キトサンのような親水性ポリマースポンジ構造体から形成される、組織被覆用のアセンブリ、システムおよび方法
組織被覆材アセンブリは、親水性ポリマースポンジ構造体から形成される。組織被覆材アセンブリは、例えば、(i)組織損傷、組織外傷、又は組織侵入の部位の止血、封止、又は安定化に;あるいは(ii)抗細菌バリアの形成に、あるいは(iii)抗ウイルス性パッチの形成に;あるいは(iv)出血性疾患の処置に;あるいは(v)治療薬の放出に;あるいは(vi)粘膜表面の処理に;あるいは(vii)それらの組み合わせに使用することができる。例えば、(i)使用前の機械的操作によるスポンジ構造体の重要な部分の微小亀裂;(ii)使用前のスポンジ構造体の重要な部分に形成されたレリーフパターン、又は(iii)使用前のスポンジ構造体の重要な部分に形成された流体注入チャンネルのパターン、又は(iv)スポンジ構造体へのシート材料の含浸により、組織被覆材構造体は適合性とされる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連する出願)
本出願は、「創傷被覆材及び重篤で生命にかかわる出血を制御する方法(Wound Dressing and Method of Controlling Severe Life−Threatening Bleeding)」と題する2004年12月23日に出願された米国特許出願第10/743,052号の一部継続出願であり、それは「創傷被覆材及び重篤で生命にかかわる出血を制御する方法(Wound Dressing and Method of Controlling Severe Life−Threatening Bleeding)」と題する2003年12月15日に出願された米国特許出願第10/480,827号の一部継続出願であり、それは2001年6月14日に出願された仮出願第60/298,773号の利益を主張する2002年6月14日に出願された国際出願PCT/U502/18757のC.F.R.§371に従う国内段階出願であり、これらは各々参考としてここに取り入れるものとする。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、全体として、組織損傷、又は組織外傷、又は組織侵入の部位に適用して、出血、流体漏出又は滲出、あるいは他の形態の流体損失を改善し、それと同時に当該部位全体を覆って保護する組織被覆材に係る。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
ガーゼ包帯で連続的に圧力をかけることは、血流、特に重篤な出血性創傷からの流出を止めるために用いられる第一の処置技術である。しかし、この手法は、重篤な血流を止めるには効率的でも安全でもない。これは、創傷からの重篤で生命にかかわる出血の場合、生存にかかわる大きな問題となり、今後も問題であり続ける。
【0004】
コラーゲン創傷被覆材又は乾燥フィブリントロンビン創傷被覆材あるいはキトサン及びキトサン被覆材等の止血帯具が市販されているが、それらの被覆材は多量の血流中での耐溶解性がない。また、それらは、重篤な血流の阻止において実用的な目的を達成するのに十分な粘着特性を有していない。これらの現在入手可能な外科的止血帯具は繊細でもあり、従って圧力をかけて曲げたり捻ったりすることにより損傷を受けがちな傾向がある。また、それらは流出している血液中に溶解されやすい。そのような、これらの帯具の溶解及び崩壊は創傷への粘着性を失わせ、弱めることなく出血させ続けることになるので悲惨になりうる。
【0005】
使用中に溶解されない堅牢性及び長寿命を持つ改善された止血被覆材が求められている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の概要)
本発明は、親水性ポリマースポンジ構造体から形成される組織被覆材アセンブリ、システム及び方法を提供する。この組織被覆材アセンブリは、例えば、(i)組織損傷、組織外傷、又は組織侵入の部位の止血、封止、又は安定化に;あるいは(ii)抗細菌バリアの形成に、あるいは(iii)抗ウイルス性パッチの形成に;あるいは(iv)出血性疾患の処置に;あるいは(v)治療薬の放出に;あるいは(vi)粘膜表面の処理に;あるいは(vii)それらの組み合わせに使用することができる。
【0007】
本発明の一態様によれば、親水性ポリマースポンジ構造体は、(i)使用前の機械的操作による構造体の重要な部分の微小亀裂、又は(ii)使用前の構造体の重要な部分に形成された表面レリーフパターン、又は(iii)使用前の構造体の重要な部分に形成された流体注入チャンネルパターンの少なくとも1つを含んでいる。
【0008】
本発明の他の態様によれば、組織被覆材アセンブリは、親水性スポンジ構造体内に存在する少なくとも1つの織又は不織又は透過性の膜質シートを含んでいる。
【0009】
本発明の他の態様によれば、組織被覆材アセンブリは、親水性スポンジ構造体に保持された吸収性成分を含んでいる。
【0010】
これらの態様の一又はそれ以上を備させることにより、適合性、可撓性、及び長寿命が付与される。
【0011】
一実施態様において、親水性ポリマースポンジ構造体はキトサン生物材料を含んでいる。
【0012】
一実施態様において、親水性ポリマースポンジ構造体は、望ましくは0.6から0.1g/cm3の密度まで緻密化される。
【0013】
本発明の他の特徴及び利点は、添付する説明、図面、及び請求の範囲に基づいて明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(詳細な説明)
本開示を理解し易くするために、包含される論題の範囲を記載順に従って以下のリストにまとめる。
【0015】
(記載される論題範囲のリスト)
I.組織被覆材パッドアセンブリ
A.概説
1.組織被覆材マトリクス
2.支持材
3.小袋
B.組織被覆材パッドアセンブリの使用
実施例1
C.組織被覆材パッドアセンブリの製造
1.キトサン溶液の調製
2.キトサン水溶液の脱気
3.キトサン水溶液の凍結
4.キトサン/氷マトリクスの凍結乾燥
5.キトサンマトリクスの緻密化
7.支持材の固定
8.小袋への配置
9.最終滅菌
D.親水性ポリマースポンジ構造体の粘着性/付着性のシーリング特性の評価
1.動脈創傷シーリング試験装置
2.老化現象の識別
実施例2
3.親水性ポリマースポンジ構造体の異なる形状間での粘着/付着特性の識別
E.親水性ポリマースポンジ構造体の適合特性の変化
1.調整的な微小亀裂
実施例3
2.調整的な微小構造化
実施例4
3.調整的な垂直チャンネルの形成
実施例5
II.組織被覆材シートアセンブリ
A.概説
B.組織被覆材シートアセンブリの使用
C.組織被覆材シートアセンブリの製造
実施例6及び7
III.親水性ポリマースポンジ構造体の更なる適用及び形状
A.体液損失抑制(例えば、熱傷)
1.複合被覆材アセンブリ76
B.抗微生物バリア
実施例8
C.抗ウイルスパッチ
D.出血性疾患の処置
E.治療薬の徐放
F.粘膜表面の治療
IV.結論
本開示は当業者が発明を実施するのを可能にするために詳細かつ正確であるが、ここに開示される物理的実施態様は、単に発明を例示しているに過ぎず、他の特定の構造に具現化される場合もある。好ましい実施態様は記載されているが、その詳細は、請求の範囲で画定される発明から逸脱することなく変形しうる。
【0016】
(I.組織被覆材パッドアセンブリ)
(A.概説)
図1は、組織被覆材パッドアセンブリ10を示す。使用時に、組織被覆材パッドアセンブリ10は、血液、又は体液、又は水分の存在下で組織に粘着することができる。組織被覆材パッドアセンブリ10は、出血、流体漏出又は滲出、又は他の形態の流体損失がないように、組織損傷、組織外傷、又は組織侵入(例えば、カテーテル又は栄養チューブ)の部位を止血、封止、又は安定化するために使用できる。処理される組織部位は、例えば、動脈及び/又は静脈出血、又は裂傷、又は進入/進入口創傷、又は組織穿刺、又はカテーテル侵入部位、又は熱傷、又は縫合部を含む。また組織被覆材パッドアセンブリ10は、組織処理部位において又はそれを取り囲んで、抗細菌及び/又は抗微生物及び/又は抗ウイルス保護バリアを形成することができるのが望ましい。
【0017】
図1は、組織被覆材パッドアセンブリ10の使用前の状態を示している。図2に最も良く示されるように、組織被覆材パッドアセンブリ10は、組織被覆材マトリクス12と、組織被覆材マトリクス12の一方の表面に被せられたパッド支持材14を含む。望ましくは、組織被覆材マトリクス12及び支持材14は、異なる色、質感を有するか、又は他の視覚的及び/又は触覚的に異なるものとされ、処置を実施する人による識別を容易にする。
【0018】
組織被覆材パッドアセンブリ10の大きさ、形状、及び構造は、その意図する用途に応じて変化しうる。パッドアセンブリ10は、直線状、細長状、円状、楕円状、又はそれらの複合又は合成組み合わせ物であってよい。望ましくは、後述するように、パッドアセンブリ10の形状、大きさ、及び構造は、使用中又は使用前のいずれかに、切断、曲げ、又は成形することによって形成されうる。図1において組織被覆材パッドアセンブリ10の代表的な構造を示すが、それは、外部の出血又は流体損失の一時的な抑制のために極めて有用である。例としては、その大きさは10cm×10cm×0.55cmである。
【0019】
(1.組織被覆材マトリクス)
組織被覆材マトリクス12は、好ましくは低モジュラスの親水性ポリマーマトリクスから形成される、即ち、もともと「圧縮されていない」組織被覆材マトリクス12は、後述する次の緻密化工程によって緻密化される。組織被覆材マトリクス12は、好ましくは、血液、体液、又は水分の存在下で反応して強固な接着剤即ち糊となる生体適合性材料を含む。望ましくは、組織被覆材マトリクスは、他の有利な特性、例えば、抗細菌及び/又は抗微生物、抗ウイルス特性、及び/又は損傷に対する身体防御反応を促進する等の特性も有する。
【0020】
組織被覆材マトリクス12は、親水性ポリマーの種類、例えば、ポリアクリレート、アルギネート、キトサン、親水性ポリアミン、キトサン誘導体、ポリリジン、ポリエチレンイミン、キサンタン、カラギーナン、第4級アンモニウムポリマー、コンドロイチン硫酸、デンプン、変性セルロースポリマー、デキストラン、ヒアルロナン又はそれらの組み合わせ等を含んでいてもよい。デンプンは、アミラーゼ、アミロペクチン、及びアミロペクチンとアミラーゼとの組み合わせを含んでいてもよい。
【0021】
好ましい実施態様では、マトリクス12の生体適合性材料は、非哺乳類材料を含み、最も好ましくは、ポリ[β−(1→4)−2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコピラノースであり、それは、より普通にはキトサンと呼ばれる。マトリクス12のために選択されるキトサンは、好ましくは少なくとも約100kDa、より好ましくは少なくとも約150kDaの重量平均分子量を持つ。最も好ましくは、キトサンは少なくとも約300kDaの重量平均分子量を持つ。
【0022】
マトリクス12の形成において、キトサンは、望ましくは、例えばグルタミン酸、乳酸、蟻酸、塩酸及び/又は酢酸などの酸とともに溶液中に配される。これらの中で、塩酸及び酢酸が最も好ましい。キトサン酢酸塩及びキトサン塩化物塩は血液中への溶解に耐性があるが、キトサン乳酸塩及びキトサングルタミン酸塩は耐性がないからである。より大きな分子量(Mw)のアニオンは、キトサン塩のパラ−結晶構造を崩壊させ、構造に可塑化効果を生じさせる(可撓性を増大させる)が、望ましくないのは、これら大きなMwアニオン塩の血液中への迅速な溶解ももたらすことである。
【0023】
マトリクス12の好ましい一形態は、キトサン酢酸塩溶液の凍結及び凍結乾燥によって形成された0.035g/cm3より低い密度の「非圧縮」キトサン酢酸塩マトリクス12を含み、それは、次いで圧縮により0.6から0.25g/cm3の密度、最も好ましくは約0.20g/cm3の密度まで緻密化される。また、このキトサンマトリクス12は、圧縮された、親水性のスポンジ構造によっても特徴づけられる。緻密化したキトサンマトリクス12は、望ましいと思われる上記の特性の全てを示す。それはまた、或る構造的及び機械的な利点を持ち、それにより使用中のマトリクスに堅牢性及び長寿命を付与するが、それは後により詳細に記述される。
【0024】
キトサンマトリクス12は、堅牢で、透過性で、比表面積が高く、正に荷電した表面を提示する。正に荷電した表面によって、赤血球及び血小板相互作用に対して反応性の高い表面が生じる。赤血球膜は負に荷電しており、キトサンマトリクス12に引きつけられる。細胞膜はキトサンマトリクスと接触時に融合する。クロットが極めて迅速に形成され、通常は止血に必要な凝固タンパク質がすぐに必要となるのだが、これが不要になる。この理由により、キトサンマトリクス12は、正常のみならず抗凝固を施された個体にも、並びに血友病のような凝固傷害を持つ者にも有効である。またキトサンマトリクス12は細菌、内毒素、及び微生物にも結合して、細菌、微生物、及び/又はウイルス性物質を接触時に殺傷することができる。
【0025】
キトサンマトリクス12の構造、組成、製造、及び他の技術的特徴のさらなる詳細は後に記述される。
【0026】
(2.支持材)
組織被覆材パッドアセンブリは、処置を実施する人の指及び手で操作することができるように大きさが決められ構成される。支持材14は、処置を実施する人の指及び手を流体反応性のキトサンマトリクス12から隔てる(例えば、図8参照)。支持材14は、処置を実施する人の指又は手に付着又は粘着することなく、キトサンマトリクス12を取り扱い、操作し、組織部位に適用することを可能にする。支持材14は、合成及び天然物ポリマーの低モジュラーメッシュ及び/又はフィル及び/又は織物とすることができる。外部創傷に一時的に適用する好ましい実施態様では、支持材14は流体不透過性ポリマー材料、例えば、ポリエチレン(3M 1774Tポリエチレンフォームメディカルテープ、厚さ0.056cm)を含むが、他の同様の材料を使用することもできる。
【0027】
創傷への一時適用で使用する支持材のための他のポリマーは、これらに限定されないが、セルロースポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、メタロセンポリマー、ポリウレタン、ポリ塩化ビニルポリマー、ポリエステル、ポリアミド又はそれらの組み合わせを含む。
【0028】
内部創傷に適用させるためには、再吸収可能な支持材を親水性スポンジ包帯形状にして使用するとよい。好ましくは、そのような包帯形状は、生分解性、生体適合性の支持材材料を用いる。合成生分解性材料は、これらに限られないが、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、ポリ(e−カプロラクトン)、ポリ(β−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(β−ヒドロキシ吉草酸)、ポリジオキサン、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(リンゴ酸)、ポリ(タルトロン酸)、ポリホスファゼン、ポリエチレンのコポリマー、ポリプロピレンのコポリマー、及び上記のポリマーを合成するのに使用されるモノマーのコポリマー、又はそれらの組み合わせを含む。天然物生分解性ポリマーは、これらに限られないが、キチン、アルギン、デンプン、デキストラン、コラーゲン及びアルブミンを含む。
【0029】
(3.小袋)
図3に示すように、キトサンマトリクス12は、望ましくは使用前に低水分含有量、好ましくは水分5%以下で、気密熱融着されたホイルで裏打ちされた小袋16内に真空包装される。組織被覆材パッドアセンブリ10は、次いで最終的に小袋16内でガンマ線照射を用いて滅菌される。
【0030】
小袋16は、使用時に処置を実施する人によって剥離解放されるように構成される(図4及び5参照)。小袋16は、組織被覆材パッドアセンブリ10を利用するように一端に沿って剥がされる。小袋16の反対端部が把持され、使用する組織被覆材パッドアセンブリ10を露出させるように引き離される。
【0031】
(B.組織被覆パッドアセンブリの使用)
組織被覆材パッドアセンブリ10は、一度小袋16から取り出されると(図6参照)、即座に標的とする組織部位に粘着させることができる。粘着を促進するために適用前の操作をする必要はない。例えば、使用に当たり粘着性表面を露出させるため保護材料を剥離する必要はない。キトサンマトリクス12自体が一度血液、流体、又は水分に接触すると強い粘着性特性を示すので、粘着性表面はその場で形成される。
【0032】
望ましくは、組織被覆材パッドアセンブリ10は、小袋16の解放から1時間以内に損傷部位に適用される。図7に示すように、組織被覆材アセンブリ10は、前成形して部位上で変形させ、当該部位の形状及び形態に適合させることができる。図14及び15に示すように、組織被覆材パッドアセンブリ10は、処理部位の特定の形状及び形態に最も良く適合するように、意図的に他の形態、例えばカップ状に成形することができる。組織被覆材パッドアセンブリ10を処理部位に配する前に成形又は他の操作を行うが、介護者は、手又は指の水分がキトサンマトリクス12と接触することを避けなければならない。接触すると、キトサンマトリクス12が粘着性になり、取り扱い難くなるからである。これは、支持材14の第一の目的であるが、支持材14はマトリクスに機械的支持及び強度を付加することにも役立つ。
【0033】
図8から13は、動脈及び/又は静脈の出血性損傷の処理のために適用された組織被覆材パッドアセンブリ10を示す。図8及び9に示すように、まさに出血している部位又は付着が望まれるその他の部位にキトサンマトリクス12が置かれるように組織被覆材パッドアセンブリ10は配されなければならない。支持材14は、介護者が従来の方式で圧力をかけられるように非粘着性表面を提供する。望ましくは、付着が望まれる部位に適用されたあとは、介護者が組織被覆材パッドアセンブリ10を再配置することは避けなければならない。
【0034】
望ましくは、図8に示すように、キトサンマトリクス12が天然の粘着活性を発揮するように、少なくとも二分間は安定した圧力がかけられる。キトサンマトリクス12の粘着強度は、約5分経つまで、圧力をかけた時間とともに増大する。この時間中に組織被覆材パッドアセンブリ10にかけられた圧力も、より均一な粘着及び創傷シールを提供することになる。カーリックス(Kerlix)ロール18で圧力を印加(図10A参照)すると、極めて有効であることがわかった。
【0035】
このように独特な機械的特性及び粘着性があるため、必要ならば、創傷又は組織部位を塞ぐために2又はそれ以上の被覆材パッドアセンブリを重ねることもできる(図11参照)。一方のパッドアセンブリ10のキトサンマトリクス12は、隣接する被覆材パッドアセンブリ10の支持材14に粘着する。
【0036】
被覆材パッドアセンブリ10はまた、創傷又は組織部位の大きさに合致するように、部位上で裂いたり切ったりできる(図12参照)。良好な組織粘着及びシーリングを提供するために、被覆材パッドアセンブリ10は創傷又は組織部位より少なくとも1/2インチ大きな外周とするのが望ましい。小さい場合は、処理部位のトポロジー及びモルホロジーに最も良く近似するように、被覆材アセンブリのパッチ片を部位の大きさに切り取り(図13参照)、他のパッドアセンブリ10の周辺に適合させ粘着させることもできる。
【0037】
組織被覆材パッドアセンブリが損傷部位に粘着しなかった場合、取り出して廃棄し、他の新たな被覆材パッドアセンブリ10を適用できる。深い組織面にかなりの組織破壊を持つ傷、即ち穿通創においては、支持材14の剥離及びキトサンマトリクス12を傷へ詰め込み、次いで第2の被覆材で傷をカバーすることが極めて有効であることがわかった。
【0038】
圧力が2〜5分間かけられたあと、及び/又は出血の抑制が、良好な被覆材付着及び傷又は組織部位での被覆をもって達成されたあと、望ましくは第2の従来の被覆材(例えば、ガーゼ)が適用されて被覆し、傷に清浄なバリアを提供する(図10B参照)。このあと、傷が下着に隠れる場合、水密のカバーが適用され、被覆材が過度に水和されることを防止する必要がある。
【0039】
FDAを通過した一時的被覆材形状の場合、組望ましくは、最も確実な外科的修復をするために、織被覆材パッドアセンブリ10は、適用の48時間以内に取り除かれる。組織被覆材パッドアセンブリ10は、傷から剥がし取られ、通常は単一の無傷の被覆材として傷から分離される。幾つかの場合では、残りのキトサンゲルが残存しうるが、これは食塩水又は水の緩い摩擦及びガーゼ被覆材を用いて取り除ける。キトサンは身体内で生分解性であり、無害の物質であるグルコサミンに分解される。さらに、一時的な被覆の場合には、確実な修復の時点で傷からキトサンの全ての部分を取り除く努力をするのが望ましい。前に議論したように、生分解性被覆材は内部での使用のために成形しうる。
【実施例】
【0040】
(実施例1)
(使用活動報告)
アフガニスタン及びイラクにおける自由化戦闘行為での手術における戦闘衛生兵による活動報告によれば、被覆材パッドアセンブリを臨床使用すると悪影響を及ぼすことなく成功したことがわかった。テキサスのフォートサムヒューストンにおける外科的研究のための米国陸軍機関は、重篤で生命にかかわる出血を外傷モデルにおいて被覆材パッドアセンブリ10を評価し、標準的な4×4インチのコットンガーゼ被覆材と比較した。組織被覆材パッドアセンブリ10は、有意に血液損失を減少させ、蘇生液の必要量を減少させた。1時間の生存については、コットンガーゼ生存群に比較すると、組織被覆材パッドアセンブリ10を適用した群の方が増えていた。戦闘衛生兵は、従来の創傷被覆材で治療できなくても、弾傷、榴散弾、地雷及び他の創傷を首尾よく治療した。
【0041】
(C.組織被覆パッドアセンブリの製造)
以下、組織被覆材パッドアセンブリ10の製造のための望ましい方法が記載される。この方法は、図16において模式的に示されている。もちろん当然のことながら、他の方法を用いることもできる。
【0042】
(1.キトサン溶液の調製)
キトサン溶液を調製するのに用いられるキトサンは、好ましくは0.78より大きく0.97より小さい脱アセチル化分率を持つ。最も好ましくは、キトサンは0.85より大きく0.95より小さい脱アセチル化分率を持つ。好ましくは、マトリクスに加工するために選択されるキトサンは、30rpmでスピンドルLVIを用いたときの25℃における1%(w/w)酢酸(AA)の1%(w/w)溶液中の粘度が、約100センチポイズから約2000センチポイズである。より好ましくは、キトサンは、30rpmでスピンドルLVIを用いたときの25℃における1%(w/w)酢酸(AA)の1%(w/w)溶液中の粘度が、約125センチポイズから約1000センチポイズである。最も好ましくは、キトサンは、30rpmでスピンドルLVIを用いたときの25℃における1%(w/w)酢酸(AA)の1%(w/w)溶液中の粘度が、約400センチポイズから約800センチポイズである。
【0043】
キトサン溶液は、好ましくは25℃で水を固体キトサンフレーク又はパウダーに添加することにより調製され、かき混ぜ、撹拌又は振動により固体が液体中に分散される。キトサンの液体中への分散に際し、酸性成分を添加して分散により混合しキトサン固体を溶解させる。溶解速度は溶液の温度、キトサンの分子量及び撹拌の程度に依存する。好ましくは、溶解工程は、撹拌ブレードを備える閉タンク型反応装置又は回転式閉容器内で実施される。これにより、キトサンの均一な溶解が確保され、容器の側面で高粘度残渣が捕捉される機会をなくす。好ましくは、キトサン溶液の割合(w/w)は0.5%キトサンより大きく、2.7%キトサンより小さい。より好ましくは、キトサン溶液の割合(w/w)は1%キトサンより大きく、2.3%キトサンより小さい。最も好ましくは、キトサン溶液の割合は1.5%キトサンより大きく、2.1%キトサンより小さい。好ましくは、使用される酸は酢酸である。好ましくは、酢酸は、0.8%より大きく4%より小さい酢酸溶液の割合(w/w)となるように溶液に添加される。より好ましくは、酢酸は、1.5%(w/w)より大きく2.5%より小さい酢酸溶液の割合(w/w)となるように溶液に添加される。
【0044】
キトサンマトリクス12の構造体又は形態製造工程は、典型的には溶液から実施され、凍結(相分離発生のため)、非溶媒金型押出(フィラメント製造のため)、電気紡績(フィラメント製造のため)、相変換及び非溶媒での析出(典型的には透析及びフィルター膜製造に使用されるようなもの)、又は予備成形したスポンジ様又は織製品上への溶液コーティングといった技術を用いて達成されうる。凍結により2又はそれ以上の異なる相が形成される凍結の場合(典型的には、水が氷に凍結し、キトサン生物材料が異なる固相中に分離される場合)は、凍結した溶媒(典型的には氷)を除去し、キトサンマトリクス12を凍結構造を崩すことなく製造するために他の工程が必要となる。これは、凍結乾燥及び/又は凍結置換工程によって達成される。フィラメントは、不織紡績方法により不織スポンジ様メッシュに成形できる。あるいは、フィラメントは従来の紡績及び製織方法によりフェルト状の織物として製造されうる。生物材料のスポンジ様物品の製造に使用できる他の方法は、固体キトサンマトリクス12からの添加した細孔形成剤の溶解、又は前記マトリクスからの材料の穿孔を含む。
【0045】
(2.キトサン水溶液の脱気)
好ましくは(図16、工程B参照)、キトサン生物材料から通常の大気ガスが脱気される。典型的には、脱気は、十分に残存ガスをキトサン生物材料から除去し、続く凍結操作においてガスが抜けずに主体である創傷被覆材製品に望まれない大きな空隙又は大きな捕捉ガスの気泡が形成されないようにする。脱気工程は、キトサン生物材料を、典型的には溶液状で加熱し、それに真空をかけることにより実施しうる。例えば、脱気は、キトサン溶液を、撹拌しながら、約500mTorrで約5分間の真空をかける直前に約45℃に加熱することにより実施しうる。
【0046】
一実施態様では、最初の脱気の後に、分圧を制御しつつ或る種のガスを溶液に添加することもできる。そのようなガスは、限定されないが、アルゴン、窒素及びヘリウムを含む。この工程の利点は、ある分圧でこれらのガスを含む溶液が凍結時に微小な空隙を形成することである。次いで微小空隙は、氷の前面が進行するに従ってスポンジを通って運ばれる。このことにより、スポンジの気孔の相互接続を助け、良好に画定され制御されたチャンネルが残る。
【0047】
(3.キトサン水溶液の凍結)
次に(図16,工程C参照)、キトサン生物材料−−典型的には上述の通り酸溶液中で脱気されたもの−−は、凍結工程を施される。凍結は、好ましくは金型内に支持されたキトサン生物材料溶液を冷却し、溶液の温度を室温から最終的に凝固点以下に下げることにより実施され得る。より好ましくは、この凍結工程は、プレート冷凍庫上で実施され、それにより、プレート冷却表面を介する熱損失により温度勾配が金型内のキトサン溶液を通して導入される。好ましくは、このプレート冷却表面は金型と温度的に良好な接触をしている。好ましくは、プレート冷凍庫表面と接触する前のキトサン溶液及び金型の温度は室温近傍である。好ましくは、プレート冷凍庫表面の温度は、金型+溶液を導入する前には−10℃未満である。好ましくは、金型+溶液の熱容量は、プレート棚+熱伝導流体の熱容量より小さい。好ましくは、金型は、限定されないが、金属元素、例えば鉄、ニッケル、銀、銅、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金、バナジウム、モリブデン、金、ロジウム、パラジウム、白金及び/又はそれらの組み合わせから形成される。また、金型は、キトサン溶液の酸性成分及びキトサン塩マトリクスとの反応が起こらないように、薄い不活性の金属、例えばチタン、クロム、タングステン、バナジウム、ニッケル、モリブデン、金及び白金のコーティングで被覆されていてもよい。金型内の熱伝導を制御するために、断熱コーティング又は部材を金属製金型と併せて使用してもよい。好ましくは、金型表面は凍結したキトサン溶液と結合しない。金型の内表面は、好ましくは、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))、フッ素化エチレンポリマー(FEP)、又は他のフッ素化ポリマー材料から形成される薄く恒久的に結合したフッ素化離型コーティングで被覆される。被覆された金属製金型が好ましいが、薄壁プラスチック製金型は溶液の支持体として便利な代替物である。そのようなプラスチック製金型は、限られないが、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン及びポリオレフィンから射出成形、機械加工又は熱成形によって作製された金型を含む。金属製金型と局所的に配置された断熱部材とを組み合わせることの利点は、それらが凍結スポンジ内部の熱流及び構造の制御を改善する機会を提供することである。この熱流制御における改善は、金型における熱伝導製及び断熱性部材の間の大きな熱伝導度の相違によるものである。
【0048】
この方法によるキトサン溶液の凍結は、好ましい構造の創傷被覆材の製造を可能にする。
【0049】
後で示すように、プレート凍結温度は最終的なキトサンマトリクス12の構造及び機械的特性に影響を与える。プレート凍結温度は、好ましくは約−10℃未満、より好ましくは約−20℃未満、最も好ましくは約−30℃未満である。−10℃で凍結した場合、非圧縮キトサンマトリクス12の構造は開孔スポンジ構造全体を通じて広く開口しており垂直である。−25℃で凍結した場合、非圧縮キトサンマトリクス12の構造はより密であるが、やはり垂直である。−40℃で凍結した場合、非圧縮キトサンマトリクス12の構造は密であり垂直ではない。その代わり、キトサンマトリクス12は、強化された、互いにかみ合った構造をより多く含む。キトサンマトリクス12の粘着/付着特性は、より低い凍結温度が用いられると向上することが観察された。約−40℃の凍結温度は、粘着/付着特性に優れたキトサンマトリクス12を形成する。
【0050】
凍結工程の間、温度は所定の時間に亘って下げられる。例えば、キトサン生物材料の凍結温度は、約90分から約160分の間、約−0.4℃/mmから約−0.8℃mmの一定の冷却温度勾配のプレート冷却の適用により、室温から−45℃まで下げられる。
【0051】
(4.キトサン/氷マトリクスの凍結乾燥)
凍結キトサン/氷マトリクスは、望ましくは凍結材料の間隙内部からの水分除去を施される(図16,工程D参照)。この水分除去工程は、凍結キトサン生物材料の構造の全体性を害することなく実施されうる。これは、最終的なキトサンマトリクス12の構造的配置を崩壊させうる液相を生成させることなく実施されうる。即ち、凍結キトサン生物材料内の氷は、中間の液相を形成することなく固体凍結相から気相へ移る(昇華)。昇華した気体は、凍結キトサン生物材料より十分に低い温度で真空凝縮槽内に氷として捕捉される
水分除去工程を実施するのに好ましい方法は、フリーズドライ又は凍結乾燥による。凍結したキトサン生物材料のフリーズドライは、凍結キトサン生物材料を更に冷却することによって実施できる。典型的には、次いで真空が適用される。次に、真空化された凍結キトサン生物材料は、徐々に加熱される。
【0052】
より詳細には、凍結キトサン生物材料は、好ましくは約−15℃、より好ましくは約−25℃、最も好ましくは約−45℃で、少なくとも約1時間、より好ましくは約2時間、最も好ましくは約3時間の適切な時間、引き続き凍結処理される。この工程は、約−45℃、より好ましくは約−60℃、最も好ましくは約−85℃未満の温度への凝縮機の冷却に続きうる。次に、好ましくは最大約100mTorr、より好ましくは最大約150mTorr、最も好ましくは少なくとも約200mTorrの大きさの真空を適用される。真空化された凍結キトサン材料は、好ましくは約−25℃、より好ましくは約−15℃、最も好ましくは約−10℃で、少なくとも1時間、より好ましくは少なくとも約5時間、最も好ましくは少なくとも約10時間の適切な時間加熱される。
【0053】
更に、200mTorr近傍の減圧を維持しながら、約20℃、より好ましくは約15℃、最も好ましくは約10℃の棚温度で、少なくとも36時間、より好ましくは少なくとも約42時間、最も好ましくは少なくとも約48時間の適切な時間、凍結乾燥が実施される。
【0054】
(5.キトサンマトリクスの緻密化)
緻密化(約0.03g/cm3の密度)前のキトサンマトリクスは、「非圧縮キトサンマトリクス」と呼称される。この非圧縮マトリクスは、血液中に溶解するのが早く機械的特性が劣るため止血において有効ではない。キトサンマトリクスは圧縮する必要がある(図16、工程E参照)。乾燥した「非圧縮」キトサンマトリクス12を圧縮して厚みを減少させマトリクスの密度を増大させるのには、親水性マトリクスポリマー表面に一般的な加熱プレートでの圧縮負荷を使用することができる。圧縮工程は、「緻密化」と表現されることもあるが、キトサンマトリクス12の溶解耐性を有意に向上させる。閾値密度(0.1g/cm3近傍)より上まで圧縮された適切に凍結されたキトサンマトリクス12は、37℃で流動する血液中に容易に溶解されない。
【0055】
圧縮温度は、好ましくは60℃以上、より好ましくは約75℃以上であり、約85℃未満である。
【0056】
緻密化の後、マトリクス12の密度は、マトリクス12の底(「活性」)表面(即ち、組織に曝される表面)と、マトリクス12の上表面(支持材14が付けられる表面)とでは異なる。例えば、活性面で測定された平均密度が最も好ましい密度値である0.2g/cm3又はその近傍である典型的なマトリク12において、上表面で測定した平均密度は有意に低く、例えば0.05g/cm3とすることができる。緻密化マトリクス12について本明細書に記載する望ましい密度範囲は、血液、流体、又は水分への曝露が最初に起こるマトリクス12の活性側又はその近傍の密度範囲とする。
【0057】
次いで、緻密化キトサン生物材料は、好ましくは、オーブン内でキトサンマトリクス12を、好ましくは約75℃の温度まで、より好ましくは約80℃の温度まで、最も好ましくは約85℃の温度まで加熱することによるプレコンディショニングを施される(図16、工程F参照)。プレコンディショニングは、典型的には約0.25時間まで、好ましくは約0.35時間まで、より好ましくは約0.45時間まで、最も好ましくは約0.50時間まで実施される。このプレコンディショニング工程は、20−30%の粘着特性を損失するが、低コストで溶解耐性の更に有意な向上をもたらす。
【0058】
(6.緻密化キトサンマトリクスへの支持材の固定)
支持材14はキトサンマトリクス12に固定されて、組織被覆材パッドアセンブリ10を形成する(図16、工程G参照)。支持材14は、キトサンマトリクス12の上層と直接接着させることにより粘着又は接着することができる。あるいは、3M9942アクリレート皮膚接着剤、又はフィブリン糊、又はシアノアクリレート糊等の接着剤を用いることもできる。
【0059】
(7.小袋への配置)
組織被覆材パッドアセンブリ10は、続いて小袋16に包装される(図16、工程H参照)。小袋は、好ましくはアルゴン又は窒素のような不活性ガスでパージされ、減圧されてヒートシールされる。小袋16は、長期間(少なくとも24月)に亘って内部を無菌に保ち、同期間に亘って水分及び外気に対する非常に高度なバリアも提供する。
【0060】
(8.最終滅菌)
小袋に収容した後、加工された組織被覆材パッドアセンブリ10は、望ましくは滅菌工程を施される(図16、工程I参照)。組織被覆材パッドアセンブリ10は、多くの方法で滅菌することができる。例えば、好ましい方法は、ガンマ線照射などの照射によるものであり、それは創傷被覆材の血液溶解耐性、引張り特性及び粘着特性を更に向上させる。照射は、少なくとも約5kGy、より好ましくは少なくとも約10kGy、最も好ましくは少なくとも15kGyのレベルで実施される。
【0061】
(D.親水性ポリマースポンジ構造体の粘着性/付着性のシーリング特性の評価)
(1.動脈創傷シーリング試験装置)
組織被覆材パッドアセンブリ10はその一例に過ぎないが、任意の各親水性ポリマースポンジ構造体について粘着特性を試験し検証するために特に設計された試験装置を用いれば、その粘着特性を確実に試験し検証することができる。代表的な試験装置20を図17に示す。
【0062】
試験装置20は、動脈創傷封止環境を模した台を備える。試験装置20は、その環境及び曝露時間について、パッドアセンブリ10のような親水性ポリマースポンジ構造体、又はある製造ロットの同じ構造体の破壊(又は破裂)強度を、再現性よく統計的に正しい方法で評価できる。試験装置20は、最終的なラベル付け及び製品発送に先立って、組織被覆材パッドアセンブリ10、又はある製造ロットのパッドアセンブリの相対的な粘着性及び付着性特性を、所定の目的とする強度基準に基づいて評価するために、全製造プロセスの一部として設置することができる。試験装置20は、破壊強度データを再現性よく提供し、それはインビボでの使用と統計的に関連づけられる。
【0063】
試験装置20は 外部の動脈創傷部位を模した試験ブロック22を備える。試験ブロック22は、組織を模した材料からなる試験表面24を含む。試験表面24は、例えば、硬質ポリ塩化ビニルプラスチックから製造しうる。試験表面24は、直径約4mmの開口44を有し、それは動脈創傷の入り口を模している。試験表面24は、例えば粒度400の紙ヤスリで開口44の周囲に小さな円を描くように試験表面24にヤスリをかけることにより、組織を模するように処理される。
【0064】
負荷アーム26は、開口と合わせて試験表面24の上方に配設される。負荷アーム26は、空気圧源28と連通した空気シリンダーの一部をなす。コントローラ30(例えば、プログラムされたマイクロプロセッサ)は、空気圧源との通信を管理し、負荷アーム26を操作する。空気圧は、負荷アーム26を試験表面24に向けて進め、所定の圧力を負荷する。
【0065】
図17に示すように、親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、組織被覆材パッドアセンブリ10)の試験サイズのサンプル32は、予め試験流体34に浸漬され、試験表面24上に置かれる。キトサンマトリクス12は開口の上に配置される。次いで負荷アーム26が操作され(図18A参照)、試験表面24上の予め浸漬された試験サイズのサンプル32に初期圧がかけられる。
【0066】
試験流体34は、キトサンマトリクス12の粘着特性を活性化する流体を含む。試験流体34は、例えば、(例えば、クエン酸で)抗凝固処理されたウシ全血を含むことができる。試験装置20における試験流体34として使用するための血液としては、血液が新鮮であっても10日目のものであっても試験結果に有意差は見られなかった。
【0067】
供給管36が試験ブロック22に連結される。供給管36は試験流体34を試験ブロック22に運搬し、開口44を通してキトサンマトリクス12に接触させることができる。供給管36の他端はシリンジドライブポンプ38に連結される。
【0068】
シリンジドライブポンプ38は、モータ40により吸引及び放出サイクルで操作をされる。一方、モータ40はコントローラ30に接続されている。モータ40を介して、コントローラ30は、空気圧源と同調しながらシリンジドライブポンプ38の操作を指示する。
【0069】
吸引サイクルでは、モータ40は、試験流体源42からシリンジドライブポンプ38内に試験流体34を吸引するようにシリンジポンプ38を操作する。吸引サイクル中の試験ブロック22からシリンジドライブポンプ38への血液の逆流は、インラインの一方向逆止め弁46Bによって防止される。放出サイクルでは、モータ40は、試験流体34がシリンジドライブポンプ38から試験表面24の開口44を通して放出されるようにシリンジドライブポンプ38を操作する。放出サイクル中の試験流体源42への試験流体の逆流は、インラインの一方向逆止め弁46Aによって防止される。コントローラ30は、放出サイクル中に開口44を通して運搬される試験流体34の速度を管理する。
【0070】
使用に当たり、図18Aを参照し、予め(例えば、約10秒未満)試験流体34に浸漬した試験サイズのサンプル32を、試験表面24上に配する。コントローラ30を操作して負荷アーム26で開口上の試験サイズのサンプル32に圧力(例えば、約60kPa)をかける。所定の負荷時間が、望ましくは実際の使用条件を模して測定されるが、例えば3分間である。この時間中、コントローラ30はシリンジドライブポンプ38を吸引サイクルで操作し、試験流体32をシリンジドライブポンプ38内に導くことができる。
【0071】
負荷時間の最後に(図18B参照)、コントローラ30は負荷アーム26上の空気圧を解放し、負荷アーム26を試験表面24から引き離す。コントローラ30は即座にシリンジドライブポンプ38を放出サイクルで操作する。コントローラ30は、試験ブロック22に流れるクエン酸化ウシ全血の圧力を所定の割合、例えば3から16mmHg/sの間、好ましくは10mmHg/sで傾斜させる。供給管36内の圧力を連続して監視し、全時間に亘ってコントローラ30により記録する。
【0072】
コントローラ30は、最終的な試験サイズのサンプルが最終的に破壊されるまで、所定の速度で血液圧力の傾斜を継続する(図18C参照)。増加された圧力が最高点から時点が最終的な破壊を示す。最終的な破壊とは、に示され、試験サイズのサンプルが試験表面24との粘着性を失い、もはや開口を介してかけられる圧力に耐えられないことを示す。コントローラ30は、試験サイズのサンプルについて、最終的な破壊が起こった最高圧力状態を記録する。この圧力がパッドアセンブリ10の破壊強度である。
【0073】
観察された最高圧力状態(破壊強度)は、所定の「合否」基準と比較される。代表的な例において、750mmHgより大きな破壊強度は「合格」である。750mmHg未満の破壊強度は「不合格」を示す。この基準は、通常のヒト収縮時血圧の6倍も高い圧力レベルを表しているので、厳格な「合格」基準を課することになる。
【0074】
最終的な破壊まで連続的に圧力を傾斜させるのに代わるものとして、3から16mmHg/s(好ましくは10mmHg/s)で、一定の高い血液の圧力(例えば250mmHg)まで傾斜させ、所定時間(例えば10分間)保持することが挙げられる。この試験では、合否基準は、10分の保持試験時間の間、血液圧力が保持された試験サイズのサンプルを「合格」として取り扱い、10分の保持時間の間血液圧力が保持されなかった試験サイズのサンプルを「不合格」として扱う。
【0075】
組織被覆材パッドアセンブリの全製造ロットの統計的に有意なサンプルは、上述の試験装置20及び試験方法を用いて確認できる。確認を効率化するために、各々に専用の負荷アーム26及び試験流体供給管36が備えられた数個の試験ブロック22を、多岐管によって一個の空気圧源及びシリンジドライブポンプ38に連結したものを、一個のコントローラ30を用いて直列的に操作することができる。合否基準は、全ロットについての合否割合の合成で決定される。例えば、最終的な破壊強度が750mmHgより大きいものがロットの75%以上であると、全ロットが統計的に正しい「合格」であると関連づけることができる。最終的な破壊強度が750mmHgより大きいものがロットの75%未満であると、全ロットが統計的に正しい「不合格」であると関連づけることができる。
【0076】
(2.老化現象の識別)
試験装置20及び上述の方法を用いれば、緻密化した組織被覆材パッドアセンブリには、驚くべき更に有益な老化現象が存在することがわかる。簡単に言えば、使用前の貯蔵時間に−−即ち、上述の方法で製造し、滅菌し、小袋16に包装し、使用せずに貯蔵した後に−−緻密化した組織被覆材パッドアセンブリの粘着特性が有意に向上する。老化現象により、製造、滅菌、及び小袋収容後の数日以内試験した際に合否基準に不合格となった組織被覆材パッドアセンブリのロットが、2月以上後に再試験すると合否基準を通過する。
【0077】
(実施例2)
(老化現象)
方法は、最初の試験で不合格となったロットを再試験することから開始されたが、これは、製造直後よりも6ヶ月後及び12ヶ月後の方が良好な性能を示すなど経時的な粘着効果性能の明らかな増加が観察されたからである。
【0078】
以下のデータは、最終製品試験で不合格となり、最低2ヶ月老化させてから再試験された7つのロットの組織被覆材パッドアセンブリから得られた。表1及び2における「圧力」は、上述したように、試験サンプルに最終的な破壊が起こった最高圧力状態(即ち、破壊強度)のことである。表1及び2に示すように、7つのロットのうち6つが、性能の向上を示し、それらの殆どが劇的な向上であった。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
次のロットを同様に評価した。下記の表3は、この後続時間中のロット合否の統計をまとめたものである。ロットの半分は、ガンマ線照射による滅菌から戻された直後に実施された最初の試験で合格した。最初に合格しなかったロットの50パーセント(50%)を、最低2ヶ月の老化時間の後に再試験した。これらのロットのうち79パーセント(79%)が合格し、老化現象の存在が確認され、ロットの合計の合格率を90パーセント(90%)とした。
【0081】
【表3】
上記のロットのうちの14個のロットには、データテンプレートに入れた最初及び老化処理した試験について、試験装置20を用いた検証データがある。それらを表4に集計した。合否基準を満たす被試験パッドアセンブリ10のロット平均破壊圧力及び割合における変化は、効果の増大を示している。表4は、老化後でも合格しなかった2つのロット(156及び162)であっても粘着効果に増大が見られたことを示している。破壊圧力における平均増加割合は38パーセント(38%)である。合否基準を満たす被試験組織被覆材パッドアセンブリの数は最初の試験データより59パーセント(59%)増加した。
【0082】
【表4】
貯蔵時間に亘る組織被覆材パッドアセンブリ10の性能向上は、老化現象と呼ばれ、劇的で真実である。老化現象は、上述したキトサンマトリクス12組成物の溶解に対する耐性の堅牢性及び寿命が経時的に向上することを示している。
【0083】
(3.親水性ポリマースポンジ構造体の異なる形状間での粘着/付着特性の識別)
上述の試験装置20及び方法を用いれば、異なる方法で製造された緻密化組織被覆材パッドアセンブリにおける相違を識別し定量化することができる。
【0084】
例えば、上述の試験装置20及び方法を用いれば、製造中にキトサンマトリクス12が凍結される温度がマトリクスの構造のみならず、その粘着及び付着特性にも同様に影響することが理解される。
【0085】
異なる温度で凍結された非圧縮キトサンマトリクス12の構造における相違は、視覚的に観察できる。テフロン(登録商標)で被覆した直径5cmのアルミニウム金型内で、−10℃の棚温度で凍結された場合、非圧縮キトサンマトリクス12の構造は、スポンジ構造全体に、段状で、開孔空隙を持ち、垂直なラメラを有する。テフロン(登録商標)で被覆した直径5cmのアルミニウム金型内で、−25℃の棚温度で凍結された場合、非圧縮キトサンマトリクス12の構造は、段が小さく、間隔がより密であるが、やはり垂直なラメラを有する。テフロン(登録商標)で被覆した直径5cmのアルミニウム金型内で、−40℃の棚温度で凍結された場合、非圧縮キトサンマトリクス12の構造は、微細で、最も密な間隔の、金型縁部からスポンジの上中部に向けて放射状のラメラを有する。この後者の条件において、非圧縮キトサンマトリクス12は、強化された互いにかみ合う構造をより多く含み、それは通常マトリクス表面に圧縮負荷がかけられる緻密化工程により適している。
【0086】
3つのタイプのキトサンマトリクスの破壊強度を評価するために上述の試験装置20及び方法を用いたところ、与えられたキトサンマトリクス12に粘着特性が凍結温度の低下につれて向上することが示された。図35は、基礎となるデータのグラフ表示である。X軸を凍結温度(−10℃、−25℃、及び−40℃、右向きに温度が低下する)、Y軸を上述した試験装置20及び方法を用いて測定した破壊圧力(mmHg)として図19に3つのデータの組をプロットする。3つのデータの組(−10℃、−25℃、及び−40℃について、各々n=10、n=10、及びn=18)の分散分析は、極めて小さいp値(p=11.77E−11)を生じた。図35から見られるように、キトサンマトリクス12の粘着特性は、マトリクスの物理構造が、段状で開孔した垂直ラメラ構造から微細で強化された交差メッシュラメラ構造に変化することにより向上する。
【0087】
また図19は、上述の試験装置20及び方法が、「有効性の低い」及び「有効性の高い」キトサンマトリクス12を識別するのに十分な感度の再現性のあるデータを提供することを示している。
【0088】
(E.親水性ポリマースポンジ構造体の適合特性の変化)
使用の直前に、(図4から6に示すように)組織被覆材パッドアセンブリ10は、その小袋16から取り出される。その水分含有量が低いために、組織被覆材パッドアセンブリ10は、小袋16から取り出したとき、比較的柔軟性がなく、標的とする損傷部位の曲がった不規則な表面に即座に良く適合できないように見える。標的とする損傷部位上に配置する前にパッドアセンブリ10を曲げ及び/又は成形することは既に述べて推奨した。重度の出血を抑制するためには損傷欠陥に対してパッドアセンブリ10を即座に押しつけることが必要であるため、パッドアセンブリ10の成形能力は強い出血を抑制する際に特に重要である。一般に、これらの出血血管は、不規則な形状の創傷内部深くにある。
【0089】
パッドアセンブリ10が一例となる親水性ポリマースポンジ構造体では、構造体が創傷の形状に適合し、下に横たわる損傷の不規則な表面とスポンジ構造体との配置を達成するように製造されているので、構造体の可撓性及び適合性が大きくなると、分裂及び崩壊に対する耐性が大きくなる。分裂及び崩壊に対する耐性は、創傷シーリング及び止血効率を維持するために有利なことである。適合性及び可撓性は、親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、パッドアセンブリ10)に、深い又は裂けた形状の創傷を、亀裂や重大なパッドアセンブリ10の溶解を起こすことなく付加する能力を提供する。
【0090】
キトサンの溶液中に或る種の可塑剤を用いることにより可撓性及び適合性を向上させる場合は、或る種の可塑剤がパッドアセンブリ10の他の構造的特質を変化させる可能性があるため問題が生じることもある。例えば、キトサングルタミン酸塩及びキトサン乳酸塩は、キトサン酢酸塩より適合性がある。しかし、グルタミン酸及び乳酸のキトサン塩は、血液の存在下で即座に溶解するが、キトサン酢酸塩は溶解しない。即ち、向上した適合性及び可撓性は、低下した堅牢性及び溶解耐性寿命と相殺されるのである。
【0091】
適合性及び可撓性の向上は、製造後に任意の親水性ポリマースポンジ構造体を機械的に操作することにより達成され、堅牢性及び溶解耐性寿命の有利な特徴を失うことはない。製造後にそのような機械的操作が実施される幾つかの方法を、ここに記述する。キトサンマトリクス12を前提にして方法を説明するが、方法は親水性ポリマースポンジ構造体の成形に広く適用可能であり、キトサンマトリクス12は単なる一例である。
【0092】
(1.親水性ポリマースポンジ構造体の調整的な微小亀裂)
キトサンマトリクス12のような親水性ポリマースポンジ構造体の基礎構造の微小亀裂の調整は、手順を追って乾燥パッドアセンブリ10を機械的プレコンディショニングすることにより実施できる。パッドアセンブリ10を機械的プレコンディショニングによって調整するこの形態は、パッドアセンブリ10の使用時における全体的な不具合を生ずることなく、向上した可撓性及び適合性を達成できる。
【0093】
望ましくは、図20に示すように、プレコンディショニングは、小袋16に密封されたパッドアセンブリ10で実施できる。図20に示すように、パッドアセンブリ10の活性面(即ち、キトサンマトリクス12)を上向きにし、手動で1から1.5mmの深さの指の圧痕48を表面全体に渡って繰り返し適用する。局所的な圧力を適用後、図21Aが示すように、活性面を上向きにしたままの四角いパッドアセンブリの一端を、直径7.5cm×長さ12cmの円筒50の側面に付ける。次いで円筒50をパッドアセンブリ10上に転がし、パッドアセンブリ10に直径7.5cmの凹形を付ける。円筒50を外し、パッドアセンブリ10を90°回転させ(図21B参照)、パッドアセンブリ10に形成される別の直径7.5cmの凹形をつける。この処理の後、パッドアセンブリ10を反転させ(即ち、今度は支持材14を上向きにし(図21C及び21D参照)、90°の補正をして、直径7.5cmの凹形をパッドアセンブリ10の支持材14に形成する。ここに記載したパッドアセンブリ10の操作は、最終的に出荷包装するための装填及び密封の直前に、その処理中に機械的に実施されることが考えられる。
【0094】
上述した機械的なプレコンディショニングは、指での探索(probing)及び/又は円筒への巻き付けに限られるものではない。プレコンディショニングは、任意の親水性ポリマースポンジ構造体の内部に機械的変化を起こして、スポンジの止血効果を大きく損なうことなく、スポンジの曲げ弾性率の向上をもたらす任意の技術も含んでいる。そのようなプレコンディショニングは、限られないが、曲げ、捻り、回転、振動、探索、圧縮、延伸、振盪及び混練による機械的操作を含む任意の親水性ポリマースポンジ構造体の機械的操作を含む。
【0095】
(実施例3)
(ブタ大腿部動脈損傷実験)
キトサンパッドアセンブリは、240分間、重大な出血性損傷モデルで使用するために、上述したように、可撓性及び適合性を向上させるために機械的プレコンディショニングをした。各々約45kgのブタ(N=14)を、平均動脈圧及び晶質及び高張食塩水での心臓血管保護を監視しながら麻酔した(テラゾール誘導、ブプレノルフィン、酸素中のイソフルラン)。創傷を模するための、通常の外科手術で行われるような組織平面に従わない皮膚及び筋肉の横切開を、各動物の左右鼠径部で行い、左右大腿部動脈を露出又は部分的に分離させた。露出した大腿部動脈は、外部組織表面の下方2.5cmから4.0cmであった。創傷を形成する前に、露出した大腿部動脈全体にブピバカインを鎮痛剤として、また血管痙攣を低減させるために投与した。鼠径管から1−2cmにおいて、2.7mm血管パンチでの穿孔により大腿部動脈創傷を形成し、ガーゼで創傷を1分間保護し、ガーゼを取り除いた後に持続的な強い出血を生じさせた。メドライン(Medline)ガーゼスポンジ(7.5cm×7.5cm及び12層)の2つのスポンジを2つに折り畳み、7.5cm×3.8cmの大きさの48層ガーゼのコントロール試験片とした。これを48PGと呼ぶ。プレコンディショニングしたキトサンパッドアセンブリ10を、5cm×5cm×0.55cmの4つの試験片に切った。これをHCBと呼ぶ。各キトサンパッドアセンブリ10の4つのHCB片のうちの2つを、各損傷試験で使用するために無作為に選択した。止血を達成するために、HCB又は48PGを、7.5cmのガーゼロールで支持して穿孔部に即座に押し当て、3分間損傷部に保持した。損傷を抑制するのに用いた圧力は、損傷部の遠位で脈拍を監視することにより観察される動脈血流を止めるのにちょうど十分なものとした。圧力は3分後に解放したが、7.5cmのガーゼロールは試験片の上に残したままにした。止血時間を、各試験片について記録した。最初の試験片での試みが30分以内に止血を達成できなかった場合は、同じパッドアセンブリ10の第2の試験片での試みを許容した。第2の試験片での試みでも、少なくとも240分の止血の達成及び維持をできなかった場合、そのHCB又は48PGを失敗として記録した。最初の適用に48PGが用いられ、それが最初の30分で不成功であった場合、次にHCBパッドアセンブリ10を救護用のパッドアセンブリ10として使用することができるものとした。逆に、最初の適用にHCBが用いられ、それが最初の30分で不成功であった場合、48PGを救護用のパッドアセンブリ10として使用することができるものとした。HCB又は48PGのいずれでも、少なくとも30分間に亘って或る損傷の止血達成に成功しなかった場合、損傷を鉗子で止めて他の動脈を用いることにした。240分の止血では、試験片が長期に亘る手術で成功するかについて評価した。脈拍は遠位でチェックし、動脈が開存性であるかを確認し、試験片(HCB又は48PG)を取り出して、クロット耐久性又は出血をチェックした。試験片については、全体性、ゲル化及び組織への付着を試験した。大腿部動脈からの血液損失を記録した。サンプルは組織学検査のために回収した。動物に第2回目の大腿部損傷を適用する際は、最初の大腿部損傷と逆にした。14匹全ての動物(28の損傷)を、この方法で試験した。
【0096】
この実験において、HCB試験(N=25)の100%が30分後に止血されたが、48PG(N=14)の21%しか同時間後に止血されなかった。30分におけるHCB及び48PGの各々100%及び21%の止血という結果のように、48PGには救護用としての適性はなかったが、HCBには11の救護用としての適性があった。240分において、HCB試験の84%は止血されていたが、48PGの7%しか止血されていなかった。フィッシャーの正確確率検定による統計分析は、このモデルにおける48PGとHCBの群の間に止血効果の有意な(P<0.001)差があることを示した。結果を下記の表5及び表6にまとめる。
【0097】
【表5】
【0098】
【表6】
また、曲げ試験及び(「SAWS(simulated arterial wound seal)」又は「SAWS試験」と呼ばれることもある、上述した試験装置20及び方法を用いた)急性のインビトロで模した動脈創傷封止試験も、操作したパッドアセンブリ及び操作しないパッドアセンブリについて実施した。10cm×1.27cm×0.55cmの細片を各パッドアセンブリの二分の一から取った。これらを三点曲げ試験における曲げ弾性率を試験するのに用いた。50N負荷セルを備えるインストロン(Instron)一軸機械的検査装置、モデル番号5844での三点曲げ試験は、0.55厚の試験片のスパン5.8cm及びクロスヘッド速度0.235cm/sでの曲げ弾性率を測定するために実施された。パッドアセンブリの他の半分はSAWS試験で使用した。曲げ試験の結果を下記の表7に示す。曲げ試験は、機械的プレコンディショニングでの可撓性の有意な向上を示している。SAWS試験の結果は下記の表8に示す。
【0099】
SAWS試験の結果は、処理した試験サンプルでは未処理のコントロールに比較して平均破裂圧耐性が1114mmHgから753.7mmHgまで32.4%低下していることを示している。このインビトロ試験は、SAWS試験器の平坦な試験台表面上で実施されるものであるが、大腿部動脈モデルにおいて示したように、損傷の不規則に曲がった表面上では、処理したサンプルは高度に有効であった。機械的操作によってもたらされた剛性の63%の低下は、キトサンマトリクス12を損傷に押しつけ易くし、これは明らかにSAWS効率における32.4%の低下と相殺する。
【0100】
【表7】
【0101】
【表8】
(2.親水性ポリマースポンジ構造体の調整的な微小構造化)
任意の親水性ポリマースポンジ構造体を(深いレリーフパターン形成によって)調整し微小構造化すると、パッドアセンブリ10の使用時に大きな不具合を起こすことなく、可撓性及び適合性の向上を達成できる。キトサンマトリクス12には、深いレリーフパターンを、キトサンマトリクスの活性表面、又は支持材14、あるいは両方に形成することができる。
【0102】
図23A及び23Bに示すように、深い(0.25−0.50cm)レリーフ表面パターン52(微小構造化した表面)は、スポンジを80℃で熱圧縮することによりパッドアセンブリ10に形成できる。スポンジ熱圧縮は、制御されたヒーターアセンブリ56を備えるポジのレリーフプレス圧盤54を用いて実施できる。使用可能なレリーフパターン52のタイプの種々の代表的な例を図24Aから24Dに示す。ネガのレリーフパターンが、加熱された圧盤54に設けられたポジのレリーフから形成される。
【0103】
パターン52の目的は、レリーフ52に直角な曲げ耐性を低下させることにより乾燥パッドアセンブリの適合性を向上させ、レリーフパターンを局所的なヒンジのように作用させて、その長さに沿った可撓性を向上させることである。
【0104】
このレリーフ52は、パッドアセンブリ10の支持材14に適用し、損傷封止と局所的クロット形成により止血することを役割とするキトサンマトリクス12には適用しないのが好ましい。基礎となるキトサンマトリクス12に微小構造化した深いレリーフパターン52を設けると、キトサンマトリクス12を通して血液が漏れるチャンネルを提供することによりシーリング性の低下を与えうる。
【0105】
この可能性を低減するために、図24E及び24Fに示すタイプの代替的レリーフパターン52を基礎レリーフに使用することもでき、それはシーリング性の低下が起こる可能性を下げるであろう。従って、レリーフ52はマトリクスの基礎でも使用することができるが、支持材14又はマトリクスの上表面での使用に比較すると、やはり好ましくはない。スポンジ圧縮中に、圧盤の上下に設けられた2つのポジのレリーフパターンを用いることにより、パッドアセンブリ10の上及び下表面に同時にレリーフパターンを適用することも可能である。しかし、図18A及び18Bが示すように、キトサンマトリクス12の上表面において1つのポジのレリーフを用いることにより、単一の、深いレリーフを形成するのがより好ましい。
【0106】
(実施例4)
試験パッドアセンブリ(各々、10cm×10cm×0.55cm、粘着性支持材14−−3M 1774Tポリエチレンフォーム医療用テープ0.056cm厚を備える)に機械的曲げ試験を実施した。1つのパッドアセンブリ10(パッド1)は、主に垂直なラメラ構造を有するキトサンマトリクス12(即ち、上述したように、比較的高い凍結温度で製造したもの)を備えるものとした。他のパッドアセンブリ10(パッド2)は、主に水平で互いにかみ合ったラメラ構造を有するキトサンマトリクス12(即ち、上述したように、比較的低い凍結温度で製造したもの)を備えるものとした。
【0107】
パッド1及び2の各々を半分に切断した。圧縮キトサンパッド1及び2各々の2つの半分(5cm×10cmX0.55cm)を、80℃で局所的に圧縮して支持材14に図19Aに示す形状のレリーフパターンを形成した。パッド1及び2の他の半分は未処理のまま、コントロールとして使用した。
【0108】
3つの試験片(10cm×1.27cm×0.55cm)を、外科用メスを用いてパッドアセンブリ10の各半分から切り出した。これらの試験片に三点曲げ試験を実施した。試験片は、上表面に0.25cmの深さ及び0.25cmの幅のレリーフ凹みを有するものとし、各凹みは、隣接する凹みから1.27cm離間させた。50N負荷セルを備えるインストロン(Instron)一軸機械的検査装置、モデル番号5844での三点曲げ試験は、0.55厚の試験片のスパン5.5cm及びクロスヘッド速度0.235cm/sでの曲げ弾性率を測定するために実施された。曲げ負荷を2つのパッド1及び2(処理及び未処理)の中点曲げ変位に対してプロットし、各々図25A及び25Bに示した。パッド1及び2(処理及び未処理)についての試験片の処理対未処理の曲げ弾性率は、各々表9A及び9Bに示した。
【0109】
曲げ試験は、乾燥パッドアセンブリ10のいずれかのタイプでの調整された微小構造化による可撓性の有意な向上を示した。
【0110】
【表9A】
【0111】
【表9B】
(3.親水性ポリマースポンジ構造体における調整的な垂直チャンネルの形成)
キトサンマトリクス12を一例とする任意の親水性ポリマースポンジ構造体のバルク内へ及びバルクを通じて血液を調整的に導入すると、初期の構造的適合の向上及び構造体溶解に対する耐性の寿命の向上にも望ましい。与えられた親水性ポリマースポンジ構造体への垂直チャンネルの制御された形成は、使用時における構造体の全体的な不具合を生ずることなく、向上した可撓性及び適合性を達成できる。
【0112】
親水性ポリマースポンジ構造体のバルク内へ及びバルクを通じて血液を調整的に導入すると、構造体の初期の構造的適合の向上及び構造体溶解に対する耐性の寿命の向上にも望ましい。親水性ポリマースポンジ構造体への血液吸収の向上は構造体への垂直チャンネルの導入によって達成されうる。チャンネル断面積、チャンネル深さ及びチャンネル数密度によって、血液吸収の適切な速度及び親水性ポリマースポンジ構造体への血液吸収の分配の確保を調整することができる。キトサンマトリクス12については、典型的には、5gから15gの血液吸収に伴ってキトサンマトリクス12重量が200%増加すると、曲げ弾性率が7MPaから2MPaまで約72%低下する。また、キトサンマトリクス12へ血液を調整的に導入すると更に粘着性のあるマトリクスがもたらされる。
【0113】
親水性ポリマーマトリクスにおけるこの強度の向上は、血小板及び赤血球などの血液成分と同マトリクスとの反応の結果である。スポンジ構造体へ血液が導入され、スポンジ構造体と血液成分とが反応して血液と親水性ポリマースポンジ構造体との「アマルガム」を生成するまで十分な時間が経過すると、その結果得られるスポンジ構造体は体液への溶解に耐性となり、特にキトサン酸塩マトリクスの場合、食塩水を導入しても容易に溶解しない。典型的には、特にキトサン酸塩マトリクスの場合、血液と親水性ポリマースポンジ構造体との間の反応に先立って食塩水が導入されると、親水性スポンジ構造体は迅速な膨潤、ゲル化及び溶解を起こす。
【0114】
また、キトサンマトリクス12等の任意の親水性ポリマースポンジ構造体に血液が過剰に導入されると、液状化崩壊をもたらしうる。従って、平均チャンネル断面積、平均チャンネル深さ及びチャンネル数密度は、血液吸収速度が親水性ポリマースポンジ構造体の構造を潰さないことを保証するように調整しなければならない。
【0115】
親水性ポリマースポンジ構造体における垂直チャンネルの調整的分配は、スポンジ構造体製造の凍結工程中に実施でき、あるいは、圧縮(緻密化)工程中のスポンジ構造体の穿孔によって機械的に実施してもよい。
【0116】
底部に核が形成される凍結工程の間に、垂直チャンネルは凍結溶液中に残存ガスで同溶液を過飽和することにより導入できる。同ガスは、凍結が開始されると、金型内の溶液の底部で気泡の核となる。気泡は凍結工程の間に溶液中を上昇して垂直チャンネルを残す。凍結乾燥中のチャンネル周囲の氷の昇華は、最終的なスポンジマトリクス内のチャンネルを保存する。
【0117】
あるいは、チャンネルは、凍結工程中に、金型底部に垂直ロッド部材を配することによっても形成できる。好ましくは、金型は、限定されないが、鉄、ニッケル、銀、銅、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金、バナジウム、モリブデン、金、ロジウム、パラジウム、白金及び/又はそれらの組み合わせといった金属成分から構成される。金属製ロッド部材は、好ましくは、限定されないが、鉄、ニッケル、銀、銅、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金、バナジウム、モリブデン、金、パラジウム、ロジウム又は白金及び/又はそれらの組み合わせといった金属成分から構成される。また金型は、キトサン溶液及びキトサン塩マトリクスの酸性成分との反応を起こさないために、チタン、クロム、タングステン、バナジウム、ニッケル、モリブデン、金及び白金などの薄く不活性な金属コーティングで被覆することもできる。金型及び垂直ロッド部材内での熱伝導を制御するために、金属製金型及び垂直ロッド部材と組み合わせて断熱コーティング又は部材を用いてもよい。金属製金型及び垂直金属製ロッド部材が好ましいが、プラスチック製金型及び垂直プラスチック製ロッド部材は、チャンネルを形成するための便利な代替物である。局所的に配設した断熱部材と組み合わせた金属製金型及びそれらの金属製ロッド部材の利点は、それらによって、凍結するスポンジ構造体内の熱流及び構造の制御を促進する機会が提供されることである。熱流制御における向上は、金型内の熱伝導性及び断熱性の部材間の熱伝導性の大きな差によって、さらにロッド部材を介した親水性ポリマースポンジ構造体のバルク内での局所的な熱勾配の生成能力によってもたらされる。
【0118】
スポンジ構造体の凍結乾燥の後、垂直チャンネルは圧縮(緻密化)工程中に導入することができる。例えば、図26A及び26Bに示すように、圧縮装置58は、スポンジ構造体の底部に短く(深さ2.5mm)等間隔の穿孔62を配するための幾何学的にパターン化されたピンクッションを備える(図27参照)。
【0119】
穿孔62の目的は、親水性ポリマースポンジ構造体の底部へ及びそれを通して遅く制御された速度で血液を局所的に侵入させることである。この侵入の目的は、第一に乾燥スポンジを血液で可塑化することによりマトリクスの曲げ性に迅速な変化を起こさせることである。第二に、引き続き体腔内に存在する溶解剤に対してマトリクスを安定化させるため、マトリクスを通して血液をより均一に分散させ混合させることである。穿孔した底部が存在しないと、1、6、16及び31分経っても、血液はスポンジ構造体の表層(深さ<1.5mm)にしか浸透しないが、穿孔が存在すると、31分後に血液は1.8から2.3mmの深さまで浸透する。穿孔されたマトリクスは穿孔の無いマトリクスに比較して、曲げ弾性率の更なる低下がある。各マトリクスタイプの1、6、16及び31分における吸収特性を図28に示す。
【0120】
(実施例5)
穿孔した及び穿孔しないキトサンマトリクスの両方をインビトロSAWS試験で試験したところ、表10に示すように、両タイプとも強い血流に対するシーリングに有効であることが示された。
【0121】
【表10】
図27のピンクッションデザインで穿孔されたサンプルの試験結果は、穿孔していないコントロールに比較して血液の吸収速度の有意な上昇を示した。パッドアセンブリ10の適用での最初の30秒間に亘る穿孔された試験片における血液吸収速度は、コントロールサンプルより2から3倍高く、従って、穿孔した場合にはパッドアセンブリ10の適合性の迅速な向上が得られ、複雑な創傷領域での重大な出血性損傷への親水性ポリマースポンジ構造体の配置を促進することができる。
【0122】
(II.組織被覆材シートアセンブリ)
(A.概説)
図29は、組織被覆材シートアセンブリ64を示す。既に説明し図1に示した組織被覆材パッドアセンブリ10と同様に、組織被覆材シートアセンブリ64は、使用時に、血液又は体液又は水分の存在下で組織に粘着する。組織被覆材シートよって、アセンブリ64もまた、出血又は他の形態の流体損失に対して、組織損傷又は組織外傷又は組織侵入の部位の止血、封止、及び/又は安定化するのに使用できる。組織被覆材パッドアセンブリ10のように、組織被覆材シートアセンブリ64で処理される組織部位は、例えば、動脈及び/又は静脈出血、又は裂傷、又は進入/進入口創傷、又は組織穿刺、又はカテーテル侵入部位、又は熱傷、又は縫合部を含む。また組織被覆材シートアセンブリ64も、組織処理部位において又はその近傍で、抗細菌及び/又は抗微生物及び/又は抗ウイルス保護バリアを形成することができる。
【0123】
図29は、組織被覆材アセンブリ64の使用前の状態を示す。図30に最も良く示すように、組織被覆材シートアセンブリ64は、組織被覆材マトリクス68の層に挟まれた、織又は不織メッシュ材料のシート66を含む。組織被覆材マトリクス68は、シート66を含んでいる。組織被覆材マトリクス68は、望ましくは組織被覆材パッドアセンブリ10に関して記載したようにキトサンマトリクス12を含む。しかし、他の親水性ポリマースポンジ構造体を使用することができる。
【0124】
組織被覆材シートアセンブリ64の大きさ、形状、及び形態は、その意図する用途に応じて変化しうる。シートアセンブリ64は、直線状、細長状、円状、楕円状、又はそれらの複合又は合成組み合わせ物であってよい。
【0125】
組織被覆材シートアセンブリ64は、出血領域において親水性ポリマースポンジ構造体の迅速な適合を達成する。組織被覆材シートアセンブリ64は、好ましくは(パッドアセンブリ10に比較して)薄く、0.5mmから1.5mmの厚さの範囲である。シートアセンブリ64の薄い強化構造の好ましい形態は、コットンガーゼ等の吸収性の帯具で強化されたキトサンマトリクス12又はスポンジ、典型的には0.10から0.20g/cm3の密度のキトサンマトリクスを含み、最終的な帯具の厚さは1.5mm以下である。
【0126】
シートアセンブリ64は、(図31Aに示すような)多シート平板形状70で包装されるように小型のシート状(例えば、10cm×10cm×0.1cm)、あるいは(図31Bに示すような)小型の巻かれたシート形状72で包装されるように長いシート状(例えば、10cm×150cm×0.1cm)で調製できる。シート66はアセンブリ64の全体を強化するが、血液吸収のために利用できる親水性ポリマースポンジ構造体の大きな比表面積も提供する。また織又は不織シート66の存在は、親水性ポリマースポンジ構造体全体を強化する。
【0127】
シート66は、例えば、コットンメッシュガーゼ等のセルロース由来材料から形成された織又は不織メッシュ材料を含みうる。好ましい強化材料の例は、合成及び天然由来ポリマーの吸収性の低モジュラスメッシュ及び/又は多孔質フィルム及び/又は多孔質スポンジ及び/又は織物を含む。合成生分解性材料は、限定されないが、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、ポリ(e−カプロラクトン)、ポリ(β−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(β−ヒドロキシ吉草酸)、ポリジオキサン、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(リンゴ酸)、ポリ(タルトロン酸)、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシブチレート及び上記のポリマーを合成するのに使用されるモノマーのコポリマーを含む。天然物ポリマーは、これらに限られないが、セルロース、キチン、アルギン、デンプン、デキストラン、コラーゲン及びアルブミンを含む。非生分解性の合成強化材料は、これらに限られないが、ポリエチレン、ポリエチレンコポリマー、ポリプロピレン、ポリプロピレンコポリマー、メタロセンポリマー、ポリウレタン、ポリ塩化ビニルポリマー、ポリエステル及びポリアミドを含む。
【0128】
(B.組織被覆材シートアセンブリの使用)
薄いシートアセンブリ64は、極めて良好な適合性を有し、損傷部位に親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)を即座に強力に配置することを可能にする。また、シートを強化するとアセンブリ全体が強い出血領域での溶解に耐えることができるようになる。シートアセンブリ64は、創傷部位内で、強い動脈及び静脈出血に対して構造体全体を後押しするような圧力を用いて、親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)を層化、小型化、及び/又は回転−−即ち、(図32に示すような)「詰め込み」−−するのに適合している。図32に示すように、シート構造体全体を詰め込むことにより、帯具に注入された親水性ポリマー(例えば、キトサン)と血液との相互作用が、創傷が特に深い又は他の明らかに近づき難い場合の適用に際して有利になる。シートアセンブリ64の出血性創傷への詰め込み及びその押圧は、粘着性が高く、不溶性かつ極めて良好な帯具形態を提供する。
【0129】
(C.組織被覆材シートアセンブリの製造)
約0.15gm/cm3の密度のキトサンマトリクス12を有する組織被覆材シートアセンブリ64(10cm×10cm×0.15cm)は、11cm×11cm×2cmの深いアルミニウム金型を、2パーセント(2%)キトサン酢酸塩溶液で深さ0.38cmまで満たすことにより調製できる(図33、工程A参照)。
【0130】
図33(工程B)に示すように、シート66−例えば、吸収性ガーゼ帯具10cm×10cmを含む−は、金型内の溶液の上に配置され、キトサンに浸漬される。キトサンはシート66に含浸される。
【0131】
図33(工程C)に示すように、含浸したガーゼシート66の上にさらに0.38cmの深さのキトサンを注ぎ込む。
【0132】
図33(工程D)に示すように、金型を、例えば、30℃の棚上のバーティス・ジェネシス(Virtis Genesis)25XL凍結乾燥機内に配置する。溶液を凍結させ、その後氷を凍結乾燥により昇華させる。
【0133】
図33(工程E)に示すように、得られたガーゼ強化シートアセンブリ64を、圧盤の間で80℃において0.155cmの厚さまでプレスする。次いで、プレスしたシートアセンブリ64を、80℃で30分間焼く(図33、工程F)。得られたシートアセンブリは、先に述べた方法で滅菌する。最終的な滅菌及び貯蔵のために、1又はそれ以上のシートアセンブリを加熱密封されたホイルで裏打ちされた小袋74などに包装し、シート形態又はロール形態にする(図34参照)。
【0134】
(実施例6)
(組織被覆材シートアセンブリの曲げ特性)
組織被覆材シートアセンブリ64の三点曲げ試験を実施した。三点曲げ試験は、50N負荷セルを備えるインストロン(Instron)一軸機械式検査装置、モデル番号5844で、試験片のスパン5.8cm及びクロスヘッド速度0.235cm/sでの曲げ弾性率を測定するために実施された。結果を図35に示す。図35は、試験した1.5mm厚さの組織被覆材シートアセンブリが、5.5mm厚さの組織被覆材パッドアセンブリより有意に良く適合することを示している。
【0135】
(実施例7)
(組織被覆材シートアセンブリの粘着特性)
組織被覆材アセンブリ64の試験片(5cm×5cm×0.15cm)を、その製造から96時間以内に切り出した。シートアセンブリ64には、試験前にガンマ線照射滅菌を施さなかった。クエン酸化したウシ全血に試験片を10秒間浸漬し、即座にSAWS試験を行った。試験中に3つの試験片を層化し、複合キトサン密度は0.15g/cm3を示した。この試験の結果を図36に示す。
【0136】
図36aが示すように、3層の組織被覆材シートアセンブリ64は、長時間(即ち、約400秒)に亘って、およそ80mmHgの実質的に生理的な血圧を保持した。このことは、シーリング及びクロット形成の存在を示している。
【0137】
パッドアセンブリでの経験に基づけば、より良い粘着/付着特性は、組織被覆材シートアセンブリ64がガンマ線照射を受けた後にもたらされると予測される。図36Bはこのことを確認したものであり:ガンマ線照射の後、3層のシートアセンブリ64は、0.55cm厚さのキトサン組織パッド10と極めて類似する性能を示した。
【0138】
(III.親水性ポリマースポンジ構造体の更なる適用及び形状)
これまでの開示は、主に創傷部位での血液及び/又は流体損失の止血設定における組織被覆材パッドアセンブリ10及び組織被覆材シートアセンブリ64の使用に集中していた。他の適用についても言及してきたが、以下これらの適用及び更に別の適用のいくつかについて、より詳細に記述する。
【0139】
もちろん、キトサンマトリクスを一例とする圧縮された親水性ポリマースポンジ構造体が有する顕著な技術的特徴は、多様な形状、大きさ、及び形態の被覆材構造体に取り入れられ、多様な数の異なる適用が提供されると理解すべきである。示されるように、与えられた親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)が取り得る形状、大きさ、及び形態は、記載したパッドアセンブリ10及びシートアセンブリ64に限られず、特別な適用の求めに応じて変形しうる。幾つかの代表的な例を以下に示すが、含まれる全ては限定を意図したものではない。
【0140】
(A.体液損失抑制(例えば、熱傷))
出血の抑制といっても、体液の保存が健康及び時には生命の維持と同義的意味を表す場合もある。このような例としては熱傷の治療がある。
【0141】
熱傷は、熱及び火炎、放射線、太陽光、電気、又は化学物質への曝露によって起こり得る。薄い又は表在性熱傷(I度の熱傷とも呼ばれる)は、発赤して痛みがある。それらは若干隆起し、押すと白くなり、熱傷上の皮膚は1日又は2日で剥離する。より深い熱傷である、表在性中間層熱傷及び深部中間層熱傷(II度の熱傷とも呼ばれる)は、水疱を有して痛みが強い。また、全層性熱傷(III度の熱傷とも呼ばれる)もあり、それは皮膚の全ての層に損傷を生じる。熱傷した皮膚は白色又は黒焦げしている。これらの熱傷は、神経が損傷した場合には痛みを殆ど又は全く生じない。
【0142】
組織熱傷領域の存在は、(脱水症をもたらす)流体損失を抑制する皮膚の機能、並びに細菌及び微生物の侵入をブロックする皮膚の機能をその領域において危うくする。従って、全ての熱傷の治療において、被覆材は熱傷領域の被覆に使用される。被覆材は、該領域から離れて空気を保ち、痛みを和らげ、水疱のある皮膚を保護する。また被覆材は、組織熱傷が治癒する際に流体を吸収する。抗微生物クリーム又は軟膏及び/又は保湿剤が、乾燥を防ぎ感染症を撃退するために用いられる。
【0143】
親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、既に述べたタイプのキトサンマトリクス12)は、パッドアセンブリ10又はシートアセンブリ64のいずれかの形態で、組織熱傷領域の治療に使用できる。親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)は、流体を吸収して粘着し、熱傷領域を覆う。親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)は、熱傷領域において抗細菌/抗微生物保護バリアも提供する。
【0144】
(1.複合被覆アセンブリ)
図37及び38は、組織熱傷領域、並びに比較的大容量の流体漏出及び/又は出血が見込まれる他の損傷組織領域の治療にも使用できる複合被覆材アセンブリ76を示す。複合被覆材アセンブリ76は、流体吸収部材78又はキャリア及び流体吸収部材78に担持された親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)を含む。
【0145】
流体吸収部材78は、例えば、コットンガーゼメッシュのようなセルロース由来材料から形成される、織又は不織メッシュ材料を含みうる。流体吸収部材78の他の例は、合成及び天然由来ポリマーの吸収性の低モジュラスメッシュ及び/又は多孔質フィルム及び/又は多孔質スポンジ及び/又は織物を含む。合成生分解性材料は、限定されないが、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、ポリ(e−カプロラクトン)、ポリ(β−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(β−ヒドロキシ吉草酸)、ポリジオキサン、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(リンゴ酸)、ポリ(タルトロン酸)、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシブチレート及び上記のポリマーを合成するのに使用されるモノマーのコポリマーを含む。天然物ポリマーは、これらに限られないが、セルロース、キチン、アルギン、デンプン、デキストラン、コラーゲン及びアルブミンを含む。非生分解性の合成強化材料は、これらに限られないが、ポリエチレン、ポリエチレンコポリマー、ポリプロピレン、ポリプロピレンコポリマー、メタロセンポリマー、ポリウレタン、ポリ塩化ビニルポリマー、ポリエステル及びポリアミドを含む。
【0146】
親水性ポリマースポンジ構造体は、例えば、既に述べたタイプのキトサンマトリクス12を含むことができ、それは、望ましくは緻密化を施されている。また、他のタイプのキトサン構造体又は他の形状の親水性ポリマースポンジ構造体又は組織被覆材マトリクスも一般に使用できる。親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)は吸収部材に固着されるが、例えば、親水性ポリマースポンジ構造体への直接粘着及び/又は接着、又はフィブリン糊、又はシアノアクリレート糊による。
【0147】
親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)とともに配設されたときの吸収部材の主要な機能は、組織熱傷領域(又は他の創傷部位)又はその近傍に残った流体を吸収することである。これにより、親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)は、複合アセンブリの全流体保持機能を担う必要がなくなる。図37に示すように、流体吸収部材78の外周は、望ましくは親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)の外周を越えて延設され、吸収部材78の流体吸収機能の範囲及び容量を増加させる。
【0148】
吸収部材78は、それにより、親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)の流体保持機能を補い分担する。吸収部材78は、親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)の流体保持負荷を軽くするので、親水性ポリマースポンジ構造体ではその構造的全体性を危うくするような過水和が起こらず、流体又は血液で過飽和にならない。
【0149】
図39に示すように、吸収部材78と親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)との間の界面は、穿孔80又は他の方法で透過性を付与され、親水性ポリマースポンジ構造体に保持された流体は容易に吸収部材78に移動することができ、それにより、親水性ポリマースポンジ構造体の流体保持負荷が低減される。
【0150】
使用時に、流体吸収部材78は接着剤を備えて、組織に接着されてもよい。あるいは、従来の被覆材(例えばガーゼ)を別に組み合わせて、複合被覆材アセンブリ76を固定させ、創傷に清浄なバリアを提供するために適用してもよい。創傷が続いて下着に隠れる場合、水密のカバーを適用して、複合被覆材アセンブリ76が過度に水和されることを防止する必要がある。
【0151】
(B.抗微生物バリア)
或る種の適用では、治療の焦点は、損傷により又は内部組織領域への侵入口確保の必要性により傷つけられた組織領域を通じて細菌及び/又は微生物の進入を防止することになりつつある。後者の状況の例は、例えば、腹膜透析に適応させるための留置カテーテルの設置、又は外部の尿又は結腸瘻バッグへの連結、又は非経口栄養摂取、又はサンプリング又はモニタリング装置の接続;又は例えば、気管切開術、又は腹腔鏡又は内視鏡手法、又は血管へのカテーテル装置の導入における身体内部領域への侵入のための切開創の形成後を含む。
【0152】
図40及び41において、抗微生物ガスケットアセンブリ82の一つの代表的な実施態様が示される。ガスケットアセンブリ82は、侵入部位、特に留置カテーテル88が配設された侵入部位上に配置されるような大きさ及び形態である。抗微生物アセンブリ82は、組織粘着性キャリア部材84を含み、それに抗微生物部材が固定されている。望ましくは、抗微生物部材は、既に述べたタイプのキトサンマトリクス12を含み、それは緻密化を施されている。また、他のタイプのキトサン構造体、又は他の親水性ポリマースポンジ構造体、又は組織被覆材マトリクスも一般に使用できる。
【0153】
キャリア部材84は粘着性表面86を含み、抗微生物部材(望ましくは、キトサンマトリクス12)が侵入部位に渡って付着される。図40及び41において、抗微生物部材12及びキャリア84は貫通孔90を備え、貫通孔から留置カテーテル88を通過させることができる。この配置において、貫通孔90の内径は留置カテーテル88の外径と略同じであり、堅固で密接に嵌合される。カテーテルの留置が無く切開創又は侵入部位のみがある状況では、抗微生物部材は貫通孔を備えないと理解される。
【0154】
代替的な配置(図42参照)では、既に述べた組織被覆材パッドアセンブリ10が、侵入部位の面積に比例した大きさ及び形状にされ、抗微生物ガスケットアセンブリ82を構成する。この形態では、パッドアセンブリ10は貫通孔90を備え、例えば留置カテーテルの通路を提供することができる。
【0155】
他の代替的配置(図43参照)では、既に述べた組織被覆材シートアセンブリ64が、侵入部位の面積に比例した大きさ及び形状にされ、抗微生物ガスケットアセンブリ82を構成する。この形態では、シートアセンブリ64は貫通孔90を備え、例えば留置カテーテルの通路を提供することができる。
【0156】
(実施例8)
(抗微生物特性)
緻密化したキトサン酢酸塩マトリクス及びキトサン酢酸塩マトリクスを導入できる多様な形態の被覆材は、表11にまとめたインビトロ試験によって示されているように抗微生物効果を有する。
【0157】
【表11】
緻密化されたキトサンマトリクス12の優れた粘着性及び機械的特性は、該マトリクスを四肢上(表皮的用途)及び身体内部での抗微生物用途での使用に極めて適したものにする。そのような用途は、短期から中期(0−120時間)の感染抑制、カテーテルの入/出口点での出血、サンプリング及び供給用途のためのバイオメディカル装置の入/出口点での出血、及び患者がショック状態で確実な外科手術による支援を受けられない場合の重大な損傷部位における出血の抑制を含む。
【0158】
(C.抗ウイルスパッチ)
ウイルス性物質によって生ずる再発性の状態が存在する。
【0159】
例えば、単純ヘルペスウイルス1型(「HSV1」)は一般的に胴回りより上にある身体組織にのみ感染する。殆どの場合で単純ヘルペスを発症させるのはHSV1である。単純ヘルペス(又は病変)は、顔面びらんのタイプであり、唇又は口に近い領域の他の皮膚において見出される。単純ヘルペスについて使用される幾つかの他の用語は、「発疹」及び医学用語「再発性口唇疱疹」である。
【0160】
単純ヘルペスウイルス2型(「HSV2」)は典型的に胴回りより下にある身体組織にのみ感染する。「陰部疱疹」としても知られるのは、このウイルスである。HSV2(並びにHSV1)は両方とも、びらん(病変とも呼ばれる)を膣周辺領域、陰茎、肛門開口部、臀部又は大腿部に生じさせる。時折、びらんは、破れた皮膚を通してウイルスが侵入した身体の他の部分に現れることもある。
【0161】
図44及び45は、抗ウイルスパッチアセンブリの代表的な実施態様を示す。抗ウイルスパッチアセンブリ92は、HSV1又はHSV2に関係したタイプの表面病変部、又は伝染性軟属腫及び疣といった他の形態のウイルス皮膚感染部を覆って配置されるような大きさ及び形態とされる。抗ウイルスパッチアセンブリ92は、組織粘着性キャリア部材94を含み、それに抗ウイルス部材が固着される。望ましくは、抗ウイルス部材は既に述べたタイプのキトサンマトリクス12を含み、それは緻密化を施されている。また、他のタイプのキトサン構造体、又は他の親水性ポリマースポンジ構造体、又は組織被覆材マトリクスも一般に使用できる。
【0162】
キャリア部材94は、粘着性表面96を備え、それに病変部を覆う抗ウイルス部材(好ましくはキトサンマトリクス12)が付着する。
【0163】
他の代替的な配置(図示せず)では、既に述べた組織被覆材パッドアセンブリ10又は組織被覆材シートアセンブリ64又は複合被覆材アセンブリ76を、抗ウイルスパッチアセンブリを構成するように、病変部位の面積に相応の大きさ及び形態にすることができる。緻密化された圧縮キトサンマトリクス12の優れた粘着性及び機械的特性は、マトリクスを四肢上(表皮的用途)及び身体内部での抗ウイルス用途での使用に極めて適したものにする。抗ウイルスパッチアセンブリ92の存在は、ウイルス性物質を殺傷し、病変領域における治癒を促進できる。
【0164】
(D.出血性疾患の処置)
様々なタイプの出血又は凝固障害が存在する。例えば、血友病は、遺伝的な出血、又は凝固、の障害である。血友病を持つ人々は、その血液に、「因子」と呼ばれる凝固に必要な特定のタンパク質を低レベルでした持たないか、全く持っていないため、出血を止める能力を欠く。凝固因子の喪失によって、血友病を持つ人々は、血液因子が正常又は正しく作用する人々よりも長期間に亘る出血が生じる。特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は、もう一つの血液凝固障害であり、血液中の血小板数の異常な減少を特徴とする。血小板の減少は、痣、歯肉出血、及び内出血を起こりやすくする。
【0165】
全て既に記載したように組織被覆材パッドアセンブリ10又は組織被覆材シートアセンブリ64又は複合被覆材アセンブリ76に組み込まれた親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)は、血友病又は他の凝固障害を持つ者に現れる出血症状を処置するために、処置被覆材として使用されるような大きさ及び形態とされる。既に述べたように、キトサンマトリクス12の存在は赤血球膜を引きつけ、それはキトサンマトリクス12への接触時に融合する。クロットが極めて迅速に形成され、通常は凝固に必要な凝固タンパク質が不要となる。血友病又は他の凝固障害を持つ者の凝固カスケードにはどこか障害があるのだが、そのような疾患をもつ者に出血症状がある間にキトサンマトリクス12が存在すると、その凝固カスケードとは無関係に凝固プロセスを促進できる。この理由により、被覆材にキトサンマトリクス12を存在せしめることは、血友病のような凝固障害を持つ人々にとっての介入手段として有効である。
【0166】
(E.治療薬の徐放)
親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、既に記載したキトサンマトリクス12)は、1又はそれ以上の治療薬を血流中に制御された放出方法で送達するために局所的に適用される基盤を提供できる。治療薬は、親水性ポリマースポンジ構造体に、例えば凍結工程の前又は後に、及び乾燥及び緻密化工程の前に導入できる。親水性ポリマースポンジ構造体から治療薬が放出される速度は、緻密化の程度によって制御できる。親水性ポリマースポンジ構造体をより緻密化すれば、構造体に導入された治療薬の放出速度はより遅くなる。
【0167】
親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)に導入できる治療薬の例は、これらに限られないが、薬物又は医薬品、幹細胞、抗体、抗微生物、抗ウイルス、コラーゲン、遺伝子、DNA、及び他の治療薬;フィブリンなどの止血剤;成長因子;及び同様の化合物を含む。
【0168】
(F.粘膜表面)
キトサンマトリクス12の有利な特性は、食道、胃腸管、尿管、口、鼻道及び気道、及び肺などを覆う身体内の粘膜表面への粘着性を含む。この特徴は、キトサンマトリクス12を、例えば、粘膜表面の治療のためのシステム及び装置に導入することを可能にし、そこでは、記載したように、キトサンマトリクス12の粘着性シーリング特性、及び/又は促進された凝固特性、及び/又は抗細菌/抗ウイルス特性が有益となる。そのようなシステム及び方法は、腸管の接合及び他の胃腸管手術方法、食道又は胃機能の再生、縫合部のシーリングなどを含む。
【0169】
(IV.結論)
キトサンマトリクス12のような親水性ポリマースポンジ構造体が、様々な大きさ及び形態−−パッド形状、シート形状、複合形状、積層形状、適合形状−の被覆材又は基盤に関連したものとして容易に適合させることができ、医学及び/又は外科学の当業者はキトサンマトリクス12のような任意の親水性ポリマースポンジ構造体を身体の表面上、身体の内部、又は身体全体の多様な用途のために適応させられることが示された。
【0170】
従って、本発明の上述した実施態様は、その概念の単なる記載であり、何ら限定されないことは明らかである。その代わりに、本発明の範囲は、それらの等価物を含む以下の請求の範囲から画定されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1】図1は、血液、流体、又は水分の存在下で身体組織に粘着可能な組織被覆材パッドアセンブリを組み立てたところの斜視図である。
【図2】図2は、図1に示した組織被覆材パッドアセンブリの分解斜視図である。
【図3】図3は、図1に示した組織被覆材パッドアセンブリを最終的な照射及び貯蔵のための密封小袋に包装したところの斜視図である。
【図4】図4は、図3に示した密封小袋を開封し、組織被覆材パッドアセンブリを使用するために露出させたところの斜視図である。
【図5】図5は、図3に示した密封小袋を開封し、組織被覆材パッドアセンブリを使用するために露出させたところの斜視図である。
【図6】図6及び7は、組織被覆材パッドアセンブリを標的とする組織部位のトポロジーに合致するように適用前に折り畳み又は折り曲げによって保持及び操作されたものの斜視図である。
【図7】図6及び7は、組織被覆材パッドアセンブリを標的とする組織部位のトポロジーに合致するように適用前に折り畳み又は折り曲げによって保持及び操作されたものの斜視図である。
【図8】図8から10A/Bは、出血を止めるために標的とする組織部位に適用された組織被覆材パッドアセンブリの斜視図である。
【図9】図8から10A/Bは、出血を止めるために標的とする組織部位に適用された組織被覆材パッドアセンブリの斜視図である。
【図10A】図8から10A/Bは、出血を止めるために標的とする組織部位に適用された組織被覆材パッドアセンブリの斜視図である。
【図10B】図8から10A/Bは、出血を止めるために標的とする組織部位に適用された組織被覆材パッドアセンブリの斜視図である。
【図11】図11は、出血を止めるために標的とする組織部位に積層状態で適用された2枚の組織被覆材パッドアセンブリの斜視図である。
【図12】図12は、出血を止めるために切り取られ標的とする組織部位に適合された組織被覆材パッドアセンブリの断片の斜視図である。
【図13】図13は、出血を止めるために切り取られ標的とする組織部位に適合された組織被覆材パッドアセンブリの断片の斜視図である。
【図14】図14及び15は、標的組織部位に合致するように凹面状又はカップ状への成形により保持及び操作された組織被覆材パッドアセンブリの斜視図である。
【図15】図14及び15は、標的組織部位に合致するように凹面状又はカップ状への成形により保持及び操作された組織被覆材パッドアセンブリの斜視図である。
【図16】図16は、図1に示した組織被覆材パッドアセンブリの製造方法の工程の線図である。
【図17】図17は、模擬的動脈創傷環境における、図1に示した組織被覆材パッドアセンブリの急性粘着性及び付着性を定量化するために使用される試験装置の部分線図である。
【図18A】図18Aから18Cは、組織被覆材パッドアセンブリの試験サンプルに破壊圧力試験を実施するのに用いられた図17の試験装置の使用時の部分線図である。
【図18B】図18Aから18Cは、組織被覆材パッドアセンブリの試験サンプルに破壊圧力試験を実施するのに用いられた図17の試験装置の使用時の部分線図である。
【図18C】図18Aから18Cは、組織被覆材パッドアセンブリの試験サンプルに破壊圧力試験を実施するのに用いられた図17の試験装置の使用時の部分線図である。
【図19】図19は、異なる凍結温度で製造された親水性ポリマースポンジ構造体間での、図17に示した試験装置を使用して測定された破壊圧力における相違を示すグラフである。
【図20】図20は、向上した可撓性及び適合性を付与する微小亀裂を生成させるための親水性ポリマースポンジ構造体のコンディショニング工程の実施態様の斜視図である。
【図21A】図21Aは、向上した可撓性及び適合性を付与する微小亀裂を生成させるための親水性ポリマースポンジ構造体のコンディショニング工程の実施態様の斜視図である。
【図21B】図21Bは、向上した可撓性及び適合性を付与する微小亀裂を生成させるための親水性ポリマースポンジ構造体のコンディショニング工程の実施態様の斜視図である。
【図22A】図22Aは、向上した可撓性及び適合性を付与する微小亀裂を生成させるための親水性ポリマースポンジ構造体のコンディショニング工程の実施態様の斜視図である。
【図22B】図22Bは、向上した可撓性及び適合性を付与する微小亀裂を生成させるための親水性ポリマースポンジ構造体のコンディショニング工程の実施態様の斜視図である。
【図23A】図23Aは、向上した可撓性及び適合性を付与する深いレリーフパターンを形成することにより親水性ポリマースポンジ構造体をコンディショニングする工程の実施態様の図である。
【図23B】図23Bは、向上した可撓性及び適合性を付与する深いレリーフパターンを形成することにより親水性ポリマースポンジ構造体をコンディショニングする工程の実施態様の図である。
【図24A】図24Aは、図23A及び23Bに示した工程に従って親水性ポリマースポンジ構造体をコンディショニングするために適用され得るレリーフパターンの平面図である。
【図24B】図24Bは、図23A及び23Bに示した工程に従って親水性ポリマースポンジ構造体をコンディショニングするために適用され得るレリーフパターンの平面図である。
【図24C】図24Cは、図23A及び23Bに示した工程に従って親水性ポリマースポンジ構造体をコンディショニングするために適用され得るレリーフパターンの平面図である。
【図24D】図24Dは、図23A及び23Bに示した工程に従って親水性ポリマースポンジ構造体をコンディショニングするために適用され得るレリーフパターンの平面図である。
【図24E】図24Eは、図23A及び23Bに示した工程に従って親水性ポリマースポンジ構造体をコンディショニングするために適用され得るレリーフパターンの平面図である。
【図24F】図24Fは、図23A及び23Bに示した工程に従って親水性ポリマースポンジ構造体をコンディショニングするために適用され得るレリーフパターンの平面図である。
【図25A】図25Aは、図23A及び23Bに示した処理工程が与えることのできる可撓性及び適合性の向上を示すグラフである。
【図25B】図25Bは、図23A及び23Bに示した処理工程が与えることのできる可撓性及び適合性の向上を示すグラフである。
【図26A】図26Aは、可撓性及び適合性を付与する垂直チャンネル(穿孔)を形成することにより親水性ポリマースポンジ構造体をコンディショニングする工程の実施態様の図である。
【図26B】図26Bは、可撓性及び適合性を付与する垂直チャンネル(穿孔)を形成することにより親水性ポリマースポンジ構造体をコンディショニングする工程の実施態様の図である。
【図27】図27は、図26A及び26Bに示した工程に従って親水性ポリマースポンジ構造体をコンディショニングするのに適用され得る垂直の(穿孔された)チャンネルの平面図である。
【図28】図28は、図26A及び26Bに示した処理工程が与えることのできる可撓性及び適合性の向上を示すグラフである。
【図29】図29は、血液、流体、又は水分の存在下で身体組織に粘着可能な組織被覆材シートアセンブリを組み立てたところの斜視図である。
【図30】図30は、図29に示した組織被覆材シートアセンブリの分解斜視図である。
【図31A】図31Aは、シート状に配置した組織被覆材シートアセンブリの斜視図である。
【図31B】図31Bは、ロール状に配置した組織被覆材シートアセンブリの斜視図である。
【図32】図32は、出血を止めるためのロール状の組織被覆材シートアセンブリを標的とする組織領域に詰め込んだところの斜視図である。
【図33】図33は、図29に示した組織被覆材シートアセンブリの製造方法の工程の線図である。
【図34】図34は、最終的な照射及び貯蔵のために密封小袋に包装された図29に示す組織被覆材パッドアセンブリの斜視図である。
【図35】図35は、図29に示した組織被覆材シートアセンブリと、図1に示した未処理の組織被覆材パッドアセンブリとを比較した可撓性及び適合性を示すグラフである。
【図36A】図36Aは、ガンマ線照射前の図29に示す組織被覆材シートアセンブリの模擬創傷シール特性を示すグラフである。
【図36B】図36Bは、ガンマ線照射前及び後の図29に示す組織被覆材シートアセンブリの模擬創傷シール特性を示すグラフである。
【図37】図37は、血液、流体、又は水分の存在下で身体組織に粘着可能な複合組織被覆材アセンブリを組み立てたところの斜視図である。
【図38】図38は、図37に示した複合組織被覆材アセンブリの分解斜視図である。
【図39】図39は、図37に示した複合組織被覆材アセンブリの側断面図である。
【図40】図40は、カテーテルを留置するために侵入部位に粘着しシールするガスケットアセンブリを形成するように成形及び構成された、図37に示したタイプの複合組織被覆材アセンブリの斜視図である。
【図41】図41は、図40に示したガスケットアセンブリの側断面図である。
【図42】図42は、カテーテルを留置するために侵入部位に粘着しシールするガスケットアセンブリを形成するように成形及び構成された、図1に示したタイプの組織被覆材パッドアセンブリの斜視図である。
【図43】図43は、カテーテルを留置するために侵入部位に粘着しシールするガスケットアセンブリを形成するように成形及び構成された、図29に示したタイプの組織被覆材シートアセンブリの斜視図である。
【技術分野】
【0001】
(関連する出願)
本出願は、「創傷被覆材及び重篤で生命にかかわる出血を制御する方法(Wound Dressing and Method of Controlling Severe Life−Threatening Bleeding)」と題する2004年12月23日に出願された米国特許出願第10/743,052号の一部継続出願であり、それは「創傷被覆材及び重篤で生命にかかわる出血を制御する方法(Wound Dressing and Method of Controlling Severe Life−Threatening Bleeding)」と題する2003年12月15日に出願された米国特許出願第10/480,827号の一部継続出願であり、それは2001年6月14日に出願された仮出願第60/298,773号の利益を主張する2002年6月14日に出願された国際出願PCT/U502/18757のC.F.R.§371に従う国内段階出願であり、これらは各々参考としてここに取り入れるものとする。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、全体として、組織損傷、又は組織外傷、又は組織侵入の部位に適用して、出血、流体漏出又は滲出、あるいは他の形態の流体損失を改善し、それと同時に当該部位全体を覆って保護する組織被覆材に係る。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
ガーゼ包帯で連続的に圧力をかけることは、血流、特に重篤な出血性創傷からの流出を止めるために用いられる第一の処置技術である。しかし、この手法は、重篤な血流を止めるには効率的でも安全でもない。これは、創傷からの重篤で生命にかかわる出血の場合、生存にかかわる大きな問題となり、今後も問題であり続ける。
【0004】
コラーゲン創傷被覆材又は乾燥フィブリントロンビン創傷被覆材あるいはキトサン及びキトサン被覆材等の止血帯具が市販されているが、それらの被覆材は多量の血流中での耐溶解性がない。また、それらは、重篤な血流の阻止において実用的な目的を達成するのに十分な粘着特性を有していない。これらの現在入手可能な外科的止血帯具は繊細でもあり、従って圧力をかけて曲げたり捻ったりすることにより損傷を受けがちな傾向がある。また、それらは流出している血液中に溶解されやすい。そのような、これらの帯具の溶解及び崩壊は創傷への粘着性を失わせ、弱めることなく出血させ続けることになるので悲惨になりうる。
【0005】
使用中に溶解されない堅牢性及び長寿命を持つ改善された止血被覆材が求められている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の概要)
本発明は、親水性ポリマースポンジ構造体から形成される組織被覆材アセンブリ、システム及び方法を提供する。この組織被覆材アセンブリは、例えば、(i)組織損傷、組織外傷、又は組織侵入の部位の止血、封止、又は安定化に;あるいは(ii)抗細菌バリアの形成に、あるいは(iii)抗ウイルス性パッチの形成に;あるいは(iv)出血性疾患の処置に;あるいは(v)治療薬の放出に;あるいは(vi)粘膜表面の処理に;あるいは(vii)それらの組み合わせに使用することができる。
【0007】
本発明の一態様によれば、親水性ポリマースポンジ構造体は、(i)使用前の機械的操作による構造体の重要な部分の微小亀裂、又は(ii)使用前の構造体の重要な部分に形成された表面レリーフパターン、又は(iii)使用前の構造体の重要な部分に形成された流体注入チャンネルパターンの少なくとも1つを含んでいる。
【0008】
本発明の他の態様によれば、組織被覆材アセンブリは、親水性スポンジ構造体内に存在する少なくとも1つの織又は不織又は透過性の膜質シートを含んでいる。
【0009】
本発明の他の態様によれば、組織被覆材アセンブリは、親水性スポンジ構造体に保持された吸収性成分を含んでいる。
【0010】
これらの態様の一又はそれ以上を備させることにより、適合性、可撓性、及び長寿命が付与される。
【0011】
一実施態様において、親水性ポリマースポンジ構造体はキトサン生物材料を含んでいる。
【0012】
一実施態様において、親水性ポリマースポンジ構造体は、望ましくは0.6から0.1g/cm3の密度まで緻密化される。
【0013】
本発明の他の特徴及び利点は、添付する説明、図面、及び請求の範囲に基づいて明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(詳細な説明)
本開示を理解し易くするために、包含される論題の範囲を記載順に従って以下のリストにまとめる。
【0015】
(記載される論題範囲のリスト)
I.組織被覆材パッドアセンブリ
A.概説
1.組織被覆材マトリクス
2.支持材
3.小袋
B.組織被覆材パッドアセンブリの使用
実施例1
C.組織被覆材パッドアセンブリの製造
1.キトサン溶液の調製
2.キトサン水溶液の脱気
3.キトサン水溶液の凍結
4.キトサン/氷マトリクスの凍結乾燥
5.キトサンマトリクスの緻密化
7.支持材の固定
8.小袋への配置
9.最終滅菌
D.親水性ポリマースポンジ構造体の粘着性/付着性のシーリング特性の評価
1.動脈創傷シーリング試験装置
2.老化現象の識別
実施例2
3.親水性ポリマースポンジ構造体の異なる形状間での粘着/付着特性の識別
E.親水性ポリマースポンジ構造体の適合特性の変化
1.調整的な微小亀裂
実施例3
2.調整的な微小構造化
実施例4
3.調整的な垂直チャンネルの形成
実施例5
II.組織被覆材シートアセンブリ
A.概説
B.組織被覆材シートアセンブリの使用
C.組織被覆材シートアセンブリの製造
実施例6及び7
III.親水性ポリマースポンジ構造体の更なる適用及び形状
A.体液損失抑制(例えば、熱傷)
1.複合被覆材アセンブリ76
B.抗微生物バリア
実施例8
C.抗ウイルスパッチ
D.出血性疾患の処置
E.治療薬の徐放
F.粘膜表面の治療
IV.結論
本開示は当業者が発明を実施するのを可能にするために詳細かつ正確であるが、ここに開示される物理的実施態様は、単に発明を例示しているに過ぎず、他の特定の構造に具現化される場合もある。好ましい実施態様は記載されているが、その詳細は、請求の範囲で画定される発明から逸脱することなく変形しうる。
【0016】
(I.組織被覆材パッドアセンブリ)
(A.概説)
図1は、組織被覆材パッドアセンブリ10を示す。使用時に、組織被覆材パッドアセンブリ10は、血液、又は体液、又は水分の存在下で組織に粘着することができる。組織被覆材パッドアセンブリ10は、出血、流体漏出又は滲出、又は他の形態の流体損失がないように、組織損傷、組織外傷、又は組織侵入(例えば、カテーテル又は栄養チューブ)の部位を止血、封止、又は安定化するために使用できる。処理される組織部位は、例えば、動脈及び/又は静脈出血、又は裂傷、又は進入/進入口創傷、又は組織穿刺、又はカテーテル侵入部位、又は熱傷、又は縫合部を含む。また組織被覆材パッドアセンブリ10は、組織処理部位において又はそれを取り囲んで、抗細菌及び/又は抗微生物及び/又は抗ウイルス保護バリアを形成することができるのが望ましい。
【0017】
図1は、組織被覆材パッドアセンブリ10の使用前の状態を示している。図2に最も良く示されるように、組織被覆材パッドアセンブリ10は、組織被覆材マトリクス12と、組織被覆材マトリクス12の一方の表面に被せられたパッド支持材14を含む。望ましくは、組織被覆材マトリクス12及び支持材14は、異なる色、質感を有するか、又は他の視覚的及び/又は触覚的に異なるものとされ、処置を実施する人による識別を容易にする。
【0018】
組織被覆材パッドアセンブリ10の大きさ、形状、及び構造は、その意図する用途に応じて変化しうる。パッドアセンブリ10は、直線状、細長状、円状、楕円状、又はそれらの複合又は合成組み合わせ物であってよい。望ましくは、後述するように、パッドアセンブリ10の形状、大きさ、及び構造は、使用中又は使用前のいずれかに、切断、曲げ、又は成形することによって形成されうる。図1において組織被覆材パッドアセンブリ10の代表的な構造を示すが、それは、外部の出血又は流体損失の一時的な抑制のために極めて有用である。例としては、その大きさは10cm×10cm×0.55cmである。
【0019】
(1.組織被覆材マトリクス)
組織被覆材マトリクス12は、好ましくは低モジュラスの親水性ポリマーマトリクスから形成される、即ち、もともと「圧縮されていない」組織被覆材マトリクス12は、後述する次の緻密化工程によって緻密化される。組織被覆材マトリクス12は、好ましくは、血液、体液、又は水分の存在下で反応して強固な接着剤即ち糊となる生体適合性材料を含む。望ましくは、組織被覆材マトリクスは、他の有利な特性、例えば、抗細菌及び/又は抗微生物、抗ウイルス特性、及び/又は損傷に対する身体防御反応を促進する等の特性も有する。
【0020】
組織被覆材マトリクス12は、親水性ポリマーの種類、例えば、ポリアクリレート、アルギネート、キトサン、親水性ポリアミン、キトサン誘導体、ポリリジン、ポリエチレンイミン、キサンタン、カラギーナン、第4級アンモニウムポリマー、コンドロイチン硫酸、デンプン、変性セルロースポリマー、デキストラン、ヒアルロナン又はそれらの組み合わせ等を含んでいてもよい。デンプンは、アミラーゼ、アミロペクチン、及びアミロペクチンとアミラーゼとの組み合わせを含んでいてもよい。
【0021】
好ましい実施態様では、マトリクス12の生体適合性材料は、非哺乳類材料を含み、最も好ましくは、ポリ[β−(1→4)−2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコピラノースであり、それは、より普通にはキトサンと呼ばれる。マトリクス12のために選択されるキトサンは、好ましくは少なくとも約100kDa、より好ましくは少なくとも約150kDaの重量平均分子量を持つ。最も好ましくは、キトサンは少なくとも約300kDaの重量平均分子量を持つ。
【0022】
マトリクス12の形成において、キトサンは、望ましくは、例えばグルタミン酸、乳酸、蟻酸、塩酸及び/又は酢酸などの酸とともに溶液中に配される。これらの中で、塩酸及び酢酸が最も好ましい。キトサン酢酸塩及びキトサン塩化物塩は血液中への溶解に耐性があるが、キトサン乳酸塩及びキトサングルタミン酸塩は耐性がないからである。より大きな分子量(Mw)のアニオンは、キトサン塩のパラ−結晶構造を崩壊させ、構造に可塑化効果を生じさせる(可撓性を増大させる)が、望ましくないのは、これら大きなMwアニオン塩の血液中への迅速な溶解ももたらすことである。
【0023】
マトリクス12の好ましい一形態は、キトサン酢酸塩溶液の凍結及び凍結乾燥によって形成された0.035g/cm3より低い密度の「非圧縮」キトサン酢酸塩マトリクス12を含み、それは、次いで圧縮により0.6から0.25g/cm3の密度、最も好ましくは約0.20g/cm3の密度まで緻密化される。また、このキトサンマトリクス12は、圧縮された、親水性のスポンジ構造によっても特徴づけられる。緻密化したキトサンマトリクス12は、望ましいと思われる上記の特性の全てを示す。それはまた、或る構造的及び機械的な利点を持ち、それにより使用中のマトリクスに堅牢性及び長寿命を付与するが、それは後により詳細に記述される。
【0024】
キトサンマトリクス12は、堅牢で、透過性で、比表面積が高く、正に荷電した表面を提示する。正に荷電した表面によって、赤血球及び血小板相互作用に対して反応性の高い表面が生じる。赤血球膜は負に荷電しており、キトサンマトリクス12に引きつけられる。細胞膜はキトサンマトリクスと接触時に融合する。クロットが極めて迅速に形成され、通常は止血に必要な凝固タンパク質がすぐに必要となるのだが、これが不要になる。この理由により、キトサンマトリクス12は、正常のみならず抗凝固を施された個体にも、並びに血友病のような凝固傷害を持つ者にも有効である。またキトサンマトリクス12は細菌、内毒素、及び微生物にも結合して、細菌、微生物、及び/又はウイルス性物質を接触時に殺傷することができる。
【0025】
キトサンマトリクス12の構造、組成、製造、及び他の技術的特徴のさらなる詳細は後に記述される。
【0026】
(2.支持材)
組織被覆材パッドアセンブリは、処置を実施する人の指及び手で操作することができるように大きさが決められ構成される。支持材14は、処置を実施する人の指及び手を流体反応性のキトサンマトリクス12から隔てる(例えば、図8参照)。支持材14は、処置を実施する人の指又は手に付着又は粘着することなく、キトサンマトリクス12を取り扱い、操作し、組織部位に適用することを可能にする。支持材14は、合成及び天然物ポリマーの低モジュラーメッシュ及び/又はフィル及び/又は織物とすることができる。外部創傷に一時的に適用する好ましい実施態様では、支持材14は流体不透過性ポリマー材料、例えば、ポリエチレン(3M 1774Tポリエチレンフォームメディカルテープ、厚さ0.056cm)を含むが、他の同様の材料を使用することもできる。
【0027】
創傷への一時適用で使用する支持材のための他のポリマーは、これらに限定されないが、セルロースポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、メタロセンポリマー、ポリウレタン、ポリ塩化ビニルポリマー、ポリエステル、ポリアミド又はそれらの組み合わせを含む。
【0028】
内部創傷に適用させるためには、再吸収可能な支持材を親水性スポンジ包帯形状にして使用するとよい。好ましくは、そのような包帯形状は、生分解性、生体適合性の支持材材料を用いる。合成生分解性材料は、これらに限られないが、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、ポリ(e−カプロラクトン)、ポリ(β−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(β−ヒドロキシ吉草酸)、ポリジオキサン、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(リンゴ酸)、ポリ(タルトロン酸)、ポリホスファゼン、ポリエチレンのコポリマー、ポリプロピレンのコポリマー、及び上記のポリマーを合成するのに使用されるモノマーのコポリマー、又はそれらの組み合わせを含む。天然物生分解性ポリマーは、これらに限られないが、キチン、アルギン、デンプン、デキストラン、コラーゲン及びアルブミンを含む。
【0029】
(3.小袋)
図3に示すように、キトサンマトリクス12は、望ましくは使用前に低水分含有量、好ましくは水分5%以下で、気密熱融着されたホイルで裏打ちされた小袋16内に真空包装される。組織被覆材パッドアセンブリ10は、次いで最終的に小袋16内でガンマ線照射を用いて滅菌される。
【0030】
小袋16は、使用時に処置を実施する人によって剥離解放されるように構成される(図4及び5参照)。小袋16は、組織被覆材パッドアセンブリ10を利用するように一端に沿って剥がされる。小袋16の反対端部が把持され、使用する組織被覆材パッドアセンブリ10を露出させるように引き離される。
【0031】
(B.組織被覆パッドアセンブリの使用)
組織被覆材パッドアセンブリ10は、一度小袋16から取り出されると(図6参照)、即座に標的とする組織部位に粘着させることができる。粘着を促進するために適用前の操作をする必要はない。例えば、使用に当たり粘着性表面を露出させるため保護材料を剥離する必要はない。キトサンマトリクス12自体が一度血液、流体、又は水分に接触すると強い粘着性特性を示すので、粘着性表面はその場で形成される。
【0032】
望ましくは、組織被覆材パッドアセンブリ10は、小袋16の解放から1時間以内に損傷部位に適用される。図7に示すように、組織被覆材アセンブリ10は、前成形して部位上で変形させ、当該部位の形状及び形態に適合させることができる。図14及び15に示すように、組織被覆材パッドアセンブリ10は、処理部位の特定の形状及び形態に最も良く適合するように、意図的に他の形態、例えばカップ状に成形することができる。組織被覆材パッドアセンブリ10を処理部位に配する前に成形又は他の操作を行うが、介護者は、手又は指の水分がキトサンマトリクス12と接触することを避けなければならない。接触すると、キトサンマトリクス12が粘着性になり、取り扱い難くなるからである。これは、支持材14の第一の目的であるが、支持材14はマトリクスに機械的支持及び強度を付加することにも役立つ。
【0033】
図8から13は、動脈及び/又は静脈の出血性損傷の処理のために適用された組織被覆材パッドアセンブリ10を示す。図8及び9に示すように、まさに出血している部位又は付着が望まれるその他の部位にキトサンマトリクス12が置かれるように組織被覆材パッドアセンブリ10は配されなければならない。支持材14は、介護者が従来の方式で圧力をかけられるように非粘着性表面を提供する。望ましくは、付着が望まれる部位に適用されたあとは、介護者が組織被覆材パッドアセンブリ10を再配置することは避けなければならない。
【0034】
望ましくは、図8に示すように、キトサンマトリクス12が天然の粘着活性を発揮するように、少なくとも二分間は安定した圧力がかけられる。キトサンマトリクス12の粘着強度は、約5分経つまで、圧力をかけた時間とともに増大する。この時間中に組織被覆材パッドアセンブリ10にかけられた圧力も、より均一な粘着及び創傷シールを提供することになる。カーリックス(Kerlix)ロール18で圧力を印加(図10A参照)すると、極めて有効であることがわかった。
【0035】
このように独特な機械的特性及び粘着性があるため、必要ならば、創傷又は組織部位を塞ぐために2又はそれ以上の被覆材パッドアセンブリを重ねることもできる(図11参照)。一方のパッドアセンブリ10のキトサンマトリクス12は、隣接する被覆材パッドアセンブリ10の支持材14に粘着する。
【0036】
被覆材パッドアセンブリ10はまた、創傷又は組織部位の大きさに合致するように、部位上で裂いたり切ったりできる(図12参照)。良好な組織粘着及びシーリングを提供するために、被覆材パッドアセンブリ10は創傷又は組織部位より少なくとも1/2インチ大きな外周とするのが望ましい。小さい場合は、処理部位のトポロジー及びモルホロジーに最も良く近似するように、被覆材アセンブリのパッチ片を部位の大きさに切り取り(図13参照)、他のパッドアセンブリ10の周辺に適合させ粘着させることもできる。
【0037】
組織被覆材パッドアセンブリが損傷部位に粘着しなかった場合、取り出して廃棄し、他の新たな被覆材パッドアセンブリ10を適用できる。深い組織面にかなりの組織破壊を持つ傷、即ち穿通創においては、支持材14の剥離及びキトサンマトリクス12を傷へ詰め込み、次いで第2の被覆材で傷をカバーすることが極めて有効であることがわかった。
【0038】
圧力が2〜5分間かけられたあと、及び/又は出血の抑制が、良好な被覆材付着及び傷又は組織部位での被覆をもって達成されたあと、望ましくは第2の従来の被覆材(例えば、ガーゼ)が適用されて被覆し、傷に清浄なバリアを提供する(図10B参照)。このあと、傷が下着に隠れる場合、水密のカバーが適用され、被覆材が過度に水和されることを防止する必要がある。
【0039】
FDAを通過した一時的被覆材形状の場合、組望ましくは、最も確実な外科的修復をするために、織被覆材パッドアセンブリ10は、適用の48時間以内に取り除かれる。組織被覆材パッドアセンブリ10は、傷から剥がし取られ、通常は単一の無傷の被覆材として傷から分離される。幾つかの場合では、残りのキトサンゲルが残存しうるが、これは食塩水又は水の緩い摩擦及びガーゼ被覆材を用いて取り除ける。キトサンは身体内で生分解性であり、無害の物質であるグルコサミンに分解される。さらに、一時的な被覆の場合には、確実な修復の時点で傷からキトサンの全ての部分を取り除く努力をするのが望ましい。前に議論したように、生分解性被覆材は内部での使用のために成形しうる。
【実施例】
【0040】
(実施例1)
(使用活動報告)
アフガニスタン及びイラクにおける自由化戦闘行為での手術における戦闘衛生兵による活動報告によれば、被覆材パッドアセンブリを臨床使用すると悪影響を及ぼすことなく成功したことがわかった。テキサスのフォートサムヒューストンにおける外科的研究のための米国陸軍機関は、重篤で生命にかかわる出血を外傷モデルにおいて被覆材パッドアセンブリ10を評価し、標準的な4×4インチのコットンガーゼ被覆材と比較した。組織被覆材パッドアセンブリ10は、有意に血液損失を減少させ、蘇生液の必要量を減少させた。1時間の生存については、コットンガーゼ生存群に比較すると、組織被覆材パッドアセンブリ10を適用した群の方が増えていた。戦闘衛生兵は、従来の創傷被覆材で治療できなくても、弾傷、榴散弾、地雷及び他の創傷を首尾よく治療した。
【0041】
(C.組織被覆パッドアセンブリの製造)
以下、組織被覆材パッドアセンブリ10の製造のための望ましい方法が記載される。この方法は、図16において模式的に示されている。もちろん当然のことながら、他の方法を用いることもできる。
【0042】
(1.キトサン溶液の調製)
キトサン溶液を調製するのに用いられるキトサンは、好ましくは0.78より大きく0.97より小さい脱アセチル化分率を持つ。最も好ましくは、キトサンは0.85より大きく0.95より小さい脱アセチル化分率を持つ。好ましくは、マトリクスに加工するために選択されるキトサンは、30rpmでスピンドルLVIを用いたときの25℃における1%(w/w)酢酸(AA)の1%(w/w)溶液中の粘度が、約100センチポイズから約2000センチポイズである。より好ましくは、キトサンは、30rpmでスピンドルLVIを用いたときの25℃における1%(w/w)酢酸(AA)の1%(w/w)溶液中の粘度が、約125センチポイズから約1000センチポイズである。最も好ましくは、キトサンは、30rpmでスピンドルLVIを用いたときの25℃における1%(w/w)酢酸(AA)の1%(w/w)溶液中の粘度が、約400センチポイズから約800センチポイズである。
【0043】
キトサン溶液は、好ましくは25℃で水を固体キトサンフレーク又はパウダーに添加することにより調製され、かき混ぜ、撹拌又は振動により固体が液体中に分散される。キトサンの液体中への分散に際し、酸性成分を添加して分散により混合しキトサン固体を溶解させる。溶解速度は溶液の温度、キトサンの分子量及び撹拌の程度に依存する。好ましくは、溶解工程は、撹拌ブレードを備える閉タンク型反応装置又は回転式閉容器内で実施される。これにより、キトサンの均一な溶解が確保され、容器の側面で高粘度残渣が捕捉される機会をなくす。好ましくは、キトサン溶液の割合(w/w)は0.5%キトサンより大きく、2.7%キトサンより小さい。より好ましくは、キトサン溶液の割合(w/w)は1%キトサンより大きく、2.3%キトサンより小さい。最も好ましくは、キトサン溶液の割合は1.5%キトサンより大きく、2.1%キトサンより小さい。好ましくは、使用される酸は酢酸である。好ましくは、酢酸は、0.8%より大きく4%より小さい酢酸溶液の割合(w/w)となるように溶液に添加される。より好ましくは、酢酸は、1.5%(w/w)より大きく2.5%より小さい酢酸溶液の割合(w/w)となるように溶液に添加される。
【0044】
キトサンマトリクス12の構造体又は形態製造工程は、典型的には溶液から実施され、凍結(相分離発生のため)、非溶媒金型押出(フィラメント製造のため)、電気紡績(フィラメント製造のため)、相変換及び非溶媒での析出(典型的には透析及びフィルター膜製造に使用されるようなもの)、又は予備成形したスポンジ様又は織製品上への溶液コーティングといった技術を用いて達成されうる。凍結により2又はそれ以上の異なる相が形成される凍結の場合(典型的には、水が氷に凍結し、キトサン生物材料が異なる固相中に分離される場合)は、凍結した溶媒(典型的には氷)を除去し、キトサンマトリクス12を凍結構造を崩すことなく製造するために他の工程が必要となる。これは、凍結乾燥及び/又は凍結置換工程によって達成される。フィラメントは、不織紡績方法により不織スポンジ様メッシュに成形できる。あるいは、フィラメントは従来の紡績及び製織方法によりフェルト状の織物として製造されうる。生物材料のスポンジ様物品の製造に使用できる他の方法は、固体キトサンマトリクス12からの添加した細孔形成剤の溶解、又は前記マトリクスからの材料の穿孔を含む。
【0045】
(2.キトサン水溶液の脱気)
好ましくは(図16、工程B参照)、キトサン生物材料から通常の大気ガスが脱気される。典型的には、脱気は、十分に残存ガスをキトサン生物材料から除去し、続く凍結操作においてガスが抜けずに主体である創傷被覆材製品に望まれない大きな空隙又は大きな捕捉ガスの気泡が形成されないようにする。脱気工程は、キトサン生物材料を、典型的には溶液状で加熱し、それに真空をかけることにより実施しうる。例えば、脱気は、キトサン溶液を、撹拌しながら、約500mTorrで約5分間の真空をかける直前に約45℃に加熱することにより実施しうる。
【0046】
一実施態様では、最初の脱気の後に、分圧を制御しつつ或る種のガスを溶液に添加することもできる。そのようなガスは、限定されないが、アルゴン、窒素及びヘリウムを含む。この工程の利点は、ある分圧でこれらのガスを含む溶液が凍結時に微小な空隙を形成することである。次いで微小空隙は、氷の前面が進行するに従ってスポンジを通って運ばれる。このことにより、スポンジの気孔の相互接続を助け、良好に画定され制御されたチャンネルが残る。
【0047】
(3.キトサン水溶液の凍結)
次に(図16,工程C参照)、キトサン生物材料−−典型的には上述の通り酸溶液中で脱気されたもの−−は、凍結工程を施される。凍結は、好ましくは金型内に支持されたキトサン生物材料溶液を冷却し、溶液の温度を室温から最終的に凝固点以下に下げることにより実施され得る。より好ましくは、この凍結工程は、プレート冷凍庫上で実施され、それにより、プレート冷却表面を介する熱損失により温度勾配が金型内のキトサン溶液を通して導入される。好ましくは、このプレート冷却表面は金型と温度的に良好な接触をしている。好ましくは、プレート冷凍庫表面と接触する前のキトサン溶液及び金型の温度は室温近傍である。好ましくは、プレート冷凍庫表面の温度は、金型+溶液を導入する前には−10℃未満である。好ましくは、金型+溶液の熱容量は、プレート棚+熱伝導流体の熱容量より小さい。好ましくは、金型は、限定されないが、金属元素、例えば鉄、ニッケル、銀、銅、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金、バナジウム、モリブデン、金、ロジウム、パラジウム、白金及び/又はそれらの組み合わせから形成される。また、金型は、キトサン溶液の酸性成分及びキトサン塩マトリクスとの反応が起こらないように、薄い不活性の金属、例えばチタン、クロム、タングステン、バナジウム、ニッケル、モリブデン、金及び白金のコーティングで被覆されていてもよい。金型内の熱伝導を制御するために、断熱コーティング又は部材を金属製金型と併せて使用してもよい。好ましくは、金型表面は凍結したキトサン溶液と結合しない。金型の内表面は、好ましくは、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))、フッ素化エチレンポリマー(FEP)、又は他のフッ素化ポリマー材料から形成される薄く恒久的に結合したフッ素化離型コーティングで被覆される。被覆された金属製金型が好ましいが、薄壁プラスチック製金型は溶液の支持体として便利な代替物である。そのようなプラスチック製金型は、限られないが、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン及びポリオレフィンから射出成形、機械加工又は熱成形によって作製された金型を含む。金属製金型と局所的に配置された断熱部材とを組み合わせることの利点は、それらが凍結スポンジ内部の熱流及び構造の制御を改善する機会を提供することである。この熱流制御における改善は、金型における熱伝導製及び断熱性部材の間の大きな熱伝導度の相違によるものである。
【0048】
この方法によるキトサン溶液の凍結は、好ましい構造の創傷被覆材の製造を可能にする。
【0049】
後で示すように、プレート凍結温度は最終的なキトサンマトリクス12の構造及び機械的特性に影響を与える。プレート凍結温度は、好ましくは約−10℃未満、より好ましくは約−20℃未満、最も好ましくは約−30℃未満である。−10℃で凍結した場合、非圧縮キトサンマトリクス12の構造は開孔スポンジ構造全体を通じて広く開口しており垂直である。−25℃で凍結した場合、非圧縮キトサンマトリクス12の構造はより密であるが、やはり垂直である。−40℃で凍結した場合、非圧縮キトサンマトリクス12の構造は密であり垂直ではない。その代わり、キトサンマトリクス12は、強化された、互いにかみ合った構造をより多く含む。キトサンマトリクス12の粘着/付着特性は、より低い凍結温度が用いられると向上することが観察された。約−40℃の凍結温度は、粘着/付着特性に優れたキトサンマトリクス12を形成する。
【0050】
凍結工程の間、温度は所定の時間に亘って下げられる。例えば、キトサン生物材料の凍結温度は、約90分から約160分の間、約−0.4℃/mmから約−0.8℃mmの一定の冷却温度勾配のプレート冷却の適用により、室温から−45℃まで下げられる。
【0051】
(4.キトサン/氷マトリクスの凍結乾燥)
凍結キトサン/氷マトリクスは、望ましくは凍結材料の間隙内部からの水分除去を施される(図16,工程D参照)。この水分除去工程は、凍結キトサン生物材料の構造の全体性を害することなく実施されうる。これは、最終的なキトサンマトリクス12の構造的配置を崩壊させうる液相を生成させることなく実施されうる。即ち、凍結キトサン生物材料内の氷は、中間の液相を形成することなく固体凍結相から気相へ移る(昇華)。昇華した気体は、凍結キトサン生物材料より十分に低い温度で真空凝縮槽内に氷として捕捉される
水分除去工程を実施するのに好ましい方法は、フリーズドライ又は凍結乾燥による。凍結したキトサン生物材料のフリーズドライは、凍結キトサン生物材料を更に冷却することによって実施できる。典型的には、次いで真空が適用される。次に、真空化された凍結キトサン生物材料は、徐々に加熱される。
【0052】
より詳細には、凍結キトサン生物材料は、好ましくは約−15℃、より好ましくは約−25℃、最も好ましくは約−45℃で、少なくとも約1時間、より好ましくは約2時間、最も好ましくは約3時間の適切な時間、引き続き凍結処理される。この工程は、約−45℃、より好ましくは約−60℃、最も好ましくは約−85℃未満の温度への凝縮機の冷却に続きうる。次に、好ましくは最大約100mTorr、より好ましくは最大約150mTorr、最も好ましくは少なくとも約200mTorrの大きさの真空を適用される。真空化された凍結キトサン材料は、好ましくは約−25℃、より好ましくは約−15℃、最も好ましくは約−10℃で、少なくとも1時間、より好ましくは少なくとも約5時間、最も好ましくは少なくとも約10時間の適切な時間加熱される。
【0053】
更に、200mTorr近傍の減圧を維持しながら、約20℃、より好ましくは約15℃、最も好ましくは約10℃の棚温度で、少なくとも36時間、より好ましくは少なくとも約42時間、最も好ましくは少なくとも約48時間の適切な時間、凍結乾燥が実施される。
【0054】
(5.キトサンマトリクスの緻密化)
緻密化(約0.03g/cm3の密度)前のキトサンマトリクスは、「非圧縮キトサンマトリクス」と呼称される。この非圧縮マトリクスは、血液中に溶解するのが早く機械的特性が劣るため止血において有効ではない。キトサンマトリクスは圧縮する必要がある(図16、工程E参照)。乾燥した「非圧縮」キトサンマトリクス12を圧縮して厚みを減少させマトリクスの密度を増大させるのには、親水性マトリクスポリマー表面に一般的な加熱プレートでの圧縮負荷を使用することができる。圧縮工程は、「緻密化」と表現されることもあるが、キトサンマトリクス12の溶解耐性を有意に向上させる。閾値密度(0.1g/cm3近傍)より上まで圧縮された適切に凍結されたキトサンマトリクス12は、37℃で流動する血液中に容易に溶解されない。
【0055】
圧縮温度は、好ましくは60℃以上、より好ましくは約75℃以上であり、約85℃未満である。
【0056】
緻密化の後、マトリクス12の密度は、マトリクス12の底(「活性」)表面(即ち、組織に曝される表面)と、マトリクス12の上表面(支持材14が付けられる表面)とでは異なる。例えば、活性面で測定された平均密度が最も好ましい密度値である0.2g/cm3又はその近傍である典型的なマトリク12において、上表面で測定した平均密度は有意に低く、例えば0.05g/cm3とすることができる。緻密化マトリクス12について本明細書に記載する望ましい密度範囲は、血液、流体、又は水分への曝露が最初に起こるマトリクス12の活性側又はその近傍の密度範囲とする。
【0057】
次いで、緻密化キトサン生物材料は、好ましくは、オーブン内でキトサンマトリクス12を、好ましくは約75℃の温度まで、より好ましくは約80℃の温度まで、最も好ましくは約85℃の温度まで加熱することによるプレコンディショニングを施される(図16、工程F参照)。プレコンディショニングは、典型的には約0.25時間まで、好ましくは約0.35時間まで、より好ましくは約0.45時間まで、最も好ましくは約0.50時間まで実施される。このプレコンディショニング工程は、20−30%の粘着特性を損失するが、低コストで溶解耐性の更に有意な向上をもたらす。
【0058】
(6.緻密化キトサンマトリクスへの支持材の固定)
支持材14はキトサンマトリクス12に固定されて、組織被覆材パッドアセンブリ10を形成する(図16、工程G参照)。支持材14は、キトサンマトリクス12の上層と直接接着させることにより粘着又は接着することができる。あるいは、3M9942アクリレート皮膚接着剤、又はフィブリン糊、又はシアノアクリレート糊等の接着剤を用いることもできる。
【0059】
(7.小袋への配置)
組織被覆材パッドアセンブリ10は、続いて小袋16に包装される(図16、工程H参照)。小袋は、好ましくはアルゴン又は窒素のような不活性ガスでパージされ、減圧されてヒートシールされる。小袋16は、長期間(少なくとも24月)に亘って内部を無菌に保ち、同期間に亘って水分及び外気に対する非常に高度なバリアも提供する。
【0060】
(8.最終滅菌)
小袋に収容した後、加工された組織被覆材パッドアセンブリ10は、望ましくは滅菌工程を施される(図16、工程I参照)。組織被覆材パッドアセンブリ10は、多くの方法で滅菌することができる。例えば、好ましい方法は、ガンマ線照射などの照射によるものであり、それは創傷被覆材の血液溶解耐性、引張り特性及び粘着特性を更に向上させる。照射は、少なくとも約5kGy、より好ましくは少なくとも約10kGy、最も好ましくは少なくとも15kGyのレベルで実施される。
【0061】
(D.親水性ポリマースポンジ構造体の粘着性/付着性のシーリング特性の評価)
(1.動脈創傷シーリング試験装置)
組織被覆材パッドアセンブリ10はその一例に過ぎないが、任意の各親水性ポリマースポンジ構造体について粘着特性を試験し検証するために特に設計された試験装置を用いれば、その粘着特性を確実に試験し検証することができる。代表的な試験装置20を図17に示す。
【0062】
試験装置20は、動脈創傷封止環境を模した台を備える。試験装置20は、その環境及び曝露時間について、パッドアセンブリ10のような親水性ポリマースポンジ構造体、又はある製造ロットの同じ構造体の破壊(又は破裂)強度を、再現性よく統計的に正しい方法で評価できる。試験装置20は、最終的なラベル付け及び製品発送に先立って、組織被覆材パッドアセンブリ10、又はある製造ロットのパッドアセンブリの相対的な粘着性及び付着性特性を、所定の目的とする強度基準に基づいて評価するために、全製造プロセスの一部として設置することができる。試験装置20は、破壊強度データを再現性よく提供し、それはインビボでの使用と統計的に関連づけられる。
【0063】
試験装置20は 外部の動脈創傷部位を模した試験ブロック22を備える。試験ブロック22は、組織を模した材料からなる試験表面24を含む。試験表面24は、例えば、硬質ポリ塩化ビニルプラスチックから製造しうる。試験表面24は、直径約4mmの開口44を有し、それは動脈創傷の入り口を模している。試験表面24は、例えば粒度400の紙ヤスリで開口44の周囲に小さな円を描くように試験表面24にヤスリをかけることにより、組織を模するように処理される。
【0064】
負荷アーム26は、開口と合わせて試験表面24の上方に配設される。負荷アーム26は、空気圧源28と連通した空気シリンダーの一部をなす。コントローラ30(例えば、プログラムされたマイクロプロセッサ)は、空気圧源との通信を管理し、負荷アーム26を操作する。空気圧は、負荷アーム26を試験表面24に向けて進め、所定の圧力を負荷する。
【0065】
図17に示すように、親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、組織被覆材パッドアセンブリ10)の試験サイズのサンプル32は、予め試験流体34に浸漬され、試験表面24上に置かれる。キトサンマトリクス12は開口の上に配置される。次いで負荷アーム26が操作され(図18A参照)、試験表面24上の予め浸漬された試験サイズのサンプル32に初期圧がかけられる。
【0066】
試験流体34は、キトサンマトリクス12の粘着特性を活性化する流体を含む。試験流体34は、例えば、(例えば、クエン酸で)抗凝固処理されたウシ全血を含むことができる。試験装置20における試験流体34として使用するための血液としては、血液が新鮮であっても10日目のものであっても試験結果に有意差は見られなかった。
【0067】
供給管36が試験ブロック22に連結される。供給管36は試験流体34を試験ブロック22に運搬し、開口44を通してキトサンマトリクス12に接触させることができる。供給管36の他端はシリンジドライブポンプ38に連結される。
【0068】
シリンジドライブポンプ38は、モータ40により吸引及び放出サイクルで操作をされる。一方、モータ40はコントローラ30に接続されている。モータ40を介して、コントローラ30は、空気圧源と同調しながらシリンジドライブポンプ38の操作を指示する。
【0069】
吸引サイクルでは、モータ40は、試験流体源42からシリンジドライブポンプ38内に試験流体34を吸引するようにシリンジポンプ38を操作する。吸引サイクル中の試験ブロック22からシリンジドライブポンプ38への血液の逆流は、インラインの一方向逆止め弁46Bによって防止される。放出サイクルでは、モータ40は、試験流体34がシリンジドライブポンプ38から試験表面24の開口44を通して放出されるようにシリンジドライブポンプ38を操作する。放出サイクル中の試験流体源42への試験流体の逆流は、インラインの一方向逆止め弁46Aによって防止される。コントローラ30は、放出サイクル中に開口44を通して運搬される試験流体34の速度を管理する。
【0070】
使用に当たり、図18Aを参照し、予め(例えば、約10秒未満)試験流体34に浸漬した試験サイズのサンプル32を、試験表面24上に配する。コントローラ30を操作して負荷アーム26で開口上の試験サイズのサンプル32に圧力(例えば、約60kPa)をかける。所定の負荷時間が、望ましくは実際の使用条件を模して測定されるが、例えば3分間である。この時間中、コントローラ30はシリンジドライブポンプ38を吸引サイクルで操作し、試験流体32をシリンジドライブポンプ38内に導くことができる。
【0071】
負荷時間の最後に(図18B参照)、コントローラ30は負荷アーム26上の空気圧を解放し、負荷アーム26を試験表面24から引き離す。コントローラ30は即座にシリンジドライブポンプ38を放出サイクルで操作する。コントローラ30は、試験ブロック22に流れるクエン酸化ウシ全血の圧力を所定の割合、例えば3から16mmHg/sの間、好ましくは10mmHg/sで傾斜させる。供給管36内の圧力を連続して監視し、全時間に亘ってコントローラ30により記録する。
【0072】
コントローラ30は、最終的な試験サイズのサンプルが最終的に破壊されるまで、所定の速度で血液圧力の傾斜を継続する(図18C参照)。増加された圧力が最高点から時点が最終的な破壊を示す。最終的な破壊とは、に示され、試験サイズのサンプルが試験表面24との粘着性を失い、もはや開口を介してかけられる圧力に耐えられないことを示す。コントローラ30は、試験サイズのサンプルについて、最終的な破壊が起こった最高圧力状態を記録する。この圧力がパッドアセンブリ10の破壊強度である。
【0073】
観察された最高圧力状態(破壊強度)は、所定の「合否」基準と比較される。代表的な例において、750mmHgより大きな破壊強度は「合格」である。750mmHg未満の破壊強度は「不合格」を示す。この基準は、通常のヒト収縮時血圧の6倍も高い圧力レベルを表しているので、厳格な「合格」基準を課することになる。
【0074】
最終的な破壊まで連続的に圧力を傾斜させるのに代わるものとして、3から16mmHg/s(好ましくは10mmHg/s)で、一定の高い血液の圧力(例えば250mmHg)まで傾斜させ、所定時間(例えば10分間)保持することが挙げられる。この試験では、合否基準は、10分の保持試験時間の間、血液圧力が保持された試験サイズのサンプルを「合格」として取り扱い、10分の保持時間の間血液圧力が保持されなかった試験サイズのサンプルを「不合格」として扱う。
【0075】
組織被覆材パッドアセンブリの全製造ロットの統計的に有意なサンプルは、上述の試験装置20及び試験方法を用いて確認できる。確認を効率化するために、各々に専用の負荷アーム26及び試験流体供給管36が備えられた数個の試験ブロック22を、多岐管によって一個の空気圧源及びシリンジドライブポンプ38に連結したものを、一個のコントローラ30を用いて直列的に操作することができる。合否基準は、全ロットについての合否割合の合成で決定される。例えば、最終的な破壊強度が750mmHgより大きいものがロットの75%以上であると、全ロットが統計的に正しい「合格」であると関連づけることができる。最終的な破壊強度が750mmHgより大きいものがロットの75%未満であると、全ロットが統計的に正しい「不合格」であると関連づけることができる。
【0076】
(2.老化現象の識別)
試験装置20及び上述の方法を用いれば、緻密化した組織被覆材パッドアセンブリには、驚くべき更に有益な老化現象が存在することがわかる。簡単に言えば、使用前の貯蔵時間に−−即ち、上述の方法で製造し、滅菌し、小袋16に包装し、使用せずに貯蔵した後に−−緻密化した組織被覆材パッドアセンブリの粘着特性が有意に向上する。老化現象により、製造、滅菌、及び小袋収容後の数日以内試験した際に合否基準に不合格となった組織被覆材パッドアセンブリのロットが、2月以上後に再試験すると合否基準を通過する。
【0077】
(実施例2)
(老化現象)
方法は、最初の試験で不合格となったロットを再試験することから開始されたが、これは、製造直後よりも6ヶ月後及び12ヶ月後の方が良好な性能を示すなど経時的な粘着効果性能の明らかな増加が観察されたからである。
【0078】
以下のデータは、最終製品試験で不合格となり、最低2ヶ月老化させてから再試験された7つのロットの組織被覆材パッドアセンブリから得られた。表1及び2における「圧力」は、上述したように、試験サンプルに最終的な破壊が起こった最高圧力状態(即ち、破壊強度)のことである。表1及び2に示すように、7つのロットのうち6つが、性能の向上を示し、それらの殆どが劇的な向上であった。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
次のロットを同様に評価した。下記の表3は、この後続時間中のロット合否の統計をまとめたものである。ロットの半分は、ガンマ線照射による滅菌から戻された直後に実施された最初の試験で合格した。最初に合格しなかったロットの50パーセント(50%)を、最低2ヶ月の老化時間の後に再試験した。これらのロットのうち79パーセント(79%)が合格し、老化現象の存在が確認され、ロットの合計の合格率を90パーセント(90%)とした。
【0081】
【表3】
上記のロットのうちの14個のロットには、データテンプレートに入れた最初及び老化処理した試験について、試験装置20を用いた検証データがある。それらを表4に集計した。合否基準を満たす被試験パッドアセンブリ10のロット平均破壊圧力及び割合における変化は、効果の増大を示している。表4は、老化後でも合格しなかった2つのロット(156及び162)であっても粘着効果に増大が見られたことを示している。破壊圧力における平均増加割合は38パーセント(38%)である。合否基準を満たす被試験組織被覆材パッドアセンブリの数は最初の試験データより59パーセント(59%)増加した。
【0082】
【表4】
貯蔵時間に亘る組織被覆材パッドアセンブリ10の性能向上は、老化現象と呼ばれ、劇的で真実である。老化現象は、上述したキトサンマトリクス12組成物の溶解に対する耐性の堅牢性及び寿命が経時的に向上することを示している。
【0083】
(3.親水性ポリマースポンジ構造体の異なる形状間での粘着/付着特性の識別)
上述の試験装置20及び方法を用いれば、異なる方法で製造された緻密化組織被覆材パッドアセンブリにおける相違を識別し定量化することができる。
【0084】
例えば、上述の試験装置20及び方法を用いれば、製造中にキトサンマトリクス12が凍結される温度がマトリクスの構造のみならず、その粘着及び付着特性にも同様に影響することが理解される。
【0085】
異なる温度で凍結された非圧縮キトサンマトリクス12の構造における相違は、視覚的に観察できる。テフロン(登録商標)で被覆した直径5cmのアルミニウム金型内で、−10℃の棚温度で凍結された場合、非圧縮キトサンマトリクス12の構造は、スポンジ構造全体に、段状で、開孔空隙を持ち、垂直なラメラを有する。テフロン(登録商標)で被覆した直径5cmのアルミニウム金型内で、−25℃の棚温度で凍結された場合、非圧縮キトサンマトリクス12の構造は、段が小さく、間隔がより密であるが、やはり垂直なラメラを有する。テフロン(登録商標)で被覆した直径5cmのアルミニウム金型内で、−40℃の棚温度で凍結された場合、非圧縮キトサンマトリクス12の構造は、微細で、最も密な間隔の、金型縁部からスポンジの上中部に向けて放射状のラメラを有する。この後者の条件において、非圧縮キトサンマトリクス12は、強化された互いにかみ合う構造をより多く含み、それは通常マトリクス表面に圧縮負荷がかけられる緻密化工程により適している。
【0086】
3つのタイプのキトサンマトリクスの破壊強度を評価するために上述の試験装置20及び方法を用いたところ、与えられたキトサンマトリクス12に粘着特性が凍結温度の低下につれて向上することが示された。図35は、基礎となるデータのグラフ表示である。X軸を凍結温度(−10℃、−25℃、及び−40℃、右向きに温度が低下する)、Y軸を上述した試験装置20及び方法を用いて測定した破壊圧力(mmHg)として図19に3つのデータの組をプロットする。3つのデータの組(−10℃、−25℃、及び−40℃について、各々n=10、n=10、及びn=18)の分散分析は、極めて小さいp値(p=11.77E−11)を生じた。図35から見られるように、キトサンマトリクス12の粘着特性は、マトリクスの物理構造が、段状で開孔した垂直ラメラ構造から微細で強化された交差メッシュラメラ構造に変化することにより向上する。
【0087】
また図19は、上述の試験装置20及び方法が、「有効性の低い」及び「有効性の高い」キトサンマトリクス12を識別するのに十分な感度の再現性のあるデータを提供することを示している。
【0088】
(E.親水性ポリマースポンジ構造体の適合特性の変化)
使用の直前に、(図4から6に示すように)組織被覆材パッドアセンブリ10は、その小袋16から取り出される。その水分含有量が低いために、組織被覆材パッドアセンブリ10は、小袋16から取り出したとき、比較的柔軟性がなく、標的とする損傷部位の曲がった不規則な表面に即座に良く適合できないように見える。標的とする損傷部位上に配置する前にパッドアセンブリ10を曲げ及び/又は成形することは既に述べて推奨した。重度の出血を抑制するためには損傷欠陥に対してパッドアセンブリ10を即座に押しつけることが必要であるため、パッドアセンブリ10の成形能力は強い出血を抑制する際に特に重要である。一般に、これらの出血血管は、不規則な形状の創傷内部深くにある。
【0089】
パッドアセンブリ10が一例となる親水性ポリマースポンジ構造体では、構造体が創傷の形状に適合し、下に横たわる損傷の不規則な表面とスポンジ構造体との配置を達成するように製造されているので、構造体の可撓性及び適合性が大きくなると、分裂及び崩壊に対する耐性が大きくなる。分裂及び崩壊に対する耐性は、創傷シーリング及び止血効率を維持するために有利なことである。適合性及び可撓性は、親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、パッドアセンブリ10)に、深い又は裂けた形状の創傷を、亀裂や重大なパッドアセンブリ10の溶解を起こすことなく付加する能力を提供する。
【0090】
キトサンの溶液中に或る種の可塑剤を用いることにより可撓性及び適合性を向上させる場合は、或る種の可塑剤がパッドアセンブリ10の他の構造的特質を変化させる可能性があるため問題が生じることもある。例えば、キトサングルタミン酸塩及びキトサン乳酸塩は、キトサン酢酸塩より適合性がある。しかし、グルタミン酸及び乳酸のキトサン塩は、血液の存在下で即座に溶解するが、キトサン酢酸塩は溶解しない。即ち、向上した適合性及び可撓性は、低下した堅牢性及び溶解耐性寿命と相殺されるのである。
【0091】
適合性及び可撓性の向上は、製造後に任意の親水性ポリマースポンジ構造体を機械的に操作することにより達成され、堅牢性及び溶解耐性寿命の有利な特徴を失うことはない。製造後にそのような機械的操作が実施される幾つかの方法を、ここに記述する。キトサンマトリクス12を前提にして方法を説明するが、方法は親水性ポリマースポンジ構造体の成形に広く適用可能であり、キトサンマトリクス12は単なる一例である。
【0092】
(1.親水性ポリマースポンジ構造体の調整的な微小亀裂)
キトサンマトリクス12のような親水性ポリマースポンジ構造体の基礎構造の微小亀裂の調整は、手順を追って乾燥パッドアセンブリ10を機械的プレコンディショニングすることにより実施できる。パッドアセンブリ10を機械的プレコンディショニングによって調整するこの形態は、パッドアセンブリ10の使用時における全体的な不具合を生ずることなく、向上した可撓性及び適合性を達成できる。
【0093】
望ましくは、図20に示すように、プレコンディショニングは、小袋16に密封されたパッドアセンブリ10で実施できる。図20に示すように、パッドアセンブリ10の活性面(即ち、キトサンマトリクス12)を上向きにし、手動で1から1.5mmの深さの指の圧痕48を表面全体に渡って繰り返し適用する。局所的な圧力を適用後、図21Aが示すように、活性面を上向きにしたままの四角いパッドアセンブリの一端を、直径7.5cm×長さ12cmの円筒50の側面に付ける。次いで円筒50をパッドアセンブリ10上に転がし、パッドアセンブリ10に直径7.5cmの凹形を付ける。円筒50を外し、パッドアセンブリ10を90°回転させ(図21B参照)、パッドアセンブリ10に形成される別の直径7.5cmの凹形をつける。この処理の後、パッドアセンブリ10を反転させ(即ち、今度は支持材14を上向きにし(図21C及び21D参照)、90°の補正をして、直径7.5cmの凹形をパッドアセンブリ10の支持材14に形成する。ここに記載したパッドアセンブリ10の操作は、最終的に出荷包装するための装填及び密封の直前に、その処理中に機械的に実施されることが考えられる。
【0094】
上述した機械的なプレコンディショニングは、指での探索(probing)及び/又は円筒への巻き付けに限られるものではない。プレコンディショニングは、任意の親水性ポリマースポンジ構造体の内部に機械的変化を起こして、スポンジの止血効果を大きく損なうことなく、スポンジの曲げ弾性率の向上をもたらす任意の技術も含んでいる。そのようなプレコンディショニングは、限られないが、曲げ、捻り、回転、振動、探索、圧縮、延伸、振盪及び混練による機械的操作を含む任意の親水性ポリマースポンジ構造体の機械的操作を含む。
【0095】
(実施例3)
(ブタ大腿部動脈損傷実験)
キトサンパッドアセンブリは、240分間、重大な出血性損傷モデルで使用するために、上述したように、可撓性及び適合性を向上させるために機械的プレコンディショニングをした。各々約45kgのブタ(N=14)を、平均動脈圧及び晶質及び高張食塩水での心臓血管保護を監視しながら麻酔した(テラゾール誘導、ブプレノルフィン、酸素中のイソフルラン)。創傷を模するための、通常の外科手術で行われるような組織平面に従わない皮膚及び筋肉の横切開を、各動物の左右鼠径部で行い、左右大腿部動脈を露出又は部分的に分離させた。露出した大腿部動脈は、外部組織表面の下方2.5cmから4.0cmであった。創傷を形成する前に、露出した大腿部動脈全体にブピバカインを鎮痛剤として、また血管痙攣を低減させるために投与した。鼠径管から1−2cmにおいて、2.7mm血管パンチでの穿孔により大腿部動脈創傷を形成し、ガーゼで創傷を1分間保護し、ガーゼを取り除いた後に持続的な強い出血を生じさせた。メドライン(Medline)ガーゼスポンジ(7.5cm×7.5cm及び12層)の2つのスポンジを2つに折り畳み、7.5cm×3.8cmの大きさの48層ガーゼのコントロール試験片とした。これを48PGと呼ぶ。プレコンディショニングしたキトサンパッドアセンブリ10を、5cm×5cm×0.55cmの4つの試験片に切った。これをHCBと呼ぶ。各キトサンパッドアセンブリ10の4つのHCB片のうちの2つを、各損傷試験で使用するために無作為に選択した。止血を達成するために、HCB又は48PGを、7.5cmのガーゼロールで支持して穿孔部に即座に押し当て、3分間損傷部に保持した。損傷を抑制するのに用いた圧力は、損傷部の遠位で脈拍を監視することにより観察される動脈血流を止めるのにちょうど十分なものとした。圧力は3分後に解放したが、7.5cmのガーゼロールは試験片の上に残したままにした。止血時間を、各試験片について記録した。最初の試験片での試みが30分以内に止血を達成できなかった場合は、同じパッドアセンブリ10の第2の試験片での試みを許容した。第2の試験片での試みでも、少なくとも240分の止血の達成及び維持をできなかった場合、そのHCB又は48PGを失敗として記録した。最初の適用に48PGが用いられ、それが最初の30分で不成功であった場合、次にHCBパッドアセンブリ10を救護用のパッドアセンブリ10として使用することができるものとした。逆に、最初の適用にHCBが用いられ、それが最初の30分で不成功であった場合、48PGを救護用のパッドアセンブリ10として使用することができるものとした。HCB又は48PGのいずれでも、少なくとも30分間に亘って或る損傷の止血達成に成功しなかった場合、損傷を鉗子で止めて他の動脈を用いることにした。240分の止血では、試験片が長期に亘る手術で成功するかについて評価した。脈拍は遠位でチェックし、動脈が開存性であるかを確認し、試験片(HCB又は48PG)を取り出して、クロット耐久性又は出血をチェックした。試験片については、全体性、ゲル化及び組織への付着を試験した。大腿部動脈からの血液損失を記録した。サンプルは組織学検査のために回収した。動物に第2回目の大腿部損傷を適用する際は、最初の大腿部損傷と逆にした。14匹全ての動物(28の損傷)を、この方法で試験した。
【0096】
この実験において、HCB試験(N=25)の100%が30分後に止血されたが、48PG(N=14)の21%しか同時間後に止血されなかった。30分におけるHCB及び48PGの各々100%及び21%の止血という結果のように、48PGには救護用としての適性はなかったが、HCBには11の救護用としての適性があった。240分において、HCB試験の84%は止血されていたが、48PGの7%しか止血されていなかった。フィッシャーの正確確率検定による統計分析は、このモデルにおける48PGとHCBの群の間に止血効果の有意な(P<0.001)差があることを示した。結果を下記の表5及び表6にまとめる。
【0097】
【表5】
【0098】
【表6】
また、曲げ試験及び(「SAWS(simulated arterial wound seal)」又は「SAWS試験」と呼ばれることもある、上述した試験装置20及び方法を用いた)急性のインビトロで模した動脈創傷封止試験も、操作したパッドアセンブリ及び操作しないパッドアセンブリについて実施した。10cm×1.27cm×0.55cmの細片を各パッドアセンブリの二分の一から取った。これらを三点曲げ試験における曲げ弾性率を試験するのに用いた。50N負荷セルを備えるインストロン(Instron)一軸機械的検査装置、モデル番号5844での三点曲げ試験は、0.55厚の試験片のスパン5.8cm及びクロスヘッド速度0.235cm/sでの曲げ弾性率を測定するために実施された。パッドアセンブリの他の半分はSAWS試験で使用した。曲げ試験の結果を下記の表7に示す。曲げ試験は、機械的プレコンディショニングでの可撓性の有意な向上を示している。SAWS試験の結果は下記の表8に示す。
【0099】
SAWS試験の結果は、処理した試験サンプルでは未処理のコントロールに比較して平均破裂圧耐性が1114mmHgから753.7mmHgまで32.4%低下していることを示している。このインビトロ試験は、SAWS試験器の平坦な試験台表面上で実施されるものであるが、大腿部動脈モデルにおいて示したように、損傷の不規則に曲がった表面上では、処理したサンプルは高度に有効であった。機械的操作によってもたらされた剛性の63%の低下は、キトサンマトリクス12を損傷に押しつけ易くし、これは明らかにSAWS効率における32.4%の低下と相殺する。
【0100】
【表7】
【0101】
【表8】
(2.親水性ポリマースポンジ構造体の調整的な微小構造化)
任意の親水性ポリマースポンジ構造体を(深いレリーフパターン形成によって)調整し微小構造化すると、パッドアセンブリ10の使用時に大きな不具合を起こすことなく、可撓性及び適合性の向上を達成できる。キトサンマトリクス12には、深いレリーフパターンを、キトサンマトリクスの活性表面、又は支持材14、あるいは両方に形成することができる。
【0102】
図23A及び23Bに示すように、深い(0.25−0.50cm)レリーフ表面パターン52(微小構造化した表面)は、スポンジを80℃で熱圧縮することによりパッドアセンブリ10に形成できる。スポンジ熱圧縮は、制御されたヒーターアセンブリ56を備えるポジのレリーフプレス圧盤54を用いて実施できる。使用可能なレリーフパターン52のタイプの種々の代表的な例を図24Aから24Dに示す。ネガのレリーフパターンが、加熱された圧盤54に設けられたポジのレリーフから形成される。
【0103】
パターン52の目的は、レリーフ52に直角な曲げ耐性を低下させることにより乾燥パッドアセンブリの適合性を向上させ、レリーフパターンを局所的なヒンジのように作用させて、その長さに沿った可撓性を向上させることである。
【0104】
このレリーフ52は、パッドアセンブリ10の支持材14に適用し、損傷封止と局所的クロット形成により止血することを役割とするキトサンマトリクス12には適用しないのが好ましい。基礎となるキトサンマトリクス12に微小構造化した深いレリーフパターン52を設けると、キトサンマトリクス12を通して血液が漏れるチャンネルを提供することによりシーリング性の低下を与えうる。
【0105】
この可能性を低減するために、図24E及び24Fに示すタイプの代替的レリーフパターン52を基礎レリーフに使用することもでき、それはシーリング性の低下が起こる可能性を下げるであろう。従って、レリーフ52はマトリクスの基礎でも使用することができるが、支持材14又はマトリクスの上表面での使用に比較すると、やはり好ましくはない。スポンジ圧縮中に、圧盤の上下に設けられた2つのポジのレリーフパターンを用いることにより、パッドアセンブリ10の上及び下表面に同時にレリーフパターンを適用することも可能である。しかし、図18A及び18Bが示すように、キトサンマトリクス12の上表面において1つのポジのレリーフを用いることにより、単一の、深いレリーフを形成するのがより好ましい。
【0106】
(実施例4)
試験パッドアセンブリ(各々、10cm×10cm×0.55cm、粘着性支持材14−−3M 1774Tポリエチレンフォーム医療用テープ0.056cm厚を備える)に機械的曲げ試験を実施した。1つのパッドアセンブリ10(パッド1)は、主に垂直なラメラ構造を有するキトサンマトリクス12(即ち、上述したように、比較的高い凍結温度で製造したもの)を備えるものとした。他のパッドアセンブリ10(パッド2)は、主に水平で互いにかみ合ったラメラ構造を有するキトサンマトリクス12(即ち、上述したように、比較的低い凍結温度で製造したもの)を備えるものとした。
【0107】
パッド1及び2の各々を半分に切断した。圧縮キトサンパッド1及び2各々の2つの半分(5cm×10cmX0.55cm)を、80℃で局所的に圧縮して支持材14に図19Aに示す形状のレリーフパターンを形成した。パッド1及び2の他の半分は未処理のまま、コントロールとして使用した。
【0108】
3つの試験片(10cm×1.27cm×0.55cm)を、外科用メスを用いてパッドアセンブリ10の各半分から切り出した。これらの試験片に三点曲げ試験を実施した。試験片は、上表面に0.25cmの深さ及び0.25cmの幅のレリーフ凹みを有するものとし、各凹みは、隣接する凹みから1.27cm離間させた。50N負荷セルを備えるインストロン(Instron)一軸機械的検査装置、モデル番号5844での三点曲げ試験は、0.55厚の試験片のスパン5.5cm及びクロスヘッド速度0.235cm/sでの曲げ弾性率を測定するために実施された。曲げ負荷を2つのパッド1及び2(処理及び未処理)の中点曲げ変位に対してプロットし、各々図25A及び25Bに示した。パッド1及び2(処理及び未処理)についての試験片の処理対未処理の曲げ弾性率は、各々表9A及び9Bに示した。
【0109】
曲げ試験は、乾燥パッドアセンブリ10のいずれかのタイプでの調整された微小構造化による可撓性の有意な向上を示した。
【0110】
【表9A】
【0111】
【表9B】
(3.親水性ポリマースポンジ構造体における調整的な垂直チャンネルの形成)
キトサンマトリクス12を一例とする任意の親水性ポリマースポンジ構造体のバルク内へ及びバルクを通じて血液を調整的に導入すると、初期の構造的適合の向上及び構造体溶解に対する耐性の寿命の向上にも望ましい。与えられた親水性ポリマースポンジ構造体への垂直チャンネルの制御された形成は、使用時における構造体の全体的な不具合を生ずることなく、向上した可撓性及び適合性を達成できる。
【0112】
親水性ポリマースポンジ構造体のバルク内へ及びバルクを通じて血液を調整的に導入すると、構造体の初期の構造的適合の向上及び構造体溶解に対する耐性の寿命の向上にも望ましい。親水性ポリマースポンジ構造体への血液吸収の向上は構造体への垂直チャンネルの導入によって達成されうる。チャンネル断面積、チャンネル深さ及びチャンネル数密度によって、血液吸収の適切な速度及び親水性ポリマースポンジ構造体への血液吸収の分配の確保を調整することができる。キトサンマトリクス12については、典型的には、5gから15gの血液吸収に伴ってキトサンマトリクス12重量が200%増加すると、曲げ弾性率が7MPaから2MPaまで約72%低下する。また、キトサンマトリクス12へ血液を調整的に導入すると更に粘着性のあるマトリクスがもたらされる。
【0113】
親水性ポリマーマトリクスにおけるこの強度の向上は、血小板及び赤血球などの血液成分と同マトリクスとの反応の結果である。スポンジ構造体へ血液が導入され、スポンジ構造体と血液成分とが反応して血液と親水性ポリマースポンジ構造体との「アマルガム」を生成するまで十分な時間が経過すると、その結果得られるスポンジ構造体は体液への溶解に耐性となり、特にキトサン酸塩マトリクスの場合、食塩水を導入しても容易に溶解しない。典型的には、特にキトサン酸塩マトリクスの場合、血液と親水性ポリマースポンジ構造体との間の反応に先立って食塩水が導入されると、親水性スポンジ構造体は迅速な膨潤、ゲル化及び溶解を起こす。
【0114】
また、キトサンマトリクス12等の任意の親水性ポリマースポンジ構造体に血液が過剰に導入されると、液状化崩壊をもたらしうる。従って、平均チャンネル断面積、平均チャンネル深さ及びチャンネル数密度は、血液吸収速度が親水性ポリマースポンジ構造体の構造を潰さないことを保証するように調整しなければならない。
【0115】
親水性ポリマースポンジ構造体における垂直チャンネルの調整的分配は、スポンジ構造体製造の凍結工程中に実施でき、あるいは、圧縮(緻密化)工程中のスポンジ構造体の穿孔によって機械的に実施してもよい。
【0116】
底部に核が形成される凍結工程の間に、垂直チャンネルは凍結溶液中に残存ガスで同溶液を過飽和することにより導入できる。同ガスは、凍結が開始されると、金型内の溶液の底部で気泡の核となる。気泡は凍結工程の間に溶液中を上昇して垂直チャンネルを残す。凍結乾燥中のチャンネル周囲の氷の昇華は、最終的なスポンジマトリクス内のチャンネルを保存する。
【0117】
あるいは、チャンネルは、凍結工程中に、金型底部に垂直ロッド部材を配することによっても形成できる。好ましくは、金型は、限定されないが、鉄、ニッケル、銀、銅、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金、バナジウム、モリブデン、金、ロジウム、パラジウム、白金及び/又はそれらの組み合わせといった金属成分から構成される。金属製ロッド部材は、好ましくは、限定されないが、鉄、ニッケル、銀、銅、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金、バナジウム、モリブデン、金、パラジウム、ロジウム又は白金及び/又はそれらの組み合わせといった金属成分から構成される。また金型は、キトサン溶液及びキトサン塩マトリクスの酸性成分との反応を起こさないために、チタン、クロム、タングステン、バナジウム、ニッケル、モリブデン、金及び白金などの薄く不活性な金属コーティングで被覆することもできる。金型及び垂直ロッド部材内での熱伝導を制御するために、金属製金型及び垂直ロッド部材と組み合わせて断熱コーティング又は部材を用いてもよい。金属製金型及び垂直金属製ロッド部材が好ましいが、プラスチック製金型及び垂直プラスチック製ロッド部材は、チャンネルを形成するための便利な代替物である。局所的に配設した断熱部材と組み合わせた金属製金型及びそれらの金属製ロッド部材の利点は、それらによって、凍結するスポンジ構造体内の熱流及び構造の制御を促進する機会が提供されることである。熱流制御における向上は、金型内の熱伝導性及び断熱性の部材間の熱伝導性の大きな差によって、さらにロッド部材を介した親水性ポリマースポンジ構造体のバルク内での局所的な熱勾配の生成能力によってもたらされる。
【0118】
スポンジ構造体の凍結乾燥の後、垂直チャンネルは圧縮(緻密化)工程中に導入することができる。例えば、図26A及び26Bに示すように、圧縮装置58は、スポンジ構造体の底部に短く(深さ2.5mm)等間隔の穿孔62を配するための幾何学的にパターン化されたピンクッションを備える(図27参照)。
【0119】
穿孔62の目的は、親水性ポリマースポンジ構造体の底部へ及びそれを通して遅く制御された速度で血液を局所的に侵入させることである。この侵入の目的は、第一に乾燥スポンジを血液で可塑化することによりマトリクスの曲げ性に迅速な変化を起こさせることである。第二に、引き続き体腔内に存在する溶解剤に対してマトリクスを安定化させるため、マトリクスを通して血液をより均一に分散させ混合させることである。穿孔した底部が存在しないと、1、6、16及び31分経っても、血液はスポンジ構造体の表層(深さ<1.5mm)にしか浸透しないが、穿孔が存在すると、31分後に血液は1.8から2.3mmの深さまで浸透する。穿孔されたマトリクスは穿孔の無いマトリクスに比較して、曲げ弾性率の更なる低下がある。各マトリクスタイプの1、6、16及び31分における吸収特性を図28に示す。
【0120】
(実施例5)
穿孔した及び穿孔しないキトサンマトリクスの両方をインビトロSAWS試験で試験したところ、表10に示すように、両タイプとも強い血流に対するシーリングに有効であることが示された。
【0121】
【表10】
図27のピンクッションデザインで穿孔されたサンプルの試験結果は、穿孔していないコントロールに比較して血液の吸収速度の有意な上昇を示した。パッドアセンブリ10の適用での最初の30秒間に亘る穿孔された試験片における血液吸収速度は、コントロールサンプルより2から3倍高く、従って、穿孔した場合にはパッドアセンブリ10の適合性の迅速な向上が得られ、複雑な創傷領域での重大な出血性損傷への親水性ポリマースポンジ構造体の配置を促進することができる。
【0122】
(II.組織被覆材シートアセンブリ)
(A.概説)
図29は、組織被覆材シートアセンブリ64を示す。既に説明し図1に示した組織被覆材パッドアセンブリ10と同様に、組織被覆材シートアセンブリ64は、使用時に、血液又は体液又は水分の存在下で組織に粘着する。組織被覆材シートよって、アセンブリ64もまた、出血又は他の形態の流体損失に対して、組織損傷又は組織外傷又は組織侵入の部位の止血、封止、及び/又は安定化するのに使用できる。組織被覆材パッドアセンブリ10のように、組織被覆材シートアセンブリ64で処理される組織部位は、例えば、動脈及び/又は静脈出血、又は裂傷、又は進入/進入口創傷、又は組織穿刺、又はカテーテル侵入部位、又は熱傷、又は縫合部を含む。また組織被覆材シートアセンブリ64も、組織処理部位において又はその近傍で、抗細菌及び/又は抗微生物及び/又は抗ウイルス保護バリアを形成することができる。
【0123】
図29は、組織被覆材アセンブリ64の使用前の状態を示す。図30に最も良く示すように、組織被覆材シートアセンブリ64は、組織被覆材マトリクス68の層に挟まれた、織又は不織メッシュ材料のシート66を含む。組織被覆材マトリクス68は、シート66を含んでいる。組織被覆材マトリクス68は、望ましくは組織被覆材パッドアセンブリ10に関して記載したようにキトサンマトリクス12を含む。しかし、他の親水性ポリマースポンジ構造体を使用することができる。
【0124】
組織被覆材シートアセンブリ64の大きさ、形状、及び形態は、その意図する用途に応じて変化しうる。シートアセンブリ64は、直線状、細長状、円状、楕円状、又はそれらの複合又は合成組み合わせ物であってよい。
【0125】
組織被覆材シートアセンブリ64は、出血領域において親水性ポリマースポンジ構造体の迅速な適合を達成する。組織被覆材シートアセンブリ64は、好ましくは(パッドアセンブリ10に比較して)薄く、0.5mmから1.5mmの厚さの範囲である。シートアセンブリ64の薄い強化構造の好ましい形態は、コットンガーゼ等の吸収性の帯具で強化されたキトサンマトリクス12又はスポンジ、典型的には0.10から0.20g/cm3の密度のキトサンマトリクスを含み、最終的な帯具の厚さは1.5mm以下である。
【0126】
シートアセンブリ64は、(図31Aに示すような)多シート平板形状70で包装されるように小型のシート状(例えば、10cm×10cm×0.1cm)、あるいは(図31Bに示すような)小型の巻かれたシート形状72で包装されるように長いシート状(例えば、10cm×150cm×0.1cm)で調製できる。シート66はアセンブリ64の全体を強化するが、血液吸収のために利用できる親水性ポリマースポンジ構造体の大きな比表面積も提供する。また織又は不織シート66の存在は、親水性ポリマースポンジ構造体全体を強化する。
【0127】
シート66は、例えば、コットンメッシュガーゼ等のセルロース由来材料から形成された織又は不織メッシュ材料を含みうる。好ましい強化材料の例は、合成及び天然由来ポリマーの吸収性の低モジュラスメッシュ及び/又は多孔質フィルム及び/又は多孔質スポンジ及び/又は織物を含む。合成生分解性材料は、限定されないが、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、ポリ(e−カプロラクトン)、ポリ(β−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(β−ヒドロキシ吉草酸)、ポリジオキサン、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(リンゴ酸)、ポリ(タルトロン酸)、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシブチレート及び上記のポリマーを合成するのに使用されるモノマーのコポリマーを含む。天然物ポリマーは、これらに限られないが、セルロース、キチン、アルギン、デンプン、デキストラン、コラーゲン及びアルブミンを含む。非生分解性の合成強化材料は、これらに限られないが、ポリエチレン、ポリエチレンコポリマー、ポリプロピレン、ポリプロピレンコポリマー、メタロセンポリマー、ポリウレタン、ポリ塩化ビニルポリマー、ポリエステル及びポリアミドを含む。
【0128】
(B.組織被覆材シートアセンブリの使用)
薄いシートアセンブリ64は、極めて良好な適合性を有し、損傷部位に親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)を即座に強力に配置することを可能にする。また、シートを強化するとアセンブリ全体が強い出血領域での溶解に耐えることができるようになる。シートアセンブリ64は、創傷部位内で、強い動脈及び静脈出血に対して構造体全体を後押しするような圧力を用いて、親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)を層化、小型化、及び/又は回転−−即ち、(図32に示すような)「詰め込み」−−するのに適合している。図32に示すように、シート構造体全体を詰め込むことにより、帯具に注入された親水性ポリマー(例えば、キトサン)と血液との相互作用が、創傷が特に深い又は他の明らかに近づき難い場合の適用に際して有利になる。シートアセンブリ64の出血性創傷への詰め込み及びその押圧は、粘着性が高く、不溶性かつ極めて良好な帯具形態を提供する。
【0129】
(C.組織被覆材シートアセンブリの製造)
約0.15gm/cm3の密度のキトサンマトリクス12を有する組織被覆材シートアセンブリ64(10cm×10cm×0.15cm)は、11cm×11cm×2cmの深いアルミニウム金型を、2パーセント(2%)キトサン酢酸塩溶液で深さ0.38cmまで満たすことにより調製できる(図33、工程A参照)。
【0130】
図33(工程B)に示すように、シート66−例えば、吸収性ガーゼ帯具10cm×10cmを含む−は、金型内の溶液の上に配置され、キトサンに浸漬される。キトサンはシート66に含浸される。
【0131】
図33(工程C)に示すように、含浸したガーゼシート66の上にさらに0.38cmの深さのキトサンを注ぎ込む。
【0132】
図33(工程D)に示すように、金型を、例えば、30℃の棚上のバーティス・ジェネシス(Virtis Genesis)25XL凍結乾燥機内に配置する。溶液を凍結させ、その後氷を凍結乾燥により昇華させる。
【0133】
図33(工程E)に示すように、得られたガーゼ強化シートアセンブリ64を、圧盤の間で80℃において0.155cmの厚さまでプレスする。次いで、プレスしたシートアセンブリ64を、80℃で30分間焼く(図33、工程F)。得られたシートアセンブリは、先に述べた方法で滅菌する。最終的な滅菌及び貯蔵のために、1又はそれ以上のシートアセンブリを加熱密封されたホイルで裏打ちされた小袋74などに包装し、シート形態又はロール形態にする(図34参照)。
【0134】
(実施例6)
(組織被覆材シートアセンブリの曲げ特性)
組織被覆材シートアセンブリ64の三点曲げ試験を実施した。三点曲げ試験は、50N負荷セルを備えるインストロン(Instron)一軸機械式検査装置、モデル番号5844で、試験片のスパン5.8cm及びクロスヘッド速度0.235cm/sでの曲げ弾性率を測定するために実施された。結果を図35に示す。図35は、試験した1.5mm厚さの組織被覆材シートアセンブリが、5.5mm厚さの組織被覆材パッドアセンブリより有意に良く適合することを示している。
【0135】
(実施例7)
(組織被覆材シートアセンブリの粘着特性)
組織被覆材アセンブリ64の試験片(5cm×5cm×0.15cm)を、その製造から96時間以内に切り出した。シートアセンブリ64には、試験前にガンマ線照射滅菌を施さなかった。クエン酸化したウシ全血に試験片を10秒間浸漬し、即座にSAWS試験を行った。試験中に3つの試験片を層化し、複合キトサン密度は0.15g/cm3を示した。この試験の結果を図36に示す。
【0136】
図36aが示すように、3層の組織被覆材シートアセンブリ64は、長時間(即ち、約400秒)に亘って、およそ80mmHgの実質的に生理的な血圧を保持した。このことは、シーリング及びクロット形成の存在を示している。
【0137】
パッドアセンブリでの経験に基づけば、より良い粘着/付着特性は、組織被覆材シートアセンブリ64がガンマ線照射を受けた後にもたらされると予測される。図36Bはこのことを確認したものであり:ガンマ線照射の後、3層のシートアセンブリ64は、0.55cm厚さのキトサン組織パッド10と極めて類似する性能を示した。
【0138】
(III.親水性ポリマースポンジ構造体の更なる適用及び形状)
これまでの開示は、主に創傷部位での血液及び/又は流体損失の止血設定における組織被覆材パッドアセンブリ10及び組織被覆材シートアセンブリ64の使用に集中していた。他の適用についても言及してきたが、以下これらの適用及び更に別の適用のいくつかについて、より詳細に記述する。
【0139】
もちろん、キトサンマトリクスを一例とする圧縮された親水性ポリマースポンジ構造体が有する顕著な技術的特徴は、多様な形状、大きさ、及び形態の被覆材構造体に取り入れられ、多様な数の異なる適用が提供されると理解すべきである。示されるように、与えられた親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)が取り得る形状、大きさ、及び形態は、記載したパッドアセンブリ10及びシートアセンブリ64に限られず、特別な適用の求めに応じて変形しうる。幾つかの代表的な例を以下に示すが、含まれる全ては限定を意図したものではない。
【0140】
(A.体液損失抑制(例えば、熱傷))
出血の抑制といっても、体液の保存が健康及び時には生命の維持と同義的意味を表す場合もある。このような例としては熱傷の治療がある。
【0141】
熱傷は、熱及び火炎、放射線、太陽光、電気、又は化学物質への曝露によって起こり得る。薄い又は表在性熱傷(I度の熱傷とも呼ばれる)は、発赤して痛みがある。それらは若干隆起し、押すと白くなり、熱傷上の皮膚は1日又は2日で剥離する。より深い熱傷である、表在性中間層熱傷及び深部中間層熱傷(II度の熱傷とも呼ばれる)は、水疱を有して痛みが強い。また、全層性熱傷(III度の熱傷とも呼ばれる)もあり、それは皮膚の全ての層に損傷を生じる。熱傷した皮膚は白色又は黒焦げしている。これらの熱傷は、神経が損傷した場合には痛みを殆ど又は全く生じない。
【0142】
組織熱傷領域の存在は、(脱水症をもたらす)流体損失を抑制する皮膚の機能、並びに細菌及び微生物の侵入をブロックする皮膚の機能をその領域において危うくする。従って、全ての熱傷の治療において、被覆材は熱傷領域の被覆に使用される。被覆材は、該領域から離れて空気を保ち、痛みを和らげ、水疱のある皮膚を保護する。また被覆材は、組織熱傷が治癒する際に流体を吸収する。抗微生物クリーム又は軟膏及び/又は保湿剤が、乾燥を防ぎ感染症を撃退するために用いられる。
【0143】
親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、既に述べたタイプのキトサンマトリクス12)は、パッドアセンブリ10又はシートアセンブリ64のいずれかの形態で、組織熱傷領域の治療に使用できる。親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)は、流体を吸収して粘着し、熱傷領域を覆う。親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)は、熱傷領域において抗細菌/抗微生物保護バリアも提供する。
【0144】
(1.複合被覆アセンブリ)
図37及び38は、組織熱傷領域、並びに比較的大容量の流体漏出及び/又は出血が見込まれる他の損傷組織領域の治療にも使用できる複合被覆材アセンブリ76を示す。複合被覆材アセンブリ76は、流体吸収部材78又はキャリア及び流体吸収部材78に担持された親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)を含む。
【0145】
流体吸収部材78は、例えば、コットンガーゼメッシュのようなセルロース由来材料から形成される、織又は不織メッシュ材料を含みうる。流体吸収部材78の他の例は、合成及び天然由来ポリマーの吸収性の低モジュラスメッシュ及び/又は多孔質フィルム及び/又は多孔質スポンジ及び/又は織物を含む。合成生分解性材料は、限定されないが、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、ポリ(e−カプロラクトン)、ポリ(β−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(β−ヒドロキシ吉草酸)、ポリジオキサン、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(リンゴ酸)、ポリ(タルトロン酸)、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシブチレート及び上記のポリマーを合成するのに使用されるモノマーのコポリマーを含む。天然物ポリマーは、これらに限られないが、セルロース、キチン、アルギン、デンプン、デキストラン、コラーゲン及びアルブミンを含む。非生分解性の合成強化材料は、これらに限られないが、ポリエチレン、ポリエチレンコポリマー、ポリプロピレン、ポリプロピレンコポリマー、メタロセンポリマー、ポリウレタン、ポリ塩化ビニルポリマー、ポリエステル及びポリアミドを含む。
【0146】
親水性ポリマースポンジ構造体は、例えば、既に述べたタイプのキトサンマトリクス12を含むことができ、それは、望ましくは緻密化を施されている。また、他のタイプのキトサン構造体又は他の形状の親水性ポリマースポンジ構造体又は組織被覆材マトリクスも一般に使用できる。親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)は吸収部材に固着されるが、例えば、親水性ポリマースポンジ構造体への直接粘着及び/又は接着、又はフィブリン糊、又はシアノアクリレート糊による。
【0147】
親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)とともに配設されたときの吸収部材の主要な機能は、組織熱傷領域(又は他の創傷部位)又はその近傍に残った流体を吸収することである。これにより、親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)は、複合アセンブリの全流体保持機能を担う必要がなくなる。図37に示すように、流体吸収部材78の外周は、望ましくは親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)の外周を越えて延設され、吸収部材78の流体吸収機能の範囲及び容量を増加させる。
【0148】
吸収部材78は、それにより、親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)の流体保持機能を補い分担する。吸収部材78は、親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)の流体保持負荷を軽くするので、親水性ポリマースポンジ構造体ではその構造的全体性を危うくするような過水和が起こらず、流体又は血液で過飽和にならない。
【0149】
図39に示すように、吸収部材78と親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)との間の界面は、穿孔80又は他の方法で透過性を付与され、親水性ポリマースポンジ構造体に保持された流体は容易に吸収部材78に移動することができ、それにより、親水性ポリマースポンジ構造体の流体保持負荷が低減される。
【0150】
使用時に、流体吸収部材78は接着剤を備えて、組織に接着されてもよい。あるいは、従来の被覆材(例えばガーゼ)を別に組み合わせて、複合被覆材アセンブリ76を固定させ、創傷に清浄なバリアを提供するために適用してもよい。創傷が続いて下着に隠れる場合、水密のカバーを適用して、複合被覆材アセンブリ76が過度に水和されることを防止する必要がある。
【0151】
(B.抗微生物バリア)
或る種の適用では、治療の焦点は、損傷により又は内部組織領域への侵入口確保の必要性により傷つけられた組織領域を通じて細菌及び/又は微生物の進入を防止することになりつつある。後者の状況の例は、例えば、腹膜透析に適応させるための留置カテーテルの設置、又は外部の尿又は結腸瘻バッグへの連結、又は非経口栄養摂取、又はサンプリング又はモニタリング装置の接続;又は例えば、気管切開術、又は腹腔鏡又は内視鏡手法、又は血管へのカテーテル装置の導入における身体内部領域への侵入のための切開創の形成後を含む。
【0152】
図40及び41において、抗微生物ガスケットアセンブリ82の一つの代表的な実施態様が示される。ガスケットアセンブリ82は、侵入部位、特に留置カテーテル88が配設された侵入部位上に配置されるような大きさ及び形態である。抗微生物アセンブリ82は、組織粘着性キャリア部材84を含み、それに抗微生物部材が固定されている。望ましくは、抗微生物部材は、既に述べたタイプのキトサンマトリクス12を含み、それは緻密化を施されている。また、他のタイプのキトサン構造体、又は他の親水性ポリマースポンジ構造体、又は組織被覆材マトリクスも一般に使用できる。
【0153】
キャリア部材84は粘着性表面86を含み、抗微生物部材(望ましくは、キトサンマトリクス12)が侵入部位に渡って付着される。図40及び41において、抗微生物部材12及びキャリア84は貫通孔90を備え、貫通孔から留置カテーテル88を通過させることができる。この配置において、貫通孔90の内径は留置カテーテル88の外径と略同じであり、堅固で密接に嵌合される。カテーテルの留置が無く切開創又は侵入部位のみがある状況では、抗微生物部材は貫通孔を備えないと理解される。
【0154】
代替的な配置(図42参照)では、既に述べた組織被覆材パッドアセンブリ10が、侵入部位の面積に比例した大きさ及び形状にされ、抗微生物ガスケットアセンブリ82を構成する。この形態では、パッドアセンブリ10は貫通孔90を備え、例えば留置カテーテルの通路を提供することができる。
【0155】
他の代替的配置(図43参照)では、既に述べた組織被覆材シートアセンブリ64が、侵入部位の面積に比例した大きさ及び形状にされ、抗微生物ガスケットアセンブリ82を構成する。この形態では、シートアセンブリ64は貫通孔90を備え、例えば留置カテーテルの通路を提供することができる。
【0156】
(実施例8)
(抗微生物特性)
緻密化したキトサン酢酸塩マトリクス及びキトサン酢酸塩マトリクスを導入できる多様な形態の被覆材は、表11にまとめたインビトロ試験によって示されているように抗微生物効果を有する。
【0157】
【表11】
緻密化されたキトサンマトリクス12の優れた粘着性及び機械的特性は、該マトリクスを四肢上(表皮的用途)及び身体内部での抗微生物用途での使用に極めて適したものにする。そのような用途は、短期から中期(0−120時間)の感染抑制、カテーテルの入/出口点での出血、サンプリング及び供給用途のためのバイオメディカル装置の入/出口点での出血、及び患者がショック状態で確実な外科手術による支援を受けられない場合の重大な損傷部位における出血の抑制を含む。
【0158】
(C.抗ウイルスパッチ)
ウイルス性物質によって生ずる再発性の状態が存在する。
【0159】
例えば、単純ヘルペスウイルス1型(「HSV1」)は一般的に胴回りより上にある身体組織にのみ感染する。殆どの場合で単純ヘルペスを発症させるのはHSV1である。単純ヘルペス(又は病変)は、顔面びらんのタイプであり、唇又は口に近い領域の他の皮膚において見出される。単純ヘルペスについて使用される幾つかの他の用語は、「発疹」及び医学用語「再発性口唇疱疹」である。
【0160】
単純ヘルペスウイルス2型(「HSV2」)は典型的に胴回りより下にある身体組織にのみ感染する。「陰部疱疹」としても知られるのは、このウイルスである。HSV2(並びにHSV1)は両方とも、びらん(病変とも呼ばれる)を膣周辺領域、陰茎、肛門開口部、臀部又は大腿部に生じさせる。時折、びらんは、破れた皮膚を通してウイルスが侵入した身体の他の部分に現れることもある。
【0161】
図44及び45は、抗ウイルスパッチアセンブリの代表的な実施態様を示す。抗ウイルスパッチアセンブリ92は、HSV1又はHSV2に関係したタイプの表面病変部、又は伝染性軟属腫及び疣といった他の形態のウイルス皮膚感染部を覆って配置されるような大きさ及び形態とされる。抗ウイルスパッチアセンブリ92は、組織粘着性キャリア部材94を含み、それに抗ウイルス部材が固着される。望ましくは、抗ウイルス部材は既に述べたタイプのキトサンマトリクス12を含み、それは緻密化を施されている。また、他のタイプのキトサン構造体、又は他の親水性ポリマースポンジ構造体、又は組織被覆材マトリクスも一般に使用できる。
【0162】
キャリア部材94は、粘着性表面96を備え、それに病変部を覆う抗ウイルス部材(好ましくはキトサンマトリクス12)が付着する。
【0163】
他の代替的な配置(図示せず)では、既に述べた組織被覆材パッドアセンブリ10又は組織被覆材シートアセンブリ64又は複合被覆材アセンブリ76を、抗ウイルスパッチアセンブリを構成するように、病変部位の面積に相応の大きさ及び形態にすることができる。緻密化された圧縮キトサンマトリクス12の優れた粘着性及び機械的特性は、マトリクスを四肢上(表皮的用途)及び身体内部での抗ウイルス用途での使用に極めて適したものにする。抗ウイルスパッチアセンブリ92の存在は、ウイルス性物質を殺傷し、病変領域における治癒を促進できる。
【0164】
(D.出血性疾患の処置)
様々なタイプの出血又は凝固障害が存在する。例えば、血友病は、遺伝的な出血、又は凝固、の障害である。血友病を持つ人々は、その血液に、「因子」と呼ばれる凝固に必要な特定のタンパク質を低レベルでした持たないか、全く持っていないため、出血を止める能力を欠く。凝固因子の喪失によって、血友病を持つ人々は、血液因子が正常又は正しく作用する人々よりも長期間に亘る出血が生じる。特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は、もう一つの血液凝固障害であり、血液中の血小板数の異常な減少を特徴とする。血小板の減少は、痣、歯肉出血、及び内出血を起こりやすくする。
【0165】
全て既に記載したように組織被覆材パッドアセンブリ10又は組織被覆材シートアセンブリ64又は複合被覆材アセンブリ76に組み込まれた親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)は、血友病又は他の凝固障害を持つ者に現れる出血症状を処置するために、処置被覆材として使用されるような大きさ及び形態とされる。既に述べたように、キトサンマトリクス12の存在は赤血球膜を引きつけ、それはキトサンマトリクス12への接触時に融合する。クロットが極めて迅速に形成され、通常は凝固に必要な凝固タンパク質が不要となる。血友病又は他の凝固障害を持つ者の凝固カスケードにはどこか障害があるのだが、そのような疾患をもつ者に出血症状がある間にキトサンマトリクス12が存在すると、その凝固カスケードとは無関係に凝固プロセスを促進できる。この理由により、被覆材にキトサンマトリクス12を存在せしめることは、血友病のような凝固障害を持つ人々にとっての介入手段として有効である。
【0166】
(E.治療薬の徐放)
親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、既に記載したキトサンマトリクス12)は、1又はそれ以上の治療薬を血流中に制御された放出方法で送達するために局所的に適用される基盤を提供できる。治療薬は、親水性ポリマースポンジ構造体に、例えば凍結工程の前又は後に、及び乾燥及び緻密化工程の前に導入できる。親水性ポリマースポンジ構造体から治療薬が放出される速度は、緻密化の程度によって制御できる。親水性ポリマースポンジ構造体をより緻密化すれば、構造体に導入された治療薬の放出速度はより遅くなる。
【0167】
親水性ポリマースポンジ構造体(例えば、キトサンマトリクス12)に導入できる治療薬の例は、これらに限られないが、薬物又は医薬品、幹細胞、抗体、抗微生物、抗ウイルス、コラーゲン、遺伝子、DNA、及び他の治療薬;フィブリンなどの止血剤;成長因子;及び同様の化合物を含む。
【0168】
(F.粘膜表面)
キトサンマトリクス12の有利な特性は、食道、胃腸管、尿管、口、鼻道及び気道、及び肺などを覆う身体内の粘膜表面への粘着性を含む。この特徴は、キトサンマトリクス12を、例えば、粘膜表面の治療のためのシステム及び装置に導入することを可能にし、そこでは、記載したように、キトサンマトリクス12の粘着性シーリング特性、及び/又は促進された凝固特性、及び/又は抗細菌/抗ウイルス特性が有益となる。そのようなシステム及び方法は、腸管の接合及び他の胃腸管手術方法、食道又は胃機能の再生、縫合部のシーリングなどを含む。
【0169】
(IV.結論)
キトサンマトリクス12のような親水性ポリマースポンジ構造体が、様々な大きさ及び形態−−パッド形状、シート形状、複合形状、積層形状、適合形状−の被覆材又は基盤に関連したものとして容易に適合させることができ、医学及び/又は外科学の当業者はキトサンマトリクス12のような任意の親水性ポリマースポンジ構造体を身体の表面上、身体の内部、又は身体全体の多様な用途のために適応させられることが示された。
【0170】
従って、本発明の上述した実施態様は、その概念の単なる記載であり、何ら限定されないことは明らかである。その代わりに、本発明の範囲は、それらの等価物を含む以下の請求の範囲から画定されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1】図1は、血液、流体、又は水分の存在下で身体組織に粘着可能な組織被覆材パッドアセンブリを組み立てたところの斜視図である。
【図2】図2は、図1に示した組織被覆材パッドアセンブリの分解斜視図である。
【図3】図3は、図1に示した組織被覆材パッドアセンブリを最終的な照射及び貯蔵のための密封小袋に包装したところの斜視図である。
【図4】図4は、図3に示した密封小袋を開封し、組織被覆材パッドアセンブリを使用するために露出させたところの斜視図である。
【図5】図5は、図3に示した密封小袋を開封し、組織被覆材パッドアセンブリを使用するために露出させたところの斜視図である。
【図6】図6及び7は、組織被覆材パッドアセンブリを標的とする組織部位のトポロジーに合致するように適用前に折り畳み又は折り曲げによって保持及び操作されたものの斜視図である。
【図7】図6及び7は、組織被覆材パッドアセンブリを標的とする組織部位のトポロジーに合致するように適用前に折り畳み又は折り曲げによって保持及び操作されたものの斜視図である。
【図8】図8から10A/Bは、出血を止めるために標的とする組織部位に適用された組織被覆材パッドアセンブリの斜視図である。
【図9】図8から10A/Bは、出血を止めるために標的とする組織部位に適用された組織被覆材パッドアセンブリの斜視図である。
【図10A】図8から10A/Bは、出血を止めるために標的とする組織部位に適用された組織被覆材パッドアセンブリの斜視図である。
【図10B】図8から10A/Bは、出血を止めるために標的とする組織部位に適用された組織被覆材パッドアセンブリの斜視図である。
【図11】図11は、出血を止めるために標的とする組織部位に積層状態で適用された2枚の組織被覆材パッドアセンブリの斜視図である。
【図12】図12は、出血を止めるために切り取られ標的とする組織部位に適合された組織被覆材パッドアセンブリの断片の斜視図である。
【図13】図13は、出血を止めるために切り取られ標的とする組織部位に適合された組織被覆材パッドアセンブリの断片の斜視図である。
【図14】図14及び15は、標的組織部位に合致するように凹面状又はカップ状への成形により保持及び操作された組織被覆材パッドアセンブリの斜視図である。
【図15】図14及び15は、標的組織部位に合致するように凹面状又はカップ状への成形により保持及び操作された組織被覆材パッドアセンブリの斜視図である。
【図16】図16は、図1に示した組織被覆材パッドアセンブリの製造方法の工程の線図である。
【図17】図17は、模擬的動脈創傷環境における、図1に示した組織被覆材パッドアセンブリの急性粘着性及び付着性を定量化するために使用される試験装置の部分線図である。
【図18A】図18Aから18Cは、組織被覆材パッドアセンブリの試験サンプルに破壊圧力試験を実施するのに用いられた図17の試験装置の使用時の部分線図である。
【図18B】図18Aから18Cは、組織被覆材パッドアセンブリの試験サンプルに破壊圧力試験を実施するのに用いられた図17の試験装置の使用時の部分線図である。
【図18C】図18Aから18Cは、組織被覆材パッドアセンブリの試験サンプルに破壊圧力試験を実施するのに用いられた図17の試験装置の使用時の部分線図である。
【図19】図19は、異なる凍結温度で製造された親水性ポリマースポンジ構造体間での、図17に示した試験装置を使用して測定された破壊圧力における相違を示すグラフである。
【図20】図20は、向上した可撓性及び適合性を付与する微小亀裂を生成させるための親水性ポリマースポンジ構造体のコンディショニング工程の実施態様の斜視図である。
【図21A】図21Aは、向上した可撓性及び適合性を付与する微小亀裂を生成させるための親水性ポリマースポンジ構造体のコンディショニング工程の実施態様の斜視図である。
【図21B】図21Bは、向上した可撓性及び適合性を付与する微小亀裂を生成させるための親水性ポリマースポンジ構造体のコンディショニング工程の実施態様の斜視図である。
【図22A】図22Aは、向上した可撓性及び適合性を付与する微小亀裂を生成させるための親水性ポリマースポンジ構造体のコンディショニング工程の実施態様の斜視図である。
【図22B】図22Bは、向上した可撓性及び適合性を付与する微小亀裂を生成させるための親水性ポリマースポンジ構造体のコンディショニング工程の実施態様の斜視図である。
【図23A】図23Aは、向上した可撓性及び適合性を付与する深いレリーフパターンを形成することにより親水性ポリマースポンジ構造体をコンディショニングする工程の実施態様の図である。
【図23B】図23Bは、向上した可撓性及び適合性を付与する深いレリーフパターンを形成することにより親水性ポリマースポンジ構造体をコンディショニングする工程の実施態様の図である。
【図24A】図24Aは、図23A及び23Bに示した工程に従って親水性ポリマースポンジ構造体をコンディショニングするために適用され得るレリーフパターンの平面図である。
【図24B】図24Bは、図23A及び23Bに示した工程に従って親水性ポリマースポンジ構造体をコンディショニングするために適用され得るレリーフパターンの平面図である。
【図24C】図24Cは、図23A及び23Bに示した工程に従って親水性ポリマースポンジ構造体をコンディショニングするために適用され得るレリーフパターンの平面図である。
【図24D】図24Dは、図23A及び23Bに示した工程に従って親水性ポリマースポンジ構造体をコンディショニングするために適用され得るレリーフパターンの平面図である。
【図24E】図24Eは、図23A及び23Bに示した工程に従って親水性ポリマースポンジ構造体をコンディショニングするために適用され得るレリーフパターンの平面図である。
【図24F】図24Fは、図23A及び23Bに示した工程に従って親水性ポリマースポンジ構造体をコンディショニングするために適用され得るレリーフパターンの平面図である。
【図25A】図25Aは、図23A及び23Bに示した処理工程が与えることのできる可撓性及び適合性の向上を示すグラフである。
【図25B】図25Bは、図23A及び23Bに示した処理工程が与えることのできる可撓性及び適合性の向上を示すグラフである。
【図26A】図26Aは、可撓性及び適合性を付与する垂直チャンネル(穿孔)を形成することにより親水性ポリマースポンジ構造体をコンディショニングする工程の実施態様の図である。
【図26B】図26Bは、可撓性及び適合性を付与する垂直チャンネル(穿孔)を形成することにより親水性ポリマースポンジ構造体をコンディショニングする工程の実施態様の図である。
【図27】図27は、図26A及び26Bに示した工程に従って親水性ポリマースポンジ構造体をコンディショニングするのに適用され得る垂直の(穿孔された)チャンネルの平面図である。
【図28】図28は、図26A及び26Bに示した処理工程が与えることのできる可撓性及び適合性の向上を示すグラフである。
【図29】図29は、血液、流体、又は水分の存在下で身体組織に粘着可能な組織被覆材シートアセンブリを組み立てたところの斜視図である。
【図30】図30は、図29に示した組織被覆材シートアセンブリの分解斜視図である。
【図31A】図31Aは、シート状に配置した組織被覆材シートアセンブリの斜視図である。
【図31B】図31Bは、ロール状に配置した組織被覆材シートアセンブリの斜視図である。
【図32】図32は、出血を止めるためのロール状の組織被覆材シートアセンブリを標的とする組織領域に詰め込んだところの斜視図である。
【図33】図33は、図29に示した組織被覆材シートアセンブリの製造方法の工程の線図である。
【図34】図34は、最終的な照射及び貯蔵のために密封小袋に包装された図29に示す組織被覆材パッドアセンブリの斜視図である。
【図35】図35は、図29に示した組織被覆材シートアセンブリと、図1に示した未処理の組織被覆材パッドアセンブリとを比較した可撓性及び適合性を示すグラフである。
【図36A】図36Aは、ガンマ線照射前の図29に示す組織被覆材シートアセンブリの模擬創傷シール特性を示すグラフである。
【図36B】図36Bは、ガンマ線照射前及び後の図29に示す組織被覆材シートアセンブリの模擬創傷シール特性を示すグラフである。
【図37】図37は、血液、流体、又は水分の存在下で身体組織に粘着可能な複合組織被覆材アセンブリを組み立てたところの斜視図である。
【図38】図38は、図37に示した複合組織被覆材アセンブリの分解斜視図である。
【図39】図39は、図37に示した複合組織被覆材アセンブリの側断面図である。
【図40】図40は、カテーテルを留置するために侵入部位に粘着しシールするガスケットアセンブリを形成するように成形及び構成された、図37に示したタイプの複合組織被覆材アセンブリの斜視図である。
【図41】図41は、図40に示したガスケットアセンブリの側断面図である。
【図42】図42は、カテーテルを留置するために侵入部位に粘着しシールするガスケットアセンブリを形成するように成形及び構成された、図1に示したタイプの組織被覆材パッドアセンブリの斜視図である。
【図43】図43は、カテーテルを留置するために侵入部位に粘着しシールするガスケットアセンブリを形成するように成形及び構成された、図29に示したタイプの組織被覆材シートアセンブリの斜視図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性ポリマースポンジ構造体を含んでなる組織被覆材であって、該親水性ポリマースポンジ構造体は、(i)使用前の機械的操作による該構造体の重要な部分の微小亀裂、又は(ii)使用前の該構造体の重要な部分に形成された表面レリーフパターン、又は(iii)使用前の該構造体の重要な部分に形成された流体注入チャンネルのパターンの少なくとも1つを含む、組織被覆材。
【請求項2】
前記親水性ポリマースポンジ構造体が、キトサン生物材料を含む、請求項1に記載の組織被覆材。
【請求項3】
前記親水性ポリマースポンジ構造体が、使用前に圧縮により0.6g/cm3から0.1g/cm3の間の密度まで緻密化される、請求項1に記載の組織被覆材。
【請求項4】
前記微小亀裂が、曲げ、捻り、回転、振動、探索、圧縮、延伸、振盪、又は混練のうちの1つによるものである、請求項1に記載の組織被覆材。
【請求項5】
前記表面レリーフパターンが、熱的圧縮によるものである、請求項1に記載の組織被覆材。
【請求項6】
前記親水性ポリマースポンジ構造体が下表面及び上表面を備え、前記表面レリーフパターンが該上表面に形成され該下表面には形成されていない、請求項1に記載の組織被覆材。
【請求項7】
前記流体注入チャンネルのパターンが、穿孔を有する、請求項1に記載の組織被覆材。
【請求項8】
前記親水性ポリマースポンジ構造体が、下表面及び上表面を備え、前記流体注入チャンネルが該下表面に形成される、請求項1に記載の組織被覆材。
【請求項9】
前記親水性ポリマースポンジ構造体が、下表面及び上表面を備え、さらに、該上表面に接合した流体不透過性の支持材を備える、請求項1に記載の組織被覆材。
【請求項10】
前記親水性ポリマースポンジ構造体が、下表面及び上表面を備え、さらに、該上表面に接合した流体吸収性材料を備える、請求項1に記載の組織被覆材。
【請求項11】
請求項1に記載の組織被覆材の製造方法。
【請求項12】
(i)組織損傷、組織外傷、又は組織侵入の部位の止血、封止、又は安定化;あるいは(ii)抗細菌バリアの形成、あるいは(iii)抗ウイルス性パッチの形成;あるいは(iv)出血性疾患の処置;あるいは(v)治療薬の放出;あるいは(vi)粘膜表面の処理;あるいは(vii)それらの組み合わせの少なくとも1つを実施するための、請求項1に記載の組織被覆材の使用方法。
【請求項13】
親水性ポリマースポンジ構造体及び該親水性スポンジ構造体内に存在する少なくとも1つの織又は不織又は透過性の膜質シートを含む組織被覆材であって、該親水性ポリマースポンジ構造体が、圧縮により0.6g/cm3から0.1g/cm3の間の密度まで緻密化された、組織被覆材。
【請求項14】
前記親水性ポリマースポンジ構造体が、キトサン生物材料を含む、請求項1に記載の組織被覆材。
【請求項15】
請求項13に記載の組織被覆材の製造方法。
【請求項16】
(i)組織損傷、組織外傷、又は組織侵入の部位の止血、封止、又は安定化;あるいは(ii)抗細菌バリアの形成、あるいは(iii)抗ウイルス性パッチの形成;あるいは(iv)出血性疾患の処置;あるいは(v)治療薬の放出;あるいは(vi)粘膜表面の処理;あるいは(vii)それらの組み合わせの少なくとも1つを実施するための、請求項13に記載の組織被覆材の使用方法。
【請求項17】
親水性ポリマースポンジ構造体及び該親水性スポンジ構造体に保持された吸収性成分を含む組織被覆材であって、該親水性ポリマースポンジ構造体が、圧縮により0.6g/cm3から0.1g/cm3の間の密度まで緻密化された、組織被覆材。
【請求項18】
前記親水性ポリマースポンジ構造体が、キトサン生物材料を含む、請求項17に記載の組織被覆材。
【請求項19】
請求項17に記載の組織被覆材の製造方法。
【請求項20】
(i)組織損傷、組織外傷、又は組織侵入の部位の止血、封止、又は安定化;あるいは(ii)抗細菌バリアの形成、あるいは(iii)抗ウイルス性パッチの形成;あるいは(iv)出血性疾患の処置;あるいは(v)治療薬の放出;あるいは(vi)粘膜表面の処理;あるいは(vii)それらの組み合わせの少なくとも1つを実施するための、請求項17に記載の組織被覆材の使用方法。
【請求項1】
親水性ポリマースポンジ構造体を含んでなる組織被覆材であって、該親水性ポリマースポンジ構造体は、(i)使用前の機械的操作による該構造体の重要な部分の微小亀裂、又は(ii)使用前の該構造体の重要な部分に形成された表面レリーフパターン、又は(iii)使用前の該構造体の重要な部分に形成された流体注入チャンネルのパターンの少なくとも1つを含む、組織被覆材。
【請求項2】
前記親水性ポリマースポンジ構造体が、キトサン生物材料を含む、請求項1に記載の組織被覆材。
【請求項3】
前記親水性ポリマースポンジ構造体が、使用前に圧縮により0.6g/cm3から0.1g/cm3の間の密度まで緻密化される、請求項1に記載の組織被覆材。
【請求項4】
前記微小亀裂が、曲げ、捻り、回転、振動、探索、圧縮、延伸、振盪、又は混練のうちの1つによるものである、請求項1に記載の組織被覆材。
【請求項5】
前記表面レリーフパターンが、熱的圧縮によるものである、請求項1に記載の組織被覆材。
【請求項6】
前記親水性ポリマースポンジ構造体が下表面及び上表面を備え、前記表面レリーフパターンが該上表面に形成され該下表面には形成されていない、請求項1に記載の組織被覆材。
【請求項7】
前記流体注入チャンネルのパターンが、穿孔を有する、請求項1に記載の組織被覆材。
【請求項8】
前記親水性ポリマースポンジ構造体が、下表面及び上表面を備え、前記流体注入チャンネルが該下表面に形成される、請求項1に記載の組織被覆材。
【請求項9】
前記親水性ポリマースポンジ構造体が、下表面及び上表面を備え、さらに、該上表面に接合した流体不透過性の支持材を備える、請求項1に記載の組織被覆材。
【請求項10】
前記親水性ポリマースポンジ構造体が、下表面及び上表面を備え、さらに、該上表面に接合した流体吸収性材料を備える、請求項1に記載の組織被覆材。
【請求項11】
請求項1に記載の組織被覆材の製造方法。
【請求項12】
(i)組織損傷、組織外傷、又は組織侵入の部位の止血、封止、又は安定化;あるいは(ii)抗細菌バリアの形成、あるいは(iii)抗ウイルス性パッチの形成;あるいは(iv)出血性疾患の処置;あるいは(v)治療薬の放出;あるいは(vi)粘膜表面の処理;あるいは(vii)それらの組み合わせの少なくとも1つを実施するための、請求項1に記載の組織被覆材の使用方法。
【請求項13】
親水性ポリマースポンジ構造体及び該親水性スポンジ構造体内に存在する少なくとも1つの織又は不織又は透過性の膜質シートを含む組織被覆材であって、該親水性ポリマースポンジ構造体が、圧縮により0.6g/cm3から0.1g/cm3の間の密度まで緻密化された、組織被覆材。
【請求項14】
前記親水性ポリマースポンジ構造体が、キトサン生物材料を含む、請求項1に記載の組織被覆材。
【請求項15】
請求項13に記載の組織被覆材の製造方法。
【請求項16】
(i)組織損傷、組織外傷、又は組織侵入の部位の止血、封止、又は安定化;あるいは(ii)抗細菌バリアの形成、あるいは(iii)抗ウイルス性パッチの形成;あるいは(iv)出血性疾患の処置;あるいは(v)治療薬の放出;あるいは(vi)粘膜表面の処理;あるいは(vii)それらの組み合わせの少なくとも1つを実施するための、請求項13に記載の組織被覆材の使用方法。
【請求項17】
親水性ポリマースポンジ構造体及び該親水性スポンジ構造体に保持された吸収性成分を含む組織被覆材であって、該親水性ポリマースポンジ構造体が、圧縮により0.6g/cm3から0.1g/cm3の間の密度まで緻密化された、組織被覆材。
【請求項18】
前記親水性ポリマースポンジ構造体が、キトサン生物材料を含む、請求項17に記載の組織被覆材。
【請求項19】
請求項17に記載の組織被覆材の製造方法。
【請求項20】
(i)組織損傷、組織外傷、又は組織侵入の部位の止血、封止、又は安定化;あるいは(ii)抗細菌バリアの形成、あるいは(iii)抗ウイルス性パッチの形成;あるいは(iv)出血性疾患の処置;あるいは(v)治療薬の放出;あるいは(vi)粘膜表面の処理;あるいは(vii)それらの組み合わせの少なくとも1つを実施するための、請求項17に記載の組織被覆材の使用方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18A】
【図18B】
【図18C】
【図19】
【図20】
【図21A】
【図21B】
【図22A】
【図22B】
【図23A】
【図23B】
【図24A】
【図24B】
【図24C】
【図24D】
【図24E】
【図24F】
【図25A】
【図25B】
【図26A】
【図26B】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31A】
【図31B】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36A】
【図36B】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18A】
【図18B】
【図18C】
【図19】
【図20】
【図21A】
【図21B】
【図22A】
【図22B】
【図23A】
【図23B】
【図24A】
【図24B】
【図24C】
【図24D】
【図24E】
【図24F】
【図25A】
【図25B】
【図26A】
【図26B】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31A】
【図31B】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36A】
【図36B】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【公表番号】特表2007−516051(P2007−516051A)
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−547315(P2006−547315)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【国際出願番号】PCT/US2004/043147
【国際公開番号】WO2005/062896
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(506211517)ヘムコン, インコーポレイテッド (10)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【国際出願番号】PCT/US2004/043147
【国際公開番号】WO2005/062896
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(506211517)ヘムコン, インコーポレイテッド (10)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]