には、抵抗線加熱ヒータ(加熱装置)18が具備されている。
【0017】
この状態で図示しない真空チャンバ内で抵抗線加熱ヒータ(加熱装置)18を用いて350℃、355℃、360℃、365℃、370℃にそれぞれ昇温速度10℃/分で加熱し、目標温度に300秒間加熱保持し、冷却した後に、コンフォーカルレーザ顕微鏡にて圧痕を観察した。図4に試料の圧痕の観察結果を示す。360℃までの温度では圧痕が形成されず、365℃以上に加熱したPdCuSi薄膜12上には、鋼球14による圧痕20が残されている。従って測定したPdCuSi薄膜12は、360℃〜365℃の間でガラス転移を生じていると予測できる。実際に示差走査熱量計による確認を行ったところ、364℃のガラス転移温度を確認することができた。実施例1に比べ簡便な装置でガラス転移を確認することができる。また、装置構成が単純であるので、より高真空雰囲気での測定が可能となる。

【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ガラス転移温度測定装置の説明図
【図2】ガラス転移温度の測定グラフの図
【図3】他のガラス転移温度測定装置の説明図
【図4】測定された圧痕の図
【符号の説明】
【0019】
1・・・基板
2・・・試料
3・・・押圧部材
4・・・保持部材
5・・・加熱装置
6・・・変位測定装置
7・・・参照面
8・・・温度測定装置
9・・・冷却装置
10・・ケース
11・・ケース
12・・基板
13・・試料
14・・鋼球
15・・ばね
16・・金網
17・・熱電対
18・・加熱装置
20・・圧痕

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の試料を同一面上に形成する基板と、
各試料を加圧する加圧装置と、
各試料を加熱する加熱装置と、
各試料の温度を測定する温度測定装置と、を備え、
各試料を加熱し、各試料の被加圧部を加圧し、被加圧部の変形を測定し、試料のガラス転移温度を求める、ガラス転移温度測定装置。

【請求項2】
請求項1に記載のガラス転移温度測定装置において、
複数の試料は、組成の異なる多数の試料からなる試料群であり、複数の試料を一括して測定する、ガラス転移温度測定装置。

【請求項3】
請求項1に記載のガラス転移温度測定装置において、
各試料の被加圧部の変形を測定する変位測定装置を備え、
変位測定装置により各試料の被加圧部に形成された変形を測定し、各試料のガラス転移温度を求める、ガラス転移温度測定装置。

【請求項4】
請求項1に記載のガラス転移温度測定装置において、
試料の被加圧部の変形を示す圧痕を測定する形状測定装置を備え、
試料の被加圧部の圧痕を測定し、各試料のガラス転移温度を求める、ガラス転移温度測定装置。

【請求項5】
請求項1に記載のガラス転移温度測定装置において、
加圧装置は、各試料を加圧する押圧部材と、各試料の押圧部材にほぼ均一な力が作用するように形成されたばね部材と、各ばね部材を一体で押す押材とを備え、
押圧部材が各試料にほぼ均一な力を作用するようにした、ガラス転移温度測定装置。

【請求項6】
基板の同一面上に複数の試料を形成し、各試料をほぼ均一な力で加圧しながら、各試料を加熱し、試料の被加圧部を変形し、被加圧部の変形を測定し、各試料のガラス転移温度を求める、ガラス転移温度測定方法。

【請求項7】
請求項6に記載のガラス転移温度測定方法において、
複数の試料は、多数の試料からなる試料群であり、複数の試料を一括して測定する、ガラス転移温度測定方法。

【請求項8】
請求項6に記載のガラス転移温度測定方法において、
複数の試料を加熱しながら、試料の被加圧部の変位を測定して、各試料のガラス転移温度を求める、ガラス転移温度測定方法。

【請求項9】
請求項6に記載のガラス転移温度測定方法において、
各試料を加圧しながら所定の温度まで加熱し、各試料の被加圧部の圧痕を測定し、更に、温度を上昇し、各試料の被加圧部の圧痕を測定し、これを繰り返して、各試料のガラス転移温度を求める、ガラス転移温度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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