説明

キレート化合物であるポリ(2−オクタデシル−ブタンジオアート)および対応の酸、ポリ(2−オクタデシル−ブタンジオアート)、ならびにその使用方法

ポリマー骨格を含むキレート剤を提供する。このポリマー骨格は複数の炭素原子を有する。繰り返し単位当たり2つのカルボキシラート基またはカルボン酸基が存在し、骨格の別個の炭素原子に結合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ポリ(2-オクタデシル-ブタンジオアート)(及び対応の酸、ポリ(2-オクタデシルブタン二酸))に関し、より詳細には、キレート化合物としてのポリ(2-オクタデシル-ブタンジオアート)およびポリ(2-オクタデシル-ブタン二酸)の使用に関する。キレート化目的のためにポリ(2-オクタデシル-ブタンジオアート)およびポリ(2-オクタデシル-ブタン二酸)を使用する方法が本明細書に記載される。
【背景技術】
【0002】
先行技術の説明
キレート剤の使用は、先行技術において公知である。より具体的には、無数の目的および要件を満たすために開発されてきた込み合った先行技術によって包含される無数の設計にもかかわらず、重金属を結合する目的のために以前発明され利用されたキレート剤は、よく知られ、予想され、かつ自明の構造配置、および化合物から基本的になることが公知である。
【0003】
例として、水溶液から重金属を除去するために使用される化合物は、2つの一般的なカテゴリーである、不均一および均一のものに分類され得る。不均一材料は、水中において不溶性であり、遅い結合動態および低い吸着容量によって特徴付けられる。均一材料は、水中において可溶性であり、高い結合動態および比較的高い吸着容量を有する。例えば、Geckeler K、Lange G、Eberhardt H、Bayer Eは、Pure & Appl. Chem 52:1883-1905 (1980)において見られる、Preparation and Application of Water-Soluble Polymer-Metal Complexes(非特許文献1)を書いた。これらの著者は、不溶性キレート樹脂は、不均一相における反応および長い接触時間などの、少なからぬ不利益を有すると述べている。
【0004】
一般的に、ポリマーがキレート剤として従うべき次の3つの要件がある:(1)ポリマー錯体の水溶性を提供する構成上の繰り返し単位の十分な可溶化力、(2)高容量のための、錯化剤の多数の官能基、ならびに(3)ポリマーへ結合されてない金属からの通常の方法による容易な分離を可能にする、高い分子量。
【0005】
水溶性は、高含有量の親水性基、例えば、アミノ、ヒドロキシル、カルボキシル、アミドおよびスルホン酸基、またはポリマー骨格の親水性単位(エーテルまたはイミノ基)によって提供される。
【0006】
Bhattacharyya Dらは、米国特許第6544418号(特許文献1)において、IER(イオン交換樹脂)、例えば、強酸または弱酸陽イオン交換体が、重金属を回収するおよび/または高品質の水を作製するために広く使用されていることを教示している。これらのIERの典型的な理論容量は、5 meq/グラムである。この容量は非常に低い。Ni(II)については、IER 1グラム当たり金属0.15グラムだけの最大取り込みが可能である。いくつかの具体例を以下に提供する。
【0007】
不均一分離
キレート樹脂
Park IHおよびKim KM.は、Preparation of Chelating Resins Containing a Pair of Neighboring Carboxylic Acid Groups and the Adsorption Characteristics for Heavy Metal Ions(非特許文献2)を書いた。この論文は、Sep Sci and Tech, 40:2963-2986 (2005)において発表された。
【0008】
これらの著者は、彼らのマロン酸ポリマーについて、金属0〜52 mg/樹脂1グラムの吸着性を報告した。ここで報告された樹脂は、カルボン酸含有量に応じて、下記の吸着性(金属mg/樹脂グラム)を有した:
1.Pb(II) 17.71-52.21
2.Hg(II) 9.62-40.26
3.Cu(II) 20.44-25.73
4.Cd(II) 17.19-46.88
5.Ni(II) 4.16-10.56
6.Co(II) 16.07-31.82
7.Cr(III) 0.00-2.25
【0009】
上記結果は、20℃およびpH 5での28時間インキュベーションとして定義される非常に長いインキュベーションの後にのみ得られた。
【0010】
Bruening, RLらは、国際特許出願番号PCT/US92/02730(特許文献2)において、スペーサー基を介してケイ素原子へ共有結合され、さらに固体支持体へ共有結合された、ポリアルキレン-ポリアミン-ポリカルボン酸リガンドから形成されたキレートポリマーの製造を開示した。
【0011】
上記のシリーズのポリマーは、いくつかの理由で、本発明に記載されるものとは異なる。
【0012】
(1)上記のシリーズにおけるカルボキシラートまたはカルボン酸官能基は、ポリマー骨格中の隣接したまたはほぼ隣接した炭素原子上に配置されていない。
【0013】
(2)ポリマー骨格は、アミン官能性を含有する。これらの窒素原子上に配置された非結合性電子対は、これらのポリマーのキレート化能力に寄与し得、ポリマーの三次元コンフォメーションに寄与する。窒素原子は、本発明に記載されるポリマー中には存在しない。
【0014】
(3)カルボキシラートまたはカルボン酸基が、炭素原子を少なくとも1つ含有するペンダント鎖によってポリマー骨格へ結合されている。本発明に記載されるポリマー中のカルボキシラートまたはカルボン酸基は、ポリマー鎖へ直接結合されている。(文献に記載されるペンダント鎖の報告された重要性については、下記のYamaguchi,米国特許第6107428号(特許文献3)を参照のこと)。
【0015】
先行技術とは異なり、本発明におけるカルボキシラートまたはカルボン酸基は、ポリマー骨格へ直接結合されている。これらのカルボキシル基は、骨格上において互いに2、3、または4またはそれ以上の炭素の分だけ離れている場合がある。この構造は、骨格が潜在的にそれ自体を閉じ込め、一時的な非共有結合された環構造を形成することを可能にする。このようにして、前記環は、それがその環内にキレート化し得る分子またはイオンのサイズを潜在的に決定する。環が大きいほど、分子またはイオンが大きくなる。より重要なことには、キレート化される分子またはイオンを選択的に決定する環サイズの使用は、使用者が、より小さいまたはより大きい分子またはイオンを溶液中に残して、キレート化したいと考える分子またはイオンを決定することを可能にする。
【0016】
ヒドロゲル
Katime I.およびRodriguez E.は、Absorption of Metal Ions and Swelling Properties of Poly(Acrylic Acid-Co-Itaconic Acid) Hydrogelsを、J. Mactomol. Sci. - Pure Appl. Chem., A38(5&6), 543-558 (2001)(非特許文献3)において書いた。
【0017】
上記の著者らは、不溶性ヒドロゲルの結合特性を研究し、100〜1000分間のポリマー膨潤が金属吸着前に必要とされるので、このプロセスは非常に遅いことを見出した。さらに、速度は、ヒドロゲルおよびヒドロゲル−水界面領域内での金属拡散によって制限され、脱着は遅く、0.1 M硫酸溶液中において2日を要する。
【0018】
イオン交換膜
Sengupta S.およびSengupta AK.は、Characterizing a New Class of Sorptive/Desorptive Ion Exchange Membranes for Decontamination of Heavy-Metal-Laden Sludgesを書いた。彼らの論文は、Environ. Sci. Technol. 1993, 27, 2133-2140(非特許文献4)において発表された。
【0019】
著者らは、高度に多孔性のポリ(テトラフロオルエチレン)(PTFE)の薄いシート中に物理的にエンメッシュされたまたはトラップされた選択的キレート交換体を製造した。
【0020】
化学式(R-CH2-N(CH2COOH)2)を有する、陽イオン交換体は、窒素官能性を含有する。
【0021】
上述の陽イオンは、ジビニルベンゼンで架橋され、Rをスチレンモノマーにする。ポリマーマトリクス(R)は、キレートイミノアセテート官能基へ共有結合されている。
【0022】
動態研究において、Pb+2濃度は、450〜500分(約8時間)で210 mg/Lから125 mg/Lへ進み、このことは、この固相抽出が遅いことを示している。
【0023】
Bhattacharyya Dらは、米国特許第6544418号(特許文献1)において、複合ポリマーおよびシリカベース膜を作製および再生する方法を記載した。研究者らは、ポリアミノ酸の末端アミン基と膜上のエポキシド基の1つとを反応させることによって、ポリアミノ酸をシリカベース膜へ結合した。
【0024】
g Pb/g樹脂でのこれらの膜の容量は、以下の通りである:
ポリ-L-アスパラギン酸=0.12;
ポリ-L-グルタミン酸=0.30。
【0025】
これらの容量レベルは、従来のイオン交換/キレート化吸着剤のおよそ10倍である。著者らは、ポリアミノ酸官能化はこの効果について重要であると述べた。インキュベーション時間は約1〜2時間である。
【0026】
フィルム
Philipp WHらは、米国特許第5,371,110号(特許文献4)において、不水溶性ポリマーマトリクスポリ(ビニルアセタール)中に支持されたポリ(カルボン酸)から構成されるフィルムの製造を開示している。前記ポリマーは、ポリ(ビニルアルコール)およびポリ(アクリル酸)から作製された混合物を好適なアルデヒドおよび酸触媒で処理し、いくらかの架橋を伴うアセタール化を引き起こすことによって、作製される。アルデヒドとの反応は、(1)ポリ(カルボン酸)が水によってポリマーからもはや除去され得なくなるように、ポリ(アクリル酸)中に固定し、(2)フィルムを水中に不溶性にする(架橋による)。
結果を以下に与える:
初期[Pb]=16.37 ppm,
最終[Pb]=1.44 ppm(91%除去)
24時間インキュベーション。
【0027】
Davis Hらは、米国特許第3,872,001号において、水性媒体から重金属汚染物質を除去することができる多孔性フィルムを開発した。水性媒体から除去される重金属汚染物質と錯体を形成することができるキレート(例えば、EDTA)が、ポリマーフィルム骨格中の酸性基と反応される。
【0028】
キレート剤の中で最も好ましいのはEDTAであり、この手順は、溶液から水銀およびカドミウムの55〜95%を除去した。
【0029】
生物吸着
Davis TA、Volesky B、およびMucci A.は、Water Research 37 (2003) 4311-4330において、褐藻類による重金属生物吸着の生物化学のレビュー(a review of the biochemistry of heavy metal biosorption by brown algae)(非特許文献5)を提供している。
【0030】
褐藻類バイオマスは、水溶液からPb+2、Cu+2、Cd+2およびZn+2を除去する信頼できる予想可能な方法である。これは、一部分において、該藻類中の種々の多糖類の特定の構造コンフォメーションに起因する。この特定の構造配置なしには、結合は生じない。
【0031】
具体的には、アルギン酸またはアルギン酸の塩であるアルギネートは、鎖に沿って不規則なブロック様順序で配置された1,4-連結されたB-D-マンヌロン酸(M)およびα-L-グルロン酸(G)残基を含有する線形多糖類のファミリーへ与えられた一般名である。前記残基は、典型的に、(-M-)n、(-G-)nおよび(-MG-)nシークエンスまたはブロックとして存在し、ここで、「n」は整数である。MおよびGのカルボン酸解離定数は、それぞれ、pKa=3.38およびpKa 3.65と測定され、前記ポリマーについての類似のpKa値である。
【0032】
ポリマンヌロン酸は、平らなリボン様鎖であり、その分子繰り返し単位は、椅子形配座の2つのジエクイトリアルに(diequitorially)に連結されたβ-Dマンヌロン酸残基を含有する。対照的に、ポリグルロン酸は、ロッド様ポリマーを生じる椅子形の2つのジアキシアルに連結されたα-L-グルロン酸残基を含有する。2つのホモポリマーブロック間の分子配座のこの重要な差異が、重金属についてのアルギネートの可変の親和性を主に担うと考えられる。
【0033】
二価金属についてのポリグルロン酸残基のより高い特異性は、より容易にCa+2(および他の二価陽イオン)イオンを収容し得るその「ジグザグ」構造によって説明される。アルギネートは、カルシウムまたは同様のサイズの他の二価陽イオンの存在下でのポリグルロン酸シークエンスの鎖間二量体化を介して、規則正しい溶液ネットワークを採用すると考えられる。ポリ-L-グルロン酸セクションのロッド様形状は、カルシウムおよび他の二価陽イオンについて好適なキャビティを有する、配位部位のアレイを与える2つの鎖セクションのアライメントを生じさせ、その理由は、それらが、G残基のカルボキシラートおよび他の酸素原子で並べられているためである。この説明は「エッグボックス」モデルとして公知である。
【0034】
アルギネートでの、より重いイオンの優先的な結合は、立体化学的効果に起因し、その理由は、より大きなイオンが、2つの離れた官能基を有する結合部位によりよくフィットし得るためである。さらに、アルギネートにおける結合への鍵は、-COO-基に関しての酸素原子の方向であるようである。グルロン酸において、環酸素およびアキシアルO-1は、-COO-と共に立体的に好都合な環境を形成し、エクアトリアルと対照的である。
【0035】
均一分離
水溶性ポリマー
Rivas B. L.およびPereira E.は、Functional Water Soluble Polymers with Ability to Bind Metal Ionsを書き、彼らの研究をMacromol. Symp. 2004, 216, 65-76(非特許文献6)において発表した。Rivas BL.およびSchiappacasse LN.は、Poly(acrylic acid-co-vinylsulfonic acid) : Synthesis, Characterization, and Properties as Polychelatogenを書き、彼らの研究をJ. Appl Polym Sci, 88: 1698-1704 (2003)(非特許文献7)において発表した。
【0036】
主鎖または側鎖にリガンドを含有する水溶性ポリマー(WSP)が、均一相中における金属イオンの除去について研究された。これらのキレートポリマーは、ポリキレートゲン(polychelatogen)と呼ばれる。著者らは、これらのポリマーの技術的な局面について最も重要な要件には、水中におけるそれらの高い可溶性、容易かつ安価な合成経路、ならびに適切な分子量および分子量分布、化学的安定性、1つまたは複数の金属イオンについての高い親和性、ならびに関心対象の金属イオンの選択性があると述べている。
【0037】
高分子電解質はキレートポリマーと区別され得ることも教示されている。前者は、帯電基、または水溶液中において容易にイオン化可能な基を有し、一方、後者は、配位結合を形成する能力を有する官能基を保有する。
【0038】
膜濾過プロセスは、水溶性ポリマーの助けを借りての、無機種の分離のため、および希薄溶液からのそれらの濃縮のために、首尾よく使用され得る。この技術は、液相ポリマーベース保持、または「LPR」技術と呼ばれる。
【0039】
液相ポリマーベース保持システムの主な特徴は、膜濾過、リザーバーおよび圧力源、例えば、窒素ボトルである。
【0040】
別の分離技術は、水溶性ポリマーとの錯体形成続いての限外濾過(UF)による水溶液からの金属イオンの除去を含む。
【0041】
キレート化の動態は、時間感受性であり得、水溶性ポリマーの特徴に応じて、「一晩」までの、数時間を要し得る。
【0042】
これらの水溶性ポリマーは、pH=5で最も安定な錯体を形成し、70〜75%のCu(II)、Cd(II)、Co(II)、Ni(II)、Zn(II)、およびCr(III)を保持する。
【0043】
高イオン強度(.1M NaNO3)で、Ni(II)およびCu(II)の両方について、ポリキレートゲンは、低保持容量を示す(<10%)。これは、ポリイオンの電荷に対する前記単一の電解質(過度)の遮蔽効果によって説明され得る。前記単一の電解質濃度を低下させることによって(.01M NaNO3)、挙動は急激に変化する(イオンに応じて45〜90%保持)。
【0044】
Smithらは、米国特許第5766478号(特許文献5)において、標的金属と結合することができる水溶性ポリマーを報告し、ここで、ポリマー金属錯体が形成され、限外濾過によって分離される。
【0045】
このように形成されたポリマーは全て、窒素官能基を含有したか、またはクラウンエーテル誘導体であった。これらのポリマーは、30分インキュベーション時間を示した。
【0046】
文献に記載されたような、カルボキシラートおよびカルボン酸キレート基の制限
Bhattacharyya Dらは、米国特許第6544418号(特許文献1)において、ポリアミノ基はポリカルボン酸基よりも良いキレート化剤であると述べている。
【0047】
種々の吸着剤/イオン交換材料が、金属イオン封鎖に利用可能である。しかし、不運なことに、これらの全ては、それらが1結合部位当たりに有する、イオンと相互作用し得る官能基が多くとも2または3つであるという不利益に苦しむ。
【0048】
g Pb/g樹脂でのこれらの膜の容量は、以下の通りである:
ポリ-L-アスパラギン酸=0.12;
ポリ-L-グルタミン酸=0.30。
【0049】
これらの容量は、従来のイオン交換/キレート化吸着剤のおよそ10倍である。著者らは、ポリアミノ酸官能化はこの効果について重要であると述べている。
【0050】
Rivas BL、Pooley SA、Soto M、Aturana HA、Geckeler KEは、J. Appl Polym Sci 67. 93-100 (1998)において発表された、Poly(N,N'-dimethylacrylamide-co-acrylic acid) : Synthesis, Characterization, and Application for the Removal and Separation of Inorganic Ions in Aqueous Solution(非特許文献8)を書いた。
【0051】
著者らは、可溶性ポリカルボン酸中へのアミド官能性の組込みが、50%でとどまったPb(II)を除いては上記イオンの全てについて(60〜70%から)88〜90%へイオン保持を改善させた点で、ポリアミノ基はポリカルボン酸基よりも良いキレート化剤であると述べている。
【0052】
W. F McDonaldは、米国特許第6495657号(特許文献6)において、ポリアミドは重金属の結合についてポリカルボン酸よりも好ましいことを開示した。ポリアミドは、骨格の二次元構造のために、有効な重金属触媒である。アミドは、部分的二重結合配置で存在することが公知であり、そのために、ポリマー骨格の構造が、それら間の制限された回転を有する一連の二次元面となる。この構造配置は、結合および有用性を高めると述べられている。さらに、特許権者は、アミドを形成するために使用されるアミンを変えることによって、ポリマーの有用性および結合特徴がさらに変えられ得ると述べている。本発明においては、骨格中に窒素が存在しないことが、二重結合の形成を防止する。ポリマー骨格中の炭素結合の全てが、自由に回転することができる。上記の先行技術は、制限されたコンフォメーションが結合および有用性を高めると教示している。本発明においては、コンフォメーションを増加させることが、結合および有用性を高めると示されている。
【0053】
Yamaguchiは、米国特許第6,107,428号(特許文献7)において、有効なキレート化剤であるためには、カルボン酸基は、自由回転を有さなければならず、ポリマー骨格によって妨げられてはいけないことを開示している。従って、これらの著者らは、カルボン酸基は、ポリマー骨格へ直接結合され得ないことを教示している。
【0054】
マレイン酸またはアクリル酸のモノマーを重合することによって製造されるカルボン酸に基づくポリマーにおいて、カルボキシル基は主鎖へ直接結合し、このため、主鎖は、カルボキシル基の自由回転を妨げる。従って、カルボン酸に基づくこのようなポリマーは、金属イオン、特に、重金属イオンを捕獲することにおいて不十分な能力を与える。著者らは、水に可溶性でありかつ重金属イオンを捕獲する高い能力を有する所望の構造を有するポリマーを見つけた。モノマーは、二重結合から離れて結合された複数のカルボキシル基を有する分子構造を有する。従って、前記ポリマーは、主鎖へ直接結合されていない複数のカルボキシル基を含む分子構造を有し、このため、カルボキシル基の自由回転は、主鎖によって妨げられない。従って、前記ポリマーは、水中に可溶性であり、従来のキレート剤と比較した場合、無機粒子に対する優れた分散効果および重金属イオンを捕獲する高い能力を与える。
【0055】
Park IH.およびKim KM.は、Sep Sci and Tech, 40:2963-2986 (2005)において発表された、Preparation of Chelating Resins Containing a Pair of Neighboring Carboxylic Acid Groups and the Adsorption Characteristics for Heavy Metal Ions(非特許文献2)を書いた。著者らは、カルボン酸基がポリマー骨格へ直接結合されていない場合、より良い性能が得られると述べている。この研究において、2つの異なる種類の短い/長いマロン酸ペンダント基が、重金属への吸着性を最適化するために、キレートポリマー骨格へ付加された。著者らは、一対のカルボン酸基を含有するキレート樹脂を作製した。全ての場合において、これらは、ポリマー骨格からベンゼン環および2つのメチレン基または2つのメチレン基の分だけ離れていた。さらに、カルボン酸は両方とも、同一の炭素へ結合された。ペンダントキレート基中にスペーサー単位を有する樹脂は、スペーサーを有さないものよりも重金属イオンの吸着についてより利用しやすく、一対の隣接するキレート基間の間隔もまた、重金属イオンの有効な吸着のために制御された。重金属イオンに対するカルボン酸基含有キレート樹脂の吸着容量は、一般的に低い。著者らは、彼らのポリカルボン酸について18〜52 mg/gの最適吸着容量を報告している。これは、本発明のポリマーについて観察された290 mg/gよりも著しく少ない。
【0056】
Davis TA.、Volesky B.およびMucci A.は、Water Research 37 (2003) 4311-4330に発表された、A Review of the Biochemistry of Heavy Metal Biosorption by Brown Algae(非特許文献5)を書いた。著者らは、キレート化剤の三次元コンフォメーションが重要であると述べている。著者らはまた、キレート化を担う官能基は、好ましくは互いに離れているべきであると述べている。二価金属についてのポリグルロン酸残基のより高い特異性は、より容易にCa+2(および他の二価陽イオン)イオンを収容し得るその「ジグザグ」構造によって説明される。アルギネートは、カルシウムまたは同様のサイズの他の二価陽イオンの存在下でのポリグルロン酸シークエンスの鎖間二量体化を介して、規則正しい溶液ネットワークを採用すると考えられる。ポリ-L-グルロン酸セクションのロッド様形状は、カルシウムおよび他の二価陽イオンについて好適なキャビティを有する、配位部位のアレイを与える2つの鎖セクションのアライメントを生じさせ、その理由は、それらが、G残基のカルボキシラートおよび他の酸素原子で並べられているためである。この説明は「エッグボックス」モデルとして公知である。アルギネートでの、より重いイオンの優先的な結合は、立体化学的効果に起因し、その理由は、より大きなイオンが、2つの離れた官能基を有する結合部位によりよくフィットし得るためである。
【0057】
Park I-H. Rhee, J. M.、およびJung, Y. S.は、Die Angewandte Makromolekulare Chemie (1999) 27-34において発表された、Synthesis and Heavy Metal Ion Adsorptivity of Macroreticular Chelating Resins Containing Phosphono and Carboxylic Acid Groups(非特許文献9)を書いた。著者らは、重金属への、カルボン酸基のみを含有するキレート樹脂の吸着能は、非常に低かったと述べている。結果として、ジチオカルバメート、アミノメチルリン酸基、アミドオキシム、イミダゾール、メルカプトアミン、ジホスホネート、およびホスホノ基を含有する、種々の改善された樹脂が作製された。これらの改善された樹脂についての吸着容量は、依然として非常に低く、平均して約2 mg/g樹脂しかなかった。(比較すると、本発明に記載のポリマーは、150倍より大きい吸着容量を有した。)
【0058】
要約すると、本ポリマーの特徴は、文献によって予想されず、従って、記載の方法でキレート化を行うための該ポリマーの使用は、予想外であり、該ポリマーの新規かつ予想外の使用を構成する。本ポリマーは経験的に示される方法でうまくいかないことを教示する文献に反して、該ポリマーは、本明細書に記載されるように、新規な予想外の方法で機能することが実証された。
【0059】
先行技術において開示されたこれらの化合物は、それらのそれぞれの特定の目的および要件を満たすが、上述の特許および先行技術は、溶液から重金属を結合および除去するための再使用可能な化合物の使用を可能にする、キレート化合物であるポリ(2-オクタデシル-ブタンジオアート)およびポリ(2-オクタデシル-ブタン二酸)、ならびにその使用方法を記載していない。
【0060】
この点において、本発明に従うキレート化合物であるポリ(2-オクタデシル-ブタンジオアート)およびポリ(2-オクタデシル-ブタン二酸)、ならびにその使用方法は、先行技術に記載の従来の概念および化合物から実質的に外れており、そうすることで、溶液から重金属を結合および除去するための再使用可能な化合物を提供するという目的について主に開発された化合物を提供する。
【0061】
従って、溶液から重金属を結合および除去するめに再使用可能な様式で使用され得る、新規な改善されたキレート化合物であるポリ(2-オクタデシル-ブタンジオアート)およびポリ(2-オクタデシル-ブタン二酸)、ならびにその使用方法についての継続的必要性が存在することが、認識され得る。この点において、本発明は、この要求を実質的に満たしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0062】
【特許文献1】米国特許第6544418号
【特許文献2】国際特許出願番号PCT/US92/02730
【特許文献3】米国特許第6107428号
【特許文献4】米国特許第5,371,110号
【特許文献5】米国特許第5766478号
【特許文献6】米国特許第6495657号
【特許文献7】米国特許第6,107,428号
【非特許文献】
【0063】
【非特許文献1】Geckeler K、Lange G、Eberhardt H、Bayer E、Pure & Appl. Chem 52:1883-1905 (1980)、Preparation and Application of Water-Soluble Polymer-Metal Complexes
【非特許文献2】Park IHおよびKim KM.、Preparation of Chelating Resins Containing a Pair of Neighboring Carboxylic Acid Groups and the Adsorption Characteristics for Heavy Metal Ions、Sep Sci and Tech, 40:2963-2986 (2005)
【非特許文献3】Katime I.およびRodriguez E.、Absorption of Metal Ions and Swelling Properties of Poly(Acrylic Acid-Co-Itaconic Acid) Hydrogels、J. Mactomol. Sci. - Pure Appl. Chem., A38(5&6), 543-558 (2001)
【非特許文献4】Sengupta S.およびSengupta AK.、Characterizing a New Class of Sorptive/Desorptive Ion Exchange Membranes for Decontamination of Heavy-Metal-Laden Sludges、Environ. Sci. Technol. 1993, 27, 2133-2140
【非特許文献5】Davis TA、Volesky B、およびMucci A.、Water Research 37 (2003) 4311-4330、A Review of the Biochemistry of Heavy Metal Biosorption by Brown Algae
【非特許文献6】Rivas B. L.およびPereira E.、Functional Water Soluble Polymers with Ability to Bind Metal Ions、Macromol. Symp. 2004, 216, 65-76
【非特許文献7】Rivas BL.およびSchiappacasse LN.、Poly(acrylic acid-co-vinylsulfonic acid) : Synthesis, Characterization, and Properties as Polychelatogen、J. Appl Polym Sci, 88: 1698-1704 (2003)
【非特許文献8】Rivas BL、Pooley SA、Soto M、Aturana HA、Geckeler KE、J. Appl Polym Sci 67. 93-100 (1998)、Poly(N,N'-dimethylacrylamide-co-acrylic acid) : Synthesis, Characterization, and Application for the Removal and Separation of Inorganic Ions in Aqueous Solution
【非特許文献9】Park I-H. Rhee, J. M.、およびJung, Y. S.、Die Angewandte Makromolekulare Chemie (1999) 27-34、Synthesis and Heavy Metal Ion Adsorptivity of Macroreticular Chelating Resins Containing Phosphono and Carboxylic Acid Groups
【発明の概要】
【0064】
ポリ酸無水物(polyanhydride)PA-18または当業者に明らかであるような他の作製手段から作製される、ポリ(2-オクタデシル-ブタンジオアート)およびポリ(2-オクタデシル-ブタン二酸)は、新規な重金属吸着特性を有する。
【0065】
鉛(II)に対するこの不水溶性ポリマーの吸着能力は、他の不均一吸着剤よりも実質的に高く、均一系吸着剤で得られる吸着能力と等しい。基本的な特性/利点を下記に要約する。
【0066】
まず、不均一分離では、イオン水溶液と均一吸着剤との分離に関連する高圧限外濾過の使用は避けるという点で、水性媒体からのポリマーの分離(重力濾過)が容易であることが、が容易に明らかになる。また、重金属イオンの非常に速い吸着が生じる。キレート化の動態により、著しくより速い吸着が生じ、吸着能力は、他の不均一吸着剤で観察されるものよりも著しくより高い。開示される化合物は、ポリマーの1単位重量当たり、金属イオンに対して高効率の能力を有する。吸着能力は、均一系吸着剤と類似している。カルボン酸ナトリウムまたはカルボン酸カリウムの形態であるキレート化グループは、分離に対して比較的大きなpH範囲を提供する。ほとんどの吸着剤は、金属キレート化時に水素イオンを放出し、溶液のpHを絶えず変化させる。これは、吸着反応の動態(速度)および吸着剤の能力の両方を制限する傾向がある。キレート化は、高いナトリウムイオン濃度によっては変化しない。前記化合物は、鹹水溶液、海水、および尿を含む用途において使用され得る。多くの吸着剤は、高いナトリウムイオン含有量を有する溶液下では使用され得ない。重金属キレート化は、高いカルシウムイオン濃度を有する溶液中において達成され得る。開示される化合物は、硬水を含む用途において使用され得る。カルシウムイオンに関して水和エネルギーがより低いため、重金属と比較した場合、ほとんど全ての他の吸着剤は、優先的にカルシウムイオンに結合する。このことは、これらの吸着剤の能力および有用性の両方を制限する。
【0067】
全ての生物吸着剤は、ロット間の化学的な変動および広範囲の流通の不足による痛手を受け、不溶性支持体へポリマーを固定する手順は、著しい変動を受けやすい。このことは、ポリマーの性能および製造コストの両方に影響を与える。この変動は、本発明においては存在しない。
【0068】
最後に、本発明のポリマーは、1価、2価、および3価の陽イオンに結合することができる。ほとんどのポリマーがたった1つまたは2つの異なる酸化状態を有する金属に結合するという点で、このことは有利であり、かつ予想外のことである。
【0069】
ポリマーの基本的な特性
本明細書に記載されるポリマーは、親水性の重金属結合特性をもたらす、ポリマー骨格へ直接結合された多数のカルボン酸ナトリウム(もしくはカルボン酸カリウム)基またはカルボン酸基を含有する。該ポリマーは、不水溶性の疎水性脂肪族ポリマー骨格を含有する。水中における該ポリマーの可溶性の欠如は、水溶液からの分離を容易にするのに役立つ。該ポリマーは、特異的、選択的、かつ迅速な、重金属イオンおよび他の金属イオンの錯体形成を提供し、更に、キレートしているポリマーリガンドの再使用可能性も示す。
【0070】
吸着能力の比較
種々の吸収剤の吸着能力を、下記の表に示す。

【0071】
本明細書に記載されるポリマーは、有益ないくつかの可能性のある用途を有する。該ポリマーは、飲料水の浄化のため、有害廃棄物の処理または単離のため、および地下水の浄化のために使用され得る。該ポリマーはまた、環境中へ放出する前の産業排出物の処理剤として使用され得、または、金属表面に対する塗料用の結合剤として使用され得る。該ポリマーは、重金属/金属の毒性を処理するためのキレート薬としての用途、および採鉱作業において、低濃度で見出される金属の単離収率を増加させるための用途を有し得る。
【0072】
前述した、先行技術において現在存在する公知のタイプのキレート剤に固有の短所を考慮して、本発明は、改善されたキレート化合物であるポリ(2-オクタデシル-ブタンジオアート)およびポリ(2-オクタデシル-ブタン二酸)、ならびにその使用方法を提供する。従って、続いてより詳細に記載される、本発明の全般的な目的は、新規な改善されたキレート化合物であるポリ(2-オクタデシル-ブタンジオアート)およびポリ(2-オクタデシル-ブタン二酸)、ならびにその使用方法、ならびに先行技術の利点の全てを有し、かつ不利な点のいずれをも有さない方法を提供することである。
【0073】
これを達成するために、本発明は、ポリマー骨格を含むキレート剤を本質的に含む。該骨格は、不水溶性の疎水性脂肪族ポリマー構造である。該ポリマー骨格に直接結合されている、1繰り返し単位当たり2つの、カルボン酸ナトリウム基またはカルボン酸基が存在する。
【0074】
本発明のより重要な特徴を、以降のその詳細な説明がよりよく理解され得るために、かつ当技術分野への本貢献がよりよく認識され得るために、やや広く、このように概説した。当然ながら、本明細書において以下に記載される、および添付の特許請求の範囲の事項を形成する、本発明のさらなる特徴が存在する。
【0075】
この点において、本発明の少なくとも1つの態様を詳細に説明する前に、本発明が、下記の説明に記載されるまたは図面に例示される、構成の詳細および構成要素の組み合わせへの適用に限定されないことが理解されるべきである。本発明は、他の態様が可能であり、種々の様式で実施および実行され得る。また、本明細書において使用される言い回しおよび用語は、説明を目的としたものであることが理解されるべきであり、限定するものとしてみなさるべきではない。
【0076】
このように、当業者は、本開示が基づく概念が、本発明のいくつかの目的を実行するための他の配合物および方法の設計のための基礎として容易に利用され得ることを認識する。従って、特許請求の範囲は、それらが本発明の精神および範囲を逸脱しない限り、このような同等の配合物を含むと見なされることが重要である。
【0077】
従って、本発明の目的は、先行技術のキレート剤の利点の全てを有しかつ不利な点のいずれをも有さない、新規な改善されたキレート化合物であるポリ(2-オクタデシル-ブタンジオアート)およびポリ(2-オクタデシル-ブタン二酸)、ならびにその使用方法を提供することである。
【0078】
本発明の別の目的は、容易にかつ効率的に製造および市販され得る、新規な改善されたキレート化合物であるポリ(2-オクタデシル-ブタンジオアート)およびポリ(2-オクタデシル-ブタン二酸)、ならびにその使用方法を提供することである。
【0079】
本発明のさらなる目的は、容易に再現される、新規な改善されたキレート化合物であるポリ(2-オクタデシル-ブタンジオアート)およびポリ(2-オクタデシル-ブタン二酸)、ならびにその使用方法を提供することである。
【0080】
本発明のなおさらなる目的は、材料および労働力の両方に関して低コストの製造が可能であり、従ってその後、一般消費者への低価格の販売が可能である、新規な改善されたキレート化合物であるポリ(2-オクタデシル-ブタンジオアート)およびポリ(2-オクタデシル-ブタン二酸)、ならびにその使用方法を提供することであり、それによって、このようなキレート化合物であるポリ(2-オクタデシル-ブタンジオアート)およびポリ(2-オクタデシル-ブタン二酸)、ならびにその使用方法を一般購買者にとって経済的に利用可能とする。
【0081】
本発明のなおさらなる別の目的は、重金属を結合および除去するために再使用可能な化合物を使用するための、キレート化合物であるポリ(2-オクタデシル-ブタンジオアート)およびポリ(2-オクタデシル-ブタン二酸)、ならびにその使用方法を提供することである。
【0082】
最後に、本発明の目的は、キレート化する特性を有し、かつ、キレート化した溶液から再び産生することができ、化合物の再使用を可能にする、新規な改善された化合物を提供することである。
【0083】
これらは、本発明の他の目的と一緒に、本発明を特徴付ける新規性についての種々の特徴と共に、特に、本明細書に添付されかつ本開示の一部を形成する特許請求の範囲において指摘される。本発明、その運用上の利点およびその使用によって達成される具体的な目的のよりよい理解のために、本発明の好ましい態様が例示されている添付の図面および説明事項が参照されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0084】
本発明は、下記のその詳細な説明が考慮されると、よりよく理解され、上述のもの以外の目的も明らかとなる。このような説明は、添付の図面を参照する。
【図1】関連の構造および式を示す、化合物の図である。
【図2】2-オクタデシル-ブタン二酸アナログの、代替の合成の図である。
【発明を実施するための形態】
【0085】
好ましい態様の説明
ここで、図面、特にその図1を参照して、本発明の原理および概念を具体化し、参照数字10によって概して指定される、新規な改善されたキレート化合物であるポリ(2-オクタデシル-ブタンジオアート、ナトリウム)、ならびにその使用方法の好ましい態様を説明する。単純化して述べると、本明細書に記載されるポリマーは、カルボキシラートまたはカルボン酸基である、複数の反応基を含む。該反応基は、炭素骨格へ直接結合されている。
【0086】
合成のための、最初の、または第一の成分は、一般的に入手可能な、前記の成分である。第一の成分は、以下のように作製され得る。
【0087】
1.ポリカルボキシラートを、対応するポリ酸無水物から生成する。このポリ酸無水物は、“Process of forming copolymers of maleic anhydride and an aliphatic olefin having from 16 to 18 carbon atoms”という表題の、S. M. HazenおよびW.J. Heilmanへ付与された、米国特許出願第3,560,456号に記載および開示されるプロセスによって生成する。
【0088】
2.前記ポリカルボキシラートは、以下の手順によって前記ポリ酸無水物から生成する:
10グラムのポリ酸無水物PA-18を200 mlの4M NaOHに溶解し、85℃で2時間撹拌する。この反応混合物を冷却し、pHを6〜6.5へ調節し、真空濾過する。固体ポリマーを、冷却した、分析用の等級のメタノールで洗浄し、真空下で乾燥する。
【0089】
ポリカルボキシラートを生成するための他の方法がある。1つの方法は、ポリエステルを生成することである。引き続く、該ポリエステルの加水分解によって、ポリカルボキシラートが生成される。これらの反応スキームは、有機合成またはポリマー合成の当業者に対して自明である。
【0090】
前記ポリカルボキシラートは、2つの異なる結合部位集団を有する。繰り返し単位内の反応基は2炭素離れており、一方、繰り返し単位間の反応基は4炭素離れている。これらの2つの結合部位は、異なった金属キレート化親和性を有するという直接的な実験的証拠がある。いくつかの異なるポリカルボキシラートポリマーが、この方法で生成され得る。繰り返し単位内の反応基が4炭素離れており、繰り返し単位間では6炭素離れているポリカルボキシラートポリマー、ならびに、それぞれ6炭素(繰り返し単位内)および8炭素(繰り返し単位間)である対応するポリマーは、一時的な非共有結合された環系を潜在的に形成し得る。キレート化するために選択された金属イオンのサイズに合うようにポリマーを調整することによって、特異性が増強され得る。さらに反応基は、骨格に結合されなければならず、かつ隣接する炭素原子に結合される必要はない。柔軟性があるポリマー鎖は、前記金属を囲むことができ、それによってキレート化を増強することが可能である。
【0091】
図面
図1は、2つの可能な結合部位を示すポリ(2-オクタデシル-ブタン二酸)の形態を示す。図1は、化合物の第1の構造である。
【0092】
図2は、2-オクタデシル-ブタン二酸アナログの、代替の合成を示す。

ポリエステル > ポリカルボキシラートまたはポリカルボン酸

塩基または酸
図2は、化合物の第2の構造である。
【0093】
上記の反応順序において、反応物および生成物の両方におけるRは、メチルまたはエチルなどの脂肪族有機基であり、該反応物および該生成物の両方をエステルにする。上記の生成物は、塩基性または酸性のいずれかの媒体中においてエステルの加水分解によってさらに改変されて、それぞれ、ポリカルボキシラートまたはポリカルボン酸が生成され得る。塩基性媒体中における加水分解の場合、水酸化ナトリウムが使用されると、ポリカルボキシラートイオンのナトリウム塩が形成される(R=Na+)。同様に、水酸化カリウムが使用されると、ポリカルボキシラートイオンのカリウム塩が生じる(R=K+)。酸により触媒されるエステル加水分解が行われる(酸が上記の第2の反応において使用される)と、ポリカルボン酸が生成される(R=H)。
【0094】
これらのポリマーにおいて、カルボキシラートまたはカルボン酸基は、0〜8炭素原子の分だけ離れている。
【0095】
金属キレート化のための手順
バッチ吸着実験を、0.0500グラムの不溶性ポリ(2-オクタデシル-ブタンジオアート)またはポリ(2-オクタデシル-ブタン二酸)を、5.0 mlの金属イオン第1溶液へ添加することによって行った。不均一混合物は第2溶液を形成し、これを150 rpmで22℃において15〜60分間撹拌する。次いで、第2溶液を重力濾過する。従って濾過された溶液は金属イオンが取り除かれている。poly/金属イオン錯体は、ポリマーおよび吸着された金属イオンを含有する濾過ケーキの形態で濾別される(filter out)。
【0096】
ポリマーから金属イオンを回収するための手順
金属キレート化のために本明細書に記載のポリマーを使用することの重要な利点は、該ポリマーが、溶液中の金属と結合した後に回収可能であることである。回収可能性とは、該ポリマーが、金属を含有している溶液をキレート化するために再び使用され得るように、該ポリマーが次いで加工され、キレート化された金属から分離され得ることを意味している。該ポリマーを金属がキレート化された構造から分離することによって、該金属が加工およびリサイクルされるように残されるので、このような回収可能性は、より少ない全体的なコスト、および環境へのより少ない影響を意味している。ごみ埋立地を満たす代わりに、本明細書に記載の方法における該ポリマーの使用は、かつての有害物質を実用的な物質にし、金属イオンの供給源とすることを可能にする。
【0097】
回収のためのプロセスは、非常に直接的である。上述のように濾過した後、該ポリマーと吸着された金属イオンとを含有する固体濾過ケーキを、希酸溶液中で懸濁する。好ましい態様において、この希酸溶液は、2%硝酸(HNO3)溶液である。この不均一混合物を、およそ150 rpmで30分間撹拌する。次いで、このサンプルを重力濾過する。濾液は、水溶性金属イオンを含有し、除去された固体は、もはやpoly/金属イオン錯体ではない、polyを含有する。次いで、該金属イオンのリサイクルのため、該金属イオン水溶液は、溶液から該金属イオンを沈殿させるために希塩基で処理され得る。次いで、回収されたポリマー、すなわちpolyを含有する濾過ケーキが、polyの供給源として、キレート化手順において再使用され得る。
【0098】
この吸着剤および他の吸着剤の能力のために、溶液に対するポリマーの比は、完全に一定である必要がある。しかし、ポリマー 対 溶液の比は、溶液の金属イオンの濃度に依存して、約200倍変化し得るが、それにもかかわらず最適な結果を達成し得る。振盪速度もまた可変である。前記方法の好ましい態様は、150回転/分の振盪速度を使用するが、該振盪速度は、数回転/分から600回転/分まで変化し得る。
【0099】
キレート化の目的は、飲料水の浄化、有害廃棄物の処理または単離、地下水の浄化、環境中への放出前の産業排出物の処理、金属表面に対する塗料用の結合剤として、重金属/金属の毒性を処理するための薬剤として、および採鉱作業における、低濃度で見出される金属の単離収率を増加させるための使用などの、使用である。
【0100】
濾過は、円柱状の濾過装置の使用によって行われ得ることが留意されるべきであり、この濾過において、溶液は、カラム内に含有されている濾過媒体を通される。濾過は、本解説および特許請求の範囲の文脈において、吸引濾過およびカラム濾過を意味する。さらに、このような酸の濾過のために一般的に使用され入手可能である、任意の濾過手段が、本プロセスにおいて使用され得る。
【0101】
本発明の使用および作業の様式について、同様のことが、上記の説明から明らかである。従って、使用および作業の様式に関するさらなる解説は、提供しない。
【0102】
従って、上記の説明に関して、サイズ、材料、形状、形態、機能、ならびに、作業、組み合わせ、および使用の様式における変更を含む、本発明の一部に関する最適な次元的関係が、当業者に容易に明らかかつ自明であると見なされ、かつ、図面に例示され本明細書において説明されたものと同等な関係の全てが本発明に包含されるように意図されることが、理解されるべきである。
【0103】
従って、前述のものは、本発明の原理を例示するに過ぎないと見なされる。さらに、多数の変更および変化が当業者に応じて容易に生じうるので、本明細書で示され説明されたまさにその構造および作業に本発明を限定することは望ましくなく、従って、全ての適切な変更および同等物が本発明に用いられ本発明の範囲内に含まれ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の炭素原子を有するポリマー骨格;および
該骨格の別個の炭素原子に結合されている複数の反応基
を含む、図2に示されるキレート剤。
【請求項2】
反応基がカルボキシラート基である、請求項1記載のキレート剤。
【請求項3】
反応基がカルボン酸基である、請求項1記載のキレート剤。
【請求項4】
ポリマー骨格が、不水溶性疎水性脂肪族ポリマー骨格であること;および
カルボキシラート基がポリマー骨格中の炭素原子に直接結合されており、該炭素原子が、0〜複数の炭素原子の分だけ離れていること
をさらに含む、請求項2記載のキレート剤。
【請求項5】
ポリマー骨格が、不水溶性疎水性脂肪族ポリマー骨格であること;および
カルボン酸基がポリマー骨格中の炭素原子に直接結合されており、該炭素原子が、0〜複数の炭素原子の分だけ離れていること
をさらに含む、請求項3記載のキレート剤。
【請求項6】
反応基がポリマー骨格中の炭素原子に直接結合されており、該結合された炭素原子が0〜複数の炭素原子の分だけ離れていることをさらに含む、請求項1記載のキレート剤。
【請求項7】
骨格を構成する原子の全てが炭素原子であることをさらに含む、請求項1記載のキレート剤。
【請求項8】
キレート化するために図2に示されるポリマーを使用する方法であって、該ポリマーがポリ(2-オクタデシル-ブタンジオアート、ナトリウム)の式を有し、
「Poly」としても既知の不溶性ポリ(2-オクタデシル-ブタン二酸)を提供する工程;
金属イオン第1溶液を提供し、polyおよび金属イオン第1溶液が、Polyと金属イオン溶液との、ある比を有する工程;
撹拌によってPolyと金属イオン溶液とを混合し、それによって、金属イオンおよびPolyの錯体を含有する第2溶液を形成する工程;
濾過によって第2溶液を濾過して第3溶液および濾過ケーキを得、該濾過ケーキが金属イオンおよびPolyの錯体を含有している工程;
固体濾過ケーキを希酸溶液中に懸濁することによって、濾過ケーキ中に含有されたPolyと金属イオンとを分離する工程;
希酸溶液を撹拌する工程;
希酸溶液を濾過し、該濾過が、それによって、Polyを含有する濾過ケーキと金属イオンを含有する希酸溶液とを分離する工程;
希塩基を提供し、該希塩基と希酸溶液とを混合して、第3溶液を形成し、それによって、溶液から金属イオンを沈殿させる工程;ならびに
回収ために、第3溶液を流して取り除き、沈殿した金属イオンを残す工程
を含む、方法。
【請求項9】
キレート化するためにポリマーを使用する方法であって、該ポリマーがポリ(2-オクタデシル-ブタン二酸)の式を有し、
「Poly」としても既知の不溶性ポリ(2-オクタデシル-ブタン二酸)を提供する工程;
金属イオン第1溶液を提供し、polyおよび金属イオン第1溶液が、Polyと金属イオン溶液との、ある比を有する工程;
撹拌によってPolyと金属イオン溶液とを混合し、それによって、金属イオンおよびPolyの錯体を含有する第2溶液を形成する工程;
濾過によって第2溶液を濾過して第3溶液および濾過ケーキを得、濾過ケーキが金属イオンおよびPolyの錯体を含有する工程;
固体濾過ケーキを希酸溶液中に懸濁することによって、濾過ケーキ中に含有されたPolyと金属イオンとを分離する工程;
希酸溶液を撹拌する工程;
希酸溶液を濾過し、該濾過が、それによって、Polyを含有する濾過ケーキと金属イオンを含有する希酸溶液とを分離する工程;
希塩基を提供し、該希塩基と希酸溶液とを混合して、第3溶液を形成し、それによって、溶液から金属イオンを沈殿させる工程;ならびに
回収ために、第3溶液を流して取り除き、沈殿した金属イオンを残す工程
を含む、方法。
【請求項10】
撹拌が、150 rpmで22℃において約15〜60分の時間範囲の間行われる、請求項8記載の、キレート化するためにポリマーを使用する方法。
【請求項11】
撹拌が、150 rpmで22℃において約15〜60分の時間範囲の間行われる、請求項9記載の、キレート化するためにポリマーを使用する方法。
【請求項12】
濾過が重力濾過である、請求項8記載の、キレート化するためにポリマーを使用する方法。
【請求項13】
濾過が重力濾過である、請求項9記載の、キレート化するためにポリマーを使用する方法。
【請求項14】
第2溶液が不均一混合物である、請求項8記載の、キレート化するためにポリマーを使用する方法。
【請求項15】
第2溶液が不均一混合物である、請求項9記載の、キレート化するためにポリマーを使用する方法。
【請求項16】
希酸溶液が2%硝酸(HNO3)溶液である、請求項8記載の、キレート化するためにポリマーを使用する方法。
【請求項17】
希酸溶液が2%硝酸(HNO3)溶液である、請求項9記載の、キレート化するためにポリマーを使用する方法。
【請求項18】
第2溶液が、約3 rpm〜600 rpmの速度で約3分〜180分の時間の間撹拌される、請求項8記載の、キレート化するためにポリマーを使用する方法。
【請求項19】
第2溶液が、約3 rpm〜600 rpmの速度で約3分〜180分の時間の間撹拌される、請求項9記載の、キレート化するためにポリマーを使用する方法。
【請求項20】
ポリマーと第1溶液との比が約100:1〜200:1である、請求項8記載の、キレート化するためにポリマーを使用する方法。
【請求項21】
ポリマーと第1溶液との比が約100:1〜200:1である、請求項9記載の、キレート化するためにポリマーを使用する方法。
【請求項22】
キレート化目的のために使用される請求項1記載のキレート剤。
【請求項23】
複数の炭素原子を有するポリマー骨格;および
該骨格の別個の炭素原子に結合されている複数の反応基
を含む、図2に示されるキレート剤。
【請求項24】
反応基がカルボキシラート基である、請求項23記載のキレート剤。
【請求項25】
反応基がカルボン酸基である、請求項23記載のキレート剤。
【請求項26】
ポリマー骨格が、不水溶性疎水性脂肪族ポリマー骨格であること;および
カルボキシラート基が、ポリマー骨格中の炭素原子に直接結合されており、該炭素原子が、互いに隣接しているかまたは0〜複数の炭素原子の分だけ離れていること
をさらに含む、請求項24記載のキレート剤。
【請求項27】
ポリマー骨格が、不水溶性疎水性脂肪族ポリマー骨格であること;および
カルボン酸基が、ポリマー骨格中の炭素原子に直接結合されており、該炭素原子が、0〜複数の炭素原子の分だけ離れていること
をさらに含む、請求項25記載のキレート剤。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−505472(P2011−505472A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536217(P2010−536217)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【国際出願番号】PCT/US2008/085122
【国際公開番号】WO2009/073601
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(510149334)
【Fターム(参考)】