説明

クルクミノイド合成酵素およびクルクミノイド製造方法

【課題】クルクミノイドを効率的に製造するための手段を提供する。
【解決手段】本発明は、ウコンから単離したIII型ポリケタイド合成酵素、クルクミノイド合成酵素、該酵素をコードするDNA、ならびに該酵素を用いたクルクミンの合成方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ポリケタイド合成酵素、クルクミノイド合成酵素および該酵素によってクルクミノイドを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウコン・ターメリックは独特な香気と刺激性の辛み、わずかな苦みを持ち、鮮やかなオレンジ色を呈するため、香辛料、染料として用いられている。一般にウコンと呼ばれているのは、日本では秋ウコン(学術名Curcuma longa)をさし、熱帯アジアに自生するショウガ科の多年草である。ウコンの有効成分は、クルクミンやその類縁体、デスメトキシクルクミンおよびビスデスメトキシクルクミンであり、これら化合物はクルクミノイドと総称される。
【0003】
ウコンは何世紀にもわたり、インドや中国などのアジア地域において民間療法や漢方薬として用いられてきた。ウコンが科学的に世界的な注目を集める契機となったのは、1990年代にアメリカ国立ガン研究所(National Cancer Institute, NCI)による“Designer Foods Program”プロジェクトにおいて、ガンの予防に効果がある食品として取り上げられたことである。以来、集中的に研究が行われ、現在までに、抗酸化作用、抗炎症作用、創傷治癒の促進、血清コレステロール低下、体脂肪蓄積抑制効果等などの人体に有益な薬理活性が報告されている。また、クルクミノイドには、経口投与による大腸、結腸、十二指腸、胃、食道、口腔癌の予防効果や、血管新生の阻害、転移抑制などの制癌作用がある。このようにクルクミノイドはその多様な生理活性から近年非常に注目を集めており、産業上の利用価値は大きい。以上のような理由から、クルクミノイドは今後の需要の大幅な拡大が予想されるが、現在その生産は、熱帯・亜熱帯地域においてのみ栽培可能であるウコンからの抽出に頼っている。連作による障害、また、生産地域の人件費の推移などを考慮すると、クルクミノイドの安価大量生産法の確立が望まれていた。
【0004】
ウコンの栽培による方法以外のクルクミノイドの製造法としては、イネ由来のポリケタイド合成酵素によるクルクミノイドの製造法が知られている(特許文献1)。当該ポリケタイド合成酵素(イネOs07g17010遺伝子によってコードされるタンパク質)は、カルボニルCoAとマロニルCoAを基質とし、2段階からなる反応の両方を触媒して、クルクミノイドを生成する。本タンパク質は、4-クマロイルCoAに対する基質特異性が高く、ビスデスメトキシクルクミンを効率よく生成する。また、クルクミノイド以外に、副産物としてトリケタイドパイロンを生成する(非特許文献1)。
【0005】
本酵素をコードする遺伝子の由来となったイネは、その植物体中にクルクミノイドを蓄積していない。また、クルクミノイドを蓄積する植物であるウコンからは、クルクミノイドを生成する酵素をコードする遺伝子は見つかっておらず、クルクミノイドを合成する酵素も単離されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-228686
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Katsuyama et al. (2007) In vitro synthesis of curcuminoids by type III polyketide synthase from Oryza sativa. J. Biol. Chem.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、クルクミノイドを効率的に製造するための手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ウコンのcDNAから選抜した4種類の遺伝子によってコードされるタンパク質であるDCS、CURS1、CURS2、CURS3を単離した。そして、これらのタンパク質がIII型ポリケタイド合成酵素およびクルクミノイド合成酵素の活性を有し、クルクミノイドを生成する反応を触媒すること、これらのタンパク質を組み合わせて用いることにより、副産物の生成を抑制しつつ、効率良くクルクミノイドを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1)以下の(a)または(b)のタンパク質:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号1のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、付加、挿入または置換されたアミノ酸配列からなり、III型ポリケタイド合成酵素の活性を有するタンパク質。
(2)以下の(a)または(b)のタンパク質:
(a)配列番号3、5または7のアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号3、5または7のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、付加、挿入または置換されたアミノ酸配列からなり、クルクミノイド合成酵素の活性を有するタンパク質。
【0010】
(3)式I:
【化1】

[式中、Arは、同一でも異なっていてもよく、置換または無置換の芳香族基を表す]
で表されるクルクミノイドの製造方法であって、
マロニルCoAおよび少なくとも1種の式II:
【0011】
【化2】

[式中、Arは、置換または無置換の芳香族基を表す]
で表されるカルボニルCoAを基質として、(1)記載のタンパク質による酵素反応および
(2)記載のタンパク質による酵素反応を実施することを含む、前記方法。
【0012】
(4)以下の(a)または(b)のDNA:
(a)配列番号2の塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号2の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、III型ポリケタイド合成酵素の活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(5)以下の(a)または(b)のDNA:
(a)配列番号4、6または8の塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号4、6または8の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、クルクミノイド合成酵素の活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(6)(4)および/または(5)記載のDNAを含むベクター。
(7)(4)および/または(5)記載のDNAが導入された形質転換体。
(8)式I:
【0013】
【化3】

[式中、Arは、同一でも異なっていてもよく、置換または無置換の芳香族基を表す]
で表されるクルクミノイドの製造方法であって、
マロニルCoAおよび少なくとも1種の式II:
【0014】
【化4】

[式中、Arは、置換または無置換の芳香族基を表す]
で表されるカルボニルCoAの存在下、
(4)記載のDNAが導入された形質転換体および(5)記載のDNAが導入された形質転換体を培養すること、あるいは
(4)記載のDNAおよび(5)記載のDNAが導入された形質転換体を培養すること
を含む、前記方法。
【0015】
(9)(1)記載のタンパク質および(2)記載のタンパク質を含む、クルクミノイドを調製するためのキット。
(10)(4)記載のDNAが導入された形質転換体および(5)記載のDNAが導入された形質転換体、あるいは
(4)記載のDNAおよび(5)記載のDNAが導入された形質転換体
を含む、クルクミノイドを調製するためのキット。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、クルクミノイド合成における2段階反応をそれぞれ制御することができるため、2段階の反応を分けて行うことで、左右非対称のクルクミノイドも効率的に生成することができる。また、本発明における酵素は、基質としてフェルロイルCoAに対する特異性が高いため、天然のウコンが蓄積している主要なクルクミノイドであるクルクミンを効率的に生成できる。また、同じ基質から生成する副産物であるトリケタイドパイロンがほとんど生成されないため、主生成物であるクルクミノイドを効率的に生成できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のクルクミノイド合成反応の反応スキームの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、ウコンからクルクミノイド合成酵素を単離すべく、cDNAクローニングを試みた。GenBankにはウコンのESTクローン配列が登録されており、その情報を利用可能だったが、全体にGCリッチな配列であり、その情報を基にプライマーを設計するのに困難があった。また、断片配列情報であるESTクローンは複数のクローン同士で共通している(重なり合う)領域が短いこと、ウコンには類似のIII型ポリケタイド合成酵素が複数個存在していて部分配列からでは各々を区別しにくいことから、他植物のIII型ポリケタイド合成酵素との類似性検索で選び出したESTクローン配列をつなぎ合わせ、ウコンで実際に存在する全長配列を反映した配列情報に加工して利用することに苦労があった。また、全長情報ではなく、部分的な配列情報を基にRACE法でクローニングを行う際には、ウコンcDNAと相性が悪いアンカー配列があり、非特異産物が出て目的産物が取れないという問題があった。また、ウコンcDNAを鋳型としたPCRでは、通常に使われるDNAポリメラーゼとPCR条件ではPCR増幅がうまくいかず、従って、耐熱性が高いDNAポリメラーゼを用いて熱変性温度を高く設定する必要があった。
【0019】
そして、本発明者らは、ウコンのcDNAから4種の遺伝子(配列番号2、4、6、8)を選抜し、該遺伝子によってコードされる4種のタンパク質(配列番号1、3、5、7)を単離することに成功した。そして、これらのタンパク質がIII型ポリケタイド合成酵素の活性およびクルクミノイド合成活性を有することを見出した。これらのタンパク質のアミノ酸配列(配列番号1、3、5、7)は、イネ由来のポリケタイド合成酵素(イネOs07g17010遺伝子によってコードされるタンパク質、特開2008-228686)のアミノ酸配列と比較して、それぞれ50.1%、44.8%、45.0%、47.0%の相同性を有するものであった。
【0020】
III型ポリケタイド合成酵素の活性とは、マロニル-CoAを脱炭酸し、アセチル-CoAカルバニオンを発生させる活性をさす。こうして生じたアセチル-CoAカルバニオンが他のカルボニル-CoAに求核攻撃することで新規炭素-炭素結合が形成される。本発明においてIII型ポリケタイド合成酵素の活性は、より具体的には、ジケタイドCoAを合成する活性である。クルクミノイド合成活性とは、クルクミノイドを合成する活性をさす。従って、本発明の上記タンパク質は、III型ポリケタイド合成酵素(III型PKS)および、クルクミノイド合成酵素であると言える。
【0021】
本発明者らはさらに、これら4種のタンパク質が、クルクミノイド合成における2段階反応のうち、1段階目を触媒するDCSタンパク質(配列番号1)と、1段階目も触媒するが、2段階目をより強く触媒するCURSタンパク質(配列番号3、5、7)に分類できること、さらに、DCSタンパク質およびCURSタンパク質を組み合わせて用いることにより、副産物の生成を抑制しつつ、効率良くクルクミノイドを製造できることを見出した。さらに、DCSタンパク質およびCURSタンパク質を組み合わせて用いた酵素反応においては、天然のウコンが蓄積している主要なクルクミノイドであるクルクミンを効率的に生成できること、同じ基質から生成する副産物であるトリケタイドパイロンがほとんど生成されないことを見出した。
【0022】
従って、一実施形態において本発明は、DCSタンパク質およびCURSタンパク質を用いてクルクミノイドを製造する方法に関する。本発明のクルクミノイドの製造方法は、
式I:
【0023】
【化5】


[式中、Arは、同一でも異なっていてもよく、置換または無置換の芳香族基を表す]
で表されるクルクミノイドの製造方法であって、
マロニルCoAおよび少なくとも1種の式II:
【0024】
【化6】


[式中、Arは、置換または無置換の芳香族基を表す]
で表されるカルボニルCoAを基質として、DCSタンパク質による酵素反応およびCURSタンパク質による酵素反応を実施することを含む。
【0025】
酵素反応は、基質と酵素とを接触することにより実施できるが、本発明の方法は、基質であるマロニルCoAおよび少なくとも1種の式IIのカルボニルCoAを、DCSタンパク質およびCURSタンパク質の双方と同時に接触させる場合だけでなく、各基質に各タンパク質を順次接触させる場合も包含する。例えば、マロニルCoAと式IIのカルボニルCoAを基質としてDCSタンパク質による酵素反応を実施し、これにCURSタンパク質と場合により別の式IIのカルボニルCoAを添加してさらに酵素反応を実施してもよい。
【0026】
従って、一実施形態において本発明の方法は、マロニルCoAおよび少なくとも1種の式IIで表されるカルボニルCoAを基質としてDCSタンパク質による酵素反応を行い、得られた反応物に、場合により別のまたは同一の式IIで表されるカルボニルCoAを添加して、CURSタンパク質による酵素反応を行うことを含む。
【0027】
式Iの化合物には、その異性体、例えば、立体異性体(幾何異性体、回転異性体、光学異体を含む)、および互変異性体も包含される。式Iの化合物の互変異性体として、以下の構造の化合物が挙げられる。以下、これら異性体を合わせて式Iの化合物と称する。
【0028】
【化7】

式中、Arは、同一でも異なっていてもよく、置換または無置換の芳香族基を表す。ここで、Arで表される芳香族基は、芳香環が式Iに表される炭素鎖に直接結合するものである。
【0029】
芳香族基としては、芳香族炭化水素基(アリール)および芳香族複素環基(ヘテロアリール)が挙げられる。
【0030】
芳香族炭化水素基は、5〜20個の炭素原子、好ましくは6〜14個の炭素原子、さらに好ましくは6〜10個の炭素原子を含む芳香族の単環式または多環式炭化水素環基をさす。具体的には、フェニル、ナフチル、インデニル、アズレニル、フルオレニル、アントラセニル、フェナントレニル、テトラヒドロナフチル、インダニルおよびフェナントリジニルなどが挙げられる。
【0031】
芳香族複素環基は、5〜20個の炭素原子、好ましくは6〜14個の炭素原子、さらに好ましくは6〜10個の炭素原子を含み、その際、1個以上の環炭素、好ましくは1〜4個の環炭素が、それぞれ、酸素原子、窒素原子または硫黄原子などのヘテロ原子で置き換えられている芳香族の単環式環基または多環式環基を意味する。具体的には、イミダゾリル、キノリル、イソキノリル、インドリル、インダゾリル、ピリダジル、ピリジル、ピロリル、ピラゾリル、ピラジニル、キノキサリル、ピリミジニル、ピリダジニル、フリル、チエニル、トリアゾリル、チアゾリル、カルバゾリル、カルボリニル、テトラゾリル、ベンゾフラニル、オキサゾリル、ベンゾオキサゾリル、イソオキサゾリル、イソチアゾリル、チアジアゾリル、フラザニル、オキサジアゾリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾチエニル、キノリニル、ベンゾトリアゾリル、ベンゾチアゾリル、イソキノリニル、イソインドリル、アクリジニルおよびベンゾイソオキサゾリルなどが挙げられる。
【0032】
芳香族基における置換基としては、例えば、ハロゲン(例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、ヒドロキシル、ニトロ、アミノ、メルカプト、シアノ、イソシアナート、カルボキシル、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C1-6アルコキシ、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、C1-6アルキルアミノ、C1-6アルキルチオ、アリール、ヘテロアリール等が挙げられる。好ましい置換基は、ハロゲン、ヒドロキシル、C1-6アルキル、C1-6アルコキシおよびフェニルである。基Arにおいて芳香族基が置換されている場合、置換基の数は、通常1〜3個、好ましくは1〜2個、より好ましくは1個である。芳香族基が複数の置換基を有する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。
【0033】
芳香族基としては、フェニル、フリル、チエニルおよびナフチルが好ましく、特に、以下の基が好ましい。
【0034】
【化8】

【0035】
これらの基は、上記置換基の1〜3個、好ましくは1〜2個、より好ましくは1個で置換されていてもよい。
【0036】
置換されたフェニルとしては、具体的には、以下の基:
【化9】

[式中、X、YおよびWは、同一または異なって、H、ハロゲン(好ましくは、フッ素または塩素)、ヒドロキシ、C1-6アルキル、C1-6アルコキシまたはフェニルを表す]が挙げられる。
【0037】
Arの好ましい具体例としては、以下が挙げられる:
【化10】

【0038】
本発明の方法で用いられる酵素は、式IIのカルボニルCoAとして、Arが、式:
【化11】


で表される、式:
【0039】
【化12】


のフェルロイルCoAに対して特異性を有することから、以下の式:
【0040】
【化13】


で表されるクルクミンの合成を特に効率的に実施することができる。
【0041】
本発明の方法によるクルクミノイドの合成は、以下のように進行すると考えられる。すなわち、まず式IIのカルボニルCoAがDCSタンパク質とチオエステル結合を形成し、これにマロニルCoAが反応することによりアシル鎖が伸長してジケタイドCoAが生成する。このジケタイドCoAが、CURSタンパク質とチオエステル結合を形成した別の式IIのカルボニルCoAと縮合することでクルクミノイドが合成される(図1)。本発明のクルクミノイドの製造方法では、副産物であるトリケタイドパイロンがほとんど生成しないため、主生成物であるクルクミノイドを効率的に生成できる。
【0042】
式IIで表されるカルボニルCoAは、単一種を用いても複数種を用いてもよい。単一種を用いると、用いたカルボニルCoAに由来する同一の基Arを2つ有する式Iのクルクミノイドが得られる。複数種を用いると、それぞれ基Arの異なるカルボニルCoAを用いることになり、各カルボニルCoAに由来する同一の基Arを2つ有する式Iのクルクミノイド、異なる基Arを1つずつ有するカルボニルCoA、またはこれらの混合物が得られる。すなわち、基質であるカルボニルCoAとして、基Arを有する式IIのカルボニルCoAおよび基Ar'を有する式IIのカルボニルCoAを用いることにより、基Arを2つ有する式Iのクルクミノイド、基Ar'を2つ有する式Iのクルクミノイド、基Arと基Ar'を有する式Iのクルクミノイド、またはこれら2種以上の混合物が得られる。
【0043】
式IIのカルボニルCoAとマロニルCoAからクルクミノイドが生成するまでの反応を1種の酵素で触媒する場合、異なる基Arを有する複数種のカルボニルCoAを基質として用いても、当該酵素に対して特異性の高いカルボニルCoAが優先的に基質として用いられるため、異なる基Arを有するクルクミノイドが生成する割合は低くなると考えられる。しかし、本発明のクルクミノイドの製造方法は、DCSタンパク質およびCURSタンパク質の2種の酵素がクルクミノイド合成における2段階反応をそれぞれ触媒することを特徴とし、カルボニルCoAとマロニルCoAからジケタイドCoAが生成する反応を主にDCSタンパク質が触媒し、ジケタイドCoAと別の式IIのカルボニルCoAからクルクミノイドが生成する反応を主にCURSタンパク質が触媒すると考えられる。従って、異なる基Arを有する複数種のカルボニルCoAを基質として用いる場合に、各カルボニルCoAを添加するタイミングおよびCURSタンパク質を添加するタイミングを調整することにより、異なる基Arを有するクルクミノイドでも効率的に生成することが可能になる。すなわち、最初に基Arを有するカルボニルCoAとマロニルCoAをDCSタンパク質に接触させて酵素反応を実施し、ある程度反応が進んだ段階で、基Ar'を有するカルボニルCoAとCURSタンパク質を添加して酵素反応を実施することにより、基Arと基Ar'を有するクルクミノイドを効率的に生成することができる。
【0044】
上記DCSタンパク質の具体例としては、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。本発明のDCSタンパク質には、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等のタンパク質が包含される。「機能的に同等」とは、対象となるタンパク質が、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の生物学的機能、生化学的機能を有することを指す。
【0045】
配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等のタンパク質としては、配列番号1のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、付加、挿入または置換されたアミノ酸配列からなり、III型ポリケタイド合成酵素の活性を有するタンパク質、好ましくはカルボニルCoAとマロニルCoAからジケタイドCoAを生成する活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0046】
上記CURSタンパク質の具体例としては、配列番号3、5または7のアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。本発明のCURSタンパク質には、配列番号3、5または7のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等のタンパク質が包含される。配列番号3、5または7のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等のタンパク質としては、配列番号3、5または7のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、付加、挿入または置換されたアミノ酸配列からなり、クルクミノイド合成酵素の活性を有するタンパク質、好ましくはジケタイドCoAとカルボニルCoAからクルクミノイドを生成する活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0047】
本明細書においては、配列番号1、3、5または7のアミノ酸配列からなるタンパク質、ならびに配列番号1、3、5または7のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等のタンパク質を、本発明のタンパク質と称する場合がある。
【0048】
配列番号1、3、5または7のアミノ酸配列における、1または数個のアミノ酸の欠失、付加、挿入または置換は、常用される技術、例えば、部位特異的変異誘発法(Zollerら、Nucleic Acids Res.10 6478-6500,1982)により、配列番号1、3、5または7のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAの配列(それぞれ、配列番号2、4、6または8の塩基配列)を改変することにより実施することができる。
【0049】
ここで、タンパク質の構成要素となるアミノ酸の側鎖は、疎水性、電荷、大きさなどにおいてそれぞれ異なるものであるが、実質的にタンパク質全体の3次元構造(立体構造とも言う)に影響を与えないという意味で保存性の高い幾つかの関係が、経験的にまた物理化学的な実測により知られている。例えば、異なるアミノ酸残基間の保存的置換の例としては、グリシンとプロリン、グリシンとアラニンまたはバリン、ロイシンとイソロイシン、グルタミン酸とグルタミン、アスパラギン酸とアスパラギン、システインとスレオニン、スレオニンとセリンまたはアラニン、リジンとアルギニン等のアミノ酸の間での置換が知られている。
【0050】
従って、配列番号1、3、5または7のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸の欠失、付加、挿入または置換が生じた結果得られたアミノ酸配列からなる変異型タンパク質であっても、その変異が配列番号1、3、5または7に記載のアミノ酸配列の三次元構造において保存性が高い変異であって、その変異型タンパク質が配列番号1、3、5または7のアミノ酸配列の活性を有しているのであれば、これらの変異型タンパク質もまた本発明のタンパク質に包含される。ここで、数個とは、通常2〜5個、好ましくは2〜3個である。
【0051】
また本発明のタンパク質には、配列番号1、3、5または7のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性、好ましくは少なくとも90%の同一性、より好ましくは少なくとも95%の同一性、さらに好ましくは少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質も包含される。
【0052】
本発明のタンパク質のうち、配列番号1、3、5または7のアミノ酸配列からなるタンパク質については、例えば、配列番号2、4、6または8の塩基配列における一連の3塩基を、当業者に公知の解析ソフトを用いて、その塩基の組み合わせ(すなわち、コドン)によりコードされている1つのアミノ酸に置き換えることにより得ることができる。そのアミノ酸配列が決定されたタンパク質は、その配列を元に当業者に公知の手法、例えば、ペプチド合成法に従って調製することができる。さらに、当該タンパク質をコードする塩基配列からなるDNAを含む組み換えベクターを作製し、該ベクターを適切な宿主中に導入して得られる形質転換体を培地で培養または飼育し、その培養物または飼育体から採取することによっても本発明のタンパク質を得ることができる。ここで使用する組み換えベクター、宿主、培地、各操作法および条件等については、当業者に公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができる。あるいは、無細胞タンパク質合成系により本発明のタンパク質を得ることもできる。無細胞タンパク質合成系は、細胞抽出液を用いて試験管内でタンパク質を合成する系である。「無細胞タンパク質合成系」は、mRNAの情報を読み取ってリボソーム上でタンパク質を合成する無細胞翻訳系とDNAを鋳型としてRNAを合成する無細胞転写系との両者を含む。無細胞タンパク質合成系は、系を容易に改変することができるため、目的のタンパク質に適した発現系を構築しやすいという利点がある。なお、無細胞タンパク質合成系の詳細については、特開2000-175695号などに記載されている。
【0053】
マロニルCoAおよび少なくとも1種のカルボニルCoAを基質として実施する、DCSタンパク質による酵素反応およびCURSタンパク質による酵素反応は、特に制限されないが、通常、pH6.0〜9.5、好ましくはpH7.5の緩衝液中、20〜55℃、好ましくは37℃で実施する。マロニルCoAの使用量は、反応系あたり、通常0.0001〜0.5質量%、好ましくは0.0001〜0.2質量%である。カルボニルCoAの使用量は、反応系あたり、通常0.0001〜0.5質量%、好ましくは0.0001〜0.2質量%である。本発明のタンパク質の使用量は、反応系あたり、それぞれ通常0.002〜2質量%、好ましくは0.004〜1.5質量%である。
【0054】
反応後、メタノール、エタノールなどによる沈殿法、酢酸エチルなどの有機溶媒を用いた抽出法、クロマトグラフィーなど公知の方法により、反応液からクルクミノイドを容易に回収することができる。
【0055】
本発明のクルクミノイドの製造方法において、マロニルCoAおよび少なくとも1種の式IIで表されるカルボニルCoAを基質として、DCSタンパク質による酵素反応およびCURSタンパク質による酵素反応を実施することには、DCSタンパク質および/またはCURSタンパク質を産生する形質転換体、その培養物またはその処理物によって酵素反応を実施することも包含される。形質転換体としては、DCSタンパク質を産生する形質転換体とCURSタンパク質を産生する形質転換体とを用いてもよいし、DCSタンパク質とCURSタンパク質の双方を産生する形質転換体を用いてもよい。DCSタンパク質および/またはCURSタンパク質を産生する形質転換体による酵素反応には、基質の存在下、DCSタンパク質および/またはCURSタンパク質を産生する形質転換体を培養することが含まれる。DCSタンパク質および/またはCURSタンパク質を産生する形質転換体として、DCSタンパク質および/またはCURSタンパク質をコードするDNAが導入された形質転換体を用いることができる。形質転換体としては、DCSタンパク質をコードするDNAが導入された形質転換体とCURSタンパク質をコードするDNAが導入された形質転換体とを用いてもよいし、DCSタンパク質をコードするDNAとCURSタンパク質をコードするDNAの双方が導入された形質転換体を用いてもよい。形質転換体の培養物および処理物は、DCSタンパク質および/またはCURSタンパク質を含むものである。培養物には培養上清が含まれ、形質転換体の処理物には、遠心分離などにより細胞を回収し適当な緩衝液などに懸濁したもの、細胞を有機溶媒などで処理したもの、細胞を加温処理したもの、細胞を破砕してタンパク質を分画したもの、精製されたタンパク質、ならびにこれらを多糖類やポリアクリルアミドなどで固定化したものなどが含まれる。
【0056】
DCSタンパク質をコードするDNAの具体例として、配列番号2の塩基配列からなるDNAが挙げられる。DCSタンパク質をコードするDNAには、配列番号2の塩基配列からなるDNAと機能的に同等のDNAが包含される。ここで「機能的に同等」とは、対象となるDNAによってコードされるタンパク質が、配列番号2の塩基配列からなるDNAによってコードされるタンパク質と同等の生物学的機能、生化学的機能を有することを指す。配列番号2の塩基配列からなるDNAと機能的に同等のDNAとしては、配列番号2の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、III型ポリケタイド合成酵素の活性、好ましくはカルボニルCoAとマロニルCoAからジケタイドCoAを生成する活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。
【0057】
CURSタンパク質をコードするDNAの具体例として、配列番号4、6または8の塩基配列からなるDNAが挙げられる。CURSタンパク質をコードするDNAには、配列番号4、6または8の塩基配列からなるDNAと機能的に同等のDNAが包含される。配列番号4、6または8の塩基配列からなるDNAと機能的に同等のDNAとしては、配列番号4、6または8の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、クルクミノイド合成酵素の活性、好ましくはジケタイドCoAとカルボニルCoAからクルクミノイドを生成する活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。
【0058】
ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、低ストリンジェントな条件および高ストリンジェントな条件が挙げられるが、高ストリンジェントな条件が好ましい。低ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば42℃、5×SSC、0.1% SDSで洗浄する条件であり、好ましくは50℃、5×SSC、0.1% SDSで洗浄する条件である。高ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば65℃、0.1×SSCおよび0.1% SDSで洗浄する条件である。上記のようなストリンジェントな条件下では、配列番号2、4、6または8の塩基配列と高い相同性(相同性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上)を有する塩基配列からなるDNAが、該DNAと相補的な塩基配列からなるDNAとハイブリダイズすることができる。
【0059】
DCSタンパク質およびCURSタンパク質をコードするDNAは、例えば、ウコン(学術名Curcuma longa)の組織から得ることができる。なお、実験手法に関しては、例えば、「Molecular Cloning(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning A Laboratory Mannual Second Edition (1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY」などに基づいて実施することができる。例えば、以下のようにして得ることができる。抽出・精製したRNAから、cDNAを作製し、ライブラリー化する。そして既知のデータベース情報から既に単離されている遺伝子情報を得て、これらの遺伝子の塩基配列を基に作成したオリゴヌクレオチドプライマーを利用するPCR法(例えば、Inverse-PCR法、アンカーPCR法、TAIL-PCR法)、あるいは該遺伝子のDNA配列をプローブに用いたハイブリダイゼーション法を実施することにより、該遺伝子に相同なcDNAを得ることができる。
【0060】
本発明のタンパク質をコードするDNAが導入された形質転換体は、例えば、本発明のタンパク質をコードするDNAを必要に応じて、PCRまたはクローニング技術を用いて増幅し、増幅されたDNAを適切な発現ベクターに組み込んで組み換えベクターを作製し、さらに該ベクターによって適切な宿主細胞を形質転換し、適切な培地中に培養することによって得ることができる。クローニング、形質転換などの技術については、例えば、Sambrook, J. et al., 1989(前掲)に記載されており、これらの手法を適宜選択して利用できる。
【0061】
本発明のタンパク質は、例えば、サッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属、トリコスポロン属およびピチア属などに属する酵母、エシェリヒア属、バチラス属、セラチア属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属およびシュードモナス属などに属する細菌、オリザ属、アラビドプシス属、ニコチアナ属、ソラナム属、ジンギベル属、およびクルクマ属などに属する植物細胞などの宿主ベクター系で発現させることができる。糸状菌などの菌類も宿主として使用できる。
【0062】
発現ベクターは、宿主細胞内で自律複製可能または相同組み換え可能であるとともに、プロモーターに加えてリボゾーム結合配列、転写終結配列、複製開始点なども適宜含みうる。ベクターの種類は特に限定されないが、プラスミド、ファージを含むウイルス、コスミドなどが挙げられる。発現ベクターの具体例として、細菌の場合、pBtrp2、pBTac1、pBTac2(ベーリンガーマンハイム社)、pQE(キアゲン社)、pET(ノバジェン社)、pBluescript(ストラタジーン社)など、酵母の場合、pXT1、pSG5、pSVK3、pBPV、pMSG、pSVL SV40(ストラタジーン社)、植物細胞の場合、植物ウイルス(例えば、カリフラワーモザイクウイルス等)が挙げられる。
【0063】
宿主細胞へのDNAの導入は、たとえばカルシウムイオンを用いる方法、プロトプラスト法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法などの一般的な方法で実施できる。あるいは、形質転換因子としてアグロバクテリウム(Agrobacterium)属菌(例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)、アグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes))を用いたT-DNAによる植物細胞の形質転換方法等を用いることができる。なお、プロトプラスト法、パーティクルガン法、形質転換因子を用いる方法については、例えば、植物代謝工学ハンドブック(NTS(株)社)に基づいて実施することができる。
【0064】
また、本発明においては、ベクターとして植物ウイルス(カリフラワーモザイクウイルス等)を用いることによって形質転換植物細胞を得ることもできる。すなわち、まず、植物ウイルスゲノムを大腸菌由来のベクターなどに挿入して組み換え体を調製した後、植物ウイルスゲノム中に、導入するDNAを挿入する。このように調製された植物ウイルスゲノムを制限酵素によって該組み換え体から切り出し、植物細胞に接種することによって、これらのDNAを導入することができる。なお、方法の詳細については、Hohnらの方法(Molecular Biology of Plant Tumors(Academic Press、New York)1982、pp549)、米国特許第4,407,956号明細書等を参考にすることができる。
【0065】
続いて、得られた形質転換体を培地で培養する。形質転換体を培地で培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。大腸菌や酵母菌等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0066】
炭素源としては資化可能な炭素化合物であればよく、例えば、グルコースなどの糖類、グリセリンなどのポリオール類、メタノールなどのアルコール類、またはピルビン酸、コハク酸もしくはクエン酸等の有機酸類を使用することができる。また、窒素源としては利用可能な窒素化合物であればよく、例えば、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、カゼイン加水分解物、大豆粕アルカリ抽出物、メチルアミンなどのアルキルアミン類、またはアンモニアもしくはその塩などを使用することができる。その他、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄、マンガン、亜鉛などの塩類、特定のアミノ酸、特定のビタミン、消泡剤なども必要に応じて使用してもよい。また、イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシドなどのタンパク質発現誘導剤を必要に応じて培地に添加してもよい。
【0067】
培養は、通常、振盪培養または通気攪拌培養などの好気的条件下、好ましくは0〜40℃、より好ましくは10〜37℃、特に好ましくは15〜37℃で培養を行う。培養期間中、培地のpHは宿主の発育が可能で、生産されたクルクミノイドの活性が損なわれない範囲で適宜変更することができるが、好ましくはpH 4〜8程度の範囲である。pHの調整は、無機または有機酸、アルカリ溶液等を用いて行う。培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0068】
DCSタンパク質をコードするDNAおよび/またはCURSタンパク質をコードするDNAが導入された形質転換体の培養を、基質としてのマロニルCoAおよび式IIのカルボニルCoAの存在下で実施することにより、クルクミノイドを合成することができる。
【0069】
本発明はまたクルクミノイドを調製するためのキットに関する。本発明のキットは、DCSタンパク質およびCURSタンパク質を含むか、DCSタンパク質をコードするDNAが導入された形質転換体およびCURSタンパク質をコードするDNAが導入された形質転換体を含むか、あるいはDCSタンパク質をコードするDNAおよびCURSタンパク質をコードするDNAが導入された形質転換体を含む。
【0070】
クルクミノイドは、抗酸化作用、抗炎症作用、創傷治癒の促進、血清コレステロール低下、体脂肪蓄積抑制効果等などの人体に有益な薬理活性が報告されている。また、クルクミノイドには、経口投与による大腸、結腸、十二指腸、胃、食道、口腔癌の予防効果や、血管新生の阻害、転移抑制などの制癌作用がある。このようにクルクミノイドはその多様な生理活性から近年非常に注目を集めており、産業上の利用価値は大きい。以上のような理由から、クルクミノイドは今後の需要の大幅な拡大が予想されるが、現在その生産は、熱帯・亜熱帯地域においてのみ栽培可能であるウコンからの抽出に頼っている。本発明は、医薬品や機能性食品として注目を集めているクルクミノイドおよび類縁化合物の微生物を含む、種々の生物種での生産・創製を可能とする。それまで有機合成や植物などの生体からの単離に依存してきた有用化合物の生産が、新規酵素の発見により微生物生産におきかわった例は無数にある。近年のメタボリックエンジニアリングの進展により、微生物による物質生産における生産量の増大は容易になり、実際、複雑な構造を有する二次代謝産物であっても微生物による大量生産が可能になる。
【実施例】
【0071】
大腸菌 (Escherichia coli) JM109株、pUC19、制限酵素、T4 DNAリガーゼはTakara biochemicalsより購入した。また、大腸菌BL21 (DE3) 株、BLR (DE3) 株、pET16bは、Novagen社より購入した。なお、プラスミドの安定な保持を目的として、アンピシリンをそれぞれ終濃度100 μg/mlになるよう培地中に加えた。N-アセチルシステアミン(NAC)はAldrich社より購入した。クルクミン、マロニルCoAは、Sigma社より購入した。フェルロイルCoA 、4-クマロイルCoAおよびシンナモイルCoAは、Blecherが報告した方法に従い合成した。シンナモイルジケタイド-NACはLokotらが報告した方法(Lokot, I. P., Pashkovsky, F. S., and Lakhvich, F. A. (1999) Tetrahedron 55, 4783-4792)に従い合成した。
【0072】
実施例1 DCS、CURS1、2、3をコードするcDNAの調製
(1)圃場にて4ヶ月生育させたウコンの根茎(約80 mg)から、RNeasy(登録商標)Plant Mini Kit (Qiagen)を用いてtotalRNAを抽出した。その後、混入したDNAを除去するためTURBO DNA-freeTMKit(Applied Biosystems)でDNase処理した後、RNeasy(登録商標)MinElute(登録商標)Cleanup Kit(Qiagen)で濃縮を行った。得られたtotalRNA(363.65ng)を鋳型として、SMARTTM RACE cDNA Amplification Kit(Clontech)およびPrimeScript(登録商標)Reverse Transcriptase (Takara)を用いてアンカー配列を付加したファーストストランドcDNAを作成した。ファーストストランドcDNAを鋳型として、以下に述べるような方法で各種のPCRを行い、DCS、CURS1、2、3をコードするcDNA(配列番号2、4、6、8)を得た。これらがコードするDCS、CURS1、2、3のアミノ酸配列を配列番号1、3、5、7にそれぞれ示す。
【0073】
(2) RACE法にてDCSの全長をコードするcDNAを得た。具体的には以下のように行った。
【0074】
(3) GenBank(NCBI)データベースに登録されているウコンのESTクローン配列を対象に、BLAST検索を行い、イネのos07g17010 cDNA配列と相同性が高い配列を複数得た。それらの配列をアラインメントし、相同性が高かった部分の配列情報を用いて、なるべく多くのEST配列にアニールすると思われる以下の混合プライマーA、Bを設計した。ウコンの配列はGCの塩基組成割合が高い部分が多く、ATGCが同程度に含まれるプライマーの設計が困難であった。そのため、相同性が高い部分とATGCの塩基が均等に存在する部分の兼ね合いを考慮して以下のプライマーとした。
プライマーA:5'-CTAYTTCCGSGTCACCAACW-3'(フォワード)(配列番号9)
プライマーB:5'-TGTTCTCSGCSARGTCCTT-3'(リバース)(配列番号10)
【0075】
(4) この2種類の混合プライマーA、Bを用いて、(1)のファーストストランドcDNAを鋳型としたPCRを行い、得られた産物をシーケンスした。複数の配列の混合物であるPCR産物をダイレクトシーケンスした時のメインシグナルが保存配列であると予測し、その配列情報を用いて、以下のプライマーCを設計した。
プライマーC:5'-CAGAAGACCAGGTGCGTGATGTC-3'(リバース)(配列番号11)
【0076】
(5) プライマーCを用いて5'-RACEを行い、その産物をダイレクトシーケンスした時のメインシグナルの配列情報を用いて、開始コドンと思われる配列の上流に、以下のプライマーDを設計した。
プライマーD:5'-GGTAACACGCGTCATTCTTTGC-3'(フォワード)(配列番号12)
【0077】
(6) プライマーDを用いて3'-RACEを行い、DCSの全長をコードするcDNAを得た。この際、他のキット(2種類)を用いて作成したcDNAを鋳型に用いると、RACE時に非特異産物が多数出現するなどして、目的の産物が得られなかった。SMARTTMRACE cDNA Amplification Kit (Clontech)を用いて作成したcDNAを鋳型すると、目的の産物が得られた。
【0078】
(7) CURS1の全長をコードするcDNAは、ESTクローン配列情報を利用して設計したプライマーを用いて(1)のファーストストランドcDNAを鋳型としてPCRすることによって得た。プライマー設計は具体的に、以下のように行った。
【0079】
(8) GenBank(NCBI)データベースに登録されているウコンのEST配列を対象に、BLAST検索を行い、イネのos07g17010 cDNA配列と相同性が高いクローン配列を20個得た。ESTクローン配列は短い配列の情報で、mRNAの全長配列情報を含む長い配列となっていない。そこで、これらの短い配列を、配列が共通した部分をのりしろにしてつなぎ合わせ、mRNAの全長配列情報を含むと思われる長い配列をいくつか作成した。EST配列には、ところどころ塩基の読み間違いがあり、また、ウコンのEST配列にはGとCの塩基の出現頻度が多く、類似パターンの配列が散見された。また、選択した20個のクローン配列は、類似した部分配列を持つ4種類の全長配列を構成するクローンの集まりだったため(4種類の全長配列の集まりであることは、DCS、CURS1、2、3のcDNAを実際に得て、配列が判明したところで、初めてわかった)、配列をアラインメント、アッセンブルするアプリケーションを用いても、パラメーターの設定が難しく、配列を容易につなぎ合わせることができなかった。そこで、全体の配列の類似性を人間の目で判断し、最も妥当だと思われる組み合わせで、配列をつなぎ合わせた。
【0080】
(9) 組み合わせた配列を様々な読み枠でアミノ酸に翻訳し、開始コドンから終止コドンまでの全長を含むと思われる配列αを作成した。その配列の開始コドンの上流配列を元にプライマーE、終止コドンの下流配列を元にプライマーFを設計した。
プライマーE:5'-CTCTGCGACTGCGAGAAGAAG-3' (フォワード)(配列番号13)
プライマーF:5'-GTCCTATAACAGATAGACAGC-3' (リバース)(配列番号14)
【0081】
(10) これらのプライマーを用い、(1)のファーストストランドcDNAを鋳型としてPCRを行った。その際、一般的に用いられるTaqポリメラーゼでは、目的配列が増幅されなかった。PCR時の熱変性温度を通常の95℃よりも上げることで、わずかに増幅が見られるようになったが、熱変性温度を97℃以上にするとTaqポリメラーゼが失活してしまうために、安定して増幅できなかった。そこで、熱耐性が高いPrimeStar(登録商標)GXL DNA polymerase(Takara)を用い、熱変性98℃10秒、アニーリング55℃30秒、伸長68℃2分の条件でPCRを行ったところ、目的配列が安定して増幅されるようになった。本PCRにより、CURS1の全長配列を含むcDNAが得られた。
【0082】
(11) CURS2、3の全長をコードするcDNAは、ESTクローン配列情報を利用して設計したプライマーを用いて(1)のファーストストランドcDNAを鋳型としてPCRすることによって得た。プライマー設計は具体的に、以下のように行った。
【0083】
(12) (8)と同様に、GenBank(NCBI)データベースに登録されているウコンのEST配列を対象に、BLAST検索を行い、イネのos07g17010 cDNA配列と相同性が高いクローン配列を得た。その中から、DCS、CURS1の配列と相同性が高いと思われる配列を除いた。残った配列を見比べ、全体の配列の類似性を人間の目で判断し、最も妥当だと思われる組み合わせで配列をつなぎ合わせた。
【0084】
(13) 組み合わせた配列を様々な読み枠でアミノ酸に翻訳し、開始コドンから終止コドンまでの全長を含むと思われる配列β、γを作成した。配列βの開始コドンの上流配列を元にプライマーG、終止コドンの下流配列を元にプライマーHを設計した。配列γの開始コドンの上流配列を元にプライマーIを設計した。終止コドンの下流配列を元にしたプライマーは(9)で設計したプライマーFを流用した。
プライマーG:5'-GCTAATCAGTCAATCCAGATGG-3' (フォワード)(配列番号15)
プライマーH:5'-CGTCTATCGATTGATCGATCGTG-3' (リバース)(配列番号16)
プライマーI:5'-CTGCTAGCTAGCTGCAATTCG-3' (フォワード)(配列番号17)
【0085】
(14) プライマーG、Hおよび、プライマーI、Fを用い、(1)のcDNAを鋳型としてPCRを行った。プライマーG、Hを用いたPCRにより、CURS2の全長配列を含むcDNAが得られた。プライマーI、Fを用いたPCRでは、目的配列の増幅が見られなかったため、プライマーIを用いた3'-RACEを行い、CURS3の全長配列を含むcDNAを得た。
【0086】
実施例2 組み換えタンパクの生成
(1) 実施例1で得られたDCS、CURS1、2、3の全長配列を含むcDNAを鋳型として、以下のプライマーにより増幅した。
<DCS>
フォワードプライマー: 5'-CCGGAATTCCATATGGAAGCGAACGGCTACCG-3'(配列番号18)
リバースプライマー: 5'-CGCGGATCCCTAGTTCAGTCTGCAACTAT-3'(配列番号19)
<CURS1>
フォワードプライマー: 5'-CCGGAATTCCATATGGCCAACCTCCACGCGTT-3'(配列番号20)
リバースプライマー: 5'-CGCGGATCCCTACAGTGGCATACTGCGCA-3'(配列番号21)
<CURS2>
フォワードプライマー: 5'-CCGGAATTCCATATGGCGATGATCAGCTTGCA-3'(配列番号22)
リバースプライマー: 5'-CGCGGATCCCTAAAGCGGCACGCTTTGGA-3'(配列番号23)
<CURS3>
フォワードプライマー: 5'-CCGGAATTCCATATGGGCAGCCTGCAGGCGAT-3'(配列番号24)
リバースプライマー: 5'-CGCGGATCCCTACGGTAATGGTACACTGC-3'(配列番号25)
フォワードプライマーの下線部はそれぞれEcoRIサイトおよびNdeIサイトを示し、リバースプライマーの下線部はBamHIサイトを示す。
【0087】
(2) 増幅したそれぞれの配列を、pUC19のEcoRI、BamHIサイトにそれぞれクローニングした。シークエンスによりエラーが入っていないことを確認した後、N末端側にHis-tagを付加した形でpET16bにクローニングし、pET16b-DCS、pET16b-CURS1、pET16b-CURS2、pET16b-CURS3 を構築した。
【0088】
(3) pET16b-DCS、pET16b-CURS1、pET16b-CURS2、pET16b-CURS3をそれぞれBL21(DE3)に導入し、得られた菌体を1 lのLB培地に植菌し、27℃で一晩振盪培養した。得られた菌体を集菌後、10% グリセロールを含む50 mM リン酸バッファー(pH8.0)に懸濁し、菌体破砕、遠心して可溶性分画を分け取った。これをHis-bind metal chelation resin (Qiagen)のカラムで精製した。得られたタンパク質は10% グリセロールおよび1mM ジチオスレイトールを含む50 mM リン酸バッファー(pH8.0)を用いて透析した。
【0089】
(4) CURSは、(3)の方法でタンパク質を得ると操作中に活性中心が酸化して活性が低下してしまい、正常な酵素活性を測定しにくかった。そこで、菌体集菌時に10 mMメルカプトエタノールおよび10% グリセロールを含む50 mM リン酸バッファー(pH8.0)に懸濁することにより、組み換えタンパク質CURSを得た。
【0090】
実施例3 DCS酵素活性の評価
(1) 実施例2で得られた組み換えタンパク質DCSを用いて、生成物を調査した。
【0091】
(2) 100 μMのカルボニル化合物(フェルロイルCoA 、4-クマロイルCoA)、100 μMのマロニルCoA、100 mMのリン酸カリウムバッファー (pH 7.5) および4.0μgのDCSを含む反応液100 μlを用いて反応を行った。
【0092】
(3) 反応液を37℃において1時間反応させ、LC-ESIMS/MS分析に供した。LC-ESIMS/MS分析はesquire high-capacity trap plus (HCT) system (Bruker Daltonics社) を用いて、HPLC分析はLaChrom ELITE system (Hitachi) を用いてそれぞれ行った。HPLC分析はPegasil-B C4逆相カラム(4.6 x 250 mm) (Senshu科学)を用い、25mMの酢酸アンモニウムを含む水に対するアセトニトリルの濃度を変化させるグラジエント(5分間 5%,35分間で5-40%,5分間で40-80%)、流速1.0 ml/minにより溶出を行った。
【0093】
(4) フェルロイルCoAとマロニルCoAを基質としてDCSを作用させると、フェルロイルジケタイドCoAの生成が確認された。また、37℃において1時間反応させた後、反応液に5μlの10M KOHを加え、65℃で10分間インキュベートすると、フェルロイルジケタイドCoAがアルカリ加水分解されたフェルロイルジケタイド酸の生成が見られた。さらに、5μlの6M HClを加えると、フェルロイルジケタイド酸が脱炭酸されたデハイドロジンゲロンの生成が見られた。このことから、DCSはフェルロイルCoA とマロニルCoAを基質として、フェルロイルジケタイドCoAを生成する反応を触媒することがわかった。DCSのフェルロイルCoAにおけるKm値は52μM、Kcat値は1.1min-1だった。また、反応最適pHは6.5-7.5(37℃)、最適温度は25-30℃(pH 7.5)だった。
【0094】
【化14】

【0095】
(5) フェルロイルCoAの代わりに4-クマロイルCoAを用いて反応を行い、アルカリ加水分解した後、酸性にすると、4-ハイドロキシベンザルアセトンが生成した。同濃度の基質を同スケールで反応させた時に、4-クマロイルCoAから生成する4-ハイドロキシベンザルアセトンが362 nmol/l/h であるのに対し、フェルロイルCoA から生成するデハイドロジンゲロンは、9189 nmol/l/hと、圧倒的に多かった。そのため、DCSは、フェルロイルCoAに対する基質特異性が高く、フェルロイルCoAからフェルロイルジケタイドCoAを生成しやすいことがわかった。
【0096】
実施例4 CURS酵素活性の評価
(1) 実施例2で得られた組み換えタンパク質CURS1、CURS2、CURS3を用いて、それぞれ生成物を調査した。
【0097】
(2) 100 μMのカルボニル化合物(フェルロイルCoA 、4-クマロイルCoA)、100 μMのマロニルCoAもしくはシンナモイルジケタイド-NAC、100 mMリン酸カリウムバッファー (pH 8.0) および、それぞれのCURS 4.0 μg を含む100 μlの反応液を用いて反応を行った。CURSの本来の基質だと考えられるフェルロイルジケタイドCoAの合成が難しいため、代わりにフェルロイルジケタイドCoAの類似化合物であるシンナモイルジケタイド-NACを基質として用いた。
【0098】
(3) 反応液を37℃において1時間反応させ、20μlの6M 塩酸を加えることで反応を停止させた。生成物を酢酸エチルにより抽出し、遠心エバポレーターにより濃縮した。得られた固体を20 μlのDMSOに溶解しLC-APCIMS/MSおよびHPLC分析に供した。LC-APCIMS/MS分析はesquire high-capacity trap plus (HCT) system (Bruker Daltonics社)を用いて、HPLC分析はLaChrom ELITE system (Hitachi)を用いてそれぞれ行った。HPLC分析はPegasil-B C4逆相カラム(4.6 x 250 mm) (Senshu科学)を用い、0.1%酢酸を含む水に対するアセトニトリルの濃度を変化させるグラジエント(45分間 10-100%)、流速1.0 ml/minにより溶出を行った。UVスペクトルはHitachi diode array detector L-2450により収集した。
【0099】
(4) フェルロイルCoAとシンナモイルジケタイド-NACを基質とすると、シンナモイルフェルロイルメタンが生成した。この結果により、CURS1、2、3は、フェニルプロパノイドジケタイドCoA(フェルロイルジケタイドCoA,4-クマロイルジケタイドCoA、シンナモイルジケタイドCoAなどの総称)とフェニルプロパノイドCoAを基質として、クルクミノイドを生成する活性があることが明らかになった。シンナモイルフェルロイルメタン生成時のCURS1のフェルロイルCoAにおけるKcatおよびKm値は1.1min-1および18μMで、シンナモイル-4-クマロイルメタン生成時の4-クマロイルCoAにおけるKcatおよびKm値は0.85min-1および189μMだった。また、反応最適pHは9 (37℃)、最適温度は50℃(pH 8.0)だった。同様にCURS2、CURS3のシンナモイルフェルロイルメタン生成時のフェルロイルCoAにおけるKcatおよびKm値は、それぞれ、0.41min-1、0.19min-1および4.3μM、2.2μMで、シンナモイル-4-クマロイルメタン生成時のp-クマロイルCoAにおけるKcatおよびKm値は0.94min-1、0.36min-1および89μM、3.5μMだった。
【0100】
【化15】

【0101】
(5) CURS1は、フェルロイルCoAとマロニルCoAを基質とすると、微量のクルクミンの生成が確認された。このことから、CURS1は、フェルロイルジケタイドCoAとフェルロイルCoAからクルクミンを生成する反応を触媒する活性とともに、DCSと同様の、フェルロイルCoAとマロニルCoAからフェルロイルジケタイドCoAを生成する反応を触媒する活性も僅かに有しているため、最終産物として微量のクルクミンが生成したと考えられた。CURS2,3についても、本反応系ではクルクミンの生成が見られなかったが、大腸菌内で反応を行うと、微量のクルクミンの生成が見られたため、CURS1と同じく、DCSと同様の活性を僅かに有していると考えられた。
【0102】
【化16】

【0103】
実施例5 DCSおよびCURSを共存させた時のクルクミノイド生成
(1) 実施例2で得られた組み換えタンパク質DCSおよびCURS1,2,3を用いて、生成物を調査した。
【0104】
(2) 100 μMのフェルロイルCoA、100 μMのマロニルCoA、100 mMリン酸カリウムバッファー (pH 7.5)および組み換えタンパク質(DCS、CURS1,2,3)を含む100 μlの反応液を用いて反応を行ったところ、それぞれの反応生成物量は以下のようになった。この際、フェルロイルジケタイドCoAは直接定量が難しいので、フェルロイルジケタイドCoAを非酵素的にアルカリ加水分解後、酸性にすることにより生成するデハイドロジンゲロンの生成量を測定した。分析操作は実施例3と同様に行った。
【0105】
【表1】

【0106】
【化17】

【0107】
(3) 以上の結果から、DCSとCURSを用いて2段階反応を行い、効率的にクルクミノイドが合成できることが示された。DCSおよびCURSは副産物であるトリケタイドパイロンをほとんど生成しないので、クルクミノイドを効率的に生成させることができる。また、基質としてフェルロイルCoAを好むため、天然のウコンが最も多く生産しているクルクミンを効率よく合成することができる。さらに、2段階反応を分けて行うことで、左右非対称のクルクミノイドを簡便に作成することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)または(b)のタンパク質:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号1のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、付加、挿入または置換されたアミノ酸配列からなり、III型ポリケタイド合成酵素の活性を有するタンパク質。
【請求項2】
以下の(a)または(b)のタンパク質:
(a)配列番号3、5または7のアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号3、5または7のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、付加、挿入または置換されたアミノ酸配列からなり、クルクミノイド合成酵素の活性を有するタンパク質。
【請求項3】
式I:
【化1】

[式中、Arは、同一でも異なっていてもよく、置換または無置換の芳香族基を表す]
で表されるクルクミノイドの製造方法であって、
マロニルCoAおよび少なくとも1種の式II:
【化2】

[式中、Arは、置換または無置換の芳香族基を表す]
で表されるカルボニルCoAを基質として、請求項1記載のタンパク質による酵素反応および請求項2記載のタンパク質による酵素反応を実施することを含む、前記方法。
【請求項4】
以下の(a)または(b)のDNA:
(a)配列番号2の塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号2の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、III型ポリケタイド合成酵素の活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項5】
以下の(a)または(b)のDNA:
(a)配列番号4、6または8の塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号4、6または8の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、クルクミノイド合成酵素の活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項6】
請求項4および/または請求項5記載のDNAを含むベクター。
【請求項7】
請求項4および/または請求項5記載のDNAが導入された形質転換体。
【請求項8】
式I:
【化3】

[式中、Arは、同一でも異なっていてもよく、置換または無置換の芳香族基を表す]
で表されるクルクミノイドの製造方法であって、
マロニルCoAおよび少なくとも1種の式II:
【化4】

[式中、Arは、置換または無置換の芳香族基を表す]
で表されるカルボニルCoAの存在下、
請求項4記載のDNAが導入された形質転換体および請求項5記載のDNAが導入された形質転換体を培養すること、あるいは
請求項4記載のDNAおよび請求項5記載のDNAが導入された形質転換体を培養すること
を含む、前記方法。
【請求項9】
請求項1記載のタンパク質および請求項2記載のタンパク質を含む、クルクミノイドを調製するためのキット。
【請求項10】
請求項4記載のDNAが導入された形質転換体および請求項5記載のDNAが導入された形質転換体、あるいは
請求項4記載のDNAおよび請求項5記載のDNAが導入された形質転換体
を含む、クルクミノイドを調製するためのキット。

【図1】
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【公開番号】特開2010−200630(P2010−200630A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47032(P2009−47032)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(502063110)
【出願人】(509059228)
【出願人】(000111487)ハウス食品株式会社 (262)
【Fターム(参考)】