説明

キーパターン決定方法

【課題】キーパターンを決定する際に、被加工物に形成されたデバイスの特徴領域の表面状態の影響を低減すること。
【解決手段】キーパターン決定方法は、被加工物Wに形成された任意のデバイスを撮像部30で撮像し、キーパターンとして最適な特徴領域の画像をキーパターン候補として画像記憶部113に記憶するキーパターン候補記憶工程と、分割予定ラインの規則に従って撮像部30とチャックテーブル10とを相対的に移動して複数のデバイスを撮像部30で撮像し任意のデバイスで撮像した同じ特徴領域の画像を画像記憶部113に記憶する複数画像記憶工程と、画像記憶部113に記憶された複数の画像を統合し、統合画像を算出する統合画像算出工程と、統合画像をキーパターンとして決定し、キーパターン記憶部111に記憶するキーパターン決定工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエーハの切削装置又は研削装置等の加工装置において、ウエーハのパターンマッチングを実行する際に用いるキーパターンを決定するキーパターン決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー加工装置又は切削装置等の加工装置は、ウエーハに形成されたデバイスの特徴領域を示すキーパターンと、キーパターンからそれぞれ所定距離の位置に形成された分割予定ラインとの位置関係をと記憶する記憶装置を備えている。加工装置は、カメラその他の撮像部が撮像した画像を用いて、キーパターンと一致する領域を見つけ出すパターンマッチングを実行することにより、分割予定ライン(ストリート)の座標値を求めて、この分割予定ラインの座標値に集光器又は切削ブレード等の加工手段を位置付けるようにしている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−244803号公報
【特許文献2】特開昭60−177647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、被加工物であるウエーハは、それぞれの個体差によって表面の状態が異なることがある。また、例えば、キーパターンとパターンマッチングされて分割予定ラインを検出する際に用いる特徴領域の回路が欠けていたり、特徴領域に汚れが付着していたりするデバイスもある。その結果、特徴領域の状態も、ウエーハに形成されたデバイス毎に異なることがある。すると、キーパターンを決定しても、実際にウエーハを切断する際にキーパターンに基づいて特徴領域を検出するときに、それぞれのデバイスの特徴領域とキーパターンとの類似度が少なくなってしまい、特徴領域を検出できなくなるおそれがある。
【0005】
本発明は、キーパターンを決定する際に、被加工物に形成されたデバイスの特徴領域の表面状態の影響を低減できるキーパターン決定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、複数の分割予定ラインが規則に従って区画された領域に複数のデバイスが形成された被加工物を保持する保持手段と、該保持手段に保持された該被加工物を撮像し画像を生成する複数の画素からなる撮像部を備えた撮像手段と、該撮像手段によって撮像された加工すべき領域を加工する加工手段と、を少なくとも含み、該撮像手段は、デバイスの特徴領域をキーパターンとして記憶するキーパターン記憶部と、該キーパターンと該分割予定ラインとの位置関係を記憶する位置関係記憶部と、該撮像部で撮像した画像と該キーパターンとの類似度を算出して類似度の高い画像を検出するパターンマッチング部と、を備えた加工装置において、該撮像部で撮像した画像から適正なキーパターンを決定するキーパターン決定方法であって、任意のデバイスを該撮像部で撮像しキーパターンとして最適な特徴領域の画像をキーパターン候補として画像記憶部に記憶するキーパターン候補記憶工程と、該分割予定ラインの該規則に従って該撮像部と該保持手段とを相対的に移動して複数の該デバイスを該撮像部で撮像し該任意のデバイスで撮像した同じ該特徴領域の画像を該画像記憶部に記憶する複数画像記憶工程と、該画像記憶部に記憶された複数の画像を統合し、統合画像を算出する統合画像算出工程と、前記統合画像をキーパターンとして決定し、該キーパターン記憶部に記憶するキーパターン決定工程と、から構成されるキーパターン決定方法である。
【0007】
本発明は、前記統合画像とは、複数の画像を構成する同じ位置の画素の輝度値の平均値により構成される画像、前記同じ位置の画素の輝度値の中央値により構成される画像又は前記同じ位置の画素の輝度値の最頻値により構成される画像のいずれかであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、デバイスの1つの特徴領域からキーパターンを決定するのではなく、複数のデバイスから撮像した複数の特徴領域の画像情報を統合処理する。このようにすることで、キーパターンを決定する際に、被加工物に形成されたデバイスの特徴領域の表面状態の影響を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本実施形態に係る加工装置の構成例を示す図である。
【図2】図2は、デバイスが形成された被加工物の平面図である。
【図3】図3は、キーパターンの一例を示す図である。
【図4】図4は、デバイスのキーパターンとストリートとの距離を説明するための図である。
【図5】図5は、検出手段が撮像したデバイス表面の画像の例を示す図である。
【図6】図6は、検出手段が撮像したデバイス表面の画像の例を示す図である。
【図7】図7は、複数のデバイスとストリートとを示す平面図である。
【図8】図8は、本実施形態に係るキーパターンの決定方法の手順を示すフローチャートである。
【図9】図9は、被加工物のそれぞれのデバイスが有する特徴領域を撮像する順序を示す図である。
【図10】図10は、統合画像を作成する方法の説明図である。
【図11】図11は、統合画像を作成する方法の説明図である。
【図12】図12は、統合画像を作成する方法の説明図である。
【図13】図13は、統合画像の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【0011】
図1は、本実施形態に係る加工装置の構成例を示す図である。本実施形態に係る加工装置1は、切削ブレード21を有する加工手段20と被加工物Wを保持したチャックテーブル10とを相対移動させることで、被加工物を切削加工するものである。図1に示すように、加工装置1は、1スピンドルのダイサであるが、2個のスピンドルを有するダイサ、いわゆるツインダイサであってもよい。加工装置1は、チャックテーブル10と、加工手段20と、X軸移動手段40と、Y軸移動手段50と、Z軸移動手段60と、制御手段7と、撮像手段9と、カセットエレベータ70と、仮置き手段80と、洗浄・乾燥手段90とを含んでいる。
【0012】
チャックテーブル10は、被加工物Wを保持するものであり、保持手段に相当する。チャックテーブル10は、保持部11を有している。保持部11は、水平面である表面に被加工物Wを保持する。本実施形態において、保持部11は、被加工物Wを被加工物Wの裏面から吸引することで保持する。保持部11の表面を構成する部分は、ポーラスセラミック等から形成された円盤形状であり、図示しない真空吸引経路を介して図示しない真空吸引源と接続されている。被加工物Wは、加工装置1により加工される加工対象であり、本実施形態では、シリコン、サファイア、ガリウム等を母材とするウエーハである。
【0013】
X軸移動手段40は、切削ブレード21に対して保持された被加工物WをX軸方向に相対移動させるものである。X軸移動手段40は、X軸ボールねじと、X軸パルスモータと、一対のX軸ガイドレールとを含んでいる。X軸ボールねじは、X軸方向に配設されており、テーブル移動基台2の下部に設けられた図示しないナットと螺合しており、一端にX軸パルスモータが連結されている。一対のX軸ガイドレールは、X軸ボールねじと平行に配置され、テーブル移動基台2がスライド可能に載置されている。X軸移動手段は、X軸パルスモータにより発生した回転力によりX軸ボールねじを回転駆動させることで、テーブル移動基台2(チャックテーブル10)を一対のX軸ガイドレールによりガイドしつつ装置本体3に対してX軸方向に移動させる。
【0014】
テーブル移動基台2は、テーブル移動基台2の中心軸線を中心に回転できるように、装置本体3に支持されている。テーブル移動基台2は、装置本体3に収納されている図示しない基台駆動源に連結されている。テーブル移動基台2は、基台駆動源により発生した回転力により任意の角度、例えば90度回転又は連続回転することができる。このような構造により、テーブル移動基台2は、チャックテーブル10を、テーブル移動基台2の中心軸線を中心に、切削ブレード21に対して任意の角度回転又は連続回転等の回転運動させることができる。
【0015】
加工手段20は、撮像手段9によって撮像された、被加工物Wの加工すべき領域を加工する。より具体的には、加工手段20は、撮像手段9が撮像した被加工物Wの加工すべき領域の位置情報に基づき、チャックテーブル10に保持された被加工物Wを切削ブレード21により切断する。切削ブレード21は、略リング形状を有する極薄の切削砥石である。切削ブレード21は、スピンドル22に着脱自在に装着される。スピンドル22は、円筒形状のハウジング23に回転自在に支持されている。また、スピンドル22は、ハウジング23に収納されている、図示しないブレード駆動源に連結されている。切削ブレード21は、ブレード駆動源により発生した回転力により回転駆動する。
【0016】
Y軸移動手段50は、図1に示すように、チャックテーブル10に保持された被加工物Wと切削ブレード21とをY軸方向にそれぞれ相対移動させるものである。Y軸移動手段50は、図示しないY軸ボールねじと、Y軸パルスモータ51とを含んでいる。Y軸ボールねじは、Y軸方向に配設されており、ブレード移動基台6の内部に設けられた図示しないナットとそれぞれ螺合しており、一端にY軸パルスモータ51が連結されている。Y軸移動手段50は、Y軸パルスモータ51により発生した回転力によりY軸ボールねじを回転駆動させることで、ブレード移動基台6を装置本体3に対してY軸方向に移動させる。
【0017】
Z軸移動手段60は、チャックテーブル10に保持された被加工物Wに対して切削ブレード21をZ軸方向、すなわちスピンドル22がチャックテーブル10に接近及び離れる方向にそれぞれ相対移動させるものである。Z軸移動手段60は、ブレード移動基台6に設けられており、Z軸ボールねじ61と、Z軸パルスモータ62と、一対のZ軸ガイドレール63とを含んでいる。Z軸ボールねじ61は、壁部5においてZ軸方向に配設されており、支持部4の内部に設けられた図示しないナットとそれぞれ螺合しており、一端にZ軸パルスモータ62が連結されている。一対のZ軸ガイドレール63は、Z軸ボールねじ61と平行に形成され、支持部4が壁部5に対してスライド可能にそれぞれ載置されている。Z軸移動手段60は、Z軸パルスモータ62により発生した回転力によりZ軸ボールねじ61を回転駆動させることで、支持部4を一対のZ軸ガイドレール63によりガイドしつつ装置本体3に対してZ軸方向にそれぞれ移動させる。
【0018】
カセットエレベータ70は、被加工物Wを1枚ずつ収納する収納部がZ軸方向に複数形成されており、一度に複数の被加工物Wを収納するものである。カセットエレベータ70は、装置本体3の内部に形成された空間部をZ軸方向において昇降自在に構成されている。仮置き手段80は、一対のレール81を有し、一対のレール81上に加工前後の被加工物Wを一時的に載置するものである。洗浄・乾燥手段90は、スピンナテーブル91を有し、加工後の被加工物Wが載置され、保持される。スピンナテーブル91は、装置本体3に収納されているスピンナテーブル駆動源と連結されている。洗浄・乾燥手段90は、スピンナテーブル91に被加工物Wが保持されると、スピンナテーブル駆動源が発生する回転力により、被加工物Wを回転させ、図示しない洗浄液噴射装置から被加工物Wに対して洗浄液を噴射することで洗浄し、洗浄後の被加工物Wに対して図示しない気体噴射装置から気体を噴射することで乾燥させる。
【0019】
制御手段7は、加工装置1が有する上述した構成要素をそれぞれ制御するものである。制御手段7は、被加工物Wに対する加工動作を加工装置1に行わせるものである。制御手段7は、例えば、マイクロコンピュータが用いられる。制御手段7は、加工動作の状態を表示する表示手段及びオペレータが加工内容情報等を登録する際に用いる、操作手段8と接続されている。
【0020】
撮像手段9は、撮像部30と、撮像処理部31とを含んでいる。撮像部30は、複数の画素からなり、保持手段としてのチャックテーブル10に保持された被加工物Wを撮像し、画像を生成する。撮像部30は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサを用いたカメラ等であるが、これに限定されるものではない。撮像処理部31は、被加工物Wに形成されたデバイスの特徴領域をキーパターンとして記憶するキーパターン記憶部111と、キーパターンと分割予定ラインとの位置関係を記憶する位置関係記憶部112と、撮像部30で撮像した画像とキーパターンとの類似度を算出して類似度の高い画像を検出するパターンマッチング部101とを備えている。本実施形態において、撮像手段9は、さらに、画像処理部102と、画像記憶部113とを備えている。画像処理部102は、エッジ強調処理又は二値化処理等の画像処理を実行したり、後述する統合画像を算出したりする。画像記憶部113は、被加工物Wが有する任意のデバイスを撮像部30で撮像し、後述するキーパターンとして最適な特徴領域の画像をキーパターン候補として保存する。
【0021】
撮像処理部31は、例えば、マイクロコンピュータが用いられる。撮像処理部31は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等を用いた演算処理部100と、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)又はHDD(ハードディスクドライブ)等を用いた記憶部110とを有する。演算処理部100は、パターンマッチング部101及び画像処理部102を有している。演算処理部100は、例えば、前述したCPUがパターンマッチング部101及び画像処理部102の機能を実現するためのコンピュータプログラムに記述された命令を実行することにより、パターンマッチング部101及び画像処理部102として機能する。上述したキーパターン記憶部111と、位置関係記憶部112と、画像記憶部113とは、記憶部110に設けられている。
【0022】
図2は、デバイスが形成された被加工物の平面図である。図3は、キーパターンの一例を示す図である。図4は、デバイスのキーパターンとストリートとの距離を説明するための図である。図5、図6は、検出手段が撮像したデバイス表面の画像の例を示す図である。図7は、複数のデバイスとストリートとを示す平面図である。
【0023】
被加工物Wは、複数の分割予定ラインとしてのストリートLx、Lyが規則に従って区画した領域に、複数のデバイスw1が形成されている。ストリートLx、Lyの規則とは、ストリートLx、Lyが配列される規則をいう。ストリートLx、Lyは、それぞれ一定の規則、例えば間隔と本数とによって配列が決定される。例えば、隣接するストリートLx同士及びストリートLy同士の間隔並びに被加工物Wの分割数と相関があるストリートLx、Lyそれぞれの本数、複数のストリートLx、Lyによって区画される領域の寸法(チップサイズに相当する)等がストリートLx、Lyの規則に相当する。被加工物W(本実施形態ではウエーハ)の表面に形成された複数のデバイスw1は、加工装置1の切削ブレード21によって、ストリートLx、Lyに沿って切断される。xはX軸に平行であることを示し、yはY軸に平行であることを示す。
【0024】
次に、加工装置1にストリートLx、Lyの位置を記憶させるティーチ作業について説明する。一般的に、被加工物Wを切断する場合、加工装置1は、それぞれのデバイスw1の表面に現れている、キーパターンKPと同一のパターンを検出し、このパターンに基づいてストリートLx、Lyの位置を検出して切削ブレード21によって被加工物Wを切断する。キーパターンKPは、それぞれのデバイスw1の特徴的なパターンとしての特徴領域CPに基づいて予め選定されている。
【0025】
ティーチ作業とは、被加工物Wの表面から特徴領域CPを選定し、特徴領域CPをキーパターンKPとして登録するとともに、キーパターンKPから最も近いストリートLx、Lyまでの距離情報を登録する作業である。ティーチ作業は、作業者が行う作業である。キーパターンKPを作成するために用いる特徴領域CPは、各デバイスw1に1個しかなく、かつパターンマッチングに適したパターンが選択される。作成されたキーパターンKPは、図1に示すキーパターン記憶部111が記憶する。
【0026】
ティーチ作業を行うにあたり、作業者は、パターンマッチングに適した特徴領域CPを選択したら、選択した特徴領域CPを含む画像情報を、図1に示すキーパターン記憶部111にキーパターンKPとして登録して記憶させる。そして、撮像手段9(より具体的には演算処理部100)は、登録した画像において、図4に示す、キーパターンKPからX軸と平行なストリートLxまでの距離x1、x2及びキーパターンKPからY軸と平行なストリートLyまでの距離y1、y2を特徴領域CPの座標情報から算出し、これらの距離情報を位置関係記憶部112に記憶させる。
【0027】
次に、加工装置1が被加工物Wを切断する際におけるオートアライメント作業について説明する。オートアライメント作業は、加工装置1がストリートLx、Lyを自動的に検出することにより、加工位置を自動的に探し出す作業である。具体的には、加工装置1は、パターンマッチングによりキーパターンKPと類似度が高い特徴領域CPを検出する。ティーチ作業により、キーパターンKP(特徴領域CP)からストリートLx、Lyまでの距離情報が登録されているので、加工装置1が特徴領域CPを検出すると、自動的にストリートLx、Lyが検出されたことになる。
【0028】
次に、オートアライメント作業について、より詳細に説明する。加工装置1が被加工物Wを切断する場合、撮像部30は、デバイスw1の表面を撮像することによって画像(デバイス画像)DP、DPa(図5、図6参照)を得る。図5、図6に示すデバイス画像DP、DPaは、説明の便宜のための一例である。図1に示すパターンマッチング部101は、キーパターン記憶部111から読み出したキーパターンKPとデバイス画像DP、DPaとにパターンマッチングを施す。このとき、画像処理部102は、デバイス画像には二値化、エッジ強調処理等の画像処理を施してもよい。
【0029】
パターンマッチング部101がキーパターンKPとデバイス画像DP、DPaとにパターンマッチングを施した結果、例えば、両者の一致率が所定の比率を超えた場合、パターンマッチング部101は両者の類似度が高いとして、そのデバイス画像をキーパターンKPと類似度の高い画像として検出する。また、両者の一致率が所定の比率以下である場合、パターンマッチング部101は両者の類似度が低いとして、そのデバイス画像をキーパターンKPと類似度の高い画像とはしない。加工装置1は、キーパターンKPと類似度の高い画像を検出することができないデバイスw1からは、ストリートLx、Lyを検出することができないことになる。
【0030】
本実施形態では、キーパターンKPは、図3に示すような十字形である。このため、図6に示すデバイス画像DPaのような略L字形状のパターンはキーパターンKPと類似度が低いので検出されず、図5に示すデバイス画像DPのような十字形のパターンはキーパターンKPと類似度が高く検出される。なお、図5に示すデバイス画像DPのパターンは、一部に欠けCTが存在するが、パターンマッチング部101のパターンマッチングによってキーパターンKPとの一致率が所定の閾値を超えていれば、キーパターンKPとの類似度が高いということになる。
【0031】
パターンマッチング部101がパターンマッチングによって検出した、キーパターンKPと類似度の高い画像を、便宜上キーパターン対応画像KCという。キーパターン対応画像KCは、撮像部30によって撮像された、デバイスw1の表面に現れた特徴領域CPの画像である。加工装置1が被加工物Wを切削するにあたり、図1に示す制御手段7は、パターンマッチング部101によって検出されたキーパターン対応画像KCの位置(座標)を基準として、図7に示すストリートLx、Lyの位置まで切削ブレード21を移動させる。このように、加工装置1は、キーパターン対応画像KCを基準として、切削ブレード21が切断する箇所を自動的に探し出す。ここまでが、オートアライメント作業である。その後、ストリートLx、Lyの位置に移動した切削ブレード21は、ストリートLx、Lyに沿って被加工物Wを切断する。
【0032】
次に、パターンマッチングにおける問題点を説明する。被加工物Wの表面の状態は、同一の個体であっても場所によって異なることがある。また、被加工物Wに形成されている複数のデバイスw1も、配線の太さ又はランドの大きさ等が異なるといった個体差があるとともに、回路の欠け等といった欠陥が発生していることもある。それぞれのデバイスw1の表面に現れている、キーパターンKPの元となった特徴領域CPに、前述した個体差又は欠陥が発生している場合、パターンマッチングにおいてはキーパターンKPと特徴領域CPとの類似度が低くなる。その結果、撮像手段9は、デバイス画像DPを基準としてストリートLx、Lyを検出できず、加工装置1は、被加工物Wの切断を実行できないことがある。
【0033】
また、キーパターンKPが、前述した個体差又は欠陥が発生しているデバイスw1の部分を元に作成されている場合、前述した個体差又は欠陥が発生していないデバイスw1のデバイス画像DPとキーパターンKPとを比較すると、パターンマッチングにおける両者の類似度は低くなる。その結果、撮像手段9は、デバイス画像を基準としてストリートLx、Lyを検出できず、加工装置1は、被加工物Wの切断を実行できないことがある。
【0034】
上記の問題を解決するため、本実施形態に係るキーパターンの決定方法は、デバイスw1の特徴領域CPを元にキーパターンKPを決定するにあたって、デバイスw1に個体差又は欠陥が発生していることを前提として、これらの影響を低減したキーパターンKPを作成する。
【0035】
次に、本実施形態に係るキーパターンの決定方法について、詳細に説明する。図8は、本実施形態に係るキーパターンの決定方法の手順を示すフローチャートである。図9は、被加工物のそれぞれのデバイスが有する特徴領域を撮像する順序を示す図である。図10から図12は、統合画像を作成する方法の説明図である。図13は、統合画像の一例を示す図である。
【0036】
本実施形態に係るキーパターン決定方法は、撮像部30が撮像した画像から適正なキーパターンKPを決定するものであり、加工装置1が被加工物Wをチップに切断する前に実行される。まず、作業者は、図1に示す操作手段8から制御手段7を介して撮像部30を移動させながら、必要に応じてチャックテーブル10も移動させて、任意のデバイスの表面からキーパターンKPの候補、すなわち、デバイスw1の特徴領域CPを探す。
【0037】
キーパターンKPの候補が発見されたら、作業者は、操作手段8及び制御手段7を介して撮像部30に任意のデバイスの表面に現れているキーパターンKPの候補を撮像させて、画像記憶部113に記憶させる(ステップS11)。撮像部30が撮像した、キーパターンKPの候補となる画像、すなわち特徴領域CPの画像を、必要に応じて候補画像という。本実施形態において、任意のデバイスは、図9に示す被加工物Wの所定領域A内に存在するデバイスw1aである。このように、任意のデバイスw1aを撮像部30で撮像し、キーパターンKPとして最適な特徴領域(特徴パターン)CPの画像をキーパターンKPの候補として画像記憶部113に記憶する工程が、キーパターン候補記憶工程に相当する。
【0038】
次に、制御手段7は、分割予定ラインとしてのストリートLx、Lyの規則に従って、撮像部30と保持手段としてのチャックテーブル10とを相対的に移動させる。そして、制御手段7は、複数のデバイスを撮像部30で撮像し、任意のデバイスで撮像した同じ特徴領域CPの画像(候補画像)を、画像記憶部113に記憶する(ステップS12)。この工程が、複数画像記憶工程に相当する。
【0039】
ストリートLx、Lyの規則に従った移動とは、隣接するストリートLx同士のピッチ又は隣接するストリートLy同士のピッチを基準として、撮像部30とチャックテーブル10とが相対的に移動することをいう。例えば、撮像部30とチャックテーブル10とがX軸方向へ相対的に移動する場合、移動距離は、隣接するストリートLy同士のピッチの整数倍となり、Y軸方向へ相対的に移動する場合、移動距離は、隣接するストリートLx同士の間隔の整数倍となる。特徴領域CPは、複数のデバイスにおいて同じ位置に配置されているが、撮像部30をストリートLx、Lyの規則に従って移動させることで、異なるデバイス間において、特徴領域CPの位置に撮像部30を容易かつ迅速に移動させることができる。
【0040】
本実施形態では、複数画像記憶工程において、撮像部30は、被加工物Wの所定領域Aの中心部分に存在するデバイスw1aから反時計回りにデバイスw1b、w1c、w1d、w1e、w1f、w1g、w1h、w1i・・・の順に、所定領域Aに存在するデバイスからキーパターンKPの候補を撮像する。このようにすれば、複数のデバイスw1a、w1b・・・を1つの軌跡で撮像することができるので、撮像部30及びチャックテーブル10の移動量の増加を抑制できる。
【0041】
複数画像記憶工程で撮像部30が撮像するデバイスの数は少なくとも2個以上であればよい。撮像部30が、所定領域Aに存在するすべてのデバイスからキーパターンKPの候補を撮像しない場合、キーパターンKPの候補を撮像するデバイスは、できる限り離れた位置のデバイスを選択することが好ましい。例えば、3個のデバイスからキーパターンKPの候補を撮像する場合、撮像部30は、長方形の所定領域Aの角部に存在するデバイスw1k、w1l、w1mからキーパターンKPの候補を撮像することが好ましい。近接した複数のデバイスは、同様の表面状態になりやすいが、離れた位置に存在する複数のデバイスからキーパターンKPの候補を撮像すれば、近接した複数のデバイスからキーパターンKPの候補を撮像する場合と比較して、デバイスの表面状態のばらつきの影響を低減できる。
【0042】
複数画像記憶工程が終了したら、図1の画像処理部102は、画像記憶部113に記憶された複数の画像(候補画像)を統合し、統合画像IP(図13参照)を算出する(ステップS13)。この工程が、統合画像算出工程に相当する。次に、複数の候補画像を統合する方法を説明する。図10から図12は、ステップS11、ステップS12で撮像された候補画像PCa、PCb、PCcを示している。本実施形態において、候補画像PCa、PCb、PCcは、それぞれm(画素)×n(画素)の画像であり、図10から図12に示す十字形のパターンがデバイスの特徴的なパターンとしての特徴領域CPである。なお、本実施形態において、特徴領域CPは十字形であるが、実際はこれに限定されるものではない。
【0043】
デバイスの表面状態により、候補画像PCa、PCb、PCcの十字形のパターンには、欠け又は汚れ等の欠陥CTが存在することがある。キーパターンKPが欠陥CTを有していると、上述したように、パターンマッチングにおいてデバイスの特徴領域CPを検出できないおそれがある。また、デバイスの特徴領域CPが欠陥CTを有している場合は、キーパターンKPとのパターンマッチングにおいて、前述した特徴領域CPを検出できないおそれがある。
【0044】
このため、本実施形態に係るキーパターン決定方法は、複数の候補画像が所定の規則に従って統合された統合画像IPをキーパターンKPとすることにより、キーパターンKPを決定する際に、デバイスの特徴領域CPの表面状態の影響を低減する。このようなキーパターンKPを用いることによって、被加工物Wを切断する際にパターンマッチング部101が特徴領域CPを検出する場合には、欠け又は汚れ等の欠陥CTに起因するパターンマッチングの精度低下を抑制することができる。
【0045】
次に、統合画像IPを作成する方法の一例を説明する。説明の便宜上、候補画像PCa、PCb、PCcの十字形のパターンを含む一部の領域をBとする。領域Bは、縦が5画素、横が4画素の領域である。領域Bが有する画素を符号PXで表し、符号PXの後の数字をその画素PXの位置を表す指標(座標)とする。異なる候補画像PCa、PCb、PCcにおいて、画素PXの座標が同じであれば、それらの画素PXは、異なる候補画像PCa、PCb、PCcにおいて同じ位置に存在する。
【0046】
図10から図12において、領域Bが有するそれぞれの画素PX内の数字は、それぞれの画素PXの輝度値を表す。輝度値は、数字が大きいほど高い。図10に示す候補画像PCaの領域Bにおいて、画素PX22の輝度値は120、それ以外の画素PXの輝度値は20である。図11に示す候補画像PCbの領域Bにおいて、すべての画素PXの輝度値は20である。図12に示す候補画像PCcの領域Bにおいて、画素PX43の輝度値は200、それ以外の画素PXの輝度値は20である。
【0047】
画像処理部102が候補画像PCa、PCb、PCcを統合処理するにあたり、それぞれの候補画像PCaにおいて、同じ位置に存在する画素PX同士の画像情報(輝度値、濃度値等)の統合値を統合画像IPが有する画素PXの特性値とする。本実施形態において、統合処理は複数の画像情報の平均値を求める処理であるが、統合処理はこれに限定されるものではない。
【0048】
上述した領域Bに着目すると、画素PX22の輝度値は、候補画像PCa、PCb、PCcにおいて、それぞれ120、20、20であり、画素PX43の輝度値は、候補画像PCa、PCb、PCcにおいて、それぞれ20、20、200である。本実施形態では、複数の候補画像PCa、PCb、PCcにおいて、同じ位置に存在する画素PX同士の輝度値の平均値を、統合画像IPが有する画素PXの特性値とする。例えば、図13に示すように、領域Bの画素PX22の輝度値は53(=(120+20+20)/3)、画素PX43の輝度値は120(=(20+20+200)/3)となり、残りの画素PXの輝度値は20(=(20+20+20)/3)となる。なお、領域Bのみならず、統合画像IPが作成される場合、候補画像PCa、PCb、PCcのすべての画素PXについて統合処理が行われる。
【0049】
このようにして作成された統合画像IPが作成される。図13に示す統合画像IPは、領域Bのみならず、他の領域の画像情報も統合処理が施されている。統合画像IPが作成されたら、図1に示す画像処理部102は、統合画像IPをキーパターンKPとして決定し、キーパターン記憶部111に記憶する(ステップS14)。この工程が、キーパターン決定工程に相当する。
【0050】
統合画像IPは、同じ位置の画素PXの特性値が統合処理されることにより得られるので、複数の候補画像に欠陥CTを有するものがあっても、欠陥CTの影響が鈍される。また、統合画像IPは、複数の特定領域の情報を含んでいる。このため、統合画像IPは、デバイスの特徴領域CPにおける表面状態の影響を低減することができる。その結果、本実施形態に係るキーパターン決定方法は、キーパターンKPを決定する際には、デバイスの特徴領域の表面状態の影響を低減することができる。
【0051】
上記例において、統合画像IPは、複数の画像(候補画像)PCa、PCb、PCcを構成する同じ位置の画素PXの輝度値の平均値により構成される画像であるが、これに限定されるものではない。例えば、統合画像IPは、同じ位置の画素PXの輝度値の中央値により構成される画像であってもよいし、同じ位置の画素PXの輝度値の最頻値により構成される画像であってもよい。また、上記例において、画素PXの特性値は輝度値としたが、これに限定されるものではなく、画素PXの欠陥を識別できるものであればよい。例えば、画素PXの特性値に濃度値、明度値又は彩度値等を用いてもよい。
【0052】
以上、本実施形態は、キーパターンを決定するにあたり、任意のデバイスで撮像した同じ特徴領域の候補画像を統合処理して統合することによって得られた統合画像をキーパターンとして決定する。このように、単独の特徴領域のみではなく、複数の特徴領域の画像情報を統合処理することで、複数の特定領域の情報を含んだキーパターンを作成することができる。その結果、本実施形態は、デバイスの特徴領域の表面状態の影響に左右にくく、外乱の影響を低減したキーパターンを決定することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 加工装置
2 テーブル移動基台
3 装置本体
4 支持部
6 ブレード移動基台
7 制御手段
8 操作手段
9 撮像手段
10 チャックテーブル
20 加工手段
21 切削ブレード
22 スピンドル
23 ハウジング
30 撮像部
31 撮像処理部
40 X軸移動手段
50 Y軸移動手段
60 Z軸移動手段
70 カセットエレベータ
80 仮置き手段
90 洗浄・乾燥手段
100 演算処理部
101 パターンマッチング部
102 画像処理部
110 記憶部
111 キーパターン記憶部
112 位置関係記憶部
113 画像記憶部
CP 特徴領域
IP 統合画像
KP キーパターン
Lx、Ly ストリート
W 被加工物
w1、w1a〜w1m デバイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の分割予定ラインが規則に従って区画された領域に複数のデバイスが形成された被加工物を保持する保持手段と、該保持手段に保持された該被加工物を撮像し画像を生成する複数の画素からなる撮像部を備えた撮像手段と、該撮像手段によって撮像された加工すべき領域を加工する加工手段と、を少なくとも含み、
該撮像手段は、デバイスの特徴領域をキーパターンとして記憶するキーパターン記憶部と、該キーパターンと該分割予定ラインとの位置関係を記憶する位置関係記憶部と、該撮像部で撮像した画像と該キーパターンとの類似度を算出して類似度の高い画像を検出するパターンマッチング部と、を備えた加工装置において、該撮像部で撮像した画像から適正なキーパターンを決定するキーパターン決定方法であって、
任意のデバイスを該撮像部で撮像しキーパターンとして最適な特徴領域の画像をキーパターン候補として画像記憶部に記憶するキーパターン候補記憶工程と、
該分割予定ラインの該規則に従って該撮像部と該保持手段とを相対的に移動して複数の該デバイスを該撮像部で撮像し該任意のデバイスで撮像した同じ該特徴領域の画像を該画像記憶部に記憶する複数画像記憶工程と、
該画像記憶部に記憶された複数の画像を統合し、統合画像を算出する統合画像算出工程と、
前記統合画像をキーパターンとして決定し、該キーパターン記憶部に記憶するキーパターン決定工程と、
から構成されるキーパターン決定方法。
【請求項2】
前記統合画像とは、複数の画像を構成する同じ位置の画素の輝度値の平均値により構成される画像、前記同じ位置の画素の輝度値の中央値により構成される画像又は前記同じ位置の画素の輝度値の最頻値により構成される画像のいずれかである、請求項1記載のキーパターン決定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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