説明

キチンマイクロ粒子を含む組成物およびそれらの医学的使用

本発明はキチンマイクロ粒子を含む組成物およびそれらの組成物の医学的使用に関し、特に、感染性因子由来の抗原、キチンマイクロ粒子組成物および更なるアジュバントを含む、ワクチンとして使用するための組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はキチンマイクロ粒子を含む組成物およびそれらの医学的使用に関し、特に、感染性因子由来の抗原、キチンマイクロ粒子組成物および更なるアジュバントを含む、ワクチンとして使用するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
当分野においては、病原体による感染を治療及び/又は予防する新たな方法を開発するという継続的必要性がある。概して、先行技術のワクチンは、不活化又は弱毒化された感染性因子又は合成抗原をベースとしたものであって、それらの弱毒化された感染性因子又は合成抗原が、一次免疫で患者に投与され、続いて、患者に必要な感染防御免疫をもたらすため、通常は、一次接種の数週間後に二次ブースター免疫が患者に施される。免疫応答を増強させるためにワクチン組成物にしばしばアジュバントが含まれるが、比較的僅かな数のアジュバントがヒトに投与されるワクチンで使用することが認められている。特に、経鼻的な経路又は吸入により送達することができる安全なアジュバントに対するニーズが存在する。経鼻投与可能なワクチンは、臨床医を必要とすることなく自分で投与することができるため、特別な有用性を有している。これは、集団予防接種プログラムや、又は訓練された人材が不足している発展途上国において有利である。
【0003】
Shibataら(1−4)による研究は、1〜10μmの食菌作用性(phagocytosable)キチン粒子の経口的送達が、マウス脾臓細胞培養において、Th1サイトカインの上昇をもたらすことを示している。この効果は、可溶性キチンの場合には前述の上昇がもたらされなかったことから、それらの粒子状物質に特異的な効果であった。また、キチンの主要構成要素であるN−アセチル−D−グルコサミンでコーティングされた1μmのポリスチレンマイクロスフェア用いた場合にもこの効果を再現することができた。更に、キチンの経口投与は、ブタクサアレルギーのネズミモデルにおいて、血清IgEおよび肺の好酸球増加を下方制御することも示されている(1)。
【0004】
また、Shibataらは、アレルギー性気道炎症のマウスモデルを開発し、それらのマウスにキチン調製物を経口的に投与することも行っている(Shibata 2000)。ブタクサ−特異的IgEレベルは、免疫前および免疫中に行われたブタクサ−感作マウスに対するキチンの連日経口投与後に有意に低減した。気管支肺胞洗浄(BAL)細胞を免疫の14日後に収集し、キチン処理後には好酸球およびリンパ球レベルの低減が観測された。免疫の14日後に肺の炎症が組織学的に決定され、キチン処理が行われたグループでは、気管支周囲、血管周囲および肺全体の炎症が抑制された。
【0005】
キチンをマウスに予防的に投与し、その後、それらのマウスにブタクサを投与したところ、IL−4、IL−5およびIL−10の産生が有意に低減され、低レベルではあるが、有意なレベルのIFN−γが検出された。また、キチンはC57BL6マウスに投与したときにも予防効果を有しており、ここで、C57BL6マウスは、BALB/cマウスに比べ、細胞媒介性免疫/Th1反応に対しては高感受性の応答者であるが、アレルギー性反応に対しては低感受性の応答者である。ブタクサ−感作マウスがブタクサおよびキチンで同時的に処理されたときには、産生されるIL−4、IL−5およびIL−10のレベルは、ブタクサのみで刺激された場合に比べ、有意に低減された。
【0006】
しかし、Shibataらはアレルギーの治療でのキチンマイクロ粒子の使用を開示しており、それらの組成物は、再発性細菌感染の不在下においてマクロファージを活性化するためおよび免疫システムを予防的に強化するためのサプリメントとして経口的に投与されているが、そのような状況は先進工業国においては徐々に一般的ではなくなってきている。
【0007】
日本国特許出願第19997−0087986 A号(Unitika Limited)は、鼻粘膜へ送達するための粉末、顆粒又はファイバーの形態における脱アセチル化キチン粒子(例えばキトサン組成物)の使用を開示している。これらのキトサン粒子は、20ミクロン〜250ミクロンまでの有効粒径を有しており、炎症部位におけるアレルギー症状の治療、例えば花粉症の治療などでの使用が提案されている。
【0008】
米国特許第5,591,441 9号(Medical Sciences Research Institute)は、微生物感染および生物学的兵器物質(biological warfare agents)からの防御をもたらすための微粒子組成物の使用に関係している。それらの組成物は、そのような微生物を殺すために生体内におけるペルオキシドレベルの一時的な増大をもたらす目的で静脈内に送達される。
【0009】
本発明者らの先行特許出願WO第03/015744号において、本発明者らは、アレルギーの治療、細胞媒介性免疫システムの上方制御から恩恵を受ける状態の治療、例えば細菌感染症、真菌感染症およびウイルス感染症などの治療、ならびにナチュラルキラー(NK)細胞活性及び/又はインターフェロン−γ(IFN−γ)の分泌の上方制御から恩恵を受けるものと考えられる状態の治療、例えば癌の治療などでのキチンマイクロ粒子調製物(CMP)の使用について記載している。
【0010】
Danbiosystは何件かの特許出願を行っており、それらの特許出願では、キチンの脱アセチル化された形態であるキトサンが、特に、患者の粘膜を標的とした、薬剤送達システムとして使用されている。WO第98/30207号は、キトサン、タイプAのカチオン性ゼラチンおよび治療薬を含む組成物を用いて活性物質を粘膜を横断して輸送するためのキトサンの使用に関する。WO第97/20576号は、その組成物が被検者に免疫性を与えるために使用されるときに、その抗原の抗原性を改善する目的で抗原と共に鼻内投与するためのアジュバントとしてのキトサンの使用に関する。WO第90/09780号は、粘膜を横断して薬剤を送達するためのキトサンを含有したマイクロカプセルの使用を開示している。これらの出願において、キトサンは、加水分解反応によってキチンから作り出されるものとして記載されており、その加水分解反応でキチンの大部分の割合のN−アセチル基が除去され、典型的には、約90%レベルの脱アセチル化がもたらされる。
【0011】
当分野においては、ワクチン組成物の開発又は改良により個体に与えられる感染防御を改善する機会を有する数多くの例がある。以下は、より効果的な感染防御の必要性がある例である。
【0012】
日和見病原菌であるPseudomonas aeruginosaは、免疫障害を持った個体における生命にかかわる感染症の主要原因であり、患者を、肺機能の低減および感染症を取り除く能力の低下が存在する人工呼吸器の支援が必要な状態および多くの疾患状態にもたらす重大なリスク因子である。毎年、結果として、2百万人以上の患者が死亡している。病院に関係した感染症の発生率についての1つのレポートは、P.aeruginosaを、最も頻繁に報告される3つの病原体のうちの1つに挙げている(5)。また、P.aeruginosaは、嚢胞性線維症患者における慢性肺感染症および生命にかかわる肺感染症の一般的原因でもある。最近のレポートは、P.aeruginosaを、最も深刻な抗生物質耐性菌のうちの1つであって、効果的なワクチンが必要とされている細菌として記載している(6)。
【0013】
Streptococcus pneumoniaeは、遍在的な病原菌であって、高い割合で肺炎(大葉性肺炎と気管支肺炎との両方)の場合に関与しており、また、若年小児、高齢者および免疫システム障害を有している人々、例えば疾患の結果として、例えばAIDSなどの結果として免疫システム障害を有している人々、又は免疫抑制療法の結果として、例えば骨髄移植などでの免疫抑制療法の結果として免疫システム障害を有している人々の中で生じる病気および死亡の1つの主要な原因である。細菌が血液中又は他の器官中に広まる侵襲的な形態の連鎖球菌感染は、非常に重大な合併症をもたらす。米国においては、毎年、肺炎球菌による疾病が、3000例の髄膜炎、50,000例の菌血症、125,000件の入院および6,000,000例の中耳炎を引き起こしているものと推測される。また、S.pneumoniaeの抗生物質耐性菌の出現についての懸念も高まっている。
【0014】
最近、汎発性インフルエンザが発生するリスク、例えば鳥インフルエンザから生じるインフルエンザが世界的規模で発生するリスクが、集団感染の効果的な予防および治療の必要性に関する認識を高めている。
【0015】
第三世界においては、人々が多くの感染性因子に晒されており、また、感染症を効果的で経済的なワクチンの開発によって予防又は改善することができる。治療可能であると考えられる病気の例はマラリアを含む。寄生虫感染症であるマラリアは、世界中の多くの地域における死亡および病的状態の1つの重要な原因であって、毎年、3億〜5億人の人々が罹患し、百万〜2百万人の人々が死亡しており、そのうちのほとんどが5歳以下の子供たちである。マラリアは、第三世界における経済的発展に計り知れない影響を及ぼしている。最近の薬剤耐性菌の出現は大いなる懸念を引き起こしており、また、地球的規模での気候変動が発展途上国における発病率の上昇ももたらしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
これらの国々においては、一次接種の数週間後に二次ブースター接種を受ける必要性を回避するのに役立たせるため、短期間での投与コース後に感染防御機能をもたらすことができるワクチンを利用できるようになることはかなり有利である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
広い意味では、本発明は、キチンマイクロ粒子を含む組成物およびそれらの組成物の医学的使用に関係し、特には、感染性因子由来の抗原およびアジュバントとして作用するキチンマイクロ粒子(CMP)組成物を含む、ワクチンとして使用するための組成物に関する。本発明の好適な態様においては、前記組成物は、更なるアジュバントを含み、即ち、前記CMP組成物とは異なるアジュバントを含む。本明細書で提示されている結果は、単独で使用したときにCMP組成物が免疫システムの広範囲にわたる上方制御をもたらすことができることを示しているWO第03/015744号で開示されている結果との対照において、キチンマイクロ粒子がワクチン組成物におけるアジュバントとして作用することができることを示している。また、本発明は、前記CMP組成物が更なるアジュバントと併用されたときに、前記CMP組成物が感染性因子由来の抗原に対してもたらされる感染防御機能を相乗的に増強することができることも示している。1つの更なる態様においては、本発明は、本明細書で開示されている組成物を1週間につき複数回(例えば、1週間につき少なくとも2回、又は一層好適には3回もしくはそれ以上の回数)投与することにより、より一般的な投与パターン、即ち、初回の免疫後、数週間の間隔をあけて二次ブースター免疫が行われる投与パターンに比べ、その感染性因子に対してもたらされる感染防御応答を増強することができることを示している。
【0018】
従って、第1の態様においては、本発明は、感染性因子由来の抗原、キチンマイクロ粒子調製物(CMP)および更なるアジュバントを含む組成物を提供する。これらの組成物は、感染症および関連する症状の予防および治療に使用することができる。前記抗原は、天然、合成又は組み換えDNA技術により誘導されたものであってよい。
【0019】
前記組成物はワクチン組成物であってよい。従って、前記組成物は、その生物体が引き起こす状態に対する免疫を与えるために使用される、殺されるか弱められるかのどちらかの生物体全体又はそのような生物体の一部由来の抗原を含み得る。一例を挙げれば、その感染性因子は、細菌感染症、真菌感染症、ウイルス感染症又は寄生虫感染症を引き起こすことがあり得る。
【0020】
1つの更なる態様においては、本発明は、治療において使用するための本明細書で定義されているとおりの組成物、特には感染性因子により引き起こされる状態を予防又は治療するために使用される、本明細書で定義されているとおりの組成物を提供する。
【0021】
更なる態様においては、本発明は、感染性因子由来の抗原、キチンマイクロ粒子調製物(CMP)および更なるアジュバントを含む組成物の使用であって、その感染性因子により媒介される状態を予防又は治療することを目的とした薬剤を調製するための使用を提供する。その感染性因子は細菌感染症、真菌感染症、ウイルス感染症又は寄生虫感染症を引き起こすものであってよい。
【0022】
更なる態様においては、本発明は、感染性因子により媒介される状態に対して患者にワクチン接種を施すための方法を提供し、その方法は、そのようなワクチン接種を必要としている患者に、本明細書で定義されているとおりの組成物であって、治療上又は予防上有効量のその組成物を投与することを含む。
【0023】
CMP調製物と共に前記組成物において使用することができると考えられる他のアジュバントの例は、コレラトキシン、例えばコレラホロトキシン(CT)又はコレラトキシンBサブユニット(CTB)などをベースとしたアジュバント、合成CpG DNAおよび細菌細胞壁生成物をベースとしたアジュバントを含む。
【0024】
有利なことに、本明細書で与えられている実施例は、本発明の組成物が1週間につき少なくとも2回投与される投与パターン、より好適には1週間に少なくとも3回投与される投与パターンが、初回の免疫後、数週間の間隔をあけて二次ブースター投与が行われる、より一般的な投与パターンに比べ、その感染性因子に対してもたらされる感染防御応答を増強することを示している。
【0025】
本発明においては、一連の送達経路を用いて、ワクチン接種を必要としている個体に前記組成物を送達することができる。好適には、これらの送達経路は、舌下もしくは経口経路による送達、注射による送達、例えば皮下注射および筋肉内注射による送達、ならびに、鼻内に(例えば、鼻内スプレーを用いて洞および上気道へ)前記マイクロ粒子を送達する経路、又は吸入により、例えば肺内の肺胞マクロファージを標的として、前記マイクロ粒子を送達する経路を含む。前記組成物は、粘膜を介する送達経路によって患者に投与されてもよいし、又は粘膜を介さない送達経路によって患者に投与されてもよい。経粘膜的な送達経路は、鼻内送達、舌下送達、経口送達、点眼薬での送達および吸入による送達を含む。経粘膜的送達経路は、舌下送達、例えば頬粘膜への舌下送達;経口送達、例えば腸粘膜への経口送達;点眼薬での送達、例えば眼粘膜への点眼薬での送達;鼻内送達、例えば鼻粘膜および上気道の粘膜への鼻内送達;ならびに吸入による送達、例えば上下気道の粘膜への吸入による送達、例えば肺粘膜などへの吸入による送達;を含むことができる。本発明の幾つかの態様においては、経粘膜的送達経路は、非経粘膜的経路に比べ、以下の利点、即ち:安全であること;一般的には通常の注射での場合のようにワクチン接種を施すために臨床医を必要とすることから、経粘膜的送達経路による投与の方が容易であること;分配(distribution)が容易であること;製造コストが低減されること;および経粘膜的送達は細胞性免疫応答と体液性免疫応答との両方を活性化し得ることから、免疫学的応答が改善されること;のうちの1つ又はそれ以上の利点をもたらし得るため、好適である。
【0026】
非経粘膜的送達経路は、注射による送達、例えば皮下注射又は筋肉内注射による送達を含む。
【0027】
別の態様においては、本発明は、感染性生物体により引き起こされる状態に対する免疫を与えるべく患者に同時的又は逐次的に投与するためのキットを提供し、そのキットは:
a)キチンマイクロ粒子組成物;
b)感染性因子由来の抗原;および
c)更なるアジュバント;
を含む。このキットは、更に、送達用のデバイスを含んでいてもよい。
【0028】
1つの更なる態様においては、本発明は送達デバイスを提供し、その送達デバイスは本明細書で定義されているとおりのキチンマイクロ粒子のレザバーおよび患者の口内又は鼻内に位置させることができるように適合化されている送達用オリフィスを含み、ここで、患者は、前記キチンマイクロ粒子を投与するため、前記送達用オリフィスを口内又は鼻内に位置付けることができる。幾つかの実施形態においては、前記デバイスは前記レザバーと送達用オリフィスとの間にバルブを含んでいてよく、この場合には、そのバルブを操作してキチンマイクロ粒子の送達を制御することができる。それらのマイクロ粒子は、吸入により及び/又は推進剤により、洞および上気道へ向けて鼻内に引き込まれてもよいし、又は口を通じて肺胞マクロファージへ引き込まれてもよい。特に好適なデバイスの形態は、CMP調製物および場合によっては担体を含有した鼻腔用スプレーボトルであって、そのスプレーボトルは、経鼻的な送達ができるように適合化された頸部を有している。
【0029】
次に、本発明の実施形態が、限定的な意味でなく、例証として、添付図面を参照しながら説明される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】0日目、21日目、42日目および56日目に免疫されたマウスにおける抗MSP1−19 IgGの力価(titer)を示している。MSP1 IgGは、最終免疫を行ってから28日目に測定された。rA=MSP119。(n=4/グループ)
【図2】免疫頻度が及ぼす影響を示している:3週間に2回(IN2−2)、合計で2回の鼻内免疫。2回/週を3週間(IN2−6)、合計で6回の鼻内免疫。3回/週を3週間(IN3−9)、合計で9回の鼻内免疫。(n=4/グループ)
【0031】
〔表の簡単な説明〕
表1は、異なるMSP119ワクチン調合物で鼻内的に免疫されたマウスの生存率を示している。CMP、キチンマイクロ粒子;CTB、コレラトキシンBサブユニット;MSP119、メロゾイト表面たんぱく質−1の19キロダルトン−カルボキシル末端フラグメント。4匹のBALB/cマウスのグループが0日目、14日目、28日目および42日目にMSP119プラスCMPもしくはCTBで、又はMSP119プラスCMPとCTBとの両方で経鼻的に免疫された。マウスは、最終免疫を行ってから30日目に、1匹のマウス当たり1×104個のP.yoelii−pRBCがチャレンジ投与された。
【発明を実施するための形態】
【0032】
キチンマイクロ粒子
キチンはN−アセチル−D−グルコサミンのポリマーである。キチンは、本来、豊富ポリサッカリド(abundant polysaccharide)であり、カニ、エビ、ロブスター、甲イカおよび昆虫の外骨格ならびに真菌に存在する角質物質を含む。容易に入手可能で好適なキチンのソースはエビの殻から得られる。キチンのこれらのソース又は他のソースのどれもが、本発明により使用するためのCMP調製物を調製するのに適している。代替的に、前記CMPは、天然ソースからの抽出に代わるものとして、化学又は酵素技術により合成することもできる。この手法は、より均質な生成物をもたらすという利点を有する。
【0033】
好適には、キチンは、例えば超音波処理又はミリングにより、物理的に小さくし、50μm未満の直径を有する粒子、より好適には40μm未満、更に一層好適には20μm未満、特に好適には10μm未満、最も好適には5μm未満の直径を有する粒子にすることにより製造される。本発明者らはキチンマイクロ粒子により引き起こされる効果がサイズ依存性であることを見出していることから、それらのキチンマイクロ粒子は10μm未満の平均直径を有していることが好適である。キチン粒子のサイズの上限は、マクロファージがそれらの粒子を認識しないことによって機能的に定められてよい。サイズの下限はそれほど重要ではないが、好適には、それらの粒子は直径が少なくとも1μmである。サイズの下限は、キチン粒子が可溶性になり、このためにマクロファージによって認識されなくもなることにより機能的に定められる。粒子のサイズおよびサイズ分布は、当業者であれば、例えばフローサイトメトリー又は顕微鏡を用いて容易に決定することができる。代替的又は付加的に、前記キチンマイクロ粒子は、担体粒子、例えば生体適合性材料から形成された担体粒子、例えばポリスチレン又はラテックスから形成された担体粒子を、N−アセチル−D−グルコサミン、キチン又はそれらのフラグメントでコーティングして、上で定められているとおりのサイズを有する粒子を形成することにより作成することができ、これらの組成物は、本明細書で使用する際のキチンマイクロ粒子組成物という用語の範疇に含められる。
【0034】
ある組成物において、前記キチンマイクロ粒子は、サイズのある分布、典型的には正規分布を有し、集団内のすべての粒子が必ずしもこれらのサイズの制限を満たすものではないことを認識すべきである。しかし、CMP調製物を形成するキチンマイクロ粒子の集団内において、好適には少なくとも60%、より好適には少なくとも75%、一層好適には少なくとも90%、更に一層好適には95%、最も好適には少なくとも99%のキチン粒子が上で設定されている制限内のサイズ分布を有している。
【0035】
また、当業者であれば、キトサンは、キトサンのポリサッカリド単位が実質的に脱アセチル化されている本発明において使用されるCMP調製物を作成するために用いられるキチンとは異なる材料であることも認識される。キチンが天然の材料から誘導されるときには、その組成物にばらつきがあり、キチンポリマーにおいて自然に発生する低レベルの脱アセチル化単位が存在し得る。しかし、本発明のCMP組成物においては、キチン組成物における脱アクチル化(deactylated)単位は、全単位のうちの20%未満を構成していることが好適であり、より好適には全単位のうちの15%未満を構成し、一層好適には全単位のうちの10%未満を構成し、最も好適には全単位のうちの5%未満を構成する。
【0036】
薬剤組成物
上で検討されているキチンマイクロ粒子調製物に加え、本発明による組成物は、更に、感染性因子由来の抗原を含んでいてよい。その感染性因子は、細菌感染症、真菌感染症、ウイルス感染症又は寄生虫感染症を媒介するものであってよい。本明細書で検討されているように、特には更なる別のアジュバントを伴った、CMPアジュバントと抗原との組み合わせは、その感染性因子による感染を治療又は予防するのに有用な相乗的応答をもたらす組成物を提供することができる。
好適な実施形態においては、本発明の組成物は、マラリア、インフルエンザ又はHIVを治療又は予防するために使用される。
【0037】
本発明に従って使用することができる抗原およびワクチンの例は、不活化されたウイルス、例えばH5N1、H1N1、H3N2などから調製されるインフルエンザヘマグルチニン(HA)ワクチン、HIV−DNA又はHIV抗原を含有したHIVワクチン、炭疽病ワクチン、例えば遺伝子組み換え型感染防御抗原(PA)を含有したものなど、haemophilusインフルエンザ抗原およびヒトパピローマウイルス抗原、例えばE7タンパク質などを含む。
【0038】
多くの感染性因子と同様に、マラリアに対する予防接種用の組成物に含むのに適した抗原は当分野において公知である。
【0039】
マラリアの場合、メロゾイトが赤血球の感染に先立つその寄生虫におけるライフサイクルの血液感染性(blood borne)形態である。メロゾイト表面タンパク質1(MSP1)は、有望なマラリアワクチン候補物質として認識されており、幾つかの研究において、ワクチン候補物質として試験されている(Siddiqui et al. Merozoite surface coat precursor protein completely protects Aotus monkeys against Plasmodium falciparum malaria. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1987 84: 3014)。また、鼻内免疫されたマウスにおいて、効能も実証されている(Hirunpetcharat et al. Parasite Immunology. Vol 20 Issue 9, 1998)。MSP1は、最初の認識および赤血球へのメロゾイトの付着にかかわっている(Fujioka H, Masamichi A. The malaria parasite and its life cycle. In: Wahlgren M, Perlmann P, (eds) Malaria: Molecular and Clinical Aspects. Amsterdam: Harwood Academic Publishers, 1999, 19)。
【0040】
MSPに対する抗体は、メロゾイトを凝集又はオプソニン化することによりその寄生虫を中和し、初感染時および疾患の増幅期(amplification stages)の間にメロゾイトが赤血球に侵入するのを防止する。その寄生虫のライフサイクルの間に、MSP1タンパク質は、MSP119と呼ばれるC−末端フラグメントを含む更に小さなフラグメントに開裂される。この19kDaのペプチドフラグメントは、マウスを感染させる菌株であるP.yoeliiを含むPlasmodium spp内に高度に保存されており、このことが、このペプチドフラグメントをマラリアワクチンでの理想的な標的に成している。MSP119は、イースト発現系を用いて組み換えタンパク質として生成することができる。
【0041】
しかし、組み換えサブユニットワクチンは免疫原性が乏しく、最適なIgG力価をもたらすためには適切なアジュバントの付加が必要である。適切なアジュバントを同定できないことは、マラリアワクチンの開発にとって重大な障害であり、これは、粘膜表面に送達されるワクチン、例えば経鼻的なワクチンなどでは特に問題である。経鼻的なワクチンの利点は、寛容性により優れていること、および体液性免疫応答と細胞性免疫応答との両方を含む一層頑強な感染防御応答を引き起こすことができることを含む。また、集団予防接種の場合には、経鼻的なワクチンは、それの投与に必要な臨床要員が僅かな人数で済むという利点も有している。
【0042】
本明細書で詳述されているように、前記CMP調製物は、更なる別のアジュバントと組み合わせて使用されることが好適である。前記CMP調製物を伴う組成物において使用され得る他のアジュバントの例は、コレラトキシンをベースとしたアジュバント、例えばコレラホロトキシン(CT)又はコレラトキシンBサブユニット(CTB)をベースとしたアジュバント、合成CpG DNAおよび細菌の細胞壁生成物をベースとしたアジュバントを含む。アジュバントの使用については、F. Vogel, M. PowellおよびC. Irvingによる「A Compendium of Vaccine Adjuvants and Excipients (second edition)」で精査されており、この文献はNIHのウェブサイト:
http://www.niaid.nih.gov/daids/vaccine/pdf/compendium.pdf
で入手可能である。
【0043】
コレラトキシンサブユニットB(CTB)は強力な粘膜アジュバントであるが、CTBは望ましくない副作用をもたらすことがある。これらの副作用は、少量(0.1−2%)のコレラホロトキシンを加えることにより低減することができる。CTBは局所的な粘膜の細胞性免疫応答ならびに全身性IgG応答を刺激し、実験的な経鼻ワクチンにおいて一般的に使用されている(Vadolas et al. 1995. European journal of Immunology 25, 969)。
【0044】
ペプチドグリカン又はリポポリサッカリド誘導体、例えばムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(MDP)、モノホスホリル脂質A(MPL)、トレハロースジミコラート(TDM)、コレラトキシンBサブユニット(CTB)、CpG DNAなどを含む細菌誘導アジュバント、IL−12およびIFNならびにGM−CSFを含む免疫刺激性サイトカイン。
【0045】
アジュバントは、時として、同じワクチン調合物において一緒に投与されたときに相乗効果を及ぼし得ることが当分野において報告されている。しかし、本発明以前には、キチンマイクロ粒子がワクチン調合物において他のアジュバントと併用されたときにこの相乗活性を持ち得ることは知られていなかった。
【0046】
キチンマイクロ粒子、抗原およびアジュバントに加え、前記CMP調製物は、薬剤学的に許容可能な賦形剤、担体、推進剤、緩衝剤、安定剤、等張化剤、保存剤もしくは酸化防止剤、又は当業者に周知の他の材料のうちの1つ又はそれ以上の成分を含むことができる。そのような材料は無毒でなければならず、および、前記活性成分の効能を妨害するものであってはならない。
【0047】
保存剤は、一般的に、微生物の増殖を遅延させ、その組成物の貯蔵寿命を延ばし、多回使用包装を可能にするために、薬剤組成物に含められる。保存剤の例は、フェノール、メタ−クレゾール、ベンジルアルコール、パラ−ヒドロキシ安息香酸およびそのエステル、メチルパラベン、プロピルパラベン、ベンザルコニウムクロリドならびにベンゼトニウムクロリドを含む。保存剤は、典型的には、約0.1%から1.0%(w/v)の範囲で使用される。
【0048】
好適には、前記薬剤組成物は、「予防上有効量」又は「治療上有効量」(場合によっては、予防は治療と見なされ得るが)で個体に与えられ、この有効量は、個体にメリットを示すのに充分な量であり、例えばアレルギーもしくは他の状態の緩和をもたらす量、又は納得のいくある期間予防をもたらす量である。典型的には、これは、その個体にメリットをもたらす治療学的に有用な活性を引き起こすためのものである。投与される化合物の実際の量、ならびに投与の速度およびタイムコースは、治療される状態の性状および重症度に依存する。治療内容の指示、例えば投薬量に関する決定などは、一般開業医および他の医師の責任の範囲内であり、典型的には、治療されるべき障害、個々の患者の状態、送達部位、投与方法、および開業医にとって公知の他のファクターを斟酌して行われる。上で述べられている技術およびプロトコルの例は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, Osol, A.(ed), 1980およびRemington's Pharmaceutical Sciences, 19th edition, Mack Publishing Company, 1995に見出すことができる。前記組成物は、好適には、体重1kgあたり活性化合物が約0.01mg〜100mgの間の用量で投与され、より好適には約0.5mg/kg(体重)〜10mg/kg(体重)の間の用量で投与される。例を挙げれば、これは、約0.25mlの5mg/mlのCMP粒子の溶液からなる4〜8回の用量を送達するための経鼻送達ボトルを用いて達成することができる。
【0049】
感染性因子
本明細書に記載されている組成物は、感染性因子による個体の感染によって引き起こされる一連の状態の治療又は予防を用途として適用することができる。
【0050】
広く言えば、感染性因子は一連の顕微鏡的生物体、例えば細菌、ウイルス、寄生虫および真菌などを含む。感染性因子由来の一連の抗原又は不活化された形態のそれらの感染性因子が公知であり、また、当業者により開発される更なる例が、本明細書で開示されているとおりのCMPアジュバントおよび場合によっては1つ又はそれ以上の更なるアジュバントと組み合わせて、個体を感染防御又は治療するための組成物において使用することができる。好適な実施形態においては、本発明は、マラリア、HIV又はインフルエンザの治療又は予防のために使用することができる。
【0051】
例を挙げれば、ウイルス性の感染性因子により引き起こされる疾患又は状態は、エイズ、エイズ関連症候群、水痘(Varicella)、風邪、サイトメガロウイルス感染、コロラドダニ熱、デング熱、エボラ出血熱、流行性耳下腺炎、流感、手足口病、肝炎、単純ヘルペス、帯状ヘルペス、ヒトパピローマウイルス、インフルエンザ、ラッサ熱、麻疹、マールブルグ出血熱、感染性単核球症、おたふく風邪、急性灰白髄炎、進行性多病巣性白質脳障害、狂犬病、風疹、重症急性呼吸器症候群(SARS)、天然痘(Variola)、ウイルス性脳炎、ウイルス性胃腸炎、ウイルス性髄膜炎、ウイルス性肺炎、西ナイル病および黄熱病を含む。
【0052】
例を挙げれば、細菌性の感染性因子により引き起こされる疾患又は状態は、炭疽病、細菌性髄膜炎、ブルセラ症、腺ペスト、カンピロバクター感染症、コレラ、ジフテリア、流行性発疹チフス、淋病、膿痂疹、ハンセン病、レジオネラ、癩病、レプトスピラ症、リステリア症、ライム病、類鼻疽、MRSA感染症、ノカルジア症、百日咳、肺炎球菌性肺炎、オウム病、Q熱、ロッキー山紅斑熱(RMSF)、サルモネラ症、猩紅熱、細菌性赤痢、梅毒、破傷風、トラコーマ、結核症、野兎病、腸チフス、発疹チフスおよびゼーゼーいう咳を含む。
【0053】
例を挙げれば、寄生虫感染症により引き起こされる疾患又は状態は、アフリカトリパノソーマ症、アメーバ症、アメーバ感染症、回虫症、バベシア症、シャーガス病、肝ジストマ症、クリプトスポリジウム症、嚢尾虫症、裂頭条虫症、メジナ虫症、エキノコックス症、蟯虫症、肝蛭症、肥大吸虫症、フィラリア症、ジアルジア鞭毛虫症、顎口虫症、膜様条虫症、イソスポーラ症、カラ−アザール、リーシュマニア症、マラリア、メタゴニムス症、ハエ蛆症、オンコセルカ症、シラミ寄生症、疥癬、住血吸虫症、条虫症、トキソカラ症、トキソプラズマ症、旋毛虫症、旋毛虫病、鞭虫症およびトリパノソーマ症を含む。
【0054】
例を挙げれば、真菌感染症により引き起こされる疾患又は状態は、アスペルギルス症、ブラストミセス症、カンジダ症、コクシジオイデス症、クリプトコックス症、ヒストプラスマ症および足部白癬を含む。
【0055】
本発明は、細菌感染症、真菌感染症およびウイルス感染症を含む微生物感染症の治療に適用可能であり、特に、中でもとりわけ、被害を受けやすい患者グループ、例えば高齢者、未熟児、幼児、移植患者、免疫抑制患者、例えば化学療法を受けている患者、日和見性の感染に罹患するリスクを負った入院患者、人工呼吸器を使用している患者、嚢胞性線維症患者およびエイズに罹患している患者などでの微生物感染症の治療に適用することができる。本発明は、特に、耳、鼻、喉および肺の感染症の治療に適用することができる。
【0056】
細菌感染症の具体的な例は、微生物による感染症の治療、例えばPseudomonas aeruginosa、Streptococcus種、例えばStreptococcus pneumoniae、Streptococcus pyrogenes、Streptococcus agalactiaeなど、Haemophilus influenza、Klebsiella pneumoniae、Yersinia enteocolitica、Salmonella、Listeriaなどによる感染症の治療、Mycobacterium tuberculosis、Mycobacterium lepraeを含むマイコバクテリア感染症の治療、Leishmania種およびSchistosoma種を含む寄生虫感染症の治療を含む。
【0057】
微生物感染により引き起こされる1つの状態、典型的にはStreptococcus pneumoniaeにより引き起こされる1つの状態は、再発性耳感染、例えば中耳炎などである。これらの状態は、子供および大人で起こり、現行では抗生物質を用いて治療されている。これらの状態を治療するために本発明のキチンマイクロ粒子を使用し、抗生物質の必要性を低減することが有利である。
【0058】
本発明の調製物は、存在している感染症を治療するため又は被害を受けやすい患者グループが感染するのを防ぐためのいずれかを目的として結核の治療に使用することができる。
【0059】
微生物感染の他の例は、細菌性肺炎、例えば機械換気に関連した肺炎、および嚢胞性線維症に関連した感染症を含む。
【0060】
真菌感染症の例は、例えば免疫抑制患者における真菌感染症、例えば侵襲性肺アスペルギルス症および侵襲性肺カンジダ症、Pneumocystis carinii肺炎、CoccidioidesおよびCrytococcus感染症などを含む。
【0061】
本発明により治療可能なウイルス性状態の例は、肺のウイルス性感染症、例えば、特には幼児および高齢者における、呼吸器合胞体ウイルス細気管支炎、又はインフルエンザウイルス、又はライノウイルスを含む。数多くの研究が、エイズの進行期間中、単核球はIL−2、IL−12およびIFN−γを分泌する能力を失い、HIVウイルスが増殖するのを許容する高められたレベルのIL−4を産生することを示している。従って、鼻内投与又は吸入によって与えられるCMPでの治療は、IL−12およびIFN−γのレベルを回復させることにより、HIV感染症の進行を遅らせるのに有用である。
【0062】
1つの実施形態においては、本発明により治療可能な状態は癌であり、特には、その癌が感染性因子によって引き起こされたものであって、本発明がその癌を攻撃するため、又はその癌の原因である感染性因子(例えば、あるウイルス)を攻撃するために、免疫システムを上方制御することができることにより治療が可能な場合である。現在では、感染性因子が癌の原因となり得ることは公知であり、例えばヒトパピローマウイルス(HPV)は女性の子宮頸癌の原因となることが示されており、また、HPVに対するワクチン接種は子宮頸癌を予防するために、治療又は助力する効果的な方法であることが示されている。HPVは子宮頸癌の70%を占めており、ワクチン、Gardasilが子宮頸癌の予防治療用に承認されている。Gardasilは、HPVs6、11、16および18のL1タンパク質から組み立てられた粒子のように、組み換えウイルスを含んでいる。1つの更なる実施形態においては、本発明は、組成物およびそれらの組成物の医学的使用を含み、そこでは、感染性因子由来の抗原が、アジュバントおよびCMP組成物と組み合わせたGardasil組成物により与えられる。更なる例を挙げれば、B型肝炎ウイルス(HBV)に対するワクチンは個体が肝臓癌になるリスクを軽減することが示されている。CMPおよび更なるアジュバントとの組み合わせにおけるそのようなワクチンの使用は本発明の一部を形成する。
【0063】
本発明と連結して使用され得る癌ワクチンを作成ための他の手法は、癌細胞、癌細胞の一部又は癌細胞抗原である抗原の使用を含む。このワクチンは、体内に既に存在している癌細胞に対する免疫応答を高め、一般的には、そこから抗原が誘導される特定の形態の癌に対して特異的であるという利点を有している。
【実施例】
【0064】
材料および方法

マウス
BALB/cマウス(6−8週齢、n=4/グループ)を使用した。
【0065】
免疫
免疫は、指示されている場合には100マイクログラムのCMPおよび5マイクログラムのCTBと混合された10マイクログラムのMSP119を含有する合計で20マイクロリットルが鼻内に与えられた。
【0066】
免疫プロトコル
抗体を測定するために、マウスが第0日目、第21日目、第42日目および第56日目に免疫された。特異的IgGが最終免疫をしてから28日目に測定された。
【0067】
3週間で2回、1週間に2回を3週間、又は1週間に3回を3週間与えられたときの、併用ワクチン(combined vaccine)(MSP1、CTB、CMP)での異なる免疫プロトコル間で比較を行った。チャレンジ投与の研究では、マウスが第0日目、第14日目、第28日目および第42日目に鼻内免疫された。
【0068】
P.yoeliiのチャレンジ投与
チャレンジ投与は、最終免疫を行ってから30日後に与えられた1×104個の生きたP.yoelii YM寄生赤血球(pRBC)のi.v.注射により行われた。尾の血液サンプルから採取した赤血球の感染率(%)を調べる顕微鏡分析により寄生虫血症を毎日モニタリングした。最小でも10000個の細胞を計数した。それらのマウスの生存についての観測が行われた。
【0069】
結果

P.yoeliiのチャレンジ投与からの生存
可溶性MSP1抗原での経鼻的ワクチン接種からの生存は生存率を高めず、4匹すべてのマウスが感染後10日目までに死亡した。MSP1とアジュバントとしてCTBかCMPかのどちらかでのワクチン接種はこの成果を有意には改善しなかった。しかし、CMPおよびCTBの両方と混合されたこのペプチドでのワクチン接種は感染防御効果の有意な増強をもたらし、4匹のうち3匹のマウスが感染後の15日目に生存していた(表1)。これらのマウスは第30日目まで生き続け、この後、これらのマウスは死亡した。
【0070】
抗MSP119抗体の力価
マウスが第0日目、第21日目、第42日目および第56日目に免疫された。抗MSP119抗体の力価が最終免疫を行ってから28日後に決定された。組み換え抗原(rA)、MSP119単独での鼻内ワクチン接種は有意な特異的IgG産生を誘発しなかった。CTBアジュバントの付加はそれよりも良好な応答をもたらしたが、最良の抗体力価はCTBアジュバントとCMPアジュバントとの両方が含んだ併用ワクチンで達成され、この場合には、CTBを単独で加えた場合よりも4倍多いIgGをもたらした(図1)。単独で投与された場合には、どちらのアジュバントも特異的IgGをもたらさなかった。
【0071】
免疫プロトコル
前記併用ワクチン(10μgのMSP119+5μgのCTB+100μgのμ)を用いて行われる免疫頻度の影響を試験するため、3種類の異なるプロトコルを試験した:
(1)3週間に2回(IN2−2)、合計で2回の鼻内免疫。
(2)2回/週を3週間(IN2−6)、合計で6回の鼻内免疫。
(3)3回/週を3週間(IN3−9)、合計で9回の鼻内免疫。
【0072】
IgGの力価は最終免疫を行ってから28日後に測定された。
【0073】
免疫を行う頻度の効果が図2に示されている。3回/週を3週間の比較的高い頻度でワクチン接種を行うプロトコルのみが有意なIgG力価をもたらした(P<0.05)。
【0074】
考察

得られた実験データは、鼻内的に送達することができる可能性のあるマラリアワクチンを指示している。これらの知見は、経鼻的なアジュバントであるCTBおよびCMPが相乗的に相互作用することを示している。キチンマイクロ粒子(CMP)の付加は経鼻的なワクチンの効能を改善する。これは、効果的なサブユニットワクチンを作り出すためには、免疫応答を刺激することができ、且つ、抗原に対する自然免疫寛容閾値(threshold)、特には成熟タンパク質の複雑な3D構造を欠いた単純な組み換えペプチドに対する自然免疫寛容閾値を克服することができる強力なアジュバントの付加を必要とするため、重要な知見である。多くのそのようなサブユニットワクチンは、望ましい免疫応答を引き出すために必要なそのような強力なアジュバントの付加又は大量のアジュバントの付加と関わり合いを有する毒性および局所的反応のため、制限されている。CMPは比較的無害の材料であって、非炎症性であり、そのような局所的又は全身的な反応を引き起こす可能性が低い。CMPの付加がワクチンの効能を改善するという知見は、ワクチン設計への重要な貢献である。
【0075】
更に、得られた実験データは、経鼻的なワクチン接種が、そのワクチンを投与する頻度によって大いに影響を受けることを示している。これは、恐らく、異種タンパク質に対する鼻粘膜の天然の無反応性によるものであり、前述の無反応性は、その粘膜に常に降り注いでいる空気中に浮遊する無害な微粒子に対する不必要な免疫応答を防ぐために必要な順応である。これらの知見は、3回/週を3週間にわたって免疫を行うプロトコルが特に効果的であることを具体的に指示している。
【0076】
【表1】

【0077】
参考文献
本明細書で挙げられている参考文献は、すべて、参照により明確に本明細書に組み入れられる。
1. Shibata et al, J. Immunol.,164: 1314-1321, 2000.
2. Shibata et al, J. Immunol., 161: 4283-8, 1998.
3. Shibata et al, Infection and Immunity, 65(5): 1734-1741, 1997.
4. Shibata et al, J. Immunol., 159: 2462-2467, 1997.
5. Horan et al, Mor. Mortal. Wkly. Rep. CDC Surveill. Summ., 35: 17SS-29SS, 1986.
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7. Katare et al, Vaccine, 24:3599-608, 2006
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9. Hirunpetcharat et al, Parasite Immunol.,20:413-420, 1998
10. Fujioka et al, Malaria: Molecular and Clinical aspects, 199
Japanese Patent Application No:19997-0087986 A (Unitika Limited).
US Patent No: 5,591,441 9 (Medical Sciences Research Institute).
WO 03/015744 (Medical Research Council).
WO 98/30207 (Danbiosyst Limited).
WO 97/20576 (Danbiosyst Limited).
WO 90/09780 (Danbiosyst Limited).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染性因子由来の抗原、キチンマイクロ粒子調製物(CMP)および更なるアジュバントを含む組成物。
【請求項2】
前記組成物がワクチン組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記感染性因子が細菌感染症、真菌感染症、ウイルス感染症又は寄生虫感染症を媒介する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
感染性因子由来の抗原、キチンマイクロ粒子調製物(CMP)および更なるアジュバントを含む組成物の使用であって、該感染性因子により媒介される状態を予防又は治療するための薬剤を調製するための前記組成物の使用。
【請求項5】
前記状態が細菌感染症、真菌感染症、ウイルス感染症又は寄生虫感染症である、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記薬剤が1週間につき少なくとも2回患者に投与するためのものである、請求項4又は5に記載の使用。
【請求項7】
前記薬剤が1週間につき少なくとも3回患者に投与するためのものである、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記薬剤が経粘膜的又は非経粘膜的な送達経路を介して投与するためのものである、請求項4〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記経粘膜的な送達経路が鼻内送達、舌下送達、経口送達、点眼剤での送達又は吸入による送達である、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記非経粘膜的な送達経路が注射による送達である、請求項8に記載の使用。
【請求項11】
前記注射が皮下注射又は筋肉内注射である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記薬剤が、感染するリスクを負った患者に対して予防的に投与するためのものである、請求項4〜11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記リスクを負った患者が高齢者、未熟児、幼児、移植患者、免疫抑制患者、化学療法患者、日和見感染に罹患するリスクを負った入院患者、人工呼吸器を使用している患者、嚢胞性線維症患者又はエイズに罹患している患者である、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記状態がPseudomonas aeruginosa、Streptococcus種、Haemophilus influenza、Klebsiella pneumoniae、Yersinia enteocolitica、Salmonella、Listeria、Mycobacteria種による細菌感染症である、請求項6〜13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
前記Streptococcus種がStreptococcus pneumoniae、Streptococcus pyrogenes又はStreptococcus agalactiaeである、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記マイコバクテリア種がMycobacterium tuberculosis又はMycobacterium lepraeである、請求項14に記載の使用。
【請求項17】
前記状態が細菌性肺炎、例えば機械換気に関連した肺炎又は嚢胞性線維症関連感染症などである、請求項5〜15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
前記状態が中耳炎である、請求項5〜15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
前記寄生虫感染症がLeishmania種およびSchistosoma種又はPlasmodium種による感染症である、請求項5〜13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
前記真菌感染症が侵襲性肺アスペルギルス症および侵襲性肺カンジダ症、Pneumocystis carinii肺炎、又はCoccidioidesもしくはCrytococcusである、請求項5〜13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項21】
前記状態が肺のウイルス感染症である、請求項5〜13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項22】
前記ウイルス感染症が呼吸器合胞体ウイルス細気管支炎、インフルエンザウイルス、ライノウイルス又はヒト免疫不全ウイルス(HIV)による感染によって引き起こされる、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
前記状態が癌である、請求項5〜12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項24】
前記癌がウイルスにより引き起こされる、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
前記ウイルスがヒトパピローマウイルスであって前記状態が子宮頸癌であるか、又は前記ウイルスがB型肝炎ウイルスであって前記状態が肝臓癌である、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
前記キチンマイクロ粒子が10μm未満の平均直径を有している、請求項3〜25のいずれか一項に記載の使用。
【請求項27】
前記キチンマイクロ粒子が5μmより小さい平均直径を有している、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
前記キチンマイクロ粒子が少なくとも1μmの直径の平均サイズを有している、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
前記キチンマイクロ粒子が、カニ、エビ、ロブスター、甲イカの外骨格、ならびに昆虫および真菌から誘導される、請求項3〜28のいずれか一項に記載の使用。
【請求項30】
前記キチンマイクロ粒子が精製されたキチンを超音波処理又はミリングすることにより得ることができる、請求項3〜29のいずれか一項に記載の使用。
【請求項31】
前記キチンマイクロ粒子が担体粒子をN−アセチル−D−グルコサミン、キチン又はキチンのフラグメントでコーティングすることにより得ることができる、請求項3〜30のいずれか一項に記載の使用。
【請求項32】
脱アセチル化された前記CMP組成物中におけるキチンを形成している単位が全単位のうちの20%未満を構成している、請求項3〜31のいずれか一項に記載の使用。
【請求項33】
前記薬剤が、体重1kgにつき0.01mg〜100mgの間の活性化合物の量で患者に投与するためのものである、請求項3〜32のいずれか一項に記載の使用。
【請求項34】
前記薬剤がヒトに投与するためのものである、請求項3〜33のいずれか一項に記載の使用。
【請求項35】
前記キチンマイクロ粒子調製物が、1つ又はそれ以上の薬剤学的に許容可能な賦形剤、担体、推進剤、緩衝剤、安定剤、等張化剤、保存剤又は酸化防止剤を含む、請求項3〜34のいずれか一項に記載の使用。
【請求項36】
前記キチンマイクロ粒子を投与するための送達デバイスであって:
a)請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物のレザバー;
b)患者の口内又は鼻内に位置付けることができるように適合化された送達用オリフィス;および
c)前記レザバーと前記送送達オリフィスとの間に設けられたバルブであって、該バルブを操作して前記キチンマイクロ粒子の送達を制御することができるように成されているバルブ;
を含む、前記デバイス。
【請求項37】
生物体が引き起こす状態に対する免疫力を与えるために患者に同時的又は逐次的に投与するための:
a)キチンマイクロ粒子調製物;
b)感染性因子由来の抗原;および
c)更なるアジュバント;
を含む、キット。
【請求項38】
送達デバイスを更に含む、請求項37に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−541281(P2009−541281A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515942(P2009−515942)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【国際出願番号】PCT/GB2007/002188
【国際公開番号】WO2007/148048
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(508373280)シーエムピー セラピューティクス リミテッド (2)
【Fターム(参考)】