説明

クレーン用フック装置

【課題】フック装置をブーム先端下面に当接させた状態での視界不良を軽減し得るとともに、ワイヤロープからフック装置を取り外した場合でも、フック装置の置き場が省スペースで済むクレーン用フック装置を提供する。
【解決手段】このフック装置20は、フック13と、このフック13の基端側を枢支する主ブロック21と、この主ブロック21の左右に回動可能に連接された補助ブロック31と、これら複数のブロック21,31それぞれに設けられた複数のシーブ26,36とを備え、隣接するブロック21,31相互の複数のシーブ26,36にそのフック13側に沿ってワイヤロープ12が掛け回されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンに用いられるフック装置に係り、特に、車両搭載型クレーンに用いるフック装置として好適なクレーン用フック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のフック装置は、ワイヤロープ先端がブーム先端のシーブ(定滑車)を介してフック装置に固定されている。ここで、この種のフック装置では、より質量のある吊荷を吊り上げる際に、クレーンのウインチ巻上げ能力が同じであり且つクレーンの出力も同じであるときは、フック装置にもシーブ(動滑車)を設けることで、引っ張り力を倍力させている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載されるフック装置はそのままクレーンのブーム先端まで巻き上げられ、ブーム先端下面に当接して格納されるようになっている。このような構成によれば、アクチュエータ機構の省力を維持しつつも安価に吊り上げ能力を向上させることができる。そのため、コスト上のメリットが高いため、一般的に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001‐270685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、フック装置のシーブ径は、使用されるワイヤロープの直径に基づいてその径の限度が定められている。その径の限度を下回ると、ワイヤロープに掛かる曲げ応力が許容よりも大きくなり、ワイヤロープに早期の疲労断線が生じて寿命が短くなってしまうからである。例えば車両搭載型クレーンでは、厚生労働省労働基準局「移動式クレーン構造規格」によって、ワイヤロープがシーブに巻かれた場合における、当該ワイヤロープの中心円(ピッチ円)の直径とワイヤロープの直径との比が、一定値以上で使用するように規定されている。よって、シーブ径はこの規定された比から、使用するワイヤロープ直径によって、その径の限度が自ずと決定される。
【0005】
そのため、図6に一例を示すように、上述の特許文献1類似のフック装置120は、そのクレーン作業終了後、そのままクレーンのブーム7の先端7sまで巻き上げられ、ブーム先端7s下面に当接して格納されたときに、ブーム先端7sからフック装置120のフック13の中心までの格納長さ(以下、「格納距離」ともいう)L2は、使用するワイヤロープ12の直径によって、シーブ16、17の径(半径R)の限度寸法の規定から一定以上の長さとなる。
【0006】
この場合、フック装置をブーム先端下面に単に当接させただけでは、ブーム先端下面からフック装置先端までの格納距離L2が長いため、例えば車両搭載型クレーンでは、車両走行時に運転者の視界不良となる。したがって、フック装置をブーム先端に当接させた後に、ブーム長手方向と平行になるようにフックを回動させて格納するための格納装置を別途設ける等の対策が講じられてきた。
【0007】
また、特許文献1の課題に記載されるように、フック装置を交換後に取り外した元のフック装置は、車両(トラック)の荷台に置いたり、格納専用の箱を車両に設けたりするなど、その保管処理を要する。しかし、単にフック装置を荷台に置いた場合には、走行時における急な加減速によって、荷台内をフック装置が前後左右に転がり、場合によっては、他の積荷を破損するおそれがある。
【0008】
さらに、フック装置格納専用の箱を車両に備える場合でも、車両搭載型クレーンにおいては、実際のところ荷台内には格納専用の箱を設置するスペースの確保が困難なことが多く、結局、荷台の隅にロープ等でフック装置を固縛しており、また、このような固縛作業は面倒であった。
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、フック装置全体をコンパクトに構成するとともに、ワイヤロープからフック装置を取り外した場合でも、フック装置の置き場が省スペースで済むクレーン用フック装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、クレーンに用いられるフック装置であって、フックと、該フックに連結された主ブロックと、該主ブロックの左右に回動可能に連接された複数の補助ブロックと、前記複数のブロックそれぞれに設けられた複数のシーブとを備え、前記連接するブロック相互の複数のシーブにそのフック側に沿ってワイヤロープが掛け回されるように構成したことを特徴とする。
【0010】
本発明に係るフック装置によれば、複数のブロックと、該複数のブロックそれぞれ設けられた複数のシーブとによって、複数のシーブのフック側に沿ってワイヤロープが掛け回される構造を採用しているので、各ブロックの複数のシーブを小径化しつつも、複数のシーブ全体としてワイヤロープに掛かる曲げ応力が許容よりも大きくならない曲率を維持した略半円状の並びを保ちつつ、下方に凸の半円であることにより、上半円部分を不要にすることができる。よって、フック装置全体をコンパクトに構成できる。そのため、例えば車両搭載型クレーンに用いるフック装置として採用した場合であれば、フック装置をブーム先端下面に当接させた状態での視界不良を軽減させることができる。
【0011】
また、本発明に係るフック装置によれば、フック装置のブロックを複数に分割してこれらを相互に回動可能に枢支する構成としたので、鎖状のブロックを形成することができる。そのため、ワイヤロープからフック装置を取り外した場合でも、その格納形状を鎖状のブロックの可動範囲内で自在にしてコンパクトに納めることを可能にし、フック装置の置き場を省スペースで済ませることができる。
【0012】
ここで、本発明に係るフック装置においては、フック装置の使用時に、掛け回されたワイヤロープの張力によって、複数のシーブ中心が一の円弧に沿った並びを保ち、これら複数のシーブに掛け回されたワイヤロープの中心円の直径とワイヤロープの直径との比が一定値以上になっていることが好ましい。このような構成であれば、各ブロックの複数のシーブを小径化しつつも、複数のシーブ全体としてワイヤロープに掛かる曲げ応力が許容よりも大きくならない曲率を維持する上で好適である。
【発明の効果】
【0013】
上述のように、本発明によれば、フック装置全体をコンパクトに構成するとともに、ワイヤロープからフック装置を取り外した場合でも、フック装置の置き場は省スペースで済む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るクレーン用フック装置を備える車両搭載型クレーンの一実施形態を説明する構成図である。なお、同図は、フック装置が巻過検出装置(不図示)によって自動停止した位置まで巻上げられた巻過状態を示している。
【図2】図1の要部(フック装置の部分)を拡大して示す図であり、同図は、フック装置をブーム先端まで巻上げた格納状態を示している。
【図3】本発明のフック装置の構造を説明する図である。
【図4】本発明のフック装置の構造を説明する図であり、同図(a)は、本発明のフック装置単体の状態の正面図、(b)はブロック部分の側面図である。
【図5】図1の要部(フック装置の部分)を拡大して示す図であり、同図は、フック装置を吊下した状態を示している。
【図6】従来のクレーン用フック装置(フック装置の部分)を拡大して示す図であり、同図は、フック装置をブーム先端まで巻上げた格納状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。
図1は本発明に係るクレーンの一実施形態としての車両搭載型クレーンを説明する構成図であり、また、図2はその車両搭載型クレーンのフック装置部分の拡大図である。
図1に示すように、この車両搭載型クレーン(以下、単に「クレーン」ともいう)1は、左右にアウトリガ2を備えたベース4上にコラム6が旋回用油圧モータ5の駆動により旋回自在に設けられている。そして、このコラム6の上端部には、ブーム伸縮用油圧シリンダ8の作動による伸縮およびブーム起伏用油圧シリンダ9の作動により起伏自在に枢支されたブーム7が設けられている。また、コラム6にはウインチ11がウインチ用油圧モータ10により駆動可能に設けられており、このウインチ11からブーム7の先端部7sにワイヤロープ12を導いて、ブーム7の先端部7sのシーブ16を介して吊荷用のフック装置20のフック13にワイヤロープ12を掛回すことにより、フック装置20をブーム7の先端部7sから吊下している。
【0016】
以下、上記フック装置20について説明する。
このフック装置20は、図2に要部を示すように、フック13と、このフック13の基端側13kを回動可能に枢支する主ブロック21とを有する。さらに、この主ブロック21の左右に隣接して補助ブロック31が回動可能に枢支されて連結されており、これら複数のブロック21,31それぞれには、複数のシーブ26,36が設けられている。そして、前記隣接するブロック21,31相互の複数のシーブ26,36にワイヤロープ12が掛け回されている。なお、ワイヤロープ12の基端はウインチ11(図1参照)に固定され、ワイヤロープ12の先端はブーム7の先端部7sの止着部7jに固定されている。
【0017】
より詳しくは、図3および図4に拡大図示するように、主ブロック21については、下方に突き出るブラケット22が設けられ、このブラケット22にフック13の基端側13kがトラニオンピン23によってフック13が振り子状の回動F及び略水平方向の軸周りの回動Kができるように設けられている(図3参照)。なお、このフック13自体の構造、及びこれを連結するトラニオンピン自体の構造は、従来と変わらない。
【0018】
そして、この主ブロック21に補助ブロック31が連結ピン25にて枢支されて連鎖している(この例では3連)。これらブロック21,31の側面視の形状は上方側に開放した凹形状をなしている(図4(b)参照)。そして、この凹形状の溝部26m、36mに、複数のシーブ26,36(この例では3連)が回動可能な小隙間を隔てて嵌め込まれており、各シーブ26,36は、その中心が支軸27,37によって支承されている。
【0019】
また、図4に示すように、このように連結されたブロック21,31は、正面方向からみると、複数のブロック21,31同士が対向する側面21t,31tがハの字状に形成され、全体に略台形になっている。そして、このフック装置20が実際に使用されるときは、図3に示すように、ブーム下方位置にワイヤロープ12によって吊下したときに、ハの字状に形成された隣接するブロック21,31の側面21t,31t同士が当接して回動位置を相互に規制する。そして、複数のシーブ26,36の配列は、フック装置20の使用時において、ワイヤロープ12が所定の略円弧状を形成するように均等に等配置しており、挿通溝Mにワイヤロープ12を挿通時には、ワイヤロープ12が所定の半径Rの円弧を形成するように、ブロック21,31の凹形状内に複数のシーブ26,36を配列している。
【0020】
そして、これらブロック21,31は、連結ピン25を軸に互いに回動するが、図3に示すように、ブーム先端7sから吊下したときにブロック21,31が上反りになり、このとき、隣接するブロック21,31同士が当接した際、上述したようにハの字状に形成されたブロック21,31の側面21t,31tがストッパとしての役割を担うので、これにより、ブロック21,31が略半円状の並び方向に沿ってワイヤロープ12の挿通溝Mが所定の円弧に貫通形成される。
【0021】
一方、図3に示すように、ブーム7の先端部7sは、その正面視の形状が、フック装置20の吊下方向に凸の尖頭状をなした尖頭部7tを有している。そして、フック装置20の格納時においては、ブーム7の先端部7s形状の尖頭部7tとフック装置20のブロック21,31の凹形状が丁度嵌り合うようになっている。このとき、複数のシーブ26,36の配列から成る所定の略円弧は、下方に凸の半円であることによって、上半円部分を不要とすることができる。そのため、ブーム先端からフック装置までの格納距離L1は、上記格納距離L2に比べて上半円部分だけ短くなるので、換言すれば、その分のクレーン揚程高さを増加可能としている。
【0022】
次に、このクレーンのフック装置20の作用・効果について説明する。
図4に示すように、このフック装置20は、半径Rの従来のシーブよりも小径化した複数のシーブ26,36と、この複数のシーブ26,36が回動自在に設けられた複数のブロック21,31を有する構成とし、連結ピン25にて連接されたブロック群21,31同士が鎖のように自在に動くので、フック装置20をフック(13)として使用せずに、ブーム7の先端7sから取り外した後は、たとえばクレーン作業終了時、ワイヤロープ12をフック装置20から抜き取り、フック装置20だけ取り外し、その取り外したフック装置20のブロック群21,31を丸めて保管したり、伸ばして保管したりする等その格納形状を自在にして、その形が鎖のように自在に動く範囲で作業者の自由である。よって、ワイヤロープ12からフック装置20を取り外した場合でも、コンパクトに納めることを可能にし、フック装置20の置き場が省スペースで済む。
【0023】
他方、このフック装置20を使用する際には、挿通溝Mにワイヤロープ12を挿通し、フック装置20をブーム先端7sから吊り下げた状態にすると、ワイヤロープの張力によって、上述のように、ブロック群21,31がストッパとしての側面21t,31tで当接しあい、図5に示すように、複数のシーブが略半円状の並びを保ち、複数のシーブに掛け渡された一のワイヤロープ12の中心円の直径(半径R)とワイヤロープ12の直径との比を一定値のままで使用可能となる。よって、各ブロックの複数のシーブを小径化しつつも、複数のシーブ全体としてワイヤロープに掛かる曲げ応力が許容よりも大きくならない曲率を維持することができる。
【0024】
詳しくは、このフック装置20によれば、図5に示すように、ブロック群21,31を上反り、つまり互いに隣り合うブロック21,31を当接させた状態で、宙吊り状にして使用する。この宙吊りにおいては、ワイヤロープ12の張力が常に上方に向けて働く。そのため、この張力の作用によって隣接するブロック21,31相互が閉じた状態が維持される。そのため、同図に破線で描かれている、それらの等間隔のシーブ群26,36によって、掛けられたワイヤロープ12のピッチ円(半径R)が、「移動式クレーン構造規格」によって定められている、使用するワイヤロープの直径比と合致する径に収めることができる。なお、このシーブ群26,36によるピッチ円は、ブロック群21,31の側面21t,31t相互のストッパの作用により、これ以上径(半径R)が小さくなることはない。
【0025】
つまり、このフック装置20の使用時は、ワイヤロープ12の張力の作用によって、ブロック21,31の対向する側面21t,31t同士が互いに当接したままとなり広がることはない。そして、フック装置20は、自重により、常に鉛直下向きにフック13が位置するように垂下される。これは、フック装置20として使用時、ブロック群21,31でまとめたときのシーブ群26,36の配置が、ワイヤロープ12をブロック群21,31の挿通溝M内に通したとき、ブロック群21,31内でのワイヤロープ12が略半円状のピッチ円を形成できるように、単品ブロック21,31において考慮して設けられているからである。
このように、このフック装置20によれば、複数のブロックと、該複数のブロックそれぞれ設けられた複数のシーブとによってワイヤロープが掛け回される構造を採用しているので、各ブロックの複数のシーブを小径化しつつも、複数のシーブ全体としてワイヤロープに掛かる曲げ応力が許容よりも大きくならない曲率を維持することができるのである。
【0026】
また、このフック装置20によれば、シーブ群26,36は下方に略半円状に並び、所定の半径Rの略円弧の内側面を形成しているので、従来のシーブ(図5)の下半円分の高さの分しか寸法を占有しない。そして、このフック装置20は、ブーム先端7sの尖頭部7t下面にフックが当接したときは、図3に示すように、ブロック21,31上面の形状を尖頭部7tにあわせているため、このとき、図2のようにフック装置20の格納時は、ブーム先端7sからフック装置20のフック13の中心までの格納距離L1が、従来の図6と比較すると、上記格納距離L2よりも短くて済む。そのため、フック装置をブーム先端下面に当接させた状態での視界不良を軽減することができる。また、従来の図6でのシーブ17の上半が不要となるため、図1に巻過状態を示すように、シーブ群の占有寸法が下方に半円形状のみであることの効果は、クレーン揚程が増加するという効果も生み出すのである。
【0027】
なお、本発明に係るクレーンのフック装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、車両搭載型クレーンに用いるフック装置の例で説明したが、これに限定されず、本発明に係るクレーンのフック装置は、種々のクレーンに採用可能なことは勿論である。
また、上記実施形態では、複数のブロック、複数のシーブがいずれも3連の例で説明したが、フック装置の大きさや定格荷重等に合わせて、例えば2連、4連、5連等、適宜の連数に変更することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 車両搭載型クレーン
4 ベース
6 コラム
7 ブーム
11 ウインチ
12 ワイヤロープ
13 フック
16 シーブ(固定滑車)
17 シーブ(動滑車)
20 フック装置
21 主ブロック
22 ブラケット
23 トラニオンピン
24 連結腕
25 連結ピン
26 シーブ
27 支軸
31 補助ブロック
34 連結腕
36 シーブ
37 支軸
120 フック装置(従来型)
L1 本発明のフック装置での格納距離
L2 従来のフック装置での格納距離
M ワイヤロープの挿通部
R ワイヤロープの掛け回し半径(=ワイヤロープのピッチ円)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンに用いられるフック装置であって、フックと、該フックに連結された主ブロックと、該主ブロックの左右に回動可能に連接された複数の補助ブロックと、前記複数のブロックそれぞれに設けられた複数のシーブとを備え、前記連接するブロック相互の複数のシーブにそのフック側に沿ってワイヤロープが掛け回されるように構成したことを特徴とするクレーン用フック装置。
【請求項2】
フック装置の使用時において、掛け回されたワイヤロープの張力によって、複数のシーブ中心が一の円弧に沿った並びを保ち、これら複数のシーブに掛け回されたワイヤロープの中心円の直径とワイヤロープの直径との比が一定値になっていることを特徴とする請求項1に記載のクレーン用フック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−66889(P2012−66889A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211306(P2010−211306)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(506002823)古河ユニック株式会社 (54)
【Fターム(参考)】