説明

クレーン用ウインチの駆動制御方法及び装置

【目的】 簡単な構成で、巻下げ時のロープの弛みを確実に防ぐ。
【構成】 油圧モータ8により駆動されるウインチドラム4から引き出されたロープ7の張力Tをロードセル15等で検出し、張力差演算手段13に入力する。張力差演算手段13は、巻下げ駆動前の検出張力To と、巻下げ駆動中の検出張力Tとの張力差ΔTを演算する。制御値演算手段14は、上記張力差ΔTに基づいてフィードバック補正量を演算し、操作レバー10の操作で入力された指令速度から上記フィードバック補正量を差し引いた巻下げ速度でウインチドラム4を駆動させるべく、電磁比例弁9に駆動制御信号uを出力する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、クレーン用ウインチの駆動制御、特に巻下げ時の駆動制御を行うための方法及び装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、クレーン用ウインチは、ウインチドラムと、このウインチドラムを回転駆動するモータ等を備えており、上記ウインチドラムから引き出されたロープがブーム先端のプーリに掛けられ、このロープ先端に荷吊り部であるフックブロック等が吊下げられるようになっている。ここで、上記フックブロックの重量は、上記ロープに十分な張力を与えて弛みを防ぐように設定されている。従って、正常な駆動状態では、上記ウインチドラムの回転駆動に追従して上記フックブロックが昇降する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記クレーンにおいて、無負荷や軽負荷状態でロープを巻下げる際、ウインチドラムを巻下げ方向に回転させても各部位の摩擦等に起因してフックブロックが上記ウインチドラムの回転に追従しない場合がある。この場合、ウインチドラムの回転によるロープの繰り出し量とフックブロックの巻下げ量との間に差が生じてロープに弛みが生じ、最悪の場合には、次のロープ巻取り時に乱巻が発生してロープの寿命を著しく低下させてしまうおそれがある。
【0004】なお、実開平2−79390号マイクロフィルムには、ロープ巻上げ状態から停止状態への切換時にロープに抵抗力を与えることにより、慣性力に起因してロープに弛みが生じるのを防ぐようにしたものが示されているが、この装置では、巻下げ駆動中に発生するロープの弛みを防ぐことはできない。
【0005】本発明は、このような事情に鑑み、ロープ巻下げ時の弛み発生を防ぎながら良好なウインチの駆動を確保できるクレーン用ウインチの制御方法及び装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するための手段として、本発明は、先端に荷吊り部が設けられたロープの巻上げ及び巻下げを行うウインチドラムと、このウインチドラムを回転駆動する駆動手段とを備えたクレーン用ウインチの駆動制御方法において、上記ロープの巻下げを開始する前にこのロープに生じている張力を検出し、上記ロープの巻き下げ中にこのロープに生じている張力を検出し、両張力の張力差を減少させる方向に上記ウインチドラムによるロープの巻下げ速度を制御するものである(請求項1)。
【0007】また本発明は、先端に荷吊り部が設けられたロープの巻上げ及び巻下げを行うウインチドラムと、このウインチドラムを回転駆動する駆動手段とを備えたクレーン用ウインチの駆動制御装置において、上記ウインチドラムの駆動速度についての指令信号を入力するための指令入力手段と、上記ロープの張力を検出する張力検出手段と、上記ロープの巻下げを開始する前に検出されたロープ張力を記憶し、上記ロープの巻き下げ中にこのロープに生じている張力と記憶した上記ロープ張力との差を演算する張力差演算手段と、上記張力差に予め設定されたフィードバックゲインを乗じた値をフィードバック補正量として演算し、このフィードバック補正量により上記指令信号を補正した信号を駆動制御信号として出力する巻下げ速度制御手段とを備えたものである(請求項2)。
【0008】この装置では、上記ロープの乱巻が発生する最小張力差もしくはその近傍の張力差を臨界値として実際の張力差が上記臨界値以上の場合には実際の張力差が上記臨界値未満の場合よりも大きいフィードバックゲインを用いるように上記巻下げ速度制御手段を構成することにより、後述のようなより優れた効果が得られる(請求項3)。
【0009】
【作用】請求項1記載の方法によれば、ロープの巻下げを開始する前に検出したロープ張力と、ロープの巻き下げ中に検出した張力との張力差を減少させる方向に上記ウインチドラムによるロープの巻下げ速度を制御するため、上記張力差が大きくなる状態、すなわち、ロープに著しい弛みが生じる状態を確実に回避できる。
【0010】より具体的に、請求項2記載の装置では、指令入力手段から巻下げ駆動速度について指令信号が入力される一方、上記張力差に予め設定されたフィードバックゲインを乗じた値がフィードバック補正量として演算され、このフィードバック補正量により上記指令信号を補正した信号が駆動制御信号として出力される。
【0011】ここで、請求項3記載の装置では、上記ロープの乱巻が発生する最小張力差もしくはその近傍の張力差が臨界値とされ、実際の張力差が上記臨界値未満の状態、すなわちまだ乱巻のおそれがない運転状態では、比較的小さいフィードバックゲインが用いられることにより、比較的指令信号に忠実な(すなわちオペレータの意志に近い)運転が実行される一方、上記張力差が上記臨界値以上の場合、すなわち乱巻発生のおそれが高い運転状態では、比較的大きなフィードバックゲインが用いられることにより、ロープ巻下げ速度が速やかに下げられ、乱巻がより確実に防止される。
【0012】
【実施例】本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。
【0013】図2は本発明が適用されるクレーンの一例(ラフテレーン)を示したものである。このクレーンの下部走行体1上には、垂直軸回りに旋回可能に上部旋回体2が設置され、この上部旋回体2には起伏可能にブーム3が取付けられている。
【0014】上部旋回体2にはウインチドラム4が搭載されている。このウインチドラム4からはロープ7が引き出されている。このロープ7はブーム3先端のプーリ6A,6Bに掛けられた状態でこのブーム3先端から垂れ下がっており、このロープ7の先端(下端)に、吊り荷を吊下げるためのフックブロック(荷吊り部)5が取付けられている。
【0015】上記上部旋回体2には、図1に示すような油圧モータ(駆動手段)8や電磁比例弁9を含む油圧回路が搭載されている。電磁比例弁9は、励磁電流に応じて図略の油圧源から上記油圧モータ8への供給油圧を変化させるものであり、油圧モータ8は、供給油圧に応じた速度で上記ウインチドラム4を正逆両方向に回転駆動するものである。
【0016】運転室内には、ウインチ速度を指令すべく回動操作される操作レバー10と、この操作レバー10の回動操作量を検出してこれに見合った速度指令信号sを出力する角度計11とが設けられている。一方、上記フックブロック5とロープ7との接合個所には、ロープ7の張力を検出するロードセル15が設けられ、このロードセル15の出力する検出信号Tと、上記角度計11の出力する速度指令信号sとがコントローラ12に入力されるようになっている。
【0017】このコントローラ12は、張力差演算手段13と、制御値演算手段14とを備えている。張力差演算手段13は、ロープ巻下げ駆動が行われる前の初期状態で検出されるロープ張力To を記憶し、この検出張力Toと、ロープ巻下げ駆動時に検出される張力Tとの張力差ΔT(=To−T)を随時演算するものである。制御値演算手段14は、上記張力差ΔTに予め用意されたフィードバックゲインGを乗じた値(=G×ΔT)をフィードバック補正量Δsとして演算し、このフィードバック補正量Δsを上記速度指令信号sから差し引いた信号を駆動制御信号uとして電磁比例弁9に出力するものであり、この電磁比例弁9と上記制御値演算手段14とで、本発明における巻下げ速度制御手段が構成されている。
【0018】ここで、上記フィードバックゲインGは、図3に示すように設定されている。すなわち、乱巻が発生する最小張力差(この値は予め実験で求めておくことが可能である。)ΔTaもしくはその近傍を臨界点とし、張力差ΔTが上記臨界点未満の場合には一定の最小ゲインGoを用い、張力差ΔTが上記臨界点以上の場合には、この張力差ΔTとともに増大するフィードバックゲインGを用いるように、上記制御値演算手段14が構成されている。
【0019】次に、この装置の作用を説明する。
【0020】まず、ロープ巻下げが行われていない初期状態で、ロードセル15による検出ロープ張力To が張力差演算手段13に取り込まれ、記憶される。そして、ロープ巻下げ開始後は、上記記憶値To と、検出ロープ張力Tとの張力差ΔTがリアルタイムで演算される。
【0021】ここで、上記張力差ΔTが0の場合、すなわち初期状態でのロープ張力To と巻下げ時のロープ張力Tとが等しい場合には、ロープ7が弛まず良好に張った状態で巻下げが行われているとみなせるので、角度計11から制御値演算手段14に入力される速度指令信号sがそのまま駆動制御信号uとして出力され、操作レバー10の操作量に完全に対応した巻下げ速度でウインチドラム4が駆動される。
【0022】これに対し、上記張力差ΔTが0より大きい場合、すなわち初期状態でのロープ張力To よりも巻下げ時のロープ張力Tが低い場合には、ロープ7が弛んでいるとみなせるので、制御値演算手段14は、角度計11から入力される速度指令信号sからフィードバック補正量Δs(=G×ΔT)を差し引いた信号を駆動制御信号uとして出力する。これにより、実際のウインチドラム4の駆動速度が操作レバー10の操作量に対応する速度よりも低い速度に抑えられる。従って、上記張力差ΔTが下げられ、ロープ7の弛みが抑制される。
【0023】さらに、この実施例では、張力差ΔTが臨界値未満の場合には比較的小さいフィードバックゲイン(最小ゲインGo)を用い、上記張力差ΔTが上記臨界値以上の場合には比較的大きなフィードバックゲインGを用いているので、上記張力差ΔTが小さい状態、すなわちまだ乱巻のおそれがない運転状態では、比較的指令信号に忠実な(すなわちオペレータの意志に近い)運転を実行する一方、上記張力差ΔTが大きい状態、すなわち乱巻発生のおそれが高い運転状態では、ロープ巻下げ速度を速やかに下げて乱巻をより確実に防止できる利点がある。
【0024】なお、この実施例では、張力差ΔTに応じたフィードバック補正量Δsを用いて巻下げ速度を制御するものを示したが、例えば、張力差ΔTが一定値を超えた場合には、巻下げ速度を予め設定された一定の最小速度に落すといった制御を行ってもよい。
【0025】
【発明の効果】以上のように、本発明によれば次の効果を得ることができる。
【0026】請求項1記載の方法は、ロープの巻下げを開始する前に検出したロープ張力と、ロープの巻き下げ中に検出した張力との張力差を減少させる方向に上記ウインチドラムによるロープの巻下げ速度を制御するものであるので、簡単な構成で、巻下げ駆動中、上記張力差が大きくなる状態、すなわち、ロープに著しい弛みが生じる状態を確実に回避できる効果がある。
【0027】より具体的に、請求項2記載の装置は、指令入力手段から巻下げ駆動速度について指令信号を取り込む一方、上記張力差に予め設定されたフィードバックゲインを乗じた値をフィードバック補正量として演算し、このフィードバック補正量により上記指令信号を補正した信号を駆動制御信号として出力するものであるので、ロープの弛みを防ぎながらオペレータにより指令される駆動速度に追従した巻下げ駆動制御を実行できる効果がある。
【0028】さらに、請求項3記載の装置は、上記ロープの乱巻が発生する最小張力差もしくはその近傍の張力差を臨界値とし、実際の張力差が上記臨界値未満の場合には比較的小さいフィードバックゲインを用い、上記張力差が上記臨界値以上の場合には比較的大きなフィードバックゲインを用いるものであるので、上記張力差が小さい状態、すなわちまだ乱巻のおそれがない運転状態では、比較的指令信号に忠実な(すなわちオペレータの意志に近い)運転を実行する一方、上記張力差が大きい状態、すなわち乱巻発生のおそれが高い運転状態では、ロープ巻下げ速度を速やかに下げて乱巻をより確実に防止できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例におけるクレーン用ウインチの駆動制御装置の全体構成図である。
【図2】上記クレーン用ウインチを備えたラフテレーンクレーンの全体側面図である。
【図3】上記駆動制御装置において用いられるフィードバックゲインと張力差との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
4 ウインチドラム
7 ロープ
8 油圧モータ(駆動手段)
9 電磁比例弁(巻下げ速度制御手段)
10 操作レバー(指令入力手段)
11 角度計(指令入力手段)
12 コントローラ
13 張力差演算手段
14 制御値演算手段(巻下げ速度制御手段)
15 ロードセル(張力検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】 先端に荷吊り部が設けられたロープの巻上げ及び巻下げを行うウインチドラムと、このウインチドラムを回転駆動する駆動手段とを備えたクレーン用ウインチの駆動制御方法において、上記ロープの巻下げを開始する前にこのロープに生じている張力を検出し、上記ロープの巻き下げ中にこのロープに生じている張力を検出し、両張力の張力差を減少させる方向に上記ウインチドラムによるロープの巻下げ速度を制御することを特徴とするクレーン用ウインチの駆動制御方法。
【請求項2】 先端に荷吊り部が設けられたロープの巻上げ及び巻下げを行うウインチドラムと、このウインチドラムを回転駆動する駆動手段とを備えたクレーン用ウインチの駆動制御装置において、上記ウインチドラムの駆動速度についての指令信号を入力するための指令入力手段と、上記ロープの張力を検出する張力検出手段と、上記ロープの巻下げを開始する前に検出されたロープ張力を記憶し、上記ロープの巻き下げ中にこのロープに生じている張力と記憶した上記ロープ張力との差を演算する張力差演算手段と、上記張力差に予め設定されたフィードバックゲインを乗じた値をフィードバック補正量として演算し、このフィードバック補正量により上記指令信号を補正した信号を駆動制御信号として出力する巻下げ速度制御手段とを備えたことを特徴とするクレーン用ウインチの駆動制御装置。
【請求項3】 請求項2記載のクレーン用ウインチの駆動制御装置において、上記ロープの乱巻が発生する最小張力差もしくはその近傍の張力差を臨界値として実際の張力差が上記臨界値以上の場合には実際の張力差が上記臨界値未満の場合よりも大きいフィードバックゲインを用いるように上記巻下げ速度制御手段を構成したことを特徴とするクレーン用ウインチの駆動制御装置。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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