説明

クルマエビ属ホワイトスポット病用経口ワクチン

【課題】クルマエビ属のホワイトスポット病の予防対策としては、ウイルスフリーの親エビの選別、受精卵の消毒などの垂直感染に対する予防対策がとられている。しかし、同対策がコスト面や労力面から有効な手法とはいえないこと、養殖場では、WSDVが水平的な感染によっても伝播することが確認されていることから、クルマエビ属のホワイトスポット病の感染拡大を効果的に防止する対策の早急な確立が望まれている。本発明の目的は、同病の垂直感染および水平的な感染を効率的に防ぐ経口ワクチンを提供することにある。
【解決手段】 ホワイトスポット病ウイルスの外被タンパク質に着目し、同タンパク質の組換えタンパク質を含有する経口ワクチンを作製することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クルマエビ属のホワイトスポット病ウイルス(White spot syndrome virus)による感染症、即ち、ホワイトスポット病(White spot disease)の予防に有効な経口ワクチンに関する。更に詳しくは、クルマエビ属のホワイトスポット病に対して優れた予防効果を有し、ホワイトスポット病ウイルス感染からの感染防御や該ウイルス感染に伴うクルマエビ属の死亡や損失の減少に極めて有効な経口ワクチン、および該経口ワクチンを含有するクルマエビ属用飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国では、放流による資源の維持或いは回復を目的とした栽培漁業、或いは水産物の計画的かつ安定した生産供給が可能である養殖業等のつくり育てる漁業の振興に力が注がれている。しかし、養殖現場では、ウイルス感染などによる病害問題が深刻化しつつある。特に、クルマエビ属の急性ウイルス血症(penaeid acute viremia)は、中国から輸入されたクルマエビの種苗を発生源として周辺の養殖場へ伝播し、養殖用だけでなく放流用の人工種苗の生産に著しい支障を来たしている(非特許文献1、2)。同病によって、2000年に9億円、2001年には2億円、2002年及び2003年には3億円の被害が国内の養殖生産において生じたとの報告がなされている(農林水産省調べ)。
【0003】
クルマエビ属の急性ウイルス血症(penaeid acute viremia)は、1992年に台湾で初めて発生し、その後、日本を始めアジア諸国へ伝播するとともに、1990年代後半にはアメリカ大陸にも拡散して甚大な被害をもたらしている。世界で養殖されているエビの大部分はクルマエビ属のエビであること、そして、本病はクルマエビ属の全ての種に致死的であると考えられていることから、本病はエビ養殖の最重要疾患となっている(非特許文献3)。
【0004】
クルマエビ属の急性ウイルス血症は、国際的にはホワイトスポット病(white spot disease(WSD))あるいはホワイトスポットシンドローム(white spot syndrome(WSS))と呼ばれている。ホワイトスポット病に罹ったエビには、外骨格に白点もしくは白斑が認められ、これが病名の由来となっている。上述したように、同病は世界的に伝播しており、養殖クルマエビ、ウシエビ(Penaeus monodon)、レッドテールシュリンプ(P. penicillatus)、及びコウライエビ(P. chinensis)、更には、インドエビ、バナナエビ、ホワイトレッグシュリンプ、およびノーザンホワイトシュリンプなどでその自然発生が確認され、日本では、ヨシエビにおける発症例がある(非特許文献2)。
また、同病に罹ったエビは、病理組織学的には、胃をはじめとするクチクラ層下の上皮組織、結合組織、リンパ様器官、造血組織などの中・外肺葉起源の組織には、細胞の核の肥大と無構造化が特徴的に認められる。これら細胞を電子顕微鏡観察すると、上皮細胞層の肥大した核内に桿状のウイルス粒子が密集している(非特許文献1、2)。
【0005】
ホワイトスポット病の原因ウイルスであるホワイトスポットシンドロームウイルス(white spot syndrome virus)は、ニマウイルス科に分類されている。同ウイルスは、ゲノムがdsDNAでエンベロープを有し、分子量が15〜28キロダルトンの範囲にあるVP15、VP19、VP24、VP26、及びVP28の外被タンパク質を有している。これら外被タンパク質は、VP15、VP24、及びVP26がヌクレオチドカプシド、VP19及びVP28がエンベロープにある(非特許文献4、http://phene.cpmc.columbia.edu./ICTVdB/descindex.htm)。
【0006】
ホワイトスポットシンドロームウイルスは、我が国では最初、RV-PJ(rod-shaped nuclear virus of Penaeus japonicus)と呼ばれていたが、その後、病名としてクルマエビ属の急性ウイルス血症(penaeid acute vireumia)が提案されるとともにPRDV(penaeid rod-shaped DNA virus)と再命名された。現在、国際的には、ウイルス名はホワイトスポット病ウイルス(white spot disease virus(WSDV))が用いられている(非特許文献3)。本願においては、国際的命名にならい、ホワイトスポットシンドロームウイルスをホワイトスポット病ウイルスと呼び、以下においてWSDVと略して示す。また、クルマエビ属の急性ウイルス血症についても、国際的命名にならい、ホワイトスポット病(white spot disease(WSD))と呼び、以下においてWSDと略して示す。
【0007】
WSDVの主たる感染経路は、親エビからの垂直感染である(非特許文献3)。従って、人工的に親クルマエビから排卵し種苗を生産する過程では、常に親エビから種苗にWSDVが感染する恐れがある。そこで、WSDVの垂直感染対策として、ウイルスフリー親エビの選別とヨード消毒による予防対策がおこなわれている(非特許文献3、5)。具体的には、産卵後の雌親エビの受精嚢を摘出し、WSDV遺伝子の存在の有無をPCR法により検査して陰性と判定された親エビの卵のみを種苗生産に用いるウイルスフリーの親エビを選別する方法が最も有効であると報告されている(非特許文献5)。しかし、大量の養殖エビを扱う種苗施設や養殖現場では、親エビのウイルス保有状況を確認し、ウイルスフリーの受精卵を選別する方法による垂直感染対策を講じることは、コスト面や労力面から有効な手法とはいえない。これら問題点のため、現在、クルマエビ養殖種苗の生産では、垂直感染対策が十分にとられていないのが現状であり、ある程度の垂直感染が起こった状態での種苗を使用するケースもある。
【0008】
一方、WSDVは水平的な感染によっても伝播することが確認されている(非特許文献3)。養殖池や中間育成施設などの養殖環境には様々な甲殻類が生息しているが、これら甲殻類からWSDVが検出され、WSDが流行している養殖池から採集されたアシハラガニ(Helice tridens)との同居法によりクルマエビにWSDの発症が認められている。更には、WSDV保有個体との同居、感染組織の経口投与、感染組織磨砕濾液の筋肉注射あるいは飼育海水への添加のいずれによってもWSDが容易に再現されたこと、経口法や筋肉注射では接種1日後から死亡個体が現れ、数日以内に高死亡率に達するなど病状の進行が極めて早いこと、そして、養殖池におけるWSDの急激な流行には、死亡ないし衰弱個体を健康エビが摂食することによる経口感染が重要な要因であることについての報告がある(非特許文献3)。したがって、WSDの感染を防ぐには、垂直感染と水平的な感染の両方を効率的に防ぐ対策を早急に確立する必要がある。
【0009】
WSDの感染拡大を効率的に防ぐ対策として、ペプチドグリカンなどの免疫賦活化物質の経口投与が実験的に有効であると報告なされている。実際に、免疫賦活化物質が市販配合飼料に添加され使用されているが、現場における効果は明瞭ではない(非特許文献3)。
【0010】
従来から魚類養殖の現場では、疾病を予防する方法としてワクチンを投与する方法が知られており、主に不活性化した病原菌から調製される浸漬ワクチン、経口ワクチン、注射ワクチンの3種類がある。このうち、注射ワクチンは直接に対象魚の腹腔内に注射することにより投与されるもので、3種類のワクチンの中で最も高い効果が得られる。我が国においては、マダイのイリドウイルス病用のワクチンが開発されている。ヨーロッパを中心に冷水性ビブリオ病に対するアジュバンド(ワクチン効果促進物質)添加の注射ワクチンが高い効果を示すことが証明されている。しかし、注射ワクチンは、稚魚への適用が困難であること、投与するのに多大な労力を必要とすること、直接に対象魚の腹腔内に注射することから対象魚に与えるストレスが大きいことなどの課題がある。特に、クルマエビにおいては、陸上水槽から養殖現場へ移す段階、いわゆる池入れ時期の稚苗の体重がおよそ0.05gであることを考慮すると、注射ワクチンの適用は困難である。また、養殖現場においては、経口的水平伝播によってWSDVが感染することを考慮すると、注射投与後3週間、しかも2回注射で効果が生じる注射ワクチンによりWSDVの感染を迅速に防ぐことは困難である。更に、アジュバンド添加の注射ワクチンの場合、投与部位にアジュバンドが残留した報告があること(特許文献1)等から安全性の問題が懸念される。
浸漬ワクチンは、予め調製したワクチン液に対象魚を所定の時間浸すことにより投与されるため、注射ワクチンと比べて対象魚へストレスの負担をかけず、労力の負担も少なく投与することができる。しかし、対象魚に取り込まれるワクチンが少量であるため、実用化されているのはアユおよびマス類のビブリオ病ワクチンに限られている。また、経口的水平伝播によってWSDVが感染することを考慮すると、鰓からの免疫抗原の投与となる浸漬処理によるワクチン投与法は、WSDVの経口的水平伝播(径消化管感染)を十分に防げるとは言えない。
【0011】
これに対して経口ワクチンは、配合飼料に混入しエビに給餌させるなどして大量投与が可能である点で養殖現場に適したワクチン形態であると言える。特に、稚苗用のクルマエビ属用配合飼料に混入させて投与することで稚エビの段階から投与が可能であるため、陸上水槽から養殖現場へ移す段階、いわゆる池入れ時期の稚エビに投与することができる。また、経口ワクチンは、飼料として経口投与するため追加免疫がより簡便におこなえるため、場合によっては数回の注射投与を必要とする注射ワクチンや、浸漬処理を必要とする浸漬ワクチンと比べて養殖現場で容易に投与することができる。
更に、注射ワクチンが全身系の免疫を賦活し血液中に抗体を作らせるものの、大多数のウイルスが侵入してくる咽頭や腸管の粘膜に抗体を作らせないのに対し、経口ワクチンは粘膜固有の抗体と血液中の抗体との両方を作らせるという特徴を有する。腸管の粘膜が免疫されると体全体の粘膜免疫(例えば咽頭や鼻粘膜)が賦活されるので、経口ワクチンは、あらゆる侵入口への対応が可能である。
このように経口ワクチンは、優れた点を持ち合わせているが、投与量の把握が難しいことや、胃などで消化作用を受けて変性するため効果が低いことが懸念され、その開発は殆ど試みられてこなかった。特に、無脊椎動物に属するエビをはじめとする甲殻類については、脊椎動物とは異なって獲得免疫系を有しないとされていたことから、経口ワクチンを含めワクチンの開発は殆んど試みられてこなかった。
【0012】
近年、クルマエビにおいて、WSDV感染に対する抵抗性が認められたことが報告されている。Venegasらは、WSDV感染耐過クルマエビ(Penaeus japonicus)がWSDVの再感染に対して抵抗性を獲得したこと(非特許文献1)、Wuらは、その抵抗性はウイルス感染後約1か月後から認められ、少なくとも2か月後まで維持されたこと(非特許文献9)を報告している。
また、WSDVの外被タンパク質を免疫原として用いた研究も試みられている。Namikoshiらは、WSDVの外被タンパク質VP26とVP28の組換えタンパク質(rVP26、rVP28)を筋肉注射投与したクルマエビを対象としてWSDVについての注射攻撃試験をおこなったところ、クルマエビがWSDVに対して抵抗性を示したことを報告している(非特許文献8)。Witteveldtらは、遺伝子操作によってWSDVの外被タンパク質VP19、VP28それぞれを過剰発現させた大腸菌組換え菌体を経口投与したウシエビ(Penaeus monodon)を対象としてWSDVについての浸漬攻撃試験をおこなったところ、ウシエビがWSDVに対して抵抗性を示したことを報告している(非特許文献6)。
【0013】
上記の報告がなされているものの、WSDV感染を効果的に防ぐ経口ワクチンの開発については課題が残されたままである。Namikoshiらの報告(非特許文献8)は、WSDVの外被タンパク質VP26とVP28の組換えタンパク質のワクチン効果は、1回目の注射よりも2回目の注射のほうが上回ると報告していており、上記に示した注射ワクチンの課題を解決する手段を提供するに至っていない。Witteveldtらの報告(非特許文献6)は、組換え外被タンパク質VP19およびVP28そのものではなく、これら組換え外被タンパク質を過剰発現させた大腸菌を経口投与した結果を報告したものであり、大腸菌由来のリポサッカライドやDNAなどの食品の見地からは安全性が懸念される生体物質がクルマエビ体内に取り込まれることが考えられる。従って、Witteveldtらの報告は、養殖現場での実用化に適したWSD用経口ワクチンについて教示するものとは言えない。
【0014】
【特許文献1】特開2005-12369
【非特許文献1】C.A. Venegasら、Dis Aquat Org 42: 83-89 (2000)
【非特許文献2】江草周三ら、魚介類の感染症・寄生虫病、99-103頁 恒星社厚生閣 (2004)
【非特許文献3】桃山 和夫ら、魚病研究、Fish Pathology,40(1), 1-14, (2005)
【非特許文献4】国際ウイルス分類委員会(ICTV)第8次報告
【非特許文献5】佐藤 純ら、栽培技研、30:101-109(2003)
【非特許文献6】J. Witteveldtら、J. Virol. 78: 2057-2061 (2004)
【非特許文献7】J. L. Wuら、Dis Aquat Org 47: 129-134 (2001)
【非特許文献8】A. Namikoshiら、Aquaculture 229: 25-35 (2003)
【非特許文献9】J. L. Wuら、Fish Shellfish Immunol 13: 391-403 (2002)
【非特許文献10】橘高二郎ら、エビ・カニ類の増養殖、8-12頁 恒星社厚生閣 (1996)
【非特許文献11】野中 里佐ら、魚病研究、33, 115-121 (1998)
【非特許文献12】Amendら、Potency testing of fish vaccine. In: Anderson, D.P., Hennessen, W. (Eds.) Fish Biologics: Serodiagnostics and Vaccines. S. Karger, Basel, pp. 447-454
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、以上のような背景技術の状況を考慮し、養殖現場において、WSDの垂直感染と水平的な感染の両方を効率的に防ぎ、同病に対して極めて有効な予防効果を発揮する経口ワクチンを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記諸問題を解決すべく、WSDVの外被タンパク質(VP)を遺伝子操作技術により大腸菌で過剰発現させ、該外被タンパク質を経口ワクチンとして使用することに着目した。即ち、遺伝子操作技術により大腸菌で過剰発現させて得たWSDVの外被タンパク質(VP)を経口ワクチンとしてクルマエビに投与したところ、注射攻撃試験、浸漬攻撃試験、および経口攻撃試験において、WSDV感染によるによるクルマエビの死亡率が有意に低下したこと確認し、本発明に至った。本発明は、以下の1〜4に関する。
【0017】
1.クルマエビ属ホワイトスポット病ウイルス(White spot syndrome virus)の組換え外被タンパク質を含有するホワイトスポット病(White spot disease)用経口ワクチン。
2.組換え外被タンパク質が、配列番号:1(図2)に記載のアミノ酸配列、または該アミノ酸配列に対して1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失または付加されているアミノ酸配列を含むものである、上記1に記載の経口ワクチン。
3.組換え外被タンパク質が、配列番号:2(図4)に記載のアミノ酸配列、または該アミノ酸配列に対して1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失または付加されているアミノ酸配列を含むものである、上記1に記載の経口ワクチン。
4.上記1〜3のいずれか1つに記載の経口ワクチンを含有するグルマエビ属用飼料。
【発明の効果】
【0018】
本発明のWSDVの組換え外被タンパク質を含有するWSD用経口ワクチンは、クルマエビを対象とした注射攻撃、浸漬攻撃、および経口攻撃試験においてWSDV感染によるクルマエビの死亡率が有意に低下したことが認められたので、クルマエビ属のWSDの垂直感染と水平的な感染の両方を効率的に防ぎ、同病に対して極めて有効な予防効果を発揮する。また、本発明のWSDVの組換え外被タンパク質を含有するWSD用経口ワクチンは、クルマエビ属用飼料に混入させるなどして投与することが可能なので、養殖現場等におけるWSDの予防対策として極めて有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のクルマエビ属とは、分類学上、クルマエビ科に属するエビ、具体的には、ウシエビ(Peneaeus monodon)、レッドテールシュリンプ(Peneaeus penicillatus)、コウライエビ(Peneaeus chinensis)、クルマエビ(Peneaeus japonicus)等が含まれる(非特許文献10)。
【0020】
本発明の外被タンパク質とは、VP15、VP19, VP24, VP26, またはVP28、好ましくは、VP26(配列番号:1、図2) またはVP28(配列番号:2、図4)である。従って、本発明の組換え外被タンパク質とは、前述の外被タンパク質の組換えタンパク質、好ましくはVP26またはVP28の組換えタンパク質である。以下、外被タンパク質はVPと、組換え外被タンパク質はrVP(recombinant VP)と記す。これに伴い、VP26、及びVP28の組換えタンパク質は、rVP26(recombinant VP26)、及びrVP28(recombinant VP28)と記す。
【0021】
rVPは、rVP26及びrVP28を例として、次の如くして取得することが可能である。
【0022】
VP26およびVP28をコードする遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)の両側に存在する配列を利用し、V26およびVP28遺伝子をクローニングするためのPCR用プライマーを設計する。V26およびVP28をコードする遺伝子としては、GenBankに登録されているVP26及びVP28遺伝子のヌクレオチド配列(それぞれGenBank登録番号AF173992、AF173993)(Hultenら、Virology 266, 227-236)を利用することができる。これらヌクレオチド配列に基づいて、常法に従いPCR用プライマーを設計することができる。
【0023】
前述したPCR用プライマーを用いて、予めWSDV感染クルマエビより抽出したウイルスDNAからVP26及びVP28遺伝子の増幅を行う。PCRにより得られた遺伝子産物をプラスミドベクター、例えばpCR-Script SK(+)に挿入し組換え体プラスミドを作製する。得られた組換え体プラスミドを用いて、タンパク質発現用宿主細胞、例えば大腸菌(DH5α)のコンピテント細胞を形質転換し、該宿主細胞を培養する。培養後の宿主細胞から常法によりVP26及びVP28遺伝子を抽出する。得られたVP26及びVP28遺伝子のヌクレオチド配列を、例えばダイ ターミネーターサイクル シーケンシング キット(ABI社)により解析し、GenBankに登録されているVP26及びVP28遺伝子のヌクレオチド配列と同一であることを確認する。
【0024】
次いで、上記の工程で得られたVP26及びVP28遺伝子のヌクレオチド配列に基づいて、rVP26及びrVP28遺伝子の組換え体を作製し、rVP26及びrVP28を発現させる。具体的には、VP26、及びVP28遺伝子のヌクレオチド配列に基づいて、5’末端に制限酵素の認識部位を含むリンカー配列を付した発現用のPCRプライマー(以下、発現用PCRプライマーとする)を設計する。設計した発現用PCRプライマーを用いて、WSDVに感染したクルマエビより抽出したDNAをPCR増幅反応に供する。PCR増幅反応の後、発現用PCRプライマーのリンカー配列を認識する制限酵素でPCR産物を消化し、所望するDNA断片を回収する。回収したPCR断片を発現ベクター、例えばpET-25b(+)(ノバゲン社(Novagen))へ挿入して組換えプラスミドを作製する。このようにして作製した組換えプラスミドを用いて発現宿主細胞、例えば大腸菌(BL21)のコンピテント細胞を形質転換する。次いで、形質転換菌をIPTG(イソプロピル-1-1-チオ-b-D-ガラクトシド)存在下の適切な条件下で培養し、rVP26、及びrVP28発現誘導を行う。
【0025】
このようにして発現誘導されるrVP26、及びrVP28は、大腸菌中で高次凝集物である封入体(inclusion body)として不溶性画分に現れる。従って、rVP26、及びrVP28は、封入体の精製に広く用いられている方法、例えば、遠心分離及び界面活性剤等を用いた洗浄操作を繰り返すことにより宿主である大腸菌から容易に精製することができる。また、封入体に混入する恐れのある大腸菌由来のDNA等の核酸については、これら方法と超音波処理などの機械的破壊方法を組み合わせることで除去することができる。具体的には、以下のようにしてrVP26、及びrVP28を大腸菌から精製することができる。
上記の培養後、形質転換細胞を含む培養液を低温で冷蔵した後、遠心分離にかける。遠心分離により得られた沈殿物を緩衝液、例えば、TE緩衝液(50mMトリス−HCl (pH8.0)− 2mM EDTA)に懸濁し、これにリゾチーム及びトリトン X-100(Triton X-100)などの界面活性剤を加えた後、超音破砕機にかけて菌体を溶解するとともに菌体の核酸を破砕する。超音破砕処理後の懸濁液を更に遠心分離にかけ、ここで得られる沈殿物を緩衝液、例えば、リン酸緩衝生理的食塩水(PBS)に再懸濁する。
【0026】
上記工程の最終産物であるPBS溶液にrVP26及びrVP28が含まれることは、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)等の方法により確認することができる。具体的には、SDS-PAGE電気泳動により、前述のrVP26及びrVP28が、それぞれVP26及びVP28と同一のタンパク質であることを確認することができる。このようにして得られるrVP26及びrVP28は、宿主細胞である大腸菌由来のDNA等の核酸、及びリポサッカライドなどを含んでおらず、免疫抗原、及びワクチン製品として使用することができる。
【0027】
かくして得られるrVP26及びrVP28としては、配列番号:1(図2)及び配列番号:2(図4)に記載のアミノ酸配列、又はこれらアミノ酸配列に対して1個若しくは数個のアミノ酸配列が置換、欠失又は付加されているアミノ酸配列を有するものが挙げられる。かかる置換、欠失又は付加の程度は、配列番号:1(図2)及び配列番号:2(図4)に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質と同様のワクチン活性を有する範囲であれば特に制限されない。
【0028】
本発明で得られたrVP26及びrVP28を投与したクルマエビは、後述の実施例において、WSDVによる経口、浸漬、および注射ウイルス攻撃を行っても非接種群に比べて有意に死亡率が低下したことが確認された。よって、本発明で得られるrVP26及びrVP28は、WSDVに対するワクチンとして有用である。
【0029】
本発明のrVP26及びrVP28をワクチンとして投与できるエビは、分類学上のクルマエビ科に属するものであれば特に限定されず、Penaeus属のウシエビ(Peneaeus monodon)、レッドテールシュリンプ(Peneaeus penicillatus)、コウライエビ(Peneaeus chinensis)、クルマエビ(Peneaeus japonicus)等が挙げられる。また、本発明のワクチンの投与形態としては、特に制限されず、経口、注射、浸漬剤でもよいが、好ましくは経口剤がよい。これら製剤を製造するに際しては、本願発明の外被組換えタンパク質以外に安定化剤、界面活性化剤などを適宜添加することができる。更に、本発明のrVP26及びrVP28をワクチンとして経口投与する場合には、rVP26及びrVP28をクルマエビ用の配合飼料に混合させて投与してもよい。該配合飼料は、クルマエビ養殖において使用されるものであれば特に限定されず、例えば、稚エビ用4号、育成用シグマP-1(マルハ株式会社製)などが挙げられる。
【実施例】
【0030】
以下本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0031】
実施例1:VP26、及びVP28遺伝子のクルマエビからの取得
(1)ウイルスDNA試料の調製
野中ら(非特許文献11)に記載のRNase-PEG沈法により、WSDVウイルスに感染したクルマエビ(Peneaeus japonicus)組織からWSDVのDNA抽出液を調製した。具体的には、以下の通りである。
1.5ml容のマイクロチューブ内でWSD病エビ組織約0.2gを300mlのプロティナーゼK(0.1mg/ml)とSDS(10mg/ml)の混合液とともに磨砕した後、37℃で15分間静置した。これに等量のTE緩衝液(50mMトリス−HCl (pH8.0)− 1mM EDTA)飽和フェノールを加え約1分間激しく攪拌した後、遠心分離(12,000 x g、5分間)を行って水層を回収した。回収した水層について再度フェノール抽出を行った後、等量のクロロホルム/イソアミルアルコール(24:1)混液を加えて約1分間激しく撹拌した。次いで、遠心分離(12,000 x g、1分間)を行って水層を回収し、1/10量の5M 酢酸アンモニア溶液および2.5倍量の100%エタノールを加えて混合した後、遠心分離(12,000 x g、15分間)して沈殿を得た。得られた沈殿物を200mlのRNase A溶液(20mg/ml、TE溶液)に懸濁し、37℃で20分間処理した。その後、半量の20%ポリエチレングリコール(PEG-6,000)-2.5M NaCl溶液を加えて撹拌し、遠心分離(12,000 x g、5分間)を行い、上澄み液を完全に除去した。更に、1.5mlの70%エタノールを加えて数秒間撹拌した後、遠心分離(12,000 x g、2分間)を行い、上澄み液を完全に除去し、1.5mlの100%エタノールを加えた。これを、遠心分離(12,000 x g、2分間)して上澄みを除去し、得られた沈殿を室温で約10分間乾燥させ、20mlのTEに懸濁してDNA抽出液とした。なお、遠心分離は全て室温で行った。
(2)外被タンパク質遺伝子クローニング用のPCRプライマーの設計
GenBankに登録されているVP26およびVP28をコードする遺伝子のヌクレオチド配列(GenBank登録番号:AF173992およびAF173993)に基づいて、以下のPCR用のフォワードプライマー(forward primer)およびリバースプライマー(reverse primer)を作製した。

VP26
フォワードプライマー (VP26F): 5’ - GTAAAGGAAGAACTTCCATC - 3’
(配列番号:3)
リバースプライマー (VP26R): 5’ - TATATTTGTACAATTCCCACTTTA - 3’
(配列番号:4)
VP28
フォワードプライマー (VP28F): 5’ - CAAGCAACGTTCGATAAAGA - 3’
(配列番号:5)
リバースプライマー (VP28R): 5 ’- GAAGGTTAAGTAGGTCAATAA - 3’
(配列番号:6)

上記VP26FおよびVP26Rのプライマーセットは、VP26遺伝子の塩基番号35から649に位置するオープンリーディングフレーム(ORF)を含む670塩基をPCRにより増幅するために用いた。VF28FおよびVP28Rのプライマーセットは、VP28遺伝子の塩基番号33から647に位置するORFを含む754塩基をPCRにより増幅するために用いた。これらクローニング用のPCRプライマーのVP26及びVP28遺伝子との結合部位は、図1(VP26)及び図3(VP28)に示されている通りである。
【0032】
(3)VP26、及びVP28遺伝子のクローニング
上記(2)において作製したプライマーセットを用いて、上記(1)で得られたウイルスDNA試料からVP26、及びVP28遺伝子のPCR増幅反応をDNAサマー サイクラー(PC800、アステック社)を用いて行った。PCR増幅反応の反応条件は、以下のとおりである。72℃・10分間、及び95℃・9分間の反応後、95℃・1分間、55℃・1分間、72℃・1分間の一連の反応を30サイクル行った後、72℃・5分間(最終伸張)反応をさせた。
【0033】
PCR産物のクローニングベクターとしてプラスミドベクターpCR-Script SK(+)(ストラタジーン社(Stratagene))を用いた。一連のクローニング操作は、ストラタジーン社付属のプロトコールに従って行った。まずは、PCRにより得られた増幅産物から、PCR-Script(登録商標)Cam Cloning Kitを用いて、目的とするDNA断片を回収した。次いで、制限酵素Srf Iによる制限酵素処理を行い、回収したDNA断片をpCR-Script SK(+)のSrf I部位へ挿入し組換えプラスミドを作製し、この組換えプラスミドを用いて大腸菌DH5αのコンピテント細胞を形質転換した。得られた形質転換菌はアンピシリンを含むLB寒天培地上で培養し、同培地上で青色コロニーを選択することでDNA断片を有する組換え菌を選択した。
【0034】
シークエンスプライマーは、プラスミドのクローニングサイトの両端にあるユニバーサルシークエンスプライマーを用いた。塩基配列決定法は、蛍光標識プライマーを用いた標識法およびTaq DNA ポリメラーゼによる方法によりジデオキシ法で行った。即ち、PEG沈殿で回収したプラスミドクローンを鋳型とし、ダイ ターミネーターサイクル シーケンシング キット(Dye primer thermal cycle sequence kit)(ABI社)およびT3/T7 ダイ プライマー(T3/T7 dye primer)(ABI社)を用いて定法に従いシーケンシング反応を行った。反応産物の電気泳動および塩基配列の決定は自動シークエンサー(373A DNA シークエンサー(ABI社))を用いた。得られた塩基配列は、VP26およびVP28であることが確認できた(VP26は図1(配列番号:11)、VP28は図3(配列番号:12))。
【0035】
実施例2: rVP26、及びrVP28発現系の構築
大腸菌によるrVP26、及びrVP28の発現系を構築すべく、以下の実験を行った。
(1)ウイルスDNA試料
実施例1の「(1)ウイルスDNA試料の調製」と同じように、野中ら(非特許文献11)に記載のRNase-PEG沈法により、WSDVウイルスに感染したクルマエビ(Peneaeus japonicus)組織からWSDVのDNA抽出液を調製した。
【0036】
(2)発現用プライマーの作製
Genetyx(SDCソフトウエア開発)により実施例1で得たVP26及びVP28遺伝子の塩基配列の結合、翻訳領域の推定等の解析を行い、VP26及びVP28遺伝子の両端に位置し、PCRプライマーとして適当な配列を検索した。その結果、VP26およびVP28の発現用のPCRプライマーとして、以下の(i)および(ii)に示すプライマーを設計した。
(i)VP26発現用のPCRプライマー(以下、VP26expとする)
VP26のフォワードプライマー(forward primer; 以下、VP26expFとする)として、VP26遺伝子の塩基配列番号50−69に一致する20塩基と制限酵素Nde IおよびEco RIの認識部位を付加するために設けた5’末端側の11塩基のリンカー配列(5’ - aaagaattcat-3’)を合わせた31塩基を設計した。VP26のリバースプライマー(reverse primer;以下、VP26expRとする)として、VP26遺伝子の塩基配列番号643−664に相補的な22塩基と制限酵素Sal Iの認識部位を付加するために設けた5’末端側の9塩基のリンカー配列(5’ - gctgtcgac -3’)を合わせた31塩基を設計した。VP26発現用のPCRプライマーは、以下の通りである。

VP26exp
VP26expF: 5’ - aaagaattcatATGGAATTTGGCAACCTAAC -3’(配列番号:7)
VP26expR: 5’ - gctgtcgacTTACTTCTTCTTGATTTCGTCC- 3’ (配列番号:8)

これら発現用のPCRプライマーのVP26遺伝子との結合部位は、図1(VP26)に示されている通りである。

【0037】
(ii)VP28発現用のPCRプライマー(以下、VP28expとする)
VP28のフォワードプライマー(forward primer;以下、 VP28expFとする)として、VP28遺伝子の塩基配列番号43−65に一致する23塩基と制限酵素Nde IおよびEco R Iの認識部位を付加するために設けた5’末端側の11塩基のリンカー配列(5’ - aaagaattcat-3’)を合わせた34塩基を設計した。VP28のリバースプライマー(reverse primer;以下、VP26expRとする)として、VP28遺伝子の塩基配列番号640−657に相補的な18塩基と制限酵素Sal Iの認識部位を付加するために設けた5’末端側の9塩基のリンカー配列(5’ - gctgtcgac -3’)を合わせた27塩基を設計した。VP28発現用のPCRプライマーは、以下の通りである。

VP28exp
VP28expF: 5’ - aaagaattcatATGGATCTTTCTTTCACTCTTTC - 3’(配列番号:9)
VP28expR: 5’ - gctgtcgacTTACTCGGTCTCAGTGCC- 3’(配列番号:10)

これら発現用のPCRプライマーのVP28遺伝子との結合部位は、図3(VP28)に示されている通りである。

【0038】
(3)VP26およびVP28遺伝子のPCRによる増幅
上記(2)において作製した発現用のPCRプライマーを用いて、上記(1)のウイルスDNA試料からVP26およびVP28遺伝子のPCR増幅反応を行った。PCR増幅反応の反応条件は、DNAサマー サイクラー(PC800、アステック社)を用いて、72℃・10分間、及び95℃・9分間の反応後、95℃・1分間、55℃・1分間、72℃・1分間の一連の反応を30サイクル行った後、72℃・5分間(最終伸張)反応をさせた。
【0039】
(4)大腸菌によるrVP26、及びrVP28の発現系の構築
前述のPCR増幅反応により得られた反応産物から、フェノール/クロロホルム抽出およびエタノール沈殿により濃縮、1%アガロース(TAE緩衝液(40mM トリス酢酸−1mM EDTA、pH8.0))ゲル電気泳動後、NaIとガラスビーズ法を用いた方法で目的のDNA断片を回収した。回収したDNA断片を、所定の制限酵素(Nde IまたはEcoR I、及びSal I)で切断後、フェノール/クロロホルム抽出およびガラスビーズ法で回収し、TE緩衝液に溶解してcDNAとした。発現ベクターはpET-25b(+)(ノバゲン社(Novagen))を用いた。pET-25b(+)を前述の所定の制限酵素で切断後、CIAP(Calf Intestine Alkaline Phosphatase(宝酒造社製)で処理し、フェノール/クロロホルム抽出およびガラスビーズ法で回収し、TE緩衝液に溶解してベクターDNA溶液とした。ライゲーションは、ライゲーションキット(宝酒造社製)のプロトコールに従い、cDNA溶液、ベクターDNA溶液、ライゲーションA及びB液を混合し、16℃で一晩反応することで行った。ライゲーションにより得られた組換えプラスミドを用いて、大腸菌BL21のコンピテント細胞を形質転換した。このようにして得られたrVP26およびrVP28のそれぞれについての組換え大腸菌を大腸菌pET VP26、及び大腸菌pET VP28と呼ぶ。これら組換え大腸菌は、本発明におけるrVP26、及びrVP28の発現系として用いた。
【0040】
実施例3: rVP26、及びrVP28発現系を用いたrVP26、及びrVP28の発現
実施例2で構築した組換え大腸菌pET VP26、及び大腸菌pET VP28によるrVP26、及びrVP28の発現とその確認を、以下の実験によりおこなった。
(1)rVP26、及びrVP28の発現
大腸菌pET VP26、及び大腸菌pET VP28を、個別にLB液体培地(各1,200mL、1%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキストラクト、1% NaCl、pH7.4、アンピシリン50mg/ml)に接種して37℃、6時間の振とう培養を行った。振とう培養中の菌体濃度が660nmの波長で吸光値が0.5程度になったところで、培養液にIPTG(イソプロピル-1-1-チオ-b-D-ガラクトシド、最終濃度が1mM)を加え、37℃で3時間、rVP26及びrVP28の発現誘導をおこなった。その後、培養液を4℃で冷蔵、遠心分離(2,500rpm、20分、4℃)した後、その上清液をデカンテーションにより除いた。デカンテーション後の沈殿物をTE緩衝液(50mMトリス−HCl (pH8.0)−2mM EDTA)に懸濁した。この懸濁液に0.1%のトリトンX-100を含む100mg/mLのリゾチーム液を加えて30℃で15分間インキュベートした。その後、菌体を溶解するとともに核酸を破砕する目的で懸濁液を超音波破砕機に供し、懸濁液の粘着性が無くなるまで超音波破砕処理を行った。超音波破砕後の懸濁液を12,000 x g、4℃、15分間の遠心分離に供し、遠心分離後の沈殿物をrVP26及びrVP28の発現タンパク質ワクチンとして15mLのPBS溶液に再懸濁した。
【0041】
(2)SDS-PAGE電気泳動によるrVP26及びrVP28発現の確認
上記「(1)rVP26、及びrVP28の発現」で得られた最終産物であるPBS溶液を、SDS-PAGE電気泳動[Laemmli ら、Nature, 2277, 680-685 (1970)]にかけた。SDS-PAGE電気泳動には12 % ポリアクリルアミドゲルを使用し、染色にはクマーシー・ブリリアント・ブルー(CBB)染色を使用した。その結果、rVP26及びrVP28について、それぞれVP26及びVP28と同じ分子量を示す単一のバンドが認められた(rVP26は分子量約25.5kDa、rVP28は分子量約27.8kDa)(図5)。SDS-PAGE電気泳動後のゲルをデジタル映像にした後、画像解析ソフトによってデンシトグラムを作成し、示された面積から各バンドの量比を算出するとrVP26とrVP28のタンパク質純度は、それぞれ20.3%及び30.8%と推定された。この推定純度は、rVP26とrVP28の回収率は概ね良好であったことを示す。
【0042】
(3)免疫抗原の調製
上記「(1)rVP26、及びrVP28の発現」に記載の方法により大腸菌中で発現させたrVP26、及びrVP28は、同菌中において高次凝集物である封入体として不溶画分に現れたことから、大腸菌由来のDNAなどの核酸、及びポリサッカライドなどを含まないタンパク質製品として得ることができた。そして、これらrVP26、及びrVP28の純度は、上記「(2)SDS-PAGE電気泳動によるrVP26及びrVP28発現の確認」により概ね良好であることが確認された。これら結果は、得られたrVP26及びrVP28製品がともに免疫抗原、及びワクチン製品として使用することができることを示すものである。よって、本実施例で得られたrVP26及びrVP28製品を本発明における組換え外被タンパク質製品として以下の実験に用いた。
【0043】
実施例4:攻撃試験方法の確立
rVP26、及びrVP28のワクチンとしての効果の確認を行うために注射、浸漬および経口の3種類の攻撃試験方法の確立を行った。注射攻撃法では、病エビの血リンパ液をウイルス源として用い、浸漬攻撃法では、感染死亡個体の筋肉を磨砕して得た病エビ磨砕液を用いた。経口攻撃法は、感染死亡エビの筋肉を用いた。供試クルマエビは、独立行政法人水産総合研究センター上浦栽培技術開発センターで2005年に生産したクルマエビPenaeus japonicus当歳エビ(平均体重5.3g)個体を用いた。注射攻撃は、血リンパ液を1,500x g の10分間の遠心分離後、上清を原液として、PBS溶液(リン酸緩衝生理的食塩水)で10倍の希釈列段階を作り、10-6倍希釈まで行ったものをウイルス源として、25mL/尾で筋肉注射を行った。浸漬攻撃では、WSSV人為感染試験における死亡個体の筋肉36.6gを4倍量のPBSで磨砕後、3,000 x g、10分間、4℃の遠心分離を行い回収した上清をウイルス源とした。このウイルス源を体重30gに対して1Lの海水に10-2、10-3、および10-4に希釈し、1時間通気して浸漬した。1時間後、新鮮な海水でリンスし、水槽に収容した。経口攻撃では、攻撃するクルマエビの体重1gあたり0.1、0.2、0.3gのWSSV人為感染死亡個体の筋肉を投与した。なお、それぞれの攻撃法において、攻撃操作および病原ウイルスの感染以外の要因で死亡することがないことを証明するため非攻撃の対照区を設けた。注射攻撃では、PBS(リン酸緩衝液、インビトロジェン社製)を等量注射した。浸漬攻撃では、健康エビの磨砕液を10-2に希釈した海水に1時間浸漬し、同様に水槽に収容した。経口攻撃では、健康エビの筋肉(0.3g/g エビ)の投与をおこなった。
【0044】
14日目の累積死亡率から、半数致死量をBeherens-Karberの方法に従って算出し推定した。その結果、半数致死量は、筋肉注射攻撃では10-4.19mL/ 血リンパ/g、浸漬攻撃では≧10-3.08mL病エビ磨砕液/g、経口攻撃では≧10-1.76g病エビ筋肉/gとなった(表1)。なお、非攻撃の対照群は各攻撃法とも死亡個体は確認されなかった。
【0045】
【表1】

【0046】
実施例5:rVP26およびrVP28の経口投与によるWSD防御効果
(1)経口投与方法
実施例3で得られたrVP26およびrVP28の経口投与によるWSD防御効果を検討した。1日にエビがその体重1gあたり35μgのrVP26またはrVP28(35μg/gエビ/日)を給餌するよう、rVP26またはrVP28を混合させたクルマエビ用配合飼料(稚エビ用4号、又は育成用シグマP-1、マルハ株式会社製に混合させた)を調製し、これをクルマエビに15日間給餌した。対照区として、rVP26またはrVP28に代わって、遺伝子組換えを施していない大腸菌(BL21DE3)由来のタンパク質(以下、BLタンパク質)を用いた。即ち、1日にエビがその体重1gあたり24mgのBLタンパク質(24.5μg/gエビ/日)を給餌するよう、BLタンパク質を配合したクルマエビ用配合飼料を調製し、これをクルマエビに15日間給餌した。
【0047】
(2)効果判定試験−1
1回目の試験では、平均体重0.64gのクルマエビを各区30尾供試し、上述の方法でrVP26およびrVP28を投与して、投与終了10日後に経口攻撃では、rVP26投与群、rVP28投与群、及び対照区となるBL21DE3投与群それぞれに病エビの筋肉を0.1g/g エビで3日間投与した。非攻撃の対照として、rVP26及びrVP28投与群に対し、健康エビの筋肉を同様に投与した。浸漬攻撃では、攻撃群には、病エビ磨砕液10-4希釈海水へ、体重30gあたり1Lの水量で1時間浸漬した。非感染対照群は、健康エビの磨砕液を同様に希釈して浸漬した。なお、攻撃量は実施例3で得た半数致死量から対照(BL21DE3投与群)の累積死亡率が70%程度になると推定される攻撃量を計算して決定した。
この結果、経口攻撃では、BL21DE3投与群の累積死亡率が90%であったのに対して、rVP26、rVP28それぞれの累積死亡率は63%および60%であった。χ2検定の結果はP<0.05となり、rVP26、rVP28区それぞれの累積死亡率は、BL21DE3投与群の累積死亡率に比較して有意に低くかった(表2)。
【0048】
【表2】

【0049】
(3)効果判定試験−2
2回目の試験では、平均体重6.78gのクルマエビを各区12から15尾供試した。上記「(1)経口投与方法」に記載の方法でタンパク質の投与を行った。攻撃試験は、各タンパク質の投与終了10日後におこない、rVP26及びrVP28投与攻撃区は、実験の再現性を確認するために各攻撃方法とも2水槽ずつ設置した。経口及び浸漬による攻撃試験は、1回目と同様におこなった。注射攻撃では、実施例3で得た半数致死量から対照(BL21DE3投与群)の累積死亡率が70%程度になると算出された攻撃量である、PBS溶液で10-4に希釈した前出の血リンパ液を100 ml/尾で筋肉注射した。
経口攻撃において、BL21DE3投与区の死亡率が31%であったのに対して、rVP26およびrVP28区は、それぞれ0%で推移した。浸漬攻撃では、BL21DE3投与区の死亡率が57%であったのに対して、rVP26およびrVP28区は、21および22%と低く推移した(P<0.05)。注射攻撃においては、BL21DE3投与区の累積死亡率は、93%に達し、rVP26およびrVP28区の死亡率は、それぞれ31および52%で、有意に累積死亡率が低かった(P<0.01)(表3)。
【0050】
【表3】

【0051】
このように、上記の2回の試験(「効果判定試験−1」と「効果判定試験−2」)を通して、経口、浸漬、注射のそれぞれの攻撃方法での累積死亡率は、対照区に対して、rVP26及びrVP28投与区が有意に低かった。浸漬および注射攻撃(rVP26区のみ)において、RPSが60%以上となった(RPS(ワクチン有効率)は、60%以上でワクチン効果があったとされる(非特許文献12))。以上の結果より、rVP26あるいはrVP28の経口投与により、WSDに対する防御効果が誘導されることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のホワイトスポット病用経口ワクチンは、WSDVの垂直感染および水平的な感染を効率的に防止する。更に、同経口ワクチンは、クルマエビ属用飼料に混入させるなどして投与することが可能であることから、養殖現場等において、効果的にホワイトスポット病の感染拡大を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】WSDVの外被タンパク質VP26遺伝子の塩基配列上に設計したプライマー結合部位を示す図である。下線部(波線)はクローニング用のPCRプライマーの結合部位、下線部(二重線)は発現用のPCRプライマー(VP26exp)の結合部位を示す。
【図2】WSDVの外被タンパク質VP26のアミノ酸配列を示す。図1に示されているオープンリーディングフレームによってコードされている。
【図3】WSDVの外被タンパク質VP28遺伝子の塩基配列上に設計したプライマー結合部位を示す図である。下線部(波線)はクローニング用のPCRプライマーの結合部位、下線部は(二重線)発現用のPCRプライマー(VP28exp)の結合部位を示す。
【図4】WSDVの外被タンパク質VP28のアミノ酸配列を示す図である。図3に示されているオープンリーディングフレーム塩基配列よってコードされている。
【図5】大腸菌で発現させた組換え外被タンパク質のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動による解析像を示す図である[左のレーンからMはマーカー、rVP26はWSDVの外被タンパク質VP26の組換えタンパク質、rVP28はWSDVの外被タンパク質VP28の組換タンパク質]。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クルマエビ属ホワイトスポット病ウイルス(White spot syndrome virus)の組換え外被タンパク質を含有するホワイトスポット病(White spot disease)用経口ワクチン。
【請求項2】
組換え外被タンパク質が、配列番号:1(図2)に記載のアミノ酸配列、または該アミノ酸配列に対して1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失または付加されているアミノ酸配列を含むものである、請求項1に記載の経口ワクチン。
【請求項3】
組換え外被タンパク質が、配列番号:2(図4)に記載のアミノ酸配列、または該アミノ酸配列に対して1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失または付加されているアミノ酸配列を含むものである、請求項1に記載の経口ワクチン。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の経口ワクチンを含有するクルマエビ属用飼料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−63302(P2008−63302A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245138(P2006−245138)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(501168814)独立行政法人水産総合研究センター (103)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】