説明

ギア支持構造

【課題】フレームと、ギアを回転可能に支持するとともにギアの抜け止め部材を係止する係止溝を有する支持軸とを、スライド型を使用することなく下型と上型の上下抜きを行うことにより樹脂一体成形することが可能なギア支持構造を提供することを目的とする。
【解決手段】係止溝16がギア支持部14と延出部15との間で延出部15の一部を切り欠いて形成されるとともに、支持軸13がその中空部18及び係止溝16に充填される挿嵌部19を備えた下型17と、所定間隙だけ離間した状態で挿嵌部19をカバーする上型20との間隙に注入された樹脂材料が固化した後、下型17と上型20の上下抜きを行うことによりフレーム11と一体成形されるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレームと、ギアを回転可能に支持するとともにギアの抜け止め部材を係止する係止溝を有する支持軸とを、スライド型を使用することなく下型と上型の上下抜きを行うことにより樹脂一体成形することが可能なギア支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種装置のフレームに立設されたギア支持軸にギアを支持するには、実開平5−85655号公報に記載されているように、フレームに金属製の支持軸を立設するとともに支持軸にギアを回動可能に支持し、支持軸に対して止め輪を取り付けることにより、支持軸におけるギアの上方への移動を規制するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平5−85655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に記載されたギア支持構造において、金属製軸はフレームに対して別体に取り付けられており、また、支持軸には止め輪を係止するための係止溝が溝加工により形成されている。
【0005】
前記したギア支持構造では、多くの場合金属製フレームを使用し、かかる金属製フレームに対して支持軸を取付固定する必要があり、また、支持軸に対して止め輪を係止する係止溝を加工形成する必要がある。
【0006】
前記のような状況下において、樹脂製のフレームを使用するとともにギア支持用の支持軸をフレームと一体成形することができれば、加工コストを低減することが可能となり望ましい。
【0007】
しかしながら、樹脂製フレームに支持軸を一体成形するに際して、止め輪を係止する係止溝を形成するには、係止溝形成用のスライド型を使用する必要があり、この結果、成形工程が煩雑になるとともに支持軸の周面にバリが発生してギアが支持軸に沿って移動する際の妨げとなる。
【0008】
本発明は前記従来の問題点を解消するためになされたものであり、フレームと、ギアを回転可能に支持するとともにギアの抜け止め部材を係止する係止溝を有する支持軸とを、スライド型を使用することなく下型と上型の上下抜きを行うことにより樹脂一体成形することが可能であり、もってギアボックス等の部品を不要としてコストを低減可能なギア支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため請求項1に係るギア支持構造は、樹脂製フレームと、前記樹脂製フレームに形成されたギア配置部と、前記ギア配置部から中空状に一体成形された支持軸とを備え、前記支持軸は、ギアを回転可能に支持するギア支持部と、前記ギア支持部から延出された延出部と、前記ギア支持部と前記延出部との間で延出部の一部を切り欠いて形成された係止溝とを有し、前記支持軸は、支持軸の中空部及び前記係止溝に充填される挿嵌部を備えた下型と、挿嵌部をカバーする上型との間隙に注入された樹脂材料が固化した後、下型と上型の上下抜きを行うことにより、樹脂製フレームと一体成形され、前記ギア支持部に支持されたギアは、前記係止溝に係止された可撓性を有する樹脂製ワッシャを介して抜け止めされていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に係るギア支持構造は、請求項1のギア支持構造において、前記樹脂製ワッシャには、前記係止溝を切り欠いた後における延出部の横断面形状に対応する孔と、前記孔から連続して周縁まで形成された切込とが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係るギア支持構造では、係止溝がギア支持部と延出との間で延出部の一部を切り欠いて形成されるとともに、支持軸がその中空部及び係止溝に充填される挿嵌部を備えた下型と、挿嵌部をカバーする上型との間隙に注入された樹脂材料が固化した後、下型と上型の上下抜きを行うことにより樹脂製フレームと一体成形されるので、スライド型を使用することなく上型と下型の上下抜きを行うだけで、樹脂製ワッシャが係止される係止溝を有する支持軸とフレームとを樹脂一体成形することができる。
これにより、ギアボックス等の部品を不要としてギア支持構造のコストを低減することができる。
【0012】
請求項2に係るギア支持構造では、可撓性の樹脂ワッシャには、係止溝を切り欠いた後における延出部の横断面形状に対応する孔と、孔から連続して周縁まで形成された切込とが設けられているので、支持軸に支持されたギアの抜け止めを行うに際して、樹脂製ワッシャの可撓性を利用して切込の両側を開くように変形させつつ、係止溝を切り欠いた後の延出部を孔まで案内して孔に嵌めるだけの簡単な作業で、樹脂製ワッシャを軸部材の係止溝に係止することができる。これにより、支持軸からギアが抜けてしまうことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態に係るテープ印字装置の斜視図である。
【図2】テープ印字装置のカバーを取り外して示す内部構造の斜視図である。
【図3】図2におけるフレームに形成されたギア配置部12Aを拡大して示す斜視図である。
【図4】図2におけるフレームに形成されたギア配置部12Bを拡大して示す斜視図である。
【図5】ギア配置部に設けられる支持軸をフレームに一体成形する状態を模式的に示す断面図である。
【図6】テープ印字装置のカバーを取り外して示す内部構造の斜視図である。
【図7】図7における第1ギア配置部にて支持軸にギアを支持した状態を示す斜視図である。
【図8】図7における第2ギア配置部にて支持軸にギアを支持した状態を示す斜視図である。
【図9】樹脂製ワッシャの斜視図である。
【図10】第1ギア配置部の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るギア支持構造について、本発明をテープ印字装置に具体化した実施形態に基づき詳細に説明する。先ず、ギア支持構造が具現化されるテープ印字装置の概略構成について図1に基づき説明する。
【0015】
図1において、テープ印字装置1は、装置本体2にカバー3が取り付けられてなる。カバー3には、各種の文字・記号等を入力する文字・記号入力キー4及び各種のファンクションキー5を有するキーボード6が配設されている。キーボード6の上部には、印字キー7や操作キー8等が配置されている。また、カバー3には、文字・記号キー入力キー4を介して入力された文字・記号等を表示するLCD9が配設されている。
【0016】
装置本体2には、テープ印字機構、テープ送り機構、文字等を印字して作成された文字テープを切断するカッタ機構、その他文字テープを作成するために必要な各種の機構が配設されている。尚、前記各機構につては公知であり、ここではその説明を省略する。
また、装置本体2の端面(図1中上端面)には、カッタ機構を作動させるためのカッタレバー10が回動可能に設けられている。かかるカッタレバー10を押圧することによりカッタ機構が作動され、テープ印字機構により文字等が印字されてテープ送り機構を介して送られる文字テープを切断することができる。
【0017】
続いて、装置本体2の構造について図2乃至図4に基づき説明する。図2に示す装置本体2の内部には、各種構造物が樹脂にて一体に形成されるフレーム11が設けられており、かかるフレーム11には、モータ(図示せず)からの駆動力を主としてテープ送り機構に伝達するためのギア列を構成する各ギアが配置されるギア配置部12が形成されている。
【0018】
ここに、フレーム11に形成された複数のギア配置部12の内、第1ギア配置部12A及び第2ギア配置部12Bからは、中空状に構成された支持軸13がそれぞれ第1及び第2ギア配置部12A、12Bと一体に成形されている。各支持軸13は、ギア列を構成する各ギアの内上側(カバー3側)に配置されるギアを回動可能に支持するものであり(図6参照)、支持軸13には、ギアを回動可能に支持するギア支持部14、ギア支持部14から上方へ延出された延出部15が形成されている。また、ギア支持部14と延出部15との間で、延出部15の一部を切り欠いて形成された係止溝16が設けられている。
【0019】
続いて、ギア配置部12が形成されたフレーム11と支持軸13とを樹脂一体成形する方法について、図5に基づき説明する。
図5において、下型17は、支持軸13の中空部18及び係止溝16に充填される挿嵌部19を備えている。また、上型20は、所定間隙を保持しつつ挿嵌部19をカバーするとともに下型17の全体に渡って配置される。
【0020】
そして、フレーム11、各ギア配置部12、第1ギア配置部12A、第2ギア配置部12B及び支持軸13を樹脂一体成形するには、図5に示すように、下型17と上型20との間に形成された間隙に、溶融樹脂材料を注入し、樹脂材料を固化させる。この後、下型17から上型20を上方向に離間させて、下型17と上型20の上下抜きを行う。
【0021】
このとき、前記ギア支持構造では、係止溝16がギア支持部14と延出部15との間で延出部15の一部を切り欠いて形成されるとともに、支持軸13がその中空部18及び係止溝16に充填される挿嵌部19を備えた下型17と、所定間隙だけ離間した状態で挿嵌部19をカバーする上型20との間隙に注入された樹脂材料が固化した後、下型17と上型20の上下抜きを行うことによりフレーム11と一体成形されるので、スライド型を使用することなく上型17と下型20の上下抜きを行うだけで、係止溝16を有する支持軸13とフレーム11とを樹脂一体成形することができる。これにより、ギアボックス等の部品を不要としてギア支持構造のコストを低減することができる。
【0022】
前記したようにフレーム11と樹脂一体成形される各支持軸13には、図6乃至図8に示すように、ギア列を構成するギア21が回動可能に支持される。
ここに、第1ギア支持部12Aの支持軸13に支持されたギア21A及び第2ギア支持部12Bの支持軸13に支持されたギア21Bは、図6に示すように、それぞれギア列を構成する各ギアの内最も上方に(カバー3側に)位置するギアである。従って、ギア21A及びギア21Bは、支持軸13から抜け出てしまわないように、抜け止めを行う必要がある。
【0023】
そこで、各ギア21A及びギア21Bが、それぞれ支持軸13から抜け出てしまわないように、樹脂製ワッシャ22が、支持軸13と延出部15との間で延出部15の一部を切り欠くように形成された係止溝16に係止されている。
【0024】
ここで、樹脂製ワッシャ22の構成について図9に基づき説明する。樹脂製ワッシャ22はその特質上可撓性を有しており、かかる樹脂製ワッシャ22には、延出部15の一部を切り欠いた後における延出部15の横断面形状に対応する孔23が形成されるとともに、孔23から連続して樹脂製ワッシャ22の周縁まで形成された切込24が設けられている。
【0025】
前記のように構成された樹脂製ワッシャ22を支持軸13の係止溝16に係止してギア21A、ギア21Bの抜け止めを行うには、樹脂製ワッシャ22の可撓性を利用して切込24の両側を開くように変形させつつ、係止溝16を切り欠いた後の延出部15を孔23まで案内して孔23に嵌めれば良い。
【0026】
これにより、樹脂製ワッシャ22は、図6乃至図8、図10に示すように、延出部15の先端を上方に突出させた状態で係止溝16に係止され、ギア21A及び21Bが支持軸13から抜け出てしまうことを確実に防止することができる。
【0027】
前記したように、可撓性の樹脂ワッシャ22には、係止溝16を切り欠いた後における延出部以後の横断面形状に対応する孔23と、孔23から連続して周縁まで形成された切込24とが設けられているので、支持軸13に支持されたギアの抜け止めを行うに際して、樹脂製ワッシャ22の可撓性を利用して切込24の両側を開くように変形させつつ、係止溝16を切り欠いた後の延出部15を孔23まで案内して孔23に嵌めるだけの簡単な作業で、樹脂製ワッシャ22を支持軸13の係止溝16に係止することができる。これにより、支持軸13からギア21A、21Bが抜けてしまうことを防止することができる。
【0028】
尚、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0029】
1 テープ印字装置
2 装置本体
3 カバー
11 フレーム
12 ギア配置部
21A 第1ギア配置部
21B 第2ギア配置部
13 支持軸
14 ギア支持部
15 延出部
16 係止溝
17 下型
18 中空部
19 挿嵌部
20 上型
21 ギア
21A 第1ギア配置部に配置されるギア
21B 第2ギア配置部に配置されるギア
22 樹脂製ワッシャ
23 孔
24 切込


【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製フレームと、
前記樹脂製フレームに形成されたギア配置部と、
前記ギア配置部から中空状に一体成形された支持軸とを備え、
前記支持軸は、
ギアを回転可能に支持するギア支持部と、
前記ギア支持部から延出された延出部と、
前記ギア支持部と前記延出部との間で延出部の一部を切り欠いて形成された係止溝とを有し、
前記支持軸は、支持軸の中空部及び前記係止溝に充填される挿嵌部を備えた下型と、挿嵌部をカバーする上型との間隙に注入された樹脂材料が固化した後、下型と上型の上下抜きを行うことにより、樹脂製フレームと一体成形され、
前記ギア支持部に支持されたギアは、前記係止溝に係止された可撓性を有する樹脂製ワッシャを介して抜け止めされていることを特徴とするギア支持構造。
【請求項2】
前記樹脂製ワッシャには、
前記係止溝を切り欠いた後における延出部の横断面形状に対応する孔と、
前記孔から連続して周縁まで形成された切込とが設けられていることを特徴とする請求項1に記載のギア支持構造。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−284803(P2010−284803A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138005(P2009−138005)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】