説明

クラッチ装置

【課題】ランニングコストを抑え、かつ騒音の発生を防止すること。
【解決手段】中ヨーク部材15の内外両周面に磁気噛合歯151bを並設した一対の磁気噛合環151と、一方の磁気噛合環151の磁気噛合歯151bと他方の磁気噛合環151の磁気噛合歯151bとが互いに異極となるように一対の磁気噛合環151の間に配設した磁石体152と、内ヨーク部材21の外周面及び外ヨーク部材22の内周面に噛合歯25aを並設し、かつ中ヨーク部材15の内外周面に対向する部位に磁気噛合環151と対向する一対の噛合歯列25とを備え、一対の磁気噛合環151及び一対の噛合歯列25は、一対の磁気噛合歯151bと一対の噛合歯25aとを対向させて互いの間に磁石体152による磁気回路を構成する対向位置と、磁気噛合歯151bと噛合歯25aとが互いにずれた位置に配置される非対向位置との間を相対的に移動可能に配設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの回転体の間に動力を伝達する接続状態と、動力の伝達を遮断する遮断状態とに切り換え可能に構成したクラッチ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のクラッチ装置としては、従来より電磁式のものが種々提供されている。すなわち、電磁コイルへの通電をON/OFFすることによって一方の回転体と他方の回転体とを離接させ、両者が接触した場合の摩擦力によって2つの回転体の間に動力を伝達するようにしたものである(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−36229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したクラッチ装置では、2つの回転体の間に動力を伝達する場合、常時電磁コイルに通電しなければならず、ランニングコストの点で必ずしも好ましいとはいえない。また、電磁コイルへの通電をON/OFFした場合には、一方の回転体と他方の回転体とが離接することになるため、騒音の問題が招来される恐れもある。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みて、ランニングコストを抑え、かつ騒音の発生を防止することのできるクラッチ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、第1の軸心回りに回転可能に配設し、第1の軸心回りに回転した場合に変位する第1回転変位面を有した第1の回転体と、第2の軸心回りに回転可能に配設し、第2の軸心回りに回転した場合に変位する第2回転変位面を有するとともに、少なくとも第2回転変位面の一部が第1回転変位面に対向するように配置した第2の回転体との間に構成し、これら2つの回転体の間の動力伝達を断続させるクラッチ装置であって、第1回転変位面に複数の磁気噛合歯をそれぞれ周方向に並設することによって構成した一対の磁気噛合歯列と、一方の磁気噛合歯列の磁気噛合歯と他方の磁気噛合歯列の磁気噛合歯とが互いに異極となるようにこれら一対の磁気噛合歯列の間に配設した永久磁石と、第2回転変位面に複数の噛合歯をそれぞれ周方向に並設し、かつ第1回転変位面に対向する部位においてそれぞれの磁気噛合歯列と対向する一対の噛合歯列とを備え、一対の磁気噛合歯列及び一対の噛合歯列は、一対の磁気噛合歯と一対の噛合歯とを対向させて互いの間に永久磁石による磁気回路を構成する対向位置と、磁気噛合歯と噛合歯とが互いにずれた位置に配置される非対向位置との間を相対的に移動可能に配設したことを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、上述したクラッチ装置において、第1の回転体及び第2の回転体は、共通の軸心回りに回転可能に配設し、かつ第1回転変位面と第2回転変位面とが全周に亘って互いに対向配置されるものであり、一対の磁気噛合歯列及び一対の噛合歯列は、それぞれの回転体において軸心方向に沿って並設したものであり、第1の回転体及び第2の回転体を相対的に軸心方向に沿って移動させることにより対向位置と非対向位置との間を移動することを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、上述したクラッチ装置において、第2の回転体は、第1の回転体に対して非対向位置に配置された場合に、磁気噛合歯列の先端面に対して連続した環状の周面を対向させる一対の自己保持用突体を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上述したクラッチ装置において、自己保持用突体の先端面全周に環状の溝を形成したことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上述したクラッチ装置において、一対の磁気噛合歯列は、それぞれの磁気噛合歯が互いに周方向に位相をずらして構成したものであり、第2の回転体は、第1の回転体に対して非対向位置に配置された場合に、磁気噛合歯列の先端面に対して連続した環状の周面を対向させる一対の自己保持用突体を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上述したクラッチ装置において、第1の回転体及び第2の回転体の互いに対向する部位の一方に、回転軸心を中心とした環状を成し、周方向に沿って互いに異なる磁極を並設した磁石プレートを配設する一方、この磁石プレートに対向するように第1の回転体及び第2の回転体の他方に、回転軸心を中心とした環状を成す導電体を配設し、一対の磁気噛合歯列及び一対の噛合歯列が対向位置に配置された場合に磁石プレート及び導電体を互いに近接配置させ、かつ一対の磁気噛合歯列及び一対の噛合歯連が非対向位置に配置された場合に磁石プレート及び導電体を離隔配置させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、一方の回転体に設けた磁気噛合歯の先端面と他方の回転体に設けた噛合歯の先端面とが対向した場合に両者が磁気的に噛み合うことになり、相互間に動力を伝達することができるようになる。磁気噛合歯と噛合歯との磁気的な噛み合いは、永久磁石の磁力によるものである。従って、2つの回転体を動力伝達状態に維持する場合に電力を消費することがなく、ランニングコストの点で有利となる。しかも、磁気噛合歯と噛合歯との磁気的な噛み合いは、両者の接触を伴う必要がなく、2つの回転体の間を断続した場合にも騒音の問題が招来される恐れは全くない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の実施の形態であるクラッチ装置が接続状態にある場合の断面斜視図である。
【図2】図2は、図1に示したクラッチ装置が遮断状態にある場合の断面斜視図である。
【図3】図3は、図1に示したクラッチ装置に適用する磁気噛合歯を備えた磁気噛合環及び永久磁石を概念的に示す図である。
【図4】図4は、図1に示したクラッチ装置において磁気噛合歯と噛合歯との配置態様を示す部分拡大図である。
【図5】図5は、図3に示した磁気噛合環と永久磁石との接合状態を示す部分斜視図である。
【図6】図6は、図1に示したクラッチ装置に適用する取付プレート及び磁石プレートを概念的に示す図である。
【図7】図7は、図1に示したクラッチ装置の対向位置と非対向位置とを模式的に示す概念図である。
【図8】図8は、図1に示したクラッチ装置の変形例において対向位置と非対向位置とを模式的に示す概念図である。
【図9】図9は、図1に示したクラッチ装置の他の変形例において対向位置と非対向位置とを模式的に示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明に係るクラッチ装置の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
図1及び図2は、本発明の実施の形態であるクラッチ装置を示したものである。ここで例示するクラッチ装置は、軸部材(回転体)10の先端部とプーリー(回転体)20との間に構成し、これら軸部材10とプーリー20との間の動力伝達を断続させるものである。軸部材10に対してプーリー20は、プーリーベアリング30を介して支持してあり、軸部材10の外周部において軸部材10の軸心回りに相対的に回転することが可能である。
【0016】
このクラッチ装置は、軸部材10の外周部にヨーク保持体11を備えている。ヨーク保持体11は、円筒状を成す軸外装部11aと、軸外装部11aの外周面から径外方向に延在する円板状のプレート部11bと、プレート部11bの外周部から軸外装部11aの軸心に沿って突設した環状の取付部11cとを有して構成したもので、軸外装部11aを介して軸部材10の外周部に配設してある。ヨーク保持体11の軸外装部11aには、内周面にスプライン11dが形成してある。スプライン11dは、軸部材10に設けたキー部材12に歯合しており、ヨーク保持体11が軸部材10に対して相対的に軸心回りに回転するのを規制する一方、軸部材10の軸心方向に沿ったヨーク保持体11の移動を許容するように機能する。尚、図中の符号13は、軸部材10の先端側に向けてヨーク保持体11をスライドさせた場合に軸外装部11aの端面に当接し、ヨーク保持体11の移動を規制するストッパプレートである。
【0017】
ヨーク保持体11には、スライド操作部材14及び中ヨーク部材15が設けてある。スライド操作部材14は、軸外装部11aの基端部外周にアンギュラ玉軸受け16を介して装着した円筒状部材であり、軸外装部11a及び軸部材10の双方に対して回転可能となる状態で軸外装部11a及び軸部材10の外周部に配設してある。
【0018】
中ヨーク部材15は、ヨーク保持体11の取付部11cに取り付けた円筒状部材であり、一対の磁気噛合環(磁気噛合歯列)151を備えている。一対の磁気噛合環151は、図3に示すように、円環状を成す基部151aの外周面及び内周面の双方にそれぞれ複数の磁気噛合歯151bを有した互いに同一形状の円環状部材であり、例えば鋼材等の磁性体によって成形してある。これらの磁気噛合環151は、図1及び図2に示すように、互いの間に磁石体(永久磁石)152を挟持した状態で取付部11cに重ね合わせ、さらに取付プレート153を介して複数の取付ボルト154を螺合させることにより、それぞれの軸心を合致させた状態でヨーク保持体11の取付部11cに取り付けてある。
【0019】
磁気噛合歯151bは、図3及び図4に示すように、基部151aの外周面及び内周面からそれぞれ径方向に沿って突出した凸状部であり、中ヨーク部材15の内周面(回転変位面)及び外周面(回転変位面)の双方に磁気噛合歯列を構成している。磁気噛合環151の外周面に形成した磁気噛合歯151b(以下、区別する場合に「外周磁気噛合歯」という)は、互いに同一の寸法を有し、かつ周方向に沿って互いに等間隔となるように設けてある。複数の外周磁気噛合歯151bの先端面によって規定される磁気噛合環151の外径は、ヨーク保持体11の取付部11cとほぼ同一となるように形成してある。磁気噛合環151の内周面に形成した磁気噛合歯151b(以下、区別する場合に「内周磁気噛合歯」という)は、互いに同一の寸法を有し、かつ周方向に沿って互いに等間隔となるように設けてある。複数の内周磁気噛合歯151bの先端面によって規定される磁気噛合環151の内径は、ヨーク保持体11の取付部11cとほぼ同一となるように形成してある。
【0020】
磁石体152は、図3及び図5に示すように、磁気噛合環151の基部151aとほぼ同一の内径及び外径を有した円環状を成す永久磁石である。この磁石体152は、一方の端面がN極で他方の端面がS極を呈するように構成してある。本実施の形態では、図4及び図5に示すように、磁石体152の一方の端面と他方の端面とで磁気噛合歯151bが互いに周方向に位相がずれた状態で、磁石体152の両端面に一対の磁気噛合環151が配設してある。より詳細には、一方の磁気噛合環151に設けた磁気噛合歯151bの相互間に他方の磁気噛合環151に設けた磁気噛合歯151bが配置されるように、互いに周方向に位相をずらした状態でヨーク保持体11の取付部11cに取り付けてある。
【0021】
取付プレート153は、磁石体152とほぼ同一の内径及び外径を有した円環状を成すもので、導電体、例えばアルミニウムによって成形してある。
【0022】
一方、プーリー20は、内ヨーク部材21及び外ヨーク部材22を備えて構成してある。内ヨーク部材21は、上述したプーリーベアリング30を介して軸部材10に支持される部分である。この内ヨーク部材21は、ヨーク保持体11における中ヨーク部材15の内径よりも僅かに小さい外径に形成してあり、その外周面が中ヨーク部材15の内周面に対向するように配置してある。
【0023】
内ヨーク部材21には、ディスク部21aが一体に設けてある。ディスク部21aは、内ヨーク部材21においてヨーク保持体11の取付プレート153に近接する端部から径外方向に向けて延在したフランジ状部分であり、ヨーク保持体11に取り付けた磁気噛合環151よりも十分に大きな外径を有するように形成してある。このディスク部21aには、取付プレート153の端面に対向する部位に磁石プレート23が配設してある。磁石プレート23は、図6に示すように、取付プレート153とほぼ同一の外径及び内径を有した円環状部材である。この磁石プレート23には、周方向に沿ってN極とS極とが交互に着磁してある。
【0024】
図1及び図2に示すように、内ヨーク部材21のディスク部21aは、軸部材10に対してヨーク保持体11をスライドさせ、軸外装部11aの端面をストッパプレート13に当接させた場合(以下、このヨーク保持体11の配置位置を「ON位置」という)にも、換言すれば磁石プレート23に対して中ヨーク部材15の取付プレート153を最も近接した状態に配置した場合にも、これら磁石プレート23の端面と取付プレート153の端面との間に間隙を確保するように構成してある。
【0025】
外ヨーク部材22は、中ヨーク部材15の外径よりも僅かの大きい内径を有した円筒状部材である。この外ヨーク部材22は、その内周面が中ヨーク部材15の外周面に対向するようにディスク部21aの端面に保持させてある。
【0026】
内ヨーク部材21の外周面(回転変位面)及び外ヨーク部材22の内周面(回転変位面)には、それぞれ一対の噛合歯列25が設けてある。噛合歯列25は、径方向に突出する噛合歯25aを周方向に沿って複数並設することにより構成したもので、互いの間に中ヨーク部材15に設けた一対の磁気噛合環151の相互間距離と同じ間隙を確保した位置に設けてある。
【0027】
図4に示すように、内ヨーク部材21の外周面に設けた噛合歯25a(以下、区別する場合に「外周噛合歯」という)は、磁気噛合環151の内周面に設けた内周磁気噛合歯151bに対してほぼ同一の寸法、かつ同一のピッチとなるように構成してある。一方の噛合歯列25に設けた外周噛合歯25aと他方の噛合歯列25に設けた外周噛合歯25aとは、互いに周方向に位相がずらしてある。より詳細には、一方の噛合歯列25の外周噛合歯25aが一方の磁気噛合環151の内周磁気噛合歯151bに対向した場合に、他方の噛合歯列25の外周噛合歯25aが他方の磁気噛合環151の内周磁気噛合歯151bと対向するように、互いに周方向に位相をずらした状態でそれぞれの外周噛合歯25aが設けてある。
【0028】
外ヨーク部材22の内周面に設けた噛合歯25a(以下、区別する場合に「内周噛合歯」という)は、磁気噛合環151の外周面に設けた外周磁気噛合歯151bに対してほぼ同一の寸法、かつ同一のピッチとなるように構成してある。一方の噛合歯列25に設けた内周噛合歯25aと他方の噛合歯列25に設けた内周噛合歯25aとは、互いに周方向に位相がずらしてある。より詳細には、一方の噛合歯列25の内周噛合歯25aが一方の磁気噛合環151の外周磁気噛合歯151bに対向した場合に、他方の噛合歯列25の内周噛合歯25aが他方の磁気噛合環151の外周磁気噛合歯151bと対向するように、互いに周方向に位相をずらした状態でそれぞれの内周噛合歯25aが設けてある。
【0029】
図1及び図2からも明らかなように、プーリー20に設けた噛合歯列25は、ヨーク保持体11をON位置に配置した場合に、中ヨーク部材15に設けた一対の磁気噛合環151のそれぞれに対向する一方、ヨーク保持体11を軸部材10の軸心に沿ってスライドさせ、軸外装部11aの端面をストッパプレート13から離隔させた場合に、磁気噛合環151のいずれに対しても非対向状態となる(以下、このヨーク保持体11の配置位置を「OFF位置」という)ように構成してある。
【0030】
また、内ヨーク部材21には、一対の自己保持用突体26が設けてある。自己保持用突体26は、それぞれ内ヨーク部材21の外周面から径外方向に向けて突設した環状の突出部であり、全周に亘って一定の高さを有するように構成してある。自己保持用突体26の突出高さは、噛合歯25aの突出高さと同一である。これらの自己保持用突体26は、ヨーク保持体11がOFF位置に配置された場合に磁気噛合環151を構成する磁気噛合歯151bの先端面に対向する位置に配設してある。
【0031】
自己保持用突体26には、それぞれ2本の環状溝26aが形成してある。環状溝26aは、自己保持用突体26の先端面全周に亘って形成したもので、自己保持用突体26の先端部を3つに分断している。
【0032】
上記のように構成したクラッチ装置では、図7の(a)に示すように、ヨーク保持体11をON位置に配置すると、上述したように中ヨーク部材15に設けた磁気噛合環151が、それぞれ内ヨーク部材21の噛合歯列25及び外ヨーク部材22の噛合歯列25に対向することになる(対向位置)。この状態において磁気噛合環151の磁気噛合歯151bと噛合歯列25の噛合歯25aとが互いの先端面を対向させた状態となると、図示するように、磁気噛合歯151bの間に配設した磁石体152による磁気回路が中ヨーク部材15と外ヨーク部材22及び内ヨーク部材21との間に構成される。この場合、磁気噛合環151に磁気噛合歯151bが設けてあるとともに、噛合歯列25に噛合歯25aが設けてあるため、これら中ヨーク部材15と外ヨーク部材22及び内ヨーク部材21との間にトルクが発生することになる。さらに、ディスク部21aに設けた磁石プレート23と取付プレート153とが近接配置されることになり、両者間の相対回転数に差異が生じている場合に取付プレート153に渦電流が流れ、両者を回転同期させるための補助的トルクが作用することになる。
【0033】
これらの結果、例えば外ヨーク部材22の外周にタイミングベルトを巻回してこれを軸心回りに回転させると、中ヨーク部材15も軸心回りに回転することになり、ヨーク保持体11にスプライン11d結合された軸部材10が軸心回りに回転されることになる(接続状態)。
【0034】
ここで、上記クラッチ装置によれば、磁石体152による磁気回路によって接続状態が維持されるのである。従って、従来の電磁式のもののように接続状態を維持するのに電力を消費することがなく、ランニングコストの点できわめて有利となる。
【0035】
一方、スライド操作部材14を介してヨーク保持体11を軸部材10に対してスライドさせ、図7の(b)に示すように、これをOFF位置に配置すると、中ヨーク部材15に設けた磁気噛合環151と内ヨーク部材21の噛合歯列25及び外ヨーク部材22の噛合歯列25とが互いに非対向状態となる一方、磁気噛合環151と自己保持用突体26とが対向状態となり、中ヨーク部材15と内ヨーク部材21との間に磁石体152による磁気回路が図示するように構成される(非対向位置)。しかしながら、上述したように自己保持用突体26は、一定の突出高さに形成したもので、噛合歯が存在しないため、中ヨーク部材15と内ヨーク部材21との間にトルクが発生することはない。さらに、ディスク部21aに設けた磁石プレート23と取付プレート153とが離隔配置されることになり、両者が相対移動した場合の渦電流もほとんど発生しない。これらの結果、外ヨーク部材22を軸心回りに回転させた場合にも、中ヨーク部材15及び軸部材10が回転することはなく、両者の間の動力伝達が遮断された状態となる。
【0036】
この遮断状態においては、上述したように、非対向位置において磁気噛合環151を自己保持用突体26に対向させるようにしているため、軸部材10に対する中ヨーク部材15の軸方向に沿った位置が安定することになる。しかも、一方の磁気噛合環151の磁気噛合歯151bと他方の磁気噛合環151の磁気噛合歯151bとが互いに周方向に位相がずれているため、これらの間に配置される内ヨーク部材21の噛合歯25aとの間の残存する僅かな伝達トルク(引き摺りトルク)が相殺されるように作用し、この引き摺りトルクが低減することができる。さらに、自己保持用突体26に形成した環状溝26aも渦電流の発生を抑えるように作用することになり、中ヨーク部材15と内ヨーク部材21とが相対回転する際の引き摺りトルクをより一層低減することができる。
【0037】
このように、上記クラッチ装置によれば、磁気噛合歯151bと噛合歯25aとを対向させれば、両者が磁気的に噛み合うことになり、相互間に動力を伝達することができるようになる。磁気噛合歯151bと噛合歯25aとの磁気的な噛み合いは、磁石体152の磁力によるものである。従って、プーリー20と軸部材10との間を動力伝達状態に維持する場合に電力を消費することがなく、ランニングコストの点で有利となる。しかも、磁気噛合歯151bと噛合歯25aとの磁気的な噛み合いは、両者の接触を伴う必要がなく、動力伝達を断続した場合にも騒音の問題が招来される恐れは全くない。
【0038】
尚、上述した実施の形態では、軸部材10とプーリー20との間の動力伝達を断続させるクラッチ装置を例示しているが、回転体としては必ずしも軸部材10とプーリー20とに限定されず、軸心回りに回転するものであればその他のものにも適用することが可能である。この場合、必ずしも2つの回転体が共通の軸心回りに回転する必要はなく、異なる軸心回りに回転する2つの回転体の間に適用することも可能である。尚、軸部材10とプーリー20との間の動力伝達を断続させる場合に上述した実施の形態ではプーリー20が駆動側で軸部材10が従動側となるものを例示しているが、逆の態様であってももちろん良い。
【0039】
また、上述した実施の形態では、外ヨーク部材22及び内ヨーク部材21のそれぞれと中ヨーク部材15との間に磁気噛合歯151bと噛合歯25aとを設けるようにしているが、中ヨーク部材15に対して外ヨーク部材22及び内ヨーク部材21のいずれか一方を対向させるように構成することも可能である。
【0040】
さらに、上述した実施の形態では、一対の磁気噛合歯列(151)において磁気噛合歯151bを周方向に位相をずらすとともに、自己保持用突体26に環状溝26aを形成するようにしているが、必ずしも両者を同時に設ける必要はない。例えば、図8に示す変形例のように、一対の磁気噛合歯列(151)において磁気噛合歯151bを周方向に位相をずらした場合には、自己保持用突体26の環状溝26aを省略しても構わない。逆に、自己保持用突体26に環状溝26aを形成した場合には、一対の磁気噛合歯列(151)において磁気噛合歯151bを互いに対向するように配置しても良い。
【0041】
またさらに、上述した実施の形態では、自己保持用突体26を設けているため、非対向状態において軸部材10に対する中ヨーク部材15の軸方向に沿った位置が安定することになるが、図9に示すように、自己保持用突体26を省略しても構わない。
【0042】
さらに、上述した実施の形態では、一方の回転体の周面と他方の回転体の周面との間にクラッチ装置を構成しているが、必ずしも周面である必要はない。例えば、一方の回転体と他方の回転体とにそれぞれ互いに対向するフランジを形成し、これらフランジの互いに対向する面を回転変位面として相互間にクラッチ装置を構成することも可能である。この場合には、一対の磁気噛合歯列(151)及び一対の噛合歯列がそれぞれ同心円状に構成されることになり、これらを相対的に径方向に移動させることで、対向位置と非対向位置とに切り換わることになる。
【0043】
またさらに、上述した実施の形態では、取付プレート153と磁石プレート23との間の渦電流をも利用するようにしているが、磁石プレート23は必ずしも必要ではない。
【符号の説明】
【0044】
10 軸部材
11 ヨーク保持体
15 中ヨーク部材
20 プーリー
21 内ヨーク部材
22 外ヨーク部材
23 磁石プレート
25 噛合歯列
25a 噛合歯
26 自己保持用突体
26a 環状溝
151 磁気噛合環
151b 磁気噛合歯
152 磁石体
153 取付プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の軸心回りに回転可能に配設し、第1の軸心回りに回転した場合に変位する第1回転変位面を有した第1の回転体と、第2の軸心回りに回転可能に配設し、第2の軸心回りに回転した場合に変位する第2回転変位面を有するとともに、少なくとも第2回転変位面の一部が第1回転変位面に対向するように配置した第2の回転体との間に構成し、これら2つの回転体の間の動力伝達を断続させるクラッチ装置であって、
第1回転変位面に複数の磁気噛合歯をそれぞれ周方向に並設することによって構成した一対の磁気噛合歯列と、
一方の磁気噛合歯列の磁気噛合歯と他方の磁気噛合歯列の磁気噛合歯とが互いに異極となるようにこれら一対の磁気噛合歯列の間に配設した永久磁石と、
第2回転変位面に複数の噛合歯をそれぞれ周方向に並設し、かつ第1回転変位面に対向する部位においてそれぞれの磁気噛合歯列と対向する一対の噛合歯列と
を備え、一対の磁気噛合歯列及び一対の噛合歯列は、一対の磁気噛合歯と一対の噛合歯とを対向させて互いの間に永久磁石による磁気回路を構成する対向位置と、磁気噛合歯と噛合歯とが互いにずれた位置に配置される非対向位置との間を相対的に移動可能に配設したことを特徴とするクラッチ装置。
【請求項2】
第1の回転体及び第2の回転体は、共通の軸心回りに回転可能に配設し、かつ第1回転変位面と第2回転変位面とが全周に亘って互いに対向配置されるものであり、
一対の磁気噛合歯列及び一対の噛合歯列は、それぞれの回転体において軸心方向に沿って並設したものであり、第1の回転体及び第2の回転体を相対的に軸心方向に沿って移動させることにより対向位置と非対向位置との間を移動することを特徴とする請求項1に記載のクラッチ装置。
【請求項3】
第2の回転体は、第1の回転体に対して非対向位置に配置された場合に、磁気噛合歯列の先端面に対して連続した環状の周面を対向させる一対の自己保持用突体を有することを特徴とする請求項2に記載のクラッチ装置。
【請求項4】
自己保持用突体の先端面全周に環状の溝を形成したことを特徴とする請求項3に記載のクラッチ装置。
【請求項5】
一対の磁気噛合歯列は、それぞれの磁気噛合歯が互いに周方向に位相をずらして構成したものであり、
第2の回転体は、第1の回転体に対して非対向位置に配置された場合に、磁気噛合歯列の先端面に対して連続した環状の周面を対向させる一対の自己保持用突体を有することを特徴とする請求項2に記載のクラッチ装置。
【請求項6】
第1の回転体及び第2の回転体の互いに対向する部位の一方に、回転軸心を中心とした環状を成し、周方向に沿って互いに異なる磁極を並設した磁石プレートを配設する一方、この磁石プレートに対向するように第1の回転体及び第2の回転体の他方に、回転軸心を中心とした環状を成す導電体を配設し、
一対の磁気噛合歯列及び一対の噛合歯列が対向位置に配置された場合に磁石プレート及び導電体を互いに近接配置させ、かつ一対の磁気噛合歯列及び一対の噛合歯連が非対向位置に配置された場合に磁石プレート及び導電体を離隔配置させることを特徴とする請求項2に記載のクラッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−252426(P2010−252426A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96341(P2009−96341)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(303049418)株式会社松栄工機 (21)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】