キナクリドン誘導体
【課題】汎用の有機溶媒に可溶であり、堅牢性や加工性に優れ、それ自身で白発光し、又は他の発光性化合物と組み合わせることにより白発光可能な組成物とすることができるキナクリドンの提供。
【解決手段】下記構造式(1)で示されることを特徴とするキナクリドン誘導体。
【解決手段】下記構造式(1)で示されることを特徴とするキナクリドン誘導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、キナクリドン誘導体に関し、さらに詳しくは、汎用の有機溶媒に可溶であり、堅牢性や加工性に優れ、それ自身で白発光し、又はそれ自身で白発光しない場合には他の発光性化合物と組み合わせることにより白発光可能な組成物とすることができるキナクリドン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
キナクリドンは約100年前にドイツで開発され、その後にアメリカのデュポン社で再開発された。1952年に堅牢で耐候性に優れたキナクリドン顔料が開発され、自動車用の外装塗料として用いられるようになった。
【0003】
通常の有機発光体は1Lm/W程度の発光能力を有するが、キナクリドンは有機発光体として優秀な性能を持ち、近年では約20Lm/Wの発光能力を有するキナクリドンが開発されている(非特許文献1)。
【0004】
非特許文献1を参照すると、直線状−トランス−キナクリドン(IV)の基本骨格構造が記載されている。この直線状−トランス−キナクリドン(IV)の骨格を形成する環上の炭素原子及び窒素原子の位置番号は、非特許文献1に記載された構造式(IV)に示されるとおりである。
【0005】
非特許文献1には、
(a) 直線状−トランス−キナクリドン(IV)の誘導体として、キナクリドン骨格中の2位の炭素原子に臭素原子が、5位及び12位の窒素原子には水素原子が結合してなる化合物(a)、
(b) 直線状−トランス−キナクリドン(IV)の誘導体として、キナクリドン骨格中の2位及び9位それぞれの炭素原子にヨウ素原子が、5位及び12位の窒素原子には水素原子が結合してなる化合物(b)、
(c) 直線状−トランス−キナクリドン(IV)の誘導体として、キナクリドン骨格中の2位の炭素原子に、又は2位及び9位それぞれの炭素原子にメチル基が、5位及び12位の窒素原子には水素原子が結合してなる化合物(c)が開示されている。
【0006】
この非特許文献1によると、これら化合物(a)〜(c)を始めとする直線状−トランス−キナクリドン(IV)は通常の有機溶媒には極めて難溶性であり、したがってこれらの物質の可視光吸収スペクトルを得るにはこれらの物質を硫酸に溶解しなければならなかったと、報告している(非特許文献1の第8頁右欄第8行〜第12行参照)。更にこの非特許文献1には、濃硫酸に溶解された例えば2,9−ジメチルキナクリドン等のキナクリドン誘導体の紫外線スペクトルがTable IIIに纏められている。
【0007】
しかしながら、劇物であり、かつ強酸である濃硫酸に溶解させなければならない物質の工業的な用途を見出すのは困難である。
【0008】
一方、特許文献1には、非特許文献1にて(IV)式で示されるキナクリドン骨格において、5位及び12位の窒素原子に水素原子が結合するとともに2位及び9位に炭素数1〜10のアルキル基が結合するキナクリドン誘導体が示唆されているが、5位及び12位の窒素原子に水素原子が結合するとともに2位及び9位に炭素数5のアルキル基、又は炭素数7のアルキル基が結合する二種のキナクリドン誘導体、及び5位及び12位の窒素原子に水素原子が結合するとともに4位及び8位に炭素数4のアルキル基が結合する一つのキナクリドン誘導体が実施例として示されているのみである。
【0009】
特許文献2には、非特許文献1にて(IV)式で示されるキナクリドン骨格において、5位及び12位の窒素原子に水素原子が結合するとともに3位及び10位に−COOHが結合する二種のキナクリドン誘導体、及び5位及び12位の窒素原子にメチル基が結合するとともに3位及び10位に−COOHが結合するキナクリドン誘導体が、実施例として示されている。
【0010】
特許文献3には、非特許文献1にて(IV)式で示されるキナクリドン骨格において、5位及び12位の窒素原子に炭素数1〜10のアルキル基が結合するとともに3位及び9位に−COOHが結合するキナクリドン誘導体が記載されている(請求項2参照)。
【0011】
しかしながら、特許文献3に実施例として記載されているキナクリドン誘導体は、5位及び12位の窒素原子に水素原子が結合するとともに、3位及び10位に−COOHが結合するキナクリドン誘導体が、実施例として示されている。
【0012】
特許文献4には、R1が水素原子であり、R2がアルキル基であり、R3が水素原子であり、R4がアリール基の結合したアルキレン基であるキナクリドン誘導体が示されている。特許文献4における合成例を参照すると、合成例1で緑色発光するキナクリドン誘導体が開示され(実施例1参照)、合成例6で緑色発光するキナクリドン誘導体が開示されている(実施例2参照)。特許文献4では白色発光するキナクリドン誘導体が合成例として開示されていない。また、特許文献4における合成例1及び6の記載から白色発光可能な物質を予測することは、できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−35965号公報
【特許文献2】特開2007−99723号公報
【特許文献3】国際公開第2006/115131号
【特許文献4】国際公開第2004/067674号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】S.S.Labana and L.L.Labana,Chem.Rev.67,1(1967)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
この発明の課題は、汎用の有機溶媒に可溶であり、堅牢性や加工性に優れ、それ自身で白発光し、又は他の発光性化合物と組み合わせることにより白発光可能なデバイスとすることができるキナクリドン誘導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するための手段は、
(1) 下記構造式1で示されることを特徴とするキナクリドン誘導体。
【0017】
【化1】
【0018】
(但し、前記構造式1において、Xは−COOR1(但し、R1は水素原子、又は炭素数1〜5のアルキル基である。)、臭素原子、ヨウ素原子、芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜10(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基、−O−CH2CH2−O−の構造式(1A)を有し、前記構造式(1A)中の一方の酸素原子が前記構造式1におけるベンゼン環に結合するとともに他方の酸素原子が前記構造式1における4位のベンゼン環上炭素に結合するジオキサン形成基、−CH2−Ar(但し、Arは芳香族炭化水素基を示す。)で示される基、構造式(1B)で示される芳香族炭化水素基置換オキサジアゾール基(但し、構造式(1B)におけるArは芳香族炭化水素基を示す。)、又は−CH=CH−Arの構造式(1C)(但し、Arは芳香族炭化水素基を示す。)を示し、
【0019】
【化2】
【0020】
Yは、水素原子、又は、芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基であり、Xが臭素原子又はヨウ素原子であるときにはYは芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基である。)
(2) 前記Yが芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基であるときに、前記Xが−COOR1a(但し、R1aは炭素数2〜10のアルキル基を示す)、芳香族炭化水素基を有しても良い炭素数1〜10(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基、構造式(1B)で示される芳香族炭化水素基置換オキサジアゾール基(但し、芳香族炭化水素基はピレニル基である。)、又は構造式(1C)で示される芳香族置換ビニル基であることを特徴とする前記(1)に記載のキナクリドン誘導体であり、
(3) 前記Yが芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基を示す場合に、このアルキル基に結合してもよい前記芳香族炭化水素基がフェニル基であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のキナクリドン誘導体であり、
(4) 前記Yが水素原子であり、前記Xが前記ジオキサン形成基である前記(1)に記載のキナクリドン誘導体であり、
(5) 前記Yが炭素数1〜20のアルキル基であり、Xが−CH2−Ar(但し、Arは芳香族炭化水素基を示す。)で示される基、又は構造式(1B)で示される芳香族炭化水素基置換オキサジアゾール基である前記(1)に記載のキナクリドン誘導体である。
【発明の効果】
【0021】
この発明によると、それ自身で白色発光するキナクリドン誘導体、又は、それ自身で白色発光せずに黄色から橙色までの色調で発光し、例えば青色発光化合物と組み合わせることにより白色発光可能なデバイスとすることのできるキナクリドン誘導体を提供することができ、しかもそれらキナクリドン誘導体は有機溶媒に溶解するので加工性が良好であり、したがってこれらキナクリドン誘導体を利用した発光デバイスを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、キナクリドン誘導体を合成する工程を示す工程説明図である。
【図2】図2は、有機EL素子の一例を示す概略説明図である。
【図3】図3は、構造式10で示すシクロヘキサジエン体(1A)のIRチャート図である。
【図4】図4は、構造式11で示す芳香化体(1B)のIRチャート図である。
【図5】図5は、構造式12で示すキナクリドン誘導体のIRチャート図である。
【図6】図6は、構造式13で示すキナクリドン誘導体のIRチャート図である。
【図7】図7は、構造式19で示すキナクリドン誘導体のIRチャート図である。
【図8】図8は、構造式21で示すキナクリドン誘導体のIRチャート図である。
【図9】図9は、構造式22で示すキナクリドン誘導体のIRチャート図である。
【図10】図10は、構造式26で示すキナクリドン誘導体のIRチャート図である。
【図11】図11は、構造式27で示すキナクリドン誘導体のIRチャート図である。
【図12】図12は、構造式28で示すキナクリドン誘導体のIRチャート図である。
【図13】図13は、構造式15で示す化合物のIRチャート図である。
【図14】図14は、構造式29で示す化合物のIRチャート図である。
【図15】図15は、構造式30で示す化合物のIRチャート図である。
【図16】図16は、構造式31で示す化合物の蛍光発光スペクトル図である。
【図17】図17は、構造式31で示す化合物のIRチャート図である。
【図18】図18は、構造式32で示す化合物のIRチャート図である。
【図19】図19は、構造式32で示す化合物の蛍光発光スペクトル図である。
【図20】図20は、構造式33で示す化合物のIRチャート図である。
【図21】図21は、構造式34で示す化合物のIRチャート図である。
【図22】図22は、構造式34で示す化合物の蛍光発光スペクトル図である。
【図23】図23は、構造式35で示す化合物のIRチャート図である。
【図24】図24は、構造式36で示す化合物のIRチャート図である。
【図25】図25は、構造式37で示す化合物のIRチャート図である。
【図26】図26は、構造式38で示す化合物のIRチャート図である。
【図27】図27は、構造式39で示す化合物のIRチャート図である。
【図28】図28は、構造式41で示す化合物のIRチャート図である。
【図29】図29は、構造式42で示す化合物のIRチャート図である。
【図30】図30は、構造式43で示す化合物のIRチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明に係るキナクリドン誘導体は、前記構造式1を有する。
【0024】
【化3】
【0025】
前記構造式1において、Xは−COOR1(但し、R1は水素原子、又は、炭素数1〜5のアルキル基である。)、臭素原子、ヨウ素原子、芳香族炭化水素基例えばピレニル基、アントリル基等を置換していてもよい炭素数1〜10(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基、−O−CH2CH2−O−の構造式(1A)を有し、前記構造式(1A)中の一方の酸素原子が前記構造式1の構造式におけるベンゼン環に結合するとともに他方の酸素原子が前記構造式1における4位のベンゼン環上炭素に結合するジオキサン形成基、−CH2−Ar(但し、Arは芳香族炭化水素基例えばピレニル基、アントリル基等示す。)で示される基、構造式(1B)で示される芳香族炭化水素基置換オキサジアゾール基(但し、構造式(1B)におけるArは芳香族炭化水素基を示す。)、又は−CH=CH−Arの構造式(1C)(但し、Arは芳香族炭化水素基を示す。)で示される芳香族基置換ビニル基である。
【0026】
【化4】
【0027】
前記構造式1において、Yは、水素原子、又は、メチル基等のアルキル基を置換することのある芳香族炭化水素基例えばアントリル基、ピレニル基等を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基、好ましくは炭素数1〜15、特に好ましくは炭素数1〜10のアルキル基及びベンジル基であり、Xが臭素原子又はヨウ素原子であるときには、Yは芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜10(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基、好ましくは炭素数1〜5のアルキル基及びベンジル基である。
【0028】
この発明に係るキナクリドン誘導体においては、Xが臭素原子又はヨウ素原子であるときには、Yは水素原子ではない。
【0029】
この発明に係る好適なキナクリドン誘導体は、前記構造式1において、前記Yが芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜10(芳香族炭化水素基が置換するときにはその芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基であるときに、前記Xが−COOR1a(但し、R1aは炭素数1〜10のアルキル基を示す)、又は芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜10(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基、又は構造式(1B)で示される芳香族炭化水素基置換オキサジアゾール基を示し、また、前記Yが芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜10(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基を示す場合に、前記芳香族炭化水素基がフェニル基である。
【0030】
これらのキナクリドン誘導体は、アルキル基、芳香族炭化水素基を置換するアルキル基、またはカルボン酸基やエステル基を有することにより疎水性の有機溶媒に可溶性となる。
【0031】
さらにまた、この発明に係るキナクリドン誘導体は、前記Yが水素原子であり、前記Xが前記ジオキサン形成基であるキナクリドン誘導体は、分子内にエーテル基を有することにより極性溶媒にも可溶となり、酸化されにくいことから熱的安定性や堅牢性にも優れる。したがって、ジオキサン形成基を有するキナクリドン誘導体は、溶媒に溶解することにより、さらに有機反応を行って有用な化合物、特に白色発光性の高分子に誘導することができる。
【0032】
この発明に係るキナクリドン誘導体は、例えば図1に示される工程を経て合成されることができる。
【0033】
キナクリドン誘導体を合成する一つの原料は、構造式2(化5)で示される1,4−シクロヘキサンジオン2,5−ジカルボン酸アルキルエステル又は1,4−シクロヘキサンジオール2,5−ジカルボン酸アルキルエステルと構造式3(化6)で示される4−X置換−アニリンである。
【0034】
【化5】
【0035】
【化6】
【0036】
前記構造式2におけるR2は,炭素数1〜5の、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基を示す。
【0037】
前記構造式3におけるXは、−COOR1(但し、R1は水素原子、又は炭素数1〜5、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である。)、臭素原子、ヨウ素原子、芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜10(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基、又は、−O−CH2CH2−O−の構造式(1A)を有し、前記構造式(1A)中の一方の酸素原子が前記構造式3におけるベンゼン環の、アミノ基を1位とする3位又は5位に結合するとともに他方の酸素原子が前記化3における4位のベンゼン環上炭素に結合するジオキサン形成基を示す。Xとして選択される基または原子は目的とするキナクリドン誘導体の構造に応じて選択される。
【0038】
構造式2で示される1,4−シクロヘキサンジオン2,5−ジカルボン酸アルキルエステル又は1,4−シクロヘキサンジオール2,5−ジカルボン酸アルキルエステルと構造式3で示される4−X置換−アニリンとを脱水反応させることによって、構造式4で示されるシクロヘキサジエン体が得られる。構造式3で示される4−X置換−アニリンは、Xが3位に置換するアニリンと比較して、安価で入手し易く、共鳴効果も有効で反応性が高く、それ故収率を上げることができる。
【0039】
脱水反応は、前記4−X置換−アニリンのアミノ基と1,4−シクロヘキサンジオン2,5−ジカルボン酸アルキルエステルのカルボニル基とを、又は前記4−X置換−アニリンのアミノ基と1,4−シクロヘキサンジオール2,5−ジカルボン酸アルキルエステルの水酸基とで脱水することにより進行する。溶媒は、通常、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノ−ル等のアルコール、無水酢酸、フタル酸、無水フタル酸等の酸性溶媒等を上げることができる。
【0040】
脱水反応をさせるときの反応温度は還流温度で十分である。
【0041】
この脱水反応には、脱水触媒を用いることができる。脱水触媒は脱水反応系に添加される。通常は、前記溶媒と脱水触媒との混合液が使用される。
【0042】
前記脱水触媒としては、公知の触媒を挙げることができ、例えば、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、及び酸化銅等を挙げることができる。
【0043】
【化7】
【0044】
構造式4で示される構造式において、このシクロヘキサジエン体におけるR1及びXは前記と同様である。
【0045】
次いで、前記構造式4で示されるシクロヘキサジエン体を脱水素反応させてシクロヘキサジエン体を脱水素化して構造式5に示される構造を有する芳香化体を得る。この脱水素反応は、前記構造式4で示されるシクロヘキサジエン体を溶解する溶液にヨー素を添加して還流するいわゆるヨード酸化によるのが好ましい。なお、図1においてはこの脱水素反応させて芳香化する段階をヨード酸化と表示している。
【0046】
【化8】
【0047】
この構造式5に示される構造においてR1及びXは前記と同様の意味を有する。
【0048】
脱水素化反応は、前記構造式4で示されるシクロヘキサジエン体、必要に応じた脱水素触媒及び溶媒を有する混合物を加熱することにより、行うことができる。
【0049】
前記溶媒としては、エタオール、及びプロパノ−ル等のアルコール、オルトジクロロベンゼン、メタジクロロベンゼン、ピリジン、ジオキサン、並びにN,N−ジメチルホルムアミド等の極性溶媒を挙げることができる。
【0050】
加熱による反応温度は、通常の場合、前記溶媒の還流温度又は140〜180℃である。
【0051】
前記脱水素触媒としては、公知の脱水素触媒を用いることができ、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、鉄、亜鉛、酸化アルミニウム、塩化アルミニウム等を挙げることができる。なお、場合によっては、脱水素触媒を使用しなくてもよい。
【0052】
脱水素反応により得られるところの、前記構造式5で示される芳香化体は、ジアルキル硫酸と反応させることにより、N−アルキル化反応と閉環反応とを連続して行うことができ、前記構造式1においてYが炭素数1〜10のアルキル基であるキナクリドン誘導体(構造式6)が合成される。なお、図1においては、ジアルキル硫酸の一例であるジメチル硫酸を用いた合成例が示されている。また、以下の構造式6に示される構造体において、R3は炭素数1〜10の、芳香族炭化水素基を置換していてもよいアルキル基を示す。構造式6に示される構造体中の二つの窒素原子に結合するR3は同一であっても相違していてもよい。
【0053】
【化9】
【0054】
N−アルキル化反応と閉環反応とは、溶媒と前記構造式5で示される芳香化体とジアルキル硫酸とを有する混合物を、例えばその溶媒の還流温度又は140〜180℃に、加熱することにより、進行する。
【0055】
前記溶媒としては、エタオール、及びプロパノ−ル等のアルコール、オルトジクロロベンゼン、メタジクロロベンゼン、ピリジン、ジオキサン、並びにN,N−ジメチルホルムアミド等の極性溶媒を挙げることができる。
【0056】
構造式6で示されるキナクリドン誘導体においてXが−COOR1で示されるアルキルエステル基であるときには、この構造式6で示されるキナクリドン誘導体を加水分解することにより、構造式7で示されるキナクリドン誘導体が得られる。
【0057】
【化10】
【0058】
前記加水分解は、前記構造式6で示されるキナクリドン誘導体と溶媒とを含有し、苛性ソーダ等によりアルカリ性又は塩酸等により酸性にした混合物を、還流することにより、容易に行うことができる。
【0059】
一方、脱水素反応により得られるところの、前記構造式5で示される芳香化体は、酸触媒例えば硫酸によって、閉環反応を行うことができる。閉環反応の結果、構造式8で示されるキナクリドン誘導体が合成される。構造式8で示されるキナクリドン誘導体の構造においてXは前記と同様の意味を有する。
【0060】
【化11】
【0061】
前記構造式8で示されるキナクリドン誘導体において、Xが−COOR1であり、かつそのR1が炭素数1〜10のアルキル基である場合には、前記化8で示されるキナクリドン誘導体と芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜10(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基を有するハロゲン化炭化水素とを反応させることにより、窒素原子に、芳香族炭化水素基を置換していてもよいアルキル基を結合してなるところの、構造式9で示されるキナクリドン誘導体が合成される。
【0062】
【化12】
【0063】
前記構造式9で示されるキナクリドン誘導体においてR3は、芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜10(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基を有するハロゲン化炭化水素由来のアルキル基である。
【0064】
前記ハロゲン化炭化水素に置換していてもよい芳香族炭化水素としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基、ジベンゾフェナントリル基等を挙げることができる。好適なR3として、ベンジル基等を挙げることができる。
【0065】
前記構造式9で示されるキナクリドン誘導体においてXが-COOR1であって、R1がアルキル基であるときには、前記構造式9で示されるキナクリドン誘導体をアルカリ又は酸で加水分解することによりXが−COOHであるキナクリドン誘導体を合成することができる。
【0066】
また、市販のキナクリドンを用いてこの発明に係るキナクリドン誘導体を合成することもできる。
【0067】
構造式1で示される構造式1において、Xが芳香族炭化水素基を置換している炭素数1〜10(芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基であり、Yが芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基であるキナクリドン誘導体は、市販のキナクリドンとハロゲン化アルキル(但し、ハロゲン化アルキルにおけるアルキル基は芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基である。)と反応させることにより、キナクリドンにおける窒素原子に、芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜10(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基が置換したキナクリドン誘導体Aを合成し、次いでこのキナクリドン誘導体Aにおける2位炭素及び9位炭素をアルキル化してキナクリドン誘導体Bを合成し、キナクリドン誘導体Bにおける2位炭素及び9位炭素に結合するアルキル基における末端炭素に結合する水素をハロゲンと置換してキナクリドン誘導体Cを合成し、次いでこのキナクリドン誘導体Cと芳香族炭化水素と反応させて脱ハロゲン化水素すると、Xが芳香族炭化水素基を置換している炭素数1〜10(芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基であり、Yが芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基であるキナクリドン誘導体を合成することができる。
【0068】
また、構造式1における2位及び9位に炭素数が1〜10であるアルキル基を有する2,9−ジアルキルキナクリドンとハロゲン化アルキル(但し、ハロゲン化アルキルにおけるアルキル基は芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基である。)と反応させることにより、キナクリドンにおける窒素原子に、芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜10(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基が置換したキナクリドン誘導体Dを合成し、このキナクリドン誘導体Dにおける2位炭素及び9位炭素に結合するアルキル基における末端炭素に結合する水素をハロゲンと置換してキナクリドン誘導体Cを合成し、次いでこのキナクリドン誘導体Cと芳香族炭化水素と反応させて脱ハロゲン化水素すると、Xが芳香族炭化水素基を置換している炭素数1〜10(芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基であり、Yが芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基であるキナクリドン誘導体を合成することができる。
【0069】
構造式1における2位及び9位に構造式(1B)で示される芳香族炭化水素基置換オキサジアゾール基を置換するキナクリドン誘導体は、例えば次のようにして合成することができる。
【0070】
構造式1における2位及び9位をハロゲン化例えばヨウド化し、次いで2位及び9位に結合するハロゲン原子をCN基(シアノ基)に置換し、2位及び9位に置換するシアノ基をカルボン酸に誘導し、2位及び9位に置換するカルボン酸基を酸塩化物基(−COCl)に変えて酸塩化物誘導体(1B1)とする。
【0071】
一方、芳香族炭化水素例えばベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン等にカルボン酸基を導入し、導入したカルボン酸基を酸塩化物に変換して、この酸塩化物とヒドラジンとを反応させてヒドラジド基を導入してヒドラジド導入芳香族炭化水素(H2NNHOC−Ar)を合成する。
【0072】
前記キナクリドン誘導体(1B1)とヒドラジド導入芳香族炭化水素(H2NNHOC−Ar)とをカップリングさせてカップリング体(1B2)を合成する。このカップリング体(1B2)を塩化ホスホリルとともに加熱すると、芳香族炭化水素基置換オキサジアゾール基を置換するキナクリドン誘導体を合成することができる。
【0073】
構造式1における2位及び9位に構造式(1C)で示される芳香族炭化水素基置換ビニル基を置換するキナクリドン誘導体は、例えば次のようにして合成することができる。
【0074】
キナクリドン骨格における2位及び9位にメチル基を導入し、2位及び9位にメチル基における水素をハロゲンと置換することにより2位及び9位にハロゲン化メチル基を有するキナクリドン誘導体を合成する。このキナクリドン誘導体におけるハロゲン化メチルとトリフェニルホスフィンとを反応させる、いわゆるウイティッヒ反応により、構造式1におけるXが−CH=CH−Arの構造式(1C)(但し、Arは芳香族炭化水素基を示す。)で示される芳香族炭化水素基置換ビニル基であるキナクリドン誘導体を合成することができる。
【0075】
この発明に係るキナクリドン誘導体は、そのXがアルキル基又は前記ジオキサン形成基である場合に、Yがアルキル基であるから、汎用の有機溶媒に可溶である。したがって、このキナクリドン誘導体が有機溶媒に溶解させることにより、このキナクリドン誘導体と重縮合可能なモノマーと反応させることにより、白色発光性重合体を形成することができる。
【0076】
この発明に係るキナクリドン誘導体は、400〜700nmの領域で発光が見られ、白色発光可能な有機EL素子に利用することができる。
【0077】
この発明に係るキナクリドン誘導体を用いた有機EL素子は、ITO陽極と、例えばポリビニルカルバゾール(PVK)、2−(4−tert−ブチルフェニル)5−(4−ビフェニル)−1,3,4−オキザジアゾール及びこの発明のキナクリドン誘導体を含有する発光層と、この発光層の表面に形成された陰極とを有して成る構造とすればよい。発光は、前記陰極と前記陽極との間に電界が印加されると、陰極側から電子が注入され、陽極から正孔が注入され、更に電子が発光層において正孔と再結合し、エネルギー準位が伝導帯から価電子帯に戻る際にエネルギーを光として放出する現象である。
【0078】
この有機EL素子は、陽極及び陰極の間に、この発明に係るキナクリドン誘導体含有の発光層を有している限り様々のタイプの構造を採用することができる。この有機EL素子として、例えば、図2に示されるように、透明基板2の表面に形成された透明電極3と、その透明電極3の表面に形成されたところの、この発明に係るキナクリドン誘導体を含有する発光層4と、この発光層4の表面に形成された陰極5とを備えて成る一層型有機発光素子を挙げることができる。
【0079】
この一層型有機発光素子において、発光層を、前記構造式1で示されるキナクリドン誘導体を蒸着させることにより形成された蒸着層とすることができ、また、この発光層を、前記構造式1で示されるキナクリドン誘導体をポリビニルカルバゾール等の高分子化合物と共に有機溶媒に溶解し、得られる高分子溶液を塗布し、乾燥することにより得られる発光層とすることもできる。
【0080】
又、これとは別のタイプの有機EL素子として、陽極と陰極との間に、電子を輸送する電子輸送性物質、この発明に係るキナクリドン誘導体、及びホールを輸送するホール輸送性高分子を共に含有する発光層を有する一層型有機発光素子、基板上に形成された陽極と陰極との間に、ホール輸送性物質を含有するホール輸送層と、この発明に係るキナクリドン誘導体含有の電子輸送性発光層とを積層して成る二層型有機低分子発光素子(例えば、陽極と陰極との間に、ホール輸送層と、ゲスト色素としてこの発明に係るキナクリドン誘導体及びホスト色素を含有する発光層とを積層して成る二層型色素ドープ型発光素子)、陽極と陰極との間に、ホール輸送性物質を含有するホール輸送層と、この発明に係るキナクリドン誘導体と電子輸送性物質とを共蒸着してなる電子輸送性発光層とを積層して成る二層型有機発光素子(例えば、陽極と陰極との間に、ホール輸送層と、ゲスト色素としてこの発明に係るキナクリドン誘導体及びホスト色素とを含有する電子輸送発光層とを積層して成る二層型色素ドープ型有機発光素子)、陽極と陰極との間に、ホール輸送層、この発明に係るキナクリドン誘導体含有の発光層及び電子輸送層を積層して成る三層型有機発光素子を挙げることができる。上記各種の有機EL素子において、一層の発光層、並びに二層及び三層からなる積層体を有機層と称されることがある。
【0081】
上記有機EL素子は、通常の場合、基板上に形成することができる。この基板としては、例えばガラス、プラスチック等の透明基板を挙げることができる。前記陽極としては、仕事関数が大きくて透明であり、電圧を印加することにより前記膜にホールを注入することができる限り様々の素材を採用することができる。具体的には、陽極として、ITO、In2O3、SnO2、ZnO、CdO等、及びそれらの化合物等の無機透明導電材料、及びポリアニリン等の導電性高分子材料等で形成することができる。この陽極は、前記基板上に、化学気相成長法、スプレーパイロリシス、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタ法、イオンビームスパッタ法、イオンプレーティング法、イオンアシスト蒸着法、その他の方法により形成されることができる。
【0082】
前記陰極は、仕事関数の小さな物質が採用され、例えば、MgAg、アルミニウム合金、金属カルシウム等の、金属単体又は金属の合金で形成されることができる。好適な陰極はアルミニウムと少量のリチウムとの合金電極である。この陰極は、例えば基板の上に形成された前記発光層を含む有機層の表面に、蒸着技術により、容易に形成することができる。
【0083】
前記電子輸送性物質としては、例えば、2−(4−tert−ブチルフェニル)−5−(4−ビフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール等のオキサジアゾール誘導体及び2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、並びに2,5−ビス(5’−tert−ブチル−2’−ベンゾキサゾリル)チオフェン等を挙げることができる。また、電子輸送性物質として、例えばキノリノールアルミ錯体(Alq3)、ベンゾキノリノールベリリウム錯体(Bebq2)等の金属錯体系材料を好適に使用することもできる。
【0084】
前記ホール輸送物質としては、トリフェニルアミン系化合物例えばN,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(m−トリル)−ベンジジン(TPD)、及びα−NPD等、ヒドラゾン系化合物、スチルベン系化合物、複素環系化合物、π電子系スターバースト正孔輸送物質等を挙げることができる。
【0085】
この有機EL素子における有機層は、塗布法例えばスピンキャスト法、コート法、及びディップ法、並びに蒸着法のいずれかにより形成されることができる。塗布法及び蒸着法のいずれを採用するにしても、電極と有機層との間に、バッファ層を介装するのが好ましい。前記陰極と前記有機層との間に形成される前記バッファ層を形成することのできる材料として、例えば、フッ化リチウム等のアルカリ金属化合物、フッ化マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物、酸化アルミニウム等の酸化物、4,4’−ビスカルバゾールビフェニル(Cz−TPD)を挙げることができる。また、例えばITO等の陽極と有機層との間に形成されるバッファ層を形成する材料として、例えばm−MTDATA(4,4’,4''−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン)、フタロシアニン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体、無機酸化物例えば酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化バナジウム、フッ化リチウムを挙げることができる。これらのバッファ層は、その材料を適切に選択することにより、有機EL素子の駆動電圧を低下させることができ、発光の量子効率を改善することができ、発光輝度の向上を達成することができる。
【0086】
この発明に係るキナクリドン誘導体を利用した有機EL素子は、例えば一般に直流駆動型の素子として使用することができ、また、パルス駆動型の素子及び交流駆動型の素子としても使用することができる。
【0087】
この発明に係るキナクリドン誘導体は、更に、モノクロディスプレイ、カラーディスプレイ等のディスプレイ分野、ライトサイン、直視型サイン、間接照明、LCD用バックライト等の照明分野にも使用される。
【0088】
前述したようにこの発明に係るキナクリドン誘導体は、例えば芳香族ジカルボン酸とヒドラジンと反応させることにより、オキサジアゾール環で連結された共重合体を得ることができ、またオキサジチアゾールで連結された共重合体等を得ることができる。これらの共重合体は、有機溶媒に可溶性であり、しかもキナクリドン誘導体骨格を主鎖中に有することにより白色発光性である。
【0089】
これらの共重合体もまた有機EL素子を形成することのできる有用な物質である。
【実施例】
【0090】
(実施例1)
この例では、構造式1で示されるキナクリドン誘導体において、Xが−COOCH3および−COOHであり、Yがメチル基であるキナクリドン誘導体を、以下の手順に従って合成した。
【0091】
<脱水反応>
500mLのフラスコに、1,4−シクロヘキサンジオン2,5−ジカルボン酸ジメチル11.4g、4−アミノ−安息香酸メチル13.2g、エタノール150mL及び酢酸150mLを、入れた。このフラスコの内容物を撹拌下に3時間還流した。反応停止後に、フラスコの内容物を室温にまで冷却した。フラスコの内容物を吸引濾過し、固形の濾過物をトルエンで再結晶し、メタノールで洗浄し、橙色結晶であるとともに、構造式10に示されるシクロヘキサジエン体(1A)8gを合成した。構造式10に示すシクロヘキサンジエン体(1A)のIRチャートを図3に示した。
【0092】
【化13】
【0093】
<ヨード酸化(脱水素反応)>
500mLのフラスコにエタノール200mLを入れて、このエタノールを沸騰させた。次いで、この沸騰エタノール中に前記シクロヘキサンジエン体(1A)4gとヨウ素5gとを添加した。フラスコの内容物を撹拌下に5時間還流した。反応停止後に室温で一晩放置した。その後に、フラスコの内容物を吸引濾過し、固形の濾過物をエタノールで洗浄し、橙色結晶の、構造式11で示される芳香化体(1B)2.4gを合成した。構造式11に示す芳香化体(1B)のIRチャートを図4に示し、その融点は160℃であった。
【0094】
【化14】
【0095】
<N−メチル化及び閉環反応>
50mLのフラスコ内に、前記構造式11で示される芳香化体(1B)1gを入れ、次いで1,2−ジクロロベンゼン50mL及びジメチル硫酸3mLを次々に入れた。フラスコの内容物を撹拌下に160℃に1.5時間加熱した。次いで、170〜180℃に0.5時間加熱して反応を行った。反応終了後に、コニカルビーカに、氷水と前記フラスコ内の内容物とを入れ、このコニカルビーカの内容物を振り混ぜた。その後にこのコニカルビーカの内容物に10%苛性ソーダを入れて前記内容物のpHを弱アルカリ性にした。分液漏斗にコニカルビーカの内容物を移し替えるとともにとクロロホルム抽出を3回行い、クロロホルム抽出物を水で1回洗浄した。クロロホルム抽出物に硫酸ナトリウムを大さじ3杯加えた後、一晩放置した。翌日に、そのクロロホルム抽出物を、エバポレータで濃縮乾固させ、得られた濃縮物を吸引濾過することにより濾過物として固形物を得た。この固形物をメタノールで洗浄することにより、構造式12で示されるキナクリドン誘導体(1C)0.6gを合成した。構造式12に示すキナクリドン誘導体(1C)のIRチャートを図5に示し、その融点は280℃以上であった。
【0096】
【化15】
【0097】
<加水分解>
50mLの三つ口フラスコに、前記構造式12で示されるキナクリドン誘導体(1C)0.1gを、入れた。さらにこの三つ口フラスコに、エタノール20mLとジオキサン20mLとを入れ、苛性カリ1gと沸騰石とを入れた。この三口フラスコの内容物を3時間還流した。反応停止後に、コニカルビーカに、氷水と前記三つ口フラスコの内容物とを入れて、このコニカルビーカを振蕩した。コニカルビーカの内容物のpHを塩酸で弱酸性にした。コニカルビーカの内容物を吸引濾過し、濾過物をメタノールで洗浄し、構造式13で示されるキナクリドン誘導体(1D)0.06gを合成した。構造式13に示すキナクリドン誘導体(1D)のIRチャートを図6に示した。このキナクリドン誘導体の融点は280℃以上であった。
【0098】
【化16】
【0099】
(実施例2)
この例では、構造式1で示されるキナクリドン誘導体において、Xが−COOC2H5又は−COOHであり、Yがメチル基であるキナクリドン誘導体を、以下の手順に従って合成した。
【0100】
<脱水反応>
500mLのフラスコに、1,4−シクロヘキサンジオン2,5−ジカルボン酸ジメチル13.8g、4−アミノ−安息香酸エチル25g、エタノール200mL及び酢酸200mLを、入れた。このフラスコの内容物を撹拌下に12時間還流した。反応停止後に、フラスコの内容物を室温にまで冷却した。フラスコの内容物を吸引濾過し、固形の濾過物をトルエンで再結晶し、エタノールで洗浄し、橙色結晶であるとともに、構造式14に示されるシクロヘキサジエン体(A)11gを合成した。
【0101】
【化17】
【0102】
<ヨード酸化(脱水素反応)>
500mLのフラスコにエタノール200mLと前記構造式14で示されるシクロヘキサジエン体(A)11gとヨウ素7gとを入れて、フラスコの内容物を撹拌下に5時間還流した。反応停止後に室温で一晩放置した。その後に、フラスコの内容物を吸引濾過し、固形の濾過物をエタノールで洗浄し、DMFで再結晶し、橙色結晶の、構造式15で示される芳香化体(B)7gを合成した。この芳香族体(B)のIRチャートを図13に示した。
【0103】
【化18】
【0104】
<N−メチル化及び閉環反応>
50mLのフラスコ内に、前記構造式15で示される芳香化体(B)3gを入れ、次いで1,2−ジクロロベンゼン30mL及びジメチル硫酸3mLを次々に入れた。フラスコの内容物を撹拌下に160℃に5時間加熱して反応を行った。反応終了後に、コニカルビーカに、氷水と前記フラスコ内の内容物とを入れ、このコニカルビーカの内容物を振り混ぜた。その後にこのコニカルビーカの内容物に10%苛性ソーダを入れて前記内容物のpHを弱アルカリ性にした。分液漏斗にコニカルビーカの内容物を移し替えるとともにとクロロホルム抽出を3回行い、クロロホルム抽出物を水で1回洗浄した。クロロホルム抽出物に硫酸ナトリウムを大さじ3杯加えた後、一晩放置した。翌日に、そのクロロホルム抽出物を、エバポレータで濃縮乾固させ、得られた濃縮物を吸引濾過することにより濾過物として固形物を得た。この固形物をメタノールで洗浄することにより、構造式16で示されるキナクリドン誘導体(C)2gを合成した。
【0105】
【化19】
【0106】
<加水分解>
50mLの三つ口フラスコに、前記構造式16で示されるキナクリドン誘導体(C)0.1gを、入れた。さらにこの三つ口フラスコに、エタノール100mLとジオキサン20mLとを入れ、苛性カリ1gと沸騰石とを入れた。この三口フラスコの内容物を3時間還流した。反応停止後に、コニカルビーカに、氷水と前記三つ口フラスコの内容物とを入れて、このコニカルビーカを振蕩した。コニカルビーカの内容物のpHを塩酸で弱酸性にした。コニカルビーカの内容物を吸引濾過し、濾過物をメタノールで洗浄し、構造式13で示されるキナクリドン誘導体(1D)0.06gを合成した。
【0107】
(実施例3)
この例では、構造式1で示されるキナクリドン誘導体において、Xが−Brであり、Yがメチル基であるキナクリドン誘導体を、以下の手順に従って合成した。
【0108】
<脱水反応>
1000mLのフラスコに、1,4−シクロヘキサンジオン2,5−ジカルボン酸ジメチル11.4g、4−ブロモアニリン20.64g、エタノール200mL及び酢酸200mLを、入れた。このフラスコの内容物を撹拌下に5時間還流した。反応停止後に、フラスコの内容物を室温にまで冷却した。フラスコの内容物を吸引濾過し、固形の濾過物をDNFで再結晶し、エタノールで洗浄し、橙色結晶であるとともに、構造式17に示されるシクロヘキサジエン体(3A)13gを合成した。構造式17に示すシクロヘキサンジエン体(3A)の融点は240℃であった。
【0109】
【化20】
【0110】
<ヨード酸化(脱水素反応)>
500mLのフラスコに前記構造式17で示されるシクロヘキサジエン体(3A)12g、ヨウ素6g、1,4−ジクロロベンゼン50mL、エタノール250mLを入れた。このフラスコの内容物を撹拌下に6時間還流した。反応停止後に室温で一晩放置した。その後に、フラスコの内容物を吸引濾過し、固形の濾過物をエタノールで洗浄し、THFで再結晶した。得られた橙色結晶の、構造式18で示される芳香化体(3B)3.6gを合成した。構造式18に示す芳香化体(3B)の融点は220℃であった。
【0111】
【化21】
【0112】
<N−メチル化及び閉環反応>
50mLのフラスコ内に、前記構造式18で示される芳香化体(3B)1.2gを入れ、次いで1,2−ジクロロベンゼン15mL及びジメチル硫酸2mLを次々に入れた。フラスコの内容物を撹拌下に160℃に4時間加熱して反応を行った。反応終了後に、コニカルビーカに、氷水と前記フラスコ内の内容物とを入れ、このコニカルビーカの内容物を振り混ぜた。その後にこのコニカルビーカの内容物に10%苛性ソーダを入れて前記内容物のpHを弱アルカリ性にした。分液漏斗にコニカルビーカの内容物を移し替えるとともにとクロロホルム抽出を3回行い、クロロホルム抽出物を水で1回洗浄した。クロロホルム抽出物に硫酸ナトリウムを大さじ3杯加えた後、一晩放置した。翌日に、そのクロロホルム抽出物を、エバポレータで濃縮乾固させ、得られた濃縮物を吸引濾過することにより濾過物として固形物を得た。この固形物をメタノールで洗浄することにより、構造式19で示されるキナクリドン誘導体(3C)0.8gを合成した。このキナクリドン誘導体のIRチャートを図7に示した。またその融点は280℃以上であった。
【0113】
【化22】
【0114】
(実施例4)
この例では、構造式1で示されるキナクリドン誘導体において、Xが−C8H17であり、Yがメチル基又は水素原子であるキナクリドン誘導体を、以下の手順に従って合成した。
【0115】
<脱水反応>
1000mLのフラスコに、1,4−シクロヘキサンジオン2,5−ジカルボン酸ジメチル11.4g、4−n−オクチルアニリン24.64g、エタノール300mL及び酢酸300mLを、入れた。このフラスコの内容物を撹拌下に5時間還流した。反応停止後に、フラスコの内容物を室温にまで冷却した。フラスコの内容物を吸引濾過し、固形の濾過物をメタノールで洗浄し、橙色結晶であるとともに、構造式20で示されるシクロヘキサジエン体(4A)14gを合成した。
【0116】
【化23】
【0117】
<ヨード酸化(脱水素反応)>
500mLのフラスコに前記構造式20で示されるシクロヘキサジエン体(4A)12g、ヨウ素6g、エタノール200mLを入れた。このフラスコの内容物を撹拌下に5時間還流した。反応停止後に室温で一晩放置した。その後に、フラスコの内容物を吸引濾過し、固形の濾過物をエタノールで洗浄した。得られた赤色結晶の、構造式21で示される芳香化体(4B)10gを合成した。構造式21で示される芳香化体(4B)のIRチャートを図8に示した。構造式21で示される芳香化体(4B)は、構造式18で示される芳香化体(3B)と比較して、イソブタノール等の有機溶媒に対する溶解性が高く、約365nmのUV線を照射すると、発光波長が長波長側にシフトしていることが目視外観により観測された。これは、長鎖アルキル基による誘起効果により分子分極が大きいためと考えられる。
【0118】
【化24】
【0119】
<N−メチル化及び閉環反応>
100mLのフラスコ内に、前記構造式21で示される芳香化体(4B)6.0gを入れ、次いで1,2−ジクロロベンゼン60mL及びジメチル硫酸10.0gを次々に入れた。フラスコの内容物を撹拌下に160℃に5時間加熱して反応を行った。反応終了後に、コニカルビーカに、氷水と前記フラスコ内の内容物とを入れ、このコニカルビーカの内容物を振り混ぜた。その後にこのコニカルビーカの内容物に10%苛性ソーダを入れて前記内容物のpHを弱アルカリ性にした。分液漏斗にコニカルビーカの内容物を移し替えるとともにクロロホルム抽出を1回行い、クロロホルム抽出物を水で3回洗浄した。クロロホルム抽出物に硫酸ナトリウムを加えた後、一晩放置した。翌日に、そのクロロホルム抽出物を、エバポレータで濃縮乾固させ、得られた濃縮物を吸引濾過することにより濾過物として固形物を得た。この固形物をメタノールで洗浄することにより、構造式22で示されるキナクリドン誘導体(4C)4.7gを得た。このキナクリドン誘導体のIRチャートを図9に示した。
【0120】
【化25】
【0121】
<閉環反応>
500mLの四つ口フラスコに、前記構造式21で示される芳香化体(4B)6.0gと1,2−ジクロロベンゼン150mLと、p−トルエンスルホン酸4.25gとを、入れた。前記四つ口フラスコの内容物を撹拌下に160℃で5時間反応させた。反応終了後に、四つ口フラスコの内容物を吸引濾過し、濾過物をメタノールで洗浄することにより、構造式23で示されるキナクリドン誘導体(4D)4gを得た。
【0122】
【化26】
【0123】
(実施例5)
この例では、構造式1で示されるキナクリドン誘導体において、Xがジオキサン形成基であり、Yが水素原子であるキナクリドン誘導体を、以下の手順に従って合成した。
【0124】
<脱水反応>
500mLのフラスコに、1,4−シクロヘキサンジオン2,5−ジカルボン酸ジメチル5.55g、3,4−エチレンジオキシアニリン7.55g、エタノール125mL及び酢酸125mLを、入れた。このフラスコの内容物を撹拌下に5時間115℃に加熱した。反応停止後に、フラスコの内容物を室温にまで冷却した。フラスコの内容物を吸引濾過し、固形の濾過物をメタノール及び石油エーテルで洗浄し、桃色結晶であるとともに、構造式24で示されるシクロヘキサジエン体(5A)10.5gを得た。このシクロヘキサジエン体(5A)の融点は218.0〜219.5℃であった。
【0125】
【化27】
【0126】
<ヨード酸化(脱水素反応)>
500mLのフラスコに、前記構造式24で示されるシクロヘキサジエン体(5A)(1,4−シクロヘキサジエン−2,5−ジ(3,4−エチレンジオキシアニリン)−1,4−ジカルボン酸ジメチル)2.80g、o−ジクロロベンゼン80.0mLを入れた。このフラスコの内容物に、硫酸0.160gを徐々に滴下し、30分撹拌した後に、160℃に加熱しながら2時間撹拌した。反応停止後に室温で一晩放置した。その後に、フラスコの内容物を吸引濾過し、固形の濾過物をメタノール及び石油エーテルで洗浄し、キシレンで再結晶した。精製した粉末は赤色であり、構造式25で示される芳香化体(5B)(1、4−ジカルボン酸ジメチル−2,5−ジ(3,4−エチレンジオキシアニリン)ベンゼン2.10gを得た。この芳香化体(5A)の融点は225.0〜226.7℃であった。
【0127】
【化28】
【0128】
<閉環反応>
500mLの四つ口フラスコに、前記構造式25で示される芳香化体(5B)2.10gとp−トルエンスルホン酸3.33gと硫酸0.02gとo−ジクロロベンゼン60.0mLとを、入れた。前記四つ口フラスコの内容物を撹拌下に160℃で20時間反応させた。反応終了後に、減圧下に溶媒を除去した。得られた固形物を純水、及びメタノールで洗浄した後に、DMFで再結晶した。精製により得た黒色粉末1.50gはその融点が300℃以上であり、構造式26で示されるキナクリドン誘導体であった。そのIRチャートを図10に示した。
【0129】
【化29】
【0130】
(実施例6)
この例では、構造式1で示されるキナクリドン誘導体において、Xが−C8H17であり、Yがベンジル基であるキナクリドン誘導体を、以下の手順に従って合成した。
【0131】
<ベンジル化反応>
500mLの四つ口フラスコに、構造式23で示されるキナクリドン誘導体(4D)0.752gと水素化ナトリウム0.282gとベンジルブロマイド1.4mLとDMF100mLとを、入れた。この四つ口フラスコの内容物を、撹拌下に120℃に3時間加熱した。イオン交換水の氷水に、前記四つ口フラスコの内容物を、投入して反応を停止した。DMF混合物である反応生成液と水との混合物を分離し、分離したDMF混合物のpHを塩酸で中性にしてから、吸引濾過して残渣を得た。この残渣をメタノールで洗浄した。洗浄された固形分を減圧下に乾燥して赤色の結晶0.18gを得た。IR分析により得られた図11によると、この赤色結晶は、構造式27で示されるキナクリドン誘導体であった。
【0132】
【化30】
【0133】
(実施例7)
この例では、構造式1で示されるキナクリドン誘導体において、Xが−C8H17であり、Yが−C4H9であるキナクリドン誘導体を、以下の手順に従って合成した。
【0134】
<ベンジル化反応>
50mLの四つ口フラスコに、構造式23で示されるキナクリドン誘導体(4D)0.741gと水素化ナトリウム0.267gとブロモブタン1.5mLとDMF30mLとを、入れた。この四つ口フラスコの内容物を、撹拌下に120℃に3時間加熱した。イオン交換水の氷水に、前記四つ口フラスコの内容物を、投入して反応を停止した。DMF混合物である反応生成液と水との混合物を分離し、分離したDMF混合物のpHを塩酸で中性にしてから、吸引濾過して残渣を得た。この残渣をメタノールで洗浄した。洗浄された固形分を減圧下に乾燥して赤色の結晶0.17gを得た。IR分析により得られた図12によると、この赤色結晶は、構造式28で示されるキナクリドン誘導体であった。
【0135】
【化31】
【0136】
(実施例8)
四つ口セパラブルフラスコに2,9−ジ-メチルキナクリドン20.4gとジメチルフォルムアミド(DMF)300mLとを収容し、セパラブルフラスコの内容物を120℃に加熱しながら30分間撹拌した。30分が経過した後に、セパラブルフラスコの内容物を60℃にまで放冷し、その後にセパラブルフラスコの内容物に60%水素化ナトリウム7.2gを加えてセパラブルフラスコの内容物を120℃に加熱しながら30分間撹拌した。そうするとセパラブルフラスコの内容物が赤紫色から青色に変化した。次いで、セパラブルフラスコの内容物を60℃にまで放冷し、その後にセパラブルフラスコの内容物にブロモデカン53.2gを加えてセパラブルフラスコの内容物を6時間加熱還流した。セパラブルフラスコの内容物の色が、青色から赤紫色に変化した。還流後に、水をセパラブルフラスコ内に投入し、セパラブルフラスコの内容物を吸引濾過し、赤紫色をした残渣を得た。
【0137】
この残渣をメタノールで洗浄し、吸引濾過することにより、赤紫色をした残渣を得た。この残渣をクロロホルムで再結晶し、吸引濾過して朱色の結晶を得た。この結晶の融点は135℃であった。この結晶のIRチャートを図14に示した。この結晶は、構造式29で示される構造をしたN,N’−ジデシル−2,9−ジメチルキナクリドンであった。
【0138】
【化29】
【0139】
次いで、このN,N’−ジデシル−2,9−ジメチルキナクリドン2.48gと、N−ブロモスクシンイミド(NBS)2.85gと過酸化ベンゾイル25%水湿潤品0.065gとテトラクロロエタン100mLとを三つ口フラスコに収容し、このフラスコの内容物を撹拌しながら110℃で7時間加熱した。そうするとフラスコの内容物の色が赤色から茶紫色に変化した。
【0140】
加熱を停止した後に、フラスコの内容物をエバポレーターを用いて濃縮乾固し、メタノールで洗浄し、吸引濾過することにより、茶色の残渣を得た。この茶色の残渣を酢酸エチルで再結晶し、吸引濾過することにより茶色の結晶を得た。この茶色の結晶の融点は170℃であり、この結晶のIRチャート図を図15に示した。この結晶は、構造式30で示されるN,N’−ジデシル−2,9−ジブロモメチルキナクリドンであった。
【0141】
【化30】
【0142】
このN,N’−ジデシル−2,9−ジブロモメチルキナクリドン0.78gと9−メチルアントラセン0.77gと炭酸カリウム 0.69gと銅粉末0.064gとDMF100mLとを三つ口フラスコに収容し、フラスコの内容物を3時間還流した。
【0143】
還流を停止した後に、フラスコの内容物を加熱しつつ濾過して濾液を採取した。この濾液と水とを混合し、デカンテーションし、吸引濾過して残渣を得た。この結晶の融点は200℃であり、この結晶のIRチャート図を図17に示し、この結晶の発光スペクトルを図16に示した。蛍光スペクトルは蛍光分光測定装置(FluorologR-3、株式会社堀場製作所製)により測定された。この結晶は、構造式31で示されるN,N’−ジデシル−2,9−ジ(9−メチルアントリル)メチルキナクリドンであった。
【0144】
【化31】
【0145】
この構造式31で示されるキナクリドン誘導体は、キナクリドン骨格における2、9位(p位)にメチレン基を介してアントリル基を結合する。アントリル基は青色発光する原子団である。故に、この構造式31で示されるキナクリドン誘導体は、図16に示されるように、緑色がかった白色に発光する。
【0146】
(実施例9)
四つ口フラスコに2、9-ジメチルキナクリドン1.56gと脱水ジメチルフォルムアミド(DMF)300mLとを収容し、四つ口フラスコの内容物を120℃に加熱しながら30分間撹拌した。30分が経過した後に、四つ口フラスコの内容物を60℃にまで放冷し、その後に四つ口フラスコの内容物に60%水素化ナトリウム0.80gを加えて四つ口フラスコの内容物を120℃に加熱しながら30分間撹拌した。そうすると四つ口フラスコの内容物が赤紫色から青色に変化した。次いで、セパラブルフラスコの内容物を60℃にまで放冷し、その後にセパラブルフラスコの内容物に9−クロロメチルアントラセン4.54gを加えて四つ口フラスコの内容物を5時間加熱還流した。四つ口フラスコの内容物の色が、青色から茶色に変化した。還流後に、四つ口フラスコの内容物を水に投入し、吸引濾過することにより赤色をした残渣を得た。
【0147】
この残渣をアセトンで洗浄し、吸引濾過することにより、赤紫色をした残渣を得た。この残渣をクロロホルムで再結晶し、吸引濾過して赤色の結晶を得た。この結晶の融点は400℃以上であった。この結晶のIRチャートを図18に、蛍光スペクトルを図19に示した。この結晶は、構造式32で示される構造をしたN、N’−ジ(9−アントリル)ジメチル−2,9−ジメチルキナクリドンであった。
【0148】
【化32】
【0149】
前記構造式32で示されるキナクリドン誘導体はキナクリドン骨格における窒素原子にメチレン基を介してアントリル基を結合している。このアントリル基は青発光する原子団である。したがって、構造式32で示されるキナクリドン誘導体は、図19に示す蛍光スペクトルで示されるように、青みがかった白色に発光する。
【0150】
(実施例10)
三つ口フラスコに、実施例8における構造式30で示されるN,N’−ジデシル−2,9−ジブロモメチルキナクリドン0.78gとトリフェニルホスフィン1.05gとキシレン50mLとを収容し、三つ口フラスコの内容物を2時間還流した。その2時間が経過した後に、三つ口フラスコの内容物を放冷した後に吸引濾過し、残渣を濾取した。
【0151】
三つ口フラスコに、脱水エタノール50mLとリチウム1.39gとを収容しリチウムを溶解した、さらに前記残渣(N−デシル−イリドキナクリドン)0.65gとp−メトキシベンズアルデヒド0.20gとを収容した。三つ口フラスコの内容物を室温で24時間撹拌した。
【0152】
その後に、三つ口フラスコの内容物をエバポレータで濃縮乾固し、生成した固形物を水洗し、吸引濾過した。得られる残渣をメタノールで洗浄して結晶を得た。この結晶のIRチャートを図20に示した。この結晶は構造式33で示すキナクリドン誘導体であった。
【0153】
【化33】
【0154】
(実施例11)
四つ口フラスコに、2,9−ジメチルキナクリドン0.31gと脱水ジメチルフォルムアミド(DMF)50mLとを収容し、四つ口フラスコの内容物を120℃に加熱しながら30分間撹拌した。30分が経過した後に、四つ口フラスコの内容物を60℃にまで放冷し、四つ口フラスコに60%水素化ナトリウム0.24gを加えて四つ口フラスコの内容物を120℃に加熱しながら30分間撹拌した。そうすると四つ口フラスコの内容物が紫色から青色に変化した。次いで、四つ口フラスコの内容物を60℃にまで放冷し、その後に四つ口フラスコの内容物に1−クロロメチルピレン1.00gを加えて四つ口フラスコの内容物を5時間加熱還流した。四つ口フラスコの内容物の色が、青色から茶色に変化した。還流後に、四つ口フラスコの内容物を水に投入し、吸引濾過することにより赤色をした残渣を得た。
【0155】
この残渣をメタノールで洗浄し、吸引濾過することにより、赤色をした残渣を得た。この残渣をアセトンで抽出し、抽出液をエバポレータで濃縮した。得られた濃縮物をジエチルエーテルで洗浄し、再度吸引濾過して赤茶色の結晶を得た。この結晶のIRチャートを図21に示した。この結晶は、構造式34で示される構造をしたN、N’−ジ(1−ピレニルメチル)キナクリドンであった。この構造式34で示されるN、N’−ジ(1−ピレニルメチル)キナクリドンの蛍光スペクトルを図22に示した。
【0156】
【化34】
【0157】
この構造式34で示されるキナクリドン誘導体は、メチレン基を介してキナクリドン骨格における窒素原子に、ピレニル基を結合し、このピレニル基は青色発光する原子団であり、キナクリドン骨格自体が赤色発光する原子団であるから、このキナクリドン誘導体は赤みを帯びた白色発光化合物である。さらに青みを帯びた白色に発光させるには、前記構造式34で示されるキナクリドン誘導体に、2位及び9位(すなわちp−位)にピレニル基を置換するのが良い。
【0158】
(実施例12)
<キナクリドンユニットの合成>
1Lの四つ口フラスコにキナクリドン25gを収容し、さらにこの四つ口フラスコ内にDMF500mLを収容し、撹拌しながら110℃にまで昇温し、その温度で20分間撹拌した。
【0159】
四つ口フラスコの内容物を60℃にまで空冷し、60%水素化ナトリウムを、水素の発生に注意しながら加え、再び四つ口フラスコの内容物を110℃にまで加熱し、その温度で30分間撹拌した。
【0160】
四つ口フラスコの内容物を60℃にまで空冷し、次いで1−ブロモデカン71gを四つ口フラスコ内に投入し、その後に5時間加熱還流した。
【0161】
四つ口フラスコの内容物を空冷した後に、その内容物を、イオン交換水で製氷した氷水に、投入することにより、反応を停止した。
【0162】
氷水中に投入された内容物を希塩酸で中和し、ろ過し、生成した残渣を水及びメタノールで洗浄した。洗浄後の残渣をクロロホルムに溶解し、硫酸ナトリウムで脱水し、濾過した。得られる濾液を濃縮することにより得られる残渣をテトラヒドロフランで再結晶し、濾過した。得られた結晶をシリカゲルクロマトグラフィーで精製した。精製により得られた結晶2.31gのIRチャートを図23に示した。この結晶は、構造式35に示されるN,N’−ジデシルキナクリドンであった。
【0163】
【化35】
【0164】
200mL容の三つ口フラスコに前記構造式35で示されるN,N’−ジデシルキナクリドン1.83gと、ヨウ化カリウム3.08gと、ヨウ素酸カリウム2.65gとを収容し、さらに酢酸100mLを収容した。この三つ口フラスコの内容物を撹拌下に4時間還流した。4時間が経過した時に三つ口フラスコの内容物をエバポレータで減圧下に濃縮し、乾固した。濃縮乾固物に大量の水を加えて超音波洗浄機で分散処理をした後に吸引濾過した。
【0165】
得られた結晶をメタノールで洗浄し、乾燥した。乾燥した結晶をさらにクロロホルムに溶解し、シリカゲルクロマトグラフィーで精製して結晶を得た。この結晶のIRチャートを図24に示した。このIRチャートからこの結晶は構造式36で示されるN、N’−ジデシル−2,9−ジイオドキナクリドンであると同定された。
【0166】
【化36】
【0167】
200mLの三つ口フラスコに前記構造式36で示されるキナクリドン化合物2.99gとシアン化銅850mgとDMF100mLとを収容した.三つ口フラスコの内容物を撹拌しながら4時間還流した。4時間が経過したところで、三つ口フラスコの内容物をエバポレータで減圧下に濃縮した。濃縮物をクロロホルム250mLに投入して、クロロホルムが沸騰するまで加熱し、次いで自然濾過をした。得られた濾液を冷却することにより析出した結晶を吸引濾過して回収した。
【0168】
この結晶のIRチャートを図25にしめした。この結晶は構造式37で示されるN,N’−ジデシル−2,9−ジシアノキナクリドンであった。
【0169】
【化37】
【0170】
100mLの三つ口フラスコに前記構造式37で示されるキナクリドン化合物450mgと酢酸50mLとを収容し、三つ口フラスコの内容物を80℃に加熱しながら撹拌した。加熱撹拌を30分間継続した後に、三つ口フラスコの内容物を30℃にまで冷却し、硫酸40mLと水10mLとを混合した硫酸水溶液のうちその30mLを三つ口フラスコ内に投入し、次いで三つ口フラスコの内容物に亜硝酸ナトリウム80mgを10分間隔で5回投入した。三つ口フラスコの内壁に付着した亜硝酸ナトリウムを硫酸水溶液20mLで洗い流した。
【0171】
三つ口フラスコの内容物を80℃に加熱し、4時間撹拌した。その後に三つ口フラスコの内容物を冷却し、冷却した内容物を500mLの氷水に投入した。
【0172】
内容物が投入された氷水を吸引濾過し、得られた結晶を水、メタノール及び少量のクロロホルムで順次に洗浄した。
【0173】
洗浄された結晶を減圧下で乾燥した後に、結晶をDMF10mLに加熱溶解し、濾過することにより得られる濾液を室温に冷却して再結晶した。得られた結晶をメタノールで洗浄し、乾燥した。得られた結晶のIRチャートを図26に示した。この結晶は、構造式38で示されるN,N’−ジデシルキナクリドン-2,9-ジカルボン酸であった。
【0174】
【化38】
【0175】
30mLのナス型フラスコに構造式38で示されるN,N’−ジデシルキナクリドン-2,9-ジカルボン酸880mgと沸騰石とを入れ、さらに塩化チオニル3mLを入れた。ナス型フラスコの内容物を4時間加熱還流し、その後に空冷した。その後に、ナス型フラスコの内容物を蒸留して余剰の塩化チオニルを排出し、蒸留後の内容物をさらに1時間減圧蒸留して塩化チオニルを完全に除去した。ナス型フラスコの内部にある生成物のIRチャートを図27に示した。この生成物は、構造式39で示される。
【0176】
【化39】
【0177】
<ピレンユニットの合成>
20mLのナス型フラスコに、1−ピレンカルボン酸2.0g、沸騰石及び塩化チオニル10mLを装入し、このナス型フラスコの内容物を4時間加熱還流した。
【0178】
還流を停止し、2時間蒸留して余剰の塩化チオニルを蒸留により排出した。蒸留後、ナス型フラスコの内容物を1時間減圧蒸留してさらに塩化チオニルを排出除去した。減圧蒸留後の残渣は、構造式40で示される酸塩化物であった。
【0179】
【化40】
【0180】
500mLの四つ口フラスコに、テトラヒドロフラン170mLとピリジン2.4mLとヒドラジド一水和物4.06gとを、収容した。前記構造式40で示される酸塩化物2.0gをテトラヒドロフラン80mLに溶解した溶液を、四つ口フラスコの内容物に、内容物を氷冷しながら、滴下した。滴下後に、オイルバスで四つ口フラスコの内容物を40〜50℃に1時間加熱した。前記1時間の経過後に、四つ口フラスコの内容物を空冷してから、四つ口フラスコの内容物を800mLの氷水中に投入し、析出した結晶を吸引濾過した。得られた濾別固体をメタノールで洗浄し、水を除去し、減圧下に乾燥した。得られた結晶のIRチャートを図28に示した。この結晶は、構造式41で示されるピレンヒドラジドであった。
【0181】
【化41】
【0182】
<カップリング>
300mLの三つ口フラスコに、前記構造式41で示されるピレンヒドラジド1.09g(4.18mmol)とテトラヒドロフラン120mlとピリジン2.4mlとを、入れた。三つ口フラスコの内容物を氷水で冷やしながら、この三つ口フラスコに、構造式39で示されるジデシルキナクリドン酸塩化物1.29mmolを溶解したテトラヒドロフラン溶液60mLを、徐々に滴下した。滴下終了後に、オイルバスで、この三つ口フラスコの内容物を50℃に加熱しつつ1時間30分撹拌し、その後に30分間撹拌下に還流した。
【0183】
その後に、空冷し、三つ口フラスコの内容物を減圧下に半分の容積に濃縮し、その濃縮液を氷水に投入した。氷水に投入することにより析出した結晶を吸引濾過により濾別し、濾別した結晶をクロロホルム150mLに溶解し、硫酸ナトリウムで脱水した。吸引濾過により得られた濾液を濃縮乾固した。この結晶のIRチャートを図29に示した。この結晶は、構造式42で示す構造を有する化合物であった。
【0184】
【化42】
【0185】
10mLのナス型フラスコに、前記構造式42で示される化合物0.5gと塩化ホスホリル5mLとを収容した。このナス型フラスコの内容物を120℃に加熱しつつ6時間撹拌した。その後に、ナス型フラスコの内容物を氷水に投入し、10%水酸化ナトリウム溶液で中和し、吸引濾過した。濾過により得られた結晶を水で3回洗浄し、最後に少量のメタノールで洗浄した。洗浄後の結晶をさらにソクスレー抽出器により、メタノールで20回、トルエンで5回、アセトンで50回抽出し、精製した。得られた精製結晶のIRチャートを図30に示した。この精製結晶は構造式43に示す化合物であった。
【0186】
【化43】
【0187】
前記実施例9に示されたようにピレニル基は青色発光の原子団であり、キナクリドン骨格は赤色発光の原子団であるから、この構造式43で示されるキナクリドン誘導体は、白色発光するものと考えられる。またキナクリドン骨格における窒素原子にデシル基が結合するので有機溶媒に可溶になる。
【技術分野】
【0001】
この発明は、キナクリドン誘導体に関し、さらに詳しくは、汎用の有機溶媒に可溶であり、堅牢性や加工性に優れ、それ自身で白発光し、又はそれ自身で白発光しない場合には他の発光性化合物と組み合わせることにより白発光可能な組成物とすることができるキナクリドン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
キナクリドンは約100年前にドイツで開発され、その後にアメリカのデュポン社で再開発された。1952年に堅牢で耐候性に優れたキナクリドン顔料が開発され、自動車用の外装塗料として用いられるようになった。
【0003】
通常の有機発光体は1Lm/W程度の発光能力を有するが、キナクリドンは有機発光体として優秀な性能を持ち、近年では約20Lm/Wの発光能力を有するキナクリドンが開発されている(非特許文献1)。
【0004】
非特許文献1を参照すると、直線状−トランス−キナクリドン(IV)の基本骨格構造が記載されている。この直線状−トランス−キナクリドン(IV)の骨格を形成する環上の炭素原子及び窒素原子の位置番号は、非特許文献1に記載された構造式(IV)に示されるとおりである。
【0005】
非特許文献1には、
(a) 直線状−トランス−キナクリドン(IV)の誘導体として、キナクリドン骨格中の2位の炭素原子に臭素原子が、5位及び12位の窒素原子には水素原子が結合してなる化合物(a)、
(b) 直線状−トランス−キナクリドン(IV)の誘導体として、キナクリドン骨格中の2位及び9位それぞれの炭素原子にヨウ素原子が、5位及び12位の窒素原子には水素原子が結合してなる化合物(b)、
(c) 直線状−トランス−キナクリドン(IV)の誘導体として、キナクリドン骨格中の2位の炭素原子に、又は2位及び9位それぞれの炭素原子にメチル基が、5位及び12位の窒素原子には水素原子が結合してなる化合物(c)が開示されている。
【0006】
この非特許文献1によると、これら化合物(a)〜(c)を始めとする直線状−トランス−キナクリドン(IV)は通常の有機溶媒には極めて難溶性であり、したがってこれらの物質の可視光吸収スペクトルを得るにはこれらの物質を硫酸に溶解しなければならなかったと、報告している(非特許文献1の第8頁右欄第8行〜第12行参照)。更にこの非特許文献1には、濃硫酸に溶解された例えば2,9−ジメチルキナクリドン等のキナクリドン誘導体の紫外線スペクトルがTable IIIに纏められている。
【0007】
しかしながら、劇物であり、かつ強酸である濃硫酸に溶解させなければならない物質の工業的な用途を見出すのは困難である。
【0008】
一方、特許文献1には、非特許文献1にて(IV)式で示されるキナクリドン骨格において、5位及び12位の窒素原子に水素原子が結合するとともに2位及び9位に炭素数1〜10のアルキル基が結合するキナクリドン誘導体が示唆されているが、5位及び12位の窒素原子に水素原子が結合するとともに2位及び9位に炭素数5のアルキル基、又は炭素数7のアルキル基が結合する二種のキナクリドン誘導体、及び5位及び12位の窒素原子に水素原子が結合するとともに4位及び8位に炭素数4のアルキル基が結合する一つのキナクリドン誘導体が実施例として示されているのみである。
【0009】
特許文献2には、非特許文献1にて(IV)式で示されるキナクリドン骨格において、5位及び12位の窒素原子に水素原子が結合するとともに3位及び10位に−COOHが結合する二種のキナクリドン誘導体、及び5位及び12位の窒素原子にメチル基が結合するとともに3位及び10位に−COOHが結合するキナクリドン誘導体が、実施例として示されている。
【0010】
特許文献3には、非特許文献1にて(IV)式で示されるキナクリドン骨格において、5位及び12位の窒素原子に炭素数1〜10のアルキル基が結合するとともに3位及び9位に−COOHが結合するキナクリドン誘導体が記載されている(請求項2参照)。
【0011】
しかしながら、特許文献3に実施例として記載されているキナクリドン誘導体は、5位及び12位の窒素原子に水素原子が結合するとともに、3位及び10位に−COOHが結合するキナクリドン誘導体が、実施例として示されている。
【0012】
特許文献4には、R1が水素原子であり、R2がアルキル基であり、R3が水素原子であり、R4がアリール基の結合したアルキレン基であるキナクリドン誘導体が示されている。特許文献4における合成例を参照すると、合成例1で緑色発光するキナクリドン誘導体が開示され(実施例1参照)、合成例6で緑色発光するキナクリドン誘導体が開示されている(実施例2参照)。特許文献4では白色発光するキナクリドン誘導体が合成例として開示されていない。また、特許文献4における合成例1及び6の記載から白色発光可能な物質を予測することは、できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−35965号公報
【特許文献2】特開2007−99723号公報
【特許文献3】国際公開第2006/115131号
【特許文献4】国際公開第2004/067674号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】S.S.Labana and L.L.Labana,Chem.Rev.67,1(1967)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
この発明の課題は、汎用の有機溶媒に可溶であり、堅牢性や加工性に優れ、それ自身で白発光し、又は他の発光性化合物と組み合わせることにより白発光可能なデバイスとすることができるキナクリドン誘導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するための手段は、
(1) 下記構造式1で示されることを特徴とするキナクリドン誘導体。
【0017】
【化1】
【0018】
(但し、前記構造式1において、Xは−COOR1(但し、R1は水素原子、又は炭素数1〜5のアルキル基である。)、臭素原子、ヨウ素原子、芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜10(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基、−O−CH2CH2−O−の構造式(1A)を有し、前記構造式(1A)中の一方の酸素原子が前記構造式1におけるベンゼン環に結合するとともに他方の酸素原子が前記構造式1における4位のベンゼン環上炭素に結合するジオキサン形成基、−CH2−Ar(但し、Arは芳香族炭化水素基を示す。)で示される基、構造式(1B)で示される芳香族炭化水素基置換オキサジアゾール基(但し、構造式(1B)におけるArは芳香族炭化水素基を示す。)、又は−CH=CH−Arの構造式(1C)(但し、Arは芳香族炭化水素基を示す。)を示し、
【0019】
【化2】
【0020】
Yは、水素原子、又は、芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基であり、Xが臭素原子又はヨウ素原子であるときにはYは芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基である。)
(2) 前記Yが芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基であるときに、前記Xが−COOR1a(但し、R1aは炭素数2〜10のアルキル基を示す)、芳香族炭化水素基を有しても良い炭素数1〜10(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基、構造式(1B)で示される芳香族炭化水素基置換オキサジアゾール基(但し、芳香族炭化水素基はピレニル基である。)、又は構造式(1C)で示される芳香族置換ビニル基であることを特徴とする前記(1)に記載のキナクリドン誘導体であり、
(3) 前記Yが芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基を示す場合に、このアルキル基に結合してもよい前記芳香族炭化水素基がフェニル基であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のキナクリドン誘導体であり、
(4) 前記Yが水素原子であり、前記Xが前記ジオキサン形成基である前記(1)に記載のキナクリドン誘導体であり、
(5) 前記Yが炭素数1〜20のアルキル基であり、Xが−CH2−Ar(但し、Arは芳香族炭化水素基を示す。)で示される基、又は構造式(1B)で示される芳香族炭化水素基置換オキサジアゾール基である前記(1)に記載のキナクリドン誘導体である。
【発明の効果】
【0021】
この発明によると、それ自身で白色発光するキナクリドン誘導体、又は、それ自身で白色発光せずに黄色から橙色までの色調で発光し、例えば青色発光化合物と組み合わせることにより白色発光可能なデバイスとすることのできるキナクリドン誘導体を提供することができ、しかもそれらキナクリドン誘導体は有機溶媒に溶解するので加工性が良好であり、したがってこれらキナクリドン誘導体を利用した発光デバイスを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、キナクリドン誘導体を合成する工程を示す工程説明図である。
【図2】図2は、有機EL素子の一例を示す概略説明図である。
【図3】図3は、構造式10で示すシクロヘキサジエン体(1A)のIRチャート図である。
【図4】図4は、構造式11で示す芳香化体(1B)のIRチャート図である。
【図5】図5は、構造式12で示すキナクリドン誘導体のIRチャート図である。
【図6】図6は、構造式13で示すキナクリドン誘導体のIRチャート図である。
【図7】図7は、構造式19で示すキナクリドン誘導体のIRチャート図である。
【図8】図8は、構造式21で示すキナクリドン誘導体のIRチャート図である。
【図9】図9は、構造式22で示すキナクリドン誘導体のIRチャート図である。
【図10】図10は、構造式26で示すキナクリドン誘導体のIRチャート図である。
【図11】図11は、構造式27で示すキナクリドン誘導体のIRチャート図である。
【図12】図12は、構造式28で示すキナクリドン誘導体のIRチャート図である。
【図13】図13は、構造式15で示す化合物のIRチャート図である。
【図14】図14は、構造式29で示す化合物のIRチャート図である。
【図15】図15は、構造式30で示す化合物のIRチャート図である。
【図16】図16は、構造式31で示す化合物の蛍光発光スペクトル図である。
【図17】図17は、構造式31で示す化合物のIRチャート図である。
【図18】図18は、構造式32で示す化合物のIRチャート図である。
【図19】図19は、構造式32で示す化合物の蛍光発光スペクトル図である。
【図20】図20は、構造式33で示す化合物のIRチャート図である。
【図21】図21は、構造式34で示す化合物のIRチャート図である。
【図22】図22は、構造式34で示す化合物の蛍光発光スペクトル図である。
【図23】図23は、構造式35で示す化合物のIRチャート図である。
【図24】図24は、構造式36で示す化合物のIRチャート図である。
【図25】図25は、構造式37で示す化合物のIRチャート図である。
【図26】図26は、構造式38で示す化合物のIRチャート図である。
【図27】図27は、構造式39で示す化合物のIRチャート図である。
【図28】図28は、構造式41で示す化合物のIRチャート図である。
【図29】図29は、構造式42で示す化合物のIRチャート図である。
【図30】図30は、構造式43で示す化合物のIRチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明に係るキナクリドン誘導体は、前記構造式1を有する。
【0024】
【化3】
【0025】
前記構造式1において、Xは−COOR1(但し、R1は水素原子、又は、炭素数1〜5のアルキル基である。)、臭素原子、ヨウ素原子、芳香族炭化水素基例えばピレニル基、アントリル基等を置換していてもよい炭素数1〜10(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基、−O−CH2CH2−O−の構造式(1A)を有し、前記構造式(1A)中の一方の酸素原子が前記構造式1の構造式におけるベンゼン環に結合するとともに他方の酸素原子が前記構造式1における4位のベンゼン環上炭素に結合するジオキサン形成基、−CH2−Ar(但し、Arは芳香族炭化水素基例えばピレニル基、アントリル基等示す。)で示される基、構造式(1B)で示される芳香族炭化水素基置換オキサジアゾール基(但し、構造式(1B)におけるArは芳香族炭化水素基を示す。)、又は−CH=CH−Arの構造式(1C)(但し、Arは芳香族炭化水素基を示す。)で示される芳香族基置換ビニル基である。
【0026】
【化4】
【0027】
前記構造式1において、Yは、水素原子、又は、メチル基等のアルキル基を置換することのある芳香族炭化水素基例えばアントリル基、ピレニル基等を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基、好ましくは炭素数1〜15、特に好ましくは炭素数1〜10のアルキル基及びベンジル基であり、Xが臭素原子又はヨウ素原子であるときには、Yは芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜10(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基、好ましくは炭素数1〜5のアルキル基及びベンジル基である。
【0028】
この発明に係るキナクリドン誘導体においては、Xが臭素原子又はヨウ素原子であるときには、Yは水素原子ではない。
【0029】
この発明に係る好適なキナクリドン誘導体は、前記構造式1において、前記Yが芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜10(芳香族炭化水素基が置換するときにはその芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基であるときに、前記Xが−COOR1a(但し、R1aは炭素数1〜10のアルキル基を示す)、又は芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜10(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基、又は構造式(1B)で示される芳香族炭化水素基置換オキサジアゾール基を示し、また、前記Yが芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜10(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基を示す場合に、前記芳香族炭化水素基がフェニル基である。
【0030】
これらのキナクリドン誘導体は、アルキル基、芳香族炭化水素基を置換するアルキル基、またはカルボン酸基やエステル基を有することにより疎水性の有機溶媒に可溶性となる。
【0031】
さらにまた、この発明に係るキナクリドン誘導体は、前記Yが水素原子であり、前記Xが前記ジオキサン形成基であるキナクリドン誘導体は、分子内にエーテル基を有することにより極性溶媒にも可溶となり、酸化されにくいことから熱的安定性や堅牢性にも優れる。したがって、ジオキサン形成基を有するキナクリドン誘導体は、溶媒に溶解することにより、さらに有機反応を行って有用な化合物、特に白色発光性の高分子に誘導することができる。
【0032】
この発明に係るキナクリドン誘導体は、例えば図1に示される工程を経て合成されることができる。
【0033】
キナクリドン誘導体を合成する一つの原料は、構造式2(化5)で示される1,4−シクロヘキサンジオン2,5−ジカルボン酸アルキルエステル又は1,4−シクロヘキサンジオール2,5−ジカルボン酸アルキルエステルと構造式3(化6)で示される4−X置換−アニリンである。
【0034】
【化5】
【0035】
【化6】
【0036】
前記構造式2におけるR2は,炭素数1〜5の、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基を示す。
【0037】
前記構造式3におけるXは、−COOR1(但し、R1は水素原子、又は炭素数1〜5、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である。)、臭素原子、ヨウ素原子、芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜10(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基、又は、−O−CH2CH2−O−の構造式(1A)を有し、前記構造式(1A)中の一方の酸素原子が前記構造式3におけるベンゼン環の、アミノ基を1位とする3位又は5位に結合するとともに他方の酸素原子が前記化3における4位のベンゼン環上炭素に結合するジオキサン形成基を示す。Xとして選択される基または原子は目的とするキナクリドン誘導体の構造に応じて選択される。
【0038】
構造式2で示される1,4−シクロヘキサンジオン2,5−ジカルボン酸アルキルエステル又は1,4−シクロヘキサンジオール2,5−ジカルボン酸アルキルエステルと構造式3で示される4−X置換−アニリンとを脱水反応させることによって、構造式4で示されるシクロヘキサジエン体が得られる。構造式3で示される4−X置換−アニリンは、Xが3位に置換するアニリンと比較して、安価で入手し易く、共鳴効果も有効で反応性が高く、それ故収率を上げることができる。
【0039】
脱水反応は、前記4−X置換−アニリンのアミノ基と1,4−シクロヘキサンジオン2,5−ジカルボン酸アルキルエステルのカルボニル基とを、又は前記4−X置換−アニリンのアミノ基と1,4−シクロヘキサンジオール2,5−ジカルボン酸アルキルエステルの水酸基とで脱水することにより進行する。溶媒は、通常、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノ−ル等のアルコール、無水酢酸、フタル酸、無水フタル酸等の酸性溶媒等を上げることができる。
【0040】
脱水反応をさせるときの反応温度は還流温度で十分である。
【0041】
この脱水反応には、脱水触媒を用いることができる。脱水触媒は脱水反応系に添加される。通常は、前記溶媒と脱水触媒との混合液が使用される。
【0042】
前記脱水触媒としては、公知の触媒を挙げることができ、例えば、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、及び酸化銅等を挙げることができる。
【0043】
【化7】
【0044】
構造式4で示される構造式において、このシクロヘキサジエン体におけるR1及びXは前記と同様である。
【0045】
次いで、前記構造式4で示されるシクロヘキサジエン体を脱水素反応させてシクロヘキサジエン体を脱水素化して構造式5に示される構造を有する芳香化体を得る。この脱水素反応は、前記構造式4で示されるシクロヘキサジエン体を溶解する溶液にヨー素を添加して還流するいわゆるヨード酸化によるのが好ましい。なお、図1においてはこの脱水素反応させて芳香化する段階をヨード酸化と表示している。
【0046】
【化8】
【0047】
この構造式5に示される構造においてR1及びXは前記と同様の意味を有する。
【0048】
脱水素化反応は、前記構造式4で示されるシクロヘキサジエン体、必要に応じた脱水素触媒及び溶媒を有する混合物を加熱することにより、行うことができる。
【0049】
前記溶媒としては、エタオール、及びプロパノ−ル等のアルコール、オルトジクロロベンゼン、メタジクロロベンゼン、ピリジン、ジオキサン、並びにN,N−ジメチルホルムアミド等の極性溶媒を挙げることができる。
【0050】
加熱による反応温度は、通常の場合、前記溶媒の還流温度又は140〜180℃である。
【0051】
前記脱水素触媒としては、公知の脱水素触媒を用いることができ、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、鉄、亜鉛、酸化アルミニウム、塩化アルミニウム等を挙げることができる。なお、場合によっては、脱水素触媒を使用しなくてもよい。
【0052】
脱水素反応により得られるところの、前記構造式5で示される芳香化体は、ジアルキル硫酸と反応させることにより、N−アルキル化反応と閉環反応とを連続して行うことができ、前記構造式1においてYが炭素数1〜10のアルキル基であるキナクリドン誘導体(構造式6)が合成される。なお、図1においては、ジアルキル硫酸の一例であるジメチル硫酸を用いた合成例が示されている。また、以下の構造式6に示される構造体において、R3は炭素数1〜10の、芳香族炭化水素基を置換していてもよいアルキル基を示す。構造式6に示される構造体中の二つの窒素原子に結合するR3は同一であっても相違していてもよい。
【0053】
【化9】
【0054】
N−アルキル化反応と閉環反応とは、溶媒と前記構造式5で示される芳香化体とジアルキル硫酸とを有する混合物を、例えばその溶媒の還流温度又は140〜180℃に、加熱することにより、進行する。
【0055】
前記溶媒としては、エタオール、及びプロパノ−ル等のアルコール、オルトジクロロベンゼン、メタジクロロベンゼン、ピリジン、ジオキサン、並びにN,N−ジメチルホルムアミド等の極性溶媒を挙げることができる。
【0056】
構造式6で示されるキナクリドン誘導体においてXが−COOR1で示されるアルキルエステル基であるときには、この構造式6で示されるキナクリドン誘導体を加水分解することにより、構造式7で示されるキナクリドン誘導体が得られる。
【0057】
【化10】
【0058】
前記加水分解は、前記構造式6で示されるキナクリドン誘導体と溶媒とを含有し、苛性ソーダ等によりアルカリ性又は塩酸等により酸性にした混合物を、還流することにより、容易に行うことができる。
【0059】
一方、脱水素反応により得られるところの、前記構造式5で示される芳香化体は、酸触媒例えば硫酸によって、閉環反応を行うことができる。閉環反応の結果、構造式8で示されるキナクリドン誘導体が合成される。構造式8で示されるキナクリドン誘導体の構造においてXは前記と同様の意味を有する。
【0060】
【化11】
【0061】
前記構造式8で示されるキナクリドン誘導体において、Xが−COOR1であり、かつそのR1が炭素数1〜10のアルキル基である場合には、前記化8で示されるキナクリドン誘導体と芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜10(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基を有するハロゲン化炭化水素とを反応させることにより、窒素原子に、芳香族炭化水素基を置換していてもよいアルキル基を結合してなるところの、構造式9で示されるキナクリドン誘導体が合成される。
【0062】
【化12】
【0063】
前記構造式9で示されるキナクリドン誘導体においてR3は、芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜10(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基を有するハロゲン化炭化水素由来のアルキル基である。
【0064】
前記ハロゲン化炭化水素に置換していてもよい芳香族炭化水素としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基、ジベンゾフェナントリル基等を挙げることができる。好適なR3として、ベンジル基等を挙げることができる。
【0065】
前記構造式9で示されるキナクリドン誘導体においてXが-COOR1であって、R1がアルキル基であるときには、前記構造式9で示されるキナクリドン誘導体をアルカリ又は酸で加水分解することによりXが−COOHであるキナクリドン誘導体を合成することができる。
【0066】
また、市販のキナクリドンを用いてこの発明に係るキナクリドン誘導体を合成することもできる。
【0067】
構造式1で示される構造式1において、Xが芳香族炭化水素基を置換している炭素数1〜10(芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基であり、Yが芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基であるキナクリドン誘導体は、市販のキナクリドンとハロゲン化アルキル(但し、ハロゲン化アルキルにおけるアルキル基は芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基である。)と反応させることにより、キナクリドンにおける窒素原子に、芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜10(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基が置換したキナクリドン誘導体Aを合成し、次いでこのキナクリドン誘導体Aにおける2位炭素及び9位炭素をアルキル化してキナクリドン誘導体Bを合成し、キナクリドン誘導体Bにおける2位炭素及び9位炭素に結合するアルキル基における末端炭素に結合する水素をハロゲンと置換してキナクリドン誘導体Cを合成し、次いでこのキナクリドン誘導体Cと芳香族炭化水素と反応させて脱ハロゲン化水素すると、Xが芳香族炭化水素基を置換している炭素数1〜10(芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基であり、Yが芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基であるキナクリドン誘導体を合成することができる。
【0068】
また、構造式1における2位及び9位に炭素数が1〜10であるアルキル基を有する2,9−ジアルキルキナクリドンとハロゲン化アルキル(但し、ハロゲン化アルキルにおけるアルキル基は芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基である。)と反応させることにより、キナクリドンにおける窒素原子に、芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜10(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基が置換したキナクリドン誘導体Dを合成し、このキナクリドン誘導体Dにおける2位炭素及び9位炭素に結合するアルキル基における末端炭素に結合する水素をハロゲンと置換してキナクリドン誘導体Cを合成し、次いでこのキナクリドン誘導体Cと芳香族炭化水素と反応させて脱ハロゲン化水素すると、Xが芳香族炭化水素基を置換している炭素数1〜10(芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基であり、Yが芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基であるキナクリドン誘導体を合成することができる。
【0069】
構造式1における2位及び9位に構造式(1B)で示される芳香族炭化水素基置換オキサジアゾール基を置換するキナクリドン誘導体は、例えば次のようにして合成することができる。
【0070】
構造式1における2位及び9位をハロゲン化例えばヨウド化し、次いで2位及び9位に結合するハロゲン原子をCN基(シアノ基)に置換し、2位及び9位に置換するシアノ基をカルボン酸に誘導し、2位及び9位に置換するカルボン酸基を酸塩化物基(−COCl)に変えて酸塩化物誘導体(1B1)とする。
【0071】
一方、芳香族炭化水素例えばベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン等にカルボン酸基を導入し、導入したカルボン酸基を酸塩化物に変換して、この酸塩化物とヒドラジンとを反応させてヒドラジド基を導入してヒドラジド導入芳香族炭化水素(H2NNHOC−Ar)を合成する。
【0072】
前記キナクリドン誘導体(1B1)とヒドラジド導入芳香族炭化水素(H2NNHOC−Ar)とをカップリングさせてカップリング体(1B2)を合成する。このカップリング体(1B2)を塩化ホスホリルとともに加熱すると、芳香族炭化水素基置換オキサジアゾール基を置換するキナクリドン誘導体を合成することができる。
【0073】
構造式1における2位及び9位に構造式(1C)で示される芳香族炭化水素基置換ビニル基を置換するキナクリドン誘導体は、例えば次のようにして合成することができる。
【0074】
キナクリドン骨格における2位及び9位にメチル基を導入し、2位及び9位にメチル基における水素をハロゲンと置換することにより2位及び9位にハロゲン化メチル基を有するキナクリドン誘導体を合成する。このキナクリドン誘導体におけるハロゲン化メチルとトリフェニルホスフィンとを反応させる、いわゆるウイティッヒ反応により、構造式1におけるXが−CH=CH−Arの構造式(1C)(但し、Arは芳香族炭化水素基を示す。)で示される芳香族炭化水素基置換ビニル基であるキナクリドン誘導体を合成することができる。
【0075】
この発明に係るキナクリドン誘導体は、そのXがアルキル基又は前記ジオキサン形成基である場合に、Yがアルキル基であるから、汎用の有機溶媒に可溶である。したがって、このキナクリドン誘導体が有機溶媒に溶解させることにより、このキナクリドン誘導体と重縮合可能なモノマーと反応させることにより、白色発光性重合体を形成することができる。
【0076】
この発明に係るキナクリドン誘導体は、400〜700nmの領域で発光が見られ、白色発光可能な有機EL素子に利用することができる。
【0077】
この発明に係るキナクリドン誘導体を用いた有機EL素子は、ITO陽極と、例えばポリビニルカルバゾール(PVK)、2−(4−tert−ブチルフェニル)5−(4−ビフェニル)−1,3,4−オキザジアゾール及びこの発明のキナクリドン誘導体を含有する発光層と、この発光層の表面に形成された陰極とを有して成る構造とすればよい。発光は、前記陰極と前記陽極との間に電界が印加されると、陰極側から電子が注入され、陽極から正孔が注入され、更に電子が発光層において正孔と再結合し、エネルギー準位が伝導帯から価電子帯に戻る際にエネルギーを光として放出する現象である。
【0078】
この有機EL素子は、陽極及び陰極の間に、この発明に係るキナクリドン誘導体含有の発光層を有している限り様々のタイプの構造を採用することができる。この有機EL素子として、例えば、図2に示されるように、透明基板2の表面に形成された透明電極3と、その透明電極3の表面に形成されたところの、この発明に係るキナクリドン誘導体を含有する発光層4と、この発光層4の表面に形成された陰極5とを備えて成る一層型有機発光素子を挙げることができる。
【0079】
この一層型有機発光素子において、発光層を、前記構造式1で示されるキナクリドン誘導体を蒸着させることにより形成された蒸着層とすることができ、また、この発光層を、前記構造式1で示されるキナクリドン誘導体をポリビニルカルバゾール等の高分子化合物と共に有機溶媒に溶解し、得られる高分子溶液を塗布し、乾燥することにより得られる発光層とすることもできる。
【0080】
又、これとは別のタイプの有機EL素子として、陽極と陰極との間に、電子を輸送する電子輸送性物質、この発明に係るキナクリドン誘導体、及びホールを輸送するホール輸送性高分子を共に含有する発光層を有する一層型有機発光素子、基板上に形成された陽極と陰極との間に、ホール輸送性物質を含有するホール輸送層と、この発明に係るキナクリドン誘導体含有の電子輸送性発光層とを積層して成る二層型有機低分子発光素子(例えば、陽極と陰極との間に、ホール輸送層と、ゲスト色素としてこの発明に係るキナクリドン誘導体及びホスト色素を含有する発光層とを積層して成る二層型色素ドープ型発光素子)、陽極と陰極との間に、ホール輸送性物質を含有するホール輸送層と、この発明に係るキナクリドン誘導体と電子輸送性物質とを共蒸着してなる電子輸送性発光層とを積層して成る二層型有機発光素子(例えば、陽極と陰極との間に、ホール輸送層と、ゲスト色素としてこの発明に係るキナクリドン誘導体及びホスト色素とを含有する電子輸送発光層とを積層して成る二層型色素ドープ型有機発光素子)、陽極と陰極との間に、ホール輸送層、この発明に係るキナクリドン誘導体含有の発光層及び電子輸送層を積層して成る三層型有機発光素子を挙げることができる。上記各種の有機EL素子において、一層の発光層、並びに二層及び三層からなる積層体を有機層と称されることがある。
【0081】
上記有機EL素子は、通常の場合、基板上に形成することができる。この基板としては、例えばガラス、プラスチック等の透明基板を挙げることができる。前記陽極としては、仕事関数が大きくて透明であり、電圧を印加することにより前記膜にホールを注入することができる限り様々の素材を採用することができる。具体的には、陽極として、ITO、In2O3、SnO2、ZnO、CdO等、及びそれらの化合物等の無機透明導電材料、及びポリアニリン等の導電性高分子材料等で形成することができる。この陽極は、前記基板上に、化学気相成長法、スプレーパイロリシス、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタ法、イオンビームスパッタ法、イオンプレーティング法、イオンアシスト蒸着法、その他の方法により形成されることができる。
【0082】
前記陰極は、仕事関数の小さな物質が採用され、例えば、MgAg、アルミニウム合金、金属カルシウム等の、金属単体又は金属の合金で形成されることができる。好適な陰極はアルミニウムと少量のリチウムとの合金電極である。この陰極は、例えば基板の上に形成された前記発光層を含む有機層の表面に、蒸着技術により、容易に形成することができる。
【0083】
前記電子輸送性物質としては、例えば、2−(4−tert−ブチルフェニル)−5−(4−ビフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール等のオキサジアゾール誘導体及び2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、並びに2,5−ビス(5’−tert−ブチル−2’−ベンゾキサゾリル)チオフェン等を挙げることができる。また、電子輸送性物質として、例えばキノリノールアルミ錯体(Alq3)、ベンゾキノリノールベリリウム錯体(Bebq2)等の金属錯体系材料を好適に使用することもできる。
【0084】
前記ホール輸送物質としては、トリフェニルアミン系化合物例えばN,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(m−トリル)−ベンジジン(TPD)、及びα−NPD等、ヒドラゾン系化合物、スチルベン系化合物、複素環系化合物、π電子系スターバースト正孔輸送物質等を挙げることができる。
【0085】
この有機EL素子における有機層は、塗布法例えばスピンキャスト法、コート法、及びディップ法、並びに蒸着法のいずれかにより形成されることができる。塗布法及び蒸着法のいずれを採用するにしても、電極と有機層との間に、バッファ層を介装するのが好ましい。前記陰極と前記有機層との間に形成される前記バッファ層を形成することのできる材料として、例えば、フッ化リチウム等のアルカリ金属化合物、フッ化マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物、酸化アルミニウム等の酸化物、4,4’−ビスカルバゾールビフェニル(Cz−TPD)を挙げることができる。また、例えばITO等の陽極と有機層との間に形成されるバッファ層を形成する材料として、例えばm−MTDATA(4,4’,4''−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン)、フタロシアニン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体、無機酸化物例えば酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化バナジウム、フッ化リチウムを挙げることができる。これらのバッファ層は、その材料を適切に選択することにより、有機EL素子の駆動電圧を低下させることができ、発光の量子効率を改善することができ、発光輝度の向上を達成することができる。
【0086】
この発明に係るキナクリドン誘導体を利用した有機EL素子は、例えば一般に直流駆動型の素子として使用することができ、また、パルス駆動型の素子及び交流駆動型の素子としても使用することができる。
【0087】
この発明に係るキナクリドン誘導体は、更に、モノクロディスプレイ、カラーディスプレイ等のディスプレイ分野、ライトサイン、直視型サイン、間接照明、LCD用バックライト等の照明分野にも使用される。
【0088】
前述したようにこの発明に係るキナクリドン誘導体は、例えば芳香族ジカルボン酸とヒドラジンと反応させることにより、オキサジアゾール環で連結された共重合体を得ることができ、またオキサジチアゾールで連結された共重合体等を得ることができる。これらの共重合体は、有機溶媒に可溶性であり、しかもキナクリドン誘導体骨格を主鎖中に有することにより白色発光性である。
【0089】
これらの共重合体もまた有機EL素子を形成することのできる有用な物質である。
【実施例】
【0090】
(実施例1)
この例では、構造式1で示されるキナクリドン誘導体において、Xが−COOCH3および−COOHであり、Yがメチル基であるキナクリドン誘導体を、以下の手順に従って合成した。
【0091】
<脱水反応>
500mLのフラスコに、1,4−シクロヘキサンジオン2,5−ジカルボン酸ジメチル11.4g、4−アミノ−安息香酸メチル13.2g、エタノール150mL及び酢酸150mLを、入れた。このフラスコの内容物を撹拌下に3時間還流した。反応停止後に、フラスコの内容物を室温にまで冷却した。フラスコの内容物を吸引濾過し、固形の濾過物をトルエンで再結晶し、メタノールで洗浄し、橙色結晶であるとともに、構造式10に示されるシクロヘキサジエン体(1A)8gを合成した。構造式10に示すシクロヘキサンジエン体(1A)のIRチャートを図3に示した。
【0092】
【化13】
【0093】
<ヨード酸化(脱水素反応)>
500mLのフラスコにエタノール200mLを入れて、このエタノールを沸騰させた。次いで、この沸騰エタノール中に前記シクロヘキサンジエン体(1A)4gとヨウ素5gとを添加した。フラスコの内容物を撹拌下に5時間還流した。反応停止後に室温で一晩放置した。その後に、フラスコの内容物を吸引濾過し、固形の濾過物をエタノールで洗浄し、橙色結晶の、構造式11で示される芳香化体(1B)2.4gを合成した。構造式11に示す芳香化体(1B)のIRチャートを図4に示し、その融点は160℃であった。
【0094】
【化14】
【0095】
<N−メチル化及び閉環反応>
50mLのフラスコ内に、前記構造式11で示される芳香化体(1B)1gを入れ、次いで1,2−ジクロロベンゼン50mL及びジメチル硫酸3mLを次々に入れた。フラスコの内容物を撹拌下に160℃に1.5時間加熱した。次いで、170〜180℃に0.5時間加熱して反応を行った。反応終了後に、コニカルビーカに、氷水と前記フラスコ内の内容物とを入れ、このコニカルビーカの内容物を振り混ぜた。その後にこのコニカルビーカの内容物に10%苛性ソーダを入れて前記内容物のpHを弱アルカリ性にした。分液漏斗にコニカルビーカの内容物を移し替えるとともにとクロロホルム抽出を3回行い、クロロホルム抽出物を水で1回洗浄した。クロロホルム抽出物に硫酸ナトリウムを大さじ3杯加えた後、一晩放置した。翌日に、そのクロロホルム抽出物を、エバポレータで濃縮乾固させ、得られた濃縮物を吸引濾過することにより濾過物として固形物を得た。この固形物をメタノールで洗浄することにより、構造式12で示されるキナクリドン誘導体(1C)0.6gを合成した。構造式12に示すキナクリドン誘導体(1C)のIRチャートを図5に示し、その融点は280℃以上であった。
【0096】
【化15】
【0097】
<加水分解>
50mLの三つ口フラスコに、前記構造式12で示されるキナクリドン誘導体(1C)0.1gを、入れた。さらにこの三つ口フラスコに、エタノール20mLとジオキサン20mLとを入れ、苛性カリ1gと沸騰石とを入れた。この三口フラスコの内容物を3時間還流した。反応停止後に、コニカルビーカに、氷水と前記三つ口フラスコの内容物とを入れて、このコニカルビーカを振蕩した。コニカルビーカの内容物のpHを塩酸で弱酸性にした。コニカルビーカの内容物を吸引濾過し、濾過物をメタノールで洗浄し、構造式13で示されるキナクリドン誘導体(1D)0.06gを合成した。構造式13に示すキナクリドン誘導体(1D)のIRチャートを図6に示した。このキナクリドン誘導体の融点は280℃以上であった。
【0098】
【化16】
【0099】
(実施例2)
この例では、構造式1で示されるキナクリドン誘導体において、Xが−COOC2H5又は−COOHであり、Yがメチル基であるキナクリドン誘導体を、以下の手順に従って合成した。
【0100】
<脱水反応>
500mLのフラスコに、1,4−シクロヘキサンジオン2,5−ジカルボン酸ジメチル13.8g、4−アミノ−安息香酸エチル25g、エタノール200mL及び酢酸200mLを、入れた。このフラスコの内容物を撹拌下に12時間還流した。反応停止後に、フラスコの内容物を室温にまで冷却した。フラスコの内容物を吸引濾過し、固形の濾過物をトルエンで再結晶し、エタノールで洗浄し、橙色結晶であるとともに、構造式14に示されるシクロヘキサジエン体(A)11gを合成した。
【0101】
【化17】
【0102】
<ヨード酸化(脱水素反応)>
500mLのフラスコにエタノール200mLと前記構造式14で示されるシクロヘキサジエン体(A)11gとヨウ素7gとを入れて、フラスコの内容物を撹拌下に5時間還流した。反応停止後に室温で一晩放置した。その後に、フラスコの内容物を吸引濾過し、固形の濾過物をエタノールで洗浄し、DMFで再結晶し、橙色結晶の、構造式15で示される芳香化体(B)7gを合成した。この芳香族体(B)のIRチャートを図13に示した。
【0103】
【化18】
【0104】
<N−メチル化及び閉環反応>
50mLのフラスコ内に、前記構造式15で示される芳香化体(B)3gを入れ、次いで1,2−ジクロロベンゼン30mL及びジメチル硫酸3mLを次々に入れた。フラスコの内容物を撹拌下に160℃に5時間加熱して反応を行った。反応終了後に、コニカルビーカに、氷水と前記フラスコ内の内容物とを入れ、このコニカルビーカの内容物を振り混ぜた。その後にこのコニカルビーカの内容物に10%苛性ソーダを入れて前記内容物のpHを弱アルカリ性にした。分液漏斗にコニカルビーカの内容物を移し替えるとともにとクロロホルム抽出を3回行い、クロロホルム抽出物を水で1回洗浄した。クロロホルム抽出物に硫酸ナトリウムを大さじ3杯加えた後、一晩放置した。翌日に、そのクロロホルム抽出物を、エバポレータで濃縮乾固させ、得られた濃縮物を吸引濾過することにより濾過物として固形物を得た。この固形物をメタノールで洗浄することにより、構造式16で示されるキナクリドン誘導体(C)2gを合成した。
【0105】
【化19】
【0106】
<加水分解>
50mLの三つ口フラスコに、前記構造式16で示されるキナクリドン誘導体(C)0.1gを、入れた。さらにこの三つ口フラスコに、エタノール100mLとジオキサン20mLとを入れ、苛性カリ1gと沸騰石とを入れた。この三口フラスコの内容物を3時間還流した。反応停止後に、コニカルビーカに、氷水と前記三つ口フラスコの内容物とを入れて、このコニカルビーカを振蕩した。コニカルビーカの内容物のpHを塩酸で弱酸性にした。コニカルビーカの内容物を吸引濾過し、濾過物をメタノールで洗浄し、構造式13で示されるキナクリドン誘導体(1D)0.06gを合成した。
【0107】
(実施例3)
この例では、構造式1で示されるキナクリドン誘導体において、Xが−Brであり、Yがメチル基であるキナクリドン誘導体を、以下の手順に従って合成した。
【0108】
<脱水反応>
1000mLのフラスコに、1,4−シクロヘキサンジオン2,5−ジカルボン酸ジメチル11.4g、4−ブロモアニリン20.64g、エタノール200mL及び酢酸200mLを、入れた。このフラスコの内容物を撹拌下に5時間還流した。反応停止後に、フラスコの内容物を室温にまで冷却した。フラスコの内容物を吸引濾過し、固形の濾過物をDNFで再結晶し、エタノールで洗浄し、橙色結晶であるとともに、構造式17に示されるシクロヘキサジエン体(3A)13gを合成した。構造式17に示すシクロヘキサンジエン体(3A)の融点は240℃であった。
【0109】
【化20】
【0110】
<ヨード酸化(脱水素反応)>
500mLのフラスコに前記構造式17で示されるシクロヘキサジエン体(3A)12g、ヨウ素6g、1,4−ジクロロベンゼン50mL、エタノール250mLを入れた。このフラスコの内容物を撹拌下に6時間還流した。反応停止後に室温で一晩放置した。その後に、フラスコの内容物を吸引濾過し、固形の濾過物をエタノールで洗浄し、THFで再結晶した。得られた橙色結晶の、構造式18で示される芳香化体(3B)3.6gを合成した。構造式18に示す芳香化体(3B)の融点は220℃であった。
【0111】
【化21】
【0112】
<N−メチル化及び閉環反応>
50mLのフラスコ内に、前記構造式18で示される芳香化体(3B)1.2gを入れ、次いで1,2−ジクロロベンゼン15mL及びジメチル硫酸2mLを次々に入れた。フラスコの内容物を撹拌下に160℃に4時間加熱して反応を行った。反応終了後に、コニカルビーカに、氷水と前記フラスコ内の内容物とを入れ、このコニカルビーカの内容物を振り混ぜた。その後にこのコニカルビーカの内容物に10%苛性ソーダを入れて前記内容物のpHを弱アルカリ性にした。分液漏斗にコニカルビーカの内容物を移し替えるとともにとクロロホルム抽出を3回行い、クロロホルム抽出物を水で1回洗浄した。クロロホルム抽出物に硫酸ナトリウムを大さじ3杯加えた後、一晩放置した。翌日に、そのクロロホルム抽出物を、エバポレータで濃縮乾固させ、得られた濃縮物を吸引濾過することにより濾過物として固形物を得た。この固形物をメタノールで洗浄することにより、構造式19で示されるキナクリドン誘導体(3C)0.8gを合成した。このキナクリドン誘導体のIRチャートを図7に示した。またその融点は280℃以上であった。
【0113】
【化22】
【0114】
(実施例4)
この例では、構造式1で示されるキナクリドン誘導体において、Xが−C8H17であり、Yがメチル基又は水素原子であるキナクリドン誘導体を、以下の手順に従って合成した。
【0115】
<脱水反応>
1000mLのフラスコに、1,4−シクロヘキサンジオン2,5−ジカルボン酸ジメチル11.4g、4−n−オクチルアニリン24.64g、エタノール300mL及び酢酸300mLを、入れた。このフラスコの内容物を撹拌下に5時間還流した。反応停止後に、フラスコの内容物を室温にまで冷却した。フラスコの内容物を吸引濾過し、固形の濾過物をメタノールで洗浄し、橙色結晶であるとともに、構造式20で示されるシクロヘキサジエン体(4A)14gを合成した。
【0116】
【化23】
【0117】
<ヨード酸化(脱水素反応)>
500mLのフラスコに前記構造式20で示されるシクロヘキサジエン体(4A)12g、ヨウ素6g、エタノール200mLを入れた。このフラスコの内容物を撹拌下に5時間還流した。反応停止後に室温で一晩放置した。その後に、フラスコの内容物を吸引濾過し、固形の濾過物をエタノールで洗浄した。得られた赤色結晶の、構造式21で示される芳香化体(4B)10gを合成した。構造式21で示される芳香化体(4B)のIRチャートを図8に示した。構造式21で示される芳香化体(4B)は、構造式18で示される芳香化体(3B)と比較して、イソブタノール等の有機溶媒に対する溶解性が高く、約365nmのUV線を照射すると、発光波長が長波長側にシフトしていることが目視外観により観測された。これは、長鎖アルキル基による誘起効果により分子分極が大きいためと考えられる。
【0118】
【化24】
【0119】
<N−メチル化及び閉環反応>
100mLのフラスコ内に、前記構造式21で示される芳香化体(4B)6.0gを入れ、次いで1,2−ジクロロベンゼン60mL及びジメチル硫酸10.0gを次々に入れた。フラスコの内容物を撹拌下に160℃に5時間加熱して反応を行った。反応終了後に、コニカルビーカに、氷水と前記フラスコ内の内容物とを入れ、このコニカルビーカの内容物を振り混ぜた。その後にこのコニカルビーカの内容物に10%苛性ソーダを入れて前記内容物のpHを弱アルカリ性にした。分液漏斗にコニカルビーカの内容物を移し替えるとともにクロロホルム抽出を1回行い、クロロホルム抽出物を水で3回洗浄した。クロロホルム抽出物に硫酸ナトリウムを加えた後、一晩放置した。翌日に、そのクロロホルム抽出物を、エバポレータで濃縮乾固させ、得られた濃縮物を吸引濾過することにより濾過物として固形物を得た。この固形物をメタノールで洗浄することにより、構造式22で示されるキナクリドン誘導体(4C)4.7gを得た。このキナクリドン誘導体のIRチャートを図9に示した。
【0120】
【化25】
【0121】
<閉環反応>
500mLの四つ口フラスコに、前記構造式21で示される芳香化体(4B)6.0gと1,2−ジクロロベンゼン150mLと、p−トルエンスルホン酸4.25gとを、入れた。前記四つ口フラスコの内容物を撹拌下に160℃で5時間反応させた。反応終了後に、四つ口フラスコの内容物を吸引濾過し、濾過物をメタノールで洗浄することにより、構造式23で示されるキナクリドン誘導体(4D)4gを得た。
【0122】
【化26】
【0123】
(実施例5)
この例では、構造式1で示されるキナクリドン誘導体において、Xがジオキサン形成基であり、Yが水素原子であるキナクリドン誘導体を、以下の手順に従って合成した。
【0124】
<脱水反応>
500mLのフラスコに、1,4−シクロヘキサンジオン2,5−ジカルボン酸ジメチル5.55g、3,4−エチレンジオキシアニリン7.55g、エタノール125mL及び酢酸125mLを、入れた。このフラスコの内容物を撹拌下に5時間115℃に加熱した。反応停止後に、フラスコの内容物を室温にまで冷却した。フラスコの内容物を吸引濾過し、固形の濾過物をメタノール及び石油エーテルで洗浄し、桃色結晶であるとともに、構造式24で示されるシクロヘキサジエン体(5A)10.5gを得た。このシクロヘキサジエン体(5A)の融点は218.0〜219.5℃であった。
【0125】
【化27】
【0126】
<ヨード酸化(脱水素反応)>
500mLのフラスコに、前記構造式24で示されるシクロヘキサジエン体(5A)(1,4−シクロヘキサジエン−2,5−ジ(3,4−エチレンジオキシアニリン)−1,4−ジカルボン酸ジメチル)2.80g、o−ジクロロベンゼン80.0mLを入れた。このフラスコの内容物に、硫酸0.160gを徐々に滴下し、30分撹拌した後に、160℃に加熱しながら2時間撹拌した。反応停止後に室温で一晩放置した。その後に、フラスコの内容物を吸引濾過し、固形の濾過物をメタノール及び石油エーテルで洗浄し、キシレンで再結晶した。精製した粉末は赤色であり、構造式25で示される芳香化体(5B)(1、4−ジカルボン酸ジメチル−2,5−ジ(3,4−エチレンジオキシアニリン)ベンゼン2.10gを得た。この芳香化体(5A)の融点は225.0〜226.7℃であった。
【0127】
【化28】
【0128】
<閉環反応>
500mLの四つ口フラスコに、前記構造式25で示される芳香化体(5B)2.10gとp−トルエンスルホン酸3.33gと硫酸0.02gとo−ジクロロベンゼン60.0mLとを、入れた。前記四つ口フラスコの内容物を撹拌下に160℃で20時間反応させた。反応終了後に、減圧下に溶媒を除去した。得られた固形物を純水、及びメタノールで洗浄した後に、DMFで再結晶した。精製により得た黒色粉末1.50gはその融点が300℃以上であり、構造式26で示されるキナクリドン誘導体であった。そのIRチャートを図10に示した。
【0129】
【化29】
【0130】
(実施例6)
この例では、構造式1で示されるキナクリドン誘導体において、Xが−C8H17であり、Yがベンジル基であるキナクリドン誘導体を、以下の手順に従って合成した。
【0131】
<ベンジル化反応>
500mLの四つ口フラスコに、構造式23で示されるキナクリドン誘導体(4D)0.752gと水素化ナトリウム0.282gとベンジルブロマイド1.4mLとDMF100mLとを、入れた。この四つ口フラスコの内容物を、撹拌下に120℃に3時間加熱した。イオン交換水の氷水に、前記四つ口フラスコの内容物を、投入して反応を停止した。DMF混合物である反応生成液と水との混合物を分離し、分離したDMF混合物のpHを塩酸で中性にしてから、吸引濾過して残渣を得た。この残渣をメタノールで洗浄した。洗浄された固形分を減圧下に乾燥して赤色の結晶0.18gを得た。IR分析により得られた図11によると、この赤色結晶は、構造式27で示されるキナクリドン誘導体であった。
【0132】
【化30】
【0133】
(実施例7)
この例では、構造式1で示されるキナクリドン誘導体において、Xが−C8H17であり、Yが−C4H9であるキナクリドン誘導体を、以下の手順に従って合成した。
【0134】
<ベンジル化反応>
50mLの四つ口フラスコに、構造式23で示されるキナクリドン誘導体(4D)0.741gと水素化ナトリウム0.267gとブロモブタン1.5mLとDMF30mLとを、入れた。この四つ口フラスコの内容物を、撹拌下に120℃に3時間加熱した。イオン交換水の氷水に、前記四つ口フラスコの内容物を、投入して反応を停止した。DMF混合物である反応生成液と水との混合物を分離し、分離したDMF混合物のpHを塩酸で中性にしてから、吸引濾過して残渣を得た。この残渣をメタノールで洗浄した。洗浄された固形分を減圧下に乾燥して赤色の結晶0.17gを得た。IR分析により得られた図12によると、この赤色結晶は、構造式28で示されるキナクリドン誘導体であった。
【0135】
【化31】
【0136】
(実施例8)
四つ口セパラブルフラスコに2,9−ジ-メチルキナクリドン20.4gとジメチルフォルムアミド(DMF)300mLとを収容し、セパラブルフラスコの内容物を120℃に加熱しながら30分間撹拌した。30分が経過した後に、セパラブルフラスコの内容物を60℃にまで放冷し、その後にセパラブルフラスコの内容物に60%水素化ナトリウム7.2gを加えてセパラブルフラスコの内容物を120℃に加熱しながら30分間撹拌した。そうするとセパラブルフラスコの内容物が赤紫色から青色に変化した。次いで、セパラブルフラスコの内容物を60℃にまで放冷し、その後にセパラブルフラスコの内容物にブロモデカン53.2gを加えてセパラブルフラスコの内容物を6時間加熱還流した。セパラブルフラスコの内容物の色が、青色から赤紫色に変化した。還流後に、水をセパラブルフラスコ内に投入し、セパラブルフラスコの内容物を吸引濾過し、赤紫色をした残渣を得た。
【0137】
この残渣をメタノールで洗浄し、吸引濾過することにより、赤紫色をした残渣を得た。この残渣をクロロホルムで再結晶し、吸引濾過して朱色の結晶を得た。この結晶の融点は135℃であった。この結晶のIRチャートを図14に示した。この結晶は、構造式29で示される構造をしたN,N’−ジデシル−2,9−ジメチルキナクリドンであった。
【0138】
【化29】
【0139】
次いで、このN,N’−ジデシル−2,9−ジメチルキナクリドン2.48gと、N−ブロモスクシンイミド(NBS)2.85gと過酸化ベンゾイル25%水湿潤品0.065gとテトラクロロエタン100mLとを三つ口フラスコに収容し、このフラスコの内容物を撹拌しながら110℃で7時間加熱した。そうするとフラスコの内容物の色が赤色から茶紫色に変化した。
【0140】
加熱を停止した後に、フラスコの内容物をエバポレーターを用いて濃縮乾固し、メタノールで洗浄し、吸引濾過することにより、茶色の残渣を得た。この茶色の残渣を酢酸エチルで再結晶し、吸引濾過することにより茶色の結晶を得た。この茶色の結晶の融点は170℃であり、この結晶のIRチャート図を図15に示した。この結晶は、構造式30で示されるN,N’−ジデシル−2,9−ジブロモメチルキナクリドンであった。
【0141】
【化30】
【0142】
このN,N’−ジデシル−2,9−ジブロモメチルキナクリドン0.78gと9−メチルアントラセン0.77gと炭酸カリウム 0.69gと銅粉末0.064gとDMF100mLとを三つ口フラスコに収容し、フラスコの内容物を3時間還流した。
【0143】
還流を停止した後に、フラスコの内容物を加熱しつつ濾過して濾液を採取した。この濾液と水とを混合し、デカンテーションし、吸引濾過して残渣を得た。この結晶の融点は200℃であり、この結晶のIRチャート図を図17に示し、この結晶の発光スペクトルを図16に示した。蛍光スペクトルは蛍光分光測定装置(FluorologR-3、株式会社堀場製作所製)により測定された。この結晶は、構造式31で示されるN,N’−ジデシル−2,9−ジ(9−メチルアントリル)メチルキナクリドンであった。
【0144】
【化31】
【0145】
この構造式31で示されるキナクリドン誘導体は、キナクリドン骨格における2、9位(p位)にメチレン基を介してアントリル基を結合する。アントリル基は青色発光する原子団である。故に、この構造式31で示されるキナクリドン誘導体は、図16に示されるように、緑色がかった白色に発光する。
【0146】
(実施例9)
四つ口フラスコに2、9-ジメチルキナクリドン1.56gと脱水ジメチルフォルムアミド(DMF)300mLとを収容し、四つ口フラスコの内容物を120℃に加熱しながら30分間撹拌した。30分が経過した後に、四つ口フラスコの内容物を60℃にまで放冷し、その後に四つ口フラスコの内容物に60%水素化ナトリウム0.80gを加えて四つ口フラスコの内容物を120℃に加熱しながら30分間撹拌した。そうすると四つ口フラスコの内容物が赤紫色から青色に変化した。次いで、セパラブルフラスコの内容物を60℃にまで放冷し、その後にセパラブルフラスコの内容物に9−クロロメチルアントラセン4.54gを加えて四つ口フラスコの内容物を5時間加熱還流した。四つ口フラスコの内容物の色が、青色から茶色に変化した。還流後に、四つ口フラスコの内容物を水に投入し、吸引濾過することにより赤色をした残渣を得た。
【0147】
この残渣をアセトンで洗浄し、吸引濾過することにより、赤紫色をした残渣を得た。この残渣をクロロホルムで再結晶し、吸引濾過して赤色の結晶を得た。この結晶の融点は400℃以上であった。この結晶のIRチャートを図18に、蛍光スペクトルを図19に示した。この結晶は、構造式32で示される構造をしたN、N’−ジ(9−アントリル)ジメチル−2,9−ジメチルキナクリドンであった。
【0148】
【化32】
【0149】
前記構造式32で示されるキナクリドン誘導体はキナクリドン骨格における窒素原子にメチレン基を介してアントリル基を結合している。このアントリル基は青発光する原子団である。したがって、構造式32で示されるキナクリドン誘導体は、図19に示す蛍光スペクトルで示されるように、青みがかった白色に発光する。
【0150】
(実施例10)
三つ口フラスコに、実施例8における構造式30で示されるN,N’−ジデシル−2,9−ジブロモメチルキナクリドン0.78gとトリフェニルホスフィン1.05gとキシレン50mLとを収容し、三つ口フラスコの内容物を2時間還流した。その2時間が経過した後に、三つ口フラスコの内容物を放冷した後に吸引濾過し、残渣を濾取した。
【0151】
三つ口フラスコに、脱水エタノール50mLとリチウム1.39gとを収容しリチウムを溶解した、さらに前記残渣(N−デシル−イリドキナクリドン)0.65gとp−メトキシベンズアルデヒド0.20gとを収容した。三つ口フラスコの内容物を室温で24時間撹拌した。
【0152】
その後に、三つ口フラスコの内容物をエバポレータで濃縮乾固し、生成した固形物を水洗し、吸引濾過した。得られる残渣をメタノールで洗浄して結晶を得た。この結晶のIRチャートを図20に示した。この結晶は構造式33で示すキナクリドン誘導体であった。
【0153】
【化33】
【0154】
(実施例11)
四つ口フラスコに、2,9−ジメチルキナクリドン0.31gと脱水ジメチルフォルムアミド(DMF)50mLとを収容し、四つ口フラスコの内容物を120℃に加熱しながら30分間撹拌した。30分が経過した後に、四つ口フラスコの内容物を60℃にまで放冷し、四つ口フラスコに60%水素化ナトリウム0.24gを加えて四つ口フラスコの内容物を120℃に加熱しながら30分間撹拌した。そうすると四つ口フラスコの内容物が紫色から青色に変化した。次いで、四つ口フラスコの内容物を60℃にまで放冷し、その後に四つ口フラスコの内容物に1−クロロメチルピレン1.00gを加えて四つ口フラスコの内容物を5時間加熱還流した。四つ口フラスコの内容物の色が、青色から茶色に変化した。還流後に、四つ口フラスコの内容物を水に投入し、吸引濾過することにより赤色をした残渣を得た。
【0155】
この残渣をメタノールで洗浄し、吸引濾過することにより、赤色をした残渣を得た。この残渣をアセトンで抽出し、抽出液をエバポレータで濃縮した。得られた濃縮物をジエチルエーテルで洗浄し、再度吸引濾過して赤茶色の結晶を得た。この結晶のIRチャートを図21に示した。この結晶は、構造式34で示される構造をしたN、N’−ジ(1−ピレニルメチル)キナクリドンであった。この構造式34で示されるN、N’−ジ(1−ピレニルメチル)キナクリドンの蛍光スペクトルを図22に示した。
【0156】
【化34】
【0157】
この構造式34で示されるキナクリドン誘導体は、メチレン基を介してキナクリドン骨格における窒素原子に、ピレニル基を結合し、このピレニル基は青色発光する原子団であり、キナクリドン骨格自体が赤色発光する原子団であるから、このキナクリドン誘導体は赤みを帯びた白色発光化合物である。さらに青みを帯びた白色に発光させるには、前記構造式34で示されるキナクリドン誘導体に、2位及び9位(すなわちp−位)にピレニル基を置換するのが良い。
【0158】
(実施例12)
<キナクリドンユニットの合成>
1Lの四つ口フラスコにキナクリドン25gを収容し、さらにこの四つ口フラスコ内にDMF500mLを収容し、撹拌しながら110℃にまで昇温し、その温度で20分間撹拌した。
【0159】
四つ口フラスコの内容物を60℃にまで空冷し、60%水素化ナトリウムを、水素の発生に注意しながら加え、再び四つ口フラスコの内容物を110℃にまで加熱し、その温度で30分間撹拌した。
【0160】
四つ口フラスコの内容物を60℃にまで空冷し、次いで1−ブロモデカン71gを四つ口フラスコ内に投入し、その後に5時間加熱還流した。
【0161】
四つ口フラスコの内容物を空冷した後に、その内容物を、イオン交換水で製氷した氷水に、投入することにより、反応を停止した。
【0162】
氷水中に投入された内容物を希塩酸で中和し、ろ過し、生成した残渣を水及びメタノールで洗浄した。洗浄後の残渣をクロロホルムに溶解し、硫酸ナトリウムで脱水し、濾過した。得られる濾液を濃縮することにより得られる残渣をテトラヒドロフランで再結晶し、濾過した。得られた結晶をシリカゲルクロマトグラフィーで精製した。精製により得られた結晶2.31gのIRチャートを図23に示した。この結晶は、構造式35に示されるN,N’−ジデシルキナクリドンであった。
【0163】
【化35】
【0164】
200mL容の三つ口フラスコに前記構造式35で示されるN,N’−ジデシルキナクリドン1.83gと、ヨウ化カリウム3.08gと、ヨウ素酸カリウム2.65gとを収容し、さらに酢酸100mLを収容した。この三つ口フラスコの内容物を撹拌下に4時間還流した。4時間が経過した時に三つ口フラスコの内容物をエバポレータで減圧下に濃縮し、乾固した。濃縮乾固物に大量の水を加えて超音波洗浄機で分散処理をした後に吸引濾過した。
【0165】
得られた結晶をメタノールで洗浄し、乾燥した。乾燥した結晶をさらにクロロホルムに溶解し、シリカゲルクロマトグラフィーで精製して結晶を得た。この結晶のIRチャートを図24に示した。このIRチャートからこの結晶は構造式36で示されるN、N’−ジデシル−2,9−ジイオドキナクリドンであると同定された。
【0166】
【化36】
【0167】
200mLの三つ口フラスコに前記構造式36で示されるキナクリドン化合物2.99gとシアン化銅850mgとDMF100mLとを収容した.三つ口フラスコの内容物を撹拌しながら4時間還流した。4時間が経過したところで、三つ口フラスコの内容物をエバポレータで減圧下に濃縮した。濃縮物をクロロホルム250mLに投入して、クロロホルムが沸騰するまで加熱し、次いで自然濾過をした。得られた濾液を冷却することにより析出した結晶を吸引濾過して回収した。
【0168】
この結晶のIRチャートを図25にしめした。この結晶は構造式37で示されるN,N’−ジデシル−2,9−ジシアノキナクリドンであった。
【0169】
【化37】
【0170】
100mLの三つ口フラスコに前記構造式37で示されるキナクリドン化合物450mgと酢酸50mLとを収容し、三つ口フラスコの内容物を80℃に加熱しながら撹拌した。加熱撹拌を30分間継続した後に、三つ口フラスコの内容物を30℃にまで冷却し、硫酸40mLと水10mLとを混合した硫酸水溶液のうちその30mLを三つ口フラスコ内に投入し、次いで三つ口フラスコの内容物に亜硝酸ナトリウム80mgを10分間隔で5回投入した。三つ口フラスコの内壁に付着した亜硝酸ナトリウムを硫酸水溶液20mLで洗い流した。
【0171】
三つ口フラスコの内容物を80℃に加熱し、4時間撹拌した。その後に三つ口フラスコの内容物を冷却し、冷却した内容物を500mLの氷水に投入した。
【0172】
内容物が投入された氷水を吸引濾過し、得られた結晶を水、メタノール及び少量のクロロホルムで順次に洗浄した。
【0173】
洗浄された結晶を減圧下で乾燥した後に、結晶をDMF10mLに加熱溶解し、濾過することにより得られる濾液を室温に冷却して再結晶した。得られた結晶をメタノールで洗浄し、乾燥した。得られた結晶のIRチャートを図26に示した。この結晶は、構造式38で示されるN,N’−ジデシルキナクリドン-2,9-ジカルボン酸であった。
【0174】
【化38】
【0175】
30mLのナス型フラスコに構造式38で示されるN,N’−ジデシルキナクリドン-2,9-ジカルボン酸880mgと沸騰石とを入れ、さらに塩化チオニル3mLを入れた。ナス型フラスコの内容物を4時間加熱還流し、その後に空冷した。その後に、ナス型フラスコの内容物を蒸留して余剰の塩化チオニルを排出し、蒸留後の内容物をさらに1時間減圧蒸留して塩化チオニルを完全に除去した。ナス型フラスコの内部にある生成物のIRチャートを図27に示した。この生成物は、構造式39で示される。
【0176】
【化39】
【0177】
<ピレンユニットの合成>
20mLのナス型フラスコに、1−ピレンカルボン酸2.0g、沸騰石及び塩化チオニル10mLを装入し、このナス型フラスコの内容物を4時間加熱還流した。
【0178】
還流を停止し、2時間蒸留して余剰の塩化チオニルを蒸留により排出した。蒸留後、ナス型フラスコの内容物を1時間減圧蒸留してさらに塩化チオニルを排出除去した。減圧蒸留後の残渣は、構造式40で示される酸塩化物であった。
【0179】
【化40】
【0180】
500mLの四つ口フラスコに、テトラヒドロフラン170mLとピリジン2.4mLとヒドラジド一水和物4.06gとを、収容した。前記構造式40で示される酸塩化物2.0gをテトラヒドロフラン80mLに溶解した溶液を、四つ口フラスコの内容物に、内容物を氷冷しながら、滴下した。滴下後に、オイルバスで四つ口フラスコの内容物を40〜50℃に1時間加熱した。前記1時間の経過後に、四つ口フラスコの内容物を空冷してから、四つ口フラスコの内容物を800mLの氷水中に投入し、析出した結晶を吸引濾過した。得られた濾別固体をメタノールで洗浄し、水を除去し、減圧下に乾燥した。得られた結晶のIRチャートを図28に示した。この結晶は、構造式41で示されるピレンヒドラジドであった。
【0181】
【化41】
【0182】
<カップリング>
300mLの三つ口フラスコに、前記構造式41で示されるピレンヒドラジド1.09g(4.18mmol)とテトラヒドロフラン120mlとピリジン2.4mlとを、入れた。三つ口フラスコの内容物を氷水で冷やしながら、この三つ口フラスコに、構造式39で示されるジデシルキナクリドン酸塩化物1.29mmolを溶解したテトラヒドロフラン溶液60mLを、徐々に滴下した。滴下終了後に、オイルバスで、この三つ口フラスコの内容物を50℃に加熱しつつ1時間30分撹拌し、その後に30分間撹拌下に還流した。
【0183】
その後に、空冷し、三つ口フラスコの内容物を減圧下に半分の容積に濃縮し、その濃縮液を氷水に投入した。氷水に投入することにより析出した結晶を吸引濾過により濾別し、濾別した結晶をクロロホルム150mLに溶解し、硫酸ナトリウムで脱水した。吸引濾過により得られた濾液を濃縮乾固した。この結晶のIRチャートを図29に示した。この結晶は、構造式42で示す構造を有する化合物であった。
【0184】
【化42】
【0185】
10mLのナス型フラスコに、前記構造式42で示される化合物0.5gと塩化ホスホリル5mLとを収容した。このナス型フラスコの内容物を120℃に加熱しつつ6時間撹拌した。その後に、ナス型フラスコの内容物を氷水に投入し、10%水酸化ナトリウム溶液で中和し、吸引濾過した。濾過により得られた結晶を水で3回洗浄し、最後に少量のメタノールで洗浄した。洗浄後の結晶をさらにソクスレー抽出器により、メタノールで20回、トルエンで5回、アセトンで50回抽出し、精製した。得られた精製結晶のIRチャートを図30に示した。この精製結晶は構造式43に示す化合物であった。
【0186】
【化43】
【0187】
前記実施例9に示されたようにピレニル基は青色発光の原子団であり、キナクリドン骨格は赤色発光の原子団であるから、この構造式43で示されるキナクリドン誘導体は、白色発光するものと考えられる。またキナクリドン骨格における窒素原子にデシル基が結合するので有機溶媒に可溶になる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)で示されることを特徴とするキナクリドン誘導体。
【化1】
(但し、前記構造式(1)において、Xは−COOR1(但し、R1は水素原子、又は炭素数1〜5のアルキル基である。)、臭素原子、ヨウ素原子、芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜10(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基、−O−CH2CH2−O−の構造式(1A)を有し、前記構造式(1A)中の一方の酸素原子が前記構造式(1)におけるベンゼン環に結合するとともに他方の酸素原子が前記構造式(1)における4位のベンゼン環上炭素に結合するジオキサン形成基、−CH2−Ar(但し、Arは芳香族炭化水素基を示す。)で示される基、構造式(1B)で示される芳香族炭化水素基置換オキサジアゾール基(但し、構造式(1B)におけるArは芳香族炭化水素基を示す。)、又は−CH=CH−Arの構造式(1C)(但し、Arは芳香族炭化水素基を示す。)で示される芳香族炭化水素基置換ビニル基を示し、
【化2】
Yは、水素原子、又は、芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基であり、Xが臭素原子又はヨウ素原子であるときにはYは芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基である。)
【請求項2】
前記Yが芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基であるときに、前記Xが−COOR1a(但し、R1aは炭素数2〜10のアルキル基を示す)、芳香族炭化水素基を有しても良い炭素数1〜10(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基、構造式(2A)で示される芳香族炭化水素基置換オキサジアゾール基(但し、芳香族炭化水素基はピレニル基である。)、又は構造式(1C)で示される芳香族置換ビニル基であることを特徴とする前記請求項1に記載のキナクリドン誘導体。
【請求項3】
前記Yが芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基を示す場合に、このアルキル基に結合してもよい前記芳香族炭化水素基がフェニル基、アントリル基又はピレニル基であることを特徴とする前記請求項1又は2に記載のキナクリドン誘導体。
【請求項4】
前記Yが水素原子であり、前記Xが前記ジオキサン形成基である前記請求項1に記載のキナクリドン誘導体。
【請求項5】
前記Yが炭素数1〜20のアルキル基であり、Xが−CH2−Ar(但し、Arは芳香族炭化水素基を示す。)で示される基、構造式(1A)で示される芳香族炭化水素基置換オキサジアゾール基である前記請求項1に記載のキナクリドン誘導体。
【請求項1】
下記構造式(1)で示されることを特徴とするキナクリドン誘導体。
【化1】
(但し、前記構造式(1)において、Xは−COOR1(但し、R1は水素原子、又は炭素数1〜5のアルキル基である。)、臭素原子、ヨウ素原子、芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜10(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基、−O−CH2CH2−O−の構造式(1A)を有し、前記構造式(1A)中の一方の酸素原子が前記構造式(1)におけるベンゼン環に結合するとともに他方の酸素原子が前記構造式(1)における4位のベンゼン環上炭素に結合するジオキサン形成基、−CH2−Ar(但し、Arは芳香族炭化水素基を示す。)で示される基、構造式(1B)で示される芳香族炭化水素基置換オキサジアゾール基(但し、構造式(1B)におけるArは芳香族炭化水素基を示す。)、又は−CH=CH−Arの構造式(1C)(但し、Arは芳香族炭化水素基を示す。)で示される芳香族炭化水素基置換ビニル基を示し、
【化2】
Yは、水素原子、又は、芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基であり、Xが臭素原子又はヨウ素原子であるときにはYは芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基である。)
【請求項2】
前記Yが芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基であるときに、前記Xが−COOR1a(但し、R1aは炭素数2〜10のアルキル基を示す)、芳香族炭化水素基を有しても良い炭素数1〜10(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基、構造式(2A)で示される芳香族炭化水素基置換オキサジアゾール基(但し、芳香族炭化水素基はピレニル基である。)、又は構造式(1C)で示される芳香族置換ビニル基であることを特徴とする前記請求項1に記載のキナクリドン誘導体。
【請求項3】
前記Yが芳香族炭化水素基を置換していてもよい炭素数1〜20(芳香族炭化水素基を置換するときには芳香族炭化水素基の炭素数を除く。)のアルキル基を示す場合に、このアルキル基に結合してもよい前記芳香族炭化水素基がフェニル基、アントリル基又はピレニル基であることを特徴とする前記請求項1又は2に記載のキナクリドン誘導体。
【請求項4】
前記Yが水素原子であり、前記Xが前記ジオキサン形成基である前記請求項1に記載のキナクリドン誘導体。
【請求項5】
前記Yが炭素数1〜20のアルキル基であり、Xが−CH2−Ar(但し、Arは芳香族炭化水素基を示す。)で示される基、構造式(1A)で示される芳香族炭化水素基置換オキサジアゾール基である前記請求項1に記載のキナクリドン誘導体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
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【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【公開番号】特開2011−26317(P2011−26317A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151328(P2010−151328)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(593104615)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(593104615)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】
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