説明

キセノン水銀放電ランプおよび光照射装置

【課題】 フル-スタンバイ点灯にて使用する際に、非照射時の点灯状態から定格点灯の入力に切り替えるときに定格点灯時の照度に速やかに回復する構造を備えたキセノン水銀放電ランプを提供すること。
【解決手段】 キセノン水銀放電ランプにおいて、放電容器は、膨出形状の発光部と2つの封止部からなり、発光部の最大径部が発光部の中央より陽極側にあり、最大径部より徐々に2つの封止部に向かうにつれてその径を漸減し、電極軸に沿った断面でみたときに、陰極の先端を通り、電極軸に垂直に引いた仮想線が発光部の内壁と交差する点と陰極の先端中心を結んだ線分の長さAが、陽極の先端を通り、電極軸に垂直な仮想線が発光部の内壁と交差する点と陽極の先端中心を結んだ線分の長さBより短く、A<Bとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電容器にキセノンおよび水銀を封入したキセノン水銀放電ランプおよびそれを光源に使用した光照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光ピックアップレンズに例示される光学部品の精密接着や電子部品の基板への接着には光硬化型樹脂、特には紫外線硬化型樹脂を使用した硬化処理が行われている。その硬化処理には、光照射の対象物が狭い場所にある場合などを考慮して、光ファイバを備えた光学ユニットを具備した光照射装置が使用される。
【0003】
光照射装置の光出射部に光ファイバを取り付け、光源の光を光ファイバで導いて微小領域に照射する。そのような光照射装置が例えば特許文献1(特開平03−200102号公報)に開示され、図2に装置の一例として概略構成図を示す。この光照射装置10は、ランプ11からの光が凹面反射ミラー12で集光反射し、平面反射ミラー13で折り返し、光ファイバ18に導入している。そして、レンズ20、22、反射ミラー21、などを組み合わせて照射面Sに光照射している。光ファイバは長く伸ばした形態のものや光ファイバの直径を例えばφ1mm〜φ5mmと変化させたもの或いは複数本の光ファイバを束ねて分岐して使用するものなど、種々用途に応じた形状へ交換可能になっている。
【0004】
そして、その光源にはキセノン水銀放電ランプが主として使用され、特許文献2(特開2000−149868号公報)にその構成例が開示され、図4にその一例としてランプの概略図を示す。放電容器4の発光部4a´内に陰極2´と陽極3´が対向配置され、発光部内に所定のキセノンと水銀が封入されている。光ピックアップレンズの接着や電子部品の基板への接着を行う製造ラインにおいて使用される光照射装置は、光強度を一定に維持するために定格点灯を継続して行いつつ、例えば光照射装置に備えられたシャッター(不図示)を開閉して必要なときに照射していた。しかし、実際に光接着で使用する時間は、照射対象物であるワークのセッティングからの一連の光接着の製造工程のタクトタイムが通常は5分程度とされ、その中で光照射している時間はおよそ10秒しかない。逆を言えばその10秒で確実に光硬化処理をすることが要求されている。
【0005】
近時、省エネルギーおよびエコロジーの観点から、できるだけエネルギー消費の少ない光照射装置が産業界では必要とされている。すなわち、光照射時のみ定格点灯を行い、非照射時には定格点灯より入力を抑えて点灯させる、いわゆるフル-スタンバイ点灯が要求されている。このフル-スタンバイ点灯は半導体露光などにおいては従前より行われており、例えば、特許文献3(特開2000−181075号公報)にその技術が開示される。
【0006】
そこで、発明者は図2に示した光照射装置において、図4に示したランプと同じようなその中央部が膨出形状の放電容器を備えたキセノン水銀放電ランプをセットし、ワーク非照射時の電力、つまりスタンバイ点灯時の電力を125Wで4分50秒点灯し、その後に定格点灯電力250Wに切り替え、定格点灯時の照度に回復する時間を調べた。その結果が図5である。図5(a)はフル-スタンバイの電力変化、図5(b)は光照度の立ち上がりを、時間軸を横軸として示したものである。そして、従来のランプでは定格点灯時の照度に回復する時間に3秒以上を要することが分かった。これでは、省エネルギーとなるランプの点灯はできても、製造工程のタクトタイムを長く変更せざるを得ず、産業界に受け入れられるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平03−200102号公報
【特許文献2】特開2000−149868号公報
【特許文献3】特開2000−181075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の目的は、キセノン水銀放電ランプを用いた光照射装置をフル-スタンバイ点灯にて使用する際に、非照射時の点灯状態から定格点灯の入力に切り替えるときに定格点灯時の照度に速やかに回復するための構造を備えたキセノン水銀放電ランプおよびそのキセノン水銀放電ランプを用いた光照射装置を提供することにある。
【0009】
光照射装置は、工場内での省スペース化の流れの中でキセノン水銀放電ランプを垂直に配置した構成のものが使用されることが多い。キセノン水銀放電ランプはキセノン(Xe)が静圧で例えば数MPa程度封入されており、点灯時にはアルゴンをバッファガスとして例えば数十kPa封入した通常の水銀放電ランプと比べると、ガス圧が非常に高いために発光部内にガスの流れが強く発生しやすいランプであって、発光部上部への熱対流が生じる。そのため、陰極を下側に位置させる特徴がある。これはランプからの光を集光させる凹面反射鏡の首部開口にランプを配置させるに際して、その凹面反射鏡の集光方向が上下いずれの方向であっても陰極を下側に位置させることは変わらない。それは陰極が上側であると、対流に逆らって放電することになり、つまり電子の流れが阻害されることになり、その結果、アークの揺らぎが発生するからである。
【0010】
図4の従来のランプで、ワーク非照射時の125Wの点灯状態から定格点灯のために250Wに切り替えても定格点灯時の照度に回復するのに3秒以上を要した原因を調べたところ、封入物の水銀が発光部4a´の膨出形状の下部付近に凝結し、その凝結した水銀の蒸発に時間を要していることが判明した。本発明は、非照射時に発光部膨出形状の下部付近に凝結した水銀を定格点灯に切り替えた際に速やかに蒸発させるためのランプ構造を鋭意研究し完成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、請求項1に記載の発明は、放電容器内に陰極と陽極からなる一対の電極を対向配置させ、該放電容器内にキセノンと水銀を所定量封入したキセノン水銀放電ランプにおいて、該放電容器は、膨出形状の発光部と該発光部に連設された互いに反対方向に伸びる2つの封止部からなり、該発光部の最大径部が該発光部の中央より陽極側にあり、該最大径部より徐々に2つの封止部に向かうにつれてその径を漸減し、該キセノン水銀放電ランプの電極軸に沿った断面でみたときに、該陰極の先端を通り、該電極軸に垂直に引いた仮想線が該発光部の内壁と交差する点と該陰極の先端中心を結んだ線分の長さAが、該陽極の先端を通り、該電極軸に垂直な仮想線が該発光部の内壁と交差する点と該陽極の先端中心を結んだ線分の長さBより短く、A<Bであることを特徴とするキセノン水銀放電ランプとするものである。
この構成により陰極側が陽極側に比べて発光部の内壁に近接しており、放電プラズマによる陰極側の内壁の加熱が迅速となり、陰極根元に凝集した水銀が速やかに蒸散する。
本発明において、線分Aおよび線分Bは、陰極全体と陽極全体のそれぞれと発光部内壁との近接度合いを比較する指標の一つとして採用したものである。
【0012】
請求項2に記載の発明は、陰極は第一の電極軸と該第一の電極軸より大径の陰極本体部とからなり、前記陽極は第二の電極軸と該第二の電極軸よりも大径の陽極本体部とからなり、該陽極本体部が全て発光部内に露出していることを特徴とする請求項1に記載のキセノン水銀放電ランプとするものである。この構成によって、電極間距離を一定とした場合、従来ランプと比べて電極間に形成される放電アークの中心を放電容器の発光部の中心から陰極側の封止部側へシフトし、アークプラズマと発光部内壁とをより近接させ、陰極は一部封止部領域に亘って位置するので放電により生じた熱を発光部内壁に伝達しやすい。
【0013】
請求項3に記載の発明は、定格電力が200〜300Wであって、該発光部を構成する石英ガラスの肉厚が2.2mm〜2.9mmであることを特徴とする請求項1または請求項2の何れかに記載のキセノン水銀放電ランプとするものである。この構成により従来のランプと比べて発光部の肉厚が厚いので発光部のガラスの熱容量を従来より大きくすることができ、スタンバイ点灯時に発光部の温度低下を抑制し、水銀の凝縮量も少なく、また、定格点灯時に速やかに凝縮した水銀が速やかに蒸発する。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3の何れかに記載のキセノン水銀放電ランプを、陰極を下側とし陽極を上側にして搭載したことを特徴とする光照射装置とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によるキセノン水銀放電ランプは、陰極が下方、陽極が上方に配置されて光照射装置に装着され、フル-スタンバイ点灯にて使用する際に、非照射時の点灯状態から定格点灯の入力に切り替えたときに、陰極側に凝縮していた水銀が速やかに蒸発し、定格点灯時の光照度に速やかに回復することができる。
【0016】
また、本発明のキセノン水銀放電ランプ用いた光照射装置では、従来の製造工程において、ランプをフル-スタンバイ点灯にて使用する際にも照射時間を長くすることなく使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のキセノン水銀放電ランプの概略断面図である。
【図2】光照射装置の概略図である。
【図3】本発明の効果を示す照度回復特性の測定データを示す。
【図4】従来のキセノン水銀放電ランプの概略断面図である。
【図5】フル-スタンバイ点灯の際の問題点を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について、以下に図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の実施形態にかかるキセノン水銀放電ランプの概略構成を示す断面図である。
【0019】
陰極、陽極とも電極軸と電極軸より大径の電極本体部から構成されている。陰極2は第一の電極軸2aと第一の電極軸2aより大径の陰極本体部とからなり、陽極3は第2の電極軸3aと第二の電極軸3aより大径の陽極本体部3bとからなる。なお、電極はこの形状に限らず、陰極、陽極の両方または一方が、小径の電極軸とそれより大径の電極本体という明確な区別がされず同一の太さの径の電極から構成される場合がある。
陰極を構成する材料はタングステン(W)を基材としてなり、その先端部はエミッタ物質として主としてバリウム(Ba)を含んだタングステンからなる。陽極を構成する材料はタングステンである。なお、陰極のエミッタ物質としてはそのほかに、トリウム(Th)、ランタン(La)などがある。
放電容器4は石英ガラス製で膨出形状の発光部4aと発光部に連設された互いに反対方向に伸びる2つの封止部4b、4bとからなり、発光部の最大径部Lは発光部4aの中央より陽極側に位置している。
発光部4aは、その最大径部より徐々に2つの封止部4b、4bに向かうにつれてその径を漸減している。記号6はタンタル(Ta)からなるゲッターである。
【0020】
キセノン水銀放電ランプは、放電容器4の発光部4a内にキセノンを静圧で0.1MPa〜2MPaの範囲で封入しており、水銀を3〜30mg/cm封入している。ランプの電極軸に沿った断面でみたときに、陰極の先端を通り、電極軸に垂直に引いた仮想線が発光部の内壁と交差する点と陰極の先端中心を結んだ線分の長さAが、陽極の先端を通り、電極軸に垂直な仮想線が発光部の内壁と交差する点と陽極の先端中心を結んだ線分の長さBより短く、A<Bである。
具体的に例示すれば、発光部の最大内径は15mm、発光部の肉厚は2.5mm、発光部の全長は30.6mm、陰極の本体径は5mm、陽極本体径は5mm、線分Aは5.38mm、線分Bは5.57mmである。
【0021】
なお、発光部の形状は膨らみが小さく細長い形状であることが電極と発光部内壁の離間距離を狭めるのに適しており、発光部の最大内径は陰極本体部の4倍以下であることが望ましい。
【実施例】
【0022】
次に、放電容器の発光部の肉厚が光強度立ち上がりに及ぼす影響を調べた実験について示す。
発光部最大外径をφ20mm、Xe封入圧を静圧で8.0気圧(0.8MPa)、Hg封入量を12mg/cm、の条件を一定とし、発光部肉厚が2.0、2.2、2.5、2.7、2.9、3.1mmの6種類で定格電力が200W、250W、300Wの3種類とし、各電力で各肉厚の試験ランプを計18本準備した。
【0023】
そして、試験ランプからの光を入射開口φ5mmの光ファイバに集光して装置外に取り出す光照射装置に陰極を下側にして組み込み、定格電力およびその半分の電力でフル-スタンバイ点灯を行い、被照射物における365nmの紫外光の照度立ち上がりを調べた。 点灯方法は、各定格電力で2分、その定格電力の半分の電力で4分とした。
【0024】
365nmの紫外光の照度立ち上がり(定格時の照度への回復)を調べた結果を図3に示す。記号の◎はスタンバイ点灯からフル点灯へ切り替えた後1秒後にフル点灯時の照度の90%以上に回復したことを示し、記号の○は同じく70%以上90%未満に回復したことを示し、記号の×は同じく70%未満までしか照度が回復しなかったことを示す。なお、肉厚2.9mmの記号の(○)は、フル点灯時の照度の90%以上に回復するものの、この肉厚ではレンズ効果によりファイバへの集光度合いが悪く、照度の絶対値が下がるため◎とはしていない。
【0025】
肉厚が2mmは従来のランプと同じ肉厚であり、200、250、300Wいずれのランプにおいても、フル−スタンバイ点灯には適さないランプとなった。
【0026】
200、250、300Wいずれのランプにおいても肉厚が2.2〜2.9mmのランプはフル−スタンバイ点灯に適するランプであることが分かった。
【0027】
また、3.1mmの場合は、肉厚の影響でレンズ効果が顕著となり、光ファイバに集光する光の量が減少するため、光照射装置自体に適さないランプとなった。測定方法は集光ミラーにて集光させた位置にφ5mm径のファイバを置き、ファイバ端に配置されたレンズを通ってレンズから出射された光をレンズから15mm離れた位置に置いた紫外線照度計の受光部に照射し測定を行った。
【0028】
そして、本発明のキセノン水銀放電ランプを、陰極を下側にし、陽極を上側にして搭載したのが本発明の光照射装置である。装置の構成としては種々の変形はあるが基本的には図2に示した光照射装置と同様である。この光照射装置では、フル−スタンバイ点灯にて使用する際に、本発明のキセノン水銀放電ランプは非照射時の点灯状態から定格点灯の入力に切り替えるときに定格点灯時の照度に速やかに回復するため、従来の製造工程においてフル−スタンバイ点灯した場合には、照射時間を長くすることなく使用できる。
【符号の説明】
【0029】
1 キセノン水銀放電ランプ
1´ キセノン水銀放電ランプ
2 陰極
2a 第一の電極軸
2b 陰極本体部
2´陰極
3 陽極
3a 第二の電極軸
3b 陽極本体部
3´ 陽極
4 放電容器
4a 発光部
4a´ 発光部
4b 封止部
4b´ 封止部
6 ゲッター
6´ ゲッター
10 光照射装置
11 ランプ
12 凹面反射ミラー
13 、平面反射ミラー
20 レンズ
21 反射ミラー
22 レンズ
S 照射面
L 発光部の最大径部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電容器内に陰極と陽極からなる一対の電極を対向配置させ、該放電容器内にキセノンと水銀を所定量封入したキセノン水銀放電ランプにおいて、
該放電容器は、膨出形状の発光部と該発光部に連設された互いに反対方向に伸びる2つの封止部からなり、
該発光部は、その最大径部が該発光部の中央より陽極側にあり、該最大径部より徐々に2つの封止部に向かうにつれてその径を漸減し、
該キセノン水銀放電ランプの電極軸に沿った断面でみたときに、
該陰極の先端を通り、該電極軸に垂直に引いた仮想線が該発光部の内壁と交差する点と該陰極の先端中心とを結んだ線分の長さAが、該陽極の先端を通り、該電極軸に垂直な仮想線が該発光部の内壁と交差する点と該陽極の先端中心とを結んだ線分の長さBより短く、A<Bであることを特徴とするキセノン水銀放電ランプ。
【請求項2】
前記陰極は第一の電極軸と該第一の電極軸より大径の陰極本体部とからなり、前記陽極は第二の電極軸と該第二の電極軸よりも大径の陽極本体部とからなり、
該陽極本体部が全て発光部内に露出していることを特徴とする請求項1に記載のキセノン水銀放電ランプ。
【請求項3】
定格電力が200〜300Wであって、該発光部を構成する石英ガラスの肉厚が2.2mm〜2.9mmであることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載のキセノン水銀放電ランプ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載のキセノン水銀放電ランプを、陰極を下側に、陽極を上側にして搭載したことを特徴とする光照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−119150(P2011−119150A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276445(P2009−276445)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】