説明

キトサン組成物

本発明は、30%〜75%の間の脱アセチル化度を有するキトサン(ただし、キトサンはランダムに脱アセチル化される)と、架橋剤とを含み、架橋剤対キトサンのモル比が、前記架橋剤における官能基の数および前記キトサンにおける利用可能なアミノ基の数に基づいて0.2:1またはそれ以下である、架橋可能なキトサン組成物に関連する。本発明はまた、そのようなキトサン組成物から形成されるキトサンヒドロゲル、および、その使用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はキトサン組成物に関連し、具体的には、低い脱アセチル化度を有するキトサンから作製され、6〜10の範囲でのpHにおいて共有結合により架橋されるキトサンゲルに関連する。
【背景技術】
【0002】
本発明は生体適合性の多糖ゲル組成物に関連し、具体的には、ワクチンにおけるキトサン組成物、薬物送達、組織増強、細胞培養、生細胞のカプセル化、美容的使用および整形外科使用のためのキトサン組成物、ならびに、生体材料としての使用、創傷治癒デバイスとしての使用、食品産業における増粘剤および添加物としての使用、接着剤としての使用、潤滑剤としての使用、穿孔用流体および補給流体としての使用のためのキトサン組成物に関連する。そのようなゲルは、低い脱アセチル化度を有する共有結合により架橋されたキトサンゲルによって調製される。特定の脱アセチル化度のキトサンを選び、効率的な架橋条件を使用することによって、興味深く、かつ、予想外の生物学的性質および物理的性質を有するゲルを得ることができる。このことは、標準的なキトサンから作製され、かつ、典型的な架橋プロトコルを使用する他の架橋されたキトサンヒドロゲルとは対照的である。本発明によるゲルは、非常に低い毒性を有するように作製することができ、また、本発明によるゲルは、迅速に分解するように作製することができる。前記ゲルのもう1つの際立った特徴が、本発明によるゲルは、中性条件およびアルカリ性条件に供されたときに沈殿しないことである。本発明によるゲルはまた、例えば、非常に多数の用途において有用である注入可能な、いわゆる、「粉砕ゲル」へのさらなる機械的加工を可能にする剛性を有する。
【0003】
ヒドロゲルは、水が分散媒体であるコロイド状ゲルとして定義することができる。様々なヒドロゲルが多くの分野において広く使用され、今やいくつかの領域では10億ドル企業になっている。典型的には、ヒドロゲルは水溶性ポリマーから作製され、そのような水溶性ポリマーは天然供給源から単離されているか、あるいは、合成によって、または、天然ポリマーの化学修飾によって得られている。これらのポリマーはそれらの物理的性質および生物学的性質について選択され、生成物の所望される性質に依存して単独または組合せで使用される。これらのポリマーには、ポリマーを医学的使用のために好適にする物理的性質を有するものがあり、一方で、食品産業、機械的加工製造産業において、潤滑剤、穿孔用流体および補給流体として使用されるもの、化粧品、生体材料用途において使用されるもの、ならびに、生物工学において細胞足場として使用されるものなどがある。異なる用途では、ポリマーの異なる特性が要求され、また、多くの技術的用途が、低コストで入手可能な未加工のバルク特性に基づいており、これに対して、高度に精製された特性が、これは高コストであることが多いが、医学的用途のために要求される。時には、ポリマー溶液の物理的性質(例えば、粘度など)が、注目される主たるパラメーターであり、これに対して、他の用途では、生物学的性質および毒物学的性質が、意図された用途におけるその機能のためにはより顕著になる。
【0004】
ポリマーの中には、ゲルが単独で使用されるか、または、固体ビーズと一緒に使用される組織増強組成物において、充填目的のために使用されるものがある。他の使用、例えば、創傷治癒、薬物送達、ワクチンビヒクルにおいては、他の性質を有する他のポリマーが、医学的要求を満たすために所望される。一般に、粘度、抗菌活性、接着能または吸水能/保水能のような性質がすべて、考慮されなければならない性質である。保水能および膨潤が典型的には、食品用途では非常に重要であり、この場合、ポリマーは、増粘剤として、または、他の薬剤の溶解性増強剤および安定剤としてのどちらかで使用される。合成および天然起源のポリマー共に広範囲の様々なポリマーが、医療用生成物において見出される。多くの用途において、ポリマーは、望まれない副作用を引き起こすことなく、分解され、排出されることが重要である。生分解性が必ずしも必要でないとしても、良好な生体適合性が、物質の炎症、免疫学的反応または拒絶のような副反応を避けるために非常に重要である。したがって、天然に存在する非毒性の多糖が医療用生成物において使用されることは、驚くべきことではない。これは、天然に存在する非毒性の多糖が、優れた物理的性質を興味深い生物学的性質および医学的性質との組合せで有しており、また、通常、高純度で、かつ、低コストで得ることができるからである。一般に使用されている多糖には、例えば、セルロース、アルギン酸塩、キトサン、ヒアルロン酸、デンプンまたはそれらの誘導体がある。
【0005】
医療において、様々なゲルおよび軟膏が、例えば、薬物送達のために、美容的目的のために、または、感染を避けるための抗菌性バリアを与えるために使用される。ヒドロゲルが、多くの場合には妥当な溶解性および生物学的性質を有しており、結果として、膨大な一連の生成物において見出される。ヒアルロン酸およびセルロース誘導体などのようなゲル形成多糖が今では、利益を生む産業領域になっている。ヒアルロン酸は、そのようなものとして使用され得るポリマーの一例である。これは、ヒアルロン酸が、生理学的pHにおいて低濃度の水溶液で使用されるとき、自発的にヒドロゲルを形成するからである。セルロースのような他のポリマーはそのようなものとして使用することができず、所望される性質を得るために化学修飾しなければならない。ヒドロゲルを多糖から調製するとき、典型的なプロトコルでは、ポリマーを水溶液において低濃度で、多くの場合には0.5%〜3%(w/w)の間で溶解することが伴う。より高い粘度が所望されるときには、その粘度は、溶解性が許せば、より多くのポリマーを溶液に加えることによるか、または、ポリマーを架橋することによるかのどちらかによって達成することができる。架橋によって、より大きい分子量のポリマーを得ることができ、結果として、より高い粘度のポリマーを得ることができる。架橋は、共有結合、イオン性相互作用または疎水性相互作用を使用して種々の方法で行うことができ、膨大な数の取り組みを用いることができる。そのような架橋反応の生成物が医学的使用のために意図されるときには一般に、リンカーに対する免疫学的反応を持ち込む危険性があるので、また、架橋は、生分解性を損なうことがあるので、架橋レベルをできる限り低く保つことが望ましい。
【0006】
==免疫学およびアレルギー==
疫系は先天性免疫および適応免疫に分けることができる。先天性免疫または非特異的免疫は、感染またはワクチン接種によって免疫化されていない種によって顕在化される生来的な抵抗性である。適応免疫または獲得免疫は、免疫を刺激した抗原に対する変化した反応性が存在し、抗原特異的な免疫学的記憶を生じさせるタイプの免疫である。免疫は、能動的、すなわち、後天的な感染またはワクチン接種の結果であり得るか、あるいは、免疫は、受動的、すなわち、抗体の移行から獲得することができる。抗体による受動的なワクチン接種には、欠点がいくつかある:異物物質の注入は、注入された抗体に対する免疫応答を生じさせることがある。モノクローナル抗体が大量に注入されなければならず、このことがこの治療を非常に高価にしている。この治療は、その機能を維持するために持続されなければならない。抗体形成および免疫学的記憶を誘導するための能動的なワクチン接種がほとんどの場合、好まれる。ほとんどの天然の免疫原は、5kDaを超える分子量を有するタンパク質である。免疫原分子でさえ、所望されるレベルの免疫を生じさせない場合がある。免疫応答の強さを増大させるために、免疫原がアジュバントと組み合わされる。アジュバントは、アジュバントに対する望まれない抗体を生じさせることなく、免疫応答を高める作用因子である。免疫原が依然として、受け入れられ得る免疫応答を生じさせることができないならば、免疫原は、より免疫原性の高いキャリアに結合させることがある。0.1kDaから2kDaにまで及ぶ分子量を有する小さい分子は多くの場合、小さすぎて、免疫系によって認識されず、したがって、免疫化において免疫原として使用することが困難である。このことを回避する1つの方法が、免疫原をより大きいキャリア分子に共有結合により結合することである。ワクチン接種は、経口、鼻腔、皮下、粘膜下、舌下または筋肉内が可能である。
【0007】
T細胞およびNK細胞による異物細胞の認識および破壊は、細胞媒介免疫(TH1免疫応答)と呼ばれる。体液性免疫には、B細胞が関連する(TH2免疫応答)。水酸化アルミニウムは、TH2細胞を選択的に活性化することが報告されており、これに対して、フロイント完全アジュバントはTH1細胞を活性化する。キトサンは、体液性免疫応答および細胞媒介免疫応答の両方を高めることが示されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0008】
先天性免疫系では、広範囲の様々な病原体が、事前の暴露を必要とすることなく認識される。先天性免疫に関わる主な細胞、すなわち、単球/マクロファージおよび好中球が、微生物病原体を貪食し、先天性免疫応答、炎症性免疫応答および適応免疫応答を開始させる。Toll様受容体(TLR)は、広範囲の様々な微生物の認識に関与するI型膜貫通タンパク質の一群である。それらは先天性免疫系において重要な役割を果たす。TLRはパターン認識受容体(PRR)の1つのタイプであり、病原体によって広く共有され、しかし、宿主分子からは識別可能である分子(これは病原体関連分子パターン(PAMP)として総称的に示される)を認識する。マクロファージの受容体もまた、パターン認識受容体であると見なされる。マクロファージのマンノース受容体は、C3およびC4の炭素において、すなわち、マンノース、フルクトース、N−アセチルグルコサミンおよびグルコースの認識を可能にする位置においてエカトリアル配置のヒドロキシル基を有するヘキソースを認識する(例えば、非特許文献2参照)。
【0009】
アレルギーは、工業国では人口のおよそ1/4〜1/3に影響を及ぼす非常に一般的な障害であり、例えば、5千万人を超えるアメリカ人がアレルギー性疾患に罹患している。非常に最も一般的に使用されている治療戦略は今日では、アレルギーのエフェクター機構を、例えば、抗ヒスタミン剤の経口摂取によって、または、局所的コルチコステロイド剤によって標的とすることである。抗ヒスタミン剤およびコルチコステロイド剤による治療は、アレルギー症状を緩和することにおいて効果的であり得るが、それらの使用は、身体全体を医薬生成物にさらすことを引き起こし、また、それらは、不快な副作用、または、有害でさえある副作用を生じさせることがある。アレルゲン特異的な免疫療法が、アレルギーの根本原因を標的とし、かつ、長期間持続する症状緩和をもたらす、使用されている唯一の治療である。したがって、アレルゲン特異的な免疫療法は、アレルギー性疾患のための唯一の治療的処置と見なされ得る。この治療は皮下注射として施され得るか、または、舌下に施され得る。アレルゲン抽出物を皮下に注射することによって行われた場合、アレルゲン特異的な免疫療法は、十分に立証された効果を有しており、一方で、舌下によるアレルゲン特異的な免疫療法の効力はあまり立証されていない。
【0010】
例えば喘息および鼻炎などの様々なアレルギー性疾患が、本来ならば無害な環境的抗原、すなわち、アレルゲンに対する不適切な免疫応答によって引き起こされる。最も一般的な形態が免疫グロブリン(Ig)E媒介のアレルギーであり、これはアレルゲン特異的IgEの存在によって特徴づけられる。現在、薬理学的治療およびアレルゲン特異的免疫療法という2つの一般的な治療法が、IgE媒介アレルギーを治療するために存在する。特にアレルギー性の喘息および湿疹の場合には、薬理学的治療には、局所的コルチコステロイド剤による治療が含まれる。しかしながら、アレルギー性喘息の患者の10%〜20%がステロイド治療に対して応答しない。他の一般的な抗アレルギー薬物では、IgE媒介アレルギーのエフェクター機構が標的とされる(例えば、抗ヒスタミン剤、抗ロイコトリエン剤およびクロモン剤)。IgE媒介アレルギーの唯一の治療的治療、すなわち、症状の長期間持続する緩和を与える唯一の治療が、アレルゲン特異的免疫療法(ASIT)である。薬学的治療とは対照的に、ASITはまた、気道の炎症を軽減し、慢性的喘息への進行から保護することが示されている(例えば、非特許文献3参照)。この治療は、アレルゲン特異的な非応答性を誘導するための、アレルゲンの反復投与に基づく。現在、天然供給源から調製され、水酸化アルミニウム(ミョウバン)に吸着されるアレルゲン抽出物が、ASITにおいて一般に使用される。ミョウバンはアレルゲンの放出を遅らせ、アジュバントとして作用する。しかしながら、いくつかの欠点が、アレルゲン抽出物およびミョウバンの使用に関連づけられる。低いアレルゲン用量による多数回の注射が3年〜5年の期間中に要求される。抽出物に対する新しい感作および有害な副作用の誘導のような問題を解決するために、組換えアレルゲンが、ASITにおける使用のために提案されている(例えば、非特許文献4、5参照)。様々な組換えアレルゲンが、ASITのためのより安全で、かつ、より効率的なプロトコルを達成することを目指して、種々の方法で改変され得る。そのような新規な戦略の例として、いわゆるハイポアレルゲン(hypoallergen)、すなわち、IgE結合能は低下しているが、T細胞活性は保持されているアレルゲンを作り出すこと、アレルゲン由来ペプチドによるワクチン接種、または、アレルゲンを免疫調節剤(例えば、CpGモチーフを含有する免疫刺激オリゴヌクレオチドなど)にカップリングすることが挙げられる(例えば、非特許文献5、6参照)。ミョウバンは、肉芽腫をその注射部位において引き起こすこと、および、Th2応答を主に刺激することが知られている。結果として、代替アジュバントがASITのために求められている。
【0011】
アジュバントは、抗原が免疫応答を誘発する能力を高める物質である。新しいアジュバントをヒト用ワクチンのために開発するための広範囲の努力がなされるにしても、唯一広く使用されているアジュバントは依然として、水酸化アルミニウムである。アルミニウムアジュバントはニューロンの死を引き起こし得ることが示されている。これまでにないアジュバントの開発が、新しいワクチンの効率を最大限にするために望ましい。理想的なアジュバントは、機能的に活性な抗体の長く持続する発現を与え、細胞媒介型の免疫を誘発し、かつ、抗原に対する非常に特異的な免疫反応性を有する記憶Tリンパ球およびBリンパ球の産生を高めなければならない。理想的なアジュバントは、即時的防御と、将来の抗原攻撃からの保護との両方をもたらさなければならない。理想的なアジュバントはまた、生分解性かつ非毒性でなければならず、かつ、アジュバント自身に向けられた免疫応答を生じさせてはならない。
【0012】
ワクチン接種は、長く持続する効果、速い抗体産生および高い抗体力価をもたらさなければならない。
【0013】
アジュバントとしてのキチンおよびキトサンの使用が特許文献1および2において述べられている。溶液、分散物、粉末またはミクロスフェアの形態でのワクチンにおけるキトサンの使用が、特許文献3〜5に記載されている。キトサンの架橋により、免疫応答がTH2応答から混合型のTH1/TH2応答に切り換わる。免疫化用抗原と混合されたキトサン溶液の使用では、キトサンがフロイント不完全アジュバントと同等の効力であり、水酸化アルミニウムよりも優れていることが示される(例えば、非特許文献7参照)。
【0014】
==薬物送達==
薬物送達は、非常に熱心に研究されている研究領域であり、低分子量の薬物、遺伝子およびワクチンのような医薬有効成分をより特異的に送達し、かつ、同時に、望まれない副作用を最小限に抑える新しい改善された製剤を見出すことに関して、今日では多くの資金が費やされる。昔からある薬物が、新しい改善された製剤において新しくなる。
【0015】
物理的および生物学的なキトサンの性質は、キトサンを、医薬活性成分を送達するために非常に好適にし、また、例えば、ワクチン、遺伝子フラグメントおよびマイクロRNAのための送達ビヒクルとして非常に好適にする。キトサンの有用かつ重要な特徴が、キトサンは、すべての生体組織に結合するために、粘膜付着性を有し、分解可能であり、かつ、細胞間の密着結合を開通させることである。これらの性質を利用することによって、粘膜を越える薬物送達が劇的に改善され得る。キトサン技術に基づく様々な薬物製剤が今日では、例えば、ワクチンキャリア、薬物放出ヒドロゲル、膜およびガーゼなどの種々の目的のために開発中である。キトサンは、例えば、インスリンの結腸送達(例えば、非特許文献8参照)および鼻腔内送達(例えば、特許文献4参照)において有用であることが示されている。キトサンはまた、遺伝子送達におけるキャリアとして使用されている(例えば、非特許文献9参照)。
【0016】
製剤の中には、長期にわたる持続した放出を与えるために設計されたものがあり、これに対して、製剤からの放出がより即時的であるものがある。キトサンのヒドロゲルが使用されるとき、架橋剤を伴わないゲルは溶解しやすいので、架橋することが好ましいことが見出されている。架橋を使用することの別の利点は、ゲルからの放出速度を、種々の架橋度を使用することによって変化させることができることである。キトサンを、例えば、経口投与、経皮投与、皮下投与、口腔投与、舌下投与、鼻腔投与、直腸投与、膣投与および筋肉内投与のための新しい製剤を開発するために使用することができる。
【0017】
従来の全身的経路によって非修飾形態で投与される多くの薬物は、効果的な濃度で標的器官に達することができず、または、容易な代謝のために、所定の長さの期間にわたって効果的でない。薬物送達システム(DDS)の使用によって、これらの問題を克服することが可能である。
【0018】
ガン薬物は多くの場合、短い血漿半減期および/または顕著な副作用によって特徴づけられる。これらの問題を軽減するための取り組みが、病巣投与、すなわち、化学療法剤を含有するDDSの埋め込み/注入によるガン部位での局所的な薬物送達を介してもよい。全身投与と比較した場合、副作用が減少し、薬物の全体的な効果が増大する。
【0019】
DDSをガンの病巣治療のために開発するとき、いくつかの技術的要因を考慮に入れなければならない。すなわち、生体適合性、生分解性(重要性が、疾患、適用部位および投与回数に依存する)、殺菌性/殺菌、薬物および医薬用賦形剤との適合性、投与の容易さ(シリンジを用いることが好ましい)、ならびに、用量、薬物負荷、投薬位置決定、薬物の放出速度制御能、および、患者の許容性、同様にまた、規制上の障害、CoG(商品原価)および知的財産権の考慮である。
【0020】
薬物を含有するDDSを注入することにより、その含有される薬物のより多くの量が腫瘍部位に局在化し、したがって、ガン治療が改善され、化学療法剤の有害な非特異的副作用が軽減される。
【0021】
==組織増強==
組織増強を医療目的および美容目的の両方のために使用することができる。医学的用途は、例えば、組織を、組織の改善された機能を得るために増強することである。増量剤の注入によって強化され得る組織の例が、声帯、食道、尿道または直腸である。美容外科の領域では、軟組織の増強を使用して、瘢痕およびしわのような傷を治すことができ、また、例えば、唇または乳房を大きくすることができる。様々な異なる材料(非生分解性および生分解の両方)が、軟組織を修復または増強するために使用されている。永続的な軟組織増強のために使用される材料の例が、シリコーン、Gore−TexおよびePTFEである。生分解性材料の例が、コラーゲン、自家脂肪、架橋されたヒアルロン酸、および、合成ポリマーである。
【0022】
シリコーンは、永続的な軟組織増強のための最も頻繁に使用されている材料の1つである。液状の注入可能なシリコーンに対する有害反応には、肉芽腫性反応、炎症性反応、および、設置位置からずれることが含まれる。これらの反応が最初の処置の数年後に生じ得る。さらに、注入可能なシリコーンは永続的な充填剤であるので、上記の合併症が重大な問題となり得る。これは、この物質が代謝されず、反応が、処置にかかわらず、持続し得るからである。
【0023】
コラーゲンは、美容用途のための、また、例えば、尿失禁に対する増量剤としての両方で、最も頻繁に使用されている注入可能な材料の1つである。しかしながら、コラーゲンには、いくつかの欠点がある。コラーゲンは急速に分解され、人口のおよそ3%が遅延型過敏性反応を示し、このために、アレルギー検査を注入前の一定の期間にわたって行うことが必要になっている。さらに、ウシ起源のコラーゲンはウイルス疾患を伝染させる場合がある。
【0024】
自家脂肪の注入が広く知られている。このような材料にもまた、欠点がある。顔の線およびしわに注入される脂肪により、視力喪失および塞栓症が一部の患者において引き起こされる。さらに、自家脂肪は身体によって容易に吸収される。
【0025】
架橋されたヒアルロン酸の生成物が、美容的処置のために、および、例えば、尿失禁(UI)および膀胱尿細管逆流(VUR)を治療するための増量剤として、の両方に使用される。
【0026】
増量剤の設計における一般的な取り組みが、生物学的に分解可能なキャリアに分散される非生分解性物質の球体を使用することである。例には、β−グルカンゲルでの炭素被覆ビーズ、カルボキシメチルセルロースでのヒドロキシアパタイト球体、ポリテトラフルオロエチレン粒子およびポリ(乳酸−co−グリコール酸)(PLGA)ミクロスフェアが含まれる。粒子注入に伴う1つの危険性が、遠位器官(例えば、脳および肺など)への潜在的な粒子移動である。
【0027】
既存の材料は最適ではなく、組織増強用途のための新しい材料、すなわち、細いニードルを介して注入可能であり、生体適合性であり、非毒性であり、かつ、組織における適した滞留時間を有する材料を求める探索が続けられている。
【0028】
軟組織増強のためのキトサンゲルが記載されている(例えば、特許文献6、7参照)。
【0029】
キトサンゲルはまた、細胞の培養において使用されており、また、例えば、非特許文献10、11、および、12に記載されるように、例えば、軟骨組織工学において使用されるための生細胞の取り込みのために使用されている。
【0030】
化粧品において、キトサンが、例えば、皮膚クリームにおいて使用され(例えば、特許文献8、9参照)、また、ひげ剃りによって引き起こされる皮膚刺激を減らすために使用されている(例えば、特許文献10参照)。
【0031】
キトサンはまた、潤滑剤として使用されることがある(例えば、非特許文献13参照)。増粘剤としてのキトサンの使用が、例えば、非特許文献14および15に記載されている。キトサンはまた、接着剤(例えば、非特許文献16、17参照)および栄養補助食品(例えば、特許文献11〜14参照)として使用されている。
【0032】
医学的用途に加えて、粘弾性のキトサンヒドロゲルを、偽塑性である剪断減粘性のキトサン含有流体として使用することができ、そのような流体の熱安定性を高める方法が、例えば、特許文献15参照に記載される。
【0033】
キチンは、セルロースに次いで、地球における最も多い多糖である。キチンは、キチンが補強用支柱の機能を有する硬い構造物および強固な材料において見出される。カルシウム塩と一緒になって、いくつかのタンパク質および脂質は、甲殻類動物および節足動物のような海洋生物の外骨格を構築する。キチンはまた、一部の細菌および海綿動物の細胞壁に見出されており、また、昆虫の硬い殻および羽根を構築している。商業的には、キチンは、水産業からの廃棄産物である甲殻類の殻から単離される。キトサンは、1,4−β−結合したD−グルコサミン残基およびN−アセチル−D−グルコサミン残基から構成される直鎖状の多糖である。キチンはそれ自体、水溶性ではなく、このことがその使用を強く制限している。しかしながら、強アルカリによるキチンの処理は、部分的に脱アセチル化された水溶性誘導体のキトサンを与え、このようなキトサンは、数多くの異なる物理的形態(例えば、フィルム、スポンジ、ビーズ、ヒドロゲル、膜)に加工することができる。その塩基形態でのキトサン、特に、大きい分子量および/またはN−脱アセチル化度の高いキトサンは事実上、水に不溶であり、しかしながら、一塩基性酸とのその塩は、水溶性である傾向を有する。グルコサミン残基の平均pKaは約6.8であり、ポリマーは、例えば、HCl、酢酸およびグリコール酸との水溶性の塩を形成する。キトサンの溶解性は、例えば、鎖長、脱アセチル化度、鎖内のアセチル基分布などの固有的要因、ならびに、例えば、イオン強度、pH、温度および溶媒などの外的条件の両方に関する、いくつかの要因に依存する。文献からは、約50%のアセチル化度が溶解性のために最適であることが知られている。ゲルおよび水溶液を酸性環境で作製するとき、その分子量およびそのN−脱アセチル化度に依存するが、その特定のキトサンの溶解性によって定まる実用上の制限が存在する。しかしながら、水性媒質におけるキトサンの量は典型的には、液体媒質の重量に基づく重量比で1%〜10%の範囲または1%〜5%の範囲にあり、その量は、低分子量のキトサンが使用されるならば、範囲の上限に向かう傾向がある(例えば、非特許文献18参照)。
【0034】
キトサンの固有的性質は、そのカチオン性および親水性との組合せで生分解性で、非毒性で、かつ、抗菌性であり、このような固有的性質はキトサンを医薬製剤において魅力的にしている。しかしながら、生理学的条件でのその低い溶解性はその実用的な使用を制限している。科学者は、溶解性のこの欠点を、すぐれた溶解性特性を生理学的pHにおいて有する化学修飾されたキトサン誘導体(例えば、硫酸化キトサン、N−カルボキシメチルキトサン、O−カルボキシメチルキトサンおよびN,O−カルボキシメチルキトサン)を作製することによって回避している(例えば、非特許文献19、20参照)。
【0035】
化学置換基をキトサンに導入することの結果が、変化した生物学的性質(例えば、変化した分解速度)、ならびに、生体適合性および毒性に対する負の影響を有する基を導入することについての危険性である。この問題が米国特許第6,344,488号において検討されており、米国特許第6,344,488号では、グリセロリン酸塩が溶解性強化剤として使用されることによって、生理学的pHでのキトサンヒドロゲルの調製を、キトサン構造の修飾を伴うことなく可能にしている。
【0036】
キトサン溶液は、ヒドロゲルを形成するために、酸性条件下で、典型的には、シッフ塩基の形成のために好適なpH(pH4〜5)で架橋することができる。構造および反応性が異なる膨大な数の異なる架橋剤が使用されている。いくつかの架橋剤が、ゲルを液体のキトサンから形成するために使用されている:、例えば、ヒアルロン酸およびコンドロイチン硫酸(例えば、非特許文献21参照)などのような、グリコサミノグリカン、グルタルアルデヒド(例えば、非特許文献22参照)、グリオキサール(例えば、特許文献17参照)、スクエア酸ジエチル(例えば、非特許文献23参照)、ジグリシジルエーテル(例えば、特許文献18参照)のようなジエポキシド、トリポリホスフェート(例えば、非特許文献24参照)、ゲニピン(例えば、非特許文献25、26参照)、ホルムアルデヒド(例えば、非特許文献27、28参照)が挙げられる。ヒドロゲルが所望の生成物であるとき、キトサンおよびその誘導体が溶液中に留まること、そして、その沈殿が回避されることが必須である。架橋されたキトサンヒドロゲルのpHを生理学的に許容され得るレベルに調節しようとする試みは、使用が制限される沈殿形成および不溶物をもたらしている。毒物学的理由のため、また、高い架橋度はキトサンの挙動を完全に変化させることがあるため、という両方の理由で、架橋度をできる限り低く保つことが望ましい(例えば、非特許文献29参照)。
【0037】
ヒドロゲルの特定の一群が、粘弾性ゲル、すなわち、粘性であり、かつ、同時に、弾性的性質を示すゲルである。粘弾性ゲルは、加えられた剪断応力の影響下で変形し、流動し、しかし、応力が除かれたとき、液体は変形の一部からゆっくり回復する。このことが、例えば、眼科学、組織増強および美容外科において使用される。ゲルの粘弾性は、粉砕ゲルの調製を含む機械的加工を可能にする。ヒアルロン酸の粘弾性ゲルが、例えば、眼の手術、しわを埋めること、または、尿失禁の治療において使用される。
【0038】
==天然の高分子電解質であるキトサン==
水性環境における高分子電解質の三次元配向は、例えば、その性質/化学的組成、サイズ、濃度および電荷密度(すなわち、電荷の数、および、その荷電基の間の距離)に依存する。溶液における何らかの高分子電解質の空間的相互作用はエンタルピーによって制御され、分子は、その分子が最も安定である低いエネルギー状態を取ろうとする。このエネルギー最小化プロセスは、分子内(同じ分子の内部)または分子間(分子同士の間)のどちらかであろうとも、種々のタイプの相互作用を伴う。分子内相互作用の例が、水素結合、疎水性相互作用、および、ポリマー上の荷電基の間での相互作用である。典型的な分子間相互作用が、溶媒相互作用、および、他の分子との相互作用である。関与する相互作用のタイプにかかわらず、これらの相互作用のための駆動力は、高分子電解質のエネルギー的に有利な立体配座を見出すことである。
【0039】
高分子電解質が、同じタイプの電荷(例えば、正電荷)を有する荷電基を含有するとき、荷電基は互いに反発する。その内部エネルギーを低下させるために、高分子電解質分子はその内部電荷をできる限り引き離そうとし、これにより、伸びたポリマー鎖がもたらされる。このような伸びたポリマーはより高い「空間要求性」を有するだけでなく、原子間の制約された連結において隠される比較的高いエネルギー状態を有する。
【0040】
他方で、高分子電解質が反対符号の電荷を含有するならば、電荷は互いに引き寄せ合い、ポリマーの異なる三次元配向を生じさせる内部塩橋を形成する。すなわち、ポリマーの種々の部分が互いにより接近する。電荷を何ら有しないポリマーでは、イオン性相互作用が全くなく、結果として、その三次元配向は、安定化する水素結合および疎水性相互作用を、分子内において周囲の分子および媒体と形成する能力に依存する。高分子電解質とは対照的に、大きいエネルギー的反発力を何ら含有しない非荷電ポリマーは、その内部エネルギーが最小になっており、かつ、その相対的エネルギー含有量が高分子電解質の相対的エネルギー含有量よりも低いある種の「ランダムコイル」構造を形成する。
【0041】
物理的には、イオン性相互作用(電荷)は、水素結合、ファンデルワールス力および疎水性相互作用のような他の相互作用よりもはるかに強く、かつ、そのような他の相互作用よりも多くのエネルギーを伴う。したがって、分子配向に対する前者の相対的影響は大きく、多くの場合において、関与する他のタイプの力の影響を目立たなくする。
【0042】
N−アセチルグルコサミン残基およびグルコサミン残基の混合を有するキトサンポリマーは理論的には中性のポリマーであり、しかし、ほとんどの実用的かつ生物学的に関連のある状況において、キトサン中のグルコサミンについてのpKa値がおよそ6.8であるので、キトサンポリマーはプロトン化される。しかしながら、永久的な荷電基を有する高分子電解質とは対照的に、キトサンポリマーの電荷密度は変化させることができ、水溶液のpHに直接に依存する。実際、ほとんどの市販されている非修飾キトサンは、pHがおよそ6を超えるとき、水溶液において不溶性であり、このpHを超えた場合、水溶液から沈殿する。この沈殿形成は、キトサン分子が、エネルギー的に有利な溶媒和状態を形成するためのその分子骨格における非常に多数の電荷を要求することでエネルギー的に駆動される。このことが最後まで達成され得ないならば、分子が溶液から沈殿し、より安定な沈殿物を形成する。沈殿物において、キトサン鎖が近づけられており、このことが、キトサン分子同士およびキトサン分子内の分子相互作用によるエネルギー最適化を可能にしている。
【0043】
キトサン溶液の粘度を増大させるために、化学的架橋を使用することができる。そのような反応において、キトサン鎖は、凝集物のようなより大きい網状組織を形成するために結び付けられる。そのような反応の期間中、粘度が連続して増大し、溶液はその構造においてよりゲル様になる。非常に多数の架橋手法が溶液におけるキトサンについて記載され、それらは、キトサンが酸性の水相に溶解され、架橋反応が、典型的には4〜5の低いpHで行われるという共通点を有する。使用される低いpHは、キトサン鎖がそのプロトン化形態にあり、その結果、キトサン鎖は、架橋されたときには「伸びた」形態にあることを意味する。その場合、得られる架橋されたゲルは技術的には、プロトン化されている伸びたキトサン鎖のマクロ構造である。そのようなマクロ網状組織が中性またはアルカリ性の条件にさらされるとき、そのようなマクロ網状組織はその電荷を徐々に失い、崩壊し、究極的には沈殿する。標準的なキトサン(脱アセチル化度がおよそ80%〜95%の間である)は、6を超えるpHにさらされるときには沈殿するので、このことは、ある程度、予想される。架橋はそれ自体が、エネルギーの観点から水溶液において安定化するために条件的により一層厳しいより一層大きい電解質構造を生じさせている。これは、正の電荷が、鎖同士の接合点においてより近づけられており、したがって、溶媒和している水分子により安定化することがより一層困難であるからである。結果として、溶液条件が、あまりエネルギー的に最適でない方法で変えられるとき、例えば、pHが上げられるとき、それらは個々の鎖よりも一層沈殿し易い。架橋により、マクロ的ゲル構造が、伸びたエネルギー的に不利な状態で固定されており、このような状態では、その系のより大きな安定性をもたらすエネルギー的により好都合な立体配座に寄与し得るコイルおよび他の立体配座への再配置が物理的に許されない。
【0044】
酸性条件で形成されるキトサンゲルの沈殿は、そのような架橋されたキトサンゲルの塊を、7を超えるpHまたはより一層高い値(すなわち、pH7〜14)に供することによって容易に実験的に確認される。そのような塊がより高いpHの緩衝液に置かれると直ちに、塊の表面が沈殿物の薄い層によってやや白くなり、拡散が続くにつれ、塊は、沈殿物が完全に沈殿するまでますます白っぽくなる。
【0045】
しかしながら、また、驚くべきことに、本発明者らは、架橋されたキトサンゲルマクロ構造のこの崩壊が、特定の脱アセチル化度の低く脱アセチル化されたキトサンを使用し、かつ、キトサン鎖をエネルギー的にあまり制約されていない立体配座で架橋することによって回避され得ることを見出している。この手法に従って作製されるゲルは、沈殿物を形成することなく、1Mの水酸化ナトリウムにより処理することができる。対応する架橋されていないゲルは、1MのNaOHにより処理されたときに沈殿する。
【0046】
これらの特定のキトサンのより高い溶解性を使用することによって、pHを架橋反応の期間中においてはるかにより高くすることができる。このことを行うことの利点が数多くある。第1に、キトサン鎖のプロトン化が低くなり、かつ、キトサンポリマーが、8を超えるpHではほとんど中性であり、これらにより、あまり制約されていない、よりランダムコイル様の網状組織の形成が溶液において可能になる。キトサンがこの状態で架橋を受けるとき、得られるゲル構造が、より高い柔軟性の個々のキトサン鎖によって構築され、このことは、条件が変化させられるとき、キトサン鎖をより容易に、エネルギー的により好都合なマクロ構造に再編成させる。第2に、より高いpHを使用することができることは、グルコサミン残基におけるアミノ基の実質的に増大した反応性に関して有益である。このことはカップリングをより効率的にし、かつ、はるかにより低い濃度の架橋試薬の使用により、規定された架橋度が達成されることを可能にする。別の利点が、副反応が低く保たれることである。これらの架橋ゲルは、低いpHにおいて、また、標準的な規格のキトサン(80%〜95%の脱アセチル化度)から調製されるキトサンゲルと比較して、いくつかの利点を有する。架橋ゲルが生理学的条件において沈殿しないという事実は、架橋ゲルは分解酵素の接近をより受けやすく、このことはゲルの速い分解をもたらし、しかし、同様にまた、本明細書に記載されるような他の性質をもたらすことを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0047】
【特許文献1】米国特許第4,372,883号
【特許文献2】米国特許第4,814,169号
【特許文献3】米国特許第5,554,388号
【特許文献4】米国特許第5,744,166号
【特許文献5】国際公開WO98/42374
【特許文献6】国際公開WO97/04012
【特許文献7】欧州特許EP1333869
【特許文献8】米国特許出願公開第20060210513号
【特許文献9】米国特許出願公開第20040043963号
【特許文献10】米国特許第6,719,961号
【特許文献11】米国特許第5,098,733号
【特許文献12】米国特許第5,976,550号
【特許文献13】米国特許第6,238,720号
【特許文献14】米国特許第6,428,806号
【特許文献15】米国特許第6,258,755号
【特許文献16】米国特許第6,344,488号
【特許文献17】米国特許第5,489,401号
【特許文献18】米国特許第5770712号
【非特許文献】
【0048】
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【非特許文献6】Curr.Opin Immunol.、2002(12月)、14(6):718〜27
【非特許文献7】Vaccine、11、2085〜2094、2007
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【非特許文献11】J Biomed Mater Res A、2007、83(2):521〜9
【非特許文献12】Biochimie、2006、88(5):551〜64
【非特許文献13】Nature、2003、425:163〜165
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【非特許文献15】Nanotechnology(2006)、17:3718〜3723
【非特許文献16】Biomacromolecules、1(2):252〜8(2000)
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【非特許文献19】Int J Biol Macromol.(4)、177〜80、1994
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【非特許文献26】Biomaterials、23:181〜191、2002
【非特許文献27】J.Polym.Sci.Part A:Polym.Chem.、38、474、2000
【非特許文献28】Bull.Mater.Sci.、29、233〜238、2006
【非特許文献29】Eur J Pharm Biopharm、2004、57(1):19〜34、総説
【発明の概要】
【0049】
したがって、本発明は、30%〜75%の間の脱アセチル化度を有するキトサン(ただし、キトサンはランダムに脱アセチル化される)と、架橋剤とを含み、架橋剤対キトサンのモル比が、架橋剤における官能基の数およびキトサンにおける利用可能なアミノ基の数に基づいて0.2:1またはそれ以下である架橋可能なキトサン組成物を提供する。
【0050】
本発明は、架橋された粘弾性キトサンヒドロゲルの形成を、他の溶解性強化剤(例えば、グリセロリン酸塩)を使用することなく、生理学的pHにおいて可能にする。
【0051】
本発明の1つの目的は、沈殿することなく、生理学的pHにおいて送達することができるキトサン由来の粘弾性ゲルを提供することである。
【0052】
本発明の1つの目的は、より小さい、個々に分離されたゲルフラグメント(例えば、粉砕ゲル)にさらに加工することを可能にする物理的強度が化学的架橋によって与えられている粘弾性ゲルを提供することである。
【0053】
本発明の別の目的は、細いシリンジニードル(典型的には、注射のために、例えば、ワクチン接種のために使用されるようなニードル)を介して送達することができる粘弾性キトサンヒドロゲルを提供することである。
【0054】
本発明の別の目的は、大きな表面積をさらし、結果として、インビボで使用されたときには、酵素および侵入細胞のために容易に利用可能になる粉砕された粘弾性キトサンヒドロゲルを提供することである。
【0055】
本発明の別の目的は、迅速に分解する粘弾性キトサンヒドロゲルを提供することである。
【0056】
本発明の別の目的は、毒性が低い粘弾性キトサンヒドロゲルを提供し、かつ、望まれない免疫学的反応または毒物学的反応を、低濃度の架橋剤(好ましくは、低毒性の薬剤または非毒性の薬剤)を使用することによって最小限に抑えるか、または、完全に回避することである。
【0057】
本発明の別の目的は、抗原および免疫原の取り込みを、共有結合的または非共有結合的のどちらかであっても、その製造期間中において可能にする粘弾性キトサンヒドロゲルを提供することである。
【0058】
本発明の別の目的は、固有的なアジュバント特性を有する粘弾性キトサンヒドロゲルを提供することである。
【0059】
本発明の別の目的は、免疫学的使用のための生分解可能な粘弾性キトサンヒドロゲルを提供することである。
【0060】
本発明の別の目的は、免疫化を目的とした抗原および免疫原を送達するためのビヒクルを提供することである。本発明は、本明細書中に記載されるようなキトサンヒドロゲルと、抗原(ただし、抗原は場合により共有結合によりキトサンに結合される)とを含む免疫学的薬剤を提供する。
【0061】
本発明の別の目的は、免疫学的応答を生じさせる分子の共有結合による取り込みを可能にする粘弾性キトサンヒドロゲルを提供することである。前記分子は低分子量または高分子量のどちらか、例えば、ペプチド、脂質、ステロイドおよび抗体のような小さい分子、または、タンパク質、遺伝子フラグメント、マイクロRNA、炭水化物ポリマーおよび合成ポリマーのような大きい分子であり得る。
【0062】
本発明の別の目的は、2つ以上の免疫原性物質を含有する粘弾性キトサンヒドロゲルを提供することである。ゲルは、2つ以上の抗原性分子、あるいは、低分子量および/または高分子量の抗原の混合物を含有するように作製することができる。
【0063】
本発明の別の目的は、共有結合または非共有結合のどちらかでの他の薬剤(例えば、保存剤)および他のポリマー物質の取り込みを可能にする粘弾性キトサンヒドロゲルを提供することである。
【0064】
本発明の別の目的は、アニオン性ポリマーにより被覆することによってその放出特性がさらに変化させられ得る粘弾性キトサンヒドロゲルを提供することである。カチオン性ポリマーおよびアニオン性ポリマーの両方を順々に使用することによって、多層被覆された粘弾性ゲル構造を構築することができる。
本発明の別の目的は、免疫応答を非特異的に増強するためにアジュバント免疫療法において使用される粘弾性キトサンヒドロゲルを提供することである。
本発明の別の目的は、取り込まれた生物活性薬剤または抗原(例えば、アレルゲン)の持続した放出を、これらを粘弾性キトサンヒドロゲルに取り込むことによって与える製剤を提供することである。
【0065】
本発明の別の目的は、単独または固体ビーズと共に、組織増強において使用される粘弾性キトサンヒドロゲルを提供することである。
【0066】
本発明の別の目的は、例えば、尿失禁(UI)および膀胱尿細管逆流(VUR)を治療するための粘弾性キトサンヒドロゲルを提供することである。
【0067】
本発明の別の目的は、増量剤として使用される粘弾性キトサンヒドロゲルを提供することである。
【0068】
本発明の別の目的は、細胞培養の足場としての粘弾性キトサンヒドロゲルを提供することである。
【0069】
本発明の別の目的は、生細胞を宿主生物に提供することにおいて使用される粘弾性キトサンヒドロゲルを提供することである。
【0070】
本発明の別の目的は、経口、鼻腔、皮下、粘膜下、舌下、角膜、直腸、膣または筋肉内の薬物送達のための粘弾性キトサンヒドロゲルを提供することである。本発明は、本明細書中に記載されるようなキトサンヒドロゲルと、医薬有効成分とを含む医薬組成物を提供する。
【0071】
本発明の別の目的は、薬物の取り込みおよび放出を、例えば、本明細書中上記で記載されるような限局性ガン治療のために可能にする粘弾性キトサンヒドロゲルを提供することである。
【0072】
本発明の別の目的は、共有結合的または非共有結合的な薬物の取り込みを、その製造期間中において可能にする粘弾性キトサンヒドロゲルを提供することである。
【0073】
本発明の別の目的は、創傷治癒デバイスとして使用される粘弾性キトサンヒドロゲルを提供することである。
【0074】
本発明の別の目的は、粘性手術(viscosurgery)のための粘弾性キトサンヒドロゲルを提供することである。
【0075】
本発明の別の目的は、美容的使用のための粘弾性キトサンヒドロゲルを提供することである。
【0076】
本発明の別の目的は、潤滑剤として使用される粘弾性キトサンヒドロゲルを提供することである。
【0077】
本発明の別の目的は、接着剤として使用される粘弾性キトサンヒドロゲルを提供することである。
【0078】
本発明の別の目的は、穿孔用流体または補給流体として使用される粘弾性キトサンヒドロゲルを提供することである。
次に、本発明が、添付されている図面を参照して記載される。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の粘弾性キトサンゲルおよび比較用ゲルを皮下注入した24時間後のマウスの注入部位から得られる組織学的切片を示す。
【発明を実施するための形態】
【0080】
本発明は一般には、例えば、ヒトまたは動物の医療における使用のための、キトサンから作製されるヒドロゲルに関連する。より具体的には、本発明は、前記の記載に従って使用される、粘弾性特性を有するキトサンヒドロゲルを目指している。したがって、本発明によれば、生理学的条件下において沈殿せず、かつ同時に、大きい表面積をさらし、それにより、さらなる生物学的プロセシングを容易にする、キトサンを含む組成物または異なる脱アセチル化度のキトサンの混合物を含む組成物が提供される。先行技術によるキトサン溶液と比較して、本発明による粘弾性ヒドロゲルの表面積は数桁より大きい。本発明の粘弾性ゲルのこの特徴により、先行技術によるキトサン溶液と比較して、本発明による粘弾性ヒドロゲルがマウスの皮下に注入されたとき、より速い細胞浸潤およびより迅速な免疫応答が生じる(Vaccine、11、2085〜2094、2007)。このことは、免疫原のより少ない用量を使用する可能性を切り開く。
【0081】
このことが、30%〜75%の間の脱アセチル化度を有するキトサン(ただし、キトサンはランダムに脱アセチル化される)と、架橋剤とを含み、架橋剤対キトサンのモル比が、架橋剤における官能基の数およびキトサンにおける利用可能なアミノ基の数に基づいて0.2:1またはそれ以下である架橋可能なキトサン組成物を提供することによって達成される。本発明のキトサンヒドロゲルは、この架橋可能なキトサン組成物を水溶液において提供すること、この組成物を架橋すること、および、得られるキトサンヒドロゲルを単離することによって調製される。本発明はまた、このプロセスによって得ることができるヒドロゲルを提供する。
【0082】
キトサンの溶解性は、固有的要因(例えば、鎖長、脱アセチル化度、鎖内におけるアセチル基分布など)、ならびに、外的条件(例えば、イオン強度、pH、温度および溶媒など)の両方で、いくつかの要因に依存する。数多くの試みが、医学的使用のための生理学的なキトサン溶液およびキトサンゲルを作製するために行われており、しかし、ほとんどの場合、不良な結果を伴っている。ほとんどの市販されているキトサンは、80%を超える脱アセチル化度を有しており、溶液およびゲルが作製されるときには、低いpHが、このようなポリマーを溶解するために要求され、典型的には、酢酸または塩酸の酸性溶液が使用される。そのような溶液のpHを上げるための試みは、pHがおよそ6を超えるときにはキトサンポリマーの沈殿を生じさせている。この問題が、より水溶性のキトサン誘導体を使用することによって、または、グリセロリン酸塩のような添加剤を使用することによって回避され得る。本発明者らは、低い脱アセチル化度(例えば、50%)のキトサンが生理学的条件でのヒドロゲルの調製のために使用され得ること、および、数パーセントに至るまでのキトサン濃度物が作製され得ることを見出している。低い脱アセチル化度のキトサンが商業的な入手は限られているが、そのようなキトサンの製造が文献には記載される。低い脱アセチル化度のキトサンを作製する1つの方法が、キトサンを酸性条件下で再アセチル化し、その後、脱アセチル化することである。別の取り組みが、溶液にされているキチンからの脱アセチル化を強アルカリ性の低温条件のもとで開始することである。低い脱アセチル化度(例えば、50%)のキトサンは、より高い脱アセチル化度のキトサンよりも高い溶解性を有するだけでなく、N−アセチル基を切断部位の認識のために要求する加水分解酵素によってより速く、かつ、より容易に切断される。キトサンゲルおよびキトサン溶液を生理学的なpHレベルにすることの、あまり明白ではないが、同様に重要な利点が、ポリマー鎖におけるグルコサミン残基の反応性における付随する増大である。特定の状況のもとでは、このことを、望まれない副反応を抑制するために、また、潜在的な架橋剤の影響を最小限にするために利用することができる。これは、より効率的なカップリングをもたらすアミノ基の増大した反応性の効果として、架橋剤の濃度がはるかにより低く保たれ得るからである。このことの例示的な一例が、キトサンが、大過剰のスクエア酸ジエチルの使用によって酸性条件下で架橋されるときである。約4.75のpHで行われるこの反応において、加えられた試薬のほぼ50パーセントがその2つの反応性部位の一方において加水分解され、これにより、さらには架橋されないスクエア酸置換されたキトサン鎖がもたらされる。同じ反応が、7を超えるpHで行われるときには、反応性が数桁増大し、かつ、競合する副反応が抑制され、この結果、副反応のない効率的な反応が、所望される架橋する網状組織を達成するための最小限の試薬によりもたらされる。このことは、キトサンゲル構造物が免疫学的使用の目的であるときには最も重要である。これにはいくつかの理由がある。第1には、リンカーに対する望まれない免疫学的反応の危険性が常に存在し、第2には、変化した分解速度論の危険性が存在し、第3には、架橋剤はそれ自体は、一般には非常に反応性であり、完全に消費されないならば、毒性の副反応を引き起こすことがあり、したがって、これらの薬剤のレベルをできる限り低く保つことが重要である。本発明者らは、低毒性の架橋試薬を使用すること、および、粘弾性ヒドロゲルの生物学的使用に先立って除去されなければならない基を脱離しない架橋剤を使用することが好ましいと考える。スクエア酸ジブチルが、局所的な免疫調節剤としての使用についてFDAによって承認され、Amesアッセイにおける変異原性を有していない。別の一般に使用されている一群の架橋剤が、エポキシド化学に基づく反応性化学種である。ジグリシジルエーテルが、カルボン酸、アルコキシドおよびアミンと反応する様々な架橋反応のために頻繁に使用される。ジグリシジルエーテルまたは類似する誘導体がキトサンの架橋目的のために使用されているとき、キトサンのアミノ機能に対する架橋剤のかなり高い比率が使用されている。このことが、Journal of Biomedical Materials Research Part A、2005、75A、3、742〜753、Eur.J.Pharm.Biopharm.、2004、57,19〜34、米国特許第5,770,712号、国際公開WO02/40070において例示される。本発明者らは他の架橋剤方法を文献に従って試みている。グルタルアルデヒド架橋は、例えば、アルカリ性媒質に供されたときには沈殿した有色ヒドロゲルを生じさせた。本発明による粘弾性ヒドロゲルは、例えば、生物学的プロセシング速度を変化させるために、より容易にアニオン性ポリマーにより被覆することができる。本発明による粘弾性ヒドロゲルがアルカリ性媒質に対して透析されるとき、ゲルの表面は透明なままであり、これに対して、先行技術によるゲルの透析では、不透明なゲル表面として認められるキトサンの沈殿が生じる。沈殿形成における劇的な違いが、架橋されていないヒドロゲルと、架橋されたヒドロゲルとの間で認められる。驚くべきことに、これらのゲルは、沈殿することなく、1MのNaOHにより処理することが可能であった。
【0083】
粘弾性ゲルの構造が、キトサン溶液の濃度および使用された架橋試薬の量によって影響される。本発明者らは、所望される性質のゲルを達成するために、より高いキトサン濃度およびより低い濃度の架橋剤を有することが好ましいと考える。この状況における架橋剤分子は、中性条件または微アルカリ性条件においてアミンと容易に反応するように設計される求電子剤である少なくとも2つの反応性部位を有する。架橋剤が2つの反応性部位を有するとき、その架橋剤は二官能性であり、したがって、2つのアミノ基と反応することができ、例えば、異なるキトサン鎖における2つのグルコサミンユニットと反応することができる。この性質の架橋剤が数多く市販されており、時には、反応基間の距離が「スペーサー分子」によって増大している。このスペーサーは多くの場合、脂肪族鎖、または、ポリエチレングリコールもしくはオリゴエチレングリコールのようなポリエーテル構築物である。好ましくは、架橋剤は、二官能性、三官能性または四官能性であり、だが、二官能性または三官能性が好ましく、二官能性が最も好ましい。本発明者らは、高収率の反応で、かつ、架橋分子が大きな程度に消費される中性〜弱アルカリ性の条件のもとで容易に反応する二官能性の架橋剤を使用することが好ましいと考える。本発明者らはまた、架橋分子が、使用前に除去されなければならない副生成物を形成しないことが好ましいと考える。多くの架橋剤が、反応したときには脱離基を脱離するように設計される。そのような場合において、本発明者らは、非毒性の成分を脱離する架橋剤が好ましいと考える。そのような架橋官能性の典型的な例が、反応性エステル、Michael型アクセプターおよびエポキシドである。好ましい架橋分子が、スクエア酸のエステル誘導体、ジエポキシド、および、アクリルアミドの誘導体である。最も好ましいものが、スクエア酸ジエチル(3,4−ジエトキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン)およびその構造的近縁アナログである。他の好ましい架橋剤が、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、アクリルアミドの誘導体およびそれらの構造的近縁アナログである。
【0084】
架橋試薬の量を最小限にすること、および、効率的で、副反応のないカップリング反応を得ること、これらにより、副生成物を生じさせるにしても、わずかな副生成物しか生じさせないこともまた重要である。本発明者らは、キトサンにおけるアミノ官能基の数に対し、架橋剤モル比をの低くすることが好ましいと考える。本発明者らは、0.2:1またはそれ以下のモル比が好ましいと考えており、0.16:1またはそれ以下の比率を使用することがより好ましく、0.1:1またはそれ以下の比率を使用することが最も好ましい。このモル比は、架橋剤およびキトサンにおける架橋のために利用可能な基の数に基づく。架橋剤については、モル比は官能性(二官能性、三官能性、四官能性など)に依存し、また、アミノ基の接近し易さに対してはキトサンに依存する(脱アセチル化されたアミノ基だけが反応性である)。明らかなことではあるが、利用可能なアミノ基の数がキトサンの脱アセチル化度によって決定される。
【0085】
本発明者らは、キトサンが75%未満の脱アセチル化度を有することが好ましいと考えており、より好ましくは、70%未満の脱アセチル化度を有することであり、より一層好ましくは65%未満の脱アセチル化度であり、より一層好ましくは60%未満の脱アセチル化度であり、最も好ましくは、55%未満の脱アセチル化度を有することである。キチンは水溶液において完全に不溶性であり、脱アセチル化度が30%以上であるとき、ある程度、可溶性になる。本発明者らは、35%を超える脱アセチル化度を有することが好ましいと考えており、好ましくは、40%を超える脱アセチル化度であり、最も好ましくは、45%を超える脱アセチル化度である。キトサンの溶解性もまた、分子量、鎖内のアセチル基の分布、および、対イオンのようなパラメーターに依存している。キトサンはその性質において多分散性であり、すなわち、異なる鎖長の混合物を含有する。市販されているキトサンはその粘度によって特徴づけられ、平均分子量が示される。本発明者らは、回転粘度計を、20rpmで回転するスピンドルとともに使用して、1%酢酸水溶液における1%(w/v)溶液として25℃の温度で測定されたとき、15,000mPasまでの粘度を有すること、好ましくは、2mPas〜10,000mPasの粘度を有すること、より好ましくは、5mPas〜2,000mPasの粘度を有すること、最も好ましくは、10mPas〜1,000mPasの粘度を有することが好ましいと考える。キトサンは、様々な鎖長の分子の分布を有するポリマー物質であることが理解されるので、溶液の粘度はキトサンの平均分子量の目安である。本発明者らは、3%以下の濃度を有するキトサン溶液を使用することが好ましいと考える。より好ましくは、2%以下の濃度を使用することである。本発明者らは、0.3%(w/w)を超える濃度を有することが好ましいと考える。
【0086】
キトサンの脱アセチル化のパターンもまた、その性質には重要である。本発明のキトサンはランダムに脱アセチル化されなければならない。すなわち、キチン様ポリマーの大きいブロックを避けなければならない。これは、そのような物質は、あまり可溶性でない傾向を有するからである。代わりに、本発明のキトサンは、アセチル化された単糖ユニットおよび脱アセチル化された単糖ユニットのランダムなパターンを有する。単糖の性質を決定する1つの方法が、NMRを使用して隣接周波数を求め、統計学的モデルにより得られる周波数と比較することである(国際公開WO03/011912を参照のこと)。
【0087】
市販されているキトサンは典型的には、ランダムでないブロック構造を有する。この理由が、キチンが甲殻類の殻から固相プロセスで単離されるからである。殻がプロセスの期間中を通して非溶解のままであるそのようなプロセスにおいて、殻は強アルカリにより処理されて、部分的に脱アセチル化されたキトサンを与える。しかしながら、キチンは最初は甲殻類の殻の形態であるので、アルカリの水酸化物イオンは、殻の表面の単糖ユニットに対して優先的に作用する傾向がある。比較的厚い殻の中心部における単糖ユニットは、水酸化物イオンに遭遇する傾向を有しておらず、したがって、N−アセチル置換パターンを保持する。
【0088】
これらのキチン様ブロックを避けるために、キチン/キトサンの多糖鎖は溶液中で処理されなければならない。このことは、多糖鎖が溶液の中に入ることを可能にし、殻の構造が失われる。このことは、ランダムな脱アセチル化パターンを可能にする。このことが、キチンを、注意深く制御された条件のもと、溶液中で処理することによって、または、キチンを完全に脱アセチル化し、その後、要求される脱アセチル化度を提供するために溶液中で再アセチル化することによって達成され得る。(T.Sannanら、Makromol.Chem.、177、3589〜3600、1976、X.F.Guoら、Journal of Carbohydrate Chemistry、2002、21、149〜61、および、K.M.Varumら、Carbohydrate Polymers、25、1994、65〜70を参照のこと。)本発明のキトサンは好ましくは、キトサンを、ランダムな脱アセチル化パターンを提供するために溶液相においてアセチル化および/または脱アセチル化することによって得ることができる。
【0089】
低脱アセチル化キトサンを架橋することが好ましいとき、本発明者らは、pHが6を超え、かつ、キトサンが沈殿しない反応条件を有することが好ましいと考える。より一層好ましくは、6.5を超えるpHを使用することであり、最も好ましくは、7.0を超えるpHを使用することである。加水分解によって、または、脱離反応を介して架橋試薬を実質的な程度に破壊しないpHを使用することもまた好ましい。前記反応のための典型的な条件がアルカリ性の条件であり、本発明者らは、10未満のpHを使用することが好ましいと考えており、より好ましくは、9.5未満のpHを使用することであり、より一層好ましくは、9.0未満のpHを使用することである。好ましくは、水が97%〜99.7%で存在する。さらなる溶媒もまた使用することができ、例えば、エタノールなどを、例えば、0.2%(v/v)で使用することができる。架橋反応において使用される架橋剤の濃度は好ましくは0.01%〜0.2%(v/v)であり、より具体的には約0.02%(v/v)である。
【0090】
本発明による粘弾性ヒドロゲルは、さらに処理することなく単離され得るブロックとして得られる。その後、ヒドロゲルは、この技術分野において知られている従来の技術を使用して、より小さいブロックまたはフラグメントを提供するために加工される。この得られる「粉砕ゲル」は、細いニードルを介して注入可能である。ゲルの粘度を、実施例16において示されるように、レオメーターにより測定することができる。
【0091】
次に、本発明が下記の実施例によって例示され、しかし、本発明は下記の実施例に限定されない。
【実施例】
【0092】
下記の物質を、別途言及されない限り、実施例において使用した。
低いN−脱アセチル化度のキトサンを、下記に概略される原理に本質的には従って調製した:Sannan T、Kurita K、Iwakura Y、キチンに関する研究1、Die Makromolekulare Chemie、1975、0:1191〜5、Sannan T、Kurita K、Iwakura Y、キチンに関する研究2、Makromol.Chem.、177、3589〜3600、1976、Guo X、Kikuchi、Matahira Y、Sakai K、Ogawa K、低い脱アセチル化度の水溶性キチン、Journal of Carbohydrate Chemistry、2002、21:149〜61、および、国際公開WO03/011912。
【0093】
[実施例1]
キトサン(1.11g、N−脱アセチル化度:50%、MW:145kD)を70mLの蒸留水に懸濁し、2MのHCl(aq)を、キトサンを溶解するために滴下して加えた。溶液のpHを1Mの水酸化ナトリウムで7.4に調節した。体積を蒸留水により100mLに調節した。3,4−ジエトキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン(20%(v/v)エタノール溶液、122μL)を加え、溶液を3時間撹拌した。溶液のpHを8.3に調節し、体積を111mLに調節した。溶液を3日間、40℃の加熱キャビネットに入れた。固化させたゲルを1−1と称した。この手順を繰り返したが、3,4−ジエトキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオンを加えなかった。このゲルを1−2と称した。
【0094】
[実施例2]
キトサン(0.50g、N−脱アセチル化度:72%、MW:145kD)を35mLの蒸留水に懸濁し、2MのHCl(aq)を、キトサンを溶解するために滴下して加えた。溶液のpHを1Mの水酸化ナトリウムで6.2に調節した。体積を蒸留水により50mLに調節した。このゲルを2−1と称した。20mLの上記溶液に、3,4−ジエトキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン(12%(v/v)エタノール溶液、40μL)を加え、溶液を激しく10分間撹拌した。溶液のpHを7.5に調節した。溶液を3日間、40℃の加熱キャビネットに入れた。固化させたゲルを2−2と称した。
【0095】
[実施例3]
キトサン(0.50g、N−脱アセチル化度:72%、MW:145kD)を、100℃で、50mLの1M HOAc(aq)におけるグルタルアルデヒド(6g)により架橋した。反応条件は、J.Control.Release、111(2006)、281〜289に記載される通りであった。
【0096】
[実施例4]
実施例1〜実施例4によるゲルのそれぞれの1gを1MのNaOH(aq)に供した。ゲル1−2、ゲル2−1およびゲル3(比較例)のキトサンが沈殿し、これに対して、架橋ゲル1−1および架橋ゲル2−2(本発明)は透明のままであった。
【0097】
[実施例5]
キトサン塩酸塩(0.50g、N−脱アセチル化度:55%、MW:145kD)を45mLの水に溶解した。溶液のpHを薄い水酸化ナトリウムで7.3に調節した。3,4−ジエトキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン(12%(v/v)エタノール溶液、102μL)を加え、溶液を3時間撹拌した。溶液のpHを8.3に調節し、体積を50mLに調節した。ネコの主要アレルゲン(Fel d1)(5.9mg)を3gの上記溶液に加え、混合物を5mLのバイアルに移し、40℃で6日間放置した。得られたゲルを機械的に加工して、1mLのシリンジに移した。
【0098】
[実施例6]
ヒアルロン酸(50mg)をMES緩衝液(20mL、20mM、pH6.5)に溶解した。実施例5による粘弾性ヒドロゲル(4mL)をヒアルロン酸溶液に加え、旋回式振とう機に90分間置いた。被覆されたゲルを2,300rpmで10分間、2回遠心分離し、PBS緩衝液により洗浄し、シリンジに移した。このヒアルロン酸被覆されたキトサンゲルは、粘弾性ゲルを得るために凍結乾燥および再水和することができた。実施例5によるヒドロゲルが、ヒアルロン酸を伴わないPBS緩衝液に加えられたとき、糸様のフラグメントはやや白くなり、かつ、粘着性になり、容易に単離することができず、したがって、再水和することができなかった。
【0099】
[実施例7]
キトサン塩酸塩(0.30g、N−脱アセチル化度:55%、MW:145kD)を25mLの水に溶解した。溶液のpHを薄い水酸化ナトリウムで8.3に調節し、体積を3.0gに調節した。3,4−ジエトキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン(12%(v/v)エタノール溶液、61μL)を加え、溶液を3時間撹拌し、その後、混合物を40℃で6日間放置した。6mgのFel d1をこの溶液に加え、混合物を撹拌した。その後、混合物を1mLのシリンジに移した。
【0100】
[実施例8(比較例)]
キトサン塩酸塩(0.90g、N−脱アセチル化度:81%、MW:145kD)を27gの蒸留水に懸濁した。溶液のpHが3.6であった。PBS(2.0ml、25mM、pH7.4)を加えた。pHを薄い水酸化ナトリウムで5.8に調節し、体積を60mLに調節した。2.27mgのFel d1を1.1mLの上記溶液と混合し、1mLのシリンジに移した。
【0101】
[実施例9]
BALB/cマウスの群に、実施例5、実施例7および実施例8による溶液の100μLを首領域において皮下注入した。その後、マウスを、1日後、7日後および21日後での異なる時点で屠殺した。マウスをCOの吸入によって屠殺した。注射部位における皮膚を採取し、氷上のヒストコン(histocon)に置き、その後、皮膚サンプルをアセトン浴において凍結した。凍結された皮膚生検物を組織学的切片の前に−80℃で保った。その後、組織学的切片を細胞浸潤について分析した。組織学的検査では、細胞の甚だしい浸潤が、実施例5および実施例7によるゲルについては既に注入後1日で示された。実施例8によるゲルの組織学的検査では、その表面が細胞で覆われ、しかし、ゲルの内部には細胞が存在しないレンズ形状のゲルが示された。ゲル5およびゲル7において、細胞が24時間後にはゲル全体に浸潤していた。7日後には、キトサンの量が、実施例5および実施例7のゲルについては減少した。2週間後に、すなわち、21日目において、注入物の徴候がほとんどなく、これに対して、実施例8のゲルは、はるかにより遅い細胞のコロニー形成を示し、また、はるかにより遅い分解もまた示した。
【0102】
図1は、マウスの注入部位に由来する組織学的切片を、実施例5の粘弾性キトサンゲル(図1(a))および実施例8の比較キトサン(図1(b))を皮下注入した24時間後においてそれぞれ示す。結果は、本発明のゲルが、比較ゲルよりも速く、かつ、大きな程度に免疫細胞によって浸潤されることを示す。3週間後でさえ、比較キトサンは依然として完全には浸潤されず、本発明のゲルと比較してより遅い分解速度が、参照キトサンゲルについては観測された。
【0103】
[実施例10]
3匹のBALB/cマウスからなる群に、実施例5、実施例7および実施例8によるゲルの100μLを首領域において皮下注入した。ブースター注入を64日目(最初の注入の9週間後)に与えた。その後、血液サンプルを、注入後1週間、2週間、3週間、9週間および10週間で尾動脈から採血した。Fel d1特異的な血清中のIgGおよびIgEのレベルをELISAによって測定した。すべてのゲルがIgG抗体応答を生じさせた。
【0104】
[実施例11]
キトサン(2.05g、N−脱アセチル化度:50%、MW:145kD)を160mLの蒸留水に懸濁し、2MのHCl(aq)を、キトサンが溶解するまで加えた。pHを1MのNaOH(aq)の滴下による添加によって7.9に調節した。体積を蒸留水により200mLに調節した。1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(エタノールにおける5%(v/v)溶液の166μL)を50mLの上記溶液に滴下して加えた。混合物を室温で10分間、激しく撹拌し、その後、加熱キャビネット(50℃)に一晩入れた。
【0105】
[実施例12]
キトサン(2.25g、N−脱アセチル化度:55%、MW:145kD)を130mLの蒸留水に懸濁し、2Mの塩酸を、キトサンが溶解するまで加えた。pHを1Mの水酸化ナトリウムで6.75に調節し、体積を160mLに調節した。50mLの上記溶液に3,4−ジエトキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン(12%エタノール溶液、120μl)を加え、溶液を室温で2時間撹拌した。ジクロフェナク(773mg)を25mLの蒸留水に溶解し、上記溶液に加えた。溶液のpHを1Mの水酸化ナトリウムで8.1に調節し、溶液を1時間にわたって超音波処理し、その後、40℃で一晩加熱した。得られたゲル(1g)をヒアルロン酸(4g、蒸留水中の0.25%)と混合した。ゲルを、2000Daの分子量カットオフを有するSpectra/Porフィルターを備え、PBS緩衝液で満たされるFranzセルに入れた。ジクロフェナクの38%が2時間後には放出され、60%が5時間後には放出され、72%が24時間後には放出された。
【0106】
[実施例13]
実施例5による手順を、75Seにより放射能標識されたrFel d1を用いて繰り返した。75Seにより標識されたrFel d1の作製を、本質的にはDer p2について以前に記載されたように(Febs J、2005、272:3449〜60)、ただし、Selタグ化rFel d1のための構築物、産生条件および精製条件(Chembiochem、2006:7:1976〜81)を用いて、Selタグ化rFel d1におけるセレノシステイン残基のin situ標識化を使用して行った。
【0107】
[実施例14]
キトサンにカップリングされたか、または、水酸化アルミニウムに吸着された100μgの放射能標識された[75Se]rFel d1(2μCi)のインビボ追跡を、以前の記載(Febs J、2005、272:3449〜60、Methods Enzymol、1981、77:64〜80)の通りに行った。簡単に記載すると、マウス(n=2/群)に、キトサン−[75Se]rFel d1またはミョウバン−[75Se]rFel d1を皮下注入し、マウスを24時間後または1週間後に屠殺した。マウスを凍結し、テープ切片オートラジオグラフィーのために処理した。切片(60μm)をX線フィルム(Structurix、Agfa、Mortsel、ベルギー)に押し付け、D19(Kodak、Rochester、アメリカ)を使用して現像した。
結果:24時間後、放射能は代謝されており、例えば、肝臓および脾臓において検出された。パターンは水酸化アルミニウムのパターンと類似していた。1週間後および2週間後にそれぞれ、ほんの微量の放射能を検出することができた。
【0108】
[実施例15]
キトサン(3.6g、N−脱アセチル化度:52%)を250mLの蒸留水に懸濁し、2MのHCl(aq)を、キトサンが溶解するまで加えた。pHを1MのNaOH(aq)の滴下による添加によって7.0に調節した。体積を蒸留水により300mLに調節した。この溶液を溶液X(1.2%キトサン)と称した。100mLの溶液Xに50mLの水を加え、この溶液を溶液Y(0.8%キトサン)と称した。16mLの溶液Xおよび溶液Yをそれぞれ、それぞれの溶液のための2つのビーカーに加えた。それぞれに、異なる量の3,4−ジエトキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン(10%(v/v)エタノール溶液)を下記のリストに従って加えた。
X−1 20μL
X−2 59μL
X−3 118μL
Y−1 29μL
Y−2 88μL
Y−3 176μL
混合物を室温で10分間、激しく撹拌し、その後、4gの各溶液をペトリ皿(d=35mm)に移し、密封し、加熱キャビネット(40℃)に4日間置いた。
【0109】
直径が6mmで、高さが2.65±0.55mmの円柱をペトリ皿から抜き取り、ゲルディスクを、100Nのロードセルを備えるInstron3345を使用して圧縮した。サンプルは1mm/分の圧縮に供された。
【0110】
0.8%キトサン溶液に基づくゲル(Y−1、Y−2、Y−3)は、それらのあまり剛直でない構造のために、取り扱うことが技術的により困難であり、したがって、分析の正確性が、1.2%キトサン溶液に基づくゲル(X−1、X−2、X−3)と比較して低下した。このことは、分析データを比較するときには考慮に入れなければならないが、ゲルは悪影響を受けていない(実際、あまり剛直でない構造によりゲルはより容易に粉砕れるようになる)。1.2%ゲル(X−1、X−2、X−3)の測定に基づく分析データは、架橋剤の量が2%から12%に増大したとき(これは、架橋剤と、単糖ユニットとの間の比率として計算される)、平均E弾性率が4.7MPaから14.1MPaに増大したことを示した。
【0111】
[実施例16]
キトサン(4g、N−脱アセチル化度:55%)を350mLの蒸留水に懸濁し、2MのHCl(aq)を、キトサンが溶解するまで加えた。pHを1MのNaOH(aq)の滴下による添加によって7.0に調節した。体積を蒸留水により400mLに調節した。2つの異なる体積の3,4−ジエトキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン(60μL(サンプル1)および185μL(サンプル2))の12%(v/v)エタノール溶液)を、50mLのキトサン溶液を含有する2つの異なるビーカーに滴下して加えた。混合物を室温で5分間、激しく撹拌し、その後、8mLをプラスチックシリンジ(10mL)に移した。シリンジを密封し、加熱キャビネット(40℃)に72時間入れた。その後、形成されたゲルを、シリコーンチューブ(d=3mm)に押し通すことによって、新しいシリンジ(5mLシリンジ)に移した。シリンジを測定前に4℃で貯蔵した。
【0112】
レオロジー研究のために、Bohlin Gemini VOR装置を使用した。この場合、測定セルのために、直径40mmのコーンプレート幾何形状および4度のコーン角度が使用された。すべての測定を25℃で行った。
【0113】
貯蔵弾性率および損失弾性率(G’およびG”)を振動剪断実験で調べた。これらのレオロジーパラメーターは固体および液体の粘弾性特性をそれぞれ反映する。
【0114】
両方のゲルサンプルが、ひずみ掃引測定では粘弾性の軟らかい固体の性質を示し、G’>G”であった。すなわち、弾性成分が液体の対応成分よりも大きい。安定な直線領域の範囲内で、G’(1Hz)は、サンプル1については、約1°の位相角を伴って450Pa前後であった。サンプル2については、対応するデータは、G’が約900Paであり、1°の位相角であった。
【0115】
同じ調製物に対して行われた第2のタイプの振動測定は、0.5の一定の変形についての振動数掃引であった。下記の観測がなされた:サンプル2のゲルは、サンプル1のゲルよりも高いゲル強度、すなわち、増大した弾性率G’を有しており、両方のサンプルが見かけの振動数依存的弾性率を0.1Hz〜20Hzの調べられた範囲において示す。
【0116】
再現性のある粘弾性測定をこれらのゲルサンプルの破砕形態に対して行うことが可能である。2つのゲルサンプルは、それらの破砕状態において、本質的に同じ粘弾性特性を示す。ゲルサンプル2は、サンプル1と比較して、高いゲル強度を有する。
【0117】
[実施例17]
キトサン(1g、N−脱アセチル化度:55%)を80mLの蒸留水に懸濁し、2MのHCl(aq)を、キトサンが溶解するまで加えた。pHを1MのNaOH(aq)の滴下によって6.8に調節した。体積を蒸留水により100mLに調節した。PEG1600(2.5g、40%水溶液)および3,4−ジエトキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン(1%(v/v)エタノール溶液、183μL)を、撹拌下、7.5gのキトサン溶液に滴下して加えた。溶液を3日間、40℃の加熱キャビネットに入れて、透明な粘弾性ゲルを得た。
【0118】
[実施例18]
キトサン(1.5g、N−脱アセチル化度:55%)を80mLの蒸留水に懸濁し、2MのHCl(aq)を、キトサンが溶解するまで加えた。pHを1MのNaOH(aq)の滴下によって6.5に調節した。体積を蒸留水により100mLに調節した。23gの水に溶解されたメタギン(metagin)(0.2g)およびプロパギン(propagin)(0.03g)を67gのキトサン溶液に加え、室温で18時間撹拌した。3,4−ジエトキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン(11%(v/v)エタノール溶液、24.6uL)を上記溶液に滴下して加えた。溶液を、実施例17において記載されるように加熱キャビネットに入れた。
【図1(a)】

【図1(b)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
30%〜75%の間の脱アセチル化度を有するキトサンと、架橋剤とを含有する架橋可能なキトサン組成物であって、
前記キトサンはランダムに脱アセチル化され、
前記架橋剤対前記キトサンのモル比が、前記架橋剤における官能基の数および前記キトサンにおける脱アセチル化アミノ基の数に基づいて0.2:1またはそれ以下である、架橋可能なキトサン組成物。
【請求項2】
前記キトサンが35%〜55%の間の脱アセチル化度を有する、請求項1に記載の架橋可能なキトサン組成物。
【請求項3】
前記キトサンが、架橋前において、10kDa〜500kDaの重量平均分子量を有する、請求項1または2に記載の架橋可能なキトサン組成物。
【請求項4】
前記架橋剤が二官能性である、請求項1〜3のいずれかに記載の架橋可能なキトサン組成物。
【請求項5】
前記架橋剤が、エステル、Michael型アクセプター、エポキシド、および、それらの組合せから選択される官能基を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の架橋可能なキトサン組成物。
【請求項6】
キトサンヒドロゲルを調製するためのプロセスであって、
請求項1〜5のいずれかに記載される架橋可能なキトサン組成物を水溶液において提供すること、前記組成物を架橋すること、および、得られたキトサンヒドロゲルを単離することを含む、キトサンヒドロゲルを調製するためのプロセス。
【請求項7】
架橋することがpH6〜10の間で行われる、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
請求項6または7のプロセスによって得ることができるキトサンヒドロゲル。
【請求項9】
粉砕ゲルの形態である、請求項8に記載のキトサンヒドロゲル。
【請求項10】
ワクチンとしての使用、薬物送達における使用、組織増強における使用、細胞培養足場としての使用、生細胞のカプセル化のための使用、創傷治癒デバイスにおける使用、整形外科学における使用、生体材料としての使用、尿失禁もしくは膀胱尿細管逆流を治療するための使用、粘性手術(viscosurgery)における使用、生細胞を宿主生物に提供することにおける使用、化粧品としての使用、増量剤としての使用、増粘剤としての使用、食品産業における添加物としての使用、接着剤としての使用、潤滑剤としての使用、または、穿孔用補給流体としての使用のための、請求項8または9に記載のキトサンヒドロゲル。
【請求項11】
請求項8または9に記載されるキトサンヒドロゲルと、医薬有効成分とを含む医薬組成物。
【請求項12】
請求項8または9に記載されるキトサンヒドロゲルと、抗原とを含み、前記抗原が必要に応じて前記キトサンに共有結合により結合する、免疫学的薬剤。

【公表番号】特表2011−500955(P2011−500955A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531528(P2010−531528)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際出願番号】PCT/EP2008/064737
【国際公開番号】WO2009/056602
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(510120067)ヴィスコゲル アーベー (1)
【氏名又は名称原語表記】VISCOGEL AB
【住所又は居所原語表記】Gunnar Asplunds alle 32,S−171 63 Solna(SE).
【Fターム(参考)】