説明

クリーム組成物

【課題】優れたハンドリング性を有するクリーム組成物を提供する。
【解決手段】クリーム組成物は、乳脂肪、糖類、及び水を含有している。乳脂肪の含有量は、5質量%を超えるとともに30質量%以下である。糖類の含有量は40〜65質量%以下である。クリーム組成物のメジアン径は0.2〜4.0μmであり、クリーム組成物の20℃における粘度は100〜2500mPa・sである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばコーヒー飲料に添加して飲用されたり、菓子に添加して食されたりするクリーム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クリーム組成物は、コーヒー等の飲食品にコーヒーホワイトナーとして添加されたりして広く摂取されている。例えば、特許文献1には、加糖練乳と、ショ糖脂肪酸エステルと、増粘多糖類とを含有する練乳希釈食品が開示されている。特許文献2には、グリセリン脂肪酸エステルと、カゼインナトリウムと、ココナッツミルクとを含有する飲食品が開示されている。特許文献3には、乳タンパク成分および乳脂肪分の含有量が所定の範囲に設定されている飲料添加用濃縮乳が開示されている。
【特許文献1】特開2005−278447号公報
【特許文献2】特開2003−325147号公報
【特許文献3】特開2003−259803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、クリーム組成物に要求される性能としては、乳脂肪が長期間安定であり、取扱いが容易であること、即ち優れたハンドリング性(取扱い性)を有することが挙げられる。具体的には、クリーム組成物は通常、冷凍された状態で流通される。そのため、例えば飲食品の製造時にクリーム組成物が使用される場合には、冷凍された状態のクリーム組成物の解凍に時間を要したり、解凍時に水の分離が生じてクリーム組成物の安定性が低下したりする。更に、クリーム組成物が冷凍保管される際に、温度管理に細心の注意が必要である。
【0004】
本発明は、本研究者らによる鋭意研究の結果、特定の成分および物性を有するクリーム組成物の取扱いが容易であることを見出したことによりなされたものである。その目的とするところは、優れたハンドリング性を有するクリーム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、乳脂肪、糖類、及び水を含有し、乳脂肪の含有量が5質量%を超えるとともに30質量%以下であり、糖類の含有量が40〜65質量%であり、メジアン径が0.2〜4.0μmであるとともに20℃における粘度が100〜2500mPa・sであるクリーム組成物を提供する。
【0006】
請求項2に記載の発明は、前記乳脂肪としてクリーム類を含有する請求項1に記載のクリーム組成物を提供する。
請求項3に記載の発明は、前記糖類がショ糖である請求項1又は請求項2に記載のクリーム組成物を提供する。
【0007】
請求項4に記載の発明は、乳化剤、重曹、牛乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、ホエイ、練乳類、乳糖、植物性油脂、デキストリン、増粘多糖類、澱粉、カラメル、グルタミン酸ナトリウム、乳タンパク質、香料、香辛料、ハーブ、インスタントコーヒー、紅茶、ココアパウダー、ココアバター、カカオマス、野菜汁、野菜ペースト、及び酸化防止剤から選ばれる少なくとも一種を更に含有する請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のクリーム組成物を提供する。
【0008】
請求項5に記載の発明は、前記粘度が200〜1000mPa・sである請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のクリーム組成物を提供する。
請求項6に記載の発明は、前記メジアン径が0.5〜3.0μmである請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のクリーム組成物を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れたハンドリング性を有するクリーム組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明をクリーム組成物に具体化した実施形態を詳細に説明する。
本実施形態のクリーム組成物は、乳脂肪、糖類、及び水を含有している。このクリーム組成物は少なくとも常温で液状をなし、例えばコーヒー飲料、ココア飲料、又は紅茶飲料に添加されたり、プリン、チョコレート、又はアイスクリームに添加されたりして摂取される。また、このクリーム組成物は、生クリーム又は植物性ホイップが添加されることによって、ホイップクリームを形成することができる。ここで、常温とは、クリーム組成物が通常使用されるときの温度のことであり、例えば10〜40℃である。クリーム組成物は通常、その品質を長期間にわたって保持するために、冷蔵(0〜10℃)雰囲気下、冷凍(0℃以下、一般的には−18℃以下)雰囲気下等の低温雰囲気下で保存される。クリーム組成物は、前記低温雰囲気下で保存された状態から解凍処理を施されることなく直ぐに使用され得ることから、低温雰囲気下でも液状をなすことが好ましい。
【0011】
クリーム組成物にはハンドリング性が具備されている。液状をなすクリーム組成物のハンドリング性は、クリーム組成物の流動性と、該クリーム組成物中に分散している成分の分散安定性とに起因している。クリーム組成物の流動性が過剰に高い場合、クリーム組成物の計量時及び使用時に液だれが起こりやすい。更に、クリーム組成物の冷凍の際に該クリーム組成物が凍結し、凍結したクリーム組成物の解凍に時間を要する。そのため、クリーム組成物の取扱いが困難になって該クリーム組成物のハンドリング性が低下する。クリーム組成物中に分散している成分の分散安定性が低い場合、該成分が浮上したり沈殿したりしてクリーム組成物における成分の均一性が低下する。そのため、クリーム組成物の保存時または使用時に該クリーム組成物を例えば撹拌する必要があり、クリーム組成物のハンドリング性が低下する。
【0012】
乳脂肪は、乳(例えば、生乳、牛乳、及び特別牛乳)から乳脂肪以外の成分が除去されることにより得られる。この乳脂肪は、複数の粒子を形成することによりクリーム組成物中で分散している。クリーム組成物の製造時には、上述の方法によって得られた乳脂肪が用いられてもよいが、乳脂肪を含む原料が用いられてもよい。乳脂肪を含む原料としては、乳脂肪を多く含有しているものが好ましく、例えば「五訂日本食品標準成分表」におけるクリーム類(高脂肪のもの、及び普通脂肪のものを含む)、及び乳原料が挙げられる。乳原料としては、バター、全脂粉乳、及び調製粉乳が挙げられる。クリーム類または乳原料が用いられる場合、クリーム組成物は、乳脂肪以外にもクリーム類または乳原料由来の成分、即ち糖質、タンパク質、灰分、及び無機類を含有している。これらの中でもクリーム類が好ましい。クリーム類に含有される乳脂肪の粒子は、例えばバターに含有される乳脂肪の粒子に比べて小さい。そのため、クリーム組成物の製造時における乳脂肪の粒子の細分化が容易であり、クリーム組成物の製造が容易である。
【0013】
クリーム組成物中の乳脂肪の含有量は5質量%を超えるとともに30質量%以下であり、好ましくは10〜25質量%である。乳脂肪の含有量が5質量%以下では、乳脂肪の含有量の低下に伴って、クリーム組成物の流動性が低下する。乳脂肪の含有量が30質量%を超えると、クリーム組成物中に存在する乳脂肪の粒子の数が過剰に増加することから、各粒子同士が結合して乳脂肪の分散安定性が低下し、乳脂肪が浮上する。
【0014】
糖類は、クリーム組成物の固形量(総固形量)を調整することにより該クリーム組成物の粘度を調整する。糖類は、食品用として通常用いられるものであれば特に限定されず、具体例として、例えばショ糖、異性化糖、果糖ブドウ糖液糖、マルトース、フルクトース、ラクトース(乳原料として扱われる乳糖も含む)、グルコース、トレハロース、還元糖、糖アルコール(ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、キシリトール等)、蜂蜜、及びステビアが挙げられる。これらは、単独で含有されてもよいし、2種以上が組み合わされて含有されてもよい。これらの中でも、安価であるとともに入手が容易であることから、ショ糖が好ましい。
【0015】
クリーム組成物中の糖類の含有量は40〜65質量%以下であり、好ましくは45〜55質量%である。糖類の含有量はクリーム組成物の固形量に影響し、クリーム組成物の固形量は該クリーム組成物の粘度に影響する。即ち、糖類の含有量が40質量%未満では、クリーム組成物の固形量が少なく、該クリーム組成物の粘度が過剰に低くなる。そのため、乳脂肪の分散安定性が低下して該乳脂肪が浮上し、クリーム組成物の流動性が低下してハンドリング性が低下する。糖類の含有量が65質量%を超えると、クリーム組成物の固形量が多く、該クリーム組成物の粘度が過剰に高くなる。そのため、クリーム組成物の流動性が低下してハンドリング性が低下する。更に、クリーム組成物の製造時に各成分が均一に混合されず、クリーム組成物における成分の均一性が低下する。
【0016】
水は、他の成分の溶媒または分散媒として作用する。
クリーム組成物は、その他の成分として、水以外の溶媒または分散媒を含有してもよい。更に、クリーム組成物は、乳化剤、重曹、牛乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、ホエイ、練乳類、乳糖、植物性油脂、デキストリン、増粘多糖類(カラギーナン等)、澱粉、カラメル(パウダー又はエキスの形態)、グルタミン酸ナトリウム、乳タンパク質(カゼイン、カゼインナトリウム等)、香料、香辛料、ハーブ、インスタントコーヒー、紅茶、ココアパウダー、ココアバター、カカオマス、野菜汁、野菜ペースト、及び酸化防止剤(ビタミンC、ビタミンE等)から選ばれる少なくとも一種を含有してもよい。これらがクリーム組成物に含有されることにより、クリーム組成物の粘性が適切に調整され得る。具体的には、クリーム組成物がコーヒー飲料又は紅茶飲料に用いられる場合には、クリーム組成物は、例えばインスタントコーヒー、インスタント紅茶などのフレーバーを含有してもよい。また、クリーム組成物がココア飲料、チョコレート、又はプリンに用いられる場合には、クリーム組成物は、例えばココアパウダー、ココアバター、カラメルパウダーなどを含有してもよい。また、クリーム組成物は、該クリーム組成物の流動性の低下を抑制するために、例えば植物性油脂、バター、脱脂粉乳、全粉乳等を含有してもよい。
【0017】
乳化剤は、乳脂肪の粒子を被覆することにより、乳脂肪の各粒子が互いに結合することを抑制して乳脂肪の分散安定性を高める。乳化剤は、食品用として通常用いられるものであれば特に限定されず、具体例として、例えばグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリソルベート及びレシチンが挙げられる。グリセリン脂肪酸エステルの具体例としては、ポリグリセリンエステル、モノグリセライド、有機酸モノグリセライド及びジグリセリンモノ脂肪酸エステルが挙げられる。これらは、単独で含有されてもよいし、2種以上が組み合わされて含有されてもよい。こうした乳化剤を適宜選択して含有させることにより、クリーム組成物の粘性を低下させることも可能である。
【0018】
クリーム組成物中の乳化剤の含有量は乳脂肪の含有量に依存するが、好ましくは0.5〜1.0質量%である。乳化剤の含有量が0.5質量%未満では、乳脂肪の粒子を十分に被覆することができないことから、乳脂肪の分散安定性が低下してクリーム組成物のハンドリング性が低下するおそれがある。乳化剤の含有量が1.0質量%を超えても、乳脂肪の分散安定性をそれ以上高めることができない。
【0019】
植物性油脂の具体例としては、パーム油、パーム核油、ヤシ油、ナタネ油、大豆油、コーン油、ごま油、米油、オリーブ油、綿実油、アマニ油、桐油、及び椿油が挙げられる。また、植物性油脂としては、水素添加、分別、エステル交換等の加工が施された加工油脂であってもよい。これらの植物性油脂は、単独で含有されてもよいし、2種以上が組み合わされて含有されてもよい。植物性油脂の含有量は、好ましくは1〜15質量%である。植物性油脂の含有量が15質量%を超えると、クリーム組成物の粘性が過剰に高まって、ハンドリング性が低下するおそれがある。こうした植物性油脂を含有させる場合には、クリーム組成物の粘性を調整して、ハンドリング性を更に向上させるという観点から、前記乳化剤を含有させることが好ましい。また、植物性油脂を含有させる際には、予め乳化剤で乳化させた乳化油脂として含有させてもよい。
【0020】
クリーム組成物のメジアン径は0.2〜4.0μmであり、好ましくは0.5〜3.0μmであり、より好ましくは1.0〜2.0μmである。クリーム組成物のメジアン径は、乳脂肪などのクリーム組成物中で分散している成分の分散安定性に影響し、主に乳脂肪の粒子の粒径に起因する。そのため、メジアン径が0.2μm未満では、乳脂肪の粒子の粒径が過剰に小さく、そのような小さな粒径を長期間にわたって維持することができない。メジアン径が4.0μmを超えると、乳脂肪の粒子の粒径が過剰に大きいことから、乳脂肪の分散安定性が低下して乳脂肪が浮上する。そのため、クリーム組成物のハンドリング性が低下する。メジアン径は、レーザー回折散乱法によるクリーム組成物の粒度分布を測定することにより得られる。メジアン径が0.5〜3.0μmであることにより、前記常温雰囲気下および低温雰囲気下などのクリーム組成物が通常曝される温度雰囲気下において、乳脂肪の分散安定性を高めてクリーム組成物のハンドリング性を高めることができる。メジアン径が0.5〜3.0μmである場合、常温雰囲気下および低温雰囲気下において、製造直後のクリーム組成物のメジアン径と、製造後4週間保存されたクリーム組成物のメジアン径とがほとんど変わらず、製造直後のメジアン径が保持されている。そのため、メジアン径が0.5〜3.0μmであるクリーム組成物の安定性は高い。
【0021】
クリーム組成物の20℃における粘度は100〜2500mPa・sであり、好ましくは200〜1000mPa・sである。粘度が100mPa・s未満では、乳脂肪の分散安定性が低下して乳脂肪が浮上したり沈殿したりすることにより、クリーム組成物のハンドリング性が低下する。更に、浮上した乳脂肪が空気に接触して酸化されることにより、クリーム組成物の品質が低下する。粘度が2500mPa・sを超えると、クリーム組成物が過剰に大きい粘性を有することから、該クリーム組成物の流動性が低下してハンドリング性が低下する。粘度が200〜1000mPa・sであることにより、前記常温雰囲気下および低温雰囲気下において、乳脂肪の浮上または沈殿を抑制して乳脂肪の分散安定性を高めることにより、クリーム組成物のハンドリング性を高めることができる。
【0022】
クリーム組成物における固形成分の総量、即ち総固形量は、好ましくは55〜80質量%であり、より好ましくは60〜78質量%、さらに好ましくは65〜75質量%である。クリーム組成物の粘性は、該クリーム組成物の総固形量の減少に伴って小さくなり、該総固形量の増加に伴って大きくなる。そのため、総固形量が55質量%未満では、クリーム組成物が過剰に小さい粘性を有することから、乳脂肪の分散安定性が低下してクリーム組成物のハンドリング性が低下するおそれがある。総固形量が80質量%を超えると、クリーム組成物が過剰に大きい粘性を有することから、該クリーム組成物の流動性が低下してハンドリング性が低下する。
【0023】
クリーム組成物は、調製工程と、均質化工程と、殺菌工程とを経て製造される。調製工程は、前記各成分を配合するとともに撹拌してクリーム組成物を調製する工程である。この工程では、各成分の配合順序は特に限定されない。更に、この工程では、撹拌によって乳脂肪の粒子が細分化され、クリーム組成物中における乳脂肪の分散の程度が高くなる。各成分の撹拌は、例えば作業者の手動によって行われたり、撹拌機を用いて前記手動の場合よりも高速で行われたりする。乳脂肪の分散の程度が高いことから、各成分は、撹拌機を用いて撹拌されること、即ち1000rpm以上の速度、例えば3440rpmの速度で撹拌されることが好ましい。攪拌機は、乳化または分散の機能を有するものであれば特に限定されず、具体例として、例えば攪拌機能を有するタンクが挙げられる。
【0024】
均質化工程は、調製されたクリーム組成物に、均質機を用いて均質化処理を施すことにより、乳脂肪の粒子をより細分化して乳脂肪の分散の程度を高める工程である。そのため、調製工程において各成分が1000rpm以上の速度で撹拌されている場合、既に乳脂肪の粒子が十分に細分化されていることから、均質化工程は省略されてもよい。一方、クリーム組成物が前記バターを含有しているときには、上述のようにバターに含有される乳脂肪の粒子が例えばクリーム類に含まれる乳脂肪の粒子に比べて大きいことから、クリーム組成物に十分な均質化処理が施されることが好ましい。殺菌工程は、均質化処理が施されたクリーム組成物に、加熱殺菌などの公知の方法によって殺菌処理を施す工程である。殺菌工程後におけるクリーム組成物のpHは、6.4±0.4の範囲を示すように調整されることが好ましい。例えば、殺菌工程前のクリーム組成物のpHが6.5以下の場合には、例えば重曹を添加して、pHが6.5を超えるようにクリーム組成物のpHを調整することが好ましい。
【0025】
前記の実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 本実施形態のクリーム組成物において、糖類および乳脂肪の含有量と、クリーム組成物のメジアン径および粘度とが前記範囲であることにより、クリーム組成物の流動性および乳脂肪の分散安定性を高めてクリーム組成物のハンドリング性を高めることができる。更に、クリーム組成物が乳脂肪の良好な分散安定性を有するとともに適度な粘性を有することから、クリーム組成物の輸送時などの揺れに起因するチャーニングの発生を抑制することができる。そのため、本実施形態のクリーム組成物は、従来のクリーム組成物に比べて長期の輸送に適している。
【0026】
・ 本実施形態の乳脂肪の粒子は、前記調製工程における撹拌、および均質化工程において細分化される。そのため、これらの処理によって乳脂肪の分散安定性を高めてクリーム組成物のハンドリング性を高めることができる。これに対して、調製工程における各成分の撹拌が不十分であるとともに均質化工程が省略された場合、たとえ乳化剤が乳脂肪の粒子を被覆して各粒子同士の結合を抑制しても、各粒子の粒径が本実施形態に比べて大きいことから、乳脂肪が浮上したり沈殿したりしてクリーム組成物のハンドリング性が低下するおそれがある。
【0027】
・ 本実施形態の乳脂肪および糖類は通常、原料からの加工によって得られる。そのため、加工時の例えば殺菌処理によって、乳脂肪および糖類中に微生物が混入することを防止することができ、これらを原料とするクリーム組成物中に微生物が混入することを容易に防止することができる。更に、殺菌工程を経てクリーム組成物が製造されることにより、クリーム組成物中に微生物が混入したり、クリーム組成物中に混入した微生物が繁殖したりすることをより確実に抑制することができる。加えて、原料からの加工によって、乳脂肪および糖類の純度を容易に調整することができる。そのため、本実施形態のクリーム組成物は、例えば季節によって成分が変化する生乳を原料とするクリーム組成物に比べて、品質を容易に安定化させることができる。
【0028】
・ 本実施形態のクリーム組成物は、冷凍保存及び常温保存の何れの保存状態でも安定しており、更に長期間保存できるため、クリームの代替品としても有効に利用することができる。
【0029】
・ 本実施形態のクリーム組成物は、食品の調製に利用することができる。食品としては、例えば飲料品及び菓子が挙げられる。飲料品としては例えばコーヒー、ココア及びミルク紅茶が挙げられる。またクリーム組成物は、生クリームを多く使用している菓子の調製において好適に利用される。菓子としては、例えばケーキ、ティラミス、プリン、ホイップクリーム、及びアイスクリームが挙げられる。こうした食品の調製において、例えば従来の生クリームの配合量の一部を、本実施形態のクリーム組成物に置き換えて配合することができる。このように、本実施形態のクリーム組成物を食品に応用した際に、そうした食品の風味及び香味を大きく変化させることがないため、従来の風味及び香味を生かした食品を調製することができる。
【実施例】
【0030】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1〜6及び比較例1)
実施例1〜6及び比較例1においては、調製工程として下記表1に示す各成分を混合した後に混合物を撹拌してクリーム組成物を調製した後、殺菌工程としてクリーム組成物にレトルト殺菌処理(F値:7付近)を施して3kgのクリーム組成物を得た。ここで、実施例3〜5及び比較例1においては、調製工程後であるとともに殺菌工程前に、均質化工程として均質機(株式会社イズミフードマシナリ社製:HV−OH−3−3.7S)を用いて200L/時間および200kg/cmの条件にてクリーム組成物に均質化処理を施した。下記各表において、成分の種類を示す欄、水分含量、及び総固形量を示す欄における数値の単位は質量%である。更に、下記各表において、“S570”は、三菱化学フーズ株式会社製の乳化剤であるS570を示し、“クリーム”は、タカナシ乳業株式会社製の「タカナシ凍結クリーム(商品名)」を示す。“クリーム”欄において、括弧に囲まれていない数値はクリーム組成物中のクリームの含有量を示す。更に、“(乳脂肪)”に対応する括弧内の数値はクリーム組成物中の乳脂肪の含有量を示し、“(無脂乳固形)”に対応する括弧内の数値はクリーム組成物中の無脂乳固形の含有量、即ち乳脂肪以外のクリーム由来の固形の含有量を示す。“水分含量”欄は、クリーム組成物中の水の含有量を示す。“撹拌”欄において、“高”は株式会社 AIHO社製の撹拌機を用いてクリーム組成物を3440rpmで撹拌したことを示し、“低”はクリーム組成物を60rpmで撹拌したことを示す。“均質化”欄において、“有”は均質化工程を行ったことを示し、“無”は均質化工程を省略したことを示す。そして、各例のクリーム組成物について、下記の各項目に関し測定または評価を行った。その結果を表1に示す。
【0031】
<メジアン径>
各例のクリーム組成物について、レーザー回折散乱法を用いてメジアン径を測定した。メジアン径の測定は、30℃雰囲気下で4週間保存された状態と、常温(20℃)雰囲気下で7日間保存された状態と、−18℃雰囲気下で4日間保存された後に常温(20℃)まで放置された状態との3つの状態のクリーム組成物について行った。下記各表において、“メジアン径(μm)30℃保存後”欄は、前記30℃雰囲気下で4週間保存された状態のクリーム組成物についてのメジアン径を示す。“メジアン径(μm)常温保存後”欄は、前記常温雰囲気下で7日間保存された状態のクリーム組成物についてのメジアン径の測定結果を示す。“メジアン径(μm)冷凍保存後”欄は、前記−18℃雰囲気下で保存された後に常温(20℃)まで放置された状態のクリーム組成物についてのメジアン径の測定結果を示す。これらの欄における“−”は、当該欄に係るクリーム組成物のメジアン径を測定しなかったことを示す。
【0032】
<粘度>
各例のクリーム組成物50mlを容量50mlのビーカー(内径36mm)に入れ、lB型粘度計(ロータ:No.2、ロータ回転数:30rpm、測定時間:1分)を用いて20℃における粘度を測定した。粘度の測定は、常温(20℃前後の温度)雰囲気下の状態と、−18℃雰囲気下で4日間保存された後に常温(20℃)まで放置された状態との2つの状態のクリーム組成物について行った。下記各表において、“粘度(mPa・s)常温保存後”欄は、前記常温雰囲気下の状態のクリーム組成物についての粘度の測定結果を示し、“粘度(mPa・s)冷凍保存後”欄は、前記−18℃雰囲気下で保存された後に常温(20℃)まで放置された状態のクリーム組成物についての粘度の測定結果を示す。加えて、“−”は、当該欄に係るクリーム組成物の粘度を測定しなかったことを示す。
【0033】
<ハンドリング性>
各例のクリーム組成物について、ハンドリング性を評価した。ハンドリング性の評価は、30℃雰囲気下の状態と、6.0℃雰囲気下の状態と、−18.0℃雰囲気下の状態との3つの状態のクリーム組成物について行った。下記各表において、“ハンドリング性(30℃)”欄は、30℃雰囲気下の状態のクリーム組成物についてのハンドリング性の評価結果を示す。“ハンドリング性(6℃)”欄は、6℃雰囲気下の状態のクリーム組成物についてのハンドリング性の評価結果を示す。“ハンドリング性(−18℃)”欄は、−18℃雰囲気下の状態のクリーム組成物についてのハンドリング性の評価結果を示す。これらの欄において、“○”は、クリーム組成物の流動性が十分に高く、且つ乳脂肪などの成分の浮き及び沈殿が目視にて認められなかったことを示す。“△”は、クリーム組成物の流動性が高いものの、乳脂肪などの成分の浮き又は沈殿が目視にて認められたことを示し、“▲”は、クリーム組成物の流動性が低いものの、乳脂肪などの成分の浮き又は沈殿が目視にて認められなかったことを示す。“×”は、クリーム組成物の流動性が低く、且つ乳脂肪などの成分の浮き又は沈殿が目視にて認められたことを示す。また、“−”は、当該欄に係るクリーム組成物のハンドリング性を評価しなかったことを示す。
【0034】
【表1】

表1に示すように、実施例1〜6においては、各温度雰囲気下におけるクリーム組成物のハンドリング性について優れた結果が得られた。そのため、各実施例のクリーム組成物は優れたハンドリング性を有し、冷凍、冷蔵、及び常温のいずれの雰囲気下においても容易に取り扱うことができることが分かった。更に、実施例1及び3の結果と、実施例2及び4の結果とから、調製されたクリーム組成物に均質化処理が施されることにより、クリーム組成物のハンドリング性が向上されることが分かった。加えて、実施例3〜6の結果から、均質化処理の有無に関わらず、乳化剤を添加することによって、更に乳化剤の添加量を増加することによって、クリーム組成物のハンドリング性が向上されることが分かった。
【0035】
一方、比較例1においては、クリーム組成物が糖類を含有しないとともに、クリーム組成物のメジアン径および粘度が前記範囲を外れることから、各実施例に比べてハンドリング性の評価が劣っており、特に−18℃雰囲気下におけるクリーム組成物のハンドリング性の評価が劣っていた。
【0036】
(実施例7〜13並びに比較例2及び3)
実施例7〜13並びに比較例2及び3においては、クリーム組成物の各成分を下記表2に示すように変更するととともに全ての例のクリーム組成物に前記均質化処理を施した以外は、実施例1〜6及び比較例1と同様にしてクリーム組成物を得た。下記各表において、“バター”は、市販されている一般的な無塩バターを示し、“植物油脂”は、市販されている一般的な植物油脂を示す。“バター”欄において、括弧に囲まれていない数値はクリーム組成物中のバターの含有量を示す。更に、“(乳脂肪)”に対応する括弧内の数値はクリーム組成物中の乳脂肪の含有量を示し、“(無脂乳固形)”に対応する括弧内の数値はクリーム組成物中の無脂乳固形の含有量、即ち乳脂肪以外のバター由来の固形の含有量を示す。“脱脂粉乳”及び“全脂粉乳”は、雪印社製のものをそれぞれ示す。そして、各例のクリーム組成物について、前記各項目に関し測定または評価を行った。その結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

表2に示すように、実施例7〜13においては、各温度雰囲気下におけるクリーム組成物のハンドリング性について優れた結果が得られた。そのため、各実施例のクリーム組成物は優れたハンドリング性を有し、冷凍、冷蔵、及び常温のいずれの雰囲気下においても容易に取り扱うことができることが分かった。
【0038】
一方、比較例2においては、クリーム組成物の総固形量が他の例に比べて低く、クリーム組成物の粘度が前記範囲を外れることから、各実施例に比べてハンドリング性の評価が劣っており、特に−18℃雰囲気下におけるクリーム組成物のハンドリング性の評価が劣っていた。比較例3においては、クリーム組成物が乳脂肪を含有しないことから、全ての温度雰囲気下において各実施例に比べてハンドリング性の評価が劣っていた。
【0039】
また、実施例13のクリーム組成物を9ヶ月間常温保存した後、その性状を確認したところ、保存後のクリーム組成物は調製直後のクリーム組成物と略同じ性状であった。この結果から、実施例13のクリーム組成物は、保存安定性に優れることがわかった。
【0040】
(実施例14及び比較例4)
実施例14及び比較例4においては、クリーム組成物の各成分を下記表3に示すように変更するととともに実施例14のクリーム組成物のみに前記均質化処理を施した以外は、実施例1〜6及び比較例1と同様にしてクリーム組成物を得た。そして、実施例14及び比較例4のクリーム組成物について、前記各項目に関し測定または評価を行った。その結果を表3に示す。
【0041】
【表3】

表3に示すように、実施例14においては、各温度雰囲気下におけるクリーム組成物のハンドリング性について優れた結果が得られた。そのため、実施例14のクリーム組成物は優れたハンドリング性を有し、冷蔵、及び常温のいずれの雰囲気下においても容易に取り扱うことができることが分かった。
【0042】
一方、比較例4においては、クリーム組成物のメジアン径が前記範囲を外れることから、実施例14に比べてハンドリング性の評価が劣っていた。
(実施例15〜25及び比較例5〜11)
実施例15〜25及び比較例5〜11においては、クリーム組成物の各成分を下記表3及び表4に示すように変更するととともに全ての例のクリーム組成物に前記均質化処理を施した以外は、実施例1〜6及び比較例1と同様にしてクリーム組成物を得た。ここで、実施例16においては、殺菌工程として、レトルト殺菌処理の代わりにUHT殺菌処理(F値:7付近)をクリーム組成物に施した。下記各表において、“DE”は、フタムラ化学社製のデキストリン(DE:8程度)を示す。そして、各例のクリーム組成物について、前記各項目に関し測定または評価を行った。その結果を表4及び表5に示す。さらに、実施例16〜22においては、9ヶ月保存したクリーム組成物を用いて、前記各項目に関し、表6に示す条件にて測定または評価を行った。実施例16〜22のハンドリング性の評価は、30℃の雰囲気下で行った。その結果を表6に示す。
【0043】
【表4】

【0044】
【表5】

【0045】
【表6】

表4に示すように、実施例15〜25においては、各温度雰囲気下におけるクリーム組成物のハンドリング性について優れた結果が得られた。そのため、各実施例のクリーム組成物は優れたハンドリング性を有し、冷凍、冷蔵、及び常温のいずれの雰囲気下においても容易に取り扱うことができることが分かった。
【0046】
一方、表5に示すように、比較例5〜11においては、糖類を含有しなかったり、糖類の含有量、クリーム組成物のメジアン径および粘度が前記範囲を外れたりすることから、実施例15〜25に比べてハンドリング性の評価が劣っていた。
【0047】
表6に示すように、実施例16〜22のクリーム組成物は優れたハンドリング性を有している。また、実施例16〜22について、9ヶ月保存後における性状を確認したところ、保存後のクリーム組成物は調製直後のクリーム組成物と略同じ性状であった。この結果から、実施例16〜22のクリーム組成物は、保存安定性に優れることがわかった。なお、保存後のクリーム組成物の風香味についても確認した結果、調製直後よりも若干香りが劣っていたが、使用に際して問題ない範囲であった。
【0048】
(実施例26及び比較例12〜18)
実施例26及び比較例12〜18においては、クリーム組成物の各成分を下記表7に示すように変更するととともに全ての例のクリーム組成物について前記均質化処理を省略した以外は、実施例1〜6及び比較例1と同様にしてクリーム組成物を得た。そして、各例のクリーム組成物について、前記各項目に関し測定または評価を行った。その結果を表7に示す。
【0049】
【表7】

表7に示すように、実施例26においては、各温度雰囲気下におけるクリーム組成物のハンドリング性について優れた結果が得られた。そのため、実施例26のクリーム組成物は優れたハンドリング性を有し、冷凍、冷蔵、及び常温のいずれの雰囲気下においても容易に取り扱うことができることが分かった。
【0050】
一方、比較例12〜18においては、糖類を含有しなかったり、クリーム組成物のメジアン径および粘度が前記範囲を外れたりすることから、実施例26に比べてハンドリング性の評価が劣っていた。比較例18のクリーム組成物は通常、練乳として市販されている。練乳は通常、牛乳の濃縮によって調製されることから、本実施形態のクリーム組成物に比べて乳脂肪の含有量の調整が困難である。更に、練乳の鮮度を維持するために、原料である牛乳の微生物検査の結果が分かる前に練乳が製造される。そのため、牛乳の微生物検査の結果が悪い場合には、製造された練乳を破棄する必要が生じる。
【0051】
ここで、クリーム組成物が長期間にわたって保存された際に、乳脂肪が浮上したり沈殿したりしてクリーム組成物のハンドリング性が低下する可能性を調べる方法として、クリーム組成物の遠心分離が挙げられる。即ち、遠心分離後のクリーム組成物において乳脂肪の浮上または沈殿が認められた場合、クリーム組成物の長期間の保存の際に、クリーム組成物のハンドリング性が低下する可能性がある。
【0052】
そのため、各実施例のクリーム組成物について、上記<メジアン径>における常温(20℃)雰囲気下で7日間保存された状態と、−18℃雰囲気下で4日間保存された後に常温(20℃)まで放置された状態と2つの状態のクリーム組成物の遠心分離をそれぞれ行い、該遠心分離後のクリーム組成物を目視にて観察した。詳細な結果は省略するが、実施例8、9、16、17、21及び22では、上記いずれの状態のクリーム組成物においても、遠心分離における遠心力の増加に伴い乳脂肪の若干の浮上が認められた。また、実施例20では、常温雰囲気下で保存された状態のクリーム組成物において、遠心分離における遠心力の増加に伴い乳脂肪の若干の浮上が認められた。実施例5、6、13、18、19、及び26では、上記いずれの状態のクリーム組成物においても、乳脂肪の浮上および沈殿は認められなかった。また、表7に示すように、実施例13では、30℃雰囲気下において乳脂肪の若干の浮上が認められた。
【0053】
以上のことから、実施例13および20のクリーム組成物は、常温時または低温時において、長期間にわたって優れたハンドリング性を有することが分かった。また、実施例5、6、18、19、及び26のクリーム組成物は、常温時および低温時のいずれにおいても、長期間にわたって優れたハンドリング性を有することが分かった。即ち、クリーム組成物の粘度を200〜400mPa・sにすることにより、前記常温または低温雰囲気下において、クリーム組成物が長期間にわたって優れたハンドリング性を有することが分かった。更に、メジアン径を1.0〜2.0μmにすることにより、クリーム組成物が通常曝される温度雰囲気下において、該クリーム組成物が長期間にわたって優れたハンドリング性を有することが分かった。
【0054】
一方、各比較例のクリーム組成物について、各実施例のクリーム組成物と同様に前記遠心分離を行った。詳細な結果は省略するが、各比較例において、遠心分離後に乳脂肪の浮上および沈殿の少なくとも一方が認められた。
【0055】
(実施例27及び比較例19)
実施例27においては、調製工程として、104gのショ糖(砂糖)と、79gのクリーム(乳脂肪:47質量%、無脂乳固形:4.5質量%)と、17gの水とを混合した後、75℃雰囲気下でスターラーによって混合物を2分間撹拌してクリーム組成物を得た。実施例27のクリーム組成物においては、乳脂肪の含有量は18.5質量%、糖類の含有量は52質量%、メジアン径は1.25μm、及び20℃における粘度は577mPa・sである。
【0056】
比較例19においては、調製工程として、79gのクリーム(乳脂肪:47質量%、無脂乳固形:4.5%)と、17gの水とを混合した後、75℃雰囲気下でスターラーによって混合物を2分間撹拌してクリーム組成物を得た。
【0057】
そして、各例のクリーム組成物について振動試験を行った。具体的には、各例のクリーム組成物を容器に収納した後、該容器を振とう装置に取り付けた。そして、振とう装置によって容器を振とうした後、容器内のクリーム組成物の性状を目視により観察した。容器の振とうは、振とう時間:4分間、振とう幅:3cm、並びに振とう方向および回数:上下方向に600回の条件で行った。
【0058】
その結果、実施例27のクリーム組成物は、振動試験後においても成分の分離が見られなかった。そのため、実施例27のクリーム組成物は、激しい振動が加えられた場合にも安定していることが分かった。一方、比較例19のクリーム組成物は、振動試験後において油層と水層とに分離しており、実施例27のクリーム組成物に比べて安定性が劣っていた。
【0059】
(実施例28〜43)
実施例28〜43においては、クリーム組成物の各成分を下記表8及び表9に示すように変更するととともに全ての例のクリーム組成物に前記均質化処理を施した以外は、実施例1〜6及び比較例1と同様にしてクリーム組成物を得た。下記各表において、各植物性油脂は、いずれも不二製油株式会社製の植物性油脂を使用した。また、下記各表において、“乳化剤S570”、“乳化剤S770”及び“乳化剤P1670”は、三菱化学フーズ株式会社製の乳化剤S570、同社製乳化剤S770、及び同社製乳化剤P1670を示す。S570及びS770はショ糖ステアリン酸エステルであって、S570の親水性−疎水性バランス(HLB)は“5”であり、S770のHLBは“7”である。P1670はショ糖パルミチン酸エステルであって、P1670のHLBは“16”である。そして、各例のクリーム組成物について、前記各項目に関し測定または評価を行った。その結果を表8及び表9に示す。
【0060】
【表8】

【0061】
【表9】

表8及び表9に示すように、実施例28〜43においては、各温度雰囲気下におけるクリーム組成物のハンドリング性について優れた結果が得られた。そのため、各実施例のクリーム組成物は優れたハンドリング性を有し、冷凍、冷蔵、及び常温のいずれの雰囲気下においても容易に取り扱うことができることが分かった。実施例28及び29の結果と、実施例30及び31の結果とから、植物性油脂を含有させる際には、乳化剤の種類を適宜選択して含有させることで、クリーム組成物のハンドリング性が向上されることが分かった。例えば、実施例28の結果と、実施例33、35、39、及び40の結果とから、乳化剤の種類を適宜選択して含有させることにより、クリーム組成物の粘度が低下することが分かった。
【0062】
<食品への応用>
クリーム組成物を用いてティラミス、バニラアイスクリーム、プリン、ホイップクリーム及びコーヒーを調製した。クリーム組成物は、前記均質化処理を施した以外は、実施例1〜6及び比較例1と同様にして調製したものであり、クリーム組成物の組成は、乳脂肪18.5質量%、無脂乳固形1.8質量%、ショ糖(砂糖)52.0%、乳化剤(S570、三菱化学フーズ株式会社製)0.7%、及び水分27.0%である。そして、クリーム組成物を、PET(ポリエチレンテレフタレート)容器に充填した状態で、20℃の雰囲気下に16日間、常温保存した後、さらに−18℃雰囲気下に19日間冷凍保存した。保存後のクリーム組成物を常温(20℃)の雰囲気下に放置することによって解凍し、その解凍したクリーム組成物を食品の調製に使用した(以下、タイプ1のクリーム組成物という)。
【0063】
また、同様に調製したクリーム組成物を、PET(ポリエチレンテレフタレート)容器に充填した状態で、−18℃の雰囲気下に35日間冷凍保存した。この冷凍保存したものを用い、20℃で解凍した後、そのクリーム組成物を食品の調製に使用した(以下、タイプ2のクリーム組成物という)。
【0064】
タイプ1のクリーム組成物の使用時のメジアン径は1.09μmであり、20℃における粘度は668mPa・sである。
タイプ2のクリーム組成物の使用時のメジアン径は、1.24μmであり、20℃における粘度は571mPa・sである。
【0065】
(実施例44及び比較例20:ティラミス)
実施例44及び比較例20においては、表10に示す材料を用いてティラミスを調製した。実施例44においては、タイプ1のクリーム組成物を使用した。まず、表10において、“○”を付した各材料を鍋に入れるとともに、各材料を沸騰させることにより、シロップを調製した。次に、スポンジケーキをカップに入る大きさに適当にカットし、カップに入れ、前記シロップが熱いうちに、スポンジケーキにしみこませた。
【0066】
次に、実施例44ではボール内で卵黄を略白くなるまで攪拌した後に、そのボールに室温に戻したマスカルポーネを入れて軽く混合した。一方、比較例20ではボール内に卵黄と砂糖を入れ、略白くなるまで混合した後に、そのボールに室温に戻したマスカルポーネを添加し、軽く混合した。
【0067】
別途比較例20は、6〜8分立てに泡立てた生クリームを、実施例44は生クリームとクリーム組成物をあわせて6〜8分立てに泡立てたクリームを、前記マスカルポーネと混合することにより、ティラミス用クリームを調製した。調製したティラミス用クリームを前記スポンジ上に流し込み、冷蔵庫で2〜3時間冷却した。そして、食べる直前にココアパウダーを振りかけることにより、ティラミスを完成した。
【0068】
【表10】

実施例44のティラミスを1個、及び比較例20のティラミスを2個の合計3個のティラミスを用いて、JIS Z 9080:2004「官能評価分析−方法」に準拠した3点識別法による官能評価を行った。この3点識別法は、ISO 4120:1983「官能評価分析−方法−3点試験法」にも準拠しており、評価者に対して3個の食品のうち異なる食品を選択させ、偶然に正解する確率を1/3として二項分布によって検定する方法である。この3点識別法において、評価者32人中の正解者は15人であったことから、5%の有意水準において、実施例44のティラミスは、比較例20のティラミスと識別不能であると判定された。以上により、実施例44及び比較例20のティラミスを用いて実施した3点識別法で得られた結果においては、本発明にかかるクリーム組成物が、ティラミスの風味及び香味に対して影響を与えないと認められた。
【0069】
また、実施例44のティラミスでは、タイプ1のクリーム組成物を使用している。このため、本発明のクリーム組成物は、一定期間常温保存した後に冷凍保存した場合であっても、物性変化及び品質変化がなく、食品への利用が可能であることがわかる。
【0070】
(実施例45及び比較例21:バニラアイスクリーム)
実施例45及び比較例21においては、表11に示す材料を用いてバニラアイスクリームを調製した。実施例45においては、タイプ1のクリーム組成物を使用した。まず、比較例21では、ボール内に、牛乳、生クリーム、砂糖及びバニラエッセンスを入れ、混ぜ合わせることにより、混合物を調製した。このとき、実施例45では比較例21の生クリームの一部と砂糖とをクリーム組成物に置き換えて使用し、これを混合することにより、混合物を調製した。次に、攪拌した卵黄が入っているボール内に前記混合物を少しずつ加え、混合することにより、アイスクリーム原料を調製した。調製したアイスクリーム原料を金属製の容器に入れた。続いて、アイスクリーム原料を冷凍庫内に3〜4時間放置し、アイスクリーム原料が固まり始めたら、冷凍庫から出して攪拌するという操作を行った。こうした操作を数回繰り返すことにより、バニラアイスクリームを完成した。
【0071】
【表11】

実施例45のバニラアイスクリームを1個、及び比較例21のバニラアイスクリームを2個の合計3個のバニラアイスクリームを用いて、実施例44及び比較例20と同様にして官能評価を行った。この3点識別法において、評価者32人中の正解者は16人であったことから、10%の有意水準において、実施例45のバニラアイスクリームは、比較例21のバニラアイスクリームと識別不能であると判定された。以上により、実施例45及び比較例21のバニラアイスクリームを用いて実施した3点識別法の結果においては、本発明にかかるクリーム組成物が、バニラアイスクリームの風味及び香味に対して影響を与えないと認められた。
【0072】
(実施例46及び比較例22:プリン)
実施例46及び比較例22においては、表12に示す材料を用いてプリンを調製した。実施例46においては、タイプ1のクリーム組成物を使用した。まず、表12において、“○”を付した各材料を鍋に入れて混合し、混合したものを50℃程度まで加温することにより、プリン用混合物を調製した。次に、泡立てずに攪拌した卵黄にプリン用混合物を少量ずつ加えて混合した。続いて、プリン用混合物にバニラエッセンスを加えた後、そのプリン用混合物を漉し器によって漉した後に、耐熱容器に入れた。プリン用組成物の表面に発生している泡を取り除いた後、耐熱容器に蓋をして170℃のオーブンを用いて30分程度蒸し焼きすることにより、プリンを完成した。
【0073】
【表12】

実施例46のプリンを2個、及び比較例22のプリンを1個の合計3個のプリンを用いて、実施例44及び比較例20と同様にして官能評価を行った。この3点識別法において、評価者20人中の正解者は5人であったことから、実施例46のプリンは、比較例22のプリンと識別不能であると判定された。以上により、実施例46及び比較例22のプリンを用いた実施した3点識別法の結果においては、本発明にかかるクリーム組成物が、プリンの風味及び香味に対して影響を与えないと認められた。
【0074】
(実施例47、実施例48、比較例23及び比較例24:ホイップクリーム)
実施例47、実施例48、比較例23及び比較例24においては、表13に示す材料を用いてホイップクリームを調製した。実施例47においては、タイプ1のクリーム組成物を使用した。実施例48においては、タイプ2のクリーム組成物を使用した。また、比較例23は動物性生クリームを全量使用し、比較例24は植物性のホイップクリームを全量使用した。表13に示す材料をボールに入れ、電動ミキサーを用いて角が立つまで泡立てることにより、ホイップクリームを完成した。
【0075】
【表13】

実施例47、実施例48、比較例23及び比較例24の各ホイップクリームを用いて、4点による品質評価法による官能評価を行った。この4点による品質評価法は、評価者に対して4種類のホイップクリームから、対象サンプル(比較例23)と同じサンプルと思われるものを4つの中から選ぶ方法である。対象サンプルと同じものを選択した人を正解とした。この4点による品質評価法において、評価者20人中の正解者は6人であったことから、正答率は30%であった。ホイップクリームであれば、添加される成分の種類が少ないため、品質の違いが判別され易いと考えられたが、実施例47及び実施例48のホイップクリームを用いて実施した4点による品質評価法の結果においては、本発明にかかるクリーム組成物が、ホイップクリームの風味及び香味に対して影響を与えないと認められた。また、嗜好性についても確認したが、実施例47及び実施例48を好む評価者が多く、生クリームより濃厚さを感じるとの嗜好性を示していた。また、実施例47と実施例48とで比較した場合、実施例47の方が、甘みが強く感じられ、若干黄色を呈していたが、品質及び物性についてはほとんど差が見られなかった。
【0076】
(実施例49、実施例50、及び比較例25:ミルクコーヒー)
実施例49、実施例50、及び比較例25においては、表14に示す材料からなるミルクコーヒーを調製した。実施例49及び実施例50においては、タイプ1のクリーム組成物を使用した。表14において、材料の種類を示す欄における数値の単位は、g/Lである。コーヒー抽出液としては、アラビカ種100%のコーヒー豆を、約95℃の水で抽出した抽出液であって、Brix2.8%のコーヒー抽出液を使用した。なお、“P1670”及び “S570”は、三菱化学フーズ株式会社製の乳化剤であるP1670及びS570を示している。
【0077】
【表14】

実施例49、実施例50、及び比較例25の各ミルクコーヒーを用いて3点比較試験によって官能評価を行った。この3点比較試験は、評価者に対して3種のミルクコーヒーから対象となるサンプル(比較例25)と比較し、同じと思われるサンプルを選択する方法である。この3点比較試験において、評価者20人中の正解者は6人であり、正答率は30%であったことから、実施例49及び実施例50のミルクコーヒーは、比較例25のミルクコーヒーと識別され難い結果となった。以上により、実施例49、実施例50及び比較例25のミルクコーヒーを用いて実施した3点比較試験の結果においては、本発明にかかるクリーム組成物が、ミルクコーヒーの風味及び香味に対して影響を与えないと認められた。また、嗜好性についても確認したが、評価者により異なっていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳脂肪、糖類、及び水を含有し、乳脂肪の含有量が5質量%を超えるとともに30質量%以下であり、
糖類の含有量が40〜65質量%であり、
メジアン径が0.2〜4.0μmであるとともに20℃における粘度が100〜2500mPa・sであることを特徴とするクリーム組成物。
【請求項2】
前記乳脂肪としてクリーム類を含有する請求項1に記載のクリーム組成物。
【請求項3】
前記糖類がショ糖である請求項1又は請求項2に記載のクリーム組成物。
【請求項4】
乳化剤、重曹、牛乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、ホエイ、練乳類、乳糖、植物性油脂、デキストリン、増粘多糖類、澱粉、カラメル、グルタミン酸ナトリウム、乳タンパク質、香料、香辛料、ハーブ、インスタントコーヒー、紅茶、ココアパウダー、ココアバター、カカオマス、野菜汁、野菜ペースト、及び酸化防止剤から選ばれる少なくとも一種を更に含有する請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のクリーム組成物。
【請求項5】
前記粘度が200〜1000mPa・sである請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のクリーム組成物。
【請求項6】
前記メジアン径が0.5〜3.0μmである請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のクリーム組成物。