説明

キシロオリゴ糖の製造方法

【課題】広葉樹のチップを高温高圧処理することによりキシロオリゴ糖を製造する方法において、得られる抽出液に含まれる着色成分等の不純物が少なく、後処理が簡易であるキシロオリゴ糖の製造方法を提供すること。
【解決手段】高温高圧処理時に用いる溶媒として、水と常温常圧で分離する有機溶媒との混合溶媒を用いて原料中のヘミセルロースの加水分解抽出を行うことにより、加水分解抽出と、粗脱色・粗精製とを同時に行う。上記有機溶媒としては、高温高圧処理条件下で水と均一に混和するものを用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広葉樹を原料とし、高温高圧水処理によりキシロオリゴ糖を誘導すると同時に粗精製処理を行う、キシロオリゴ糖の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の健康ブームにより、消費者の健康に対する意識は軒並み高くなっている。それに伴い、健康食品の需要及び売り上げは年々飛躍的に増加しており、又「特定保健用食品」の認可を取得する企業も同様に増加している。特定保健用食品の中で最も多くを占める素材はオリゴ糖であり、現在上市されているオリゴ糖の種類としてはフラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、キシロオリゴ糖などがある。これらのオリゴ糖は腸内に生息する悪玉菌であるクロストリジウム属の菌数を減らし、相対的に善玉菌であるビフィズス菌を増加させる効果を有している。なかでもキシロオリゴ糖は最小有効量が0.2〜0.7g/日(菓子総合技術センター:オリゴ糖ハンドブック)と、他のオリゴ糖と比較して一桁少ない量で整腸効果を発揮する非常に優れたオリゴ糖である。
【0003】
キシロオリゴ糖の製造方法としては、原料を前処理してから、キシラーゼ等の酵素を用いて生産するのが一般的である。前処理として今まで検討されてきたのは、酸・アルカリを用いた化学的処理、爆破等の物理的処理である。しかし、酸・アルカリを用いると後工程での精製処理に多大なコストがかかり、一方で爆破処理などの物理的処理は、大スケールでの製造を視野に入れた場合、装置の設計及び設備費が甚大なものになるという欠点を有する。そこで近年注目されているのが、水を反応場に用いた処理(高温高圧水処理)である。水を耐圧容器に入れて高温高圧状態にすることにより、常温常圧の水とは全く異なる性質を発現する(イオン積の増大等)ことが知られており、主にケミカルリサイクルの分野で研究開発が行われている。200℃程度で、高温高圧水処理をキシラン含有バイオマスに対して用いると、得られる抽出液には高収率でキシロオリゴ糖が含まれることが知られているが、同時にキシロースの二次分解物であるフルフラールや水溶性のリグニン成分(シリンガアルデヒドなど)も着色成分として抽出液中に溶け込んでくる。そのため、抽出液は茶褐色を呈しており、食品として提供するためには脱色精製処理が不可欠である。
【0004】
脱色精製処理にはイオン交換樹脂を使用するのが一般的であるが、イオン交換樹脂を数本組み合わせないと完全に精製することはできない(シーエムシー出版:「ウッドケミカルズの最新技術」119頁)。イオン交換樹脂の再生には多量の酸及びアルカリ溶液が必要であり、再生に要する労力も少なくない。またイオン交換樹脂への不可逆的な吸着が避けられないためイオン交換樹脂の寿命が短く、頻繁な交換が必要となりキシロオリゴ糖の生産コスト高の一因になっている。
【0005】
これらの問題を改善する技術としてクロマト分離を用いる処理方法が開示されている(特許文献1参照)。しかし炭水化物成分と着色成分を完全に分離することは困難であり、また完全に分離しようとすると炭水化物成分の収量ロスが避けられないなどの問題がある。また、精製法として糖溶液に有機溶媒を添加する方法(特許文献2参照)が開示されているが、該手法は低分子オリゴ糖と高分子オリゴ糖を分離精製する手法であり、糖成分とその他の不純着色成分を分離する手法ではない。
【0006】
【特許文献1】特開平1−254692号公報
【特許文献2】特開平7−82287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高温高圧水処理によるキシロオリゴ糖の製造において、抽出液中に混入する着色成分等の不純物の量を低減し、精製処理に要する手間やコストを削減することができるキシロオリゴ糖の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、水に有機溶媒を添加した混合溶媒の存在下で高温高圧処理を行うことで、原料中のキシラン成分の加水分解抽出と、抽出液の粗脱色・粗精製を同時に行うことができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、粉砕された広葉樹を原料とし、該原料を水と、常温常圧で水と分離する有機溶媒との混合溶媒の存在下で高温高圧処理して、原料中のヘミセルロースの加水分解抽出を行うことを特徴とするキシロオリゴ糖の製造方法に係わるものである。
【0010】
上記有機溶媒としては、高温高圧処理条件下で水と均一に混和するものを用いるのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のキシロオリゴ糖の製造方法によれば、着色成分等の不純物の多くは有機溶媒層に取り込まれ、得られる抽出液に含まれている着色成分等は従来の高温高圧水処理によって加水分解抽出を行った場合に比べて大幅に少ない。つまり、加水分解抽出と粗脱色・粗精製処理が同時に終了しているため、後の精製処理にかかる手間やコストを大幅に削減することができる。具体的には、通常精製処理として活性炭処理、イオン交換樹脂処理が行われているが、イオン交換樹脂の再生に要する酸及びアルカリ液の量を大幅に減らすことができ、また再生処理に要する手間も低減できる。さらには、イオン交換樹脂に対する不可逆な吸着も少ないため、イオン交換樹脂の寿命も延び、イオン交換樹脂の交換に要する手間やコストも削減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に用いられる原料としては、例えば、白樺、ブナ、ミズナラ等の広葉樹を使用できる。中でも白樺はキシランの含有量が多いため、特に好ましい。これらの原料の形状は、抽出操作を容易にするために例えばチップ状、繊維状等に粉砕されたものが好ましい。
【0013】
加水分解抽出に用いる溶媒としては、水と、常温常圧で水と分離する有機溶媒との混合溶媒を用いる。常温常圧で水と分離する有機溶媒としては、例えば、n−ペンタン、2−メチルペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサンなどの鎖式及び環式脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;n−ブタノール、イソブチルアルコール、s−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ペンタノール、イソペンチルアルコール、n−ヘキサノール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコールなどの鎖式アルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノールなどの脂環式アルコール、ベンジルアルコールなどの芳香族アルコール等のアルコール類;フェノール、クレゾール等のフェノール類;プロピルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテルなどの鎖式又は環式エーテル類、アニソールなどのフェノールエーテル類;メチルエチルケトン、シクロヘプタノンなどのケトン類;酢酸ブチル、酢酸イソアミルなどのエステル類;δ−バレロラクトンなどのラクトン類;リン酸トリエチル、リン酸トリブチルなどのリン酸エステル類;塩化エチレン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化物;ニトロベンゼンなどのニトロ化合物;硫黄化合物;アミン類などが挙げられる。中でも高温高圧処理条件下、例えば200℃までの温度では水と均一に混和するものを用いるのが好ましい。
【0014】
本発明に使用できる有機溶媒としては、極性基を有するものであり、炭素数が比較的多いものなどがあげられる。例えば、炭素数4〜12、好ましくは4〜10程度の鎖式及び脂環式アルコール類、炭素数6〜12程度の芳香族アルコール類、炭素数5〜12のエステル類、炭素数3〜12のエーテル類、炭素数4〜12のケトン類などでを使用できる。これらの中でアルコール類が好適であり具体的には、例えば、n−ブタノール、イソブチルアルコール、s−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ペンタノール、イソペンチルアルコール、シクロペンタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコールなどが挙げられる。これらの中でも、好ましくは220℃まで、特に好ましくは200℃までの温度で水と均一に混和する溶媒を用いるのがよい。上記観点より、本発明においてはn−ペンタノール、シクロヘキサノールなどが特に好適に使用できる。
【0015】
混合溶媒に添加する有機溶媒の割合は、混合溶媒の全体積に対して好ましくは5〜85%、より好ましくは15〜75%、特に好ましくは25〜65%程度とするのがよい。有機溶媒が5%未満では有機溶媒を添加する効果が低い場合があり、また、収率自体は良くても相対的に水の量が増えることから得られる抽出液のキシラン成分濃度が低くなるため、濃縮に要する労力やコストが大きくなり好ましくない。有機溶媒が85%より多いと、効率よく加水分解反応が進行せず、高収率でキシロオリゴ糖を得ることが難しくなる。
【0016】
高温高圧処理に用いる混合溶媒の量は特に制限されないが、通常原料の乾燥重量の10〜200倍、好ましくは30〜120倍程度である。混合溶媒の量が少なすぎると加水分解抽出反応が効率よく進行せず、収率が低下する場合があり、200倍以上では溶媒の量を増やしてもキシロオリゴ糖の収量を増やす効果は得られ難く、抽出液が希薄となるため後の濃縮工程にかかるコストが増大するため好ましくない。
【0017】
上記原料と混合溶媒とを、例えばオートクレーブなどの加熱加圧可能な反応容器に入れて高温高圧処理を行う。この際の温度は180〜200℃とするのが好ましい。200℃より高いと原料中の難分解性リグニン及びセルロースが加水分解されてキシロオリゴ糖と共に溶出されるだけでなく、キシロオリゴ糖及びキシロースの二次分解が進行することがある。180℃未満では加水分解が進行しにくく、キシロオリゴ糖を得るのが難しい。高温高圧処理に要する時間は、通常3〜30分程度である。30分より長いとキシロオリゴ糖及びキシロースの二次分解が進行するため好ましくない。
【0018】
高温高圧処理終了後、有機溶媒を含む抽出液は冷却コイル等により速やかに冷却するのが好ましい。高温のまま長時間放置するとキシロオリゴ糖及びキシロースの二次分解が進行するため好ましくない。
【0019】
なお、上記加熱加圧可能な反応容器として、例えば、高温高圧液体循環ラインを備えた循環式オートクレーブを用いるなどして、高温高圧状態の混合溶媒を原料中に循環させることにより、少量の溶媒で効率よく加水分解抽出を行うことができる。
【0020】
得られた抽出液は、室温付近で静置することにより水相と油相(有機相)とに自然に分離するが、遠心分離などの操作により分離に要する時間を短縮できる。分離後油相(有機相)を除去し、更にろ過や遠心分離などの処理により微細な浮遊物等を除去してもよい。
【0021】
上述のようにして得られたキシロオリゴ糖を含む抽出液は、加水分解抽出と、粗脱色・粗精製とが一つの工程で同時に行われており、水相には着色成分等の不純物が多少含まれるが、そのほとんどは油相(有機相)に含まれるため、後の精製処理の負担を軽減することができる。特に、精製に使用するイオン交換樹脂の再生や交換にかかるコストや手間を大幅に削減することができる。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0023】
(実施例1)
粉砕機によりチップ化した白樺材1gと、水60ml、シクロヘキサノール40mlからなる混合溶媒100mlをオートクレーブに入れ、オートクレーブをバンドヒーターで200℃まで昇温し、15分間保持した。その後冷却コイルで室温まで冷却することにより反応を停止させた。遠心分離により原料チップを除去すると共に水相と油相(有機相)とに分離して油相(有機相)を除去し、キシロオリゴ糖を含む抽出液を得た。得られた抽出液は0.45μmのフィルターでろ過し、微細な浮遊物等を除去した。
【0024】
(実施例2)
水30ml、シクロヘキサノール70mlからなる混合溶媒を用いた以外は実施例1と同様の操作を行いキシロオリゴ糖を含む抽出液を得た。
【0025】
(実施例3)
水40ml、シクロヘキサノール60mlからなる混合溶媒を用いた以外は実施例1と同様の操作を行いキシロオリゴ糖を含む抽出液を得た。
【0026】
(実施例4)
水50ml、シクロヘキサノール50mlからなる混合溶媒を用いた以外は実施例1と同様の操作を行いキシロオリゴ糖を含む抽出液を得た。
【0027】
(実施例5)
水70ml、シクロヘキサノール30mlからなる混合溶媒を用いた以外は実施例1と同様の操作を行いキシロオリゴ糖を含む抽出液を得た。
【0028】
(実施例6)
水80ml、シクロヘキサノール20mlからなる混合溶媒を用いた以外は実施例1と同様の操作を行いキシロオリゴ糖を含む抽出液を得た。
【0029】
(比較例1)
粉砕機によりチップ化した白樺材1gと、水60mlをオートクレーブに入れ、オートクレーブをバンドヒーターで200℃まで昇温し、15分間保持した。その後冷却コイルで室温まで冷却することにより反応を停止させた。遠心分離により原料チップを除去し、キシロオリゴ糖を含む抽出液を得た。得られた抽出液は0.45μmのフィルターでろ過し、微細な浮遊物等を除去した。
【0030】
(試験評価)
[収率]
実施例及び比較例で得られた抽出液中のキシラン成分の収率を以下の方法により算出した。結果を表1に示す。
抽出液をTrichoderma viride起源のキシラナーゼを用いて完全にキシロースにまで分解して、HPLC測定でキシロースを定量することにより、キシロース換算での原料乾燥重量当たりの収率を算出した。なお、原料として用いた白樺材中のヘミセルロース(主にキシラン)含有量は25%である。
【0031】
【表1】

【0032】
実施例で得られた油相(有機相)は褐色であったのに対し、水相は薄い黄褐色であった。一方、比較例で得られた抽出液は褐色であり、実施例で得られた水相と比較すると、比較例で得られた抽出液には多くの着色成分が含まれているのは明らかである。
本発明の脱色・精製効果をより客観的に明らかにするために実施例1及び比較例1で得られた抽出液に以下の試験を行った。
[紫外可視分光分析]
実施例1及び比較例1で得られた抽出液を紫外可視分光分析した。結果を図1に示す。実線で示したのは実施例1、破線で示したのは比較例1の結果である。比較例1では400nm付近に強い吸収がみられるが、実施例1では可視領域(380〜780nm)内の吸収は少ないことがわかる。
図2は、図1に示す吸光度曲線を可視領域(380〜780nm)で積分した値を示すものであり、抽出液中に含まれる着色成分の含有量比を表している。
[GC/MS測定]
実施例1及び比較例1で得られた抽出液にシクロヘキサノールを加えてシクロヘキサノール可溶成分を抽出した。得られたシクロヘキサノール抽出液をGC/MS分析した。結果を図3に示す。図3(イ)は実施例1由来のシクロヘキサノール抽出液であり、図3(ロ)は比較例1由来のヘキサノール抽出液である。また、ヘキサノールのみの分析結果を図3(ハ)に示す。(b)及び(c)のピークはそれぞれ溶媒であるシクロヘキサノール、シクロヘキサノール中に含まれる不純物に由来するものである。(a)はフルフラール由来のピークである。実施例1においてもフルフラールは検出されているが、比較例1に比べてごく少量であることがわかる。(d)はシリンガアルデヒド(リグニン成分)由来のピークである。シリンガアルデヒドは比較例1のみで検出され、実施例1では全く検出されなかった。なお、フルフラールは通常薄い茶褐色、シリンガアルデヒドは黄褐色を呈しすることが知られている。また、(e)にみられるような、比較例1のみから検出され、実施例1には見られないピークも存在し、フルフラール及びシリンガアルデヒド以外の同定されていない不純物も、本発明の製造方法によれば効果的に除去される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例1及び比較例1で得られた抽出液の紫外可視分光分析結果を示す図である。
【図2】実施例1及び比較例1で得られた抽出液の分光定量分析結果を示す図である。
【図3】実施例1及び比較例1で得られた抽出液に溶解した油溶性成分のGC/MS測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉砕された広葉樹を原料とし、該原料を水と、常温常圧で水と分離する有機溶媒との混合溶媒の存在下で高温高圧処理して、原料中のヘミセルロースの加水分解抽出を行うことを特徴とするキシロオリゴ糖の製造方法。
【請求項2】
有機溶媒が高温高圧処理条件下で水と均一に混和する有機溶媒である、請求項1記載のキシロオリゴ糖の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−174719(P2006−174719A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−368759(P2004−368759)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】