説明

キャピラリ電気泳動装置、及びサンプルトレイ

【課題】
本発明は、サンプルプレートをオートサンプラに載置している間に、サンプルプレートに保持された試料が変質・劣化することを防ぐことを目的とする。
【解決手段】
本発明は、サンプルプレートを保持するサンプルトレイ、又はキャピラリ電気泳動装置のオートサンプラに冷却機構を設け、サンプルプレートを冷却するようにしたものである。本発明によれば、オートサンプラ上での試料の変質・劣化を抑制できるため、泳動データの信頼性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャピラリ電気泳動装置、特に複数のキャピラリを用いてDNA,タンパク質等の試料を分離分析するキャピラリ電気泳動装置、及びこの電気泳動装置による分離分析に用いられるサンプルトレイに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、キャピラリに高分子ゲルやポリマー溶液等の電気泳動媒体(分離媒体)を充填したキャピラリ電気泳動装置が広く用いられるようになってきた。
【0003】
例えば、特許文献1(特許第2776208号公報)に示されているような、キャピラリ電気泳動装置は、従来から用いられてきた平板型電気泳動装置に比べて、熱放散性が高く、より高い電圧を試料に印加することができるため、高速で電気泳動を行うことができる長所がある。また、試料(サンプル)が微量で済む点や、分離媒体の自動充填やサンプルの自動注入ができる点等、数多くの利点があり、DNAやタンパク質の解析をはじめ、様々な分離分析測定に利用されている。
【0004】
このDNAシーケンサは、シリンジやポンプを用いたキャピラリへのポリマー(分離媒体)の充填や、サンプルのキャピラリへの導入等が自動で行える機構を含んでいるため、終夜運転等の無人状態であっても、連続して試料の分離分析測定を行うことが可能になっている。
【0005】
ところで、電気泳動を行おうとする試料は、通常、溶媒に溶解された状態で容器に分注される。例えば、DNAの分離分析を行う場合であれば、予めPCR(polymerase chain reaction)等の手法で分析対象のDNAを増幅させてから行う。そのため、このPCR装置によるDNAの増幅反応に用いたサーマルサイクラー用サンプルプレートやPCR用サンプルチューブを、その精製したDNAについてキャピラリ電気泳動装置で分離分析測定する際にも、試料容器(サンプル容器)として、そのまま用いることが多い。
【0006】
これにより、PCR装置で増幅反応させて精製した試料をキャピラリ電気泳動装置で測定する際に、その測定のために別の容器にわざわざ試料を移す必要もなくなり、そのままキャピラリ電気泳動装置で分離分析測定することができ、便利である。また、これらのサンプルプレートを、特許文献2(特開2001−324474号公報)に示されるようなアダプタに取り付けることによって、装置内でのサンプルの自動搬送が容易になる。
【0007】
【特許文献1】特許第2776208号公報
【特許文献2】特開2001−324474号公報
【特許文献3】特開2006−29814号公報
【特許文献4】特表平11−502937号公報
【非特許文献1】“各種プレートと泳動バッファ”、[online]、ベックマン・コールター株式会社、[平成20年6月16日検索]、インターネット〈URL:http://www.beckmancoulter.co.jp/product/product01/CEQ_plate.html〉
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明者が鋭意検討した結果、以下の課題を見出すことができた。
【0009】
キャピラリ電気泳動装置を用いて、連続して、試料を分離分析測定する場合、予め、測定する試料を測定回数分だけ装置にセットしておく必要がある。そのため、測定回数が多いときは、装置にセットする試料の数も多くなる。
【0010】
例えば、一般的によく使用されているサンプルプレート(試料容器)の一例として、サンプルを導入,保持しておくためのウェル(サンプル穴)がプレート上に16×24=384個あって、384検体を載せることができるサンプルプレート(384wellプレート)がある。このサンプルプレート2枚分の試料を、1回の測定で16検体同時に分離分析測定できるキャピラリ電気泳動装置で最大48回の連続測定を行うことになる。
【0011】
したがって、このような場合で、1回の測定時間が1時間の分離分析測定を行うならば、最初の試料の分離分析測定を開始してから最後の試料の分離分析測定を開始するまでに47時間を要することになり、測定開始の順番が後の試料は、装置にセットされてから自身の測定開始までの待機時間が非常に長くなる。
【0012】
その一方、例えば蛍光標識したDNA試料等電気泳動装置で分離分析測定する試料の中には、常温で長時間放置すると、蛍光体が分解したりする等の試料の変質・劣化が起こり、正確な測定に支障をきたすものもある。
【0013】
この課題を解決するためには、装置にセットされてから自身の分離分析測定が開始されるまでの待機時間の間、装置にセットされた試料の劣化防止をはかる必要がある。すなわち、電気泳動装置では、その正確な分離分析測定のためには、装置の中にセットされた試料が測定開始までの待機時間の間に変質しないように、試料を適宜温度で冷却保管できるようになっていることが望ましい。
【0014】
例えば、特許文献3(特開2006−29814号公報)には、装置自体に、測定待ちの多数のサンプルプレートを冷却しながら保管できるサンプルプレート保管槽を備えた電気泳動装置が示されている。
【0015】
この装置では、装置の中にセットされた複数のサンプルプレートのうち、測定待ちのサンプルプレートは、このサンプルプレート保管槽内で冷却されて保管され、電気泳動分析部で測定が開始されるまでの待機時間の間、サンプルプレートのウェルに保持されている試料を冷却して、試料の劣化を抑制できることが示されている。そして、測定が行われる際には、このサンプルプレート保管槽からサンプルプレートが取り出されて電気泳動分析部に搬送され、そのウェルに保持されている試料の分離分析測定が行われる構成になっている。
【0016】
そのため、測定のスループットが大きく、セットするサンプルプレート数が多い分離分析測定の場合、このような冷却機能を有したサンプルプレート保管槽を備えたキャピラリ電気泳動装置を用いれば、測定開始待ちのサンプルプレートを効率よく冷却保管しておくことができる。
【0017】
しかし、測定のスループットが小さく、セットするサンプルプレートの数も少ないようなキャピラリ電気泳動装置の場合は、このような冷却機能を有したサンプルプレート保管槽を用いてサンプルプレートを冷却保管しておくほどの枚数のサンプルプレートは使用しない。
【0018】
このようなスループットが小さく、セットするサンプルプレートの数も少ないキャピラリ電気泳動装置では、多くの場合は、テーブル上にサンプルプレートや必要な試薬類を並べたテーブル型のオートサンプラが用いられている。
【0019】
このテーブル型のオートサンプラを備えたキャピラリ電気泳動装置では、測定に際して、サンプルプレートをオートサンプラのテーブル上の所定位置に予め直接セットしておくことによって、このテーブル自体が適宜移動して、これから分離分析測定を行うサンプルをサンプルプレートの対応するウェルからキャピラリ内に導入する構成になっている。
【0020】
このようなスループットが小さく、セットするサンプルプレートの数も少ないキャピラリ電気泳動装置では、オートサンプラのテーブル上の所定位置に予め直接セットされたサンプルプレートがセットされてからその測定順が最後の試料の分離分析測定が開始されるまでの待機時間の間、サンプルプレートの各ウェルに保持された試料の劣化を抑え、各ウェルに保持された試料の温度状態を測定開始の状況から変化が生じないようにして、各ウェルに保持された試料それぞれの分離分析測定時の温度状態が試料間で変化が生じないように測定が行われることが重要になってくる。
【0021】
また、非特許文献1には、ディネーチャーを実施する機能が搭載されているキャピラリ電気泳動装置が開示されている。この機能はマイクロタイタープレートを加熱するものであり、サンプルプレートに保持された試料の変質・劣化を防ぐことを目的としたものではない。
【0022】
本発明は、サンプルプレートをオートサンプラに載置している間に、サンプルプレートに保持された試料が変質・劣化することを防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、サンプルプレートを保持するサンプルトレイ、又はキャピラリ電気泳動装置のオートサンプラに冷却機構を設け、サンプルプレートを冷却するようにしたものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、オートサンプラ上での試料の変質・劣化を抑制できるため、泳動データの信頼性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態に係るキャピラリ電気泳動装置、及びこれに用いられるサンプルトレイについて、図面に基づいて説明する。
【0026】
図1は、本発明の一実施の形態としてのキャピラリ電気泳動装置の概略構成図である。
図1において、本実施の形態のキャピラリ電気泳動装置1は、ポンプユニット10,恒温槽ユニット20,キャピラリアレイ30,高圧電源ユニット40,照射・検出ユニット50、及びオートサンプラユニット60を備えて構成されている。
【0027】
ポンプユニット10は、キャピラリアレイ30の各キャピラリ31に、分離媒体(分離ゲル)を充填するためのものである。ポンプユニット10は、内部に液流路11が形成され、表面にこの液流路11にそれぞれ連通する4つの連通接続口12a〜12dを備えたポリマーブロック12を含んで構成されている。このポリマーブロック12内部の液流路11は、これら連通接続口12a〜12cを介して、同じくポンプユニット10を構成するシリンジ13,分離媒体容器14,バッファ容器15に連通するとともに、連通接続口12dには、キャピラリアレイ30のキャピラリヘッド35が接続され、その各キャピラリ31にも連通する構成になっている。
【0028】
このような構成のポンプユニット10において、シリンジ13は、キャピラリ31に分離媒体を充填する際の、分離媒体の送液手段を構成する。また、分離媒体容器14は、分離媒体をキャピラリ31に供給できるように貯留しておく容器である。また、バッファ容器15は、電解質が溶解している緩衝液(バッファ液)を貯留しておく容器である。このバッファ容器15には、その貯留されている緩衝液を接地電位に保持するための接地電極16が設けられている。
【0029】
ポリマーブロック12内部の液流路11と分離媒体容器14との間を連通する分離媒体の吸引用液流路17aには、分離媒体容器14から液流路11側へ吸引した分離媒体が、分離媒体容器14側へ逆流するのを防止する逆止弁18が設けられている。同様に、ポリマーブロック12内の液流路11とバッファ容器15との間を連通するバッファ側分離媒体流路17bには、このバッファ側分離媒体流路17bの連通・遮断を行うための流路開閉弁19が設けられている。
【0030】
このような構成からなるポンプユニット10にあっては、流路開閉弁19によってバッファ液流路17bが遮断されている状態で、シリンジ13に設けられた図示省略したプランジャの作動移動に基づいて、分離媒体容器14から分離媒体がシリンジ13及び液流路11に吸い込まれ、このシリンジ13及び液流路11に吸い込まれた分離媒体が、ポリマーブロック12の連通接続口12dを介して、キャピラリアレイ30の各キャピラリ31に送出される。
【0031】
恒温槽ユニット20は、ペルチェ素子等といった温度調整素子を有した恒温槽21を備えている。この恒温槽21内には、キャピラリアレイ30を構成する複数のキャピラリ31がそれぞれ収容されるようになっている。恒温槽21は、温度調整素子を作動制御して槽内の温度を、対象試料の電気泳動による分析に好適な所定温度に保持する構成になっている。恒温槽ユニット20は、キャピラリアレイ30の複数のキャピラリ31それぞれの温度差異に起因する、試料の泳動速度の違いを低減する。
【0032】
キャピラリアレイ30は、例えば、外表面に15±5μm厚さのポリイミド被覆が施された、内径50±10μm,外径340±20μの溶融石英チューブからなり、試料を泳動分離する中空部材としてのキャピラリ31が、複数(例えば、16本)、一体的に保持されて構成されている。
【0033】
各キャピラリ31の一端側は、後述のサンプルプレート73のウェル71から試料をキャピラリ31内へ導入するための試料導入端31aになっている。そのため、各キャピラリ31の一端側は、導電性部材(例えば、ステンレス)で構成された導電性部材チューブ32にそれぞれ挿通されて、その試料導入端31aを導電性部材チューブ32から若干露出させた状態で、導電性部材チューブ32に固着されている。
【0034】
そして、各キャピラリ31の一端側、及び各キャピラリ31が挿通されている導電性部材チューブ32は、ロードヘッダ33によって、一列又は二次元配列の所定配置関係を有して一体的に保持されている。各キャピラリ31の一端側の導電性部材チューブ32とこれらを支持するロードヘッダ33に設けられた電極によって、装置との電気的導通が確保されている。
【0035】
一方、各キャピラリ31の途中部分には、外被のポリイミド被覆がキャピラリ31それぞれの長さ位置部分に対応させて除去され、励起光が照射される光照射部が形成されている。各キャピラリ31の光照射部同士は、キャピラリ検出部34によって互いに平行に一列にそろえられて並べられ、一体的に配列固定されている。キャピラリ検出部34は、励起光を各キャピラリ31の光照射部に照射し、この励起光の照射によって各キャピラリ31内に導入された蛍光標識試料から生じる蛍光を光照射部から検出できる構成になっている。
【0036】
各キャピラリ31の他端側は、分離媒体導入端31bになっており、キャピラリヘッド35によって1つに束ねられて一体的に固定保持されている。キャピラリヘッド35は、前述したポンプユニット10の連通接続口12dに、耐圧性を有して液密に着脱自在な接続構成になっている。
【0037】
そして、このような複数のキャピラリ31を並べそろえて一体的に保持してなるキャピラリアレイ30は、恒温槽21に対しても収容/取り出し自在になっていて、キャピラリ電気泳動装置1において、キャピラリアレイ30自体が交換可能になっている。
【0038】
このようなキャピラリアレイ30は、そのロードヘッダ33とキャピラリ検出部34との間のキャピラリ部分が恒温槽21に収容され、この部分の温度が均一かつ一定に保たれるようになっている。
【0039】
本実施の形態では、キャピラリアレイ30の試料導入端31aは、後述するオートサンプラユニット60のテーブル61の可動構成との関係で、装置内の所定位置に位置決めされる構成になっている。
【0040】
高圧電源ユニット40は、例えば15kV前後の高電圧を生成する高圧電源41を有し、高圧電源41は、例えばキャピラリアレイ30のロードヘッダ33に設けた電極に配線接続され、高圧電源41で生成した高圧電圧を供給する。これにより、キャピラリアレイ30の各導電性部材チューブ32が、オートサンプラユニット60に配置されたサンプルプレート73のウェル71内の試料中に浸漬された状態や、バッファ容器90の緩衝液(バッファ液)に浸漬された状態で、高圧電源ユニット40の高圧電圧を、ロードヘッダ33に設けられた電極を介して、試料導入端電極としての各導電性部材チューブ32から試料や緩衝液に印加できる構成になっている。
【0041】
照射・検出ユニット50は、励起光をキャピラリ検出部34に送出する励起光学系51と、キャピラリ検出部34からの蛍光を検出する受光光学系52とを有して構成されている。
【0042】
励起光学系51は、レーザやLED等の励起光光源で生成された励起光を、ミラー,ビームスプリッタ,集光レンズ等を用いて、キャピラリ検出部34に一体的に配列固定されている各キャピラリ31の光照射部に照射する。
【0043】
これに対し、受光光学系52は、検出レンズ,CCDカメラ、及びコンピュータを含み、励起光の照射によってキャピラリ検出部34から放出され、検出レンズを透過した蛍光を波長毎に分光してCCDカメラに結像し、画像信号として検出する。そして、この画像信号は、コンピュータによって演算処理し、試料の分析が行われる。
【0044】
オートサンプラユニット60は、サンプルトレイ70や、バッファ容器90をはじめとする電気泳動測定に必要な試薬を保持した各容器を、キャピラリアレイ30のロードヘッダ33、すなわち配列された複数のキャピラリ31の試料導入端31aに対して移動位置させる構成になっている。
【0045】
図2は、このオートサンプラユニットの概略構成を説明するためのオートサンプラユニットの斜視図である。
【0046】
図示の例では、オートサンプラユニット60は、テーブル61と、テーブル移動機構部62とを備えて構成されている。
【0047】
この場合、テーブル61は、矩形平面状のテーブル面63を有する盤状部材によって構成されている。テーブル移動機構部62は、図示せぬアクチュエータによって、この盤状部材からなるテーブル61を基台64に対して、図2に示すように、前後方向(X軸方向),左右方向(Y軸方向),上下方向(Z軸方向)の直行3軸方向に動かして、テーブル面63の位置を任意の3次元位置に移動調整する構成になっている。
【0048】
テーブル面63の図中のX方向手前側には、図中のY方向に沿って順に、バッファ容器90を着脱可能に保持できるバッファ容器保持部,洗浄水容器92を着脱可能に保持できる洗浄水容器保持部,廃液容器94を着脱可能に保持できる廃液容器保持部が形成されている。
【0049】
これに対し、テーブル面63の図中のX方向奥側には、図中のY方向に沿って順に、複数(図示の例では、2つ)のサンプルトレイ70−1,70−2を着脱可能に保持できるサンプルトレイ保持部が形成されている。
【0050】
ここで、バッファ容器90は、電気泳動時にキャピラリアレイ30の複数のキャピラリ31それぞれの試料導入端31aを浸す緩衝液(バッファ液)を保持する容器である。洗浄水容器92は、キャピラリ31内の分離媒体に対するコンタミを防止するため、試料液(試料溶液)や緩衝液に浸漬されたキャピラリアレイ30の試料導入端31a及び導電性部材チューブ32先端が浸漬され、これらを洗浄する洗浄液(水)を保持する容器である。廃液容器94は、廃分離媒体を溶解するための水を保持し、分離媒体の交換の際にキャピラリアレイ30の各キャピラリ31から排出される使用済み分離媒体を保管しておく容器である。
【0051】
次に、本実施の形態のサンプルトレイ70の構成について、図2及び図3に基づいて説明する。
【0052】
図3は、本実施の形態のサンプルトレイの断面図である。
サンプルトレイ70(70−1,70−2)は、電気泳動による測定対象となる試料を複数保持する試料保持部材である。サンプルトレイ70は、アダプタとしてのサンプルトレイベース72と、複数の試料を保持するサンプルプレート73と、試料の蒸発防止をはかるセプタ74と、サンプルトレイベース72と係合し、サンプルプレート73及びセプタ74をサンプルトレイベース72に対して一体的に保持するクリップ75とを含んで構成されている。
【0053】
試料の蒸発を防ぐためにセプタ74で蓋をした状態のサンプルプレート73は、サンプルトレイベース72にクリップ75で固定され、オートサンプラユニット60のテーブル面63のサンプルトレイ保持部に、サンプルトレイベース72とともに一体的に位置決め載置される。
【0054】
サンプルトレイベース72は、図示の例では、上面がサンプルプレート73の収容開口部72aとして開放された有底の脚付き箱体によって構成され、箱体内部はこの収容開口部72aを介して外部に開放されたウェル収容空間72bになっている。また、サンプルトレイベース72の外周面の所定位置には、クリップ75の係止部75aと係合する係合溝72cが形成され、クリップ75が着脱自在に取り付けられるようになっている。
【0055】
サンプルプレート73は、試料液を注入し、保持しておくための上面が開放された試料保持容器部としてのウェル71が配列形成された構成になっている。サンプルプレート73には、図示の例では、合計で384個のウェル71が、16行×24列で配列形成された構成になっている。これにより、1枚のサンプルプレート73には、384検体を載せることができるようになっている。サンプルプレート73は、その上面側が、各ウェル71が開口した平坦面になっているのに対し、下面側は、各ウェル71の容器部分がそれぞれ突出した形状になっている。サンプルプレート73の周縁部は、サンプルトレイベース72の開口端とクリップ75とによって挟持される。
【0056】
セプタ74は、試料液の蒸発を防止するためにサンプルプレート73の上面側を覆うように配置されるゴム製のシートで、各ウェル71に対応する位置に、キャピラリ31の試料導入端側の導電性部材チューブ32を挿通させるための切れ込み(図示省略)が形成されている。この切れ込みは、キャピラリ31の試料導入端側を挿通させるときの試料導入端側による押圧によって拡開し、キャピラリ31の試料導入端31a及び導電性部材チューブ32をウェル71内に挿通させることができるようになっている。キャピラリ31の試料導入端側が挿通されているとき以外は、セプタ74の切れ込みは閉塞した状態になっていて、ウェル71中の試料液の蒸発を防止できるようになっている。さらに、この切れ込みは、挿通されているキャピラリ31の試料導入端31a及び導電性部材チューブ32がウェル71内から退出するときは、その切れ込みリップがキャピラリ31の試料導入端側に付着したサンプル等を拭い取ることができるようにもなっている。
【0057】
なお、セプタ74に代えて、サンプルプレート73上面に試料蒸発防止の目的でフィルムを貼り付け、試料導入に先がけてキャピラリ31の試料導入端31aが挿入される位置に貫通穴を開けるような構成であってもよい。
【0058】
クリップ75は、サンプルプレート73のウェル71それぞれの位置に対応させて、キャピラリ31の試料導入端31aが挿通可能な貫通孔(図示省略)が形成された板状部を有し、その板状部側方から、先端側にサンプルトレイベース72の係合溝72cと係合可能な係止部75aが形成された脚部が延びた形状になっている。
【0059】
そして、サンプルプレート73が載置されたサンプルトレイベース72に対し、セプタ74を覆うように配置した後、クリップ75の係止部75aをサンプルトレイベース72の係合溝72cに係止することによって、サンプルトレイ70が構成される。
【0060】
上述した構成からなるキャピラリ電気泳動装置1では、その測定は図4に示すようにして行われる。
【0061】
図4は、キャピラリ電気泳動の測定の流れを示したフローチャートである。
キャピラリ電気泳動装置1は、装置電源がONされて装置が起動され(S010)、オートサンプラユニット60のテーブル61上のサンプルトレイ保持部に予め保持しておいたサンプルトレイ70に対する測定処理が開始されると(S020)、まず、キャピラリアレイ30を収容している恒温槽ユニット20の恒温槽21の温度が予め設定された対象試料の電気泳動による分析に好適な所定温度になるように、その温度調整を開始する(S030)。
【0062】
その際、キャピラリ電気泳動装置1は、恒温槽21の温度が所定温度になるまでは、次の処理を行わずに待機している(S040)。この温度調整中の待機状態では、オートサンプラユニット60はテーブル61を移動して、テーブル61上のバッファ容器90を、キャピラリアレイ30のロードヘッダ33下方のアレイ位置に位置させ、キャピラリ31の試料導入端側を緩衝液に浸漬させている。これは、待機状態にある試料導入端31aの分離媒体の乾燥を防止して、泳動時の分離能の低下等、測定精度の悪化を招く原因となるキャピラリ31内の分離媒体の乾燥に伴う変質を防ぐためである。
【0063】
その後、恒温槽21の温度が所定温度に到達したならば、オートサンプラユニット60はテーブル61を移動して、キャピラリ31の試料導入端31aからバッファ容器90を移動させた後、キャピラリ31内の廃分離媒体を排出するために、テーブル61上の廃液容器94をアレイ位置に移動させて、キャピラリ31の試料導入端側を廃液容器94の水に浸漬させる(S050)。それから、キャピラリ電気泳動装置1は、流路開閉弁19を閉弁して、シリンジ13のプランジャを作動移動して分離媒体容器14から吸引した分離媒体をキャピラリ31に注入し、キャピラリ31内の既存分離媒体を廃液容器94に押し出し、キャピラリ31内の分離媒体を置き換える(S060)。
【0064】
分離媒体の注入が完了すると、オートサンプラユニット60はテーブル61を移動して、キャピラリ31の試料導入端31aから廃液容器94を移動させた後、この試料導入端側を洗浄するために、テーブル61上の洗浄水容器92をアレイ位置に移動させてから、試料導入端側を洗浄水容器92に貯留されている洗浄水に浸漬させて、キャピラリ試料導入端31a及び導電性部材チューブ32の外面に付着した廃分離媒体を除去する(S070)。
【0065】
キャピラリ31の試料導入端31a及び導電性部材チューブ32の洗浄が完了すると、オートサンプラユニット60はテーブル61を移動してキャピラリ31の試料導入端31aから洗浄水容器92を移動させた後、バッファ容器90をアレイ位置に移動させ、キャピラリ31の試料導入端側を緩衝液に浸漬させる(S080)。
【0066】
キャピラリ電気泳動装置1は、このキャピラリ31の試料導入端側を緩衝液に浸漬させた状態で、流路開閉弁19を開弁して、その導電性部材チューブ32と接地電極16との間に、高圧電源41で生成される高電圧を印加し、予備泳動を行う(S090)。この予備泳動で、キャピラリ31内の分離媒体中にサンプルのない状態で、キャピラリ31内の分離媒体によって形成された通電路に電流を流すことによって、後述する電気泳動時の分離媒体の特性を安定化させるようになっている。
【0067】
キャピラリ電気泳動装置1は、高電圧の印加を停止し、予備泳動を完了すると、オートサンプラユニット60はテーブル61を移動してキャピラリ31の試料導入端31aからバッファ容器90を移動させた後、洗浄水容器92をアレイ位置に移動させて、キャピラリ31の試料導入端側を浸漬させて、試料導入端31a及び導電性部材チューブ32の外面に付着した緩衝液を除去する(S100)。
【0068】
キャピラリ31の試料導入端31a及び導電性部材チューブ32の洗浄が完了すると、オートサンプラユニット60はテーブル61を移動してキャピラリ31の試料導入端31aから洗浄水容器92を移動させた後、サンプルプレート73が一体的に保持されているサンプルトレイ70をアレイ位置に移動させ、キャピラリ31の試料導入端側をサンプルプレート73の今回電気泳動を行う順番のウェル71内の試料液に浸漬させる(S110)。これにより、導電性部材チューブ32と接地電極16との間に、ウェル71内の試料及びキャピラリ31内の分離媒体による通電路が形成される。
【0069】
キャピラリ電気泳動装置1は、キャピラリ31の試料導入端31a及び導電性部材チューブ32が測定対象の試料液に浸漬されている状態で、導電性部材チューブ32に高圧電源41で生成される高電圧を印加し、電気力学的にキャピラリ31内の分離媒体中に試料の導入を行う(S120)。
【0070】
キャピラリ電気泳動装置1は、高電圧の印加を停止し、キャピラリ31内の分離媒体中への試料の導入が完了すると、オートサンプラユニット60はテーブル61を移動して、キャピラリ31の試料導入端31aからサンプルプレート73のウェル71を移動させた後、洗浄水容器92をアレイ位置に移動させ、キャピラリ31の試料導入端側を洗浄水に浸漬させて、試料導入端31a及び導電性部材チューブ32の外面に付着した試料液を除去する(S130)。
【0071】
このキャピラリ31の試料導入端31a及び導電性部材チューブ32の洗浄が完了すると、オートサンプラユニット60はテーブル61を移動して、キャピラリ31の試料導入端31aから洗浄水容器92を移動させた後、バッファ容器90をアレイ位置に移動させ、試料が導入されているキャピラリ31の試料導入端側を緩衝液に浸漬させる(S140)。
【0072】
キャピラリ電気泳動装置1は、キャピラリ31の試料導入端31a及び導電性部材チューブ32が緩衝液に浸漬されると、導電性部材チューブ32に泳動電圧として高圧電源41で生成される高電圧を印加し、導入された試料の電気泳動を行う(S150)。
【0073】
電気泳動では、導入された試料が分離媒体の充填されているキャピラリ31内を泳動して通過する際、試料の大きさに応じて通過抵抗の小さい順に早く移動する。これにより、試料導入端31aに導入された試料は、その大きさが小さい順にキャピラリ検出部34に到達する。その際、励起光学系51からキャピラリ31の光照射部に照射された励起光によりキャピラリ31内に導入された試料から生じる蛍光を受光光学系52で検出する。その上で、この検出された蛍光に基づいて、サンプルプレート73の対応するウェル71内に保持されている試料の分析が行われる。
【0074】
このようにして電気泳動が完了したら、キャピラリ電気泳動装置1は、サンプルトレイ70のサンプルプレート73のそれぞれウェル71内に保持されている試料全てについて電気泳動が完了したか否か、また次の電気泳動があるか否かの判定を行う(S160)。そして、次の電気泳動がある場合は、オートサンプラユニット60はテーブル61を移動して、キャピラリ31の試料導入端31aからバッファ容器90を移動させた後、廃液容器94をアレイ位置に移動させて(S050)、キャピラリ31への新たな分離媒体の充填を行った後(S060)、ステップS070以降の処理を同様にして行って、次の試料の電気泳動を行う。一方、次の電気泳動がない場合は、電気泳動による測定を終了する(S170)。
【0075】
サンプルプレート73は、装置のオートサンプラユニット60に搭載するまでは試料の劣化を防ぐために冷却保管されているが、いったん装置に搭載されると、上述したステップS050〜S150に示す電気泳動による分離分析を繰り返すため、サンプルプレート73上の測定順が後の試料は、自身の測定までの待機時間の間常温に長時間さらされることで、試料の劣化を引き起こしてしまう。
【0076】
そこで、本実施の形態のキャピラリ電気泳動装置1、及びサンプルトレイ70では、測定待ちの待機時間によるサンプルプレート73のウェル71内の試料の劣化を抑えるために、冷却機構を備えている。
【0077】
以下、このサンプルプレート73の測定待ちの待機時間のための冷却手段について、実施例毎に説明する。
【実施例1】
【0078】
第1の実施例に係るキャピラリ電気泳動装置の冷却機構について、図2,図3により説明する。
【0079】
サンプルトレイベース72の底部中央部には、取付孔72dが形成されている。この取付孔72dには、ペルチェ素子101が、吸熱面(冷却面)をウェル収容空間72b側に向け、発熱面(放熱面)をウェル収容空間72b側とは反対側のサンプルトレイ70の外方側に向けて設けられている。また、この取付孔72dには、ペルチェ素子101の発熱面に当接させてヒートシンク102が設けられ、その凹凸形状の放熱部がサンプルトレイベース72の外部に露出するようになっている。ヒートシンク102は、ペルチェ素子101の発熱面(放熱面)の面積を実質的に増大させている。
【0080】
また、サンプルトレイベース72のウェル収容空間72bの底面は、冷却板としての金属板103によって、その略全域を覆われている。この金属板103は、ペルチェ素子101の吸熱面とも当接して、ペルチェ素子101の吸熱面(冷却面)の面積を実質的に増大させている。本実施例では、ウェル収容空間72bの冷却効果、サンプルトレイ70の搬送の際の利便性を考慮して、アルミニウム製の薄板が用いられている。
【0081】
このヒートシンク102及び金属板103によって、ペルチェ素子101によるウェル収容空間72bの吸熱(冷却)が、効率よく行えるようになっている。
【0082】
なお、必要に応じて、金属板103のサンプルプレート73に臨む表面には、電気的絶縁性及び熱伝導性を有する、例えばシリコンシートや樹脂シートといった熱伝導シートが貼付され、絶縁加工が施される。これは、キャピラリ電気泳動の場合、キャピラリ31の試料導入端31aをサンプルプレート73のウェル71に挿入し、キャピラリ31の両端に高電圧を印加して、試料を電気力学的にキャピラリ31内に導入することに関係して、その際におけるキャピラリ31と金属板103との間の放電を防止するためである。
【0083】
その上で、ペルチェ素子101には、その給電用ケーブル104の一端側が接続され、その他端側は、サンプルトレイベース72の脚部に配置されたコネクタ105と接続されている。さらに、本実施例では、サンプルトレイベース72の内壁部には、そのウェル収容空間72bに臨ませて、ウェル収容空間72bの温度を検出するセンサ106が設けられている。センサ106から引き出された信号線107も、コネクタ105と接続されている。
【0084】
一方、サンプルトレイ70が載置されるオートサンプラユニット60のテーブル面63のサンプルトレイ保持部には、コネクタ105が配置されたサンプルトレイベース72の脚部の位置決め載置位置に対応させて、このコネクタ105と結合可能なコネクタ108が設けられている。このコネクタ108には、ペルチェ素子101の駆動回路109から導出された給電用ケーブル110が接続されているとともに、この駆動回路109を駆動制御してウェル収容空間72bの温度制御を行う温度制御回路111の信号線112が接続されている。したがって、本実施例では、サンプルトレイ70をオートサンプラユニット60のサンプルトレイ保持部に載置すると、コネクタ105,108間の、給電用ケーブル104,110、信号線107,112の導通がはかられるようになっている。
【0085】
このような導通状態になると、温度制御回路111には、それまで別途冷却保管されていたサンプルプレート73が臨むサンプルトレイベース72のウェル収容空間72bの温度検出信号が、センサ106から温度制御回路111に供給されるようになる。温度制御回路111は、この供給された温度検出信号に基づいて駆動回路109を駆動制御し、ペルチェ素子101を作動制御して、サンプルプレート73、すなわちサンプルプレート73が臨むサンプルトレイベース72のウェル収容空間72bの温度を所定の冷却温度に保つように、ペルチェ素子101を作動制御する。
【0086】
本実施例では、ペルチェ素子101がその吸熱面(冷却面)によって冷却を行うと、その冷気が金属板103を介してウェル収容空間72bの底面全域に伝達し、ウェル収容空間72b内の雰囲気(空気)に伝達される。このため、サンプルプレート73に配列形成されたウェル71も、ペルチェ素子101に対するサンプルプレート73上の配列位置による影響を受けずにほぼ均等に冷却され、ウェル71内に分注された試料も冷却される。
【0087】
これにより、サンプルトレイ70のサンプルプレート73の各ウェル71内の試料は、その電気泳動測定のためにサンプルトレイ70がオートサンプラユニット60に載置されてから、全ての試料の電気泳動測定が完了してサンプルトレイ70がオートサンプラユニット60から搬送されるまで、上述した構成の冷却機構によって、所定の冷却温度に保持されている。
【0088】
この結果、電気泳動測定のためにキャピラリ電気泳動装置1にセットされたサンプルプレート73に係り、測定順が後のウェルに保持された試料の劣化を抑えることができる。
【0089】
また、サンプルプレート73の各ウェル71に保持された試料の測定時の温度状態も、測定開始からそれぞれ試料間で変化が生じないようになるので、測定待ち待機時間が非常に長くても試料の変質・劣化が防止でき、最後の泳動まで試料を劣化させずに使用することができるので、泳動データの信頼性が向上する。
【0090】
なお、本実施例では、センサ106及び温度制御回路111をサンプルトレイ70に設け、センサ106の出力に基づき温度制御回路111が駆動回路109を駆動制御するように構成したが、センサ106及び温度制御回路111を設けず、駆動回路109のみによってペルチェ素子101を一定駆動するように構成してもよい。
【0091】
また、駆動回路109等の回路部は、本実施例では、オートサンプラユニット60側に配置される構成としたが、サンプルトレイ70側に配置される構成としてもよい。
【実施例2】
【0092】
第2の実施例に係るキャピラリ電気泳動装置の冷却機構について、図5により説明する。なお、以下、実施例の説明に当たっては、前述した実施例に係るキャピラリ電気泳動装置1及びサンプルトレイ70と同一又は同様構成部分については、図中に同一符号を付し、その説明を省略する。
【0093】
図5は、本実施例に係るキャピラリ電気泳動装置の冷却機構の構成図である。
本実施例は、金属板103とサンプルプレート73との間の冷気の伝達を、第1の実施例では、ウェル収容空間72b内の雰囲気を媒体にして行っていたが、熱伝導率の良い金属製の冷却ブロック121を媒体にして行う構成とし、ペルチェ素子101によるサンプルプレート73の冷却効率の向上をはかったものである。
【0094】
本実施例では、前述した金属板103を構成するアルミニウム板に代えて、ウェル収容空間72bの形状に合わせた形状のアルミニウム製の冷却ブロック121に構成し、この冷却ブロック121をサンプルトレイベース72のウェル収容空間72bに配置する構成としている。
【0095】
そのために冷却ブロック121の外面形状は、ウェル収容空間72bを形成するサンプルトレイベース72の内面形状に合わせて、サンプルトレイベース72のウェル収容空間72bの底部部分に加えて、その内周壁部にも当接するような形状になっている。また、ウェル収容空間72bの開放側の、サンプルプレート73に面した冷却ブロック121の対向面には、サンプルプレート73に形成された各ウェル71に対応させて、ウェル71と嵌合するウェル収容孔122が形成されている。本実施例では、サンプルプレート70の電気泳動装置へのアダプタであるサンプルトレイベース72に冷却ブロック121を配したため、サンプルの自動搬送の容易さを保ったまま、サンプルの冷却保管を可能となっている。
【0096】
本実施例では、冷却ブロック121とサンプルトレイベース72とは別体構成としたが、冷却ブロック121とサンプルトレイベース72と同一部材により一体形成し、その外面を断熱部材により適宜被覆した構成とすることも可能である。
【実施例3】
【0097】
第3の実施例に係るキャピラリ電気泳動装置の冷却機構について、図6により説明する。図6は、本実施例に係るキャピラリ電気泳動装置の冷却機構の構成図である。
【0098】
本実施例では、第2の実施例で説明した冷却ブロック121の代わりに、ウェル収容孔132を有し、外殻形状がウェル収容空間72bの形状に合わせた密閉容器131を形成し、この密閉容器131に冷媒や冷却剤132を充填した上で、サンプルトレイベース72のウェル収容空間72bに配置した構成にしたものである、本実施例によれば、冷却効率の向上がはかれるとともに、サンプルトレイ73の軽量化もはかれる。
【0099】
なお、本実施例においても、サンプルトレイベース72のウェル収容空間72bの底面に、冷却板としての金属板103を設けるようにしてもよい。
【実施例4】
【0100】
第4の実施例に係るキャピラリ電気泳動装置の冷却機構について、図7により説明する。図7は、本実施例に係るキャピラリ電気泳動装置の冷却機構の構成図である。
【0101】
本実施例は、第1の実施例と同様な構成のサンプルトレイ73におけるサンプルトレイベース72のウェル収容空間72bの底面又は側面に攪拌用のファン141を設けて、ペルチェ素子101で生成し金属板103に伝達した冷気を、ファン141を回転させてウェル収容空間72b内に拡散させる構成になっている。
【0102】
なお、図中、142は、ペルチェ素子101及びファン141の駆動回路を表し、給電用ケーブル104,110は、ペルチェ素子101及びファン141それぞれの給電用ケーブルを纏めた給電用ケーブル集合体を表す。
【0103】
本実施例では、サンプルプレート73に配列形成されたウェル71が、ペルチェ素子101に対するサンプルプレート73上の配列位置による影響を受けずにさらに均等に冷却され、各ウェル71内に分注された試料も均等に冷却される。
【実施例5】
【0104】
第5の実施例に係るキャピラリ電気泳動装置の冷却機構について、図8により説明する。図8は、本実施例に係るキャピラリ電気泳動装置の冷却機構の構成図である。
【0105】
本実施例は、冷却機構として、ペルチェ素子101を設ける代わりに、サンプルトレイベース72のウェル収容空間72bに、氷又は保冷剤151を詰めたものである。この場合、断熱性の高い部材でサンプルトレイベース72自体を構成したり、サンプルトレイベース72の外表を断熱シートで被覆しておく等により、サンプルトレイベース72の断熱性を高くしておくことで、サンプルプレート73の長時間の冷却が可能となっている。
【実施例6】
【0106】
第6の実施例に係るキャピラリ電気泳動装置の冷却機構について、図9により説明する。図9は、本実施例に係るキャピラリ電気泳動装置の冷却機構の構成図である。
【0107】
図9において、その図9(A)は、本実施例におけるオートサンプラユニット60の正面概略構成図であり、図9(B)は、そのテーブルの平面構成図である。なお、以下、実施例の説明に当たっては、前述した図2に示したオートサンプラユニット60の構成と同一又は同様構成部分については、図中に同一符号を付し、その説明を省略する。
【0108】
本実施例は、キャピラリ電気泳動装置1の冷却機構を、第1〜第5の実施例とは異なり、サンプルトレイ70に代えて、オートサンプラユニット60のテーブル61に配置したことを特徴とする。
【0109】
テーブル面63の図中のX方向手前側には、図中のY方向に沿って順に、バッファ容器90を着脱可能に保持できるバッファ容器保持部161,洗浄水容器92を着脱可能に保持できる洗浄水容器保持部162,廃液容器94を着脱可能に保持できる廃液容器保持部163が形成されている。
【0110】
これに対し、テーブル面63の図中のX方向奥側には、図中のY方向に沿って順に、複数(図示の例では、2つ)のサンプルトレイ70(70−1,70−2)を着脱可能に保持できるサンプルトレイ保持部164(164−1,164−2)が形成されている。
【0111】
テーブル61のサンプルトレイ保持部164に該当するテーブル部分には、取付孔165が形成されている。
【0112】
この取付孔165には、ペルチェ素子166が、吸熱面(冷却面)をテーブル面63側すなわちサンプルトレイ70の載置側に向け、発熱面(放熱面)をテーブル面63とは反対の裏面側に向けて設けられている。ペルチェ素子166の吸熱面は、テーブル面63と同一面又はテーブル面63に対して突出するように配置され、ペルチェ素子166による吸熱方向をサンプルトレイ70の底部方向側に限定して、サンプルトレイ70の底部を効率的に冷却できるようになっている。さらに、ペルチェ素子166の吸熱面に当接させて、冷却板としての金属板167が設けられ、サンプルトレイ保持部164の全域を効率的に冷却できるようになっている。この金属板167は、例えばアルミニウム製の薄板によって構成されている。また、この取付孔165には、ペルチェ素子166の発熱面に当接させてヒートシンク168が設けられ、その凹凸形状の放熱部がテーブル61の裏面側に露出するようになっている。
【0113】
一方、サンプルトレイ70は、サンプルトレイベース72の脚部がサンプルトレイ保持部164及び金属板167を取り囲むように形成されており、この脚部の内周面には、サンプルトレイベース72のサンプルトレイ保持部164に対する位置合わせ部169が形成されている。図示の例では、この位置合わせ部169が金属板167の外周面と当接して、ペルチェ素子166及び金属板167にサンプルトレイベース72の底部を対向させて、テーブル面63上を滑動しないようにサンプルトレイベース72を保持する。
【0114】
そして、サンプルトレイベース72の脚部及び底部と金属板167とで、外部に対して密閉された空間170をサンプルトレイ70に形成するようになっている。この空間170は、サンプルトレイベース72の底部に形成された連通孔171を介して、サンプルプレート73が臨むサンプルトレイベース72のウェル収容空間72bと連通している。
【0115】
本実施例では、図示省略した駆動回路によってペルチェ素子166が駆動され、ペルチェ素子166がその吸熱面(冷却面)によって冷却を行うと、その冷気が、金属板167を介してサンプルトレイベース72の底部が臨む空間170に伝達する。さらに、冷気は、サンプルトレイベース72の底部に形成された連通孔171、及び底部自体を伝導して、ウェル収容空間72b内の雰囲気(空気)に伝達される。
【0116】
このため、本実施例の場合も、前述した実施例の場合と同様に、サンプルトレイ70のサンプルプレート73の各ウェル71内の試料は、その電気泳動測定のためにサンプルトレイ70がオートサンプラユニット60に載置されてから、全ての試料の電気泳動測定が完了してサンプルトレイ70がオートサンプラユニット60から搬送されるまで、上述した構成の冷却機構によって、所定の冷却温度に保持され、測定順が後のウェル71に保持された試料の劣化を抑えることができる。
【0117】
また、サンプルプレート73の各ウェル71に保持された試料の測定時の温度状態も、測定開始からそれぞれ試料間で変化が生じないようになるので、測定待ち待機時間が非常に長くても試料の変質・劣化が防止でき、最後の泳動まで試料を劣化させずに使用することができるので、泳動データの信頼性が向上する。さらに、本実施例の場合は、冷却機構をオートサンプラユニット60のテーブル61側に配置したので、複数のサンプルトレイ70に対して冷却機構を共用化できる。
【0118】
なお、本実施例では、サンプルトレイベース72の底部によって、ウェル収容空間72bと空間170とをその連通孔171によって常時連通された別空間で形成したが、底部を除去して、サンプルプレート73とサンプルトレイベース72の脚部と金属板167とで、テーブル面63上に外部に対して密閉された単一の密閉空間をサンプルトレイ70に形成するようにしてもよい。
【実施例7】
【0119】
第7の実施例に係るキャピラリ電気泳動装置の冷却機構について、図10により説明する。図10は、本実施例に係るキャピラリ電気泳動装置の冷却機構の構成図である。
【0120】
図10において、その図10(A)は、本実施例におけるオートサンプラユニット60の正面概略構成図であり、図10(B)は、そのテーブルの平面構成図である。
【0121】
本実施例では、テーブル61の、バッファ容器保持部161,洗浄水容器保持部162,廃液容器保持部163,サンプルトレイ保持部164(164−1,164−2)が形成された以外のテーブル領域部分に冷却機構の冷気生成部181が設けられている。
【0122】
本実施例では、冷気生成部181は、ペルチェ素子182,冷媒タンク183、及び循環ポンプ184を備えて構成されている。
【0123】
図示の例では、2つのサンプルトレイ保持部164(164−1,164−2)間のテーブル領域部分に、冷気生成部181の取付孔185が形成され、この取付孔185には、ペルチェ素子182が、吸熱面(冷却面)をテーブル面63側すなわちサンプルトレイ70の載置側に向け、発熱面(放熱面)をテーブル面63とは反対の裏面側に向けて設けられている。ペルチェ素子182の吸熱面は、冷媒を貯留する冷媒タンク183が当接して設けられている。また、この取付孔185には、ペルチェ素子182の発熱面に当接させてヒートシンク186が設けられ、その凹凸形状の放熱部がテーブル61の裏面側に露出するようになっている。循環ポンプ184は、取付孔185近くのテーブル面63に配置されている。
【0124】
一方、各サンプルトレイ保持部164(164−1,164−2)のテーブル面63上には、冷媒をサンプルトレイ保持部164全域にわたって通過するように冷媒の循環パイプ187が敷設されている。循環パイプ187の一端側は、循環ポンプ184の吐出側に連通され、循環パイプ187の他端側は、冷媒タンク183を介して、循環ポンプ184の吸込側に接続されている。
【0125】
これに対し、サンプルトレイ70は、サンプルトレイベース72の脚部がサンプルトレイ保持部164を取り囲むように形成されている。本実施例の場合、サンプルトレイ70の脚部の内周面は、テーブル61のサンプルトレイ保持部164の周縁部分にテーブル面63から立設された位置決め用の位置合わせ部188に係合して、サンプルトレイベース72は、底部を循環パイプ187が敷設されているサンプルトレイ保持部164に対向させて、テーブル面63上を滑動しないように保持されている。そして、サンプルトレイベース72の脚部及び底部とサンプルトレイ保持部164とで、外部に対して密閉された空間170をサンプルトレイ70に形成するようになっている。
【0126】
本実施例では、図示省略した駆動回路によってペルチェ素子182が駆動され、ペルチェ素子182がその吸熱面(冷却面)によって冷却を行うと、冷媒タンク183の冷媒が冷却される。冷媒タンク183の冷却された冷媒は、同じく駆動された循環ポンプ184によって循環パイプ187を通って冷媒タンク183に還流される。その際、サンプルトレイ70の空間170は、循環パイプ187を流れる冷媒によって冷却され、この空間170と連通したウェル収容空間72b内の雰囲気(空気)も冷却される。
【0127】
これにより、本実施例でも、第6の実施例の場合と同様に、測定順が後のウェル71に保持された試料の劣化を抑えることができる、等の効果を奏する。なお、本実施例では、冷気生成部181をオートサンプラユニット60のテーブル61に設置したが、冷気生成部181は、キャピラリ電気泳動装置1のオートサンプラユニット60以外の部分に設置してもよい。
【0128】
以上、本発明に係るキャピラリ電気泳動装置の実施例について説明したが、その冷却機構等の具体的な構成は、上述した実施例に限定されるものではない。例えば、第2〜5の実施例で述べた冷却機構の構成は、オートサンプラユニット60のテーブル61に配置した冷却機構の構成にも適用可能であるし、第5の実施例で述べた冷却機構のファンは、他の実施例にも組み合わせ可能である。
【0129】
そして、これら上述した実施例のキャピラリ電気泳動装置及びサンプルトレイによれば、サンプルプレートの測定順が後のウェルに保持された試料の劣化を抑え、また、各ウェルに保持された試料の温度状態を測定開始の状況から変化が生じないようにして、各ウェルに保持された試料それぞれの分離分析測定時の温度状態が試料間で変化が生じないようにすることによって、測定開始までの待機時間が非常に長くても試料の変質・劣化が起こるのを防ぎ、正確な測定が信頼性をもって行うことができる。
【0130】
また、連続回数の多い電気泳動時(分離分析時)に、測定時間までの待機時間が長くなっても、サンプルプレートの測定開始の順が後の試料を冷却保管しておくことができるので、試料の劣化を抑制でき、最後の電気泳動まで試料を劣化させずに使用することができるので、キャピラリ電気泳動装置による泳動データの信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】本発明の一実施の形態としてのキャピラリ電気泳動装置の概略構成図である。
【図2】本実施の形態のキャピラリ電気泳動装置に用いられたオートサンプラユニットの斜視図である。
【図3】本実施の形態のサンプルトレイの断面図であり、第1の実施例に係るキャピラリ電気泳動装置の冷却機構の構成図である。
【図4】本実施の形態のキャピラリ電気泳動の測定の流れを示したフローチャートである。
【図5】第2の実施例に係るキャピラリ電気泳動装置の冷却機構の構成図である。
【図6】第3の実施例に係るキャピラリ電気泳動装置の冷却機構の構成図である。
【図7】第4の実施例に係るキャピラリ電気泳動装置の冷却機構の構成図である。
【図8】第5の実施例に係るキャピラリ電気泳動装置の冷却機構の構成図である。
【図9】第6の実施例に係るキャピラリ電気泳動装置の冷却機構の構成図である。
【図10】第7の実施例に係るキャピラリ電気泳動装置の冷却機構の構成図である。
【符号の説明】
【0132】
1 キャピラリ電気泳動装置
10 ポンプユニット
11 液流路
12a〜12d 連通接続口
12 ポリマーブロック
13 シリンジ
14 分離媒体容器
15 バッファ容器
16 電極
17a 吸引用液流路
17b バッファ側分離媒体流路
18 逆止弁
19 流路開閉弁
20 恒温槽ユニット
21 恒温槽
30 キャピラリアレイ
31 キャピラリ
31a 試料導入端
31b 分離媒体導入端
32 導電性部材チューブ
33 ロードヘッダ
34 キャピラリ検出部
35 キャピラリヘッド
40 高圧電源ユニット
50 照射・検出ユニット
51 励起光学系
52 受光光学系
60 オートサンプラユニット
61 テーブル
62 テーブル移動機構部
63 テーブル面
64 基台
70 サンプルトレイ
71 ウェル
72 サンプルトレイベース
72a 収容開口部
72b ウェル収容空間
72c 係合溝
72d,165,185 取付孔
73 サンプルプレート
74 セプタ
75 クリップ
90 バッファ容器
92 洗浄水容器
94 廃液容器
101,166,182 ペルチェ素子
102,168,186 ヒートシンク
103 金属板
104,110 給電用ケーブル
105,108 コネクタ
106 センサ
107 信号線
109,142 駆動回路
111 温度制御回路
112 信号線
121 冷却ブロック
122 ウェル収容孔
131 密閉容器
132 冷媒または冷却剤
141 ファン
151 氷又は保冷剤
161 バッファ容器保持部
162 洗浄水容器保持部
163 廃液容器保持部
164 サンプルトレイ保持部
167 金属板
169,188 位置合わせ部
170 空間
171 連通孔
181 冷気生成部
183 冷媒タンク
184 循環ポンプ
187 循環パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が保持された試料容器を、キャピラリの導入端に対し、予め定められた手順に基づいて運搬するオートサンプラを備えたキャピラリ電気泳動装置であって、
前記オートサンプラのテーブル上の所定位置に載置された試料容器を冷却する冷却手段を備えていることを特徴とするキャピラリ電気泳動装置。
【請求項2】
前記冷却手段は、前記試料容器を保持するサンプルトレイに設けられている
ことを特徴とする請求項1記載のキャピラリ電気泳動装置。
【請求項3】
前記冷却手段は、前記試料容器が載置される前記オートサンプラのテーブル上の所定位置に設けられている
ことを特徴とする請求項1記載のキャピラリ電気泳動装置。
【請求項4】
前記冷却手段は、前記試料容器が載置される前記オートサンプラのテーブル上の所定位置とは別の位置に設けられ、
前記所定位置には、前記冷却手段によって冷却された冷媒を循環させる循環路が設けられている
ことを特徴とする請求項1記載のキャピラリ電気泳動装置。
【請求項5】
前記冷却手段がペルチェ素子である
ことを特徴とする請求項1記載のキャピラリ電気泳動装置。
【請求項6】
試料が保持される複数のサンプル穴が配列形成されたサンプルプレートと、
該サンプルプレートを保持するサンプルトレイベースと、
サンプル穴に保持されている試料の蒸発防止をはかるセプタと、
前記サンプルプレートの前記サンプル穴の開口側に対して該セプタを保持するように、前記サンプルプレートが保持されている前記サンプルトレイベースと係合し、前記サンプルトレイベースに対して前記サンプルプレート及び前記セプタを一体的に保持するクリップと
を備えたサンプルトレイであって、
前記サンプルトレイベースには、前記サンプルプレートに臨ませて冷却手段を設けたことを特徴とするサンプルトレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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