説明

クラッチ構造

【課題】スプリングプレートおよびスプリングリテーナにオイル排出孔を設けながら、オイルの排出性が向上し、クラッチピストンの作動応答性が向上するクラッチ構造。
【解決手段】クランクケースに回転自在に支承される回転軸41Cと、回転軸に同軸芯に配設され、軸方向移動に応じてクラッチオフ状態とクラッチオン状態とを切替えるクラッチピストン80とを備え、クラッチピストンの軸方向両面に制御油圧室86A,Bとキャンセラ室87A,Bとが形成され、キャンセラ室は、クラッチピストンとスプリングリテーナ82との間に形成されるとともに、クラッチピストンを付勢するコイルばね85を支持したスプリングプレート100を、スプリングリテーナがキャンセラ室内に保持する油圧クラッチ44のクラッチ構造において、スプリングプレートおよびスプリングリテーナに、コイルばねと半径方向で重なる位置に複数のオイル排出孔100a,82aを形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧でクラッチを断接するクラッチ構造に関し、特に、キャンセラ室からのオイルの排出性を向上させたクラッチ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧でクラッチを断接するクラッチ機構において、キャンセラ室(遠心力圧力補償室)を設けた構造が知られている。その場合、キャンセラ室の遠心力調整のため、例えば、下記特許文献1:特開2001-140934号公報には、キャンセラ室の壁の中ほどに開口部を一箇所設けたものが示される。
キャンセラ室を設けたクラッチ構造において、外径側をコンパクトにしながらキャンセラ室の容量を確保したい場合等、内径側のキャンセラ室の容量を大きくする場合に、クラッチピストンを付勢するためキャンセラ室内に配設されるスプリングとして、コイルばねを採用することが考えられる。
その場合には、コイルばねを支持するスプリングプレートを用いたうえで、クラッチピストンの作動応答性を向上するために、オイル排出孔を設ける必要があるが、上記のようにキャンセラ室の壁中ほどにオイル排出孔として開口部を設けたのではキャンセラ室の容量が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−140934号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、コイルばねを支持するスプリングプレートを用いたうえでキャンセラ室の内径側にオイル排出孔を設けるために、スプリングプレートとスプリングリテーナにオイル排出孔を設ける場合、スプリングプレートのオイル排出孔とスプリングリテーナのオイル排出孔を合わせるための位置決め機構を設けることが考えられるが、加工、組立て工数の増大が懸念される。
そこで、本発明は、スプリングプレートおよびスプリングリテーナにオイル排出孔を設けながら、簡易な構造で、キャンセラ室からのオイルの排出性が向上し、クラッチピストンの作動応答性が向上するクラッチ構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、請求項1の発明は、クランクケースに回転自在に支承される回転軸と、同回転軸に同軸芯に配設され、軸方向移動に応じてクラッチオフ状態とクラッチオン状態とを切替えるクラッチピストンとを備え、同クラッチピストンの軸方向両面に制御油圧室とキャンセラ室とが形成され、同キャンセラ室は、前記クラッチピストンとスプリングリテーナとの間に形成されるとともに、前記クラッチピストンを付勢するコイルばねを支持したスプリングプレートを、前記スプリングリテーナが前記キャンセラ室内に保持する油圧クラッチのクラッチ構造において、前記スプリングプレートおよび前記スプリングリテーナに、前記コイルばねと半径方向で重なる位置に複数のオイル排出孔が形成されたことを特徴とするクラッチ構造である。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1に記載のクラッチ構造において、前記スプリングプレートのオイル排出孔は、周方向で等間隔に形成され、前記スプリングリテーナのオイル排出孔は、周方向で不等間隔に形成されるとともに、前記スプリングプレートのオイル排出孔の一部と、前記スプリングリテーナのオイル排出孔の一部とが、常に重なり合うように配置されたことを特徴とする。
【0007】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のクラッチ構造において、前記スプリングリテーナのオイル排出孔の数は、前記スプリングプレートのオイル排出孔の数より少ないことを特徴とする。
【0008】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のクラッチ構造において、前記スプリングリテーナの隣り合うオイル排出孔によって形成される周方向角度が各々異なることを特徴とする。
【0009】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のクラッチ構造において、前記スプリングリテーナのオイル排出孔は、同スプリングリテーナの回転中心点に対して、それぞれが点対称となるように配設されたことを特徴とする。
【0010】
請求項6の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のクラッチ構造において、前記スプリングリテーナには、同スプリングリテーナの軸方向位置を拘束するサークリップの外周側に位置する、複数の突起部が設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項7の発明は、請求項6に記載のクラッチ構造において、前記突起部は、軸方向から見て楕円形状であることを特徴とする。
【0012】
請求項8の発明は、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のクラッチ構造において、前記油圧クラッチは、複数個の油圧クラッチを備えたツインクラッチであり、同ツインクラッチの各スプリングプレートおよび各スプリングリテーナにそれぞれ前記オイル排出孔が設けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明のクラッチ構造によれば、スプリングプレートとスプリングリテーナ同士を、位置決めすることなしに、キャンセラ室からオイルがスムーズに排出され、クラッチピストンの作動応答性(作動速度)が高められ、クラッチの断接が迅速になされる。
【0014】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明の効果に加え、スプリングプレートとスプリングリテーナ同士を位置決めしなくとも、常にオイルを排出することができるので、クラッチピストンの作動応答性を高め、クラッチの断接が迅速になされる。
【0015】
請求項3の発明によれば、請求項1または請求項2の発明の効果に加え、オイルを常に排出することを可能としながらも、スプリングリテーナのオイル排出孔を、スプリングプレートのオイル排出孔と同数設ける場合に比べて、オイル排出孔の数が減ぜられるので、加工工数が削減される。
【0016】
請求項4の発明によれば、請求項1ないし請求項3のいずれかの発明の効果に加え、常にスプリングリテーナ側のいずれかのオイル排出孔が、スプリングプレート側のオイル排出孔と連通し、オイルを排出することができる。従って、クラッチピストンの作動応答性が高まり、クラッチの断接が迅速になされる。
【0017】
請求項5の発明によれば、請求項1ないし請求項3のいずれかの発明の効果に加え、オイルが均一に、且つ軸周りにバランス良く排出され、オイルの排出性が向上するとともに、オイル排出に伴う振動が抑制される。
【0018】
請求項6の発明によれば、請求項1ないし請求項5のいずれかの発明の効果に加え、突起部がサークリップの抜け止めとなり、サークリップの抜けが防止される。
【0019】
請求項7の発明によれば、請求項6の発明の効果に加え、サークリップの抜け止めが、より確実なものとなる。
【0020】
請求項8の発明によれば、ツインクラッチを備えるクラッチ構造であっても、請求項1ないし請求項7のいずれかの発明の効果により、各キャンセラ室からのオイル排出性を良好にし、クラッチの断接が迅速に行える。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係るクラッチ構造を備えた内燃機関を搭載した自動二輪車の右側面概要図である。
【図2】本発明の実施形態に係るクラッチ構造を備えた内燃機関の右側面概要図である。
【図3】図2中、III−III矢視による、本発明の実施形態のクラッチ構造を備えた内燃機関のクラッチおよび変速機周辺の断面展開図である。
【図4】図3中、クラッチ部分の拡大断面図であり、実施形態1のクラッチ構造の説明図である。
【図5】図4中のスプリングプレートとコイルばねを取り出して示す、縦断面図である。
【図6】図5中、VI−VI矢視によるスプリングプレートの正面図である。なお、図5は本図中のV−V矢視図に相当する。
【図7】図4中のスプリングリテーナを取り出して示す、縦断面図である。
【図8】図7中、VIII−VIII矢視による、実施形態1のスプリングリテーナの正面図である。
【図9】図8と同様の矢視による、実施形態2のスプリングリテーナの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る実施形態1のクラッチ構造について図1ないし図8に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係るクラッチ構造を備えた内燃機関を搭載した自動二輪車1の右側面図である。
なお、本明細書の説明および特許請求の範囲における前後左右上下等の向きは、本実施形態に係る内燃機関を、車両、特に自動二輪車等の小型車両に搭載した状態での車両の向きに従うものとする。図中、矢印FRは車両前方を、LHは車両左方を、RHは車両右方を、UPは車両上方を、それぞれ示す。
【0023】
図1に示されるように、自動二輪車1の車体フレーム2は、ヘッドパイプ3と、ヘッドパイプ3から斜め後方に延出するメインフレーム4と、メインフレーム4の後端から下方に延出するセンターフレーム5と、ヘッドパイプ3から下方に延びるダウンフレーム6と、センターフレーム5の上部から後方に延出するシートステー7と、センターフレーム5の後部とシートステー7の後部に掛け渡されたミッドフレーム8を備えている。
【0024】
前輪9を支持するフロントフォーク10が、ヘッドパイプ3で操向可能に支持され、フロントフォーク10の上部にはステアリングハンドル11が連結されている。
また、後輪12を支持するリヤフォーク13が、センターフレーム5のピボットボルト14を介して上下揺動可能に支持されている。
【0025】
内燃機関30は2気筒4ストロークサイクル内燃機関であり、メインフレーム4、センターフレーム5及びダウンフレーム6に支持されている。内燃機関30の出力軸の回転動力は、後輪駆動用チェーン15を介して後輪12に伝達される。
左右のメインフレーム4間には燃料タンク16が搭載され、燃料タンク16の後方の左右のシートステー7上には運転者Pと同乗者が前後に着座できるタンデム型シート17が取付けられている。
【0026】
また、車体右側面で、センターフレーム5の下部でミッドフレーム8との連結部にステップホルダ20が設けられており、同ステップホルダ20にフットステップ21が突設されている。
車体左側面にも左右対称位置にフットステップ21が設けられている。
【0027】
図2に示されるように、内燃機関30はクランク軸31を車体幅方向である左右方向に指向させて横置きに車体フレーム2に搭載され、クランク軸31は上下割りの上クランクケース32Aと下クランクケース32Bに軸受を介して挟まれ、回転自在に軸支される。
上クランクケース32Aから前方斜め上向きにシリンダブロック33、シリンダヘッド34、シリンダヘッドカバー35が順次重ねられて前傾して突設されている。
下クランクケース32Bの下側はオイルパン36で塞がれる。
上クランクケース32Aと下クランクケース32Bとからなるクランクケース32には、変速機40が一体的に組み込まれている。
【0028】
図3は、変速機40の、図2中III−III矢視による断面展開図である。変速機40は、メイン軸41と、カウンタ軸42と、プライマリ従動ギア43と、一対の第1クラッチ44Aと第2クラッチ44Bとからなるツインクラッチ(本発明の「油圧クラッチ」)44を備えている。シフトドラム、シフトフォークからなるチェンジ機構は、図示省略してある。
【0029】
メイン軸41は、上クランクケース32Aに、クランク軸31の後方で若干斜め上位置において、クランク軸31と平行に回転自在に架設されている(図2参照)。
メイン軸41の左端はボールベアリング45を介してクランクケース32に、中央部はボールベアリング46を介してクランクケース32に、それぞれ回転可能に支持されている。
メイン軸41の右端は、ボールベアリング47を介して右クランクケースカバー37に回転可能に支持されている。
【0030】
メイン軸41の後方斜め下位置に、内燃機関30の出力軸となるカウンタ軸42が、上クランクケース32Aと下クランクケース32Bに挟まれメイン軸41と平行に回転自在に軸支される(図2参照)。
カウンタ軸42の左端はボールベアリング48を介してクランクケース32に、右端はニードルベアリング49を介してクランクケース32に、それぞれ回転可能に支持されている。
【0031】
メイン軸41は長いメイン軸内軸41Aと、メイン軸外軸41Bと、クラッチ部外軸(本発明の「回転軸」)41Cとからなっている。
メイン軸外軸41Bは、メイン軸内軸41Aの一部をニードルベアリング50、50を介して相対回転可能に覆っている。
メイン軸外軸41Bの左端は、C形止め輪51によって左方移動が規制されている。
メイン軸外軸41Bの右端は、クラッチ部外軸41Cに環状スペーサ52を介して当接し、右方移動が規制されている。メイン軸41にはM1〜M6の6個の歯車が設けてあり、カウンタ軸42には前記歯車M1〜M6に対応して、これらと常時噛み合うC1〜C6の6個の歯車が設けてある。
【0032】
Mはメイン軸付属歯車、Cはカウンタ軸付属歯車、添数字1〜6は1速〜6速の変速比を決める歯車であることを示している。
奇数変速段の歯車M1、M5、M3はメイン軸内軸9Aに、偶数変速段の歯車M4、M6、M2はメイン軸外軸9Bに設けてある。
【0033】
図3において、上記歯車符号に付した添字xは、軸と一体形成された固定歯車、添字wは、軸に保持され、軸上の所定の位置で軸に対して相対回転可能の空転歯車、添字sは軸方向摺動可能の摺動歯車を表す。摺動歯車は、スプライン53によって軸に保持され軸に対して周方向に相対回転しないが軸方向には摺動が可能な歯車である。固定歯車(添字x)及び摺動歯車(添字s)が噛み合う相手側の歯車は、必ず空転歯車(添字w)である。空転歯車(添字w)は単独では歯車としての機能を果たせず、歯車としての機能を果たすには、隣に設けられている摺動歯車(添字s)によって軸に固定されることが必要である。摺動歯車には、図示しないチェンジ機構のシフトフォークが係合する係合溝Gが設けてあり、これに係合するシフトフォークによって、摺動歯車(添字s)は必要に応じて軸方向に移動し、隣り合う空転歯車(添字w)と断接する。
【0034】
右クランクケースカバー37は、上クランクケース32Aと下クランクケース32Bが合体した右側面に被せられる。
上下クランクケース32A,32Bの右側壁より右方に設けられる第1クラッチ44A、第2クラッチ44B、プライマリ従動ギア43、およびクランク軸31に嵌着されプライマリ従動ギア43と噛合するプライマリ駆動ギア38等が、右クランクケースカバー37により覆われる。
また、下クランクケース32Bの右側壁の前部に設けられる制御用オイルポンプ60も右ケースカバー37により覆われる(図2参照)。なお、潤滑用オイルポンプ61は、制御用オイルポンプ60の左側(図2上、奥側)に同軸に設けられている。
【0035】
制御用オイルポンプ60が駆動すると、オイルパン36に溜まったオイルは図示しないオイルストレーナを介して吸入され、吐出されたオイルは右クランクケースカバー37に設けられたオイルフィルタ62に導入される。
【0036】
オイルフィルタ62から第1、第2クラッチアクチュエータ63A、63Bに送られ、制御された各作動油は、一対の油圧クラッチからなるツインクラッチ44の、各油圧クラッチである第1、第2クラッチ44A,44Bの駆動制御に供される。
そのため、右クランクケースカバー37には、クラッチアクチュエータ収容部37aとツインクラッチ44を収容するクラッチ収容部37bの中央部との間を、直線的に連絡する互いに平行な1対の第1、第2制御用油路64A、64Bが表面に管状に膨出して形成されている。
【0037】
したがって、第1クラッチアクチュエータ63Aの駆動により制御された作動油が第1制御用油路64Aを通って第1クラッチ44Aに供給されて第1クラッチ44Aの断続がなされ、第2クラッチアクチュエータ63Bの駆動により制御された作動油が第2制御用油路64Bを通って第2クラッチ44Bの断続がなされる。
第1、第2クラッチアクチュエータ63A、63Bが統一的に制御されることで、第1、第2クラッチ44A、44Bの駆動が相互にタイミング制御されて変速機40の変速が円滑に行われる。
【0038】
プライマリ従動ギア43は、クランク軸31に嵌合されたプライマリ駆動ギア38と噛み合って、内燃機関40の回転動力が伝達される。
本実施形態において、プライマリ駆動ギア38は、図3に示されるように、セラシ機構を備えている。
【0039】
すなわち、プライマリ駆動ギア38は互いに軸方向に重ね合わされるメインギア38Aと幅の狭いサブギア38Bとからなり、メインギア38Aは、クランク軸31に固定支持され、一方、サブギア38Bは、メインギア38Aのボス部38Aa上へ遊転可能に嵌装されている。
メインギア38Aとサブギア38Bは、同径、同ピッチのギアであり、共にプライマリ従動ギア43の同じ歯間に噛み合うが、両ギアの間にはコイルばね38aが介装され、両ギアは互いに逆向き方向に回動付勢される。
【0040】
プライマリ駆動ギア38がプライマリ従動ギア43を回転駆動する時、プライマリ従動ギア43の歯面を押接するプライマリ駆動ギア38のメインギア38Aの歯の裏面にはバックラッシュが発生する恐れがあるが、サブギア38Bはメインギア38Aの回転駆動方向と逆方向に回動付勢されているので、裏面側の、プライマリ従動ギア43の次位の歯の正面側を押接し、バックラッシュを解消している。
従って、プライマリ駆動ギア38は、プライマリ従動ギア43との噛み合い部において、ガタ無しに噛み合うことができるので、起動、停止、トルク変動等において、衝撃音等のギア鳴りが発生することが防止されている。
【0041】
図4は、図3のツインクラッチ44周辺の拡大断面図である。
メイン軸内軸41Aの右半部には、クラッチ部外軸(本発明の「回転軸」)41Cが設けてあり、クラッチ部外軸41Cは、ニードルベアリング55A、55Bを介して、メイン軸内軸41Aの軸端部の回りを回転可能に覆っている。メイン軸内軸41は、クランクケース32に回転自在に支承されている。
【0042】
クラッチ部外軸41Cの右端は、他の部材(後述の第1クラッチ44Aのクラッチインナ70A)に環状スペーサ54を介して当接し、この部材と共にメイン軸内軸41Aの軸端の係止部材56によって軸方向が移動規制されている。
クラッチ部外軸41Cの左端は、メイン軸外軸41Bの右端に環状スペーサ52を介して当接し、メイン軸外軸41Bの左端はC形止め輪51によって移動規制されている(図3参照)。
【0043】
クラッチ部外軸41Cに、プライマリ従動ギア43を左右から挟んで、第1クラッチ44Aと第2クラッチ44Bのクラッチアウタ71A、71Bそれぞれの内周側に溶接で一体化されたクラッチハブ72A、72Bが、その軸方向端部側の内周面のスプライン歯72aと、クラッチ部外軸41Cの外周面のスプライン歯41Caとを係合させた係合部73で回転方向を互いに拘束され、また、係止部材74を介して軸方向を拘束されて嵌装されている。
プライマリ従動ギア43は、結合円板75を介してクラッチ部外軸41Cに回転不能に嵌装されている。
プライマリ従動ギア43の左右方向移動は、クラッチ部外軸41Cを介して規制されている。
【0044】
プライマリ従動ギア43は、クランク軸31に設けられたプライマリ駆動ギア38(図3参照)に常時噛合う歯車であり、クランク軸31からの回転駆動力を受けてクラッチ部外軸41Cを回転駆動する。
これに応じて、クラッチ部外軸41Cとスプラインによる係合部73で回転を共にするツインクラッチ44のクラッチハブ72A、72Bが回転駆動され、クラッチアウタ71A、71Bが共に回転する。ツインクラッチ44のクラッチインナ70A、70Bはそれぞれ別の部材、すなわちメイン軸内軸41A、メイン軸外軸41Bに接続されている(図3参照)。
【0045】
第1クラッチ44Aのクラッチインナ70Aは、メイン軸内軸41Aの右端においてスプライン75に嵌合し、係止部材56によってメイン軸内軸41Aに固定されている。
第2クラッチ44Bのクラッチインナ70Bは、メイン軸外軸41Bの右端においてスプライン76に嵌合して固定されている(図3参照)。
【0046】
ツインクラッチ44を構成する一対のクラッチ44A、44Bは共に油圧式多板クラッチである。
一対のクラッチ44A、44Bの各クラッチアウタ71A、71Bの外周部71bの内側には、クラッチアウタ71A、71Bに対して相対回転不能且つ軸方向移動可能に係合された複数の駆動摩擦板77が設けてある。
一対のクラッチ44A、44Bの各クラッチインナ70A、70Bの外側には、クラッチインナ70A、70Bに対して相対回転不能且つ軸方向移動可能に係合された複数の被動摩擦板78が設けてある。
駆動摩擦板77と被動摩擦板78は交互に配置されて摩擦板群79を構成している。
【0047】
各クラッチ44A、44Bのクラッチアウタ71A、71Bの端板部71aと摩擦板群79との間にはそれぞれ、クラッチハブ72A、72Bとクラッチアウタ71A、71Bの外周部71bとの間を軸方向に摺動する環状のクラッチピストン80が設けてあり、クラッチピストン80の外周部の端部は、摩擦板群79の一端の駆動摩擦板77に当接している。
摩擦板群79の他端の駆動摩擦板77はC形止め輪81を介して移動規制されている。
【0048】
クラッチピストン80とクラッチインナ70A、70Bとの間にはそれぞれ、環状のスプリングリテーナ82が設けてある。
スプリングリテーナ82の内周端は、クラッチハブ72A、72Bに設けられたC形止め輪83よって移動規制されている。
スプリングリテーナ82の外周端は、シール部材84を介してクラッチピストン80の外周部の内側に摺動可能に接している。
スプリングリテーナ82にスプリングプレート100を介して一端を接するコイルばね85を介して、クラッチピストン80は、それぞれクラッチアウタ71A、71Bの端板部71aの方へ付勢されている。
【0049】
コイルばね85は、複数が平行に配向されてその一端側が円環状のスプリングプレート100に周方向均等間隔に配置されて支持されており、スプリングプレート100は、コイルばね85がクラッチピストン80の軸方向に向くように、スプリングリテーナ82の内径側に保持されている。
複数のコイルばね85の他端側は、クラッチハブ72A、72Bの外周面を摺動するクラッチピストン80に周方向均等間隔で当接している。
【0050】
各クラッチピストン80の軸方向両面には、制御油圧室86A、86Bとキャンセラ室87A、87Bとが形成されている。
制御油圧室86A、86Bはそれぞれ、クラッチアウタ71A、71Bの外周部71bとクラッチハブ72A、72Bとの間において、クラッチアウタ71A、71Bの端板部71aとクラッチピストン80との間に形成される。
キャンセラ室87A、87Bはそれぞれ、クラッチピストン80の外周部とクラッチハブ72A、72Bとの間において、スプリングリテーナ82とクラッチピストン80との間に形成される。
【0051】
キャンセラ室87A、87Bは遠心力圧力補償室とも言うことができ、遠心力による制御油圧室86A、86Bの圧力増加を、キャンセラ室87A、87Bのオイルにかかる遠心力による圧力増加によって相殺し、クラッチOFFを確実にするためのものである。
【0052】
メイン軸内軸41A内には、左側から延設されたメイン軸左側中心孔65と、右側から延設された第1制御油孔66Aと第2制御油孔66Bが設けてある。
メイン軸左側中心孔65は、潤滑用オイルポンプ61に連通し、潤滑用オイルが供給されている。
第1制御油孔66Aと第2制御油孔66Bは、それぞれ、第1制御用油路64A、第2制御用油路64Bを介して、第1クラッチアクチュエータ63A、第2クラッチアクチュエータ63Bに連通し、制御用オイルポンプ60から制御された制御用オイルが供給される(図2参照)。
【0053】
第1制御油孔66Aは、メイン軸内軸41Aとクラッチ部外軸41Cと、クラッチハブ72Aを径方向に貫通して連通する油路90を介して、第1クラッチ44Aの制御油圧室86Aに連通している。
第2制御油孔66Bは、メイン軸内軸41Aとクラッチ部外軸41Cと、クラッチハブ72Bを径方向に貫通して連通する油路91を介して、第2クラッチ44Bの制御油圧室86Bに連通している。
【0054】
第1クラッチ44Aのキャンセラ室87Aは、制御用オイルポンプ60からの高圧油路に図示しない降圧油路を介して連通するメイン軸潤滑油孔67に、ニードルベアリング55A、メイン軸内軸外周隙間油路92、及びクラッチ部外軸9Cとクラッチハブ72Aを径方向に貫通する油路93を介して、連通している。
従って、キャンセラ室87Aには、常に供給油路となる油路93から降圧された潤滑用のオイルが供給される。
【0055】
第2クラッチ44Bのキャンセラ室87Bは、メイン軸左側中心孔65に、メイン軸内軸41Aを径方向に貫通する油路94、ニードルベアリング55B、メイン軸内軸外周隙間油路95、及びクラッチ部外軸41Cとクラッチハブ72Bを径方向に貫通する油路96を介して、連通している。メイン軸左側中心孔65には、常に潤滑用オイルポンプ61から潤滑用のオイルが供給されている。
従って、キャンセラ室87Bには、常に供給油路となる油路96から潤滑用のオイルが供給される。
【0056】
スプリングリテーナ82は、クラッチピルトン80と相対して、各キャンセラ室87A、87Bの環状の一方の壁部材を構成するが、スプリングプレート100を保持する保持部82bに、軸方向に貫通するオイル排出孔82aを複数備えている。
また、環状のスプリングプレート100も、コイルばね85を支持する位置に合わせて、軸方向に貫通するオイル排出孔100aを複数備えている。
オイル排出孔82aとオイル排出孔100aによって、キャンセラ室87A、87Bの内外を連通する排出油路110が形成される(図3、4参照)。
【0057】
したがって、各キャンセラ室87A、87Bに供給されて充満した潤滑用のオイルは、排出油路110から排出され、キャンセラ室87A、87Bの外側とクラッチインナ70A、70Bの間に形成される潤滑油室88A、88Bに流入し、クラッチの回転により外周方向へ移動して、駆動摩擦板77と被動摩擦板78からなる摩擦板群79の潤滑に供される。
【0058】
図5、図6に示されるように、スプリングプレート100は、スプリングリテーナ82の保持部82bに合わせた環板状をなしており、コイルばね85の内周側に嵌合してコイルばね85を支持する環状突起100bが複数、同一ピッチサークルPC1上に、周方向で等間隔に設けられている(本実施形態では16箇所)。
環状突起100bの内側には、組みつけられた状態(図4参照)で軸方向に貫通する、オイル排出孔100aが穿設されている。
従って、コイルばね85と、環状突起100bと、オイル排出孔100aは、同じピッチサークルPC1上に配置される。
【0059】
図7、図8に示されるように、スプリングリテーナ82は、中央にクラッチハブ72Aまたは72Bを挿通するための開口部82cを有するとともに、その周囲がスプリングプレート100を保持する保持部82bを形成している。外周縁にはクラッチピストン80の外周部の内周面を油密的に摺動するためのシール部材84が備えられている。
【0060】
保持部82bは、スプリングプレート100を保持するため、環状の平面をなすが、組み立てられた状態で(図4参照)、コイルばね85とクラッチの半径方向で重なる位置に複数のオイル排出孔82aが形成されている。
すなわち、スプリングリテーナ82においても、スプリングプレート100のピッチサークルPC1の半径Rと同じ半径RのピッチサークルPC2上に、複数のオイル排出孔82aが形成されている。
【0061】
しかし、スプリングリテーナ82のオイル排出孔82aは、ピッチサークルPC2上に、周方向で不等間隔に設けられている。例えば、図8に示すように、周方向を4分する線に対して、各オイル排出孔82aがなす角度a、b、c、d、e、f、g、h、iは互いに異なる。
従って隣り合うオイル排出孔82aによって形成される周方向角度も異なる。
【0062】
一方、スプリングプレート100のオイル排出孔100aは周方向で等間隔に設けられているので、スプリングプレート100がスプリングリテーナ82と回転方向で位置決めされず、そのための構造を有さず、相互の回転方向の位置が随時移動したとしても、常にいずれかのオイル排出孔100aとオイル排出孔82aとが周方向で重なる位置となり、一方、半径方向では常に重なる位置にあるから、常にいずれかのオイル排出孔100aとオイル排出孔82aとが連通する排出油路110が形成される。
【0063】
すなわち、スプリングプレート100とスプリングリテーナ同士82を、位置決めすることなしに、キャンセラ室87A、87Bからオイルがスムーズに排出され、クラッチピストン80の作動応答性(作動速度)が高められ、クラッチ44A、44Bの断接が迅速になされる。
【0064】
また、スプリングリテーナ82のオイル排出孔82aは、スプリングプレート100のオイル排出孔100aの数よりも少なく設定されている。例えば、図8に示すように、オイル排出孔82aは、10箇所であるが、図6に示されるオイル排出孔100aは16箇所である。
このようにスプリングリテーナ82のオイル排出孔82aの数を相対的に少なくしたため、オイル排出孔100aとオイル排出孔82aの周方向位置ずれが連通状態を得やすくすると同時に、スプリングリテーナ82のオイル排出孔82aの数が少なくなり、その加工工数が削減される。
【0065】
図8に示されるように、スプリングリテーナ82には、オイル排出孔82aのピッチサークルPC2よりやや内径側に重なるように、周方向に均等に、キャンセラ室87A、87Bの外側に向けて突出する突起部82dが設けられている。突起部82dは、図4に示されるように、スプリングリテーナ82の軸方向位置を拘束するC形止め輪(本発明の「サークリップ」)83の外周側に位置して、C形止め輪83の抜け止めがなされる。突起部82dは、軸方向から見て略円形のもの、略矩形のもの等でも可能であるが、本実施形態のように、楕円形状にしたものが、C形止め輪83の抜け止めがより確実なものとなり、好ましい。
【0066】
上記のような、本実施形態のクラッチ構造において、第1クラッチアクチュエータ63Aの作動により、第1クラッチ44Aの制御油圧室86Aに制御用のオイルが送られると、クラッチピストン80が右方に移動し、摩擦板群79を圧接することで、第1クラッチが断(OFF)状態から、接(ON)状態となる。
そのとき、キャンセラ室87A内に充満していた潤滑用のオイルは、クラッチピストン80の移動に伴うキャンセラ室87Aの縮小により、常に連通状態が得られる排出油路110から潤滑油室88Aへ排出される。
【0067】
また、第1クラッチを断(ON)状態から、接(OFF)状態とする場合は、排出油路110が常に連通状態を得ているので、クラッチピストン80がコイルばね85によって、クラッチアウタ71Aの端板部71a側に復帰することが妨げられない。
従って、クラッチピストン80の作動応答性の悪化が防止され、クラッチ断接が迅速になされる。
以上のことは、第2クラッチ44Bにおいても同様である。
【0068】
すなわち、本実施形態のクラッチ構造の特徴を述べれば下記の通りである。
メイン軸41のクラッチ部外軸41Cがクランクケース32に回転自在に支承され、クラッチピストン80がクラッチ部外軸41Cに同軸芯に配設され、その軸方向移動に応じてクラッチオフ状態とクラッチオン状態とが切替えられ、各クラッチピストン80の軸方向両面に制御油圧室86A、86Bとキャンセラ室87A、87Bとが形成されている。
また、キャンセラ室87A、87Bは、クラッチピストン80とスプリングリテーナ82との間に形成されるとともに、クラッチピストン80を付勢するコイルばね85を支持したスプリングプレート100を、スプリングリテーナ82がキャンセラ室87A、87B内に保持する油圧クラッチ44において、スプリングプレート100およびスプリングリテーナ82に、コイルばね85と半径方向で重なる位置に複数のオイル排出孔100a、82aが形成されている。
【0069】
そのため、スプリングプレート100とスプリングリテーナ82同士を、位置決めすることなしに、キャンセラ室87A、87Bからオイルがスムーズに排出され、クラッチピストン80の作動応答性(作動速度)が高められ、クラッチ44A、44Bの断接が迅速になされる。
【0070】
また、スプリングプレート100のオイル排出孔100aは、周方向で等間隔に形成され、スプリングリテーナ82のオイル排出孔82aは、周方向で不等間隔に形成されるとともに、スプリングプレート100のオイル排出孔100aの一部と、スプリングリテーナ82のオイル排出孔82aの一部とが、常に重なり合うように配置されたので、スプリングプレート100とスプリングリテーナ82同士を位置決めしなくとも、常にオイルを排出することができるため、クラッチピストン80の作動応答性を高め、クラッチ44A、44Bの断接が迅速になされる。
【0071】
また、スプリングリテーナ82のオイル排出孔82aの数は、スプリングプレート100のオイル排出孔100aの数より少ないので、オイルを常に排出することを可能としながらも、スプリングリテーナ82のオイル排出孔82aを、スプリングプレート100のオイル排出孔100aと同数設ける場合に比べて、オイル排出孔82aの数が減ぜられるので、加工工数が削減される。
【0072】
また、スプリングリテーナ82の隣り合うオイル排出孔82aによって形成される周方向角度が各々異なるので、常にスプリングリテーナ82側のいずれかのオイル排出孔82aが、スプリングプレート100側のオイル排出孔100aと連通し、オイルを排出することができる。従って、クラッチピストン80の作動応答性が高まり、クラッチ44A、44Bの断接が迅速になされる。
【0073】
また、スプリングリテーナ82には、スプリングリテーナ82の軸方向位置を拘束するC形止め輪(本発明の「サークリップ」)83の外周側に位置する、複数の突起部82dが設けられているので、突起部82DがC形止め輪83の抜け止めとなり、C形止め輪83の抜けが防止される。
また、突起部82dは、軸方向から見て楕円形状であるので、C形止め輪83の抜け止めが、より確実なものとなる。
【0074】
そして、油圧クラッチ44は、複数個の油圧クラッチ44A、44Bを備えたツインクラッチ44であり、ツインクラッチ44の各スプリングプレート100および各スプリングリテーナ82にそれぞれオイル排出孔100a、82aが設けられたので、各キャンセラ室87A、87Bからのオイル排出性が良好になり、クラッチの断接が迅速に行える。
なお、本実施形態は、ツインクラッチ44の場合を示して説明したが、単一の油圧クラッチ(例えば、第1クラッチ44A、または第1クラッチ44B)で構成されるクラッチ構造においても、本発明の要旨が適用されることは勿論である。
【0075】
次に、本発明に係る実施形態2のクラッチ構造について図9に基づいて説明する。
なお、本実施形態は、上述の実施形態1に対して、スプリングリテーナ182のオイル排出孔182aの設け方、突起部182dの形状が異なる以外は、実施形態1と同じであり、図1から図7に示されるものは、本実施形態2も同様であるので、図1〜図7も本実施形態の説明において参照するものとする。
また、実施形態2のオイルリテーナの各部位は、対応する実施形態1の符号を下2桁とする、100番台の符号で示した。
【0076】
実施形態2のスプリングリテーナ182は、図9に示されるように、中央にクラッチハブ72Aまたは72Bを挿通するための開口部182cを有するとともに、その周囲がスプリングプレート100を保持する保持部182bを形成している。外周縁にはクラッチピストン80の外周部の内周面を油密的に摺動するためのシール部材84が備えられている。
【0077】
保持部182bは、スプリングプレート100を保持するため、環状の平面をなすが、組み立てられた状態で(図4参照)、コイルばね85とクラッチの半径方向で重なる位置に複数のオイル排出孔182aが形成されている。
すなわち、実施形態2のスプリングリテーナ182においても、スプリングプレート100のピッチサークルPC1の半径Rと同じ半径RのピッチサークルPC2上に、複数のオイル排出孔182aが形成されている。
【0078】
しかし、実施形態2のスプリングリテーナ182に於いては、オイル排出孔182aが、ピッチサークルPC2上に、スプリングリテーナ182の回転中心点Oに対して、それぞれが点対称の位置となるように配設されている。例えば、図9に示すように、周方向を4分する線に対して、各オイル排出孔182aがなす角度は点対称的に同じj、kとなる。
【0079】
一方、スプリングプレート100のオイル排出孔100aは周方向で等間隔に設けられているので、スプリングプレート100がスプリングリテーナ182と回転方向で位置決めされず、そのための構造を有さず、相互の回転方向の位置が随時移動したとしても、常にいずれかのオイル排出孔100aとオイル排出孔182aとが周方向で重なる位置となり、一方、半径方向では常に重なる位置にあるから、常にいずれかのオイル排出孔100aとオイル排出孔182aとが連通する排出油路120(図3参照)が形成される。
【0080】
そのとき、オイル排出孔182aが、回転中心点Oに対して、それぞれが点対称の位置となっているので、連通する排出油路120もまた、点対称に現れることとなり、オイルが均一に、且つ軸周りにバランス良く排出され、オイルの排出性が向上するとともに、オイル排出に伴う振動が抑制される。
【0081】
すなわち、スプリングプレート100とスプリングリテーナ同士182を、位置決めすることなしに、キャンセラ室87A、87Bからオイルがスムーズに、しかも均一に排出され、クラッチピストン80の作動応答性(作動速度)が高められ、クラッチ44A、44Bの断接が迅速になされると。
【0082】
なお、本実施形態2のスプリングリテーナ182に於いては、実施形態1のスプリングリテーナ82と同様に、スプリングリテーナ182の軸方向位置を拘束するC形止め輪(サークリップ)83の外周側に位置する、複数の突起部182dが設けられているが、実施形態1のスプリングリテーナ82と異なり、軸方向から見て円形形状である。そのため、C形止め輪83の抜け止め効果を得ながら、成形が容易でコスト低減が可能となる。
【0083】
本実施形態2のクラッチ構造の特徴を述べれば下記の通りである。
本実施形態のクラッチ構造は、上述の実施形態1のクラッチ構造と同様の効果を奏するが、特に、スプリングリテーナ182のオイル排出孔182aが、スプリングリテーナ182の回転中心点Oに対して、それぞれが点対称となるように配設されたことを特徴としており、そのため、オイルが均一に、且つ軸周りにバランス良く排出され、オイルの排出性が向上するとともに、オイル排出に伴う振動が抑制される。
【0084】
なお、実施形態2のクラッチ構造も、実施形態1のクラッチ構造と同様に、ツインクラッチ44の場合を示して説明し、ツインクラッチ44において効果的であるが、単一の油圧クラッチ(例えば、第1クラッチ44A、または第1クラッチ44B)で構成されるクラッチ構造にも、本発明の要旨が適用でき、有効である。
【0085】
以上、本発明のクラッチ構造の実施形態につき説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲で、種々の実施態様が含まれることは勿論である。
例えば、上記実施形態において、内燃機関30は自動二輪車1に搭載されたものを示したが、内燃機関30のタイプ、気筒数、搭載する車両等を限定するものではなく、さらに、同様の油圧クラッチであれば、据え置き型の内燃機関のクラッチにも適用可能なものである。
【符号の説明】
【0086】
1…自動二輪車、2…車体フレーム、30…内燃機関、31…クランク軸、32…クランクケース、37…右クランクケースカバー、40…変速機、41…メイン軸、41A…メイン軸内軸、41B…メイン軸外軸、41C…クラッチ部外軸(回転軸)、42…カウンタ軸、43…プライマリ従動ギア、44…ツインクラッチ(油圧クラッチ)、44A…第1クラッチ、44B…第2クラッチ、60…制御用オイルポンプ、63A…第1クラッチアクチュエータ、63B…第2クラッチアクチュエータ、64A…第1制御用油路、64B…第2制御用油路、65…メイン軸左側中心孔、66A…第1制御油孔、66B…第2制御油孔、67…メイン軸潤滑油孔、70A、70B…クラッチインナ、71A、71B…クラッチアウタ、71a…端板部、72A、72B…クラッチハブ、79…摩擦板群、80…クラッチピストン、82…スプリングリテーナ、82a…オイル排出孔、82b…保持部、82c…開口部、82d…突起部、83…C形止め輪(サークリップ)、85…コイルばね、86A、86B…制御油圧室、87A、87B…キャンセラ室、88A、88B…潤滑油室、93、96…油路、100…スプリングプレート、100a…オイル排出孔、100b…環状突起、110、120…排出油路、182…スプリングリテーナ、182a…オイル排出孔、182b…保持部、182c…開口部、182d…突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクケース(32)に回転自在に支承される回転軸(41C)と、同回転軸(41C)に同軸芯に配設され、軸方向移動に応じてクラッチオフ状態とクラッチオン状態とを切替えるクラッチピストン(80)とを備え、同クラッチピストン(80)の軸方向両面に制御油圧室(86A,86B)とキャンセラ室(87A,87B)とが形成され、
同キャンセラ室(87A,87B)は、前記クラッチピストン(80)とスプリングリテーナ(82)との間に形成されるとともに、前記クラッチピストン(80)を付勢するコイルばね(85)を支持したスプリングプレート(100)を、前記スプリングリテーナ(82)が前記キャンセラ室(87A,87B)内に保持する油圧クラッチ(44)のクラッチ構造において、
前記スプリングプレート(100)および前記スプリングリテーナ(82)に、前記コイルばね(85)と半径方向で重なる位置に複数のオイル排出孔(100a,82a)が形成されたことを特徴とするクラッチ構造。
【請求項2】
前記スプリングプレート(100)のオイル排出孔(100a)は、周方向で等間隔に形成され、前記スプリングリテーナ(82)のオイル排出孔(82a)は、周方向で不等間隔に形成されるとともに、
前記スプリングプレート(100)のオイル排出孔(100a)の一部と、前記スプリングリテーナ(82)のオイル排出孔(82a)の一部とが、常に重なり合うように配置されたことを特徴とする請求項1記載のクラッチ構造。
【請求項3】
前記スプリングリテーナ(82)のオイル排出孔(82a)の数は、前記スプリングプレート(100)のオイル排出孔(100a)の数より少ないことを特徴とする請求項1または請求項2記載のクラッチ構造。
【請求項4】
前記スプリングリテーナ(82)の隣り合うオイル排出孔(82a)によって形成される周方向角度が各々異なることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか記載のクラッチ構造。
【請求項5】
前記スプリングリテーナ(182)のオイル排出孔(182a)は、同スプリングリテーナ(182)の回転中心点に対して、それぞれが点対称となるように配設されたことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか記載のクラッチ構造。
【請求項6】
前記スプリングリテーナ(82)には、同スプリングリテーナ(82)の軸方向位置を拘束するサークリップ(83)の外周側に位置する、複数の突起部(82d)が設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか記載のクラッチ構造。
【請求項7】
前記突起部(82d)は、軸方向から見て楕円形状であることを特徴とする請求項6記載のクラッチ構造。
【請求項8】
前記油圧クラッチ(44)は、複数個の油圧クラッチ(41A,41B)を備えたツインクラッチ(44)であり、同ツインクラッチ(44)の各スプリングプレート(100)および各スプリングリテーナ(82)にそれぞれ前記オイル排出孔(100a,82a)が設けられたことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか記載のクラッチ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−67842(P2012−67842A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213035(P2010−213035)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】