説明

キャビテーションピーニング方法および装置

【課題】被処理物の形状、精度などに影響されずに、安定したキャビテーションピーニング処理が可能なキャビテーションピーニング方法および装置を提供する。
【解決手段】金属の被処理物5に流体を噴射すると共にその流体のキャビテーションにより上記被処理物5の表面に圧縮残留応力を付与するキャビテーションピーニング方法において、上記流体を噴射するための噴射ノズル4を、大径の低圧ノズル2と該低圧ノズル2の軸心部に配置された小径の高圧ノズル3とで二重に構成し、その噴射ノズル4の噴出口10を上記被処理物5に臨ませ、上記高圧ノズル3にキャビテーションを発生させるための高圧流体を供給し、かつ上記低圧ノズル2に上記高圧流体よりも低圧な低圧流体を供給し、その低圧ノズル2を流れる低圧流体の流量を検出し、その検出した低圧流体の流量が所定の目標流量範囲内に収まるように、上記噴射ノズル4の噴出口10が上記被処理物5に対して近接・離間するように制御するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の被処理物に噴射した流体のキャビテーションにより被処理物の表面に圧縮残留応力を付与するキャビテーションピーニング方法および装置に関し、特に、フィレットR部を有するクランクシャフトなどの疲労強度向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
キャビテーションピーニング(キャビテーションショットレスピーニング:CSP)(以下、CPという)は、高圧ノズルとそれを取り囲む低圧ノズルのそれぞれから噴射される高圧流体と低圧流体とにより発生させたキャビテーション気泡が被処理物表面で崩壊する時の衝撃力を利用して、被処理物に圧縮残留応力を付与する表面処理技術である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このCP技術を用いて、軟窒化処理したクランクシャフト(以下、クランクという)のフィレットR部の疲労強度を向上させることが、例えば、特願2006−011373号(発明の名称:金属材の疲労強度向上方法)で提案されている。
【0004】
その疲労強度向上方法では、CP処理における処理能力の大小や処理範囲に影響を与えるパラメータの一つがノズルと被処理物とのクリアランスであり、その管理がCP処理において重要であることが記されている。なお、前提条件として低圧ノズルに対する高圧ノズルの位置は常に一定であり、そのような高圧ノズルと低圧ノズルを合わせて単に「ノズル」という。
【0005】
【特許文献1】特開2003−62492号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、クランク用にCPを装置化しようとすると、クランクのピン部がクランク回転時に旋回移動するため、常にピン部にノズルを追従させながらCP処理を施さなければならない。
【0007】
しかしながら、クランクにはカウンターウェイト部などがあり不均一な形状であることに加えて、曲がりもあるため、平面状の被処理物に処理をする場合とは異なり、ノズルとクランクのクリアランスを一定にしてもノズル噴射後の流出条件がピン部の周方向で異なることから流体の流量が場所によって変動し、特にノズル径の大きい低圧ノズル側の流体の流量に顕著に影響し、処理能力や処理範囲が均一で安定したCP処理を施すことができない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、被処理物の形状、精度などに影響されずに、安定したキャビテーションピーニング処理が可能なキャビテーションピーニング方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明は、金属の被処理物に流体を噴射すると共にその流体のキャビテーションにより上記被処理物の表面に圧縮残留応力を付与するキャビテーションピーニング方法において、上記流体を噴射するための噴射ノズルを、大径の低圧ノズルと該低圧ノズルの軸心部に配置された小径の高圧ノズルとで二重に構成し、その噴射ノズルの噴出口を上記被処理物に臨ませ、上記高圧ノズルにキャビテーションを発生させるための高圧流体を供給し、かつ上記低圧ノズルに上記高圧流体よりも低圧な低圧流体を供給し、その低圧ノズルを流れる低圧流体の流量を検出し、その検出した低圧流体の流量が所定の目標流量範囲内に収まるように、上記噴射ノズルの噴出口を上記被処理物に対して近接・離間させるものである。
【0010】
上記被処理物は、回転軸と、その回転軸に偏心させて取り付けられた偏心部とを有し、上記被処理物を上記回転軸回りに回転させると共に、その被処理物の偏心部に上記噴射ノズルを追従させて、該偏心部にキャビテーションピーニングを行うものでもよい。
【0011】
好ましくは、上記被処理物が、クランクシャフトからなり、そのクランクシャフトのジャーナル部が上記回転軸をなし、そのジャーナル部にクランクアーム部を介して取り付けられたクランクピン部が上記偏心部をなし、そのクランクピン部のフィレットR部にキャビテーションピーニングを行うものである。
【0012】
上記目的を達成するために本発明は、金属の被処理物に流体を噴射すると共にその流体のキャビテーションにより上記被処理物の表面に圧縮残留応力を付与するキャビテーションピーニング装置において、上記流体を噴射すべく、大径の低圧ノズルと該低圧ノズルの軸心部に配置された小径の高圧ノズルとで二重に構成され、噴出口を上記被処理物に臨ませて設けられた噴射ノズルと、その噴射ノズルを上記被処理物に近接・離間させるための駆動手段と、上記高圧ノズルにキャビテーションを発生させるための高圧流体を供給する高圧流体供給手段と、上記低圧ノズルに上記高圧流体よりも低圧な低圧流体を供給する低圧流体供給手段と、上記低圧ノズルを流れる低圧流体の流量を検出するための低圧流量検出手段と、その低圧流量検出手段で検出した低圧流体の流量を所定の目標流量範囲内に収めるべく、上記噴射ノズルの噴出口が上記被処理物に対して近接・離間するように上記駆動手段を制御する制御手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、被処理物の形状、精度などに影響されずに、安定したキャビテーションピーニング処理が行えるという優れた効果を発揮するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0015】
本実施形態のキャビテーションピーニング(以下、CPという)装置は、金属の被処理物に流体を噴射すると共にその流体のキャビテーションにより被処理物の表面に圧縮残留応力を付与するものである。そのCP装置は、例えば、流体として水を使用するものであり、被処理物である軟窒化処理されたクランクシャフト(以下、クランクという)の曲げ疲労強度を向上させるために使用される。
【0016】
まず、図2に基づき、本実施形態のCP装置が対象とするクランクの概略構造を説明する。
【0017】
図2に示すように、クランク5は、ジャーナル部(回転軸)32と、そのジャーナル部32から径方向外側に延出する複数対のクランクアーム部33と、そのクランクアーム部33を介してジャーナル部32に偏心して取り付けられたクランクピン部(偏心部)34と、クランクアーム部33に形成されたカウンターウェイト部35とを有する。
【0018】
クランクアーム部33とクランクピン部34(またはジャーナル部32)との接合部分は、R形状に形成されており、その接合部分がフィレットR部36をなす。そのフィレットR部36にCP装置によるCP処理が行われる。
【0019】
次に、図1に基づき、本実施形態のCP装置の概略構造について説明する。
【0020】
図1に示すように、本実施形態のCP装置1は、大径の低圧ノズル2内に小径の高圧ノズル3を配置してなる二重構造の噴射ノズル4と、その噴射ノズル4をクランク5に近接・離間させるための駆動手段6と、高圧ノズル3に高圧水を供給するための高圧流体供給手段7と、低圧ノズル2に低圧水を供給する低圧流体供給手段8と、低圧ノズル2を流れる低圧水の流量を検出するための低圧流量検出手段をなす低圧側流量センサ9と、その低圧側流量センサ9で検出した低圧水の流量が所定の目標流量範囲内に収まるように、噴射ノズル4の噴出口10をクランク5に対して近接・離間させるべく駆動手段6を制御する制御手段(以下、PCコントローラという)11とを備える。
【0021】
本実施形態では、噴射ノズル4の低圧ノズル2と高圧ノズル3とは同芯的に配置される。より具体的には、低圧ノズル2が噴射ノズル4の外形をなし、その低圧ノズル2内の軸心部に高圧ノズル3が配置される。その高圧ノズル3は、高圧ノズル3の噴出口12が低圧ノズル2の噴出口10よりも内方側にて開口するように、低圧ノズル2内に設けられる。
【0022】
噴射ノズル4(低圧ノズル2)は、噴出口10をクランク5のフィレットR部36(CP処理箇所)に臨ませて設けられ、それら噴射ノズル4とフィレットR部36との相対位置が駆動手段6により制御される。
【0023】
その駆動手段6は、CNC(コンピュータ数値制御)により制御される4軸のアクチュエータで構成される。具体的には、駆動手段6は、噴射ノズル4を位置決めするための3軸のノズル用モータ16と、クランク5を回転させるための被処理物用モータ(以下、クランク用モータという)17とを備える。
【0024】
図2に示すように、ノズル用モータ16は、噴射ノズル4を、x軸方向(図2において左右方向)、y軸方向(図2において紙面表裏方向)、およびz軸方向(図2において上下方向)に各々独立して移動、位置決め可能に構成される。具体的には、ノズル用モータ16は、x軸方向、y軸方向およびz軸方向の移動量および移動速度を検出するためのノズル用モータ位置センサ(図示せず)を有し、それらノズル用モータ位置センサの検出値がPCコントローラ11に入力されて、そのPCコントローラ11がノズル用モータ16をCNC制御する。
【0025】
クランク用モータ17は、クランク5を軸回りに(図2においてc方向に)回転、位置決め可能に構成される。具体的には、クランク用モータ17は、回転角(クランク位相角)および回転速度を検出するためのクランク用モータ位置センサ(図示せず)を有し、そのクランク用モータ位置センサの検出値がPCコントローラ11に入力されて、そのPCコントローラ11がクランク用モータ17をCNC制御する。
【0026】
高圧流体供給手段7は、水を所定圧(高圧側所定圧)に昇圧するための高圧ポンプ21と、その高圧ポンプ21と高圧ノズル3とを連通、接続する高圧管22とを備える。その高圧管22を介して高圧ポンプ21からキャビテーションを発生させるため高圧水が高圧ノズル3に供給される。
【0027】
高圧管22には、高圧ノズル3に供給される高圧水の流量を検出するための高圧側流量センサ23と、その高圧水の圧力を検出するための高圧側圧力センサ24とが設けられる。それら高圧側流量センサ23と高圧側圧力センサ24とは、検出値(流量、圧力)を出力すべくPCコントローラ11に接続される。また、高圧ポンプ21は、PCコントローラ11に接続されて、そのPCコントローラ11から制御信号が入力される。
【0028】
低圧流体供給手段8は、水を高圧ポンプ21の所定圧よりも低い所定圧(低圧側所定圧)に昇圧するための低圧ポンプ25と、その低圧ポンプ25と低圧ノズル2とを連通、接続する低圧管26とを備える。その低圧管26を介して低圧ポンプ25から低圧水が低圧ノズル2に供給される。
【0029】
低圧管26には、低圧ノズル2に供給される低圧水の流量を検出するための上記低圧側流量センサ9と、その低圧水の圧力を検出するための低圧側圧力センサ27とが設けられる。それら低圧側流量センサ9と低圧側圧力センサ27とは、検出値(流量、圧力)を出力すべくPCコントローラ11に接続される。また、低圧ポンプ25は、PCコントローラ11に接続されて、そのPCコントローラ11から制御信号が入力される。
【0030】
PCコントローラ11は、ノズル用モータ16およびクランク用モータ17をCNC制御するためのCNCドライバをなし、これらノズル用モータ16およびクランク用モータ17に制御信号を入力すべく接続される。
【0031】
また、PCコントローラ11は、高圧側および低圧側流量センサ9、23、高圧側および低圧側圧力センサ24、27から入力された検出値を基に、低圧および高圧ポンプ21、25を制御する。
【0032】
次に、図3から図6に基づき本実施形態のキャビテーションピーニング装置1を用いたキャビテーションピーニング方法について説明する。
【0033】
本実施形態では、クランク用モータ17によりクランク5を軸回りに回転させると共に、そのクランク5の回転に伴い旋回移動するクランクピン部34に、CNC4軸同時制御で噴射ノズル4を追従させ、処理速度一定制御でCP処理をする。
【0034】
そのCP処理中は、常に、低圧側流量センサ9で検出される低圧ノズル側の流量値をPCコントローラ11によりフィードバックさせ、処理位置(クランク位相角度位置)による流量の増減に合わせて噴射ノズル4の位置を補正する。このように、噴射ノズル4とフィレットR部36とのクリアランスgを変えることで、どの処理位置でも流量が目標流量範囲内に収まるようにする。
【0035】
より具体的には、まず、図5の結果となるCP処理条件(圧力一定)を基に、図6に示す流量の範囲を低圧ノズル2を流れる水の目標流量範囲に設定する。
【0036】
つまり、図5のピーニング強度とクリアランスgとの関係から、所望のピーニング強度が得られる目標クリアランス範囲を求め、図6のクリアランスgと流量との関係とから、目標クリアランス範囲が得られる目標流量範囲を求め、その目標流量範囲をPCコントローラ11に設定する。
【0037】
次に、図3に示すフィードバック制御のロジックをPCコントローラ11に実行させて、クランク5にCP処理を行う。
【0038】
そのCP処理に際して、PCコントローラ11は、予め設定された目標流量範囲と、低圧ノズル2側に設けた低圧側流量センサ9から送られる実際の流量のデータとを受けて、噴射ノズル4の位置の補正量を計算し、噴射ノズル4の噴出口10とクランク5のフィレットR部36とのクリアランスgを調節する。例えば、図2の4軸同時制御(xyzc)において、その内の2軸(xz)をノズル位置の補正に用いる。
【0039】
これによりどの処理位置でも流量が安定しCPの処理能力を安定させることができる。
【0040】
なお、流量をCNCによりフィードバックさせるのは低圧側の流量だけだが、高圧ノズル3は詰まりやノズル径の拡大などの異常による流量の変化が想定されるので、流量の監視は、高圧ノズル3と低圧ノズル2とに対して行い、圧力異常と流量異常でインターロックをかける。
【0041】
次に、本実施形態のCP処理の一例を図4のフローに基づき説明する。このフローは、PCコントローラ11により実行される。
【0042】
ステップS1では、PCコントローラ11は、高圧ポンプ21を起動して高圧ノズル3にキャビテーションを発生させるための高圧水を供給すると共に、低圧ポンプ25を起動して低圧ノズル2に低圧水を供給する。
【0043】
ステップS2、S3では、PCコントローラ11は、高圧側圧力センサ24および低圧側圧力センサ27の検出値を基に、高圧ポンプ21および低圧ポンプ25が正常に作動しているか否かを判断する。
【0044】
高圧ポンプ21および低圧ポンプ25が正常に作動している場合、PCコントローラ11は、ステップS4でクランク用モータ17を起動し(例えば、1rpm程度)、ステップS5、S6で、クランク用モータ位置センサ(図示せず)の検出値(クランク位相角)を基に、クランク位相角が所定範囲内か否かを判断する。
【0045】
クランク位相角が所定範囲内に収まる場合、PCコントローラ11は、ステップS7、S8で、クランク用モータ位置センサによりクランク回転速度を検出して、クランク用モータ17が正常に作動しているか否かを判断する。
【0046】
さらに、PCコントローラ11は、ノズル用モータ16を駆動して、噴射ノズル4をクランク5のクランクピン部34に追従させて、CP処理を施すべく噴射ノズル4の噴出口10をフィレットR部36に臨ませる。
【0047】
ステップS9では、低圧側流量センサ9により低圧ノズル2を流れる低圧水の流量が検出され、PCコントローラ11に入力される。そのPCコントローラ11は、検出された低圧水の流量が所定の目標流量範囲内に収まるように、噴射ノズル4の噴出口10をフィレットR部36に対して近接・離間させる。
【0048】
すなわち、ステップS10で、PCコントローラ11は、ステップS9で入力された低圧側流量が目標流量範囲内(図4では、設定範囲内)か否かを判断する。
【0049】
ステップS10で、低圧側流量が目標流量範囲内に収まる場合、ステップS1に戻り、再びステップS1からステップS10が実行させる。
【0050】
一方、ステップS10で、低圧側流量が目標流量範囲から外れる場合、PCコントローラ11は、ステップS11で噴射ノズル4を移動させる。
【0051】
具体的には、PCコントローラ11は、低圧水の流量が目標流量範囲の上限を超えるときに、噴射ノズル4をフィレットR部36に近接させて低圧水の流量を減少させ、目標流量範囲の下限以下のときに、噴射ノズル4をフィレットR部36から離間させて低圧水の流量を増大させる。これにより、噴射ノズル4から噴出した後の流出条件がクランク5の回転により変動しても流出量が一定となる。すなわち、例えば、図2において下側のフィレットR部36、36にCP処理を行う場合、噴射ノズル4から噴出した水は、カウンターウェイト部35に囲まれる領域を通るため、上側のフィレットR部36、36に比べて流出し難くくなると考えられるが、その場合に、本実施形態では、噴射ノズル4を下側のフィレットR部から離間させることで、流出量を一定にして、所望のピーニング強度を維持する。
【0052】
ステップS11で噴射ノズル4を移動させた後、PCコントローラ11は、ステップS9に戻る。
【0053】
以上のステップS1−S11は、例えば、ステップS6でクランク位相角が所定範囲を外れ、所望のフィレットR部36に対するCP処理が終了したと判断させるまで行われる。なお、ステップS6でクランク位相角が所定範囲を外れた場合、PCコントローラ11はステップS12にてクランク用モータ17およびノズル用モータ16を停止させた後、ステップS13にて高圧ポンプ21および低圧ポンプ25を停止させる。
【0054】
このように本実施形態のCP方法は、クランク5を回転させながら、フィレットR部36にCPを行うに際し、必ずしも、噴射ノズル4とフィレットR部36とのクリアランスgがいつも一定にはならず、付与される圧縮残留応力が一定にならないという問題の解決のために、低圧ノズル2から噴射される外側の低圧側の流量を測定し、その流量が一定になるように、噴射ノズル4をフィレットR部36に対して近接・離間させる(流量が低下したら離間させ、多くなったら近接させてクリアランスgを小さくする)という点に特徴がある。
【0055】
すなわち、従来、クランク5を回転させつつ、フィレットR部36にCPを施す方法では、クランク5の曲がりなどにより、噴射ノズル4とクランク5のクリアランスgが一定になりにくい。その結果、場所によっては、噴射ノズル4とクランク5の距離が近づきすぎてキャビテーション気泡の圧壊後に生ずる残留気泡の流出が滞りCPの処理能力が低下する。一方で噴射ノズル4とクランク5の距離が離れすぎても圧力が低下しCPの処理能力は低下する。
【0056】
より詳細には、低圧水中に高圧水を噴射すると高速流体のため圧力が低下しキャビテーションが成長し、加工面に当たると急激に圧力が上昇するため、キャビテーションが圧壊してCPを起こす。分解した気泡は微少な気泡となり離散するが、この微少な気泡は、キャビテーション核と比べるとサイズが大きいため、そのまま残留するとクッションとなり、次に起こるキャビテーション気泡の圧壊を妨げる。その結果、CPの能力が低下してしまうという問題が発生する。
【0057】
これを解消させるためには、前記の残留する微少な気泡を排出してやらなければならず、絶えず所定量の流出流量を確保し、残留微少気泡を排出させなければならない。
【0058】
そこで本実施形態では、CP処理中に、クランク5の曲がりや、局部的な加工誤差などにより、噴射ノズル4とフィレットR部36とのクリアランスgが一時的に微妙に変化し、そのクリアランスgが小さくなると流出流量が減少し、前記気泡の排出量が減少するので、クリアランスgを大きくし気泡の排出を促進させる。他方、クリアランスgが大きくなった(流量が増量した)場合には、気泡の排出は促進されるものの、圧力が低下してCPの能力に影響するので、クリアランスgが小さくなるほうに噴射ノズル4を制御し、所定流量の範囲を維持するようにする。
【0059】
このように本実施形態では、低圧側の流出流量を所定の一定値にすべく、ノズルを近接・離間させることで、CPの処理能力の低下を抑制することができる。
【0060】
つまり、流出流量を一定とすることで、クッションとなる残留微少気泡の排出を常に所定範囲内に管理することができる。
【0061】
その結果、クランク5の全周にわたって、水の特性や、フィレットR部36の形状、精度などに影響されずに、安定したキャビテーションピーニング処理を行うことができる。
【0062】
また、本実施形態では、キャビテーションピーニングを行うことで、軟窒化により形成され耐摩耗性に影響する化合物層を剥離・削除させることなく残したまま、曲げ疲労強度向上のための圧縮残留応力を付与することができる。
【0063】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されず、様々な変形例や応用例が考えられるものである。
【0064】
例えば、CPに使用する流体は、水に限定されず、キャビテーションが発生する様々な液体などが考えられる。
【0065】
また、被処理物は、クランク5に限定されず、例えば、平板状のものでもよい。
【0066】
また、駆動手段におけるCNC制御軸の構成としては、装置規模やコスト面を考慮して最適なものが選択できる。例えば、図7に示すような、4軸同時制御(xyzc)にノズル位置の補正用に1軸(u)を加えたものでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、本発明に係る一実施形態によるキャビテーションピーニング装置の模式図である。
【図2】図2は、本実施形態の噴射ノズルの制御軸を説明するための図である。
【図3】図3は、本実施形態のフィードバック制御のロジックを説明するためのブロック図である。
【図4】図4は、本実施形態のキャビテーションピーニング方法によるフローの一例である。
【図5】図5は、ピーニング強度とクリアランスとの関係を説明するための図である。
【図6】図6は、低圧流体の目標流量範囲を説明するための図である。
【図7】図7は、他の実施形態の噴射ノズルの制御軸を説明するための図である。
【符号の説明】
【0068】
1 キャビテーションピーニング方法装置
2 低圧ノズル
3 高圧ノズル
4 噴射ノズル
5 クランク(被処理物)
6 駆動手段
7 高圧流体供給手段
8 低圧流体供給手段
9 低圧側流量センサ(低圧流量検出手段)
11 PCコントローラ(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の被処理物に流体を噴射すると共にその流体のキャビテーションにより上記被処理物の表面に圧縮残留応力を付与するキャビテーションピーニング方法において、
上記流体を噴射するための噴射ノズルを、大径の低圧ノズルと該低圧ノズルの軸心部に配置された小径の高圧ノズルとで二重に構成し、その噴射ノズルの噴出口を上記被処理物に臨ませ、
上記高圧ノズルにキャビテーションを発生させるための高圧流体を供給し、かつ上記低圧ノズルに上記高圧流体よりも低圧な低圧流体を供給し、その低圧ノズルを流れる低圧流体の流量を検出し、
その検出した低圧流体の流量が所定の目標流量範囲内に収まるように、上記噴射ノズルの噴出口を上記被処理物に対して近接・離間させることを特徴とするキャビテーションピーニング方法。
【請求項2】
上記被処理物は、回転軸と、その回転軸に偏心させて取り付けられた偏心部とを有し、上記被処理物を上記回転軸回りに回転させると共に、その被処理物の偏心部に上記噴射ノズルを追従させて、該偏心部にキャビテーションピーニングを行う請求項1記載のキャビテーションピーニング方法。
【請求項3】
上記被処理物が、クランクシャフトからなり、そのクランクシャフトのジャーナル部が上記回転軸をなし、そのジャーナル部にクランクアーム部を介して取り付けられたクランクピン部が上記偏心部をなし、そのクランクピン部のフィレットR部にキャビテーションピーニングを行う請求項2記載のキャビテーションピーニング方法。
【請求項4】
金属の被処理物に流体を噴射すると共にその流体のキャビテーションにより上記被処理物の表面に圧縮残留応力を付与するキャビテーションピーニング装置において、
上記流体を噴射すべく、大径の低圧ノズルと該低圧ノズルの軸心部に配置された小径の高圧ノズルとで二重に構成され、噴出口を上記被処理物に臨ませて設けられた噴射ノズルと、その噴射ノズルを上記被処理物に近接・離間させるための駆動手段と、上記高圧ノズルにキャビテーションを発生させるための高圧流体を供給する高圧流体供給手段と、上記低圧ノズルに上記高圧流体よりも低圧な低圧流体を供給する低圧流体供給手段と、上記低圧ノズルを流れる低圧流体の流量を検出するための低圧流量検出手段と、その低圧流量検出手段で検出した低圧流体の流量を所定の目標流量範囲内に収めるべく、上記噴射ノズルの噴出口が上記被処理物に対して近接・離間するように上記駆動手段を制御する制御手段とを備えたことを特徴とするキャビテーションピーニング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−213067(P2008−213067A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51787(P2007−51787)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】