説明

クリーニング部材の切断方法

【課題】人手に頼ることなく連続でクリーニング部材の切断を行え、粘着剤の付着のない軟質部品の回収が行える製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】搬送シートとクリーニング部材との間に、接着層を設けることなく、エアー抜きを行い真空状態とする方法、又は、搬送シートとクリーニング部材との間に静電気力を働かせる方法により、搬送シートとクリーニング部材を密着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やプリンター等に用いられるクリーニング部材の切断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クリーニング部材の成形品としては、例えば、インクジェットプリンターにおいてインクを吐出して記録などを行うインクジェットヘッドの吐出口面に付着した付着物を除去するクリーニングブレードがある。このようなクリーニング部材は、ゴム弾性体からなるシートを大まかに裁断したあと、裁断されたシートを所望の形状のパンチとダイを備えた金型を用いて打抜き加工または、切断刃を備えた金型を用いてビク抜き加工により製造されている。
【0003】
このような抜き加工において、連続で高精度のプレスが行えるプレス機を用いて行う例が紹介されている。(特許文献1)
しかし、従来の打抜き金型を用いた打抜き加工にあっては、それぞれ次のような課題がある。打抜き加工においては、加工を行う事で軟質部品または、スクラップ材を抜き落とさなければならず、加工後に人手による該軟質部品の回収を必要とする。またビク抜き加工にあっては、下敷きを必要とする加工であり、一度加工を行った下敷き部分を用いて繰り返し加工を行うと刃物の耐久性が著しく低下するため、下敷きを加工毎に移動させる必要がある。
【0004】
また、軟質体を連続で打抜き加工する際には、搬送時の軟質体と搬送シートのズレを防止すると共に、打抜き加工後に得られた軟質体が搬送シートから脱落するのを防止する為、軟質体を搬送シートに仮接着させた積層シートを製作し、これを加工用のシートとしていた。そのため、搬送シートと軟質体の間には2つのシートを固定させるための接着層を必要とし、得られる製品には粘着剤(接着層)が付着していた。このように粘着剤が製品に付着していると、加工後に製品に付着した粘着剤を除去する工程を設けなければならない等の問題点があった。
【特許文献1】特開2001−1297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、接着層を設けることなく容易に搬送シートと軟質体を密着させ、人手に頼ることなく打抜き加工を行うことができ、粘着剤の付着のない軟質部品の回収が行える製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、以下の構成を有することにより達成することができる。すなわち、本発明は搬送シート上に1層以上からなるクリーニング部材を密着させてなる帯状シートの、所定方向への搬送と停止を交互に行い、該帯状シートの停止時に、切断刃を該クリーニング部材の厚み方向に貫通するまで挿入することで切断を行うクリーニング部材の切断方法において、
前記搬送シートとクリーニング部材との間に、接着層を設けることなく、エアー抜きを行い真空状態とすることにより、該搬送シートとクリーニング部材を密着させることを特徴とするクリーニング部材の切断方法に関する。
【0007】
また、本発明は搬送シート上に1層以上からなるクリーニング部材を密着させてなる帯状シートの、所定方向への搬送と停止を交互に行い、該帯状シートの停止時に、切断刃を該クリーニング部材の厚み方向に貫通するまで挿入することで切断を行うクリーニング部材の切断方法において、
前記搬送シートとクリーニング部材との間に、接着層を設けることなく、静電気力を働かせることにより、該搬送シートとクリーニング部材を密着させることを特徴とするクリーニング部材の切断方法に関する。
【0008】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
【発明の効果】
【0009】
人手に頼ることなく連続でクリーニング部材の切断を行え、粘着剤の付着のない軟質部品の回収が行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、接着層を設けることなく軟質体(クリーニング部材)を搬送シートに密着させた少なくとも2層以上で構成されるクリーニング部材の切断方法である。本発明の切断方法では所定の硬度、大きさ、形状を有するクリーニング部材を精度良く高い処理量で切断することができる。クリーニング部材は別の工程で所定の幅、長さ、厚みを有する成形体として成形されたものであり、例えば、電子写真装置内で使用するため成形体を所望の大きさに切断する必要がある場合などに本発明の切断方法を用いることができる。次に、好ましい実施の形態の一例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
【0011】
本発明のクリーニング部材の切断装置は、図1に示すような上型1と下型2を有する。上型1には、切断刃3を備えており、使用する切断刃3には彫刻刃を用いる。なお切断刃3は、所望の形状に合わせた刃物であり、刃先角度は一般的に15〜55度を使用する。なお、刃先角度は加工する材料、材質により変わるものであり、刃先角度が小さいほど、切断に適しているが、刃先の寿命が短くなる。
【0012】
上記切断刃3に使用する刃物には、彫刻刃に限らずトムソン刃、剃刀刃、カッター刃を用いることができる。
【0013】
上記切断刃3は、上型1の基板6の下面に形成し、切断刃3を囲むように弾性部材4、5を配置固定する。なお、該弾性部材4、5は切断刃形状に合わせた形状をなし、ゴム製スポンジ等の弾性部材から形成される。弾性部材としては、天然ゴム、合成ゴム、ウレタンゴム、シリコンゴム等を用いることができる。また、弾性部材の硬度は25〜70°であることが好ましく、30〜45°であることがより好ましい。弾性部材の硬度がこれらの範囲内にあることによって、クリーニング部材の切断時に弾性部材の押圧力により帯状シートを所定位置に固定でき、切断刃による高精度なクリーニング部材の切断を行うことができる。
【0014】
切断刃3の長さは、帯状シート材の軟質体(クリーニング部材)12の厚みよりも長い長さを有しており、弾性部材4、5の厚みは切断刃3の長さよりも厚くなっている。弾性部材は、切断刃よりも0.5〜5mm以上厚いことが好ましく、1〜2mm以上厚いことがより好ましい。
【0015】
次に、本発明のクリーニング部材の製造を実施するための帯状シートの一例について説明する。本発明に用いる帯状シートは、図2に示すような帯状シートを用い、搬送シート11である硬質樹脂(PET、PE、PP、PA等)及び軟質体12の2層以上で構成され、搬送シート11に軟質体12を重ね、2層間のエアーを抜いた状態になるよう重ね合わせる。クリーニング部材としてはウレタンを用いることが好ましい。また、クリーニング部材の厚さは0.5〜1.5mmであることが好ましく、0.5〜0.7mmであることがより好ましい。硬度は65〜85°であることが好ましく、70〜80°であることがより好ましい。クリーニング部材の材質、厚さ、硬度がこれらの範囲内にあることによって、安定的に高精度な切断を行うことができる。
【0016】
エアー抜きの方法としては様々な方法を用いることができるが、例えば、図4に示すように帯状シート上にローラー14を回転させ、上から力を加えることにより2層間のエアー抜きを行い、搬送シートと軟質体を密着させることができる。なお、2層間のエアー抜きに用いるローラーにはテフロン等の非帯電性ローラーを用いる事が好ましく、ローラーの上からかける荷重は、0.2〜2.5kgfであることが好ましく、1.0〜1.5kgfであることがより好ましい。また、2層間のエアー抜きには、ローラー14に限らず図5に示すようにブレード15を用いて上から力を加えることによりなどを用いる事も出来る。2層間を密着させた状態で次のような剥離評価を行った。
【0017】
ここで、「密着」とは、本発明の切断方法を実施している(搬送・停止及び停止時の切断を行う工程等)際に、搬送シート上の軟質体がずれない程度に搬送シートと軟質体とがくっついていることを表す。なお、搬送シートと軟質体とは、切断後の軟質体に物理的な力を加えることによって搬送シートから容易に引き離すことができる程度に密着している。このようにして密着させた搬送シートと軟質体とが密着しているかどうかを調べるため、搬送シート11を固定し、軟質体12を水平方向に指で押し、軟質体が搬送シートから搬送しないか評価を行ったところ、表−1に示すように用いた搬送シート11はいずれも完全に付着(密着)させることができた。なお、搬送シート11には硬質樹脂に限らず、不職布、紙等を用いることが出来る。
【0018】
【表1】

【0019】
評価方法:貼り合せた2層のシートの一方を固定し、もう一方を水平方向に指で押しても移動しないかどうかで評価する。移動しない場合を「○」、移動する場合を「×」とする。
【0020】
また、搬送シート11と軟質体12の密着させる他の方法として、図6に示すように搬送シート11をブラシ16で擦り静電気を発生させ、その上に軟質体12を重ね合わせ付着させる。静電気を発生させるブラシとしては、合成ゴムやウレタンゴムからなるローラー、ナイロン製のブラシ等を用いる事ができる。なお静電気は、最低でもいずれか片方のシートを帯電させなければならない。このようにして密着させた搬送シートと軟質体とが密着しているかどうかを調べるため、静電気により付着させた帯状シートの剥離評価を行ったところ、表−2に示すように搬送シート11と軟質体12の両方または何れか片方に静電気を帯びさせる事で、搬送シート11と軟質体12を付着させる事ができた。なお、静電気を発生させるものとしてブラシ16に限らず図7に示すようにブレード15で擦り静電気を発生させる方法等を用いることが出来る。具体的にはウレタンからなるブレード、合成ゴムからなる発泡体などが用いられる。
【0021】
【表2】

【0022】
評価方法:搬送シートを下にし、その上に軟質材を載置する。なお、搬送シートと軟質材の設置面に静電気を帯びさせ、2層のシートの一方を固定し、もう一方を水平方向に指で押しても剥離しないかどうかで評価する。また、剥離しない場合を「○」、剥離する場合を「×」とする。
【0023】
クリーニング部材を切断するために、上型をクリーニング部材の厚み方向に移動可能とするプレス機を使用することができる。本発明には、連続で高精度制御の加工が可能なプレス機21を用いて行う。
【0024】
次に、クリーニング部材の切断方法について説明する(図8参照)。上型(例えば、図1の上型1)をプレス機21にセットする。また、抜き型の下型2の上面に、帯状シートを供給する。なお、図示していないがクリーニング部材切断前の搬送シート11上には搬送方向に対して連続して軟質体12が配置されている。送り装置22は帯状シートを所定距離だけ搬送した後、一旦停止し、軟質体の切断後に再び、所定距離だけ搬送するといったように、帯状シートの搬送と停止を交互に行うようになっている。典型的には、停止を行う間隔は5〜25mmであり、搬送速度は2.5〜25mm/sである。プレス機の作動により上型の基板6に備えられた切断刃3を、クリーニング部材を貫通するまで軟質体12の上面より押込む(挿入する)。なお、図8には明確に図示していないが、この装置では搬送シート11上に軟質体12が密着している。このため、切断刃3は軟質体12側から挿入されることとなる。
【0025】
このとき、上型基板6に配置固定された弾性部材4、5は、切断刃3よりもその厚み方向の厚さが厚いため、切断刃がクリーニング部材に挿入された際には圧縮され所定の押圧力で帯状シートを所定位置に固定する。プレス機の作動により切断刃3は軟質体12の上面より押し込まれ、クリーニング部材を貫通し搬送シート11の一部にまで挿入される。このときの切断刃のクリーニング部材への挿入速度は50〜500mm/sであることが好ましく、150〜300mm/sであることがより好ましい。このとき搬送シート11への切断刃の押し込み量(搬送シート中に挿入された切断刃の搬送シート厚み方向の長さ)は搬送シート11厚みの10〜90%の範囲であれば軟質体12の切断が可能である。
【0026】
切断後、上型1と下型2をプレス機により離反させると、軟質体12は圧縮されていた弾性部材4、5の元の形への復帰力によって切断刃3の刃先から離脱され、搬送シート11上に定位置性を保った状態で載置される。
【0027】
加工された軟質体12は送り装置22と巻取り装置23によって搬送シート11と共に順送りされ、加工後の後処理を必要とせず、連続で所望形状の軟質部品を形成できる。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
以下実施例に基づき本発明の実施形態を説明する。
【0029】
例えば、インクジェットプリンターにおいてインクを吐出して記録などを行うインクジェットヘッドの吐出口面に付着した付着物を除去するクリーニングブレードの製造方法について、図3の上型を用いて切断を行った結果を以下に説明する。
【0030】
自動でロール状に巻き取ったPETフィルム11を上部からウレタンシートで擦らせながら引出すことで静電気を帯電させたPETフィルム面上に、厚さ0.5mmのウレタン(ウレタンゴム(製品名):キヤノン化成株式会社製)12を載置させ、PETフィルムにウレタンを密着させた帯状シートを配置した。次に、打抜き工具(打抜きパンチと打抜きダイのクリアランスは3μm)により基準となる穴を2箇所あけ、その後、刃先角30°になるように製作した彫刻刃3を180mm/sの速度でクリーニング部材に挿入し、クリーニング部材の切断を行う。なお、打抜き型と切断型を同型にまとめる事により精度の良い順送り加工が行えるため、図9に示す個所の寸法が表−3に示すように規格寸法を満たす精度で加工出来る。
【0031】
(比較例)
本発明の比較例として、搬送シート11とポリウレタン12とを密着させることなく重ね合せた(搬送シート11上に何の処理も施さずにポリウレタン12を重ね合わせた)帯状シートに、刃先角30°となるように製作した彫刻刃3でクリーニング部材の切断を行った結果、加工中に軟質体が搬送シートから脱落し、規格内の寸法で加工する事が困難であった。結果を表−3に示す。
【0032】
なお、表−3の加工精度の評価方法として、連続で加工を行い得られる製品が以下の寸法公差内に加工できるかどうかで評価した。公差内に加工を行えたものに対しては「○」、公差内の加工が行えなかったものに対しては「×」で評価した。
【0033】
すなわち、図9の各寸法A〜Eに対して、A:11mm±0.15mm、B:15mm±0.15mm、C:3mm±0.15mm、D:6mm±0.1mm、E:2mm±0.2mmの寸法公差内にあるかどうかで判断した。
【0034】
【表3】

【0035】
表−4に示すように本発明のクリーニングブレードの切断方法(実施例1)では、従来の加工方法(比較例)の1/5以下の加工時間でクリーニング部材の切断を行う事ができ、搬送シートと軟質体との密着のために接着剤を用いていないため、切断後の軟質部品は、粘着剤の付着等が無く、帯状シートから剥落することなく定位置性を保ったまま回収することが出来る。また、実施例1では比較例と異なり、表−3の各寸法A〜Eに寸法精度(加工精度)が優れており、軟質部材の剥落も認められなかった。
【0036】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】上型の概略図である。
【図2】帯状シートの構成図である。
【図3】クリーニング部材の切断時の断面図である。
【図4】ローラーを用いた密着方法の概略図である。
【図5】ブレードを用いた密着方法の概略図である。
【図6】ブラシを用いて静電気を帯電させた密着方法の概略図である。
【図7】ローラーを用いて静電気を帯電させた密着方法の概略図である。
【図8】本発明の切断したクリーニング部材の回収方法の概略図である。
【図9】成形品の寸法測定個所である。
【符号の説明】
【0038】
1 上型
2 下型
3 切断刃
4,5 弾性部材
6 上型基板
11 搬送シート
12 軟質体
13 作業台
14 ローラー
15 ブレード
16 ブラシ
21 プレス機
22 送り装置
23 巻取り装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送シート上に1層以上からなるクリーニング部材を密着させてなる帯状シートの、所定方向への搬送と停止を交互に行い、該帯状シートの停止時に、切断刃を該クリーニング部材の厚み方向に貫通するまで挿入することで切断を行うクリーニング部材の切断方法において、
前記搬送シートとクリーニング部材との間に、接着層を設けることなく、エアー抜きを行い真空状態とすることにより、該搬送シートとクリーニング部材を密着させることを特徴とするクリーニング部材の切断方法。
【請求項2】
搬送シート上に1層以上からなるクリーニング部材を密着させてなる帯状シートの、所定方向への搬送と停止を交互に行い、該帯状シートの停止時に、切断刃を該クリーニング部材の厚み方向に貫通するまで挿入することで切断を行うクリーニング部材の切断方法において、
前記搬送シートとクリーニング部材との間に、接着層を設けることなく、静電気力を働かせることにより、該搬送シートとクリーニング部材を密着させることを特徴とするクリーニング部材の切断方法。
【請求項3】
前記切断刃のクリーニング部材への挿入時に、
該切断刃を囲むように設けられ、該切断刃の挿入方向において切断刃よりも下方に突出した弾性部材により、あらかじめ前記帯状シートを押圧して所定位置に固定することを特徴とする請求項1又は2に記載のクリーニング部材の切断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−55970(P2006−55970A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−242679(P2004−242679)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】