説明

キトサン誘導体、及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物

【課題】水溶性活性エネルギー線硬化性架橋剤として有用であって、生体に対する毒性が低い特性を有する、キトサン誘導体を用いた重合架橋剤の提供。
【解決手段】重合性官能基により置換された特定の構造を有するキトサン誘導体またはその塩の提供、及び該キトサン誘導体またはその塩を含んでなる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の提供であって、該キトサン誘導体はキトサンと、アクリル酸誘導体のごとく反応性二重結合を有する化合物との反応により得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性活性エネルギー線硬化性架橋剤として用いることができるキトサン誘導体またはその塩、その製造方法、並びに該キトサン誘導体を含む活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
活性エネルギー線硬化型樹脂は、一般に重合開始剤、機能性オリゴマー、モノマー等からなり、希釈剤や架橋剤として多官能性アクリル酸モノマーがよく用いられる。しかし、アクリル酸モノマーは強い不快臭があり、且つ、目や皮膚に対して刺激性である等の欠点を有する。
従来、活性エネルギー線として、紫外線線が用いられることが多く、これらの問題を解決する一つの手段として、水を希釈剤として用いた紫外線硬化性システムを用いることが有用であり、これまで、当該水系紫外線硬化性システムに関して種々の検討が行われてきた。本システムによれば、単に含水量を調節することによって、例えば、噴射または圧延するために必要な粘性を有する樹脂を容易に調節することが可能となる。
紫外線硬化性樹脂の製造において、従来使われてきた紫外線硬化性架橋剤としては、これまで多官能アクリレートや多官能エポキシド等が知られているが、これらは有機溶媒には高い溶解性を有するものの、水には不溶であるか、僅かしか溶けず、前記を目的とした紫外線硬化性樹脂の製造には適さないという欠点を有していた。
【0003】
一方、従来のキトサン誘導体としては、例えば、(特許文献1)に、アミノ基に炭素数4〜26のアシル基で置換されたアシルグルコサミンを構成単位とするキトサン誘導体についての記載がある。本文献には、アシル基となりうる不飽和脂肪酸として、リノール酸、オレイン酸の記載はあるが、本願に係るアシル基は記載されていない。また、用途も抗菌剤及び化粧品添加剤としての記載はあるが、活性エネルギー線硬化性架橋剤としての具体的な記載、あるいはそれを示唆する記載もない。
【0004】
(特許文献2)には、アミノ基に飽和または不飽和の炭素数3〜24の飽和または不飽和の脂肪族アシル基で置換されたオリゴ糖を構成単位として有する新規なキトサン誘導体の記載がある。当該キトサン誘導体は、アミノ基にアシル基を有する点で本願発明のキトサン誘導体と類似するが、本願の構成単位に相当するキトサンを有していない。また、用途については、ノニオン界面活性剤として、食品、医薬品、トイレタリー製品、化粧品、農薬、乳化剤、分散剤、洗浄剤としての記載があるが、活性エネルギー線硬化性架橋剤としての記載はない。
このように、本発明のキトサン誘導体またはその塩が水溶性活性エネルギー線硬化性架橋剤として優れた性能を有することはこれまで知られていなかった。
【0005】
【特許文献1】特許第2615444号公報
【特許文献2】特許第3108763号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明では、水溶性活性エネルギー線硬化性架橋剤として有用であって、生体に対する毒性が低い特性を有するキトサン誘導体またはその塩、及び該キトサン誘導体を含む活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、一般式(1)
【0008】
【化1】

【0009】
で表されるキトサン誘導体において、Rは-NHまたは重合性官能基を示し、Rは-OHまたは重合性官能基を示すが、Rが-NHであり、且つRが-OHである場合を除く基を構成単位として有するキトサン誘導体に関する。
好ましい基としては、Rは、-NH及び下記式(2)〜(8)
【0010】
【化2】

【0011】
で表される基からなる群から選ばれる基、Rは、-OH及び下記式(9)〜(16)
【0012】
【化3】

【0013】
(但し、Xは、水素原子、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンを表す。)
で表される基からなる群から選ばれる基であり(但し、Rが-NHであり、且つRが-OHである場合を除く。)、一般式(1)で表される基を構成単位として有するキトサン誘導体またはその塩、及び該キトサン誘導体またはその塩を含んでなる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を提供することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来の水溶性活性エネルギー線硬化性架橋剤に比較し優れた活性エネルギー線硬化性能を有するばかりでなく、生体に対する毒性も低いキトサン誘導体、及び該キトサン誘導体を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明者らは、新規キトサン利用技術の確立に向けて検討を重ねてきた。その結果、ある特定の置換基で置換された構成単位を有するキトサン誘導体、またはその塩が、水溶性活性エネルギー線硬化性架橋剤として優れた特性を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
即ち、本発明は、一般式(1)
【0017】
【化1】

【0018】
で表されるキトサン誘導体において、Rは-NHまたは重合性官能基を示し、Rは-OHまたは重合性官能基を示すが、Rが-NHであり、且つRが-OHである場合を除く基を構成単位として有するキトサン誘導体またはその塩、並びに該キトサン誘導体またはその塩を含んでなる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に関する。
【0019】
前記一般式(1)で表される基において、Rは-NHまたは重合性官能基を示し、Rは-OHまたは重合性官能基を示すが、Rが-NHであり、且つRが-OHである場合を除く。ここにいう重合性官能基は、多重結合を有し、重合反応に与る基であれば特に制限がないが、好ましくは、二重結合を有する重合性官能基を挙げることができる。
における好ましい重合性官能基としては、前記式(2)〜(8)で表される基からなる群から選ばれる基であり、またRにおける好ましい重合性官能基としては、前記式(9)〜(16)で表される基からなる群から選ばれる基である。
これらの一般式(2)〜(16)で表される基の導入は、通常公知の方法によって行なうことができる。
【0020】
即ち、例えば、式(2)または(3)で表される基の導入においては、キトサンと(メタ)アクリル酸ハライドを反応させればよいし、式(4)であらわされる基の導入においては、アリルハライドを反応させればよい。また、式(6)の基を導入する場合には、無水マレイン酸を反応させればよい。更に、式(7)で表される基を導入する場合には、p−ビニルベンゾイルハライドと反応させればよく、式(8)で表される基の導入には、p−ビニルベンジルハライドと反応させればよい。また、式(16)で表される基を導入するには、ハロ酢酸誘導体と反応させればよい。
これらの反応条件は、導入したい基に応じて適宜選択して、通常公知の方法によって設定することができる。
好ましい構成単位の構造としては、具体的には、以下の一般式(17)〜(20)で表される構造を有する構成単位が挙げられるが、本発明のキトサン誘導体の構成単位はこれらに限るものではない。
【0021】
【化7】

【0022】
前記キトサン誘導体またはその塩における構成単位(1)において、RまたはRが置換された割合は、特に制限はなく、置換された割合は、以下のようにプロトンNMR測定によってその値を求めることができる。
即ち、プロトン核磁気共鳴チャートから、キトサンに置換したRまたはRの二重結合の水素原子数と、キトサンの骨格を形成する炭素原子に結合した水素原子の内、酸素原子或いは窒素原子のα位の炭素に置換した水素原子数6個(キトサン骨格の1位炭素に結合した水素:1個、同2位:1個、同3位:1個、同5位:1個、同6位2個、合計6個)との比率を求め、その数値からキトサン誘導体中に存在する二重結合の割合を算出する。
【0023】
例えば、アクリロイル基で置換された場合には、キトサンの構成単位である下記2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコピラノースの有する水素原子数6個に対して、アクリロリル基に由来する水素原子が3個観測された場合、置換された割合を100%として、以下の計算式によって、置換された割合(%)を算出する。

置換された割合(%)=((観測されるアクリロイル基の水素原子数)/6)/(100%置換された場合の水素原子数3/キトサンの有する水素原子数6)

上記の置換された割合(%)に、特に制限はないが、好ましくは5%以上200%以下であり、より好ましくは、20%以上150%以下である割合を挙げることができる。
前記キトサン誘導体の分子量に特に制限はないが、好ましくは500〜30,000の重量平均分子量を挙げることができる。
上記キトサンは、単一の重合度を持つものであっても、種々の重合度を持つキトサンの混合物であってもよいが、好ましくは溶媒分別法等により重合度分布を狭めたものが好ましく、例えば各種クロマト法等により一定の重合度を持つオリゴ糖に精製したものを使用するのが好ましい。
【0024】
キトサンは、β−1,4結合した2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコピラノースであって、このようなキトサンは、カニ、エビ、昆虫の甲殻、酵母菌などの微生物の細胞壁に存在する多糖であるキチンから、通常公知の方法、例えば、キチンをアルカリ性条件下で脱アセチル化して得ることができる。また、該キチンを鉱酸または酵素により加水分解してもキトサンとすることができ、本発明のキトサンまたはその塩の製造は、これらのいずれかの方法によって得られたキトサンを用いることができる。
【0025】
本発明のN−アシルキトサンは、上記のキトサンを溶解せしめる溶媒に溶解して、上記方法によりアシル化剤と反応せしめることにより得ることができる。反応に用いられる溶媒としては、キトサンの溶解性が高いことから酸性溶媒が好ましく、例えば、メタンスルホン酸、酢酸等の溶媒を単独で、或いは水と混合して用いることができる。
【0026】
本発明のキトサンの塩は、キトサンを構成する前記2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコピラノースのアミノ基の酸付加塩であっても、一般式(1)のグルコサミン構成単位のアミノ基の酸付加塩であってもよい。該アミノ基と塩を形成する酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、臭化水素酸、リン酸、ホウ酸などの無機酸及びクエン酸、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、フマル酸、安息香酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、乳酸、酒石酸、コハク酸、糖酸、グルコン酸等の有機酸が挙げられる。
【0027】
また、その他の塩としては、キトサン誘導体の構成単位の構造にカルボキシル基が含まれる場合は、公知のカルボキシル基と塩を形成しうるナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン、アンモニア、アルキルアミン、芳香属アミン等のアミン類等が挙げられる。
これらの塩は、公知の方法によって得ることができ、生体に対する毒性低減のため、塩は無毒性か低毒性であることが好ましい。
【0028】
本発明のキトサン誘導体またはその塩の活性エネルギー線硬化性架橋剤としての使用は、活性エネルギー線によって硬化する樹脂組成物の存在下に活性エネルギー線を照射させることによって行なうことができる。
【0029】
本発明に用いられる活性エネルギー線によって硬化する樹脂組成物としては、アクリル樹脂組成物が好ましく、一般的に用いられるウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂等を挙げることができ、さらにビニルウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等に代表される不飽和二重結合を含有する樹脂であってもよい。
本発明に使用が可能なアクリル樹脂は、例えば有機ジイソシアネートのイソシアヌレート化物(イソシアヌレート型ポリイソシアネート)に、1分子中に1個の水酸基及び1個以上の(メタ)アクリロイル基を含有する化合物を付加することにより得ることができる。有機ジイソシアネートとしては、例えば2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート等のトリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物;ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネート等の上記各種の芳香環含有ジイソシアネート化合物を水素化して得られる化合物等が挙げられるが、これらに限られない。
【0030】
また、1分子中に1個の水酸基及び1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の各種ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパンのジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのヘキサ(メタ)アクリレート等の各種多価水酸基含有化合物のポリアクリレート類が挙げられるが、これらに限られない。本発明においては、これらの化合物を1種または2種以上用いることができる。
【0031】
本発明においては、目的に応じて、さらに他の慣用のビニルエステル樹脂類、ポリイソシアネート化合物、ポリエポキシド類、アクリル樹脂類、アルキド樹脂類、尿素樹脂類、メラミン樹脂類、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル系共重合体類、ポリブタジエン系エラストマー、飽和ポリエステル類または飽和ポリエーテル類、あるいはニトロセルロース類、またはセルロースアセテートブチレートの如きセルロース誘導体類などを始め、アマニ油、桐油、大豆油、ヒマシ油またはエポキシ化油類等の油脂類のような天然ないしは合成高分子物質類;炭酸カルシウム、タルク、マイカ、クレー、シリカパウダー、コロイダルシリカ、水酸化アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、亜鉛華、チタン白、ベンガラまたはアゾ顔料等の各種充填剤類、顔料類;ハイドロキノン、ベンゾキノン、トルハイドノキノン、またはパラターシャリーブチルカテコール等の重合禁止剤類;市販の酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、着色剤、レベリング剤、界面活性剤、滑剤、溶媒等を添加することもできる。
【0032】
本発明に用いられる活性エネルギー線は本発明のキトサン誘導体またはその塩が硬化を起こす活性エネルギー線であれば特に制限なく用いることができるが、代表的なものとして、紫外線を挙げることができる。
紫外線の発生源としては、蛍光ケミカルランプ、ブラックライト、低圧、高圧、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、太陽光線などがある。紫外線の照射強度は、終始一定の強度でも行って良いし、硬化途中で強度を変化させることにより、硬化後の物性を微調整することもできる。
紫外線の他、活性エネルギー線として、例えば可視光線、電子線類の活性エネルギー線も用いることができる。本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、200〜400nmに固有の分光感度を有しており、光重合開始剤不在下に、通常用いられるエネルギー線の有するエネルギー、たとえば、20mW/cmのエネルギー数値を挙げることができるが、これに限られない。
【0033】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、光重合開始剤不存在下に、紫外線または可視光線の照射により硬化するが、硬化反応をより効率的に行なうために、公知慣用の光重合開始剤を添加して硬化させることもできる。光重合開始剤としては、分子内結合開裂型と分子内水素引き抜き型の2種に大別できる。
分子内結合開裂型の光重合開始剤としては、例えば、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノンの如きアセトフェノン系;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルの如きベンゾイン類;2,4,6−トリメチルベンゾインジフェニルホスフィンオキシドの如きアシルホスフィンオキシド系;ベンジル、メチルフェニルグリオキシエステル、などが挙げられる。
【0034】
一方、分子内水素引き抜き型の光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル−4−フェニルベンゾフェノン、4,4′−ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4′−メチル−ジフェニルサルファイド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノンの如きベンゾフェノン系;2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントンの如きチオキサントン系;ミヒラ−ケトン、4,4′−ジエチルアミノベンゾフェノンの如きアミノベンゾフェノン系;10−ブチル−2−クロロアクリドン、2−エチルアンスラキノン、9,10−フェナンスレンキノン、カンファーキノン、などが挙げられる。
光重合開始剤を使用する場合の配合量は、活性エネルギー線硬化性組成物の0.01〜10重量%の範囲が好ましい。
【0035】
また、本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、硬化反応をより効率的に行なうために、光増感剤を併用することもできる。
そのような光増感剤としては、例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、安息香酸(2−ジメチルアミノ)エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸(n−ブトキシ)エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸2−エチルヘキシルの如きアミン類が挙げられる。
【0036】
光増感剤を使用する場合の配合量は、活性エネルギー線硬化性組成物中0.01〜10重量%の範囲が好ましい。さらに、本発明の活性エネルギー線硬化性組成物には、用途に応じて、非反応性化合物、無機充填剤、有機充填剤、カップリング剤、粘着付与剤、消泡剤、レベリング剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、顔料、染料などを適宜併用することもできる。
【0037】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、実質的には溶剤を必要としないが、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンの如きケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルの如き酢酸エステル類、ベンゼン、トルエン、キシレンの如き芳香族炭化水素などその他の一般によく用いられる有機溶剤によって本発明の活性エネルギー線硬化性組成物を希釈して使用することも可能である。
【実施例】
【0038】
以下に具体例をもって本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例中の「部」及び「%」は、いずれも質量基準による。
【0039】
(実施例1)キトサンとアクリル酸クロリドとの反応
温度計、還流冷却管を装着した4つ口丸底フラスコ中で、20〜30℃でキトサン10gをメタンスルホン酸150gに溶解し、11.3gのアクリル酸クロリドを添加し、5時間反応させた。アルコール/エーテルによって生成物を沈殿させ、下記構成単位(A1)〜(A3)を有するキトサン誘導体(A)
【0040】
【化8】

【0041】
を得た。IR及びNMRにて生成物の構造を測定した。
IR(cm−1):1732(エステル基のC=O伸縮振動)、1633(アミド基のC=O伸縮振動)、781(C=C伸縮振動)
NMR(d−DMSO、ppm):6.2(H−C=C)
(実施例2)キトサンと無水マレイン酸との反応
【0042】
11.3gのアクリル酸クロリドの替わりに18.0gの無水マレイン酸を用い、5時間反応させる替わりに2日間反応させる他は、実施例1と同様にして、下記構成単位(B1)〜(B3)を有するキトサン誘導体(B)
【0043】
【化9】

【0044】
を得た。IR及びNMRにて生成物の構造、及び前記方法で置換された割合(%)を測定した。
IR(cm−1):1733(エステル基のC=O伸縮振動)、1654(アミド基のC=O伸縮振動)、775(C=C伸縮振動)
NMR(d−DMSO、ppm):6.8(トランス体:H−C=C)、6.2(シス体:H−C=C)
置換された割合(%):50%
【0045】
(実施例3)化合物(B)とアクリル酸クロリドとの反応
10gのキトサンの替わりに10gの(実施例2)で得られた化合物(B)を用いた他は、実施例1と同様にして、下記構成単位(C1)〜(C4)を有するキトサン誘導体(C)
【0046】
【化10】

【0047】
を得た。IR及びNMRにて生成物の構造、及び前記方法で置換された割合(%)を測定した。
IR(cm−1):1739(エステル基のC=O伸縮振動)、1633(アミド基のC=O伸縮振動)、806(C=C伸縮振動)
NMR(d−DMSO、ppm):6.8(トランス体:H−C=C)、6.3(H−C=C)、6.2(シス体:H−C=C)
置換された割合(%):85%
【0048】
(実施例4)キトサンとアリルブロマイドとの反応
11.3gのアクリル酸クロリドの替わりに15.1gのアリルブロマイドを用い、5時間反応させる替わりに2日間反応させる他は、実施例1と同様にして、下記構成単位(D1)〜(D2)を有するキトサン誘導体(D)
【0049】
【化11】

【0050】
を得た。IR及びNMRにて生成物の構造を測定した。
IR(cm−1):780(C=C伸縮振動)
NMR(d−DMSO、ppm):6.0(H−C=C)
【0051】
(実施例5)キトサンとp−ビニルベンゾイルクロリドとの反応
11.3gのアクリル酸クロリドの替わりに20.8gのp−ビニルベンゾイルクロリドを用いた他は、実施例1と同様にして、下記構成単位(E1)〜(E2)を有するキトサン誘導体(E)
【0052】
【化12】

【0053】
を得た。IR及びNMRにて生成物の構造を測定した。
IR(cm−1):1740(エステル基のC=O伸縮振動)、1625(アミド基のC=O伸縮振動)、780(C=C伸縮振動)
NMR(d−DMSO、ppm):6.2(H−C=C)
【0054】
(実施例6)
100gのキトサンを40%水酸化ナトリウム水溶液1000mLとイソプロパノール400mLの混合溶媒に添加し、一夜攪拌した。280gのクロロ酢酸の100mLイソプロパノール溶液を添加し、50℃で8時間攪拌した。沈殿物をろ過後、エタノールで洗浄し、水に溶解した。溶液を塩酸で中和し、沈殿物を得た。
【0055】
得られた沈殿物を乾燥後、実施例1と同様にしてアリルブロミドと反応せしめ、下記構成単位(F1)〜(F2)を有するキトサン誘導体(F)
【0056】
【化13】

【0057】
を得た。
IR(cm−1):841(C=C伸縮振動)
NMR(d−DMSO、ppm):5.8(H−CH=C)、5.2(H−CH=C)
置換された割合(%):20%
(実施例7)
実施例6におけるアリルブロミドの替わりに、無水マレイン酸を用いて同様の反応を行い、下記構成単位(G1)〜(G3)を有するキトサン誘導体(G)
【0058】
【化14】

【0059】
を得た。
IR(cm−1):1733(エステル基のC=O伸縮振動)、1654(アミド基のC=O伸縮振動)、775(C=C伸縮振動)
NMR(d−DMSO、ppm):6.8(トランス体:H−C=C)、6.2(シス体:H−C=C)
(実施例8)
実施例6におけるアリルブロミドの替わりに、アクリル酸クロリドを用いて同様の反応を行い、下記構成単位(H1)〜(H3)を有するキトサン誘導体(H)
【0060】
【化15】

【0061】
を得た。
IR(cm−1):1732(エステル基のC=O伸縮振動)、1633(アミド基のC=O伸縮振動)、781(C=C伸縮振動)
NMR(d−DMSO、ppm):6.3(H−C=C)
【0062】
(実施例9)本発明化合物を含む硬化性樹脂組成物の硬化反応(1)
ポリウレタンアクリレート樹脂100部、重合開始剤として2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(市販名:UV−1173)2.5部と、本発明化合物1.5部、及び水3部を下記に表1に示す比率で含有する樹脂組成物を均一に混合した。得られた樹脂組成物をガラス板に40〜60μmの厚さで塗膜した後、距離40cmでUV照射した(水銀ランプ:100W/cm、波長:300〜380nm、20mW/cm)。
照射を120秒間続け、照射開始時を0秒として、30秒、60秒、90秒経過時に、試料の外観を観測した。その結果を、表1に示す。
【0063】
(比較例1)
架橋剤を用いず、また水を添加しない他は実施例9と同様にして、UV照射による硬化実験を行った。
(比較例2)
本発明化合物の替わりに、トリメチロールプロパントリアクリレート(市販名:TMP−6EO−3A)7.5部、水30部を用いた他は実施例9と同様にして、UV照射による硬化実験を行った。
【0064】
上記実施例9及び比較例1、2の結果を以下に示す。UV照射前は、全て乳白色であった。
【0065】
【表1】

【0066】
本試験により、本発明化合物は、従来の架橋剤より少量の使用にも関わらず同等以上の性能を有することが明らかとなった。
【0067】
(実施例10)本発明化合物を含む硬化性樹脂組成物の硬化反応(2)
実施例9におけるポリウレタンアクリレート樹脂の替わり、エポキシアクリレート樹脂を用いて、実施例9と同様にして、本発明化合物を含む硬化性樹脂のUV照射による硬化反応、及び評価を行った。
(比較例3)
本発明化合物の替わりに、トリメチロールプロパントリアクリレート(市販名:TMP−6EO−3A)15部用いた他は実施例10と同様にして、UV照射による硬化実験を行った。
上記実施例10及び比較例3の結果を以下に示す。UV照射前は、全て乳白色であった。
【0068】
【表2】

【0069】
本試験例により、本発明化合物は、従来の架橋剤より少量の使用にも関わらず同等以上の性能を有することが明らかとなった。
(試験例1)水溶性試験
実施例1から実施例8により得られた化合物(A)〜(H)(試験化合物)の水溶性について試験を行った。
【0070】
使用した溶媒は、
1)1%酢酸溶液
2)1%塩酸溶液
3)1%酒石酸溶液
4)1%サリチル酸溶液
5)1%シュウ酸溶液
6)1%アスコルビン酸溶液
7)1%メタンスルホン酸溶液
を用いた。
いずれの試験物質についても溶解度は、>50g/溶媒100g(25℃)であった。
一方、キチンについては、いずれの溶媒群にも不溶であり、本発明化合物の水溶性が高いことが確認された。
【0071】
(試験例2)毒性試験
試験化合物についての毒性試験を行った。
使用動物:雄性マウス(各化合物について5匹使用、体重20〜25g)
投与法:試験化合物500mg/水1mLの混合液を、0.4mL/体重20g(20mL/kg)経口投与
投与量:試験化合物10g/kg
その結果、いずれの試験化合物においても死亡が観察されず、本発明化合物は低毒性であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される基を構成単位として有するキトサン誘導体またはその塩。
【化1】

(但し、式中、Rは-NH及び下記式(2)〜(8)
【化2】

で表される基からなる群から選ばれる基であり、Rは−OH及び下記式(9)〜(16)
【化3】

(但し、Xは、水素原子、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンを表す。)
で表される基からなる群から選ばれる基である。但し、Rが-NHであり且つRが-OHである場合を除く。)
【請求項2】
請求項1に記載のキトサン誘導体またはその塩を含んでなる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂組成物がアクリル樹脂を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記活性エネルギー線が紫外線である請求項2または3に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−126625(P2010−126625A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302332(P2008−302332)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】