説明

クラッド式鉛蓄電池の製造方法

【課題】 電槽化成後において、正極活物質中の硫酸鉛量を少なくすることができ、使用初期の放電容量が大きいクラッド式鉛蓄電池の製造方法を提供する。
【解決手段】 クラッド式正極板を、水に浸した状態で超音波振動を与えて浸漬処理をする。浸漬処理をしたクラッド式正極板と、従来から使用されているペースト式負極板とを組み合わせてクラッド式鉛蓄電池を組み立てて電槽化成をする。電槽化成は、低比重化成をした後に、高比重化成をしてクラッド式鉛蓄電池を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動式フォークリフトなどの電動車に用いられているクラッド式鉛蓄電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動式フォークリフトなどの電動車には、深い放電にも耐えることができ、長寿命な、クラッド式正極板を用いるクラッド式鉛蓄電池が使用されている(例えば、特許文献1参照。)。なお、クラッド式鉛蓄電池は、一般的にクラッド式正極板とペースト式負極板とを組み合わせて製造されている。
【0003】
ここで、従来は、図2、図4に示されるようにしてクラッド式正極板が製造されていた。すなわち、多数の溝部3を有するパレット2に、ガラス繊維を筒状に織り、樹脂を含浸させて筒状体としたクラッドチューブ1を整列させる(図4(a))。この状態で、整列したクラッドチューブ1に、穴19があけられている上部連座4を挿入した後に、上部連座4の穴19に集電体としての役割をする芯金6を挿入する(図4(b))。
【0004】
次に、これを逆さまにした状態で、上方から正極活物質としての役割をはたす鉛粉7を落下させて、クラッドチューブ1と芯金6との隙間部分に鉛粉7を充填する。最後に、クラッドチューブ1に、凸部の中央に穴を有しない下部連座5を挿入してクラッド式正極板が完成する(図4(c))。完成したクラッド式正極板とペースト式負極板とを組み合わせて鉛蓄電池を組み立て、電槽化成をしてクラッド式鉛蓄電池が完成する(図2)。
【0005】
しかしながら、上述した方法を用いても、電槽化成時に多大な課電量(正極活物質の理論容量(Ah)に対して270%程度の充電電気量(Ah))が必要となり、コスト高になるという問題点があった。一方、電槽化成時の課電量を270%以下にすると、正極活物質中に硫酸鉛(充電の不十分な正極活物質。)が大量に残留し、その結果、使用初期の放電容量が出にくいという問題点があった。
【0006】
そこで、あらかじめクラッド式正極板を希硫酸電解液に浸漬した状態で超音波振動を与え、取り出して乾燥をさせる。その後に、クラッド式正極板とペースト式負極板と組み合わせて鉛蓄電池を組み立て、電槽化成等をしてクラッド式鉛蓄電池を製造する方法が検討されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特許3314597号公報
【特許文献2】特開昭62−24556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2の方法を用いても、電槽化成時の課電量を270%以下にすると、正極活物質中に硫酸鉛(PbSO4:充電されていない正極活物質。)が大量に残留し、その結果、使用初期の放電容量が出にくいという問題点があった。
【0008】
また、正極活物質中に硫酸鉛が大量に残留していると、電解液の比重管理も難しくなるという問題点もあった。すなわち、正極活物質中に硫酸鉛が大量に残留していると、使用を重ねるうちに、電解液中に正極活物質中の硫酸イオンが供給されて、電解液の比重が高くなっていくことになるために比重管理が必要となる。そして、比重の高い電解液を長期間にわたって使用をすると、電池の寿命が短くなるという問題点もあった。
【0009】
加えて、クラッド式正極板を希硫酸電解液に浸漬した状態で超音波振動を与えているために、希硫酸電解液が飛散して製造設備が腐食をしたり、床面を汚したりするという問題点が認められていた。そこで、製造装置や床面に十分な防食処理を施す必要があった。特に、製造装置の材質は主に鉄鋼でできており、希硫酸によって腐食がされやすく、その腐食対策には多大な費用が必要であった。
【0010】
本発明の目的は、電槽化成後における正極活物質中の硫酸鉛量の残留を少なくすることができるクラッド式鉛蓄電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決するために、本発明では、あらかじめクラッド式正極板を水に浸漬した状態で超音波振動を与え、取り出して乾燥をさせる。その後に、ペースト式負極板と組み合わせて組み立てて、クラッド式鉛蓄電池を製造することを特徴としている。
【0012】
すなわち、請求項1の発明は、クラッド式正極板とペースト式負極板とを組み合わせて製造するクラッド式鉛蓄電池の製造方法において、
前記クラッド式正極板は、水に浸した状態で超音波振動を与えて浸漬処理をした後に乾燥させたものであることを特徴とするものである。
【0013】
請求項2の発明は、クラッド式正極板とペースト式負極板とを組み合わせ、電槽化成をして製造するクラッド式鉛蓄電池の製造方法において、
前記クラッド式正極板は、水に浸した状態で超音波振動を与えて浸漬処理をした後に乾燥させたものであり、
前記電槽化成は、低比重化成をした後に、高比重化成をすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係わる製造方法を用いると、電槽化成後における正極活物質中の硫酸鉛量の残留量を少なくすることができ、その結果、使用初期の放電容量が大きいクラッド式鉛蓄電池の製造方法を提供することができる。加えて、電池の使用中において、希硫酸電解液の比重増加を抑制することができるために、電解液の比重管理を容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下において、本発明の実施をするための最良の形態を図1〜4を用いて詳細に説明する。
【0016】
1.クラッド式正極板の製造方法
図4にクラッド式正極板の製造方法の概略図を示す。すなわち、半円形の凹状をし、多数の溝部3を有するアルミ合金製のパレット2に、ガラス繊維を筒状に織った後に、水溶性の熱硬化性樹脂、例えば、フェノールレジンを含浸して筒状体としたクラッドチューブ1を整列させる(図4(a))。整列したクラッドチューブ1の一方の端部に、穴19があけられている上部連座4を挿入した後に、上部連座4の穴19の部分から集電体としての役割をする芯金6を挿入する(図4(b))。なお、芯金6の材質として、短時間で時効効果を起こすことが可能な鉛-アンチモン合金を用いた。
【0017】
次に、これを逆さまにした状態(芯金6や上部連座4を下にした状態。)で、上方から正極活物質としての役割をはたす鉛粉7(一酸化鉛を主成分とする鉛粉と鉛丹粉末の混合物)を落下させて、鉛粉7をクラッドチューブ1と芯金6との隙間部分に充填する。このクラッドチューブ1と芯金6との隙間部分に充填された鉛粉7が後に化成をされて正極活物質となる。最後に、クラッドチューブ1の他方の開口部分に、中央に穴を有しない下部連座5を挿入し、鉛粉7が脱落しないようにしてクラッド式正極板が完成する(図4(c))。
【0018】
2.硫酸鉛量(PbSO4の質量%)の測定
以下の手法で、電槽化成をした正極活物質中の硫酸鉛量(PbSO4の質量%)を測定・算出した。すなわち、後述するような電槽化成をした後のクラッド式鉛蓄電池を解体し、クラッド式正極板を取り出して水洗・乾燥をする。そして、クラッドチューブ1と芯金6との隙間部分に充填されている正極活物質を掻き落して取り出し、乳鉢で粉砕して粉末とする。この粉末は、二酸化鉛(PbO2)と硫酸鉛(PbSO4)の混合物である。
【0019】
この粉末1gに、硝酸水溶液と過酸化水素水の混合溶液30mlを加えて、約120分間放置し、二酸化鉛(PbO2)の部分を溶解させると、硫酸鉛(PbSO4)のみが沈殿して存在する。この沈殿物を、ろ紙でろ過し、さらに水を加えて洗浄し、乾燥させると、ろ紙の表面に硫酸鉛(PbSO4)のみが付着した状態で存在する。
【0020】
表面に硫酸鉛(PbSO4)が付着したろ紙を、るつぼに入れ、約550℃の電気炉で60分間加熱して紙の部分を灰化し、残留した硫酸鉛(PbSO4)の質量を測定する。このようにして、電槽化成をした後の正極活物質の粉末1gに対する硫酸鉛量(PbSO4の質量%)を測定することができる。
【0021】
3.クラッド式鉛蓄電池の初期の放電試験
後述するように3種類の仕様のクラッド式正極板と、従来から仕様されているペースト式負極板とを組み合わせて鉛蓄電池を組み立て、後述する電槽化成をして、2V−57Ah(ただし、30℃、0.2CA放電容量)のクラッド式鉛蓄電池が完成する。その後、0.2CA(30℃)の電流値で放電して使用初期の放電時間(h)を測定した。
【0022】
4.実施例
(1)実施例
本発明では、あらかじめクラッド式正極板を水に浸した状態で超音波振動を与えてから、クラッド式鉛蓄電池を組み立てることを特徴としている(図1)。すなわち、鉛粉7を充填したクラッド式正極板を、水を張った超音波発生器(UT−604型、シャープ社製)の中に浸す。この状態で、10分間の超音波振動を与えて水の浸漬処理をした後に乾燥させる。
【0023】
乾燥させたクラッド式正極板と、従来から使用されているペースト式負極板を組み合わせて鉛蓄電池を組み立て、電槽化成をして2V−57Ah(ただし、30℃、0.2CA放電容量)のクラッド式鉛蓄電池が完成する。
【0024】
ここで、電槽化成時の充電初期には、比重が1.10(20℃)の低比重の希硫酸電解液を用いて充電を開始する(図1において低比重化成と記載した。)。そして、ある程度の充電が進んだ後に、比重が1.28(20℃)の高比重の希硫酸電解液に入れ替えて充電を続ける(図1において高比重化成と記載した。)。このようにして、最初に低比重化成をし、その後に高比重化成をすると電槽化成時の課電量を低減することができる。
【0025】
本実施例では、低比重化成時の課電量として210%、高比重化成時の課電量として、40%又は60%とし、それぞれの合計が250%又は270%の課電量とした。
(2)比較例1
比較例1では、作製したクラッド式正極板を、そのまま用いてクラッド式鉛蓄電池を組み立てる従来からの一般的な製造方法である(図2)。すなわち、鉛粉7を充填したクラッド式正極板をそのまま用い、従来から使用されているペースト式負極板を組み合わせて鉛蓄電池を組み立て、電槽化成をして2V−57Ah(ただし、30℃、0.2CA放電容量)のクラッド式鉛蓄電池が完成する。
【0026】
ここで、電槽化成時の充電初期には、比重が1.10(20℃)の低比重の希硫酸電解液を用いて充電を開始する(図2において低比重化成と記載した。)。そして、ある程度の充電が進んだ後に、比重が1.28(20℃)の高比重の希硫酸電解液に入れ替えて充電を続ける(図2において高比重化成と記載した。)。
【0027】
比較例1では、上述した本実施例と同様に、低比重化成時の課電量として210%、高比重化成時の課電量として、40%又は60%とし、それぞれの合計が250%又は270%の課電量とした。
(3)比較例2
比較例2では、上述した特許文献2と同様に、あらかじめクラッド式正極板を希硫酸電解液に浸した状態で超音波振動を与えてから、クラッド式鉛蓄電池を組み立てることを特徴としている(図3)。すなわち、鉛粉7を充填したクラッド式正極板を、比重が1.30(20℃)の希硫酸電解液を張った超音波発生器(UT−604型、シャープ社製)の中に浸す。この状態で、10分間の超音波振動を与えて希硫酸電解液の浸漬処理をし、乾燥させた。
【0028】
乾燥させたクラッド式正極板と、従来から仕様されているペースト式負極板を組み合わせて鉛蓄電池を組み立て、電槽化成をして2V−57Ah(ただし、30℃、0.2CA放電容量)のクラッド式鉛蓄電池が完成する。
【0029】
ここで、電槽化成時の充電初期には、比重が1.10(20℃)の低比重の希硫酸電解液を用いて充電を開始する(図3において低比重化成と記載した。)。そして、ある程度の充電が進んだ後に、比重が1.28(20℃)の高比重の希硫酸電解液に入れ替えて充電を続ける(図3において高比重化成と記載した。)。
【0030】
比較例2では、上述した本実施例と同様に、低比重化成時の課電量として210%、高比重化成時の課電量として、40%又は60%とし、それぞれの合計が250%又は270%の課電量とした。
【0031】
上述した手法で、それぞれ測定された硫酸鉛量(PbSO4の質量%)及び初期の放電時間(h)を表1に示す。本発明に係わる製造方法を用いると、電槽化成後の硫酸鉛量(PbSO4の質量%)が少なく、初期の放電時間(h)の長い、優れたクラッド式鉛蓄電池を製造することができることがわかる。例えば、課電量が250%の実施例は、課電量が270%の比較例1及び比較例2よりも、電槽化成後の硫酸鉛量(PbSO4の質量%)が少なく、初期の放電時間(h)を長いことがわかる。
【0032】
また、電槽化成後の硫酸鉛量(PbSO4の質量%)が少ないために、電池の使用中において希硫酸電解液の比重増加を抑制することができ、その結果、電解液の比重管理を容易にすることができる。
【0033】
加えて、本発明に係わる実施例では、クラッド式正極板を水に浸漬した状態で超音波振動を与えているために、希硫酸電解液が飛散して製造設備が腐食をしたり、床面を汚したりするという問題点もない。
【0034】
これらの理由は定かではないが、クラッド式正極板を水に浸した状態で超音波振動を与えることにより、鉛粉相互間に適当な空間が形成されて、電槽化成時において正極活物質への硫酸イオンの拡散性が向上し、その結果、充電反応が促進されているためと考えられる。
【0035】
なお、上述したように電槽化成に代えて、クラッド式正極板とペースト式負極板とを、それぞれタンク化成をした後に、それぞれを組み合わせてクラッド式鉛蓄電池を製造する場合にも同様の良好な効果が認められた。
【0036】
表1

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、フォークリフトなどの電動車などに使用されているクラッド式鉛蓄電池の製造方法に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係わるクラッド式鉛蓄電池の製造工程の概略図である。
【図2】比較例1に係わるクラッド式鉛蓄電池の製造工程の概略図である。
【図3】比較例2に係わるクラッド式鉛蓄電池の製造工程の概略図である。
【図4】クラッド式正極板の組み立て工程の概略図である。
【符号の説明】
【0039】
1:クラッドチューブ、2:パレット、3:溝部、4:上部連座、5:下部連座、
6:芯金、7:鉛粉、15:クラッド式正極板、19:穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッド式正極板とペースト式負極板とを組み合わせて製造するクラッド式鉛蓄電池の製造方法において、
前記クラッド式正極板は、水に浸した状態で超音波振動を与えて浸漬処理をした後に乾燥させたものであることを特徴とするクラッド式鉛蓄電池の製造方法。
【請求項2】
クラッド式正極板とペースト式負極板とを組み合わせ、電槽化成をして製造するクラッド式鉛蓄電池の製造方法において、
前記クラッド式正極板は、水に浸した状態で超音波振動を与えて浸漬処理をした後に乾燥させたものであり、
前記電槽化成は、低比重化成をした後に、高比重化成をすることを特徴とするクラッド式鉛蓄電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−123407(P2009−123407A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−293864(P2007−293864)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】