説明

ギャバを含有するギャバもち麦の製造方法及びその製品

【課題】 はだか麦類のもち麦を材料として用いたギャバの高生産技術を提供することを目的とし、特にもち麦を用いてギャバを含有するギャバもち麦並びにギャバもち麦ふすま及びギャバ含有ふすま上澄み液を効率よく大量に製造可能とする。
【解決手段】 精麦装置により2%から20%未満精白したもち麦粒と、0.1%から3%の間の濃度で、pHを2から9に、調整したグルタミン酸溶液を混合し、室温で1時間以上、1晩(約15時間)浸漬すること、並びに、同様に1時間以上、1晩浸漬した後、水切り後、室温で1晩放置することでもち麦に含まれるグルタミン酸脱炭酸酵素の働きにより、グルタミン酸がγアミノ酪酸(GABA、ギャバ)に変換され、γアミノ酪酸が多く含有するギャバもち並びにギャバもち麦ふすま及びギャバ含有ふすま上澄み液が高生産されることを最も主要な特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀物特にもち麦を用いたギャバの高生産が容易なギャバを含有するギャバもち麦並びにギャバもち麦ふすま及びギャバ含有ふすま上澄み液の製造方法及びその製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ギャバとは、γアミノ酪酸でgamma−amino−butyric acidの頭文字、GABAに由来し、たんぱく質には含まれない非タンパク質性アミノ酸である。以下、γアミノ酪酸をギャバ、若しくは図面においてGABAで表示する。
【0003】
特許文献1において、食用胡麻の製造方法においては、ギャバの含有量の増加をもたらすものが公開されているが、はだか麦、もち麦、ヒエ、アワ、キビのような穀物においては、ギャバを多量に含む食材の開発が為されていなかった。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−330129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、穀物特にもち麦を用いたギャバの高生産技術を提供することを目的とし、もち麦を用いてギャバを多量に含有するギャバもち麦並びにギャバもち麦ふすまを効率よく大量に製造できない点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、精麦機により2%以上20%未満に精白したもち麦の精麦粒と、0.1%から3%の間の濃度で、pHを2から9に、調整したグルタミン酸溶液(L−Glu)を混合し、室温で1時間から1晩(約15時間)浸漬すること、並びに、同様に1時間から1晩浸漬した後、水切り後、室温で1晩放置することでもち麦に含まれるグルタミン酸脱炭酸酵素の働きにより、グルタミン酸がγアミノ酪酸(GABA、ギャバ)に変換され、もち麦を材料としてγアミノ酪酸が高生産されることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のギャバ含量が高いギャバもち麦の製造方法は、玄麦から精白したもち麦の精麦粒と濃度を調整したグルタミン酸溶液を混合して放置することによりもち麦に含まれるグルタミン酸脱炭酸酵素の働きを利用するため、もち麦からもち麦の精白の度合いと濃度を調整したグルタミン酸のpHの値との両者の混合により長時間放置することでギャバを大量に生産することが容易である。同製造方法により、精麦装置でもち麦の表皮を精白した残りのふすまを材料としてギャバもち麦ふすま及びギャバ含有ふすま上澄み液を製造する製造方法である。玄麦から精白するための装置は精麦装置を使用し若しくは精米装置でも精白可能である。乾燥したギャバを含むギャバもち麦粒並びにもち麦ふすま及びギャバ含有ふすま上澄み液はギャバを含む食品の製造のための食材として利用される利点がある。

【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は玄麦からギャバもち麦製品の製造工程の実施方法をフローチャートにより示したギャバもち麦製造工程図である。(実施例1)
【図2】図2はグルタミン酸溶液とピリドキシン(PN ビタミンB6)を含む場合と、それが含まれない場合のもち麦に生成されたギャバ(GABA)の100g中に含まれる含量をグラフに示した説明図である。(実施例1)
【図3】図3はグルタミン酸溶液ともち麦の玄麦と精麦のpH毎に生成されたギャバ(GABA)の100g中に含まれる含量をグラフに示した説明図である。(実施例1)
【図4】図4はもち麦の精白度を横軸に玄麦から精白度30%までのギャバ含量をグラフに示した説明図である。(実施例1)
【図5】図5はグルタミン酸溶液の濃度に対応してグルタミン酸溶液の濃度を横軸に生成されるギャバの100g中に含まれる含量をグラフに示した説明図である。(実施例1)
【図6】図6はグルタミン酸溶液について調整したpHを横軸に生成されるギャバの100g中に含まれる含量をグラフに示した説明図である。(実施例1)
【図7】図7はグルタミン酸溶液にもち麦の浸漬時間を横軸に生成されるギャバの100gの中に含まれる含量をグラフに示した説明図である。(実施例1)
【図8】図8はもち麦を20から25%精白して残留したふすまの実験において、もち麦ふすまとグルタミン酸溶液を混ぜて一晩置くとギャバ含量30%を生成したことを示唆する説明図である。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明では、ギャバを高い含量で有するもち麦の麦粒並びにもち麦ふすま及びギャバ含有ふすま上澄み液を製造するために、ギャバの出発原料であるL−グルタミン酸を添加、摂氏約25度の室温で保温することで、麦粒並びにふすまでギャバに変換する方法を採用した。この製造方法で、精白もち麦並びにもち麦ふすまのギャバ冨化品及びギャバ含有ふすま上澄み液を実現した。
【実施例1】
【0010】
図1は、本発明方法に係る玄麦からギャバもち麦並びにもち麦ふすまの製品を高生産する製造方法の工程の1実施例である。
【0011】
符号を引用して実施例を説明すると、はだか麦、もち麦1などの穀類50gを、精米装置により精白して精麦2にして、L−グルタミン酸溶液100ml、pH3からpH5に室温で一晩、浸漬した4のちに、水切りし5、幾分湿った状態でさらに一晩、保温6した。
【0012】
保温したグルタミン酸処理麦粒を65℃で3時間乾燥7した。
【0013】
乾燥麦粒のサンプル8をビーンミルで粉砕した。
【0014】
粉砕したサンプル3に30mlの2%(W/V)スルホサリチル酸を加え、激しく10分間振とうした。
【0015】
遠心分離(1000xg、10分間)後、上清をギャバ分析用サンプルとして回収した。
【0016】
ギャバ分析用サンプルの中のギャバ量は、アミノ酸分析装置(HPLC法)により定量した。
【0017】
前項0011の試料に付いて、ギャバ含量を測定した結果を図2に示した。
【0018】
前項0017の結果、もち麦では、ピリドキシン(ビタミンB6)を加えている場合或いは、それを加えていない無添加の場合でも、同程度のギャバが生産された。原料のグルタミン酸もほとんど残っていなかった。
【0019】
前項0017,0018の結果に示したもち麦は、精麦装置により表皮を幾分剥がしたもち麦粒であった。特に精白したもち麦即ち以下、これを精麦といい、残余のもち麦の表皮をもち麦ふすまという。
【0020】
もち麦におけるギャバ高生産が、精白の効果であるかどうかを調べた。サンプルは玄麦と精麦のもち麦粒で、ピリドキシン(ビタミンB6)の有無、pH4或いはpH5に調整したグルタミンサン溶液に浸漬し、前項0011,0012に従って処理した。
【0021】
前項0020のサンプルの分析結果を図3に示した。精麦もち麦ではピリドキシン有る無しにかかわらず、pH4でギャバが高生産された。一方、玄麦もち麦では、同処理によってもギャバはほとんど生じず、原料グルタミン酸が検出された。
【0022】
前項0020,0021に示したように、もち麦において精麦処理することがギャバ生産にとって必須であることが分かったが、玄麦及び、精白度について、2%から30%まで精麦処理したサンプルについて、前項0011,0012に従って処理した。
【0023】
前項0022のサンプルの分析結果を図4に示した。
精白度が5%から16%の間で良好なギャバ生産が観察された。
【0024】
精麦処理したもち麦をどのような濃度(%)のグルタミン酸溶液に浸漬した時が、良好にギャバが生産されるかについて調べた。0%から3%のグルタミン酸ナトリウム溶液についてpH4に調整した溶液に精麦もち麦を浸漬した。
【0025】
前項0024のサンプルについての分析結果を図5に示した。0.1%から3%の間で良好なギャバ生成を確認した。
【0026】
ギャバもち麦の製造工程(図1)に示した通り、これまでの実験では、精麦もち麦粒について、最初に65℃から70℃で3時間程度の加熱処理を施した。この処理の結果について調べた。
【0027】
加熱処理の有る無しのサンプルについて、ギャバ生産量を測定したところ、両者に差はほとんど認められなかった。しかし、精麦もち麦試料を65℃から70℃で3時間程度の加熱処理することにより乾燥して雑菌の殺菌が期待されるので、食品衛生上に有効であると考えられる保存方法である。
【0028】
これまでのギャバもち麦のギャバ含量の分析結果から、図5に示すように、0.1%から3%の濃度のグルタミン酸溶液に精麦もち麦を浸漬することにより、高濃度のギャバを含有するもち麦を製造することができるが、グルタミン酸溶液としてどの程度のpHの範囲で良好なギャバ生産が期待されるかを調査した。
【0029】
前項0028のサンプルについての分析結果を図6に示した。グルタミン酸溶液のpHを3から9に調整することで良好なギャバ生成を確認した。
【0030】
精麦もち麦をグルタミン酸溶液に浸漬する浸漬時間について試験した。1時間以上、一晩(約15時間)グルタミン酸溶液に浸漬し、水切り後、そのまま、室温(25℃)で一晩保温した。
【0031】
前項0030のサンプルについて、分析結果を図7に示した。1時間以上、一晩までグルタミン酸溶液に浸漬した場合、良好なギャバ生成を観察した。
【0032】
前項0030の実験について、水切り後、更に室温で一晩(約15時間)保温処理したが、グルタミン酸溶液に一晩程度浸漬した場合は、図4に示す精白度に対応してギャバを生成した。水切り後の保温処理は削除しても同程度のギャバ生成を観察した。
【実施例2】
【0033】
図8に基づいて符号を引用して説明すれば、もち麦ふすまとグルタミン酸溶液12を混ぜて9、一晩(約15時間)置くことについて10もち麦ふすま及びふすま上澄み液(遠心分離上澄み)で30%のギャバ生成11を観察した。遠心分離(1000Xg、10分間)の操作を行い、その結果、上澄み液(溶液)とふすま(沈殿)ができる。この実験操作及び結果を図8に示した。精麦装置でもち麦を20から25%精白して残余したふすまを材料にしてギャバもち麦ふすまの製品を製造することができる。又、処理後の上澄み液をギャバ含有もち麦ふすま上澄み液として利用することができる。ギャバもち麦ふすまを65℃から70℃で3時間程度の加熱処理することにより乾燥することは、雑菌を殺菌し有効な保存方法である。
【0034】
実施例1と実施例2の製造方法により、もち麦の玄麦をギャバを含有するギャバもち麦並びにギャバもち麦ふすま及びギャバ含有ふすま上澄み液を製造して余すところなく食材として活用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の製造方法で生成されたギャバを含有する食材を粉砕し、麺、うどん、パスタの製造工程で中に混入し、或いはギャバもち麦を入れたご飯を炊くことにより、またギャバふすま上澄み液を用いた食品の製造や他の食品への添加などによりさまざまな食材としての用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0036】
1 もち麦
2 精麦
3 L−グルタミン酸溶液
4 浸漬
5 水切り
6 保温
7 乾燥
8 サンプル
9 もち麦ふすまとグルタミン酸溶液の混合
10 一晩(約15時間)置くことについて
11 ギャバ生成


【特許請求の範囲】
【請求項1】
はだか麦類のもち麦を3%以上20%未満の間で精白された精麦もち麦を材料に、グルタミン酸溶液に浸漬することによりもち麦でギャバを含有するギャバもち麦の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の精麦もち麦は、精麦装置で玄麦の表皮を剥がして製作された精麦もち麦であることを特徴とするギャバを含有するギャバもち麦の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のグルタミン酸溶液は、グルタミン酸ナトリウム又はグルタミン酸を用いてもち麦を浸漬することを特徴とするギャバを含有するギャバもち麦の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のグルタミン酸溶液は、その濃度が0.1%から3%の間の溶液とし、pHを3から9の間に調節して用いることを特徴とするギャバを含有するギャバもち麦の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のグルタミン酸溶液6L当たり2kgの割合で精麦もち麦を1時間以上室温で浸漬したことを特徴とするギャバを含有するギャバもち麦の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のグルタミン酸溶液に精麦もち麦を浸漬した後、水切りし、室温で保温することを特徴とするギャバを含有するギャバもち麦の製造方法。
【請求項7】
はだか麦類のもち麦を3%以上20%未満の間で精白された精麦もち麦を材料に、グルタミン酸溶液に浸漬することによりもち麦でギャバを含有するギャバもち麦の製造方法により製造されたギャバもち麦製品。

【請求項8】
はだか麦類のもち麦を材料として精白した精麦を、グルタミン酸溶液に浸漬することによりもち麦で製造したギャバを含有するギャバもち麦を65℃から70℃で乾燥保存するギャバもち麦の保存方法。
【請求項9】
もち麦ふすまとグルタミン酸溶液を混ぜて約15時間置くことによりもち麦ふすまで製造するギャバを含有するギャバもち麦ふすまの製造方法。
【請求項10】
もち麦ふすまとグルタミン酸溶液を混ぜて約15時間置くことによりもち麦ふすまで製造するギャバを含有するギャバ含有ふすま上澄み液の製造方法。

【請求項11】
もち麦ふすまとグルタミン酸溶液を混ぜて約15時間置くことによりもち麦ふすまで製造するギャバを含有するギャバもち麦ふすまの製造方法により製造されたギャバもち麦ふすま製品。
【請求項12】
もち麦ふすまとグルタミン酸溶液を混ぜて約15時間置くことによりもち麦ふすまで製造するギャバを含有するギャバ含有ふすま上澄み液の製造方法により製造されたもち麦ふすま上澄み液製品。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−172516(P2011−172516A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39461(P2010−39461)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り [研究集会名]国立大学法人愛媛大学農学部卒業論文発表会 [主催者名] 国立大学法人愛媛大学 [開催日] 平成22年2月23日
【出願人】(394024019)株式会社マエダ (3)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【Fターム(参考)】