説明

クッション体およびクッション体の製造方法

【課題】ウレタンゲルとウレタン発泡体とによって構成されるクッション体およびその製造方法の実用性を向上させる。
【解決手段】ポリオール、ポリイソシアネート、発泡剤、整泡剤、触媒を含むウレタン発泡体原料を混合するとともに、その混合において生じる泡化反応中に、ポリオール、ポリイソシアネート、可塑剤、触媒を含むウレタンゲル原料を、混合されているウレタン発泡体原料に混入することでクッション体22を製造するように構成する。このように構成すれば、ウレタンゲル14とウレタン発泡体16とを同時に成形し、ウレタンゲルを、ウレタン発泡体のスキン層18と発泡部20とに挟まれてそれらに密着した状態でウレタン発泡体に内包させることが可能となる。これにより、製造工程を簡略化し、良好な荷重分散性を有するクッション体を製造することが可能となり、クッション体およびその製造方法の実用性を向上させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレタン発泡体とウレタンゲルとによって構成されるクッション体および、そのクッション体を製造するための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の座席、家庭用の椅子,寝具等に用いられるクッション体として、従来から、ウレタン発泡体によって構成されたものが多く採用されており、例えば、下記特許文献1には、座り心地と機能性とを高めるべく硬度の異なる2種類のウレタン発泡体を一体化したクッション体が記載されている。ただし、ウレタン発泡体は、上下方向にかかる体圧は良好に吸収するが、その上下方向にかかる荷重をその他の方向に分散する効果が低いため、ウレタン発泡体のみで充分な荷重分散性を発揮することは困難となっている。一方、ウレタンゲルは、変形し易く、あらゆる方向に荷重を分散させることが知られており、下記特許文献2,3に記載されているウレタンゲルのように、種々のものが開発されている。このため、下記特許文献4,5に記載されているクッション体のように、ウレタン発泡体とウレタンゲルとが積層されたクッション体や、下記特許文献6,7に記載されているクッション体のように、ウレタンゲルがウレタン発泡体に内包されたクッション体の開発が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平4−1684号公報
【特許文献2】特表2009−507969号公報
【特許文献3】特開昭57−159847号公報
【特許文献4】特開昭62−155849号公報
【特許文献5】特開2001−198995号公報
【特許文献6】特開平8−191966号公報
【特許文献7】特許第4497883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献4〜7に記載されているクッション体では、ウレタン発泡体とウレタンゲルとの各々の性能が発揮されることで、荷重分散性能を向上させることが可能となっている。ただし、上記特許文献4,5に記載されたウレタン発泡体とウレタンゲルとが積層されたクッション体においては、ウレタン発泡体とウレタンゲルとを別々に成形し、その成形されたウレタン発泡体とウレタンゲルと貼り合わせることで製品が製造される。このため、製造工程が比較的多くなり、製造費用,製造時間等が多くかかってしまう。そして、ウレタン発泡体とウレタンゲルとの貼り合わせによって、クッション体の表面に段差が生じる虞がある。また、ウレタン発泡体とウレタンゲルとの境界がクッション体の表面に露出することから、その境界において感触が異なり、使用者が違和感を感じる虞がある。さらに、ウレタンゲルの表面は、通常、粘着性を有し、べとついている。このため、ウレタン発泡体とウレタンゲルとが積層されたクッション体では、ウレタンゲルをフィルム等の被膜によって覆う必要があり、そのための被覆工程がさらに必要となる。
【0005】
一方で、上記特許文献6,7に記載されたウレタンゲルがウレタン発泡体に内包されたクッション体においては、貼り合わせによる段差等の問題は解消され、貼り合わせ工程等が不要となるが、新たにウレタンゲルをウレタン発泡体によって包む工程が必要となる。また、上記特許文献6,7に記載されたクッション体でも、ウレタン発泡体とウレタンゲルとの各々を別々に成形する必要があり、依然として製造費用,製造時間等が多くかかってしまう。このように、上記特許文献4〜7に記載されたウレタン発泡体とウレタンゲルとによって構成されるクッション体は、改良の余地を多分に残すものとなっており、種々の改良を施すことによって、ウレタン発泡体とウレタンゲルとによって構成されるクッション体の実用性が向上すると考えられる。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高いウレタン発泡体とウレタンゲルとによって構成されるクッション体およびそのクッション体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のクッション体の製造方法は、ポリオール、ポリイソシアネート、発泡剤、整泡剤、触媒を含むウレタン発泡体原料を混合するとともに、その混合において生じる泡化反応中に、ポリオール、ポリイソシアネート、可塑剤、触媒を含むウレタンゲル原料を混合した状態で、混合されている前記ウレタン発泡体原料に混入することで、ウレタン発泡体にウレタンゲルが内包されたクッション体を製造するように構成される。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のクッション体は、ポリオール、ポリイソシアネート、発泡剤、整泡剤、触媒を含むウレタン発泡体原料を混合するとともに、その混合において生じる泡化反応中に、ポリオール、ポリイソシアネート、可塑剤、触媒を含むウレタンゲル原料を、混合されている前記ウレタン発泡体原料に混入することで製造され、ウレタン発泡体にウレタンゲルが内包されるように構成される。また、本発明のクッション体は、(a)表層に形成されるウレタン発泡体よりも比較的高密度であるスキン層と、そのスキン層の内部に形成される発泡部とを有するウレタン発泡体と、(b)ウレタンゲルとを備え、そのウレタンゲルが、前記スキン層と前記発泡部とのいずれかに挟まれてそれらスキン層または発泡部に密着した状態で前記ウレタン発泡体に内包されるように構成される。
【発明の効果】
【0008】
ウレタン発泡体は、製造される際に、表層にスキン層が形成され、そのスキン層の内部で発泡部が形成されていく。この際、発泡部は、発泡によって密度を低下させつつ形成されていく。一方、ウレタンゲルは密度を変化させることなく形成されていく。このため、ウレタンゲル原料を、発泡中のウレタン発泡体原料に混入すると、ウレタンゲル原料は、ウレタン発泡体原料の内部に沈み込んで、ウレタン発泡体のスキン層に密着または近接またはその両方が混在した状態となる。ちなみに、スキン層に近接した状態とは、ウレタンゲルが型の底部に近づいているが、スキン層に接触せず、発泡部を介在して一体化している状態をいう。そして、ウレタンゲル原料がスキン層に密着または近接またはその両方が混在した状態で、ウレタン発泡体の発泡部が形成されていくため、ウレタンゲルは、ウレタン発泡体のスキン層または発泡部に挟まれてそれらに密着した状態でウレタン発泡体に内包される。
【0009】
このようにウレタン発泡体にウレタンゲルが内包されたクッション体においては、それの表面にウレタン発泡体とウレタンゲルとの段差が生じることもなく、表面触感に違和感を生じることも無い。また、ウレタンゲルの表層がクッション体の表面に露出しないため、ウレタンゲルを覆う必要も無い。さらに、発泡中のウレタン発泡体原料にウレタンゲル原料を混入することで、ウレタン発泡体とウレタンゲルとを同時に成形することが可能となり、ウレタン発泡体とウレタンゲルとを別々に成形する必要が無くなる。さらに言えば、別々に成形されたウレタン発泡体とウレタンゲルとを貼り合わせる工程等も不要となる。そして、ウレタン発泡体とウレタンゲルとがウレタン反応をしながら同時に成形されるため、それらの密着性が非常に良好であり、ウレタン発泡体の発泡部とウレタンゲルとの密着面において、スキン層を生じないため、柔軟性の高いクッション体が得られる。したがって、本発明によれば、実用性の高いクッション体および、実用性の高いクッション体の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の製造方法の流れを示す図である。
【図2】本発明の製造方法によって製造可能なクッション体の一例を示す図である。
【図3】実施例のクッション体を製造するためのウレタン発泡体原料とウレタンゲル原料との各々の配合量、および、実施例のクッション体の物性評価を示す図である。
【図4】実施例のクッション体を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に記載の「発泡体原料混合工程」は、ポリオール、ポリイソシアネート、発泡剤、整泡材、触媒を含むウレタン発泡体原料を混合する工程であればよく、例えば、ポリオール、ポリイソシアネート、発泡剤、整泡剤、触媒を含むウレタン発泡体原料を一度に混合する方法、所謂、ワンショット法、ポリイソシアネートから得られるイソシアネートプレポリマーを用いる方法、所謂、プレポリマー法等の種々の方法を採用することが可能である。
【0012】
本発明に記載の「ゲル原料混入工程」は、混合されているウレタン発泡体原料での泡化反応中に、そのウレタン発泡体原料にウレタンゲル原料を混入する工程であり、混入されるウレタンゲル原料は、ポリオール、ポリイソシアネート、可塑剤、触媒を予め混合しておいたものである。ウレタンゲル原料の混合方法は、特に限定されるものではなく、通常のウレタンゲルの製造方法において採用される方法、例えば、ワンショット法、プレポリマー法等、種々の方法を採用することが可能である。
【0013】
上記発泡体原料混合工程において生じる泡化反応とは、ポリイソシアネートと発泡剤としての水との反応において炭酸ガスが発生する反応、または、ポリイソシアネートと活性水素との化学反応に伴う温度上昇により発泡剤の沸点を超えることでガスが発生する反応であり、その発生したガスによってウレタン発泡体原料の混合されたものが、発泡体原料混合工程において膨らんでいくのである。つまり、ゲル原料混入工程は、ウレタン発泡体原料の混合によってガスが発生しているときに、ウレタンゲル原料を、混合されているウレタン発泡体原料に混入する工程であるということができる。また、別の言い方をすれば、ゲル原料混入工程は、ウレタン発泡体原料の混合によってその混合されたものが膨らんでいるときに、ウレタンゲル原料を、混合されているウレタン発泡体原料に混入する工程であるということができる。
【0014】
また、発泡体原料混合工程において全てのウレタン発泡体原料の混合が開始されてから、発泡体原料混合工程において生じる泡化反応が終了するまでの時間、所謂、ライズタイムを泡化反応時間と定義した場合には、ゲル原料混入工程は、泡化反応時間経過前に、ウレタンゲル原料を、混合されているウレタン発泡体原料に混入する工程であるということもできる。ただし、ウレタン発泡体原料の全ての混合が開始されてから泡化反応が始まるまでは、僅かではあるが、時間を要する。また、泡化反応の終了間際では、ウレタンゲル原料の混入によってウレタン発泡体の形成に何らかの影響を及ぼす虞がある。このため、ウレタン発泡体原料の全ての混合が開始されてから泡化反応時間の15〜85%に相当する時間経過したときに、ウレタンゲル原料を、混合されているウレタン発泡体原料に混入することが好ましい。さらに言えば、ウレタン発泡体原料の全ての混合が開始されてから泡化反応時間の35〜70%に相当する時間経過したときに、ウレタンゲル原料を、混合されているウレタン発泡体原料に混入することが好ましい。
【0015】
本発明に記載の「ポリオール」は、1つの分子に2個以上の水酸基を有する化合物であり、上記ウレタン発泡体原料と上記ウレタンゲル原料とのいずれに含まれるものであっても、各原料として通常に採用されるものであればよい。例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等が挙げられる。ポリエステルポリオールとしては、多価アルコールと多価カルボン酸との縮合反応により得られるものがある。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ブチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等が挙げられ、これらを1種または2種以上併用して用いることが可能である。多価カルボン酸としては、例えば、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられ、これらを1種または2種以上併用して用いることが可能である。さらに、カプロラクトン、メチルバレロラクトン等を開環縮合して得られるポリエステルポリオールが挙げられる。
【0016】
また、ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ソルビトール等の多価アルコールに、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、トリメチレンオキサイド、ブチレンオキサイド等のオキサイドを付加重合させたものが挙げられる。それら種々のポリオールのうちの1種または2種以上を併用したものを、上記ウレタン発泡体原料または上記ウレタンゲル原料として用いることが可能である。また、上記ウレタン発泡体原料のポリオールと上記ウレタンゲル原料のポリオールとは、同じ種類のものであってもよく、異なる種類のものであってもよい。
【0017】
ちなみに、上記ポリオールの重量平均分子量、官能基数、および、水酸基価は、良好なウレタン発泡体およびウレタンゲルを形成することが可能な数値であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、重量平均分子量であれば、3000〜7000であることが好ましく、官能基数であれば、2〜4であることが好ましく、水酸基価であれば、27〜56であることが好ましい。
【0018】
本発明に記載の「ポリイソシアネート」は、1つの分子に2個以上のイソシアネート基を有する化合物であり、上記ウレタン発泡体原料と上記ウレタンゲル原料とのいずれに含まれるものであっても、各原料として通常に採用されるものであればよい。例えば、芳香族イソシアネート、脂肪族イソシアネート、脂環族イソシアネート等が挙げられる。芳香族イソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメリックMDI(クルードMDI)、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。脂肪族イソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート等が挙げられる。脂環族イソシアネートとしては、例えば、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添MDI等が挙げられる。それら種々のポリイソシアネートのうちの1種または2種以上を併用したものを、上記ウレタン発泡体原料または上記ウレタンゲル原料として用いることが可能である。また、上記ウレタン発泡体原料のポリオールと上記ウレタンゲル原料のポリオールとは、同じ種類のものであってもよく、異なる種類のものであってもよい。なお、それらポリイソシアネートから得られるイソシアネートプレポリマーを用いることも可能である。
【0019】
上記ウレタン発泡体原料と上記ウレタンゲル原料との各々におけるポリオールとポリイソシアネートとの配合量の比率は、ポリオール中の全活性水素基濃度に対する、ポリイソシアネート中のイソシアネート基濃度の当量比の百分率、所謂、イソシアネートインデックスによって示すことができる。上記ウレタン発泡体原料でのイソシアネートインデックスは、特に限定はされないが、低すぎると、発泡が好適に行なわれず、高すぎると、良好なクッション性を得られないため、50以上、かつ130以下とすることが好ましい。さらに言えば、90以上、かつ110以下とすることが好ましい。また、上記ウレタンゲル原料でのイソシアネートインデックスは、特に限定はされないが、低すぎると、ゲル状に成形されず、高すぎると、良好な応力分散性を得られないため、65以上、かつ85以下とすることが好ましい。さらに言えば、70以上、かつ75以下とすることが好ましい。
【0020】
本発明に記載の「触媒」は、上記ウレタン発泡体原料と上記ウレタンゲル原料とのいずれに含まれるものであっても、各原料として通常に採用されるものであればよく、例えば、アミン系触媒、有機金属系触媒等が挙げられる。アミン系触媒としては、例えば、トリエチレンジアミン、ジエタノールアミン、ジメチルアミノモルフォリン、N-エチルモルホリン等が挙げられる。有機金属系触媒としては、例えば、スターナスオクトエート、ジブチルチンジラウレート、オクテン酸鉛、オクチル酸カリウム等が挙げられる。それら種々の触媒のうちの1種または2種以上を併用したものを、上記ウレタン発泡体原料または上記ウレタンゲル原料として用いることが可能である。また、上記ウレタン発泡体原料の触媒と上記ウレタンゲル原料の触媒とは、同じ種類のものであってもよく、異なる種類のものであってもよいが、上記ウレタン発泡体原料の触媒としては、泡化反応を促進する効果の高いものを採用することが好ましい。なお、各原料での触媒の配合量は、各原料でのポリオールの合計量を100重量部とした場合に、0.05〜3重量部であることが好ましい。
【0021】
本発明に記載の「発泡剤」は、ウレタン発泡体の原料として通常に採用されるものであればよく、例えば、水、ペンタン、シクロペンタン、メチレンクロライド、炭酸ガス等が挙げられ、これらを1種または2種以上併用して用いることが可能である。上記発泡剤として、水を用いた場合には、上記ウレタン発泡体原料でのポリオールの合計量を100重量部とした場合に、1〜5重量部であることが好ましい。
【0022】
本発明に記載の「整泡剤」は、ウレタン発泡体の原料として通常に採用されるものであればよく、例えば、シリコーン系化合物、非イオン系界面活性剤等が挙げられる。上記整泡剤として、上記ウレタン発泡体原料でのポリオールの合計量を100重量部とした場合に、0.1〜5重量部であることが好ましい。
【0023】
本発明に記載の「可塑剤」は、ウレタンゲルの原料として通常に採用されるものであればよく、例えば、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、リン酸エステル等が挙げられる。上記可塑剤として、上記ウレタンゲル原料でのポリオールの合計量を100重量部とした場合に、50〜200重量部であることが好ましい。
【0024】
なお、上記ウレタン発泡体原料または上記ウレタンゲル原料に、必要に応じて適宜、添加剤を添加することが可能である。添加剤としては、例えば、鎖延長剤、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤等が挙げられる。
【0025】
本発明の「製造方法」および、本発明の「クッション体」の製造方法としては、金型を使用してクッション体を成形する方法、所謂、モールド法を採用することが好ましい。モールド法を採用することで、複雑な三次元構造を有するクッション体を成形することが可能となる。それでは、具体的な製造方法について図1を用いて説明する。まず、金型の内部に、ワックス系,シリコーン系等の離型剤を塗布し、その金型を加温しておく。金型の温度が低温であると、樹脂化等の反応性が低下するため、55〜65℃に加温しておくのが好ましい。そして、上記ウレタン発泡体原料を予め混合攪拌しておいた上記ウレタン発泡原料を金型内に入れる(図1(a))。金型内において泡化反応が生じ、発泡し始める(図1(b))。次に、発泡している最中に、予め混合攪拌しておいた上記ウレタンゲル原料を金型内に入れる(図1(c))。そして、金型に蓋をする。発泡によりウレタン発泡体は密度を低下させつつ形成されていくが、ウレタンゲルは密度を変化させることなく形成されていく。このため、ウレタンゲル原料は、ウレタン発泡体原料の内部に沈み込む(図1(d))。ただし、ウレタンゲル原料は、金型の内側に沿って形成されたウレタン発泡体のスキン層に密着または近接または両者が混在した状態となり、その状態で、ウレタン発泡体の発泡部が形成されていく。このため、ウレタンゲルは、ウレタン発泡体のスキン層と発泡部とのいずれかに挟まれてスキン層または発泡部に密着した状態でウレタン発泡体に内包される。そして、上記ウレタン発泡体の混合攪拌から10分以上経過した後に、金型からクッション体を脱型する。これにより、ウレタン発泡体の内部にウレタンゲルが内包されたクッション体が製造される。以上のように製造されることで、ウレタン発泡体の発泡部におけるウレタンゲルとの密着面において、発泡部より高密度であるスキン層を生じることなく柔軟なウレタン発泡体が得られ、クッション体としても柔軟性を確保することが可能となる。
【0026】
また、ウレタン発泡体原料およびウレタンゲル原料は流動性を有するため、製造に使用する金型の形状に工夫を凝らすことで、複雑な形状のクッション体を製造することが可能となる。具体的にいえば、例えば、図2に示すような形状の金型10を使用することで、複雑な形状のクッション体12を製造することが可能となる。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、この実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0028】
図3に示す配合のウレタン発泡体原料およびウレタンゲル原料から、実施例のクッション体をモールド法によって製造した。その図3におけるウレタン発泡体原料およびウレタンゲル原料の詳細を以下に示す。
・ポリオール(ウレタン発泡体原料およびウレタンゲル原料);ポリプロピレングリコール、商品名:FA−703、三洋化成工業(株)製、重量平均分子量:4800、水酸基数:3、水酸基価:35
・ポリイソシアネート(ウレタン発泡体原料);TDI(2,4−TDI:2,6−TDI=80:20):クルードMDI=80:20、商品名:コロネート1306、日本ポリウレタン工業(株)
・触媒(ウレタン発泡体原料);ジプロピレングリコール:トリエチレンジアミン=67:33、商品名:33LX、エアープロダクツジャパン(株)
・発泡剤;水
・整泡剤;シリコーン整泡剤、商品名:B8738LF2、エポニックデグサジャパン(株)
・ポリイソシアネート(ウレタンゲル原料);ポリイソシアネートプレポリマー、イソシアネート基含有率:23%、商品名:F−1180B、BASF INOAC ポリウレタン(株)
・触媒(ウレタンゲル原料);スターナスオクトエート、商品名:MRH−110、城北化学工業(株)
・可塑剤;ジイソノニルアジペート、商品名:DINA、大八化学工業(株)
【0029】
全ての実施例において、ウレタンゲル原料のイソシアネートインデックスは同じとされているが、実施例1,2と実施例3〜8と実施例9〜11とは、ウレタン発泡体原料のイソシアネートインデックスを異ならせた例となっている。
【0030】
全ての実施例の各々における製造方法を説明する。まず、金型の内部に、ワックス系離型剤を塗布しておく。そして、その金型を55〜65℃に加温しておく。この工程が、金型加温工程の一例となる。次に、ウレタン発泡体原料のポリオール、触媒、発泡剤、整泡剤を別の容器で混合しておき、その混合されたものを金型に投入する。続いて、金型にウレタン発泡体原料のイソシアネートを投入し、ウレタン発泡体原料の全ての原料をミキシングによる混合攪拌を行なう。具体的には、ミキサーを用いて、1500rpmで10秒間、混合攪拌する。この工程が、発泡体原料混合工程の一例となる。
【0031】
金型に投入されるウレタンゲル原料は、予め混合攪拌しておくか、ウレタン発泡体原料の混合攪拌時と並行または前後して混合攪拌される。具体的には、ウレタンゲル原料のポリオール(65重量部)と触媒(1重量部)と可塑剤(35重量部)とを混合攪拌し、混合液Aを作り、ウレタンゲル原料のイソシアネート(3.57重量部)と可塑剤(25重量部)とを混合攪拌し、混合液Bを作る。そして、混合液Aと混合液Bとを混合攪拌することで、ウレタンゲル原料全てが混合攪拌されたものが用意される。そのウレタンゲル原料全てが混合攪拌されたものを、金型内で泡化反応が生じている間に、金型内に投入する。この工程が、ゲル原料混入工程の一例となる。
【0032】
そのゲル原料混入工程においてウレタンゲル原料を金型内に投入するタイミングを、発泡体原料混合工程において全てのウレタン発泡体原料の混合が開始されてからの経過時間によって示し、その経過時間を図3での「投入タイム」の欄に示す。つまり、「投入タイム」は、発泡体原料混合工程において全てのウレタン発泡体原料の混合が開始されてから、ゲル原料混入工程においてウレタンゲル原料が金型内に投入されるまでの時間を示すものである。
【0033】
また、泡化反応中において、どのようなタイミングでウレタンゲル原料を投入するかを解り易くするため、ウレタンゲル原料の投入タイミングを示すものとして、ライズタイム、および、ライズタイムに対するウレタンゲル原料の投入タイムの百分率を、図3に示しておく。ちなみに、ライズタイムは、発泡体原料混合工程において全てのウレタン発泡体原料の混合が開始されてから、発泡体原料混合工程において生じる泡化反応が終了するまでの時間であり、泡化反応時間に相当するものである。
【0034】
ウレタン発泡体原料およびウレタンゲル原料の全てを金型内に投入した後に、金型を密閉する。そして、ウレタン発泡体原料の混合が開始されてから10分経過した後に、金型からクッション体を脱型する。脱型されたクッション体に対して、以下の方法によって物性評価を行なった。
【0035】
まず、クッション体の表面にウレタンゲルが露出していないか否かを評価した。つまり、ウレタンゲルがウレタン発泡体に内包されているか否かを評価した。ウレタン発泡体は、通常、表層に形成されるスキン層と、そのスキン層の内部に形成される発泡部とから構成されており、上記方法によってクッション体を製造すると、ウレタンゲルの表面が、ウレタン発泡体のスキン層と発泡部とによって覆われる。詳しく言えば、上記方法によって製造されたクッション体の断面図である図4に示すように、ウレタンゲル14が、ウレタン発泡体16のスキン層18と発泡部20とに挟まれた状態で、それらスキン層18と発泡部20とに密着する。つまり、上記方法によって製造されたクッション体22では、ウレタンゲル14をウレタン発泡体16に内包することが可能となり、クッション体表面においてウレタンゲルのべとつきを解消することが可能となる。そこで、ウレタンゲルがウレタン発泡体に内包されているか否かを評価するべく、上記方法によって製造されたクッション体の表面を触り、べとつきがない場合には「○」と評価し、べとつく場合には「×」と評価した。なお、この評価の結果を、図3での「スキン層形成」の欄に示しておく。
【0036】
ちなみに、ゲル原料混入工程において、ウレタンゲル原料はウレタン発泡体原料の中に沈んでいくため、図4でのクッション体22では、ウレタンゲル14はクッション体22の下方に位置している。ただし、クッション体22の使用時には、ウレタンゲル14が上方に位置するように使用することが望ましい。つまり、図4でのクッション体22を上下に逆にした状態で使用することが望ましい。
【0037】
次に、上記方法によって製造されたクッション体において、ウレタン発泡体とウレタンゲルとが一体化しているか否かを評価した。ウレタン発泡体とウレタンゲルとが混ざり過ぎると、ゲル特性が低下するため、ウレタン発泡体とウレタンゲルとの境界はある程度はっきりしていることが望ましい。そこで、上記方法によって製造されたクッション体を分割し、その分割面におけるウレタン発泡体とウレタンゲルとの境界を目視することで評価を行なった。ウレタン発泡体とウレタンゲルとの境界がはっきりしている場合には「○」と評価し、境界が渾然となっている場合には「×」と評価した。なお、この評価の結果を、図3での「分離性」の欄に示しておく。
【0038】
さらに、上記方法によって製造されたクッション体において、ウレタン発泡体の発泡部の状態を評価した。詳しくは、上記方法によって製造されたクッション体を分割し、その分割面におけるウレタン発泡体の発泡部を目視し、空洞、割れ等の有無を確認した。空洞等が無く、発泡部の状態が良好である場合には「○」と評価し、空洞等の存在、セルの合一がおきてセル径が大きくなる等、発泡部の状態が不良である場合には「×」と評価した。また、発泡部の状態がやや良好である場合には「○△」と評価し、発泡部の状態がやや不良である場合には「△×」と評価した。なお、この評価の結果を、図3での「フォーム状態」の欄に示しておく。
【0039】
図3に示した「スキン層形成」の欄から明らかなように、実施例1〜11の全てのクッション体において、表面にウレタンゲルが露出しておらず、ウレタンゲルのべとつきが解消されている。実施例1〜11では、ライズタイムに対するウレタンゲル原料の投入タイムの百分率は15〜81%とされており、そのようなタイミングでウレタンゲル原料をウレタン発泡体原料に投入することで、ウレタンゲルがウレタン発泡体に内包されたクッション体を上記方法によって製造することが可能となっている。
【0040】
また、図3に示した「分離性」の欄から明らかなように、実施例1、3、4、9のクッション体では、ウレタン発泡体とウレタンゲルとが混ざり過ぎており、ゲル特性が低下している。一方、実施例2、5〜8、10、11のクッション体では、ウレタン発泡体とウレタンゲルとがある程度分離しており、良好なゲル特性となっている。実施例2、5〜8、10、11では、ライズタイムに対するウレタンゲル原料の投入タイムの百分率は37〜81%とされており、そのようなタイミングでウレタンゲル原料をウレタン発泡体原料に投入することで、上記方法によって製造されるクッション体のゲル特性を良好なものとすることが可能となっている。
【0041】
さらに、図3に示した「フォーム状態」の欄から明らかなように、実施例1、3、4、9のクッション体では、ウレタン発泡体の発泡部の状態は良くなく、実施例5、8のクッション体でも、発泡部の状態はあまり良くない。一方、実施例7、11のクッション体では、発泡部の状態は良好であり、実施例2、6、10のクッション体でも、発泡部の状態はある程度良好である。実施例2、6、7、10、11では、ライズタイムに対するウレタンゲル原料の投入タイムの百分率は37〜69%とされており、そのようなタイミングでウレタンゲル原料をウレタン発泡体原料に投入することで、上記方法によって製造されるクッション体の発泡部の状態を良好なものとすることが可能となっている。
【0042】
上述した物性評価の結果から、ライズタイムに対するウレタンゲル原料の投入タイムの百分率は、15〜85%であることが好ましく、さらに言えば、35〜70%であることが好ましい。そして、さらに限定的に言えば、ライズタイムに対するウレタンゲル原料の投入タイムの百分率が65〜70%であれば、「スキン層形成」、「分離性」、「フォーム状態」の全ての評価を良好なものとすることが可能である。
【0043】
以下、本発明の諸態様について列記する。
【0044】
(1)ポリオール、ポリイソシアネート、発泡剤、整泡剤、触媒を含むウレタン発泡体原料を混合する発泡体原料混合工程と、
その発泡体原料混合工程において生じる泡化反応中に、ポリオール、ポリイソシアネート、可塑剤、触媒を含むウレタンゲル原料を混合した状態で、前記発泡体原料混合工程において混合されている前記ウレタン発泡体原料に混入するゲル原料混入工程と
を含み、ウレタン発泡体にウレタンゲルが内包されたクッション体の製造方法。
【0045】
(2)前記発泡体原料混合工程において前記ウレタン発泡体原料の全ての混合が開始されてから、前記発泡体原料混合工程において生じる泡化反応が終了するまでの時間を泡化反応時間と定義した場合において、
前記ゲル原料混入工程が、
前記発泡体原料混合工程において前記ウレタン発泡体原料の全ての混合が開始されてから、前記泡化反応時間の15〜85%に相当する時間経過したときに、前記ウレタンゲル原料を混入する工程である(1)項に記載のクッション体の製造方法。
【0046】
(3)前記ゲル原料混入工程が、
前記発泡体原料混合工程において前記ウレタン発泡体原料の全ての混合が開始されてから、前記泡化反応時間の35〜70%に相当する時間経過したときに、前記ウレタンゲル原料を混入する工程である(2)項に記載のクッション体の製造方法。
【0047】
(4)前記クッション体が、金型の内部で製造される(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載のクッション体の製造方法。
【0048】
(5)前記ポリウレタン発泡体原料が投入される前に、前記金型を加温しておく金型加温工程を含む(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載のクッション体の製造方法。
【0049】
(6)ポリオール、ポリイソシアネート、発泡剤、整泡剤、触媒を含むウレタン発泡体原料を混合するとともに、その混合において生じる泡化反応中に、ポリオール、ポリイソシアネート、可塑剤、触媒を含むウレタンゲル原料を、混合されている前記ウレタン発泡体原料に混入することで製造され、ウレタン発泡体にウレタンゲルが内包されたクッション体。
【0050】
(7)前記ウレタン発泡体が、
表層に形成されるスキン層と、そのスキン層の内部に形成される発泡部とを有し、
前記ウレタンゲルが、
前記スキン層と前記発泡部とのいずれかに挟まれてそれらスキン層または発泡部に密着した状態で前記ウレタン発泡体に内包される(6)項に記載のクッション体。
【0051】
(8)前記ウレタンゲルが、
前記スキン層と前記発泡部とに挟まれてそれらスキン層と発泡部とに密着した状態で前記ウレタン発泡体に内包される(7)項に記載のクッション体。
【0052】
(9)表層に形成されるスキン層と、そのスキン層の内部に形成される発泡部とを有するウレタン発泡体と、
前記スキン層と前記発泡部とのいずれかに挟まれてそれらスキン層または発泡部に密着した状態で前記ウレタン発泡体に内包されるウレタンゲルとを備えたクッション体。
【0053】
(10)前記ウレタンゲルが、
前記スキン層と前記発泡部とに挟まれてそれらスキン層と発泡部とに密着した状態で前記ウレタン発泡体に内包される(9)項に記載のクッション体。
【0054】
(11)前記ウレタン発泡体が、
ポリオール、ポリイソシアネート、発泡剤、整泡剤、触媒を含むウレタン発泡体原料によって製造され、
前記ウレタンゲルが、
ポリオール、ポリイソシアネート、可塑剤、触媒を含むウレタンゲル原料によって製造される(9)項または(10)項に記載のクッション体。
【符号の説明】
【0055】
10:金型
12:クッション体
14:ウレタンゲル
16:ウレタン発泡体
18:スキン層
20:発泡部
22:クッション体




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール、ポリイソシアネート、発泡剤、整泡剤、触媒を含むウレタン発泡体原料を混合する発泡体原料混合工程と、
その発泡体原料混合工程において生じる泡化反応中に、ポリオール、ポリイソシアネート、可塑剤、触媒を含むウレタンゲル原料を混合した状態で、前記発泡体原料混合工程において混合されている前記ウレタン発泡体原料に混入するゲル原料混入工程と
を含み、ウレタン発泡体にウレタンゲルが内包されたクッション体の製造方法。
【請求項2】
前記発泡体原料混合工程において前記ウレタン発泡体原料の全ての混合が開始されてから、前記発泡体原料混合工程において生じる泡化反応が終了するまでの時間を泡化反応時間と定義した場合において、
前記ゲル原料混入工程が、
前記発泡体原料混合工程において前記ウレタン発泡体原料の全ての混合が開始されてから、前記泡化反応時間の15〜85%に相当する時間経過したときに、前記ウレタンゲル原料を混入する工程である請求項1に記載のクッション体の製造方法。
【請求項3】
前記ゲル原料混入工程が、
前記発泡体原料混合工程において前記ウレタン発泡体原料の全ての混合が開始されてから、前記泡化反応時間の35〜70%に相当する時間経過したときに、前記ウレタンゲル原料を混入する工程である請求項2に記載のクッション体の製造方法。
【請求項4】
ポリオール、ポリイソシアネート、発泡剤、整泡剤、触媒を含むウレタン発泡体原料を混合するとともに、その混合において生じる泡化反応中に、ポリオール、ポリイソシアネート、可塑剤、触媒を含むウレタンゲル原料を、混合されている前記ウレタン発泡体原料に混入することで製造され、ウレタン発泡体にウレタンゲルが内包されたクッション体。
【請求項5】
表層に形成されるスキン層と、そのスキン層の内部に形成される発泡部とを有するウレタン発泡体と、
前記スキン層と前記発泡部とのいずれかに挟まれてそれらスキン層または発泡部に密着した状態で前記ウレタン発泡体に内包されるウレタンゲルとを備えたクッション体。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−144631(P2012−144631A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3638(P2011−3638)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】