説明

クラスレート化合物および熱電変換材料

【課題】ゼーベック係数を向上させたp型熱電変換材料として有用なクラスレート化合物およびそれを用いた熱電変換材料を提供する。
【解決手段】PXSi(46−X)から成るホスト格子にゲスト原子として8原子のTeを組み合せたことにより、TeSi(46−X)、12≦X≦16で表される組成を有するクラスレート化合物およびこれを用いた従来の値を大幅に超える大きなゼーベック係数を有する型熱電変換材料により実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラスレート化合物およびそれを含む熱電変換材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ゼーベック効果を利用して熱を電気に変換する熱電変換素子(熱電素子)が知られており、駆動部が不要で小型軽量であるといった大きな利点がある。
【0003】
熱電変換素子を構成する熱電変換材料として特に必要な性質は、熱起電力と電気伝導率が大きく、熱伝導率が小さいことである。これらの性質を備え、性能指数の大きな材料として、クラスレート化合物が着目されている。代表的なクラスレート熱電材料として、例えば非特許文献1には、一般式BaGaGe(46−X)で表される組成を有するものが提案されている。これはGaとGeで構成される篭格子(ホスト格子)の中にBaがゲスト原子として取り込まれている構造の化合物である。ホスト格子原子とゲスト原子との結合が緩いため、局所的に熱振動が起きて効果的にフォノンを散乱させるラトリング効果により、ホスト格子の振動伝搬をゲスト原子が妨げ、小さい熱伝導率を実現している。
【0004】
熱電変換素子はn型熱電変換材料(n型半導体素子)とp型熱電変換材料(p型半導体素子)とを一対にして構成される。
【0005】
熱電変換材料の起電力は、材料固有の値であるゼーベック係数によって決まり、大きな起電力を得るにはゼーベック係数を大きくする必要がある。これまでに開発されている熱電変換材料は、n型材料に比べてp型材料にゼーベック係数の値が不十分であった。特に、自動車エンジンの廃熱を利用した発電には温度700〜900K(≒400〜600℃)付近でのゼーベック係数が大きいことが必要である。
【0006】
特許文献1には、BaGex1Alx2、x1+x2=46から成るクラスレート化合物が開示されており、x2が14〜16のときにp型熱電変換材料となるが、400〜600K付近の温度域でのゼーベック係数が高々200μV/K程度であり、更に高める必要がある。
【0007】
また、特許文献2にはBaPdGe46−x、(1≦x≦5)なるクラスレート化合物が、特許文献3にはBaAuGe46−a、(16/3≦a≦6)なるクラスレート化合物が、それぞれp型熱電変換材料として開示されているが、いずれも特許文献1と同等かそれより小さいゼーベック係数しか得られない。
【0008】
【特許文献1】特開2005−86173号公報
【特許文献2】特開2005−116741号公報
【特許文献3】特開2005−217310号公報
【非特許文献1】H. Anno et al., Proc. of 21st Int. Conf. on Thermoelectrics, (2002), 78.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ゼーベック係数を向上させたp型熱電変換材料として有用なクラスレート化合物およびそれを用いた熱電変換材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、下式:
TeSi(46−X)
ただし、12≦X≦16
で表される組成を有するクラスレート化合物が提供される。
【0011】
更に、上記クラスレート化合物を含む熱電変換材料も提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明のクラスレート化合物は、PSi(46−X)から成るホスト格子にゲスト原子として8原子のTeを組み合せたことにより、従来の値を大幅に超える大きなゼーベック係数を有するp型熱電変換を実現した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のクラスレート化合物の化学組成を、
TeSi(46−X)
ただし、12≦X≦16
に限定した理由は下記のとおりである。
【0014】
x<12であると、SiTe、Siなどの異相が多量に析出してしまい、熱電変換特性に必須なタイプIのクラスレート化合物がほとんど存在しなくなる。
【0015】
x>16であると、キャリアが過剰になり、ゼーベック係数が大きく低下する。
【0016】
したがって、12≦X≦16に限定する。
【実施例】
【0017】
表1に示す化学組成のクラスレート化合物を製造した。試料No.3〜7がTeSi(46−X)、12≦X≦16の本発明組成であり、試料No.1、2、8は本発明の範囲外の比較組成である。
【0018】
【表1】

【0019】
各試料を下記の手順および条件で作成した。
【0020】
(1)原料
各元素源として下記の原料を用いた。
【0021】
Te…純度:5N、銘柄:フルウチ化学 TEM71006A
状態:塊状で入手し、めのう乳鉢で粒径500μm以下に粉砕して使用。
【0022】
P……純度:5N、銘柄:高純度化学 36748E
状態:粉末で入手し、使用。
【0023】
Si…純度:5N、銘柄:高純度化学 94219E
状態:300μm以下で入手し、使用。
【0024】
(2)混練
表1に示した各配合量を秤量し、遊星ボールミルにより下記条件にて混練した。
【0025】
容器:ステンレス鋼製、容量45cc、Oリング付き
ボール:窒化珪素製、ニッカトー SUN-11
容器内雰囲気:アルゴン(グローブボックス中で容器蓋を閉じた)
粉砕器:フリッチュP−7
運転条件:回転数800rpm、時間24h
(3)焼結
上記混練材を成形した後、下記条件にて焼結した。
【0026】
1回の焼結量:4.00g
焼結装置:放電プラズマ焼結機(住友石炭鉱業SPS−510L)
焼結時印加圧力:40MPa
焼結温度:850〜1000℃
焼結雰囲気:アルゴン(40cmHg)
保持時間:5〜30min
得られた各焼結体について、300K〜940Kの温度範囲でゼーベック係数、パワーファクター、電気伝導率を測定した結果を、それぞれ図1、2、3に示す。
【0027】
先ず、図1に示したように、試料No.1〜8のいずれも、測定温度範囲全体に亘って正のゼーベック係数を有しており、p型熱電変換材料である。
【0028】
そして、本発明の組成範囲TeSi(46−X)、12≦X≦16の試料No.3〜7は、温度700〜900K程度の高温領域において、200〜300μV/Kという大きな値のゼーベック係数が得られている。これは、特許文献1等に開示されているように200μV/K未満であった従来レベルを超える大きな値である。
【0029】
同時に、図2、図3に示したように、本発明の組成範囲TeSi(46−X)、12≦X≦16の試料No.3〜7は、特許文献1等に開示されている従来レベルと同等の値のパワーファクター、電気伝導率が得られている。
【0030】
また、本発明の試料No.7と比較試料1、2について熱伝導率を測定した結果を表2に示す。本発明の試料No.7について得られた4.46W/m/Kの熱伝導率は、特許文献1等に開示された従来レベルと同等の値である。
【0031】
【表2】

【0032】
このように本発明の組成によれば、他の特性値について従来レベルを維持しつつ、ゼーベック係数が大幅に向上するので、起電力を著しく高めることができる。
【0033】
上記各焼結体について、X線回折(XRD)にて存在相を同定した。図4にXRDチャートを示す。同図中、右側のチャートは回折角(2θ)=15〜30°の範囲を拡大して示したものである。上から順に試料No.1〜8の回折結果、シミュレーション結果(1)〜(4)であり、測定プロファイルの回折ピークに付した数字はシミュレーションを行った相との対応を示す。シミュレーション相のうち、Te16Si30simulated(1)は通常のタイプIのクラスレートであり、Te16Si30simulated(2)は空隙2aサイトにはTeが入っていないと仮定したものである。
【0034】
本発明の組成範囲TeSi(46−X)、12≦X≦16においては、タイプIのクラスレート(Te16Si30simulated(1))に対応するピーク1が出現しており、その存在が確認できる。X=9、11の場合、すなわちX<12の場合には、Te16Si30相、SiTe相、Si相に対応するピーク2、3、4が顕著になり、タイプIのクラスレートに対応するピーク1が存在していない。
【0035】
このように、TeSi(46−X)においてP量が本発明の組成範囲の下限未満すなわちX<12であると、上に列挙したTe16Si30相、SiTe相、Si相などの異相の多量出現により、タイプIのクラスレートがほとんど存在しなくなるため、ゼーベック係数が低下する。
【0036】
逆に、P量が本発明の組成範囲の上限を超えてX>16であると、タイプIのクラスレートは存在するが、キャリア過剰になるため、ゼーベック係数が大きく低下してしまう。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、ゼーベック係数を大幅に向上させたp型熱電変換材料として有用なクラスレート化合物およびそれを用いた熱電変換材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の範囲内および範囲外の組成を有するTeSi(46−X)焼結サンプルについて測定したゼーベック係数を、測定温度に対してプロットしたグラフである。
【図2】本発明の範囲内および範囲外の組成を有するTeSi(46−X)焼結サンプルについて測定したパワーファクターを、測定温度に対してプロットしたグラフである。
【図3】本発明の範囲内および範囲外の組成を有するTeSi(46−X)焼結サンプルについて測定した電気伝導率を、測定温度に対してプロットしたグラフである。
【図4】本発明の範囲内および範囲外の組成を有するTeSi(46−X)焼結サンプルについてのX線回折(XRD)チャートを、シミュレーション結果と対比して示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式:
TeSi(46−X)
ただし、12≦X≦16
で表される組成を有するクラスレート化合物。
【請求項2】
請求項1記載のクラスレート化合物を含む熱電変換材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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