説明

クラステリンのペプチドリガンド及びその使用

分子イメージング、又はクラステリンが上方制御されている癌などの病状の診断に有用なペプチドが開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラステリンに特異的なペプチドリガンド及びその使用に関する。より具体的には、本発明は、クラステリン結合性ペプチド及び分子イメージングにおけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
基礎研究における分子イメージングは、新しい技術ではないが、その使用は、分子生物学の技術の出現及び様々なゲノムシークエンシングプロジェクトの成果と共に重要な成長を示している。この技術は、神経学的疾患、心血管疾患及び癌などの疾患の診断における適用に潜在可能性を有することから、将来的に臨床ケアに対して著しく影響を及ぼし得るものである。
【0003】
生物における標的を特異的に探し出すプローブ又は分子イメージング剤の開発は、この研究分野において非常に重要な基礎の1つである。ゲノム及びプロテオミクスの研究は、多くの新しい潜在的な標的を既に明らかにしてきた。これらの新しい標的に対するイメージング剤は、疾患の進行におけるそれらの役割の理解の一助となるだけでなく、新しい治療を生み出し、評価する一助にもなろう。プローブは一般に、プローブを標的分子上にホーミングすることができる標的化部分、及びプローブの検出を可能にするイメージング部分を含む。
【0004】
理想的には、分子イメージング剤は、インビボで検出可能にするための十分な濃度及び保持時間にわたってその標的上にホーミングできるように、適切な親和性、特異性及び代謝安定性を有するべきである。また理想的には、分子イメージング剤は、循環において相対的に短い半減期を有し、非常に低い非特異的結合を示すべきである。多くの種類のイメージング部分、例えば放射標識、フルオロフォア及び近赤外(NIR)蛍光色素が、分子イメージングに使用されている。標的化部分には、モノクローナル抗体、リポタンパク質及びポリペプチドが含まれる。これら及び他の種類の標的化部分は、光プローブを生成するために利用されており、この光プローブは、様々な種類の腫瘍の光学イメージングのために多くの研究者によって使用されているものである(Wagnieresら、1998年;Rosenthalら、2007年;McCormackら、2007年;Pengら、2008年)。NIRプローブの1つの利点は、高浸透、組織による吸収の低さ、及び散乱といったそれらの特性に起因する、より深い組織を画像化するそれらの能力である。
【0005】
ゲノムバイオテクノロジー及び創薬研究後、より多目的な標的化部分の新しい世代として、新しい標的にホーミングするペプチド系分子の開発に高い関心が寄せられている。ペプチド系標的化部分は、一般に、それらの標的に対してモノクローナル抗体よりも低い親和性を示す。しかし、抗体は拡散しにくく、標的への到達性が低いことに関連する制限を有するが、ペプチドは、寸法の小ささ(良好な組織浸透を意味する)、合成の容易さ、及び循環からのクリアランス速度の速さ(良好なコントラストをもたらすことができる)などの利点を有する。現在まで、有効なペプチド系標的化部分の同定は、主に血管標的と相互作用するペプチドに焦点が当てられていた。
【0006】
分子イメージング分野の中でも特に興味深いのは、癌の診断及び治療への応答の評価のためのツールとしてのその潜在可能性である。癌腫は、最も一般的なヒトの悪性腫瘍であり、上皮細胞から生じる。上皮癌の進行は、細胞と細胞の接触の崩壊、並びに遊走性(間葉系様の)表現型の獲得によって開始する。この現象は上皮間葉移行(EMT)と呼ばれ、後期の腫瘍進行及び転移における重大な事象とみなされる(Gupta及びMassague、2006年;Berxら、2007年)。EMTにおける非常に重要な役割の担い手の1つが分泌タンパク質TGF−βであり、これは上皮起源の腫瘍細胞に対するその増殖抑制作用が主因となり、最初は腫瘍増殖を抑制するが、次いで後期では腫瘍細胞の進行及び転移を促進する(Massague、2008年)。TGF−βが腫瘍の進行を促進し得る1つの機構は、EMTの誘発によるものである。
【0007】
腫瘍の形成及び進行に関連する分子機構を標的とする改善されたイメージングプローブの開発は、癌の診断及び進行の評価に有益となり、場合によっては治療の開発及び評価に有益となり得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、クラステリンに特異的なペプチドリガンド及びその使用に関する。より具体的には、本発明は、クラステリン結合性ペプチド及び分子イメージングにおけるそれらの使用に関する。
【0009】
本発明は、
a)配列HPLSKHPYWSQP(配列番号1)、
b)配列NTYWSQLLHFQT(配列番号2)、及び
c)配列SHALPLTWSTAA(配列番号3)、
又はそれと実質的に同一の配列を含むペプチドを対象とする。
【0010】
本発明はまた、カーゴ分子と連結している上述のペプチドを提供する。
【0011】
上述のペプチドは、分子イメージングに使用することができ、又はクラステリンが上方制御されている癌などの病状の診断若しくは治療において使用することができる。
【0012】
本発明の新規のクラステリン結合性ペプチドは、クラステリンと特異的に相互作用し、固形腫瘍に選択的にホーミングすることが示されている。これらのペプチドは、それらの有利な結合特異性、親和性及び循環からのクリアランス速度により、分子イメージングのためのツールとして使用することができる。したがってこの種のペプチド系分子は、より多目的な標的化薬剤の次の世代となり得る。
【0013】
一態様では、本発明はまた、イメージング部分を含むカーゴ分子に上述のペプチドを連結させるステップと、カーゴ分子に連結したペプチドを対象に投与するステップと、対象におけるイメージング部分を検出するステップとを含む、腫瘍のイメージング方法を提供する。
【0014】
本発明のさらなる態様及び利点は、以下の説明から明らかとなろう。詳細な説明及び実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すものであるが、本発明の範囲に含まれる様々な変更及び改変が本発明の教示に照らして当業者に明らかとなる通り、単に例示的なものである。
【0015】
本発明のこれら及び他の特徴を以下に、添付の図を参照することによって実施例により記載する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】TGF−β及び組換えヒトクラステリン(rhCLU)が上皮間葉移行(EMT)を誘発することを示す図である。EMTは、細胞の伸長を特徴とする(他の特徴の中でも特に)。
【図2】同定されたペプチドとクラステリンとの結合を示す核磁気共鳴飽和移動差(NMR−STD)スペクトルを示す図である。上のパネルはP3376/クラステリン複合体であり、中間のパネルはP3375/クラステリン複合体であり、下のパネルはP3378/クラステリン複合体及びP3378単独のオーバーレイである。クラステリンなし(実線の矢印)のSTDスペクトルと、クラステリンの存在下(破線の矢印)のSTDスペクトルとの差異は、結合を示す。
【図3】A−Cは、ペプチド(P3378)とrhCLUとの結合を示す、P3378−クラステリン複合体(実線の矢印)及びP3378単独(破線の矢印)のNMR−STDスペクトルを示す図である。図3A及び3Bは、図2(下のパネル)及び図3Cに示したNMR−STDスペクトルの拡大図である。
【図4】対照ペプチド(P3378R)がrhCLUに結合しないことを示すSPRバイオセンサーのセンサーグラムのオーバーレイプロットの図である。スキャッチャードプロットを挿入図で示す。
【図5】rhCLUと固定化ペプチドP3378との結合を示すSPRバイオセンサーのセンサーグラムのオーバーレイプロットの図である。スキャッチャードプロットを挿入図で示す。
【図6】rhCLUと固定化ペプチドP3375との結合を示すSPRバイオセンサーのセンサーグラムのオーバーレイプロットの図である。スキャッチャードプロットを挿入図で示す。
【図7】rhCLUと固定化ペプチドP3376との結合を示すSPRバイオセンサーのセンサーグラムのオーバーレイプロットの図である。スキャッチャードプロットを挿入図で示す。
【図8】応答(RU)の欠如によって明らかになる通り、II型TGF−β受容体が固定化P3378(図8A)又はP3375(図8B)に結合しないことを示すSPRバイオセンサーのセンサーグラムのオーバーレイプロットの図である。
【図9】線形スキャッチャードプロット(右パネル)によって明らかになる通り、上皮増殖因子受容体が固定化P3375(図9A)又はP3378(図9B)に結合しないことを示すSPRバイオセンサーのセンサーグラムのオーバーレイプロットの図である。
【図10】クラステリンを、P3378の無作為化型(P3378R;図10A)、P3375の無作為化型(P3375R;図10B)及びP3376の無作為化型(P3376R;図10C)配列を有する固定化ペプチド上にフローさせて得たSPRバイオセンサーのセンサーグラムのオーバーレイプロットの図である。
【図11】P3378及びモノクローナル抗体16B5についてクラステリン上の結合部位を比較するオーバーレイプロットの図である。図11Aはクラステリンと固定化P3378との結合を示し、図11Bはクラステリン:16B5の混合物と固定化P3378との結合を示す。
【図12】Aは、4T1マウス乳房腫瘍細胞が、TGF−βの存在下で24時間増殖した場合に、未処理細胞(CTL)と比較して非常にわずかな間葉系様の形態変化を受けることを示す図である。Bは、TGF−βなし(CTL)又はTGF−βの存在下で24時間増殖した細胞から得られた順化培地中のクラステリンの量についてのウエスタンブロット分析を示す図である。培地対照を「Med」と表示する。Cは、創傷治癒アッセイで示される通り、4T1細胞の内因性運動がTGF−βの存在下で増大することを示す図である。上のパネルは、低拡大率における細胞の単層を示し、下のパネルは高拡大率における細胞の単層を示し、線は創傷の元の幅を示す。
【図13】ペプチド注入の14〜130分後の、共にアレクサ(Alexa)680フルオロフォアで標識化したクラステリン結合性ペプチドP3378(図13A)及びスクランブル対照ペプチドP3378R(図13B)の4T1腫瘍担持マウスにおける分布に従う時間依存性の蛍光強度マップの代表的な画像である。点線の輪は、腫瘍部位におけるP3378−アレクサ680ペプチドを示し、実線の輪は、腎臓におけるP3378Rペプチドを示す。
【図14】ペプチド注入の11〜110分後(P3378−DL680)又は20〜120分後(P3378R−DL800)の、ディライト(DyLight)680(P3378R−DL680)フルオロフォアで標識化したクラステリン結合性ペプチドP3378(図14A)又はディライト(商標)800(P3378RDL800)フルオロフォアで標識化したスクランブル対照ペプチドP3378R(図14B)の4T1腫瘍担持マウスにおける分布に従う時間依存性の蛍光強度マップの代表的な画像である。
【図15】P3378及びP3378Rペプチドに曝露した4T1腫瘍担持マウスにおいて得られた腫瘍測定値から算出した腫瘍体積(pi/6(長さ×幅×高さ))の増大を示すグラフである。
【図16】マウス乳房4T1腫瘍細胞がクラステリンを発現し、分泌する図である。Aは、2Dで培養した場合の4T1細胞の形態(morpholgy)の図である(拡大率:40×)。Bは、ホールセル溶菌液(WCL)及び順化培地(CM)のウエスタンブロットが、WCL中未処理の(pCLU)クラステリン及び処理され分泌された(sCLU)クラステリンの存在を示す図であり、処理され分泌されたsCLUのみを、CMに見出すことができる。Cは、免疫蛍光顕微鏡が、DAPI染色核と比較して、単離した4T1腫瘍において分泌されたCLUの存在を示す図である(拡大率10×)。
【図17】腫瘍(AUT)及び非腫瘍を含有する反対側(AUN)の関心領域(ROI)に対する平均蛍光強度(AU)をプロットするグラフが、注入の約60分後までは両方のペプチドが類似の腫瘍蓄積を示し、その後P3378Rペプチドは腫瘍から除去され、P3378ペプチドは保持されることを示す図である。
【図18】P3378−DL680の蓄積が、過剰の非標識P3378によって遮断され得るが、P3378Rでは遮断されないことを示す図である。Aは、注入の15分後に測定したP3378−DL680の腫瘍特異的な蓄積が(25nモル、左パネル)、過剰の非標識P3378との同時注入では遮断されるが(中間のパネル)、P3378Rペプチドとの同時注入では遮断されない(右パネル)ことを示す図である。Bでは、腫瘍部位におけるP3378−DL680の相対濃度の測定(白色矢印で示した)によって、この濃度値が、P3378−DL680を単独で注入したマウス(左パネル)と比較して、過剰の非標識P3378の存在下では約3〜4分の1となり(中間のパネル)、過剰の非標識P3378Rのみがわずかな作用を有する(右パネル)ことが示される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、クラステリンに特異的なペプチドリガンド及びその使用に関する。より具体的には、本発明は、クラステリン結合性ペプチド及び分子イメージングにおけるそれらの使用に関する。
【0018】
クラステリンのmRNAは、BRI−JM01マウス乳腺細胞が形質転換増殖因子(TGF)−βに曝露されると上方制御され、その結果クラステリンを分泌することが示されている(O’Connor−McCourtら、国際公開第2007/030930号パンフレット)。クラステリンはさらに、BRI−JM01細胞のTGF−β誘発性EMTにおいて極めて重要な役割に関与するとされており(Lenferinkら、投稿済み)、そのEMT促進作用の原因となるクラステリン内のエピトープが同定されている(O’Connor−McCourtら、国際公開第2007/030930号パンフレット)。他の報告によれば、クラステリンは、腫瘍発生を促進するさらなる重要な機能、例えば抗アポトーシス活性を担うことが示されている(Lauら、2006年;Mourraら、2007年;Zhangら、2006年;Watariら、2008年及びSteinbergら、1997年)。
【0019】
本発明は、クラステリン糖タンパク質に特異的に結合するペプチドを対象とする。具体的には、本発明は、
a)本明細書ではP3378と呼ばれる配列HPLSKHPYWSQP(配列番号1)、
b)本明細書ではP3375と呼ばれる配列NTYWSQLLHFQT(配列番号2)、及び
c)本明細書ではP3376と呼ばれる配列SHALPLTWSTAA(配列番号3)、
を含むペプチドを対象とする。
【0020】
本発明はまた、ペプチドP3378、P3375及びP3376の配列に実質的に類似の配列を有するペプチドを包含する。実質的に同一のペプチドは、1つ又は複数の保存アミノ酸変異を含み得る。参照ペプチドに対する1つ又は複数の保存アミノ酸変異は、その参照ペプチドと比較して、生理的、化学的又は機能的特性の実質的な変化なしに変異ペプチドをもたらし得ることが当技術分野で公知であり、かかる場合、参照ペプチド及び変異ペプチドは「実質的に同一の」ポリペプチドとみなされ得る。保存アミノ酸変異は、アミノ酸の付加、欠失又は置換を含むことができ、保存アミノ酸の置換とは、本明細書では、アミノ酸残基で、類似の化学特性(例えば、大きさ、電荷又は極性)を有するもう1つのアミノ酸残基を置換することと定義される。
【0021】
非限定的な例では、保存変異はアミノ酸置換であり得る。かかる保存アミノ酸置換では、塩基性、中性、疎水性又は酸性アミノ酸で、同じグループの別のものを置換することができる。用語「塩基性アミノ酸」とは、pK値が7を超える側鎖を有する親水性アミノ酸を意味し、このアミノ酸は生理的pHにおいて一般に正電荷である。塩基性アミノ酸には、ヒスチジン(His又はH)、アルギニン(Arg又はR)、及びリシン(Lys又はK)が含まれる。用語「中性アミノ酸」(「極性アミノ酸」ともいう)は、生理的pHでは無電荷であるが、2つの原子によって共有される電子対がそれらの原子の一方によってより密接して保持される少なくとも1つの結合を有する側鎖を有する、親水性のアミノ酸を意味する。極性アミノ酸には、セリン(Ser又はS)、スレオニン(Thr又はT)、システイン(Cys又はC)、チロシン(Tyr又はY)、アスパラギン(Asn又はN)、及びグルタミン(Gln又はQ)が含まれる。用語「疎水性アミノ酸」(「非極性アミノ酸」ともいう)は、Eisenberg(1984年)の標準化された疎水性の統一基準によれば、ゼロを超える疎水性を示すアミノ酸を含むことを意味する。疎水性アミノ酸には、プロリン(Pro又はP)、イソロイシン(Ile又はI)、フェニルアラニン(Phe又はF)、バリン(Val又はV)、ロイシン(Leu又はL)、トリプトファン(Trp又はW)、メチオニン(Met又はM)、アラニン(Ala又はA)、及びグリシン(Gly又はG)が含まれる。「酸性アミノ酸」とは、pK値が7未満の側鎖を有する親水性アミノ酸を指し、このアミノ酸は生理的pHにおいて一般に負電荷である。酸性アミノ酸には、グルタミン酸塩(Glu又はE)及びアスパラギン酸塩(Asp又はD)が含まれる。
【0022】
配列同一性は、2つの配列の類似性を評価するために使用され、2つの配列が、残基位置と残基位置との間で最大限に一致するように整列している場合に同一となる残基の百分率を算出することによって決定される。任意の公知の方法を使用して、配列相同性を算出することができ、例えば、配列相同性の算出にはコンピューターソフトウェアが利用可能である。限定するものではないが、配列相同性は、BLAST−P、BLAST−N若しくはFASTA−Nなどのソフトウェア、又は当技術分野で公知の任意の他の適切なソフトウェアによって算出することができる。本発明の実質的に同一の配列は、少なくとも75%同一であってよい。別の例では、実質的に同一の配列は、本明細書に記載の配列と、アミノ酸レベルで少なくとも75、80、85、90、95又は100%同一であってよい。
【0023】
本発明のP3378、P3375及びP3376ペプチドは、全長の組換えヒトクラステリンに対してファージディスプレイしたペプチドライブラリーをスクリーニングすることによって得た。核磁気共鳴(NMR)分光法及び表面プラズモン共鳴(SPR)バイオセンサーの研究によって、ペプチドが特異的な方法でクラステリンと結合することを確認した。
【0024】
本発明はまた、カーゴ分子に連結した本明細書に記載のクラステリン特異的ペプチドを包含する。カーゴ分子は、当技術分野で任意の適切な分子であってよく、クラステリンが上方制御されている癌腫又は他の病状の診断又は治療に有用となり得る。限定するものではないが、例えばカーゴ分子は、組織において対象となる細胞の同定及び限局化に有用な酵素、分子イメージングに使用されるイメージング部分、放射性同位体であってよく、又は疾患状態の組織の生存率若しくは腫瘍細胞の増殖能を低減するのに有用な薬物、抗原、アポトーシス誘発物質若しくは放射性同位体などの細胞傷害性薬剤であってよい。
【0025】
一実施形態では、カーゴ分子はイメージング部分であってよい。分子イメージング部分は、任意の適切な分子であってよい。非限定的な例では、イメージング部分は、放射標識、フルオロフォア、近赤外(NIR)蛍光色素又は磁気ナノ粒子であってよい。さらに非限定的な例では、イメージング部分は、アレクサ680、ディライト680若しくはディライト800、Cy5.5色素、又は当技術分野で公知の任意の他のフルオロフォアであってよい。
【0026】
カーゴ分子は、当技術分野で公知の任意の方法によってペプチドに連結することができる。限定するものではないが、例えばカーゴ分子は、共有結合又はイオン性相互作用によってペプチドに連結することができる。連結は、化学的架橋反応によって、又は細菌、酵母若しくは哺乳動物の細胞に基づく系などの任意のペプチド発現系と組み合わせた組換えDNA方法論を使用する融合によって達成され得る。カーゴ分子に本発明のペプチドを連結させる方法は、当業者に周知である。
【0027】
上述のペプチドは、
本明細書に記載の光学イメージング;
11C、13N、15O、18F、64Cu、62Cu、124I、76Br、82Rb及び68Gaなどの一般的な同位体(臨床的には18Fが最も利用される)でペプチドを標識化する陽電子放出断層撮影(PET);
特異的な適用に依存して99mTc、111In、123I、201Tlなどの放射性トレーサーを使用する単一光子放射型コンピュータ断層撮影法(SPECT)(限定するものではないが、例えば133Xeガスは、肺機能評価のための吸入の診断研究に有用であることが示されている);
ペプチドを、例えばそれに限定されるものではないが炭素で被覆した鉄−コバルトナノ粒子と結合させ、それにより腫瘍検出のためのMRIの感受性を増大する磁気共鳴画像(MRI)(この種類のナノ粒子は、近赤外光を吸収し発熱することもでき、これにより腫瘍のイメージングが可能になるだけでなく、腫瘍細胞を熱で死滅させることもできる。最適な注入用量及び投与方法(静脈内(i.v.)又は腹腔内(i.p))は、一般に実験によって決定される)
を含むいくつかの分子イメージング技術において使用することができる。
【0028】
本明細書に記載のペプチドは、クラステリンが過剰発現する癌及び他の病状の診断、治療評価又は治療に使用することができる。クラステリンが癌腫のEMTに関与する場合(図1)、本発明のクラステリン結合性ペプチドは、分子イメージング技術によって癌腫の進行を検出するために使用できる。実際、生存マウスに対するリアルタイムのイメージングによって、近赤外(NIR)プローブで蛍光標識化した場合の、インビボで腫瘍にホーミングし、腫瘍をイメージングするP3378ペプチドの能力を実証した(図12及び13)。これにより、腫瘍をインビボで限局化、可視化及び定量化することができ、切除に最適な生検部位及び腫瘍境界に関する情報を提供することもできる。
【0029】
本発明の新規のクラステリン結合性ペプチドは、クラステリンに特異的に結合し、固形腫瘍に選択的にホーミングすることが示されている。それらの結合特異性、結合親和性の低さ(モノクローナル抗体と比較して)、及び循環からのクリアランス速度の速さ(モノクローナル抗体と比較して)により、これらのペプチドは、それらがイメージング研究において良好なコントラストをもたらす限り、分子イメージングのための有用なツールとして作用することができる。
【実施例】
【0030】
本発明を、以下の実施例でさらに例示する。しかしこれらの例は単に例示目的であり、いかなる方法でも本発明の範囲を制限するために使用されるべきでないことを理解されたい。
【0031】
実施例1:ファージディスプレイによるクラステリン結合性ペプチドの同定
【0032】
ヒトクラステリンに結合するペプチドを、ファージディスプレイ技術によって同定した。
【0033】
ファージパニング、SPR、NMRに使用する精製組換えヒトクラステリン(rh−クラステリン)調製物を、HEK−293細胞(Durocherら、2002年に記載の一般的な発現系)において生成した。
【0034】
無作為の12アミノ酸ペプチドをディスプレイする市販のPh.D.−12ファージディスプレイライブラリーキットを、New England BioLabs(マサチューセッツ州べバリー)から購入した。マキシソープ(MaxiSorp)(商標)ウェル(デンマーク、Nunc Brand)を、pH7.4のPBS100μL中rh−クラステリン10μgを用いて終夜4℃で被覆し、0.5%BSAで1時間ブロックした。
【0035】
パニング手順を、他書に記載の通り(Suら、2004年)本質的に室温で実施した。各パニングラウンドの後、20のファージクローンを無作為に選択し、配列した。
【0036】
精製したrh−クラステリンに対してファージライブラリーを2ラウンド、パニングすることによって、P3378と指定されるアミノ酸配列HPLSKHPYWSQP(配列番号1)を有する独特のペプチドを含有する単一ファージクローンがかなり濃縮した(分析したプラークの最大35%)。
【0037】
3ラウンド目のパニングによって、ほぼ例外なくP3378をディスプレイするファージ粒子が回復した。したがって、rh−クラステリンに対して親和性を有するもう1つのペプチド配列ファミリーの同定は困難であった。rh−クラステリンと相互作用する他のペプチドリガンドを同定するために、1ラウンド目の選択後に得られたPhD−12ファージのサブライブラリーを、競合するP3378の存在下(1mM)で、2回の連続パニングサイクルにかけた。これらのパニングラウンドによって、rh−クラステリンと結合する可能性があるより多くのペプチド配列が得られた。さらなる分析のために、発生頻度を基にして2つの追加の配列NTYWSQLLHFQT(P3375)(配列番号2)及びSHALPLTWSTAA(P3376)(配列番号3)を選択した。P3375及びP3378の両方が配列YWSQ(配列番号4)を含有することは、注目に値する。
【0038】
実施例2:ペプチドP3375、3376及び3378の合成
【0039】
実施例1で同定した3つのペプチド配列を、COOH末端における伸長を伴う標準のFmoc化学を使用して合成し、すなわちこれらのペプチド配列をSGSGC配列(配列番号5)によって伸長して、安定なチオエーテル結合を介してSPRバイオセンサー表面又はNIR色素に結合するためのリンカーを提供した。
【0040】
非標識の合成ペプチドを、標準のFmoc化学を使用して合成した。ペプチドを、HPLCを使用することによって、0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を添加した水−アセトニトリル直線勾配0〜60%(1.0%/分、流速5.0ml/分)を使用して10×250mmのVydac(商標)−C18逆相カラムで精製した。最終生成物を凍結乾燥し、すべてのペプチドについて、分析HPLCによって、0.1%TFA中勾配0〜60%(1%/分、流速1.0ml/分)のアセトニトリルを使用して4.6×250mmのVydac−C18逆相カラムで純度≧98%になったことを確認した。溶出プロファイルは、278nmにおける吸光度によってモニターした。精製したすべてのペプチドの識別を、エレクトロスプレー質量分析(ESI−MS)によって検証した。ペプチド濃度を、予測吸光係数を使用して分光光度的に決定した。
【0041】
実施例3:STD−NMRを使用するペプチドとクラステリンとの相互作用の特徴付け
【0042】
実施例1のペプチドとクラステリンとの直接結合を確認するために、実施例2の合成ペプチドとクラステリンとの相互作用を、核磁気共鳴飽和移動差(STD−NMR;Mayer&Meyer、2001年)を使用して試験した。
【0043】
0.15mMペプチドを50mMリン酸ナトリウム緩衝液、0.2mMのEDTA、pH6.5に溶解することによって、NMRサンプルを調製した。5mMリン酸ナトリウム緩衝液、0.02mMのEDTA、pH7.4中rh−クラステリン(約1mg/ml)を、約1:30の比のタンパク質:ペプチドに添加した。
【0044】
すべてのNMR実験を、298Kにおいて、3つの軸勾配の5mmの三重共鳴プローブを備えたブルカーアドバンス(Bruker Avance)800(商標)NMR分光計で実施した。飽和移動差(STD)スペクトルを、WATERGATE版のSTDパルスシーケンス(35)を使用して、緩和遅延に適用した3秒の選択的飽和パルス及び20ミリ秒のスピンロックパルスで、電界強度12.25kHzを用いて記録した。飽和パルスは、49ミリ秒のガウス形選択的パルス及び1ミリ秒のインターパルス遅延のパルス列を使用して実施した。各ガウス形パルスは、1%切り捨てで1000ポイントを有し、電界強度75.9Hzで印加された。STDスペクトルは、スペクトル幅16025.64Hz及びデータ点32Kで記録した。タイムドメインシグナルを、遊離サンプル及び複合サンプルについてそれぞれ1024及び4096のスキャンで積算した。NMRデータを、Bruker Xwinnmr 2.6を使用して処理した。フーリエ変換及び多項式ベースライン補正の前に、指数重み関数(exponential weighting function)7Hzを適用した。
【0045】
ペプチドP3378及びrh−クラステリンのNMRシグナルが大幅に重複し、したがってペプチドの共鳴を妨げずに先の飽和パルスをrh−クラステリン共鳴に排他的に適用することは不可能であった。P3378−rh−クラステリン複合体における結合相互作用を同定するために、メチル共鳴(0.912ppm)におけるオン共鳴飽和パルス及び−7.799ppm(参照したHOを4.700ppmとする)におけるオフ共鳴照射を適用することによって、新しい実験スキームを実施した。このスキームでは、オン共鳴飽和パルスによってメチル共鳴周辺のNMRシグナルがクエンチされたが、オフ共鳴照射は、任意の共鳴なしにスペクトル領域に適用されたので、全NMRスペクトルに対して作用しなかった。オフ共鳴照射されたスペクトルからオン共鳴照射されたスペクトルを減算することによって、STDスペクトルを得た。差スペクトルの結果として、ペプチドとタンパク質の間に結合相互作用がなかったにもかかわらず、オン共鳴の周波数周辺の強い「残りの」ピークが、複合体のSTDスペクトルにおいて観測された。メチル周波数におけるオン共鳴照射は、タンパク質シグナルだけでなく、オン共鳴に近いペプチドシグナルも飽和する。これは、ペプチド内の飽和移動作用に由来する追加のSTDシグナルをもたらし得る。このペプチド内作用を評価するために、遊離ペプチドサンプルについても同じ実験準備を行った。結合の情報は、複合体のSTDスペクトルを、遊離ペプチドのSTDスペクトルと比較することによって抽出することができる。
【0046】
図2(下のパネル)は、準化学量論的な量のクラステリンの存在下及びそれなしのP3378のSTD−NMRスペクトルを示す(タンパク質:ペプチド約1:30)。rh−クラステリンの存在下における芳香族側鎖領域の鋭いNMRピークの出現(約7ppm)は、タンパク質からペプチドへの飽和移動を示し、タンパク質とペプチドの間の直接的な相互作用を示すものであった。P3378と同様に、合成P3375及びP3376の結合をSTD−NMRによって確認した(図2、上及び中間のパネル)。rhCLUとのP3378の特異的な結合を実証するP3378−クラステリン複合体(実線の矢印)及びP3378単独(破線の矢印)のNMR−STDスペクトルを、やはり図3A〜Cに示す。
【0047】
実施例4−SPRバイオセンサー分析を使用するペプチドとクラステリンとの相互作用の特徴付け
【0048】
実施例1のペプチドとクラステリンとの結合を、表面プラズモン共鳴(SPR)を使用してさらに研究した。
【0049】
ペプチドを、マレイミドの結合方法によって研究用CM5センサーチップ上に固定化した。CM5センサーチップ(研究用)及びEDCは、Biosensor AB(スウェーデン、ウプサラ)から購入した。このチオールの結合によって、センサーチップ表面上の反応性マレイミド基とペプチドのチオール基との安定なチオエーテル結合が得られる。ヘテロ二官能性試薬であるSMCC−ヒドラジド(4−[N−マレイミドメチル]シクロヘキサン−1カルボキシルヒドラジド;純度99.5%;Molecular Biosciences Inc.(Boulder、CO)から購入した)を使用して、反応性マレイミド基をセンサー表面に導入した。流速5μL/分において25℃で固定化を実施した。HBS−EP緩衝液(20mMのHEPES、150mMのNaCl、3.4mMのEDTA及び0.05%ツイーン(Tween)(商標)−20、pH7.4)の連続フローを、センサー表面上に維持した。センサー表面上のカルボキシル化デキストランマトリックスを、100mMのMES緩衝液、pH5.00中1.2mMのN−エチル−N’−(3−ジエチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)172μL及び40%DMF中17.8mMのSMCC−ヒドラジド28μLを含有する新しく混合した溶液50μLを注入することによって活性化した。SMCC:EDCの比は2.5:1であった。100mMのMES緩衝液(pH5.0)にペプチド(30〜100μg/ml)を注入することによって、ペプチド結合表面を生成した。活性化表面上に固定化するペプチドの量を、ペプチド溶液との接触時間を変えることによって調節し、約400〜500RU又はペプチド400〜500pg/mmとした。固定化手順は、1M塩化ナトリウム及び0.1M酢酸ナトリウム(pH4)中50mMシステイン50μLを注入して、過剰の活性なマレイミド基をクエンチすることによって完了した。
【0050】
タンパク質とペプチドとの相互作用を、BIAcore 3000機器(スウェーデン、ウプサラ、Biosensor AB)を使用して追跡した。センサー表面全体にわたる流速20μL/分のHBS−EP緩衝液(20mMのHEPES、150mMのNaCl、3.4mMのEDTA及び0.05%ツイーン−200)pH7.4の連続フローの下、25℃ですべての結合実験を実施した。HBS−EP緩衝液中異なる濃度のrh−クラステリンを、ペプチド誘導体化センサーチップ上に注入した。注入後最大300秒間、解離をモニターした。5mMのNaOHを含有するHBS−EP緩衝溶液を15秒間注入することによって、表面を完全に再生させた。各相互作用の動態は、流速(20〜100μL/分)を変えることによってごくわずかに影響を受けたが、このことは質量輸送の寄与が最小限であったことを示す(データは示さず)。各分析物の注入について、BiaEvaluationソフトウェアバージョン3.0(スウェーデン、ウプサラ、Biacore AB)を使用して、ペプチドを含有するフローセルから非修飾デキストラン表面を含有する対照フローセルからの参照応答を減算した。
【0051】
得られたセンサーグラムを、単純1:1ラングミュア結合モデルに対する実験データのグローバルフィッティングによる運動速度の決定に使用した。センサーグラムの解離相と会合相の両方に関するフィットの統計的分析は、低い2値(<2)を示した。結合研究からの親和性データ(K)を、定常状態におけるRUとしての応答(Req)対クラステリンの濃度(C)をプロットし、これらの曲線を単一部位結合モデル(one−site binding model)、Req=C×Rmax/(C+KD)(式中、Rmaxは飽和におけるRUの値であり、Reqは、所与の各Cにおいて観測されたRUの光学的変化である)にフィットさせることによって得た。
【0052】
図4は、rhCLU(11nM〜14μM)と固定化無作為化配列P3378R(3378RU)との相互作用を評価した対照実験からの、SPRバイオセンサーのセンサーグラムのオーバーレイプロットである。この対照ペプチドは、P3378と同じアミノ酸含量を有するが、無作為化配列(PYLHQSPHWKPSSGSGC−配列番号6)を有する。rhCLUとこの対照ペプチドとの結合の欠如は、スキャッチャードプロット(挿入図;rhCLUの濃度に対してプロットした平衡における応答)の線形性質によって明らかである。これは、無作為化ペプチドがrhCLUに特異的に結合せず、結果的に親P3378ペプチドとクラステリンとの相互作用がペプチド配列依存性であることを実証するものである。
【0053】
図5は、rhCLU(5.5nM〜1.4μM)と固定化ペプチドP3378(500RU)との結合を示すSPRバイオセンサーのセンサーグラムのオーバーレイプロットを示す。データのグローバルフィット(実線)は、その結合が、kon=(1.72±0.03)×10−1−1、koff=0.0052±0.0002s−1及びK=0.30μMの単純1対1ラングミュア結合モデルによって説明し得ることを示している。平衡における応答を、rhCLUの濃度に対してプロットし、実験データを、Kdが0.30±0.06μMの1対1結合モデルを用いてフィットさせた。結合は、スキャッチャードプロット(挿入図)の曲線の性質によって明らかである。
【0054】
図6は、rhCLU(2nM〜1.1μM)と固定化ペプチドP3375(1200RU)との結合を示すSPRバイオセンサーのセンサーグラムのオーバーレイプロットを示す。データのグローバルフィット(実線)は、その結合が、kon=(1.12±0.03)×10−1−1、koff=0.006±0.0002s−1及びK=0.54μMの単純1対1ラングミュア結合モデルによって説明し得ることを示している。結合は、スキャッチャードプロット(挿入図)の曲線の性質によって明らかである。
【0055】
図7は、rhCLU(0nM〜1.4μM)と固定化ペプチドP3376(150RU)との結合を示すSPRバイオセンサーのセンサーグラムのオーバーレイプロットを示す。平衡における応答を、rhCLUの濃度に対してプロットし、曲線は、Kが0.34±0.10μMの1対1結合モデルに対するデータ点のフィットを表す。結合は、スキャッチャードプロット(挿入図)の曲線の性質によって明らかである。
【0056】
つまり、図5、6及び7は、ファージディスプレイスクリーニングによって同定した3つすべてのクラステリン結合性ペプチドが、rh−クラステリンに対してマイクロモル以下の見掛けの親和性を示すことを実証している。
【0057】
実施例5−SPRバイオセンサー分析及びクラステリンに無関係のタンパク質を使用するクラステリンとペプチドとの相互作用の特異性の研究の特徴付け
【0058】
クラステリンとペプチドとの相互作用の特異性を、SPRバイオセンサー分析及びクラステリンに無関係のタンパク質を使用して研究した。センサーチップ上のペプチド及び他のタンパク質の固定化、並びにSPR実験を、実施例4に記載の通り実施した。
【0059】
図8は、II型TGF−β受容体の細胞外ドメイン(38nM〜4.5μM)と、固定化P3378(500RU)(図8A)又はP3375(1200RU)(図8B)との相互作用を示すSPRバイオセンサーのセンサーグラムを表す。どちらの場合も著しいシグナルは観測されなかったが、このことはII型TGF−β受容体がこれらのペプチドと相互作用しないことを示す。
【0060】
図9は、上皮増殖因子外部ドメイン(EGFR−ED)(70nM〜5.63μM)と、固定化P3375(1200RU;図9A)又はP3378(500RU;図9B)との結合を示すオーバーレイプロットを示す。スキャッチャードプロットの線形性質(右パネル)は、これらのペプチドがEGFR−EDに特異的に結合しないことを示す。
【0061】
つまり、図8及び9の結果は、P3378及びP3375が、クラステリンとは無関係なタンパク質とは特異的に相互作用しないことを示しており、このことは、rh−クラステリンとのそれらの結合が特異的であることを示す。
【0062】
実施例6−クラステリンとペプチドとの相互作用の配列依存の特徴付け
【0063】
クラステリンとペプチドとの相互作用の配列依存を、SPRバイオセンサー分析及びスクランブル配列を有するペプチドを使用して研究した。センサーチップ上のペプチドの固定化及びSPR実験を、実施例4に記載の通り実施した。
【0064】
図10は、rh−クラステリン(11nM〜1.4μM)と、本発明のクラステリン結合性ペプチドの固定化無作為化型であるP3378R(PYLHQSPHWKPSSGSGC−配列番号6)、P3375R(LSLYHTNTQFWQSGSGC−配列番号7)及びP3376R(AWHTLASTSLAPSGSGC−配列番号8)との相互作用を示すSPRバイオセンサーのセンサーグラムを表す。曲線のスキャッチャードプロット(右パネル)によって明らかになる通り、クラステリンがP3375R(13850RU)及びP3376R(3300RU)と結合したことは(それぞれ図10b及びc)、P3375及びP3376とクラステリンとの結合が、ペプチド配列に特異的でないことを実証するものである。P3378R(3378RU)のスキャッチャードプロット(図10a、右パネル)の線形性質によって、P3378とクラステリンとの相互作用の配列依存性の性質が確認される(図4も参照)。
【0065】
実施例7−mAb16B5との比較におけるP3378クラステリンのエピトープの特徴付け
【0066】
EMTを遮断する抗クラステリンモノクローナル抗体(mAb)16B5及びP3378が、クラステリン上に重複又は独立の結合部位を有するかどうかという問題を、SPRバイオセンサー分析を使用して研究した。クラステリンと相互作用するいくつかのmAbが単離されており、16B5を含むこれらのmAbのうち5つが、クラステリンのEMT促進作用にとって重要なクラステリン上のエピトープと相互作用する。したがって、これらの抗クラステリンmAbは、細胞培養におけるEMT及び動物モデルにおける腫瘍転移を阻害する(O’Connor−McCourtら、国際公開第2007/030930号パンフレット)。クラステリン結合性ペプチドは、インビボでクラステリン発現腫瘍(原発腫瘍及び転移)を非侵襲的にイメージングするために使用できるので、抗クラステリンmAbによる処理が、クラステリン標的とのペプチド結合を遮断し、したがって腫瘍をイメージングするペプチドの能力を損なうおそれがあるかどうかを決定することが重要である。センサーチップ上のペプチドの固定化及びSPR実験を、本質的に実施例4に記載の通り実施した。
【0067】
図11は、16B5mAbなし、及び16B5mAbの存在下でのrh−クラステリンと固定化P3378ペプチドとの結合を示すセンサーグラムのオーバーレイプロットを示す。固定化P3378ペプチドよりも高い濃度のrh−クラステリン(0〜1.2μM)の注入によって、0.52μMのKが得られた(図11a)。rh−クラステリンを、mAb16B5を用いてプレインキュベートし(比1:1.7)、次いで同じペプチド表面上にフローさせると、1.1μMのKが測定された(図11b)。これらの結果は、mAb16B5の存在が、固定化P3378とのrh−クラステリンの結合親和性に著しく影響を及ぼさなかったことを示すが、このことはmAb16B5及びP3378ペプチドが、rh−クラステリン上の非重複部位に結合することを示すものである。したがってP3378は、16B5mAbによって処理した腫瘍との相互作用及びそのイメージングを遮断されないはずである。
【0068】
実施例8−マウス4T1乳房腫瘍細胞におけるクラステリン分泌
【0069】
動物モデルにおける腫瘍のイメージングを実証するためには、標的、この場合クラステリンを発現する腫瘍細胞株(動物に埋め込まれることになる)を選択することが必須である。したがって、マウス4T1乳房腫瘍細胞がクラステリンを分泌し、分泌されたクラステリンのレベルが間葉系の表現型と相関することを実証した。
【0070】
マウス4T1腫瘍細胞は、クラステリンの分泌型を生成することが示されており、この分泌は、TGF−βによる処理によって増大する(図12)。マウス乳房4T1腫瘍細胞をATCCから得、ATCCの推奨に従って培養した。4T1マウス乳房腫瘍細胞は、TGF−βの存在下で24時間増殖させると、未処理細胞(CTL)と比較して非常にわずかな間葉系様の形態変化を受ける(図12A)。TGF−βなし(CTL)又はTGF−βの存在下で24時間増殖した細胞から得た馴化培地50μLのウエスタンブロット分析は、細胞によるクラステリン分泌がTGF−βによって増大することを示す(図12B)。培地対照(Med)におけるクラステリンの欠如は、未処理4T1細胞の馴化培地で検出されたクラステリンが、成長培地自体(DMEM+10%ウシ胎児血清(FBS))に由来しないことを示す。これらの結果は、クラステリンが4T1細胞によって分泌され、分泌されたクラステリンの量がTGF−βによって増大すること、すなわちクラステリンの発現レベルがより間葉系の表現型と相関することを示すものである。4T1細胞の運動性は、創傷治癒アッセイにおいて示される通り、TGF−βの存在によって増大するが(図12C)、このことは、増大したクラステリンと間葉系の表現型との相関を確認するものである。Leitz Labovert倒立顕微鏡に搭載したNikon CoolPix 995デジタルカメラで写真を撮った。
【0071】
実施例9−標識化クラステリン結合性ペプチド(P3378)を使用する4T1腫瘍担持動物のイメージング
【0072】
分子イメージングの準備では、ペプチドP3378(及びその無作為化対照ペプチド、P3378R)を様々なプローブで標識化した。アレクサフルオル(Alexa Fluor)680のC2−マレイミドを、Invitrogen Canada Inc.(オンタリオ州バーリントン)から購入した。アレクサフルオル680、ディライト680又はディライト800によるP3378及びP3378Rペプチドの標識化を、製造者の指示(Molecular Probes)に従って実施した。3:1(色素:ペプチド)のモル比の7.0mMのアレクサフルオル680のC2マレイミド(DMSOに溶解)を、50mMリン酸緩衝液(pH7.2)中0.3mMのペプチドを用いて4℃で24時間にわたって暗室でインキュベートすることによって、アレクサフルオル680−ペプチドコンジュゲートを生成した。粗コンジュゲートを、分析的HPLCを使用することによって、Vydac−C18逆相カラム、4.6×250mmで0.1%TFA中勾配0〜60%(1%/分、流速1.0ml/分)のアセトニトリルを使用して精製した。溶出プロファイルを278nmにおける吸光度によってモニターした。精製したすべての標識化ペプチドの識別を、エレクトロスプレー質量分析(ESI−MS)によって検証した。ピークを含有するペプチド−アレクサ680コンジュゲートを収集し、凍結乾燥させ、濃度250μM(予測吸光係数を使用して分光光度的に決定した)で滅菌生理食塩水に再溶解し、使用まで暗室において−80℃で保存した。
【0073】
モデル系として、4T1マウス乳癌細胞株の細胞を使用して、同系BALB/cマウスにおいて腫瘍を発生させた。4T1細胞は、著しい量のクラステリンを発現及び分泌し(図16及びLenferink 2009年)、雌性BLAB/c動物に注入した場合に同系インビボモデル系を提供することが示されている。すべての動物における手順は、機関の指針と共に、Animal Care Committee in the Biotechnology Research Institute of the National Research Council of Canada(ケベック州モントリオール)によって承認のプロトコル08−MAR−I−12に従って服薬遵守で実施した。6〜8週齢の雌性BALB/cマウスを、Charles Riverから得た。乳酸デヒドロゲナーゼ上昇ウイルスを含まない高濃度フェノールレッドフリーマトリゲルを、Becton Dickinson(ニュージャージー州フランクリンレイクス)から購入した。無菌マトリゲルと生理食塩水の1:1溶液50μl、又は4T1マウス乳房腫瘍細胞(5×10個の細胞)を含有する同じ溶液を、動物の右後大腿部に皮下注入した。Clippers及びNairを使用して、マトリゲル及び腫瘍細胞注入の前に、動物の注入部位並びに腰背部及び左大腿部から毛髪を除去した。腫瘍を測定して直径約0.5〜0.8cmになったら(6〜8日)、腫瘍担持マウスをインビボでイメージングした。
【0074】
免疫蛍光顕微鏡のために、OCTで包埋した4T1腫瘍を、Leica CM1900クリオスタット(Leica、カナダ、オンタリオ州リッチモンドヒル)を使用して厚さ8μmの切片にし、Superfrost Plus顕微鏡スライド(Fisher Scientific、カナダ、オンタリオ州オタワ)上に置き、使用まで−80℃で維持した。凍結切片を風乾させ、10%緩衝ホルマリン中で5分間固定し、Ultra V Block(Thermo Fisher Scientific、カナダ、オンタリオ州Nepean)を用いて、室温で5分間にわたって非特異的にブロックした。次いでスライドを、クラステリン抗体M−18(1:100;Santa Cruz Biotechnology、米国カリフォルニア州サンタクルス)を用いて終夜4℃でインキュベートし、次いで二次アレクサフルオル555標識化ロバ抗ヤギIgG(1:200;Invitrogen、カナダ、オンタリオ州バーリントン)で室温において30分間インキュベートした。核を、PBS中0.1μg/mlの4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)を用いて室温で1分間対比染色した。水を使用した最後のステップを除き、すべての洗浄ステップでPBSを使用した。最後に、プロロングゴールドアンチフェード(ProLong Gold Antifade)(商標)(Invitrogen、カナダ、オンタリオ州バーリントン)を使用してスライドをマウントした。QImaging(商標)Retiga−2000R CCDカメラ(QImaging、カナダ、ブリティッシュコロンビア州サリー)に接続したライツアリストプラン(Leitz Aristoplan)(商標)顕微鏡(Thermo Fisher Scientific、カナダ、オンタリオ州Nepean)を用いて蛍光を検出し、QCapture(商標)ソフトウェア(Meyer Instruments、米国テキサス州ヒューストン)を使用して分析し、その後Photoshop(Adobe Systems、カナダ、オンタリオ州トロント)を用いて擬似色を付けた。
【0075】
近赤外線の蛍光顕微鏡のために、インビボでの腫瘍標的化実験の完了後、動物にヘパリン処置した生理食塩水をかん流し、動物の脳を切開し、次いでドライアイスで凍結させた。マウスの脳組織を、Tissue−Tek(商標)凍結保存培地に包埋し、クリオスタット上で厚さ10μmの切片にし、次いでスーパーフロスト(Superfrost)(商標)Plus顕微鏡スライド(Fisher Scientific、カナダ、オンタリオ州Nepean)上にマウントした。凍結した組織切片を、メタノール中、室温で10分間固定した。スライドを0.2MのPBS(pH7.3)ですすぎ、その後PBS中5%ロバ血清を用いて0.1%トリトン(Triton)(商標)−X100と共に室温で1時間インキュベートした。ブロッキング後、ヤギ抗マウスクラステリン一次抗体(1:100)を用いてスライドを室温で1時間インキュベートし、その後アレクサ568標識化ロバ抗ヤギ二次抗体(1:500;Molecular Probes)を用いて室温で1時間インキュベートした。スライドを再度PBSで5回洗浄し、次いで過剰の液体を乾燥させ、Hoechstを含有するDAKO蛍光マウンティング培地(1:1000)を使用してカバースリップをのせた。Olympus IX81倒立電動顕微鏡(Markham、カナダ、オンタリオ州)を使用して画像を取り込み、イメージプロ(ImagePro)(商標)6.2(Markham、カナダ、オンタリオ州)を使用して分析した。
【0076】
動物を、以下の手順を使用してイメージングした。動物を、イソフルラン(O中3%、2L/分)を使用して麻酔した。標識化ペプチドの注入の前に、動物を全身スキャンにかけて、バックグラウンド蛍光画像を得た。P3378−アレクサ680又はP3378R−アレクサ680を、27ゲージの固定針を備えた0.5mlインスリンシリンジを使用して、尾静脈を介して投与した(滅菌生理食塩水100μL中25nmol)。直後に、動物をART eXplore Optix MX2イメージング系(Advanced Research Technologies、カナダ、モントリオール)の加熱した動物用プレート(39℃)上に置いた。画素数当たりのレーザー出力及び計数時間を、それぞれ9.6μW及び0.5秒で最適化した。これらの値を、すべての実験中、一定に維持した。ラスタースキャン間隔を1.5mmに設定し、各画像の取得中、一定に保持した。データを、時間的点広がり関数(TPSF)として記録し、蛍光強度及び蛍光寿命マップを作成した。すべての画像を、ARTオプティクスオプティビュー(Optix OptiView)(商標)ソフトウェアを使用して分析した。体積データ及び3D画像を、ARTオプティビュー(OptiView)(商標)3D再構成ソフトウェアモジュールを使用して再構成した。すべての動物を、イメージング実験後に安楽死させた。
【0077】
動物を、以下の3つの手法を使用してART Optix MX2小動物撮像装置でイメージングした。
a.マウスに、アレクサ680で標識化したP3378ペプチド5ナノモル又はアレクサ680で標識化したP3378Rペプチド5ナノモルのいずれかを、尾静脈を介して静脈内(i.v.)注入した。
b.マウスに、アレクサ680で標識化したP3378ペプチド25ナノモル又はアレクサ680で標識化したP3378Rペプチド25ナノモルのいずれかを、尾静脈を介して静脈内(i.v.)注入した。
c.マウスに、ディライト680で標識化したP3378ペプチド25ナノモル及びディライト800色素で標識化したP3378Rペプチド25ナノモルの混合物を、i.v.(尾静脈)同時注入した。
【0078】
最初の2つの手法(a、b)では、クラステリン結合性ペプチド及び対照ペプチドを同じフルオロフォアで標識化したので、各ペプチドのホーミング能力を個々に、すなわち異なる時間及び/又は異なる動物においてモニターしなければならなかった。第3の手法(c)におけるクラステリン結合性ペプチド及び対照ペプチドの差動的な標識化によって、同時注入が可能になり、同じマウスにおける同じ4T1腫瘍にホーミングするこれら2つのペプチドの能力をほぼ同時にモニターすることができた。最初の2つの手法で使用したアレクサ標識から、第3の手法で使用したディライト(商標)標識への切替えは、2つの異なるフルオロフォアを使用できるようにするために行われ、また、多くの適用においてディライト(商標)色素がアレクサフルオロフォアよりも高い蛍光強度及び光安定性を提示することが示されていることから行われた。
【0079】
最初の実験(a、b)では、ある日動物1匹にP3378−アレクサ680を注入した後、イメージングデータを注入の3時間後に収集した。ペプチド注入の24時間後、この動物を再スキャンして(前日と同じパラメータを使用する)、P3378−アレクサ680がマウスから除去されたことを確認した。次いで、P3378R−アレクサ680スクランブルペプチドを注入し、前日と同じ測定を実施した。この設定を使用して、2つのペプチドの挙動を、異なる日の同じ動物における同じ腫瘍で比較した。
【0080】
生理食塩水100μL中標識化ペプチド5ナノモル又は25ナノモルのいずれかを注入した。これは、それぞれ約3μM及び約15μMの最初の循環ペプチド濃度に相当するものであった。クラステリンは、血中に中程度豊富に存在する循環タンパク質である(100μg/ml=約1μM)。ペプチド5ナノモル又は25ナノモルのいずれかを注入した場合、注入したペプチドの最初の濃度は循環クラステリンの濃度よりも高かったので、遊離循環ペプチド(クラステリン結合していない)は、どちらの場合も腫瘍にホーミングするのに利用可能なはずである。ART Optix MX2小動物撮像装置を使用して、両方のペプチド濃度における腫瘍内(並びに腎臓及び膀胱内)のP3378−アレクサ680及びP3378R−アレクサ680の両方の蓄積を観測した。
【0081】
重要なことに、P3378−アレクサ680ペプチドは、P3378R−アレクサ680ペプチドよりも腫瘍部位からゆっくり除去されたが、このことは、P3378ペプチドがクラステリン結合に起因して、腫瘍部位に選択的に保持されたことを示している(図13A)。この作用は、「腫瘍抗原シンク(tumor antigen sink)」作用を反映し得る腎臓におけるP3378Rスクランブルペプチドのより早い蓄積と相関し、すなわち腫瘍に保持されるP3378Rスクランブルペプチドが少ないので、多くのペプチドが循環に保持され、腎臓におけるクリアランスに利用可能となる(図13B)。これらの結果は、P3378が4T1腫瘍細胞によって分泌されたクラステリンに対して特異性を有することを示している。
【0082】
P3378ペプチドの腫瘍標的化能力の特異性に関するさらなる最終的なデータを得るために、第3の手法(c)を使用して、P3378ペプチドをディライト680で標識化し、P3378Rペプチドをディライト800フルオロフォアで標識化した。次いで、両方のペプチドの1:1混合物(各25ナノモル)を、4T1腫瘍担持BALB/cマウスにi.v.注入した(前述の通り)。さらに、これらの同じ動物に対して、4T1細胞を注入したビヒクル(マトリゲル/生理食塩水50μL、1:1(v/v))も、左大腿部(s.c.)に注入した。これによって、同じマウスの腫瘍部位(右大腿部)及びビヒクル対照部位(左大腿部)において、両方のペプチドのホーミング挙動の実質的に同じ時間におけるモニターが可能となった。
【0083】
6匹の動物を使用したこれらの実験結果から、先の実験(先のa及びb)において得られた結果を確認した。図14は、P3378ペプチドが、P3378Rペプチドと比較して腫瘍部位にかなり長く存在することを示すものであり、それによって腫瘍標的化に対するP3378ペプチドの特異性を確認する。この観測を、両方のペプチドについて経時的な腫瘍シグナル対バックグラウンド比を決定することによってさらに確認した(図17)。そのために、同じ動物の腫瘍(AU)及び非腫瘍を含有する反対側(AU)の周りに描いた関心領域(ROI)について平均蛍光強度(AU)を決定した。時間関数としてAU/AU比をプロットすることによって、両方のペプチドが、最初は注入の約60分後まで腫瘍部位において同じ速度で蓄積し、その後P3378Rペプチドは腫瘍から除去され、P3378ペプチドは腫瘍部位に保持されることが示される。
【0084】
これらの実験過程中、P3378/P3378Rペプチド混合物を注入した3匹の動物の腫瘍は、経時的に増殖速度の低減を示す傾向があったが(図15)、このことは、これらのペプチドが抗腫瘍作用を有し得ることを示すものであることにも気付いた。腫瘍細胞の注入の7日後まで、腫瘍の大きさを2次元で測定したことに留意されたい(長さ及び幅、実験を通して同じ式を使用できるように高さは1mmに設定した)。
【0085】
P3378−DL680プローブのインビボ標的化能力の特異性をさらに評価するために、過剰の非標識P3378ペプチドを使用してブロッキング実験を実施した。マウスに、25nモルのP3378−DL680を単独で(n=1)、又は滅菌生理食塩水100μL中、非標識P3378若しくはP3378Rペプチド5μモル(共にn=2)と組み合せて投与した。対照群の動物には、25nモルのP3378−DL680を、5μモルの非標識スクランブルP3378Rペプチドと共に、又はそれなしに投与し、実験動物には、25nモルのP3378−DL680を、5μモルの非標識P3378ペプチドと組み合わせて注入した。図18A(注入の15分後)に示す通り、非標識P3378ペプチドは、腫瘍へのP3378−DL680の取込みの遮断に成功したが、非標識スクランブルP3378Rは遮断しなかった。さらに、ゲート(gated)NIRF寿命及びオプティビュー3D再構成モジュールを使用して、各マウスにおいて最高濃度のP3378−DL680を含有するZ軸に沿った切片を選択し、その相対濃度を決定した。図18Bは、P3378−DL680プローブの相対濃度(図18B、中間のパネル)が、P3378−DL680を注入した動物(図18B、左パネル)と比較して、過剰の非標識P3378ペプチドの存在下では約3〜4分の1となり、この濃度値が、過剰のスクランブルP3378Rペプチドの存在のみによってわずかに影響を受ける(図18B、右パネル)ことを示す。
【0086】
共焦点顕微鏡を使用して、注入の15分間後に収集した4T1腫瘍及び様々な器官(肝臓、脾臓、膵臓、腎臓、心臓、肺)におけるP3378−DL680プローブの分布を評価した。P3378−DL680(25nモル)の注入の15分後に動物から収集した4T1腫瘍及び器官の凍結切片(厚さ10μm)は、4T1腫瘍における蛍光プローブの特異的な取込み及び蓄積を示すものであり、蛍光プローブはその標的CLUと共に局在している。P3378ペプチドは、sCLUが存在したにもかかわらず他の器官では検出できなかったが、これによってP3378−DL680ペプチドが腫瘍によって選択的に取り込まれることが、顕微鏡的なレベルで確認される。核のDAPI染色を使用して、組織形態を可視化した。
【0087】
本明細書に記載の実施形態及び実施例は例示的なものであり、特許請求される本発明の範囲を制限することを企図しない。本発明者らは、代替、改変及び等価物を含む先の実施形態の変形形態が特許請求の範囲に包含されることを企図する。さらに、論じた組合せの特徴が本発明の解決に必要ないこともあり得る。
【0088】
関連出願の相互参照
本願は、その内容全体が参照によって本明細書に組み込まれている2009年4月17日出願の米国特許仮出願第61/202,910号の利益を主張するものである。
【0089】
参考文献
本明細書に記載のすべての特許、特許出願及び出版物は、参照によって本明細書に組み込まれている。
Berx G, Raspe E, Christofori G, ThieryJP, Sleeman JP. (2007) Pre-EMTing metastasis? Recapitulation of morphogeneticprocesses in cancer. Clin. Exp. Metastasis. 24: 587.
Cavanagh, et al. (1995) Protein NMRSpectroscopy: Principles and Practice. Elsevier Academic Press.
Gasteiger E. et al. (2005) Proteinidentification and analysis tools on the ExPASy Server. In: John M. Walker(ed): The Proteomics Protocols Handbook, Humana Press; 571-607.
Gupta GP, Massague J. (2006) Cancermetastasis: building a framework. Cell. 127: 679.
Lau SH, Sham JS, Xie D, Tzang CH, TangD, Ma N, Hu L, Wang Y, Wen JM, Xiao G, Zhang WM, Lau GK, Yang M, Guan XY.(2006) Clusterin plays an important role in hepatocellular carcinomametastasis. Oncogene. 25: 1242.
Lenferink AEG, Cantin C, Nantel A, WangE, Durocher Y, Banville M, Paul-Roc B, Marcil M, Wilson MR &O'Connor-McCourt MD (2009) Transcriptome Profiling of a TGF-beta-inducedEpithelial-to-Mesenchymal Transition Reveals Extracellular Clusterin as aTarget for Therapeutic Antibodies. Oncogene.
Massague J. TGFbeta in Cancer. (2008) Cell.134: 215.
Mayer M, Meyer. (1999) Characterizationof ligand binding by saturation transfer difference NMR spectroscopy. AngewChem, Int Ed. 38:1784?1788.
Mayer M, Meyer B. (2001) Group epitopemapping by saturation transfer difference NMR to identify segments of a ligandin direct contact with a protein receptor. J. Am. Chem. Soc. 123:6108-6117.
McCormack E, Micklem DR, Pindard LE,Silden E, Gallant P. Belenkov A, Lorens JB, Gjertsen BT. (2007) In vivo opticalimaging of acute myeloid leukemia by green fluorescent protein: time-domainautofluorescence decoupling, fluorophore quantification, and localization. Mol.Imaging. 6:193.
Mourra N, Couvelard A, Tiret E, OlschwangS, Flejou JF. (2007) Clusterin is highly expressed inpancreatic endocrine tumours but not in solid pseudopapillary tumours. Histopathology.50: 331.
Peng L, Liu R, Andrei M, Xiao W, and Lam KS. (2008) In vivo optical imaging of human lymphoma xenograft using a library-derivedpeptidomimetic against L4i .1 integrin. Mol. Cancer Ther. 7: 432.
Rosenthal EL, Kulbersh BD, King T,Chaudhuri TR, and Zinn KR. (2007) Use of fluorescent labeled anti-epidermalgrowth factor receptor antibody to image head and neck squamous cell carcinomaxenografts. Mol. Cancer Ther. 6:1230.
Steinberg J, Oyasu R, Lang S et al.(1997) Intracellular levels of SGP-2 (Clusterin) correlate with tumor grade inprostate cancer. Clin. Cancer Res.; 3:1707.
Su Z, Vinogradova A, Koutychenko A,Tolkatchev D, and Ni F. (2004) Rational design and selection of bivalentpeptide ligands of thrombin incorporating P4-P1 tetrapeptide sequences: fromgood substrates to potent inhibitors. Protein Eng. Des. Sel. 17: 647-657
Wagnieres GA, Star WM and Wilson BC. (1998) In Vivo Fluorescence Spectroscopyand Imaging for Oncological Applications. Photochemistry and Photobiology68:603.
Watari H, Ohta Y, Hassan MK, Xiong Y,Tanaka S, Sakuragi N. (2008). Clusterin expression predicts survival ofinvasive cervical cancer patients treated with radical hysterectomy andsystematic lymphadenectomy. Gynecol. Oncol. 108: 527.
Zhang S, Zhang D, Zhu Y, Guo H, Zhao X,Sun B. (2006) Clusterin expression and univariate analysis of overall survivalin human breast cancer. Technol. Cancer Res. Treat. 5: 573.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、配列番号2若しくは配列番号3で示したアミノ酸配列、又はそれと実質的に同一のアミノ酸配列を含むペプチド。
【請求項2】
カーゴ分子に連結している、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
カーゴ分子が、酵素、イメージング部分、放射性同位体又は細胞傷害性薬剤を含む、請求項2に記載のペプチド。
【請求項4】
カーゴ分子がイメージング部分を含む、請求項2に記載のペプチド。
【請求項5】
イメージング部分が、放射標識、フルオロフォア、近赤外蛍光色素又は磁気ナノ粒子を含む、請求項4に記載のペプチド。
【請求項6】
分子イメージング、クラステリンが上方制御されている病状の診断、又はクラステリンが上方制御されている病状の治療のための、請求項1から5のいずれか一項に記載のペプチドの使用。
【請求項7】
腫瘍の分子イメージングのための、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
分子イメージングが、光学イメージング、陽電子放出断層撮影、単一光子放射型コンピュータ断層撮影法、又は磁気共鳴画像である、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
病状が癌である、請求項6に記載の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12A】
image rotate

【図12B】
image rotate

【図12C】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16A】
image rotate

【図16B】
image rotate

【図16C】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18A】
image rotate

【図18B】
image rotate


【公表番号】特表2012−524029(P2012−524029A)
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505008(P2012−505008)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際出願番号】PCT/CA2010/000566
【国際公開番号】WO2010/118521
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(595006223)ナショナル リサーチ カウンシル オブ カナダ (25)
【Fターム(参考)】