説明

ガラス長繊維、その製造方法およびシートモールドコンパウンド

【課題】高い帯電防止性能を実現し、ガラスロービング等のガラス長繊維を切断する際に発生する静電気が1KV以下となるガラスロービングを提供する。
【解決手段】本発明のガラス長繊維は、複数のガラスモノフィラメントが、脂肪族アミン系カチオンを有するイオン性液体を質量百分率表示で0.01%から2%含有する集束剤により被覆され、集束されてなるものである。また本発明のガラス長繊維の製造方法は、1000℃以上の熔融ガラスからブッシングにより上記されたガラス長繊維を連続成形するものである。さらに本発明のシートモールドコンパウンドは、上記されたガラス長繊維の加工品を構成材料として含有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス長繊維、特にシートモールドコンパウンドに用いられるガラスロービングに関する。
【0002】
シートモールドコンパウンドなどに使用されるガラスロービングに代表されるガラス長繊維は、一般に高温に加熱した熔融ガラスよりブッシングから引き出した複数のガラスモノフィラメントに集束剤を塗布して所定本数集束して巻き取ってガラスストランドとし、これを乾燥した後、巻戻し、引揃え、所定長に切断し、撚糸する等の工程に附されて各種のガラス繊維形態として製造されており、種々の分野で利用されている。
【0003】
このような種々の製造工程では、ガラス繊維の表面に、表面電位の異なる種々の表面状態の材料が接触、摩擦されることとなり、このためガラス繊維の表面に静電気が生じる。このような静電気が生じたガラス繊維は、これらを取り扱う後工程で、ガラス繊維製品の製造を妨げる障害となる場合がある。
【0004】
例えばガラスストランドは所定の長さに切断する際、ガラスストランドに静電気が発生すると、ガラスストランド切断用のカッターに切断物が付着し、そのため短時間で切断性能が損なわれ、切断物の分散不良が発生する。このような切断物の分散不良が発生すると、例えばシートモールディングコンパウンドやチョップドストランドマットを製造する場合に、均一なストランドの分散状態や均一な厚みが得られなくなりシートモールディングコンパウンドやチョップドストランドマットの性能が著しく損なわれるという致命的な欠陥を引き起こすこともある。
【0005】
このため、静電気を防止するための発明がこれまでにも多数行われてきた。例えば特許文献1では、ガラスストランドを作製してから切断するまでの間に、帯電防止剤として無機塩類やカチオン系、ノニオン系、アニオン系或いは両性系の界面活性剤を用いる方法が開示されている。また特許文献2では、集束剤にオクチルジメチルアンモニウムエトサルフェートを含めるという発明も開示されている。また特許文献3では、帯電防止剤としてラウリルトリメチルアンモニウムナイトレイトを0.3重量%、カップリング剤としてγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを0.2重量%、その他カチオン界面活性剤、酢酸ビニルエマルジョンを含有する集束剤を使用するという発明が開示されている。さらに特許文献4では帯電防止剤としてラウリルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェートを0.3重量%、カップリング剤としてγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを0.2重量%、その他カチオン界面活性剤、酢酸ビニルエマルジョンを含有する集束剤を使用するという発明も開示されている。
【特許文献1】特開平1−313346号公報
【特許文献2】特開平1−252554号公報
【特許文献3】特開平11−060289号公報
【特許文献4】特開平11−060967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしこれまで行われた発明だけでは、高い帯電防止性能を実現し種々の製造工程で発生する問題を抑制することのできるには充分なものではない。例えば特許文献1や特許文献2の無機塩類やカチオン系、ノニオン系、アニオン系或いは両性系の界面活性剤やオクチルジメチルアンモニウムエトサルフェートを用いても、その効果は十分でなく、ガラスロービングをカットして使用する際に静電気が発生することがある。また特許文献3や特許文献4の方法を採用すると、ある程度までの効果が実現できるものの、用途や製品によって求められる性能は多様であるため、高品位の帯電防止性能を実現するための手段としても多様な方法が必要になる。
【0007】
上記の事情に鑑み、本発明は、高い帯電防止性能を実現し、ガラスロービングのようなガラス長繊維を切断する際に発生する静電気が1KV以下となるガラス長繊維、その製造方法およびシートモールドコンパウンドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のガラス長繊維は、複数のガラスモノフィラメントが、脂肪族アミン系カチオンを有するイオン性液体を質量百分率表示で0.01%から2%含有する集束剤により被覆され、集束されてなることを特徴とする。
【0009】
ここで、脂肪族アミン系カチオンを有するイオン性液体とは、カチオンを構成する炭素原子の結合が鎖状であって、環状構造を有さず、N(窒素原子)を有する陽イオンよりなる溶媒のみの液体であることを意味している。イオン性液体については、常温溶融塩とも呼ばれ、常温で液体であって、かつ液体でありながら蒸気圧がゼロで揮発性を有しないという特徴を有し、不燃性で耐熱性が高いという性質を有しているものである。さらに本発明に係る脂肪族アミン系カチオンを有するイオン性液体では、その構造が鎖状結合よりなることで、イオン伝導に起因する広い電位窓(でんいそう)を示し、高い電気伝導性を有するものである。そして、脂肪族アミン系(ALIPHA AMINE SYSTEM)カチオンを有するイオン性液体は、脂環族アミン系(CYCLIC AMINE SYSTEM)カチオンやピリジン系(PYRIDINIUM SYSTEM)カチオン等と比較して、粘性が高くガラス表面への付着した後、摩擦や振動等の外因力によって容易にガラス表面から剥がされがたく、ガラス表面への被覆が確実に行えるという利点があるので好ましい。
【0010】
またイオン性液体を質量百分率表示で0.01%から2%含有する集束剤により被覆され、集束されてなるとは、上述のイオン性液体を質量パーセントで0.01%から2%含有する集束剤をガラスモノフィラメントの表面に被覆させ、複数のモノフィラメントを集束させたものであることを表している。
【0011】
ガラス長繊維を構成する複数のガラスモノフィラメントの表面を被覆する集束剤に含有される脂肪族アミン系カチオンを有するイオン性液体が、質量百分率表示で0.01%未満であると、集束剤としての電気伝導度が低くなり、ガラス長繊維の帯電性を低く抑制する効果が低くなるので好ましくない。またガラスモノフィラメントの表面を被覆する集束剤に含有される脂肪族アミン系カチオンを有するイオン性液体が、質量百分率表示で2%を越えると、集束剤としてモノフィラメントを集束する機能が低くなり、ガラスストランドを使用する際に、その嵩が大きくなり作業性が悪くなるので好ましくない。以上のような観点からより好ましくはガラスモノフィラメントの表面を被覆する集束剤に含有される脂肪族アミン系カチオンを有するイオン性液体を質量百分率表示で0.1%から1.0%の範囲とすることである。
【0012】
集束剤の被覆方法については、どのような方法であってもガラスモノフィラメントの表面を均一に被覆することができる方法であれば採用することができる。例えば噴霧法や浸漬法、塗布法などを適宜選択して使用することができる。またガラス繊維の集束方法についても特段の限定は不要である。
【0013】
また本発明を適用するガラス繊維の材質についても、特に限定されることはない。例えば、材質として無アルカリのEガラス材質、低誘電率を実現するDガラス材質、耐アルカリ性能を実現するARガラス材質、耐酸性を実現するCガラス材質、高弾性率を実現するMガラス材質、高強度、高弾性率を実現するSガラス材質、またSガラスと同様の機能を有するTガラス材質、さらに高誘電率を有するHガラス材質といった各種ガラス材質を採用することができ、さらに最適な機能を有するように設計された他の材質であっても支障ない。
【0014】
またガラス繊維の形態についても特に限定されるものではない。繊維径や繊維長ばかりか、繊維の断面形状についても種々の形態のガラス繊維を使用することができる。ただし、本発明に係る集束剤の性能を充分に発揮させるためには、より好ましくはガラスモノフィラメントの直径が3〜27μm、一層好ましくは9〜15μmとするのが好適である。このような形態のガラス繊維であれば、常法により集束剤をガラスモノフィラメントの表面に塗布した後、モノフィラメントを30〜6000本程度集束してガラスストランドとし、用途に応じて所定本数引き揃えて巻き取ってから所定長に切断して熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂の補強に用いることができる。
【0015】
また本発明のガラス長繊維は、上述に加えイオン性液体がアニオンを有しており、該アニオンがNO3-、CHCO2-またはフッ素系アニオンであるならば、比較的容易かつ安価に使用することができ、しかも所望の電気的性質を有するアニオンを選択することによって、最適な電気伝導度を有する集束剤を調整することができるので好ましい。
【0016】
ここで、イオン性液体のアニオンがNO3-、CHCO2-またはフッ素系アニオンであるとは、イオン性液体を構成する陰イオンの種別が、組成式でNO3-表記で表される硝酸イオンであるか、組成式がCHCO2-で表される陰イオンか、またはFを構成要素とする陰イオンであることを表している。
【0017】
イオン性液体のアニオンとしてNO3-、CHCO2-またはフッ素系アニオンを使用することによって、適切な電気伝導度を実現することが可能となるので、ガラス繊維の表面に帯電するのを抑制することが可能となる。
【0018】
また本発明のガラス長繊維は、上述に加え脂肪族アミン系カチオンがトリメチルヘキシルアンモニウムイオンであるならば、上述のNO3-、CHCO2-またはフッ素系アニオンとの組み合わせによって帯電性を効率よく抑止することが可能となる。
【0019】
ここで、脂肪族アミン系カチオンがトリメチルヘキシルアンモニウムイオンであるとは、脂肪族アミン系カチオンが以下に示す(化1)に示す構造式で表されるカチオンであることを表している。
【0020】
【化1】

【0021】
本発明のガラス長繊維は、その構成形態がどのようなものでもよい。すなわちロービングやDWRであっても、ヤーンであってもよく、またチョップドストランドであっても組布や、織布、紐、テープ、マット、あるいはシート等の種々の形態とすることができる。
【0022】
本発明のガラス長繊維の製造方法は、1000℃以上の熔融ガラスからブッシングにより上述の何れかに記載のガラス長繊維を連続成形することを特徴とする。
【0023】
ここで、1000℃以上の熔融ガラスからブッシングにより上述の何れかに記載のガラス長繊維を連続成形するとは、所定の組成となるように予め調整した各種のガラス原料を混合した混合バッチを種々の方法により1000℃以上に加熱して溶融状態とし、均質な溶融ガラスを下面に多数のノズルを有する白金製のブッシングにより引き出して連続的にモノフィラメントを成形することで本発明の上述したガラス長繊維とすることを表している。
【0024】
溶融ガラスを溶融する方法や加熱方法は、どのようなものであっても1000℃以上に加熱することによって、均質な溶融ガラスとするものであれば採用することができる。集束剤によりガラス繊維の表面を被覆する工程については、ブッシングによる成形の直後に行うものであっても、連続した工程の一環として行わないものであってもよい。また集束剤のガラスモノフィラメント表面への被覆は、ガラスモノフィラメントの表面が1000℃以上の温度から冷却される途中で行われることが好ましいが、必ずしもこの時に限定されるものではない。
【0025】
本発明のシートモールドコンパウンドは、上述の何れかに記載のガラス長繊維の切断加工品を構成材料として含有することを特徴とする。
【0026】
ここで、上述の何れかに記載のガラス長繊維の切断加工品を構成材料として含有するとは、複数のガラスモノフィラメントが、脂肪族アミン系カチオンを有するイオン性液体を質量百分率表示で0.01%から2%含有する集束剤により被覆され、集束されてなるガラス長繊維、好ましくはイオン性液体のアニオンがNO3-、CHCO2-またはフッ素系アニオンであるようなガラス長繊維の加工品であり、また脂肪族アミン系カチオンがトリメチルヘキシルアンモニウムイオンであるようなガラス長繊維の切断加工品を構成材料とすることを表している。
【0027】
シートモールドコンパウンドについては、SMC(Sheet molding compound)とも呼ばれるが、シート形状のガラス基材に所定の樹脂を含浸させて、指触乾燥の状態としたいわゆるプリプレグ(中間形成材料などとも呼ぶ)を形成し、このプリプレグを利用して樹脂とガラス長繊維の切断加工品との複合材料を得るものであって、本発明のシートモールドコンパウンドについては、実使用可能なものであればどのような樹脂成分を採用するものであってもよい。例えば不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂に適用できる。
【0028】
本発明のシートモールドコンパウンドの用途としては、特に限定されることはないが、例えば自動車部品(天井、ルーフ、床、ドア等)、鉄道などの電車の部材、浴槽、ユニット家具、家具部材(ドア、柱、天井板、樋等)、防水パン、洗面ユニット、トイレユニット、カプセルベッド、各種浄化槽、薬品処理槽、組み立て式パネルタンク、船舶部材、レジャー用ボート(ヨット、モーターボート、釣り船等)、漁船、救命部材、安全標識、防波堤等の港湾施設関連部材(ブロック、カバー、シート、ブリッジ等)、耐圧容器、送風機パネル、大型機器底板、ハウジング、健康器具、遊技機、スポーツ用品等に適用、応用することができる。
【0029】
また、SMCで使用する成型装置はどのような形式のものであってもよいが、成型時にピンホールや巣といった欠陥が発生しないように成型条件を十分に管理された方法によるものであればよい。
【発明の効果】
【0030】
(1)以上のように、本発明のガラス長繊維は、複数のガラスモノフィラメントが、脂肪族アミン系カチオンを有するイオン性液体を質量百分率表示で0.01%から2%含有する集束剤により被覆され、集束されてなるため、高い帯電防止性能を実現し、ガラスロービングのようなガラス長繊維を切断する際に発生する静電気が1KV以下となり、ガラス繊維が切断刃に付着するようなことのないものである。
【0031】
(2)また本発明のガラス長繊維は、イオン性液体がアニオンを有しており、該アニオンがNO3-、CHCO2-あるいはフッ素系アニオンであるならば、用途やガラスの材質等の違いにより集束剤に添加するイオン性液体を構成する適切なアニオンを選択することができ、ガラスロービングの帯電性を効率よく抑制することができる。
【0032】
(3)さらに本発明のガラス長繊維は、脂肪族アミン系カチオンがトリメチルヘキシルアンモニウムイオンであるならば、集束剤に添加された成分に揮発性がなく、適切に帯電性を抑止する効果を揮発により損なうことのないものである。
【0033】
(4)本発明のガラス長繊維の製造方法は、1000℃以上の熔融ガラスからブッシングにより上述の何れかに記載のガラス長繊維を連続成形するものであるため、安定した繊維径を有し、帯電性を抑止した高い性能を有するガラス長繊維を安価に製造することができる。
【0034】
(5)本発明のシートモールドコンパウンドは、上述の何れかに記載のガラス長繊維の切断加工品を構成材料として含有するものであるため、均質で安定な性能を実現でき、設計仕様に従う高い強度を有する構成物を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下に本発明のガラス長繊維とその製造方法、およびシートモールドコンパウンドについて、実施例に基づいて具体的に説明する。
【実施例1】
【0036】
まず、Eガラス組成となるように複数の無機原料を調合してガラス原料バッチを準備し、1000℃以上に加熱されたガラス熔融炉内に投入して加熱を行い、熔融ガラス状態とし、均質な状態とした後に複数のノズルを有する白金製ブッシングから平均直径13.5μmのEガラス製フィラメントを連続的に引き出す。
【0037】
これより以前に本発明の帯電防止剤として、脂肪族アミン系カチオンであるトリメチルヘキシルアンモニウムイオンとCHCO2-とを含有するイオン性液体が0.5質量%、カップリング剤としてγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを0.2質量%、潤滑剤としてカチオン界面活性剤を0.1質量%、フィルムフォーマーとして酢酸ビニルエマルジョンを10質量%含む集束剤を調整して準備する。
【0038】
ブッシングから引き出されたEガラス製フィラメントに常法により集束剤を塗布し、次いでフィラメント200本を収束して巻き取ってケーキを作製する。そして乾燥炉で乾燥を行い、強熱減量1.0%、75番手のガラスストランドを得た後、このガラスストランドを64本合糸し、4800番手のガラスロービングを作製する。
【0039】
こうして作製したガラスロービングを、切断装置を使用してカットスピード50m/分の速度で1インチの長さとなるように連続的に切断し、1インチに切りそろえられたチョップドストランドを得た。
【0040】
このガラスロービングの切断時の静電気をシシド静電気(株)製の静電気測定装置 スタチロンM2を使用し、切断されたガラスロービングの静電気量を計測した。この装置は、帯電体電荷の静電誘導により測定電極に生じる電位を回転するセクターで交流信号とし、増幅、検波して電圧を表示するものであるが、その計測値は+0.5Vであった。計測は異なる検体に対して5回行い、その平均値を計測値としたものである。
【0041】
ガラスロービングを切断して得られたチョップドストランドのガラス含有率が25質量%となるように、不飽和ポリエステル樹脂:75部、低収縮剤:25部、炭酸カルシウム:60部、水酸化アルミニウム:60部、顔料:5部、硬化剤:1部、重合禁止剤:0.03部を調整して作製したシートモールディングコンパウンド用樹脂組成物を使用することによって常法によりチョップドストランドを含浸させた後、40℃で10時間熟成し、シートモールディングコンパウンドを作製した。
【0042】
このシートモールドコンパウンドは、目視による観察でも欠陥等の認められないものであり、実際の使用においても強度などの諸性質について申し分のない性能を有するものであった。
【実施例2】
【0043】
次いで実施例1と同様にEガラス組成の均質な熔融ガラスから白金製ブッシングを使用して、同じく平均直径13.5μmのEガラス製フィラメントを成形する。
【0044】
集束剤としては、実施例1とは異なり、本発明の帯電防止剤として、トリメチルヘキシルアンモニウムイオンとNO3-を含有するイオン性液体が0.5質量%、カップリング剤としてγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを0.2質量%、潤滑剤としてカチオン界面活性剤を0.1質量%、フィルムフォーマーとして酢酸ビニルエマルジョンを10質量%含むように調整して準備する。
【0045】
ブッシングから引き出された平均直径13.5μmのEガラス製フィラメントに常法により事前に準備した帯電防止剤を含有する集束剤を塗布してそのガラス表面に被覆し、フィラメント200本を収束して巻き取ってケーキを作製する。その後乾燥炉で乾燥を行い、強熱減量1.0%、75番手のガラスストランドとした後、このガラスストランドを64本合糸し、4800番手のガラスロービングを作製する。
【0046】
こうして作製したガラスロービングを、実施例1と同様に切断装置を使用してカットスピード50m/分の速度で1インチの長さとなるように連続的に切断して1インチ長のチョップドストランドを得た。
【0047】
このガラスロービングの切断時の静電気を実施例1と同様の方法で、シシド静電気(株)製の静電気測定装置 スタチロンM2を使用し、切断されたガラスロービングの静電気量を計測したところ、その計測値は+0.5Vであった。
【0048】
次いで実施例1と同様に、ガラスロービングを切断して得られたチョップドストランドのガラス含有率が25質量%となるように、不飽和ポリエステル樹脂:75部、低収縮剤:25部、炭酸カルシウム:60部、水酸化アルミニウム:60部、顔料:5部、硬化剤:1部、重合禁止剤:0.03部を調整して作製したシートモールディングコンパウンド用樹脂組成物を使用することによって常法により1インチ長のチョップドストランドを含浸させた後、40℃で10時間熟成して、シートモールディングコンパウンドを作製した。
【0049】
このシートモールドコンパウンドについても実施例1と同様に、目視による観察でも欠陥等の認められないものであり、実際の使用においても強度などの諸性質について申し分のない性能を有するものであった。
【0050】
[比較例]次いで、本発明の比較例として、実施例1あるいは実施例2と同様の手順で同様のEガラス材質を使用してガラス製モノフィラメントを作製した。
【0051】
このEガラス製モノフィラメントに実施例1と実施例2とは帯電防止剤を添加しない点以外は全て同じ添加物により構成した集束剤を、実施例と同様の手順で連続的に常法により塗布する。
【0052】
そして実施例と同様に切断装置で1インチ長のチョップドストランドを連続的に切断することで成形加工し、その際に発生する静電気を実施例同様の方法で計測したところ、その測定結果は6Vと高い値を示すことが判明した。また切断装置による切断時に、切断されたチョップドストランドがカッターに付着しやすく、そのため切断されたチョップドストランドの分散性も低い状態となった。
【0053】
そしてこの切断されたチョップドストランドについても実施例同様の樹脂に同様の方法で含浸させ、熟成したシートモールディングコンパウンドを作製したが、このようにして作製したシートモールディングコンパウンドは外観的にもチョップドストランドの分散性の不均質さが反映され、精緻な表面状態とはならないものであり、高い精度を要求される部品等を構成するには不十分なものであった。
【0054】
以上のように、本発明のガラス長繊維は、帯電しにくいため製造時に問題を生じることもないものであって、効率のよい生産が可能であり、また得られたシートモールドコンパウンド等の各種のガラス繊維関連製品も高い性能を実現できる品位を有するものであることが明瞭となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガラスモノフィラメントが、脂肪族アミン系カチオンを有するイオン性液体を質量百分率表示で0.01%から2%含有する集束剤により被覆され、集束されてなることを特徴とするガラス長繊維。
【請求項2】
イオン性液体がアニオンを有しており、該アニオンがNO3-、CHCO2-またはフッ素系アニオンであることを特徴とする請求項1に記載のガラス長繊維。
【請求項3】
脂肪族アミン系カチオンがトリメチルヘキシルアンモニウムイオンであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガラス長繊維。
【請求項4】
1000℃以上の熔融ガラスからブッシングにより請求項1から請求項3の何れかに記載のガラス長繊維を連続成形することを特徴とするガラス長繊維の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項3の何れかに記載のガラス長繊維の切断加工品を構成材料として含有することを特徴とするシートモールドコンパウンド。

【公開番号】特開2007−131978(P2007−131978A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−326976(P2005−326976)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】